手術不能進行膵臓癌への四 次元強度変調放射線治療法 の確立 青山 英史[北海道大学大学院医学研究科病態情報学講座 高次診断治療学専攻放射線医学分野/講師] 白土 博樹[北海道大学大学院医学研究科病態情報学講座 高次診断治療学専攻放射線医学分野/教授] 石川 正純[北海道大学病院分子追跡放射線医療寄附研究部門 /特任准教授] 鈴木 恵士郎[北海道大学病院放射線部/助教] 岩川 真由美[独立行政法人放射線医学総合研究所フロンティア研究センター /放射線感受性予測チームリーダー] 今井 高志[独立行政法人放射線医学総合研究所フロンティア研究センター /ゲノム診断研究グループリーダー] 小橋 元[独立行政法人放射線医学総合研究所フロンティア研究センター /遺伝統計チームリーダー] 結果・成果 1)仮想プラン上での安全性検証 図1に最大の膵癌の放射線治療において最大のリスク 臓器となる十二指腸が50Gy以上照射される体積(V50) の比較を示す。動態追跡照射法を用いてPTV-margi n を3mmにすることで、 通常のPTV-margi nを1.5cm取っ た照射法よりも有意に十二指腸のV50を減らすことができ た(P<0.05)。更に強度変調放射線照射法を組み合わ せることで更なる照射量減量が可能であることが分かった (P<0.05) 〈図1 十二指腸が50Gy以上照射される体積の比較〉 背景・目的 現在手術不能膵癌への有効な治療法は確立されていない。 これは膵が放射線耐容線量の低い消化管に囲まれ、 更に呼 吸などに伴う動きによる影響で腫瘍を殺傷させるのに必要は 放射線量が照射できなかったことも一因である。 しかし動きの 影響を最小限とする四次元照射法と消化管線量を低下さ せ腫瘍への線量を増加させる強度変調放射線照射を組み 合わせることで有効な治療法を確立できる可能性がある。そ の安全性を検証する基礎実験を行うことが今回の研究の主 たる目的であり、 同時に遺伝子レベルでの治療感受性、 抵抗 性に関する因子を明らかにすること目的とする。 同様の検討を胃に対しても行った。胃は十二指腸よりも放 射線に対する耐容線量が高いため60Gy以上照射される体 積(V60) で検討した (図2)。 〈図2 胃が60Gy以上照射される体積の比較〉 内容・方法 1)過去に本院で治療された手術不能局所進行膵癌患者 5名のCT画像情報を使用して、腫瘍(Gross Tumor Vo l ume, GTV) と予防領域(Cl i n i ca lTarge tVo l ume, CTV) それぞれに通常の放射線治療で用いられる1.5cm マージンをとった領域=Pl ann i ng Targe tVo l ume (PT V)、 PTV1-1.5, PTV2-1.5を作成。四次元照射を想定 してPTV-margi nを3mmとしたPTV1-0.3、 PTV2-0.3 を作成。通常の4門照射でPTV1-1.5、 PTV1-0.3に60Gy (グレイ)、 PTV2-1.5、 PTV2-0.3に45Gy照射すると仮定 して、 それぞれの放射線治療計画をコンピュータ上で作成。 次にPTV1-0.3、 PTV2-0.3に上記線量を照射すると仮 定し、 7門照射、 Inve r se-p l ann i ng法を用いた強度変調 放射線治療法で治療計画を作成し、 これら4つのプランを 統計的に比較検討した。 2)1) での研究の成果をもとにして、 第1相臨床試験のプロト コールを作成する。 3)有害事象(副作用) と遺伝子の関係を検討する。 十二指腸の場合と同様に動体追跡照射法と強度変調放 射線照射法を組み合わせた場合に統計学的有意差をもっ てV60が減らせることが証明された。 2)手術不能局所進行膵癌への放射線線量増加第1相臨 床試験プロトコール作成 1) の基礎研究において動態追跡照射法と強度変調放 射線照射法を組み合わせた四次元強度変調放射線照 射法を用いることで、 今まで治療や臨床研究に用いられて きた放射線量(約50Gy) よりも高い放射線量を、 安全に腫 瘍に照射可能であることが証明されたことを踏まえて、昨 年10月より第三内科と協議を重ね、 第1相臨床試験プロト コールを作成した。プロトコールでは、予防領域への照射 線量を50Gy/25分割に固定し、腫瘍への照射量を一回 2.2Gyから、 2.4Gy、 2.6Gy、 2.8Gyへ増加することとした。 それにより腫瘍への物理学的総線量は55Gy、 60Gy、 65 Gy、 70Gyへ増加することになる。これは、膵癌が非常に 放射線抵抗性であると仮定し、 α/β=2.0Gyとして生物学 ― ― 46 的照射線量を計算すると、 58Gy、 66Gy、 75Gy、 84Gyと なり、 腫瘍を殺傷するのに十分な照射線量となる。 プロトコール作成に際して、 併用化学療法に何を用いる かが論点となった。 5-FU、 ゲムシタビン、 S-1が候補に挙がっ た。現在の“流行”はゲムシタビンであるが、 国内で行われ た臨床試験に於いて高い消化管毒性発生率を示し、一 方で5-FUに比べて明らかな優位性は確認されていない点、 S-1 (経口ピリミジン拮抗薬)では全身投与で使用される 80mg/m2/dayを使用しても消化管毒性が軽度である点 を考慮し (表1)、 S-1を採用することと規定した。 これにより、 90%の確率で存在するとされる肝臓の微小転移を早期よ り治療できることとなる。 消化管毒性 PFS(M) MS(M) (グレードⅢ,Ⅳ) ourna l 発表年 J 相 1997 Canc e r Ⅱ 5FU+RT (50.4Gy) 49 . 10.3 10% (Ⅲ) 2001 Canc e r (50.4Gy) 58 . Ⅱ CDDP+RT 77 . 27% (Ⅲ) (50.4Gy) 4.4 e r Ⅱ GEM+RT 2004 BrJCanc 95 . 24% (Ⅲ+Ⅳ) 2006 ASCO2006 Ⅰ 治療方法 S-1+RT (50.4Gy) N/A N/A 0%(80㎎/m2) 〈表1 国内で行われた臨床試験の結果〉 3)既にパイロットスタディーとして治療した症例の血液は放 射線医学研究所に送付した。プロトコール研究に登録し た全症例の血液も放射線医学研究所に於いて解析し、 合併症と遺伝子の関連性を明らかにする予定である。 今後の展望 1)の研究の結果をもとにして、 北海道大学医学部放射線 科から第三内科、 腫瘍外科、 腫瘍内科に協力を要請し、 第1 相臨床試験プロトコールを作成した。 4月の倫理委員会に於 いて承認を得られれば、 放射線線量増加試験を開始する予 定である。プロトコールにはノーステック財団による資金援助 を得たことを記載し、結果の発表に於いてもそのことを明記 する。 また、 プロトコール参加者の血液を放射線医学研究所 で解析し、 有害反応と遺伝子の関連性も検討する。 ― ― 4 7
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