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アネスケア(Anes-Care) 院長
中澤 健二
Kenji Nakazawa
毎年 2 月ごろに約 1 週間,北アフリカのチュニジ
ア共和国で,国際医療ボランティアチームによる口
唇口蓋裂手術が行われるようになって2011年で12 年
目になる.術者は歯科口腔外科医で,カナダ,フラ
ンス,イタリア,日本から集まり,日本チームの中
心人物は九州歯科大学の高橋哲教授である.手術期
● 略歴
昭和33年 山梨県に生まれる
昭和59年 4 月 東京大学医学部麻酔科入局
昭和61年 4 月 帝京大学医学部市原病院麻酔科入局
平成 1 年 7 月 カンサス大学付属カンサスメディカルセンター留学
平成 5 年 4 月 秋田大学医学部麻酔科入局
平成 7 年 5 月 スウェーデン,ウプサラ大学胸部麻酔科留学(∼7月)
平成13年 4 月 アネス・ケア(Anes-Care)開業
趣味:多彩
間は 4 日間だが,術前の準備や日本からの移動など
で,およそ 2 週間日本を留守にする.私は麻酔科医
として当初からほぼ毎回,このミッションに参加さ
になり,100人程度を診察したあと,40人ほどの症
せていただいているので,簡単に報告する.
例に絞って,4 列での手術計画を立てる.この症例
なぜ行くのか,なぜこのようなボランティア活動
決定を 1 日で行う.麻酔は現地スタッフと私で管理
が必要か,という疑問を持たれる方がいるかもしれ
する.手術自体のみならず,手術結果などのカンファ
ないが,一歩日本を出れば,日本のように恵まれた
レンスも必ず行い,情報共有に努めてきた結果,こ
国はなく,医療環境はその最たるものだから,少し
の10年間で,少しずつ大きな病院で手術ができるよ
でも自分ができることで何か貢献できればという単
うになってきたことが成果だと思う.大学病院レベ
純な理由で継続している.2000 年にこのミッション
ルで教授クラスから研修医までを含め,現地スタッ
が始まったとき,私は身1つで行けば何とかなるで
フとわれわれ国外からのスタッフとがチームで取り
あろうと甘い考えであった.ところが,その年は山
組めるようになった結果,地域の医療レベルの向上
のようなダンボール箱とともに秋田から出発したの
に貢献できている手応えを感じられるようになっ
である.麻酔器以外は全て持ち込んだといえる.当
た.現在,現地の医療レベル自体は高いもので,毎
初は麻酔器も必要だといわれ,どうすれば船便で日
年 2 月には懐かしい友人たちと再会できるのが楽し
本からスエズ運河経由でチュニジアに運べるのだろ
みの 1 つになっている.このような人的交流で得る
う,費用はどうすればいいのだろうと頭を抱えた.
ものは非常に大きい.
麻酔器以外の全て,ということは,挿管チューブ,
点滴セットのように想像しやすいものから,ヒビス
含め,すべて地元のロータリークラブのメンバーが
クラブ,酒精綿,固定用テープなどの少し細かい「周
引き受けてくれている.傍目にも多忙な彼らがわれ
辺用具」まで含まれるが,さらには,ボールペン,
われのために献身的に働いてくれる姿をみると,い
はさみ,ホッチキス,両面テープなど日本製品の品
つも頭が下がる.なお,使用言語はフランス語が中
質がすばらしく毎年必携となっている.
心で,英語とアラビア語が混じる.どの言語でもい
現地では,乳幼児から成人まで広く症例が集まる
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最後に現地でのわれわれの滞在の面倒は金銭面も
いから,日常会話ができる言語能力は最低必要だが,
が,チュニジア国内はもちろん,モロッコ,アルジェ
今の若者は外国語も得意だろう,本稿が何かの動機
リア,レバノンなど周辺諸国からもやって来るよう
づけになれば幸いである.
(2530) Anesthesiologist