регионы города 特集ロシアの地域と都市への視角注目の新刊をチェック！ジェトロ（日本貿易振興機構）編ロシア工場設立の手引き～用地選定から操業開始まで～（ジェトロ（日本貿易振興機構）、2009年） ISBN978-4-8224-1081-0 A4判・143頁定価：本体2,400円＋税日本人ビジネスマンがロシアの地域や都市に目を向ける時、何と言っても最大の関心事は、ロシアのどの地域に進出したらいいのかという問題であろう。工場建設という具体的な目的があるのなら、なおさらである。ロシアにおける工場建設プロジェクトは、建設地の選定で成否がほぼ決まると言っても、過言ではない。そうした観点から、非常に有益な書籍が刊行された。ジェトロ編による『ロシア工場設立の手引き』である。実は私どもロシアNIS貿易会も2009年３月に同じような趣旨の報告書『ロシアにおける工場建設・経営の諸問題』を出している。評者が実施した調査事業の成果をまとめたものだが、盛り込みたかった情報を必ずしもすべて網羅できたわけでなく、心残りもあった。今回のジェトロの新刊は、そのあたりの欠落も埋めてくれる内容であり、他団体の刊行物ながら、推薦できる。本書は、「第１部：総論編～ロシア北西部における工場用地の現状」、「第２部：手続き編～ロシアにおける工場設立・操業ガイド～」、「第３部：資料編」という３部構成になっている。第１部を執筆しているのは梅津哲也ジェトロ・サンクトペテルブルグ事務所長であり、第２部はコンサルタント会社の専門家が寄稿している。ここに、本書が成功している秘訣があるように思われる。実際に日系企業による工場建設が進んでいるペテルブルグに駐在し、日頃から体系的に情報を収集しておられるからこそ、本書の内容も地に足の 82 ついたものになっているのだろう。また、ロシアの工場建設にかかわる許認可手続きは複雑怪奇であり、それに関するまとめを専門会社のプロに委ねたのも正解だと思う。本書の特徴は、サンクトペテルブルグを中心としたロシア北西地域にこだわっていることであろう。このあたりも、ジェトロ・ペテルブルグ事務所が中心になってまとめた書籍ならではという感じがする（ただし、北西地域だけでなく、その他の地域にも目を向けるべきだということも、ちゃんと指摘されている）。したがって本書は、ロシア北西管区に関する簡易な地域経済ガイドとしても活用可能である。具体的には、サンクトペテルブルグ市、レニングラード州、ノヴゴロド州、プスコフ州、ヴォログダ州の情報が得られる。各地域の簡単な説明、州行政府の投資家対応窓口などの情報が掲載されている。ペテルブルグ市やレニングラード州はともかく、その他の州が日本で語られることはほとんどないので、貴重な情報だ。そして、白眉と言えるのは、各地域の工業用地についての具体的な情報・データが載録されていることだ。グリーンフィールドだけでなく、ブラウンフィールドの情報も出ているというのが渋い。実際にプスコフ州やヴォログダ州の工業団地に日系企業が進出するかと言えば微妙ではあるものの、そこまで踏み込んで調査をなさった姿勢には敬服せざるをえず、当会も見習いたい。（服部倫卓）ロシアNIS調査月報2010年２月号