解説 支援困難事例─3つの発生要因と4つの分析枠組み─ 大阪市立大学大学院准教授 「支援困難事例」 を 説明することの難しさ 答えることは容易ではない。支援困難事例を 客観的に対象化し、説明することはなぜ難し 表 発生 要因 個人的要因 支援困難事例とは何か。この問いに的確に 岩間伸之 Iwama Nobuyuki 内 容 ▶発生源が個人(本人)の側に帰属するもの 【例】・強い不安、精神的不安定、 気力・意欲の低下 ・判断能力の低下や不十分さ ・社会規範から逸脱した強いこだわり いのか。その理由として、次の3つを示して ・各種疾病、各種障害 おく。 ▶発生源が社会(環境)の側及び関係性に 帰属するもの 第1の理由は、困難事象の多様性にある。 て対応に苦慮する事象や場面はきわめて多様 である。支援困難事例を種別ごとに整理した 社会的要因 一口に支援困難事例といっても、専門職とし 地域からの孤立・排除 の複合性にある。支援困難事例の特徴は、複 ▶発生源が援助者側の不適切な対応に あるもの 数の困難事象が重複し、その相互性からさら 第3の理由は、困難さをもたらす要因が援 助者側にもあることである。援助者の不適切 【例】・援助者主導の援助、 本人の意思や意向の無視 ・本人の主体性が喚起されないかかわり ・援助関係の形成不全 ・不十分な連携と協働、ネットワークの 機能不全 ・本人を取り巻く環境への不適切な働 きかけ な対応が支援困難事例を生み出し、さらに状 因、③不適切な対応、の3つの要素が深く関 態を悪化させることになる。 与しているものとしてとらえた。表におい 支援困難事例の3つの発生要因 て、それらの内容を一覧にして示した。 ることは難しいが、一定の枠組みでもって整 発生要因に基づく 4つの分析枠組み 理することはできる。ここでは、支援困難事 以上の3つの発生要因は、それぞれが単発 例の分析枠組みを導き出すための前提となる でもって支援困難事例に陥るということでは 発生要因として、①個人的要因、②社会的要 なく、これらの要素が重なるところに支援困 支援困難事例を客観的に把握し、定義づけ 40 不適切な対応 なる。 ・家族・親族との不和・虐待等、 ・地域の偏見や無理解、 第2の理由は、困難さを呈する事象と原因 どちらが原因か結果なのかがはっきりしなく ・社会資源(サービス、法制度等)の不足 職場・学校での排斥 ることが難しくなる。 合、困難さをもたらす原因も複合的となり、 家族等の疾病・障害 近隣住民とのトラブル、 り、一定の枠の中に収め、系統立てて把握す に困難さが増幅されるところにある。その場 【例】・生活苦、生活環境の悪化、 ケアマネジャー|vol.13-no.4|2011-4 支援 支援困難事例と向き合う 個人的要因 社会的要因 葛藤が生じた。 〔第Ⅱ類型〕個人的要因+不適切な対応 ■本人は、脳梗塞による右完全片麻痺がある (個人的要因) 。援助者は、機能回復を目指 してリハビリを強く推奨(不適切な対応) 。 その結果、本人はつらいリハビリを続けても 図 不適切な対応 一向に回復の兆しがみられない状況に落胆 し、サービスを一切拒否して閉じこもってし 難事例が発生する。 図においては、3つの発生要因に基づく4 つの分析枠組みを示した。この分析枠組み まった。 〔第Ⅲ類型〕社会的要因+不適切な対応 は、3つの発生要因の重なり具合によって、 ■介護者である家族がリストラにあい生活苦 第Ⅰ類型(個人的要因+社会的要因) 、第Ⅱ に陥る(社会的要因) 。介護保険の1割負担 類型(個人的要因+不適切な対応) 、第Ⅲ類 を重く感じた家族からの訴えのままに、援助 型(社会的要因+不適切な対応) 、第Ⅳ類型 者はサービスを大幅に減らした(不適切な対 (個人的要因+社会的要因+不適切な対応) 応) 。その結果、家族が介護できる範囲を超 という4つの類型として示される。 え、本人はネグレクト(虐待としての介護放 以上の内容から、支援困難事例とは、 「個 棄)状態に至った。 人的要因、社会的要因、不適切な対応という 3つの発生要因のうち、2つもしくは3つの 要素が重なり、その結果、困難性が相乗的に 〔第Ⅳ類型〕 個人的要因+社会的要因+不適切な対応 増幅した事例」といえる。 ■娘と同居する母親が認知症を発症(個人的 以下、高齢者をめぐる支援困難事例をパタ 要因) 。娘には精神障害があり、これまでは ーン例としてとりあげ、3つの発生要因をそ 母親が身の回りの世話をしていた(社会的要 れぞれ示しながら、4つの分析枠組みを概観 因) 。援助者は、娘を介護者として期待し、 する。 娘へのサポートなしに母親への介護を求めた 〔第Ⅰ類型〕個人的要因+社会的要因 (不適切な対応) 。その結果、娘は混乱して 症状が悪化。 母親への身体的虐待へと至った。 ■本人は、独居で軽度の認知症(個人的要 因) 。近隣住民に認知症に関する理解が十分 でない(社会的要因) 。その結果、住み慣れ た家に住み続けたいという本人の意向に反し て住民が施設入所を強く求め、両者間に強い (岩間伸之「困難事例とは何か─3つの発生要因と4つの分析 枠組み─」 [2009年9月号, pp.16∼19]より抜粋して構成) 2 0 1 1 -4|vol.13-no.4|ケアマネジャー 41
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