ASTER画像からの影の抽出と都市密度の分類

ASTER画像からの影の抽出と都市密度の分類
Shadow extraction and urban classification from ASTER image using mixed pixel analysis
高知工科大学 ○八塚 直樹
菊池 有起 高木 方隆
1. 背景
3. 使用データ
衛星画像を用いて、都市の密度を知ることができ
表 3.1 は、今回使用したデータである。ASTER 画
れば、より細かい土地利用図を作成することが出
像は、最小15m の分解能で、15バンドの画像情報を
き、防災や都市計画などで役に立つと期待できる。
取得する。本研究では、ASTER 画像より影を抽出し
しかし衛星画像による都市の分類は、ミクセルが
て都市密度の分類を行う。高分解能衛星 IKONOS
問題となり、非常に困難である。中分解能衛星画像
は、1m の分解能をもっており、ミクセルの解析のた
では、1 画素内に何がどれだけの割合で覆われて
めに使用する。DSMは地表面の建築物、木なども含
いるのか解らない。そのため Landsat や ASTER など
めてグリッド型の高さ情報にしたものである。都市密
中分解能衛星画像では、都市の分類は、困難であ
度の検証、影抽出の検証に使用する。分解能は、
る。
1m 程度である。1/2500 の地図をデジタル化した高
また、水と影の問題も無視することはできない。影
と水域の電磁波の反射の特性が似ているため、衛
知市の河川データは水域と影の分離を行うために
使用する。
星画像の水域と影の分離は困難なのである。
表 3.1 使用データ
近年、航空レーザースキャナにより高分解能の
画像取得日時
画像範囲
(縦×横)
DSM を取得できるようになった。DSM とは、空間分
ASTER
2001/10/31
高知市内
解能 1∼2mのランダムポイントデータである。DSM
画像
午前 10:56
2×3km
を用いることにより、中解像度の衛星の影抽出の検
IKONOS
2002/6/15
高知市内
証を行なうことが出来るようになった。
画像
午前 10:43
2×3km
そして高分解能衛星画像を使用することにより、ミ
DSM 画像
高知市内 2×3km
クセル解析の検証も容易となり、中解像度の衛星を
河川データ
高知市内 2×3km
詳しく解析するに足る条件がそろってきた。
そこで、本研究では、中分解能衛星画像の1 画素
中の影の割合を用いることにより、中分解能衛星画
像では困難だった都市密度の分類を行なった。
4. 研究手法
ASTER 画像
IKONOS 画像
DSM
ここで、都市密度とは、あるエリアに高層建築があ
るかないか、またその高層建築が、単一であるか、
複数であるかとした。
幾何補正
イメージマッチング
ポリゴンデー
2. 目的
本研究では、中分解能衛星画像のミクセル解析
及び土地被覆分類を行い、その分類結果を用いて
DSM、建築物
タを用いた都
トレーニングデータの構築
市分類の検証
model を使用して影の抽出を行う。抽出した影は、
Linear Mixture Model
分類結果を用
DSM からシミュレートした影画像を用いて評価を行
による計算
都市の分類を行う。衛星画像より Linear mixture
いた都市分類
い、影、植生の分類結果を利用して都市密度の分類
を行う。
分類結果の検証
図 4.1 研究フローチャート
5.使用データの前処理
画像から消去されてしまう。そこで,本研究では,
5.1 ASTER 画像と IKONOS 画像の Affine 変換
Linear Mixture Model を適用した。あるバンドの
ミクセル解析のために,イメージマッチングを
DN値は,各カテゴリーの面積割合 R と係数 C の
利用して高精度の地上基準点を取得し,ASTER
積和で表されるものである。
画像と IKONOS 画像は Affine 変換によって精密
各カテゴリーにおける係数
幾可補正を行った。対象範囲が狭いため Affine 変
DN i = (C wi * R w + C vi * Rv + Cbi * Rb + C si * R si )
換でも十分適用可能であると考えた。IKONOS
画像を変換させ,ASTER 画像と合致させた。表
水(Cw),植物(Cv),土(Cb),影(Cs)
各カテゴリーの面積割合
5.1 は,幾何補正において発生した平均二乗誤差
を表している。X・Y 方向とも平均二乗誤差は 4m
・… 式1
水(Rw),植物(Rv),土(Rb),影(Rs)
バンドナンバー: i
程度であり,ASTER の分解能 15mに対して十分
な精度とは言えない。しかし,分解能 15mと 1m
とでのイメージマッチングの限界と思われた。こ
この Cw,Cv,Cb,Cs の係数は,トレーニン
グデータを用いて最小二乗法により求める
の状態でも,ミクセル解析においては,ある程度
の傾向が見出せると判断した。
6.2 トレーニングデータの取得
表 6.1 は、今回使用したトレーニングデータの
表 5.1 幾何補正における平均二乗誤差
ASTER 画像における画素数である。まず,ピュ
平均二乗誤差
アピクセルのトレーニングデータを各カテゴリー
X 方向
4.02m
Y 方向
3.71m
20 画素ずつ取得した。
次に,DSM 画像より影画像を作成・シミュレ
ートし,今回使用する ASTER 画像の影を調べた。
5.2 DSM 画像と IKONOS 画像の幾何補正
この影画像を参考にしながら,ミクセルのトレー
高さ情報とカラー情報のイメージマッチングは
ニングデータを取得した。ミクセルに関しては,
困難である。そのため,DSM 画像と IKONOS
1 ピクセル中に 2,3 種類のカテゴリーが含まれて
画像を目視による基準点を用いて Affine 変換に
いるものを取得した。特に水が影として分類され
より幾何補正した。表 5.2 より,平均二乗誤差は
てしまうのを解決するため,ミクセル中に影が含
1m未満となり十分な精度を得ることが出来た。
まれているものを多数取得した。ピュアピクセル
とミクセル合わせて132個のトレーニングデータ
表 5.2 幾何補正における平均二乗誤差
GCP の数
8個
となった。
最後に ASTER 画像の各 DN値と,各カテゴリ
平均二乗誤差
0.27m
ーに対する相関を重回帰分析により求めた(表
最小二乗誤差の和
2.14m
6.2)。可視,近赤,短波長赤外のバンドについて
は相関係数 0.8 以上を示した。
6.Linear Mixture ModelによるASTER画像の分類
表 6.1 トレーニングデータの画素数
6.1 Linear Mixture Model
影なしミクセル
12
影ありミクセル
20
リーが混在している画素のことである。分類を行
影ピュアピクセル
25
う際,このような画素を 1 つのカテゴリーに無理
海ピュアピクセル
20
に属させるべきではない。このような画素を 1 つ
川ピュアピクセル
20
のカテゴリーで代表させると,その瞬時視野内に
植物ピュアピクセル
20
含まれる小面積のカテゴリーが無視されて,処理
土ピュアピクセル
20
ミクセルとは,1 つの画素の中に複数のカテゴ
表 6.2 トレーニングデータにおける各バンドの
たが,面積割合は,精度が低い結果となった。
重回帰分析結果
Band
1
2
相関
0.91
0.92 0.91
8
9
10
0.88 0.89 0.91
3
11
5
12
6
7
0.90 0.87
13
0.87
14
15
0.32 0.41 0.36 0.44 0.36
6.3 Linear Mixture Model における係数
相関の高かったバンド 1,2,3,10 を使い DN
図 6.1 ASTER 画像
値と各面積割合 R に目視分類したピクセル数を
Linear Mixture Model に当てはめ,最小二乗法に
より係数を導き出した。ここで,バンド 10 は分
解能 30m になるのだが,影響は少ないと考え今
回は無視した。表 6.3 は算出された係数のリスト
を示す。
表 6.3 係数計算結果
band
Cw
Cv
Cb
Cs
1
0.2271
0.2224
0.3799
0.2030
2
0.1024
0.1142
0.2771
0.1096
3
0.0681
0.3512
0.2000
0.0959
10
0.0566
0.072
0.1328
0.0779
図 6.2 影画像
6.4 土地被覆分類結果
図 6.1 は、原画像のASTER 画像である。図 6.2
は,Linear Mixture Model によって導かれた影の
面積割合を示している。図 6.3 は分類結果画像で
図 6.3 土地被覆分類画像
ある。白黒印刷で分かりにくいが、赤が建物(土)、
緑が植生、青が水域を表した。原画像と分類結果
表 6.4 トレーニングデータによる精度検証
を目視により比較をしてみると,小規模な河川が
影として分類されてしまった。これは,あまりに
も小規模な河川のため,原画像上でも暗く映し出
データ数
正解
正解率
ミクセル
32
14
43.75%
ピュアピクセル
105
102
97.5%
されることが原因と考えられる。
また,表 6.4 はトレーニングデータにより目視
分類した面積割合のうち最大値を示したカテゴリ
ーと, Linear Mixture Model より導いた面積割
7..河川データを用いたLinear Mixture Modelの改良
7.1 使用した河川データ
ASTER 画像のみの分類では、影を水域と誤分
合Rより求めた最大値を取るカテゴリーを比較し,
類している所が、
画像のあちこちで見受けられた。
検証した。ミクセルにおける目視分類結果と実際
これは、水域と影の反射の特性が似ているからで
の結果の正解率は 50%以下となった。しかし,ミ
ある。つまり、ASTER 画像だけでの影と水域の分
クセルの構成要素となるカテゴリーについては目
離は、難しいと考えた。
視分類結果と同じになった。つまり,1ピクセル
内に含まれているカテゴリーは問題なく分類でき
そこで、河川のGISデータと組み合わせてASTER
画像からの影と水域の分類を試みた。
(図 3.4 参照)
7.5 水域を分離した影画像と分類結果の検証
図 7.1 は、水域・影画像より河川データを用い
7.2 河川データの幾何補正について
て抽出した影画像である。黒い部分が影である。
河川データから水域の情報を取得するので、
図 7.2 は、各分類項目を各色に分けて画像化し
ASTER 画像に対応させなければならない。河川デ
たものである。白黒印刷で分からないが、赤に建
ータは、ポリゴンデータであるので、まず 1m グリ
物(土)、緑に植生、青に水域の面積割合を当ては
ッドの画像に変換し、ASTER 画像に対応させた
めた。河川と影が分離されているのが確認できる。
IKONOS 画像を使用して幾何補正をおこなった。
河川データを用いた場合の影の分類結果の検証
河川データは、目視による対応点の抽出をし、
を行った。検証をおこなった結果、17.8%の分類誤
Affine 変換により幾何補正を行った。表 7.1 は、
差があった。ASTER 画像のみの場合より、3%精度
河川データの幾何補正時の平均 RMS エラーを表し
が向上した。残りの誤差は、画像の撮影時期が違
ている。平均二乗誤差は、1m 程度となり十分な精
っていることや、ASTER 画像と IKONOS 画像の幾何
度を得ることができた。
補正の精度によるものだと考えられる。本研究で
使用したデータでは、この分類が精度の限界であ
表 7.1 幾何補正における平均二乗誤差
方向
平均二乗誤差
x
0.99m
y
1.21m
GCP
7個
ると考えた。
7.3 河川データを用いた分類手法
影と水域を 1 つのカテゴリーとして植生、建物
(土)、水域・影の 3 分類で Linear mixture model
を改良し分類を行う。そして、水域・影の分類結果
より河川データを用い、水域と影の分離を行った。
図 7.1 水域を分離した影画像
DNi =(Cwsi *Rw +Cvi *Rv+Cbi*Rbi )
Rwsi+Rvi +Rbi =1
トレーニングデータは、データ(表 6.1)の影
と水のピクセルを足したものをそのまま使用する。
7.4 河川データを用いた Linear Mixture Model係数
分類に使用する ASTER 画像のバンドは、相関
図 7.2 植生・水域・建物(土)の分類結果の合成
の高かった 1.2.3 バンドを使用する。表 7.2 は河川
データを用いた Linear mixture model 係数である。
8.都市密度の分類
8.1 本研究での都市密度
表 7.2 河川データを用いた Linear mixture model 係数
本研究では、ASTER 画像より分類された分類
影・水域
植生
建物(土)
結果を用いて都市分類を行う。まず本研究での都
バンド1
0.2178
0.2315
0.3839
市分類の定義付を行った。本研究での都市密度と
バンド2
0.1068
0.1254
0.2811
は、あるエリアにおいて、高層建築が多いか、低
バンド3
0.0771
0.3399
0.1933
層建築が多いかということと、高層建築が密集し
ている単一高層か、複数高層群かということとす
る。この定義をもとに都市分類を行った。
8.3 グリッドによる都市密度分類
図 8.3 は、画像を 150m グリッドで区切った
ASTER 画像の分類結果の画像である。1 グリッ
ドを 1 エリアとし、そのエリアの中の影の面積割
合の値を調べることによりグリッドで都市密度の
高層建築エリア 1
高層建築エリア2
分類を検証する。
単一高層建築エリア2 低層建築エリア2
複数高層建築群エリア2
複数高層建築群エリア2
単一高層建築エリア1
低層建築エリア1
図 8.1 都市密度分類のエリア区域
8.2 都市密度の分類手法
図 8.2 は、本研究における都市密度の分類の手
図 8.3 グリッド化した影画像
順である。まずあるエリアの水域がエリアの半分
以上を占めていたら水域とする。そして次に植生
8.4 分類結果
の面積割合と植物影がエリアの半分以上を占めて
図 8.4 は、都市密度分類の結果である。緑を植
いたら植生域とする。そして建物影の面積割合の
生・青を水域・茶を低層建築・灰を単一高層建築・
大小で、そのエリアの高層建築の有無を調べる。
白を複数高層建築と表している。
エリアの分類
水が半分以下
No
水域
Yes
植生・植生影
No
が半分以下
植生
図 8.4 都市密度分類の結果
Yes
建物影の面積割
No
合が一定以上
低層住宅
検証には、IKONOS 画像と建物のみの高さの
DSM を用いた。グリットで分類されたカテゴリ
Yes
影が単一である
8.5 都市密度分類の検証
No
複数高層建築郡
Yes
単一高層
図 8.2 都市密度分類のフローチャート
ーを IKONOS 画像、DSM 画像を用いて目視で確
認を行った。
図 8.5 と図 8.6 は、グリッド化した、IKONOS
画像と DSM 画像である。この画像を用いて目視
判読で分類結果の検証を行った。
ては、高いビルは存在するがビルの面積が小さい、
建築物の向きによって影が小さくなるといった理
由が挙げられる。
植生エリアと水域エリアは、IKONOS 画像と
目視により比較したところ、うまく分類された。
9. 考察
影を用いた都市分類では、Linear mixture model
図 8.5 都市密度分類検証用の IKONOS 画像
で求めた影画像を用いて分類を行った。グリッド
に区切り分類をおこなった結果、
82.4%の精度で、
分類をおこなうことができた。しかし高層建築エ
リアが低層建築エリアと誤分類されているところ
が市街地にいくつかあった。原因として考えられ
るのは、市街地の商店街などアーケードのように
建物と建物の間が開いていないエリアは、高低差
がなくなるので、影のできる面積が少ないためだ
と考えられる。しかし建物と建物の間に 15m以上
の道路があれば、分類可能であると考えられる。
図 8.6 都市密度分類検証用の建物 DSM 画像
今後は、ASTER 画像の他時期での分類を行う
必要がある。ASTER 画像撮影時の色々な太陽の
図 8.7 は、目視判読により分類結果を検証した
方位、高度で都市密度を分類することにより影と
結果を表したものである。上と左にある数字は、
都市密度の関係を明らかにしていけると考える。
グリッドの番地を行列で示すのに利用する。白で
示されたグリッドは、分類項目が正しいと判断し
【参考文献】
たところである。高層建築か否かは、20m以上の
[1] 吉野 敦雄:草原において土壌の状態が人工
建築物があった時とした。
衛星に及ぼす影響,高知工科大学修士
論文,研究室資料より,2003 年1月
[2]竹内 歩:衛星リモートセンシングによる土地
被覆特性解析に基づいた湿地域からの
メタン発生量の推定,東京大学修士論
文,HP より DL,2001/02/14.
[3]門田 貴江:高分解能衛星画像における地上基
準点の取得方法,高知工科大学修士論
図 8.7 都市密度分類の目視分類結果
分類の正解率は、216 個中 178 個が正解と判断
文,研究室資料より,2003 年1月
[4]日本リモートセンシング研究会:リモートセン
でき、82.4%の正解率であった。特に市街地の多
シングハンドブック,宇宙開発事業団,
くのエリアで、高層建築エリアが、低層建築エリ
pp98‐108
アに誤分類された。
また分類が不正解であったグリッドの理由とし
[5]村井俊二:空間情報工学(1999),日本測量協会