教育 ICT の現場から - 教育スクウェア×ICT

“教育スクウェア×ICT”
フィールドトライアルレポート
教 育スクウェア× I C T フィールドトライアルレポート
教育 I C T の 現場 から
3年 間 の 実 践 から見えた“ 使い続ける” ための成 果と課 題
“教育スクウェア×ICT ”
フィールドトライアルレポート
教育ICTの現場から
3年間の実践から見えた“使い続ける”ための成果と課題
「“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルレポート」
発刊に寄せて
特集
フィールドトライアルならではの
取り組み
コラム
つなぐ + ひろがる教育ICT
vol.1 インタビュー 認定NPO法人カタリバ
“教育スクウェア×ICT”
21世紀を生きる子どもたちのために私たちがやるべきこと
フィールドトライアルレポート
白鷗大学教育学部長 教授
INDEX
情報通信技術がつなぐ子どもたちの学び
総務省 情報流通行政局
佐藤 安紀
情報通信利用促進課長
赤堀 侃司 氏
子どもたちの
「確かな学力」
を育むために
文部科学省 生涯学習政策局
豊嶋 基暢
情報教育課長
氏
04
06
特別企画
その❶「つなぐ授業」
の実践
12
その❷「協働学習」
の促進
16
その❸「家庭学習」
への挑戦
18
氏
07
“教育スクウェア×ICT”
フィールドトライアル サマリー
08
ご挨拶
第1章
第2章
52
vol.3 インタビュー 国立天文台
副台長 教授
vol.4 インタビュー 広島平和記念資料館
104
元館長
106
鵜浦 博夫
第3章
渡部 潤一 氏
前田 耕一郎 氏
おわりに
70
86
108
第4章
実践事例
事例
21
フィールド紹介
ルド紹介
53
ICT環境
環境
71
成果と課題
87
算数
22
秋田県山本郡八峰町
55
1.コンテンツ
73
1人1台のタブレットは新たな学びの価値を生んだのか
90
ラウンドテーブル アドバイザリメンバに聞く
理科
28
新潟県岩船郡関川村
58
2.アプリケーション
76
ICTは子どもたちにどのような具体的効果をもたらしたのか
91
フィールドトライアルの成果と課題
そして教育ICTのこれから
社会
60
3.タブレット端末
93
神奈川県川崎市
ICTならではの
「つなぐ授業」
はどのような価値を生んだのか
34
80
無線LANなどのインフラ環境は教育現場で十分に機能したのか
94
その他
42
岡山県倉敷市
62
4.インフラ環境
82
アプリケーションは教員の負担感を取り除くことに役に立ったのか
95
中学校英語
48
鹿児島県大島郡与論町
64
5.サポート
84
教員がICTを活用し続けるための意欲の源泉とは
96
教員がICTを使い続けるために必要な研修等の仕組みは何か
97
教員のICT活用を支えるために必要な支援体制とは
98
ICTを有効に活用するための活用モデルはあるか
99
教科アドバイザインタビュー
算数
理科
社会
英語
2
『教育の情報化』
推進フォーラム
ICTが支える教育の未来
日本電信電話株式会社 代表取締役社長
鶴賀 康久 氏
20
66
教員に聞くフィールドトライアル
教員が語るICT活用、
教壇からの本音
今村 久美 氏
東北復興事業部
統括ディレクター
vol.2 レポート
子どもたちに聞くフィールドトライアル
小学5年生が本音で語った
教育ICTの可能性
代表理事
筑波大学附属小学校 教諭
田中 博史 氏
27
株式会社ベネッセコーポレーション
ベネッセ教育総合研究所 理事長 新井
102
健一 氏
東京書籍株式会社 ICT事業本部
営業部長 川瀬 徹 氏
株式会社学研ホールディングス
代表取締役社長 宮原 博昭 氏
鳴門教育大学大学院 准教授
藤村 裕一 氏
33
教育ICTの普及・定着に向けて社会全体で解決すべきこと
100
東京学芸大学 教授
川﨑 誠司 氏
41
東京外国語大学大学院 教授
投野 由紀夫 氏
51
※記載されている会社名・製品名・サービス名は各社の登録商標または商標です。※記載されている所属・肩書・児童生徒数等は、原則として2014年3月時点のものです。
※グラフ等は、四捨五入による単位の繰り上げで内訳の数値の合計と合計欄の数値が一致しない場合や、構成比(%)の合計が100にならない場合があります。
3
「“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルレポート」
21世紀を生きる
子どもたちのために
私たちがやるべきこと
NTTグループが2011年度第1四半期から取り組
切り離されていましたが、これをつなぐことによる
いることを実感した出来事でした。それ以降、
「ICT
んだ“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアル
効果や課題については今後も研究余地のあるテー
はどう教育に関われるか、いかに世の中の役に立て
が、去る2014年3月に終了しました。私は、本トライ
マであると考えています。
るか」を純粋に議論しながら本トライアルを進めて
アルのラウンドテーブルの座長として3年間の実践
年2回開催された
「フィールド連絡会」
では関係者
きました。そうした揺るぎない姿勢のもと、NTTグ
を見守ってきましたが、振り返って最も強く感じるの
が一堂に会し、情報交換や議論を行いました。地域
ループにはこれからも教育に関わっていただくこと
は3年間という時間の重さです。
を越えた教員同士が同じテーブルで議論するワーク
を期待しています。
1年目の学校現場は新しいデバイスを使うのに四
ショップは回を重ねるごとに洗練され、同時に熱を
苦八苦をしており、NTTグループも試行錯誤の段階
帯びた真剣な授業研究に発展していきました。議論
でした。車の運転に例えるなら、
まるで初心者がハン
をより一段高いレベルに導いた教科アドバイザであ
ドルにしがみついているようなもので真っ直ぐ進む
る大学教員の皆さまの存在も大きく、新たな授業研
こともままならない。何とかハンドルを意識せずに
究の在り方として、大いに参考になるものでした。
運転できるようになったのが2年目。そして3年目に
この3年間で何度か実践現場にも足を運びまし
なり、
ようやく思い通りの目的地を目指せるように
た。岡山県倉敷市立粒江小学校では、あるベテラン
なりました。当初は興味・関心の喚起や知識定着の
の教員の授業を拝見しましたが、道具の使うタイミ
ために使われていたICTが、ついには思考・判断・表
ングが絶妙だったことを覚えています。話の途中で
現の道具になった。ICT支援員の活動を見ても、教
急に声を落として子どもたちの注意を引いた上で電
員の機器操作支援が中心の活動から授業構想の
子黒板に注目させるなど、子どもたちも授業に引き
パートナーとして関わるようになりました。
込まれ、充実感を覚えて授業を終えたようでした。
このことが示すように、新たな挑戦の成果は一朝
ICTという道具を使いこなすにも、授業構想力や指
一夕に挙げることはできません。教育ICTの実践に
導力といった教員が本来的に有する力が土台として
着手した学校現場や、
これから実践を始めようとし
大切だということを改めて実感しました。
ている教育委員会等の関係者に対しては、何よりも
秋田県八峰町の授業を参観できたことも強く印
腰を据えて取り組んでいくことの大切さをお伝えし
象に残っています。この町には学習塾がありません
たいと思います。
が、学力は全国トップです。海と山に挟まれたその狭
そして教育を取り巻く関係者それぞれが、勇気を
持って未来を見つめていくことを願っています。
21世紀を生きる子どもたちのために。
い土地の一等地である高台に学校があり、学校や家
白鷗大学 教育学部長 教授
赤堀 侃司 氏
発刊に寄せて
本トライアルの特徴の一つが、1人1台のタブレッ
庭はもちろん町を挙げて子どもたちを大切にしてい
トによる授業実践でした。普通教室への導入が進ん
ることを肌で感じました。このような町がICTを積
でいる電子黒板は、教員が指導のために使う道具で
極的に受け入れている姿を目の当たりにし、教育の
あり、明治以来脈々と実践されてきた従来型の授業
ICT化が子どもたちの将来を豊かなものにするため
展開の延長で活用できる、いわば教員が安心して使
に正しい方法であることを、改めて確認することが
うことができる道具です。
これに対して、児童一人ひ
できました。
とりにタブレットという道具を委ねるということは、
4
教室にパラダイムシフトを起こすことであり、教員に
プロジェクトが立ち上がり、
いよいよフィールドト
とっても大きな不安がつきまとう変化だったかと思
ライアルが開始するという矢先に東日本大震災が起
います。
しかし、タブレットと授業支援システムの活
こりました。私自身、
日本が危機に
用が相まって、子ども同士が活発な議論を交わす協
見舞われている状況下でICTのプ
働学習が実現されました。
これは本トライアルの大
ロジェクトを進めてよいものか、大
きな成果の一つです。
いに戸惑いました。そしてNTTの
また、
クラウドで学校と家庭をつなぐという、今ま
鵜浦副社長(当時)
とも議論し、被
でになかった学習を実現したことも特徴的でした。
災地支援も同時進行しながら進め
本トライアルを通じて、
タブレットを持ち帰った子ど
ていくことになりました。NTTグ
もたちの学習時間が増えたという結果も明らかに
ループが子どもたちのため、日本
なっています。これまで学校と外の世界はほとんど
の教育のために真剣に向き合って
赤堀 侃司
(あかほり かんじ)
士。専
1944年広島県呉市生まれ。工学博士。
教佃を
門は教育工学、科学教育。高校で教佃を
習の関
執った経験も踏まえ、
メディアと学習の関
。
係性について実証的に研究している。
白鷗
人日本
大学教育学部長 教授、一般社団法人日本
テスト
教育情報化振興会会長、NPO教育テスト
名誉教
研究センター理事、東京工業大学名誉教
授。
『 教育工学への招待 新版』
( 単著、
教科書
ジャムハウス、2013年)、高等学校教科書
『社会と情報』
(編集代表、東京書籍、2012
年)
ほか編著書多数。
PROFILE
OFILE
5
「“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルレポート」
発刊に寄せて
情報通信技術がつなぐ
子どもたちの学び
総務省
情報流通行政局
「“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルレポート」
発刊に寄せて
子どもたちの「確かな学力」を
育むために
情報通信利用促進課長
文部科学省
生涯学習政策局 情報教育課長
佐藤 安紀氏
教育分野のICT利活用を促進するため、総務省ではこれまで「フューチャースクール推進事業」を通
じた学校教育での実証と技術検証に取り組んできました。
実証研究の成果をとりまとめた「ガイドライン2013」では、ICT環境の導入・運用にかかるコスト
を踏まえた段階的な方策を整理し、一つのモデルとして提示することができました。
「 ガイドライン
2014」では、無線LAN環境に関わる情報などをとりまとめました。教室の無線LAN環境は、約40人
豊嶋 基暢氏
文部科学省では、ICTを活用した「新たな学び」を創造するための実証研究として、2011年度から
「学びのイノベーション事業」に取り組んできました。1人1台の情報端末や電子黒板を使った授業を
進めてきた結果、
いくつかの成果や課題が明らかになっています。
ICTを活用した指導方法の開発においては、言語活動の活発化に向けて協働学習や個別学習に取り
組んだ結果、教科ごとの特性など効果的な指導・活用方法が見えてきました。
もの児童生徒が同時一斉にアクセスするという過酷な状況に耐える必要があります。教育の情報化
学習者用デジタル教科書の開発においては、単なる紙の置き換えではなく、デジタルでなければで
に取り組むさまざまな関係者にこうした現実を理解していただくとともに、無線LANの導入・運用の
きないことに注力しました。今後は、多様なOSの情報端末に対応するための標準化や学習記録の蓄積・
参考となる情報を提供していきたいと考えています。
活用が課題です。
ICTを活用した教育の効果検証では、3年間を通じて児童生徒が持続的に関心・意欲を持って取り
フューチャースクール推進事業では、主に、教育現場でICT機器等を活用する際に発生する課題を
組んだことや、教員のICT活用指導力の向上といった効果が確認できています。
いかに運用で解決していくかという視点でガイドラインをとりまとめてきました。一方で、教育の情報
化を進めていく上では、技術的に解決が必要な課題も多くあり、今後は文部科学省の事業と連携しな
がら、
「 先導的教育システム実証事業」に取り組んでいきます。本事業は、クラウドコンピューティング
を活用して、学校・家庭をシームレスにつなぐ教育・学習環境を実現する教育ICTシステムの在り方
について実証研究を行うものです。また、多様な端末からシステムへアクセスできるような技術的標
準化も目指します。
昨日学んだことを今日の授業へ、今日予習したことを明日の授業へ、学校で学んだことを家庭での
学習へ、
「 学び」を「つなぐ」ことで子どもたちの学習はより豊かなものになるはずです。クラウドや通
信ネットワークという技術で、それを支えていきたいと考えています。
このような成果と課題を踏まえ、文部科学省では引き続きICTを活用した「新たな学び」の推進に取
り組んでいきます。
取り組みの第1の柱となるのが「先導的な教育体制構築事業」です。総務省と連携し、学校間、学校・
家庭が連携した新しい学びを推進するための先導的な教育体制の研究開発を行っていきます。
第2の柱が「情報通信技術を活用した教育振興事業」です。ICTを活用した教育効果を明確化するた
めの成果指標等の策定や、教員のICT活用指導力向上に向けた指導方法や研修モデルの開発に取り
組んでいきます。
なお、学校のICT環境整備に必要な経費は、地方交付税による地方財政措置がなされており、2014
年度の予算は約1,678億円となります。毎年同規模の財政措置がなされていますが、予算を活用しき
れていないのが実情です。自治体関係者に対しては、本予算の積極的な活用を、民間企業に対しては、
これから教育情報化に取り組む自治体は、まずできることから始めるという姿勢が大切です。教育
情報化の効果・課題はやってみてこそ実感できるものです。また、子どもたちの「学び」は民間企業も
本予算の認知を高め自治体の取り組みを活性化するための提案・情報提供をお願いしたいと考えて
います。
含めて社会全体で支えるべきものです。これからはクラウドで学習を記録・保存・活用して学習指導
の改善につなげていくような時代となるでしょう。そのための教育ICTシステムの在り方は民間も含
めてオープンに議論し、規格の共通化を模索・検討していくべきものと考えています。
6
教育情報化の推進を通じて子どもたちの「確かな学力」を育むためには、自治体・教育委員会・教員
といった教育現場の研鑽はもちろんのこと、民間企業のサポートも重要です。NTTグループは、長期間
“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルでの実践を拝見し、先生方が熱意や意欲を持って取
にわたる本格的なフィールドトライアルを実践し、教育情報化に必要な多くのノウハウを蓄積されたこ
り組んでいたことが印象に残っています。NTTグループには、今後も引き続き民間の立場として教育
とと思います。この経験で得られた知見を広く世に共有していただくとともに、今後も民間の立場から
情報化の機運を盛り上げていただくことに期待しています。
ご支援いただけることを期待しております。
7
フィールドトライアル サマリー
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
“教育スクウェア × IC T” フィールドトライアル 概要
2011年度から3年間、全国5自治体、延べ12の公立小中学校の協力を得て、教育ICTの実践と
検証を行いました。
小学校は5年生の算数・理科・社会、
中学校は2年生の英語を対象とし、学校だけでなく、家庭へ
の持ち帰り学習も行いました。
教室に電子黒板、児童1人にタブレットを1台配布したほか、教育クラウドでさまざまなコンテ
ンツやアプリケーションを提供し、ICT支援員などのサポートも充実させました。また必要に
応じ家庭のブロードバンド環境も用意しました。
教材会社などのパートナー企業や学識経験者・有識者の協力を得て実施し、
トライアル期間中
の費用はNTTグループ6社で負担しました。
●取り組みイメージ
(
デジタル図書館
児童生徒に対する成果
「使い続けられる」ICT環境が実現しました。例えば電子黒板は
約50%
(平均)、
タブレットは約25%
(ピーク月)の授業で利用さ
れ、なくてはならないものになりました
児 童 生 徒 の 関 心・意 欲・態 度 の 向 上 は もちろん 、思 考 力・
)
ドリル等の配信、学習進捗、履歴等を
統合的に管理するシステム
デジタル副教材の
ライブラリシステム
電子安全連絡網
成果
表 現 力の向 上にも効 果がありました
LMS
Learning Management
System
成果と課題
教育クラウド
授業支援システム
メール、
電話、
FAX等複数のメディアに
一斉伝達ができる連絡網
校務支援システム
I C T が きっか けで 多くの 児 童 が 学 習 を 好 きになりました
( 特 に 算 数・理 科 )
教材作成や
タブレット配信等の
ための支援システム
学習ポータル
(教員用・児童用)
国内外の
学校
勉強が苦手な児童の関心・意欲を高め、勉強が得意な児童の
思考力・表現力を高める効果がありました
家庭
学校
自宅学習等家庭との連携
学びの価値を高める授業実践
交流授業
タブレットの有効な活用法が見えてきました。特に授業支援シス
タブレット端末
電子黒板
タブレット端末
無線LAN
テムによる電子黒板との連携により、協働学習が促進されました
高セキュリティのブロードバンドネットワーク環境
サポートデスク
●対象学年
●対象教科
ICT支援員
教員や児童生徒が安心して使えるサポート体制
小学校5年生
中学校2年生
※自治体により、
実施内容は異なります。
遠 隔 地との「つなぐ授 業 」が 大 好 評でした
●フィールド校一覧
秋田県八峰町
新潟県関川村
神奈川県川崎市
八森小学校
関川小学校
南百合丘小学校
家庭へタブレットを持ち帰ることで、学習時間が伸びるなど児
岡山県倉敷市
鹿児島県与論町
童の学習意欲が高まることが分かりました
塙川小学校
水沢小学校
八森中学校
粒江小学校
峰浜中学校
玉島北中学校
茶花小学校
那間小学校
与論小学校
タブレットの家庭への持ち帰りなどICTがきっかけとなって、家庭に
おける親子のコミュニケーションが活発になりました
8
9
フィールドトライアル サマリー
成果(続き)
課題
教員に対する成果
実践を通じて明らかになった課題
「児童に対する教育効果の実感」が教員のICT利用を促すこと
が分かりました
授 業 構 想力の高い教員ほどI C Tを授 業で活用していて、IC T
家 庭 へのタブレットの持ち帰りを日々行うには至りませんで
した。家 庭 学習を促 進する仕 組みが 求められます
ゲ ーミフィケ ーションは 学 び の 動 機 づ けとしては 有 効 です
が 、持 続 性に課 題があることが 分かりました
スキルとは無 関 係でした。ベテラン教員の方が I C Tを授 業で
使いこなせるという結果になりました
ICT支援員の役割は重要ですが、教員のICT習熟度が高くなる
につれ、支援員の役割は変化し、支援量も減少しました
「ICTを導入することで教員の負担が増える」
という声もありま
すが、適切なICTの選択と正しい使い方をすれば、教員の負担感
「つなぐ授業」の継続には、準備の負担軽減が必要です
教員の求めるコンテンツは質・量ともにまだ不足しており、
熱意のある教員がコンテンツを自ら簡単に作成し、またそれを
共有できる仕組みが求められます
教 科 特 性 や 授 業 の 場 面 に 応じた I C T の 有 効 な 活 用 方 法 に
関しては、まだまだ研 究の余 地があります
軽減につながることが分かりました
使い続けることで教員のICT活用指導力だけでなく、授業構想
力そのものも向上することが分かりました
約7割の保護者がタブレットの費用負担を許容する一方、負担の
許容額と実際の価格にはまだ開きがあります。タブレットを含む
ICT環境構築・運用に要する費用は下がってきていますが、さら
なる低廉化が必要です
社会全体で取り組むべき課題
他 の 教 員や有 識 者との 交 流 が I C T の 活 用を後 押しすること
が 分かりました
教員がICTの技術的な問題やセキュリティに悩まされることの
ない、安心・安全なICT環境を継続的に提供することができました
学校のICT化を推進するための国・自治体の継続的な予算措
置のあり方、また家庭、企業、地域社会などによる広範な費用
負担の検討が必要です
教 材 会 社など幅 広い事 業 者が 、コンテンツを持 続 的に開 発・
供給できるエコシステムの構築が望まれます
…など
10
11
特 集
フィールドトライアルならではの取り組み
「 つなぐ授 業 」の実践
その❶
教員や児童の評価に見る
「つなぐ授業」
の成果
図表1「つなぐ授業」実施後の児童アンケートの結果
20%
アンケート調査の回答では、
「つなぐ授
学校と社会、学校と世界がつながる
楽しく学習できた
95.4%
欲の向上を実感しています
(詳細について
自分の考えを
まとめることができた
による教員や児童の声を紹介します。
インターネット
つなぐ授業の仕組み
「つなぐ授業」とは、インターネットに
接続された電子黒板などを介して、教室
天文台とつないだ授業では、宇宙や天体
について不思議に思ったこと、知りたいこ
とについて次々と児童から質問が挙がり
ます。
中学校向けでは、オーストラリアの中学
イムにつなぎ、講義や児童との質疑応答を
生との交流授業も行いました。そして、生
行う遠隔授業です。
きた 英 語 に触 れることによるコミュニ
技術記念館と社会の単元「工業」の授業と
12
上がりました。また、東京都三鷹市の国立
とさまざまな施設や専門家とをリアルタ
小学校向けでは、愛知県のトヨタ産業
72.5%
出所)
「つなぐ授業」実施後のアンケート
(2011年実施 トヨタとの
「つなぐ授業」について)
教員の声
児童の声
・この授業を機会に、宇宙にとても興味を持った。
これからも宇宙に
ついていろいろ調べたい。
・星の平均年齢がよく分かった。分からなかったことがよく分かるよ
うになった。
・いままで分からなかったことが、
よく分かった。今日は発表できな
かったけれど、
今度は自分から発表してみたいです。
・社会の事が苦手だったんですが、好きになりました。
フィールドトライアルの3年間を通じて、子どもたちの好奇心や
探究心を育み、学習への意欲や理解を高めるさまざまな
「つなぐ授業」を行いました。その一部をご紹介します。
学 校
テレビ会議
システム
ICTのメリットを活かし
遠隔地とリアルタイムにつなぐ
89.0%
自分の考えをうまく
伝えることができた
高い評価を得ています
(図表1)
。
アンケート
フィールドトライアル
3年間の主な「つなぐ授業」
「つなぐ授業」の授業実
践模様については、以下
も参照してください。
●情報と社会 40ページ
●小学校英語 43ページ
●国語 45ページ
●中学校英語 49ページ
100%
的な実施に前向きで、特に児童の関心・意
・児童が普段体験できない世界に触れることで、
学習内容を印象づけられるだけでなく、世界観
を広げる効果がある。
・学習内容と関連づけることで、児童の理解が深
まり、
一部ではテストの点数が向上した。
・児童の職業観や生活態度に対する影響も見ら
れた。
ミュージアムなど
ミュージア
アムなど
80%
95.7%
は「第4章 93ページ」に掲載)。児童からも
「つなぐ」をキーワードにさまざまな 活 動を展 開してきたフィー ルドトライアル 。その 取り組 みを象 徴する一つが 、
自動車会社のミュージアムや海外の学校といった、簡単に訪れることができない施設などとインターネットを介して行う
「つなぐ授 業 」です。3 年 間を通じて教員や児 童から高い評 価を得た一 方で、継 続 的に取り組 むにあたっての課 題も
見えてきました。
60%
学習したことがよく分かった
業」を経験した全ての教員が今後の継続
ICTの活用で、地理的な制約を超え
40%
N=345
ケーション活動の活性化を図りました。
移動や距離の制限を超える
「つなぐ授業」
して実施。地元に自動車工場のない離島
は、まさにICTならではのメリットを活か
の児童からは、新鮮な質問や驚きの声が
した取り組みとなりました。
トヨタ産業技術記念館
インドネシア・バリ島
社会の単元「工業」
に関する授業の
中で、自動車の製造工程の説明や
実際に働く人との質疑応答を通じ
て自動車生産への理解を深めまし
た。児童から「未来のクルマ」につ
いて提案が出るなど楽しい授業と
なりました。
バリ島に暮らす同世代の子どもた
ちと、外 国 語( 英 語 )や日本 語 を
使った会話を通じて
「伝わる喜び」
を実感。
また、バリ舞踊や地域の踊
りの相互紹介を通してお互いの国・
文化への興味・関心を高めた授業
となりました。
国立天文台/ハワイ観測所
米づくり農家
日本 の天 文 学 のナショナルセン
ターである国立天文台(東京都三
鷹市)や、世界最大級・最先端の望
遠鏡「すばる望遠鏡」を擁するハワ
イ観測所と
「宇宙のひみつを探る」
をテーマにした特別授業を行いま
した。
社会の食料生産の授業では、新潟
県南魚沼市の農家と教室をつな
ぎました。米づくりに使われる道
具を見たり話を聞いたりすること
で、食料生産に従事している人々
の工夫や努力について認識を深
めました。
報道スタジオ(アナウンサー)
椋鳩十文学記念館
社会の情報産業の授業では、東京
都内の報道スタジオと教室をつな
ぎました。テレビ番組制作に関わ
る人たちの話を聞き、情報が生活
に及ぼす影響や情報を発信する側
に求められる役割や責任について
学びました。
国語の授業では、教科書の題材で
ある椋鳩十の作品「大造じいさん
とがん」への理解を深めるため、鹿
児島県姶良市の椋鳩十文学記念
館との「つなぐ授業」を行い、作品
が描かれた背景や作者の人柄につ
いてお話を聞きました。
13
特 集
フィールドトライアルならではの取り組み その❶ 「 つなぐ 授 業 」の実践
声が上がっています。
実践から見えてきた
今後の課題
さらに、
「つなぐ先に交渉してもらえる
ような仲介役も必要」
という意見も寄せら
児童が教室にいながらにして、
日常では
れています。学校現場が日々手軽に継続す
決して体験できない世界に触れることが
るためには、つなぐ先とのコーディネート
できる「つなぐ授業」。今後の継続に対し
をサポートする仕組みが求められており、
前向きな声が寄せられる一方で、課題も
教育を取り巻く関係者が連携し、継続して
明らかになっています。教員からは「授業
解決の道を模索していく必要があります。
ミュージアムや企業から見た「つなぐ授業」の成果と課題
「教室の外にいる当事者」
にとって
「つなぐ授業」
は、
どのような価値があったのでしょうか。
社会科の自動車
工業に関する
「つなぐ授業」
でご協力をいただいた関係者にお話を伺いました。
リアルタイムで伝わった
子どもたちの想い
クルマやモノづくりへの
関心を高めるために
トヨタテクノミュージアム
産業技術記念館 館長
トヨタ自動車株式会社
広報部 メディアリレーション室
商品・技術広報グループ長
飯島 修 氏
本多 誠之 氏
設計や目的がしっかり計画されていない
と、
学習効果を得ることが難しい」
といった
「つなぐ授業」の舞台裏
〜トヨタ産業技術記念館との授業から〜
トヨタ産業技術記念館との
「つなぐ授業」
では、
現地スタッフがタブレット端末を用いて撮影。
タブレット
端末の機動力を活かし、
ミュージアムの中を動き回る授業を実施しました。生産ラインを説明する場面
では教室の児童や教員とクイズのやりとりを行いました。また、質疑応答の場面では関連する資料・
映像を教室の電子黒板に提示するなど臨場感ある授業を実施しました。
−
「つなぐ授業」
参画の経緯をお聞かせください。
−この3年間の感想をお聞かせください。
本トライアルの話があった当時、私はトヨタ
自動車広報部の立場で「つなぐ授業」に関わりま
した。
かつては教科書副読本の制作に関わったこ
ともありましたし、小学校に出向いての「出張授
業」
も以前から実施していました。
もっと簡単に、
子どもたちにクルマを身近に感じてもらいたいと
考えて、
NTTグループのプロジェクトに協力させて
いただくことにしました。
こうした縁もあり2年目
以降は舞台を産業技術記念館に移して「つなぐ
授業」
を行うことになりました。
ネットを介しても子ども
のリアクションが肌感覚で
伝わりました。未来の自動
車を紹介した際の子ども
たちの歓声や笑顔を見聞
きし、クルマづくりに携わ
る私たちも大いに励まさ
れました。私自身も子ども
時代に抱いたクルマへの
憧れの気持ちを覚えてい
ますから、今回の取り組み
を通じて、子どもたちが少しでもクルマの魅力を
感じてくれたら幸いです。また3年間の舞台裏を
振り返り、ICTの進歩の早さも実感しています。
1年目は本格的な撮影機材と大掛かりな準備
で臨みましたが、3年目ともなると、タブレット
端末のカメラによる撮影でも十分な画質を担保
でき、かつ、ミュージアムを歩き回っての機動的
な授業ができるようになりました。まさに、驚く
べき進歩でした。
−参画してみて評価や感想をお聞かせください。
1
いよいよ授業スタート。
タブレット端末内
蔵のカメラを使い、展示ブースを動き回
りながらライブ中継を実施。
2
生産ライン紹介場面の途中、クイズを
出し教室と会話しながら授業を進めま
した。
産業技術記念館では社会科見学を積極的に受
け入れておりますが、
インターネットを介しても、
子どもたちがワクワクしながら参加していること
がリアルタイムに伝わってきました。
子どもたちか
ら寄せられる質問も的確で、
こちらの意図がきち
んと伝わっていることを実感しました。
−
「つなぐ授業」
継続には何が必要とお考えですか。
3
中継の最中でも児童の反応が分かるよう
に、
もう1台のタブレット端末で教室の様
子を確認できるような工夫も。
4
質疑応答の場面。児童の質問に対して
動画などを提示しながら解説しました。
トヨタテクノミュージアム 産業技術記念館
トヨタグループ発祥の地である工場の建物を産業遺産として保存しな
がら、近代日本の発展を支えた基幹産業の一つである繊維機械と、現代
を開拓し続ける自動車の技術の変遷を通して、
「 研究と創造の精神」と
「モノづくり」の大切さを、次代を担う人たちへ系統的に伝える施設。
[所在地]〒451-0051 名古屋市西区則武新町4丁目1番35号
14
学校からも好評価をいただけたとのことで、
うれしい限りです。
しかし学習のねらいを的確に
達成するためには、
授業の主役である先生が主体
となって、学校に応じた授業プランを設計いただ
く方が望ましいとも思えます。一方でこちらも都
度カスタマイズに応えることは難しい側面がありま
すので、例えば、先生に記念館に来てもらい、
ネッ
トを介して教室の児童に語りかけるような授業が
あってもよいかもしれません。ICTを活用して、
もっと楽しく分かりやすい授業を進めたいという
先生の熱意と、
クルマについてもっと知ってほしい
という私たちの思いが合致すれば、
「つなぐ授業」
も継続できると確信しています。
−
「つなぐ授業」
に対する企業として意義や今後の
課題や期待をお聞かせください。
子どもたちにクルマやモノづくりに関心を持っ
てもらうことは、
自動車業界のみならず日本の産
業全体にとって重要なことです。
「つなぐ授業」に
関わったことで、
ICTがこうした役割を果たしうる
手応えを感じています。
しかし、
企業にも稼動面で
負担が伴うことは事実です。今後は、過去に実施
した授業のアーカイブ映像を使うなど、
より効率
的な方法を模索する必要があると思っています。
ICT技術は今後もますます進化していくでしょう
し、教育現場での役割も増していくことでしょう。
教育ICTの今後の発展に期待しています。
15
特 集
フィールドトライアルならではの取り組み
「 協 働 学 習 」の促進
その❷
タブレット端末で考え、電子黒板で比較・発表する
「学び合い」で、児童の思考力・表現力が高まる
タブレット端末に表示されたお互いの意見を比較しながら議論をする、タブレット端末に書き込んだ回答を電子黒板
に表示して、考え方の比較や発表をする。フィールドトライアルを通じてこのような学び合いの場面が数多く見られま
した。そして、ICTによる協働学習を実践した多くの教員からは、児童の思考力や表現力向上を実感する声が上がって
います。
ICTを活用した協働学習が児童の思考力・表現力を高める
フィールドトライアルを通じて、約9割
として「考えを比較したり、多様な考えに
の教員が児童の思考力・表現力の向上を
触れたりすることで、自分の間違いにも
実感し(図表1)、この実感はタブレット
自分で気づけるようになる」
といった思考
端末と授業支援システムの活用によって
の広がりを評価する声が上がっています。
もたらされていることが明らかになってい
そして表現力の向上に対しては
「多くの児童
ます
(図表2)。
に発表の機会を持たせることができ、表現
実際に授業支援システムを積極的に
力の向上とともに発表意欲も高まった」
と
活用した教員からは、思考力向上の効果
いう声が上がっています
(図表3)。
図表1 教員が児童の思考力・表現力の向上を実感した
教育ICTの児童に対する効果実感 N=18
0%
思考力向上の実感
20%
28%
40%
思考力・表現力の効果実感と、
タブレット端末や
図表2 授業支援システムの活用度は相関している
活用度(児童用タブレット)と効果実感(思考力・表現力)の相関
60%
80% 100%
61%
89%
0%
20%
効果実感高(N=6)
40%
60%
相関
あり
80% 100%
83%
17%
+58pt
表現力向上の実感
28%
61%
89%
■大変効果があった ■やや効果があった
出所)教員アンケート(2013年12月)
効果実感中〜低(N=12)
25%
75%
■児童用タブレット活用度高(N=8)
■児童用タブレット活用度中〜低(N=10)
活用度(授業支援システム)と効果実感(思考力・表現力)の相関
0%
20%
効果実感高(N=6)
40%
60%
83%
相関
あり
80% 100%
17%
+58pt
効果実感中〜低(N=12)
フィールドトライアルで
導 入した授 業 支 援シス
テム「新教務アプリケー
ション」の詳細について
は第3章79ページを参照
してください。
タブレット端末と授業支援システムで
ICTならではの協働学習が実現
児童同士が互いに意見を出し合い、
課題
もありました。
グループ学習においてもタブ
解決を目指したり、
周囲の意見を参考に自分
レット端末はお互いの考えを共有すること
の考えを高めたりする
「協働学習」の重要
に役立ちました。
そして、
こういった小さな
性が高まっています。
しかし、
いわゆる従来
単位の学び合いを、
クラス全体のものへと
型の授業では、
「発表が苦手な児童は抵抗
発展させるきっかけとなったのがタブレット
感を抱きやすく、同じ児童ばかり発表する
端末と電子黒板の連携を可能とする
「授業
こととなる」
「 紙のノートに書かれた内容
支援システム」
の導入でした。
は、いろいろな情報が書き込まれていて、
16
用により、
タブレット端末に書き込んだ児
声が寄せられるなど、
児童同士の学び合い
童全員の回答を電子黒板に一覧表示して
は思うように進まないことがありました。
考え方を比較したりといった活動を通じ、
75%
■授業支援システム活用度高
(N=8)
■授業支援システム活用度中〜低(N=10)
図表3 授業支援システムの具体的な効果
効果
出所)教員アンケート(2013年12月)
教員の声
思考の場の創造
児童が積極的に自分なりの考えを出すようになったと実感
思考の広がり
考えを比較したり、多様な考えに触れることで、自分の間違いにも自分で気づけるようになった
発表機会の創出
多くの児童に発表の機会を持たせることで、
表現力の向上や発表意欲の高まりを実感
発表に対する自信醸成
先生が確認した上で発表者として指名されていることや、
自分と同じ考えのものが
提示されている安心感から、
自信を持って積極的に発表できた
思考力の向上
表現力の向上
出所)
教員インタビュー(2013年12月)
タブレット端末と授業支援システムの活
ほかの児童との共有に向かない」
といった
25%
継続的な事例の創出と共有、使いやすいアプリケーションの実現を
本フィールドトライアルを通じて、タブ
より多くの教育現場で創出し、広く共有し
児童1人1台のタブレット端末導入に
児童同士の対話・交流・討論・練り上げを
レット端末と授業支援システムが協働学
ていくとともに、アプリケーション自体も
より、隣り合った児童同士が画面を見せ合
行うなど、ICTならではの協働学習が実現
習を促進し、
その効果を高めることが明ら
より簡便性を追求し、全ての教員が使いや
うような場面が自然発生的に生まれること
しました。
かになりました。今後もこういった事例を
すいものに改善していく必要があります。
17
特 集
フィールドトライアルならではの取り組み
「 家 庭 学 習 」への挑戦
その❸
タブレット端末の宿題で学習時間が1.4倍に
家庭のコミュニケーションも活性化
タブレット端末の持ち帰りで
学校と家庭がつながる、親と子がもっとつながる
児童一人ひとりがタブレット端末を持つ世界が実現すれば、タブレット端末を利用した学びの場面は学校のみならず家庭
にも広がっていくでしょう。タブレット端末の持ち帰りが子どもたちに与える効果とは何か。フィールドトライアルでの
家庭学習の実践を通じて、将来につながる成果や課題が見えてきました。
タブレット端 末での宿 題を積 極 的に
ニケーションが活発化したという声も上
活用した教員の学級の児童は、
そうでない
がっています(図表1)。タブレット端末の
教員の学級の児童と比べて、宿題はもち
持ち帰りが保護者のICTへの関心を高め
ろんのこと、予習・復習や調べ学習を行
るきっかけともなり、親子の絆を深めるこ
う時間も増加したことが分かりました。
とに貢献したことが想像できます。
さらに、タブレット端末活用前と比べて
図表1
学校の学習に関する家庭学習の時間が
ICTが親子の交流にどのような影響を与えたか
親子間交流にICTが良い影響を与えた
1.4倍に増えたという検証結果も得られ
0%
ています。タブレット端末を宿題に利用
することが学びのきっかけとなることに、
20%
40%
60%
80%
100%
80.1%
良い影響があった
良い影響はなかった
N=206
19.9%
手応えを得ることができました(詳細は
第4章90ページに掲載)。
※
「分からない」
「不明・無回答」
の回答は母数から除いている
●保護者から寄せられた声
また、
親子や兄弟でも楽しめる家庭学習
ならではの「ペアワーク型のコンテンツ」
も提供しました(詳細は第3章74ページ
に掲載)。保護者からは、本トライアルによ
るICTの導入の効果として、親子のコミュ
「タブレットで調べものをしている際に分からない言葉を質問してくる」
「タブレットで調べる機会が増えてから、
宿題の内容に関する質問が増えた」
「以前より長い時間をかけて、
よく話すようになった」
「立体の図形を回せるシミュレーションがすごいと盛り上がった」
出所)保護者アンケート
(2013年12月)、保護者インタビュー(2014年1月)
ゲーミフィケーションへの取り組み
本トライアルでは、学習にゲームのメカ
学習習慣の定着化に対する評価は相対的
ニズムを取り込んだ
「ゲーミフィケーション」
に低く、学校教育における
「ゲーミフィケー
についても取り組みました。学習ポータル
ション」
の適用の難しさを実感しました。
サイトへのアクセス数やドリル問題の解答
数・正解数に応じてポイントを付与。ポイ
ントに応じてキャラクターが成長するな
ど、児童の学習のモチベーションを高める
工夫を凝らしました。なお、保護者への
アンケートの結果、学習意欲の向上に対
タブレット端末を持ち帰り宿題や予習・復習に活用
フィールドトライアルでは 、児 童 1 人
1台タブレット端末という環境を活かして、
家庭学習にも取り組みました。児童は自分
18
クラウドを経由してパソコンで確認するこ
とができます。
また、
一部の学校では、
学級SNSを導入。
する評価は一時的に認められましたが、
ゲーミフィケーション導入後の学習ポータルサイト
1人1台端末の有効性を高めていくために
学校と家庭をつなぐことによる成果が
な宿題の出し方が分からないという教員の
の教科書やノートと同じようにタブレット
夏休み中の児童同士の交流に活用する
分かりましたが、
同時に課題も見えてきてい
意見、
さらには
「塾の学習で手一杯」
といった
端末を自宅に持ち帰り、授業で使ったコン
など、1人1台のタブレット端末ならでは
ます。
持ち帰り学習においては、
積極的にタブ
児童・保護者の声など、
それぞれの事情が
テンツや「デジタル図書館」に格納された
の活用がなされました。
レット端末を持ち帰ることによる効果が明
あるようです。
しかし、
1人1台端末の有効性
らかになった一方で、
持ち帰り学習に消極的
を高めていくためには、
授業のみならず家庭
さまざまなコンテンツを自由に見ることが
家庭学習へ取り組むにあたっては、
必要に
できます。教員はドリル問題等を宿題とし
応じて各家庭にインターネット回線や無線
な教員や児童・保護者がいることも事実です。
学習においてもその有効性を高めていく必要
てタブレット端末に配信することができ、
LAN環境を構築するとともに、
サポートデス
背景にはタブレット端末で宿題を出す際の
があり、
引き続きこれを追求していくことが
児童の実施状況や、つまずき箇所を教育
クによる問い合わせサポートを行いました。
システム上の手間が煩雑であることや、
有効
求められます。
19
コ ラム
つなぐ+ ひろがる
教育ICT
1
vol.
ICTにしかできないこと、
人にしかできないこと
認定特定非営利活動法人カタリバ
代表理事
東北復興事業部
今村 久美 氏
鶴賀 康久 氏
第1章
統括ディレクター
フィールドトライアル開始を目前とした2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。ICTで子どもたちの未来を開くプロジェクト
の裏側で、今日の勉強すらできない子どもたちがいる。同じ学校教育を取り巻く関係者として、
そんな子どもたちのためにICTができる
ことを模索し、
可能な限りの支援を行ってきました。
認定NPO法人カタリバは、
被災により避難所での暮らしを余儀なくされるなど、
落ち着いて勉強する場所を失った子どもたちが安心して学ぶ
ことができる放課後学校
「コラボ・スクール
『女川向学館』
(
」宮城県牡鹿郡女川町)
を企画・運営されています。
本プロジェクトの復興支援活動
の一環として、
カタリバへの協力を通じて行った子どもたちへの支援活動について、
関係者のお二人に当時を振り返っていただきました。
女川向学館で実施されたタブレットを活用した授業について、児童生徒の反応は
いかがでしたか。
実践事例
小学5年生は算数・理科・社会を中心に、
中学2年生は英語にて、
鶴賀:震災直後は、授業をしていくことが精一杯で、正直に言うとタブレットを十分に
活用できる状況ではありませんでした。
子どもたちの置かれた環境もさまざまで、
先生
やボランティアスタッフが一人ひとりとコミュニケーションをとりながら心のケアを
図っていくことに細心の注意を払っていました。
一定の落ち着きを取り戻した後、
児童
生徒には授業の導入やまとめの場面で練習問題を解くためにタブレットを使ってもら
いました。中でも、小学校3年生くらいの児童には、物珍しさもありタブレット端末を
使った授業は非常に好評でした。
特に2012年にNTTの協力で開催したプログラミング
を学ぶワークショップ
(VISCUIT*)
は大好評で、
直感的に楽しくプログラムの仕組みを
学べたことが良かったようです。
中学生の生徒からも
「タブレットの電子ドリル教材を
使って自習をしたい」
という積極的な声も聞かれました。
今村:電子ドリル教材には、問題を解いたらすぐ解答が分かるという紙の問題集には
ない即応性があり、
学習を進める意欲につながったものと感じています。
鶴賀:しかし、
いくらタブレットと電子ドリル教材が優れていても、
しばらく続けるうち
に子どもたちが飽きてしまうことも事実です。先生やボランティアが声掛けをしたり、
進捗表を作ったりして、
子どもたちのモチベーション維持にも気を配りました。
震災から3年以上がたちました。最近の女川向学館の子どもたちの様子について
お聞かせください。
【認定特定非営利活動法人カタリバ
について】
2001年設立。高校生のためのキャ
リア学習プログラム
「カタリ場」
を全
国約600の高校、約120,000人の高
校生に提供。 2011年に東日本大震
災を受け、被災地域の放課後学校
「コラボ・スクール」
を発案。2011年
7月に1校目の
「女川向学館」
を宮城
県女川町で開校。同12月には、
2校
目の「大槌臨学舎」を岩手県大槌町
で開校。被災地の子どもに対する継
続的な支援を行っている。
【URL】
http://www.katariba.or.jp/
20
鶴賀:震災直後は普段の生活環境が一変し、子どもたちは勉強もままならない状況
だったと思います。
しかし子どもたちは一様に学習意欲が高く、
教える側も必死にこれ
に応えてきました。
次第に生活が元に戻りつつある今は、
子どもたちの学習意欲や学力
の差が顕著になってきており、
先生が児童生徒の学習状況に合わせた個別指導も交え
ながら対応しています。
ICTを活用したさまざまな授業が行われました。
教育ICTの事例を多くの方に共有するために
フィールドトライアルの実践事例を
ご紹介します。
INDEX
算数
22
理科
28
社会
34
その他
42
中学校英語
48
被災地での経験などを踏まえ、
ICTの可能性をどのようにお考えですか。
鶴賀:今、
被災地では家庭の事情や心の問題で学校に通うのが難しい
「不登校」
に近い
状態の子どもが増えてきています。
タブレットを使えば自分のペースで個別に学習がで
きますし、
テレビ電話を使えば教員やボランティアとのコミュニケーションも容易です。
タブレットは、
こういった子どもたちにとっても最適なツールになり得ると思います。
今村:被災地支援においては、
支援を行いたい企業と支援を望む自治体との間でテレビ
電話会議を活用してマッチングのお手伝いをしたこともありました。
ICTにしかできない
こと、人にしかできないこと、
それぞれの役割がきっとあるはずです。私たちは大学生
ボランティアを中心とした高校生へのキャリア学習プログラム
「カタリ場」
を通じて学
校教育に関わっていますが、
こういった人と人をつなぐ活動にICTならではのメリット
をもっと活かせたらよいと思っています。
* VISCUIT:NTTの研究所が開発した、
誰でも簡単に、
直感的にプログラミングを体験できるツール
21
第1章
実践事例
算数
5年生算数
2013年10月16日 鹿児島県大島郡与論町立与論小学校
教諭
後藤 道洋氏
分数のたし算ひき算
単元:
平行四辺形の面積の求め方や立体図形の理解を深める場面など、概念を視覚的・直感的に
理解できるデジタルコンテンツとの親和性が高い場面はもちろんのこと、分数の加法・減法
や比例の関係の理解を深める場面でもICTが活用されました。
フィールドトライアルで実践
分母の異なるたし算で、通分しなくてはいけない理由を全員で考える
〜異分母計算の解き方を個々で考え、
協働型で結論を導く活動でのICT活用〜
●めあて:分母が異なる分数のたし算はどうすればよいか
●教材:異分母たし算の誤った数式を掲載したデジタルワーク
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末
(教員・児童用)
、
デジタル教科書、新教務アプリケーション
(授業支援システム)
※新教務アプリケーション・デジタルワークについては第3章79ページ参照
された算数の事例をご紹介します。
授業設計の
ポイント
・ 異分母分数のたし算において、
なぜ分母をたしてはいけないのかという理由を児童に考えさせるということ
にこだわった授業
・ 分数同士を通分して分母をそろえなくてはいけない理由について、
まず児童が自分で考え、
みんなの前で発表し、
さらに議論を交わす中で誤りや正解に気づいていく授業をスムーズに展開する支援ツールとして、
ICTを活用
児童の端末に誤った数式を配信して、
間違いと理由を考える
の半分なのに、
それに何かをたして2/5と半分
ブレット端末に
「1/3+1/2=2/5」
という間違っ
より少なくなるのはおかしい」
。
分数を円
(図)
で
表示するなど、
タブレット端末ならではの手軽
るのか、正しく計算するにはどうするのか、児
さと自由な発想で、
児童は複数の回答をします。
童は各自で考え、タブレット端末に回答を書
当初分からなかった児童たちも、
他の児童の発
き込みます。回答を終えた児童は教員の端末
表を聞いて、解決の糸口を見いだしました。授
に回答を送信。教員は回答を教員用タブレッ
業の終わりにはデジタル教科書で1/3+1/2の
ト端末で確認し、表示したい回答を選択します。
解法を確認しました。
電子黒板にさまざまな回答が表示され、みん
授業におけるICTの効果と今後の課題
なで確認していきます。そうして指名された児
○児童が自分の考えをいくつでも簡単に教員に
提出できるので、
児童が飽きることなく最後ま
で積極的に取り組むことができる。
お墨付きをもらったという手応えからか電子
黒板を使って自分の考えを、
自信を持って発表
します。
単元:分数のたし算ひき算
分母の異なるたし算で、通分しなくてはいけない理由を全員で考える …………………………………23
単元:比例
タブレット端末に書いて考え、発見した
「比例」
の法則を皆で共有し合う
児童の考えを簡単にシェア、
得られた気づきが習熟を高める
注2
○1人1台のタブレット端末を持つことで学習活
動に意欲を持って取り組むことができる。
○ノートやプリントと比較して簡易に書いたり消
したりできるため、
児童の集中力が途切れず、
何
パターンもの考えを出す活動に向いている。
「普段はたさない分母をたしている」
「 なぜ
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
……………………………24
単元:面積の求め方
シミュレーションで試行錯誤させ、全員でアイデアを出し合って結論を導く …………………………25
単元:面積の求め方
補助線を引いたり、図の分割・補完で台形の面積の求め方を考える ……………………………………26
22
注2
た数式を一斉配信しました。
どこが間違ってい
童は、教員が自分の回答をきちんと見てくれた、
注1
1/5+2/5=3/10となるからおかしい」
「1/2は円
新教務アプリケーションを使い、児童のタ
注1
<実 践 事 例>
たしてはいけないの?」
「同じ分母同士の場合、
授業実践者
のコメント
間違いの理由を説明する際など、タブレット端末に図を
描いて説明しようとする児童の姿には、大きな成果を感じ
ました。児童が自由に方眼紙や白紙を取り出し、自分の考
えを書いて配信できるようになれば、さらに学びの広がり
や深まりが期待できると思います。
本実践では、
「ICTにしかできないこと」
「ICTだからでき
ること」
という視点を重視しました。授業づくりにあたっては、
まずICTの視点を入れずに授業をデザインし、その後、
「児
童にもっと考えさせたいところ」
「児童の考えを揺さぶりた
いところ」等の視点からICTを組み込んでいくと、効果的な
活用が可能になります。
鹿児島県大島郡与論町立与論小学校教諭
後藤 道洋
23
第1章・
・
・実践事例
5年生算数
2013年12月6日 鹿児島県大島郡与論町立那間小学校
教諭
5年生算数
小鷹 彩奈氏
比例
教諭
宮地 聡子氏
面積の求め方
単元:
単元:
タブレット端末に書いて考え、発見した
「比例」
の法則を皆で共有し合う
シミュレーションで試行錯誤させ、全員でアイデアを出し合って結論を導く
〜白紙の表に数値を書き込み、
比例の表を完成させ、
プリントアウトして発表に活用〜
〜平行四辺形の面積の求め方を等積変形シミュレーションで実践〜
●めあて:三角形の高さと面積は比例するのだろうか
●教材:高さと面積記入用の白紙の表データ
(デジタルワーク)
、
デジタル教科書
●機材・ツール:プリンター、電子黒板、
タブレット端末
(教員・児童用)
、新教務アプリケーション
(授業支援システム)
●めあて:平行四辺形の面積の求め方を考えよう
●教材:シミュレーションコンテンツ
「面積の発表:平行四辺形」
、
デジタル教科書
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末
(児童用)
授業設計の
ポイント
・ 変化の規則性に自ら気づかせるために、
児童自身で考えさせ、
共有・発表し合うような授業展開
・ タブレット端末上に表を配信し
「比例」
の法則性に気づかせ、
さらに理由も書くことで学習効果を高める
・ 問題を早く解き終えた児童にも追加問題を配信し、
持て余す時間をなくす
児童の考えが簡単にシェアできるので、
発表や交流が効率的に
注1
三角形の同じ長さの底辺でも、高さが増す
効率化されたことで生まれた時間を、
考える活動や応用問題を解く時間に
使える
注2
以前の授業でタブレット端末を用いたとき
配信した空白の表に値を記入して、高さと面
は、表に値を記入するだけでしたが、今回は
積が「比例」の関係にあることを明らかにしま
なぜそうなるのか「理由を書かせる」ようにし
す。児童の回答を教室にあるプリンターで印
たことで、課題を解決する手助けになりました。
刷して黒板に貼って比較検討しつつ、電子黒
また、早く解き終えた児童には追加問題を配
板の前に出て発表したり、
グループでタブレッ
信することで、児童は飽きずに授業に参加。
注2
ト端末を見せ合ったりしながら、比例関係に
授業設計をしっかり行うなど、ICT活用は、用
あることを導き出します。法則性に気づいた
途を明確にして導入することが重要です。
児童がタブレット端末の表を指差すと、
「なる
授業におけるICTの効果と今後の課題
ほど、そういうことか!」と他の児童から声が
○紙での展開と比べると、
教材の配布や回収とい
う手間がなくなり、
学習活動に割り当てられる
時間が大幅に増える。
上がります。最後に、デジタル教科書で確認し
ながら、
「高さを2倍、3倍にすると面積も2倍、
3倍になるので面積は高さに比例している」
と
いう結論を得ました。
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
授業実践者
のコメント
練習問題が早く終わった児童にデジタルワークで追加
問題を配信したことで、児童が時間を持て余すことなく、
最後まで意欲的に取り組むことができました。
また、
タブレッ
ト端末を見せ合うことにより、説明する側は相手に分かり
やすく考えを伝えることができ、聞く側も近くで画面を見
ながら真剣に聞こうとする態度が見られました。
・ 紙を切る作業が苦手な児童にシミュレーションコンテンツを用いることで、
失敗を気にせず何度も挑戦させる
算数に苦手意識を持つ児童にも
「やってみたい」
と思わせる授業展開
授業設計の ・ 挑戦することで自由な発想を促し、
移動、
結合などのシミュレーション操作を行い、
既習の図形に変形できることに気づ
ポイント ・ タブレット端末で分割、
かせる
画面上の図形を操り、
面積の求め方を考える
さまざまな形状の平行四辺形も、同じ底辺
と面積はどう増えるのか。タブレット端末に
注1
24
2012年12月5日 新潟県岩船郡関川村立関川小学校
○児童の学習過程をノートに残しておけるプリン
トアウト機能は便利。
○問題を早く解き終えた児童に対して追加問題
を配信できるので時間の有効活用が可能。
は児童の発表内容を板書でまとめます。複数
の児童の考えを紹介した後、どのような切り
方・組み合わせ方でも
「底辺×高さ」
で平行四
と高さの長方形に変形できて面積が同じとい
辺形の面積が求められることを気づかせます。
うことを、自ら手を動かして気づいてもらうこ
発表が苦手という児童も、画面上の図形を器
とが授業の目的です。
「 見通し・自力解決」の
用に操作しながら、上手に発表できていたの
段階では、児童はタブレット端末上の平行四
が印象的でした。
注2
辺形を切ったり動かしたりしながら、既に求
授業におけるICTの効果と今後の課題
積方法を習っている長方形に変形していきま
○タブレット端末を活用することにより、
算数に
苦手意識を持つ児童も意欲を持って授業に臨
むことができ、
試行錯誤しながらも正解に到達
することができた。
注1
す。教員がヒントを与えると
「ああ、そうか」と
いう声があちこちで上がり、再びタブレット
端末に向かいます。
シミュレーションコンテン
ツはパーツに分けた図形を組み合わせること
も容易で、
より納得して理解できるようでした。
鹿児島県大島郡与論町立那間小学校教諭
小鷹 彩奈
注2
○紙教材と違い、
何度も自由に切るといった操作
ができるシミュレーションを活用することで、
児童は自由にアイデアを出すことができた。
さまざまな考えの中から
見つかる共通性を明らかにする
「発表」活動では、数名の児童が電子黒板上
の図形を操作して、自分の考えを発表。教員
ICTは便利で効果的なツールであり、指導の幅を広げて
くれますが、デジタルよりもアナログ(実際の手作業など)
の方が理解しやすい児童もいます。これまでのアナログも
大切にしつつ、児童や学級の実態に応じてICTを活用して
いく必要があるのではないでしょうか。
注1
授業実践者
のコメント
紙と比べ、タブレット端末では間違いを恐れず何度も試
行錯誤できるため、児童は興味を持って自力解決に臨めま
す。また発表の際も、児童が電子黒板上のシミュレーショ
ン教材を操作しながら説明することで、考えの過程を全員
で確認できます。発表の苦手な児童が生き生きと自分の解
決方法を発表できたことで自信につながり、単元終末のワー
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
クテストで100点を取って周囲を驚かせたことも。図形教
材は、図形を自由に動かしたり変形させたりすることができ、
視覚的に捉えやすいという点で、タブレット端末等の活用
が非常に有効です。ただし、実際の感覚を養うためには具
体物での操作も大切だと思います。
新潟県岩船郡関川村立関川小学校教諭
宮地 聡子
25
第1章・
・
・実践事例
算数
5年生算数
教科アドバイザ
2013年12月12日 秋田県山本郡八峰町立塙川小学校 教諭 相澤 朋彦氏
面積の求め方
単元:
補助線を引いたり、図の分割・補完で台形の面積の求め方を考える
〜自由な発想による図形への書き込みをタブレット端末上で実践〜
田中博史 先生
インタビュー
I n t e r v i e w
●めあて:台形の面積の求め方を考えよう
●教材:台形画像を掲載したデジタルワーク
●機材・ツール:電子黒板、タブレット端末(教員・児童用)、新教務アプリケーション
(授業支援システム)
活発に学び合う場を
演出し、
考える時間や
プロセスを大切に
りがいにつながります。
教育ICTに取り組む先生や企業に向けて
ICTは便利だからといって、
安易に多用して子どもの
「考
事例で紹介した授業について
・ 既習の平行四辺形や三角形の求積方法から台形の面積の求め方のアイデアを児童全員にタブレット端末
で出させる授業展開
授業設計の
・ 児童の回答が簡単に集約できるので、
発表する児童・順番の選定をあらかじめ行い、
支援が必要な児童を発
ポイント
見することで個別指導に役立てる
・ 絵や文字を簡単に書き消しができるタブレット端末を活用
2つの三角形に分割する補助線を引く方法と、
面積の求め方を自分で考え、
みんなで共有していく
注1
台形を1つ増やして平行四辺形にする方法が
「どうすれば台形の面積を求められるのか、
タ
求めやすいという意見が多く寄せられました。
ブレット端末に書き込みながら考えよう」
とい
前回までの授業で学んだ三角形や平行四辺形
う教員の発問に対し、
児童はタブレット端末上
の面積の求め方を活用した方法です。
これを基
で台形にさまざまな線を引き、
式や簡単な説明
にして、
台形の面積を求める公式を自分たちで
を記入していきます。
教員用タブレット端末には、
導き出せるという共通理解を得ることで本授
児童のタブレット端末の画像が送られてきま
業のまとめとしました。教員は
「次の時間に台
注1
注2
す。
教員はその中から発表に用いる回答とその
形の面積を求める公式を考えよう」
と予告し、
順番を考え、指名された児童は電子黒板の前
授業を終えました。
で自分の考えを発表します。
全児童の回答が電
注2
子黒板に一覧表示され、
それを活用して児童は
発表をします。
発表では台形を半分に切ったり、
半回転した台形とつなげたり、
斜めに補助線を
入れたり、
さまざまなアイデアが出てきます。
公式を覚えるのではなく、
自分たちで導けるという手応えを得る
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
次に教員は、
出されたアイデアの中でどの方
法が求めやすいかを問い掛けます。
児童からは
授業におけるICTの効果と今後の課題
○回答を電子黒板に一覧表示することで、児童
の意欲向上や課題解決の動機づけになる。
○タブレット端末に書き込みできる文字量は限
られていることにより児童は伝えたいことを端
的に表現したり、
また発表時には口頭で補足説
明をするなど表現力向上に寄与した。
○教育クラウドに回答データを蓄積できるので、
本時の回答を次時に呼び出して活用したり、
児
童の思考表現や技能をより適切に評価する材
料としても役立つ。
いずれの先生も児童が思考するプロセスを大切にし
た授業を実践していると見受けました。
授業実践者
のコメント
26
また、アニメーションで図形が動くようなコンテンツよ
り、動かない図形に児童が書き込むというプリミティブな
自作資料の方が、児童は達成感を味わえたようです。授業
構築の際には、紙ベースのノート指導や言語活動などとの
バランスも考えることが重要です。
秋田県山本郡八峰町立塙川小学校教諭
相澤 朋彦
えば正解の提示をワンテンポ遅らせたり、
「こういうもの
があったらいいのに」
という気持ちを抱かせたりしてから
まず与論小学校・後藤道洋先生の
「分数のたし算」
授
ツールを提示するようにしてほしい。
考えることを子ども
業ですが、
通常は机間指導をしながら発表する児童の順
が存分に楽しめるよう、
あれこれ工夫する
「知的サービス
番を決めたり、
支援が必要な児童の対応を行ったりする
精神」
で授業に臨むことが大切です。
それは例えるなら、
のですが、
短時間で教室内の状態を把握することは大変。
磁石を釘に近づけたときに、
カタカタ動き始めた時点
(=
タブレット端末と授業支援システムがあれば児童の考え
子どもが気づき始めた時点)
で止めるようなもの。
すぐに
を瞬時に把握できますから、
後藤先生はこれを利用して
正解に近づけてしまうことはせず、
ヒントを出すタイミン
児童がより深い理解を得られるような授業展開を効率
グも児童の気づきの状況をみて判断するなど、
子どもが
的に行っていました。
活発に学び合う場を積極的に演出し、
じっくり考える時
次に、
塙川小学校・相澤朋彦先生の
「台形の面積」
の授
間やプロセスを大切にしてほしいと考えています。
業ですが、
タブレット端末なら補助線を書くのも消すの
ITを授業に活用する試みそのものは、
30年近く前から
も簡単で、
手軽に試行錯誤できます。
ちなみに、
児童の回
実践してきました。
当時は児童を各自のパソコンの前に座
答を電子黒板に表示する際に、
思考の過程を全て見せ
らせ学習を画面の中で完結してしまうようなやり方で、
結
ずに脇に書いた計算式を隠して、
「どうしてこう考えたの
果として子どもをひとりぼっちにしてしまった。
これは大
だろう」
と投げかけることで、
児童同士の学び合いを促す
いに反省すべきことです。
ITがICTになったことの意義、
コ
ことも効果的な授業展開の一つです。
ミュニケーションの重要性を認識し、
活発にやりとりしな
関川小学校・宮地聡子先生の
「平行四辺形の面積」
の
がら学べる仕組みづくりが求められています。
教室の課
授業ですが、
紙の平行四辺形にハサミを入れるのと違い、
題を解決するのがICTであり、
そうした教育現場の課題
デジタルコンテンツでは失敗を気にせず何度も挑戦で
を企業は真伨に受け止め、
真に役立つツールを開発・提
きます。
どんな切り込みを入れて長方形に変形させたの
供することを願っています。
かという思考のプロセスを共有することが大事。
学校で
学ぶことの意義は、
他の児童の考えや失敗を知り、
それ
を糸口に自らを高めることにあります。
指名された児童
が電子黒板上で手順を再現する過程も自分の考えを整
理するのに役立ちます。
タッチペンによる書き込みは作業効率がとてもよく、児
童は線の色を変えたりして自分の考えを伝える方法を工
夫していました。また、新教務アプリケーション
(授業支援
システム)を活用した回答回収画面の集約も効果的。特に、
同じ考えの児童を選択し、まとめて表示することによって、
考えを出し合う場面の学習効果を高めることができました。
える楽しみ」
を奪うことがあってはなりません。
先生は、
例
最後に、
那間小学校・小鷹彩奈先生の
「比例」
について
学ぶ授業ですが、
児童の回答をプリントアウトして提示
するのは意欲的な試みでした。
例えば、
授業を終えた後
もプリントを教室に掲示して残せば、
頑張った児童のや
教科アドバイザ 田中博史 先生 プロフィール
1958年山口県生まれ。1991年より筑波大学附属小学校教
諭。筑波大学・共愛学園前橋国際大学非常勤講師兼任・全
国算数授業研究会理事・算数授業ICT研究会代表・日本数
学教育学会出版部幹事。
NHK学校放送番組企画委員として
「かんじるさんすう1・2・3」
「 わかる算数6年生」や総合テ
レビ「課外授業ようこそ先輩」などの企画および出演。学校
図書教科書「小学校算数」編集委員。
27
第1章
実践事例
理科
5年生理科
2013年12月5日 神奈川県川崎市立南百合丘小学校
教諭
吉谷 良子氏
もののとけ方
単元:
小学5年生の理科では、自然の事物・現象の規則性や生命の連続性についての見方や考え
方を養うことが求められます。これらの目標を達成するためにICTはどのように役に立った
のでしょうか。
フィールドトライアルで実践された理科の事例をご紹介します。
みんなで考えた予想を共有し、実験を通して予想の検証を行う
〜電子黒板・タブレット端末の活用で、問題配信、回答回収・提示を効率化〜
●めあて:水にとけたものの重さはどうなるのだろうか
●教材:実験予想用のデジタルワーク、実験結果を書き込むデジタルワーク、
デジタル教科書
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末
(教員・児童用)
、
新教務アプリケーション
(授業支援システム)
※新教務アプリケーション・デジタルワークについては第3章79ページ参照
・ どの予想が正しいのかを実験で確かめる、
という
「実験」
本来の目的意識を理解させた上で実験に取り組ませる
・ 予想結果を児童全員でタブレット端末に書き込み、
一斉表示することでさまざまな予想があることを理解させ、
授業設計の
どの予想が正しいか?という疑問を持たせる
ポイント
・ 実験に集中するために、
実験中はタブレット端末をしまうなどツール使用のルールを決めスムーズな授業展
開を図る
電子黒板に提示した3つの予想で、
実験の目的意識が根付く
レット端末に記入して送信します。
実験終了後
の導入部分で、児童は食塩を加えた後の水の
は、全グループの回答を電子黒板に一覧表示
重さがどうなるかを各自のタブレット端末に
して、加えた食塩の分だけ重くなったことを確
認します。他のグループよりやや軽量となった
全員で考えます。
「 食塩は水を含んでもっと重
グループは、実は食塩をこぼしてしまったこと
くなる」
「とけてもなくならないので重さはか
が判明。食塩が入らなければビーカーの重量
わらない」
「なくなるので少し軽くなる」。寄せ
は増えないことを改めて理解するとともに、
と
られる意見はさまざま。主な意見を黒板に板
けて見えなくなっても食塩はなくならないこと
書した後、電子黒板に表示したデジタル教科
を確認できました。
などの器具を用意して、
実験にとりかかります。
どの予想が正しいのか? そんな思いで実
単元:もののとけ方
みんなで考えた予想を共有し、実験を通して予想の検証を行う
験に取り組む児童は真剣そのものです。
グループごとに行った実験結果は
電子黒板で確認
…………………………………………29
実験はグループごとに行われ、水の入った
単元:人のたんじょう
タブレット端末を資料集代わりに、効果的・効率的な調べ学習を実現する……………………………30
ビーカーを電子てんびんの上にのせ、静かに
単元:魚のたんじょう
実物とデジタル教材を使った授業で理解を深める ……………………………………………………………31
単元:台風と天気の変化
台風の進路をみんなで予想し、実際の映像で確認する………………………………………………………32
28
注2
記入して提出。回答を電子黒板に一覧表示し、
書の実験手順を全員で確認し、電子てんびん
授業実践者
のコメント
注1
全員で観察し、得られた結果を代表者がタブ
「水にとけたものの重さはどうなるか」
。授業
注1
<実 践 事 例>
食塩を入れていきます。その様子をグループ
注2
授業におけるICTの効果と今後の課題
○実験の予想としてデジタルワークを活用すると、
実験のねらいが明確になり、児童の実験に臨
む姿勢が向上する。
△児童数が多いクラスでは、
児童が提出したデジ
タルワークを探すのに時間を要する。
シートの
検索やソートなど、教員が特定の児童の回答
を迅速に探し出せる機能があれば授業進行が
スムーズになる。
実験結果に関して、思っていた以上にいろいろな考えが出
てきてよかったと思っています。自分の予想が電子黒板に表
示されるのは、児童にとってうれしいようで、
モチベーション
を高めることができました。また、それが皆に認められると、
自分の考えに自信が持てるという効果もついてきます。言葉
では上手に表現できない児童でも、
タブレット端末を利用し
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
てうまく伝えられると、
自信につながります。
自信を持たせるために気をつけたいこととしては、あまり
明確な答えが決まらない質問、
どんな答えもありうる質問を
取り上げて、
それへの回答を画面に映すということです。
神奈川県川崎市立南百合丘小学校教諭
吉谷 良子
29
第1章・
・
・実践事例
5年生理科
2013年12月9日 鹿児島県大島郡与論町立那間小学校
教諭
5年生理科
丸山 政江氏
人のたんじょう
教諭
加地 盛一郎氏
魚のたんじょう
単元:
単元:
タブレット端末を資料集代わりに、効果的・効率的な調べ学習を実現する
実物とデジタル教材を使った授業で理解を深める
〜必要な資料だけをタブレット端末へ配信し、調べ学習の発散を防止〜
〜デジタルとアナログの融合で体験学習を充実〜
●めあて:母親のおなかの中で人はどのように変わっていくのだろうか
●教材:人の誕生(動画)
のコンテンツを貼ったデジタルワーク
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末(教員・児童用)
、新教務アプリケーション
(授業支援システム)
●めあて:メダカのオスとメスの違いを調べよう
●教材:動画「メダカがたまごを生む条件」
「メダカの受精と産卵」
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末(教員・児童用)
・ 調べる活動を軸とする単元であるが、
調べる対象の情報が多すぎる場合は情報源を絞らないと活動が発散
し成果が乏しくなるため、
児童全員のタブレッ
ト端末に調べ学習の情報源となりそうな動画を4つ配信し、
こ
授業設計の
れを基に調べ学習を進める
ポイント
・ タブレット端末を活用することで個人のペースで学習し、
学習意欲とまとめの意識を高める
各自の端末で動画を視聴してから
グループ学習へ
注1
生きた実物と鮮明な動画コンテンツで、
メダカを観察
したやりとりを経て、最終的に「人はまず心臓
まずメダカのオス・メスの違いを実物で観察。
短時間で効果的なコンテンツ選びが
教育効果を高める
動き回るメダカに苦労しつつも児童は気づい
ない、違いが全然分からない」という声がよく
いうまとめを得ました。普段は受動的で、メモ
たことをノートにまとめます。次に電子黒板に
上がります。メダカは素早く動くので、水槽が
は積極的に関わりたがらない児童や、大型モ
をとるのも苦手という児童も、1人1台のタブ
メダカの画像を表示し、背びれ・尾ひれの大き
汚れていると実物の観察は困難が伴います。
ニターの動画を見逃す児童がいるなど、全て
レット端末で動画を視聴することにより、自
さや位置など気づいた箇所を電子ペンでしる
一方、高精細なコンテンツを手元で視聴でき
分でやらねばという積極性が生まれて意欲的
加することが一つの課題となります。人の誕
に取り組む姿勢を見ることができ、端末を操
続いて「メダカがたまごを生む条件」
「メダ
を深め、学習意欲の向上が期待できます。イン
生に関する今回の調べ学習では、教員が選ん
る楽しさも相まって学習意欲も高まり、積極
カの受精と産卵」の高画質な映像を電子黒板
ターネットで視聴できる動画の多くは最初か
だ4つの動画を資料集として配信し、1人1台
的にまとめる姿勢が見られました。
で視聴。普段はなかなか目にすることができ
らオス・メスと明記されており、児童に気づき
して観察結果を発表しました。
るタブレット端末は観察しやすく、児童の理解
のタブレット端末で視聴しながら、おなかの
授業におけるICTの効果と今後の課題
ないメダカが産卵する様子に児童も熱心に
を与える授業には不向きです。映像は児童が
中の変化について調べ、その後、それぞれで
○調べ学習に情報量が膨大なインターネットを
用いるのではなく、教員が用意した情報をタ
ブレット端末に配信することで、児童が短時
間で的確にまとめることができた。
観察します。そうしてメダカに対する理解を
飽きないよう短時間であることも必須となり
深めた上で、タブレット端末を用いて
「メダカ
ます。
タブレット端末の活用で
積極的に調べる姿勢が生まれる
動画を見た児童に感想を求めたところ、
「手
のオスとメスの見分け方」のドリル学習を実
注2
施。学習内容の知識・理解の定着を図ること
ができました。
授業におけるICTの効果と今後の課題
○ICT活用のポイントを明確にした上でコンテン
ツ活用することで、
デジタルとアナログをうま
く融合した授業が実現する。
足の小さな宇宙人」
「心臓が動いていることを
動画を何度か見直したり一時停止してメモを取ったりと、
各児童が自分のペースで調べ学習を進めることができまし
た。効果的と思われる動画資料を事前に用意したのは、一
人調べを苦手とする児童への支援としては有効でしたが、
逆に児童が自主的に調べる方法を制限し、多様な考えを引
き出せなかったという課題も残りました。
理科の授業はあくまで実物による実験・観察が中心で
すが、その上で、デジタル機器で実験・観察を想起・再現し
提示できることは有効です。今後は、機器を効果的に活用
したり資料を収集したりする、個々の教員の意識・工夫が
求められると思います。
鹿児島県大島郡与論町立那間小学校教諭
丸山 政江
注2
注1
の児童が、自ら進んで調べる意欲を持って参
△インターネットから取得した情報を簡単に編
集できれば、授業設計に即したコンテンツを
配信し、児童個人に合った情報を提供するこ
とができる。
注1
理科の実験や観察では、児童から
「よく見え
る「調べ学習」の場合、グループ単位の学習で
がら進めました。
授業実践者
のコメント
発見」といった、意見が寄せられました。そう
や人の形ができ、後から大きくなっていく」と
調べて分かったことをグループで話し合いな
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
・ 肉眼で観察がほとんどできないメダカの産卵のシーンを動画で見せることで、
児童に現実感の理解を深め
知識定着を図る
授業設計の
タブレット端末でドリル学習を実施
ポイント ・ 実物観察をしたあと知識定着を図るために、
・ 実物の観察と映像での観察を組み合わせることで、
児童の学習意欲を高める
映像コンテンツを視聴してノートにまとめ
注1
30
2012年5月31日 神奈川県川崎市立南百合丘小学校
授業実践者
のコメント
児童はまず、観察ケースに入ったメダカを興味深く観察。
その観察の中で各自が発見したことをみんなで共有する
には、電子黒板が効果的でした。児童の観察眼はとても鋭
く、こちらが想定していた以上の発見が多々あって、驚かさ
れました。そうした子どもたち自身の気づきを基に学習を
深めることができ、楽しく学習に取り組めたと思っています。
実物の観察や体験学習とICT、またアナログ教材とデジ
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
タル教材などを適材適所で使い分けながら、授業を組み立
てていくことが大切です。今回のフィールドトライアルでは、
ICTの活用方法だけでなく、よい授業づくりや教師の在り
方についても学ぶことができました。
神奈川県川崎市立南百合丘小学校教諭
加地 盛一郎
31
第1章・
・
・実践事例
理科
5年生理科
教科アドバイザ
2013年9月27日 秋田県山本郡八峰町立水沢小学校 教諭 山内 賢也氏
藤村裕一 先生
インタビュー
台風と天気の変化
単元:
台風の進路をみんなで予想し、実際の映像で確認する
I n t e r v i e w
〜多様な考えの共有とリアリティのある映像視聴をICTで実現〜
●めあて:台風の進み方について調べよう
●教材:台風の天気図(デジタルワーク)
●機材・ツール:電子黒板、タブレット端末(児童用)、デジタル教科書、
新教務アプリケーション
(授業支援システム)
教育の本質に迫る教育ICT。
こういった授業は、
教科教育としてはきわめて常識的
探求型の授業実践を
な形ですが、
それを日々行うのは難しいものです。
タブレッ
ト端末や授業支援システムが入ることで、
そういった授
目指して
業が日常的にできるようになるということが、
ICT導入
事例で紹介した授業について
理科には実験・観察が困難な単元と容易な単元の2
・ ICTを活用し、
台風の進路予想に関する全児童の回答を把握し、
発表させる回答や順番を決定
授業設計の ・ 他の児童の多様な考えに触れる機会を持たせる
発生の仕組みや進路、
災害に対する備えに対して実感を
ポイント ・ 秋田では上陸する機会が少ない台風について、
持たせ理解させる
タル教科書の写真をコマ送りで操作しながら、
どもの成長の様子を肉眼で観察することはできません。
主体的に学習問題を発見し、
追求する
「探求型」
の課題解
その動きを詳しく確認します。
「 台風は、日本
しかし、
両先生とも映像を使った疑似体験や、
実物の観察
決型学習です。
ICTにはこれを実現するのに必要な子ど
まず教員は台風の発生場所について挙手で
の南で発生することが多く、初めは西に動く
では動いていてよく分からない部分を静止画を使って詳
もたちの
「問題発見能力」
を高める可能性があります。
意見を求めます。
児童から
「外国、
沖縄、
温かい
ものの、その後は東に動くことが多い」と、台
細な観察をさせるなど、
メディア特性を活かしたすばらし
場所」
などの意見が出た後、
タブレット端末に
風の進路の傾向を理解することができました。
配信した台風の天気図に進路予想を理由も合
そして、デジタル教科書の動画「台風の進路と
わせて書き込むよう指示します。
提出された回
天気の変化、台風のもたらす被害」を視聴。映
答から、
いくつかの回答を教員が選択して、電
像を通じて、強風や大雨がもたらす台風被害
子黒板に拡大表示。九州に上陸して日本海へ
の深刻さを学びました。
抜けたり、
四国に上陸して日本列島を縦断した
授業におけるICTの効果と今後の課題
り、関東に一直線だったりと、
さまざまな予想
○口頭では説明しにくい「台風の進路」を、デジ
タルワークの天気図に書き込むことで、簡易
に分かりやすく予想することができた。
な進路予想を見て、本当の台風の進み方はど
うなんだろうと、
児童の興味・関心は高まります。
画像のコマ送りやリアルな映像で
台風の進路を学ぶ
32
も増えてきました。
皆さん教え込みの
「習得型」
の授業か
の授業を行っています。
しかし、
目指すべきは児童生徒が
を求めた上で、
主なパターンを板書。
さまざま
のコメント
「魚のたんじょう」
や、
那間小学校・丸山政江先生による
「人
であり、
泳ぎ回る魚の構造やたまごの様子、
母体内での子
が並びます。
自分も同じ考えという児童に挙手
授業実践者
ICTの進化も相まって、
教育ICTを実践される先生方
ら脱却し、
子どもたちの問題解決能力を高める
「活用型」
注1
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
教育ICTに取り組む先生や企業に向けて
種類があります。
南百合丘小学校・加地盛一郞先生による
のたんじょう」
といった単元は、
観察が困難な単元の一例
児童の進路予想を教員の端末で
瞬時に把握し発表活動につなげる
注1
の大きな効果といえます。
は不断の改善努力が必要です。
大人用のタブレット端末
南百合丘小学校・吉谷良子先生の
「もののとけ方」
や、
を子どもに使わせることが良いのか。
クラス全員が活発
水沢小学校・山内賢也先生の
「台風の進路予想」
の授業は、
に議論できる電子黒板のサイズはどうか等、
教育現場の
仮説検証型の実験・観察中心の授業であり、
実験・観察
実態を踏まえた商品開発に期待しています。
が容易な単元におけるICT活用の在り方を探る授業を行っ
ていただきました。
今回のトライアルでいくつもの教育ICTの効用が見え
てきましたが、
重要な効用の一つが
「ICTは先生の授業
吉谷先生の授業では、
1人1台のタブレット端末と授業支
改善を必然化する」
ということ。
タブレット端末と授業支
援システムを使って、
実験結果の予想を電子黒板に提示し、
援システムを活用するには、
従来の教え込み型の授業か
一人ひとりの考えの違いを際立たせました。
また活動状況
ら脱却せざるを得ず、
教員は授業改善の必然性に迫られ
○デジタル教科書の動画により、台風の進み方
について児童の理解を深めることができた。
を授業支援システムのサムネイル表示により机間巡視を
ます。
教育ICTの議論を突き詰めると、
授業観など教育の
待つことなくリアルタイムで把握し、
支援が必要な児童を優
本質の議論に迫ってくるわけです。
○デジタルワークへの書き込みを利用して発
表することで、自分の予想を分かりやすく説
明できるなど、表現活動の手助けになった。
先的にフォローするなど、
きめ細かな指導を展開していました。
山内先生の授業では、
教科書の気象データだけでは
なく、
直近の気象データを使うことで子どもたちに身近
次に、実際の台風の進み方について、デジ
タブレット端末を利用し、児童一人ひとりに台風の予想
進路を書き込ませて集約するというやり方は、
とても効果
的でした。その後、デジタル教科書の写真により実際の進
路を見ながら、児童が各自で予想した進路と効率よく比較
できたのも、ICTならではの方法といえます。台風の渦が
動いていく様子などダイナミックな画像を見て、児童から
驚きの声が上がりました。
い実践を行いました。
ICTが進化したといえども、
機器等を開発する企業に
ものありきの教育ICTではなく、
教育ありきの教育ICT
を、
教育を取り巻く関係者全員で議論を続けていきたい
と思います。
な問題であることを示し、
調べ学習や観察への興味・関
心を効果的に高め、子どもたちに考えさせる授業を展
ICTは、何よりも使ってみること、それによって慣れるこ
とが大切だと思います。技術もどんどん進歩していきます
が、まずは、より良いものを追求する姿勢を教師が示すこ
とから、現場におけるICTの有効活用は進んでいくものと
考えています。
秋田県山本郡八峰町立水沢小学校教諭
山内 賢也
開しました。
北国の子どもにとって、
台風は身近に感じに
くいものですが、
子どもたちが家庭でも台風や天気の変
化に関して調べ学習や実際の観察をしたという話も聞
いています。
子どもたちが授業を通して
「問い」
をみつけ、
それを探求したいと思わせる授業だったといえます。
教科アドバイザ 藤村裕一 先生 プロフィール
1958年北海道札幌市生まれ。鳴門教育大学大学院准教授。
近年は文部科学省・総務省・経済産業省やその関連団体に
おいて、校務情報化・学校情報セキュリティに関する各種委
員会の主査・委員長、文部科学省の情報モラル教育に関す
る委員会の主査、NHKにおける番組・デジタル教材開発に
関する委員会の委員長を務め、全国での実証実験の成果を
基に、国の教育政策の策定にも関わっている。
33
第1章
実践事例
社会
5年生社会
2013年11月22日 秋田県山本郡八峰町立水沢小学校 教諭 嵯峨 博氏
食料生産(食の安全)
単元:
小学5年生の社会では、我が国の国土の地理的環境やそこで営まれている産業に関して学習
します。
フィールドトライアルでは、
タブレット端末と授業支援システムの活用や
「つなぐ授業」
など、ICTならではの授業が展開されました。社会の実践事例をご紹介します。
児童の考えを教材にし議論を展開する
〜個の学習、協働学習をICTを使って両立〜
●めあて:安全でおいしい食材はどう選べばよいのだろう
●教材:白紙のデジタルワーク
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末(教員・児童用)
、
新教務アプリケーション
(授業支援システム)
※新教務アプリケーション・デジタルワークについては第3章79ページ参照
・ 安全とおいしい、
この2つのことについてみんながどう考えているのかをICTを用いて瞬時に把握し、
意見交
換をする時間を確保
授業設計の
ICTを活用
ポイント ・ 考える活動と意見交換をする活動を両立させるというねらいに、
・ 対照的な意見を電子黒板に表示させることで、
活発に議論をさせ、
児童の考えを深める
児童たちの素直な意見が、
タブレット端末から集まる
水沢小学校の児童は農業が身近で「地産地
消」の発想が自然に身に付いています。そこで
いしているのは、虫がいるみたいで嫌だ」
「虫
食いがないのは見た目が良くても農薬を使っ
ている」という2つの意見に児童の思考は揺
さぶられ、考える空気ができあがります。
「安全でおいしい食材はどう選べばよいのだ
続いて、日本産と外国産の値段をグラフで
ろう」と問い掛け、児童用タブレット端末に白
比較。
「外国産の方が安い」
「安い方がいい」
「高
紙のデジタルワークを配信。提出された回答
いけど安全な気がする日本産がいい」などグ
には「米づくり体験で聞いた、農薬を使ってい
ラフを読み取り意見を交わします。最後に「生
注1
地元の道の駅の名称
注1
ないもの」
「おらほのやかたのりんご」など、自
産地や生産者、賞味期限などを参考に、よい
分自身で考え、自らの地域や生活に根差した
と思うものについて値段を考えて選ぶ」とい
意見が並びます。ボタン一つで教員のタブレッ
うまとめを導き出しました。
ト端末に簡単に提出できるため、普段挙手し
<実 践 事 例>
ない児童の考えも把握することで教員として
注2
単元:食料生産(食の安全)
児童の考えを教材にし議論を展開する
新たな発見があります。
…………………………………………………………………………35
単元:食料生産(水産業)
予想したことをとことん調べ、豊富な資料で資料活用能力を育てる
単元:工業生産(貿易)
資料やグラフを使いながら、輸出入の実態や貿易摩擦を考える
…………………………………36
「虫食いのあるものがいい」
「虫食いのない、
変色していないものがいい」―。対照的な
………………………………………37
単元:食料生産(米づくり)
動画を見て、米作りの過程を学び、
「米づくりカレンダー」
を完成させる
意見が出てきたことで、教員が電子黒板に提
示して、クラス全員に意見を求めます。
「 虫食
授業におけるICTの効果と今後の課題
○資料や問題の配信、
回答の回収が即座に行え、
さらに児童の回答を把握した上でその後の展
開を考えることができるなど、
授業に幅が出て
とても便利。
○タブレット端末から教員に回答を送る方法な
ので、
全児童の考えを把握できる。
○電子黒板にたくさんの回答を提示すると混乱
する児童もいる。
回答を絞って提示することで、
どの児童も惑わされることなく課題解決に導
くことができた。
……………………………38
単元:情報と社会
自分の考えはニュースにどう左右されるか体験を通じて学習する ……………………………………39
単元:情報と社会
ニュースづくりで、正確かつ分かりやすく伝えることの重要さや難しさを学ぶ ……………………40
34
児童の回答を確認しながら、
幅のある授業が実現
注2
授業実践者
のコメント
タブレット端末を使うと児童はどんどん本音を書いてくれ
るし、口頭ではあまり意見を述べない子も、自分の考えを進
んで表現することができます。それによって言葉の使い方が
磨かれる効果もあり、また教員の方でも、つまずきの把握と
個別指導がしやすくなりました。
タブレット端末に他の子の画面を送り、続きを書かせる取
り組みでは、
友達の考えをヒントにするなど、
個と個の横のつ
ながりによる協働的な学習が実現しました。
ICTは使っているうちに機器やシステムのよさが分かり、
さ
まざまなアイデアが浮かんできます。
今回の取り組みを通じて、
私自身の授業力もアップしたと感じています。
秋田県山本郡八峰町立水沢小学校教諭
嵯峨 博
35
第1章・
・
・実践事例
5年生社会
5年生社会
2013年10月21日 神奈川県川崎市立南百合丘小学校 教諭 田口 祥氏
食料生産(水産業)
工業生産(貿易)
単元:
単元:
予想したことをとことん調べ、豊富な資料で資料活用能力を育てる
資料やグラフを使いながら、輸出入の実態や貿易摩擦を考える
〜タブレット端末に資料を配信することで、手軽に実践〜
〜ICTを使った知的好奇心をくすぐる演出で考える雰囲気を醸成〜
●めあて:日本の漁業の生産量が減っているのはなぜだろう
●教材:魚たんていファイル
(新聞記事、
グラフ、地図等の資料集)
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末(教員・児童用)
、新教務アプリケーション
(授業支援システム)
●めあて:工業生産と貿易:日本と外国の貿易について考えよう
●教材:一部数値を隠した折れ線グラフ
(デジタルワーク)
、
プレゼンテーションソフトによる自作資料
●機材・ツール:電子黒板、タブレット端末(教員・児童用)、新教務アプリケーション
(授業支援システム)
・ より多くの資料から事実を読み取らせて結論を導き出させたいが、
小さな机の上で多くの資料を開かせる
ことは難しいため、
ICTを活用して資料活用の技能を向上させる
児童自身に予想をさせることで、
資料を読み
授業設計の ・ タブレット端末を活用して多くのグラフや最新データを扱い、
解く力を磨かせる
ポイント
・「魚たんていファイル」
というコンテンツの中にある動くグラフで資料の読み取り能力が弱い児童にも分かり
やすい授業を展開
注1
身近な製品が外国製という事実から
貿易について考える
出・輸入がほぼ並行して推移するような折れ
線を書く児童がほとんどですが、実際には輸
導入では、教室にある外国製のラジカセや
出・輸入に大きなずれがあったことを認識さ
延長コードなどを例に挙げて、そうした外国
せます。
その後にそうした輸出と輸入のバラン
「日本の漁業の生産量はどうして減ってし
体の数が減少したから」
「漁場マップから、
200海里
製品がなぜ増えたのかを考えさせます。次に
スが取れていない「
『貿易摩擦』は何が問題な
まったのか」をクラス全員で考えます。まずは
制限の影響で漁場が減ってしまったから」
。
こうし
輸出入額の表を電子黒板に提示して輸出入
のか?」
を皆で意見交換しました。
ここでは、
「た
減った理由を各自で考え挙手して発表。
「働く
てグラフからさまざまな結論を導き出しました。
額にどういう意味があるのか考えさせました。
くさん輸入するとお金が掛かり貿易はマイナ
人が減ったから」
「魚が昔より減ったから」
「魚
多くの資料を読み、
自分の予想や他の児童の予想
日本と外国の貿易は身の回りの外国製品と同
スになってしまう」
「輸出ばかりだと、相手の国
を捕り過ぎたため」
「魚を食べる人が減ったか
を基に情報を探すことで目的が明確になり、集中
様に、
とても身近なことであり、資料の数値か
の産業が衰えてかわいそう」などの意見が挙
ら」
といった意見が寄せられます。
して取り組んでいました。
自分の考えと読み取りが
ら、起きていることのさまざまな事情や背景
がります。
一致すると、
児童も手応えを感じている様子でした。
を読み取れることを理解しました。
ト端末に配信された資料「日本の水産業」で
授業におけるICTの効果と今後の課題
調べ学習を開始。資料をどう解釈するかは児
○シミュレーションコンテンツをデジタル資料集と
して活用することで、
調べる素材のバリエーション
が高まり、
技能や思考面での活動の充実が図れる。
童に任されており、分かったことをノートにま
注1
とめます。その後、グループ内の意見交換を通
じて自分の考えを深めていきます。
授業実践者
のコメント
ポイント
・ グラフの読み取りだけでなく、
学習内容が生活の身近な問題であるという認識を持たせ、
なぜそうなってい
るのかを児童全員に考えさせる授業展開
・ 貿易は児童に実感を持たせにくい上にグラフや資料の読み取りが多いため、
思考活動を充実させる一環として、
まず児童の興味・関心を高めその状態で考える課題を一人ひとりに提示する
たのが原因」
「マイワシの資源量グラフから、魚自
続いて自分で立てた予想を基に、タブレッ
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
授業設計の
ラフから、働く人が約40万人減って生産力が落ち
予想を自分で考え、
目的意識を持って資料を調べる
36
2013年11月28日 岡山県倉敷市立粒江小学校 教諭 木内 健太氏
タブレット端末なら
豊富な資料を手軽に活用できる
最後に、
児童が自分の考えを発表。
「労働人口グ
得られた結論はおおむね児童の予想と同じでしたが、
調べ学習を通じて、漁業生産量減少の背景をより具体的
に知ることができました。友達に説明してもらって
「グラフ
の読み取り方」を学んだ児童もいました。ただ、やや内容
の難しい資料が多く、社会が苦手な児童には読み取りに
くいようでした。また、
「グラフを読み取ってどんなことが
分かるか」という漠然とした発問には答えにくいので、教
○動きのあるデジタルコンテンツの活用により、
低位
層の児童でも効率よく資料を理解することができる。
△資料の充実が求められる。
比較や解釈が必要
な難易度の高い資料が3割、
情報量は少なく直
感的に結論を理解できる資料が7割程度のバ
ランスが望ましい。
員によるある程度の方向付けが必要と感じました。
優れた機材やネットワーク、支援員さんのおかげで効果
の高い取り組みができました。今後、子どもの多様化への
対応に適したツールとしてICTはますます重要になると
考えています。
神奈川県川崎市立南百合丘小学校教諭
田口 祥
予想と結果が違うと分かったときに
湧く“問い”は、思考への原動力になる
続いて、1960〜2008年の輸出入額の一部
が隠された折れ線グラフ画像を児童のタブ
注1
レット端末に配信して、隠された部分がどう
なるか予想して折れ線を書き込むよう指示し
ました。いくつかの回答を電子黒板に表示し
て意見交換した後に正解のグラフを表示。輸
授業実践者
のコメント
注1
最後に、
次回の授業で扱う、
「この
『貿易摩擦』
をどのように解消したのか?」
という新たな課
題を提示して授業を終えました。
授業におけるICTの効果と今後の課題
○課題を印刷して配布・回収するという手間が
省けた。
教員用タブレット端末で児童の全回答
を確認できるので、
授業展開を見通して進める
ことができる。
△児童の集中力を欠かさないためにも、
授業のテ
ンポは非常に重要であるため、
操作がスムーズ
でかつ安定性のあるツールが求められる。
貿易というものは、
輸出額が多すぎても輸入額が多すぎても
いけない。
そのことを児童の頭の中で思考させてから、実際に
日本で起こった貿易摩擦の資料を見せました。
グラフの隠して
いた部分をアニメーションで表示させると、
児童から
「えーっ!?」
という驚きの声が上がるなど、ICTを活用することで印象づ
けることができたと思います。
また、
各児童の考えを短時間で
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
把握できる新教務アプリケーション
(授業支援システム)
によ
り、
机間指導の時間が省けるという効果もありました。
ICTを使うために授業を考えるのではなく、分かりやすい
授業を行う手立て・ツールの1つとして、
いかにICTを利用す
るかという視点が大切だと思います。
岡山県倉敷市立粒江小学校教諭
木内 健太
37
第1章・
・
・実践事例
5年生社会
2012年9月12日 岡山県倉敷市立粒江小学校
教諭
5年生社会
保坂 毅氏
食料生産(米づくり)
情報と社会
単元:
単元:
動画を見て、米作りの過程を学び、
「米づくりカレンダー」
を完成させる
自分の考えはニュースにどう左右されるか体験を通じて学習する
〜自分のペースでタブレット端末の動画を視聴し、理解を深めながら作成〜
〜賛成・反対に偏った意見をタブレット端末で視聴し、
メディアの影響を体験〜
●めあて:
「米づくりカレンダー」
を作ろう
●教材:プレゼンテーションソフトによる自作資料、動画「米づくり 機械による稲かり」
「米づくり だっこく」
「米づくり 出荷」
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末(児童用)
●めあて:ニュースを見る前と後の考えの変化から、情報の受け手として注意すべき点を考える
●教材:シミュレーションコンテンツ
「『日本の情報産業』
ニュースができるまで」
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末(児童用)
・ 教科書や資料集の写真で理解しにくい単元のため、
児童一人ひとりがタブレット端末で映像を見ることで
米作りの過程を理解させる
授業設計の
個人のペースで調べ学習を実施
ポイント ・ 児童がタブレット端末で動画コンテンツを見ることで、
・ 調べ学習で理解した米作りの過程を自分なりにまとめる
「米づくりカレンダー」
の作成
ト端末で学習を進めることで、児童のペース
米作りの過程を
タブレット端末上の動画で学習
で自主的に学習に取り組むことができました。
注1
今回の授業では単に米作りの過程を追うだ
は理解が難しいため、米作り全体の流れを電
けでなく、現在と過去を比較して、技術の進歩
子黒板で確認します。
カレンダー制作に取り掛
や農家の労力の変化などを学びました。大勢で
かるにあたり、動画を皆で視聴しても、一度で
視聴する大型スクリーンやテレビと違い、タブ
覚えるのは難しいもの。そこで、児童個人がタ
レット端末なら手元で高画質な映像を自分の
ブレット端末で動画を見る方法を実践し、個々
ペースで視聴でき、イヤホンで聞きながらノー
そもそもニュースや他人の意見にどれだけ影
だったのに対し、見た後は賛成・反対が半数
に視聴することで気になった部分を繰り返し
トに書き込めるので、集中力も途切れずに効率
響を受けやすいのかを児童自ら認識する必要
ずつに、逆内容のニュースを見た後は、反対・
再生することで理解を深めました。また、コン
よく学習を進めることができました。
があると考えました。そこで「自分たちの地元
どちらともいえないが半数ずつとの結論に至
にレジャーランドができたら?」という身近な
りました。情報についての「公平性」や、結論を
出来事を題材に、クラスを2つに分け、建設賛
慎重に出すことの大切さを学ぶとともに、児
成・反対のニュースをそれぞれタブレット端
童から「ニュースを受け取る側には冷静さが
末で視聴し、賛成・反対の理由も含めてノー
必要」との有意義な意見も出ました。また、テ
トに書いて発表。あった方が便利、自然破壊す
レビだけでなく、友達とのメール、会話なども
るから不要など、活発な意見が飛び交います。
冷静に判断する必要があることも伝えました。
バインの
「写真」を見るのと、
コンバインが豪快
授業におけるICTの効果と今後の課題
に稲を刈り取っていく
「映像」
とでは、稲刈り作
○動画を見て学ぶという調べ学習であり、
児童が
一人で作業する時間が長いものの、
タブレット
端末の活用により、
児童の集中力は途切れるこ
となく学ぶことができた。
業が効率化されたことへの納得感が異なります。
分からないところや
問いを持ったところを再視聴する等、
自分のペースで調べ学習に取り組む
視聴を進めながら、具体的にどのような過
程があるのかを調べ、すぐまとめに取り掛か
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
授業実践者
のコメント
・ 実例で指導するのが難しい単元なため、
ニュース編集が自由にできるデジタルコンテンツを活用した授業
で公平・公正の観点を気づかせる
授業設計の
異なる意見に対してどんな感情を持つのかを児童自身
ポイント ・ 一方的な報道や主張に自分はどう影響されるのか、
で主体的に感じさせる授業展開
・ テレビ番組や友人からのメール、
会話などを通じて、
情報をどのように受け取るべきかを考えさせる
米作りの過程は、教科書や資料集の写真で
注1
38
2013年2月13日 秋田県山本郡八峰町立八森小学校 教諭 玉木 充氏
る児童がいたり、動画を何度も見直す児童が
いたりと、学習の進め方はさまざま。タブレッ
教科書・資料集では見開きの2ページに多くの情報があり、
文字が苦手な児童にとっては必要な情報が見つけにくいと
いう問題があります。タブレット端末では、ある項目をペン
タッチするとその情報だけが表示されるので、
この問題点が
解決されました。
また、
タブレット端末の映像・音声からノー
トを取るのは難しいと予想していましたが、イヤホンをして
○動画は直感的で分かりやすく、紙の資料集を
見ながらノートに記入するより、
耳でナレーショ
ンを聞きながらノートに記入した方が作業し
やすいことが分かった。
○あまり勉強が好きでない児童が学習に取り組
み、
知識を習得していく手助けとして、
ICTの活
用は大変有効。
ニュースづくりシミュレーションで、
賛成・反対に偏ったニュースを作り、
タブレット端末で視聴させる
情報活用の有効性について学ぶ前提として、
注1
偏ったニュースに心理的に誘導されて
しまう体験をした児童は、情報を
冷静に受け止める必要性に気づく
ニュースを見る前は建設賛成の意見が大半
次に端末を交換して逆の主張のニュースを視
授業におけるICTの効果と今後の課題
聴して賛成・反対を再度集計。
こうしたさまざ
○ICTの活用により、
以前と比べて
「表現しようと
する意識」
が高まった。
まな情報や主張を経て、自分がどんな影響を
受けたのかを考えます。
映像を見るのは集中が続くらしく、時々一時停止したりしな
がら、
分かりやすくノートにまとめていました。
私自身、当初はICTに苦手意識がありましたが、便利で児
童にとって効果的だと分かると、逆になくてはならないもの
になりました。
まずは使ってみることだと思います。
岡山県倉敷市立粒江小学校教諭
保坂 毅
授業実践者
のコメント
クラスを2つに分けて別内容のニュースを見せる方法は、
タブレット端末とイヤホンによって初めて可能になりまし
た。
これまでなら別々の教室でテレビを見せるなどの方法
しかなかったでしょう。タブレット端末の視聴というリア
ルな体験を通じて、児童は「いかにメディアの影響を受け
やすいか」に驚きを感じていました。まさにねらい通りの
授業展開でした。
注1
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
私はよく雑貨屋などで「これは教材に使えそう」とひら
めきます。本や新聞から教材を見つけることもあります。
ICTは、そうした身近にある教材の選択の幅を広げるもの
と考えています。使ってみて、失敗もしながら、ICTの活用
法を学んでいきたいと思っています。
秋田県山本郡八峰町立八森小学校教諭
玉木 充
39
第1章・
・
・実践事例
社会
5年生社会
2014年1月31日 岡山県倉敷市立粒江小学校
教諭
教科アドバイザ
安藤 正氏
情報と社会
単元:
ニュースづくりで、
正確かつ分かりやすく伝えることの重要さや難しさを学ぶ
〜テレビ会議システムでスタジオとつないで、
ニュース番組づくりを体験〜
川﨑誠司 先生
インタビュー
I n t e r v i e w
●めあて:ニュース番組作りで気を付けていることとは
●教材:つなぐ授業、Webでスクールプラス
(学級SNS)
、
シミュレーションコンテンツ
「『日本の情報産業』
ニュースができるまで」
●機材・ツール:電子黒板、
タブレット端末(児童用)、
テレビ会議システム
ICTがもたらした
「考える社会科」
の実践と
新たな教材研究の世界
公平・公正について児童が自ら考える貴重な体験をもた
らしました。
児童が授業にどんどん引き込まれていく姿が
とても印象的でした。
授業視察等を通じて
・ ニュースを実際に読んでみたときに、
遠隔にいるプロから見てどのような出来栄えなのかを実際にチェック
してもらう
授業設計の ・ 教室と報道スタジオをつなぎ、
レポーターに扮した児童がニュースを発表したり、
アナウンサーと質疑応答
ポイント
したりする活動を実施
・ 児童がニュースづくりの宿題として作成した
「レジャーランド開発」
について、
報道の公平・公正という観点
の重要性や表現することの難しさを学ばせる
反転授業の要素を取り入れたニュース
づくり。表現する喜びや困難を知る
プロのアナウンサーとの交流を通じて、
公平・公正を学ぶ
本授業に先立ち、児童は家庭でニュース映
注1
とを強く実感しました。
業でICTを用いた実践であり、
環境が整えばすぐに活用で
南百合丘小学校・田口祥先生の
「水産業」
についての授
きる事例ばかりです。
業では、
一般的には日本の漁獲量が減った理由を単に取
私自身も何度も現場に足を運ぶなど、
先生方と直接お
り上げる授業になりがちですが、
理由をタブレット端末な
話をする機会を持ちましたが、
ICT活用を継続するにつれ
どに表示した
「動くグラフ」
から読み解かせる授業を展開
て、
「授業でこんな使い方はできないか?」
といった意見や
しており、
まさに
「考える社会科」
を実践しました。
注文が積極的に出されるようになりました。
授業を組み立
てる環境の変化によって新しい教材研究の形が見いださ
像づくりに挑戦しています。
それぞれの児童が、
ら尋ねられると、
「視聴者がどのような印象を持
移をグラフから読み解かせた粒江小学校・木内健太先生
れ、
教師の授業構想力の熟達や社会科指導に関する専門
レジャーランド開発に対する賛成・反対といっ
つか考え、バランスよく組み合わせた」
と児童が
の事例についても同様です。
身の回りの製品に外国製の
的力量の形成にも効果を与えたといえます。
た意見に関する9つの映像の中から3つを選び、
答えます。
プロのテレビ関係者との交流という貴
ものが多いことを気づかせるなど、
児童の生活経験を教
定期的に開催された
「フィールド連絡会」
では、
授業づく
自分なりのニュース映像を作りました。
そして、
重な体験をしただけでなく、
授業のねらいも的確
材にし、
児童が自分で考える道筋をつけていたことも良い
りや授業研究について、
夜の更けるまで語り合いました。
その後の授業で班ごとの意見交換や教員の指
に達成した
「つなぐ授業」
の実践となりました。
点でした。
中でも
「授業の質的研究」
の重要さを深く語ることのでき
導を通じニュースを完成。反転授業の要素を取
なお、
授業終了後には、
授業の感想を
「ニュース
粒江小学校・保坂毅先生の
「米づくり」
の授業では、
タブ
り入れ、報道の公平・公正の観点を主体的に
原稿」
として学級SNSに書き込み、クラスで共有
レット端末を活用した動画による調べ学習や米づくりカ
これからの取り組みがより良い方向に向かうような成
学ぶことができました。
しました。これにより、児童の文章力を高めると
レンダーの作成を通じ、
稲作のプロセスを丹念に追わせ
果や課題が多く得られただけに、
本トライアルが3年間で
ました。
農家の苦労や食料の大切さをしっかり学んでほし
終わるのは残念でなりません。
しかし、
教育現場の抱える
いという先生の思いが伝わる授業でした。
課題を丁寧に理解し、
解決しようと尽力してきたNTTグ
ともに、
クラス全体の絆を深めることもできました。
道スタジオとの
「つなぐ授業」
を実施。
クラス代
授業におけるICTの効果と今後の課題
表の数班が、
アナウンサーやタイムキーパーな
○タブレット端末を持ち帰ることで、
自宅でニュー
ス映像編集を行い、
教室で意見交換をすると
いった反転的な授業が簡単にできる。
どそれぞれの役割を演じてニュースを発表。
プ
ロのアナウンサーから講評を受けるとともに、
40
何より知ってほしいのが、
ここでの実践が特殊なケース
ではないということです。
公立学校の先生方が普段の授
これは、
「工業生産」
の授業で日本の輸出・輸入量の推
注1
授業実践者
のコメント
多くの先生がキャリアの差に関係なくICTを上手に活
用しており、
「考える社会科」
を実践する3年間になったこ
使用した映像を選んだ理由をアナウンサーか
そして本授業では、体験活動として東京の報
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
教育ICTに取り組む先生や企業に向けて
事実を正確に素早く伝えることや、チームワー
クの大切さなどについて学びました。
児童が短時間で自分なりに納得のいくニュース番組を
作り上げられたのは、作成を支援するソフトがあったから
こそ。動画の組み合わせが多様なので、自分の伝えたい主
張に合わせて番組を制作でき、本物の仕事を疑似体験で
きました。さらにそれを、実際に活躍されているアナウン
サーや記者に評価してもらうことは、児童の学習意欲の向
上につながりました。
○テレビ会議システムを活用した
「つなぐ授業」
やニュース番組を模した発表など、
児童の知識・
理解・興味・関心・意欲をより高められる授業
が実現した。
報道スタジオとつないでの質疑応答で、児童が自分の
知りたい内容を直接問いかけ、アナウンサーや記者からリ
アルタイムで答えを聞くことができたのも、貴重な体験と
なりました。
ICTは、児童が抱えるさまざまな困難に対応する手立て
の幅を広げてくれると感じています。
岡山県倉敷市立粒江小学校教諭
安藤 正
た与論小学校・後藤道洋先生からは多くを学びました。
「情報との関わり方」
について学ぶ、
粒江小学校・安藤正
ループやトライアルに参加した企業の真伨な姿勢は心強
先生、
木内健太先生と八森小学校・玉木充先生の授業は、
く、
信頼に足るものです。
教育に対する熱意は共通であり、
社会科学習の本質であるにもかかわらず教えることが難
これからもさまざまな形で教育ICTが継続されるものと
しい
「公平・公正」
のテーマに果敢に挑み、
社会科の核心に
確信しています。
迫る授業となりました。
安藤先生の授業は、
ニュースづく
りから報道スタジオとの
「つなぐ授業」
、
SNSを活用した振
教科アドバイザ 川﨑誠司 先生 プロフィール
り返りと盛りだくさんな内容ながら
「ニュースを作る際に
1965年愛媛県松山市生まれ。東京学芸大学教育学部専
任講師、助教授、准教授、ハワイ大学教育学部客員研究員
(2001-2002年、2008年)などを経て、現在、東京学芸大学
教育学部教授、博士(教育学・筑波大学)
。専門分野は社会
科教育・多文化教育、ハワイ研究、授業研究方法論。著作は
『多文化教育とハワイの異文化理解学習―「公正さ」はどう
認識されるか』
(単著、
ナカニシヤ出版、2011年)
ほか。
気を付けることは?」
という授業のねらいを的確に捉え続
けました。
玉木先生の授業では、
児童同士がタブレット端
末を交換して異なる主張のニュースを視聴し合うことで、
自分や周囲の考えがニュースにどう影響されるのかなど、
41
第1章
実践事例
その他
小学校英語
「CAN-DOリスト」
で
「できる感」
を醸成。
学びの場として、
「つなぐ授業」
は有効
国語や体育、図工といったさまざまな教科でもICTを活用した授業が積極的に展開されました。
〜鹿児島県大島郡与論町立茶花小学校の実践事例〜
外国語活動(英語)
では、児童の手応えや教員の目標の指針となる
「CAN-DOリスト」
を導入し、
2013年に
「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」
が文部科学省から公表され、
必修化に向けた動きも進むなど、
小学校においても英語教育がいよいよ本格的に始まろうとしています。
そうした中、
フィールドトライアルでは、
「できる感」
を
積み重ねていく
「CAN-DOリスト」
「CAN-DOアンケート」
活用の実践の場として、
「つなぐ授業」
が有効に機能しました。
その実践の場となる外国人講師との「つなぐ授業」に取り組みました。そのほか、プログラム
を楽しみながら学ぶ授業や情報モラルを高めるための授業も実施。ここではその実践事例
の一部をご紹介します。
を実施しました。
“できること”の積み重ねで
手応えのある授業を目指す
なお、
「CAN-DOリスト」とは、本トライアル
小学校では3年生から外国語活動を実施
の教科アドバイザである東京外国語大学の投
し、5年生から教科として必修化する動きが進
野由紀夫先生の指導のもと、子どもたちに英
んでいます。現在は、文部科学省の外国語活
語で
「できるようになったこと」
を気づかせ、
「で
動教材「Hi, friends!」を教科書代わりに、外
きる感」
を醸成することを目的とした指針です。
国 語 指 導 助 手(ALT:Assistant Language
世界規模で導入が進む、
「欧州言語共通参照枠
Teacher)の協力を得ながら、発音や会話の練
(CEFR)」の日本語版(CEFR-J)を基に、
「Hi,
習を行っています。しかし、英語はまだ正式な
friends!」に準拠して作成された小学生用書
教科ではないことから、テストなどで児童の学
き換え版「CAN-DOリスト」を本トライアルで
力を評価し、
把握した上で次の学びにつなげて
は導入しました
(図表1)。
いくという一般的な授業スタイルを実践するこ
ネイティブとのやりとりで
オリジナルのピザができた!
とができません。そこでフィールドトライアル
では、児童が自分で学んだことに手応えを得ら
フィールドトライアル2年目に開始された
れるとともに、教員も目標を持って教えること
ICTを活用した英語の授業実践は、秋田県八
ができる指針となる
「CAN-DOリスト」
を準備。
峰町と鹿児島県与論町で行われました。教員
より効果的な英語学習の実践を目指すととも
や児童からの反響を基にテレビ会議システ
に、
テレビ会議システムを介した初対面の外国
ムを活用した「つなぐ授業」を実施、英語を話
人講師
(OLA:Online Language Assistant)
すことへの興味・関心が高まり遠隔授業の有
と英語でやりとりするといった、学習の成果を
効性など手応えを得ることができました。そ
検証する場として、
ICTを活用した
「つなぐ授業」
こで次年度は、与論町の茶花小学校において、
授業のダイジェストを
動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
図表1「Hi, friends!」
準拠の小学生用書き換え版「CAN-DOリスト」
<実 践 事 例>
小学生用書き換え版 CAN-DO
A1.1
A1.2
A1.3
ゆっくりはっきり
と話されれば、日
常の身近な単 語
を聞きとることが
できる。
当人に向かって、
ゆっくりはっきり
と話されれば、
「立
て」
「 座れ」
「 止ま
れ」といった短い
簡単な指示を理
解することができ
る。
趣味やスポーツ、
部 活 動 などの身
近 なトピック に
関する短い話を、
ゆっくりはっきり
と話されれば、理
解 することが で
きる。
ゆっくりはっきり
と話されれば、自
分自身や自分の家
族・学校・地域な
どの身の回りの事
柄 に 関 連した 句
や表現を理解す
ることができる。
全レッスン
なし
Book 2-7, 2-8
Book2-6,
2-8
英語の文字が発
音されるのを聞
いて、どの文字か
わかる。
日常 生 活に必 要
な重要な情報(数
字、品物の値段、
日付、曜日など)
を、ゆっくりはっ
きりと話 され れ
ば、聞きとること
ができる。
日常 生 活の身近
なトピックについ
ての話を、ゆっく
りは っきりと 話
されれば、場所や
時間等の具体的
な 情 報を聞きと
ることができる。
(買い物や外食な
どで)簡単な用を
たすのに必 要 な
指 示 や 説 明 を、
ゆっくりはっきり
と話されれば、理
解することができ
る。
Book1-6
Book1-6
Book2-4(道案内) Book 1-5, 1-6, 1-9
レベル
PreA1
簡単な単語を聞
き取って、実物や
絵 を 指したりで
きる。
聞くこと
PreA1
理解
聞くこと
42
理解
小学校英語
「CAN-DOリスト」
で
「できる感」
を醸成。
学びの場として、
「つなぐ授業」
は有効……………………43
国語
ICTを活用して言語活動を充実。
「つなぐ授業」
で生まれた
「新たなつながり」
も ……………………45
体育
手軽に持ち運べるタブレット端末で動画撮影。作戦立案にも役に立った ……………………………45
図工
ICTを活用したものづくりで楽しみながら想像力を育む ……………………………………………………46
VISCUIT
プログラミングの楽しさを知る
「VISCUIT」……………………………………………………………………47
ネット安全教室
インターネットのルールやマナーを学ぶ
「ネット安全教室」
も開催 ………………………………………47
オリジナルの CAN-DO
レベル
A1.1
先 生や友 達から
「立ちなさい」
「座
りなさい 」
「 やめ
なさい」などの指
示を英 語で言わ
れたらわかる。
A1.2
A1.3
自分自身や自分
好 きなことやス
の家族・学校・地
ポ ーツなどにつ
域 などにつ いて
いての 話 を 聞 い
の 話 を 聞 いてわ
てわかる
かる。
全レッスン
なし
英 語のABCなど
の文 字が発 音さ
れるのを聞いて、
どの文 字かわか
る。
1)
数字が聞いて
わかる
1)
話をきいて、
そ
2)
月の名前が聞
れがどこで行
いてわかる
われるのかが
3)
曜日が聞いて
わかる。
わかる
2)
話をきいて、
そ
4)
日付が聞いて
れがいつ行わ
わかる
れるのかがわ
5)
品物の値段が
かる。
わかる
Book 2-7, 2-8
Book1-6
Book1-6
Book2-6,2-8
買い物や外 食な
どで、相手がいう
ことを 聞 いて わ
かる。
Book2-4(道案内) Book 1-5, 1-6, 1-9
43
第1章・
・
・実践事例
図表2 CAN-DOアンケートの集計
12月2日
何が欲しいか
と尋ねられて
英語の質問が
聞いて分かる
赤(自信を持ってできた)
赤の割合
緑(できた)
緑の割合
青(もう少し頑張れた)
青の割合
国語
12月10日
何が欲しいか ABCの文字が ABCの文字を 食べ物の好き・ 何の形が好き
と尋ねられて 聞いてどれか 見ながら声に 嫌いを英語で かと尋ねられ
簡単な英語で 指せる
出して言える 言うのを聞き て簡単な英語
答えられる
取れる
で答えられる
何が欲しいか
と尋ねられて
英語の質問が
聞いて分かる
何が欲しいか
と尋ねられて
簡単な英語で
答えられる
22
21
22
19
21
18
24
18
76%
72%
76%
66%
75%
62%
83%
62%
6
6
6
10
7
10
5
10
21%
21%
21%
34%
25%
34%
17%
34%
1
2
1
0
0
1
0
1
3%
7%
3%
0%
0%
3%
0%
3%
ICTを活用して言語活動を充実。
「つなぐ授業」
で生まれた
「新たなつながり」
も
国語では、
デジタル教科書の活用はもちろんのこと、
作品に対する関心を高め、
言語活動の充実を図るため、
タブレット端末
と授業支援システムを活用した授業や
「つなぐ授業」
などが行われました。
ました。授業の後半には作者ゆかりの鹿児島
注1
県にある椋鳩十文学記念館との
「つなぐ授業」
を実施し、長年椋鳩十に師事した畠野洋子さ
注1
んから作者にまつわるさまざまなお話を聞き、
作品の理解を深めました。なお、その後も畠野
「CAN-DOリスト」に基づく、さらに先進的
な遠隔授業に取り組みました。
の学習に向けた手応えや自信につなげていま
さんと児童との間で手紙のやりとりが続くなど、
した
(図表2)
。
関川小学校に
「新たなつながり」
が生まれるきっ
注2
注2
茶花小学校の5年生の外国語授業では、
「今
注1
「CAN-DOリスト」という評価基準のもと、
日はみんなで一緒にピザを作ろう!」をテー
普段から授業で慣れ親しんでいるALTとのや
マに、テレビ 会 議システムを用いてOLAと
りとりではなく、初対面の外国人講師とも本
国語でのICT活用はまた、導入段階で児童
英語でやりとりする授業を行いました。これ
当に英語での会話が成立するか、学びの効果
の身近な問題を認識させることや、展開の段
は「Hi, friends!」のレッスン 6「What do
を検証する場として、ICTを活用した「つなぐ
you want ?」
( 単元目標:欲しいものを尋ね
授業」
は有効に機能していました。
たり答えたりしようとする)に準拠した内容
●身近な話題をきっかけに
「文章構成」
を学ぶ
●
「大造じいさんの新たな作戦」と椋鳩十文学
記念館との
「つなぐ授業」
です。秋田県八峰町立八森小学校で実施され
椋鳩十の童話「大造じいさんとガン」を題材
た野呂田光年教諭の授業では、
「 天気を予想
にした新潟県関川村立関川小学校の宮下絹恵
する」という文章を題材に、作者の言いたいこ
物や外食などで、相手がいうことを聞いてわ
教諭の授業では、
タブレット端末や電子黒板を
とが伝わる説明文の構成とはどういうものか
かる」の項目に該当します。
時間(分)
効果的に活用した興味深い授業が行われまし
について学びました。授業の冒頭、自分自身の
た。
児童が考えた
「大造じいさんの新たな作戦」
天気についての思い出をタブレット端末に書
「What do you like?」の や りとり を 復 習。
について、
電子黒板を前にしての発表や児童同
いて発表させるなど、児童自身の生活経験を
「What do you want?」の質問に対して「〜,
士の意見交換、
さらにはタブレット端末と授業
単元の主題に関連付けるためにタブレット端
please.」
と答える、
「What do you like?」
の質
支援システムを活用しての投票などが行われ
末を活用しました。
まずは授業の初めに
「What do you want?」
畠野洋子さんから贈られ
た記念の品々
階で児童個々の考えを集約することにも有効
■授業の流れ
(例:Lesson6の場合)
であり、
「CAN-DOリスト」の「聞くこと:買い
注2
かけとなりました。
関川小学校・宮下教諭の授業
のダイジェストを動画でご覧い
ただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
問に対して
「I like 〜.」と答えるやりとりがで
きていることを確認。続いて、授業の中盤から
注1
はピザのトッピング選びを題材に、
テレビ会議
注3
システムを用いて15分程度のやりとりを実施。
OLAからの質問に合わせて電子黒板にピザの
トッピング一覧が表示され、希望するトッピン
グを子どもたちは英語で回答します。最後に、
体育
手軽に持ち運べるタブレット端末で動画撮影。
作戦立案にも役に立った
跳び箱の姿勢など、
自分自身の動きを見ることは、
上達の近道。
バスケットボールで攻め方、
守り方の作戦づくりを行うなど、
手軽に持ち運べるタブレット端末ならではの使い方もされました。
注2
●自分の跳ぶ姿をタブレット端末で何度も確認
跳んでみて、時には教員に動画を見せてアド
跳び箱を跳ぶ姿を自分で確認できたら、もっ
バイスを受けながら改善に取り組みます。自
そして授 業 の 終 わりには、
「CAN-DOリス
とうまく跳べるコツが分かるに違いありませ
分の跳ぶ姿を動画で見ることは児童にとっ
ト」を基に作成された、イラストで描かれた
ん。岡山県倉敷市立粒江小学校の安藤正教
ても新鮮な体験であり、普段は跳べる段の高
「CAN-DOアンケート」を用いて、授業を通じ
諭の5年生の授業では、跳び箱を跳ぶ様子を
さばかり競いがちな児童も、率先して基本姿
て
「できた感」を児童自ら記入。赤(自信を持っ
タブレット端末で児童同士が撮影し合いま
勢の改善に励みました。
てできた)、
緑
(できた)、
青
(もう少し頑張れた)
した。その場で動画を確認して、児童は姿勢
●タブレット端末で戦略を立て試合に勝つ!
と色分けして答えることで、児童自身、何がで
の改善に役立てるヒントをつかみます。児童
きるようになったのかを視覚的に確認でき、次
同士で改善点を指摘し合いながら繰り返し
完成した電子黒板上のオリジナルのピザ画像
を目にした児童から大きな歓声が上がりました。
粒江小学校・安藤教諭の授業
のダイジェストを動画でご覧い
ただけます。
注3
44
チームワークを育むのにもICTは活躍します。
秋田県八峰町立水沢小学校の嵯峨博教諭の
水沢小学校・嵯峨教諭の授業
のダイジェストを動画でご覧い
ただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
45
第1章・
・
・実践事例
注1
タッチンムーブ
NTTの研究所が開発し
た動画の画面タッチによ
り直感的に操作すること
ができるツール
授業では、
バスケットボールの試合の様子をタ
ピック銅メダリストの朝原宣治氏と、シドニー
ブレット端末で撮影して、児童同士で相談しな
オリンピック銅メダリストの岡本依子氏を招き、
がら戦略を立てる取り組みを実践。
試合を撮影
ICTを活用した授業を実施しました。タブレッ
した動画でメンバー同士の動きを確認したり、
ト端末で撮影した動画を
「タッチンムーブ」
でコ
タブレット端末上のコート図面にドリブルやパ
マ送りしながら、
朝原氏が
「走るときは前かがみ
スの流れを書き込んだりして作戦を立てます。
になると無駄な力がかかる。腰に力を入れて姿
その後試合を行い作戦の有効性を検証。
タブレッ
勢を崩さず、足に力をこめて走ることが大事」
と
しさを学ぶ
メやタコ、ワカメなどの絵を描きます。個々の
ト端末を活用することで戦略立案に積極的と
解説しました。五輪メダリストのアドバイスに
NTTの研究所が開発した「VISCUIT(ビス
絵が完成したら次に、
「ぶつかると反対方向に
なり、
チームワークの醸成にも役立ちました。
児童も納得。岡本氏の指導では、テコンドーの
ケット)」は、誰でも簡単に、直感的にプログラ
離れる、後ろから追いついたら一緒に動く」と
●五輪メダリストを招いたICT授業
基本動作や、その動きを取り入れたダンスに教
ミングを体験できるツールです。絵でプログラ
いうような動きを、矢印でつけていきます。授
員や児童が一緒になって楽しく取り組みました。
ムを作り、矢印で動きを加えると絵が動き出
業の最後には電子黒板の大きな画面に作品を
すなど、絵を描くような感覚でプログラムの楽
映して、
クラス全員で発表会を行いました。
注1
新潟県関川村立関川小学校に北京オリン
VISCUIT
プログラミングの楽しさを知る
「VISCUIT」
タブレット端末の手軽さを活かして、
プログラミングの楽しさを知る授業をトライアル校で実施しました。
●絵を描くような感覚でプログラミングの楽
自のタブレット端末の画面上に、海中で動くカ
しさを学ぶことができます。今回のトライアル
では「VISCUIT」をタブレット端末で扱えるよ
うにカスタマイズを行った上で、
さまざまな学
校で児童がプログラミングを体験する特別授
業を開催しました。
鹿児島県与論町の3校(茶花小学校・那間小
学校・与論小学校)で実施した授業では、島の
五輪メダリストの岡本依子氏の指導により、
音楽に合わせて体を動かす子どもたち
児童にとって身近な「海」をテーマにしたプロ
VISCUITのダイジェストを動画
でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
グラムづくりに取り組みました。児童はまず各
図工
ネット安全教室
ICTを活用したものづくりで楽しみながら想像力を育む
インターネットのルールやマナーを学ぶ
「ネット安全教室」
も開催
図工の授業では、
児童一人ひとりがタブレット端末のカメラ機能を活用したコマ撮りアニメを制作するという、
タブレット端末
ならではの手軽なものづくりにチャレンジしました。
フィールドトライアルの実施に際しては、
インターネットのルールやマナーを学ぶ
「ネット安全教室」
をトライアル各校で実施しました。
南百合丘小学校・加地教諭の
授業のダイジェストを動画でご
覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
46
●ルールやマナーを学ぶ
「ネット安全教室」
トの正しい使い方やコミュニケーションのとり
●タブレット端末で手軽にコマ撮りアニメ制作
児童一人ひとりがタブレット端末を扱う上
方は、今の時代の子どもたちに不可欠。ルール
「アニメーションをつくろう!」をテーマにし
で、インターネットのルールやマナーを学ぶ
やマナーを理解させる良い機会となった」
との
た神奈川県川崎市立南百合丘小学校の加地
ことは必要不可欠です。本トライアルでは全
評価を得ました。
盛一郎教諭の5年生の図画工作の授業では、
ての学校で「ネット安全教室」を開催しました。
タブレット端末のカメラで撮影した画像を使っ
掲示板への書き込みをきっかけに友人を傷
て、身近なものを動かしながら撮影するコマ
つけてしまうアニメーションを視聴して、ネッ
撮りアニメーションの制作を行いました。児童
トの危険性を理解するとともに、自分の行動
は持参した恐竜の人形や粘土などを使って、
がどのような結果を招くかをあらかじめ考え
アニメーション制作に取りかかります。一人で
た上で行動しなければならないことなどを学
集中して制作に集中する児童がいたり、もの
びます。
を動かす担当と撮影する担当とを役割分担し
る楽しさや達成感を得るとともに、自分で思
参加した児童からは、
「個人情報を書き込む
ながら制作を進めるグループがいたりと、取り
いついたことを実行に移すといった発想力や
と大変なことが起きることがよく分かった」と
組み方はさまざま。
アニメーションを自分で作
構想力を育むことに役立ちました。
いった感想が寄せられました。
教員からは
「ネッ
ネット安全教室
(NTT東日本)
http://www.ntt-east.co.jp/kids/netanzen.html
ネット安全教室のダイジェスト
を動画でご覧いただけます。
動画の再生方法は109ページを
参照してください。
47
第1章
実践事例
中学校英語
中学校英語
ICTによる基礎力の向上とコミュニケーション活動の活性化に取り組んだ2年間
岡山県倉敷市立玉島北中学校で実践されたフィールドトライアルは、反復学習ツールを活
〜岡山県倉敷市立玉島北中学校の実践事例〜
用した語彙・発音の基礎力向上や、
オーストラリアの中学校との交流授業を通じたコミュニケー
2011〜12年に岡山県倉敷市立玉島北中学校2年生で実施したフィールドトライアルでは、
「英語に触れる量を増やす」
こと
をねらいに、
語彙や発音といった基礎力の向上の取り組みを行いました。
教室には電子黒板や1人1台のノートパソコン環
境を整備し、
授業のみならず放課後や家庭での学習機会の増加を目指すために反復学習ツールを導入。
さらに、
生きた英
語に触れることによる学習意欲の向上を目指し、
テレビ会議システムを活用したオーストラリアとの交流授業を実践。
コミュ
ニケーション活動の活性化にも取り組みました。
ションの活性化に取り組みました。秋田県八峰町立八森中学校と峰浜中学校では、生徒の
実用英語技能検定(英検)受験に向けて、語彙習得のための反復学習ツールが活用されました。
フィールドトライアルで実践された中学校英語の事例をご紹介します。
基礎力向上に効果を発揮した
反復学習ツール
本トライアルでは、語彙力の向上を目指して、
語彙記憶ツールの
「iKnow!」
を導入しました。
出題される単語は、同中学校で採用する教科
書に完全準拠。さらに、1年生で学んだ単語も
網羅することで、既習の内容にさかのぼって学
習することもできます。これにより、授業のみ
ならず放課後や家庭学習における学びの連続
性を高め、反復学習による英語の基礎力向上
を目指しました。
本ツールの活用前後で小テストを実施し、
効果を検証したところ、全体平均点が上昇す
るなど、語彙習得に一定の効果が見られました。
学びのモチベーションを高めた、
オーストラリアとの
「つなぐ授業」
同時に、ICTの活用が英語学習の意欲向上に
反復学習ツールを活用した語彙・発音学習
対して効果を与えたことも、生徒への意識調
の実践に加え、本トライアルでは、同世代の外
「iKnow!」を活用して語
彙の反復学習を行う生徒
注1
査により認められました。
<実 践 事 例>
中学校英語
ICTによる基礎力の向上とコミュニケーション活動の活性化に取り組んだ2年間 …………………49
国人と会話し、生きた英語に触れる取り組み
また、英語の音声の特徴をとらえ、正しく発
を行い、生徒のモチベーション向上をねらい
音するためにも、反復練習は重要です。そのた
ました。オーストラリア大使館・ビクトリア州
めに導入したのが発音練習ツール「English
政府の全面協力のもと、同中学校とオーストラ
Central」です。語彙記憶ツール同様に教科書
リアビクトリア州のFairhills High Schoolを
に準拠した内容で、生徒たちはシステムによ
テレビ会議システムでつなぐ交流授業を行い
る発音判定で苦手箇所を特定し、繰り返し学
ました。
習を行いました。約40人の生徒が一斉に利用
生徒はこれまでの授業や反復練習での学び
した際のネットワークへのトラヒック負荷を
に基づき、英語での自己紹介や将来の夢など
考慮して2人1組のペア学習として活用するな
をオーストラリアの中学生に伝え、彼らもこれ
ど運用上の工夫を行いました。
に応えます。なお、オーストラリアの同校には
これらの反復学習ツールに対して、教員か
日本語の授業があるため、英語だけではなく
らは「生徒各自が学力アップを目指して上手
日本語でのやりとりも行われるなど、互いに
に使っていた。授業にも積極的に参加するよ
教え合う交流授業となりました。普段はおと
うになったと思う」と、評価する声が寄せられ
なしい生徒も、
自分の英語が通じる楽しさから、
ました。
率先して自分なりの表現で思いを伝えること
に努めていました。
48
注1
□論文名
学校教育と家庭学習と
のシームレスなICT活
用の実践研究
□著者名
・藤本 義博
倉敷市教育委員会
・福與 喜弘
NTTラーニング
システムズ㈱
□会議名
日本教育工学会
第28回 全国大会
49
第1章・
・
・実践事例
英語
教科アドバイザ
授業に参加した生徒からは「将来は留学し
てみたい」
「もっと英語を話せるようになりた
投野由紀夫 先生
インタビュー
い」といった感想が寄せられました。教員から
は、
「 実際のコミュニケーションで英語を使う
I n t e r v i e w
楽しさを実感できたと思う」
「ICTを活用した
海外との交流授業は、生きた英語に触れるこ
とはもちろん、海外文化を知るチャンス」と、
多面的な学習効果に期待するコメントが寄せ
電子黒板を活用しクラス全員で正しい発音を学ぶ
られました。一方、オーストラリアの先生から
は「私たちの交流授業を参考に、
ドイツの学校
と交流授業を行ったクラスもありました。海外
との手軽なやりとりを実現するICTは、語学学
この5年で英語学習は
大きく変わる。
ICTの果たす役割とは
中学校英語について
なお、交流授業の実施に先立って行われた
本取り組みは、英語に触れる量を増やすことを主眼に
授業では、
「EnglishCentral」を活用して発音
置き、
基礎力の向上を目指しました。
やヒアリングをグループ単位で学習する取り
「EnglishCentral」
で個別に発音の反復練習を行う生徒
がら簡単に英文を暗唱でき、リスニング力も
ついた」と担任の教員も手応えを感じた様子
でした。
このように基礎力を高めたことが生徒
たちの自信となり、本番での活発なコミュニケー
このため、語彙学習や先生の指導が難しい発音練習
後の
「CAN-DOアンケート」
で
「できる感」
が醸成されました。
に取り組むことが困難となり、結果として学校と家庭の
茶花小学校・田畑貴充先生の授業では、実際に
「小学
ます。
今後はICT活用の機運を高めることが必要です。
50
「つなぐ授業」は生徒や教員からも好評でした。その理由
(株式会社EnglishCentral提供)
、
児童用に
「CAN-DOアンケート」
を作成しました。
DOリスト」
しました。ところが放課後・家庭学習は全生徒が一律
一方で、
学習意欲向上を目的としたオーストラリアとの
●発音練習ツール
「EnglishCentral」
そこで教員用に「Hi,Friends!」準拠の「小学生版CAN-
い言葉で提示される
「授業目標」を理解して取り組め、授業
ていること等から、やれば効果があることは確認してい
反復学習に使われたアプリケーション
発で楽しければ良い」
という授業内容を改善することです。
い、授業では会話活動に比重がシフトすることを期待
放課後・家庭学習に取り組んだ生徒からは
「楽しみな
オーストラリアの中学生との交流授業の模様
何を基準に教えればいいのかといった悩みを解決し、
「単
教員は
「授業目標のゴール設定」が明確になり、児童は易し
がら学べた」
「テストの点が上がった」
と評価する声を得
(セレゴ・ジャパン株式会社提供)
ありません。このため他の教科とは異なり評価はしませ
については、
ICT環境を活用した放課後・家庭学習で行
連携は実現できませんでした。
ションにもつながりました。
●語彙記憶ツール
「iKnow!」
小学校で取り組む英語は、
外国語活動であり教科では
ん。
目下の課題は、教員は授業の目標をどこに置くのか、
習にとって効果的」
との声が聞かれました。
組みも行われました。
「グループ内で楽しみな
小学校英語について
生版CAN-DOリスト」を採り入れ、実践を行いました。
具体的には遠隔からテレビ会議を介してOLAが授業
に参加し、児童に既習事項を
「臨場感ある会話実践」
で、
「CAN-DOアンケート」の項目達成を目指しました。こ
の一連の活動は、まとめ・振り返り学習としては有効な
活動であり、アンケートの結果、自信を持って取り組め
た児童が約70%と成果がありました。
は、教科書準拠の内容で会話活動ができたためと考えて
今後日本の英語教育は大きく変わり、
5、
6年生から教科
います。
教科書に出てくる表現を使って相手に伝えられる
となり、
これに伴い3、
4年生から活動として始まる予定です。
か?また、
相手が話す英語を聞き取ることができるかとい
小学校では話す楽しさやできる喜びを優先し、中学校
う点を交流授業の目的として
「通じる実感」
を生徒が獲得
では小学校の取り組みを文法として習得・整理すること
できたことが学習意欲向上につながったと思います。
で次に進んでいく。
これらは独立しているものではなく、
小・
海外の同世代とのコミュニケーション活動は、まさに
中学校の連携が大事になります。
3、
4年生は発音矯正に
ICTの有効性を発揮した場面でした。この
「つなぐ授業」
適した時期のため、
正しい発音の素材をICTで提供し、
音
は
「授業の機会」
と
「テーマ」
をセットにすることで効果が
声中心のプレゼン練習をさせ、
5、
6年生には英文の仕組
に沿っているとさ
生まれます。
テーマが
「CAN-DOリスト」
みを理論ではなく、
グラフィカルに見せることが大切だと
らに効果が期待できると思います。
思います。
理論と記憶の両方に効くICT教材に期待します。
脳科学に基づく学習エンジンを特徴とする語彙記憶ツー
独自の音声解析技術を特徴とする発音練習ツール。岡
ル。
岡山県倉敷市立玉島北中学校の実践では教科書会社
山県倉敷市立玉島北中学校の実践では、語彙記憶ツー
また、教員が新たなツールを採り入れた教え方を実
(開隆堂出版株式会社、株式会社三省堂)
の協力を得て、
ルと同様に、教科書会社の協力を得ながら音声も含め
践・習得していくため重要なことは、指導主事等が外国
教科アドバイザ 投野由紀夫 先生 プロフィール
学習内容を教科書準拠にカスタマイズ。また、秋田県八
た内容を教科書準拠にカスタマイズ。生徒は教科書の
語教育は将来どうあるべきかを示し、教員と共通理解
峰町立八森中学校・峰浜中学校での実践では、株式会
本文や例文の正しい発音を学習することができました。
を得ることです。教員研修を実施するなど行政を含め
1961年生まれ。東京外国語大学大学院教授。言語学博士。
専門は辞書学、
コーパス言語学を応用した英語語彙習得研究。
著書は
『英語到達度指標 CEFR-J ガイドブック』
(編著、大修
館書店)、
『エースクラウン英和辞典』
(三省堂)、
『プログレッ
シブ英和中辞典』
(共編,小学館)
など多数。
社旺文社の協力を得て、英検学習用にカスタマイズし活
たICT活用の仕組みと理解を促進していかなければな
用しました。
らないと考えています。
51
コ ラム
つなぐ+ ひろがる
教育ICT
2
vol.
教育ICTの普及・定着に向けた
実践事例の発信
〜「『教育の情報化』推進フォーラム」から〜
第2章
教育ICTへの理解を深め、
実践の輪を広げていくためには、
ICTを活用した授業の実践事例を広く世の中に発信していくことが大切です。
特にこれから教育ICTに取り組む教員などの学校関係者に対しては、効果的なICTの活用場面や活用方法を理解してもらうことが重要
です。
そこで、
フィールドトライアルの取り組み内容や実践事例を発信する機会として、
これまで多くの団体の発表会などに参加し、
情報の
水平展開に努めてきました。
一般社団法人日本教育情報化振興会
(JAPET&CEC)
の成果発表会
「
『教育の情報化』
推進フォーラム」
では、
フィールドトライアル実践校
の教員の皆さんとともに、
模擬授業の実践などを通じて事例の共有を行ってきました。
これまでの分科会の模様についてご紹介します。
“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルの実践内容
について、
学校教育を取り巻く多くの関係者に知っていただく
ため、
トライアル期間中はさまざまな団体の発表会などで
本トライアルの取り組みを紹介してきました。
一般社団法人日本教育情報化振興会
(JAPET&CEC)の成
果発表会「『教育の情報化』推進フォーラム」
では、2011年度
より3年間続けて取り組み内容を共有。2012年度および
2013年度のフォーラムでは分科会の一つとして、
フィール
ドトライアルに参画した教員の皆さんによる取り組み内容
の発表や参加者1人1台のタブレット端末を使った模擬授業
を行いました。
まだまだ事例が少ない児童1人1台端末を実際に活用した
実践に関する発表で、
かつ実際に教室で使っているタブレット
端末を使った模擬授業も実施されるということもあり、会場
には同じく教育ICTの実践を志す教員や教育委員会といった
多くの学校教育関係者が参加。参加された皆さんはタブ
レット端末を触りながら実践した教員の発表を真剣に聴講
52
されていました。また発表後には参加者と発表者の質疑
応答がなされるなど、熱気あふれる分科会となりました。
フィールド
紹介
フィールドトライアルに参加した
全国5県にわたる市町村の小中学校12校。
各自治体の教育委員会や学校の関係者に
今回の取り組みを振り返りながら、
地域の子どもたちにかける思いや
これからの教育とICTに対する
期待などを語っていただきました。
教育ICTの実践事例を紹介するほか、1人1台のタブレット端末を
活用した授業を体験できるということもあって、会場は多くの学校
教育関係者でにぎわいました
2012年度に発表した鹿
児島県与論町立与論小
学校の後藤 道洋 教諭。
社会の
「日本の情報産業」
について、
ニュースづくり
のコンテンツを活用した
模擬授業を実施
2013年度に発表した秋
田県八峰町立水沢小学
校の嵯峨 博 教諭。
算数の
「平行四辺形の面
積の求め方」に関する模
擬授業を実施するととも
に、
自身がフィールドトラ
イアルで実感した成果と
課題について発表した
2012年度に発表した岡
山県倉敷市立粒江小学
校の坂本 信子 講師。
国語の授業の実践模様
の紹介と、授業支援シス
テム
「サイバー先生」
を活
用した模擬授業を実施
2013年度に発表した岡
山県倉敷市立粒江小学
校の木内 健太 教諭。
社会の
「日本の情報産業」
の授業で実践した「つな
ぐ授業」
や学級SNSの活
用などについて、実践映
像を交えて紹介
INDEX
秋田県山本郡八峰町
山本郡八峰町
55
新潟県岩船郡関川村
58
神奈川県川崎市
60
岡山県倉敷市
62
鹿児島県大島郡与論町
64
53
第2章
フィールド紹介
“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルにご参加いただいた
秋田県山本郡八峰町
秋田県山本郡八峰町
八森小学校・塙川小学校・水沢小学校
八森中学校・峰浜中学校
全国5つの自治体と12の小中学校
(9小学校、
3中学校)
をご紹介します。
八森小学校
塙川小学校
水沢小学校
児童数:144名
児童数:60名
児童数:96名
新潟県岩船郡関川村
八森中学校
峰浜中学校
生徒数:104名
生徒数:96名
関川小学校
子どもたちと町の将来のため
ICTの力を信じて取り組んだ3年間
児童数:273名
岡山県倉敷市
秋田県山本郡八峰町教育委員会 教育長
た経緯をお聞かせください。
果を挙げていることから、
「ICTの活用は
土壌がしっかりと根付いており、町と学校
にありました。しかし、目先の成果だけに
が連携して、子どもたちの教育に熱心に取
とらわれることなく、ICTが子どもたちと
り組んできました。そんな町ですから、3年
町の将来のためにかならず役に立つとき
前にNTTグループからフィールドトライ
が来ると信じ、
トライアルの参加を決意し
アルへの参加の打診を受けたときも、町長
ました。
にもすぐに賛成していただきました。私自
̶̶教育ICTへの懸念の声をどのように
南百合丘小学校
身、以前は民間企業の営業担当として、県
払拭したのですか。
児童数:661名
内の一部大手企業に電子ホワイトボード
本トライアル は 学 校 の 授 業 を 通じた
などが導入されたのを知っていましたか
フィールドトライアルということで、何よ
ら、ICTの波がいよいよこの町にもやって
り現場の先生に前向きに取り組んでもら
来た、
しかも子どもたちの将来に役立てら
うことが必須でした。そこで、秋田県教育
れると胸躍らせたことを記憶しています。
委員会の協力も仰ぎながら、しっかりとし
そうした一方で、八峰町は2007年から
た実施体制を整えていくことに注力しま
文部科学省が実施した全国学力・学習状
した。町長からは「いずれはこういう時代
況調査で、小学校の成績が全国トップと報
が来るのだから、積極的に進めてください。
じられ、以来現在もその状態が続いており
ただし、成果についてはしっかり検証し、
ます。各学校では子ども同士で教え合う
「学
さすが八峰町といわれるよう成功させて
び合い」も積極的に行われてきました。こ
ください」と激励されました。非常にあり
生徒数:689名
鹿児島県大島郡与論町
54
のように、これまでの取り組みが着実に成
いまさら不要ではないか」
という声も一部
児童数:439名
玉島北中学校
̶̶フィールドトライアルに参加するに至っ
八峰町では地域が学校を支える文化・
神奈川県川崎市
粒江小学校
千葉 良一 氏
茶花小学校
那間小学校
与論小学校
児童数:142名
児童数:85名
児童数:87名
55
第2章・
・
・フィールド紹介
̶̶この3年間を振り返ってみての率直な
出して臨時職員として雇用しました。支援
授業以外で印象に残っているのは、町内
員にはICTのスキルだけでなく、各学校の
実にさまざまな取り組みを実践できた
の少年野球チームが全国大会に出場する
先生や地域との連携に必要なコミュニケー
と思います。中でも遠方のミュージアムや
こととなり、公民館の大型モニタや学校の
ションが重要です。
天文台と結ぶ「つなぐ授業」は、ICTをフル
電子黒板を通じて、東京・神宮球場での試
トライアルに参加する全国の先生方が
活用したまさに本トライアルならではの取
合の模様をインターネットでライブ中継
一堂に会してICTの効果的な活用方法等
り組みといえるでしょう。子どもたちも目
したときのことです。大勢の住民が子ども
に関して情報交換を行う
「フィールド連絡
を輝かせて参加していました。また、2013
たちの活躍をリアルタイムで見守るなど、
会」の存在も大きいものでした。フィール
年秋に実施した公開授業の際には、都会
地域と学校を結びつけることにもICT活
ド連絡会に参加した先生の話を聞いて他
から視察に訪れた先生から
「タブレット端
用は有効であることを実感しました。
の先生の教育ICTに対する関心が高まる
末にはこんな使い方があるんだ」
と驚きの
̶̶今後、教育ICTが我が国に根付いてい
といった状況も見られました。今後も、こ
声も上がり、八峰町らしい取り組みが実践
くには、何が必要とお考えですか。
うしたスキルや情報を共有できる場が継
感想や成果をお聞かせください。
書家でもある千葉教育長。教育長室に掲げた自作の前で
たいと考えています。
がたい言葉であり、校長先生や先生方に
できたと考えています。電子黒板とタブレッ
現場の先生方の負担を減らし、
日々の教
も伝え、地域や学校全体で盛り上げていく
ト端末の活用には、従来の授業スタイルを
育活動に専念してもらうためにも、使い方
こととなりました。また、ICT支援員を配
変えるような大きな可能性を感じました。
の説明や機器のトラブルなどに迅速に対
置したことも、先生方の不安を払拭するた
本トライアルの成果や経験を大切にし、町
応するICT支援員の存在はとても大事で
めに大いに役に立ちました。
としても引き続き教育ICTを実践していき
す。八峰町では必要な人材を地元から選
2013年8月に開催された高
円宮賜杯第33回全日本学童
軟式野球大会に八森ブルー
ウェーブが初出場。会場の神
宮球場と八峰町をつないだラ
イブビューイングが行われま
した。
続され、先生方の意識の向上が図られるこ
とを願っています。
フィールドトライアルを振り返って
八森小学校
校長
菊池 信和
水沢小学校
校長
石戸 世津子
「ICTを活用することで授業のねらいを効果的に達成することができる。児童は広く、深く学ぶこ
とができる」。本校では、
このような視点で、授業改善の手立ての一つとしてICTを活用してきました。
3年間の成果から、ICTは「目的」的に活用してこそ、
その有用性が発揮できると考えています。例えば、
考えを提示するための装置として、情報収集や処理をするためのシステムとして、
コミュニケーションツー
ルとして、その有用性を考えることです。本校と遠隔地を結び、専門家のお話を聞き、意見交換をする
など、ICTがあるからこそできる授業は、児童の気づきや学びへの意欲を促し、思考力や表現力を高
めることができました。
2013年度、全学級に電子黒板が整備されました。全職員がすすんで活用することによって授業中
の児童の笑顔が増えました。ICTの必要性や可能性を感じる1年でした。
56
田村 忍
フィールドトライアルに関わったことで、授業の指導過程はもちろん、子どもたち自身、そして家庭
のインターネット環境が大きく変化しました。
電子黒板やデジタル教科書等を使い、
子どもたちはタブレット端末を持つことで、
新しい教具を活用し
た新しいスタイルの授業の提案ができました。
これによって子ども一人ひとりの思考過程やつまずきを
たちまち把握できますし、取り上げたい子どもの考えは電子黒板にすぐに映し出せます。
これまでは、机
間指導で子どもたちのノートを確認し、
取り上げる例を決めて黒板や画用紙などに書きました。
子どもで
すからこの時にかなり時間がかかったのですが、
タブレット端末は瞬時にできるのですから優れものです。
子どもには多様な認知の仕方があると思いますが、ICT機器は授業に多様なバリエーションをもた
らし、授業の可能性を広げたと言えるのではないでしょうか。
夏のフィールド連絡会で、鳴門教育大学大学院の藤村裕一先生のお話に、
「ICTは、学力観・授業観
の是非、授業力の優劣を際立たせる。本質は授業としての質にある」というのがありました。
「我が意
を得たり」
で、11月の公開に向けて留意すべき点を大きく絞り込むことができました。それは、学習の
効率化のためには欠かせない、話し方、聞き方を含めた学習規律でした。研究主任から再度指導項目
を挙げてもらい、全校挙げての取り組みに、他の7年部の応援も借りて、改善点のチェックや指導方法
の情報交換を行いました。途中3度の授業研究会と公開事前研にも真伨に取り組んだ職員の努力が
実り、特に低学年の学習規律には長足の進歩が見られました。しかし、何か物足りなさを感じていた
ところに、公開当日の講演で赤堀侃司先生が話された
「コミュニケーションができれば学習規律ができ、
学習規律ができれば学習が成立する」
という言葉にまた新たな課題を持つことができました。
塙川小学校
校長
八森中学校
校長
工藤 行男
八森中学校では、いくつか提案いただいた企画の中
から
「iKnow! 英検版」
を活用させていただきました。主
に3年生が英検受験に向けた学習の一環として、夏休み
中や2学期の放課後に少ない時間でしたが、パソコンで
練習問題を解いたり、中には自宅でも学習に取り組んだ
りした生徒がいたようです。利用した生徒からは「10分
ぐらいでも集中してできて、覚えられた」
「 発音があって
良い」
「ゲーム感覚で覚えられる」
といった感想が聞かれ
ました。
峰浜中学校
校長
三浦 清美
本校では、主に英語検定受験をサポートするソフトウェ
ア
「iKnow! 英検版」の活用という形で、フィールドトラ
イアルに参加しました。全員が受験する3年生は、夏休
み前に使用説明会を行い、
自宅でも学習できるようにな
りました。試験の結果、約半数の生徒が3級以上を取得
することができました。今回の取り組みが、子どもたち
の学習意欲につながったのではないか、
と振り返ってい
るところです。
担当の方々の手厚いサポートに感謝いたします。
57
第2章・
・
・フィールド紹介
新潟県岩船郡関川村
関川小学校
なしている児童の様子を見ると、ICTはこ
れからの教育に欠かせないことを実感しま
す。村にいながら遠方のミュージアムとつ
ないで手軽に“社会科見学”が実現したり、
海外とリアルタイムにつながったり。ICTが
教室にあるのとないのとでは大違いです。
インドネシアとの交流授業ではお互いの
地元の米を交換して試食しましたが、関川
村のおいしい米に食べ慣れている児童の1
人がインドネシアのお米も甘くておいしい
ことに気づくなど、新鮮な感動がありまし
学校教育6・3・3制発祥のこの地が
手本となり教育ICTを全国に
広げていきたい
新潟県岩船郡関川村教育委員会
教育長
いですね。私自身は飛行機に乗るのも苦手
が手本となり、全国で活かされることを願っ
ですが、将来を担う子どもたちにはどんど
ています。
こうした私たちの決意は間違いなく児
ICTが活用されることを願っています。
童の教育にプラスになるものであり、教育
̶̶将来に向けた展望や今後の夢などお
環境を充実させるという住民との「約束」
聞かせください。
を果たすためにも、村でできることには尽
この3 年 間でトライアルはひとまず 終
力していきます。
了しましたが、村長以下、教育ICTの継続
そしてまた、本トライアルを通じて、関川
を強く望んでおり、今後も先陣をきって教
村と同じような地域特性を持った与論町
̶̶本トライアルに参加した関川小学校は、
5校の統合を果たし、関川小学校を創立す
育ICTを実践していきます。近隣地域から
や八峰町の教育長と意見交換できたのは、
2010年開校の新しい学校です。
るに至りました。
ICT環境の整備をうらやむ声もありますが、
とても有意義なことでした。こうした機会
̶̶フィールドトライアルを通じたICTの
関川村の教育ICTが注目されるのはむし
が今後も継続されることを願いつつ、今回
学校を統合して2010年4月に開校しまし
導入は、教育環境の充実に役立ちましたか。
ろこれから。学校教育6・3・3制発祥は村
参画されたNTTグループをはじめとした
た。村には過去最大7つの小学校がありま
大いに役に立ちました。関川小学校は、
の誇りであり、この地から6・3・3制が全
企業のみなさんとは、子どものためになる
したが、少子化や過疎化の影響を受けて児
国の重要文化財「渡邉邸」をはじめ18世紀
国に広まったように、村で既に実現してい
ICT環境の開発や教員の負担軽減に向け
童数も激減する中で、学校の統合は10年
の町並みが残り、生活に歴史が息づく村の
る児童1人1台のタブレットやインターネッ
たサポートなどについて、今後も連携を深
以上にわたる長年の課題でした。
中心部に建設されました。地元名産の木
トを活用した授業が、やがては当たり前に
めていきたいと考えています。
この地域は多くの優れた人材を輩出し
材をふんだんに利用した自慢の校舎です。
ており、学校教育6・3・3制の発祥の地と
スクールバスは山形県境の集落にまで児
しても知られています。住民の教育・文化
童を送迎しています。保護者をはじめ多く
への関心も高く、地元に学校を残したいと
の住民から「統合して良かった」との意見
いう考えや、子どもに通学の負担をかけた
が寄せられる中、今回のフィールドトライ
くないという意見、逆に、統合して充実し
アルへの参画は、都会でも実現していない
た教育環境を与えたいという要望など、学
最先端の教育ICT環境を可能にしたもの。
校の統合に対して、さまざまな議論が交わ
何よりも子どものためであり、学校の統合
されました。
によって実現し得た大きな成果と考えて
そうした中で、校舎の新設やスクールバ
います。
スによる通学網の整備など、全ての子ども
̶̶教育ICTに対する手応えや導入成果
たちに充実した教育環境を提供すること
をお聞かせください。
を住民に固く
「約束」することで、ようやく
58
なると確信しています。関川村の取り組み
ん世界に出てほしいし、語学力の習得にも
野沢 専治 氏
関川小学校は、関川村にあった5つの小
関川村が日本の6・3・3制教
育の発祥の地であることを示
す記念碑です。関川小学校の
校門横に立ち、
「 教育村」とい
われるシンボル的存在となっ
ています。
た。今後もそうした貴重な体験を増やした
タブレットにすぐに慣れて上手に使いこ
フィールドトライアルを振り返って
関川小学校
校長
鈴木 政信
3年目の今年度は、児童の思考力・判断力・表現力を高め、学力向上のための校内研修の一つに
ICT活用を位置付けて取り組んできました。
授業における電子黒板やタブレット端末の活用は、児童の興味・関心を引き出し、学ぶ意欲を高め
ました。
また、ICTの活用は児童にとっての新しい学習ツールとなり、調べ学習や発表しあう活動等で、
多様な学習の実現につながりました。
とりわけ、インターネットを利用した遠隔地と
「つなぐ授業」は
画期的で、学びの広がりを感じました。
3年間にわたるNTT関係者の御支援のお陰で、教員がICTを活用した授業改善に積極的に取り組
むなど、当校の情報教育の充実につながっています。
これを契機として、
より一層ICTの活用等による
協働型・双方向型学習の推進に努めていく所存です。
59
第2章・
・
・フィールド紹介
神奈川県川崎市
南百合丘小学校
見せながら、
自分はこう思うなどと教え合っ
ていました。画面があることで自分の考え
が説明しやすくなり、自然な協働学習がで
きている。先生からの指示ではなく、考える
ことを楽しみながら
「小さな学び」
が自発的
に生まれていたのがとても印象的でした。
こうした
「小さな学び」を積み重ねていくこ
とがこれからの教育に求められていること
であり、子どもたちの反応や目の輝きを通
じて、教育ICTを導入する意義や可能性を
あらためて感じることができました。
̶̶今後の教育ICTの取り組みの展望をお
究を深めるとともに、数人の班に1台ずつ
聞かせください。
新たな学びの実践を継続し
自発的な
「小さな学び」
を積み重ねていきたい
川崎市総合教育センター
情報・視聴覚センター室長
小松 良輔 氏
配布するグループ学習を行うなど、
タブレッ
イアルの成果を受けて、南百合丘小学校に
トの効率的な導入や活用法の検証も行っ
関しては、ICTの活用を従来の高学年から
ていきたいと考えています。
全学年へと拡大して研究を続けていく予定
南百合丘小学校での実践を通じて得ら
です。1、2年生の低学年は学習への興味・
れる成果は、市内他校のICT導入に役立て
関心を高めるのに役立つでしょうし、3、4
ていきますが、授業に有効なコンテンツの
年生はタブレットで静止画や動画を見て学
開発や、
タブレットをはじめとしたICT機器
ぶ調べ学習に有効でしょう。学年によって
の維持管理、さらには教員と一緒に授業を
̶̶本トライアルを通じてどのような成果
も教育クラウド等の総合的な環境整備がと
活用に違いが出ると思います。子どもの意
作り上げるICT支援員の確保など、
今後、教
が得られましたか。
ても重要だと思います。それら環境整備に
欲を喚起したり、課題をつかむ手助けになっ
育の情報化を推進するには、関連企業はじ
フィールドトライアル3年間の取り組み
加えてICTを活用する側の先生方には、授
たりと、授業のどのような学習場面でどの
め総合的な連携が必要となってきます。
では、ICTを活用することで児童の興味、関
業でICTをどう活用するのか計画を立てる
ような活用をすると効果的なのか、実際の
授業の中でタブレットなどのICT機器が
心、学習意欲が高まり、個に応じた学びや
授業構想力が必要となります。タブレット
児童の姿、反応から丁寧に検証していくこ
より有効に活用できる環境整備が整うこと
子ども同士の学び合いが実現するなど、学
や電子黒板のみならず、本や資料、
ノートの
とが望まれます。協働的な学習から生まれ
を期待しています。
校現場に即した成果が続々と挙がってきま
活用も含めて、単元全体を見通した中での
る
「小さな学び」を積み重ねていくことが大
した。実際にICTを活用した教員からも
「教
授業デザインが大切だと考えています。
切です。
タブレットについては、1人1台の研
室からICTが無くなってしまうのはとても
また、現場の理解を得て情報化を浸透さ
困る」
という多くの意見が寄せられています。
せるには、授業におけるICTの具体的な活
タブレット等のICT活用が既に普段の授業
用法やメリットを丁寧に伝えることが不可
の一部となりつつあるとの手応えを感じて
欠です。その点、南百合丘小学校での取り
います。
組みはいずれも有意義な実践事例ばかりで、
タブレットを整備するだけでは、授業の
60
“教育スクウェア×ICT”フィールドトラ
情報化を検討している他の学校の参考に
中での有効活用は難しいということがあら
なると確信しています。
ためてよく分かりました。無線LAN環境の
̶̶実際に授業をご覧になって印象に残っ
構築をはじめとするインフラ整備、
セキュリ
ていることはありますか。
ティ対策、
アプリケーションやコンテンツの
体積について学ぶ算数の授業で、ある児
用意、ICT支援員の確保と、
どれが欠けても
童が自分の考えを一生懸命にタブレットに
授業でのICT活用は成り立ちません。学校
手書きで記入していました。すると自然発
にサーバ管理などの負担を強いないために
生的に、隣り合う児童同士が互いに画面を
フィールドトライアルを振り返って
南百合丘小学校
校長
和田 淳二
授業でICT機器の活用が増えてきたころ、子どもたちから
「できた! 解けた!」
という声が教室に大
きく広がってきた。この3年間、授業改善に向けて積極的にICTを取り入れるなど教師の工夫する姿
が多くあった。
「分かった! 楽しい!」
と感じられる授業を実現するため、教師が支援員に相談し、夜遅
くまで教材研究をしている姿勢に大変好感が持てた。学習指導要領の趣意である協働型学習の展開
が大切だと言われる中、ICTを効果的に活用することで、子ども同士での教え合い・学び合い・そし
て次につなげる授業が推進できると感じている。子どもたちはまだ使い方に慣れておらず、教える側
もねらいに迫る活用の手だてが確立できていないが、実践を積み重ねていくことで素晴らしい授業が
できると信じている。
これからも子どもたちのために研究し精進していきたい。研究の機会をくださっ
たNTTグループの方々、
そして川崎市教育委員会に感謝を申しあげたい。
61
第2章・
・
・フィールド紹介
岡山県倉敷市
粒江小学校・玉島北中学校
民間の活力を活かしてスピード感のある
トライアルを実施。教育ICTは何よりも
“C(コミュニケーション)”が大切
岡山県倉敷市企画財政局企画財政部参事
(兼)
企画財政部情報政策課課長事務取扱
(併)
倉敷市教育委員会参事
門田 哲也 氏
̶̶倉敷市の情報化および教育ICTへの取
ブサイトのフィルタリングに関して、
ブラッ
り組み状況についてお聞かせください。
クリスト方式では先生方の負担が大きい
倉敷市では、2003年から光ネットワー
ため、あらかじめ登録された安全なページ
ク
(愛称:かわせみネット)を運用し、行政
にだけアクセスできるホワイトリスト方式
拠点に設置した公共端末から各種情報取
を採用しています。
得を可能にするなど、住民サービスの向上
また、今回のフィールドトライアルがう
を図っています。“かわせみネット”は、市役
まく進んだのは、私たち自治体が補助金を
所と各支所を1次局としてリング状に結び、
受けて行う方式ではなく、民間企業が行う
そこからスター型に下りた2次局として主
トライアルに私たちのフィールドをお貸し
に各中学校を、さらに3次局として各小学
するというスタンスで臨んできたことも大
校や消防署の出張所などを接続しています。
きな要因だと考えています。民間企業には
教育分野においても“かわせみネット”を
柔軟さ、豊富なアイデア、さらにはスピード
活用し、これまでもさまざまな最先端の教
感もあります。おかげで現場の負担はとて
育ICTに関わる実証実験を行ってきました。
も軽減されましたし、この3年間のトライ
̶̶先進的な取り組みを行うにあたり、
どの
アルで、学校にとって必要なこと、
また学校
ようなことを心掛けてこられたのでしょうか。
が本当にやりたかったことの多くが実現で
最も大きなポイントは、学校の現場に負
62
きました。
担をかけないということです。例えば、学校
̶̶授業を見学した際、児童たちがとても
からインターネットにアクセスする際のウェ
自由に楽しく学んでいる姿が印象的でした。
子どもたちは既成概念にとらわれること
学級SNSを拡大した
「地域SNS」のような
がなく、
とても柔軟です。例えば
「学級SNS」
仕組みが、今後の地域情報化の核になると
では、子ども同士が気づき合い、教え合い、
考えています。学校にネットワークの中継局
助け合うということが頻繁に起きています。
があり、
インターネットの世界には中継局か
「こんなことがあったよ」
「こうすればいいん
ら出ていく。また、その学区だけの閉域網を
じゃない?」
「じゃあやってみよう!」
などと自
構築し、閉域網同士を相互接続して、無線で
分が思ったことを素直に表現することで、
う
多重化することで災害時にも活用できる。
まく興味・関心の輪が広がっています。
倉敷市のような人口50万都市も小規模な自
これは、先生方がITではなくICTのC、コ
治体も実は、
似た考えを持っているのではな
ミュニケーションを重視して取り組んでくだ
いでしょうか。複数の自治体が情報システム
さっていることの成果でしょう。情報通信機
などを共同利用する自治体クラウドの推進
器は非常に便利な道具ですが、それは生活
が求められていますが、各自治体で地域性
の営みの中で、
自分の意思でコントロールす
や独自性を発揮するのではなく、協調性の
べきものです。
タブレットを授業で活用して
ある仕組みづくりが必要だと考えています。
いく中でも、子どもの意思を尊重しながら、
本トライアルを通じてさまざまな成果や
意思表示のための道具としてコミュニケーショ
可能性を実感しました。粒江小学校のモデ
ンに活かすことが大切なのだと感じています。
ルや環境を今後も何らかの形で継続して
̶̶今後の展開の方向性についてお聞か
いきたいと思っています。
せください。
フィールドトライアルを振り返って
粒江小学校
校長
尾島 正敏
足かけ3カ年のフィールドトライアルの試みが終わろうとしている。私は、
当初、
タブレットを使って、
かつてテレビ放映されていたフジテレビの「平成教育委員会」のようなことがやりたかった。
「子ども
たちが回答した内容が一瞬にして、
プロジェクターの画面に表示されたらどんなにいいだろう」
と思っ
ていた。
ハードルは高かったが、
プロジェクトに参加されたみなさんの熱意が不可能を可能にした。
タブレットの未来を私は、次のように想像している。一つは、SNSを中心としたコミュニケーションツー
ルとして、児童の言語活動を支援していけるのではないかという可能性。もう一つは、公立の初等教
育における
「反転授業」的な家庭学習への期待。
「タブレット1人1台の時代」
が、
いずれ訪れると思うが、
「タブレットで何をさせるのか」に対する答えを、
しっかりと持たなければならない時代となるように
思える。
玉島北中学校
校長(当時) 今田
尚登
トライアルの2年間はあっという間に過ぎました。
1年目はさまざまな対応に追われたものの、
2年目は本校教員とスタッフと
のコミュニケーションが図られ、
先を見据えた授業展開がスムーズに行えたこともあり、
いくつかの成果を挙げることができました。
第1に、
ネイティブな英語に直接触れることで英語に対する興味・関心が深まったこと。
将来は外国に留学したいと希望する生
徒も現れました。
第2に、
個別の単語学習支援ソフトの活用で、
意欲的な生徒を支援できたこと。
ソフトの使い勝手も良好でした。
第3は、
教科書以外の新たな取り組みを通じて、
教員も授業改善のヒントを得られたことです。
一方、学校教育と家庭学習のシームレス化や、
日進月歩で進化し続けるICTへの適応、タブレットを使った新しい授業デザ
インなどICTの活用幅を広げていくことの大切さなどを痛感しました。
生徒は好奇心の塊ですから、機会があればまたチャレンジしたいと考えています。
63
第2章・
・
・フィールド紹介
鹿児島県大島郡与論町
茶花小学校・那間小学校・与論小学校
また、
インドネシアとの
「つなぐ授業」
では、
インドネシアの民族舞踊と与論の伝統芸能
お聞かせください。
今回のフィールドトライアルは、子どもた
「十五夜踊り」を互いに披露したのですが、
ちだけでなく、教員にとってもICT活用のメ
子どもたちにとっては
「自分たちの文化とは
リットについて考える貴重な機会になりま
何か」を考え、興味や関心を持つきっかけに
した。
これまでも新しい技術
(機器)
を取り入
なったと思います。
その意味で
「つなぐ授業」
れ、
教育は進化してきました。
このトライアル
は、子どもたちの主体的に学ぶ意欲を育む
をきっかけに、町としても学校と地域のICT
有意義な取り組みでした。
リテラシーが高まっていく活動を進めてい
̶̶今後の教育ICTの活用に向けて抱負を
きたいと考えています。
フィールドトライアルを振り返って
茶花小学校
教育長
町岡 光弘 氏
̶̶まず、与論町の教育の方針や特色をお
聞かせください。
64
「最南端は最先端」を合言葉にICTに取り
組んできましたが、まず言えるのは、デジタ
ここ与論島は、県の中心である鹿児島市
ル教材が子どもたちの学習意欲・関心を大
から南へ約600km離れています。
しかし、離
いに高めたということです。特に子どもたち
れているからこそ
「教育は南から」という思
が1台ずつタブレット端末を使えることで、
いで、島の文化や風土を活かした“島らしい
学校と家庭での学びをシームレスにつなぐ
教育”を行うとともに、子どもたちにグロー
ことができました。
教員が端末の画面を確認
バル社会を
「生き抜く知恵」
と
「大きく羽ばた
することで、
授業や家庭での宿題への取り組
く力」を身に付けさせることを目標に、中学
みから子どもたち一人ひとりの理解状況を
では実用英語検定の受験などにも積極的に
より正確に把握でき、
必要な指導やフォロー
取り組んでいます。
などが的確にできるようになりました。こう
また、
島らしい教育の一つが、
「方言カルタ」
茶圓 正幸
茶花小学校での主な成果は、ICT機器を活用したよりよい授業の構築と今後の授業の在り方の可
能性がさらに広がったことです。教える側が十分な教材研究を基にICT機器を使った授業を展開し、
子どもの変容を見ることで、その効果や重要性を実感することができました。また、工夫すれば不便
な場所であろうと豊かな最先端の教育ができることも実証できました。さらに、学校のICT教育環境
が深化し、学校内はもとより地域や家庭などさまざまな場面での活用まで広がり、
日常的に活用する
姿が見られるようになりました。また、家庭学習におけるタブレットの活用は親子のふれあいや絆を
深めることにもつながり、保護者にも教育ICTへの理解を促進することができました。学校と企業が
協力し一体となったフィールドトライアルの真剣な取り組みは、与論島の教育の秘めた可能性を大き
く前進させてくれたものと考えます。
できれば今後も続けてほしい気がしてなりません。
子どもたちの気づきと
学ぶ意欲を生んだ
「つなぐ授業」。
教育ICTの効用を考える貴重な機会に
鹿児島県大島郡与論町教育委員会
校長
那間小学校
校長
杉山 秀樹
未来に生きる子どもたちに未来からのプレゼントをいただいたというのが最初の率直な感想であった。
未来の学びを体験でき、それに自分たちも参加できる。不安と期待のキックオフミーティング。回を
重ねるごとに課題は改善され、
さらに、
トライアルに参加して実績を積まれている全国各地の方々との
交流は得難い体験となり、貴重な学びの場となった。
校内全体で
「子どもたちの
『分かった』
『できた』
という笑顔のためのICTの利活用を中心とした授業
改善を」
と3年間取り組み、学校全体で推進できたことを成果の一つとしたい。国立天文台ハワイ観測所、
トヨタ、関川小学校、インドネシアなどとの
「つなぐ授業」や遠隔交流授業では子どもたちの目が輝き、
意欲的に学びに参加している姿がその成果を物語っていた。今後も、地理的ハンディをなくすICTの利
活用による校務や授業の改善では努力していきたい。
子どもたちの笑顔のために。
した
「個に応じた学習・指導」が実現したこ
を使った
「ゆんぬふとぅば(与論の言葉)
」を
とは、
とても意義があったと思います。
学ぶ取り組みです。
方言で書かれたカルタの
̶̶印象に残っている授業や具体的な成果
競技会を数年前から地区対抗で行っていて、
があればお聞かせください。
子どもたちにとって普段使う人が少なくなっ
特に効果を実感しているのは、
社会科での
ている
「ゆんぬふとぅば」を学ぶ良い機会に
「つなぐ授業」です。自動車会社と教室をつ
なっています。
ないだ授業では、自動車工場が与論島にな
̶̶そうした中、フィールドトライアルに参
いだけに、自動車会社の方に直接質問でき
加し、
ICTを利活用した授業を実践されてき
たことは、子どもたちにとってとても興味深
ました。
その感想をお聞かせください。
かったようです。
与論小学校
校長
中園 照洋
過去多くの教師が授業改善を試み、
教育研究を積み重ねてきたが、
未だに旧態依然とした授業の枠を
打破することには至っていない。
しかし今回、
フィールドトライアル実施により、
アナログとデジタルのよ
さを活かした授業づくり等を通じ、授業が大きく変化し、教育効果大であることが証明された。45分間
の授業の効率化、
思考・判断・表現の質を高めるデジタルコンテンツや電子黒板、
タブレット端末の機能等、
子どもたちの学習意欲は高まり、家庭学習とも連動して学力の向上を図ることができた。校内では、
ICT
の利活用による相互研修が自発的に行われ、授業のねらい、いつ、
どこで、
どのように活用することが効
果的か、
教師の教材研究に余念はない。
フィールドトライアルで印象に残っているのは
「つなぐ授業」
、
バ
リ島の子どもたちと時空を超えてリアルタイムで国際交流し、子どもたちがいたく感動していたことだ。
今後、
フィールドトライアルの成果を活かし、
安心して利用できる教育クラウド等の普及を期待します。
65
試行錯誤できるようになった様子がうかがえます。
他の教科ではどうだったのでしょうか。
を組み合わせながらオリジナルのニュースをつくった
ことが楽しかった」
「理科や社会で動画を見ることができて面白かった」
「タブレットに書いた自分の答えを先生に送ること
「理科の水溶液の重さを量る実験では、実験はあま
ができるし、
友だちの意見も知ることができるから授業
りうまくいかなかったけど、
その後に正解の動画を見
が面白くなった」
ることができ、
授業の内容がよく分かった」
「社会の水産業の授業で、漁獲量についてのグラフ
デジタルコンテンツを活用した授業や、
1人1台の
が電子黒板に映し出されたとき、先生がグラフを動か
タブレットだからこそ実現できる協働学習が、
子どもたち
しながら授業を進めたことが面白かった」
の関心や意欲を高め、
さらには思考力や表現力の向上
「社会の情報の授業では、
タブレットを使って、動画
に役に立ったということがあらためて分かりました。
特別企画
小学5年生 が本音で語った
教育ICT の可能性
2014年3月、フィールドトライアル実践校の一つである神奈川県
川崎市立南百合丘小学校にて、ICTを活用した授業を実際に体験して
いる子どもたちへのヒアリングを行いました。当日は、担 任 教 諭の
皆さんが 立ち会う中、子どもたちならではの率 直な意見が飛び交い
ました。ヒアリングのナビゲーター役はフリーアナウンサーで、同世代の
子どもの母親でもある木佐彩子さんが務めてくださいました。
電子黒板やタブレットを
使った授業は楽しい?
この日のヒアリングに参加してくれたのは11名の5
具体的に聞いていきます。
「算数では、
図形の授業などが前よりも分かりやすく
なった」
年生。この1年を振り返ってもらい、電子黒板やタブ
「これまでの図形の授業では、
プリントをはさみで切
レットを使った授業の率直な感想や、今までの授業と
るのに時間がかかっていたけれど、
タブレットならばす
の違いなどについて意見を聞きました。最初の質問が
ぐにできる。
動かすことも簡単」
電子黒板に映し出されます。
「電子黒板やタブレットを使った授業は楽しいで
すか?」
子どもたちから次々に
「楽しい!」
「面白い!」
との声
66
が上がります。
さらに、
どのようなところが楽しいのか
プロのアナウンサーと一緒に朗読に挑戦!
ヒアリングに先立ち、子どもたちは木佐彩子さんとともに『風の又三郎』
( 宮沢賢治)の朗読に挑戦しました。
「どっどど
どどうど……」
で始まる賢治の幻想的な世界を、
「厳しい冬の風」
や
「春一番のような強い風」
「やさしい春風」
になった気持ちで
読み上げました。
最後は木佐さんによる朗読が披露され、
子どもたちはもちろんのこと、
担任教諭の皆さんも、
プロならではの
情感豊かな朗読に感心し、教室は大きな拍手に包まれました。
「タブレットだと、図形を切るときに失敗しても何回
でもやり直せる」
算数の図形の面積の授業でタブレットとデジタル
コンテンツを活用したことで、子どもたちが自由に
67
苦手だった教科が
ICTで好きになった!
続いての質問は「電子黒板やタブレットを使った授
業で、苦手だった教科が好きになったり得意になった
りした人はいますか?」
というもの。子どもたちの実感
がこもった意見が飛び交います。
「タブレットの図形を切ったり貼り付けたりできる
から、
算数が面白くなった。
算数の授業が待ち遠しい」
けど、
タブレットの問題だとすぐに取り組めるから、
自
分のペースで進めることができるようになった」
「英語の授業がちょっと苦手だったけど、世界の
いろいろな国の学校給食を映像で見ることができ、
外国への興味が湧いた」
さらに、
「つなぐ授業」
にも話は及びます。
「新潟の農家とつないだ授業がすごく面白かった。
子どもたちから次々にアイデアが出てきます。
もできる」
といったアイデアも飛び出し、教室は大い
に盛り上がりました。
さらに
「学校を休んでしまったとき、
タブレットで授
南百合丘小学校の子どもたちの、仲間を大切に
業を振り返ることができたらいい」という意見に対
する気持ちがアイデアに表れたところで、子どもたち
し、
「 病気などで学校にしばらく来ることができない
へのヒアリングは終了しました。
友だちと教室をつなげば、一緒に授業を受けることも
おいしかった」
今後「つなぐ授業」
でつないでみたい場所について
しかないけど、タブレットを使うことでたくさんのこ
は「お菓子工場。雑誌でお菓子工場の様子を見たこと
とを調べることができた」
があり、もっと詳しく知りたいと思った」
「飛行機が好
に写すのに時間がかかり焦ってしまう場面もあった
ブレットで確認できるとうれしい」
できる。
タブレットの画面で様子も分かるし、
話すこと
その後に送ってもらったお米は香りが良くて、
とても
「社会の調べ学習のときは、教科書には情報が少し
「算数で黒板に問題が出されると、問題文をノート
「図工でも動画があるとよい。版画のやり方などタ
きなので飛行機の工場を見てみたい」
といった子ども
らしい素直な声が上がりました。
インタビュー参加児童(50音順)
: 上床 真菜さん/鎌田 拓泰さん/小出 知茂さん/下村 勘太さん/鈴木 綾乃さん/日高 奈津さん/藤井 ゆりのさん
/松野下 和温子さん/八木 智哉さん/吉田 和輝さん/龍 ひかるさん
ヒアリングを終えて
子どもたちが考える
ICTの可能性
子どもたちからICTの効果が次々に出てきたところ
で最後の質問です。
「電子黒板やタブレットの使い方について何か良い
アイデアはありますか?」
子どもたちが真剣な表情で知恵を絞ります。
68
「体育では、先生から口で説明されても分からない
ことがある。動画を見せてくれたら実際の動きが分か
りやすいと思う」
「音楽では課題曲などが聞き取れないことがあるの
フリーアナウンサー
木佐 彩子 さん
算数で図形の問題が分かりやすくなったなど、子どもたちの具体的な話を聞いて、
あらた
めて教育現場でのICTの活用法やその便利さがとてもよく分かりました。従来の学習法と
うまく組み合わせて活用すれば、学校教育はもっと素晴らしいものになるはずです。国際化
が進む中で教育はとても重要だと私は思います。国の将来を担う子どもたちがこうして早
い段階から情報機器に慣れ、ICTに習熟することはとても大切なことだと感じました。
で、タブレットを使って自分のペースで繰り返し聞く
ことができればよいと思う」
「家庭科の裁縫は、時間がたつとやり方を忘れてし
まう。動画があると便利」
プロフィール
東京都出身。青山学院大学文学部英米文学科卒業後、
フジテレビ入社。2000年3月に石井
一久氏(元プロ野球選手)
と結婚。現在、本企画にご協力いただいたみなさんと同世代で
ある長男の育児に奮闘中。[衣裳協力:アンレクレ広尾店]
69
コ ラム
つなぐ+ ひろがる
教育ICT
3
vol.
天文学の楽しさを伝え
「探究心」を育むために
国立天文台
副台長
教授
渡部 潤一 氏
2010年6月に惑星探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」から約7年ぶりに地球に帰還。翌年からは各地で帰還カプセルが公開さ
れるなど、
日本中が「はやぶさ」の話題に沸きました。
フィールドトライアル実践校が国立天文台やハワイ観測所との「つなぐ授業」を
行ったのは、そんな熱狂が続く2012年。子どもたちの宇宙への関心は高く、授業にも真剣に取り組みました。また質疑応答の場面で
は「宇宙人を見たことはあるか?」
といったような子どもならではの伸びやかな質問も飛び出し、大変に盛り上がりました。
教育ICTは子どもたちにどのような効果をもたらすのか。
「つなぐ授業」の実施に際してご協力をいただいた国立天文台副台長・
渡部潤一教授にお話を聞きました。
天文学を学ぶ意義は、
どういったことにあるとお考えですか。
天文学が社会の何に役に立つか?というのは、答えるには難しい問いです。
しかし、
音楽や絵画が生活に潤いをもたらすのと同様に、人類の知的好奇心を満たすために
は天文学は不可欠であると考えています。子どもたちの好奇心や探究心を育むには
最適な学問といえます。
一方で、
衣食住が足りてこそ実践できる学問ともいえるため、
発展途上国など、
子ども
たちが天文学を学ぶことができない国はたくさんあります。
そこでユネスコなどが提唱
した2009年の世界天文年を契機に、
東南アジアやモンゴルに出向いて天文学を教える
活動に国立天文台も積極的に参加しています。本フィールドトライアルを通じて全国
各地の小学校と
「つなぐ授業」
を行いましたが、
こうした海外の学校とつなぐことがで
きれば、
日本での授業と同じように、
世界の子どもたちにも天文学の楽しさを伝えられ
ることでしょう。
国立天文台では定期的に公開授業を行っているそうですが、
子どもに接する中で心掛け
ていることは何ですか。
興味を持ったことに対して、
「それはもう解明されている。
こういうことだよ」
とスト
レートに説明しないようにしています。世の中のことは周囲に聞けば何でも分かる、
自分で考える前に調べれば済むと判断してしまうことは、子どもの探究心をそいで
しまう、
とても残念なこと。
月の満ち欠けや虹の仕組みについて説明するのは簡単ですが、教える前に
「それは
面白いね、
よく気づいたね」
とまず声を掛けるだけでもずいぶん違います。世の中には
まだ分からないことがたくさんあり、それを解明して
「知の地平線」を広げることが
人類の歩んできた道です。分からないことに素直に興味や関心を持つ子どもに育って
ほしいと考えています。
【国立天文台:概要】
世界最先端の観測施設を擁する日
本の天文学のナショナルセンター。
ハワイ観測所やチリ・アルマ望遠鏡
など海外にも施設を有し、大学共同
利用機関として全国の研究者の共
同利用を進めるとともに、共同研究
を含む観測・研究・開発を広く推進
し、また国際協力の窓口として、天
文学および関連分野の発展のため
に活動している。
【住所】
東京都三鷹市大沢2-21-1
70
第3章
ICT環境
教育クラウドのコンテンツや
アプリケーション、
1人1台のタブレット端末、
学校や家庭のインフラ環境、
そしてICT支援員などのサポート。
フィールドトライアルの実践を支えた
ICT環境についてご紹介します。
INDEX
1.コンテンツ
テンツ
73
2.アプリケーション
76
3.タブレット端末
80
4.インフラ環境
82
5.サポート
84
ICTを活用する先生や企業へのメッセージをお聞かせください。
子どもたちがインターネットの世界に触れることに対する懸念は確かにあります
が、新しいテクノロジーで新たな可能性を開くことができるのは間違いありません。
例えば、宇宙からの視点で天体の運動を理解する
「空間の概念把握」
という考えは、
言葉で説明するのは非常に難しいもの。
しかしタブレット上の天体CGを指で操作す
れば、子どもはすぐに理解できます。
お忙しい先生が新しいことに挑戦するのは勇気
がいることかと思いますが、ICTが持つ力に目を向けて、
まずは使ってみることをお勧
めします。何より子どもたちにメリットの多いものであり、今回の国立天文台やハワ
イ観測所との
「つなぐ授業」に関しても、子どもたちにとっては、通常の授業では得ら
れない刺激や感動がたくさんあったことと思います。
NTTグループをはじめ多くの企業には、今後もこうした機会の提供を願っていま
すし、私たちのような専門家と連携して、有意義なコンテンツを一つでも多く、子ども
たちに届けることを願っています。
71
1.コンテンツ
ICT環境
第3章
フィールドトライアルを支えたICT環境
約1,800の豊富なデジタルコンテンツを提供
コンテンツを活かした新たな授業モデルの創出にも挑戦
子どもたちの興味・関心を高めるコンテンツ、
豊かな学び合いを実現するアプリケーション、
1人1台のタブレット端末、
そしてこれらを支えるインフラ環境やトータルサポート。
“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルで構築・運営し
たICT環境について、
関係者の声も交えながらご紹介します。
本トライアルでは、
電子黒板に大写しする各教科のデジタル教科書はもちろんのこと、
パートナー企業や教科アドバ
イザ
(学識経験者)
の協力を得て約1,800のデジタルコンテンツを提供
(2014年3月時点)
。
コンテンツを有効に活用す
るための授業モデルづくりにも取り組みました。
多くの現場実践を経て、
今後の課題も見えてきました。
豊富なデジタルコンテンツと
モデル提示による活用支援
小学校のICT環境
(概要)
本トライアルではパートナー企業
授業支援システム
その他アプリケーション
の協力のもと、各教科の教科アドバ
教育クラウド
イザの目利きを経た約1,800のデジ
コンテンツ
タルコンテンツを提供しました。授
校内LAN
その他教室
無線LAN
アクセスポイント
ブロードバンド回線
ブロードバンド回線
業の導入場面で電子黒板に大写し
にして関心・意欲を高める動画コン
テンツや、展開場面でタブレット端
末を活用して思考力を鍛えるシミュ
レーション型コンテンツ、まとめ場
面で知識・理解の定着に貢献するド
リルなど、あらゆる授業シーンで活
電子黒板
用できるコンテンツを用意。また、家
庭学習用には、持ち帰ったタブレッ
教員用PC
児童1人1台タブレット端末
ト端末で楽しみながら学ぶことがで
きるゲーム要素を盛り込んだコンテンツ
することができません。そこで、
コンテンツ
なども提供しました。
を有効に授業で活用できるように、コンテ
しかし、ICTの活用に初めて取り組む教
員にとっては、コンテンツがいくら充実し
教員用
タブレット端末
ンツと授業シナリオを組み合わせた「モデ
ル型授業」の策定にも取り組みました。
ていても利用方法が分からなければ活用
「モデル型授業」は本トライアル開始当
教科アドバイザ、
コンテンツパートナーと協力しながら作成した
「モデル型授業」
の例
タブレット端末
保管庫
サポートデスク
授業名
/コンテンツパートナー
教科
内容・目的
平行四辺形の面積の求め方
算数
等積変形の図形操作をバーチャルなはさみを使いながら行うことができるシミュレー
ション。試行錯誤を重ねて問題解決する活動、
自分の考えを論理的に説明する活動、
友達の多様な考えから気づきを得る活動を行うことができる。
理科
校庭に土で山を作り、流水実験の様子をタブレット端末のカメラで撮影。一時停止
や再生することで見逃したポイントの観察を後から行う。また、実際の川の流れの
動画を視聴させ、流れる水には浸食、運搬、堆積の働きがあることを理解させる。
社会
グラフを隠したり動かすことにより読み取りポイントを理解し、読み取り技能を
向上させる。グラフ以外の資料も活用することで、日本の漁業の生産量が減って
しまった原因を考え、理解させる。
社会
あるトピックの反対、賛成、
どちらでもない意見の9本の動画から3本選んでニュー
スを作成するシミュレーションを授業で活用。情報を受け取る側の情報の選択・
判断が大切であり、公平・公正の概念を理解させる。
/(株)ベネッセコーポレーション
ICT支援員
家庭
児童1人1台タブレット端末
(持ち帰り)
水の量を変えて、流れる水の
働きを調べる
/(株)NHKエデュケーショナル
日本の水産業
/
(株)
学研ホールディングス
日本の情報産業
無線LAN対応
ブロードバンドルータ
72
/
(株)
学研ホールディングス
73
第3章・
・
・ICT環境
初から多くの学校で実践を重ね、教員の
て家庭等で活用するものがあり、特に前者
たときのネットワークへの負荷を考慮し、
るとはいえません。学力低位の児童生徒
ICT活用の一つのきっかけとなりました。
は教員の授業展開などに合わせた品ぞろ
画質を抑えた動画を用意するなど、同じ動
を助けるコンテンツも十分に普及してい
一方で、地域・学校によって児童の生活経
えが求められました。例えば動画を導入部
画でも再生機器に合わせてエンコードを
るとはいえないでしょう。
験や学力の実態はさまざまであり、モデル
分で活用するのであれば、30秒程度の短
行い対応しました。
を一律に展開し続けることは現場実態に
い映像で学習のテーマについての興味・
合わない場合もあり、教員ごとのヒアリン
関心を喚起できるような内容が求められ
グを通じたコンサルティング型の利活用
ます。一方でまとめの場面や既習内容を振
支援も行っていくこととなりました。
り返る場面であれば、例えば、メダカのオ
これらに加えて、教員のニーズや児童生
企業をはじめ、多くのコンテンツ提供企業
スとメスの違いを分かりやすく解説する動
徒の学習経験もさまざまです。長年の視聴
が提供する優良なデジタルコンテンツが
画が役に立ちます。なお、本トライアルでは、
覚教育への取り組みの結果として、従来型
豊富にあることも事実です。教育現場が求
電子黒板に大写しにされる動画はハイビ
の一斉授業で活用できるコンテンツは充
める最適なコンテンツを届けるために、市
デジタルコンテンツは、教員が主体となっ
ジョン等の高画質なものを、タブレット端
実しているといえますが、新学習指導要領
場に流通する多くのコンテンツを簡単に
て授業で活用するものと児童が主体となっ
末の視聴に向けては、全児童が同時再生し
の視点から求められるような学び合いの
活用できるプラットフォームの提供や、教
場面で活用し、思考力・判断力・表現力に
員の自作コンテンツの流通促進などが求
効果を与えるコンテンツは、まだ豊富にあ
められます。
場面や環境に応じた
コンテンツの最適化
フィールドトライアルで提供したデジタルコンテンツの例
種別
コンテンツ名
/コンテンツパートナー
花粉の役割を調べる実験
画像
教科
内容
理科
スイカのめばなで、花粉をつけたものと、つけないもの
で比較し、実ができるかどうかを調べた映像で、人工授
粉のやり方や、めしべの様子、透明の袋をかけて条件を
同じにするなどの実験方法も見ることができる。
/(株)NHKエデュケーショナル
動画
土づくりとなえづくり
社会
/東京書籍(株)
静止画
メダカのオスとメスの
見分け方
理科
メダカのオスとメスの違いに気づかせ、観察することに
興味を持たせる。
/(株)NHKエデュケーショナル
シミュレーション
いろいろな図形を
しきつめてみよう
算数
三角形やひし形、平行四辺形・台形・一般の四角形を色
づけしながらしきつめることができる教材。
/(株)ベネッセコーポレーション
ペアワークコンテンツ
光まとあてゲーム
理科
ゲーム
/(株)ベネッセコーポレーション
光線を鏡で反射させ、
的に当てるというゲームを通して、
光の反射の性質を体験的に学習できる教材。2人1組
で楽しみながら取り組める。
の数だけ存在しますから、全ての教員の要
最適化への対応から見えた
今後の課題
望に応えることは困難にも思えます。一方
で、わが国には本トライアルのパートナー
コンテンツパートナーに聞く フィールドトライアル
タブレット端末が変える映像活用
株式会社NHKエデュケーショナル
教育部 学習コンテンツ展開 専任部長
杉沢 礼 氏
―今後の教育ICT時代におけるコンテンツの在り方に
ついてお考えを聞かせてください。
タブレット端末での教材は、意図を持って撮影編集
された番組映像などとは異なり、子どもたちが指でタッ
―今回の取り組みでは、授業案に合わせたコンテンツ
チして停止させたり、画面を拡大させたりして、
「自ら
を開発するために
「モデル授業」
を実施したそうですね。
発見させる」演出も可能となります。子どもの主体的な
私どもは理科を担当しましたが、授業の流れをイメー
学習を支援する活用法に対応していくには、映像教材
ジし教材を構想するため、ICTが子どもたちの学びに
もいろいろなアイデアが採り入れられ多様化していく
どう具体的な手助けとなるのか、担当の先生方と議論
のではないでしょうか。
することからスタートしました。
5年生の「流れる水の
もちろん教科によって、
またタブレット端末を何人で
はたらき」
では、
たとえば班ごとに流水実験の様子をタ
どう使うかによっても変わってきますので、今回のフィー
ブレット端末で撮影させること
(写真参照)
で児童の参
ルドトライアルでの取り組みのように、制作側と現場
加感を高めさせたり、
「ヒトのたんじょう」では、調べ学
の先生が一緒になって検証していくことがますます重
習にネット検索や動画の視聴を加えることで個別学習
要になると思っています。
を活性化できないか考えました。動画クリップはNHK
がネット配信しているものを、授業のねらいに即して再
編集し、指導案とともに準備しました。
―授業での有効性はどうだったのでしょうか。
マスビルダー
算数
/(株)学研ホールディングス
ドリル
74
新潟県南魚沼市で行われている米づくりを紹介。
田起こ
し、代かき、育苗について理解を深める。
最適化のニーズは、極端に言えば教員
数学的思考をみとるドリル
(新たなドリル等)
/
(株)文溪堂
算数
ゲーム盤にコマを並べて足し算やかけ算の3文字の計
算式を作り、
その答えの数を得点にして競うボードゲー
ム。計算力、先を読む力などが身に付き、論理的思考能
力が向上。
5年算数の全単元ごとに、児童の習熟度、理解度の測定
を行うことを目的に問題構成されているドリル。
知識理解・技能・数学的な考え方の評価観点について
児童の状態把握が可能。
授業実践した先生の評価でも、理解度の低い児童の
底上げに効果があったとのことでした。動画を個別視
聴させる前に、必ず一斉視聴させ教員が理解すべきポ
イントを示したことが良かったようです。またタブレッ
ト端末を活用した動画視聴は、授業の動機づけやまと
めだけでなく、思考させる場面や発表の手段など、多様
な可能性があると実感されました。
75
第3章
ICT環境
2.アプリケーション
授
教育クラウドで提供する多彩なアプリケーションが授業や校務を支える
児童1人1台タブレット端末の価値を高める「授業支援システム」や、
「つなぐ授業」を実現する「テレビ会議シス
テム」、教員の負担軽減に向けた「校務支援システム」や「電子安全連絡網」など、フィールドトライアルでは教育
現場の要望に応えながら多様なアプリケーションを提供し、教育ICTの実践を支えてきました。
フィールドトライアルで導入した主なアプリケーション一覧
フィールドトライアルでは学校におけるICTの活用を推進する観点から、
さまざまなアプリケーションを提供して
きました。授業支援やコンテンツ配信、校務支援など、
それぞれの場面、状況に合った適材適所のアプリケーション
の中から主なものをご紹介します。
名称/提供元
利用シーン
【授業支援システム】
画像等のデジタル素材と、ワークシートを組み合わせて教
員がオリジナルの副教材を作成することができるクラウド
アプリケーション。
これらは児童用タブレット端末へ配信で
/エヌ・ティ・ティ
ラーニングシステムズ
(株) き、児童は手書きで考えなどを記入・送信可能。送信したも
のを電子黒板上で一覧・比較表示する場面等で活用。
新教務
アプリケーション
デジタル図書館
授業支援システム
教育クラウド
テレビ会議システム
サイバー先生
/エヌ・ティ・ティ
アイティ
(株)
学級SNS
校務支援システム
LMS※
概 要
電子安全連絡網
【授業支援システム】
電子黒板に接続したパソコンの画面と児童用タブレット端
末の画面を共有できるアプリケーション。電子黒板に表示
した画面を転送したり、児童がタブレット端末に手書きで
回答などを記入した画面をパソコンに送信したりすることで、
協働学習の促進や授業の効率化を実現。
【授業支援システム】
授業シナリオを作成するにあたって、あらかじめコンテンツ
の活用場面を計画し、準備したコンテンツを授業中に電子
/エヌ・ティ・ティ
黒板や児童用タブレット端末に提示することができるアプ
ラーニングシステムズ
(株)
リケーション。デジタル図書館と連携することで、デジタル
コンテンツを容易に選択できます。
※Learning Management System
授業シナリオ作成ツール
務
業
【コンテンツ配信プラットフォーム】
電子黒板や児童用タブレット端末で表示・活用するデジタ
ルコンテンツ
(動画、静止画、
シミュレーション、漫画等)
を格
/エヌ・ティ・ティ
コンテンツの種別や活用する教科
ラーニングシステムズ
(株) 納するプラットフォーム。
書に応じた単元名等でコンテンツを検索することもできます。
デジタル図書館
児童用タブレット端末
教員用タブレット端末、PC
MeetingPlaza
/エヌ・ティ・ティ
アイティ
(株)
Webでお知らせ
教育クラウド上の
豊富なアプリケーションを自在に活用
Management System)」をタブレット端
電子黒板やタブレット端末といったICT
れました。また、
「つなぐ授業」では「テレビ
機器の価値を高めるためには、
これらで活
会議システム」を活用。さらに校務の場面
用するアプリケーションも重要です。
では「校務支援システム」や「電子安全連
末にて活用。
これらは家庭学習でも利用さ
FairCast
/
(株)
エヌ・ティ・ティ・
データ
校
児童同士の学び合いを促進する場面で
/エヌ・ティ・ティ
レゾナント
(株)
絡網」が使われました。
は電子黒板と児童1人1台タブレット端末
こうしたアプリケーションの多くは「教
を連携する
「授業支援システム」
が有効性を
育クラウド」上で提供され、インターネッ
発揮しました。一斉授業や協働学習ではラ
ト回線を通じて、教員や児童が自由自在に
イブラリ
「デジタル図書館」を、個の学習の
活用できる環境を用意しました。
Educom
校務支援システム
TOSYS
/東日本電信電話
(株)
、
西日本電信電話
(株)
【テレビ会議システム】
ASP型のWeb会議サービス。WindowsパソコンやMac、
iPad、Android端末などのさまざまなデバイスや回線種別
に対応可能。教室では、電子黒板に接続されたパソコンに
Webカメラを接続するなどし、
遠隔のミュージアムや企業等
との
「つなぐ授業」
に活用しました。
【学級SNS】
学校での活用を想定したさまざまな機能を提供する教育用
Webコミュニケーションツール。本トライアルでは一部の学
校に導入し掲示板機能を活用。児童が授業の感想や夏休み
中の情報を投稿するなどし、学習や学級交流に活用しました。
【電子安全連絡網】
学校から保護者への連絡を、メールや電話、FAX等複数の
メディアに一斉に伝達することができる連絡網サービス。本
トライアルでも一部の学校に導入し、台風等発生時の児童
の安全に関わる情報や学校行事に関するお知らせ等を保護
者に伝達する際に活用されました。
【校務支援システム】
学校の基本情報(人・教科・時間)を核とした学校業務全般
を統合管理することができる校務支援システム。教員の校
務に関わる負担を軽減し、子どもたちと向き合う時間を確
保することに貢献します。本トライアルにおいても、一部の
地域・学校に導入されました。
見取りでは「学習ドリル(LMS:Learning
76
77
第3章・
・
・ICT環境
<解説>授業支援システム
「新教務アプリケーション」
新教務アプリケーションとは、デジタル素材を組み合わせてオリジナルの副教材(デジタルワーク)を簡易に作成し、
これらを児童のタブレット端末に配信し回収できるアプリケーションです。
回収した結果は教員用タブレット端末や電子黒板に表示することができ、協働学習などの場面で活用できます。
授業支援システム
「新教務アプリケーション」
を使って授業の準備をする様子
「新教務アプリケーション」
を活用して電子黒板に児童の回答を一覧表示した様子
教育クラウド
ド
現場の要望を追求し続けた
アプリケーション開発
ケーション」を開発。教員用タブレット端
どのようなアプリケーションが教員に
末を手で持ち、机間指導しながら児童生
喜ばれ、児童の学びの価値向上に貢献で
徒のタブレット端末画面を確認したり、電
きるのか。
フィールドトライアルの3年間は、
子黒板を操作したりするという、本トライ
こうしたアプリケーションを追求する3年
アルにおける基本的な授業スタイルが確
間でもありました。
立されることとなりました。
トライアル開始当初は、授業におけるコ
素材集
末の活用と相まって、教員がタブレット端
からは「教材探しや教材作成等の授業準
事前準備したコンテンツを授業中に簡単
備業務が効率化され、授業構想にじっくり
に提示することなどができる「授業シナリ
時間を使えるようになった」
「 児童の回答
オ作成ツール」を提供。
しかし、
これは教員
を手元で確認しながら机間指導できるの
の授業準備や実践の実態と合わない部分
は非常に便利」といった、授業準備の効率
が多く、活用が進みませんでした。そこで、
化や授業進行の効果や効率性向上につい
2年目より、児童生徒が書き込んだタブレッ
ての声が聞かれるようになりました。実際
ト端末画面を回収し、電子黒板に大きく
に教員1人あたり1回/日以上活用(2013
映したり、一覧表示したりすることを可能
年11月の利用ログに基づく)され、まさに
とする授業支援システム「サイバー先生」
日々使われるアプリケーションとなりまし
を導入することになりました。
た。合わせて、児童1人1台タブレット端末
その後も教員を対象にした詳細なヒア
の活用頻度も大きく向上し、授業支援シス
リングを繰り返し、新たに「新教務アプリ
テムがタブレット端末の価値を高め得る
ことを示しました。
個人フォルダ
❺ 児童の理解度等に応じて
柔軟に教材を表示
授業準備
(職員室)
素材&ひな型を
❶ ダウンロード
先生に送る
10 提示
●
教材を
❸ アップロード
❾回収
独自教材
(デジタル
❷ ワーク)
の作成
授業実践
(教室)
電子黒板
このような継続的な改善の結果、教員
ンテンツの活用場面をあらかじめ計画し、
ひな型集
教材集を個人フォルダ
❹ に整理・共有
トレイ
❼配信
作成ツール
作成した
デジタル
❻ ワーク等で
発問を促す
先生に送る
考えを
教員用PC+アプリケーション
児童用タブレット端末
❽ 手書きで記述
動画・静止画・シミュレーションなどのデジタル素材を単元ごとに収容。教
員は簡単に選択・貼り付けすることで、
オリジナルのデジタル教材を作成可能。
教員から配信されたデジタル教材に児童は手書きで考えを記述。文字だ
けではなく矢印や図を用いて自分の考えを表現できる。
児童が送信または教員が回収した回答は教員用タブレット端末や電子黒板に一覧
で表示可能。児童は多様な考えに触れることで自分の考えを広げることができる。
授業展開に活かしたい回答を教員が選択提示可能。
比較や練り上げ等児
童の回答を有効に活用して授業を展開。
改善の継続と普及に向けて
一方で、使い勝手の改善など、今後の改
善要望も多く挙がっており、さらなる改善
が求められています。また、本トライアル
が示したように、授業支援システムがタブ
レット端末の価値を高めることを広く世
「 学 級 SNS」を 利 用し
児童と教員の新しいコ
ミュニケーションが始
まっている
78
の中に示していく必要があります。
今後も実践事例を積み上げ、情報を発
信していくことが求められます。
79
第3章
ICT環境
3.タブレット端末
Q&A
Q.なぜAndroid OS搭載のタブレット端末を採用したのですか? また導入する際の留意点は?
タブレット端末による児童1人1台端末環境の実現
授業のさまざまな場面で児童1人1台のタブレット端末を活用するとともに、家庭への持ち帰り学習も実施しました。
もちろん、タブレット端末を安心・安全に使うためのセキュリティ対策にも取り組みました。3年間の実践を通じ
A
て、教育現場で求められるタブレット端末への要望も聞こえてきました。
Android OS搭載の
児童用タブレット端末の
導入
トライアル開始当初の端末選定方針の一つが、市場に存在する豊富な教育現場向けFlashコンテンツを利
活用できる端末・OSを選定するということでした。そこで、条件を満たしかつ比較的低コストで導入できる
Android OS搭載のタブレット端末を選定することとなりました。
しかし、2011年にAdobe社がAndroid版のFlash Playerの提供・アップデートを中止したことから、現在販
売しているモデルではFlashコンテンツを利用することはできません。またAndroidタブレット端末は製造
会社ごとに独自のカスタマイズを行っている場合もあり、コンテンツやアプリケーションの導入・活用にあ
たって留意する必要があります。ただし、豊富な選択肢の中から比較的安価に導入することができることは、
Androidタブレット端末の大きなメリットです。
より自由な端末選定ができるよう、今後は多様なOSに対応す
るHTML5等のコンテンツ普及に期待します。
Q.タブレット端末は静電式と感圧式、
どちらが良いですか?
小学校におけるフィール
A
ドトライアルで は、児 童 用
にAndroid 端 末、教 員用に
静電式の端末は、タッチ操作の感度が高いなど、操作性の面で好評価を得た一方、細かい手書き文字入力に
は難がありました。
また、液晶画面の汚れに対するケアも必要です。一方、感圧式の端末は、付属のタッチペン
で細かい手書き文字入力にも対応できましたが、経年使用によってタッチポイントがずれる不具合も発生し
ており、
優劣を一概に決めることはできません。
Q.タブレット端末は画面が大きい方が見やすくて便利ですか?
Windowsタブレット端末を
用意。児童一人ひとりに端末
A
を配布し、学校での授業や家
庭学習にて活用しました。
画面サイズや入力方式(静
机間指導の際の視認性の観点から10インチを好む教員は多くいます。一方で、小さい机の上でノートや教科
書と合わせてタブレット端末を使う場面も多く、
7インチを支持する声もあります。
また、タブレット端末を家庭に持ち帰る児童からは画面の大きな10インチの端末は「重くて持ち歩きにくい」
との声もあり、最適な画面サイズを一概に結論づけることはできません。
Q.端末の故障はどれくらい発生しましたか?
電式/感圧式)等の仕様や
機能が異なる4機種の端末を導入し、使い
勝手などの検証を行ってきました。例えば、
教室・家庭でも
安心・安全なセキュリティ対策
A
トライアル開始当初は、液晶画面の破損や端末の紛失などを懸念していました。
しかし、児童は予想以上にタ
ブレット端末を大切に扱ってくれたため、端末交換を伴うような故障は比較的少なく、全450台の端末のうち
液晶破損による修理は3年間で13台(2.9%)
となりました。
ただし、感圧式のタブレット端末については、経年
使用による液晶部分のタッチポイントずれによる不具合事象が28台(16%)
となっており、これは3年目後半
から増加しています。
児童用タブレット端末は、コンテンツの視
児童が学校や家庭で安心・安全にタブレッ
聴やタッチペンなどによる手書き文字入
ト端末を活用するためには、万全なセキュ
力デバイスとして活用されるほか、理科の
リティ対策が何よりも重要です。そこで、有
観察や体育・図工といった場面でカメラ
害サイトの閲覧を防ぐフィルタリングソフト
教育現場に求められるタブレット端末とは
としても活用されることが多くあります。
ウェアの導入や、ウイルスやスパイウェアな
本トライアルでは、一般向け販売されているタ
このような用途を想定するのであれば、背
ど望ましくないソフトウェアの侵入を防ぐ
ブレット端末でも教育現場で十分に役に立つこ
面にカメラ機能を有する機種の導入が望
マルウェア対策を実施しました。さらに、タ
とを示しました。しかし、画面の大きさや重さ、安
ましい、
といったことが分かりました。
ブレット端末の各種設定を誤って変更したり、
定性や反応速度など、本トライアルを通じて多く
なお、中学校のトライアルでは、生徒1
学習に不要なアプリケーションをインストー
の要望が寄せられました。校庭や校外学習で使う
人1台のWindowsノートパソコンを導入
ルしたりすることを防ぐため、学習に必要
ための防水・防塵対策など、教育現場ならではの
し、授業や自学習で活用しました。
なアプリケーションだけを利用可能とする
要望もあります。いよいよ1人1台端末の時代を迎
ような利用制限対策も実施しました。
えつつある今、端末提供に関わる企業はこういっ
た学校現場の声に応えていくことが重要です。
フィールドトライアルで導入したタブレット端末
児童用
)
GALAXY Tab
(NTTドコモ)
●画面サイズ:7インチ
●入力方式:静電式
●導入フィールド:
神奈川県川崎市
LifeTouch(NEC)
●画面サイズ:
7インチ
●入力方式:感圧式
●導入フィールド:
秋田県八峰町
岡山県倉敷市
GALAXY Tab10.1
(NTTドコモ)
●画面サイズ:10.1インチ
●入力方式:静電式
●導入フィールド:神奈川県川崎市
80
教員用
FOLIO 100(東芝)
●画面サイズ:10.1インチ
●入力方式:静電式
●導入フィールド:
新潟県関川村
鹿児島県与論町
STYLISTIC(富士通)
●画面サイズ:11.6インチ
●入力方式:電磁誘導方式
●導入フィールド:全フィールド
児童のタブレット端末を充電する充電保管庫
南百合丘小学校で児童に配布した手書きのマニュアル
(古川支援員作成)
81
ICT環境
第3章
4.インフラ環境
児童1人1台タブレット端末の利用を支える安全で快適な通信環境
無線LAN環境を含む
トータルでのICT環境整備
本トライアルでは、長年にわたりNTTグ
ループが培ってきたネットワーク構築のノ
フィールドトライアル参加校のうち、最
ウハウを活用し、安定したインフラ環境を
も児童数が多い学級が40名。つまり、教員
構築・運用し続けることができました。学
のICTを活用した授業を滞りなく行うため
校現場における児童1人1台端末の導入に
には、40台のタブレット端末が一斉に動画
向けては、タブレット端末などのICT機器
コンテンツを再生した場合でも、安定して
やコンテンツ・アプリケーションの選択は
生徒のタブレット端末しか接続できないよ
視聴できるための無線LAN環境の設計や
重要な要素です。しかし、これらを安定的
う制限をかけ、安心・安全なアクセス環境
設定が求められました。
トライアル開始直
に運用していくためのインフラ環境の整備
ICTを活用した授業実践や職員室での
を実現。また、万が一でも有害サイトにア
後には最適な設定を見いだすことに苦慮
も必要不可欠な要素であり、
トータルでの
授業準備などを快適に行えるように、ほぼ
クセスしないように、タブレット端末での
した時期もありましたが、その後は安定し
ICT環境構築・運用を心掛けていく必要
全ての学校にて本トライアル専用のブロー
フィルタリング対策のみならず、ネットワー
た無線LAN環境を提供し続けることがで
があります。
ドバンド回線を導入。またタブレット端末
ク側にもUTM(統合脅威管理:Unified
きました。
の持ち帰り学習を考慮して、家庭にも必要
Threat Management)の仕組みを導入
に応じてブロードバンド環境を提供しまし
しました。
フィールドトライアルで提供した児童1人1台のタブレット端末や「教育クラウド」のアプリケーションやコンテンツ。
これらを安全かつ快適に利用するために、教室・職員室・家庭にブロードバンド回線や無線LANといったイン
フラ環境を整備しました。実践を通じて、こうしたインフラ環境の構築・運用において考慮すべきことも明らか
になってきました。
安心・安全に教育ICTを
実践するためのインフラ環境整備
た。さらに、校外学習などの利用シーンを
コンテンツやアプリケーションを提供す
考慮し、一部のタブレット端末にLTE経由
る基盤となる教育クラウドは、よりセキュ
で教育クラウドにアクセスできる環境を用
アなユーザ認証を行う方式を導入すると
意しました。
ともに、データやコンテンツの安全性を確
タブレット端末は無線LANによりイン
保するためのバックアップ機能、ネットワー
ターネットにアクセスします。そこで、各教
クの負荷状態を監視するリソース監視機能、
室や家庭に無線LAN環境を構築しました。
コンピュータウイルスの感染を防ぐマルウェ
教室の無線LANアクセスポイントは、児童
ア対策機能などを実装しました。
教育クラウド
教室の天井に設置された無線
LANアクセスポイントの例。本
トライアルでは各教室に2つの
アクセスポイントを設置。
Q&A
アプリケーション
Q.どのようにして安定した無線LAN環境を整備したのですか?
コンテンツ
無線LANで安定的な通信を行うためには、教室における外来波などによる電波干渉が発生しないよう、
学校
ブロードバンド回線
セキュリティ機能
チャネル設計やアクセスポイントの設置位置を綿密に設計する必要があります。本トライアルでは、現
ブロードバンド回線
在主流の通信規格「IEEE 802.11n」を採用していますが、2.4GHzと5GHzの2つの周波数帯を、環境
家庭
や端末に応じて使い分ける対応を行いました。
また、
タブレット端末からの一斉アクセスに対応するために、
アクセスポイントとコントローラで構成さ
れる集中管理型の無線LAN環境を構築し、コントローラ上でタブレット端末1台ごとに公平に帯域を
学外
A
UTM※
割り当てられるようなチューニングを実施しました。
2.4GHz
コントローラ
各教室
メリット
LTE対応
タブレット端末
無線LAN
アクセスポイント
無線LAN対応
ブロードバンドルータ
デメリット
5GHz
電波が遠くまで届きやすい
家電製品等の電波干渉を受けにくいため、比
較的安定した無線LAN通信が可能
電子レンジ、
アマチュア無線、Bluetoothに使
用されているため、電波干渉を受けやすく無
線LAN通信が不安定になることがある
電波が遮蔽物に弱いため、壁などがあると無
線LAN通信が不安定になることがある
※Unified Threat Management
82
83
ICT環境
第3章
5.サポート
機器の設定などに関する保護者からの問
教育ICTの円滑な実践のためICT支援員の存在は不可欠
い合わせに対応し、児童が安心して家庭学
ICT環境を使い続けるためには、
これを支えるサポート体制が重要です。
本トライアルでは、
教員の授業準備や実践を
支えるICT支援員を全フィールドに配置するとともに、
家庭での持ち帰り学習をサポートするため、
電話等で問い合
わせに対応するサポートデスクを提供しました。
教員の活用経験に応じて
ICT支援員の役割も大きく変化
した補助の頻度は低下。一方で、授業にお
けるICTの効果的・発展的な活用方法に
フィールドトライアルでは、各地域に学
ついて、教員とICT支援員が一緒になって
校常駐や複数校巡回のICT支援員を配置し、
授業づくりに取り組む機会が増えるなど、
教員の授業準備や実践に関わる支援を行
教員のICT活用度に応じて支援内容が変
いました。
化していきました。
習に取り組めるようなサポートを提供しま
した。
3年間にわたり学校現場での実践を支えたICT支援員。フィールドトライアルを振り返っての感想やICT支援員
に求められるスキルなどについて、話を聞きました。
フィールドトライアルのICT支援員
前列左から
後列左から
鹿児島県大島郡与論町/弓指 亜希子氏
神奈川県川崎市/古川 洋子氏
秋田県山本郡八峰町/梅田 由美子氏
ブルへの対応など多岐にわたります。さら
にはICTを活用した授業の準備段階での技
秋田県山本郡八峰町/渡部 豪氏
サポートデスクによる
家庭も含めトータルサポートの提供
複 雑なトラブルや故 障 対 応といった、
術的な相談や効果的な活用方法の提案な
ICT支援員だけでは対応できない問題につ
ども行います。特に授業中に発生する機器
いては、サポートデスクがこれを支援しま
などのトラブルは、授業進行に影響を与え
した。
サポートデスクは、各学校のICT支援
る恐れもあり、
教員がICTを安心して活用す
員からの問い合わせを一元管理し、ある地
るために、
ICT支援員は不可欠な存在でした。
域で発生した問題やその解決方法を他の
なお、トライアル 開 始当初 は、教 員も
地域に水平展開するといった全体最適化
ICT活用に慣れておらず、ICT支援員の支
新潟県岩船郡関川村/高橋 直也氏
岡山県倉敷市/平川 恒夫氏
ICT支援員の役割は、機器やアプリケー
ションの操作説明から、授業中の機器トラ
サポートデスクによる遠隔支援
ICT支援員に聞くフィールドトライアル
にも貢献しました。
仕事のやりがいや印象に残ったことは何ですか?
弓指:トラブルを解決して先生が喜んでくれたとき、やり
経験したからこそ分かる
「ICT支援員に必要なスキル」
とは何でしょうか?
がいを感じます。普段は机の教科書に目を落としながら授
古川:ICTの問題で授業を止めてはいけませんので、
スピー
業を受けていた子どもたちが、電子黒板を使うと自然に目
ド感のある問題解決能力は重要。また先生や子どもの実
援内容も機器等の操作方法の支援や、授
また、サポートデスクは家庭からの問い
業実践における機器操作補助が中心でし
合わせにも対応。家庭学習時におけるタ
線を上げて授業を受けるようになったことは印象的でした。
態を理解した上での最適な提案や支援が求められます。
た。しかし教員の活用が進むにつれ、そう
ブレット端末の操作説明やネットワーク
渡部:発言がほとんどない児童がいたのですが、
タブレッ
そういう意味で機器保守のようなICTスキルが優先的に
ト端末の手書き回答がきっかけで、先生との会話や発表
求められる仕事とは違うのだと思います。
の機会が増えたという話を聞いたとき、タブレット端末
平川:コミュニケーション能力に尽きます。先生方は大変
の活用を支援してきて良かったと思いました。
忙しいですが、少しでもお話をする時間を作って信頼関
梅田:先生から
「学習効果が上がった、児童の理解が深まっ
係を築くことを心掛けました。
学校
機器操作や活用方法
などの現場支援
教員
家庭
保護者
ICT
支援員
児童
学校、
家庭での
ICT活用を万全サポート
た、役に立った」
といわれると、
サポートしていて良かった
渡部:同感です。ICTスキルがあることに越したことはあ
と感じます。
りませんが、
コミュニケーションが第一。
梅田:いつでも先生の身近にいて、気軽に尋ねてもらえ
3年間の実践を通じて感じた変化はありますか?
る環境や関係を築くことが大切かと思います。
平川:1年目は授業中の操作支援が多かったのですが、
2年目以降は朝や放課後の時間帯で先生の授業づくりの
サポートデスク
相談に乗ることが多くなったことを実感しています。
現場で解決できない
事象の問い合わせ対応
他地域のトラブル解決
事例などの水平展開
84
古川:私も同じような感覚を持っています。
また実践が進
家庭学習時の
機器操作などの
問い合わせ対応
むと、先生同士で効果的な使い方などを共有する場面も
増えたようです。
85
コ ラム
つなぐ+ ひろがる
教育ICT
4
vol.
平和を願う思いが
距離を超えて伝わった
広島平和記念資料館
元館長
前田 耕一郎 氏
2012年12月5日、
フィールドトライアル実践校の一つである新潟県関川村の関川小学校と広島県広島市の広島平和記念資料館と
をつないだ「つなぐ授業」
が行われました。被爆した当時の広島の惨状について、展示されている被爆者遺品の写真資料などを交えた
お話を聞き、関川小学校の児童たちにとって、教科書だけでは読み取ることができない原爆の恐ろしさや戦争の悲惨さについて
強く実感した授業となりました。
子どもたちに戦争の惨状や平和の願いを伝えていくためにICTは役に立ったのか、
またこれからどのような可能性があるのか。
当日
の授業でお話をしてくださった広島平和記念資料館の前田耕一郎館長(当時)にお話を聞きました。
広島平和記念資料館(以下、資料館)には、世界中からの観光客はもちろん、県内
外から数多くの児童生徒が訪れるとお聞きしました。遺品などの展示を見た子ども
たちの反応はどのようなものなのでしょうか。
館長時代、だらしなくイスに寝そべる修学旅行生がいたので注意しようと近づい
たところ、真剣な表情で「本当にひどい…こんなことはあっちゃいけないよね…」
と話し合っているのを聞いたことがあります。どんな子どもたちも被 爆という
悲劇を、資料館の雰囲気や展示などから感じ取ってくれているのだと感じさせら
れました。
館長だった私が、何よりも大事にしていたのが「資料としっかりと向き合う」こと
です。それ 故 に、過 剰 演 出をせず、見 学 者が 遺 品 や被 爆 資 料 などと向き合 い、
それらに込められた事実や思いに気づき、受け止めてもらうよう心掛けました。
遺品などは、それぞれがバックボーンを持ち、
ある種の思念のようなものを宿して
いると思うのですが、新潟県関川村の関川小学校と結んでの「つなぐ授業」では、
その雰囲気までが子どもたちに伝わったでしょうか。
第4章
成果と課題
3年間の実践を通じて分かったことは何か。
教育ICTの普及と定着に向けて必要なことは何か。
ともにフィールドトライアル取り組んできた
皆さんの「声」も交え、
フィールドトライアルの「成果」と「課題」を
報告します。
INDEX
成果と課題
課題
実は、最初はそれほど期待してはいませんでした。遠隔では“空気感”までは伝わ
らないのではないかと考えたからです。
しかし、実際には、子どもたちが、被爆者の思い、遺品に込められた亡くなった人
の苦しさや遺族の悲しみ、戦争の悲惨さ、核兵器の恐ろしさをくみ取ってくれている
ことがよく分かりました。離れていても真剣に受け止めてくれている表情・雰囲気が
伝わりましたし、私の思いも伝えられたはずです。資料館に足を運んでもらうこと
が何よりですが、
「つなぐ授業」はこれに次ぐ手段として有益だと感じました。
【広島平和記念資料館:概要】
被爆した広島の惨状を後世に伝え、
世界恒久平和の実現という広島の
願いを訴え続けるための施設。国指
定の重要文化財に認定されている
本館では被爆の惨状を伝える遺品
などの資料を、東館では歴史的事実
を踏まえた被爆前と被爆後の
「広島
のあゆみ」を写真パネルや映像、模
型などで展示している。
2018年春の
完成を目指し、展示を順次改修中。
期間中も観覧可。
【住所】
広島県広島市中区中島町1-2
86
ラウンドテーブル
アドバイザリメンバ
に聞く
90
102
被爆という悲劇を後世に伝える使命を持つ資料館にとって、ICTはどのように活
用できるとお考えですか。
今回行った「つなぐ授業」は、実際に資料館へ足を運んでもらうきっかけづくりと
しても期待できます。
それだけでなく、
資料館を訪れることが難しい人に知ってもらう
上でも有効です。例えば、病院の院内学級と資料館を結べば、闘病中の子どもたち
に資料館の雰囲気や被爆の悲劇を伝えることもできるでしょう。
さらにICTには、被爆体験者の“証言”を後世に伝える手段としても期待をしたい
です。10〜15年後、実体験者はほとんどいなくなってしまいますが、そうした方々
の言葉は何としても残さねばなりません。今回、距離を超えて空気感を伝えてくれた
ように、未来に証言を残すための一助にもなってもらいたい。ICTにはそんな無限
の可能性があると感じています。
87
第4章
成果と課題
教育ICT普及・定着に向けたテーマ
「ICTは子どもたちの学びに役に立つのか」
「ICTを活用するために教員の指導力をいかに高めるか、
またいかに教員を支えていくべきか」
「教育ICTの推進を支える資金や体制をどう用意していくか」
実践を通じて、教育ICTの普及・定着に必要な
「3つのテーマ」
に対する答えとなる
「成果」
と
実践を通じて特に成果と課題が表れたもの
1人1台のタブレットは新たな学びの価値を生んだのか
P90
ICTは子どもたちにどのような具体的効果をもたらしたのか
P91
ICTならではの
「つなぐ授業」
はどのような価値を生んだのか
P93
無線LANなどのインフラ環境は教育現場で十分に機能したのか
P94
ICTによる
「課題」
が見えてきました。
大切なことは、
これらを広く学校教育に関わる関係者に共有し、
ともに解決に向けて進んで
学びの
価値向上
いくことです。
NTTグループとともにトライアルに取り組んできた関係者の
「声」も交え、
フィールドトライ
アルの
「成果」
と
「課題」
を紹介します。
ICTは
「学びの価値」
を
高められるか
アプリケーションは教員の負担感を取り除くことに役に立ったのか P95
教育ICT普及・定着に向けた
「3つのテーマ」
テーマ1
教育ICTの価値をいかに評価していくか
P100
ICTによる
「学びの価値」
を高める
学びの ICTは教育現場において
価値向上 ことに貢献できるのか
テーマ2
教員の
ICTを活用した授業を続けるために必要な
ICT活用
をいかに向上するか。
指導力向上 「教員の指導力」
また教員を支援するために必要な仕組みとは
テーマ3
支える
仕組み
教員のICT活用
指導力をいかに
高め、支援するか
教育ICT推進のための
「資金」
をどのように手当てし、
必要な
「体制」
をいかに作り上げるか
学校
現場
国・
自治体
家庭・
地域
推進主体となる関係者
がともに解決
教育ICTの普及と定着
88
教員の
ICT活用
指導力向上
民間
企業
支える
仕組み
教育ICTを
支える仕組みを
いかに用意するか
教員がICTを活用し続けるための意欲の源泉とは
P96
教員がICTを使い続けるために必要な研修等の仕組みは何か
P97
教員のICT活用を支えるために必要な支援体制とは
P98
ICTを有効に活用するための活用モデルはあるか
P99
ICT活用に必要な教員の指導力をいかに高めていくか
P100
教育ICTに必要な予算措置とは
P100
国・自治体の予算によらない資金手当ての方策とは
P100
教育現場へのコンテンツ充実に必要な仕組みとは
P101
教育ICTを推進するために必要な体制とは
P101
その他教育ICTの普及・定着に向けて対処すべきこととは
P101
89
第4章・
・
・成果と課題
ICTによる
学びの
価値向上
1人1台のタブレットは
新たな学びの価値を生んだのか
ICTは子どもたちに
どのような具体的効果をもたらしたのか
ICTによる
学びの
価値向上
課題
課題
タブレットを教育ICTにおける必須ツールとするには、授業での活用実績を積み上げるととも
に、個に応じた学習方法など家庭学習におけるさらなる価値創出が必要
成果
成果
1人1台タブレットは、授業支援システムと合わせて導入・活用されることで、授業でその価値
を発揮。家庭学習においても、
その有用性が確認された
デジタルコンテンツが児童の関心・意欲を高める効果をあらためて証明。加えて、
アプリケー
ション
(授業支援システム)
が思考力・表現力向上に効果を発揮することが明らかになった
思考力・表現力向上に資するアプリケーションの普及・定着や、
個の学びに応じたデジタルコン
テンツの充実が必要
1人1台のタブレットが教育現場にどのような価値をも
また、
タブレットの持ち帰りによる家庭学習のシーンで
これまでも数々の実証研究により、デジタルコンテンツ
果を分析すると、タブレットや授業支援システムの活用度
たらしたのか。
本トライアルの特徴の一つが児童1人1台タ
は、
タブレットの持ち帰り学習を児童の宿題として課した
などのICTが、児童の「関心・意欲・態度」の向上に与える
が高い教員ほど児童の「思考力・表現力」の伸びを実感し
ブレットを活用した実践でした。
トライアル開始当初から
教員のクラスの児童は、宿題のみならず復習・予習などの
影響が分かっています。本トライアルにおいても、これらの
ていることが分かります(図表2)。さらに、インタビューで
さまざまな実践に取り組み、
「個別学習」
や
「カメラ機能」
の
回数も他の群より多かったという結果が出ています
(図表
効果に対する教員の実感は3年間継続して高く、あらため
聞こえてきた教員の意見がこれを裏付けます。
活用といったタブレットならではの利用シーンを見いだし
2)。
また、
この群の児童はタブレット導入前と比較して家庭
てこれを証明する結果となっています。こういった結果に
「児童が積極的にいろいろな考えを出すようになった」
「多
ました。
しかし、活用頻度向上のきっかけとなったのは
「授
学習時間全体が約1.4倍伸張したという結果も明らかに
対しては、従来からの視聴覚教材と何ら変わらないとする
くの児童に発表機会をもたせることができ、表現力の向上
業支援システム」
の導入でした。
これにより、
タブレットへ
なっており、
タブレットによる宿題を契機として学習が発展
反論もあるかもしれません。
しかし、本トライアルでは、3年
や発表意欲の高まりを実感」
「多様な考えに触れたり他者
の
「書き込みと発表」
や
「子ども同士の学び合い」
が実現
(図
していく様子が伺えます。
目
(2013年度)に
「思考力・表現力」にも効果を発揮すると
と比較したりすることで、自分の間違いに自分自身で気づ
いう結果を示しており
(図表1)、ICTがこれらに及ぼす効果
けるようになるなど、児童の考える機会創出と考える力の
についても可能性が見いだされました。
向上に役立った」
表1)
。協働学習の場面にて、
教科や単元を問わずに活用で
しかしながら、
本トライアルでは全ての学校で日々タブ
きるタブレットと授業支援システムは、
多くの教員から必
レットの持ち帰りがなされるには至りませんでした。家庭
須ツールとしての評価を得ており、今後もさらなる事例の
学習におけるタブレットの価値をさらに高めていくために
積み上げが求められます。
は、
児童の学力に応じたアダプティブラーニングなど個に
何がこの結果をもたらしているのか。
答えは
「タブレット」
また、
「全員が答える状況」をつくり出すことが、
「考える
と
「授業支援システム」にありました。教員のアンケート結
こと」を促すことにつながるという
「思考の場の創造」を実
応じた学びを実現するためのさらなる工夫
図表1
授業支援システムで真に価値を発揮するタブレット
タブレット単独
タブレット活用の価値
が求められます。
タブレット+授業支援システム
(+電子黒板)
の在り方の追求も今後の課題です。
今後も
動画・シミュレーションコンテンツの手元での視聴や試行錯誤
①個別学習の実現
学習進捗・理解度に合わせた個別学習
多種多様なデバイスの普及が想定される一
児童それぞれのペースによる調べ学習
方で、
コンテンツやアプリケーションは、OS
事象のカメラ撮影・撮影結果の保存
やデバイスに合わせて都度カスタマイズや
③協働学習の実現
書き込みと発表
正常性の確認を行う必要があり、
HTML5
相互学び合い
などマルチプラットフォームを前提とした規
格統一が重要な伴となるでしょう。
児童個別の理解度に応じた
きめ細かな指導
④個別指導の実現
ICTの活用が児童にもたらした効果
図表2 タブレットを宿題として持ち帰ることで学習時間が長くなる
40%
61%
2013
学校の宿題を
する時間
学校の授業の
復習や予習を
する時間
興味のあることや
分からないことを
調べる時間
40%
60%
37%
15%
14%
38%
「積極派」
全ての項目で
増えている
36%
34%
■積極派(N=96人)
■自由派(N=89人)
■消極派(N=128人)
消極派
(N=128)
100%
39%
知識・理解
2012
30%
65%
44%
20
40
60
80
分/日
51.9
73.1
学習時間:+21分/日
(1.4倍)
44.8
2012 5%
44%
5%
95%
11%
89%
2013
28%
38.8
60%
40%
61%
11%
89%
表現力
2012 5%
45.9
40.5
55%
+29pt
0%
20% 40% 60% 80% 100%
効果実感高
(N=6)
83%
効果実感中〜低
25%
(N=12)
20% 40% 60% 80% 100%
効果実感高
(N=6)
17%
83%
+58pt
17%
+58pt
75%
効果実感中〜低
25%
(N=12)
■児童用タブレット活用度高(N=8)
■児童用タブレット活用度中〜低
(N=10)
75%
■授業支援システム活用度高(N=8)
■授業支援システム活用度中〜低(N=10)
20% 5%
70%
75%
相関
※学習時間には
「宿題をする時間」
「 復習
や予習をする時間」
「しらべる時間」
が含
まれる。
■2013年5月 ■2013年12月
出所)
教員アンケート
(2013年12月)、
児童アンケート
(2013年5月、
12月)
28%
61%
11%
89%
年度
2012年度:
(N=20)
2013年度:
(N=18)
■大変効果があった ■やや効果があった
■あまり効果がなかった ■全く効果がなかった
出所)教員アンケート
(2013年2月、2013年12月)
相関
活用度(デジタル教科書)
と
なし 効果実感(思考力・表現力)の相関
0%
効果実感高
(N=6)
20% 40% 60% 80% 100%
50%
50%
活用度(電子黒板)
と
なし 効果実感(思考力・表現力)の相関
0%
効果実感高
(N=6)
20% 40% 60% 80% 100%
100%
+8pt
+14pt
2013
※タブレットの持ち帰り方針(専科教員除く)
積極派…タブレット学習を宿題とし積極的に持ち帰らせた教員の学級の児童
自由派…タブレットの持ち帰りを推奨したが宿題は消極的であった教員の学級の児童
消極派…原則タブレットの持ち帰りはさせなかった教員の学級の児童
90
積極派
(N=96)
自由派
(N=89)
20%
16%
20%
0
80%
100%
60%
活用度(授業支援システム)
と
あり 効果実感(思考力・表現力)の相関
思考力
1日あたりの学習時間(塾などに関わる学習時間を除く)
20%
0%
関心・意欲・態度
2012
相関
活用度(児童用タブレット)
と
あり 効果実感(思考力・表現力)の相関
2013年度になり
効果実感が高まった
0%
図表2 タブレットや授業支援システムの活用で
思考力・表現力の効果実感が高まる
相関
赤枠:
20% 40% 60% 80% 100% ポジティブ
層の割合
0%
2013
時間が長くなった学習の内容
ICTは思考力・表現力向上にも
効果を発揮した
継続して
効果実感が高い
②カメラ機能の活用
図表1
加えて、教育現場で求められるタブレット
効果実感中〜低
(N=12)
42%
0%
+8pt
58%
■デジタル教科書活用度高
(N=8)
■デジタル教科書活用度中〜低
(N=10)
効果実感中〜低
(N=12)
92%
8%
■電子黒板活用度高(N=17)
■電子黒板活用度中〜低(N=1)
出所)
教員アンケート
(2013年12月)
91
第4章・
・
・成果と課題
ICTによる
うことで勉強を「楽しい」と感じているほか、グラフを動か
感した教員もいました。
したり、図形を切ったり動かしたりすることで「分かる」よ
藤村裕一准教授は「ICTは授業改善の必要性を迫り、教員
うになったという意見を挙げており
(図表4)、学習の苦手
が従来の授業観を見直す機会となる」と指摘しています。
意識克服にICTが
「関心・意欲・態度」の面で効いたことを
教員主導から児童主体の授業への見直しをもたらすタブレッ
示しています。
一方、
トライアル前後ともに
「学習が得意」
と答えた児童は、
「思考力」や「表現力」の効果を他の群と比較して高く実感
出が課題です。
また、
ICTの活用をきっかけに何らかの教科を好きになっ
しています。
「自分の考えが持ちやすくなった」
「電子黒板に
た児童が全体の8割を占めています
(図表3)
。
中でも算数と
自分の考えが出ると、説明がより分かりやすくなる」
「自分
理科を挙げる児童が約半数に達し、理数系ばなれに対する
の考えを発表しやすくなり、友達の考えもよく分かる」
との
処方せんとなる可能性が示されました。
声が上がっています。
課題
トと授業支援システム。今後の普及・定着や活用事例の創
成果
こういった教室の変化について、鳴門教育大学大学院・
学びの
価値向上
ICTによる
「つなぐ授業」
は児童の関心・意欲や学習内容への理解を高める方法として有効
日々手軽に実践するには運営面の障壁が高く、
当面は外部の支援が不可欠
すます重要性が高まる英語教育への応用にも高い評価を
遠隔授業はインターネット黎明期より長年試されてきた
得ています。
取り組みであり、
その効果はもちろん、学校現場が自立的
トライアル期間を通じて学習の苦手意識を克服した児
児童一人ひとりが異なる学力を有する状況においては、
に継続していくことの困難性についても、
もはや自明とい
一方、実施上の課題として、教員からは
「授業設計や目的
童もいます。
このような児童は、電子黒板やタブレットを使
それぞれの学習レベルに応じた学習方法の提供が求められ、
う声もあります。
しかし、困難だからといって実現を諦めて
を持たないと効果を得ることが難しい」
という意見が挙
ICTはこれに応える可能性を有しています。しかし現時点
しまって本当に良いのでしょうか。
がっています。
そして何よりも、
日常的な実施には運営面の
では、そのためのコンテンツやアプリケーションが十分に
図表3
80%の児童が何らかの
科目を好きになった
タブレットや電子黒板を使うことで、得意になったり好きになったりした科目
たが、
いずれも評価が高く、
全ての教員が今後の実施継続を
「つなぐ授業」
の自立的な継続に向けては、技術面ではよ
技術や知見を有する幅広い関係者が、実現に向けて知恵を
望んでいます
(図表1)
。
具体的な効果としては
「児童の興味・
り簡便で安定した環境が、運営面では外部の協力者との
絞っていく必要があります。
意欲・関心の向上」
を挙げる教員が最も多く
(100%)
、
次いで
コーディネートやマッチング機能が求められます。いずれ
「児童の学習内容への理解」
(71%)
となっています
(図表2)
。
も一朝一夕で解決できる課題ではなく、
当面は外部の支援
児童も
「興味・意欲・関心」
の向上を実感しており、
質疑応
が不可欠な取り組みに違いありません。
しかし、児童や教
答など双方向性の強い授業では
「思考力・表現力」
の向上
員の声に応えるためにも、我々ICTに関わる企業のみなら
も実感しているようです。
国立天文台との授業では
「これか
ず、多くの企業や学校を取り巻く関係者が連携し、解決の
らも宇宙についていろいろ調べていきたい」
といった声が
道を模索していくべき課題です。
算数 50%
16%
14%
理科 47%
14%
13%
6%
その他 2%
7%
8%
社会 35%
(N=334)
出所)
児童アンケート
(2013年12月)
図表4
上がり、
トヨタとの授業では
「社会が好きになった」
「家の
また、学校現場においては、地域の企業や人材とつなぐ
人にクイズを出してみたい」
といった、苦手意識の克服や家
ことから始めることも、
自立的運営に向けた解決策の一つ
庭での交流が想像される反応もありました。
また、
今後ま
となり得るでしょう。
学習が苦手な児童は関心・意欲が高まり、
得意な児童は思考力・表現力が高まった
タブレットや電子黒板を使って、伸びた学力(児童アンケート)
100%
80%
図表1 全ての教員が「つなぐ授業」の継続実施を希望
得意な児童への効果
苦手な児童への効果
100%
障壁が多いという声が多数上がっています
(図表1)
。
本トライアルでは多様な
「つなぐ授業」
を実施してきまし
そろっているとは言えません。国内の教育関係者のみならず、
なし、
不明:20%
60%
40%
20%
0%
85% +15pt
75%
83% △8pt
67%
70% △3pt
80%
76% +4pt
■苦手克服(N=10) ■全体(N=291)
苦手克服
(N=10)
得意
(N=18)
タブレットや電子黒板を使って、伸びた学力(児童アンケート)
0%
20%
40%
60%
80%
関心・意欲・態度
○
+9pt
△
知識・理解
○
+3pt 83%
○
学習の観点
+19pt
70%
とてもそう思う
71%
89%
・全部楽しい
意欲・関心・
・きょう科書でべんきょうするより楽しい
態度
・タブレットをつかって、
楽しくできる
表現力
・タブレットでスピーチをするのが、
とても楽しかった
■得意
(N=18) ■全体
(N=291)
学習の観点
得意な児童のコメント
(アンケートより)
思考力
・友だちが考えていることが分かった
・わからないことがあれば、
タブレットなどで調べられたりする
表現力
・今まで電子黒板を使うことで自分の考えを発表しやすくなり、
友
だちの考えもよくわかるようになった
・学校では友だちに発表できたり、
他の考え方を知ることができた
のでとても良かった
※各コメントは原文のまま
40%
60%
80%
児童の授業への
興味・意欲・関心が向上した
100%
100%
71%
児童が自分の考えを
分かりやすく
人に伝えられるようになった
21%
+13pt 76%
◎:全体+10pt以上 ○:全体+0pt以上〜10pt未満
△:全体−10pt以上〜0pt未満 ×:全体−10pt未満
苦手を克服した児童のコメント
(アンケートより)
20%
児童の学習内容への
理解が進んだ
ややそう思う
29%
89%
◎
表現力
全くそう思わない
0%
図表2 「つなぐ授業」は児童の関心・意欲や学習内容への理解を高めた
「つなぐ授業」
が児童へ与えた影響は
0%
86%
◎
思考力
あまりそう思わない
0%
94%
85%
◎
△
あなたは、
今後も、
「つなぐ授業」
を行いたいと思いますか
100%
教員の声
92
ICTならではの
「つなぐ授業」
は
どのような価値を生んだのか
出所)
児童アンケート
(2013年12月)、
保護者アンケート
(2013年12月)
(N=18)
・学習内容と
「つなぐ授業」が関連づけられることで児童の理解
が深まり、
一部ではテストの点数が向上したと感じられている
効果
・「つなぐ授業」
により、
普段体験できない世界に触れることで、児
童の見聞や興味・関心が広がる効果が感じられている
課題
・
「つなぐ授業」
は授業設計や目的がしっかり計画されていないと、
効果を得ることが難しい面も存在
・つなぐ先に交渉してもらえるような企業も必要
・手軽に日常的に活用できることも重要
出所)教員アンケート
(2013年12月)、教員インタビュー
(2013年12月)
ほか
児童がいろいろな材料を基に
自分の考えを持てるようになった
29%
児童がグラフや
資料などの情報を理解して
活用できるようになった
その他
特に効果を感じた点はない
14%
7%
0%
(N=18)
出所)教員アンケート
(2013年12月)
93
第4章・
・
・成果と課題
無線LANなどのインフラ環境は
教育現場で十分に機能したのか
ICTによる
学びの
価値向上
ICTによる
学びの
価値向上
教員の活動実態を踏まえたアプリケーションの導入が、
教員の負担感の軽減につながる効果
を証明
アプリケーションは、全ての教員が使いこなせるような簡便性を追求することが必要
学校現場には学校現場ならではのICTインフラが必要か。
重要性は保護者の意見にも表れています。
なお、
保護者の教
児童生徒の指導のみならず、
会議や報告書作成といった校務
本トライアルを支えた無線LAN、
高速ブロードバンド回線、
育ICTへの関わり方によって反応が変わってくることは興味
や保護者等の対応など、
日本の教員の多忙さは深刻な課題で
その結果、
教員の負担感は劇的に軽減され、
ICTを活用すること
クラウドといった基本インフラは、
いずれもビジネス分野で
深い事実となりました
(図表2)
。
ちなみにフィルタリング方
す。
校務の負担に対しては校務支援システムの導入によって軽
で授業準備・実践の負担感が軽減されたという声が、
負担感の増
(2013年度)
より導入することになりました。
活用されてきた汎用的な技術やサービスを活用したもので
式については、
意見が分かれるところですが、
保護者からは、
減できる可能性はありますが、
こういった状況下においては、
最
を訴える教員よりも圧倒的に多く見られることとなりました
(図
あり、
3年間の実証を通じ、
これらが十分に機能することを証
ホワイトリスト方式※1よりも自由度の高いブラックリスト方
も大切な職務である授業に対しても一定の負担感を抱かざるを
表1)
。
実際の意見をみても、
授業のさまざまな場面での負担感減
明しました。
式※2を支持する声がやや上回りました。
プロジェクト開始当
得ないのではないでしょうか。
につながる効率化に寄与していることがうかがえます
(図表2)
。
3年目
(2013年度)
のICT利活用状況を見ると、
通期平均
初の2011年時点でのアンケートでは逆の傾向であったこと
このような教員に対して、
新たな道具であるICTの活用を強
もちろん、
負担感が増えたという意見が残ったことも事実で
では5割の授業で電子黒板もしくはタブレットが活用され、
から、近年の急速なスマートフォンやタブレットの普及が保
いることはさらなる負担感の増につながるという意見もあり
あり、
こういったアプリケーションを広く世の中で使っていただく
11月には約7割の授業で活用されました
(図表1)
。
護者層の判断に影響を与えている可能性があります。
ます。
実際に本プロジェクトにおいても、
2年目
(2012年度)
ま
ためには、
改善・改良の余地が多くあります。
機能性のみならず、
汎用的な基本インフラですが、
これを確実に運用するた
合わせて、情報活用の前提となる情報モラル教育の徹底
での教員へのアンケートでは、
ICTを活用した授業準備・実践
簡便な操作性を追求したUI/UX※も重要です。
児童生徒と向き
めには、学校現場ならではの環境を考慮したノウハウが必
も保護者が学校に期待する取り組みの一つとなっています
は従来型の授業と比較して負担感が高いという意見が多く見
合う授業実践の場面で、
教員がICTの操作に気をとられるよう
られました。
しかし、
ICTには利用者の負担を軽減しながら活
なことはあってはなりません。
しかし、
本トライアルの結果は、
教
動の質を高めるという本来的な使命があるはずです。
そこで、
員の要望や実態に真伨に向き合えば、
ICTの活用が教員の負担
教員への徹底的なヒアリングを行い、
教員の授業準備や実践
感軽減に貢献できるという可能性を示したものとなりました。
の活動の実態に合わせた授業支援システムを開発し、
3年目
U I:ユーザインターフェースの略。
コンピュータシステムの“操作感”を表す概念。
UX:ユーザエクスペリエンスの略。
「やりたいことを気持ちよく実現できるかどうか」
を重視する概念。
要です。40台近くの端末が同時にアクセスしてもストレス
(図表3)
。
※1 ホワイトリスト方式:
インターネットに接続する際に、
閲覧が許されるサイトだけをリスト化して運用する方式。
※2 ブラックリスト方式:
ホワイトリスト方式とは異なり、
閲覧禁止のサイトだけをリスト化して運用する方式。
なく動画を視聴できるための無線LANの設定は、幾度も
のトライ&エラーを繰り返して確立されました。1人1台端
末の議論においては、端末のスペックの議論が中
心にされがちですが、
このようなトータルでのICT
環境の構築・運用を意識し、必要な予算を確保して
また、
学校現場ならではの児童が安心・安全に利
用できるための有害サイトフィルタリングなどのセ
キュリティ対策の確保も重要です。
セキュリティの
最大約7割の授業でICTが活用された
70%
60%
電子黒板もしくは
タブレットの活用度
54.2%
53.9%
65.8%
51.3%
50%
52.0%
タブレット持ち帰り学習の
目撃頻度別
保護者全体
0% 20% 40% 60% 80% 100%
0%
期待
(N=333)
の差
※不明・無回答(N=7)
は除く
0% 20% 40% 60% 80% 100%
0%
不安
(N=333)
74.5%
2013年度(N=18)
71.4%
ほとんど
見たことがない
(N=123)
6月
7月
(N=333)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
5.3%
8月
9月
10月 11月 12月
1月
0%
20%
40%
60%
80%
100%
10%
39%
44%
2012年度(N=20)
30%
40%
負担感減:+14pt
11% 6%
2013年度(N=18)
20% 10%
負担感増:△14pt
44%
33%
6% 17%
負担感増よりも負担感減を感じた教員が圧倒的に多い (38ptの差)
図表2 負担感減につながる授業支援システムのメリットとは
授業設計への注力
・特別な事前準備が必要ないため、
授業の内容や進め方を考える部分に時間を使えるようになった
効率的な教材準備
・児童別に調べるテーマ、配るべき資料が異なる場合は、ICTを使った準備は、従来より圧倒的に楽であった
必要十分な教材配布
理解していない児童との
“壁”を越える
・調べ学習では授業支援システムを利用して動画配信を行ったが、
与える情報量をコントロールしやすく有用だった
・教員が理解していない児童を発見し、重点的に教えることができた。手を挙げて堂々と
「分からない」
と言える児童は
少なく、授業支援システムがあることで、
「こっそりと」
助けを求めることができる点が良い
56.9%
学校での実施
机間指導による
効率的な授業展開
23ptの差
家庭での実施
30%
負担感増:△19pt
出所)教員アンケート
(2012年2月、2013年2月、2013年12月)
図表3 保護者は学校でのモラル教育の実施に期待
※算出方法:本トライアル対象教科である算・理・社の全授業数に対し、
電子黒板
もしくはタブレットが活用された授業の数を割合として算出。
なお、
電子黒板
に接続されたPCの状態を確認するアプリケーションや、
無線LANコントロー
ラのログを基に、
一定の閾
(しきい)
値を超えるもののみを有効数と定め算出
100%
△8pt
の差
79.7%
インターネット利用のモラル教育において望ましい実施主体
12.1%
80%
■通常の授業と比べて負担感が減った ■通常の授業と同程度の負担感である ■通常の授業と比べて負担感が増えた ■その他
24.0%
20.3%
60%
55%
負担感減:+34pt
20% 40% 60% 80% 100%
目撃頻度別にわけると
月に1回以上
(N=203)
出所)
保護者アンケート
(2013年12月)
タブレットの 14.2%
活用度
14.2%
40%
負担感増よりも負担感減を感じた教員が圧倒的に多い (28ptの差)
※不明・無回答
(N=7)
は除く
7.7%
0%
70.7% +8pt
ほとんど
見たことがない
(N=123)
35.9%
9.3%
授業実践における負担感の変化
20%
2012年度(N=20)5%
78.8%
授業実践
10%
0%
20% 40% 60% 80% 100%
月に1回以上
(N=203)
76.0%
40.2%
20%
ICTを活用することで教員の負担感は軽減される
授業準備における負担感の変化
目撃頻度別にわけると
40%
30%
図表1
授業準備
49.5%
保護者のインターネットへの期待と不安は
タブレットの持ち帰り学習の目撃頻度と相関する
インターネット利用に対する保護者の期待と不安
不適切な情報に
触れることに対する不安
図表1
授業においてICTが活用された割合
図表2
インターネットを使って調べ
学習をすることへの期待
いくことが重要です。
94
課題
課題
端末のみならずトータルでのICT環境整備が必要で、子どものためのセキュリティ対策や情報
モラル教育も必要
成果
成果
無線LAN・高速ブロードバンド等のICTインフラは全ての学校で十分に機能し、教育の質向上に貢献
アプリケーションは
教員の負担感を取り除くことに役に立ったのか
34.1%
出所)
保護者アンケート
(2013年12月)
・机間指導がしやすい。児童の回答を手元に持ちながら歩き回れるのは非常に便利
出所)教員インタビュー(2013年12月)
ほか
95
第4章・
・
・成果と課題
教員がICTを活用し続けるための
意欲の源泉とは
教員の
ICT活用
指導力向上
教員の
ICT活用
指導力向上
成果
成果
「児童への効果の実感」
が教員のICT活用意欲の源泉となることが明らかになった
課題
課題
効果の実感を高めるためには授業構想力そのものを高めることが必要
ICTの継続活用意向の高い教員の多くは、同時に児童への
ICTが私たちの仕事や生活の効率性を高めることは、
も
効果実感も高いということが分かっています
(図表2)。
はや疑いようのない
「常識」
といえるでしょう。分からない
他の教員や有識者との交流が教員のICT活用促進に大きく貢献
交流機会は限られており、
これを補完する仕組みの整備も必要
最新のICT機器を導入したが活用が進まず、
今では準備
通じて、
授業での効果的なICT活用方法のヒントを得るとと
室などの隅でほこりをかぶっている。
このような学校は意外
もに、
モチベーションの向上が図られました。
教員へのアン
ことをすぐに調べる、
いつでもメールや電話ができる。
一度
ではこの効果実感をもたらしている真因は何か。
それ
と多いのではないでしょうか。
自治体や教育委員会にとって
ケートによると、
こういった交流がICTの利用促進に大きな
スマートフォンやパソコンを手にすると、
なかなか手放すこ
は、ICTスキルやリテラシーではなく、
そもそも教員が有す
も、
予算を有効に活用できていない状況は好ましいことで
影響を与えたことが分かります
(図表1)
。
使わない理由を
とはできません。
では、
ICTが授業の効率性を高め、教員の
る
「授業構想力」
であり、結果として教員経験年数と相関し
はありません。
「機器の準備が煩雑」
「操作が難しい」
など使
ICT機器に求めるのは容易ですし、
機器もまた改善し続ける
負担感を軽減することができれば、
教員は進んでICTを
ていることが分かりました
(図表3)。
われない理由を挙げればきりがありません。
ことが必要です。
しかしそれだけではなく、
効果を上げる使
授業のねらいに応じて適切な教材を選択できる力が道
本トライアルにおいても、
特に立ち上がり期には、
試しに
具としてのICTの力を引き出し、結果として児童への効果
一度使ったが継続して活用するには至らない、
という状況
教員へのアンケート調査の結果、
「ICTを継続して活用
を高める。
そして児童への効果を実感できれば、教員は多
が見られました。
しかし、
3年間継続して、
必ず活用に弾みが
したい」
という意向と
「ICTを活用して負担感が軽減され
少負担感が高まってもICTを活用し続ける。
これが今回判
た」
という実感との相関関係は全く無いということが分か
明した教育ICTを
「使い続けるしくみ」
です。
使った授業を実践するのでしょうか。
本トライアルを通じ
て明らかになった事実は、
この
「常識」
を覆すものでした。
りました
(図表1)。
つまりICTの持つ効率性の効用は教員
にとっては通用しないということです。
では何が教員の活用意欲を高めているのか。答えは
「児
童への効果実感」
にありました。
アンケート結果によると
相関
相関
継続意向と授業準備負担の相関
なし
0%
継続意向高
(N=10)
80%
10%
0%
10%
△8pt
継続意向中〜低
(N=8)
88%
■負担感中〜低(N=15)■負担感高(N=2) ■その他(N=1)
すが、ICTを活用した授業実践の経験を積むことや、教員
の教員や校長、
教育委員会、
学識経験者らが一堂に会して意
近隣地域など、
できるだけ新たな刺激を与えやすい環境下
間の相互研鑽を通じて高まるということも、本トライアル
見交換などを行う場です。
さまざまな地域から集まった教員
でワークショップ型の研修を行うことも一案です。
なお、
アン
の実践から明らかになっています
(図表4)。
が、
地域を越えICT利活用に関する悩みや優良事例の共有
ケートによると、
テレビ会議を使ったディスカッションや
を行い、
3年目には模擬授業づくりにも取り組みました。
さら
SNSを使った交流についても前向きな回答があり、
リアルな
に、
同席した学識経験者や先導的な先生方との意見交換を
コミュニケーションを補完する役割として期待されます。
相関
継続意向と効果実感の相関
あり
80%
0%
10% 10%
継続意向高
(N=10)
0%
0%
継続意向中〜低
(N=8)
△20pt
100%
20% 40% 60% 80% 100%
60%
40%
+22pt
38%
相関
0%
20%
効果実感高
(N=9)
効果実感低
(N=9)
40%
60%
80% 100%
67%
33%
+34pt
33%
あり 効果実感と教員経験年数の相関
67%
■授業構想力高 ■授業構想力低
0%
20%
効果実感高
(N=9)
効果実感低
(N=9)
40%
60%
89%
11%
+56pt
33%
逆相関 効果実感とICTスキルの相関
0%
80% 100%
効果実感高
(N=9)
効果実感低
(N=9)
67%
■教員経験長(N=11) ■教員経験短(N=7)
20%
40%
0
60%
44%
逆相関 継続意向とICTスキルの相関
80% 100%
0%
継続意向高
(N=10)
56%
△34pt
78%
継続意向中〜低
(N=8)
22%
■ICTスキル高(N=11) ■ICTスキル低(N=7)
20%
40%
60%
50%
50%
△25pt
75%
25%
授業のねらいや目標達成を
意識しながら
授業設計を行うことができる
47%
83%
※数字は
「非常にあてはまる」
と回答した教員の割合。
60%
80%
100%
2013年度上期 (N=18)
同下期
+36pt
40
60
80
0%
ねらいや目標に応じた
指導方法や適した
教材を活用することができる
同じくICTを活用している
他校の教員
(他の市町村
含む)
との交流
28%
61%
89%
ICT活用に詳しい
有識者との意見交換
28%
61%
89%
ICTを積極的に活用
しようという学校内の
他の教員の動き
28%
50%
78%
■ICTスキル高(N=11) ■ICTスキル低(N=7)
教員の授業構想力の変化
40%
20
(%)
100
80% 100%
図表4 教員の授業構想力はICT活用経験等によって向上する
20%
(N=18)
児童の反応や学習効果の実感以外でICT活用促進に影響を与えた要因
図表1〜3:出所)
教員アンケート
(2013年12月)
0%
他校の教員との交流や有識者との
意見交換が教員のICT活用を促進
■効果実感高
(N=9) ■効果実感中〜低(N=9)
■負担感中〜低(N=14)■負担感高(N=1) ■その他(N=3)
相関
効果実感と授業構想力の相関
図表1
63%
図表3 児童への学習効果に対する実感は授業構想力がもたらす
あり
は、
運営面で多くの課題が伴います。
多忙な教員の研修スケ
ジュールの確保や運営費用の手当てなど、
回数や規模につ
「フィールド連絡会」
です。
図表2 継続意向は効果実感で高まる
継続意向中〜低
(N=8)
13% 0%
一方で、
こういった取り組みを定常的に実施していくに
いて限定的な取り組みにならざるをえません。
まずは他校や
20% 40% 60% 80% 100%
継続意向高
(N=10)
先導者との交流も
「使い続ける」
ためには重要なのです。
本トライアルで実施した
「フィールド連絡会」
とは、
実践校
継続意向と授業実践負担の相関
なし
20% 40% 60% 80% 100%
つく
「使い続けるためのきっかけ」
がありました。
それが
い方の共有や同じ悩みを持つ仲間や悩みを理解してくれる
なお、授業構想力を一朝一夕に高めるのは難しいことで
図表1 ICT継続活用意向と教員の負担感は関係ない
96
教員がICTを使い続けるために必要な
研修等の仕組みは何か
20%
40%
60%
21%
2013年度上期
50%
+29pt 同下期
80%
100%
(N=18)
出所)
教員アンケート
(2013年5月、2013年12月)
校長先生による
指導や動機づけ 11%
44%
教育委員会による
6% 22%
研修・勉強会への参加
28%
ICT活用に対する
保護者の前向きな意見 0% 28%
55%
■大変影響を受けた
■やや影響を受けた
28%
情報共有の場
「フィールド連絡会」
模擬授業づくり
などに取り組ん
だワークショッ
プの様子
本トライアルでは、実践校の教員らが一堂に会する
「フィールド連絡会」
を年2回開催。
地域や立場が異な
る教員同士の情報交換、
教科アドバイザとなる学識経
験者やICTを先導的に活用する教員との意見交換、
さ
らには模擬授業づくりなども行われ、
教員間の仲間意
識の形成や意欲向上、
さらには実用的な知見を得る
場として、
教員のICT活用を後押ししました。
先導的にICTを実践してきた教員の講演など
も今後のICT活用の刺激に
写真左)
千葉県柏市立中原小学校
校長 西田光昭 氏
写真右)
北海道千歳市立勇舞中学校
教諭 大西智彦 氏
出所)教員アンケート
(2013年12月)
97
第4章・
・
・成果と課題
教員の
ICT活用
指導力向上
教員のICT活用を支えるために
必要な支援体制とは
教員の
ICT活用
指導力向上
教育ICTの普及・定着に向けては、
ICT支援員の存在は必
要不可欠です。
一方、
ICT支援員の確保は自治体にとって定
ことではなく、
支援の役割が変わってくるという実態が見え
てきました。
このことは、
支援の量にも影響します。
ICTに不慣れで教
常的な予算確保を伴うため、
効率的な配置計画を立てるこ
員が物理的な支援を求める段階では、
授業を実施する都度
とも求められます。
本トライアルの3年間を通じて、
ICT支援員の具体的支援
ICT支援員が関わることになり、
自ずと支援量は多くなりま
内容は、
教員の活用の進展とともに変化してきました。
活用
す。
一方、
授業構想の支援は放課後や始業前の時間が中心に
開始当初はICTを活用した授業を行う際の
「準備」
や
「実践」
なりますので、
支援量は少なくなります。
本トライアルに2年
の支援といったICTに不慣れな教員の物理的補助が中心的
以上関わった教員へのアンケートは、
本トライアル参画当初
役割になります。
しかし活用が進むと、
授業の
「ねらい」
を実
と比較して、
ICT支援員への支援依頼頻度が総じて減少した
現するために
「ICTがどう使えるか」
といった
「授業構想」
段
ことを示しています
(図表2)
。
階での支援場面が増えていきました
(図表1)
。
教員がICT活
このように、
使い続けることで教員自身による自立的な継
用に熟達すればICT支援員による支援は不要になるという
続を導ける可能性が示唆された一方で、
ICTのトラブルに関
図表1
してはいつどこで発生するか想定す
ICT支援員による支援の場面は授業構想へと変化
ることは難しく、
こういったトラブル
ICT支援員の支援を受ける場面
0%
20%
40%
60%
80%
100%
50%
ICTを活用した授業の
構想立案に際して
+10pt
ICTを活用した授業の
準備に際して
ICTを活用した授業の
終了に際して
50%
とノートでも実現できる。
このような意見もあるかも知れ
間で共有されることになりました。
これにより、3年目にな
ません。実際に本トライアルにおいても、
トライアル開始
ると、ICTありきではなく、教科の本質を捉えて、必要な場
当初は、従来の道具を使った教授法でも授業展開が可能
面で必要なICTを活用するというスタイルが定着してきま
なのに、
あえてICTを活用するような場面もありました。
した
(図表1)。
しかし、2年目に入ると、教科アドバイザをはじめとした
教育ICTの普及・定着に向けては、
こういったモデルを
学識経験者からのアドバイスや、実際に活用した際の児童
より体系的に整理し、実践事例とともに広く水平展開して
の反応を通じて、次第にそれぞれの機器が有する効用や、
いくことが必要です。特に、
これからICTの活用を始める
教科特性に応じた活用方法が明らかになってきました。教
教員にとっては、実践の大きな助けとなるはずです。
員からは、
「算数では、図形の単元ではタブレットを使った
なお、ICTの活用を考えることで、黒板やノートといっ
シミュレーションコンテンツが効果的であったが、計算が
たアナログの良さを再確認する場面も見られました。
アナ
中心の単元は思考過程を残すことができる黒板やノート
ログも含め、道具それぞれが得意な領域や役割を持って
を中心とした方が効果があった」
といった反応が聞かれる
おり、教科によっても異なります。
これをいかに正しく使う
ようになりました。
そして、
こういった経験則が「モデル」
と
ことができるか、教員の授業構想力が試されます。
図表1
ICT活用が適した教科別の利用シーンとその効果
アナログ
また、
学校現場がより自立的にICT
(N=10)
△10pt
■フィールドトライアル参画当初 ■現在
なり、各学校に脈々と引き継がれ、
また地域を越えて教員
デジタル
(ICTの活用)
動的な支援体制の確立が重要です。
△10pt
20%
10%
電子黒板やタブレットを使った実践事例の多くは黒板
し、
教員のICT活用状況に応じた機
△10pt
60%
ICTを活用した授業の
実施に際して
ICTの活用方法の体系的整理と水平展開が必要
必要不可欠な存在であることを認識
80%
70%
教科特性や授業の場面に応じた効果的なICT活用方法が明らかになりつつある
シューティングで教員の大切な時間
を奪ってはなりません。
ICT支援員は
60%
課題
課題
継続的に支援体制を確保することが重要。一方で推進役となる校長や教員の存在も必要
成果
成果
ICT支援員はICT活用推進に必要不可欠だが、教員の経験に伴って支援内容は深化し、支援
量は低減しうる
ICTを有効に活用するための
活用モデルはあるか
出所)教員アンケート
(2013年12月)
黒板とノート
電子黒板
1人1台
タブレット
・紙で途中経過を残すことが
重要な計算が中心の単元は、
アナログが中心
・シミュレーション機能や
アニメーション機能を通
じて、平面図形や立体図
形の概念理解が促進され
る
・手元でシミュレーション
しながら試行錯誤を繰り
返すことができるため、
新しい考え方や発想を広
げることができる
・実際に観察や実験ができる
単元や学習内容においては、
実体験を通じての理解促進
が効果的
・動画コンテンツの閲覧を
通じて現象のメカニズム
への理解が促進されるほ
か、
実験方法や内容を確認
することができる
・動画コンテンツを手元で
閲覧することで、手元で
観察している感覚が生ま
れ、
視覚的理解が促進さ
れる
・現地見学が可能な単元や学
習内容においては、
実体験を
通じての理解促進が効果的
・「つ なぐ 授 業」
を 通じて、
自ら相手と触れ合う機会
を持つことで、学 習への
関心範囲が拡大し、知識
も向上する
・インターネットや動画コ
ンテンツを基に、
各自調べ
学習を行うことで、
情報を
効果的に活用する力や考
える力が育成される
を活用していくためには、
積極的に
授業支援
システム
活用事例を創出し水平展開を行う推
進の核となる教員や校長による強い
ICT支援員による支援の回数は時間とともに減少していく
ICT支援員による支援回数の変化
ントになります。
フィールドトライアル参画当初
現在
週に2〜3回
以上が40%
その他
0%
その他
20%
毎日
1回以上
10%
向けては、
地元のNPOや大学との連
携など、
限られた予算で対応するた
めのエコシステムを確立していくこ
週に2〜3回程度
50%
週に2〜3回程度
30%
週に1回程度
30%
(N=10)
とも大切な取り組みの一つです。
社 会
月に2〜3回程度
10%
98
なお、
効率的な配置計画の策定に
理 科
月に
2〜3回程度
10%
週に
1回程度
毎日1回以上
10%
30%
週に2〜3回以上が80%
リーダーシップの発揮も重要なポイ
算 数
図表2
・全員の回答を一斉に表
示し、
比 較・類 型 化 する
ことで思考を広げられる
・発表を効果的に行うこと
ができる
・児童一人ひとりの理解度
に合わせた個別指導が可
能
出所)教員アンケート
(2013年12月)
99
第4章・
・
・成果と課題
教育ICTの普及・定着に向けて社会全体で解決すべきこと
これまでフィールドトライアルの実践を通じて明らかになった成果・課題についてご報告してきましたが、他にもさ
まざまな立場の関係者の声から分かってきたことがあります。いずれのテーマも、学校現場のみならず行政や民間
さらには家庭も含めた「教育を取り巻く関係者全員」が解決に向けて取り組むべきものです。教育ICT実践の現場
からの課題提起、あるいはある種の提言としてご紹介します。
ICTによる
学びの
価値向上
約7割の保護者がタブレットの自己負担を許容
タブレット購入における家庭の負担許容額
0%
10%
20%
(N=333)
30%
40%
50%
60%
70%
80%
負担可:72%
1.5%
0.9%
1.8%
15.3%
教育ICTの価値をいかに評価していくか
を伺う中で「税金を使うのだから、投資対効果を明らかに
数上昇といった数値的な評価だけで判断することは難し
しなくてはならない」
「ICTの導入による学力向上の効果
く、教育効果は長期的かつ総合的に評価すべきものであ
を明らかにすべき」
といった声を少なからずいただきまし
ることを考えると、諸外国の例にならい、効果の証明を待
た。
こういった声に応えていくためにも、教育ICTの効果
たずに先行投資を行っていくという判断も期待されます。
に対する正当な評価手法の確立が待たれます。
28.2%
13.5%
10.5%
24.0%
1.5%
2.7%
出所)
保護者アンケート
( 2013年12月)
ICT活用に必要な教員の指導力をいかに高めていくか
支える
仕組み
教育現場へのコンテンツ充実に必要な仕組みとは
コンテンツ流通を促進するエコシステムづくりが必要です
教育現場で求められるコンテンツは質・量ともにまだ不
表2)。例えば、先導的な教員が作ったコンテンツの共有や、
足しているのが現状ですが、
コンテンツの充実に向けて教
コンテンツ提供事業者が持続的に良いコンテンツを開発・
員が最も望む手段は
「教育事業者によるコンテンツ拡充」
提供し続けるためのエコシステムを作っていくことも解決
で、
これまでの実績に基づく高い信頼が伺えます。一方で、
策の一つです。
また
「EdTech」
と呼ばれる教育とテクノロ
教員の自作コンテンツの流通やスマートフォン向けアプリ
ジーを融合させ新しいイノベーションを起こそうとする動
などを提供する事業者の参入に期待する声もあります
(図
きを積極的に取り込むための環境形成も求められます。
教員の養成・採用・免許更新時におけるICT活用指導力の要件化も一案です
図表2 コンテンツの拡充に向けて求められる多様な手段
本トライアルを通じ、教員がICTを活用して児童の学習
員のICT活用指導力を高めていくためにも、大学などの教
効果を高めていく力は授業の構想力と相関が高く、ICTリ
員養成段階で早期からICT活用指導法を修得していくこ
テラシーとは相関がないということが示されました。
しか
とや、免許更新においてこれらを体系的・実践的に身につ
し、授業のねらいに合わせて適正にICTを選択していく力
けるための研修を充実させるといった方策が求められま
初中等向け以外の教育事業者(例:幼児教室やカルチャースクール)
によるコンテンツの開発・提供
を実践を通じて身につけるには一定の時間がかかります。
す。
あるいは、採用・更新時のICT活用指導力の要件化と
教育事業者以外の事業者
(例:ゲーム会社やスマートフォン向けアプリ提供会社)
によるコンテンツの開発・提供
教育ICTの本格的な普及・定着を視野に入れ、早期に教
いった大胆な策も考えられます。
デジタルコンテンツの質・量を向上させる効果的な方法とは
0%
(N=18)
20%
40%
60%
初中等向け教育事業者によるコンテンツ品質の向上や量の拡充
80%
100%
94%
56%
39%
自身によるコンテンツ作成
44%
56%
他の教員が自作したコンテンツの共有
出所)教員アンケート
(2013年12月)
教育ICTに必要な予算措置とは
ICTを“活用し続ける”ための予算措置が必要です
支える
仕組み
教育ICTを推進するために必要な体制とは
地域一体となった推進体制の構築が求められます
教育ICTを実践するためには、ICT機器のみならずトー
などの運用上の仕組みが、教育ICTを実践し続ける上で
タルでの環境整備が必要で、
自治体の費用負担は少なく
重要であることが改めて確認されました。教育ICTに取り
ありません。結果として運用費用まで手が回らず、せっか
組むにあたっては、導入費用のみならず運用費用まで視
教育ICTを推進していくには、学校内のみならず行政
く導入した機器も今ではほこりをかぶっているという話
野に入れ、
できるところから着手し、そして継続していくこ
(情報政策課など)や教育委員会、家庭、企業など多くの
地域内の理解浸透や周辺地域の機運向上に向けて、公開
も聞かれます。本トライアルを通じICT支援員や教員研修
とが大切です。
関係者が互いに理解し協力し合うことが不可欠です。そ
授業などを通じて教育ICTに関わる取り組み内容を発信
のためには垣根を越えた横断的な推進体制を整備してい
していくことも重要です。
支える
仕組み
国・自治体の予算によらない資金手当ての方策とは
家庭や個人・企業によるより広範な費用負担の仕組みづくりが求められます
体の多くが、
こういった推進体制を整備しています。また、
くことが求められ、実際に教育ICTに取り組んでいる自治
支える
仕組み
その他教育ICTの普及・定着に向けて対処すべきこととは
教育ICTを取り巻く諸制度の改革に取り組むことが求められます
児童生徒一人ひとりにタブレットを整備するためには
をドネーション
(寄付)
といった行動に移していくための
相応の予算が必要です。一方、家庭(児童生徒)の端末を
仕掛けや仕組みづくりも大切です。教育ICTの費用負担
教育ICTの普及・定着に向けては、
これを取り巻く制度
また、義務教育段階の長期療養中の児童生徒や遠隔地
学校に持ち込むBYOD(Bring Your Own Device)
とい
の問題を解決していくためには、
自治体のみならず、家庭
改革を推し進めていくことが不可欠です。例えばデジタ
に在住する児童生徒の遠隔教育を実現するためには、従
う考え方もあり、本トライアルに参画した保護者の約7割
や地域といった子どもたちを取り巻く関係者全員が考え
ル教科書・教材の普及に向けては、
これを教科用教科書
来からの対面指導に加え、遠隔教育も認めていくことが
が費用負担を許容しています
(図表1)。また、母校や地域
ていく必要があります。
と認めていくことが重要であり、そのためには学校教育
求められます。
の子どもたちの力になりたいと考える個人や企業の意識
100
100%
教育ICTの効果に対する正当な評価手法の確立が求められます
また、ICTが児童に及ぼす効果を短期的なテストの点
支える
仕組み
90%
負担不可・不明:28%
■費用負担の金額は問わない
■月額2,000円程度 ■月額1,500円程度 ■月額1,000円程度
■月額500円程度
■月額300円程度
■月額300円未満
■費用負担があるなら、利用したくない ■費用負担の有無に関わらず、利用したくない ■不明・無回答
本トライアルに関連して、さまざまな関係者にご意見
教員の
ICT活用
指導力向上
図表1
法や著作権法などの関係法規の改正が必要となります。
101
第4章・
・
・成果と課題
ラウンドテーブル アドバイザリメンバに聞く
ICTという道具を正しく使いこなす
フィールドトライアルの成果と課題
東京書籍株式会社
ICT事業本部
そして教育ICTのこれから
フィールドトライアルを推進していく上で欠くことのできない
存在が、白鷗大学教育学部長 教授の赤堀侃司氏を座長とした
有識者で構成されるラウンドテーブルです。
フィールドトライア
ルの取り組みに対してそれぞれご専門の立場から教育界内外を
取り巻く状況を踏まえたさまざまなご意見を頂きました。
これまで全5回のラウンドテーブルが開催され、2014年3月
28日に開催された
「第5回 ラウンドテーブル」
では、
3年に及ぶ取
り組みの成果と課題について活発な意見交換が行われました。
このラウンドテーブルのアドバイザリメンバであるベネッセコー
ポレーションベネッセ教育総合研究所理事長の新井健一氏、東
白鷗大学教育学部長 教授
京書籍ICT事業本部営業部長の川瀬徹氏、学研ホールディング
東京大学政策ビジョン研究センター
ス代表取締役社長の宮原博昭氏にそれぞれインタビューを行
い、本トライアルについてそれぞれのお立場から振り返っていた
慶應義塾大学総合政策学部
赤堀 侃司 氏
准教授
飯盛 義徳 氏
客員研究員 遠藤 典子 氏
株式会社CSKサービスウェア 取締役常務執行役員 田村 拓 氏
株式会社ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所
理事長
だくとともに、
教育ICTの普及・定着に向けた今後の課題などを
東京書籍株式会社 ICT事業本部
お聞きしました。
株式会社学研ホールディングス 代表取締役社長
新井 健一 氏
営業部長 川瀬 徹 氏
宮原 博昭 氏
川瀬
徹氏
1人1台のタブレットは子どもたちの自主性や積極性を
育みます。一人ひとりの考えが電子黒板に表示されるのだ
から、考えることを人任せにはできません。さらに自分と他
者の考えを交流させることは、自らの思考の可視化にもつ
ながります。
3年間で先生方の意識も変わりました。1年目は
「どう使う
か」でしたが、2年目は「どこで使うか」になり、3年目は「こう
いう授業がしたい。良いコンテンツはないか」と変わってき
ました。ICTという道具の効果だけでなく、こういった先生
方の意識の変化も、子どもたちの思考力の向上に良い効果
をもたらした要因だったと思います。
「つなぐ授業」はNTTグループらしい取り組みの一つでし
た。教育現場への情報発信機会を求めている企業等も多く
ありますので、今後こういった関係者を巻き込んでいくこと
で、
より持続性のある取り組みとなるでしょう。
この数年でタブレットや無線LANといったインフラやコ
ンテンツの整備に加え、本トライアルのタブレット持ち帰り
学習のような事例も出てきました。最近は佐賀県武雄市を
はじめとした
「反転学習」
が話題になっていますが、
こういっ
た議論ができる前提条件がようやくそろってきたというこ
とを実感しています。
教育ICT普及の伴はクラウドが握る
これから世界で活躍する子どもたちのために
株式会社ベネッセコーポレーション
株式会社学研ホールディングス
ベネッセ教育総合研究所
理事長
新井健一氏
学校と家庭の学びの連携など、
これから国が本格的に取り
組もうとしている課題を試してきたのが本トライアルでした。
その点で、
実証によるさまざまな効果が表れたことは、
今後の
可能性を示す貴重な材料になるはずです。
今回の取り組みによって得られた、
ICTにより教員の負担感
が軽減された、
ベテランの教員ほど上手に活用した、
といった
検証結果は、
教育ICTの取り組みのハードルがそれほど高くな
いということを示しました。
また、
ICTを適切に利活用すれば、
これまで実現できなかったことが実現でき、
これまで実現でき
たこともより簡単にできることが検証されました。
しかし、
こういっ
た効果は経験して初めて実感できるものです。
これからの子ど
もたちが生きる社会では、
ICTは必須の道具ですし、
PISAをは
じめとするCBT
(Computer Based Testing)
の導入は、
ICTを
利活用した問題解決が求められる時代であることを意味して
いますので、
まず実践し、
経験を積むという姿勢が大切です。
一方で、
教育ICTの普及に向けては、
費用対効果の課題に
取り組まなければなりません。
現在の事例はある程度コスト
をかけた実証実験モデルですので、
これからは、
コストを抑え
た普及モデルが求められます。
コスト削減となるとBYOD
(Bring
Your Own Device)
や格安端末など、
デバイスの問題に目が
向きがちですが、
伴になるのはどのようなサービスを提供す
102
ラウンドテーブル アドバイザリメンバ ※2014年3月31日現在 順不同
営業部長
代表取締役社長
るかという観点からの、
クラウドコンピューティングの活用だ
と思います。
多様なコンテンツ配信だけでなく、
学習履歴等の
データを収集・解析し、
これに基づき子どもたちの学習状況に
合った学びを実現する。
クラウドの活用はコストの抑制のみな
らず、
これまでにない効果を教育にもたらす可能性がありま
す。
すでに世界的にはこういった潮流が注目されており、
欧米
の学校では児童生徒の学習履歴や活動等を管理するシステ
ムの導入が進んでいて、
ビッグデータとしての活用が期待さ
れています。
日本の場合は、
自治体単位での管理になることや
個人情報の問題など、
実現に向けて越えるべき障壁は高いと
思われますが、
子どもたちを望ましい方向に導いていくために、
関係者が力を合わせて取り組むべき課題だろうと思います。
私たちが取り組んでいるデジタル教科書は今後も進化し
続けます。学習者用デジタル教科書には問題集や辞書、
ノー
トといった機能を盛り込み、単なる教科書ではない
「学習す
る場」をつくっていくことを目指しています。
しかし、私たち
が提供するものはあくまでも道具です。道具を使えば誰で
も面白い授業ができますが、子どもたちを分かったつもりに
させるだけでは、意味がありません。先生方が正しく道具を
使いこなすことが大切です。
NTTグループが本気で教育現場の課題に取り組んでき
たことが、今後につながる成果と提案につながりました。今
後もさまざまな企業を巻き込みながら、教育ICTのさらなる
発展に貢献していただくことに大いに期待しています。
宮原博昭氏
何度か現場に足を運び、
タブレットを活用して子どもたち
が楽しく学習する姿を実際に見聞きし、教育ICTがもたらす
効果を肌で感じてきました。実証を通じて、タブレットの持
ち帰り頻度と学習時間に相関関係が見られたといった、本
トライアルならではの興味深い結果も出ました。子どもたち
の意欲的な姿が、
データからも明らかになっています。
一方で、テストの点数や受験への効果を物差しとする関
係者から見ると、
物足りない取り組みに映るかもしれません。
だからといってICTは効果がないと判断することは避ける
べきです。ICTによって子どもたちが意欲的に学習に取り組
み、結果として受験にも効果を発揮するというのが理想で
あり、ICTにはそれを実現しうる可能性があります。今後、学
校と家庭のみならず地域の塾なども含めて学びを連携させ
ることができれば、
その可能性はさらに高まるものと確信し
ています。
残念ながら、
日本では地域や収入による教育格差が広がっ
ています。しかし、ICTにはこれらを解消できる可能性があ
ります。本トライアルでも
「つなぐ授業」によって地域環境の
ハンデを乗り越えられることを示しました。
また安価で良質
なコンテンツを活用すれば、所得がもたらす教育格差をも
解消できる可能性があります。
本格的なグローバル時代を迎え、私たちは、子どもたちを
世界で活躍できる人材へと育てていかなければなりません。
しかし日本の若者の多くは、欧米と異なり、社会に出て初め
て社会で必要な知恵や力を学んでいるというのが実情。こ
うした状況を変え、世界とともに成長する日本、世界で戦え
る日本の礎を築いていくために、教育ICTが果たす役割は
非常に大きいはずです。
なお、本トライアルはNTTグループがプラットフォームと
なり、
さまざまなコンテンツ提供会社が同じテーブルについ
て議論をするという、業界としても大変意義深い取り組みで
した。新たな教育の実現に向け、今後もこのような連携を大
切にしていきたいと考えています。
103
特別企画
教員座談会
教員に聞く
フィールド
トライアル
座談会
2
教室で実際にICTを活用した授業を実践してきた教員の皆さ
んは、教育ICTにどのような思いや期待を抱いているのでしょ
うか。
ここでは、2013年12月のフィールド連絡会に合わせて行
われた、教員による座談会の模様を編集してご紹介します。地
域は異なれど、年齢の近い教員同士だからこそ語れる本音も
見えてきました。
教員が 語るICT活用、
教壇からの本音
座談会
1
平均教員経験年数
先輩教員からのアドバイスが大きな刺激に
―フィールドトライアルの感想を聞かせてください。
―今後のICT活用については、
どうお考えですか。
田口:
「こういう授業をやりたい」
という考えに対し、昨年
木内:子どもたちは社会に出ればICTスキルが必須。
でも
までトライアルを経験していた先生からアドバイスをい
使い方の習得に時間はかけたくない。
宿題でタブレットな
ただき、
大変勉強になりました。
どを活用し、学校で発表させるなど、
自然と使い方を身に
田畑:授業を組み立てていく上で、
どこまでをデジタルに
つけさせるような方法も考えられます。
すべきか迷っていたとき、先輩となる先生から
「デジタル
小鷹:タブレットの存在が当たり前になり子どもの好奇
でもアナログでも授業ができる準備をすべき」
と言われ
心が減っても学習意欲を高められるか。今後の課題です。
たのが、新鮮な発見でした。
田口:複雑なシステムでは、
ノウハウを持った先生が異動
木内:背景が異なる他県の先生方との交流はとても貴重
したら、使われなくなる可能性がある。誰でも簡単に使え
な経験でした。
またICTをツールの一つとして使うという
るシステムが、
今後の継続のためには重要です。
平均教員経験年数
考えも分かりました。
フィールドトラ
19年
イアルの経験は、
これからの教員人
子どもたちに芽生えてきた考える力、
伝える力
3年
生にきっと役に立つと思います。
―フィールドトライアルの感想を聞かせてください。
野呂田:ICTを使うことで多様な授業スタイルを生み出
小鷹:台風で停電して電子黒板など
野呂田:ICT支援員のサポートもあり、振り返るとパソコ
せる可能性を感じました。パターン化しがちな授業展開
が使えなくなったとき、自分がICT
ンが苦手な私でも十分にICTを活用した授業を行うこと
に新鮮味が出せたと思います。
を頼りにしていることにあらためて
ができたと思っています。
―思考力や表現力向上などの効果は感じましたか。
気づきましたね。
吉谷:ICT支援員の助けは大きかったですね。3年目には
後藤:コミュニケーションツールとしてのタブレットの役
私たちのスキルもついて、効果的な授業ができるように
割は大きく、思考力や表現力、質問する力や質問に答え
なったと思っています。
る力が芽生えているように思います。
嵯峨:ICTをより効果的に活用しようと考え行動していく
加藤:子どもが自分の考えを友達などに伝える場面では、
ことで、教員としての資質も上がっていくような実感を得
ICTが大いに役立つ可能性を感じています。
―フィールドトライアルの感想を聞かせてください。
ても困らない。
でも、あればもっといろいろなことを子ど
ました。
安藤:朝のスピーチ活動ではタブレットなどを使って子ど
山内:慣れない経験でしたが、
まず始めることに意味があ
もたちに教えられるということに、実践を通じて気づき
―児童の様子に変化を感じられたことはありますか。
もたちが身近な出来事をプレゼンテーションするのです
ると思い、ICT支援員と一緒に取り組みました。今では
ました。
加藤:子どもたちの集中力が高まり、気が散らなくなった
が、
この経験を通じて、相手にうまく伝えるためには、自
ICTを使った授業も自然体でできるようになりました。
―「つなぐ授業」
の取り組みはいかがでしたか。
と思います。授業の流れを作りやすくなりました。
分の言葉だけでなく補助するものがあると便利というこ
相澤:八峰町はICTに熱心で、2013年から全ての学校・
重久:リアルタイムの
「つなぐ授業」
に感動しました。与論
吉谷:理科の授業では子どもたちが動画を見ながら真剣
とに気づいたようです。社会や国語、算数の時間でもより
教室に電子黒板が導入されることになり、学校全体の意
は小さな島なので、外部の人と触れ合う機会の少ない子
にメモを取っており、その部分のテストではほぼ全員が
適切な図を提示しながら説明するなど、表現の広がりが
識も高まっています。授業支援システムについては、今後
どもたちにとって貴重な経験になったと思います。
満点だったことが印象に残っています。
出てきました。
も使っていきたいツールだと感じています。
相澤:与論町との交流授業では、
片方は半袖なのに、
もう
後藤:平面に置くノートと違って、タブレットは斜めに構
嵯峨:タブレットは書ける文字数に限りがあるので、子ど
重久:デジタル機器を使う経験がほとんどなく、
うまく使
一方では雪が降っている。
日本の風土の違いを実感でき
えます。視線の向きが上を向きやすいので、子どもたちと
もは言葉を選んで端的に書きこもうと考える。発表の際
いこなせるか心配だったのですが、
いざ使い始めると、
ほ
て、子どもにとっては新鮮な体験になったと思います。
のやりとりが活発になり、自然と会話が生まれるような
には、
そこから話を広げようと工夫します。言葉の感性が
しい画像がすぐに取り出せる、児童の考えを一覧にして
宮下:
「つなぐ授業」
は、子どもたちにとって新たな世界を
変化を実感しました。
鍛えられ
「話す力」
がついたと感じますね。
提示することで個々の児童の考えが分かるなど、今まで
知る機会になったと思います。
座談会
3
木内健太教諭
(粒江小学校)
小鷹彩奈教諭
(那間小学校)
田口祥教諭
(南百合丘小学校)
ICTがなくても困らない? でも、
あればもっといろいろなことが教えられる
田畑貴充教諭
(茶花小学校)
平均教員経験年数
27年
やりたくてもできなかったことがで
きました。
スキルに自信のない自分
でも利用可能なツールの一つだと
いうことを実感しました。
宮下:そもそもの授業力が不十分だ
安藤正教諭
(粒江小学校)
104
加藤僚教諭
(関川小学校)
後藤道洋教諭
(与論小学校)
嵯峨博教諭
(水沢小学校)
野呂田光年教諭
(八森小学校)
吉谷良子教諭
(南百合丘小学校)
と、
「 ICTを使うこと」に追われてし
まうおそれがあります。ICTはなく
相澤朋彦教諭
(塙川小学校)
重久由美子教諭
(与論小学校)
宮下絹恵教諭
(関川小学校)
山内賢也教諭
(水沢小学校)
105
ご挨拶
I C T が 支 え る
教 育 の 未 来
日本電信電話株式会社 代表取締役社長
鵜浦 博夫
NTTグループは、教育におけるICT活用の可能性
や、教科アドバイザの皆さま、
さらに教材会社をはじ
のもあります。
これらの中には私どもだけでは解決
来のために、教育ICTの実践を継続していくことに
を追求するための取り組みとして、2011年度第1四
めとするパートナー企業の皆さまにも心よりの御礼
できないことも含まれており、ICT分野に関わる関
なったことをご紹介させていただきます。NTTグ
半期から2013年度まで“教育スクウェア×ICT”
を申し上げます。本フィールドトライアルはNTTグ
係者はもちろん、国・自治体を含む教育に関わる関
ループとしても、
こうした実践を出来る限りサポート
フィールドトライアルを実践してまいりました。
ループだけでは決して成し得なかった取り組みであ
係者全員で考えていくことが肝要と考えています。
するとともに、今後も教育ICTに関する成果や課題
り、関係者の皆さまとともに創り上げたものでした。
子どもたち一人ひとりの個性を伸ばし、個に応じ
を広く発信し続けていく所存です。
情報通信市場は、クラウドコンピューティングを
た学びを提供するために、ICTが教育に貢献できる
「“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルレ
はじめとする技術革新により大きな変革期を迎えて
余地はもっとあるのではないかという思いから本
ポート
『教育ICTの現場から』」
は、
これまでの実践か
います。従来のように、提供者が自らのサービスを一
フィールドトライアルはスタートしました。事業とい
ら得られた知見をとりまとめたものです。
とりまとめ
方的に提供する時代から、ユーザ自身がどのような
う観点からすると非常にハードルが高い領域です
に際しては、
トライアルにご参加いただいたさまざ
サービスを組み合わせて使うかを選択する時代に
が、教育の本丸は公教育、特に初中等教育が重要と
まなお立場の方々の多面的なご意見を反映するこ
なりました。私たちNTTグループもこれまでの
「プロ
考え、国の施策とも連携しつつ、公立の小中学校を
とに留意しました。また成果だけでなく課題につい
バイダー」
という立場から、
お客さまに選ばれ続ける
対象とした取り組みといたしました。
ても明らかにすることを目指しました。
本冊子が、ICTが支える教育の未来の実現に向
け、少しでもお役に立てば幸いです。
「バリューパートナー」
として、さまざまな分野で活
躍する皆さまを下支えするということに使命を変え
106
3年間の実践を通じ非常に多くの知見を得ること
3年間の取り組みを通じて、教育現場でICTを活
ていかなければなりません。学校や家庭における子
ができました。
これもひとえにトライアルを実践され
用することによる子どもや先生に対するいくつもの
どもたちの学びを下支えし、教育現場の皆さまから
た教員の皆さまやこれをリードした学校長、惜しみ
効果が明らかになりました。
この中には当初想定し
も信頼され選択していただけるように、成長と変革
ない支援をくださった教育委員会をはじめとする自
ていなかったものも含まれており、教育ICTの可能
を遂げていきたいと考えています。
治体の皆さまのご尽力のたまものであり、厚く御礼
性を示すエビデンスとして、広く社会に共有すべき
を申し上げます。同時に、白鷗大学教育学部長の赤
成果と考えています。一方で課題については、解決の
最後になりますが、本トライアルを経験した多く
堀先生をはじめとするラウンドテーブルの皆さま
糸口が見えたものもあれば、未解決なまま残ったも
の学校が、教育の未来、子どもたちの未来、地域の未
107
お わ り に
NTTグループが3年に及び取り組んできた“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルは2014年3月31日
動画再生の方法
動画で見る
「フィールドトライアル」
をもって一つの区切りを付けることとなりました。
プロジェクトとしての区切りを付けるにあたり、本トライアルにご参画、ご協力いただいた各学校、自治体
関係者の皆さま、教科アドバイザの先生方、パートナー企業の皆さま、そしてラウンドテーブルの皆さまに
本誌に掲載されているQRコードをスマートフォンやタブレットのQRコードリーダー*で読み
取れば、授業実践の模様を動画でご覧いただけます。パソコンでご覧いただく場合は“教育スク
ウェア×ICT”公式ホームページ
(www.ntt-edu.com)
にアクセスしてください。
深く御礼申し上げます。
*スマートフォンやタブレットで動画を再生するためには、QRコード読み取り専用のアプリが必要です。お手持ちの端末にインス
トールされていない場合は、Androidは「Google Play」から、iPhone/iPadは「App Store」からインストールしてください。
なお、操作方法については各アプリ提供元にご確認ください。
取り組みで得た知見やノウハウはもとより、人や地域とのつながりを力に、教育ICTのさらなる普及と定着に
[スマートフォン・タブレットでの再生方法]
取り組んでまいります。
1
Android、iOSに対応(一部OSのバージョンを除く)
2
3
NTTグループ一同
“教育スクウェア×ICT”フィールドトライアルにご参画、
ご協力いただいた皆さま
教育委員会
秋田県山本郡八峰町教育委員会、
新潟県岩船郡関川村教育委員会、
神奈川県川崎市教育委員会、
岡山県倉敷市教育委員会、鹿児島県大島郡与論町教育委員会
ウェブブラウザが起動し、
動画のあるサイトが表示されます
※Android端末では、
ブラウザ選択画面などが
表示される場合があります
[QRコードで読み込んだ動画を拡大表示するには?]
①
②
プレーヤー右下の
フルスクリーン
ボタンを押す
◆
小学校・中学校
秋田県山本郡八峰町立八森小学校、
秋田県山本郡八峰町立塙川小学校、
秋田県山本郡八峰町立水沢小学校、
秋田県山本郡八峰町立八森中学校、
秋田県山本郡八峰町立峰浜中学校、
新潟県岩船郡関川村立関川小学校、
神奈川県川崎市立南百合丘小学校、
岡山県倉敷市立粒江小学校、
岡山県倉敷市立玉島北中学校、
鹿児島県大島郡与論町立茶花小学校、
鹿児島県大島郡与論町立那間小学校、鹿児島県大島郡与論町立与論小学校
◆
教科アドバイザ
東京学芸大学教授・川﨑誠司氏、筑波大学附属小学校教諭・田中博史氏、東京外国語大学大学院教授・投野由紀夫氏、
ページ内の画像の
をタップすると、
「 マーク」
動画が再生されます
△
本誌のQRコードを
読み取ってURLをタップ
端末を横にして表示、
または画面を
指で広げて拡大(ピンチアウト)
例
③
ChromeやSafari等
別のブラウザで動画を
再生、またはQRコー
ドリーダーを変更し
て再 度 アクセスし 、
①②を試す
ブラウザ選択
画面の一例
いずれの方法でも拡大表示できない場合は、恐れいりますが、
パソコンで公式ホームページにアクセスのうえご覧ください。
※上記はあくまでも一例です。動画の再生に関しては機種やOSバージョンに依存することがありますので、
予めご了承ください。
※動画は、
ストリーミング配信になります。
※Android端末での動画視聴は、端末側に搭載されているブラウザなどに依存しますので、上記以外に操作が必要な場合
があります。
※iOS向けはHTTP Live Streaming配信。iPhoneは端末ネイティブプレイヤーでの再生、iPadはHTML5プレイヤーで
の再生になります。
動画の提供は予告なく終了する場合がございます。
予めご了承ください。
鳴門教育大学大学院准教授・藤村裕一氏
◆
パートナー企業
株式会社アルク、株式会社EnglishCentral、
株式会社NHKエデュケーショナル、開隆堂出版株式会社、株式会社学研ホールディングス、
学校図書株式会社、株式会社三省堂、株式会社新興出版社啓林館、
セレゴ・ジャパン株式会社、東京書籍株式会社、株式会社東芝、
日本電気株式会社、
日本文教出版株式会社、株式会社文溪堂、株式会社ベネッセコーポレーション
◆
外国政府機関
オーストラリア大使館、
ビクトリア州政府駐日事務所
お知らせ
教育スクウェア×ICT 公式ホームページでは
教育関係者の皆さまのお悩みや疑問にお応えする
教育ICTの最新情報を配信しています
教員の皆さまへ
自治体・教育委員会の皆さまへ
◆
ラウンドテーブル アドバイザリメンバ
白鷗大学教育学部長 教授・赤堀侃司氏、慶應義塾大学総合政策学部教授・飯盛義徳氏、
教育ICTの環境を整備する
ために必要なことは?
他の教員の
実践事例を知りたい!
東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員・遠藤典子氏、株式会社CSKサービスウェア常勤監査役・田村拓氏、
株式会社ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所理事長・新井健一氏、東京書籍株式会社ICT事業本部営業部長・川瀬徹氏、
株式会社学研ホールディングス代表取締役社長・宮原博昭氏
ICTを有効に
活用する具体的な
方法が知りたい!
教育ICTの導入・運用に関する
情報を提供しています
無料で使える
デジタル教材って
どこで手に入るの?
ICTを使った授業実践に関する
情報を発信しています
QRコードからも
アクセス可能です
教育スクウェア×ICT
公式ホームページ
URL: http://www.ntt-edu.com
公式Facebook:http://www.facebook.com/nttedu
教育ICTの普及と定着を信じてともにフィールドトライアルに取り組んだ皆さまと
108
109
2014年5月発行
お問い合わせ先
日本電信電話株式会社 新ビジネス推進室
“教育スクウェア×ICT”公式ホームページ:www.ntt-edu.com
公式Facebookページ:www.facebook.com/nttedu
メールアドレス:[email protected]
本冊子の一部あるいは全体の無断転載、複製を禁じます。