Technical Protocol

Vol. 5
Technical Protocol
フローサイトメトリーのためのPIおよび
7-AADによる死細胞除去方法
はじめに
細胞はその死より細胞膜の状態が保たれなくなり、PI
(Propidium Iodide)
または、7-AAD
(7-amino-actinomycin
D)などの核染色剤により容易に染色されるようになります。これらの染色色素を加えることにより、死細胞を見分
け、サンプル中の生細胞のみのデータを得ることが可能です。このTechnical Protocolでは、マウス脾臓細胞を
FITC、PE、APC標識抗体で染色したサンプルの死細胞除去の例を紹介します。
試薬
: Sigmaカタログ番号 P-4170
Propidium Iodide Staining Solution(PI)
Stock溶液: 1 mg/mL PBS、pH7.4
PIは水に溶解しにくいため、まず、エタノールに溶解してください。小分けして凍結保存します。使用時に
PBSで10倍に希釈します。
: BDカタログ番号 559925
7-amino-actinomycinD(7-AAD)
100 µg/2mL溶液
PharmLyse: BDカタログ番号 555899
NH4 Clベースの溶血剤
: BDカタログ番号 554656
BD Pharmingen Stain Buffer(with FBS)
Anti-mouse CD4 FITC: BDカタログ番号 553650
Anti-CD8a PE: BDカタログ番号 553032
Anti-mouse CD45R/B220 APC: BDカタログ番号 553092
留意:上記の抗体試薬はこの例で使用したものです。実験のデザインに合わせて、必要な試薬を選択してください。
サンプル
6
マウス脾臓細胞: マウス脾臓細胞は洗浄後、1∼5×10 cells/mLの細胞濃度になるようにBD Pharmingen Stain
Bufferで調製します。
留意: 目的細胞の細胞浮遊液に混入した赤血球を予め溶血させたい場合や全血から染色し途中で溶血処理する
場合には、PharmLyse などの塩化アンモニアベースの溶血剤を使用してください。BD FACS Lysing
Solution(BDカタログ番号: 349202)を使用すると、ホルムアルデヒドが含まれるため、細胞膜の浸透化
が更新し、PIまたは7-AADのような核染色剤に染色されやすくなり、死細胞のみを染色することになりま
せん。
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染色
コンペンセーションの調整や結果の解釈のために表1のような染色細胞を用意します。サンプル1-4は機器調整用
に使用します。すべての抗体で染色したサンプルが5です。すべてのサンプルにPIまたは7-AADを加えます。
FITC
PE
APC
PI または 7-AAD
1
–
–
–
○
2
CD4
–
–
○
3
–
CD8a
–
○
4
–
–
CD45R/B220
○
5
CD4
CD8a
CD45R/B220
○
表1 染色サンプル
1. 5 mLのBD FALCON チューブに、細胞浮遊液(2×107 cells/mL)を50 µL(106 cells)加えます。
2. 表1に従い、各試験管に適切な濃度のFITC標識試薬、PE標識試薬、APC標識試薬を加えます。
3. 試験管を緩やかに混和し、室温、4°Cで20∼40分間インキュベーションします。
4. 各試験管にBD Pharmingen Stain Bufferを1 mL加え、300 xg、5分間遠心し、上清を除去します。
5. 4の洗浄操作を繰り返します。
6. BD Pharmingen Stain Buffer 500 µLを加えます。
7. PI(10µL: 最終濃度2 µg/mL)または7-AAD(5µL: 最終濃度0.25 µg/mL)を加え、室温、暗所で10分間イン
キュベーションします。
留意: PI、7-AADは時間が経過すると生細胞も染色されてきます。できるだけ速やかに測定してください。
測定
1. 4カラーのBD FACSCompを実施します。
2. BD CellQuestでFSC vs SSCドットプロット、FL3ヒストグラムを作成します。必要に応じて、FL1 vs FL2、FL1
vs FL4ドットプロットなどを作成します。
3. サンプル1を流します。FSC、SSC VoltageとThresholdを調整し、目的細胞にリージョン(R1)を設定します
(図1)
。
図1 FSC vs SSCドットプロットによるリージョン設定
左側の細胞集団(矢印)は、その後の解析により、死細胞であろうと思われた。
2
。
4. FL3 ヒストグラムでPI、または7-AAD陰性領域にリージョン(R2)を設定します(図2)
PIを使用
7-ADDを使用
図2 FL3 ヒストグラム
PI、7-AAD弱陽性の細胞もあるが、明らかな陰性領域にリージョン設定した。
5. ロジカルゲートR1 and R2を作成します。
GatesメニューのGate Listを選択し、使われていないGateのDefinitionの欄にR1 and R2を設定します(図3)。
図3 Gate Listウィンドウ
。
6. FL1 vs FL2、FL1 vs FL4ドットプロットにG3 = R1 and R2を設定します(図4)
図4 ドットプロット ダイアログボックス
3
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7. 蛍光コンペンセーションを確認します。
(図5)
。
サンプル2および3を流し、FL1-%FL2、FL2-%FL1コンペンセーションを調整します
サンプル2
サンプル3
図5 FL1-%FL2、FL2-%FL1コンペンセーション調整
FL3パラメータはPIまたは7-AAD陽性細胞を取り除くために使用されます。FL3が、このようにGate Outに
使われる場合は、PEおよびAPCのFL3へのもれ込みの補正(FL3-%FL2、FL3-%FL4コンペンセーション)を
。
FACSComp設定から更に調整する必要はありません(図6)
サンプル3
サンプル4
図6 FL3-%FL2、FL3-%FL4コンペンセーション調整
実際にはコンペンセーション調整は全くしていない。
G3 = R1 and R2のゲート設定で表示される細胞集団は生細胞であり、PIまたは7-AADではほとんど染色
されていないはずです。したがって、
これらFL3で検出される色素のFL2またはFL4へのもれ込み
(FL2-%FL3、
FL4-%FL3コンペンセーション)は、調整の必要がありません。
4
時間の経過とともに生細胞でもPIまたは7-AADに染まりやすくなります。特にPIを使用した場合、FL2の蛍光
バックグラウンドが高くなっています。PIは7-AADより蛍光波長が短いため、PIの蛍光はFL2とFL3の両方の
検出器で検出されることによるものです。
に使用するFL3ヒストグラムも蛍光強度が強くなりがちです。生細胞
このような場合、死細胞の
“Gate Out”
と死細胞の境となる位置を見極め、ヒストグラム・マーカーを設定することが必要です。しかし、本来の目的
を考え、PIまたは7-AAD添加後、時間を長く経ないで測定するようにしてください。
8. コンペンセーション終了後テストサンプル(5)を測定します。
解析
測定時と同様なゲート設定で解析します。図7は散乱光ゲートのみを使用したFL1 vs FL2、FL1 vs FL4ドットプロット
解析(下)
と散乱光ゲートとFL3ヒストグラムゲートを組み合わせたロジカルゲートを使用した同様の解析(上)を示
しました。
Gate = R1 and R3
CD8a PE
CD45R/B220 PE
Gate = R1 and R2
CD4 FITC
CD4 FITC
a
CD4 FITC
Gate = G1
CD45R/B220 APC
CD8a PE
Gate = G1
CD4 FITC
図7 R1 and R2を設定したドットプロット
(上)
と、散乱光ゲートのみを使用したドットプロット解析(下)
。
矢印で示した細胞集団は上の図では見られず、死細胞の影響と考えられる。矢印aのように、斜45度の
角度の細胞集団が見られることがある。
5
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EMAによる死細胞除去
PIや7-AADにより死細胞除去をする場合は、パラホルムアルデヒドやホルムアルデヒドによる固定をしないで染色
します。固定が必要な場合または細胞膜透過処理が必要な場合には、EMAにより死細胞除去ができます。固定お
よび膜透過処理が必要な細胞内サイトカイン測定を例にとり、死細胞除去の例を紹介します。
試薬
EMA: Ethidium monoazide bromide(Molecular Probeカタログ番号: E-1374)
Stock solution 5 mg/mL(エタノール)
使用時にPBSで50倍に希釈します。
蛍光は、FL3で検出します。
サンプル
6
活性化ヒトPBMC細胞: 1∼5×10 cells/mLの細胞濃度
染色
1. 5 mLのBD FALCON チューブに、PBMCを100 µL(1∼5×105 cells/mL)ずつ分注します。
2. 表面抗原(CD4 APC、CD8 APCなど)とEMA(5 µL: 最終濃度 5 µg/mL)を試験管に加え、氷上、暗所で
15∼30分間インキュベーションします。
3. 2 mLのBD Pharmingen Stain Bufferで細胞を2回洗浄します。
4. 100 µLのBD Pharmingen Stain Bufferに再浮遊します。
5. 氷上で近距離(蛍光灯下10∼20 cm)から蛍光灯の光を10分間あてます。
6. 細胞を固定後、細胞膜浸透化し、細胞内をサイトカイン抗体で染色します。
(以下省略、弊社アプリケーションノートを参照してください)
測定
1. EMAによる蛍光はFL3で検出します。FSC vs SSC プロットにR1を設定し、FL4(CD4 APC、CD8 APCなど)
vs SSC プロットにR2を設定します。
+
図8 CD4 細胞のゲーティング
6
。
2. PI、7-AADによる死細胞除去と同じようにFL3のヒストグラムにR3を設定します(図9)
Gate = R1 and R2
図9 EMAによる死細胞除去のためのヒストグラムゲート
太線はEMAを加えたサンプルのFL3ヒストグラムである。点線は参考として、EMAを加えないサンプ
ルのFL3ヒストグラムをオーバーレイしたものである。
3. PMT Voltage調整、コンペンセーション調整を行ない、サンプルを測定してください。
解析
測定時と同様なゲート設定で解析します。図10にはヒストグラムゲートによる死細胞のGate Outも使用したFL1
vs FL2ドットプロット解析(左)と散乱光ゲートのみを使用した同様の解析(右)を示しました。このサンプルはアイソ
タイプコントロールで染色しているサンプルです。右図の矢印の位置に死細胞の細胞集団が存在することがわかり
ます。
Gate = R1 and R2 and R3
Gate = R1 and R2
図10 EMAによる死細胞除去
留意: ここで使用したサンプルは、あえて採取から時間の経過したPBMCを使用しています。
参考文献
+
渡辺信和:クローズアップ実験法 細胞内サイトカイン染色法 4カラーフローサイトメトリーを用いた特異的メモリーCD4 T細胞の
検出
(実験医学 Vol.17 1661-1665, 1999)
Darzynkiewicz, Z.: Methods in Cell Biology, Vol. 41, Flow Cytometry, 2nd Ed., Par+ A
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日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
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