プラスチックボードドレーンによる地盤改良工事について ―超軟弱な埋立地盤への挑戦― 北九州港湾・空港整備事務所 ◎森 重 常 雄 ○右 田 宏 文 1, はじめに 関門航路 海運立国である我が国では、港湾整備事業は欠かせな 中央水道地区 いが、最近の船舶の大型化により航路の増深及び拡幅が 北九州港 必要となり、より一層の港湾整備事業の重要度が増して 南東水道地区 きている。これらの港湾整備で発生する浚渫土の多く 新門司地区 は、これまで土砂処分場に埋立処分されてきた。しかし、 新門司沖土砂処分場 3工区 図 1.1 3工区の位置図 近年、新たな土砂処分場の確保が重要な課題となってい る。土砂処分場の延命化方策における減容 化の技術は図 1.2 に示すように浚渫過程 による土砂の性状に応じて複数の方法が あるが、新門司沖土砂処分場3工区(以後 「3工区」と示す)においては、受入容量 の拡大による処分場の延命化を図るため 機械脱水処理による減容化並びに機械脱 水処理土を護岸の嵩上げ材料に用いて処 分場の容量増加を図っている。(図 1.3) 浚渫 運搬/揚土 浚渫方法 ・ポンプ浚渫 ・グラブ浚渫 ・高濃度浚渫 事前処理 揚土方法 ・土運船直投 ・リクレーマ ・空気圧送 等 図 1.2 埋立処分 事後処理 減容化 容量増加 減容化 ・自然脱水 ・機械脱水 ・嵩上げ ・土木的脱水 ・表面排水 有効利用 ※今回の延命化方策 ・分級 ・覆砂 ・固化処理 等 処分量の軽減 浚渫過程と減容化技術 減容化した土砂を護岸材料として有効活用し延命化を図る 嵩上げ 腹付材 護岸を嵩上げし埋立容量の増加を図る 【② 埋立容量の増加】 埋立土砂の間隙を抜き容積を減らす 【① 土砂の減容化】 今回の 施工範囲 水分を多く含む埋立土砂 脱水処理土 脱水 処理土 埋立土砂 地盤改良 図 1.3 減容化と延命化のイメージ 本報告は、3工区をリサイクル処分場としてよみがえらせる延命化方策の内、埋立容 量を増加させるための嵩上げ築堤を構築するために、その支持地盤となる超軟弱な埋立 地盤の強度増加を図るためにプラスチックボードドレーンを打設し地盤改良を行った工 事の技術上の課題と対応について取りまとめたものである。 苅田工区 2, 本工事における地盤改良の目的と課題 北九州空港 本報告の施工箇所→ 2.1,地盤改良区域の現状 3工区 西 護 岸 今回地盤改良を実施した施工個所は、図 2.1 に示すよ うに外海と接した3工区西護岸側の埋立土である。その 埋立土は、砂質土を多く含む中央水道地区や粘性土を多 北護岸 図 2.1 3工区の現状と施工位置 リクレーマ船 く含む南東水道地区や新門司地区など様々な物性の浚渫 土砂を関門航路事務所所有の直営船海翔丸や請負工事に 西護岸 海翔丸吐出土砂 3工区内 よるリクレーマ船により揚土し埋め立てた。 (図 2.2)そ の結果、西護岸側の埋立土は、軟弱な粘性土と砂質土が 互層を成しながら複雑に形成された現地盤となっている。 図 2.2 西護岸の埋立状況 2.2,地盤改良の目的 図 2.3 に示すように超軟弱な地盤上に3工区の埋立容量を増加させるための嵩上げ 築堤の構築を目的とし て、その支持地盤とな る超軟弱な埋立土を強 度増加させるために地 盤改良を行うものであ る。なお、今回は軟弱 な粘性土と砂質土が複 図 2.3 西護岸地盤改良標準断面図 雑に互層を成している事からプラスチックボードドレーンによる地盤改良工法を採用 する事とした。 シートの変形が大きくなり張力が高まり、場合に よっては、シート破断に繋がる 2.3,地盤改良の課題 ネット状シート 敷砂 敷砂 今回の地盤改良を行う埋立土は、埋立直後 地盤強度【高】 地盤強度【低】 の超軟弱な浚渫土砂であるため地盤強度が非 図 2.4 常に小さく、また、軟弱な粘性土と砂質土が 互層を成す土層で埋め立てられていることか 埋立土 沈下大 沈下小 不同沈下の概念図 現地盤の強度が低い埋立土に敷砂が局所的に 入り込んだ場合、敷砂が埋立土砂を押し出し 「盤膨れ」が発生する。 ら土質性状のばらつきが大きい。それらを踏 敷砂 地盤強度 【高】 まえ、本施工の課題を以下に示す。なお、図 地盤強度 【低】 2.3 に示すように埋立地側のシートが自由端 敷砂 埋立土 ネット状シート 図 2.5 盤膨れの概念図 となる施工方法は全国的にも事例がない。 ネット状シートの引き込まれ ・土質性状のばらつきにより不同沈下(図 2.4)と盤膨れ(図 2.5)が発生する可能 性が高いため、それらの発生を低減させ、 せん断変形を発生させない施工管理の工 崩壊 敷砂 ネット状シート ネット状シート破断 せん断変形 埋立土 夫(図 2.6) 軽 重 埋立土 すべり線 図 2.6 せん断変形の概念図 なお、施工時の不同沈下の発生リスクを低減させるために、施工に先立ち流動性の 高い超軟弱な埋立土の分布を広域的に調査把握し、不同沈下発生個所予想マップを作 成し、施工管理に活用した。(図 2.7) ※水色個所が特に流動性の高い超軟弱な 埋立土が分布していると判断する範囲 図 2.7 不同沈下発生個所予想マップと活用事例 3, 超軟弱な地盤への表層安定処理工法 3.1,施工方法 今回の施工は、埋立直後の超軟弱な地盤上に敷砂を施工していくことから安全で確 実な施工が求められた。よって、超軟弱な埋立土の表層を補強するため、既存の施工 技術よりバンブーネット(以後「竹枠」と示す)、ロープネット(以後「ロープ」と示 す)、ネット状シート(以後「シート」と示す)を組み合わせた竹枠併用ジオテキスタ イル工法を採用した。 3.2,施工上の工夫と効果 3.2.1,不陸整正 表層安定処理を行う前に、地盤改良施工時の不同沈 下の発生低減及び施工の安全性向上を目的として埋立 図 3.1 不陸整正状況 地 盤 の 凹 凸 を 無 く す た め に 不 陸 整 正 を 行 っ た 。( 図 3.1)その結果、極端な不同沈下を発生させることなく 施工出来た。また、不陸整正を行ったことで、埋立地 表面の乾燥ひび割れ ↓ 盤表層の自然乾燥が均一に且つ速やかに促進され、表 層の乾燥収縮による乾燥ひび割れが促された結果、地 盤強度の早期発現に効果があった。(図 3.2) 3.2.2,竹枠併用ジオテキスタイル工法 図 3.2 乾燥ひび割れ促進状況 竹枠及びロープ敷設状況 5m 嵩上げ盛土のせん断崩壊防止及び埋立土中への潜り 5m 込み防止の目的から現地盤上に 5m 格子で竹枠、次に 50 ㎝格子でロープその後、シートを敷設した。 ( 図 3.3) その結果、不同沈下や埋立地側への水平変位はほと 50cm 50cm んど観測されなかった。これは、竹枠の 5m 格子内に撒 シート敷設状況 き出された厚さ 20 ㎝程度の敷砂層が、竹枠の格子毎に 拘束され、版の様に一体化した曲げ剛性を有する補強 効果を発揮した結果、局部的な水平変位が抑制された ものと考える。また、図 3.4 及び図 3.5 に示すように 敷砂の荷重により沈下し、前面の現地盤が隆起する際 は、竹枠が現地盤を押さえ込む様に変形していること から現地盤の変位は、竹枠の曲げ剛性により拘束され ているものと考える。 図 3.3 竹枠併用ジオテキスタイル 敷砂の荷重により前面地盤が隆起しようとしてい るが、竹枠で拘束されている状況 敷砂 以上のことから、本工事で採用した竹枠併用ジオテ キスタイル工法は、超軟弱な地盤への表層安定処理工 法としては、効果的であると考える。 竹枠 図 3.4 竹枠の曲げ剛性の効果 竹枠未併用時 ひずみの増加が局所的に発生する ひずみ分布 竹枠併用時 ひずみの増加が分散されピーク値が緩和される ネット状シートの引き込まれ ネット状シート 崩壊 敷砂 ネット状シート ひずみ分布 ロープネット 敷砂 バンブーネット ネット状シート破断 せん断変形 埋立土 埋立土 埋立土 バンブーネットの曲げ剛性の効果により ひずみの増加が分散される 埋立土 すべり線 図 3.5 竹枠併用時の曲げ剛性効果の概念図 シューティングマシン 4, 敷砂の撒き出し 4.1,施工方法 今回の地盤改良対象土層は、超軟弱な埋立土であるこ 層厚管理尺 層厚管理尺 と。また、土質性状の変化が大きいことから敷砂施工時 の盤膨れの発生頻度が非常に高いことが想定されたため、 敷砂は、シューティングマシンにより薄層で撒き出した。 木枠 図 4.1 敷砂撒き出し状況 なお、撒き出し厚さは 1 層目 30 ㎝、2 層目 40 ㎝、3 層目 40 ㎝の 3 層に分け最終的 に厚さ 1.1m の敷砂を撒き出した。(図 4.1) 水張りが出来ないドライ状態におけるシューティングマシンによる撒き出しは、全 国的に事例は少ないが、非常に有効な施工方法であった。 また、本工事に着手する前に敷砂の施工方法に関して、本工事の現場条件である「水 張り水搬施工が不可能」 「層厚管理を必要とする薄層撒き出し施工が必須」の条件に適 した施工方法を判断するためにマイクロポンプによるドライ水搬とシューティングマ シンによる撒き出し方法について現地実証試験を行った。その結果、ドライ水搬によ る撒き出しは、 「目視での層厚確認が困難」 「シート底面部の現地盤が洗掘される」 「盤 膨れが生じた際の補修が不可能」 目視での層厚確認が困難 シート底面部の現地盤が洗掘される (図 4.2)という試験結果に対し、 洗掘状況 シューティングマシンによる撒き 出 し は 、「 目 視 で の 層 厚 確 認 が 容 易」 「均一な薄層施工が可能」とい 図 4.2 ドライ水搬現地実証試験状況 う試験結果に基づき、今回の現場においては、安全性及び施工性の観点からシューテ ィングマシンにより撒き出した。 10m 5m 5m 10m 5m 5m 10m 5m 5m 層厚管理尺 4.2,施工上の工夫と効果 シューティングマシンによる敷砂の均一な撒き出 5m し厚さを確実に管理するために層厚管理尺を施工箇 5m 10m 5m 所の縦断及び横断方向に 10m 間隔で設置した。また、 木枠 敷砂で最も重要な 1 層目の撒き出し時は、10m で設 図 4.3 層厚管理尺及び木枠設置状況 10m 置した層厚管理尺を補間するよう 5m 間隔で高さ 30 ㎝の木枠を設置し、敷砂の撒き出 し厚さを確認しながら確実かつ効率的に施工した。 (図 4.3)その結果、敷砂施工時に 発生する極端な盤膨れは、一度も発生することなく安定した施工が出来た。 5, プラスチックボードドレーン打設による地盤改良の実施 5.1,施工方法 ドレーン打設機械は、打設深度 20m 以下、機械重量 29t~35t、接地圧 4.39N/㎠~ 5.95N/㎠のフロント打設型の打設機を用いて施工した。 5.2,施工上の工夫と効果 5.2.1,ドレーン打設機の支持力検討 施工に先立ち、施工範囲全域で実施したポータブルコ ーン貫入試験などの土質試験結果を用いて、実施工で使 敷鉄板の敷設 図 5.1 ドレーン打設状況 用するドレーン打設機の支持力を確認した。なお、施工に当たっては、敷鉄板を敷 設しドレーン打設機の接地圧を分散させながら施工した結果、ドレーン打設機の施 工に伴う集中荷重及び衝撃荷重による局部的な不同沈下や転倒を発生させる事なく 安全に施工出来た。 (図 5.1)また、ドレーン打設時の傾斜を調整するアウトリガー の支圧版については、接地面を拡幅しドレーン打設機の更なる安定性に努めた。 5.2.2,ドレーン打設の精度向上対策 ドレーン打設の鉛直精度を向上させるために、地盤改良地中部でのドレーン打設 間隔を一定に保つために傾斜計を設置し、±1.5 度以内になるようアウトリガーで 傾斜を調整しながら施工した。その結果、平均 0.1 度とほぼ鉛直に打設することが 出来た。 また、ドレーン打設時、ドレーン材先端に取付けられたアンカープレートへの抵 抗不足などによりドレーン材が共上がりする危険性があったため、既存のアンカー プレートに幅が広い補強プレートを取り付け打設すると共にアンカー着脱検知セン サーを装備しドレーン材の共上がり防止に努めた。その結果、共上がりによるNG 杭は発生せず施工出来た。 Y方向 6, 動態観測の経過 6.1,動態観測状況 安全性を確認しながら施工する必要があるため、 図 4.3 に示す沈下版及 び層厚管理尺の 3 方向 (X・Y・Z)の変位計測を 行い現地盤の変位量を 管理レベル X方向 張力計取付状況 敷砂及びドレーン打設の施工に当たっては、 図 6.1 シート張力計設置状況 管理値の考え方 対応策 1次管理値 シート強度の50%のひずみ 50kN/m 注意レベル 観測強化(計測頻度の増加など) 2次管理値 シート強度の75%のひずみ 75kN/m 警戒レベル 施工方法の見直し(撒き出し厚さや施工速度など) 3次管理値 シート強度の100%のひずみ 100kN/m 作業中止 作業を中止し施工方法の抜本的な見直しを行う 図 6.2 シート張力計管理基準値 把握すると共にシート張力計の 2 方向(X・Y)のひずみ計測(図 6.1)を行いシートに発 生する張力を計測し、図 6.2 に示す管理基準値の基、シート破断の安全性を確認しな がら施工に当たった。なお、最大張力はドレーン打設時に 32 ㎜の変位量(13kN/m)を観 測した他は、1 ㎜程度(0.4kN/m)の小さな変位量であった。 なお、嵩上げ築堤を盛り立てている現在においては、沈下板の 3 方向(X・Y・Z)の変 位計測を行いながら施工を進めている。 0 沈下予測曲線 10 動態観測結果:沈下板No.37(盛土中央部) 6.2,現在までの動態観測結果 施工区域の中でも沈下量が比較的大きい測線№37 沈下量 (cm) 20 動態観測結果:木杭No.37(盛土法尻部) 30 ドレーン打設時171㎜ 40 50 1次盛土着工前579㎜ 60 1次盛土完了時627㎜ 70 の沈下量を図 6.3 に示す。初期値は敷砂の施工開始 80 6/28(372日)時703㎜ 90 時であり、沈下量は、敷砂完了時 59 ㎜(経過日数 2 日)、ドレーン打設時 171 ㎜(経過日数 57 日)、1次 (予測値741㎜) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 サンドマット敷設からの経過日数 (day) 図 6.3 沈下曲線と動態観測結果 盛土着工前 579 ㎜(経過日数 287 日)、1 次盛土完了時 ドレーン材の埋立地側への 水平変位は見られない (t=2m)627 ㎜(経過日数 345 日)、平成 24 年 6 月 28 日時 点で、703 ㎜(経過日数 372 日)となっており、ほぼ予測 沈下量に近い値を示している。なお、観測用の木杭は盛 土施工の支障になるため、木杭の観測は、盛土施工の着 図 6.4 盛土施工中の現況 手前までとした。また、図 6.4 に示すとおり盛土施工中 においてもドレーン材が埋立地側に移動することなくドレーンの通りが通っているこ とから埋立地側への水平変位は、ほとんど発生していない事が分かる。 7, まとめ 今回のジオテキスタイルは、埋立地側のシートが自由端となる全国的にも事例がない 施工方法であった。その技術上の課題「不同沈下と盤膨れの発生を低減させ、せん断変 形を発生させない施工管理の工夫」における対応と効果について以下に総括する。 ① ② ③ ④ 工夫 竹枠併用ジオテキスタイル工法を用いた 効果 竹枠内に撒き出された敷砂が竹枠毎に拘束され、版の様に一体化した曲げ剛性を有する補強効果を発揮し安定した 工夫 ドライ状態に適した施工方法を確認するため、現地実証試験を行い、シューティングマシンによる撒き出し方法を採用し、敷砂を施工した 効果 敷砂の撒き出し厚さが直接目視確認できるため、確実な施工管理に繋がり、極端な盤膨れを一度も発生させることなく施工できた 工夫 地盤改良施工時の不同沈下の発生低減及び施工の安全性向上を目的として現地盤の不陸整正を実施した 効果 埋立地盤表層の自然乾燥が均一に且つ速やかに促進され、表層の乾燥収縮による乾燥ひび割れが促された結果、地盤強度の早期発現に効果があった 工夫 施工に先立ち流動性の高い超軟弱な埋立土の分布を広域的に調査把握し、不同沈下発生個所予想マップを作成し施工に活用した 効果 施工時に撒き出し方法や施工速度など事前に対策がとれるため、不同沈下の発生リスクを低減させる効果があった 西護岸側揚土状況 撮影日;2010/2/22 地盤改良着工前 撮影日;2011/1/13 地盤改良 完了直後 撮影日;2011/10/31 8, おわりに 地盤改良工事は、ドレーンを打設できた段階で超軟弱な埋立地盤への挑戦はほぼ成功 したと言っても過言ではない。今回の地盤改良に当たっては、表層安定処理・敷砂・ド レーン打設まで特に支障を来すことなく安全に施工出来ている。現在は、脱水処理土を 用いた嵩上げ築堤の載荷盛土中であるため、今後とも沈下や水平挙動の動態観測を実施 しながら圧密沈下の完了に向けて、最後まで安全第一で施工を進めて行きます。
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