第 16 章 UNESCO の HIV/AIDS 予防教育の取り組み

第 16 章
UNESCO の HIV/AIDS 予防教育の取り組み
-国際的なパートナーシップを中心に
福岡
万紗代
主要課題文献:
UNESCO. 2004. UNESCO’s Strategy for HIV/AIDS Prevention Education. IIEP.
1. はじめに
1970 年代から 80 年代にその姿を表して以来、HIV/AIDS は 20 世紀最大の疫病となった。
HIV ウイルスを体内から完全に駆逐する方法はいまだ発見されず、21 世紀になってもこの
疫病の感染と人的被害はさらなる拡大が見込まれている。実際、2003 年時点での HIV の
感染者は約 3,800 万人と見積もられており(UNAIDS、2004)、この数字一つを見てもその
人的犠牲がいかに甚大なものであるかが分かる。国際社会が長期的展望の下、南北間格差
の是正という大きな課題に取り組んでいる一方で、HIV/AIDS は不幸にもそうした努力を
無にしているかのようである。しかも、HIV/AIDS は世界規模でその猛威を振るっている
とはいえ、皮肉にも現実にはその被害の多くは開発途上国に集中しており、南北間の格差
が縮小されるどころか拡大さえしている現状の一因となっていると言える。
HIV/AIDS の感染が拡大している開発途上国においては、多くの人々が健康や命を奪わ
れ、あるいは一家の大黒柱を奪われ、貧困や不平等がさらに拡大して人権が脅かされてい
ると同時に、途上国政府が取り組む開発問題を様々な面で阻害して、多大な社会的影響を
も与えている。例えば国家財政の観点から言えば、HIV 感染者に対する治療、看護、介護
に要する費用は、莫大な負担として途上国政府にのしかかり、結果として教育や保健分野
など持続的発展のための予算を圧迫している。経済的側面では、この疫病はその性質上、
最も生産性の高い若い年代にある人口を狙うため、国の生産性を低下させ、また開発や
HIV/AIDS 対策に重要な機関の従事者を襲い、途上国の発展を直接的に阻害している。途
上国の発展を促進する最も重要な要素としての教育機関もその例外ではない。
こうした現状に対し、近年になって国連機関、その他の関連機関、先進国や途上国政府、
そして NGO などにより、より強い協調姿勢が築き上げられ、多くの分野において様々な
努力がなされるようになった。HIV/AIDS の引き起こす問題は多岐に渡るため、広範囲に
わたる領域の統合的な取り組みが必要とされるのだが、教育はその中でも重要な分野の一
つである。加えて、前述したとおり HIV/AIDS はまた教育という一つの開発課題に対して
影響を与えているという事実を考慮すれば、HIV/AIDS と教育の関係は相互に絡み合った
非常に重大な問題であると言わざるを得ない。
本稿の目的は、かかる現状を踏まえて、国連における教育の専門機関である UNESCO(国
連教育科学文化機関)が、HIV/AIDS の国際的な取り組みの中でどのような戦略を持って
その役割を果たしているかの考察と検討であり、具体的には UNESCO が 2004 年に出版し
1
た「UNESCO の HIV/AIDS 予防教育における戦略」
(UNESCO’S STRATEGY FOR HIV/AIDS
PREVENTION EDUCATION)を主な分析資料として UNESCO の HIV/AIDS 予防教育活動
の検証を目的とする。構成は、HIV/AIDS の現状、HIV/AIDS 対する国際的取組みの概観、
教育と HIV/AIDS の関係性の説明、国際的な枠組みとその中における UNESCO の教育機関
としての役割とその戦略と順を追って考察していくものとする。
2.
HIV/AIDS 問題の概要
(1)HIV/AIDS の現状
HIV/AIDS は開発を阻害する問題であるとともに甚大な社会的影響をもたらす社会危機
である。サハラ以南アフリカでは平均寿命を 15 年引き下げ、そして 1,400 万人以上もの孤
児を創出してきた。HIV/AIDS というこれまでに類を見ない病気は、ほとんど世界のあら
ゆるところに拡がり、初期段階のいわゆるハイリスク集団を超え、一般のより脆弱な人々
にも影響を及ぼしている。(UNESCO、2004)
2003 年時点で HIV の感染者は約 3,800 万人と見積もられている。その内訳は 3,600 万人
が大人であり、そのうち 1,700 万人が女性、残りの約 200 万人が 14 歳以下の子供であると
されている。また 2003 年には 290 万人が死に至り、新たに感染した数は約 480 万人とされ
ている。
(UNESCO、2004)このように世界的に脅威となっている HIV/AIDS であるが、特
筆すべきはその感染者の地域的偏り、ジェンダーの観点からの地域格差、そして年代間の
格差である。感染者の地域的偏りから見ると、その約 7 割はサハラ以南アフリカに住む人々
であり、(UNAIDS、2004)ジェンダーの視点からは、2003 年 12 月の時点で、世界の感染
者の約 50 パーセントは女性であり、サハラ以南アフリカではその割合は 57 パーセントを
占める(UNAIDS、2004)。さらに年代間の偏りを見ると、大人の感染者の中でも 15 歳か
ら 24 歳の若者が新たな感染者の半数を占めており(UNAIDS、2004)、これがこの問題の
深刻さを増している。
HIV/AIDS は私達人類やその社会に脅威をもたらしているこれまでにない疫病である。
この20年ほどの間にその被害は急速に広がり、今後もそのさらなる拡大が予想されてい
る。この疫病は他の疫病と異なり、主に働き盛りの年齢層に襲いかかり、ことに女性に対
する被害は著しい。加えて、現存する貧富の差をさらに増大させるものである。一方で熟
練の訓練を受けた技術者や知識層にも打撃を与え、開発の中心を担う人口にまでその被害
は浸透し、途上国の開発自体もまた脅かされつつある。
HIV/AIDS による犠牲は子供達もまたその例外ではない。ある国ではこの数年の間に1
5歳の子供の3分の1以上が AIDS に関連する病気で死ぬと見積もられ、また何百万人の
子供が片方か或いは両方の親を AIDS によって失った孤児となっている。教育現場では
AIDS によって子供たちは教師を失い、また教育を支える親を失い、ある地域では学校そ
のものさえ機能しなくなっている。先進国がますます知識社会に向かうなか、こうした教
育の質の劣化は南北の格差をさらに拡大している。(UNESCO、2004)
(2)HIV/AIDS の(経済的・社会的)影響
2
世界銀行(世界銀行、1999)によれば、HIV/AIDS と開発は途上国の貧困と不平等と同
様に悪循環の関係にあるという。経済成長に付随する労働力の移動や都市化と近代化は
HIV 感染率を増大させ、結果的に個人またはその家族の感染や死が貧困と社会不平等を悪
化させるのである。現在すでにこうした経済的・社会的影響は無視できないほどの問題を
引き起こしてきている。
HIV/AIDS は開発を妨げるのみならず、実際には生産能力を破壊し、南北格差を助長す
ることによって、開発を逆行させる可能性もある。生産性の高い人口を襲うことにより国
の生産性向上を阻み、また AIDS の治療や孤児に対する経済負担が教育や保健といった他
の社会開発分野に対する予算を削減させるからである。また HIV/AIDS は、国際社会が近
年取り組んでいる様々なイニシアティブ-人権擁護、EFA(万人の為の教育)、貧困削減、
公平の促進、健康促進、技術へのアクセスなど-を阻み、これらのイニシアティブの欠落
がさらなる HIV/AIDS の悪化を招くという悪循環を引き起こしている。(UNESCO、2004)
HIV/AIDS の被害は個人レベルに止まるものではなく、様々な組織や施設をも機能不全
に陥れている。そしてそのような被害を受けている組織、施設には、開発を担う組織だけ
でなく、HIV/AIDS の拡大を防ぐための拠点も含まれているのである。教育の場では教師
の病気や死が教育の質に影響を及ぼし、ヘルスワーカーや他の訓練を受けた職員の欠員を
埋めるのも簡単ではなく、その影響は多大である。さらに政府でさえもその例外とはなり
得ない。(UNESCO、2004)
(3)国際的動向
HIV/AIDS は 1970 年代末から 1980 年代初旬に人間社会に出現したと考えられているが、
1981 年の最初の診断が報告されて以来いまだなおその治療法は見つかっていない。ことに
HIV/AIDS 発見の当時は、エイズウイルスがどこからやって来るのか、HIV 感染には長期
にわたる未発症期間が存在すること、どのように感染するかなど基本的な情報が無く、1980
年代後半まで世界的な規模での明確な対策は施されることはなかった。そのような中で最
初にその問題に取り組んだのは幾つかの NGO である。当時の NGO の主な活動は、感染し
た個人やコミュニティに対する治療と予防サービスであった。しかし猛威を振るう
HIV/AIDS という未知の病気に対する各国の抵抗感が強く、そのような活動は非常に限ら
れたものであった。
こうした状況に終止符を打ち、世界的な HIV/AIDS 予防やその流行緩和への努力がなさ
れるようになったきっかけが国連機関である世界保健機関(WHO)の動きであった。1987
年に同国連機関の一部門として、疫病の流行を防ぐ措置を国家開発戦略の中に含めること
を目的として世界エイズ対策計画(GPA)が設立されたが、これが今日の国際的 HIV 対策
の発端となったといえるだろう。同年国連総会はまた国際機関と関連組織が独自の対
HIV/AIDS 活動を始めるよう促す決議を行なった。それにより国連開発計画(UNDP)を中
心として国連児童基金(UNICEF)、国連人口基金(UNFPA)、そして UNESCO がそれぞれ
予算を設け、病気根絶のために分担を決めた合同 HIV/AIDS 戦略案を作成した。さらに同
年 EC(現 EU)も特別な対策に取り組み始めた。(世界銀行、1999)
このような国際的動向を背景に 1980 年代後半にはほとんどの国の政府がそれぞれの対
策を講じ始めたのであるが、その一方で、HIV/AIDS の問題が急速に広がる中それに対す
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る主導的な役割を担ってきた WHO の一部門でしかない GPA は 1990 年の初めにはその限
界を迎え、新たな国際的枠組みが必要とされ始めた。1996 年に正式に活動を開始したエイ
ズ対策合同国連プログラム(UNAIDS)はこのようにして発足したものである。UNAIDS
は当初、ジュネーブを本部として、WHO、UNDP、UNICEF、UNFPA、UNESCO、そして
世界銀行の6つの国際機関をそのスポンサーとしそれぞれが密接に協力し合う集約的プロ
グラムであり、22 カ国の参加国と 5 つの NGO によるプログラム調整委員会(PCB)によ
って管轄されていた。その PCB によって UNAIDS は以下の 4 つの役割を果たすものとさ
れた;
① かつての GPA の活動の範囲を超えた政策開発と調査を行う。
② GPA と同様に国連の HIV/AIDS プログラムに対する技術支援で国際機関をリードする。
③ HIV/AIDS 予防、拡大防止を主張するため GPA よりさらに進んで公的支援を実行。
④ 共同スポンサーと他の国連機関との協力調節を図る。
以上のように、より効果的かつ効率的に HIV/AIDS 対策を講じることを意図して、かつ
ての GPA の範疇を超えた国際的な対応が見られるようになったのはここ十年のことであ
る。(世界銀行、1999)
(4)HIV/AIDS に対する国際的枠組み
UNAIDS の先導のもと、そのパートナーである国連組織はそれぞれの専門性を最大限に
発揮し、問題に取り組んでいくための位置づけのもとに活動している。必要とされる活動
分野は多岐に渡り、それぞれの項目において中心となって活動を期待される分担が以下の
ようになされている。例えば、HIV/AIDS が原因で孤児となった子供達に関しては UNICEF、
実態調査やケアの確保や血液に関しての安全は WHO、モニタリングと評価は世界銀行と
UNAIDS、 教 育 は UNESCO が 責 任 を 持 つ と い う よ う な 責 任 分 担 が 明 示 さ れ て い る 。
(UNESCO、2004)
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表1
特定の分野
組織
コンドーム
UNFPA
安全な血液
WHO
教育
UNESCO
モニタリングと評価
世界銀行/UNAIDS Secretariat
社会・経済開発
UNDP
孤児
UNICEF
ケアへのアクセス
WHO
注射による麻薬常習者(IDU)
UNDPC
実態調査
WHO
国家単位
UNDP
参加組織の能力開発
UNAIDS Secretariat
(訓練、情報システム)
参加組織間の協力体制
UNAIDS Secretariat
出所)UNESCO の UNESCO’s Contribution to the United Nations System Strategic Plan for
HIV/AIDS for 2001-2005 より筆者邦訳の上要約
(5)HIV/AIDS の感染経路
HIV/AIDS の拡大を防ぐためには HIV ウイルスがどのように媒介するかを理解する必要
がある。HIV/AIDS に関しては未だ多くのことが分かっていないのが現状ではあるが、完
全な治療法が見つかっていない一方で、すでに感染経路については科学的に解明されてい
る。主な感染経路は以下の 5 つである(世界銀行、1999、p.20)。
①性接触
②麻薬常習者による未消毒注射器の再利用
③出産/授乳による母子感染
④医療現場における注射針の再利用
⑤HIV に感染した血液や血液製剤の輸血
これらのうち性接触による感染率は全体の約 4 分の 3 にのぼり、そのうちの約 4 分の 3
は異性間によるもので、残りの 4 分の 1 は同性間による性行為によるものである。感染割
合が性接触に続いて高いのが麻薬常習者による未消毒注射の再利用となっている。残りの
3 つの感染経路については母子感染が 5~10 パーセント、医療現場での注射針の再利用は 5
パーセント、そして最後の輸血に関してはごくわずかな割合となっている。また性接触に
よる感染リスクに関しては、HIV 陽性の男性が女性に感染させる割合が 1000 回のうち 1
~2 回であるのに対し、HIV 陽性の女性が男性に感染させる可能性はその 3 分の 1~2 分の
1 とされる。(世界銀行、1999、p.20~21, 56)
このように、性接触による感染が主要な感性経路であることは、いかに予防措置のない
リスクの高い性行動が多くとられているかを物語っている。さらに女性は生物学的にも男
性に比べて HIV/AIDS に対する脆弱性が高いということが分かる。
5
他に、感染直後が最も他人に感染させやすいということと、未治療の性感染症(STD)
は HIV の感染リスクを高める(世界銀行、1999)ということが HIV 感染について知られ
ていることである。特に性感染症の未治療に関しての問題は、先進国と途上国における感
染率の格差を部分的に説明するものである。多くの開発途上国では性感染病の治療がほと
んど行き渡っていないのが現状であるからである。
3.
教育と HIV/AIDS の関係
教育の量的、質的向上は途上国の発展に不可欠の要素であることは多言を待たない。ま
た後述するように HIV/AIDS 問題の改善に果たす教育の役割も非常に重要である。ところ
が HIV/AIDS の発生率の高い途上国にあっては、この疫病が教育の向上に対する阻害要因
となって事態をさらに困難なものにするという悪循環に陥ることが多い。
(1)教育に及ぼす HIV/AIDS の影響
教育を阻害する要因としての HIV/AIDS は、まず教育の供給者側に大きな影響を及ぼす。
HIV/AIDS が感染者、あるいは発症者の行動を制約することは言うまでもないが、それに
とどまらず重症者の看護や死者の弔いの必要など、その身近な人々の行動をもまた制約す
る。教育を供給する側の人々、つまり教育行政の担当者や現場の教師も例外ではない。こ
とに教育現場に立つ教師が自らの発症や身内の看護などによって職務の遂行が困難になっ
たような場合、直接指導を受けている児童生徒のみならず、他の教員の指導下にある児童
生徒の上にもその影響が及ぶ。同等の教員の補充が速やかになされない限り、欠員が生じ
れば現存する教員が分担して穴埋めをするしかなく、学校全体としての教育の量的、質的
低下は避けらず、場合によっては学校の機能が完全に失われてしまうこともあり得る。
また HIV/AIDS は教育を受ける側である児童生徒の教育機会も奪う。教師の場合と同様
に、本人が感染し、あるいは発症した場合に教育機会を奪われるだけではない。HIV/AIDS
に親を奪われて経済的に通学が困難になったり、家族が感染、発症しその看護が児童生徒
の負担になったり、あるいはまた児童生徒自らが生計を助けるために仕事をせざるを得な
い状況に陥ったりして、教育の機会を奪われてしまう児童生徒もまた多く存在するのであ
る。
さらに、HIV/IADS の蔓延は教育財政を圧迫する要因ともなる。教員の死があれば補充
の教員を教育、訓練せねばならず、感染や発症し学校を欠勤する教員があればその教員自
身の給与に加えて、補充要員の給料を支払わなければならない。もともと不十分であった
教育のための資金は、このような『消極的用途』で消費され、学校教育の質的、量的向上
を妨げてしまうのである。(World Bank、2002)
(2)HIV/AIDS に対する教育の効果
HIV/AIDS が世に出現した当初は学歴の高さと感染率の高さが比例するという現象が見
られたが、この原因として考えられるのは、高学歴者のより高い社会経済的地位とより頻
繁な移動がより多数のパートナーとの性交渉を可能にしたことにあると考えられる(World
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Bank, 2002)。しかし、HIV/AIDS の感染を防ぐ方法が良く知られるようになるにつれて、
ことに若い人々の間でこの傾向は逆転した。教育を受けている人々は正しい情報をもとに
より安全な行動をとるようになるからである。
HIV/AIDS の感染の予防のためには、一方に於いては個人レベルでのリスクの軽減が、
もう一方に於いてはリスクに脆弱な社会的、環境的要因の改善が、ともに行動によってな
されなければならない。そのためには、教育による知識や考え方の指導を通して、個人の
レベルに於いても、また社会的、経済的、文化的、政治的環境というより広い範囲に於い
ても、行動様式の転換が目的とされる必要がある。同時に、教育への参加自体が HIV/AIDS
の防御手段ともなりうる。学校教育を受けている生徒は一般的に性行動の開始が遅くなり、
防御手段を講じ、交際相手はより少なくなる傾向にあるからである。このような点からも
教育は HIV/AIDS 感染予防の有力な手段となりうるのである。
4.
教育面からの対策と UNESCO の役割
(1)予防教育の重要性
HIV/AID に対する脆弱性には様々な要因が考えられる。初期段階において、HIV/AIDS
に世界の注目が向き対応がなされるのに時間がかかったのは、この疫病が主に経済的にも
社会的にも阻害された人口の間で流行していたことも原因の一つである。現在でも、すで
に不健康であったり、性感染症にかかっていたりする人々はより HIV/AIDS に対して脆弱
であるし、女性や女児に対する暴力は脆弱性を増大させる。また慢性的な貧困や絶望はハ
イリスク行為を防ごうとする動機を軽減させてしまう。しかし脆弱性の要因として最も重
大なものは無知であろう。これは予防活動を困難にするばかりでなく、感染者や発症者に
対する偏見や差別に繋がりその生活をより困難なものにする。HIV/AIDS 予防における教
育の重要性は無知がもたらす脆弱性において存在するのである。
HIV/AIDS に関しての無知は、第一にリスクの認識や予防知識の無いまま無防備な性行
動へ導き感染の拡大を助長する。実際多くの感染者は教育を十分に受けておらず、一方で
非識字者が約 10 億とされるなか、そのような非識字者は必要な情報へのアクセスが限られ、
感染リスクに対する高い脆弱性を抱えたまま暮らしている。また、多くのコミュニティで
は無知による HIV/AIDS に関する様々な誤解や逸話が存在する。それが時には女性や女児
を被害者にしたり、科学的根拠に基づいた予防活動を困難にしたりしている。
無知は第二に感染者に対するケア不足、偏見、差別を導く。無知による誤解や迷信が適
切な感染者に対する治療の機会や可能性を奪うと同時に、彼らを社会生活から疎外し生活
をより困難なものとしてしまう。またそのような偏見や差別を恐れるため、人々はテスト
を受けることを避け、感染者も非感染者も病気の存在を認識できない。これが感染の潜在
的可能性の低減を妨げ、結果として感染の拡大を助長してしまう。
このように無知は疫病の拡大の主要な原因の一つである。予防教育は人々がリスクの状
態にあることやその理由、そしてどのように HIV/AIDS の拡大が抑えられるかを伝えるも
のである。むろん知識だけで行動が変わるものではないが、予防教育は知識を超えてリス
クから身を守るための精神性や態度や技術を伝えることを意図しており、現在までのとこ
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ろ最善のワクチンなのである。実際この疫病が比較的抑えられているところでは、教育が
その土台となっているようであり、学校教育かノンフォーマル教育-公的情報、マスメデ
ィア、そしてコミュニティ組織など-かを問わず予防努力に貢献している。正しい情報や
知識は個人の脆弱性に対して保護的な役割を果たすだけでなく、リスクを理解し避ける手
段を与えうる。
(2)UNESCO の戦略分析…「UNESCO の HIV/AIDS 予防教育における戦略」
(UNESCO’S
STRATEGY FOR HIV/AIDS PREVENTION EDUCATION)
①
UNESCO の HIV/AIDS 予防教育の定義
UNESCO によれば、予防教育とは HIV/AIDS の感染とその影響を抑えるための知識、
生活技術、能力、価値観を学ぶ機会を全ての人に提供し、またケアやカウンセリングを受
けることを通して治療のための教育を提供することである。
②
UNESCO の戦略の取り方
HIV/AIDS に関しての先進国と開発途上国の間の二つの大きな違いは治療へのアクセス
と感染率である。特に感染率では明確な格差が見られ、これが南北間格差をさらに拡大さ
せている。上述のとおり HIV/AIDS に対して医療などあらゆる分野での対策が必須であり、
ことに教育は感染率を抑える土台となっており、さらに多くかつ早急の努力がなされる必
要がある。
HIV/AIDS 対策の中での UNESCO の役割は基礎的な医学的知識の提供ではなく、こうし
た知識を提供するイニシアティブや努力を支援していくことである。よってその主な活動
は、予防教育を主唱し、HIV/AIDS に関する情報や知識を共有し、リスクを軽減する能力
を支え、ケアを改善するとともに組織に対する影響を軽減することである。教育は
HIV/AIDS 拡大の二つの特徴であるハイリスク行為と脆弱性を軽減する土台となるのであ
る。
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図1
HIV/AIDS と教育の悪循環
保健・教育
HIV 感染者
の予算削減
の増加
経済成長の
教員の減
低迷
少・質の低
下・孤児の
増加
国の競争力
非識字率の
の低下
増加・人的
資源の低減
出所)World Bank の EDUCATION AND HIV/AIDS- A WINDOW OF HOPE より筆者が邦訳
③ UNESCO の組織的な強み
HIV/AIDS 問題への取り組みは様々な領域の分野の統合的な取り組みであり、その中で
UNESCO は教育、科学、社会科学、文化、そしてコミュニケーションの分野を担当してい
る。教育分野は予防教育を、科学分野は HIV/AIDS に関する科学的情報収集を、社会・人
間科学分野は人権を初めとした社会に対する理解を、文化分野は文化の多様性についての
理解を、そしてコミュニケーション・情報分野は政府に対する情報・伝達能力の推進を促
進することをそれぞれの役割とし、これらの各分野が人的、物的資源を最大限に活用する
ことで、統合的な取り組みが可能となる。また UNESCO の管下にある国際教育計画研究所
(IIEP)は研究を行い、カリキュラムやプランニングを取り扱い、情報を伝達する役割を
持つ。こうした組織図のもとに、現地事務所では国や地域ごとに適したプログラムが実行
されている。
④
UNESCO の活動
HIV/AIDS の拡大防止とその教育への影響を軽減するために教育の果たしうる役割を戦
9
略の中心とし、UNESCO は以下に述べる 5 つの重点項目をその予防教育の柱としている。
ⅰ)提唱、知識の普及と能力の向上
ⅱ)メッセージをターゲットに対し分かりやすく伝えるとともにその伝達者を見つける
ⅲ)リスクと脆弱性を削減する
ⅳ)HIV 感染者と AIDS 患者に対し権利と適切なケアを確保する
ⅴ)組織への影響に対処する
ⅰ) 提唱、知識の普及と能力の向上
予防教育を実施するにあたって不可欠なことは政府のコミットメントであり、政府とと
もに唱道を行なうことを通してすべての人々に情報が提供されなければならない。またそ
の際、科学的根拠を有する情報を提供することが必要である。よって UNESCO は
・政府をはじめ省庁や NGO とともに提唱を行なう。
・予防教育の過程に関する知識や教育に対する HIV/AIDS の影響についての知識を増やす。
・政府やその他の従事者が上述の活動を行なうために必要な能力を発展させる。
ⅱ)メッセージをターゲットに対し分かりやすく伝えるとともにその伝達者を見つける
HIV 感染が何であり、いかに感染するかなどの情報はもちろんのこと HIV/AIDS に関す
る誤った言い伝えやどのような行為を避けるべきかなどの知識は感染率を下げる基礎的知
識である。この際、それぞれの文化や宗教や慣習に考慮した伝達方法を探すことが重要で
ある。さらに伝達するメッセージそのものと同様にそれを伝える伝達者が影響力を持つこ
とがこれまでに分かってきた。それは省庁や学校のみならず職場や宗教的リーダーであっ
たりする。したがって UNESCO は以下の事柄を他のパートナーとともに推進していく。
・保健教育などを推進するなかで、学校教育、ノンフォーマル教育を問わず予防教育を推
進する。
・教師や大学も含めあらゆるレベルであらゆるタイプの予防教育をすすめる。
・NGO を活用するなどしてノンフォーマル教育を推進するとともに、様々な方法を用いて
対応する。
・文化や特定の集団に適した情報伝達を行なう。
・HIV 感染者の積極的予防教育活動への参加を促す。
ⅲ)リスクと脆弱性を削減する
HIV/AIDS 予防活動は個人レベルでのハイリスク行動を防止するだけでなく、脆弱性に
導く個々人を取り囲むより広い環境的、社会的要因にも対処していかなければならない。
概して教育を受けている男女はハイリスク行為を避ける傾向にあり、よって EFA を推進
は予防活動にとっても非常に重要な要素である。現実にはほとんどの子供たちは感染者で
はないが、新たに感染者の半分は 10 歳から 25 歳のグループである。通常の教育システム
が性行動に活発になる前の段階で始まることや、学校で過ごす時間の長さを考えた際の学
校の影響力を考えると学校教育による便益は大きいものである。
しかしながら学校への通学や学校自体が女子生徒に対しては危険でありうる。一般的な
女性の低い社会的、経済的格差も女性の脆弱性を増す要因である。こうしたジェンダーの
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問題を考慮した質の高い教育が必要である。
さらに学校教育を受けられない子供や、退学率の高さを考えた際、ノンフォーマル教育
の必要性がでてくる。特に出稼ぎ労働者や兵士など就学年齢にないハイリスク集団を狙っ
た効果的なノンフォーマル教育が必要とされる。
・予防教育を万人の為の質の高い教育活動の一環として推進する。
・学校内外での安全な環境を整備する。
・ジェンダーに考慮した教育を行なう。
・学校のみならず、職場でも子供に対する権利を守るような政策を推進する。
・ノンフォーマル教育の拡充。
ⅳ)HIV 感染者と AIDS 患者に対し権利と適切なケアを確保する
世界人権宣言は健康に関する権利をも包括しているが、健康でいることや、健康でいる
ためのサービスを受けることは権利として認められているのにも関わらず、偏見や差別が
それを阻害し、その権利は多くの人々にとって保障されていないのが現実である。よって
HIV/AIDS 感染予防のためにも予防教育は、感染者を取り囲む人々の偏見や差別を取り除
くとともに、感染者のためのケアや治療についての知識を提供せねばならない。
・HIV/AIDS に対する偏見や差別をなくすためにすべての人にその病気についての知識を
提供する。
・感染者や発病者に対するカウンセリングやケアを拡充する。
・エイズ孤児や感染した児童や若者に教育の機会を保障する。
・教育や保健従事者の間におけるカウンセリングやケアの教育や訓練を支援する。
・HIV/AIDS と共に生きる人々についての情報を前向きに共有する。
・予防教育を治療やケアにつなげる。
ⅴ)組織への影響に対処する
HIV/AIDS はこれまでの悲惨な戦争による被害を上回るほどの影響をもたらしうる。そ
の治療費などにかかる費用はすでに教育や保健といった分野の予算を圧迫し始め、さらに
急速に拡大する感染は様々な経済的打撃を与えている。
予防活動の戦略はこの HIV/AIDS の影響下にある様々な組織や施設を擁護するよう向け
られなければならない。教育に対するその被害は、教員の喪失や、受益者である子供たち
の喪失という形で大きな問題となっており、今後教員の割り当てに関する新たな施策や、
感染した教員や子供たちに柔軟に対応できるような政策が望まれている。
・教育に対する HIV/AIDS の影響のモニタリングや評価システムの開発。
・学校や大学や省庁などの職員のための教材を開発し、また管理者には訓練も提供する。
・HIV/AIDS の教育システムや他の重要な社会機関に与える影響を調査する人材を育成す
る。
・HIV/AIDS に対する国家計画を EFA に統合させる。
(3)UNESCOの予防教育の分析と評価―Forss Kim & Kruse, Stein-EricによるUNESCO評価
1.
11
HIV/AIDS 問題への UNESCO の取り組みは 1980 年代中頃に始まり、1996 年以降は
UNAIDS のスポンサー組織の1つとして教育を中心とした役割を分担していることは上述
のとおりであるが、この UNESCO の活動に対する評価が、The Centre for Health and Social
Development (Forss Kim & Kruse, Stein-Eric、2004)によって 2003 年 9 月に開始され、その報
告が 2004 年 4 月に UNESCO に提出された。調査方法は各地の UNESCO 職員に対する面接、
諸文書の調査と活動状態の実地検分によるものである(Forss Kim & Kruse, Stein-Eric、2004)。
主な調査項目は HIV/AIDS 問題に対しての UNSCO の政策、戦略、政策の実施状況、人的
資源の状況、世界レベル、国レベル、地方レベルでのパートナーシップのあり方などがあ
り、様々な視点からの検証がなされている。
その最終章において Forss Kim & Kruse, Stein-Eric は評価結果をもとに 12 項目の提言をし
ている。主なものとしては;
・HIV/AIDS 問題に投入する資源を増やすこと
・組織内における知識経験の豊かな専門家集団の確保
・組織内のあらゆるレベルにおける HIV/AIDS 関連への対応力強化
・戦略決定や組織内の優先項目の序列における HIV/AIDS の明確な位置づけ
・HIV/AIDS 関連のいかなる業務においてもジェンダーの視点を含ませること
・政策決定からプログラム計画へのシフト
・組織管理の考え方、手続きの見直し
この提言から分かることは、HIV/AIDS 問題の重大性かつ緊急性と UNESCO の担う役割
の重要性が、UNESCO の組織全体に対して、体制の強化を図った上で持てる限りの資源を
投入して対応することを迫っているのだということである。
(4)HIV/AIDS 予防教育と EFA
教育と HIV/AIDS の相互関係と同様、HIV/AIDS 予防教育は EFA 達成に貢献すると共に、
EFA の目標の一つとなっている。EFA を達成するためには、教育の量的拡大、質的向上が
必須であるが、これまで教育の供給側や需要側、そして教育の質について述べてきたよう
に、HIV/AIDS はそれらを阻害する要因である。また EFA 達成に向けての取り組みは、個
人の HIV 感染やハイリスク行為に対しての脆弱性を軽減することが言われており、EFA の
一目標であるジェンダー間の平等も含め、HIV/AIDS の拡大防止に繋がる活動となりうる。
さらに EFA は文字通り、万人の為の教育を意図するものであることから、HIV 感染者にも
基礎的な教育機会を保障することで、HIV/AIDS の影響を最低限にとどめることにも貢献
する。
HIV/AIDS 予防教育はしたがって、EFA 達成のための必要不可欠な要素であることが国
際的にも同意され、UNESCO はその役割の一つである途上国政府に対しての教育政策支援
において、HIV/AIDS 予防教育活動を各国の EFA 計画の中に織り込む努力を行なっている。
他の国際機関やドナー政府も EFA 達成に向けての予防活動をより一層効果的にするとい
う共通認識の下で、様々なパートナーシップが築かれてきた。
(5)HIV/AIDS予防教育とFRESH 2.
①FRESH における HIV/AIDS 予防教育
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FRESH(Focusing Resources on Effective School Health)は、2000 年のダカール国際教育会
議に先立って準備された“Thematic Study on School Health and Nutrition” 3. というEFA評価に
よって確認された教育と保健の相互補完性を踏まえ、UNESCO、UNICEF、WHO、The World
Bank、そしてEducation Internationalが中心となって取り組む包括的な学校保健推進のイニ
シアティブである。2000 年のダカール会議で正式にその活動が開始されて以来、この国連
システムのパートナーシップとしてのFRESHは、EFAの達成をその上位目標とし、以下の
4 項目からなる効果的学校保健の枠組みを示している。
ⅰ)健康を促進するような政策の策定
ⅱ)安全な水と衛生設備の供給
ⅲ)スキルを重視した健康教育の実行
ⅳ)学校での保健・栄養サービスの提供
HIV/AIDS 予防教育は主に上述のⅰ)とⅲ)の項目でそれぞれの重要課題として位置づ
けられている。前者においては家族計画や性教育を促進することや、HIV/AIDS に対する
偏見や差別を軽減する政策が盛り込まれている。後者においては、知識のみならず行動変
容を目指すライフスキル教育の必要性が説かれている。このように EFA の達成を目指す行
動規範の一つである FRESH は HIV/AIDS を教育に対する阻害要因と認識し、効果的な
HIV/AIDS 予防教育をそのなかに内包するものである。
②HIV/AIDS 予防教育における FRESH の有用性
開発途上国政府の中には、HIV/AIDS 対策という直接的なアプローチに難色を示すこと
が少なくない(世界銀行、1999)。それはそれぞれの国や地域の文化、宗教、習慣などと密
接に関わる問題だからである。また観光や外国企業の進出の停滞を恐れて、HIV/AIDS の
状況に目を向けない国さえも存在する。このような時、FRESH という包括的、効果的学校
保健の行動規範は HIV/AIDS という直接的な対応を嫌うドナーに対し、柔軟に受けいれら
れる可能性があるといえる。この意味において、FRESH の枠組みを用いることは HIV/AIDS
と棒教育活動を推進する際の有効な手段の一つである。
5.
終わりに
冒頭にも述べたとおり、HIV/AIDS の感染の拡がりとその社会に対する影響の拡大は
一刻も早い解決が望まれることは周知の事実である。しかし政治的、経済的、文化的要因
など様々な障害がその解決の前に立ちはだかっている。このような複雑で困難な問題は、
一つの国が単独で解決できるものではないし、国連組織といえども単独では何もなしえな
いことは上述の通りである。だが一方で、この疫病が世界に知られるようになってからす
でに 20 年以上が経過し、今では予防方法が解明されている以上、防ぎうる感染を防がない
のはある意味で関係者の怠慢であるともいえよう。それゆえ UNAIDS に代表されるように
関係諸機関が一丸となり協力体制を築いたことは時代の当然の要請である。
グローバリゼーションが世界を覆いつつある今日、富の偏在による南北間の貧富の格差
の拡大、大規模な環境破壊による地球規模での環境の悪化などの問題は、世界が協調する
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ことなく解決できない。そしてこの HIV/AIDS の問題も、一方では生殖という人間の最も
基本的な活動に関わり、しかも他方では国家の財政の屋台骨さえ揺るがしかねない問題で
あり、単なる個人の疫病としてではなく、戦争にも匹敵するほど重大な国際的問題として
の認識が確立して来ている。したがって文化、教育を担う国際機関である UNESCO もまた
Forss Kim & Kruse, Stein-Eric の提言が示しているように、防ぎうるものはなんとしても必
ず防ぐという一層強いコミットメントを持ちつつ、組織の特性を十分に発揮してこの問題
に立ち向かうことが要求されているのである。
<注記>
1.
詳細はForss Kim & Kruse, Stein-Eric, HeSo (Center for Health and Social Development),
“An Evaluation of UNESCO’s Response to HIV/AIDS.”を参考に
2.
UNESCO. 2004.
UNESCO, UNICEF, WHO, World Bank and Education International Inter-agency flagship
programme in EFA. 2002. “FRESH- a comprehensive school health approach to prevent
HIV/AIDS and improve learning outcomes.”より
3.
UNESCO. 2000. “Thematic Study on School Health and Nutrition.” UNESCO.より
<参考文献>
世界銀行、喜多悦子/西川潤(訳)、1999 年、「経済開発とエイズ」。
Forss Kim & Kruse, Stein-Eric, HeSo (Center for Health and Social Development), UNESCO.
2004. “An Evaluation of UNESCO’s Response to HIV/AIDS.”
UNAIDS. 2003. “The Role of Education.” Geneva: UNAIDS.
UNAIDS. 2004. “2004 report on the global HIV/AIDS epidemic: 4th global report.” Geneva: UNAIDS.
UNESCO. 2000. “Thematic Study on School Health and Nutrition.” UNESCO.
UNESCO. 2001. “UNESCO’s Contribution to the United Nations System Strategic Plan for HIV/AIDS for
2001-2005.” UNESCO. Executive Board.
UNESCO. 2003. Background paper “EFA Flagships: multi-partner support mechanisms to implement the Dakar
Framework for Action”. UNESCO.
UNESCO. 2004. UNESCO’s Strategy for HIV/AIDS Prevention Education. IIEP.
UNESCO, UNICEF, WHO, World Bank and Education International Inter-agency flagship programme in EFA.
2002. “FRESH- a comprehensive school health approach to prevent HIV/AIDS and improve learning
outcomes.”
World Bank. 2002. “Education and HIV/AIDS-A Window of Hope.” The World Bank.
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