湘南二宮オリーブ事件

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2015 年
〔1 月 分 〕
〇湘 南 二 宮オリーブ 事 件
知 財 高 裁 H27.1.28 H26(行 ケ)10152 審 決 取 消 請 求 事 件 (設 楽 隆 一 裁 判 長 )
第 29 類 「湘 南 地 方 二 宮 町 産 のオリーブを原 材 料 とするオリーブオイル」を指 定 商 品 とする本 願 商 標 「湘 南
二 宮 オリーブ」が商 品 の品 質 表 示 語 であるとして、法 3-1-3 号 により拒 絶 されたため、当 該 審 決 の取 消 しが求
められた。
原 告 出 願 人 は、審 決 取 消 事 由 として、神 奈 川 県 の二 宮 町 は今 回 報 道 されるまでオリーブの産 地 として無 名
であったので、自 他 商 品 識 別 力 があると主 張 した。
しかし、判 決 も独 占 適 応 性 や公 益 性 の観 点 から審 決 を支 持 した。特 に、オリーブオイル等 の食 用 油 では、
需 要 者 がその原 材 料 や産 地 に関 心 が深 く、商 品 名 の一 部 として産 地 が使 われていることなどから、本 願 商
標 は指 定 商 品 を表 したものであると判 断 した。
原 告 は、3 条 2 項 も主 張 したが、提 出 された使 用 証 拠 は「湘 南 オリーブ」のブランド化 を目 指 すことを報 道 す
る新 聞 記 事 などであったことから、本 願 商 標 自 体 が使 用 されたものではないとして、斥 けている。
〇JAS 事 件
知 財 高 裁 H27.1.29 H25(行 ケ)10294, 10295 審 決 取 消 請 求 事 件 (富 田 善 範 裁 判 長 )
第 39 類 「鉄 道 による輸 送 、航 空 機 による輸 送 ほか」を指 定 役 務 とし、日 本 航 空 が
所 有 する登 録 商 標 「JAS」(右 上 ) 及 び「JAS(ロゴ)」(右 下 )に対 するする不 使 用 取
消 審 判 が不 成 立 とされたため、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた事 案 である。
右 「JAS」商 標 は、日 本 エアシステムが平 成 4 年 に商 標 出 願 して登 録 されたものであり、そ
の後 、平 成 14 年 の旧 日 本 航 空 との経 営 統 合 により日 本 航 空 グループの一 員 となり、統 一 ブランドとして「日
本 航 空 」、「Japan Airlines」、「JAL」が使 用 されるようになった。その後 、商 号 変 更 や合 併 など経 て、右 「JAS」
商 標 は平 成 23 年 に被 告 日 本 航 空 の名 義 となった。
したがって、原 告 取 消 審 判 請 求 人 としては、「JAS」商 標 は過 去 3 年 以 内 に使 用 されていなかったとの認 識 で
あったため、本 件 不 使 用 取 消 審 判 を請 求 した次 第 である。
特 許 庁 審 判 部 が、日 本 航 空 による本 件 「JAS」商 標 (ロゴ)の使 用 を認 めたのは、要 証 期 間 内 において日 本
航 空 が提 供 した「航 空 機 による輸 送 」において使 用 された貨 物 空 輸 用 コンテナの側 面 に「JAS」ロゴ商 標 が表
示 されていたためである。
したがって、争 点 は航 空 機 による輸 送 において使 用 されたコンテナを、商 標 法 2 条 3 項 3 号 ~5 号 が「使 用 」
の定 義 として規 定 する「役 務 の提 供 に当 たりその提 供 を受 ける者 の利 用 に供 する物 」、「役 務 の提 供 の用 に
供 する物 」に該 当 するか否 かである。
3 号 、4 号 の条 文 を単 純 に読 むと、「その役 務 の提 供 を受 ける者 の利 用 に供 する物 」と規 定 されているので、
「役 務 の提 供 を受 ける者 」すなわち当 該 役 務 の需 要 者 が 利 用 する物 となるが、貨 物 の輸 送 を依 頼 した顧 客
自 身 は自 分 で直 接 コンテナに貨 物 を出 し入 れするわけではないので、コンテナは「役 務 の提 供 を受 ける者 の
利 用 に供 する物 」とは言 えないように見 える。原 告 の主 張 の一 つはこの点 である。
また 5 号 の「役 務 の提 供 の用 に供 する物 」については、コンテナは正 に貨 物 輸 送 業 務 の用 に供 されているの
で、これに該 当 するが、 5 号 はさらにこれに「標 章 を付 したものを 役 務 の提 供 のために展 示 する行 為 」を「使
用 」と定 義 しているので、商 標 が表 示 されたコンテナが空 港 内 において機 体 から搬 入 、搬 出 され、車 両 で牽 引
されて移 動 する過 程 を「展 示 」と見 るか否 かであるが、原 告 の主 張 は非 該 当 である。
而 して、裁 判 所 の判 断 はいずれの使 用 も肯 定 するものである。まず、貨 物 空 輸 用 コンテナが 3 号 、4 号 の
「その役 務 の提 供 を受 ける者 の利 用 に供 する物 」に該 当 するとした理 由 として判 決 は、≪貨 物 空 輸 用 コンテ
ナは、被 告 が「航 空 機 による輸 送 」の役 務 を提 供 するに当 たり、その役 務 の提 供 を受 ける者 である航 空 機 の
乗 客 や貨 物 代 理 店 から預 かった荷 物 を入 れるために利 用 するものであるから≫と説 明 されている。
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次 に、5 号 の「展 示 」について判 決 は、商 標 が表 示 された≪貨 物 空 輸 用 コンテナは、空 港 内 において、車 両
に牽 引 されて移 動 し、若 しくは機 体 に搬 入 又 は機 体 から搬 出 される過 程 で、同 役 務 の取 引 者 ・需 要 者 である
航 空 機 の乗 客 や貨 物 代 理 店 の従 業 者 により、本 件 使 用 商 標 1 または 2 の表 示 を含 め視 認 することが可 能 な
状 態 に置 かれていたから≫と説 明 されている。
5 号 の「役 務 の提 供 の用 に供 する物 」が、3 号 4 号 の「役 務 の提 供 に当 たりその提 供 を受 ける者 の利 用 に供
する物 」を含 む概 念 であることは条 文 が規 定 するとおりである、そうすると、3 号 4 号 があえて役 務 の提 供 を受
ける者 の利 用 に供 する物 を別 に取 り出 して規 定 した意 味 を考 える必 要 がある。
たとえば、注 解 商 標 法 【新 版 】上 巻 (青 林 書 院 、平 成 17 年 )によると、3 号 4 号 の使 用 例 としては、レストラ
ンで来 店 者 が食 事 に使 用 する食 器 類 に商 標 を付 する行 為 、乗 客 が乗 るタクシーに商 標 を付 する行 為 、顧 客
が持 参 する銀 行 のキャッシュカードに商 標 を付 する行 為 などが挙 げられ、需 要 者 である顧 客 自 身 がそのサー
ビスを受 けるために自 ら直 接 的 に使 用 し利 用 する物 が挙 げられている。
そうすると運 送 業 や引 越 し業 の場 合 でも、業 者 から顧 客 に提 供 される内 容 物 を梱 包 するための段 ボール
箱 に商 標 を付 する行 為 は 3 号 4 号 に該 当 するであろうが、顧 客 が業 者 とは無 関 係 の使 用 済 みの段 ボール箱
に内 容 物 を梱 包 し、業 者 に引 き渡 して運 送 を依 頼 するような場 合 に、輸 送 用 トラックに商 標 を付 する行 為 とな
ると、トラックは顧 客 が自 ら直 接 的 に使 用 あるいは利 用 するものではないので、3 号 4 号 に該 当 するかは議 論
があるところかも知 れない。
しかし、このようなトラックであっても、5 号 の「役 務 の提 供 の用 に供 する物 」であることは間 違 いなく、トラック
に商 標 を付 して走 行 することも上 位 概 念 である 5 号 の「展 示 」となるので、サービスマークの使 用 であることに
変 わりはない。
したがって、本 件 判 決 も 3 号 4 号 の顧 客 の利 用 に供 する物 の「利 用 」の意 味 を広 く解 釈 している以 上 、3 号
4 号 の顧 客 の利 用 に供 する物 を厳 格 に解 するか否 かの点 も、ほとんど実 益 がなくなってくるようである。ただし、
審 判 や裁 判 においては、3 号 ~5 号 を主 張 しておくことは必 要 であろう。
〇KIMURA(木 村 医 科 器 械)事 件
知 財 高 裁 H27.1.29 H26(行 ケ)10144 商 標 登 録 取 消 決 定 取 消 請 求 控 訴 事 件 (清 水 節 裁 判 長 )
全 身 麻 酔 器 や人 工 呼 吸 器 の分 野 で実 績 のある木 村 医 科 器 械 は、昭 和 41 年 に設 立 された医 療 機 器 の老
舗 メーカーであるが、平 成 23 年 4 月 に東 京 地 裁 により破 産 手 続 きが開 始 され、翌 平 成 24 年 4 月 に破 産 手
続 廃 止 決 定 に致 っている。
他 方 、原 告 は、木 村 医 科 機 械 器 具 の元 役 員 が平 成 23 年 1 月 に設 立 した
会 社 であり、それまで木 村 医 科 器 械 が使 用 してきた「KIMURA」商 標 (右 上 )
に類 似 する商 標 (右 下 )を平 成 23 年 12 月 に出 願 し、平 成 24 年 9 月 に商 標 登
録 した。
被 告 補 助 参 加 人 (被 告 は特 許 庁 長 官 )は、木 村 医 科 器 械 より平 成 23 年 1 月 に医 療 機 器 販 売 承 認 を承 継
する契 約 を締 結 し、平 成 23 年 6 月 には木 村 医 科 器 械 の破 産 管 財 人 より人 口 呼 吸 器 の在 庫 の販 売 を受 けた。
さらに、平 成 24 年 3 月 には破 算 管 財 人 との間 で木 村 医 科 器 械 の商 号 等 を含 む商 標 譲 渡 契 約 を締 結 した。
そして、平 成 24 年 3 月 に「KIMURA」商 標 (右 上 )を第 10 類 と第 37 類 で登 録 出 願 した。
而 して、被 告 補 助 参 加 人 は、原 告 登 録 商 標 に対 して、平 成 24 年 12 月 に法 4-1-10 号 および同 7 号 により
登 録 異 議 申 立 てを行 ない、平 成 26 年 5 月 に登 録 を取 消 す旨 の異 議 決 定 がされた。そこで、当 該 異 議 決 定 の
取 消 しが求 められたのが本 件 である。
争 点 は、木 村 医 科 器 械 が消 滅 したことにより、10 号 に規 定 する同 社 が使 用 してきた「KIMURA」商 標 の周 知
性 も消 滅 したか否 かである。
この点 に関 する判 決 の立 場 は極 めて明 瞭 であり、周 知 性 は権 利 者 の事 業 停 止 や消 滅 によって直 ちに消 滅
するものではなく、商 品 又 は役 務 について出 所 混 同 のおそれがある以 上 、10 号 が適 用 されるというものであ
る。
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すなわち、清 算 手 続 きが開 始 された場 合 でも、周 知 商 標 を含 めた営 業 譲 渡 等 によって譲 受 人 によって当 該
商 標 が使 用 され、周 知 性 が引 き継 がれる場 合 があるし、商 標 権 の承 継 がない場 合 であっても、中 古 市 場 にお
いて長 期 間 流 通 する商 品 や、耐 久 年 数 が長 く、頻 繁 にメンテナンスがなされる商 品 など、周 知 性 が比 較 長 く
市 場 に残 存 する場 合 などがあるからである。
そして本 件 の場 合 、木 村 医 科 器 具 の事 業 停 止 から原 告 商 標 の出 願 までに約 1 年 2 ヶ月 、登 録 査 定 まで約
1 年 11 月 しか経 過 していない上 、破 産 手 続 廃 止 まで破 産 管 財 人 によって「KIMURA」商 標 が付 された商 品 が
流 通 に置 かれていたことなどから、原 告 商 標 の出 願 時 、登 録 時 とも「KIMURA」商 標 の周 知 性 が消 滅 したとは
認 められないと判 断 している。
先 例 として、周 知 商 標 の権 利 者 である米 国 企 業 が消 滅 した後 で、日 本 企 業 が登 録 した商 標 登 録 に対 して、
周 知 性 が残 存 しているとして法 4-1-10 号 により登 録 無 効 としたモズライト事 件 (知 財 高 裁 H21.8.27 H20(行
ケ)10415 号 当 サイト参 照 )がある。
〇しあわせ牛事 件
知 財 高 裁 H27.1.29 H26(行 ケ)10185 審 決 取 消 請 求 控 訴 事 件 (清 水 節 裁 判 長 )
第 29 類 「牛 肉 、牛 肉 製 品 」を指 定 商 品 とする本 願 商 標 「しあわせ牛 」(標 準 文 字 )が、引 用 商 標 「千 葉 しあ
わせ牛 」により拒 絶 されたため、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた。
両 商 標 の相 違 は、地 名 を表 わす「千 葉 」の文 字 の有 無 であるが、ブランド牛 において、「(県 又 は地 域 名 の
表 示 )○○牛 」との表 示 の場 合 、「○○」の部 分 が特 徴 的 、あるいは特 定 の言 語 上 の意 味 合 いを持 つなどひと
まとまりの語 と看 取 できる場 合 、地 名 部 分 を省 略 として「○○牛 」と表 記 しても「(県 又 は地 域 名 の表 示 )○○
牛 」を認 識 できるので、本 件 引 用 商 標 においても「千 葉 」を除 外 した「しあわせ牛 」が要 部 となり、本 願 商 標 に
類 似 すると判 断 した。
〇全 国 共 通お食 事 券事 件
知 財 高 裁 H27.1.29 H26(行 ケ)10193 審 決 取 消 請 求 控 訴 事 件 (清 水 節 裁 判 長 )
第 36 類 「全 国 の加 盟 店 で利 用 可 能 な食 事 券 の発 行 」を指 定 役 務 とする本 願 商 標 「 全 国 共 通 お食 事 券 」
(標 準 文 字 )が、識 別 性 なしとして法 3-1-3 号 により拒 絶 されたため、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた。
本 件 には先 例 があり、登 録 商 標 「ぐるなびギフトカード 全 国 共 通 お食 事 券 」に対 して、本 件 原 告 (本 願 出 願
人 )が周 知 性 を理 由 に無 効 審 判 を請 求 したが不 成 立 とされ、知 財 高 裁 でも無 効 不 成 立 審 決 が支 持 されてい
る(知 財 高 裁 H26.10.30)。
本 件 においても本 願 商 標 が識 別 性 なしと判 断 され、3 条 2 項 についても、下 図 のように、「全 国 共 通 お食 事
券 」は常 に「ジェフグルメカード」と共 に併 用 されていて、単 独 で使 用 されたことはないため、3 条 2 項 も否 定 さ
れている。
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