外国語教育研究所ニューズレター第20号 2012/3

「戦争と平和の谷間で」
明石康所長講義
明石康所長は、「戦争と平和の谷間で」というテーマで、12月13
日(火)大使リレー講座の公開講義を行いました。第二次世界大戦
後に訪れた「冷戦時代」の話から講義は始まりました。
講義趣旨
冷戦後の世界と国連
1945年に第二次世界大戦は終わったが、その後
アメリカと当時のソ連との間の「冷戦時代」に入
り、核兵器保持により成り立つ「恐怖の均衡」が
1990年前後まで続いた。1989年の「ベルリンの壁崩壊」を機にドイツの統一が成り立ち、
91年にはソ連もロシアに生まれ変わり、恐怖のバランスの時代は終わった。これで1945年
につくられた国際連合が大きな力を持ち本物の平和が来ると誰もが期待したが、残念なが
ら本物の平和には結びつかなかった。確かに国と国、政府と政府との争いは少なくなった
が、冷戦時代に底辺に沈んでいた国内のさまざまな民族間の争いが表面化してきた。国
連は、こうした民族紛争、国内紛争解決にも貢献できるか懸命に模索する時代に入った。
1990年から1993年にかけて、国連はまずポルポト時代後のカンボジアで、戦争から平和に移行する過渡
期における暫定的な政権作りに取り組み、大きな成功を収めた。それと前後して、アフリカ南部のモザンビー
クとナミビアでも同様な国造りに成功した。しかしその直後から国連はより難しい問題に直面することとなっ
た。国連がPKOを派遣する際には守るべき原則が3つある。第一に、あくまでも紛争に関係しているさまざ
まなグループ・党派の同意を得ること。第二に、紛争に関係しているさまざまなグループ・党派に対して、中
立と普遍性を守ること。そして第三に、自分の生命を守るために、また任務を果たすために、最小限の武力は
これを行使することがあるが、それ以上の武力は絶対に行使しないこと。アフリカのソマリアやルワンダ、ヨ
ーロッパ東南バルカン半島のボスニアでの平和維持軍によるPKO活動では、平和を維持する活動ではなく、
平和の無いところに平和をつくらなければならなかった。
日本人のアイデンティティ
東日本大震災でも如実に証明されたのは、日本人がお互いに対して持つ信頼感、相互の連帯感であった。海
外の新聞には、震災時に日本人が示した「静かな威厳(quiet dignity)」というものに非常に感銘を受けたと書
かれたが、これ以上の褒め言葉はないくらい、日本の持つソフトパワーは素晴らしいものであった。お互いの
違いは、はじめから大きいと諦めがつくが、小さいと気になるものである。だから我々は大きな違いだけでは
なく、小さな違いについても気にせず、お互いに共存すること、共生することが大事である。
今やグローバル化の時代に我々は生きている。その中にあって我々が、日本人としての意識を持つことは決
して矛盾しないし、むしろ必要なことである。グローバル化の時代は自己アイデンティティーの時代でもある。
それぞれがアイデンティティーを持ち、自分の伝統・文化・歴史をよく知ることによって、他国の伝統・文
化・歴史を大事にする気持ちが生まれる。英語など外国語を勉強するのは、他国の文化を開くための窓を一つ
増やすことであり、その言葉によって相互の気持ちをお互いに伝えあうことで、より一層自分の世界を広げ、
豊かにすることができる。日本は自信を失うことなく、この複雑なアジア、変転する世界に対処していく豊か
な可能性を持っている。
明石塾公開
明石塾では、11月12日(土)・19日(土)の両日、県内高校生・中学生・教育関係者に明石塾研修を公
開しました。午前中の英語研修では、外国語教育
研究所研究員と県立女子大学生チューターが、参
加者の学年に合った取り組みやすい内容のアクテ
ィビティを行いました。午後には、明石塾生が7
月からの研修内容を発表した後、講師を招いての
講義、明石塾修了生による体験報告を行いました。
講義では、12日に太陽誘電コーポレートコミュ
ニケーション室長の櫻井博行氏が、海外展開企業
で働く経験について、19日には日本紛争予防セ
ンター事務局長の瀬谷ルミ子氏が、世界の紛争地
における復興活動について、それぞれ話しました。
明石塾の魅力を多くの参加者に知ってもらう機会
になりました。
明石塾海外研修
1月4日(水)から12日(木)までの9日間、マレーシア・シンガポールで明石塾海外研修が行われました。
アジアの中で多文化・他民族・他宗教国家である
両国において、明石塾生たちはフィールドワーク
を行いました。多文化主義の現状について、マレ
ー系、中国系、インド系等の背景を持つ人々が共
生している状況を、教育施設・福祉施設・マーケ
ットを中心に調査しました。また、現地の高校や
大学を訪問して授業を参観するとともに、お互い
の文化社会や世界情勢について意見交換を行いま
した。マレー村では一般家庭でホームステイを体
験し、マレーシアの日常生活について理解を深め、
イスラム教についての理解や英語でのコミュニケ
ーションについて、体験を通して多くのことを学
び取りました。
明石塾塾長講義
明石所長は2月4日(土)に、塾長講義を行いま
した。今回の講義はすべて英語で行われました。日
本人の使う英語について、完璧主義者になる必要は
ないという話題から始まり、グローバル化は勝者と
敗者を生み功罪をもたらすこと、またグローバル社
会に必要な資質として、チャレンジ精神、異文化理
解、コミュニケーション能力に加え知的好奇心が大
切であること等について講義がありました。講義の
後には塾生からの質問や意見発表の時間があり、一
人一人自分が思うところをしっかりと英語で伝えま
した。明石所長はそれぞれの言葉にじっくりと耳を
傾け、丁寧に応じました。
高校生の熱戦が展開
明石杯高校生英語コンテスト
明石杯高校生英語コンテストが、11月18日(金)に群馬
県立女子大学にて行われました。このコンテストに先立って
行われた、県内各高等学校での校内選考、そして県内各地区
予選を勝ち抜いた高校生68名がこのコンテスト本選に出場
し、日頃の努力の成果を競い合いました。
コンテストは、レシテーションの部、スピーチの部、海外
滞在経験者スピーチの部、プレゼンテーションの部の4部か
らなっています。各部門の優勝者は、レシテーションの部、二
渡美紅さん(太田女子高校1年)"Please show me your love"、
スピーチの部、野村美公さん(高崎女子高校2年)"Diamonds
and Shrimps"、海外滞在経験者スピーチの部、横川和花さ
ん(桐生第一高校2年)"Changing one's Mind"、プレゼンテーションの部、七五三木環さん(高崎女子高校2
年)"Be Open to Differences"です。今年度のプレゼンテーションのテーマは、"How can we become more
comfortable interacting with non-Japanese people?"で、外国人とより快適に交流するための方法について、
さまざまなアイデアが発表されました。レシテーション、スピーチ、プレゼンテーション各部の優勝者は、この
コンテストの副賞として、カナダのバンクーバーにあるHoly Cross Regional High Schoolでの授業参加を中
心とした海外研修に参加することになっています。
また、競技終了後の講演会では、群馬県生活文化部国際課のブラウン・ブルック・サキエさんから、
"Golden rule...and other things I learned in Kindergarten"という演題で講演がありました。(明石杯高校
生英語コンテストは、群馬県高等学校教育研究会英語部会、群馬県教育委員会、群馬県立女子大学外国語教育
研究所の共催で行っています。)
部 門
レシテーション
スピーチ
1位
二渡 美紅
(太田女子1)
野村 美公
(高崎女子2)
横川 和花
(桐生第一2)
七五三木 環
(高崎女子2)
2位
石田 佑希
(前橋女子1)
川合 愛美
(前橋女子1)
須田 健人
(中央中等1)
本吉 美友
(共愛学園2)
3位
田村 華央
(渋川女子2)
金岡あんな
(常磐2)
磯田ジェニファー
(共愛学園3)
三宮 柾名
(中央中等1)
4位
馬塲あさと
(共愛学園1)
瀬間ニシャ
(前橋育英3)
5位
井田 千佳
(共愛学園1)
小笠原伊武希
(中央中等2)
6位
保科 愛華
(吾妻2)
堀本 佳道
(太田東2)
特別賞
内田 成美
(伊勢崎1)
原澤由香里
(沼田女子3)
神保 翔
(新島学園1)
瓜田 知大
(新島学園2)
海外滞在経験者スピーチ プレゼンテーション
大学高校英語教育連携事業
外国語教育研究所は、大学高校英語教育連携事業とし
て、県立沼田女子高等学校と連携し、英語コミュニケー
ション研修を行っています。研修ではプレゼンテーショ
ンやディスカッション、ディベートに関する講義、英語
を使ったアクティビティなどを実施しています。世界各
国についての紹介を熱心に発表したり、日本語と英語の
コミュニケーションの取り方の違いについて調査結果を
報告したり、インタビューをして新聞記事を書き発表す
るなど、積極的に英語が使われています。また「男女共
学」や「制服」などをテーマにして英語で議論するなど、
ディベートにも挑戦しています。
小学校英語活動支援
外国語教育研究所では、館林市と草津町と連携して、小学校英語活動推進事業を支援しています。館林市で
は、平成23年度研究成果発表会が、研究指定校の館林市立第六小学校を会場に、1月26日(木)に行われま
した。全体会に続き、1年生と5年生の2クラスで授業が公開されました。公開授業後は各学年毎に授業研究
会を行い、より効果的な英語活動を実践するために、公開授業の内容や日頃の英語活動について活発な意見交
換がなされました。
草津町では、草津小学校で授業研究会や公開授業を行い、2月28日(火)に6年生の授業が公開されまし
た。また、草津の名所・歴史・文化等について英語で紹介する、地域素材を利用した副教材「草津ノート」を
作成しました。
グローバルかフェ
県民英会話サロン「グローバルかフェ」は、昨年9月より会場を高崎市総合保健センターに移して開催して
います。高校生から年配の方まで、参加者がくつろいだ雰囲気の中いくつものテーブルを囲んで、さまざまな
話題について英語でのおしゃべりを楽しんでいます。秋学期最終日の12月22日(木)には「グローバルかフ
ェスペシャル」が行われました。本学国際コミュニケーション学部3年の中堀宏美さんをはじめ、2名の県内
高等学校ALT、グローバルかフェ参加者の計4名の発表者が、自身の留学経験や出身国の文化などについてそ
れぞれ英語によるプレゼンテーションを行い、参加者は熱心に耳を傾けていました。
平成24年度前期のグローバルかフェ開催の詳細については、本学ホームページを参照してください。