事業環境が変わり続ける化学業界で生き残る ~三菱ケミカルホールディングスと住友化学~ 国際地域学部 国際地域学科 3 年 1810090195 菅野 裕文 0.はじめに 人々の生活に密接に関わっているはずの化学業界であるが、普段私たちがそれに関心を 向けることはあるだろうか。身の回りにあふれる製品をみて、その元となる部品や材料に 関心を向けることはあるだろうか。意外と私のように関心や知識のない人は多いのではな いだろうか。そこで今回は化学業界に目を向けてみることにした。しかし、化学業界の企 業を知らない私は、この業界のシェア上位である三菱ケミカルホールディングスと住友化 学を選び分析を始めた。 0‐1.化学業界の現状 2007 年までの化学業界の好調を牽引してきたのが、中国などアジア市場の需要拡大によ るもので、こうしたアジア市場の活況により化学業界の規模も順調に拡大していた。しか し、2008 年に入り世界的な原油価格の高騰で石油化学事業を中心に収益が減少。さらに 2008 年後半以降は金融危機等の影響で需要が減退。その後の円高による海外需要の減少な ど、様々な要因が交錯したが、2010 年後半から 2011 年にかけて、新興国経済の拡大とと もに米国経済が回復の足取りを見せるなど、総じて景気回復の動きを強めた。国内経済も 輸出や生産が回復の動きを見せている。 0‐2.<企業の概要> 三菱ケミカルホールディングス 三菱ケミカルホールディングスは、三菱化学と三菱ウェルファーマ(現田辺三菱製薬) の共同持株会社として 2005 年 10 月 3 日に誕生した。2007 年 10 月 1 日、田辺製薬と三菱ウ ェルファーマが合併し、田辺三菱製薬が誕生。2008 年 4 月 1 日、グループの機能材料事業 を統合し、統合新社、三菱樹脂が誕生。さらに 2010 年 4 月 1 日、三菱レイヨンが傘下とな った。三菱ケミカルホールディングスグループは、4 社を中核としたグループとして事業を 展開し、真の快適(KAITEKI)社会をつくることを目指している。 住友化学 住友化学は 1913 年に愛媛県新居浜の別子銅山で銅の精錬の際に生じる排ガスによって生 じる煙害を解決するため、その原因である亜硫酸ガスから肥料を製造することを目的に設 立された。現在 100 を超えるグループ会社とともに、基礎化学、石油化学、情報電子化学、 健康・農業関連事業、医薬の5事業分野にわたり、幅広い産業や人々の暮らしを支える製 1 / 19 品をグローバルに供給している。 0-3<注意事項> Ⅰ.使用するデータは 2007 年から 2011 年までの 5 カ年の三菱ケミカルホールディングス と住友化学の有価証券報告書を参考にして分析する。連結経営という視点を重視し、各指 標の算出にあたっては特に断りのない限り、連結データを用いる。また、三菱ケミカルホ ールディングスと住友化学の有価証券報告書の会計期間は 4 月 1 日から 3 月 31 日である。 Ⅱ.簡略化のために以下では株式会社三菱ケミカルホールディングスを三菱、住友化学株 式会社を住友と表記する。 1.収益性分析 収益性分析では、使用総資本事業利益率(ROI)と自己資本利益率(ROE)を分析する。ま た、自己資本利益率を、売上高当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジに分解し更 に分析していく。 1-1.使用総資本事業利益率(ROI) ROI とは企業の総合的な収益性を測定する代表的な指標であり、事業利益(営業利益+受 取利息+配当金+持分法による投資損益)を総資本(純資本+債権)で割ったものである。 使用総資本事業利益率(ROI) ( %) 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 三菱 3.0 住友 2.0 1.0 0.0 -1.0 2007 図表 1 2008 2009 2010 2011 (年) 使用総資本事業利益率(ROI) ROI は、2007 年の段階では住友の方が1%上回っていたが、その後両社ともに大きく下 降を始める。2009 年に最低点を迎えるが、三菱に比べて住友の方が大きな落ち込みを見せ た。2009 年以降は両社ともに上昇するが、三菱の方が大きな回復を見せ、2007 年を上回る ROI となり、三菱が住友を逆転し、その差を4%に広げている。 2 / 19 使用総資本 (百万円) 300,000 4,000,000 3,500,000 3,000,000 2,500,000 2,000,000 1,500,000 1,000,000 500,000 0 250,000 200,000 150,000 三菱 三菱 100,000 住友 住友 50,000 0 -50,000 2007 図表 3 事業利益 (百万円) 2008 2009 2010 2011 2007 (年) 図表 2 使用総資本 2008 2009 2010 2011 (年) 事業利益 ROI を使用総資本と事業利益に分解して分析する。使用総資本は 2007 年ではほぼ同じで あるが、その後三菱は約1兆円もの上昇をみせ、住友はほぼ一定である。一方事業利益は 両社ともに大きく変動を見せ、2009 年にかけて大幅な減少、その後大きな回復そしている。 事業利益のグラフの形は、ROI の形とほとんど同じ動きをしている。つまり、主に事業利 益が ROI に影響していることが分かる。 ではその事業利益(営業利益+受取利息・配当金+持分法による投資損益)の詳しい内 訳を比較していく。 三菱 売上高 売上原価 売上総利益 販売費および一般管理費 営業利益 受取利息 受取配当金 持分法による投資損益 事業利益 図表 4 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 80.2 80.5 82.9 77.7 75.1 19.8 19.5 17.1 22.3 24.9 14.9 15.2 16.8 19.7 17.7 4.9 4.3 0.3 2.6 7.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.6 0.3 -0.2 0.3 0.5 5.7 4.8 0.5 3.2 7.9 三菱の事業利益の構成 3 / 19 住友 売上高 売上原価 売上総利益 販売費および一般管理費 営業利益 受取利息 受取配当金 持分法による投資損益 事業利益 図表 5 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 74.8 76.7 79.0 73.6 71.1 25.2 23.3 21.0 26.4 28.9 17.4 17.9 20.9 23.3 24.5 7.8 5.4 0.1 3.2 4.4 0.1 0.1 0.2 0.1 0.1 0.3 0.4 0.4 0.3 0.2 1.3 0.6 -0.7 -0.4 0.5 9.5 6.5 -0.1 3.2 5.3 住友の事業利益の構成 両社ともに事業利益の変化は営業利益の変化に影響を受けていることが分かる。その中 でも、売上原価と販売費及び一般管理費がどう増減するのかが変化の要因となっている。 三菱の方の 2009 年の事業利益の低下は原油価格の上昇によって売上原価が増加し、かつ販 売費及び一般管理費も高いために営業利益が 0.3%と大きく落ち込んだことが原因である。 2011 年の事業利益の増加は円高により売上原価の割合が低く、かつ販売費及び一般管理費 もそれ程高くなかったため営業利益が高かったためである。住友を見ると、最も高い事業 利益を出した年は 2007 年度で、売上原価と販売費及び一般管理費がともに低い割合だった ためである。2009 年の落ち込みは三菱と同じく売上原価、販売費及び一般管理費がともに 高かったため、2011 年の上昇は販売費及び一般管理費は増加しているが、それ以上に売上 原価の低下が大きな影響をあたえたためである。販売費及び一般管理費の変化は両社異な るものの、売上原価の変化は同じであり、事業利益の変化も類似しているため、売上原価 の方がより強い影響を与えていることが分かる。 自己資本利益率(ROE) (%) 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 三菱 0.0 住友 -5.0 -10.0 -15.0 2007 図表 6 2008 2009 2010 自己資本利益率(ROE) 4 / 19 2011 (年) 次に自己資本利益率(当期純利益/自己資本×100)について分析する。自己資本利益率 (ROE)は株主が出資した資本をもとに、どの程度の利益をあげたかを測定する指標であ るため、株主にとってより直接的で重要な指標である。両社とも安定していない。2007 年 では三菱 15.9%、住友 14.8%と約1%の差であったが、2008 年には三菱の 5%の上昇に対 して、住友は 5%の下降と対称的な動きを見せている。しかし 2009 年では2社ともに大幅 な減少をみせ-10%近くでほぼ同位置につけている。翌年からは両社ともに V 字回復を見せ るが、 2010 年から 2011 年にかけては三菱の方が大きな回復を見せ、目安の 10%に至るが、 住友は微量な回復となった。よって両社とも大きく前後するが、三菱の方が高い水準であ ると言える。 では、自己資本利益率(ROE)の変動を分析するために、ROE を構成している当期純利益 と株主資本の推移をみてみる。 自己資本 (百万円) 当期純利益 (百万円) 900,000 200,000 800,000 700,000 150,000 600,000 100,000 500,000 三菱 400,000 50,000 三菱 0 住友 住友 300,000 200,000 -50,000 100,000 0 2007 図表 7 2008 自己資本 2009 2010 2011 (年) -100,000 2007 図表 8 2008 2009 2010 2011 (年) 当期純利益 図表 7 を見てみると、 自己資本は三菱の方が住友に比べて高い水準にあることが分かる。 三菱と住友は 2007 年ではあまり変わらない位置にいるが、三菱は上昇を始めるが、住友は あまり変化が見られない。そして、2011 年には 2000 億円の差が生まれている。住友に関し てはほとんど変化がないため、あまり影響を及ぼしているとは考えられない。三菱に関し ては、自己資本が大きく変化しているため、ROEの値を低下させている要因だと考える ことはできるが、ROEのグラフの動き方に対応しているわけではないので、当期純利益 の変化がROEに大きく影響を与えていることが予想される。 図 8 は当期純利益の推移を示しているが、 2007 年には三菱と住友はほぼ同じ額であるが、 2008 年、三菱は大きく増加し、住友は減少している。2009 年には住友だけでなく三菱も大 幅な減少をみせた。翌年の 2010 年に両社ともに大きく回復を見せるが、2011 年に三菱は 勢いそのままに上昇を見せるが、住友は上昇しているものの三菱ほどではなかった。当期 5 / 19 純利益においても三菱の方が高い水準と言える。また、この当期純利益の動き方はほとん どROEと同じような動き方をしているため、ROEに大きく影響をあたえているのは当 期純利益であると言える。 そして、自己資本利益率は売上高当期純利益率(当期純利益/売上高×100) 、総資本回転率 (売上高/総資本×100) 、財務レバレッジ(総資産/株主資本×100)の三つの指標に分解す ることができる。また、参考に売上高も記載した。 売上高当期純利益率 (%) 売上高 (百万円) 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 3,500,000 3,000,000 2,500,000 2,000,000 三菱 住友 三菱 1,500,000 住友 1,000,000 500,000 0 2007 2008 2009 2010 2011 (年) 図表 9 売上高当期純利益率 2007 図表 10 2008 2009 2010 2011 (年) 売上高 売上高当期純利益率は、収益性分析の基本的な指標の一つである。ROEと当期純利益 のグラフと似たような動き方をしている。ただ、2007 年、2010 年は住友が三菱を上回って いることが分かる。2007 年は住友がこの五年間で最も多く当期純利益を出したため、2010 年は、三菱の当期純利益が 2009 年を除けば極端に低い数値となったためである。図表 10 を見ると、売上高は三菱の 2010~2011 年以外に極端な変化は見られない。また、2009 年に 売上が落ちているのに当期純利益が増加している理由は、2010 年の売上原価が低く抑えら れたからである。よって、売上高当期純利益率の変化は当期純利益の変化に大きく影響を 受けていると言える。 6 / 19 総資本回転率 (%) 財務レバレッジ (回) 1.2 6.0 1.0 5.0 0.8 4.0 0.6 三菱 0.4 住友 0.2 三菱 3.0 住友 2.0 1.0 0.0 (年) 2007 図表 11 2008 2009 総資本回転率 2010 2011 0.0 2007 図表 12 2008 2009 2010 2011 (年) 財務レバレッジ 次に総資本回転率を見ていく。総資本回転率は資産活用に関する総具的な指標であり、 この指標が高いほど総資本の回収スピードが速いことを意味している。 図表 11 を見ると、住友に比べて三菱が一貫して高い水準を持ち続けていることが分かる。 2010 年に両社ともに低下しているが、三菱は売上高が 4000 億円減少し総資本が 6000 億円 増加したためである。住友は売上高が 1000 億減少したためである。 そして財務レバレッジを見ていく。財務レバレッジとは負債の利用度、依存度示すもの である。2007 年は両社ともにあまり変わらない値をとっていたが、2008 年、2009 年と一 時的に三菱の負債の利用度が大きくなった。しかし、2010 年になると両社とも再び同じく らいの値をとるようになった。三菱の財務レバレッジの一時的な上昇であり、継続的なも のではないため、両社ともそれ程大きな差はないと言えるだろう。 両社の収益性を分析した結果、各指標からみて三菱の方が優れていることが分かった。 2.安全性分析 次に安全性に分析をしていくことにする。まずは連結キャッシュ・フロー計算書から資 金調達の活動と投資活動の状況を見ていく。図表 13 は連結キャッシュ・フロー計算書にお ける主要項目を抜粋したものである。 (有形)固定資産の取得による支出・売却による収入 については、三菱は有形固定資産、住友は固定資産での記述であった。 7 / 19 三菱 Ⅰ営業活動によるキ ャ ッシ ュ ・フ ロー 税引等調整前当期純利益 減価償却費 売上債権の増減額(△は増加) たな卸資産の増減額(△は増加) 仕入れ債務の増減額(△は減少) 営業活動によるキャッシュ・フロー 住友 2010年 2011年 2010年 2011年 43,311 125,054 3,194 63,439 △ 75,714 116,073 169,552 146,264 △ 14,411 △ 17,448 22,065 288,853 41,297 116,110 △ 69,706 △ 4,212 60,409 132,874 75,698 138,688 △ 37,603 △ 9,397 23,513 176,228 Ⅱ投資活動によるキ ャ ッシ ュ ・フ ロー 定期預金の預入による支出 有価証券の取得による支出 有価証券の売却及び償還による収入 (有形)固定資産の取得による支出 (有形)固定資産の売却による収入 投資有価証券の取得による支出 - △ 19,262 △ 58,990 △ 74,834 △ 6,158 △ 23,627 53,184 100,610 29,601 21,943 △ 118,852 △ 111,965 △ 119,522 △ 100,578 5,169 6,530 1,389 2,182 △ 62,591 △ 32,582 △ 9,643 △ 59,372 連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出 △ 156,899 投資活動によるキャッシュ・フロー △ 327,006 △ 101,064 △ 269,402 △ 155,987 Ⅲ財務活動によるキ ャ ッシ ュ ・フ ロー 短期借入金の純増減額(△は減少) コマーシャル・ペーパーの増減額(△は減少) 社債の発行による収入 社債の償還による支出 財務活動によるキャッシュ・フロー 現金及び現金同等物純増加・減少(△は減少) 現金及び現金同等物の期首残高 現金及び現金同等物の期末残高 図表 13 連結キャッシュ・フロー計算書 - △ 202,044 51,086 △ 58,770 20,000 △ 75,000 39,774 △ 45,000 △ 30,000 94,437 △ 149,493 △ 115,074 30,350 226,410 112,591 112,591 143,747 △ 1,339 119,111 △ 113,764 △ 49,000 26,000 49,626 106,164 △ 59,024 △ 42,835 168,709 17,985 33,403 30,563 85,802 120,660 120,660 151,609 (単位:百万円) 三菱:まず営業活動によるキャッシュ・フローを確認すると、2.5 倍以上に増加している。 原因は前年比約4倍となった税引等調整前当期純利益と、約 1000 億増加した仕入債務であ る。たな卸資産が約 800 億増加したが、合計は大きく増加となった。投資によるキャッシ ュ・フローは支出を 1/3 に減少させている。正しく言えば、2010 年度が他の年に比べて著 しく大きな支出をしていたと言える。これは株式取得により、三菱レイヨン株式会社を連 結子会社化するために 1568 億支出したためである。この大きな支出が影響を与えている。 財務活動によるキャッシュ・フローは、2010 年度に約 950 億の収入だったが、著しく減少 して約 1500 億の支出になっている。短期借入金とコマーシャル・ペーパーが大きく減少し たためである。 住友:営業活動によるキャッシュ・フローをみると、400 億以上増加している。これは仕 入債務が 400 億減少したが、一方で税引前当期純利益が 350 億、減価償却費が 200 億増加 8 / 19 し、売上債権が 300 億減少したためである。投資活動によるキャッシュ・フローは 1100 億 支出を抑えられた。有価証券と投資有価証券の取得による支出が合わせて 670 億増加して が、2010 年にゼプラコール社を子会社にするために 2000 億の支出したことが大きく影響 した結果である。財務活動のキャッシュ・フローは 1500 億減少した。コマーシャル・ペー パーと社債の発行による支出が合わせて 1250 億増加した一方で、短期借入金の純増減額が 2300 億減少したことが大きく影響しているためである。 次に安全性に関する各指標を見ていく。ここでは、流動比率、当座比率、自己資本比率、 固定長期適合率、インタレスト・カバレッジ・レシオの各指標を分析していく。 流動比率 (%) 当座比率 (%) 160.0 90.0 140.0 80.0 120.0 70.0 60.0 100.0 80.0 三菱 60.0 住友 50.0 住友 30.0 40.0 20.0 20.0 10.0 0.0 三菱 40.0 0.0 2007 図表 14 2008 2009 2010 流動比率 2011 2007 (年) 図表 15 2008 2009 2010 2011 (年) 当座比率 はじめに企業の短期的な支払能力を表す流動性の代表的な指標として流動比率と当座比 率を見ていく。流動比率(流動資産/流動負債×100)は短期に支払期限が到来する流動負債 に充当することが可能な流動資産をどの程度持っているかを示す指標であり、200%以上が 好ましい比率とされている。しかし、両社ともに 200%を大きく下回っている。だが、2社 を比べた場合には住友の方が高い水準にあると言える。 また当座比率(当座資産/流動負債)は 100%を超えていればその企業の安全性が高いと 言える。流動比率に引き続き、当座比率も基準を下回っている。2社を比べると 2008 年以 降は三菱の方が高い値をとっている。2011 年に住友が三菱を追い抜いているが、その差は 大きくない。2011 年に住友が上昇した要因としては、当座資産である資産の有価証券と売 掛手形及び売掛金が共に 300 億ずつ増加し、流動負債である短期借入金を前年より 800 億 抑えてためである。2011 年の逆転はあったものの、5年間を全体でみると、三菱の方が高 い水準にあると言える。 9 / 19 次に長期的な支払能力や全体としての安全性を測定する指標として、自己資本比率と長 期固定適合率を見ていく。 自己資本比率 (%) 固定長期適合率 (%) 35.0 120.0 30.0 100.0 25.0 80.0 20.0 15.0 三菱 60.0 三菱 住友 40.0 住友 10.0 20.0 5.0 0.0 0.0 2007 図表 16 2008 2009 2010 2011 (年) 2007 図表 17 自己資本比率 2008 2009 2010 2011 (年) 固定長期適合率 自己資本比率(自己資本/総資産×100)が高いということは、利子を支払う負債がそれだ け少ないことを意味し、外部の債権者にとっての安全性が高いことを意味する。図表 16 か ら両社 30%以下と低い値をとっていることが分かる。またほとんど同水準であるが、2009 年、2010 年にかけて三菱が 5%ほど住友よりも务っている。これは自己資本が 2008 年、 2009 年に比べて 900 億ほど減少しているからで、特に 2010 年には総資産も大きく増加し ているため、更に低くなっている。この2年間の変化から、住友の方が高い水準だと言え る。 固定長期適合率(固定資産/〔自己資本+固定負債〕×100)は 100%以下が理想的な数値 として望まれている。両社ともほとんど 100%以上であり、長期的な安全性が高いとは言え ない。両社ともに5年間を通してそこまで大きな変化は見られない。また5年間を通して みるとほぼ同じ水準にあると言えるだろう。 10 / 19 そして、インタレスト・カバレッジ・レシオ(〔営業利益+受取利息+受取配当金〕/支払利 息)を分析する。 (倍) インタレスト・カバレッジ・レシオ これは、「支払わなければならない利息 の何倍を稼いでいるのか」を示す指標であ 30.0 る。住友は 2007 年に三菱に比べ圧倒的に 25.0 高い値を持っていた。これは販売費及び一 20.0 般管理費を大きく抑えられて営業利益が 15.0 三菱 大きかったためである。2008 年は販管費 住友 が増加し、分子が小さくなるにつれて下降 10.0 していく。三菱も住友も年々研究費を増や 5.0 す傾向にある。三菱の 2008 年にかけての 下降も販管費の増加である。2009 年の落 0.0 2007 2008 2009 2010 2011 ち込みは両社ともに営業利益が著しく減 (年) 少したためである。その後の回復は三菱、 図表 18 インタレスト・カバレッジ・レシオ 住友ともに営業利益の増加によるものであ る。2011 年で住友が優位に立つが、5年間 通してみた結果、住友の方が高い水準にある と言える。 最後に、格付け機関による両社の安全性の評価を参考にする。 三菱 住友 図表 19 格式投資情報センター A A 日本格付研究所 A+ A+ 長期債格付け(2011 年 9 月 17 日現在) 安全性で2社を比べた場合、格付け機関の評価に差はなかったが、住友化学の方が高い 水準を持っていることが分かった。しかしながら、両社ともほとんどの指標で望ましい基 準値に達していないため、安全性が高いとは言えない。 3.効率性分析・生産性分析 次に効率性と生産性を分析していく。ここでは収益性分析で触れた総資本回転率の動き を4つの資産ごとの回転率に分けて分析していきたい。4つの資産とは棚卸資産、有形固 定資産、売上債権、投資その他の資産である。 11 / 19 棚卸資産回転率 (回) 8.0 4.0 7.0 3.5 6.0 3.0 5.0 2.5 4.0 3.0 三菱 2.0 三菱 住友 1.5 住友 2.0 1.0 1.0 0.5 0.0 0.0 2007 図表 20 2008 2009 2010 2011 (年) 2007 (年) 図表 21 棚卸資産回転率 売上債権回転率 (回) 有形固定資産回転率 (回) 2008 7.0 6.0 6.0 5.0 5.0 4.0 2011 投資その他の資産回転率 4.0 三菱 3.0 2010 有形固定資産回転率 (回) 7.0 2009 三菱 3.0 住友 2.0 2.0 1.0 1.0 0.0 住友 0.0 2007 図表 22 2008 2009 売上債権回転率 2010 2011 (年) 2007 図表 23 2008 2009 2010 2011 (年) 投資その他の資産回転率 棚卸回転率(売上高/棚卸資産)と有形固定資産回転率(売上高/有形固定資産)は、各資 産が効率的に活用されているのかどうかを測定する指標である。まずは棚卸資産回転率を 見ていくと、両社ともに 2010 年までは徐々に下降していくが、2011 年には回復を見せて いる。これは 2010 年まで徐々に売上高が減少する一方で、棚卸資産が徐々に増加していた からである。2011 年も棚卸資産は増加しているが、売上高が大きく増加したことで、棚卸 資産回転率も上昇している。また、同じ動き方はしているが、三菱の方が高い水準を保っ ている。そして、有形固定資産回転率を見ていくと、2009 年までは三菱の方が高い値をと っていたが、三菱は 2010 年に売上高が大きく減少し更に有形固定資産も増加したため、急 激に下降したため住友が立場を逆転した。よって住友の方が優勢であると言える。ちなみ に、2社の有形固定資産額の推移をみると、三菱は大きく増加傾向にあり、住友は軽い減 12 / 19 少傾向にあった。また、総資産回転率で上回る三菱が有形固定資産回転率で住友より低い 値をとった理由は、住友の方が総資産に対する有形固定資産の割合が少ないためである。 次に、売上債権回転率(売上高/〔売掛金+売掛手形〕)、投資その他の資産回転率(売上 高/投資その他の資産)を見ていく。売上債権回転率を見てみると、三菱も住友も同水準に あることが分かる。2009 年の上昇は売掛金及び売掛手形が減少したために起きたものであ る。投資その他の資産回転率は、大きく差をつけて三菱の方が高い水準にある。2010 年の 三菱の落ち込みは、投資有価証券が 800 億増加したためである。 効率性・生産性分析においては、棚卸資産回転率と投資その他の資産回転率で三菱が優 勢であり、有形固定資産回転率では住友が優勢、売上債権回転率では同水準であることが 分かった。 4.成長性分析 2007 年を基準年(100%)として、売上高、総資本、営業利益、純資産に関して趨勢分 析を用いて成長性を見ていく。 三菱成長性 (%) 住友成長率 (%) 120.0 200.0 180.0 160.0 140.0 120.0 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 100.0 80.0 売上高 総資本 自己資本 売上高 60.0 総資本 40.0 自己資本 営業利益 営業利益 20.0 0.0 2007 図表 24 2008 2009 2010 三菱の成長性 2011 (年) (年) 2007 図表 25 2008 2009 2010 2011 住友の成長性 まずは三菱の成長を分析していきたいと思う。最も大きく変化をしているのは営業利益 である。2009 年にはリーマンショックの影響から国内外の需要が落ち込み、結果営業利益 が著しく減少している。しかし、その後 2010 年 2011 年と上昇を続けた。2010 年に売上は 減少したものの、売上原価が大きく抑えられたためで、2011 年には売上高が増加したため に営業利益も増加し、2007 年と比較しても大きく上回る値を出している。また、総資産も 13 / 19 2007 年から徐々に増加していることが分かる。 住友の成長率を見てみても、営業利益が大きく変化していることが分かる。住友の営 業利益の変化も三菱と同じ要因からきている。2009 年にリーマンショックの影響を受けて 大きく下降するが、2010 年には売上原価が大きく抑えられたことで上昇し、2011 年には売 上が増加したことにより上昇をみせた。他の3つはそれほど大きな変化は見られないが、 2011 年の売上高の上昇は、その年の営業利益の上昇の要因だということは前記した通りで ある。 両社ともに営業利益の変化が著しい。三菱も住友も、5 カ年で徐々に研究開発費などの販 売費及び一般管理費が増加しているということもあるが、それよりも化学業界は特にリー マンショックや円高などの外部性に大きく影響されたためである。全体として成長率を見 てみると、三菱の方が 2011 年時点ですべての項目で成長を見せている。特に営業利益は 2009 年の落ち込み後には大きな回復をみせ、2007 年の値よりも大きく増加していることか ら、三菱の方が優れていると言えるだろう。 5.グループ経営分析 ここからはグループ経営分析を行う。グル―プ本社とグループ子会社、あるいは関連会 社との関係はどうなっているのか、また、グループ内のどの部分が収益をあげているのか を分析していく。 まず、2011 年度の有価証券報告書の「3.対処すべき課題」や「中期経営計画」で、両 社のグループ経営に対する姿勢を見ていく。 三菱ケミカルホールディングス:事業環境を踏まえ、昨年 12 月、 「APTSIS 10」に続く 2011 年度から 2015 年度までの 5 カ年の新たな中期経営計画「APTSIS 15」を策定し、 「協 奏により、さらなる成長・創造と飛躍を実現する」を基本方針に掲げ、事業会社間の協奏 によるグループ総合力の強化、財務体質の改善及びさらなる事業構造改革により、体質の 強化を図っていく。また、持続的社会の実現に貢献する事業の拡大、いまだ有効な治療法 がない医療ニーズに応える医薬品の開発、国際競争力を有する事業のグローバル展開等の 戦力を着実に実行することとともに将来を見据えて「創造事業」の育成・展開を図り、更 に当社グループの一層の飛躍のために、戦略的な事業の買収や提携などの諸施策を実施し ていく。理想の収益構成として、素材・機能商品・ヘルスケアの構成比を均等化すること を目標とする。 住友化学:当社グループは、 「中期経営計画」 (平成 22 年度~平成 24 年度)で定めた各事 14 / 19 業に戦略に従い、当社の強みである総合化学メーカーとしての地検を最大に活かした新製 品・技術の開発、マーケティングの強化、コスト削減の徹底党のスピードを上げて取り組 むことにより、事業基盤の強化・充実を推し進めていく。更に、これまでに着実に実行し てきた取組み、すなわち石油化学事業の抜本的な競争力の強化、農業・医薬品等のライフ サイエンス分野の成長に必要な規模の確保、環境・エネルギー・ICT(情報・通信技術)分 野における新規事業の育成などについても、引き続き、その成果の最大限を図り、収益・ キャッシュ・フローの獲得につなげていく。10 年後の事業別構成比をバルブケミカル・ヘ ルスケア・ICT の均等化を目指す。また、グローバル経営を今後さらに充実させるべく、 海外・国内事業運営体制の最適化、人材教育、IT システムの高度化などの各施策にも注力 していく。 次に、両社のグループ経営について、連単倍率分析とセグメント分析を行う。連単倍率 とは、分母に単体数値、分子に連結数値をとった倍率であり、親会社単体に対してグルー プ全体はない倍の規模であるのかを表す指標である。1を超えれば超えるほど、親会社以 外のグループの貢献度が大きいことを示す。また、三菱の単体数値は売上高の代わりに営 業収益を用いた。 三菱連単倍率 (倍) 25.0 250.0 売 3.0 10.0 営 業 200.0 2.0 5.0 益 上 高 20.0 15.0 利 10.0 当期純利益 5.0 -5.0 図表 26 2008 2009 2010 2011 三菱の連単倍率 -1.0 営業利益 -20.0 -3.0 -25.0 2007 (年) 当期純利益 -15.0 -2.0 0.0 2007 売上高 -10.0 売上高(営業収益) 50.0 総資産 -5.0 0.0 営業利益 100.0 0.0 1.0 総資産 150.0 0.0 住友連単倍率 (倍) 図表 27 2008 2009 2010 2011 (年) 住友の連単倍率 両社の連単倍率を比較してみると、三菱は明らかに1からかけ離れた値をとっているこ とから、グループ全体で収益・利益を生み出そうとしていることが分かる。特に売上高を 見れば、200%を超す年もあることからも、グループ会社の貢献が大きいことが分かる。一 方で住友は三菱に比べると親会社を中心に事業を展開している。ただし、このグラフの営 業利益、当期純利益を見るときに注意しなければならないことがある。2009 年にプラスに 15 / 19 なっているが、これは単体数値、連結数値ともにマイナスであったからである。また、2010 年と 2011 年のマイナスとして表れているのは、単体数値がマイナスを出したためであり、 連結数値では大きくプラスの値を出している。特に 2011 年に営業利益が絶対値でみて大き な値を出したのは、単体数値が-37 億という絶対値でみてかなり小さい値だったことが原 因であった。つまり、この年度の連結数値が著しく大きいという訳ではない。 そして、世界に事業を広げている両社の所在地別セグメント分析を行う。両社とも 2011 年度からセグメント情報等に関する基準を変更したため、2011 年度は上から日本、中国、 その他、計の順に記した。 日本 アジア(2011年は中国) その他 計 所在地の主な国 図表 28 三菱の所在地別売上高 日本 アジア(2011年は中国) 北米 その他 計 所在地の主な地域 図表 29 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2,182,021 2,420,639 2,477,426 2,116,385 2,079,213 281,679 341,175 276,269 243,153 314,308 159,120 167,996 155,335 155,541 773,250 266,820 2,929,810 2,909,030 2,515,079 3,166,771 アジア…中国、台湾、韓国、インドネシア、タイ、インド その他…北米、欧州 (単位:百万円) 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 1,294,827 1,344,571 1,215,123 1,071,115 925,717 393,086 452,354 457,087 423,706 318,327 74,836 102,113 99,614 116,013 51,258 738,391 1,790,026 1,896,539 1,788,223 1,620,915 1,982,435 アジア・・・中国、韓国、東南アジア 北米・・・米国、カナダ ※2009年度までは北米はその他に含む。 その他・・・欧州、オセアニア、 住友の所在地別売上高 (単位:百万円) 両社とも所在地の主な地域を見てみると同じような地域に事業を展開していることが分 かる。三菱も住友ともも圧倒的に日本での売上高が高く、次いでアジアが続いている。両 社ともに更なるグローバル展開を目指しているが、様々な外部性に影響しやすい化学業界 であることもあり、日本以外の地域の売上高はその年によってばらつきがあるが、国外の 合計でみると、住友は順調に売上高を増加していることが分かる。2011 年には海外の合計 比率が 50%を超している。また、2社には規模の大きさに差があるが、割合で見てみると 北米や欧州での売上高に関しては住友の方が大きな割合を占めている。よって住友の方が グローバル展開をうまく進めていると言える。 次にセグメント別の販売実績を見てみる。三菱も住友も 23 年度からセグメントの情報等 に関する基準を変更したことと、2010 年度から両社ともに中間経営計画を更新し、現在の 16 / 19 状況と目標が明確に比較できるために、2010 年度の事業別セグメントを使用した。 また、図表作成においては、両社の事業別セグメントの分類の表記が異なっていたが、 比較可能性を持たせるために、次のような整理を行っている。 三菱の「エレクトロニクス・アプリケーションズ」と「デザインド・マテリアルズ」を 「バルクケミカル」 、 「ヘルスケア」を「ヘルスケア等」、 「ケミカルズ」 「ポリマーズ」を「機 能商品」と分類する。 住友の「石化化学」と「基礎化学」を「バルクケミカル」、「医薬品」と「農業化学」を 「ヘルスケア等」 、 「精密化学」と「情報電子化学」を「機能商品」と分類する。 その他 7% 三菱 売上高 住友 売上高 その他 10% ヘルスケア等 14% 機能商品 24% バルクケミカル バルクケミカ ル 52% バルクケミカル 機能商品 ヘルスケア等 機能商品 バルクケミカ ル 44% ヘルスケア等 28% その他 ヘルスケア等 その他 機能商品 21% 図表 30 三菱のセグメント別 その他 2% 売上高 図表 31 三菱 セグメント利益 住友のセグメント別 その他 5% 住友 セグメント利益 バルクケミカル ヘルスケア等 バルクケミカル 36% 46% バルクケミカル 機能商品 ヘルスケア等 43% ヘルスケア等 その他 三菱のセグメント別 セグメント利益 バルクケミカル 29% 機能商品 23% 機能商品 16% 図表 32 売上高 図表 33 住友のセグメント別 機能商品 ヘルスケア等 その他 セグメント利益 やはり、化学業界の大企業ということで、両社ともバルブケミカルが大きな割合を占め ていることが分かる。しかし、企業の経営に対する姿勢でも確認したように、両企業とも、 17 / 19 この3つの分野を均等な割合、つまり 30%ずつの構成比を目標としている。その観点から みると、その目標に比較的近いのは住友ということになる。三菱は、石油を用いるバルブ ケミカルが 52%も占めており、セグメント利益をみてみても、約半分の利益がそれによっ て生み出されている。三菱はバルブケミカルが占めている割合を機能商品や新たに育成・ 展開していく事業に分散できるのかどうかが注目される。住友は情報・通信技術(グラフ では機能商品に該当)事業の育成をうまく推し進めていくことができるのかに注目したい。 6.総合評価 最後に締めくくりとして、株価純資産倍率(PBR)と株価収益率(PER)をみる。 (2011年9月11日現在) 株価純資産倍率(PBR) 株価収益率(PER) 株価(取引値) 1.03 8.99 528 0.98 21.00 312 三菱 住友 図表 34 三菱 住友 図表 35 三菱と住友の PBR・PER・株価 2007 13.6 15.66 2008 5.5 16.7 2009 - (参考:Yahoo!ファイナンス) 2010 51.2 51.23 (単位:倍) 2011 8.9 27.93 株価収益率 株価純資産倍率は時価総額を純資産の簿価で割った値であり、現在の株価が一株あたり の利益の何倍かを知ることができ、企業評価を行う上で重要な指標の一つである。これは 0.05 とわずかであるが三菱の方が高い。 株価収益率は株価を一株あたりの利益で割ったものであり、現在の株価が一株あたりの 株主資本の何倍かを知ることができる。 この基準は 14~20 倍であり、 低いほど株が 「割安」、 高いほど「割高」ということになる。PER について、2009 年は両社とも当期純損失となっ たため記載していない。2010 年は一株あたりの当期純利益が小さかったために両社とも急 激に大きくなっている。三菱も住友も 5 カ年の最初は基準値をとっているが、2011 年、そ して現在は、三菱は割安、住友は割高となる傾向にある。 18 / 19 最後にこれまでの分析をまとめる。まず収益性に関しては、すべての指標に関して三菱 が優れているということが分かった。安全性に関しては、どちらも望ましい水準から遠い ものの、比較した場合には住友の方が安全性は高かった。そして効率性・生産性に関して は、棚卸資産回転率と投資その他の資産回転率では三菱が優位、有形固定資産回転率では 住友が優位、売上債権回転率は同水準だったため、三菱の方が優れていると言える。続い て成長性では、2011 年段階ですべての項目で 120%以上の値を出した三菱の方が成長性が 高かった。グループ経営分析では、両社ともにグループ全体で利益を出そうとしているこ とが分かるが、圧倒的に三菱の方がその割合は大きかった。最後にセグメント分析では、 より石油関連の事業にのしかかっているのは三菱で、住友は三菱よりはバランスのとれた 形であった。また、海外展開は2社ともに目指しているが、住友が売上高の半分を国外で 生み出すことに成功しているため、より成功しているのは住友だといえる。 今回の分析の結果、三菱ケミカルホールディングスの方が総合的に優れているという結 果が出た。これからの企業方針としては中期経営計画に示されているが、両社ともに海外 展開、事業別セグメントの割合の均等化、創造・成長事業の育成を掲げている。世界の人 口増加、低炭素社会、国際経済の中国・インド等への移行など、様々な変革がおこる中で、 三菱・住友はうまく対応し、設定した目標をどれだけ実現できるのだろうか。特に大きな 割合を占めている石油関連事業への依存を脱却できるのか注目していきたい。 【参考文献】 伊藤邦夫「ゼミナール現代会計入門(第 8 版)」日本経済新聞出版社(2010 年) Yahoo!ファイナンス:http://finance.yahoo.co.jp/ 2011 年 9 月 9 日参照 株式会社三菱ケミカルホールディングス HP:http://www.mitsubishichem-hd.co.jp/ 住友化学株式会社 HP: http://www.sumitomo-chem.co.jp/ 業界 serch.com:http://gyokai-search.com/ 19 / 19
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