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Working the Rail
知的労働者のための理想の通勤列車――アムトラックのアセラ・エクスプレス
by Catherine Fredman
■時速220kmで疾走するオフィス
私の仕事場は、いま時速220kmのスピードで疾走していますが、そんな
ことを感じさせないほど驚くほど静かです。大きな窓からは、ニューイン
グランドの海岸線のパノラマが見え、車内にはあふれんばかりの日の光が
降り注いでいます。車内はほとんど満席ですが、私がいるのは携帯電話使
用禁止の車両なので、あたりの雰囲気は、まるで古風な書斎のように穏や
かで、しんとした静けさに包まれています。
アセラ・エクスプレス(Acela Express)は、フランスのTVG、日本の新幹
線、ドイツの超高速ICEに対する北米の遅まきながらの回答です。ビジネ
ス客は、長い間、ニューヨークとフィラデルフィアを結ぶ北東回廊線に超
特急列車を待ち望んでいました。これまでもアムトラックには時速約
200kmのメトロライナーがありました。ニューヨークとワシントンDC間
を3時間で走り、これは、空港で乗り降りのわずらわしさを考えれば、十
分納得できる時間でしたが、メトロライナーはニューヘーブン東部の非電
化路線を走ることはできませんでした。アムトラック社は何か手を打たな
ければと考えていました。「弊社のお客様の大半はビジネス客で、シャト
ル便で飛ぶ代わりにあえて電車に乗っている人たちだということはわかっ
ています」とアムトラックの広報担当のカレン・ダンは言います。
アムトラックは、路線を改善して、最高で時速240kmまでの速度を提供
する一方で、インダストリアル・デザイン会社IDEO(アイディオ)に新
しいインテリアの車両を作ることを依頼しました。「列車による移動では
、飛行機に比べて移動時間のほとんどを車両の中で過ごします。したがっ
て、車両の中で質の高いサービスを提供できれば、人々は時間をより生産
的に利用できるわけです」と言うのは、IDEOのティム・ブラウン社長。
Catherine Fredmanは、パーソナル・ファ
イナンス、経営戦略および冒険旅行を専門
とするライターです。特にインテルのAndy
Grove会長、Dell ComputerのCEO、
Michael Dellとの共著のベストセラーとなっ
たビジネス書が彼女の自慢。その一方で、
ユタ州南西部にあるサバイバル・スクール
に通っており、そこでは、ニューヨーカー
が素手で魚をつかんだり、マッチなしで火
をおこしたりしています。
IDEO社への依頼は、列車のデザインを徹底的に見直して、拡張された仕
事場という観点で再設計することを意味しました。見直しの対象には、照
明、カーペットの色、打ち合わせのためのミーティング・スペース、集中
した思索のための静かなスペース、作業が必要な場合のデータへのアクセ
スと電源コンセント、さらに作業を止めて、一息つくための眺めのいい休
憩場所などが含まれていました。「我々は、オフィスを設計する場合に生
じると同様の多数の問題を検討しなければなりませんでした。しかも今回
は車輪の上にあるオフィスなのです」。ブラウン社長はそう振り返ります
。
■利用客からのクレームがつくった理想の列車
変革は目から始まる。――これがIDEOで思考プロセスを活性化させるた
めの最初のルールです。カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くインダ
ストリアル・デザインのIDEO社は、スチールケースのパートナー企業で
、アムトラックのアセラ・エクスプレスのための新車両を設計しました。
特定のグループだけにターゲットを絞るな。――IDEOの、設計者、人間
工学研究者、エンジニアから成る混成チームは、アムトラックの乗客が幅
広い層にまたがっていることを知りました。そこで、乗
客が列車での移動の計画を立てる時点から最終到着地に
達するまでの行動をシミュレーションしました。「デザ
イナーが消費者の要望を理解するには、消費者の立場に
なって考える必要があります」とチーム・リーダーのア
イザーマンは言います。
こうしたユーザ中心のアプローチから得られたのは、長
大で変化に富んだ「クレームリスト」でした。そこには
、口うるさい乗客をいらだたせ、悩ませた旅のあらゆる
問題が集積しています。クレームリストには、電源コン
セントが足りない、車両間の行き来がしにくい、トイレ
が暗すぎるし、車椅子が入れないなどの問題が列挙され
ました。照明のクオリティを指摘する声もありました。
そこで、チームは、リストのすべての項目を解決しなが
ら、理想の列車車両のイメージを作り上げていったのです。
理想の車両が、文字通り、発進し始めました。IDEOはまずプロトタイプ
(ひな形)を作りました。それは、ユーザが投げたり、揺すったり、座っ
たり、一緒に生活することのできる物理的な模型です。「プロトタイプは
、変革の省略表現なのです。生きた、動くプロトタイプはアイデアを形作
るために役立ちます」とIDEOのジェネラル・マネージャ、トム・ケリー
は、ベストセラーとなった著書、『The Art of Innovation 』(Currency
、2000)の中で書いています。すぐに、IDEOのボストン・オフィスに、
列車車両の半分の実寸のモックアップが届きました。
「スタッフにはこのモックアップの中を歩いてもらい
、私たちが作ろうとしている空間を理解するように言
いました。私たちはこの実作業モデルで何度も試行錯
誤を繰り返しました」とアイザーマンは回想していま
す。
この車両は、快適な通勤車両をめざしたアセラ・エク
スプレスの一つの側面にすぎません。旅のあらゆる段
階にわたって、IDEOの設計の工夫の跡が見られます。
「これは単なる新しい装置ではなく、新たな経験なの
です」と、アイザーマンはこのプロジェクトを総括し
ています。
利用客からのクレームが
つくった理想の列車
変革は目から始まる。――これが
IDEOで思考プロセスを活性化さ
せるための最初のルールです。カ
リフォルニア州パロアルトに本拠
を置くインダストリアル・デザイ
ンのIDEO社は、スチールケース
のパートナー企業で、アムトラッ
クのアセラ・エクスプレスのため
の新車両を設計しました。
特定のグループだけにターゲット
を絞るな。――IDEOの、設計者
、人間工学研究者、エンジニアか
ら成る混成チームは、アムトラッ
クの乗客が幅広い層にまたがって
いることを知りました。そこで、
乗客が列車での移動の計画を立て
る時点から最終到着地に達するま
での行動をシミュレーションしま
した。「デザイナーが消費者の要
望を理解するには、消費者の立場
になって考える必要があります」
とチーム・リーダーのアイザーマ
ンは言います。
こうしたユーザ中心のアプローチ
から得られたのは、長大で変化に
富んだ「クレームリスト」でした
。そこには、口うるさい乗客をい
らだたせ、悩ませた旅のあらゆる
問題が集積しています。クレーム
リストには、電源コンセントが足
りない、車両間の行き来がしにく
い、トイレが暗すぎるし、車椅子
が入れないなどの問題が列挙され
ました。照明のクオリティを指摘
する声もありました。そこで、チ
ームは、リストのすべての項目を
解決しながら、理想の列車車両の
イメージを作り上げていったので
す。
理想の車両が、文字通り、発進し
11/02 © 2002 Steelcase Inc. All rights reserved.
始めました。IDEOはまずプロト
タイプ(ひな形)を作りました。
それは、ユーザが投げたり、揺す
ったり、座ったり、一緒に生活す
ることのできる物理的な模型です
。「プロトタイプは、変革の省略
表現なのです。生きた、動くプロ
トタイプはアイデアを形作るため
に役立ちます」とIDEOのジェネ
ラル・マネージャ、トム・ケリー
は、ベストセラーとなった著書、
『The Art of Innovation 』
(Currency、2000)の中で書いて
います。すぐに、IDEOのボスト
ン・オフィスに、列車車両の半分
の実寸のモックアップが届きまし
た。「スタッフにはこのモックア
ップの中を歩いてもらい、私たち
が作ろうとしている空間を理解す
るように言いました。私たちはこ
の実作業モデルで何度も試行錯誤
を繰り返しました」とアイザーマ
ンは回想しています。
この車両は、快適な通勤車両をめ
ざしたアセラ・エクスプレスの一
つの側面にすぎません。旅のあら
ゆる段階にわたって、IDEOの設
計の工夫の跡が見られます。「こ
れは単なる新しい装置ではなく、
新たな経験なのです」と、アイザ
ーマンはこのプロジェクトを総括
しています。