研究業績

研究代表者氏名: 森田 靖 、研究項目:A02
【研究課題名】光学活性な電子スピン非局在型安定中性ラジカルの創出と物性開拓
【各研究項目の連携状況】
①本研究では,非平面π電子系骨格上に電子スピンが非局在化した安定な有機中性ラジカルの合成
を行っている.こうした中性ラジカルは,申請者が世界で唯一研究している物質系であり,これま
でにない新しい電子物性を発現する可能性を秘めていることから,領域内の専門家との共同研究が
不可欠である.H25 年度は物質合成研究に主に取り組んできたことから,今後本格的に光学的性質
と電子スピン物性の解明についての共同研究を進めていく予定である.②まだ未定である.③無.
【研究費の使用状況(設備の有効活用、研究費の効果的使用)】
H25 年度は,本研究者が所属する研究機関において共通利用している大型測定機器類の使用料およ
び各種実験機器・消耗品の購入に研究費を利用した.新たな有機分子の合成には,様々な試行錯誤・
実験条件検討を行わなくてはならず,様々な器具や試薬・溶媒を必要とする.さらに,合成した有
機分子の構造決定には核磁気共鳴や質量分析などの機器測定が不可欠である.その結果,新たな非
平面型の電子スピン非局在型有機ラジカルを合成することに成功した.
【研究の進捗状況】
電子スピン非局在型中性ラジカルの電子スピン物性とキラリティの融合に向けて,フェナレニルお
よび 6-オキソフェナレノキシル(6OPO)骨格をヘリセン構造に組み込んだ中性ラジカルの合成・
単離,その構造や物性の解明を目的としている.H25 年度は,本研究者が独自に設計・合成した安
定有機中性ラジカルである 6-オキソフェナレノキシルを基盤とした[4]ヘリセン構造を有する新規
の電子スピン非局在型キラル中性ラジカルを合成・単離することに成功した.
【原著論文】
1. A. Ueda, S. Suzuki, K. Yoshida, K Fukui, K. Sato, *T. Takui, K. Nakasuji, *Y. Morita,
“Hexamethoxyphenalenyl as a Possible Quantum Spin Simulator: An Electronically Stabilized Neutral π
Radical with Novel Quantum Coherence Owing to Extremely High Nuclear Spin Degeneracy,” Angew.
Chem. Int. Ed., 52, 4795-4799 (2013).
2. T. Murata, Y. Yamamoto, Y. Yakiyama, K. Nakasuji, *Y. Morita, “Syntheses, Redox Properties, SelfAssembled Structures and Charge-Transfer Complexes of Imidazole- and Benzimidazole-Annelated
Tetrathiafulvalene Derivatives,” Bull. Chem. Soc. Jpn., 86, 927-939 (3013).
3. A. Ueda, H. Wasa, S. Nishida, Y. Kanzaki, K. Sato, *T. Takui, *Y. Morita, “A DicyanomethyleneSubstituted Triangulene: Effects of Molecular-Symmetry Reduction and Electron-Accepting Substituents
on a Fused Polycyclic Neutral π-Radical System,” Chem. Asian J., 8, 2057-2063 (2013).
4. K. Ayabe, *K. Sato, S. Nakazawa, S. Nishida, K. Sugisaki, T. Ise, *Y. Morita, K. Toyota, D. Shiomi, M.
Kitagawa, S. Suzuki, *K. Okada, *T. Takui, “Pulsed electron spin nutation spectroscopy for weakly
exchange-coupled multi-spin molecular systems with nuclear hyperfine couplings: A general approach to
bi- and tri-radicals and determination of their spin dipolar and exchange interactions,” Mol. Phys., 111,
2767-2787 (2013).
5. S. Nishida, J. Kawai, M. Moriguchi, T. Ohba, N. Haneda, K. Fukui, A. Fuyuhiro, D. Shiomi, K. Sato, *T.
Takui, K. Nakasuji, *Y. Morita, “Control of Exchange interactions in π Dimers of 6-Oxophenalenoxyl
Neutral π Radicals: Spin-Density Distributions and Multicentered–Two-Electron Bonding Governed by
Topological Symmetry and Substitution at the 8-Position,” Chem. Eur. J., 19, 11904-11915 (2013).
6. S. Nishida, K. Fukui, *Y. Morita, “Hydrogen-Bonding Effect on Spin-Center Transfer of
Tetrathiafulvalene-linked
6-Oxophenalenoxyl
Evaluated
Using
Temperature-Dependent
Cyclic
Voltammetry and Theoretical Calculations,” Chem. Asian J., 9, 500-505 (2014).
7. T. Kojima, T. Yamada, Y. Yakiyama, E. Ishikawa, Y. Morita, M. Ebihara, *M. Kawano, “The Diversity of
Zn(II) Coordination Networks Composed of Multi-Interactive Ligand TPHAP– via Weak Intermolecular
Interaction,” CrystEngComm, in press, DOI: 10.1039/C3CE42382D
【総説・解説】
2. 1 西田辰介,森田
靖,
「有機分子スピンバッテリーの開発」,リチウムに依存しない革新型二次
電池,株式会社エヌ・ティー・エス,4 章 4.1,119-129 (2013).
3. 西田辰介,森田 靖,工位武治,「開殻型有機分子の化学—分子スピン制御による新機能発現
へ—」,現代化学,東京化学同人,6,34-39 (2013).
4. 中澤重顕,佐藤和信,森田 靖,工位武治,
「分子スピン量子ビットの設計と量子情報処理・
量子コンピューターへの応用」
,固体物理,株式会社アグネ技術センター,48 (11),107-119
(2013).
【特許】
1. 森田 靖,岡藤武治,佐藤正春、
「分子結晶性二次電池」
、特許第 5240808 号 (年月日 2013/4/12).
2. 根来 誠,北川勝浩,森田 靖,西田辰介,藤井啓祐、
「子誤り訂正法、量子誤り訂正装置、およ
び、量子情報格納装置」
、特許第 5376482 号 (年月日 2013/10/4)
3. 森田 靖,西田辰介,工位武治,佐藤正春,芥川奈緒、
「電極活物質、及び二次電池」、特許第 5483521
号 (年月日 2014/2/28)
4. 森田 靖,西田辰介,工位武治,佐藤正春,芥川奈緒、
「電極活物質、及び二次電池」、特許第 5483523
号 (年月日 2014/2/28)
【受賞について】
2013 年 7 月 22 日:Chem. Eur. J. 19, 11904-11915 (2013) の「frontispiece」に選出された.
2013 年 8 月 6 日:
「平成25年度 大阪大学総長顕彰 研究部門」を授与された.
2014 年 1 月 24 日:Chem. Asian J. 9, 500-505 (2014) の「Cover Picture」に選出された.
【若手研究者間の取り組みについて】
2013 年 8 月 7 日:若手研究者で Martin Lemaire 教授 (Brandon 大学) を招き研究会(2nd International
Workshop on Open-shell Molecular Systems)を実施した.
2013 年 10 月 22 日:若手研究者で Luise Rihiter さん (PhD 学生,University of Leipzig) を招き招待
講演会(講演題目: Organocatalyzed vinylogous Mukaiyama reactions)を実施した.
2014 年 3 月 8 日:若手研究者で上田 顕博士 (東京大学助教) および焼山祐美博士 (Pohang University
of Science and Technology 助教) を招き研究会(開殻π電子系有機化合物の基礎物性と材料応用に関
するワークショップ)を実施した.