Review Paper 核融合炉トリチウム燃料システム開発 −日米協力1 4年間の成果− 西 正 孝, 山 西 敏 彦, 洲 亘 (日本原子力研究所核融合工学部トリチウム工学研究室) Development of Tritium Plant System for Fusion Reactors − Achievements in the 14-year US-Japan Collaboration − NISHI Masataka, YAMANISHI Toshihiko and SHU Wataru Tritium Engineering Laboratory, Department of Fusion Engineering Research, Japan Atomic Energy Research Institute, Ibaraki 319-1195, Japan (Received 26 November 2002/Accepted 22 January 2003) Abstract Fuel processing technology and tritium safe-handling technology have been developed through US/DOEJAERI collaboration from 1987 till 2001, and the technologies to construct the tritium plant system of ITER have been made currently available. This paper overviews the major achievements of this collaborative researches over fourteen years, which were performed mainly at the Tritium Systems Test Assembly (TSTA) of the Los Alamos National Laboratory (LANL). The tritium plant system consists mainly of a fuel processing system, which includes a fuel cycle system and a blanket tritium recovery system, and a tritium confinement/removal system. The fuel cycle system recovers fuel from plasma exhaust gas and recycles it. In the collaboration, major key components and subsystems were developed, and the performance of the integrated system was successfully demonstrated over its one -month operation in which plasma exhaust model gas was processed at a processing rate of up to 1/6 level of the ITER. The technological basis of the fuel cycle system was thus established. Blanket tritium recovery technology was also successfully demonstrated using the TSTA system. Through the successful safeoperation of the TSTA, reliability of tritium confinement/removal system was verified basically. In addition, much data to confirm or enhance safety were accumulated by experiments such as intentional tritium release in a large room. Furthermore, distribution of tritium contamination in the vacuum vessel of the TFTR, a large tokamak of the Princeton Plasma Physics Laboratory (PPPL), was investigated in this work. Keywords: tritium, fuel processing technology, tritium safe-handling technology, fusion reactor 1.はじめに 水等の安全処理の両面から重要である.日本原子力研究 核融合炉のトリチウム燃料システムは,プラズマ排ガ 所(原研)では昭和53年にトリチウム技術研究室(現,ト スからのトリチウムの効率的回収・再生と,廃ガスや廃 リチウム工学研究室)を設置するとともに昭和60年に我 author’s e -mail: [email protected] この論文は第1 9回年会(2 0 0 2,愛知県犬山市)にて招待講演として発表された内容を論文化したものです 290 J. Plasma Fusion Res. Vol.79, No.3 (2003)2 90‐298 Review Paper Development of Tritium Plant System for Fusion Reactors M. Nishi et al. が国初の大量トリチウム取扱施設であるトリチウムプロ クルシステムに供給して,燃焼で失われた燃料を補充す セス研究棟(TPL)を完成させ[1],このトリチウムに関 る機能を有する. するプロセス技術と安全工学技術についての研究開発を トリチウム閉じ込め・除去システムは,トリチウムの 進め,技術の確立を図ってきた.また,積極的に国際協 環境への異常放出を抑止する機能を有し,核融合炉のト 力を行い,特に昭和62年から14年間に亘って実施した リチウムに関する安全の要となる. 「日本原子力研究所と合衆国エネルギー省との間の核融 3.日米協力の背景 合研究開発における協力に関する実施取り決めの付属書 Ⅳ」(以下「付属書Ⅳ」)の下,主として米国ロスアラモ 米国では,核融合炉のトリチウム燃料取扱技術の開発 ス国立研究所(LANL)トリチウムシステム試験施設 と実証を目的として,昭和52年にロスアラモス国立研究 (TSTA) [2]で実施した日米協力研究において大きな進 所(LANL)に お い て ト リ チ ウ ム シ ス テ ム 試 験 施 設 展を得た. (TSTA)計画が始まり,昭和57年に施設完成,昭和59年 2.核融合炉の燃料システム 3. 1 TSTA の概要 にトリチウムを用いた試験が開始された. 核融合炉のトリチウム燃料システム [3‐5]の概略構成 Fig. 2 に TSTA[2]の概観を示す. TSTA の主実験設備である模擬燃料サイクルシステム を Fig. 1 に示す. プラズマ排ガスを連続的に処理し,燃料成分(重水素 (Fig. 3)は,プラズマ排ガスを調製する真空容器に真空 D とトリチウム T)を効率的に回収・精製し再生して再 排気,燃料精製,水素同位体分離および燃料貯蔵の各サ びプラズマに供給する燃料サイクルシステムは,核融合 ブシステムをループ状に接続したプラズマ排ガス処理の 炉に注入した燃料の大半が未燃焼のまま,不純物ととも ための完全な総合システムである.本システムは核融合 にプラズマ排ガスとして排出されると見込まれるために 炉の実規模で計画され,トリチウム処理量は 1 kg/day 必要である.本システムにはまた,処理の過程で発生す で設計されている. TSTA の主実験室は約 3,000 m3 あり,200 g程度までの る廃ガス中のトリチウム濃度を極力低くすることも要求 トリチウムを取り扱うことができる.大量トリチウム安 される. ブランケットトリチウム回収システムは,増殖ブラン 全取り扱いの実証も TSTA 建設の大きな目的であり,コ ケットで生成したトリチウムを効率的に回収し燃料サイ ンピュータによって完全に自動化されたトリチウム閉じ 込め・除去システムを備えている.なお,TSTA のス タック放出トリチウムの自主管理基準値は 7.4 TBq/ year である. Fig. 1 Fig. 2 Outline of the tritium plant system of the fusion reactor. 291 Birds-eye view of the Tritium Systems Test Assembly (TSTA) of Los Alamos National Laboratory. Journal of Plasma and Fusion Research Vol.79, No.3 March 2003 Fig. 3 Outline of the TSTA simulated fuel cycle system whose designed processing capacity of tritium was 1 kg/day. 3. 2 日米協力の始まり 日米の情報交換は TSTA 計画の早い時期から始めら れたが,昭和59年からは原研より持ち込んだ燃料システ ムの先進要素機器のトリチウム試験が TSTA で進めら れた[6, 7].この時期に試験された機器は,水素同位体を 選択的に透過し分離するパラジウム拡散器 [8]と,気相 で水分を酸素と水素同位体に分解するセラミック電解セ ル[9]であり,その成果が昭和6 2年に開始した付属書Ⅳ 協力における大きな成果に繋がった. 4.日米協力付属書Ⅳの成果 Fig. 4 4. 1 計画の概要 Outline and major items of the US-Japan cooperating program on tritium fuel technologies for fusion reactors. Fig. 4に付属書Ⅳ協力の主要項目と経過の概要を示す. 本協力は LANL/TSTA を主たる舞台とし,研究予算お び除染技術の研究開発も実施した. よび研究人員に関しては日米均等貢献を原則として進め 4. 2 核融合燃料プロセス技術の研究開発の成果 られた. プロセス技術の総合実証としての模擬燃料サイクルシ 初期の計画は,TSTA 共同運転による燃料サイクルの ステムの試験は,各サブシステムの単体試験から始ま プロセス技術の研究開発と実証を目的として昭和62年6 り,完全に統合された総合システムとしての試験は昭和 月より7年間に亘って実施され,所期の目的を達した. 63年から日米共同運転の下で行われた.7年間に亘るプ 平成6年からは,研究の重点を安全工学技術の研究開 ロセス技術に関する日米協力の主な成果[11]は以下のと 発に移し,TSTA の実規模設備を用いて初めて可能な実 おりである. 証的試験研究を行うとともに,原研 TPL における系統的 ①安定した定常運転動作性能の実証 試験研究を組み合わせて成果を上げた.また,平成10年 ②実験炉を想定した非定常運転への対応の実証 からはプリンストンプラズマ物理研究所 (PPPL)の D-T ③ブランケットトリチウム回収技術の実証 4. 2. 1 定常運転動作性能の実証 プラズマ実験を行った大型トカマク TFTR[10]の除染解 体計画に絡み,トカマクのトリチウム汚染状況調査およ 燃料サイクルシステムは核融合炉の稼働中,連続して 292 Review Paper Development of Tritium Plant System for Fusion Reactors M. Nishi et al. プラズマ排ガスを受け入れ,処理し,燃料を供給し続け のジルコニアを用いた電解セルによって気相電解し水素 なければいけない.すなわち,総合システムとしての安 同位体ガスを得る.パラジウム拡散器は約 10 Nl/min の 定な定常連続運転性は燃料サイクルシステムにおいて実 供給ガスを受けて水素同位体ガスの9 5%程度を透過し, 証すべき最も重要な項目である. これを連続的に水素同位体分離システムに供給した.ま た,電解セルでは,設計値 0.8 mol/hr を超える水分解性 TSTA の模擬燃料サイクルシステムでは,各サブシス テムの単体試験や組み合わせ試験を行いつつ,日米協力 能を得た.JFCU で開発し実証した [パラジウム拡散器+ の下で何回もの総合システム試験を重ね,各サブシステ 不純物処理システム]の構成は現在,燃料精製システム ムの性能を検証するとともに,最終的に総合システムに の基本構成となっており,されに先進的な不純物処理シ よる25日間の連続運転によって安定した定常運転動作性 ステムの研究開発[15‐18]が進められている. 能を実証した[12]. 水素同位体分離システムは直径2 0〜40 mm,高さ約 25日間の連続運転では,D と T が1:1の燃料ガスに 4 mの4本の深冷蒸留塔で構成され,99.8% の高純度ト 数%〜10%程度の不純物ガス(H2,He,CH4,N2)を加 リチウムが連続的に分離生産された.また,不純物であ えた模擬プラズマ排ガスを連続処理した.使用トリチウ る軽水素は重水素との混合ガスとしてトリチウム廃棄物 ム量は約100g であり,ガス流量は約 390 mol/day,トリ 処理システムに排出されたが,この廃ガス中のトリチウ チウム処理量は約 1 kg/day である.不純物ガスは燃料精 ム濃度は 150 GBq/m3 以下の低いレベルに保たれた.水 製システムおよび水素同位体分離システムで連続的に除 素同位体分離システム内における水素同位体組成の分布 去され,高純度のトリチウムと重水素を得た.初期の実 は,塔の各部に設けたサンプリングラインで抜き出した 験で見られた各サブシステムにおける不調やサブシステ ガスをレーザーラマン分光分析器[19]で分析することに ム間の不安定性は克服され,25日間の連続運転は安定に より迅速に測定された.典型的な測定時間はガスサンプ 達成された. リング時間が60秒,分析時間が100秒,ラインの切替(系 燃 料 精 製 シ ス テ ム と し て,TSTA 本 来 の シ ス テ ム 内の安定)に要する時間が120秒程度である.この分析時 (Original FCU,以下 FCU) と原研が開発して設置したシ 間はガスクロクロマトグラフの40分に比べて圧倒的に早 ステム(JAERI FCU,以下 JFCU) [13, 14]の両方が試験 く,水素同位体分離システムの特性の理解に大きく貢献 され,いずれも良好な性能を発揮した.FCU は TSTA した.原研ではレーザーラマン分光法の開発をさらに進 建設当時の技術レベルで保守的に設計されたシステムで め,光ファイバの導入によってオンライン分析を可能と あり,JFCU は原研が開発を進め,日米協力の下でトリ して,さらに高速な分析システムを実現している[20]. チウムへの適用性を確認したパラジウム拡散器およびセ 4. 2. 2 非定常運転への対応の実証 ラミック固体電解セルを主体とする先進システムであ 定常的な核融合炉の実現に先立つ ITER 等の実験炉で は,数百秒〜数千秒程度の長時間ではあるがパルス的な る. FCU では,液体窒素冷却の低温モレキュラーシーブ 運転が計画されている.また,定常炉であっても運転開 ベッドでヘリウム以外の不純物ガスを吸着除去し,水素 始,停止,放電洗浄等があり,非定常運転への対応が燃 同位体ガスとヘリウムを水素同位体分離システムに送 料サイクルシステムに求められる. る.吸着除去した不純物ガスはベッドの定期的昇温再生 TSTA の模擬燃料サイクルシステムでは,非定常運転 で回収し,触媒酸化反応器とコールドトラップによって の総合システム試験を実施し,実験炉のパルス運転に対 水素同位体成分を水として除去した後,トリチウムをほ 応しうるシステムの高い柔軟性を実証した[21]. とんど含まない廃ガスとしてトリチウム廃棄物処理シス 燃料精製シス テ ム と し て は 専 ら JFCU の 試 験 を 行 テムに送られる.コールドトラップで回収した水はマグ い,断続的に供給した模擬プラズマ排ガスに対応してそ ネシウムの高温ベッドで分解され,再び低温モレキュ の機能を十分に発揮することを実証した. 深冷蒸留塔水素同位体分離システムは本質的に定常運 ラーシーブベッドに送られる. JFCU では,水素同位体ガスを選択的に透過するパラ 転に適したシステムである.このため基本的に,燃料精 ジウム膜から成るパラジウム拡散器でプラズマ排ガスを 製システムからの水素同位体ガスの供給のない間は水素 処理し,透過ガスとして得た純粋な水素同位体ガスを水 同位体分離システム内でガスを循環させるモードに切り 素同位体分離システムに送る.非透過ガス中の水素同位 替えて非定常運転に対応した.本試験の前に,それまで 体成分は,FCU 同様に水として回収するが,酸素導電性 に得た知見に基づき,水素同位体分離システムの配管お 293 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.79, No.3 March 2003 ①室内トリチウム放出試験によるトリチウムの室内挙 よび制御系統の改良が行われた.配管系統の改良は,蒸 動の解明とその除去装置の性能実証 留塔(Column I)に中間抜き出し流の系統を新たに設け ② JFCU 除染・処理・撤去を通した大型トリチウム取 たものであり,本改良によって分離性能の大幅な向上が 扱機器の除染・処理技術の実証 達成された[22, 23].本成果は,将来のシステム設計にあ たり,必要な蒸留塔数の減少とそれに伴うシステム内の ③水素同位体分離システムの安全工学試験によるシス トリチウムインベントリの低減を可能とするものであ テム内トリチウム挙動の解明と異常発生時の安全確 る.制御系統の改良は,各蒸留塔における物質収支が自 保の実証 ④TFTR真空容器内調査によるトカマク内トリチウム 動的に制御されるようにしたものであり,その結果, 汚染分布データの取得 6 l/min→8 l/min→4 l/min→6 l/min という供給流量の大 ⑤TFTRプラズマ対向機器を用いたトリチウム除染技 幅なステップ状変動に対してもシステムの安定した追随 術の開発と実証 を実証した[24]. 4. 3. 1 室内トリチウム放出試験 4. 2. 3 ブランケットトリチウム回収技術の実証 ブランケットからのトリチウムの効率的な回収も重要 トリチウムに関する安全確保の基本は閉じ込めであ な技術である.固体増殖材の場合,ヘリウムをスイープ る.環境との接点となる最終的な閉じ込め系は装置を設 ガスとしてブランケットに流通させ,その流れに乗って 置した部屋或いは建家によって構成され,室内における 取り出されてくるトリチウムをスイープガスから分離し トリチウム挙動の理解とその閉じ込め・除去装置の機能 回収する. の確認は重要であるが,壁面の影響を強く受ける小空間 における研究や小規模装置による実証にとどまってい スイープガスに軽水素を添加すると同位体交換によっ た. て増殖材からのトリチウム取り出しが促進される.この ため,ヘリウムに軽水素を 0.1〜1% 程度添加したガスが TSTA の主実験室は核融合炉施設における一閉じ込め スイープガスとして有力であり,軽水素の 1 /100 程度が 区画規模の約 3,000 m3の容積を有していることから,こ トリチウムに置き換わってブランケットから出てくる. の TSTA 主実験室へのトリチウム放出試験を計画し,約 ブランケットトリチウム回収システムには,このような 30 GBq のトリチウム室内放出を実施して室内トリチウ 低濃度のトリチウムを効率的に回収し,燃料サイクルシ ム挙動データを蓄積した[28].同時に,TPL に設置した ステムに供給する機能が要求される. 12 m3 の模擬室内空間によって空間内トリチウム挙動の 低温吸着はヘリウム中の水素同位体ガスを分離する有 系統的データの収集 [29, 30]と室内トリチウム挙動解析 力な手段であり,FCU の一部である低温モレキュラー コードの整備[31]を進め,TSTA 室内トリチウム放出挙 シーブベッドを用い,ブランケットスイープガスで推定 動データとの照合によって大規模空間への適用性を検証 さ れ る He 9 9% + H2 0.98%+HT 0.02% の ガ ス を 13 した(Fig. 5) [32]. l/minの流量で流通させ,ブランケットトリチウム回収 TSTA には空間容積に見合った核融合炉規模の大型ト の模擬実験を実施した.その結果,飽和に至るまでベッ リチウム除去装置(処理流量約 2,500 m3 /hr)が設置され ド出口ガス中に水素同位体ガスは検知されず,また,飽 ている.トリチウム除去装置は水素同位体成分を水に転 和とともに明確な破過曲線を得,低温モレキュラーシー 換する触媒酸化反応器と水分を除去する水分吸着器(除 ブベッドがブランケットトリチウム回収に有効であるこ 湿器)からなり,小型の装置では多くの実績から技術が とを実証した[25] .本成果を基に,同様にヘリウム中の 確立しているが大型装置での性能検証例はなく,TSTA 低濃度水素同位体の分離回収機能を必要とするヘリウム の装置も設置以来その機能を発揮する機会を得ていな 放電洗浄排ガス処理システムにも低温モレキュラーシー かった.今回の試験では,この大型トリチウム除去装置 ブベッド方式の採用が図られている[26]. の運転試験も実施し,その性能を検証した[33]. 4. 3 トリチウム安全工学技術の研究開発の成果 以上の成果は,万一のトリチウムの室内漏洩を想定し 核融合炉におけるトリチウム安全取扱技術の信頼性に た事象におけるトリチウム挙動の解析を高い精度で可能 ついては TSTA の実規模燃料サイクルシステムの運転 とし,また,そのトリチウム除去装置の設計をより確か 実績によって基本的に示されたが[27],それを確認し向 なものとし,最終閉じ込め系の信頼性の向上に貢献する 上させる研究を平成6年から7年間に亘って実施した. ものである. 主な成果は以下のとおりである. 294 Review Paper Development of Tritium Plant System for Fusion Reactors Fig. 6 Fig. 5 M. Nishi et al. Measured typical tritium distribution in the vacuum vessel of TFTR. 異常事象模擬試験を実施した.その結果,蒸留塔の断熱 Typical traces observed at the tritium release experiment and corresponding analyzed traces. 30 GBq of tritium was released to the 3000 m3 TSTA main cell and its behavior was monitored at 8 points. 機能が保たれる限り塔内圧力が 0.1 Mpa から 0.2 MPa に 上昇するまでに約90分を要し,この間に塔内の水素同位 体を安全に水素吸蔵金属のベッドに回収できることを実 証した[35]. 4. 3. 2 大型トリチウム取扱機器の除染・処理 水素同位体分離システムに関する安全性を高める上 トリチウム燃料システムを構成し,高度にトリチウム で,蒸留塔内の水素同位体分布を正しく評価し,トリチ 汚染した機器の除染・処理技術の確立は,機器の修理や ウムインベントリが極力小さくなるように設計すること 最終処分のシナリオを確かなものとする上で重要であ が重要である.これまで,TSTA の実規模システムおよ る. び TPL の小型システムによって研究を進めてきたが,さ TSTA では,水素同位体分離システムの改修等で多く らに実規模システムによる系統的データを取得し,精度 の経験を蓄積してきたが,さらに大型システムの除染・ の高い蒸留塔内水素同位体分布の解析を可能とするコー 処理技術の蓄積を目的として JFCU の除染・処理試験を ドを開発しその有効性を確認する成果を得た[36, 37]. 実施した.JFCU にはパラジウム拡散器,触媒酸化反応 4. 3. 4 TFTR 真空容器内トリチウム分布調査 器,コールドトラップ,セラミック電解セル等の機器が 核融合炉の真空容器内トリチウム分布を評価し安全上 含まれ,それぞれについて除染技術データを蓄積し,約 必要なインベントリ制御や解体撤去シナリオを考えてい 330 TBq のトリチウムを回収した後,廃棄物容器に収納 く上で,DT 実験を行った TFTR の真空容器内トリチウ して安全に撤去・処分を完了した[34]. ム汚染分布は貴重なデータである. 本試験は,核融合炉トリチウム燃料システムを構成す 本調査では,真空容器内から系統的に取り出したプラ るシステムの本格的な除染・処理に先鞭をつけたもので ズマ対向炭素系タイル等のトリチウム表面汚染や含有ト ある. リチウム量測定等を実施し,汚染分布のデータを得た 4. 3. 3 水素同位体分離システムの安全工学試験 (Fig. 6) [38‐40].この結果より真空容器内残留トリチウ 深冷蒸留塔水素同位体分離システムは水素同位体の液 ム量が 220 TBq 程度以内であることを確定し,TFTR 体を保有するためにトリチウムインベントリが大きく, 真空容器の解体処理[41]に貢献した. 燃料サイクルシステム中で安全確保上最も重要なサブシ 4. 3. 5 プラズマ対向機器のトリチウム除染技術開発 炭素系材料の使用によってプラズマ対向機器表面に形 ステムである. 成される炭素と水素同位体の堆積層(カーボン共堆積層) 水素同位体分離システムで想定される最大の異常はヘ リウム冷凍機の機能喪失であり,TSTA の実規模の水素 には大量のトリチウムが蓄積される可能性があり,その 同位体分離システムにおいて運転中に冷凍機を停止する 効率的な除去方法の開発が課題となっている. 295 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.79, No.3 March 2003 TFTR から取り出したカーボン共堆積層付のプラズマ 雰囲気における2 40℃程度での酸素ベーキングについて 対向炭素系タイル等を試料として,そのトリチウム除去 も試験を実施し,トリチウム除去に対する酸素添加の効 技術の研究開発を実施した.研究した主な技術は紫外線 果を検証した.本方法の利点は表面から見通すことので レーザー照射,YAG レーザー照射であり,酸素ベーキン きない部分に対しても有効であることにあるが,酸化に グ等についてもデータを取得した. よって生成する水の処理と残留する酸素の影響が今後の 課題である [45]. 光子エネルギーが炭素とトリチウムの化学結合のエネ 4. 3. 6 トリチウム安全工学に関するその他の基礎的な ルギーより大きい紫外線を照射すれば,機器表面に化学 研究 的に結合したトリチウムも原理的には効率的に除去可能 であり,原研において研究開発を進めていた.TFTR プラズマ対向壁におけるトリチウムの透過および滞留 のプラズマ対向機器を用いた試験では,紫外線レーザー 挙動の解明は安全評価上重要である.DT の定常プラズ の照射によって表面のトリチウムを1分程度以内に除去 マから試料に100 eV程度で1 A/cm2 程度のイオンビーム できる結果を得て技術の有効性を実証した(Fig. 7) .ま を供給できる TSTA のトリチウムプラズマ実験装置を た,照射によって放出されたガスの分析では,その後の 用い,タングステン等を試料とした基礎的研究や模擬ダ 処理に注意を要する凝縮性のものは確認されておらず, 化学結合を切断する紫外線の特徴が観測されている.さ イバータの照射試験を通して貴重なデータを取得した [46, 47]. らにその後の研究では,照射のフルーエンスを高めるこ トリチウムを含むガス中では,トリチウムのベータ崩 とによって共堆積層内部のトリチウムを共堆積層自体と 壊に起因する放射化学反応が起こり,さまざまな物質が ともに除去できる結果も得ている[42]. 生成される可能性がある.核融合炉の運転の中で起こり YAG レーザーの照射は,表面の数十ミクロン厚の共 うる放射化学反応について基礎的な研究を進め,多くの 体積層を効率的に 1,000℃ 以上の高温に昇温してトリチ 知見を得た[45, 48, 49]. ウム除去することをめざしたものである.本方法による その他,体積膨張を伴わない高分子固化剤のトリチウ トリチウム除去の有効性も実証し,光ファイバの導入等 ム廃水固化への適用性に関する基礎研究等を実施し,ト による実用システムの開発に向けた研究が進行中である リチウムの安全取り扱いにかかわる知見を蓄積した. [43, 44]. 5.おわりに ITER で検討されている酸素1%程度添加不活性ガス 14年間の日米協力を通して核融合炉のトリチウム燃料 システムに関するプロセス技術と安全工学技術は大幅に 向上し,その基盤の確立に中心的な役割を果たした.こ れらの技術基盤の上に立って ITER のトリチウム燃料シ ステムの工学設計 [50, 51]に貢献しその実現に見通しを 得た.原研では核融合炉の実現に向け,プロセスの効率 化や安全性の向上を図る研究開発をさらに進めている. ITER の核融合出力は 500 MW で設計されており,こ れは 0.9 mg/sec 程度のトリチウム消費率に相当する. ITER の 燃 料 サ イ ク ル シ ス テ ム へ の 要 求 流 量 は 200 Pa・m3/sec であり,トリチウム量として約 270 mg/sec に相当する.また,ITER は運転率2 5%での断続的な運 転を計画しているが,3,000秒までの運転に対応するため に燃料サイクルシステムは定常炉同様の連続処理設計を している.今後,ITER によってなされるであろう核融 合燃焼プラズマの物理や燃料サイクルシステムの工学技 Fig. 7 Removal of tritium from a TFTR plasma facing component with carbon codeposited layer by the ultra-violet laser irradiation (fluence: 0.1 J/cm2-5Hz). 術の進展により,核融合出力が数倍になると想定される 将来の核融合炉においても燃料サイクルシステムの規模 に大きな変化はないあるいはむしろ小さくなることが期 296 Review Paper Development of Tritium Plant System for Fusion Reactors 待される.また,トリチウム安全工学技術については, 先進技術の導入,実績や知見の蓄積を基に,確かな安全 を保持しつつ設備のコンパクト化・合理化を図っていく ことになる. LANLのTSTAは平成1 3年6月の14年間に亘る日米協 力の終了をもってその建設当初の目的のすべてを達成 し,現在その除染・解体計画が進んでいる.また,PPPL のTFTRは平成1 1年10月から始まった除染・解体計画が 安全に完了した. 最後に,日米の付属書Ⅳ協力は核融合炉のトリチウム 燃料システムの研究開発に大きな役割を果たすととも に,技術の面のみならず文化の面でも相互理解に大きく 貢献したことを付記したい. 謝辞 日米協力は14年間の長きに亘って行われ,日米の多く の関係者の多大な努力によって成功裏に完了したもので ある.J.L. Anderson,R.S. Willms,K.M. Young,C.A. Gentile,G. Nardella,松田慎三郎,関 野口 昌弘,二宮博正, 宏,成瀬雄二,奥野健二の各氏を始めとする歴代 関係者に心より謝意を表します. 参考文献 [1]Y. Naruse, Y. Matsuda and K. Tanaka, Fusion Eng. Des. 12, 293 (1990). [2]J.R. Bartlit, Fusion Eng. Des. 12, 393 (1990). [3]関 昌 弘 編:核 融 合 炉 工 学 概 論(日 刊 工 業 新 聞 社,2 0 0 1年) 第1 3章および第1 5章. [4]成瀬雄二:原子力工業, 29, 46 (1983). [5]吉 田 浩:プ ラ ズ マ・核 融 合 学 会 誌 78 Suppl. (ITER 工学設計) , 101 (2002). [6]S. Konishi, H. Yoshida, H. Ohno, Y. Naruse, D.O. Coffin, C.R. Walthers and K.E. Binning, Fusion Technol. 8, 2042 (1985). [7]R.V. Carlson, K.E. Binning, S. Konishi, H. Yoshida and Y. Naruse, Proc. 12th Symp. on Fusion Eng. 732 (1987). [8]H. Yoshida, S. Konishi and Y. Naruse, Nucl. Technol. Fusion 3, 471 (1983). 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