ケニアにおけるスーダン難民の状況、支援活動 現地調査

ケニアにおけるスーダン難民の状況、支援活動
現地調査報告
平成17(2005)年11月
(財)アジア福祉教育財団
1
難民事業本部
(目次)
頁
(調査概要)
Ⅰ.目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅱ.調査団員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅲ.調査方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅳ.日程、訪問先及び面談者名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(調査結果の要約)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(調査結果)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅰ.スーダン難民の発生の背景及び状況等・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.発生の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.ケニアにおけるスーダン難民・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.カクマ難民キャンプにおけるスーダン難民の状況・・・・・・・・・・・・
Ⅱ.各機関の支援活動等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.国連専門機関等の支援活動内容及びカクマ難民キャンプ内における活動現場の状況
(1)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)世界食糧計画(WFP)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)国際移住機関(IOM)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.NGO 等の支援活動内容及びカクマ難民キャンプ内における活動現場の状況等・・・
(1)ドイツ技術協力公社(GTZ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)International Rescue Committee (IRC)・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)Handicap International(HI)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(4)Lutheran World Federation(LWF)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(5)Don Bosco 職業訓練センター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅲ.日本の関係団体によるスーダン難民への支援(スーダン南部地域での活動)
・・・
1.国際協力機構(JICA)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.ワールドビション・ジャパン(WVJ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅳ.スーダン難民のインタビュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅴ.ニーズ及び今後の支援等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.スーダン南部地域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.スーダン難民への今後の支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
(資料)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.Map of Horn of Africa UNHCR・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.UNHCR Offices and Refugee Locations-In Sudan and the surrounding countries・・
3.Return and Reintegration of Refugees-Border Crossings, Way Stations, Possible
Returnee Routes Greater Equatoria・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.Kakuma Refugee Camp Overview・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.UNHCR Age Breakdown・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6.UNHCR Ethnic Composition・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.UNHCR Family Size Composition・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8.UNHCR Summary of Intended Place of Return by Province・・・・・・・・・・・・
9.UNHCR Willingness for Voluntary Repartriation・・・・・・・・・・・・・・・・
10.WFP Critical Resource Needs・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11.Don Bosco Vocational Training Centre・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(略語一覧表)
ADRA: Adventist Development & Relief Agency
CBRP: Community Based Reintegration Projects
CRS: Catholic Relief Service
CSB: Corn Soya Blend
ECHO: European Community Humanitarian Office
FAO: Food and Agriculture Organization
GBV: Gender Based Violence
GTZ:ドイツ技術協力公社
HAC: Humanitarian Aid Commission
HI:Handicap International
ICRC: International Committee of the Red Cross
IDP: Internally Displaced Persons
IFRC: International Federation of Red Cross
IOM: International Organization for Migration
IP: Implementing Partners
IRC: International Rescue Committee
JICA:Japan International Cooperation Agency
LRA: Lord s Resistance Army
LMA: Land Mine Action
LWF: Lutheran World Federation
LWF/DWS:Lutheran World Federation Department for World Service
MAG: Mines Advisory Group
NGO: Non-governmental Organization
OLS:Operation Lifeline Sudan
PHCC: Primary Health Care Center
SGBV: Sexual and Gender Based Violence
SPLA/M: Sudan Peoples
Liberation Army/Movement
UNAIDS: Joint United Nations Programme on HIV/AIDS
UNMAS: United Nations Main Action Service
UNMIS: United Nations Mission in Sudan
UNDP: United Nations Development Program
UNHCR: United Nations High Commissioner for Refugees
UNICEF: United Nations Children's Fund
UNOCHA: United Nations Office of the Coordination of Humanitarian Affairs
UNOPS: United Nations Office for Project Services
USCRI: U. S. Committee for Refugees and Immigrants
WFP: World Food Program
WHO: World Health Organization
WVJ:World Vision Japan
4
(調査概要)
Ⅰ.目的
難民事業本部が 2005 年 3 月末に実施した「スーダン南部地域の国内避難民の状況及び支
援状況、難民等の帰還予定地の現地調査」の結果、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は
帰還民の自発的帰還を促進するため受入地域が帰還民にとり魅力的な状況になるよう鋭意
努力をしており、一方、複数の我が国 NGO が、ケニアからスーダンへ帰還を希望するスー
ダン難民への支援活動やスーダン南部への帰還後の帰還民支援活動に対し関心を示してい
ることが判明した。
また、ケニア国内には、帰還を希望するスーダン難民が多数滞在しており、当面の間ス
ーダン南部地域における人道支援活動の拠点はケニア国内となることなり、またケニアは
スーダン南部地域へのアクセスについて大きな利点があり、今後のスーダン南部地域の復
興支援にかかる国際機関及び NGO の人道支援の活動の拠点として重要であることが確認さ
れた。
よって、当事業本部としては、今次調査の目的として、①ケニアの政府機関、UNHCR 等の
国際機関及び NGO 等の活動状況、②難民キャンプにおける帰還希望者の状況、③自発的帰
還促進に繋がる支援活動の可能性、等を把握すると共に、④これらの地域の状況に関する
情報を我が国 NGO 等へ提供することにより、⑤我が国 NGO による周辺国からの帰還支援、
スーダン南部地域における活動の可能性等を検討する際の参考とする、こととした。
Ⅱ.調査団員
1.日本 UNHCR 協会
常務理事・事務局長
榎川 勝也
2.ジャパン・プラットフォーム
事務局長
高松 幸司
3.BHN テレコム支援協議会
参与
堤本 正己
4.日本紛争予防センター
事務局副査
寺垣
5.日本国際ボランティアセンター
スーダン事業担当
岩間 邦夫
6.難民を助ける会
プログラム・コーディネーター
高崎
7.アジア福祉教育財団 難民事業本部企画調整課
ゆりや
紀子
小村 真名子
(以上7名)
Ⅲ.調査方法
1.現地調査
2.現地における関係者からの情報・意見聴取、インタビュー及び資料収集等
3.関係個人(難民)にインタビュー
4.調査員間での意見交換
5.関係者からの情報・意見聴取
6.ホームページ等からの情報収集
5
Ⅳ.日程、宿舎、訪問先及び面談者
2005年9月
03日(土)10:15
成田発(KL862)
15:15
アムステルダム着
20:40
アムステルダム発(KL4341)
機内泊
04日(日)06:00
ナイロビ着
①World Vision Japan/Kenya
面談者:三好
②独立行政法人
面談者:半田
正規(ワールド・ビジョン)
国際協力機構(JICA)東南部アフリカ地域支援事務所
祐二朗(企画調査員、保健医療(広域)担当)
ナイロビ泊
05日(月)
(ナイロビ)
①UNHCR ケニア事務所
面談者:Mr. Eddie Gedalof, Deputy Representative
Mr. Serge Ruso, Senior Programme Officer
Ms. Monique Vane Es, Associate Programme Officer
②WFP ケニア事務所
面談者:Ms. Marian Read, Deputy Country Director, WFP Kenya
Ms. Denise Brown, Programme Advisor
Ms. Eri Kudo, Head, Southern Sudan Liaison Office
③IOM ケニア事務所
面談者:Mr. Devin P. McCLAIN, Regional Representative
for East and Central Africa
④International Rescue Committee(IRC)
面談者:Ms. Jenny Fletcher, Country Coordinator
⑤Lutheran World Federation (LWF)
面談者:Mr. Bobby Waddell LWF Representative, Kenya/Sudan Programme
面談者:Ms. Levendah Okuwoyo, Narional Project Coordinator
⑥Deutsche Gesellschaft fur Technische Zusammenarbeit(GTZ)
面談者:Mr. Michael Zanardi, Deputy Program Manager
Ms. Andrea Neuhaus, Programme Assistant, PMO Kenya
⑦日本大使館
面談者:相馬安行、一等書記官
⑧ケニア政府 難民担当
面談者:Mr. CK Ruirie Njeru, Senior Deputy Secretary
ナイロビ泊
06日(火)09:00ナイロビ発(航空機)
10:30ロキチョキオ着
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ロキチョキオ→カクマ(車両で約1時間30分)
①UNHCR カクマ現地事務所
面談者:Mr. Cosmas Chanda, Head of Sub-Office
カクマ泊
07日(水)①地域行政官との面談
Mr. Odehambo, District Officer
(カクマ難民キャンプ)
①IRC HIV/AIDS Counseling Center (Voluntary Counseling Test Center)
面談者:Dr. Franz
②IRC Hospital
面談者:Dr. Franz
③Don Bosco Vocational Training Center
面談者:Fr. Sebastian, Coordinator
④LWF Office
面 談 者 : Mr. Tulasi Sharma, Team Leader, Department for World
Service/Kenya Sudan Programme, Kakuma Refugee Assistance
Project
⑤GTZ Office
⑥Handicap International
面談者:Mr. Jerome Kasuna
⑦Angelina Jolie School
⑧New Arrivals Site
⑨Women Group
⑩Youth Sport Club
カクマ泊
08日(木)①GTZ
②Pre School
③Youth Group
④UNHCR カクマ事務所(Debriefing)
面談者:Mr. Cosmas Chanda, Head of Sub-Office
Ms. Fortunate E Ngonyani, Community Services Officer
カクマ泊
09日(金)08:30
10:00
カクマ発(航空機)
ナイロビ着
①UNHCR ケニア事務所(Debriefing)
面談者:Mr. Eddie Gedalof, Deputy Representative
Mr. Janes Keranja, Community Service Unit
Ms. Monique Vane Es, Associate Programme Officer
②JICA 東南部アフリカ地域支援事務所
面談者:原
晃、企画調査員(平和構築支援担当)
7
南部良一、所員
ナイロビ泊
22:10
ナイロビ発(KL566)
機内泊
10日(土)05:35
14:15
アムステルダム着
アムステルダム発(KL861)
機内泊
11日(日)08:35
成田着
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(調査結果の要約)
Ⅰ.スーダン難民発生の背景及び状況
スーダンでは、1965 年にスーダン共和国として独立した際に、政治権力を同国北部のア
ラブ系イスラム教徒が握ったため、これを不満とした南部のアフリカ系キリスト教徒との
間で対立が発生した。1983 年になると南部のキリスト教徒がスーダン人民解放運動・軍
(SPLM/A)を結成してスーダン政府軍との内戦が激しくなり、争いは近年まで 21 年間続い
た。
ケニアにおけるスーダン難民は、1992 年に 22,000 人が初めて報告され、2004 年末には
約 68,000 人となり、これら難民の多くは主にカクマにある難民キャンプに滞在している。
なお、スーダン周辺 7 ヵ国におけるスーダン南部出身の難民の総数は約 52 万人で、チャ
ドに流入しているスーダン西部のダルフールからの難民は約 20 万人である。
Ⅱ.カクマ難民キャンプに滞在するスーダン難民
カクマ難民キャンプはケニアの首都ナイロビから北西 900 ㎞の距離にあり、1992 年に設
立された。
同キャンプに滞在しているスーダン難民は 2004 年末時点で約 65,000 人であり、同キャ
ンプ滞在の難民総数の 75%に当たる。
同キャンプに滞在するスーダン難民は単身若年男性が多く、また民族構成は 65%がディ
ンカ族である。これら難民の多くは、スーダン南部地域のアッパーナイル州出身者で、エ
クアトリア及びバハルエルジャバル両州出身者もおり、将来のスーダン南部地域の帰還民
受け入れは広範囲な地域に及ぶこととなる。また、難民の 80%がスーダンへの帰還を希望
しており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援による自主帰還は本年 10 月より開
始する予定で、当初の数ヵ月で 5,000 人程度を予定しており、全体の帰還完了は 4 年間を
要すると予想されている。
Ⅲ.カクマ難民キャンプにおける支援活動
UNHCR はキャンプの管理運営を担当しており、10 の NGO と IP(業務実施)契約を締結し
て各種のサービスを提供している。キャンプ内には病院 1 ヵ所、診療所 5 ヵ所、初等教育
の学校 26 ヵ所、中等教育の学校 5 ヵ所があり、大学のキャンパス登録者がいる。
世界食糧計画(WFP)が食糧を提供しているが、本年度後半は WFP の資金不足により、配
布食糧が減ることが懸念されている。
今回の調査では、難民キャンプ内の、International Rescue Committee(IRC)の病院・
HIV/AIDS 診療所、Lutheran World Federation (LWF)の教育関連施設・コミュニティー活動、
Don Bosco の職業訓練センター、ドイツ技術公社等(GTZ)の植林・家庭菜園栽培指導・省
エネコンロの作成活動等の現場を訪問したが、それぞれの団体は UNHCR との IP 契約による
サービス提供のほかにも、独自の予算で充実した内容のサービスを提供していた。また、
これらのサービスは地元のケニア住民へも提供されている。
Ⅳ.日本の関係団体によるスーダン難民への支援(スーダン南部地域での活動)
スーダン南部地域の活動の後方支援の拠点は現在ケニアのナイロビのため、ナイロビに
てスーダン南部地域の支援活動について情報を聴取した。
1.国際協力機構(JICA)
9
JICA はケニアのナイロビに地域支援事務所があるが、スーダン国内にはない。スーダン
政府へ ODA アドバイザーを派遣したり、国連ミッションへ職員を派遣したりしている。
今後は平和定着のために早期の効果が期待できる緊急救援と開発促進のキャパシティー
ビルディングを計画している。
2.ワールドビション・ジャパン(WVJ)
WVJ はケニアのナイロビに職員1名を配置しており、スーダン国内においては、国内 NGO
であるワールドビジョン・スーダンと協力して支援活動を実施している。スーダン南部地
域にはルンベック、ヤンビオ等 11 ヵ所に事務所がある。スーダン南部地域においては、WFP
との協力で食糧及び栄養補助食品の配布を実施し、UNHCR との協力で避難民の再統合・生
計支援事業等を開始したところである。
10
(調査結果)
Ⅰ.スーダン難民の発生の背景及び状況等
1.発生の背景
(1)スーダンの内戦と和平合意
1956 年スーダン共和国の独立に際し、北部のアラブ系イスラム教徒が政治権力を握った
ため、これを不満とした南部のアフリカ系キリスト教徒との対立が次第に拡大した。スー
ダン南部地域においては、1983 南部アフリカ系キリスト教徒によるスーダン人民解放軍・
軍(SPLM/A)が結成され、スーダン政府軍との間で内戦が始まり、戦闘は 21 年間に及ん
だ。
2002 年 10 月の包括的敵対行為停止合意に始まった和平交渉は、本年(2005 年)1 月 9
日にはスーダン政府と SPLM/A との間で最終和平合意が署名されるに至った。4 月 11 日、
及び 12 日にノルウェーのオスロにおいてスーダン復興支援会議が開催され、今後 3 年間で
支援各国から合計 45 億ドルが復興のために拠出されることが決まった。
(2)周辺国のスーダン難民数
1996 年末におけるスーダン周辺 7 ヵ国(ウガンダ、コンゴ民主共和国、エチオピア、ケ
ニア、中央アフリカ、エジプト、エリトリア)のスーダン難民数は約 43 万人と推定されて
おり、その後、1997 年末及び 1998 年末には約 35 万人に減少したが、1999 年末以降には
再び 40 万人を超えた。2003 年にはダルフール地域からの難民がチャドに流入したため、
2003 年末の周辺国の難民数は 60 万人に達した。
(USCRI の資料による)
2005 年 5 月現在の周辺国のスーダン南部地域出身のスーダン難民数は以下の通りである。
(チャド共和国を除く。UNHCR の資料による)。
庇護国
難民数
中央アフリカ
36,000
コンゴ民主共和国
69,473
エジプト
30,324
エリトリア
714
エチオピア
90,533
ケニア
*64,753
ウガンダ
223,500
合計
515,544
*2005 年 8 月現在
11
(3)周辺国からのスーダン難民の帰還
スーダン政府と SPLM/A との間で包括的和平合意が署名されたことにより、周辺国に滞
在するスーダン難民の中には自力により帰還する者や、同南部地域の状況を下見に来たり
する者が出ている。UNHCR は、今後周辺国から 55 万人のスーダン難民が、また、400 万
人のスーダン国内の避難民が同国南部地域に帰還すると推定している。
UNHCR の支援による自主帰還は 2005 年 10 月に開始される予定であり、コンゴ民主共
和国、及び中央アフリカからの帰還が早急に進むと予想している。
2.ケニアにおけるスーダン難民
(1)ケニアは長年難民を受け入れており、1992 年のピーク時の難民数の合計は約 42 万
人であり、29 万人のソマリア難民、約 7 万人のエチオピア難民及びスーダン難民であった
が、その後一部が帰還し、難民の数は減少している。しかしこれらの国の紛争は継続して
おり、ケニアに戻って来る難民も多数いる。1994 年からの 2003 年の間は常に 20∼25 万人
程度の難民を受け入れており、2003 年末の難民数は、ソマリア難民 15 万人、スーダン難
民 65,000 人、エチオピア難民 10,000 人、ウガンダ難民 4,000 人及びルワンダ難民 2,500
人等で難民数の合計 23 万人である。
(2)ケニアにおけるスーダン難民数の報告は 1992 年末の 21,800 人から始まり、その後
1995 年に 40,000 人を超え、1998 年までは 40,000 人程度で推移したが、1999 年に 65,000
人となった。
2004 年末は 67,000 人となり 2003 年末より 4,300 人程度増加しているが、
2005
年に入り増加の程度は 2004 年の 2 倍となり、2005 年 1 月から 8 月までに新たに 6,000 人
程度が流入している。(次ページ表参照)
12
ケニアのスーダン難民及びケニアにおける難民総数の推移(UNHCR 等の資料による)
年度
スーダン難民数*1
増減数*2
1991
ケニア難民総数*3
120,000
1992
22,000
401,900
1993
31,600
+9,800
279,000
1994
21,192
△10,400
246,000
1995
41,215
+20,000
252,400
1996
33,477
△7,700
185,000
1997
37,351
+3,900
195,000
1998
48,162
+10,800
190,000
1999
64,254
+16,100
255,000
2000
55,585
△8,700
230,000
2001
69,804
+14,200
245,000
2002
57,779
△12,000
220,000
2003
63,192
+5,400
235,000
2004
67,556
+4,300
240,000
2005
75,000*4
+6,000*5
*
1
ケニアにおける各年度末のスーダン難民数
*
2
スーダン難民の前年度との増減数
*
3
ケニアが受け入れている各年度末の難民総数(USCRI の資料による)
*
4
予想されている人数
* 5 2005 年 1 月∼8 月までのおよその数
(UNHCR の説明によると 2005 年の流入数は 2004 年の 2 倍のペースであることこと)
(3)ケニアにおけるスーダン難民の帰還
スーダン南部への帰還は雨期が明ける 10 月後半から、UNHCR の支援による組織的な自
主帰還を開始する予定であり、当初の数ヵ月間で 5,000 人程度の帰還を予定しており、全
体の帰還完了までには 4 年間を要すると予想している。他方、カクマ難民キャンプの担当
者は、2005 年 10 月から 12 月末までの帰還民数を 500 人程度と予想している。
3.カクマ難民キャンプにおけるスーダン難民の状況
(1)カクマ難民キャンプの概況
(イ)カクマ難民キャンプはケニアの首都ナイロビから北西に 900km のトゥルカナ州
(District)にあり、スーダン国境にあるロキチョキオより南に約 80km、スーダンとの国
13
境からは約 135km に位置する。同キャンプの広さは南北約 13km、東西 1km である。
(ロ)同難民キャンプは 1992 年にエチオピアの政治的変化に巻き込まれたいわゆる数百人
の「Lost Boys(注)」を保護するために設立された。
(注)Lost Boys
1980 年代後半に数千人のスーダン南部地域出身の単身未成年グループがスーダン国内の
内戦を逃れてエチオピアへ避難し、エチオピアの難民キャンプに約 3 年滞在。その後エチ
オピアの難民キャンプで 1991 年にエチオピアの内戦に巻き込まれ、スーダンに戻らざるを
得なくなったが、彼らは再びケニア北部に避難し、1992 年にケニアのカクマキャンプに収
容された。
(ハ)2004 年末時点で滞在している難民は約 86,000 人であり、スーダン難民の他、ブル
ンジ、コンゴ民主共和国、エチオピア、ソマリア、ウガンダ、及びルワンダ出身の難民が
滞在している。その内スーダン難民は約 65,000 人で同キャンプに滞在している難民全体の
75%を占める。
2005 年 1 月より 8 月までに約 6,000 人のスーダン難民が流入しており、中にはダルフー
ル出身の難民もいる。したがって、UNHCR は 2005 年度末のキャンプ滞在者総数は約
90,000 人、その内スーダン南部出身者は 75,000 人と予想している。
新しく到着した難民の一時滞在施設
カクマ難民キャンプに新しく到着した難民
(ロキチョキオ)
の居住地域
左:UNHCR 提供のテント
右:提供された資材で住居を建設中
(ニ)難民を受け入れている地域(トゥルカナ地域)の地元住民の人口は約 55,000 人であ
り、同キャンプ内の各種支援活動はこれらの地域住民も含めて全体で 145,000 人を対象と
して、実施されている。
(2)カクマ難民キャンプのスーダン難民の特徴
(イ)同難民キャンプにいるスーダン難民の 60%が男性であり、その中でも単身男性(家
族数が 1 名)が多い。これは、単身者は生活用品を 1 家族分得られることにあると思われ、
単身として登録すものがいるためと推定している。また、5 歳∼17 歳の年齢層において男
性の比率が高いのは、この年齢層の女性がスーダン国内にいる男性との婚姻を目的にスー
14
ダンへ戻っている一方で、同年齢層の男性の多くはキャンプ内で中等教育を終了すること
を希望しているためと推定している。
(ロ)2005 年1月より 8 月までの間に約 6,000 人を超える難民が流入している。考えられ
る理由としては、スーダン国内においての移動が安全になったこと、スーダン国内での食
糧の確保が困難なこと、カクマ難民キャンプが安全であること、カクマ難民キャンプで教
育を受けることを希望している等と考えている。
(ハ)帰還にかかるスーダン難民の状況
①民族の構成は 56%がディンカ族であり、各種少数の民族は 30%を占めている。SPLM の
指導者がディンカ族であることから、SPLM のスーダン南部地域における政治的動向が、
難民の帰還等の動向に影響を与えると考えられる。
②難民のスーダン南部地域出身者は元々Upper Nile 州出身者が多くおり、全体の 66%であ
り、その他、エクアトリア及びバラルエルジャバルの両地域(いずれもスーダン最南端乃
至は南西部)出身者もいる。従って、将来の帰還民受け入れ地域は、両地方を重要地域と
した広範囲な地域におよぶこととなる。
③カクマ難民キャンプ滞在のスーダン難民のうち帰還を希望している者は 79%であり、条
件付で帰還を希望している人は 3%であり、両者を含めると 80%を超えている。
Ⅱ.各機関の支援活動等
1.国連専門機関等の支援活動内容及びカクマ難民キャンプ内における活動現場の状況
(1)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
ケニア事務所とカクマの難民キャンプ内現場事務所を訪問。先方の説明は以下の通り。
面談者:Mr. Eddie Gedalof, Deputy Representative
Mr. Serge Ruso, Senior Programme Officer
Ms. Monique Vane Es, Associate Programme Officer
Mr. Cosmas Chanda, Head of Sub-Office, Kakuma
(イ)カクマ難民キャンプにおける支援活動
①年間の総予算は US$55 百万である。カクマ難民キャンプ現場での年間予算は US$35 百
万であり、その内の US$20 百万が WFP からの食糧支援の予算である。
②キャンプ内では 10 の NGO 団体及び UNHCR、WFP が支援活動を実施しており、全体
で 4,200 人が各種の援助活動に従事している。
③UNHCR の支援活動内容
a.キャンプ滞在の約 9 万人の難民に対する保護と援助を実施している。UNHCR は NGO
と IP 契約を締結して、生活物資(水・井戸・テント・屋根・シート・調理器具等)の提供、
医療、小中学校教育、職業教育、女性の自立支援、環境保全等の支援活動を実施している。
なお、NGO によっては、UNHCR との IP 契約による支援に加えて、自己資金等により
支援活動の内容充実を図っている団体もある。
b.UNHCR 及び NGO の各種支援活動は、スーダン難民がスーダン南部の国づくりに必
15
要な人材育成、また経済的自立を可能にすることを目的にしている。
④キャンプでは、食糧は世界食糧計画(WFP)より 14 日に 1 回配布されているが、本年(2005
年)後半は不足することが懸念されている。水(飲料及び生活用水)は 1 日 1 人当たり 15
ℓを確保し、給水所は住居から 100m 以内に確保されるなど、基準を満たしている。なお、
井戸は 90m 掘ると水源に到達する。
⑤キャンプ内には病院 1 ヵ所、診療所 5 ヵ所があり、キャンプ外に中央病院が 1 ヵ所ある。
⑥キャンプ内には 26 ヵ所の初等教育の学校、5 ヵ所の中等教育の学校があり、南アフリカ
大学のカクマキャンパスがあり、同キャンパスの登録者は 28 人である。
⑦その他
a.キャンプ内の治安は、現在は全般的には安定した状態を維持している。キャンプ内に
は警察署が 2 ヵ所ある。なお、2 年程前にライフルを持って警戒していた時期もある。
b.キャンプ内の難民が抱えている問題は、アルコール依存と、難民同士の喧嘩である。
なお、難民同士の揉め事等は、難民の民族・部族の自主組織があり、自主組織内の長老が
解決しているようである。
c.2 年前は難民と地域住民との対立で安全確保の点で問題があったが、互いの交流を深め
ることで、問題を解決している。
d.キャンプ内の通信状況は 1 年前より改善された。今後は帰還支援としてキャンプから
ロキチョキオを通じて、スーダンとの国境までの通信の確保が必要となる。
e.難民キャンプの存続等の今後については、いずれ将来の難民の動向を調査することと
なると思われるが、現時点では非常に微妙な問題であり、具体的な動向調査の計画はない。
(ロ)スーダン難民の帰還について
①スーダン南部への帰還は、雨季が明ける 10 月後半から、UNHCR の支援による組織的な
自主帰還を行う。当初の数ヵ月間で 5,000 人程度の帰還を予定しており、全体では約 4 年
間を要するものと予想している。
②難民キャンプの現地担当者は、ケニアからの帰還はゆっくり進むと見ており、2005 年 10
月から 12 月までの帰還民数を、500 人程度と予想している。
③現在、難民はスーダンの国内の状況を下見に行っていると考えられる。すぐに帰還を希
望している難民は、良い土地を確保することを望んでいると考えられる。
④難民は帰還の条件の中で、安全な水の確保や保健衛生の充実とともに、教育の機会が確
保されることを非常に重要視している。
⑤UNHCR は、帰還促進のために技術訓練が重要と考えており、具体的には、1 年間の教師
養成、車両整備・接客訓練等の職業訓練等を実施している。また、帰還に備えて、予防接
種・HIB/AIDS 予防啓発活動、地雷回避教育等を実施している。
⑥UNHCR ケニア事務所は、難民のカポエッタ(スーダン南部の町であり、カクマ難民キ
ャンプから約 350Km)までの移送を担当し、その後の帰還民支援は UNHCR スーダン事
務所の担当となる。また、スウェーデン政府により難民帰還のための車両(トラック 10 台、
バス 1 台、救急車 1 台)が提供された。さらに輸送能力拡大のため、カクマ飛行場の滑走
路を 1,400mに拡張する予定である。
(ホ)カクマ周辺の地元住民との関係等
①ケニア政府はカクマ難民キャンプがあるトゥルカナ地域に地域行政官(District Officer)
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を任命し、地域と難民キャンプの協力、同地域の安全確保に努めている。
②同トゥルカナ地域はケニアで最も貧しい地域であり、UNHCR は地元地域社会への協力
と共存を基本に、食糧援助、病院や学校の開放、車両の提供、安全についての相互協力な
ど地域社会の発展に寄与している。
③難民キャンプの中に市場(炭、自転車、砂糖、ミルク、野菜等を販売)があり、地元住
民は同市場に自由に出入りしており、互いに商売することが認められている。
④ケニア政府の難民局担当官(ナイロビ)及び、地域行政官は UNHCR の自主帰還(帰還
は難民の自由意志で、強制しない)の方針を支持している。
(2)世界食糧計画(WFP)
ケニア事務所(ナイロビ)を訪問。先方の説明は以下の通り。
面談者:Ms. Marian Read, Deputy Country Director, WFP Kenya
Ms. Denise Brown, Programme Advisor
Ms. Eri Kudo, Head, Southern Sudan Liaison Office
(難民への支援)
(イ)WFP はケニアにおいて、カクマ難民キャンプ及びダダブ難民キャンプに滞在する約
23 万人の難民へ、12 年間食糧支援をしている。ケニア政府は難民がキャンプの外に出るこ
とを認めておらず、従って収入を得る方法がなく、難民は食糧に関して、WFP が配布する
食糧に全面的に頼っている。
(ロ)キャンプにおける食糧配布は 2005 年前半までは潤沢に実施することができたが、
2005 年 7 月に WFP は資金不足により、一時的に配布量を削減し、難民による反発行動が
起こった。現在は必要量を配布できているが、2005 年 12 月以降の食糧配布の資金が十分
ではなく、多様な寄付者、機関へ働きかけをしている。
(ハ)難民キャンプにおける具体的な支援
①Food Basket としてシリアル、豆類、オイル、混合食料、塩等を 2 週間に 1 回ずつ配布
し、基本的には 2,100 キロ㌍の確保に努力している。難民はこれらの食糧の一部を販売し、
新鮮野菜、ミルク、茶等の購入に当てている。貧困な難民は WFP の食糧を薪、石鹸、衣類
に交換している。
②Food for Special Times
キャンプ内の診療所において、妊娠女性、授乳中の母親、5 歳以下の栄養不良の子供等を
対象に補助食糧を提供している。また病院においても、同様の補助食糧を提供している。
なお 2002 年の栄養状況の調査では、カクマキャンプにおける栄養不良の子供は 7%、ひど
い栄養不良の子供は 0.5%であった。
③School Feeding
1997 年より通学年齢の児童へ、特に Lost Boys(3.(1)
(ロ)の(注)参照)のグル
ープを主な受益者として、開始した。
難民の約 40%が女性であり、彼女たちの多くが社会的弱者で、また 70%が読み書きがで
きない。このため、NGO と協力して女子の初等教育への参加を促進した。その結果、初等
教育の 1/3 を女子が占めるようになったが、中等教育を受ける女子は、伝統的・文化的背景、
夫の選択による制限がある。
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教育に関しては、地域住民へも同等の支援を提供しており、School Feeding の対象とし
ている。
④HIV/AIDS 啓発予防活動
NGO が実施している HIV/AIDS の啓発活動の支援として、HIV/AIDS の啓発活動促進委
員へ謝金を提供したり、学校の教師への HIV/AIDS 啓発活動教育の実施、また、診療所に
おいて HIV/AIDS 患者へ補助食糧を提供する等の支援を実施している。
(ニ)スーダン南部地域における支援
①現在ダタブ難民キャンプのソマリア難民の帰還時に、3 ヵ月分の食糧を提供しており、ス
ーダン難民が帰還する時には同様の支援を実施することになる予定である。
②スーダン南部地域においては、食糧を空輸していたため輸送費に多くの費用を要したが、
今後は車両による食糧輸送を可能にするため道路整備に重点を置く。また校舎の修復、道
路の地雷除去の支援をする予定であり、これらの分野に関してはパートナーとして多くの
NGO を必要としている。
③食糧支援に関しては、帰還民、国内避難民、地元住民等の区別はせず、同様に支援する。
(3)国際移住機関(International Organization for Migration; IOM)
ケニア事務所(ナイロビ)を訪問。先方の説明は以下の通り。
面談者:Mr. Edwin P. McCLAIN, Regional Representative for East and Central Africa
(イ)ケニアにおける活動は、難民の第三国定住支援及びケニア国内におけるキャンプ間
の難民の移送(2002 年 9 月に約 12,000 人のソマリア難民をダダブ難民キャンプからカク
マ難民キャンプへ移送)である。その中には医療支援、文化紹介(Cultural Orientation)、
移送のエスコートを含む。
(ロ)上記の活動を遂行するために、カクマ及びダダブ難民キャンプに現地事務所があり、
またナイロビには難民の第三国への移送のための宿泊施設がある。
IOM は 2003 年∼2004 年の間に 2,000 人を超えるソマリア難民(Somali-Bantu)のア
メリカ合衆国への第三国定住を支援した。
(ハ)中央アフリカ及びコンゴ民主共和国の難民キャンプの状況は、ケニアの難民キャン
プより困難な状況のため、スーダン難民の帰還については、中央アフリカおよびコンゴ民
主共和国からの帰還が早急に進むと思われる。またケニア政府は帰還を強制していないこ
とから、ケニアからのスーダン難民の帰還はゆっくり進むと予想している。
(ニ)スーダン難民のスーダン南部地域への帰還は、2005 年は約 3,000 人、2006 年は 10,000
人と予想しており、IOM は 2007 年にケニアからの航空機による帰還支援を検討している。
(ホ)スーダン南部地域における活動
IOM は 2004 年にスーダン国内において支援活動を実施することを決定し、スーダン南
部地域の一部地域において IDP の帰還支援のため、Way-station(中継の短期休憩施設)の
管理運営を実施している。
また、帰還後のモニタリング及び家族離散者の追跡調査等を実施する予定である。
2.NGO 等の支援活動内容及びカクマ難民キャンプ内における活動現場の状況等
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(1)ドイツ技術協力公社(GTZ)
ナイロビ事務所及びカクマ難民キャンプの支援活動現場を訪問。先方の説明は以下の通り。
面談者:Mr. Michael Zanardi, Deputy Program Manager
Ms. Andrea Neuhaus, Program Assistant, PMO Kenya
BMZ (ドイツ経済協力省 Bundesministerium für Wirtschaftliche Zuzemmenarbeit und
Entwicklung)の管轄下には二国間援助を担当する政府機関として KFW(ドイツ復興金融公
庫 Kreditanstalt für Wiederaufbau)と GTZ(ドイツ技術協力公社 Deutsche Gesellschaft
für Technische Zusammenarbeit GmbH)がある。KFW は有償・無償資金協力を担当する
のに対し、GTZ は技術協力を担当し、わが国の JICA に相当する機関である。
(イ)GTZ の支援活動内容
GTZ ナイロビ事務所によると、GTZ は南スーダン難民帰還支援に関しては既にいくつか
の事業を計画しているが、その目標は以下の通り。
UNHCR と連携し、帰還難民とともに、帰還先既存地域住民と IDP(国内避難民)をも
含む全当事者の総合的ニーズに応えるプロジェトを実施する。
難民の帰還先における生活水準の向上と、帰還先住民との融合を図り、持続可能な発展
のための諸条件を作るのに即効性のあるプロジェクトを帰還先地域レベルで実施する。
(例:学校、保健所、給水設備の建設、耕作地の再生事業など)
帰還経路と帰還先地域を対象とした UNHCR の難民帰還事業の後方支援を行なう。
(例:
輸送車両の手配。空輸も検討。ロジセンターとその移動班の設置、倉庫設備の建設など)
GTZ ナイロビ事務所は、本年(2005 年)6 月 1 日 UNHCR、SPLA/M、ドイツ大使館を
含む 10 の団体を集め、難民帰還支援に関する互いの計画についての意見交換と事業分野の
調 整 を 行 っ た 。 こ の 会 合 で 、 GTZ は DED ( ド イ ツ 開 発 サ ー ビ ス Deutscher
Entwicklungsdienst)と連携して職業訓練と紛争予防事業を、また Max Plank Institute と
協力して、保健、初等教育、農業部門での事業の基本的な手順と管理運営手法を指導する
プロジェクトを行うこととなった他、Malteser Hilfsdienst,、Diakonie(ディアコニー事業
団)、Africa Action Aid も GTZ への協力を申し出た。
(ロ)カクマ難民キャンプでの活動
①薪(fire wood)プロジェクト。キャンプ内で炊事に使う燃料用の薪には拾い集めた枯れ
木か枯れ枝を利用し、生木は伐採しないよう指導している。しかし薪は不足しており、薪
をめぐる難民と地域住民との紛争を回避するため、GTZ は年間 2,000MT(ダダブ難民キャ
ンプ向けを含む)薪の配給事業を実施している。
②植林事業。
(主に燃料用木材生産のため。植林面積はすでに 20 ヘクタールに達する。)グ
リーンベルト、苗木、薬草の栽培などの事業。
③野菜の家庭での栽培技術指導事業。穀物を入れる麻袋を縦に置き、中に砂、石、養土を
多層式に封入した大きな栽培筒(植木鉢のようなもの、写真参照)で野菜を栽培する技術
を指導。各家庭に 5 個の栽培筒を配布し、5 種類の野菜を栽培させる。すでに 500 家族に
配って訓練している。現在までに 800 人が受講した。訓練センター見学後、実際にこれら
の技術を使っている家庭を訪問見学した。
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栽培筒で栽培した野菜
栽培筒
④太陽熱利用のレンジ(凹面集光鏡によるソラー・クッキング・レンジ)の配布事業。
これまでに大口径、中口径のもの計 2,000 台配布した。機材はドイツから輸入。配布後
使用方法の指導と、利用状況のモニターリングを行なっている。
太陽熱利用のレンジ
⑤省エネかまど(写真参照)及び七輪の製造技術移転と使用奨励。かまどや七輪の材料は
キャンプ内で入手できる灰を固めて作る。かまどを使うことにより燃料の薪を 3∼40%節約
するのが狙い。エネルギー有効利用のため、大型かまどは数家族共同で使うよう指導。木
炭を使う小型七輪は家庭ごとに配布する。
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省エネかまど
⑥上下水事業。屋根に天水受けタンク(roof tank)取り付けを指導。上下水処理方法の指
導(処理水再利用)。
⑦キャンプ内の環境対策。特別カリキュラムを組み、シェルターのゾーンごとに環境教育
ワークショップを開催。家庭戸別訪問指導なども実施している。
⑧帰還難民の職業教育(capacity building)事業。農業コース。エネルギーコース。などが
ある。
これら事業は主として技術移転事業で、その基本理念は環境の保全、既存地域住民との
融和、物資の自給自足と難民の自立の支援である。
(2)International Rescue Committee (IRC)
ナイロビ事務所及びカクマキャンプの支援活動現場を訪問。先方の説明は以下の通り。
面会者:Ms. Jenny Fletcher(カントリーコーディネーター)
カクマ
チーム
(イ)カクマ難民キャンプでの活動
IRC は 1992 年にカクマ難民キャンプ設立当時より活動を開始した。キャンプでは
UNHCR と IP 契約を結び、保健分野全般の活動を担当している。キャンプ内の病院、診療
所運営の他、HIV /AIDS、栄養指導等のニーズに即した活動を実施している。カクマでは
難民キャンプ内だけではなく、カクマ周辺のトゥルカナ地域(ケニア国内でも最も貧しい
地域のひとつと言われている)の地元住民へもサービスを提供している。
①プライマリ・ヘルスケア関連の活動
カクマ難民キャンプ内では病院 1 ヵ所、診療所 4 ヵ所を運営している。病院には外来、
ラボや入院病棟、小児科、隔離病棟をはじめ、簡単な手術を行う設備も整っている。病状
の重い患者には難民キャンプの外にあるカクマ市内にある病院への紹介も行っている。診
療所では、簡単な治療ができる設備が整っており、ワクチン接種、母子保健や家族計画な
どのサービスも提供している。
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ケニアにおけるスーダン難民
IRC が運営する病院の病棟
同病院の病室
②HIV/AIDS 関連の活動
難民キャンプ内および周辺地域における HIV/AIDS 対策活動の必要性を踏まえ、2001 年
に開始された。カウンセリングと HIV 抗体検査(VCT)関連の活動に比重が置かれており、
カクマ難民キャンプ内で2ヵ所の VCT センターを運営している。VCT センターには1ヵ月
平均 250 人が検査に訪れる。地元住民へもサービスを提供しているが、推定罹患率は周辺
住民の 7%に比べて、難民内では 1.5%と低い。また、HIV 陽性者への支援、家庭訪問など
の地元での活動を始め、性感染症や母子感染の予防啓発活動も行っている。継続性が必要
となるため実施の是非が検討されていた抗 HIV 薬の提供も IRC のスーダン国内での活動や
他機関との連携を見越して、2005 年より開始した。
③栄養関連の活動
カクマ難民キャンにおける難民の食糧はすべて援助に頼っているため、摂取する栄養素
が偏りがちである。ビタミンなどのマイクロニュートリエントの欠乏は、特に子どもや、
妊婦への影響が深刻なため、栄養関連の活動が大変重要なものとなっている。キャンプ内
でフィーディングセンター、栄養補給センターなどの拠点における栄養補給やコミュニテ
ィ内での活動を実施している。
④スーダン国内での支援が本格化するにつれ、IRC 内での比重がスーダン国内での活動に
移動してきているため、カクマでのいくつかの活動を停止せざるを得なくなってきている
ことが問題となっている。例えば今年のコレラ蔓延の一因は、コミュニティボランティア
活動の停止によるものと考えている。
(ロ)帰還に向けての活動
本格的な帰還が視野に入るにつれ、スーダン南部地域での継続性を図るため、トレーニ
ングやキャパシティ・ビルディングの活動が増え、2005 年には保健に加えて教育関連の活
動も開始した。帰還を希望する難民が帰還前に一時的に滞在する帰還センターでは帰還前
教育の一環として HIV 感染予防啓発を行う予定である。加えて、支援に継続性を持たせる
ため、スーダン南部地域における活動との積極的な連携を行っていきたいと考えている。
(ハ)スーダン南部地域での活動
IRC はスーダン南部地域でもルンベック周辺やバハル・アルガザール州などで幅広くプ
ライマリ・ヘルスケアやヘルスワーカーの育成、HIV/AIDS 対策活動を既に行っているが、
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帰還に対象を絞った活動としては帰還先の情報提供、公民教育、キャパシティ・ビルディ
ング及び帰還時に健康状態に不安のある難民に、医療支援を実施するなどの活動が計画さ
れている。
(3)Handicap International(HI)
カクマ難民キャンプ内の事務所を訪問。先方の説明は以下の通り。
面会者:Mr. Jerome Kasuna
(イ)2005 年 1 月 9 日の包括的和平合意締結に伴い難民のスーダン国内への帰還の見通し
が立ったため、帰還に向けた教育の必要性から 2005 年 4 月にカクマ難民キャンプでの活動
を開始した。
スーダン南部地域では、地雷や不発弾による被害が多発しているため、帰還途中、また
は帰還後に地雷の被害に遭わないよう、キャンプ内で難民を対象に地雷回避教育を行って
いる。
難民を教育員として訓練し、長期的に地雷回避教育が行われていくように配慮している。
これまでに 48 人の教育員を育成、難民に対する教育は本年(2005 年)6 月から開始された
ばかりである。地雷回避教育プロジェクトは教育と難民の地雷に関する知識、態度、行動
調査の 2 つのコンポーネントから成り、2 年間実施される予定である。UNHCR からの支
援(約 7 割)と自己資金(約 3 割)で実施している。
(ロ)今後の活動としては、女性グループによる一軒一軒への家庭訪問を通した地雷回避
教育活動や、人道支援関係者に対する地雷回避教育も計画されている。
(ハ)スーダン南部地域では、地雷除去をはじめ、リハビリテーションなどの障害者支援
を検討している。
(4)Lutheran World Federation (LWF)
ナイロビ事務所及びカクマ難民キャンプの活動現場を訪問。先方の説明は以下の通り。
面談者:Mr. Bobby Waddell LWF Representative, Kenya/Sudan Programme
Ms. Levendah Okuwoyo, Narional Project Coordinator
Mr. Tulasi Sharma, Team Leader(カクマ難民キャンプ内事務所)
(イ)団体の概要
1947 年にスウェーデンで発足したプロテスタント系教会の団体で本部はジュネーブにあ
る。現在は全世界 77 ヵ国に 138 のメンバー教会があり、人道援助、人権問題、教会一致運
動などの活動を各地で行なっている。救援活動については、特に LWF の Department for
World Service (DWS) が主体となり 24 ヵ国で活動中。Kenya/Sudan Programme は在ナ
イロビ事務所とカクマキャンプ内事務所が担当している。
(ロ)カクマ難民キャンプにおける活動
カクマ難民キャンプにおける LWF/DWS の活動は、キャンプが設置された 1992 年より
開始しており、難民キャンプの管理運営のほか、教育、水・衛生、コミュニティ・サービ
スおよび食糧配布の活動を実施している。
また、LWF/DWS はカクマキャンプの地元受け入れ地域に対して、食糧配布や給水設備
の設置や衛生教育なども実施している。
23
(ハ)キャンプ内での各分野の活動詳細は以下の通り。(今回の調査で訪問した活動のみを
報告)
①教育
a.キャンプ内で幼稚園、小中学校の運営や学校給食、教師のトレーニングなどを実施。
2004 年の在学数は、プレ・スクール―6,905 名、プライマリ・スクール―21,554 名、セコ
ンダリ・スクール―2,302 名である。今回の調査では、プレ・スクールと女学校を訪問。
b.プレ・スクール(幼稚園)
3 歳から 6 歳の子どもたちを対象とした幼稚園では 800 名の定員に対して、現在 360 名
の子どもが通っている。幼稚園には教室の他、運動場に簡素な遊戯施設が備え付けられて
おり、環境は比較的整っているように見受けられるが、小学校以上の学校への支援が優先
されるため、資金不足に悩まされており、給食のミルクが提供できない状況が続いている。
プレ・スクールの教室
c.アンジェリーナ・ジョリー・スクール
UNHCR の親善大使を務めるハリウッド女優によって設立された、全寮制の中等教育を
提供している女学校。様々な国籍の女子学生約 120 名が在籍し、揃いの制服を着用して一
緒に学んでいる。
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アンジェリナ・ジョリースクールの教室
同クスールの図書室
②水と衛生
給水設備の設置のみならず、難民自身による water planning, water management を促
進するためのトレーニングも実施し、キャンプ内の各コミュニティが自分達の使用する水
の管理を行なうシステムを構築している。
③コミュニティ・サービス
若者にバスケットボールなどのスポーツ活動の場を提供等、子どもたちが遊びを通じて
健全な心と体を保てるような活動を実施している。また女性グループによるケータリング・
サービスのビジネス支援、青少年グループによる活動促進、平和構築プロジェクト、幼児
発育プログラムなど、多種多様な支援形態によるコミュニティ・サービスを通じ、キャンプ
における難民達の生活を支えている。
a.ユース・グループ
Youth Protection & Development Officer がリーダーを務める 30 名ほどの若者のグルー
プを結成し、スポーツプログラム、文化活動、ファースト・エイドをはじめとする数々の行
事を企画、運営している。
バスケットを楽しむユース・グループの青少年
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b.ウイメンズ・ケータリング・グループ
仕出し料理サービスを提供する女性グループ。国籍の違う女性たちが協力してサービス
を提供し、所得創出を目指している。
④食糧配布
WFP との連携により、Food for Work を実施。14 日に1回のペースで、一日一人当たり
約 2,000 キロ㌍の食糧を配布。
(ニ)スーダン難民の帰還に向けての活動
カクマ難民キャンプ内においては、出発施設(Departure Center)の運営を担当。また、
スーダン南部のカポエタ(Kapoeta)までの帰還民の移送を行なうことになっているが、カ
ポエタ到着後の手配については、現時点では未定とのこと。また帰還民を受け入れる地元
地域への支援も同時に実施する予定である。
(ホ)スーダン南部地域での活動
スーダン南部地域には、Bor と Yirol に事務所を構えており、WFP との連携で Food for
Work、Non Food Item の配給、紛争解決や平和構築を目指した活動を展開中。
(5)Don Bosco 職業訓練センター
カクマ難民キャンプ内の職業訓練センターを訪問。先方の説明は以下の通り。
面談者:Fr. Sebastian, Coordinator
(イ)宣教師 Don Bosco によって設立され、貧困に苦しむ若者への職業訓練専門校を各地
で展開しているキリスト教系の団体により運営されている。
(ロ)キャンプ内の難民のみならず、地元地域からも希望する生徒を受け入れている。年
間およそ 700 名の生徒が技術を習得しており、3 段階に分かれた技術レベルを、数年かけて
レベル・アップしていくことが出来る。訓練コースは、大工職(木工)、溶接業、自動車整
備、石膏職、配管工、コンピューター技術、農業技術、裁縫、タイピング・秘書科等があ
り、各々が希望するコース職種を選択して技術を習得する事ができる。
金属加工訓練
大工訓練
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自動車整備訓練
コンピュータ技術訓練
Ⅲ.日本の関係団体によるスーダン難民への支援(スーダン南部地域での活動)
日本の関係団体におけるスーダン南部地域の活動の後方支援の拠点は現在ケニアのナイ
ロビにあるため、ナイロビでスーダン南部地域の支援活動について情報を聴取した。
1.国際協力機構(JICA)
JICA 南東部アフリカ地域事務所職員と意見交換。先方の説明は以下の通り。
面談者:原
晃
南部良一
企画調査員(平和構築支援担当)
所員
(1)JICA の対スーダン援助の対応体制として、全体の方針作成等の所管は本部のアフリ
カ部が担当し、案件発掘・情報収集などの側面的支援活動業務をケニア国ナイロビにある
東南部アフリカ地域支援事務所が担当している。
(2)スーダン国内に関しては、同国内には事務所はないが、近々にスーダン統一暫定政
権(北)の MIC(Ministry of International Cooperation)(於:ハルツーム)へ ODA ア
ドバイザーを派遣する予定。同アドバイザーは、スーダン統一暫定政府(北)、日本大使館
及び援助コミュニティとの連絡調整を行うことになる。また、併せてスーダン南部地域を
担当する ODA アドバイザーの派遣も予定している(当面の勤務地はハルツームとなる)。
(3)スーダン情勢の現状と今後の推移
(イ)現状
南北スーダンの包括和平合意文書の締結は 2005 年 1 月 9 日。その後、南北双方による和
平に向けた実務作業が重ねられていたところ、7 月 30 日、スーダン南部において 20 数年
間に渡り独立運動を指導してきたギャラン氏(スーダン統一暫定政府(北)第一副大統領)
がヘリコプター事故により死去。9 月 7 日に予定されていた SPLM 政府(南)
(南スーダン
暫定政権)の実現を目前に、スーダン和平の定着は一転、暗雲が立ち込めることになった。
数々の憶測が蔓延る中で SPLM は、ギャラン氏に次ぐ指導者の地位にあったサルバ・キー
ル氏を後継として不安定化した事態の収束に努め、現状において事態は沈静化の様相を呈
27
していると言える状況にある。
(ロ)今後の見通し
スーダン南部地域においては、今なお SPLM の掌握を超えた軍閥が各地に存在しており、
その動向が今後の情勢を左右する不安定要因のひとつと考えられる。南北和平の枠組みの
中にスーダン南部各地の軍閥を抱きこんでおくためには、サルバ・キール氏による政治的
手腕の如何によるところが大きい。これまで同氏は対外的活動を行っていないことから、
その力量は未知数ながらも、ギャラン氏の死去から現在に至る SPLM の動きをみる限りに
おいては、相当程度の期待は抱き得ると考えている。
しかしながら、今後のスーダン情勢が安定した進展を確保していくためには、スーダン
統一暫定政権(北)と SPLM 政府(南)の関係維持はもとより、各地の軍閥等諸勢力との
協調、更には数十万人規模の国内避難民や難民の帰還と再定住をスムーズに行い、民族の
融和を図っていくことが必要とされるが、過去における長い紛争の時代を鑑みれば、その
道のりは必ずしも平坦なものでないことは容易に想定できる状況にある。
(4)JICA による取り組みの現状
関係各方面とのネットワーク作り、スーダン政府当局のキャパシティ・ビルディング及
び早期対応が可能な事業の計画立案に努めている。
(イ)国連ミッションへの参加
①2004 年 10 月、UN JOINT ASSESSMENT MISSION へ東南部アフリカ地域事務所より
1 名派遣。
②2005 年 3 月、UN MISSION へ本部アフリカ部より 1 名、東南部アフリカ地域事務所よ
り 2 名を派遣。
(ロ)ワークショップの開催(JICA と UNHCR の共催)
2005 年 5 月、ナイロビにて、OLS(Operation Lifeline Sudan(注))、SPLM をはじめ
域内の援助関係者の参加によるワークショップを開催。
(注)OLS は 1989 年 4 月に UNICEF と WFP 及び NGO35 団体のコンソーシアムとし
て、内戦と洪水により荒廃したスーダン南部地域のすべての住民に対し、人道支援を提供
することを目的として設立された。またスーダン南部地域の安全状況についても情報を国
連専門機関及び NGO へ提供している。
(ハ)研修員受入
2005 年 3 月、本邦における ODA セミナーへ、スーダン統一暫定政府(北)と SPLM 政
府(南)より5名づつ計 10 名を招聘。
(ニ)事前調査
2005 年 7 月、スーダンへ調査団を派遣し、早期対応が可能な事業(緊急開発調査、フォ
ローアップ無償、第 3 国研修等)の調査を実施。
(5)スーダン人道支援の展開に係る現地状況
スーダン国土は日本の 7 倍であり、周辺国のケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ
及びブルンジを合わせた国土より広い。この広大な国土に、貧弱な政府機能、基幹インフ
ラが乏しく、国際援助コミュニティの受け皿になれる実力を有する現地 NGO は、今後急速
28
に増大すると予想される援助に対して少ない。
過去 22 年間の内戦による荒廃、特にスーダン南部地域は世界で最も開発の遅れた地域で
あり、極めて貧弱な政府機能である。特に SPLM 政府(南)においては、行政の構築のた
めに人材の採用(3 万人以上の公務員採用予定)から始めなければいけない状況である。
また、教育を受けた人材が特にスーダン南部地域において極めて不足していること、基
幹インフラの不備、現地 NGO の不足等が問題である。
(6)JICA の対応計画
平和の定着を上位目標とし、そこを指向するサブ・プログラムとして、早期の効果が期
待できる緊急支援と政府を中心に開発を進めていくキャパシティを強化する中期的な開発
支援を 2 本の柱として、以下の支援を検討している。
(イ)緊急支援
①スーダン北部地域におけるフォローアップ無償と研修員受入。
②スーダン南部地域における緊急開発調査(調査期間中に簡略なインフラ整備を行うこと
も可能)と近隣国(ウガンダ、ケニア、エチオピア、エジプト、ルワンダ等)における第 3
国研修(教育、保健、HIV/AIDS、職業訓練、水等)。
③南北双方の帰還民に対する支援(帰還促進・融和支援)
。
(ロ)開発支援
①国民融和を推進するためのワークショップ開催を含む支援活動の実施。
②スーダン暫定統一政府(北)及び SPLM 政府(南)の政府職員に対する訓練プログラム。
(7)今後の日本の NGO との協力
上記のようにスーダンの国土は広大であり、人材が貧弱、一方で政治的バランスはそれ
ぞれにおいて極めて脆弱な状況にあると共に、特にスーダン南部地域において、当面は行
政側の活躍を期待し難い。このような困難な状況で緊急支援活動を展開していくためには、
関連する組織・団体が情報共有を密にし、互いに補い合って取り組んでいく必要があり、
NGO との連携も不可欠と考えている。
多くの支援国、スーダン暫定統一政府(北)及び SPLM 政府(南)等の関係機関とも密
接に連携・調整し、スーダン支援にかかる多様な機関・団体等の動きとの整合性を保ちな
がら日本の支援としての戦略を組上げ、その中で日本の NGO と JICA が補完関係を築くよ
う進めていければ、我が国としての建設的な取り組みができると考える。
JICA は援助の実施機関であり、その意味においては NGO と同様である。まずは、実施
機関としての相互補完を模索したい。また、NGO への、プロジェクト・ファインディング
については、JICA も必要に応じ積極的に対応すべき必要はあるものの、有する予算やスキ
ーム的には、外務省やジャパン・プラットフォームに優位性が認められるので、4 者が協力
し、共有できる戦略の中で協調することができれば、より機能的な取り組みの体制が築け
るものと考える。
2.ワールドビジョン・ジャパン(WVJ)
ナイロビ事務所職員と意見交換。先方の説明は以下の通り。
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面談者:三好
正規(ワールドビジョン・ジャパン/ケニア)
(1)現地の体制
(イ)WVJ の対応体制は、本部が WVJ 本部(東京事務所)の海外事業部であり、東アフ
リカ地域については、ナイロビに職員1名を配置している。
(ロ)スーダン国内に関しては、国内 NGO であるワールド・ビション・南スーダン(WVS)
及びワールド・ビジョン・北スーダン(WVNS)と協力している。WVNS の拠点事務所所
在地は、ハルツーム、ニヤラ(ダルフール)にあり、WVS の拠点事務所はルンベック、ヤ
ンビオ、トンジ、ルオンヤケル、ニルワク等スーダン南部地域に 11 ヵ所あり、またケニア
北西部ロキチョギオ、ウガンダ北東部コボコにも調達活動用拠点事務所を設置している。
事業実施活動はこのような WVS 及び WVNS の枠組みの中で対応している。必要に応じ、
ナイロビ駐在の職員がスーダン現地入りして対応している。
(2)スーダン情勢の現状と今後の見通し
ジョン・ギャラン氏のヘリコプター墜落による事故死が公表されて以降、スーダン南部、
北部の各地において、主にスーダン南部出身住民による反政府デモ、武装蜂起及び略奪等
混乱が相次ぎ、スーダン南部地域においても、政府系民兵組織と SPLA(軍)とが並存し、
対立しているジュバ、ワウ及びマラカウ等の町では住民の蜂起が伝えられた。WVS もマラ
カウ近郊で事業を展開しており、大部分の職員を一時的に国外退避させた。
その後、SPLM によりギャラン氏後継指名が行われ、従前を継承する政策方針の表明と
住民に対する平穏化の呼びかけが功を奏したことから、以降情勢は収束に向かい、WVS の
事業運営も 8 月中旬より通常業務へ復帰した。現状においては、情勢が再び不安定化して
いく旨の兆候には接していない。
しかしながら、政府系民兵組織と SPLA の突発的な衝突や、スーダン南部地域の部族対
立は依然として残存し、加えて避難民の大規模な移動は新たな不安定要因ともなりうるこ
とから、その情勢の推移と事業運営にかかる安全の確保には特段の注意を払う必要がある。
活動展開に際しては、OLS による安全対策ガイドラインに従う必要がある。
(3)WVJ による事業展開の現状
(イ)WVS との共同による事業展開。
WFP との協力により、食料配布、栄養補助食品配給及び FOOD FOR WORK(FFW)
を実施している。
スーダン南部地域での事業地は、北ハバル・アルガザール州(南アウェイル県)
、ワラブ
州(ゴグリエル、トンジ)、上ナイル州(シルク王国)である。
また、UNHCR との IP 契約により、避難民の再統合・生計支援事業(サバイバル・キッ
ト配布、水・保健衛生、教育、収入創出、農業復興及びプロテクション等からなる包括的
プログラム)を西エクアトリア州ヤンビオで今年(2005 年)10 月より開始したところであ
る。
(ロ)スーダン南部地域における人道支援のニーズについて
スーダン南部地域においては、20 年来に及ぶ内戦による疲弊及び開発政策の不在により、
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社会経済インフラの低開発状況が著しく、国内避難民及び帰還難民のための緊急支援(食
料・NFI 等)に加え、復興開発の全ての領域において迅速な支援活動が必要とされている
状況である。中でも優先度の高いニーズは、水・保健衛生、教育、HIV/AIDS、地雷撤去・
アドボカシー、民族融和及び農業復興が挙げられる。
スーダン南部地域においては、和平合意と治安状況の改善から約 200 万人と見込まれる
国内避難民の大規模な帰還が始まっている。避難民の帰還は地域の平和が回復しつつある
ことを示す肯定的な指標である一方、帰還民を受け入れる地元地域社会による社会経済的
負担を強いることとなり、新たな地域紛争の起因とも成りうるので、帰還民に向けた支援
活動を行う際は、地元地域社会も裨益するように配慮することが不可欠となる。
一方で、帰還を希望しない国内避難民及び難民が多数、避難生活を続けている。安全面
での懸念に加え、帰還先の社会インフラの不備が主な理由として挙げられている。避難民
の帰還、社会生活の正常化、地域社会への融和と再統合を促していくためには、帰還先各
地における包括的な緊急・復興開発支援の取り組みが必要であり、現地では国際社会のス
テーク・ホルダーが多数、活発な事業展開を目指しているものの、未だその膨大なニーズ
には追いつけていないのが現状である。
Ⅳ.スーダン難民のインタビュー
調査団は、New Arrivals Site、Women Catering Group との会合、Youth Sport Club と
の会合で、難民へのインタビュー及び難民と直接対話を実施した。
(1)New Arrivals Site(最近到着した難民が居住している区域)にて出会った若者にイ
ンタビューを実施した。
(イ)Santino Okeng Guido:男性。19 才。
トリットから友人と逃げて来た。2000 年にキャンプに着いた。2004 年に姉がキャンプに着
いて、この区域に住んでいる。自分が住んでいる区域は別。
紛争のため家族とは離れ離れになって避難してきた。アラブ人の集団が車でやってきて村
を襲った。千人から2千人くらいの規模だった。家族と一緒にいるところを見つかると殺
されるので別々に逃げた。
キャンプに新しい人が到着するたびリストを見て家族がいないか探していた。それで姉が
到着したのが分かった。他の家族は今も消息不明。
Kenyan Certificate Primary for Education を取得しようとしている。
元いた場所に帰りたい。キャンプの畑では作物も充分出来ないし、支給される食糧も充分
ではない。ここの状況は元いた場所とは違う。自分の目で元いた場所の平和を確認できれ
ば帰りたい。
(2)Women
s Catering Group の 8 名と本調査団との面談。
スーダン、コンゴ民主共和国、ウガンダ出身の難民で構成されている女性グループ。LWF
がキャンプ内で実施していたコミュニティ・エンパワーメント活動の中から生まれた。同
様の女性グループはキャンプ内に 60 ほどある。以下を述べた。
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難民の人たちが小グループで Catering のワークショップを開く時に講師を派遣するなどの
活動を実施している。
キャンプでは配給食糧も充分ではなく、移動制限もあるなど問題が多い。この活動からの
利益も充分ではない。
ここで実施しているのと同様の活動を帰還後も出来るかどうか分からないが、ここでは色
んな活動があるので、可能性を広げるのが大事。
キャンプを見に来る外国人は時々いるが、フィードバックがない。何らかの活動を支援し
て欲しい。
(3)Youth Sports Club の約 20 名と本調査団との面談。以下を述べた。
スポーツ及び文化関連の活動がある。前者ではサッカー、バスケット、バレー等であり、
後者はドラマ、ディベート、教育等である。
帰還したいという希望はあるが、キャンプで積んだ経験を活かせるような場があるかどう
か心配だ。そういった場を創り出す人材として自分達が貢献できるのではないかと言われ
るが、そういった活動を開始できるような環境にあるのかどうかという点を含めて、帰還
先の状況がどうなっているか気になっている。
(4)上記のように設定された機会以外に、訪問先で英語の話せるスーダン難民を見つけ
た時に個別にインタビューを行った。
(イ)James Majak Mayen:ドン・ボスコが運営する職業訓練センターの自動車修理コー
ス研修生。
男性。26 才。アッパーナイル州から来た。紛争のため 1987 年に同州から避難し、1992 年
にカクマ・キャンプに着いた。1 人で暮らしている。
アッパーナイルに帰りたい。そこでキャンプで学んだ技術を活かしたい。アッパーナイル
に自動車修理工場があるかどうか、出てきた時は子どもだったので知らない。平和になれ
ば工場も出来るはずだと思う。
(ロ)Nicodemus Dut Agany: 手工芸品ショップを訪問した際にそこにいた若者。
男性。21 才。ディンカ族。1997 年に兄とキャンプに来た。家族は殺された。親戚はどうな
ったか分からない。
キャンプでアートを勉強している。お金がなくて学校はドロップアウトした。教育を受け
たい。
キャンプが閉じられてもスーダンには戻りたくない。教育を受けてない自分にとっては帰
っても希望が持てない。
(ハ)Fidell Majok Mabiov:キャンプ内で訪問した幼稚園のマネージャー。
男性。52 才。バー・エル・ガザルを 1987 年に出てエチオピアに 4 年滞在し、1992 年にこ
のキャンプに着いた。エチオピアから 2 ヵ月間歩いて来た。最初は 1 人で来た。その後家
族も来て、今は 9 人家族。
元は SPLA の兵士だった。政府軍に捕まり 48 時間拘留された末、脱走した。
1993 年に故郷を一度訪問した。親戚は今もそこにおり、手紙のやり取りをしている。
帰りたいが、問題は子どもの教育。キャンプで受けている学校の教育が終了していないの
で、スーダンに帰っても教育が受けられるかどうか心配だ。
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スーダンに帰ったら農業と家畜をやりたい。親戚は農業をやっている。
自分は帰還先に古い知り合いもいるので、帰ってすぐに溶け込むことが出来る。だが知り
合いのいない人だとすぐに溶け込むのは難しいかもしれない。2∼3 年はかかるのではない
か。
Ⅴ.ニーズ及び今後の支援等
1.スーダン南部地域
(1)2005 年 4 月の当事業本部の調査で、スーダン南部地域の政治状況は不安定であり、
政治機能は脆弱であり、基幹インフラが乏しく、現地 NGO の不足等の調査結果を報告した。
(2)帰還民の自主帰還に向けて、スーダン南部地域においては、水、住居、医療・衛生、
道路建設・輸送、地雷除去等のインフラの構築及び教育(校舎、教師)支援が緊急に必要
であり、国際社会からの支援が緊急に必要である。
(3)UNHCR は、比較的恵まれた環境にあるカクマ難民キャンプのスーダン難民の自主
帰還は、困難な状況にある中央アフリカおよびコンゴ民主共和国からの帰還よりゆっくり
し進むと予想しており、難民の中には、スーダン南部地域のインフラ、生活条件(治安、
食糧、水、衛生・医療、学校・教育等)がある程度整備された後に帰還すると述べる者も
いる。
(4)帰還作業に関しては、大規模かつ長期にわたることが予想されている。したがって
帰還のための中継地点となる拠点(Way Station)の数が相当数になると予想されているが、
これらの分野にかかわる支援団体はごく少数であり、輸送にかかわる地元業者の質に関し
て不安が指摘されている。これらの帰還作業に関して UNHCR は実施能力のある団体を求
めている。
2.スーダン難民への今後の支援
(1)カクマキャンプにおける支援
(イ)スーダン南部地域へ帰還するスーダン難民への支援は、帰還準備の支援、帰還後に
自立可能となるような能力習得の支援強化が必要となる。特に、カクマ難民キャンプにお
ける中・高等教育、職業訓練は進んでおり、スーダンの国づくりに貢献できる人材が多い
と思われることから、このようなこのような人材が国づくりのために自主帰還が可能とな
るような支援が必要である。
(ロ)帰還後の教育の機会の確保を望む難民が多いいことから、教師の養成が必要である。
現在カクマ難民キャンプでも 1 年間の教師養成を実施しているが、帰還後もスーダンにお
いて継続して教師養成を可能となるような支援が必要である。
(ハ)帰還後の自立支援としての職業訓練のひとつとして、地雷除去の専門家養成も考え
られる。
(ニ)カクマ難民キャンプ内において帰還を促進するための各種の情報(帰還先の情報、
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HIV/AIDS 啓発情報、地雷被害及び回避情報、平和構築教育等)提供が重要となる。この
ためにラジオの配布及びミニ FM 放送局の設置が考えられる。また、このような技術はス
ーダンへ帰還後も有用と思われる。さらに、情報提供に関しては、キャンプ内の生活密着
情報(例えば、食糧配布の場所と時刻、お知らせ等)も有用と考えられる。
(ホ)具体的な帰還の準備の支援として、地雷回避教育、HIV/AIDS 広報啓発活動の更な
る強化などが必要と考えられる。
(2)スーダン南部地域での活動との関連性
(イ)NGO 等によるスーダン難民への今後の支援は、カクマ難民キャンプ内での支援から
スーダン南部地域での支援へ移行していくため、支援活動の取捨選択が迫られることとな
る。
(ロ)カクマ難民キャンプにおける支援と帰還先であるスーダン南部地域における支援は
活動の継続性を確保する必要がある。特に教育及び保健分野における抗 HIV 薬の投与の継
続性等が重要である。
(ハ)スーダン南部地域においては経験・技術を持つ人材が不足しており、人材育成が必
要であるが、さらにスーダン南部地域で人材育成を可能にするための人材育成も必要であ
る。
(3)その他
カクマ難民キャンプの受け入れ地域であるトゥルカナ地域はケニアの中でも非常に貧し
い地域であり、地元住民は、地元経済、治安確保、教育、医療等のあらゆる点で、カクマ
難民キャンプに依存している。UNHCR はカクマ難民キャンプの多数を占めるスーダン難
民の帰還については数年を要すると予想しているが、地元住民が将来にわたって難民キャ
ンプに依存し続けることは困難であると思われるため、地元住民の自立支援活動の可能性
も検討が必要と思われる。
(資料)
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1.Map of Horn of Africa UNHCR・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.UNHCR Offices and Refugee Locations-In Sudan and the surrounding countries・・
3.Return and Reintegration of Refugees-Border Crossings, Way Stations, Possible
Returnee Routes Greater Equatoria・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.Kakuma Refugee Camp Overview・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.UNHCR Age Breakdown・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6.UNHCR Ethnic Composition・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.UNHCR Family Size Composition・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8.UNHCR Summary of Intended Place of Return by Province・・・・・・・・・・・・
9.UNHCR Willingness for Voluntary Repartriation・・・・・・・・・・・・・・・・・
10.WFP Critical Resource Needs・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11.Don Bosco Vocational Training Centre・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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