12岩崎仁美

東宝と松竹
~企画力強化でお客様に選ばれる「娯楽」を目指す~
国際地域学部 国際地域学科 3 年
1810110181 岩崎 仁美
0. はじめに
かつて、映画は大衆の娯楽の王様であったが、テレビの登場によって観客動員数が激減した際には、
映画業界にも大きな動揺が走った。また近年、DVD やブルーレイディスクが出回るようになり、家に
いても簡単に映画を見ることができるようになったため、映画館に足を運ぶ人が少なくなってきた。こ
のような時代の変遷とともに、映画業界も運営スタイルを変えてきており、最近では大迫力の 3D 映画
が人気を集めている。厳しい経営環境の中で、いかに客を集め利益に繋げていくか。映画業界大手の東
宝株式会社と松竹株式会社を比較し、分析を行っていく。
0-1. 業界の現状
2005 年までは洋画シェアが邦画シェアを上回っていたが、2006 年には初めて邦画が洋画を上回り逆
転した。2007 年には洋画がわずかに再逆転したが、国内での洋画離れが顕著に表れている。
近年の洋画はヒットに恵まれない状況であるが、一方で、邦画は中規模ヒット作が続いている。特に
TV ドラマやコミック、小説などのヒット作からの映画化が多いのが特徴で、ある程度の興業数が見込
める”勝算”映画が主流となっている。映画興行収入が横ばいを続ける中、99 年頃から映画館数は増加傾
向にある。2012 年 12 月時点の日本のスクリーン数は 3,000 を超え、特に同一の施設内に複数のスクリ
ーンがあるシネマコンプレックスの増加が目立つ。
スクリーン数が増える一方で映画興業収入、観客動員数は横ばい傾向。供給は増える一方需要が伸び
悩むといった好ましくない状況にある。興業収入、観客動員数を増やすにはやはり映画館に足を運びた
くなるヒット作を継続的に打ち立てる必要があり、邦画、洋画ともにコンテンツの重要性が問われてい
る。
0-2. 両社の概要と戦略
東宝株式会社
本社:〒100-8415 東京都千代田区有楽町 1 丁目 2 番 2 号 東宝日比谷ビル
設立:1932 年 8 月 12 日
代表者:島谷 能成
東宝株式会社は、映画・演劇などの質の高い娯楽を大衆に広く提供することを使命として小林一三翁
により創設されて以来、その理念「朗らかに、清く正しく美しく」を経営の根幹に据えてきた。東宝は、
2000 年代の邦画ブーム以降ずっと安定した好調さをキープしており、2012 年も『BRAVE HEARTS 海
猿』が興収トップとなる 73 億円を記録したのをはじめ、
『テルマエ・ロマエ』
『踊る大捜査線 THE FINAL
新たなる希望』が 59 億円の大ヒット。同社史上 2 位となる年間興行収入 741 億円を稼ぎ出している。
幅広いお客様に喜ばれる、文化の香り高い作品の提供に努め、おもてなしの心でお客様をお迎えする一
方、映画・演劇事業の支えとすべく、全国主要都市の好立地に所有する不動産の高度利用を推進してい
る。また、無駄を排除し、組織のスリム化と経営の効率化を常にはかっている。
225
松竹株式会社
本社:〒104-8422 東京都中央区築地 4 丁目 1 番 1 号 東劇ビル
設立:1920 年 11 月 8 日
代表者:迫本 淳一
松竹株式会社は、
「日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する。時代のニーズをとらえ、
あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツをお届けする」というミッションを定めている。映画の製作・
配給では、独自の企画・製作力を高めるとともに、他社との連携など多様な製作・出資形態をとること
で、お客様により喜ばれる作品の提供を目指す。演劇事業では、世界に誇る伝統文化である歌舞伎にお
いて、伝統的な演目は勿論、新作にも注力し、さらなる充実を図る。2009 年には、
『おくりびと』が第
81 回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。
0-3. 注意事項
a. 簡略化のため、以下の分析において、東宝株式会社を「東宝」、松竹株式会社を「松竹」と表記する。
b. 今回の財務分析で使用するデータは、2009 年(平成 21 年)から 2013 年(平成 25 年)までの 5 年間の有
価証券報告書を参考にしている。
c. 両社ともに会計期間は 3 月 1 日から 2 月 28 日である。ただし、暦の都合上、2012 年の会計期間の
み 3 月 1 日から 2 月 29 日となっている。また、以下の分析において、例えば 2008 年 3 月 1 日から
2009 年 2 月 28 日の期間を「2009 年」と表記する。
d. 連結経営という視点を重視し、各指標の算出にあたって特に断りのない限りは連結データを使用して
いる。
226
1. 収益性分析
収益性分析では、5 つの指標を用いて両社の収益性を測定する。5 つの指標とは、
「総資本事業利益率
(ROI)」
「自己資本利益率」に加え、自己資本利益率を分解した「売上高当期純利益率」
「総資本回転率」
「財務レバレッジ」の 5 つである。
1-1. 使用総資本事業利益率(ROI)
まず、使用総資本事業利益率(ROI)(=事業利益/使用総資本×100)の推移を見ていく。
使用総資本事業利益率(ROI)
10.00%
9.00%
8.00%
7.00%
6.00%
5.00%
東宝
4.00%
松竹
3.00%
2.00%
1.00%
0.00%
2009
図表 1
2010
2011
2012
2013
使用総資本事業利益率(ROI)の推移
図表 1 を見ると、東宝が一貫して松竹を上回っているのがわかる。また、両社とも 2012 年に少し落
ち込んでいる。
東宝はその後 2013 年にかけて約 3%回復しているが、松竹は約 1%の回復となっており、
2011 年の水準までは回復できなかったようだ。このような変動を起こした原因を、次の総資本と事業
利益の推移から、詳しく探っていく。
総資本
(百万円)
(百万円)
400000
35,000
350000
30,000
300000
25,000
250000
20,000
200000
15,000
150000
100000
10,000
50000
5,000
0
0
2009
2010
2011
東宝
図表 2
事業利益
総資本の推移
2012
2009
2013
2010
2011
東宝
松竹
図表 3
227
事業利益の推移
松竹
2012
2013
図表 2 より、総資本の推移は両社ともほぼ横ばいで、大きな変動はない。しかし、2009 年時点で両
社の総資本の差は約 1 兆 5000 万円であったが、2013 年時点でその差は約 2 兆 2500 万円となっており、
両社の間では差が広がっていると言える。次に、図表 3 の事業利益の推移を見てみる。こちらも、東宝
が一貫して松竹を上回っているが、東宝は 2010 年と 2012 年に落ち込み、松竹は 2012 年に少し落ち込
んでいることがわかる。そして両社とも 2013 年にかけて持ち直しており、これらの変動の仕方は ROI
と似ている。したがって、ROI の変動は事業利益に起因していると言える。
では、ここで事業利益の構成を見ていく。
東宝
2009
2010
2011
2012
2013
売上高
213,493
201,699
198,953
181,360
202,274
売上原価
129,770
122,768
122,814
111,308
120,036
売上総利益
83,723
78,930
76,138
70,052
82,237
販売費及び一般管理費
60,462
59,770
53,734
53,229
53,685
営業利益
23,260
19,159
22,403
16,822
28,552
受取利息及び受取配当金
1,426
982
796
812
1,378
持分法による投資損益
1,152
213
175
-264
363
25,838
20,354
23,374
17,370
30,293
事業利益
図表 4-1
東宝の事業利益構成(単位:百万円)
2009
2010
2011
2012
2013
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
売上原価
60.8%
60.9%
61.7%
61.4%
59.3%
売上総利益
39.2%
39.1%
38.3%
38.6%
40.7%
販売費及び一般管理費
28.3%
29.6%
27.0%
29.3%
26.5%
営業利益
10.9%
9.5%
11.3%
9.3%
14.1%
受取利息及び受取配当金
0.7%
0.5%
0.4%
0.4%
0.7%
持分法による投資損益
0.5%
0.1%
0.1%
-0.1%
0.2%
12.1%
10.1%
11.7%
9.6%
15.0%
売上高
事業利益
図表 4-2
東宝の事業利益構成(単位:%)
図表 4-1、4-2 を見てみると、2009 年には約 600 億円あった販管費を 2013 年には約 540 億円にまで
減らしていて、2013 年には売上高に対する販管費の割合が前年に比べて約 3%減少していることがわか
る。2009 年と 2010 年で販管費が大きくなっているのは、東宝スタジオの改造計画により費用が嵩んだ
ためだと考えられる。また、2013 年で売上高に対する販管費を抑えられているのは、デジタル上映の
普及により、撮影費用や人件費などのコストを削減できているためだと考えられる。また、2012 年に
おける営業利益が落ちているのは、東日本大震災の影響によって映画館の来場者数が減り、興行収入が
減少したことが原因として考えられる。2013 年には約 285 億円まで営業利益を伸ばしているが、これ
は、DVD 市場や地上波・ブロードバンド放送での収益が影響しているためだと言える。
228
松竹
2009
2010
2011
2012
2013
売上高
94,994
93,231
90,254
75,619
78,601
売上原価
56,956
54,055
51,334
44,063
45,808
売上総利益
38,038
39,176
38,920
31,556
32,793
販売費及び一般管理費
36,463
35,724
35,549
30,681
29,725
1,575
3,452
3,371
875
3,068
412
225
215
222
283
-4
-123
3
-38
-17
1,983
3,554
3,589
1,059
3,334
営業利益
受取利息及び受取配当金
持分法による投資損益
事業利益
図表 5-1
松竹の事業利益構成(単位:百万円)
2009
2010
2011
2012
2013
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
売上原価
60.0%
58.0%
56.9%
58.3%
58.3%
売上総利益
40.0%
42.0%
43.1%
41.7%
41.7%
販売費及び一般管理費
38.4%
38.3%
39.4%
40.6%
37.8%
営業利益
1.7%
3.7%
3.7%
1.2%
3.9%
受取利息及び受取配当金
0.4%
0.2%
0.2%
0.3%
0.4%
持分法による投資損益
0.0%
-0.1%
0.0%
-0.1%
0.0%
事業利益
2.1%
3.8%
4.0%
1.4%
4.2%
売上高
図表 5-2
松竹の事業利益構成(単位:%)
一方の松竹は、図表 5-1、5-2 より、この 5 年間で販管費を徐々に抑えつつあることがわかる。しか
し、松竹の売上高に対する販管費の割合を見ると、いずれの年も 40%前後を推移していることがわかり、
東宝の販管費の割合が 30%前後を推移しているのに比べると、そこには約 10%の差がある。これは、松
竹の販管費に含まれる事業所税が、東宝よりも大きいためだと考えられる。また、営業利益を見ると、
2012 年に急激に減少していることがわかる。これはやはり東宝と同じく、東日本大震災の影響によっ
て映画館の来場者数が減り、興行収入が減少したことが原因として考えられる。また、100 億円突破作
品がなかったことも、営業利益減少の要因として挙げることができる。その後 2013 年にかけて営業利
益を持ち直したと言えるが、これはデジタル化が進んだことによって、3D 上映の興行収入が増加した
ことが要因のひとつと考えられる。しかし、演劇事業では、ル テアトル銀座の閉館などがあって興行
収入が思うように伸びず、厳しい環境が続いている。
229
1-2. 自己資本利益率(ROE)
次に、自己資本利益率(ROE)(=当期純利益/自己資本×100)の推移を見ていく。ROE は、株主の視
点からみた収益性の指標であり、株主が出資した資本をもとにどの程度の利益をあげたのかを測定する。
自己資本利益率(ROE)
8.00%
6.00%
4.00%
2.00%
東宝
0.00%
松竹
2009
2010
2011
2012
2013
-2.00%
-4.00%
-6.00%
図表 6
自己資本利益率(ROE)の推移
東宝は、2011 年まで順調に利益率を伸ばしていたが、2012 年で減少に転じている。その後 2013 年
にかけては 2%以上伸ばしている。一方の松竹は、常に東宝の水準を下回っており、2012 年には急にマ
イナスに転じている。しかし、2013 年にはこの 5 年間で一番高い水準を記録している。これはまさに、
「V 字回復」と言えるであろう。
ROE がなぜこのような推移になったのか、その変動要因を探るため、当期純利益と自己資本の推移
を見ていく。
(百万円)
当期純利益
自己資本
(百万円)
20000
300000
250000
15000
200000
10000
150000
100000
5000
50000
0
2009
2010
2011
2012
2013
0
2009
-5000
東宝
図表 7
当期純利益の推移
2010
松竹
2011
東宝
図表 8
2012
2013
松竹
自己資本の推移
図表 7 を見ると、東宝は常に松竹を上回っており、2009 年から 2011 年にかけて当期純利益を順調に
伸ばしてきたことがわかる。また、両社とも 2012 年に落ち込むが、その後利益を伸ばしている。これ
は、ROE のグラフとほぼ同じ動きをしており、当期純利益が ROE の変動要因になっていることが見て
取れる。図表 8 より、自己資本の推移を見ると、両社ともほぼ横ばいで大きな変動はない。そして、常
230
に東宝が松竹を高い水準で上回っている。したがって、自己資本は ROE の変動にあまり影響していな
いことが考えられる。
1-3. 自己資本利益率(ROE)の分解
自己資本利益率(ROE)は、
「売上高当期純利益率」、
「総資本回転率」、
「財務レバレッジ」の 3 つの要
素に分解することができる。
ここからはこの 3 つの指標を使って、
両社の収益性をより詳しく見ていく。
売上高当期純利益率
売上高
(百万円)
10.00%
250000
8.00%
200000
6.00%
150000
4.00%
2.00%
100000
0.00%
2009
-2.00%
2010
2011
2012
50000
2013
-4.00%
0
2009
-6.00%
東宝
図表 9
2010
松竹
2011
東宝
図表 10
売上高当期純利益率の推移
2012
2013
松竹
売上高の推移
まず、図表 9 の売上高当期純利益率(=当期純利益/売上高×100)の推移を見ていく。この指標は、売
上高に対する当期純利益の比率を表しており、この比率が高いほど収益性が高いと言える。東宝が常に
松竹を上回っており、両社とも 2012 年に一度落ち込むが、その後 V 字回復をしている。これは、ROE
とほぼ同じ動きをしていると言える。図表 10 の売上高の推移を見てみると、ほぼ横ばいであるが、2012
年に少し落ち込んでいる。これは、前述した通り、東日本大震災の影響により公演を中止する劇場があ
ったり、劇場や映画館に足を運ぶことを自粛する人が増えるなどして、興行収入が減少したためだと考
えられる。
総資本回転率
(回)
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
2009
2010
2011
東宝
図表 11
総資本回転率の推移
231
2012
松竹
2013
次に、図表 11 の総資本回転率(=売上高/総資本)の推移を見ていく。この指標は、高ければ高いほど、
売上による総資本回収のスピードが速いことを意味する。東宝が常に松竹を上回って推移しているので、
東宝のほうがより総資本回収のスピードが速いと言える。しかし、両社とも年々減少傾向にあり、これ
は、総資本の増分が売上高の増分よりも大きいことを表している。
財務レバレッジ
(倍)
3.5
3.0
2.5
2.0
東宝
1.5
松竹
1.0
0.5
0.0
2009
図表 12
2010
2011
2012
2013
財務レバレッジの推移
最後に、図表 12 の財務レバレッジ(=総資本/自己資本)の推移を見ていく。この指標は、負債の利用
度、ないし負債への依存度を表している。つまり、この比率が高いほど負債が多いということになる。
両社ともほぼ横ばいで推移しているが、松竹のほうが東宝よりも負債依存度が高いことがわかる。松竹
は、2011 年から 2013 年にかけて総資本が増加傾向にあるので、少しずつ負債依存度が高まっていると
考えられる。
収益性分析では、すべてにおいて東宝が松竹の水準を上回っていた。したがって、東宝のほうが松竹
よりも収益性が高いと言える。特に、東宝の ROE を見ると、右肩上がりで推移しており、今後の収益
性の伸びが期待できる。一方、松竹の ROE は、2012 年から 2013 年にかけて V 字回復をしているもの
の、今後の伸びはあまり期待できない。
232
2. 安全性分析
続いて、ここからは安全性分析を行って、両社の安全性を比較していく。はじめに、両社の資金調達
活動と投資活動の状況を知るために、連結キャッシュ・フロー計算書を用いて分析を行っていく。その
あとに、代表的な安全性指標である、
「流動比率」、「当座比率」、「自己資本比率」、「固定長期適合率」、
「インタレスト・カバッレッジ・レシオ」の 5 つの分析を行っていく。
2-1. 連結キャッシュ・フロー計算書の分析
図表 13 は、2012 年及び 2013 年の連結キャッシュ・フロー計算書の一部を抜粋したものである。
東宝
2012
松竹
2013
2012
2013
Ⅰ営業活動によるキャッシュ・フロー
税金等調整前当期純利益又は純損失(△)
14,605
29,766
△ 3,464
1,350
減価償却費
10,446
10,458
4,014
4,072
437
976
ND
14
1,066
△ 1,780
△ 424
△ 742
779
△ 1,016
△ 1,240
351
仕入債務の増減額(△は減少)
△ 321
2,280
△ 1,080
△ 121
営業活動によるキャッシュ・フロー
14,062
38,528
313
7,939
有価証券の取得による支出
△ 1,199
△ 500
△ 100
ND
有価証券の売却による収入
2,384
2,850
ND
ND
有形固定資産の取得による支出
△ 10,835
△ 8,586
有形固定資産の売却による収入
93
33
152
140
△ 74
△ 7,232
ND
ND
減損損失
売上債権の増減額(△は増加)
たな卸資産の増減額(△は増加)
Ⅱ投資活動によるキャッシュ・フロー
子会社株式の取得による支出
投資活動によるキャッシュ・フロー
△ 5,924 △ 14,742
△ 2,447 △ 15,903
△ 8,796 △ 21,050
Ⅲ財務活動によるキャッシュ・フロー
短期借入金の純増減額(△は減少)
19
△ 18
3,273
2,046
長期借入れによる収入
15
50
2,688
13,262
△ 615
△ 550
自己株式の取得による支出
△ 1,526
△ 232
△ 16
△ 18
財務活動によるキャッシュ・フロー
△ 6,433
△ 5,095
4,052
21,772
現金及び現金同等物に係る換算差額
△ 74
60
ND
ND
現金及び現金同等物の増減額(△は減少)
1,696
18,750
△ 4,431
8,662
現金及び現金同等物の期首残高
37,220
38,917
15,990
11,520
現金及び現金同等物の期末残高
38,917
57,667
11,520
20,181
長期借入金の返済による支出
図表 13
連結キャッシュ・フロー計算書(単位:百万円)
233
△ 7,431 △ 10,113
まず、営業活動によるキャッシュ・フローを見ると、両社ともに増額していることがわかる。これに
は、税金等調整前当期純利益の増加が影響していると考えられる。
次に、投資活動によるキャッシュ・フローを見ると、両社ともに支出が増加していることがわかる。
東宝は、有価証券の取得による支出を抑えているが、子会社株式の取得による支出が増加しているため、
それが投資活動によるキャッシュ・フローに影響したと考えられる。特に影響を及ぼしたこととして、
2013 年 1 月に東宝不動産を完全子会社化して全株を取得したことが挙げられる。一方の松竹は、有形
固定資産の取得による支出が増加したことが、これに影響したと考えられる。特に影響を及ぼしたこと
として、2013 年の歌舞伎座新開場にともなう支出が挙げられる。
最後に、財務活動によるキャッシュ・フローを見ると、東宝は前年に比べて支出を抑え、松竹は収入
を増やしていることがわかる。東宝は、自己株式の取得による支出を抑え、松竹は、長期借入れによる
収入を増やしたことが影響していると考えられる。
2-2. 安全性指標
ここからは、安全性に関する各指標を見ていく。「流動比率」、「当座比率」、「自己資本比率」、「固定
長期適合率」
、
「インタレスト・カバレッジ・レシオ」の 5 つの指標を用いて、両社の安全性を分析して
いく。
流動比率
当座比率
300.0%
100.0%
250.0%
80.0%
200.0%
60.0%
150.0%
40.0%
100.0%
20.0%
50.0%
0.0%
0.0%
2009
2010
2011
東宝
図表 14
流動比率の推移
2012
2013
2009
2010
松竹
2011
東宝
図表 15
2012
2013
松竹
当座比率の推移
まず、企業の短期的な支払い能力を表す流動性の代表的な比率である、流動比率(=流動資産/流動負
債×100)と当座比率(=当座資産/流動負債×100)の推移を、図表 14、図表 15 で確認していく。
流動比率の推移から見ていくが、この比率は、200%以上が好ましいとされている。東宝の流動比率
は、2012 年に 260%まで上がったが、200%を超えたのはこの年だけであった。松竹は、100%~150%
付近で推移しており、2011 年からは減少傾向にある。
続いて当座比率の推移を見ていく。この比率は、100%以上が好ましいとされているが、両社ともこ
の 5 年間で 100%を超えていない。2010 年に松竹が東宝を逆転し、94%まで比率を伸ばすが、その後
2012 年に今度は東宝が逆転し、2013 年にはほぼ同じ比率となっている。
以上より、東宝は、流動負債に対する当座資産の割合が比較的少ないということが考えられるが、2013
年時点においては、東宝のほうが松竹よりも短期的な支払い能力があると言える。
234
自己資本比率
固定長期適合率
80.0%
120.0%
70.0%
100.0%
60.0%
50.0%
80.0%
40.0%
60.0%
30.0%
40.0%
20.0%
20.0%
10.0%
0.0%
0.0%
2009
2010
2011
東宝
図表 16
2012
2013
2009
2010
松竹
2011
東宝
図表 17
自己資本比率の推移
2012
2013
松竹
固定長期適合率の推移
次に、企業の長期的な支払い能力や全体としての安全性を測定する指標である、自己資本比率(=自己
資本/総資本×100)と固定長期適合率(=固定資産/[自己資本+固定負債]×100)の推移を、図表 16、
図表 17 で確認していく。
自己資本比率は、高ければ高いほど良いとされていて、高ければそのぶん利子を払う負債が少ないと
いうことを意味している。図表 16 を見ると、両社ともほぼ横ばいで推移しており、常に東宝が松竹を
上回っていて、両社には約 40%の差がある。
続いて固定長期適合率の推移を見ていくが、この比率は 100%以下が好ましいとされている。東宝は、
常に 100%以下を推移しており、ほぼ横ばいである。一方の松竹は、2009 年に 100%を上回った後 2010
年にいったん下がるが、その後上昇傾向にあり、2013 年にはまた 100%を超えている。
以上より、長期的な支払い能力も、松竹より東宝のほうが高いと言える。
(倍)
インタレスト・カバレッジ・レシオ
250.0
3.0
200.0
2.5
2.0
150.0
1.5
東宝
1.0
(第二軸)
松竹
100.0
50.0
0.5
0.0
0.0
2009
図表 18
2010
2011
2012
2013
インタレスト・カバレッジ・レシオの推移
235
続いて、支払利息をカバーする利益をどれくらいあげているかを表す指標である、インタレスト・カ
バレッジ・レシオ(=[営業利益+受取利息+受取配当金]/支払利息)の推移を、図表 18 で確認してい
く。この指標は、高ければ高いほど良いとされている。
東宝は、100~200 倍の間を推移しており、2012 年から 2013 年にかけては約 2 倍の伸びが見られる。
これは、2013 年に東宝の営業利益と受取利息・配当金が増加しているためだと考えられる。一方の松
竹は、0~3 倍の間を推移しており、東宝との差は歴然である。これは、東宝に比べて、営業利益や受取
利息に対する支払利息が大きいためだと考えられる。東宝と松竹の支払利息は、毎年約 10 億円の差が
ある。これより、松竹よりも東宝のほうが、より支払利息をカバーする利益をあげていると言える。
EDIUNET
格付投資情報センター
東 宝
BBB
AA-
松 竹
BB
図表 19
機関による格付け
最後に、格付け機関による両社の評価を見ていく。EDIUNET では、東宝について、
「信用力は十分
だが、事業環境等により低下する可能性が高い」として、BBB の評価をつけている。松竹については、
「信用力はあるが、事業環境等により不十分となる可能性がある」ということに加え、「当期純利益の
増減が激しいので、経営状況が不安定な状況にある」として、BB の評価をつけている。両社とも信用
力はあるが、松竹よりも東宝のほうをより高く評価していることがわかる。格付投資情報センターでは、
東宝の方向性は「安定的」だとして、AA-の評価をつけている。
これまで安全性の視点から分析を行ってきたが、やはり安全性においても、松竹より東宝のほうが優
れていると言うことができる。
3. 効率性・生産性分析
続いて、効率性と生産性の分析をしていく。収益性分析のときに、図表 11 で総資本回転率を見たが、
これは資産全体の活用度を示す指標であった。そこで、ここからはその資産を「棚卸資産回転率」
、
「有
形固定資産回転率」
、
「売上債権回転率」
、
「投資その他の資産回転率」の 4 つの項目別に見て個々の資産
の活用度を知ることで、より詳細に分析していく。
棚卸資産回転率
(回)
1.4
50.0
1.2
1.0
40.0
0.8
30.0
0.6
20.0
0.4
10.0
0.2
0.0
0.0
2009
2010
2011
東宝
図表 20
有形固定資産回転率
(回)
60.0
棚卸資産回転率の推移
2012
2013
2009
松竹
2010
2011
東宝
図表 21
236
2012
松竹
有形固定資産回転率の推移
2013
まず、棚卸資産回転率(=売上高/棚卸資産)と有形固定資産回転率(=売上高/有形固定資産)の推移を、
それぞれ図表 20、図表 21 で確認していく。
棚卸資産回転率は、棚卸資産が効率的に活用されているかどうかを測定する指標で、在庫は少ないほ
うが良いので、この数値は高いほうが好ましい。図表 20 を見ると、東宝は右肩上がりで、2013 年には
約 40 回の回転率となっている。一方の松竹は、2009 年から 2011 年にかけて回転率を約 30 回増やした
が、2012 年には約 25 回の減少が見られる。これは、2012 年に松竹の売上高が大幅に減少し、在庫も
過剰気味であったことが原因として考えられる。
有形固定資産回転率も、数値は高いほうが好ましい。東宝は松竹を常に上回っており、その推移はほ
ぼ横ばいである。松竹の回転率は年々減少傾向にあるが、この原因としては、有形固定資産が増加して
いるわりに売上高が伸びていないということが考えられる。
売上債権回転率
(回)
投資その他の資産回転率
(回)
20.0
5.0
4.0
15.0
3.0
10.0
2.0
5.0
1.0
0.0
0.0
2009
2010
2011
東宝
図表 22
売上債権回転率の推移
2012
2013
2009
2010
松竹
2011
東宝
図表 23
2012
2013
松竹
投資その他の資産回転率の推移
次に、売上債権回転率(=売上高/[売掛金+受取手形])と投資その他の資産回転率(=売上高/投資
その他の資産)の推移を、それぞれ図表 22、図表 23 で確認していく。
売上債権回転率を見てみると、両社ともほぼ同程度の回転率で、その推移はほぼ横ばいであることが
わかる。ただ、松竹の回転率を見ると 2011 年に少しだけ上がっていて、これは、この年の売上高には
前年とあまり変化がなかったのに対して、売掛金と受取手形が前年よりも減少したためだと考えられる。
投資その他の資産回転率を見てみると、東宝は 2.5 回あたりをほぼ横ばいに推移していることがわか
る。一方の松竹は、2010 年から 2012 年にかけて約 2.5 回回転率が減少していて、2009 年時点では東
宝を大きく上回っていたが、2013 年には東宝を下回る結果となっている。
以上、効率性と生産性の視点から分析を行ってきたが、有形固定資産回転率以外の指標を見ると、両
社ともほぼ同じ回転率で推移しており、優劣はつけ難い。ただ、有形固定資産回転率だけは、東宝が常
に松竹を上回っていて、松竹は減少傾向にあり、これは図表 11 で見た総資本回転率の推移と似ている。
したがって、これが総資本回転率に大きく影響していると考えられる。
237
4. 成長性分析
続いて、成長性分析を行う。成長性分析では、「売上高」、「営業利益」、「自己資本」、「総資本」の値
を用いて分析する。なお、図表 24 及び 25 は、2009 年の値を 100%としている。
東宝の成長性
140.0%
120.0%
100.0%
売上高
80.0%
営業利益
60.0%
自己資本
40.0%
総資本
20.0%
0.0%
2009
図表 24
2010
2011
2012
2013
東宝の成長性
まず、東宝の成長性を見ていく。自己資本と総資本は 2009 年から若干の成長を見せているが、ほぼ
横ばいである。営業利益は上下が激しいが、2013 年には成長率が 120%を超えており、本業における経
営の効率性が良くなったと言うことができる。
松竹の成長性
250.0%
200.0%
売上高
150.0%
営業利益
100.0%
自己資本
総資本
50.0%
0.0%
2009
図表 25
2010
2011
2012
松竹の成長性
238
2013
次に、松竹の成長性を見ていく。こちらも、自己資本と総資本の成長性はほぼ横ばいである。営業利
益は変動が大きく、2010 年と 2011 年は 200%を超えていたが、2012 年に一気に 50%近くまで落ち込
んでしまった。これは、東日本大震災による興行収入の減少が影響していると考えられる。しかし、2013
年には持ち直しており、今後の成長が期待できる。
成長性分析においては、両社とも売上高、自己資本、総資本に大きな変動は見られなかったが、営業
利益には大きな変動が見られた。営業利益以外を見ると、両社とも同じような変動の仕方をしていて、
優劣はつけ難いが、2013 年時点で営業利益の成長率が 200%近くまで達している松竹のほうが、より成
長性が高いと言うことができる。
5. グループ経営分析
続いて、グループ経営分析に移る。グループ経営分析では、「連単倍率分析」と「セグメント分析」
によってグループ経営の評価を行っていく。
まず、2013 年有価証券報告書の【第 2 事業の状況】のなかの【3 対処すべき課題】から、両社の
グループ経営に対する姿勢を見ていく。
①東宝
東宝グループは、映画製作・配給事業において、引き続きクオリティの高い消費者ニーズに合った作
品を多数提供すべく、さらなる企画の強化と優れたパートナーとの連携を一段と深めて、タイムリーな
コンテンツの獲得に努める一方、適切なマーケティングとプロモーションにより、作品の興行価値を十
二分に引き出すよう努める。また、不動産事業において、
「東宝スタジオ」が、2010 年秋に改造計画が
完了した東洋一と称されるスタジオ機能により、今後も映画業界の発展に寄与していく。
②松竹
松竹グループは、コンプライアンス経営の強化に取り組み、社会情勢に対応しつつ、企業価値を高め、
幅広い世代のお客様に喜んでいただける映像・演劇コンテンツを創造していく。映像関連事業は、企画
の調達・選別力を強化するとともに、優れたパートナーとの継続的な企画開発等に注力するほか、「関
西ジャニーズ Jr.の京都太秦行進曲!」等、新たな才能の発掘を目的とした低予算のチャレンジ企画の
試みにも着手している。映画興行については、連結子会社の(株)松竹マルチプレックスシアターズにお
いて、より一層の収益力強化に向けて経費削減と効率的運営に努める。
239
5-1. 連単倍率分析
連単倍率分析では、
「売上高」
、
「営業利益」、
「総資本」、
「当期純利益」の 4 つの値に関する連単倍率(=
連結数値/単体数値)を用いて分析を行っていく。連単倍率とは、親会社単体に対してグループ全体は何
倍の規模であるかを表す指標である。これが 1 を超えれば超えるほど、親会社以外のグループ会社の貢
献が大きいことを示す。
東宝の連単倍率
(倍)
2.5
2.0
売上高
1.5
営業利益
1.0
総資本
当期純利益
0.5
0.0
2009
図表 26
2010
2011
2012
2013
東宝の連単倍率の推移
まず、図表 26 から東宝の連単倍率の推移を確認していく。当期純利益を除けば、すべて 1 倍以上を
推移していることがわかる。当期純利益も、2013 年には 1 倍を超えており、その推移はほぼ右肩上が
りであると言える。したがって、東宝は全体的にグループ会社の貢献が大きいということが考えられる。
松竹の連単倍率
(倍)
8.0
7.0
6.0
5.0
売上高
4.0
営業利益
3.0
総資本
2.0
当期純利益
1.0
0.0
2009
図表 27
2010
2011
2012
松竹の連単倍率の推移
240
2013
次に、図表 27 から松竹の連単倍率の推移を確認していく。松竹も、当期純利益の推移を除けば、他
はすべて 1 倍以上を推移していることがわかる。当期純利益も、2013 年時点では 1 倍を上回っている。
また、2013 年における営業利益は 8 倍近くまで伸びており、グループ会社の営業利益に対する貢献が
より大きいということがわかる。
5-2. セグメント分析
続いて、両社の 2013 年におけるセグメント別売上高と営業利益を見て、セグメント分析を行う。
東宝のセグメント別売上高
不動産事業
29%
そ
の
他
事
業
1%
東宝のセグメント別営業利益
そ
の
他
事
業
0%
不動産事業
38%
演劇事業
7%
映画事業
55%
映画事業
63%
演劇事業
7%
図表 28-1
図表 28-2
東宝のセグメント別売上高
東宝のセグメント別営業利益
まず、東宝のセグメント別売上高とセグメント別営業利益を見ていく。東宝は、映画事業を主力とし
ていて、営業利益の約半分を映画事業が占めている。しかし、売上高に対する営業利益の割合が少なく、
販管費をうまく抑えられていないということが考えられる。不動産事業では、東宝スタジオにおけるス
テージレンタル事業が高稼働するなどして、売上高に対する営業利益の割合が大きくなっている。また、
東宝は比較的、演劇事業にはあまり力を入れていないことが見て取れる。その他事業では、東宝共榮企
業(株)の「東宝調布スポーツパーク」
、(株)エンタープライズの「東宝ダンスホール」で積極的にサービ
スを提供したが、営業利益は約 1 億円の損失となってしまった。
松竹のセグメント別売上高
松竹のセグメント別営業利益
その他事業
10%
その他事業
5%
映像関連事業
26%
不動産事業
10%
映像関連事業
56%
演劇事業
5%
演劇事業
24%
図表 29-1
松竹のセグメント別売上高
不動産事業
64%
図表 29-2
241
松竹のセグメント別営業利益
次に、松竹のセグメント別売上高とセグメント別営業利益を見ていく。図表 29-1 の売上高から見て
いくと、松竹は映像関連事業を主力としていることがわかる。演劇事業の売上高に占める割合も比較的
大きく、逆に不動産事業の割合は小さい。これは、東宝と対照的であると言える。ここで図表 29-2 の
営業利益を見ると、不動産事業が 64%で、全体の半分以上の利益を不動産事業が出していることになる。
これは、東劇ビル、新宿松竹会館、新木場倉庫などの稼働が順調に推移し、安定収入に貢献したためだ
と考えられる。また、各ビルとも効率的経営や経費削減に努めたことも、営業利益の増大に繋がったと
言える。映像関連事業と演劇事業では、思うように利益が出ていないが、これはやはり映画で超ヒット
作に恵まれなかったことや、経費削減の努力はしたもののなかなか難しかった結果だと考えられる。そ
の他事業では、
「わが心の歌舞伎座展」などのイベントを開催し成果をあげたが、物販などの収益が伸
びなかったことが考えられる。
なお、両社の 2013 年有価証券報告書において、所在地別セグメント情報については、
「在外連結子会
社及び重要な在外支店がないため記載を省略する」としているので、所在地別セグメント分析は省略す
る。
6. 総合評価にかえて
分析の最後のまとめとして、株価収益率(PER)と株価純資産倍率(PBR)を用いて企業評価を行う。
株価収益率(PER)
(倍)
140.0
500.0
120.0
400.0
100.0
300.0
80.0
200.0
60.0
松竹
100.0
40.0
(第二軸)
0.0
20.0
0.0
-100.0
2009
図表 30
東宝
2010
2011
2012
2013
株価収益率(PER)の推移
まず、株価収益率(PER)(=株価/一株当たり当期純利益)の推移を見ていく。株価収益率(PER)は、
「会
社の利益と株価の関係」を表していて、株の割安性を測ることができる。一般に基準値は 14~20 倍と
されており、これよりも数値が高いほど株が「割高」、低いほど「割安」ということになる。東宝は、
2009 年を除き 20 倍前後で安定的に推移している。一方の松竹は変動が大きく、2009 年には PER が
485 倍となり、かなりの割高であったが、2012 年にはマイナス 30 倍で割安になった。近年はまた割高
傾向となっており、あまり安定していない。
242
株価純資産倍率(PBR)
(倍)
2.5
2.0
1.5
東宝
1.0
松竹
0.5
0.0
2009
図表 31
2010
2011
2012
2013
株価純資産倍率(PBR)の推移
続いて、株価純資産倍率(PBR)(=株価/一株当たり純資産)の推移を見ていく。株価純資産倍率(PBR)
は、資産面から株価の状態を判断する指標であり、PER とともに重要視される指標のひとつである。一
般に PBR が 1 倍であるとき、株価が解散価値と等しいとされ、この数値が 1 倍を下回るのであれば、
継続的に事業を行うよりも、操業を停止して解散した方が株主の利益になる可能性がある。両社とも 1
倍以上を推移しており、東宝は比較的安定している。松竹も、多少の変動はあるが、2013 年には PBR
が 2 倍になっており、市場から評価されていることがわかる。
東宝の主な株主は、阪急阪神ホールディングス、エイチツーオーリテイリング、TBS テレビで、松竹
の主な株主は、歌舞伎座、みずほコーポレート、三菱東京 UFJ 銀行である。
最後に、これまでの分析をまとめていく。収益性に関しては、どの指標を見ても東宝が常に松竹を上
回っており、東宝のほうがより優れていることがわかった。特に東宝の ROE は右肩上がりに推移して
おり、今後の収益性の伸びが期待できる。安全性に関しては、短期的な支払い能力を見ると、両社の差
はあまりなかったが、長期的な支払い能力は東宝のほうが高いと言えた。インタレスト・カバレッジ・
レシオを見ても、両社の差は歴然としていて、東宝のほうがより支払利息をカバーする利益をあげてい
た。これより、格付け機関による評価にも表れているが、安全性は東宝のほうが優れているということ
がわかった。効率性・生産性に関しては、両社の差はあまりなかったので、優劣をつけ難い。しかし、
有形固定資産回転率の推移だけを見れば、常に東宝が松竹を上回っており、これは総資本回転率にも影
響していると考えられた。成長性に関しても、両社の差はあまりなかったので、優劣をつけ難い。しか
し、2013 年における営業利益の成長率のみを見ると、松竹の成長率が 200%近くまで達しており、松竹
の今後の成長が期待できた。グループ経営分析に関しては、両社ともグループ会社の貢献が大きいこと
がわかった。また、セグメント別営業利益を見たときに、松竹における映像関連事業と演劇事業の割合
が少なかったので、松竹はさらに効率的な運営と経費削減に努力し、今まで以上にグループ会社との協
力関係を築いていく必要があるということがわかった。これらの分析を総合し、全体的に東宝のほうが
より優れているということがわかった。
243
東宝は、映画事業において、映写室無人化・新規自動券売機設置を完了し、運営の効率化を促進して
いる。また、お客様へのサービス強化として、スマートフォン決済対応及びカード型前売り券“ムビチ
ケ”の販売を促進することで、利便性向上に努めている。このように、東宝は、お客様のニーズに応え
る数々のサービスを投入することで、競合の激化する経営環境において映画興行事業の強化を進めてい
くとしている。
松竹は、映画興行において、お客様に選ばれるシネマコンプレックスを目指して、今後ともサービス
の拡充に努めるとしている。歌舞伎については、市川團十郎、中村勘三郎の相次ぐ逝去に伴い、興行・
製作両面における影響があるが、今後の世代交代も考慮しつつ、新たな話題公演の企画・製作を行って
いくとしている。また、その他事業において、2011 年にオープンした東京駅八重洲地下街・歌舞伎関
連商品販売店舗「松竹歌舞伎屋本舗」は、歌舞伎座新開場に伴い新商品を開発し、多店舗展開も視野に
入れた業務の拡大を図っていくとしている。
日本経済の先行きが不透明な状況は依然として続いており、映画業界においても厳しい状況が続いて
いる。そのような中で、いかにお客様のニーズに応えたサービスを提供できるか、また、いかに経費を
削減しながら効率的な運営ができるかが問われている。これからも、両社の今後における展開と、映画
業界の動向に注目していきたい。
【参考文献】
・伊藤邦雄『ゼミナール現代会計入門(第 9 版)
』日本経済新聞社 2009 年
・
『日経業界地図 2013 年版』日本経済新聞出版社 2012 年
・東宝株式会社ホームページ http://toho.co.jp/
・松竹株式会社ホームページ http://www.shochiku.co.jp/
・業界動向サーチ http://gyokai-search.com/
・Yahoo!ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp/
・EDIUNET http://ediunet.jp/
・モーニングスター http://www.morningstar.co.jp/
244