会話の雰囲気と位置情報に基づく音楽推薦手法の提案

会話の雰囲気と位置情報に基づく音楽推薦手法の提案
11271108 峯俊
友弥(灘本研究室)
あらまし:本研究では車内での会話から感情を抽出し,その感情と車の位置情報からその場
の雰囲気にあわせた楽曲を推薦する手法の提案を行う.
1.はじめに
近年,iTunes ミュージックストア[1]などのオ
ンライン音楽配信サービスの普及により,楽曲
を手軽にダウンロードして聞くことが可能にな
っている.さらに音楽プレイヤーとしてスマー
トフォンを利用し,ダウンロードしたその音楽
を移動中でも容易に聴く事が出来る.このよう
な背景から音楽はますます私達の生活に身近の
なっている.そして車を運転している時に音楽
を聞く人も多くいる.このように移動中の車内
で,例えば楽しい話をしている時に悲しい曲が
流れると,車内の雰囲気が悪くなる可能性があ
る.また,海水浴にいく途中,車内で山がモチ
ーフの楽曲が流れると,海に行きたいという気
分が損なわれる可能性がある.このように移動
中は,その場の雰囲気に見合った音楽を流す事
が大切であると考えられる.そこで,本研究で
はユーザが車を運転している時に場所と会話の
雰囲気に合った楽曲を自動で選曲するシステム
を提案する.具体的には,車内での会話から感
情を抽出し,その感情と車の位置情報からそ
の場の雰囲気にあわせた楽曲を推薦する手法
の提案を行う.
2.全体の流れ
以下と図1に提案手法の処理の流れを示す.
① 会話から音声認識ソフトを用いてテキスト
データを取得する.
② 山本ら[2] の感情語辞書を用いて①で取得し
た会話の感情値を 1 文ずつ求める.
③ 現在地情報を取得する.
④ 事前に用意した「海」
「山」「その他」から
なる 3 種類の楽曲データベース全 300 曲の
中から③で取得した現在地に関連する曲を
抽出し,楽曲候補を決定する.
⑤ ②で求めた会話の感情値と④で求めた楽曲
候補の感情値,及び楽曲情報の器物,場所,
季節から楽曲を決定する.
⑥ ④で決定した楽曲を自動で再生する.
3.楽曲推薦手法
3.1.楽曲データベースの作成
楽曲を推薦するにあたり,事前に楽曲データベ
図 1:システムフロー
ースを作成した.楽曲データベースは,まず歌
詞からその楽曲を「海」「山」
「その他」に分類
する.分類された楽曲に対して「器物」
「場所」
「季節」をタグとして付与する.
「器物」
「場所」
は歌詞を形態素解析し,形態素解析器 juman[3]
のカテゴリから決定する.そして「季節」は楽
曲 CD の発売日を考慮する.季節の区分には気
象庁の区分[4]を使用する.CD の発売日から 1 か
月後の月をその曲の季節として決定し,4 月から
6 月を春,7 月から 9 月を夏,10 月から 12 月を
秋,1 月から 3 月を冬と設定する.さらに,実験
により感情を決定し,これもタグとして付与す
る.楽曲の感情値は楽曲や歌詞の雰囲気からな
る為,ユーザ実験により決定する.楽曲 300 曲
の感情(喜,好,安,昂,哀)は被験者 10 名によ
り決定した.以下に実験の流れを示す.
① 被験者は本研究で用いる楽曲を聞く.
② 5 つの感情軸の中から,最大 3 つの感情軸を
設定し各々感情軸に対して 3⇒2⇒1 と点数
をつける.
③ どの感情軸にもあてはまらない楽曲は感情
なしとする.
各感情軸それぞれの感情値の平均を求めた.
その結果,楽曲データに対しての感情値をそれ
ぞれ求め,300 曲の楽曲の感情値を設定すること
ができた.
3.2.感情抽出
本研究では,会話と楽曲が持つ感情値と楽曲情
報である器物,場所,季節から楽曲を決定する.
その為,会話と楽曲に適した感情軸を設定する.
松本ら[5]は感情を「喜」
,
「好」
,
「安」
,
「昂」,
「哀」
の 5 つの感情軸に決定し,山本らの感情語辞書
を用いて感情値を算出する手法を提案した.本
研究でもこの手法を用いる.具体的には,感情
語辞書を使用し会話の 1 文ずつに対して感情値
を求める.例えば,
「今日は楽しくていい日だ」
という文に対して形態素解析を行い,「今日は/
とても/楽しくて/いい/日/だ」と分割する.そ
して,感情語辞書とマッチングを行うと「楽し
くて」と「いい」がヒットし,その感情値を合
算する.その値を1文の会話の感情値として決
定する.
3.3.位置情報
Geolocation API を用いて緯度経度を取得
し Google Geocoding API を用いて緯度経度か
ら住所を取得する.そして住所別データベー
スを用いて住所から「海」「山」「その他」を
決定する.住所別位置データベースとは,関西
2 府 4 県の全ての市町村を市ごとに「海」「山」
「その他」3 つに振り分けたものである.
3.4.選曲方法
松本ら[5]は会話中の器物,場所,季節とあらか
じめ保存された楽曲情報である器物,場所,季
節のマッチングを行い,選曲候補を決定する手
法を提案した.その選曲候補の楽曲の感情値と
会話の感情値の差を絶対値でとり,5 軸それぞれ
の差を出し合計を求め,選曲候補の楽曲の中か
ら差の合計が最も小さい楽曲を提示している.
本研究では,位置情報を求めて楽曲数の限定を
行った後に,松本らが求めた選曲手法を用いて
で楽曲を決定する.
4.評価実験
4.1.実験内容
提案手法の有用性を図る為に,被験者 8 名に
評価実験を行った.楽曲データベースの「その
他」については「街中」と置き換えて,
「海沿い」
「山中」
「街中」の各シーンを想定した.提案手
法により決定された楽曲を聞き,決定された楽
曲の歌詞を見て位置情報と会話と楽曲の雰囲気
が合っているかを 5 段階で評価した.評価実験
では,4 種類の約 20 行の会話データを用いた.
会話データはネット上で公開されている男女の
会話のデータを使用した.
位置情報と会話の内容は,
「その他」の時の恋愛
の会話であった.そして一番評価の低かった位
置情報と会話の内容が,
「その他」の時の他愛の
ない会話であった.
恋愛の会話は,「好」「安」の感情値が少し高
いが,他の 3 つの感情値と大差がなかった.し
かし,他愛のない会話は,
「好」
「安」
「昂」の感
情値が飛びぬけて高く,他の 2 つの感情値は低
かった.そのことより恋愛の会話については 5
つの感情値に大差がなく,その会話の主な感情
の値が少し高くなり,正しく選曲ができたと考
えられる.他愛のない会話については,5 軸の感
情値間で差が大きすぎるために正しい選曲がで
きなかったと考えられる.
さらに位置情報の分類が「海」
「山」
「その他」
の3種類しかなく,場所を増やす必要性を感じ
た.
会話の雰囲気が合っていない楽曲が決定され
た要因を以下に示す.
① 感情語辞書は会話データにより適切な感情
値を算出できない場合がある.
② 会話データはその会話の1部分しか使用し
なかった為,被験者は会話の雰囲気が分か
りづらかった可能性がある.
③ データベースに保存された楽曲数が少ない
為,会話の雰囲気に合った楽曲が決定され
なかった.
5.まとめ
本研究では車内での会話から感情を抽出し,
その感情と車の位置情報からその場の雰囲気に
あわせた楽曲を推薦する手法の提案を行った.
位置情報の種類を増やし,実際にアプリケーシ
ョンとして車内で使用することが今後の課題で
ある.
参考文献
[1] iTunes ミュージックストア:
http://www.apple.com/jp/itunes/music/
[2] YukiYamamoto, Tadahiko Kumamoto and Akiyo
Nadamoto “Multidimensional
sentiment
calculation method for Twitter based on
emoticons” International Journal of Pervasive
Computing and Communications, Vol. 11 Iss: 2,
pp.212 – 232, 2015.
[3] JUMAN: http://nlp.ist.i.kyoto-u.ac.jp/
[4]気象庁:http://www.jma.go.jp/jma/index.html
4.2.実験結果と考察
評価実験の結果,会話と決定された楽曲との
適合率は 0.5625 となった.一番評価の良かった
[5] 松本優輝 ”歌詞情報を用いた歌の感情抽出手
法の提案” 甲南大学卒業研究発表会予稿集,2014