日本進化学会ニュースvol.5 No.2

Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
1
第 6 回大会の御礼と報告
大会委員長・嶋田
正和(東大・総合文化・広域システム)
日本進化学会第 6 回大会は、東大駒場キャンパスを会場に、2004 年 8 月 4 日〜 7 日にわ
たって開催されました。企画されたシンポ・ワークショップ等は 42 企画に上り、参加者
総数は 650 名を越えて、盛会となりました。これも一重に、参加者のご協力の賜物であ
り、ここに改めて御礼申し上げます。
今大会の企画の特徴は、それぞれのシンポやワークショップが昨年の福岡大会よりも
さらに有機的に関連性を深め、関係のある企画はできるだけ同じ時間帯に並列させない
ように配慮したのですが、それでも、どの会場に行こうか迷うほどに興味深い企画が目
白押しでした。生物間相互作用と生物多様性に関する進化生態のテーマから、ゲノム科
学とバイオインフォマティクスのテーマ、さらには、表現型の可塑性などのように生態
学的なコンテクストと分子生物学的手法の連携、実験と理論モデルの連携が組み合わさ
った異分野融合のテーマもありました。とてもエキサイティングな企画が多かったと思
います。
また、驚いたのは、一般講演(ポスター発表)の盛況さでした。あらかじめ、集まる人
数を見越して、ポスターパネルの間隔は開け気味にして配置したのですが、連日ぎっし
りになるほど観衆が押しかけ、まるで芋を洗う状態でした。こんなくらいならば、さら
に部屋数を増やして配置するのだったと反省しました。毎日貼り変え制だったので、た
った 2 時間の発表時間で多くを見ようと、会場は余計に混雑したように思います。やは
り、ポスター会場の部屋数を 3 倍に増やして、全てのポスターが会期中は貼りっ放しに
できる方が望ましいでしょう。この点は次回大会に申し送ります。
今大会は、シンポなどの講演はすべてパソコンにプロジェクターをつないで投影する
方式で統一しました。昨年は、会場ごとに業者派遣の技術者が常駐して対応したのです
が、それには多額の予算を要します。今年は、プレビュールームであらかじめ XGA 形式
の液晶モニタに映してもらって、うまく映れば会場のプロジェクターでも問題ないこと
が確認できるようにしました。2、3 の講演でトラブルが起きたのですが、後で調べたら
これらは全てプレビューをやっていなかった人達でした。基調シンポで海外から招聘し
た講演者も、このプレビュールームであらかじめトラブルを見つけて設定を調整したの
で、本番ではうまく行っております。今後は、この液晶モニタを用いた簡便なプレビュ
ー方式を徹底させることで、安上がりでトラブルのない投影が達成できると思います。
ぜひ、次回以降の大会でも取り入れてみたらいかがでしょう。
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3
なお、評議員会で第 5 回大会委員長の矢原徹一氏と第 6 回大会委員長の私で相談して、
大会をスムーズに運営するためのマニュアル案をまとめ、評議員会で検討することにな
大会実行委員長
嶋田正和(東大・院・総合文化)
りました。さまざまな運営方式について年次大会ごとのバラツキをなくすために、ある
程度の統一マニュアルを設けるのは、ものごとをスムーズに運ぶためには有効と思われ
大会実行委員
青木誠志郎(東大・院・総合文化)、深津武馬(産総研)
長谷川眞理子(早大・政経)、長谷川寿一(東大・院・総合文化)
池内昌彦(東大・院・総合文化)、三中信宏(農環研)
伊藤元己(東大・院・総合文化)、西田睦(東大・海洋研)
岡田典弘(東工大・院・生命理工)
(ABC 順)
ます。上記の液晶モニタを使ったプレビュー方法だけでなく、例えば、非会員でシンポ
講演にだけ来た人からは参加費をいっさい徴収しない第 5 回のやり方がよいのか、ある
いはシンポ当日だけでなく全会期中を通した参加ならば参加費を取るという第 6 回方式
がよいのか、これは大事な問題です。さらには、参加登録や講演申し込み・要旨登録の
ウェブサイトをどのように運営するか、一般講演のポスター賞の審査体制を統一するこ
と、高校生のポスター発表を積極的に受け付けることを奨励するか否か、そういったこ
第 4 回日本進化学会賞
とについて対応を整備する予定でいます。次回は東北大学にお願いしておりますが、そ
のときまでに統一されたマニュアルがお披露目できればよいと考えております。
最後に、岩波書店、文一総合出版、クバプロ、東京化学同人、さくま書店、ボースの
各社には広告掲載や出展展示料のご協力を頂き、たいへんありがとうございました。ま
た、大会実行委員会の皆様には多大な労力をお願いしてすべて完璧に実行していただき、
学会賞選考委員長(学会長)・石川
時:2004 年 6 月 7 日
(月)15 時〜17 時
一般社会への教育啓蒙の実績と貢献につ
会
場:飯田橋ビル
いて審査を行った。
出席者:石川
地下 1 階
A 会議室
統(会長・選考委員長)、巌佐
なお、東京大学大学院総合文化研究科には共催に加わっていただき、会場借用料を無
、嶋田正和(事務幹事長)
、
庸(副会長)
に授与することが決まった。
三中信宏((独)農業環境技術研究所 主任研究官)
にて意見提出
議
その結果、第 4 回教育啓蒙賞を次の 2 名
、斉藤成也(評議員)
西田 睦(評議員)
欠席者:阿形清高(評議員)あらかじめ書面
料にしていただきました。ここに御礼申し上げます。
自薦・他薦で推薦のあった 3 名に対して、
日
誠にありがとうございました。参加者の皆さまにも、日本進化学会が今後もますます発
展しますように、ご協力をお願い申し上げます。
統
授賞報告
渡辺政隆(文部科学省科学技術政策研究所・上
席研究官)
以下、受賞者と授賞理由を報告する。
事:
1. 応募の状況を石川選考委員長より報告
2. 日本進化学会賞候補として自薦・他薦
◆ 第 6 回大会収支決算 ◆
収入
支出
参加費郵便振込
学会より大会援助金
当日参加費
2,085,000
300,000
1,198,000
会議設営費(看板、会場機器借用)
メディアテクニカル
277,581
1,000
20,000
要旨集印刷費
岩波書店
東京化学同人
クバプロ
文一
10,000
10,000
10,000
10,000
消耗品費
ボーズ
岩波書店
東京化学同人
さくま書店
総研大
30,000
30,000
30,000
30,000
10,000
収支(A − B)
情報にもとづく分子進化の研究」
五條堀
大会期間中
夏の学校期間中
3,805,360
授賞課題:「DNA 配列とゲノムレベルの
学会賞(木村賞)を、次の 2 名に授与する
ことを決定した。
要旨集代金
計(A)
審議を行った。その結果、第 4 回日本進化
0
ポスター郵送費(嶋田名で大学から発送)
出店
ステム研究機構 国立遺伝学研究所・教授)
0
31,360
広告掲載料
●五條堀 孝(大学共同利用機関法人 情報・シ
び関連分野における学術上の貢献について
ポスター印刷(長谷川研のプリンタ)
夏の学校弁当代入金
創文印刷
教室使用料(学部共催で無料化)
378,630
0
150,764
懇親会費
生協
750,000
弁当代金
生協
66,850
参加費返却金(=誤入金)
13,000
アルバイト謝金
黒字分を学会本体に還元
計(B)
686,200
1,460,000
3,783,025
22,335
木村資生博士記念学術賞
で推薦のあった 3 名について、進化学およ
佐藤
孝(国立遺伝学研究所・教授)
矩行(京都大学大学院理学研究科・教授)
五條堀孝博士の分子進化学、ならびに
バイオインフォーマティックスへの貢献は
枚挙に暇がないが、中でもひときわ光る研
3. 日本進化学会研究奨励賞候補者として
究の1 つは、1980 年代中頃になされたレト
自薦・他薦で推薦のあった 4 名について、
ロウイルスの進化速度を正確に推定した研
進化学および関連分野における研究の発展
究である。このウイルスの進化速度が真核
将来性について審議を行った。その結果、
生物のそれの 100 万倍も高いという発見
第 4 回研究奨励賞を次の 3 名に授与するこ
は、基礎分野のみならず、抗ウイルスワク
とを決定した。
チン開発の現場などにも大きな衝撃を与え
宮
た。また、ゲノムレベルでの進化比較解析
正樹(千葉県立中央博物館・上席研究員)
村上哲明(京都大学大学院理学研究科・助教授)
を行い、バクテリアのゲノムが非常に不安
熊澤慶伯(名古屋大学大学院理学研究科・講師)
定であることを見いだし、
「進化的可塑性」
4. 日本進化学会教育啓蒙賞候補者として
の概念をいち早く提唱したのも五條堀博士
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4
である。最近では、同博士はこのようなゲ
てきたシダ類は多くの隠蔽種を含み、近縁
ノムレベルの大量情報比較解析を脳・神経
関係を判別するのが容易ではなかったが、
系の進化的研究にもとり入れ、国際的に
rbcL 遺伝子の DNA 配列解析と人工交配実
注目される業績を次々と挙げている。
験の組み合わせにより、さらには生殖隔離
●佐藤矩行(京都大学理学研究科・教授)
の様式も取り入れて、シダの分子分類学を
授賞課題:「ホヤ類の進化発生学の展開」
新しく展開した。
佐藤矩行博士の主たる研究業績は、脊
●熊澤慶伯(名古屋大学大学院理学研究科・講師)
索動物の起源と進化を 18S rDNA の配列比
「アロワナ科魚類の分子生物地理学の発展」
較に基づいて解析した研究に始まるが、そ
淡水性魚類アロワナ科を対象として、各
の同博士は発生に照準を定めつつ、脊索
大陸のミトコンドリア DNA の比較解析に
動物の進化研究を以下の 2 つの方向へと発
より、ゴンドワナ大陸の分裂とその後の大
展させた。
陸移動がこのアロワナ科の分布と系統に大
1)脊索動物の進化と発生メカニズムの解
きく影響することを見出し、分子生物地理
析: T-Box 遺伝子であるBrachyury の研究
学の研究を発展させた。
を通じて、脊索動物の起源と関連しつつ
教育啓蒙賞
脊索形成に関わる形態形成の運動の重要
性を指摘した。
●三中信宏(農業環境技術研究所・主任研究官)
10 年にもわたる Evolve-ML の見事な運
展開:佐藤博士のグループは、国立遺伝
営を行い、進化学の若手初心者に対して
研およびアメリカ JGI と共同して、カタユ
有効な情報を広く提供し、教育啓蒙の貢
ウレイボヤ・ドラフトゲノムを解析し、そ
献が大きいと評価された。
れに含まれる15、852 の遺伝子の中で、発
●渡辺政隆(文部科学省科学技術政策研究所・
生に関わる転写因子、シグナル分子などの
上席研究官)
「長年の進化啓蒙書の執筆・翻訳」
のデータを他の動物のゲノム情報と比較す
S. J. グールドの一連の進化エッセイ・
ることによって、脊索動物を特徴づける遺
シリーズなど、多くの進化学教養書の翻訳
伝子を明らかにした。このように、同博士
し、また『DNA の謎に挑む−遺伝子探求
はいわゆる Evo-Devo 研究をリードする成
の一世紀』等の初心者への教育効果の大き
果を挙げつつある。
な著書の出版など、進化学の教育啓蒙に
研究奨励賞
大きく貢献した。
●宮
正樹(千葉県立中央博物館・
上席研究員)
「魚類の大系統進化の解明」
ミトコンドリアゲノムの全長配
列を迅速に決定する方法を開発
し、これを利用してそれまで決
着のつかなかった高次真骨魚類
の大系統解明への道を開いた。
●村上哲明(京都大学大学院理学研究
科・助教授)
「シダの分子分類学と種分化機構
の新展開」
これまで分類学的に認識され
基調シンポジウム
8 月 5 日(木)900 番講堂
○長谷川寿一(東大・院・総文)
、長谷川眞理子(早大・政経)
、諏訪元(東大・総研博)
われわれ人類は、進化の産物であり、最近縁種のチンパンジー・ボノボグループとゲノム情報
にして約 1 %、分岐年代にして約 500 万年しか違わない。しかし、現代人(ホモ・サピエンス)
が、知性、言語、文化などにおいて他の大型類人猿と大きく異なることもまた自明である。こ
のシンポジウムでは、霊長類学、古人類学、ゲノム科学の立場から、ヒトの進化に関する最新
の研究成果について紹介していただき、われわれ自身を進化的に理解する機会としてみたい。
Leslea J. Hlusko(University of Illinois at Champaign)
「Integrating the Genotype and Phenotype in Hominid Paleontology」
Tim D. White(UC Berkeley)
「The Longest Record: Investigating Human Origins and Evolution in Ethiopia s Afar Depression」
Tetsuro Matsuzawa(Kyoto Univ.)
「Cognitive Development and Mother-infant Bond in Chimpanzees」
Saitou Naruya(National Institute of Genetics)「Human and Ape Genome Comparison as a
Model for Evolutionary Genomics of Closely Related Species」
「10 年にわたる Evolve-Ml の見事な運営」
2)ホヤゲノムの解析と比較ゲノム科学の
遺伝子を正確に同定した。また、これら
5
【SS1】1 限目:進化学入門
矢原徹一(九大・院・理)
昨年の「夏の学校」の復習をかねた入門講座です。まず、花と昆虫の関係を題材に、表現型
の進化について解説します。次に、表現型の進化の背景にある、遺伝子の変化について、基礎
的な解説をします。突然変異(遺伝子重複を含む)
、淘汰、遺伝的浮動をとりあげます。ここは、
昨年の「夏の学校」と重複する内容ですが、昨年とは別の講師が違ったやり方で説明しますの
で、昨年の受講者にも役立つはずです。最後に、表現型の進化と遺伝子の変化をどう関連づけ
ればよいかについて、入門的な解説をします。
【SS2】2 限目:性の進化
矢原徹一(九大・院・理)
まず個体淘汰と群淘汰の考え方を解説し、
「有性生殖は種族維持のために必要」という、広く
信じられている説明が間違いであることを紹介します。セイヨウタンポポ・ギンブナなど、雌だ
けで無性的に増えている生物がいます。これらを例にあげ、有性生殖は増殖において無性生殖に
比べて不利な点があることを説明します。その不利を補う利点についての仮説として、対有害変
異説と対病原体説を紹介します。これら 2 つの仮説との関連で、遺伝的変異の維持機構(突然変
異の新生と淘汰による除去のバランス、および平衡淘汰)について解説します。2 つの仮説を支
持する証拠を紹介し、有性生殖が広く見られる理由には、多元的な説明が必要であることを説
明します。
【SS3】3 限目:種分化−その実態と理論
嶋田正和(東大・院・総文)
新たな種が形成されたことをもって「進化が起こった」と捉える誤解は、中等教育の教師か
ら専門の生物学研究者に至るまで、比較的広く見られます。この誤解から派生して、新種の形
成は非常に長時間の過程であるため、進化を観察・検証することは不可能であり、ダーウィン
の自然淘汰説はまだ検証されていない、というさらなる誤解を生んでいるといえるでしょう。正
しくは、最もミクロな時間スケールで起こっている進化は、毎世代ごとに生物集団に生じている
遺伝的構成の変化であり、これが積み重なって、新種の分化・形成、そして多様な分類群の栄
枯盛衰の進化ダイナミズムをもたらすのです。この講義では、種分化とはどのような進化プロセ
スなのかの一般的理解(異所的種分化/同所的種分化、交配前隔離/交配後隔離)を説明し、
さらに、急速な種分化の途上にある形成過程の種群の実態はどのようなものか、そして、それら
を表す種分化の進化モデルの最新理論を、平易に紹介します。
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6
開催日
会場
限
4A1:(S)
1限
8:50〜10:50
2限 11:00〜13:00
3限 一般講演(ポスター発表)
4限 16:00〜18:00
^ 責任者、提案者
0 趣旨
E
「講演タイトル」講演者(所属)
S:大会企画シンポジウム、K:公募式シンポジウム
W:ワークショップ、G:自由集会
●
●
●
4 日 ●●●
真核生物における遺伝子水平転移の実態
深津武馬(産総研)
近年の微生物ゲノム解析の進展から、原核
生物の間で遺伝子水平転移がきわめて頻繁
かつダイナミックに起こっていることがわ
かってきた。一昔前までは予想もされなか
ったことだが、現在では微生物における新
機能の獲得やゲノム再編成に、遺伝子水平
転移がきわめて重要な役割を果たしてきた
ことが定説となっている。それでは、多細
胞の真核生物ではどうなのか? ミトコン
ドリアや葉緑体などの細胞内小器官の遺伝
子を除けば、動物や植物における遺伝子水
平転移はいまだ例外的な現象であるとみな
されている。しかし近年、微生物から動植
物への転移遺伝子の実例も報告されるよう
になってきた。本シンポジウムではそうい
った最新の研究成果について紹介する。
「土壌細菌 Agrobacterium から植物への遺
伝子水平移行」青木誠志郎(東大・院・総文)
「ホヤの仲間は大昔バクテリアから貰った
遺伝子を用いてセルロースを作っている」
中島啓介(京大・院・農)
「カイコゲノムから発見された細菌・バキ
ュロウイルス型キチナーゼ:その性状と進
1
1, 2
化的起源」○大門高明 、勝間進 、岩永
1, 3
1
将司 、嶋田透 (1.東大・院・農、2.現・京大・
院・理)
「ミドリゾウリムシ概日リズム発現におけ
る共生クロレラの調節」三輪五十二(茨城
放送大・自然の理解、3.東大・院・総文)
難培養性微生物:
地球上最大の生命多様性のフロンティア
深津武馬・鎌形洋一(産総研・生物機能)
「言語の段階的進化仮説の検証」正高信男
(京大・霊長研)
「言語動力学によるクレオール化のシミュ
レーション」○中村誠、橋本敬、東条敏
(北陸先端科技大)
「 Language, Dynamical Category and
Active Perception 」池上高志(東大・院・総
文)
「総合討論」
大・理)
たとえば一握りの土の中にすら、何千何万
種もの微生物が含まれていることが DNA
解析からわかる。ところが、そのうち生物
学的実体を把握できて、種名を同定できる
ものは 1 %にはるかに満たない。なぜか?
それは自然界における大部分の微生物は現
在の技術では単離培養が困難だからであ
る。微生物分類学の分野では、遺伝子デー
タから見て未記載の門(phylum)を構成
するとみられる微生物群が 30 近く認識さ
れており、その数は現在も増え続けてい
る。これほどの生命多様性のフロンティア
が我々のごく身近に広がっているのだが、
一般の人々はもとより、大多数の生物学者
もこの事実を認識していないように思われ
る。本シンポジウムでは広大な未踏査の領
域「難培養性微生物」研究の最前線につい
て紹介し、このような現状認識を共有する
ことをめざす。
「細菌の新門の発見:微生物学における分
類とは」花田智(産総研)
「嫌気微生物共生系の世界」鎌形洋一(産
総研・生物機能)
「排水処理システム複合微生物系の網羅的
系統解析」関口勇地(産総研・生物機能)
「昆虫類の内部共生微生物:見えない存在
が担う多様な生物機能」深津武馬(産総研・
生物機能)
人工生命における創発的進化
言語進化
橋本敬(北陸先端大)・岡ノ谷一夫(千葉大)
言語、あるいは、言語能力はヒトのひとつ
の形質と考えられる。この能力はいつ、な
ぜ、どのようにして進化したのだろうか、
そして、初期言語からいかにして複雑化・
構造化し現在我々が話す言語に至ったか。
これが、言語の起源と進化の問いである。
言語進化は、生物進化、学習、文化進化と
いう時空間スケールの異なるダイナミクス
が相互作用する進化現象である。このよう
な言語の進化という現象を理解するために
は、進化生物学や言語学のみならず、動物
のコミュニケーションシステムに関する動
物行動学、言語能力や言語獲得に関する認
知科学・脳神経科学、異なる時空間スケー
ルがからむ複雑なダイナミクスを扱う理論
的・構成論的研究など、さまざまな分野・
観点からの研究が必要である。本ワークシ
ョップでは、そのような研究の一端を紹介
し、言語進化研究の進展について議論した
い。
「言語進化ワークショップ:イントロダク
ション」○橋本敬(北陸先端大・知識)、岡ノ
谷一夫(千葉大・文、JST、理研・ BSI)
「構成論的手法による言語進化研究−カテ
ゴリー構造の発達」橋本敬(北陸先端大・知
識)
院・薬、3.現・東レ先端研)
「共生細菌から宿主昆虫へのゲノム水平転
1
2
移の発見」○今藤夏子 、二河成男 、嶋田
3
1
正和 、深津武馬 (1.産総研・生物機能工学、2.
貴久(岡山大・農)
「生物時計に支配される交尾行動リズムと
種多様性」石田直理雄(産総研)
「昆虫の光周性機構―概日時計との関係お
よび光受容器」沼田英治(大阪市大・院・理)
「シアノバクテリアにおける概日時計によ
る生命活動の時間的統合」近藤孝男(名大・
7
概日リズムと生物進化
宮竹貴久(岡山大)、石田直理雄(産総研)
生物は昼夜や季節といった環境の周期性を
体内に取り込みつつ進化してきた。本シン
ポでは環境周期への適応メカニズムのう
ち、近年分子機構の理解が急速に進んでい
る概日リズムについて、種分化、生物多様
性、光周反応、生理機構、共生といった生
物進化との関連性から議論を提供したい。
「時計遺伝子の多面発現と生殖隔離」宮竹
「スタックを用いた神経回路モデルによる
埋め込み文の獲得」中釜勇人(理研・ BSI)
「言語の起源・進化研究と生成文法理論」
池内正幸(津田塾大・学芸)
「小鳥の歌とヒトの言葉:象徴機能が時系
列行動にどう影響したか」岡ノ谷一夫(千
葉大・文、JST、理研・ BSI)
「ニューロイメージングからみた言語起源
の研究」西谷信之(国立身体障害者リハビリテ
ーションセンター研)
○佐山弘樹(電気通信大)・池上高志(東大)
進化を論じる際には多くの場合、遺伝・変
異・選択などの現象をapriori に与えられた
素過程として仮定する。しかしこれらの素
過程は、いずれも突き詰めるとより低レベ
ルの構成要素の相互作用の結果として生じ
る創発的な現象に過ぎない。本会合では、
こうした低レベルの要素から進化過程全体
を創発的に再構成する人工生命モデルにつ
いて議論し、その現状と進化学全体への貢
献の可能性について考察することを目的と
する。
「グラフオートマトンによる自己複製過程
1
2
の自然な表現」○富田康治 、村田智 、黒
1
河治久 (1.産総研・知能システム、2.東工大・
院・総合理工)
「自己複製ループの時空間パターンと進化」
鈴木啓介(東大・院・総文)
「セルオートマトン上における自己複製ル
1, 2
ープの複雑な遺伝的進化」
Chris Salzberg 、
3
1
Antony Antony 、○佐山弘樹 (1.電通大・人
間コミ、2.東大・院・総文、3.Section Computational Science, Universiteit van Amsterdam, the Netherlands)
「人工化学反応系を用いた原始的な細胞群
体のモデル」小野直亮(ATR-NIS)
「Why Artificial Cells Don t Evolve Much 」
Duraid Madina(Univ. of New South Wales, Australia)
生殖隔離と自殖
〜野生生物の集団遺伝学による解析法〜
○清水健太郎(ノースカロライナ州立大)・高
橋文(遺伝研)
コメンテーター:矢原徹一(九大)
生殖システムにはたらく自然選択は、理論
面から様々に議論されてきた。本ワークシ
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ョップでは、野外集団解析と実験を交え
て、生殖隔離や自殖の研究を紹介する。と
くに、進化研究の核としての、機能・中立
遺伝子座を用いた集団遺伝学の威力を強調
したい。他分野の方々にも向けて、遺伝子
多様度π、Fay&Wu のH、Ka/Ks 比、Coalescent theory、Fst など、手法の紹介にも
重点をおく。
「分子集団遺伝学の解析法:表現型進化を
もたらしたシロイヌナズナ有性生殖関連の
1, 2
遺伝子を例として」清水健太郎 、
1
Michael Purugganan (1.Dept. Genetics, North
Carolina State Univ.、2 京大・院・理)
「鏡像遺伝子による交配前隔離と新種の進
化」○浅見崇比呂(信州大・理)、上島励(東
大・院・理)
「熱帯高木フタバガキの近交・遠交弱勢と
近距離サブ集団間の分断化選択」○田中健
1
2
3
2
太 、中川弥智子 、井鷺裕司 、中静透 (1.
北大・ FSC ・苫小牧研究林、2.地球研、3.広大・
院・国際協力)
「ショウジョウバエにおける交尾前生殖隔
離の分子機構とその進化」高橋文(遺伝研・
集団遺伝)
正の自然淘汰
○遠藤俊徳(北大・院・情報科学)・鈴木善幸
(遺伝研)
正の自然淘汰は、遺伝子機能や形態の変化
に強い影響を与えると考えられる種類の淘
汰である。分子レベルの進化においては、
正の自然淘汰が数理的に扱いやすく、これ
まで多くの検定方法が考案されてきた。そ
してこれらの方法を種々の生物のさまざま
な遺伝子に応用することで、正の自然淘汰
が働いた痕跡がいくつも見出されてきた。
本ワークショップは、分子レベルにおける
正の自然淘汰に関する最新の知見を主題と
して取り上げ、またこれらの情報の統合、
正の自然淘汰の一般性、今後の展望につい
ても議論したい。
「正の自然淘汰と標準化系統樹」遠藤俊徳
(北大・院・情報科学)
「 New Methods for Detecting Positive
Selection at Single Amino Acid Sites 」鈴
木善幸(遺伝研)
人間家族内の葛藤
−進化心理学的アプローチ
長谷川寿一(東大・院・総文)・長谷川眞理
子(早大・政経)
人間における家族は、配偶関係にある夫婦
とその子たちからなる核家族を基本とし、
核家族メンバーの血縁者たちからなる拡大
家族まで含む社会集団である。夫婦をのぞ
くメンバー同士は一般に血縁関係にあり、
「家族の絆」は非常に強い。しかし、生計
を同じくする集団であるがゆえに、同一資
源をめぐってさまざまな競争的事態がしば
しば生じる。また、夫婦間には他の動物で
見られるのと同様な性的な対立も生まれ
る。本シンポジウムでは、進化理論から予
測される家族内葛藤のパターンを、東アジ
ア圏(日・中・韓)の実証データと突き合
わせて検証する。本シンポジウムは第28 回
国際心理学会(北京)のサテライト・シン
ポジウムとして行われる。
「Birth order and familiar sentiment: Data
from Japan(出生順位と家族感情:日本人
データに基づく進化的考察)
」小林哲生(東
て、脊椎動物の系統進化史は、これらのア
プローチをさらに強力に押し進め、その成
果を包括して理解される必要がある。しか
し、古生物学や分子進化学といった従来
別々の学問分野と考えられていた手法を基
盤にする研究者が交流する機会は、日本に
おいてまだそれほど多くない。このシンポ
ジウムでは、脊椎動物の高次系統関係を分
子的に研究し、地球環境の変化と系統進化
の関係を探ろうと試みている研究者と、日
本や海外の保存のよい化石産地で実際に化
石研究に携わり、その成果をもとに脊椎動
物の系統進化や古環境の解明を試みている
研究者が、それぞれの話題を提供する予定
である。
「爬虫類の初期系統に関する分子的研究」
1
1, 2
3
○熊澤慶伯 、Sayed Amer 、董聳宇
(1.名大・院・理、2.カイロ大・理、3.名大・理)
「中生代の生態系変遷と脊椎動物進化」○
真鍋真(科博)、伊左治鎮司(千葉県立中央博)
「有顎動物の系統と四足動物の起源」岩部
直之(京大・院・理)
「海生哺乳類の系統進化と古環境変動に伴
うギルドの再編」甲能直樹(科博・地学)
「大陸移動と哺乳類の進化」○長谷川政
美、曹纓(統数研、総研大・先導科学)
大・院・総文)
「Adaptive characteristics of spousal homicide in the 18th, 19th, 20th century Korea
(出生順位と家族感情:日本人データに基
づく進化的考察)」Heesun Hwang,Jae C.
Choe(Soeul National University)
「Differential parental investment towards
sons and daughters: Universal patterns
and a case study in Japan(息子と娘に対
する親の差別的投資:普遍パターンと日本
についてのケーススタディ)
」長谷川眞理
子(早大・政経)
脊椎動物の系統進化と地球環境の変遷
熊澤慶伯(名大)・真鍋真(科博)
我々脊椎動物の系統進化の歴史は、古生
代・中生代・新生代に堆積した様々な地層
から得られた化石に関する古生物学的情報
に、現生する生物の骨学的・解剖学的特徴
から得られる情報を加えることで構築され
てきた。また、最近の分子系統学の発展に
より、現存するあるいは近過去に絶滅した
脊椎動物の系統関係や分岐年代を独立に推
定することが可能になった。21 世紀におい
動物系統地理学の新しい展開
西田睦(東大)・鈴木仁(北大)
言うまでもなく、地球上に展開する生物界
の形成過程を解明することは、進化学徒の
大きな目標である。生物相の成り立ちとい
う問題は、上記課題にとって最も基礎的な
ことがらのひとつであるが、DNA データ
という共通の尺度を得て、生物相形成史の
構築に向けて生物群を超えた総合が可能に
なってきた。そこで、この可能性の追求を
展望するため、本シンポジウムを企画し
た。日本の生物相の成り立ちについて、ユ
ーラシアとくに東アジアの生物相の変遷の
中で理解することを目指して精力的に進め
られている分子系統地理学的研究の成果
を、いくつかの動物群から報告してもら
い、総合的な生物相形成史の構築に向けて
議論する場としたい。また、分子系統地理
学をより強力に進めるための新しい解析手
法等についても、有意義な情報交換ができ
ればと考えている。
「動物系統地理学の新しい展開:その基盤
と展望」西田睦(東大・海洋研)
9
「大陸から日本列島へ:分子系統による甲
虫類の進化生物地理学の試み」曽田貞滋
(京大・院・理)
「東アジアの淡水魚類の分子系統地理学」
渡辺勝敏(京大・院・理)
「東アジア島嶼域における Gekko 属ヤモリ
の分子系統地理:多重分散と種分化の歴
史」戸田守(京大・理)
「哺乳類の系統地理学的解析における一塩
基多型(SNP)の利用」鈴木仁(北大・院・
地球環境)
共進化が促進する表現型の多様性:
実証的研究の展望
曽田貞滋(京大・理)
生物多様性の進化史の中で、共進化は主要
な役割を果たしてきた。進化生物学では、
動物・植物間の敵対・相利関係、病原体と
宿主、あるいは雄と雌のコンフリクトを含
めた多様な共進化についての研究が進んで
いる。この企画は、とくに共進化の「実証
的側面」について、近年得られた新しい成
果や未開拓の領域についてのディスカッシ
ョンを促進することを目的とする。
「極端な共進化形質の起源:ツバキとシギ
ゾウムシの軍拡競争」○東樹宏和、曽田貞
滋(京大・院・理)、長谷川匡弘(九大)
「複数の送粉者によってもたらされる花形
態の多様化」○堂囿いくみ(都立大・理・牧
、日江井香彌子(富士市)、牧雅之
野標本館)
、鈴木和雄(徳島大・総合科学)
(東北大・理)
「日本産チャルメルソウ節の近縁種間相互
作用がもたらす多様性:地理的に変化する
送粉者をめぐる競争と浸透交雑のパター
ン」奥山雄大(京大・院・人環)
系統解析のアルゴリズムとその応用
中村政隆(東大・院・総文)・斎藤成也(遺伝
研)
塩基列もしくはアミノ酸列をデータとして、
そこから系統樹(phylogenetic tree)を構
築するアルゴリズムは、与えられたデータ
のもとでの各二分木のコストを定義してコ
スト最小の二分木を求める、という 2 つの
タイプに大別できる。組み合わせ最適化の
理論の分野で NP −完全、NP −困難な問
題にとりくむとき、解空間の中で局所探索
を繰り返すタイプのアルゴリズムがきわめ
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
10
て広く研究されている。それらは次の要素
から構成される。
(1)解空間と各解に対す
るコスト関数を与える。
(2)解の近傍を定
義する。
(3)初期値を定める。
(4)探索ル
ールと打ち切り条件を定める。
距離行列法は別にして、生物学の文献に
現れる樹形探索をともなうアルゴリズムは
上の最適化問題のクラスの特別な場合であ
る。生物学の関連の文献を読むと、上の最
適化アルゴリズムの各要素の取り方とし
て、たとえばコスト関数としては、最小二
乗法、最小進化法、最大節約法、最尤法
などが述べられている。探索のための解の
近傍の定め方にもいろいろ言及がある。し
かし、探索ルールと打ち切り条件について
は、既存の生物学の文献の中にはまったく
記述が見あたらないように見える。逆に、
組み合わせ最適化の分野で困難な問題に取
り組むときには、この探索ルールのところ
をどのようにするかが最大の課題になって
いる。そのために、メタヒューリスティッ
クアルゴリズムの名の下に知られている一
群の戦略、遺伝的アルゴリズム、タブー探
索、進化的アルゴリズムなどの戦略が詳細
に研究されてきた。これらを、系統樹アル
ゴリズムの樹形探索の部分に活用して実際
に効果的であるかどうかを、これからの研
究課題として考えてみたい。少なくとも、
探索ルールが素朴な探索の繰り返しだけで
は最適解に近づくことは非常に困難であ
る、ということが組み合わせ最適化の分野
での常識なので、この点について、生物学
の専門の方々の議論に一石を投じたい。
「環境由来 DNA 配列に基づく培養困難な
微生物群の系統推定のための新規な情報学
的手法:自己組織化地図法(Self-Organiz1, 2
3
ing Map)
」○阿部貴志 、池村淑道 、中
2
2
4
川智 、上月登喜男 、木ノ内誠 、金谷重
5
1
彦 、菅原秀明 (1.遺伝研・ DDBJ、2.(株)ザ
ナジェン、3.総研大、4.山形大・工、5.奈良先端大)
「遺伝子変換を検出する手法の開発とゲノ
1
2
ムデータへの適用」○江澤潔 、太田聡史 、
1
斎藤成也 (1.遺伝研・集団遺伝、2.理研・ BRC)
「スプリット分解法の数理とその拡張」平
井広志(京大・数理解析研)
「テナガザルにおけるABO 式血液型遺伝子
1
1
2
の進化」○北野誉 、野田令子 、竹中修 、
1
斎藤成也 (1.遺伝研・集団遺伝、2 京大・霊長研)
「分子系統樹アルゴリズムをメタヒューリ
スティックアルゴリズムの観点から考え
る」○中村政隆(東大・院・総文)
「光合成のクロロフィルの進化」小林正美
(筑波大)
ベイズ進化学
進化研究における新しい計算統計学手法の
利用
三中信宏(農環研)
近年、コンピュータを用いた計算統計学の
手法が大幅に進展し、進化研究においても
最尤原理を踏まえた経験ベイズ法・階層ベ
イズ法などの先端的な統計学がモデルベー
スの推論の基盤として確立されてきた。も
ともとこれらの手法は多大な計算量を要求
するもので、それが現実データへの適用を
これまで阻んできたのだが、最近のマルコ
フ連鎖モンテカルロ法(MCMC)の開発
により、計算に関するかぎりかつての障壁
は乗り越えられつつある.今回のシンポでは
分子進化学・系統推定論・集団遺伝学・水
産資源学など、近年ベイズ的手法が新たに
適用されてきた研究分野に焦点を当て、計
算統計学の適用を理論と実践の両方から議
論する場としたい。
「進化・適応の系統間の分布、遺伝子間の
1
1
分布」○岸野洋久 、Leonardo Martins 、
2
Jeffrey Thorne ( 1.東 大 ・ 院 ・ 農 、 2.NC 州 立
大・バイオインフォマティクス)
「大規模データ解析から明らかになった分
子系統学におけるベイズ推定の効用、問題
点、そしてその解決策」宮正樹(千葉県立中
央博)
「ベイズ統計と MCMC :分集団構造と空
間分布の解析を通じて」北門利英(海洋大・
海洋科学)
「光合成の光化学系Ⅱの進化」沈建仁(岡
山大・院・自然科学、JST さきがけ)
「光合成の電子伝達系の進化:シトクロム
b6f 複合体・プラストシアニン・フェレド
キシン」栗栖源嗣(東大・院・総文)
「植物のクロロフィル合成酵素の進化」増
田建(東工大・院・生命理工、東大・院・総文)
色覚進化研究の最前線:
分子と生態の接点を求めて
河村正二・齋藤慈子(東大)
色覚の進化は無脊椎動物に起源をもつとさ
れるが、動物群毎に際立った多様性があ
る。この多様性には、網膜視細胞中の光受
容分子である視物質が関わっているが、近
年の研究により、視物質レパートリーの多
様性のメカニズムや、視物質の細胞特異的
発現をもたらす発現調節機構が明らかにな
ってきた。さらに視物質遺伝子の分析から
色覚型判定を行い、行動観察を通して、色
覚の有利性や適応を探る研究も進展してい
る。このように色覚は分子レベルから生態
レベルまでの進化を統一的に理解する絶好
の研究対象である。本ワークショップで
は、霊長類をはじめさまざまな分類群にお
ける色覚の進化研究の最前線について情報
交換を行いたい。
「視物質オプシンサブタイプの探索からオ
プシン発現制御機構及び色覚と関連した行
動生態の進化研究へ」河村正二(東大・院・
新領域)
光合成:色素とタンパク質の進化と未来
池内昌彦(東大)
光合成は植物の根幹を支える重要な機能で
あると同時に、地球生態系に大きな影響を
与えて、生物の進化全体にも大きな影響を
与えてきた。したがって、このような光合
成機能の進化的側面を理解することは光合
成生物の進化だけでなく他の生物や地球環
境の進化を理解する上でも重要である。今
回は、光合成の進化の初期段階としてのク
ロロフィルの化学的必然性、光化学系や電
子伝達系の進化における位置づけ、植物の
環境応答におけるクロロフィル合成系の進
化的側面のをそれぞれの最新の研究から議
論したい。
「旧世界ザルと類人猿の色覚異常」○三上章
1
2
2
3
允 、齋藤慈子 、長谷川寿一 、大西暁士 、
3
3
4
今井啓雄 、七田芳則 、花澤明俊 、寺尾
5
5
5
健一 、小池智 、細沼(井田)美樹 、山
6
7
7
8
森哲雄 、小松英彦 、鯉田孝和 、竹中修 、
8
1
1
後藤俊二 、加藤啓一郎 、近藤彩 、北原
8
9
9
健二 、伊藤真一 、小川尚 、寺尾恵治 10、
11
11
Puti Angelica 、 Arpan Jayadi 、 Kanthi
11
11
Arum Widayati 、Bambang Suryobroto 、
12
13
Puttipongse Varavudhi 、寺本研 、鵜殿
13
13
13
13
俊史 、江見美子 、小林久雄 、森裕介
(1.京大・霊長研、2.東大・院・総文、3.京大・院・
理、4.九工大、5.都神経研、6.基生研、7.生理研、8.
慈恵医大、9.熊本大・医、10.筑波霊長類セ、11.イ
ンドネシア・ボゴール農科大、12.タイ・チュラロン
コン大、13.三和化学研・熊本霊長類パーク)
「東アフリカ産カワスズメ科魚類における
11
1
ロドプシンの適応的進化」○菅原亨 、寺
2
3
4
井洋平 、今井啓雄 、George F.Turner 、
5
5
Stephan Koblm 、 Christian Sturmbauer 、
3
1, 6
七田芳則 、岡田典弘 (1.東工大・院・生命
理工、2.名大・院・理、3.京大・院・理、4.University of Hull、5.Karl-Franzens-University of Graz、6.
基生研・細胞情報)
「視物質発色団の起源:魚類視物質に存在
する2 種の発色団から、視覚の多様性を探
1
2
3
る」○植野由佳 、弘中満太郎 、外山美奈 、
2
2
2
堀口弘子 、山浜由美 、右藤文彦 、徳永史
1, 4
5
1
生 、関隆晴 、針山孝彦 (1.阪大・院・理、2.
浜松医大・医・生物、3.浜松医大・実習実験機器セ、
4.CREST ・ JST、5.大教大・健康科学)
「 サングラス と色覚―モンシロチョウ
長波長受容細胞の分光感度調節機構」○若
桑基博、蟻川謙太郎(横浜市大・院・総合理)
生物間相互作用から見た
生物多様性の進化
河田雅圭 (東北大・理)・嶋田正和 (東大・
院・総文)
生物群集を構成する生物種間の相互作用は、
それらの間に各構成種の個体数ダイナミク
スと共進化をもたらし、その結果として、
群集の生物多様性の長期的変化に影響す
る。本シンポでは、このような観点をもと
に、理論と実証の両面から、生物多様性に
影響する群集の歴史性と進化について理解
を深めたい。
「生物間相互作用と生物多様性の進化:企
画趣旨」河田雅圭(東北大・院・生命)
「捕食者―餌サイクルへの迅速な適応によ
る遺伝的多様性の維持」吉田丈人(コーネ
ル大・生態進化)
「複雑な食物網が生物多様性を守る:「適
応的食物網」仮説の提案」近藤倫生(龍谷
大・理工)
「捕食者の学習が系の持続性をもたらす:
マメゾウムシ 2 種−寄生蜂 1 種の実験系」
○石井弓美子、嶋田正和(東大・院・総文)
種形成の分子基盤:シクリッドをめぐって
岡田典弘(東工大・院・生命理工)
アフリカ大地溝帯に存在するタンガニイカ
湖 、 マライウイ湖 、 ビクトリア湖 には
1,000 種以上のシクリッドが生息している。
注目すべきは、是等の種分化が極めて最近
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
12
に起ったと考えられる点で、種分化の分子
機構を明らかにすると言う目的のためには
最良の系であると考えられる。同一の湖内
で種分化が起きているので、同所的に種分
化が起るメカニズムを想定しなければなら
ないと言う点から、生態的な観点からも大
変面白い系である。種分化は、3 つの段階
に分けて考えられる。最初の段階は、砂場
と岩場、あるいは浅瀬と深場といった、異
なる場所への適応の違いによる分化であ
る。2 番目は、その各々の場所で何を食べ
るかによって生ずる顎の形態変化による種
分化である。実際、藻を食べる魚と魚を食
べる魚では顎の形態が著しく異なってい
る。3 番目は、同一の場所で同じ食性であ
っても、色彩と雌の好みによって起る性的
隔離による種分化である。このような、3
つの段階の各々における種分化の機構につ
いて議論できたらと考えている。
「種形成の分子基盤」岡田典弘 (東工大・
樹、高田留梨子(愛媛大・理)
ヒトの疾患・行動遺伝子研究の最前線
矢原徹一(九大・院・理)
「HbE 変異と正の自然選択」大橋順(東大・
院・医)
「タンパク質の性質が進化を規定する」
○石浦章一、大間陽子(東大・院・総文)
「霊長類およびイヌの行動特性に関与する
遺伝子の探索」村山美穂(岐阜大・応用生物
科学)
「人の行動や疾患に影響を与えるドーパミ
ン関連遺伝子と多型」○福家聡、笹川昇、
石浦章一(東大・院・総文)
「ヒトの主要な精神疾患における特異性・
共通性の分子基盤の探索」○岩本和也、加
藤忠史(理研・ BSI)
院・生命理工)
「シクリッドの多様性の系統的理解: 爆
発的種分化 解明に向けて」西田睦(東大・
海洋研)
「 Ecological genetics of speciation and
adaptive radiation in African cichlid fish
Ole Seehausen」
(University of Bern)
遺伝子交換による進化
生態系の構成種の進化過程を探る
生態学と遺伝学のアプローチ
中島敏幸(愛媛大・理)
生態系には様々な種が相互作用しながら共
存している。ここでは、生態学的な相互作
用に加え、遺伝子の移動という遺伝学的な
相互作用も頻繁に生じている。このような
遺伝子交換は構成種の進化にどのような効
果を及ぼすだろうか? このような視点か
ら、本シンポジウムでは、最新の研究成果
の紹介を通して生態系内の遺伝子交換が構
成種の進化に及ぼす効果を議論する。
「ショウジョウバエにおける野外雑種化と
種分化」和多田正義(愛媛大・理)
「ショウジョウバエの雑種と種間遺伝子移
入」澤村京一(筑波大・院・生命環境)
「水圏における細胞外 DNA の存在とその
遺伝子資源としての役割」石井伸昌(放医
研・比較環境)
「進化装置としての生態系:微生物モデル
群集を用いた解析」○中島敏幸、濱岡秀
Wolbachia と宿主の進化生態学
実証的アプローチと理論アプローチ
山内淳(京大・生態研セ)
様々な無脊椎動物にオス殺しやメス化、細
胞質不和合性などをもたらす Wolbachia に
ついては、そのホスト集団内での維持機構
やホストのコントロールのメカニズムな
ど、広範な視点から多くの研究が進められ
ている。それらの中でも近年、Wolbachia
の感染がホストの配偶者選択や種分化に影
響する可能性、Wolbachia の系統間での競
争とホスト操作の様式の進化など、進化生
態学的側面への取り組みが理論研究を軸と
して大きく進展してきた。本シンポジウム
では、そうした Wolbachia の進化的側面に
関する実証研究と理論研究を紹介し、その
現状を概観してみたい。
「テントウムシの Wolbachia 感染と配偶者
選択」大澤直哉(京大・院・農)
「 Can Wolbachia promote speciation in
their host ? A theoretical analysis」Arndt
1, 2
2
Telschow 、Peter Hammerstein 、山村則
1
3
男 、○ John H. Werren (1.京大・生態研セ、
2.Humboldt University(Germany)
、3.University of
Rochester(USA)
)
「異なる生殖操作を行う Wolbachia の重複
感染と、Wolbachia 系統間の競争の可能性」
廣木眞達(国際基督教大・生物)
「Wolbachia によるホスト操作の進化とメ
タ個体群動態」山内淳(京大・生態研セ)
●
●
●
6 日 ●●●
昆虫における
社会システムの維持機構と進化
越川滋行(東大)・柴尾晴信(筑波大)
生物システムの極致の 1 つとして、社会性
昆虫のコロニーを挙げることができよう。
形態的、行動的、生殖的に分化したさまざ
まな階級を構築する多数の個体が、局地的
な環境入力に対して単純に反応し、その総
和が調和的かつ適応的なコロニーレベルの
応答として出力される。本シンポジウムで
は、このような昆虫社会システムの調節と
維持機構、その発生的・分子的基盤、さら
にはこのようなシステムの進化を促した要
因について、最新の研究例にそって概観し
たい。
「社会性昆虫の社会システム−進化・維
持・調節−」長谷川英祐(北大・院・農)
「アブラムシにおける社会システムの調節
1, 2
2
と維持機構」○柴尾晴信 、沓掛磨也子 、
2
深津武馬 (1.筑波大・生命環境科学、2.産総研・
生物機能工学)
「シロアリ兵隊における形態形成と階級分
化」○越川滋行(東大・院・理)、松本忠夫
(東大・院・総文)
、三浦徹 (北大・院・地球環
境)
「兵隊アブラムシにおける利他的行動の分
1
2
子基盤」○沓掛磨也子 、柴尾晴信 、二河
3
4
5
成男 、森岡瑞枝 、田村具博 、星野保 5、
5
1
扇谷悟 、深津武馬 (1.産総研・生物機能工学、
2.筑波大・応生化、3.放送大・自然の理解、4.東大・
院・理、5.産総研・ゲノムファクトリー)
寄生、共生という生き方の帰結
微生物ゲノム解析からの洞察
服部正平(北里大)・深津武馬(産総研)
多種多様な微生物のなかでも、絶対的寄生
細菌、共生細菌はゲノムサイズが顕著に小
さく、この特徴は寄生、共生するという性
質と関連してさまざまな系統で独立に進化
してきたようである。ゲノムサイズが小さ
い、遺伝子数が少ない、分子進化速度が速
い、ゲノム A / T 含量が高いといった性質
は、寄生/共生という生き方といかなる関
係があるのだろうか? 微生物ゲノム解析
からわかってきた「寄生、共生するとはど
ういうことか」について、最新の研究成果
13
を紹介する。
「ゲノム解析技術の現状と将来展望」服部
正平(北里大・北里生命、理研・ GSC)
「Symbiont Genomes Provide Insights for
Functional Relationships」 Serap Aksoy
(Yale 大・医)
「共生体ゲノミクスと宿主 EST 解析により
明らかとなったブフネラ- アブラムシ間相
1, 2
3
互作用」○中鉢淳 、重信秀治 、坂詰直
4
4
4
子 、白木利幸 、林崎良英 、Piero Carnin4
1
2
5
ci 、工藤俊章 、深津武馬 、石川統 (1.
理研・環境分子生物、2.産総研・生物機能工学、3.
基生研・統合バイオ、4.理研・生体分子機能、5.放
送大・教養)
「怠け者の小さな動植物寄生微生物:ファ
イトプラズマ」難波成任(東大・院・農生命
(新領域)
)
中学・高校でどのように進化のしくみを
教えるか?
嶋田正和(東大・院・総文)
新学習指導要領の下で、中学・高校で進化
を教えるには、難しい問題が山積してい
る。
(1)中学理科から遺伝と進化の記述が削
除され、これが高校の理科総合 B に移っ
た。そこでの進化は地質年代史が中心であ
る。
(2)高校では、生物 I で進化に触れる記述
はいっさい認められず、すべて生物Ⅱにま
とめられた。
そのため、生物Ⅱを履修しない限り(現
実の履修率は 10 %以下)
、高校生が「進化
のしくみ」について授業で教わる機会はな
いといえる。アンモナイトや恐竜の栄枯盛
衰だけを眺めても、進化のしくみは理解で
きない。実は、限られた時間数の中で「進
化のしくみ」を教えるのはさほど難しくな
い。重要なのは、遺伝をベースに進化のし
くみを理解することである。今回は「進化
のしくみ」を教える教育に主眼をおいて、
その可能性を探ってみたい。
「進化教育のエッセンス:小学生にも分か
る進化のしくみ」中井咲織(立命館宇治中学
校・高等学校)
「高校生への進化教育法の提言大学入試問
題の課題と高校教育の実態」松本幸一(ワ
オ・コーポレーション)
「遺伝学からみた進化教育」布山喜章(都
立大・院・理)
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
14
ス」○大槻久、巌佐庸(九大・理・数理生物)
Shef.eld)、
Peter J. Hudson( Dep. Biology,
Mueller Lab, Penn)
非生命体の進化理論 2
佐倉統(東大・院・情報学環)・三中信宏(農
環研)
情報が自己複製し、系統を形成するならば、
生命体でなくても進化と呼びうる現象が生
じる。そのような非生命体の進化について
考察することは、進化の現象やメカニズム
について、より普遍的な理解をもたらして
くれるはずだ。このような理解にもとづ
き、昨年度の進化学会でシンポジウム「非
生命体の進化理論」をおこない、幸い好評
をもって迎えられた。今年度はその続きと
して、さらに具体的な事象を増やすととも
に、理論的な深化をめざす。
「人工生命の系譜学と進化学」徳永幸彦
(筑波大・院・生命共存科学)
「考古学における型式学」佐藤啓介(大阪
府立工業高専)
「茶道古文書の定量的文献系図」矢野環
(埼玉大・理・数学)
「日本語の横書き――過去・現在・未来」
屋名池誠(東京女子大・現代文化)
遺伝子型と表現型の進化
金子邦彦(東大)・四方哲也(阪大)
近年、同一遺伝子を持った個体での表現型
の違いが、たとえばバクテリア内での遺伝
子発現などを通して、定量的に測定される
ようになり、表現型の「揺らぎ」や分布が
定量的に求められるようになってきた。一
方、構成的生物学により、実験室内での人
工複製系また人工進化系の構築も進めらて
いる。また、簡単な内部反応ダイナミクス
のモデルをもとにして遺伝子型と表現型の
対応関係をその揺らぎまで含めて理論的に
調べることも始まっている。これらの研究
をふまえて遺伝子型と表現型の進化を実
験、理論の両面から議論する。
「遺伝子型と表現型の分離: 複製系にお
ける少数分子コントロール」四方哲也(阪
大)
、理論の補足:金子邦彦(東大)
「表現型のゆらぎと進化の関係: 揺動応答
理論とその進化への応用」金子邦彦 (東
大)
、実験の補足:四方哲也(阪大)
「表現型の分化と多様化」理論:金子邦彦
(東大)
、実験:四方哲也(大阪大)
利他性の最前線−遺伝子から人間まで
大槻久(九大・理・数理生物)
利他行動は微生物、昆虫、霊長類に至るま
で普遍的に見られる現象であり、進化生物
学における一大トピックである。本ワーク
ショップでは様々な種やレベルでみられる
利他性をとりあげ、その進化的起源や機構
に関する最新の研究成果を紹介いただく。
我々は利他性に関してどこまで分かってい
るのだろうか? その研究の最先端を概観
したい。
「利他的行動をプログラムする利己的遺伝
子」小林一三(東大・院・新領域)
「細胞周期に依存した発生運命決定機構:
細胞性粘菌からの啓示的メッセージ」佐々
木和教(東北大・院・生命科学)
「 ヤマトアシナガアリ Aphaenogaster
smythiesi japonica におけるワーカー繁殖抑
制機構について」○岩西哲、大河原恭祐
(金沢大・理・生物)
「実証データによる間接互恵性のメカニズ
ムの解明」○高橋伸幸、真島理恵(北大・
院・文)
「間接的互恵性における評判のダイナミク
病原体の進化
嶋田正和 (東大・院・総文)・佐々木顕 (九
大・院・理)
病原体は、宿主との相互作用を通じて、興
味深い共進化を示す。例えば、インフルエ
ンザ・ウイルスの急速に分岐・多様化する
系統樹は、宿主との gene-for-gene の相互
作用の結果としてみることができる。ま
た、オーストラリアのウサギ駆除に見られ
たMyxoma ウイルスの病毒性の低下現象は、
宿主を単位とする群淘汰の見方もある。こ
のように、病原体の進化現象は、いわば、
進化生物学の「実験場」とも言える魅力的
な現象を数多く提供してくれる。今回のワ
ークショップでは、感染症を進化の観点か
ら見直すとき、どのような宿主−病原体の
相互作用を通じた進化が浮かび上がるの
か、実証研究や数理研究を交えて、議論し
てみたい。
「強毒病原体の出現と宿主の集団構造」
○佐々木顕(九大・院・理)、Michael Boots
(
Dep. Animal and Plant Sciences, Univ. of
「マイコプラズマゲノムに見られる寄生体
の宿主との相互作用:退行進化とパラログ
形成」佐々木裕子(感染研・細菌Ⅱ)
「潜伏期間における HIV-1 V3 loop のタン
パク質構造微細変化と配列進化の関係」
1
2
1
○渡部輝明 、岸野洋久 、北添康弘 (1.高
知大・医、2.東大・院・農)
「複数年周期の進化」加茂将史(産総研・リ
スク管理セ)
、佐々木顕(九大・院・理)
宿主と寄生/共生者との
相互作用と共進化
青木誠志郎(東大)・佐々木顕(九大・院・
理)・嶋田正和(東大・院・総文)
宿主と寄生/共生の関係にある生物は、両
者一体となって生活しているものが多いた
めに、双方に非常に密接な生物間相互作用
とそれを介した強い自然選択が作用し、そ
れによる共進化が進むと考えられる。本シ
ンポジウムでは、根粒菌や病原体など、代
表的な宿主と寄生/共生者の系を取り上げ
て、そこに作用する両者の遺伝子=遺伝子
の相互作用の実態と、それらを理論的に説
明したモデルを連携させることで、共進化
研究の展望を探りたい。
「根における細胞内共生−菌根菌共生から
根粒菌共生へ−」林誠(阪大・院・工)
「糸状菌 Alternaria alternata における植物
寄生性の進化と宿主特異的毒素」柘植尚志
(名大・院・生農)
「イネといもち病菌の遺伝子対遺伝子相互
作用を利用した抵抗性品種育種戦略」石黒
潔(東北農研セ)
「宿主・寄生者系、双利共生系における連
続形質共進化」佐々木顕(九大・院・理)
祖先の復元は進化学になにをもたらすか?
青木誠志郎(東大)
分子進化学の発展やゲノム DNA
配列情報
の蓄積に伴い、進化生物学に様々な新しい
視点が見い出されつつある。本シンポジウ
ムではそのひとつとして祖先情報の復元を
取り上げる。地球上の生物は、基本的に
DNA によるデジタル暗号を遺伝情報とし
て用いており、祖先の復元が理論的に可能
なことは、以前から考えられてきた。例え
15
ば映画ジュラティック・パークでは絶滅生
物の DNA を利用しその姿の復元の試みを
物語っている。過去の遺伝子群やその配列
情報を推定する研究も進み、祖先のもつ遺
伝情報の復元とその応用は、夢ではなくな
りつつある。また生命の起源への理論的・
実験的研究も進みつつある。本シンポジウ
ムでは、このような考え方をもとに、理論
および実践的研究における話題を提供し、
議論を深めたい。
「祖先型アミノ酸配列を持つタンパク質の
解析から全生物の共通の祖先を探る」山岸
明彦(東薬大・生命科学・分子生命)
「遺伝子によらない試験管内選択淘汰と初
めての遺伝情報」本多元(長岡技大・生物)
「祖先的発生プログラムとは何か」○倉谷
滋(理研・ CDB)
「共通祖先への遡及:体系学的推論の観点
から」三中信宏(農環研・地球環境)
ゲノムと遺伝子発現からみた
生物進化の様相
五條堀孝、大久保公策(遺伝研)
ゲノム配列や遺伝子発現パターンが、大量
な生体情報としてさまざまな生物種を用い
て産生されてきている。これらの情報を異
なる生物種間で比較することにより、生物
進化の分子メカニズムを体系的に研究でき
るようになってきた。本シンポジウムで
は、最近の先端的な話題を講演者に提供し
てもらい、今後の展望を議論する。
「遺伝子間の発現の類似と構造の類似の関
係」小笠原理、久保田功、大久保公策(遺
伝研生命情報 DDBJ ・研究セ)
「チンパンジーとヒトの比較ゲノム解析」
渡邉日出海(北大・情報科学)
「癌化過程と分子分類の進化論的解釈」加
藤菊也(大阪府立成人病セ)
「ヒドラやプラナリアにみる遺伝子発現パ
ターンと脳・神経系の進化的起源」五條堀
孝(遺伝研・生命情報・ DDBJ 研究セ)
真核生物におけるゲノム進化
渡邉日出海(北大)
真核生物の進化を明らかにするためには、
真核生物の核内ゲノムの進化過程を明らか
にすることとともに、共生生物との進化関
係についても明らかにする必要がある。ま
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
16
た、真核生物においては、タンパク質をコ
ードする遺伝子ばかりでなく多くのRNA 遺
伝子も遺伝子発現制御などで重要な役割を
担っていることが明らかになってきている
ので、RNA 遺伝子の進化についても明らか
にする必要がある。そこで、本シンポジウ
ムにおいては、真核生物の進化についての
理解を深めることを目的として、ヒトを含
む真核生物ゲノムの進化、microRNA 遺伝
子群の進化、そして、植物の色素体の進化
についての研究成果を紹介し、真核生物と
いう複雑なシステムの進化についてゲノム
をキーワードとして聴衆とともに議論す
る。
「原始紅藻のゲノム情報から色素体の共生
進化を探る」野崎久義(東大・院・理)
「高等植物のゲノム構造進化」○田畑哲之、
中村保一、金子貴一、佐藤修正(かずさDNA
研究所)
「ホヤゲノムから見た発生と進化」佐藤ゆ
たか(京大・院・理)
「比較ゲノム解析によるMHC 領域の進化」
○椎名隆、猪子英俊(東海大・医・基礎医学)
「 Evolution of mammalian microRNA genes
and their regulatory targets 」Roberto Barrero(National Institute of Genetics)
進化の原動力、
ゲノム安定化と不安定化のメカニズム
草野好司(九州工業大学生命体工学研究科)
ゲノム複製、修復、組換えは進化を動かす
基本機構である。これらは通常、細胞や個
体の生存をもたらすが、反応終了後、DNA
の構造が元に戻るルートと構造変化が伴う
ルートがあり、各々がゲノムの安定化と不
安定化を導く。正確な DNA 合成と変異生
成、相同組換えと非相同組換え、遺伝子変
換と交叉のような、安定化と不安定化機構
の間における共通と相違を解析することに
よって、進化の抑制と促進の基本様式が明
らかになると考えられる。ゲノム複製、修
復、組換えの解明に向けた最前線の研究を
紹介して進化の基本メカニズムについて議
論を行いたい。
「染色体切断修復機構と RecQ ヘリカーゼ
ファミリーの共進化の可能性」草野好司
○太田博樹、William C. Speed、Judith R.
Kidd、Kenneth K. Kidd(イエール大・医・遺
伝)
「テロメア複製と DNA 二重鎖切断修復:
細胞周期チェックポイントが関与する染色
体安定化機構とゲノム進化」松浦彰(長寿
医療セ・老年病)
「増殖静止期に於いて誘導される非相同的
組換えとDNA 二重鎖切断」○小方康至(遺
伝研・ RI セ)
、白石航也、池田日出男(メデ
ィネット・先端医科学研)
「ヌクレオチドプールの酸化と突然変異」
能美健彦(国立衛研・変異遺伝)
植物系統地理学の最前線
−新たな解析手法を検証する−
瀬戸口浩彰(京大)・藤井紀行(都立大)
DNA データを利用した植物地理学の研究は
多くの事例が蓄積されつつある。その多く
はアロザイムやオルガネラゲノムのハプロ
タイプを利用した研究事例であるが、優れ
た利点がある反面で解析手法としての限界
もあることも事実である。これに対して
AFLP やマイクロサテライトなどの解析手
法は、多型を効率よく高感度に把握できる
点において優れている。また、得られた結
果の解析においてもNested Clade Analysis
などの解析方法は、集団の地理的分布の歴
史的背景を考察する目的において、通常の
系統樹作成よりも優れた手法である。本シ
ンポジウムでは,植物集団の地理的分布の
歴史的背景を、より詳細に解析するための
実験手法と解析手法について、具体例に基
づきながら議論することを目的とする。
「ミズナラの遺伝子系統地理学―核、葉緑
体遺伝子をもちいた」原田光(愛媛大・農・
森林資源)
「マイクロサテライトマーカーと系統地理」
井鷺裕司(広大・総科・自然環境)
「遺伝子のコード領域(CAPS)と非コー
ド領域(マイクロサテライトマーカー)を
用いた系統地理の比較研究−スギを事例と
して−」津村義彦(森林総研・森林遺伝)
「植物系統地理学の解析方法の現状と問題
点」横山潤(東北大・院・生命科学)
(九州工大・院・生命体工学)
「アルコール分解酵素(ADH)クラス I 遺
伝子クラスターの進化:遺伝子変換による
均質化から 逃れた 重複遺伝子(?)
」
表現型可塑性の進化発生学
三浦徹(東大)・長谷部光泰(基生研)・倉
谷滋(理研 CDB)
近年の分子発生学とゲノム生物学の進展に
より、発生の分子機構がいくつかのモデル
生物で明らかになり、比較研究から発生機
構の進化について多くの新しい知見が得ら
れてきた。さらに、キャナリゼーションや
遺伝的同化などの進化に直接関わる発生現
象の分子基盤へのアプローチも可能とな
り、個体と環境との関係、すなわち表現型
可塑性の分子機構とその進化の研究も可能
となりつつある。本シンポジウムでは,表現
型の可塑性、多様性がどのような分子基盤
により実現されており、またこれまでどの
ように進化を遂げ、また表現型の進化に貢
献しうるのかなどについて、5 人の演者に
話題を提供してもらい議論を行う。
「タネツケバナの表現型可塑性と遺伝子
型−環境共分散」工藤洋(神戸大・理・生物)
「異型葉植物から探る葉の形態形成の可塑
性」○桑原明日香、長田敏行 (東大・院・
理)
「テントウムシ斑紋の多様性創出メカニ
1, 2
ズムの解明へ向けて」○新美輝幸 、桑山
1
1
1
久史 、大場裕一 、柳沼利信 (1.名大・院・
生命農、2.JST ・ PRESTO)
「マウス顔面頭蓋形成と遺伝的多様性」松
尾勲(理研 CDB)
「表現型可塑性進化の数理モデル」○望月
敦史(基生研・情報生物)、昌子浩登、(九大・
院・理)
シンビオジェネシス
真核細胞オルガネラの誕生と
進化のメカニズム
○石田健一郎(金沢大・院・自然科学)・小保
方潤一(名大・遺伝子実験施設)
ミトコンドリアや葉緑体などのオルガネラ
(細胞小器官)は、真核生物の細胞に共生
した原核生物や真核生物がオルガネラ化す
ることによって誕生したと考えられる。こ
の細胞内共生者が宿主細胞の一部として統
合されオルガネラ化する過程は「シンビオ
ジェネシス」と呼ばれ、近年その詳しい進
化メカニズムを理解しようとする研究が生
まれはじめている。本シンポジウムでは、
シンビオジェネシスの過程で、共生者ゲノ
ムがどのように縮小したのか、共生者の遺
伝子はどのように宿主ゲノムへ転移しそこ
で発現するようになったのか、核にコード
されたタンパク質を効率よくオルガネラへ
輸送する機構はどのように獲得されたの
17
か、共生者と宿主の協調はどのようにして
確立されたのか、などシンビオジェネシス
に関する具体的な進化機構の解明を目指す
研究について、最近の研究成果を交えて紹
介する。
「真核生物の系統進化におけるミトコンド
リアをもたない原生生物の位置づけ」橋本
哲男(筑波大・院・生命環境)
「寄生虫ミトコンドリアの進化」北潔(東
大・院・医)
「シアノバクテリアから葉緑体へ−変わっ
たものと変わらないもの−」佐藤直樹(東
大・院・総文)
「葉緑体から核へ向かう DNA フラックス
と真核ゲノムのもつプロモーター新生能」
小保方潤一(名大・遺伝子・遺伝子解析)
「葉緑体へのタンパク質輸送の進化機構」
石田健一郎(金沢大・院・自然科学)
動物の基本体制の進化
遺伝子・発生・古生物・理論を
統合させる視点づくりを目指して
○宇佐見義之(神大)・望月敦史(基生研)
テーマは、動物の基本的な体型づくりの
「原理」は何かという問題である。理論的
な観点からの考察も交えることにより、そ
れぞれの現象に捕らわれずに統合的な概念
の形成へとベクトルが向くような視点で議
論を展開するようにする。大型の後生動物
の最初期の進化では、
「繰り返しの構造」
と「その変形」により基本的な体型づくり
が行われた様子が伺われる。この原理は脊
椎動物の中枢神経に至るまで働いており
「生物の基本的な形づくりの原理」のひと
つと考えられる。原始的な単なる繰り返し
構造から、機能性を担わせた変形に至るプ
ロセスが進化のひとつの普遍的な局面であ
り、この点に関する、機能的、発生的、遺
伝的、古生物的、理論的な考察を融合させ
るような視点に立ってシンポジウムを構成
する。
「節足動物における付属肢の形態多様性と
その形成機構」林茂生(理研)
「昆虫の進化について− RNA 干渉法によ
るコオロギの遺伝子機能の解析から」○野
地澄晴、三戸太郎、宮脇克行、新明洋平
(徳島大・工・生物工)
「動物の基本的な体型づくり;ゼロからの
創出(運動学の立場から)
」宇佐見義之(神
大・工・物理)
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
18
先カンブリア代の地球進化史
○山岸明彦(東薬大・生命科学)・小林憲正
「化石化学合成群集の認定と時代的変遷」
Robert Jenkins(東大・院・理)
「新生代の海洋変革:捕食様式の変化と活
発化」大路樹生(東大・理)
(横国大・工)
先カンブリア代の地球及び生命の進化に関
する情報はそれ以降に比べて大変少ない。
しかし、分子進化的情報と重ね合わせて生
物進化史を理解しようとするとき、地学的
情報は不可欠である。この分野の最近の進
歩を主として地質学分野の研究者か紹介し
てもらう。
「化学進化研究の現状」小林憲正(横国大・
院・工)
「初期地球(約 35 億年前)の熱水系にお
ける生命活動」上野雄一郎(東大・院・総文)
「地球Snowball 説」○東條文治(名大・院・
環境)
、川上紳一(岐大・教育)
「先カンブリア代の生物進化」大野照文
(京大総合博)
長時間軸の古生態学
大路樹生(東大・理)
長い時間軸をもって生物進化を見ることは、
古生物学のもっとも得意とするところであ
る。従来、地質時代を通じてある分類群グ
ループの形態進化を追跡し,系統や進化を
考えることは多くなされてきた。一方、古
生態学的な変化を長い時間軸で捉え、これ
らの変化のタイミング、原因、長期にわた
る傾向などを議論することが最近多くなっ
てきた。このような視点は、生物進化の一
翼を担ってきた生物と環境との関係を解明
し、進化を総合的に理解する上で欠かすこ
とができない。当シンポジウムでは異なる
フィールド、時代、分類群を扱う方々から
話題提供を頂き、進化における古生態学的
な理解を深めることを目的としている。具
体的には、多様度自体の変遷、海洋動物の
生息場所の変遷とその原因、深海熱水噴出
口等に見られる特殊な生態系の認定とその
変遷、動物間の捕食−被食関係の変化、エ
スカレーション等についての実例を提供
し、議論を深めることを目的としている。
「生息地の拡散に伴う二枚貝類の多様化」
近藤康生(高知大・理)
「ブンブクウニ類の機能形態と適応進化」
金沢謙一(神大・理)
行動・進化の主体−遺伝子から脳へ
水幡正蔵(在野研究者)・河宮信郎(中京大・
経済)
今年年初より evolve で展開された「新今西
討論」をより発展的に行う。行動の主体は
「行動遺伝子」か脳か。動物個体は「遺伝
子の乗り物」か「脳の乗り物」か。脳は配
偶者選択で次世代の乗り物を選ぶことがで
きる。だとすると、それは進化につながる
のではないか。新たな形態・能力獲得へ
の、
(部分)種社会的な配偶者選択の始ま
りが、すなわち 棲みわけ の始点ではな
いか。もはや脳モデル無き社会生物学は、
脳モデル(種社会ソフトウェア)有る新今
西理論との議論の結果、パラダイム的限界
が明確となった。本企画は、世界に発信す
る「進化論革命」のまさに最前線のワ−ク
ショップである。新しい進化研究のパイオ
ニアをめざす人々の参加を期待する。
「「脳・行動・進化」の理論の系譜」○河
宮信郎(中京大・経済)、水幡正蔵
「
「種社会ソフトウェア概念図」における
プロト言語、プロト世界観」水幡正蔵(在
野研究者)
evolve 新今西討論を終えて
水幡正蔵(在野研究者)・河宮信郎(中京大・
経済)
「evolve 新今西討論」で議論いただいた方、
討論を毎回欠かさず読まれた方に改めて感
謝します。この討論を通じて、粗削りだっ
た私たちの「新今西理論」は大いに改良さ
れました。本自由集会は、この間の御礼と
エキサイトの余り不適切な言動(とくに水
幡)があったことへのお詫びの意味もこめ
て企画させていただきます。
「新今西討論」
を振り返り、これからの進化学の展望につ
いて多いに語りましょう。とくにキリン、
ゾウアザラシ、クジャク、シクリッド等々、
「交配競演による種社会選択」をいかに実
証するか。そういう発展的な議論ができた
らおもしろいでしょう。
長谷川寿一(東大・院・総文)
本年の基調シンポジウムは大会の2 日目の
午前中、
「Human Evolution」をテーマに開
催された。ダーウィン以来、われわれ人類
もまた、進化の産物であるという認識は、
徐々にではあるが確実に一般社会に浸透し
てきた。その推進力になったのが、古人類
の化石のあいつぐ発掘であり、大型類人猿
との比較研究であった。今回のシンポジウ
ムでは、前半の 2 題で、化石人類学に関連
した話題、そして後半の2 題では、認知、ゲ
ノムの両面からの類人猿との比較研究に関
する話題提供をいただいた。前 2 題の講演者
のお2 人は、本シンポジウムの企画者のひと
りである諏訪元氏の共同研究者という縁で、
エチオピアの発掘フィールドからから直接
来日された。
最初の演者であるレスリー・ラスコ氏(カ
リフォルニア大学バークレー校)は、
「人類
古生物学における表現型と遺伝子型の統合」
というタイトルで講演された。古生物学で
は、発掘された限られた数の遺物から生物
とその環境について推測をしなくてはなら
ない。ラスコ氏はこれまで、テキサスにあ
る霊 長 類 研 究 センターで飼 育 されている
3,000 頭ものヒヒについて、家系調査と詳細
な生体計測を組み合せ、霊長類における実
証的な量的遺伝研究に取り組んでこられた。
彼女の基礎研究は、発掘された古生物の断
片から、その背景にある遺伝的多様性を推
定する作業に大きく貢献し、とくに古人類
の口腔研究への応用事例が紹介された。
2 番目の演者であるティム・ホワイト氏
(カリフォルニア大学バークレー校)は、ア
ファール猿人のルーシーはじめ過去 20 年間
の重要な古人類の発掘のほとんどすべてに
かかわってこられた屈指の化石人類学者で
ある。現在、ホワイト氏のチームは、現地
のエチオピア人研究者と緊密に連携をとり
つつ、アワシュ川中流域でいくつものサイ
19
トを発掘中だが、隣接するように位置する
サイトからは、
(古い方から)アルデピテク
ス・カバダ、アルデピテクス・ラミダス、
アウストラロピテクス・ガルビ、ホモ・サ
ピエンス・イダルツおよび同時代の動物化
石を多数発見してきた。
「最長の記録:エチ
オピアアファール低地における人類進化史
調査」と題するシンポジウムのプレゼンテー
ションでは、この地球上の 1 点で生じた約
600 万年の人類史を、素晴らしい映像と巧み
なトークで紹介してくださった。単に総花
的な一般向けプレゼンではなく、カニバリ
ズム風習の常習的可能性など近年の新発見
の意義まで踏み込んだ話を聞くことができ
た。
休憩を挟んだ後半では、まず京大霊長研
の松沢哲郎氏が有名なアイプロジェクトの
近年の展開について、
「チンパンジーの認知
発達と母子の絆」とタイトルで講演した。現
在、霊長研ではほぼ同時期に誕生した3 頭の
チンパンジーの発達過程と母子関係を追跡
する調査が進行している。松沢氏は、ヒト
とチンパンジーの共通性のリストを提示し、
その実証データを多数の映像を使って解説
した。松沢氏は、霊長研の飼育チンパンジ
ーだけでなくギニアのボッソウでも野生の
チンパンジーを長期研究しておられ、実験
室の認知実験だけでなく、野生状態での生
態も交えて紹介された。
最後に発表された斎藤成也氏の演題は、
「近縁種間の比較ゲノム研究のモデルとして
のヒトと類人猿のゲノム比較」であった。斎
藤氏はヌクレオチドレベルでは 1.2 %の相違
といわれるヒト−チンパンジー間の遺伝的
差異を、さらにオランウータン、ゴリラも
含めて、小領域におけるより詳細な比較ゲ
ノム研究(Silver Project)を推進している。
今回の発表では、2004 年のネイチャー誌に
発表されたチンパンジー 22 番染色体とヒト
の相同部位の SNP 解析ほか、HoxA 群遺伝
子の比較ゲノム研究について詳しい研究紹
介を聞くことができた。
一般公開された今回のシンポジウムには、
英語講演であったにもかかわらず、東大駒
場キャンパスの大講堂に約 300 名もの聴衆が
参加された。フロアからは的確な質問も相
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
20
次ぎ、充実した3 時間であった。進化学会で
は、これまで人類進化に関する発表があま
り多くなかったが、今回のシンポをきっか
けにわれわれ自身の進化的過去を学ぶ機会
がますます増えていくものと期待される。な
お、本シンポジウムは、21 世紀 COE「心と
ことば−進化認知科学的展開」
(東京大学総
合文化研究科)との共催として行われた。
嶋田正和(東大・院・総文)
「進化学 夏の学校」は、
「中学高校の理科
教師や学部生向けに、進化学の基本中の基
本を教える」という目的で、昨年の福岡大会
からスタートした。今回は、大盛況だった
昨年の約 140 名にも増して 205 名もの参加者
があり、嬉しい悲鳴を上げることとなった。
今大会では基調シンポにつぐ大きな会場を
事前に用意してあった。それでもぎっしり
詰まって壁際に椅子を並べてもまだ足りな
い有様となったので、1 限目が終わったとこ
ろで、急遽、350 名はいる大教室にぞろぞろ
移動してもらって、なんとか事なきを得た。
時間割とテーマ、講師陣は以下のとおり
である。今年は矢原徹一氏が2 コマ連続で担
当してくれたのはありがたかった。
1 限「進化学入門」講師:矢原徹一(九大)
2 限「性の進化」講師:矢原徹一(九大)
3 限「種分化−その実態と理論」
講師:嶋田 正和(東大)
1 限目は、生物の進化を理解するのに必要
な集団遺伝学の入門編である。まず花と昆
虫の関係を題材に、表現型の進化とその背
景にある遺伝子の変化について基礎的な解
説を行い、突然変異(遺伝子重複を含む)
・
自然選択・遺伝的浮動の作用をとりあげた。
これは昨年の「夏の学校」と重複する内容で
あったが、昨年はあまり強調しなかった遺
伝子頻度について、エクセルで行った簡単
なシミュレーションのグラフなどを駆使し
て解説している。最後に、表現型の進化と
遺伝子の変化をどう関連づければよいかに
ついて、昨年もだしたモンキーフラワーを
例に量的遺伝学と QTL 解析についてやさし
く説明した。私にはよく工夫されたわかり
やすい内容だと思われたが、聴衆の感想と
しては、入門にしてはややレベルが高いと
感じたようだった。
2 限目は、講師の矢原徹一氏の専門とする
性の進化である。まず、基礎知識として、
組換えの決定的重要性、組換えのパラドッ
クス:性はなぜ不思議か? について述べ
た後、有性生殖の進化学説として対有害変
異説と赤の女王仮説を説明し、さらに無性
生殖と倍数性の関連を解説した。次に、オ
リジナルな研究成果の紹介として、メキシ
コ産ステビア属についての研究と、ヒヨド
リバナとジェミニウイルスについての研究を
解説した。性は生物界に広くみられ、誰で
も簡単に観察できる現象ではあるが、その
進化の過程を理解することは簡単ではない。
矢原氏の解説はかなりわかりやすいと思っ
たが、アンケートによると難しい話だと感
じた聴衆も多かったようだ。初心者には、
有性生殖には変動する環境で多様な子孫を
つくる利点があるという古典的で漠然とし
た理解しかなかった人も多かっただろうか
ら、初めて聴く話には驚いただろう。
3 限目は、嶋田自身による種分化の解説で
ある。生物学の専門家であっても、新たな
種が形成されたことをもって「進化が起こっ
た」と捉える誤解は広くみられる。この誤解
から派生して、新種の形成は非常に長時間
を要するため、進化を観察・検証すること
は不可能であり、よってダーウィンの自然
淘汰説はまだ検証されていないという、さ
らなる誤解を生んでいる。正しくは、もっ
ともミクロな時間スケールで起こっている
進化は、毎世代ごとに生物集団に生じてい
る遺伝的構成の変化であり、これが積み重
なって、新種の分化・形成、そして多様な
分類群の栄枯盛衰の進化ダイナミズムをも
たらすと考えるべきである。この講義では、
まずひとつの地域で多様に分化した種群の
実例を紹介し、次に種分化とはどのような
進化プロセスなのかの一般的理解(異所的種
分化/側所的種分化/同所的種分化、交配
前隔離/交配後隔離)を説明し、さらに、そ
れらを表す種分化の進化モデルの最新理論
を紹介した。モデルの解説の前までは分か
りやすかったと大方から好評であったが、モ
デルの箇所は、難しいながらも、集団中に
毎世代起こる遺伝子頻度の変化で種分化を
理解する、というエッセンスをうけとめて
くれた人は多かったようだ。
質疑応答になると、全般的に進化学専門
の院生や研究者が多く発して、本来のター
ゲットとしている層はなかなか質問をだし
にくい。博士課程の院生や研究者であって
も、自分の専門ではない分野については初
歩から学びたいという欲求はあるので、受
講生のレベルを制限することは本意ではな
い。やはり、中学高校の教師向けには、日
本生物教育会などの理科教師の集会に出前
授業をしにいくなどの方策が有効だろう。
当初予定してなかった教室に急に移動し
たため、マイクが講義用の 1 本しかなく(土
曜日で教務課は休み)
、質問は地声で発して
もらうしかなかったのは申し訳なかった。見
込みの甘さと不手際をお詫びする。また、
アンケートで貴重なご意見を多数お寄せ下
さった参加者のご協力に感謝したい。
深津武馬(産総研・生物遺伝子資源)
近年の微生物ゲノム解析の進展から、細
菌や古細菌といった原核生物の間で遺伝子
水平転移がきわめて頻繁かつダイナミック
に起こっていることがわかってきました。一
昔前には予想もされなかったことですが、微
生物における新機能の獲得やゲノム再編成
において、遺伝子水平転移がきわめて重要
な役割を果たしてきたという考えは、この
数年の間に常識となりました。
しかし動物や植物といった多細胞真核生
物において、遺伝子水平転移がどの程度起
こっていて、その進化にどのような影響を
与えてきたのかについては、まだほとんど
わかっていません。ミトコンドリアや葉緑
体などの細胞内小器官の遺伝子が核の染色
体に多量に移行してきたことはわかってい
ますが、一般の微生物遺伝子がどれだけ多
細胞真核生物にはいりこんできたかについ
ては、ほとんど不明であるというのが現状
です。
21
しかし近年、ぽつぽつとですが、微生物
から動植物への転移遺伝子の実例が報告さ
れるようになりました。この分野では日本
の研究者たちも少なからぬ貢献があります。
そこで本シンポジウムは、実際に「微生物か
ら動植物への遺伝子水平転移」を見出して研
究している若手の研究者の方々を演者とし
てお招きし、最新の研究成果について紹介
していただくことにより、本分野の展開と
現状について認識を共有することを目指し
て企画いたしました。
青木 誠志郎 (東大・院・総文)「土壌細菌
Agrobacterium から植物への遺伝子水平移
行」
中島 啓介(京大・院・農)「ホヤの仲間は大
昔バクテリアから貰った遺伝子を用いてセ
ルロースを作っている」
大門 高明 (東大・院・農)「カイコゲノムか
ら発見された細菌・バキュロウィルス型キ
チナーゼ:その性状と進化的起源」
今藤 夏子(産総研・生物機能工学)「共生細菌
から宿主昆虫へのゲノム水平転移の発見」
各演題ともそれぞれ、遺伝子水平転移が
進化的新奇性の起源となりうること、遺伝
子水平転移の起源と過程、転移遺伝子の実
際の生物機能などにきわめて興味深い洞察
をあたえる内容でした。現時点ではまだ散
発的な発見が目をひくといった状況ですが、
これから数年のうちにさまざまな真核生物
の全ゲノム配列が決定されることにより、本
当に包括的な実態が明らかになっていくの
であろうと期待されるところです。
深津武馬(産総研・生物機能工学)
近年、生物多様性に関する私たちの見方
は大きくかわりつつあります。たとえば一
握りの土のなかにすら、何千何万もの微生
物種が含まれていることが DNA 解析から推
定できます。ところがそれらのうちで、ち
ゃんと生物学的実体を把握できて、種名を
同定できるものは1 %にはるかに満たないの
が普通です。なぜでしょうか。それは自然
界に存在する微生物の大部分が、現在の技
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
22
術では単離培養が困難で、したがって科学
的解析の俎上にのせるのが困難だからです。
微生物分類学の分野では、遺伝子データか
らみて未記載の門(Phylum)を構成するとみ
られる微生物群が 30 近く認識されており、
その数は現在も増え続けています。これほ
どに膨大な生命多様性のフロンティアがわ
れわれのごく身近に広がっているのですが、
一般の人々はもとより、大多数の生物学者
すらこの事実を認識していないように思わ
れます。
そこで、広大な未踏査の領域である「難培
養性微生物」研究の最前線について紹介し、
このような現状認識を共有することをめざ
して、本シンポジウムが企画されました。
花田 智(産総研・生物機能工学)「細菌の新門
の発見:微生物学における分類とは」
鎌形 洋一(産総研・生物機能工学)「嫌気微生
物共生系の世界」
関口 勇地(産総研・生物機能工学)「排水処理
システム複合微生物系の網羅的系統解析」
深津 武馬(産総研・生物機能工学)「昆虫類の
内部共生微生物:見えない存在が担う多様
な生物機能」
生物多様性のフロンティアは、深海や極
地のような、アクセスの困難な特殊環境ば
かりでなく、私たちのごく身近にもひろが
っているという生命観は、多くの聴衆にと
って新鮮な印象をもってとらえられたので
はないでしょうか。
形態も性質もとりたてて目立ったところ
がない細菌が、遺伝子塩基配列の大きな独
自性に基づいて Phylum の地位を与えられ
る、という微生物分類学の実際は、動物や
植物の分類体系に慣れ親しんだ人たちの目
にはずいぶんと奇異に映ったようで、非常に
活発な議論が繰り広げられました。直感的
には奇異に思えますが、実際に分岐年代で
考えれば、動物と植物の分岐など、細菌門
の間の分岐にくらべればごく最近のことであ
るというのはまぎれもない事実なのです。
橋本敬(北陸先端科技大)
言語の起源と進化に関する研究がこの 10
年ほどで大きな動きを形成している。国際
会議はすでに5 回開催され、毎回さまざまな
分野から多くの研究者が集まり、活発な議
論を行っている。このような流れを受けて、
筆者と千葉大学の岡ノ谷一夫氏は、日本に
おいてこのテーマと関連する研究を行って
いる研究者を集め、
「言語進化」と題したワ
ークショップをオーガナイズした。本ワー
クショップの目的は2 つある。ひとつは、こ
れまでは分散した小さな研究コミュニティ
であった研究者同士の相互理解を醸成し、日
本においても言語進化の研究を発展させて
いくことである。もうひとつは、まだ新し
いこの研究分野がいったい何をやっている
のかを進化学の研究者に知ってもらい、こ
の分野への参入を促進することである。
前回の大会ではシンポジウム「非生命体の
進化」のなかで、エディンバラ大言語進化計
算グループの山内肇氏による言語進化に関
する講演があった。しかし今回は、言語起
源と進化が生物進化の問題であるという位
置づけでワークショップを企画している。す
なわち、
「言語の起源」とは、ヒトのひとつ
の形質と考えられる言語能力、および、そ
れに関連するさまざまな認知的・身体的能
力は、いつ、なぜ、どのようにして進化し
たか、という問いである。そして、
「言語の
進化」は、おそらくは現在の人間言語より簡
単であったであろう初期言語から、なぜ、
いかにして複雑化・構造化し現在われわれ
が話す言語に至ったのか、ということを明
らかにしようとする。
ワークショップでは、動物のコミュニケ
ーションと認知の研究、脳のイメージング、
モデルを用いた数理科学的研究、言語学な
ど、9 人の方にご講演いただいた。このよう
に多彩な面々が顔を揃えたのは、言語進化
が分野横断的な研究領域であることを反映
している。各講演は最先端の知見と言語進
化に関する独自の見解を議論するものであ
った。一方、各講演者で言語の見方自体に
多様性があり、立場、方法論、具体的な目
的などは異なっている。このような多様な
研究者の相互理解をつくるため、総合討論
の時間を 45 分設けた。総合討論では、やは
り「言語とはなにか」という話題が中心であ
23
った。このような議論は長く行われてきた
んの「生物の水平移行遺伝子における自然選
ものであり、ここでもう一度その議論をす
択」では、大腸菌 K12 株と O157 のゲノム比
るよりも、進化の文脈で議論するためには、
較による水平移遺伝子の同定と進化解析に
言語にはどのような機能があり、どういっ
ついて口演していただいた。解析結果から、
た意味で適応的なのか、あるいは、適応的
水平移行遺伝子では非同義置換が多く起こ
ではないのか、ということを軸として整理
ったことが示され、正の自然淘汰によるも
することが必要であると思われる。そのた
のというよりはホストごとの塩基組成の違
めには、45 分という時間はまだ短かったよ
いによる可能性があるとする説明がなされ
うである。しかし、今回の講演者は、互い
た。実際、水平移行後多くの遺伝子はホス
にどこが違っていてどこをすりあわせていけ
トで使用されないために急速に失われてお
るかを認識したようであり、十分な成果が
り、変異の蓄積は中立進化の挙動を示した
得られたと考えている。実際、新しい研究
に過ぎないという説明ができる。一方で、
グループの立ち上げに向けての動きが見ら
残った水平移行遺伝子で見かけ上の正の自
れる。また、講演者以外の参加者からも活
然淘汰のみられるものの多細胞表面のもの
発に質問・コメントが出され、もうひとつ
であったことは興味深い。任さんの
の目的である言語進化研究の浸透と研究者
「HAART 治療下の HIV-1 宿主内進化様式に
の増大にもつながっていくことは間違いな
ついて」では、多種類の混合抗ウイルス薬投
い。
薬下における HIV の宿主内進化についての
ワークショップを開くにあたり、進化学
解析結果が示された。抗ウイルス薬による
会のユニークなシステムをおおいに活用さ
強い淘汰圧による適応的進化が観察される。
せていただいた。進化学会では、会員では
これは既存アリールの相対的適応度の低下
なくてもワークショップ開催を提案できる。
によるものと考えられる。この治療方法は、
さらに、このワークショップでの講演だけ
混合薬投薬によってウイルスの変異空間に
で参加する講演者は参加登録が必要ないと
大幅な制約を加え、ウイルスの適応的進化
いう点は、今回のような多分野から講演者
を抑制することを目的としたもので、当初
を集めるワークショップの開催を容易にし
は有望視された AIDS 治療方法であったが、
ている。実際、今回の講演者は、これを機
実際にはエスケープミュータントが生じて
に会員になった筆者以外は全員非会員であ
しまうことがわかっている。
る。言語進化のような新しい分野横断的な
発表では 遺伝距離準拠型逐次リンクアル
研究は、これまでの学会組織にとらわれな
ゴリズム によって正の淘汰進化が起る時期
い活動をしていかなくてはならない。また、
と正の淘汰が働いたアミノ酸サイトの推定
進化学会はかならずしも生物の進化だけを
と、薬剤耐性部位との一致が示された。こ
扱うわけではないようなので、分野にとら
の手法は今後の予防・治療方法開発に有用
われないシンポジウムやワークショップを開
だろう。遠藤の「正の自然淘汰と標準化系統
くことは有益である。そして、このシステ
樹」では、非同義・同義塩基置換によらない
ムによりそれが可能になる。今後も、この
正の自然淘汰検出を効率よく行うための基
ような領域横断的な特徴あるシンポジウム
盤としての標準化系統樹について作成方法
やワークショップを開催し、進化学研究の
の原理と実例が示された。鈴木さんの「New
みならず、多くの学問の研究に刺激を与え
Methods for Detecting Positive Selection at
続けて欲しい。
Single Amino AcidSites」では、系統樹作成
と祖先配列推定に基づく正の自然淘汰に関
わるアミノ酸同定方法について、実行速度
の向上や適用可能範囲拡大など新しい方法
遠藤俊徳(北大・院・情報科学)
の改良店と、シミュレーション比較につい
ワークショップ「正の自然淘汰」は初日の
て発表がなされた。ワークショップ中は教
2 限に 4 人の縁者の発表が行われた。伊藤さ
室の 2 / 3 ほどがまり、積極的な質疑応答が
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
24
なされたものの、進行はスムーズで、昼休
みの直前に質問が集中して時間が延びたほ
かはほぼ時間通りに進行した。本大会で、
私は非会員の立場でワークショップをオー
ガナイズした。非会員の講演者が演台に立
つことはあっても、オーガナイザ自身が非
会員であることは珍しいと思う。このよう
な柔軟な仕組みは大会の多様性を広げ、新
たな会員の獲得にも繋がるのでよいもので
ある。一方でその柔軟性故に、情報伝達に
際しては既存の会員以上に細心の注意を払
う必要があるだろう。実際、情報伝達不備
のため要旨の一部が配布資料に含まれず別
添となってしまうという問題が生じてしま
った。今回情報伝達に使用されたメーリン
グリストは非常に便利だが、メールは配送
経路のさまざまな点で失われる危険性を持
ったものであり、加入を確実にしないと情
報が伝わらない。このような弱点があるこ
とを認識し、今後の課題として専用ホーム
ページなどで同じ情報をみられる仕組みを
つくることが肝要と考える。また、情報取
得手段の案内は繰り返し行い、確実に伝わ
るようにしていただきたいと思う。
最後に、ワークショップ開催を認めてく
ださった嶋田さん、プログラム・要旨集作
成等にご尽力いただいた三中さん、大会開
催を支えた事務局スタッフの皆さん、演者
の皆さん、そして開催を勧めてくださった
五條堀さんに感謝いたします。
西田
睦(東大・海洋研)
言うまでもなく、われわれの身の回りの
自然は多様な生物によって成り立っている。
それぞれの生物は固有の空間分布をもって
いるが、その内部にはなんらかの構造があ
り、それには歴史的背景がある。そうした
構造とその形成過程の究明、さらには種を
超えた遺伝子系統の空間構造の解明を目指
す系統地理学は、地域の自然の成立を理解
する上で不可欠であるのみならず、新たな
進化研究のアイデアや素材の供給源である。
また、生物多様性の保全は、進化生物学が
社会的要請に応えうる重要な課題のひとつ
であるが、この方面にも系統地理学は重要
な貢献をするであろう。近年の DNA 分析手
法のますますの発展は、この分野に大きな
展開の基盤と展望を与えていると考えられ
る。そこで、最新の研究成果を脊椎動物お
よび昆虫の分野からもち寄って、系統地理
学の展望を議論するシンポジウムを、北大
の鈴木仁さんと企画した。とくに東アジア
の生物相の変遷の中で日本の生物相の成り
立ちを理解しようとして精力的に進められ
ている研究に焦点を絞ることとした。
一線で活発に研究を進めている方々に講
演を快諾いただけたこと、また会場には多
くの方においでいただけたことは、ありが
たかった。シンポジウムでは、まず私が趣
旨説明のようなかたちで「動物系統地理学の
新しい展開:その基盤と展望」と題した話を
し、DNA 分析による調査は「普通種」にもま
だまだ新しい興味深い発見をもたらすとい
う点や、緻密な地理的サンプリングは新た
な質のデータを提供するという点などを強
調した。ついで昆虫分野から、京大の曽田
貞滋さんが「大陸から日本列島へ:分子系統
による甲虫類の進化生物地理学の試み」とい
うタイトルで、化石記録が多いネクイハム
シ亜科の甲虫に着目して推進している研究
の成果を話した。一部の現生種の化石記録
を用いて分子系統樹の分岐年代を推定し、日
本列島への移入や列島内での分化を論じる
という展開は、化石記録が豊富なグループ
の特徴を生かした研究の真骨頂であった。京
大の渡辺勝敏さんは「東アジアの淡水魚類の
分子系統地理学」と題して、移動分散経路
が陸水系に制限されることから歴史生物地
理研究の好適な対象である淡水魚類をとり
あげた。日本列島を含む東アジアの淡水魚
類相の成立過程は、分類情報を手がかりに
構想された従来のシナリオをはるかに超え
て、非常に複雑だということが次々に解明
されていることが紹介された。この指摘は、
次の京大の戸田守さんの、非常に緻密なサ
ンプリングを基礎にした研究を紹介する「東
アジア島嶼域における Gekko 属ヤモリの分
子系統地理:多重分散と種分化の歴史」か
らもなされた。それにしても、分子系統学
的研究によって多数の未記載種が発見され
たのみならず、種内にもきわめて複雑な移
動・分散の歴史をうかがわせる構造が多重
的に見出されたとの報告は圧巻であった。最
後に、鈴木仁さんが「哺乳類の系統地理学的
解析における一塩基多型(SNP)の利用」と
題して、ゲノム内に無尽蔵に広がっており、
その活用が期待されている核遺伝子の一塩
基多型(SNP)の研究をとりあげた。SNP は
集団の遺伝的変異性の把握、集団分化や二
次的交雑の検出、遺伝子の進化的動態の推
定などに有効であることが示され、分子系
統地理学的研究の新たな手法として活用可
能であるとの展望が述べられた。
正直にいうと、実はこのシンポジウムの
企画当初は、分子系統地理学の研究もある
程度蓄積されてきたので、そろそろそれら
の研究結果を重ね合わせ、総合することに
より、日本の生物相成立史の再構築の道筋
を検討できないかと、やや甘いことを考え
ていた。しかし、シンポジウムを通じて明
らかになったことは、個々の種や種群の歴
史は非常に複雑であるということであった。
この現実の前で、上に述べたような総合は
まだ先の課題であると認識させられた。従
来の分類を系統情報に読み替えて構築され
た過去の生物地理仮説がいかに単純なもの
であったかを痛感させられる。核ゲノムの
SNP マーカーの導入などによる研究のさら
なる進展の可能性も鮮明になったわけで、今
しばらく、より緻密なサンプリングとより
多くの強力なマーカーに基づく研究を発展
させる時期だと思われる。そうした研究の
展開の上に、何年か先に改め系統地理に関
するシンポジウムが開催されたときには、ど
のような展望がみえているであろうか。楽
しみなことである。
三中信宏(農業環境技術研究所)
8 月 6 日に開催された「<ベイズ進化学>
―― 進化研究における新しい計算統計学手
法の利用」の報告をします。私はこのシンポ
ジウムのオーガナイザーでしたが、私自身
25
が現代版「ベイズ統計学」の最前線について
知りたいと思ったのが、このシンポを企画
した動機です。生物学・進化学にとって統
計解析は研究活動のさまざまな局面で欠く
ことのできないツールとなっています。しか
も、統計学そのものが長足の進歩を遂げて
おり、そこから出力された新たなツールが
研究現場での実際の問題解決にどれくらい
役に立つのかは、リスクとベネフィットを
つねに合わせもっています。実際に具体的
な問題に適用してみて、初めてある手法の
利点と欠点がみえてくることがあります。と
くに、既存の対立手法があるときには、新
旧のツール間の競合がどのような結果に終
わるかは、少なくともその最中にいるとき
には、判断できないことが少なくありませ
ん。とりわけ、多くの分野にほとんど同時
的に浸透し始めた手法があるとき、なぜそ
の手法が多くのユーザーにとって魅力的に
見えるのか、その実体と実態について知る
ことは潜在的ユーザーにとってきっと有益
だろうと考えられます(使うかどうかの判断
はもちろん各ユーザーに委ねられています
が)
。
強力な統計ツールが「開発されること」は、
必ずしもそれが実際に「使用されること」と
は必ずしも相関しません。そのツールの存
在がユーザー側に周知されるかどうか、そ
してそれが現場のデータに対して使えるか
どうかは別問題です。しかも理論としてす
ぐれているかどうかというレベルではなく、
現実的な計算時間の範囲内で解答をだして
くれるかどうかという点で、普及にタイム
ラグが生じるということもあります。今回
のシンポジウムのテーマである<ベイズ統計
学>はこの後者の事例にあたると私は考え
ています。ベイズ統計学それ自身は決して
新しい統計学理論ではなく、統計学史の上
ではむしろ古くからある研究プログラムの
ひとつです。確率の主観的解釈をめぐる統
計 学 の頻 度 派( frequentist)vs ベイズ派
(Bayesian)の対立は有名です。しかし、現
在、生物学を含む多くの学問分野でその利
用が急速に広まっている「ベイズ的手法」は、
そういう歴史的文脈とはいささか異なった
軸の上で展開しているように見えます。今
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
26
回、私が企画したシンポジウムは、この新
しい「軸」がいったいどのようなものなのか、
そして進化学の研究にどのような利点(と問
題点)をもたらすのかという問題意識のもと
に企画しました。
ベイズの逆確率定理に書かれているよう
な、事前確率と事後確率との関係は、われ
われ自身がある問題の解決に際して有して
いる背景的な知識や知見をどのように利用
できるのかという重要な論点につながりま
す。事前情報を事前確率のかたちで組み込
もうするのが ベイズ的 なもののとらえ方
であり、ベイズ統計学にかかわる歴史的論
議のある部分は、事前情報を統計学的に組
み込むことは果たして可能なのかにかかわ
っていました。最初の演者である岸野洋久
(東京大学)さんの講演「進化・適応の系統
間の分布、遺伝子間の分布」では、ベイズ統
計学の現代的発展形である「階層ベイズ法」
と「経験ベイズ法」について具体的な適用例
を挙げながら説明されました。推定象であ
る未知パラメーターを上位で支配する「超パ
ラメーター」を設定するというのがポイント
となります。事前情報を超パラメーターに
関するモデル(制約)として組み込み、デー
タから同時に推定してしまおうということ
です。パラメーターの階層は原理的にはい
くらでも積み重ねられるわけですが、その
階層化に起因するモデルの複雑度の増大に
どのようにして歯止めをかけるのかという
問題は残りそうです。
続く宮正樹(千葉県立中央博物館)さんの
講演「大規模データ解析から明らかになった
分子系統学におけるベイズ推定の効用、問
題点、そしてその解決策」では、ベイズ法に
よる系統推定プログラム< MrBayes >を用
いた魚類の分子系統推定を例に挙げながら、
系統学へのベイズ的手法の功罪について話
題が提供されました。現実のデータ解析の
中で、探索的なパラメーター推定を行うに
当たっては、計算時間の負荷が無視できま
せん。ベイズ推定を行うためには、通常の
最尤法(これだけでも十分に計算時間がかか
る)に加えて、事前確率(超パラメーター)
に関する積分計算をしなければ事後確率が
得られないからです。ほんの 10 年ほど前ま
では、まさにこの理由によりベイズ的手法
は実践的な解析ツールとなり得なかったの
だと私は推測しています。しかし、1990 年
代半ばに開発された「マルコフ連鎖モンテカ
ルロ法(MCMC)
」の登場により、状況は大
きくかわりました。逐次的に事後確率分布
からのサンプリングを繰り返すことで最適
解をめるという MCMC に基づくベイズ推定
法は、宮さんが話された分子系統学を含め、
数多くの生物学の領域に急速に浸透しつつ
あります。パラメーター推定のための新し
い有効なツールとしての性格を現在のベイ
ズ推定法は色濃く帯びています。
最後の北門利英(東京海洋大学)さんの講
演「ベイズ統計と MCMC :分集団構造と空
間分布の解析を通じて」は、階層ベイズ法・
経験ベイズ法そして MCMC のメカニクスを
理解する上でとても教育的でした。 ベイズ
といえば哲学的なレベルでの確率論・統計
学の理念的対立がかつてはあったわけです
が、ここ数年浮上してきた ベイズ はそれ
とは別の次元での「解析ツール」として効用
がつねに強調されています。これまでは数
値的に解けなかった推定問題が MCMC を
用いて解決できるようになったという技術
的なブレークスルーが、ツールとしてのベ
イズをいろいろな学問分野に普及させた原
動力なのでしょう。もちろん、モデルがい
くら複雑になってもそれなりの時間をかけ
れば数値的に解けてしまうというのは、モ
デル選択の立場からいえば「諸刃の剣」のよ
うに私には感じられました。そのあたりの
問題はなお残されているようです。
池内昌彦(東大)
昨年は、
「光合成の進化とゲノム」という
タイトルで、光合成系の進化、遺伝子の進
化、実験進化学による検証、ゲノム工学に
よる人工進化の観点から光合成遺伝子シス
テムの進化を考える内容のシンポジウムを
開き、三室先生(京大)
、田中先生(北大)
、
板谷先生(三菱生命研)と池内(東京大)が
話題提供しました。さて、今年はこの発展
型として、
「光合成:色素とタンパク質の進
化と未来」というタイトルで、色素や光合成
酵素、タンパク質複合体の構造と機能を進
化的側面からより深く考え直すことを目指
しました。会場には関係者だけでなく多く
の聴衆が集まり、盛り上がった雰囲気にな
りました。最初の演者の小林先生(筑波大)
は、化学の背景から光合成色素の化学進化
を考えるという異色の切り口で、金属原子
のイオン化傾向や合成色素の光捕集の化学
的評価と卓上デモ実験によって、マグネシ
ウムが配位したクロロフィルが光合成色素
として選ばれた必然性を熱く語っていただ
きました。沈先生(岡山大)は、最近ようや
くみえてきたシアノバクテリアの光化学系 2
複合体の立体構造から初めて明らかになっ
た光化学系 1 や細菌の光化学反応中心との
共通構造とそれぞれの固有の特徴を抽出し、
さらに水分解にかかわる表在性タンパク質
の複雑な進化の過程を詳しく解説していた
だきました。栗栖先生(東大)は、光合成の
電子伝達の要となるチトクロムb6 / f 複合体、
プラストシアニン、フェレドキシンの構造
解析を通して、呼吸鎖のチトクロムb / c1 複
合体との詳細な比較からみえてくる光合成
固有の構造の進化的意義、植物の進化とと
もに変化したタンパク質の配列の役割、光
合成の進化における可塑的な電子伝達経路
の手がかりなどを詳細に分子レベルで語っ
てくれました。増田先生(東大)は、色素合
成系の酵素の特徴から、同一ステップにお
ける酸素依存型と酸素非依存型の2 つの酵素
遺伝子の進化的意義、高等植物における光
非依存型酵素の消失とともに生じた光依存
型酵素の多様化と機能分化の適応的意義に
ついて詳しい解説をしていただきました。こ
れらの内容は、演者の先生方の最新の研究
成果に基づいたもので、さらに研究の発展
とともに新しい展開が期待されます。また、
来年以降の関連シンポジウムの候補として
は、光合成の炭酸固定経路の進化や光合成
の初期進化におけるミッシングリンクの探
求などがあげられます。
27
嶋田正和(東大・院・総文)
このシンポでは、東北大学の河田雅圭さ
んと相談して、若いポスドク・院生クラス
の年齢層で目覚しい研究をしている3 名を講
演者として招待した。河田さんが生物多様
性の進化研究に関するシンポの趣旨説明を
した後、まず吉田丈人さん(コーネル大・進
化生態)が、微生物実験系の捕食−被食関
係における急速な適応進化と個体群動態の
パターンの研究を紹介した。急速な適応進
化が実現するためには十分に大きい遺伝分
散と強い自然選択圧が必要だが、捕食作用
では食われれば被食者は死ぬので、それだ
け自然選択は強くかかるということか。対
立する仮説として、捕食者の水溶化学成分
を知覚して形態を変えるミジンコのような
表現型の可塑性が考えられるが、両者の作
用は実験的にも判別可能なので、比較検証
して見ると興味深いだろう。
次に、石井弓美子さん(東大・総文)は、
2 種のマメゾウムシと寄生蜂 1 種からなる 3
種実験系の可塑的な学習行動と個体群動態
パターンの研究を紹介した。寄生蜂は、2 種
のマメゾウムシ幼虫の存在頻度に依存した
学習によって寄主選好性が周期的に変化し、
それがひいては個体数動態における優占種
の交互振動をもたらしていた。急速な性質
の変化にはこのように可塑的な学習行動が
絡む場合もあるので、今後は学習と適応進
化の相互関係を理解することが重要となる
だろう。
最後に、群集の動態モデルが専門の近藤
倫生さん(龍谷大・理工)が、適応進化によ
り急速かつ柔軟に変化する生物間相互作用
を取り入れた群集モデルで、多種の共存持
続性がどのくらい強化されるかをモデルで
解析した結果を紹介した。従来は、LotkaVolterra 系の生物間相互作用のパラメータは
固定して扱われていたので、このような進
化動態を内包した群集モデルの拡張はまさ
に挑戦的である。
今回は、図らずも急速に変化する生物間
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
28
相互作用が、適応進化かあるいは学習など
の可塑的な現象か、そしてそのような変化
は進化的なものであれ可塑的なものであれ、
いったん生じればどのように多種の共存持
続性を強化するか、というテーマに集中し
た3 つの研究を同時に聴くことができ、企画
者としては大いに満足した。今後、この方
面の理論には、生態学的思考と進化学的視
点の双方を取り入れることによって、いっ
そう充実した発展が期待できるだろう。
渡邉正勝(東工大・院・生命理工学)
本シンポジウムは、古くからの進化学の
テーマのひとつである「種形成」の問題につ
いて、シクリッドを題材に進められている
分子レベルの研究の歴史と現状を、東大・
西田教授、本シンポジウムの世話人でもあ
る東工大・岡田教授、そして Bern 大学の
Seehausen 教授が講演をされた。
そもそも、シクリッドの種形成をめぐる
問題は古く、生態学や形態学の分野では100
年にわたり活発に議論され続けてきた話題
である。90 年代初めに分子を用いた系統解
析をシクリッドに当てはめるという動きが
起こり、西田教授は分子生物学をシクリッ
ド研究に取りいれた最初の研究者のひとり
である。90 年代半ばには、東工大・岡田研
のグループもシクリッドの分子系統解析に
加わり、アフリカ三大湖に生息するシクリ
ッドの属間の大まかな系統関係が明らかに
されてきた(私自身は参加していませんが)
。
ところで、われわれ分子生物学を専攻する
研究者のなかでは、
「シクリッドの爆発的な
種分化」の原動力となった遺伝的要因は何
であろうか? という問いは早くからあが
っており、近年のゲノム情報取得の迅速化
の時代と相まってその解析が加速されつつ
ある(現在、東工大・岡田研でもシクリッド
のゲノム情報の整備や種形成にかかわる遺
伝子のスクリーニングを精力的に進めてお
り、本大会でも何件かの発表を行った)
。
アフリカ三大湖に生息するシクリッドの
なかでもわれわれが「種形成」の題材として
もっとも注目しているのは、ビクトリア湖
に生息するシクリッドである。ビクトリア
湖の成立年代が今から約 1 万 4,000 年前とさ
れていることから、現在この湖に生息する
300 種以上のシクリッドはこの短期間に種分
化をとげたことになる。本シンポジウムの
招待講演者である Seehausen 教授は言わず
と知れたビクトリア湖産シクリッド研究の
第一人者であり、自身も毎年ビクトリア湖
に潜り、生態観察からサンプリングまでを
こなしている。 著 書「 Lake Victoria Rock
Cichlids」は、ビクトリア湖のシクリッドを
知るうえで必須の 1 冊となっている(岡田教
授が冒頭で紹介されていた)
。Seehausen 教
授の講演は、昨年、東工大・岡田教授が主
催したシクリッドシンポジウム 2003 に続き
日本では2 度目の講演となるが、今回の講演
では、ビクトリア湖に生息する Pundamilia
属シクリッドにおける色彩、性選択、湖の
透明度などの環境への適応、についての興
味深い講演を頂いた。特に、湖の濁度の(季
節あるいは地域毎の)変動による種内・種間
の性選択の揺らぎの観察は、過去に起こっ
たシクリッドの種形成において、そこに関
わる因子(環境・濁度・色覚等の要因)の重
要性を示唆するものである。また、ビクト
リア湖とそこに生息する個々のシクリッド
種の紹介は、Seehausen 博士の研究の深さ
とシクリッドの多様性の大きさを再認識さ
せるものであった。
ところで、これまでにビクトリア湖産シ
クリッドの種形成にかかわる遺伝的要因は 1
遺伝子しか見つかっていない(lws 遺伝子、
Terai et al)
。分子機構の解明を目指すわれ
われにとって、種形成にかかわる遺伝子を
見つけ解析することが大きな課題であるこ
とは間違いない。
深津武馬(産総研・生物機能工学)
近年のゲノム解析の進展によって、すで
に600 種を越える微生物のゲノムシーケンス
が完了もしくは進行中であるといわれてい
ます。多種多様な微生物のなかでも、絶対
的寄生細菌、共生細菌はゲノムサイズがと
りわけ小さく、この特徴は寄生、共生する
という性質と連関してさまざまな系統で独
立に進化してきたものと思われます。ゲノ
ムサイズが小さい、遺伝子数が少ない、分
子進化速度が速い、ゲノム A / T 含量が高い
などといった共通の性質は、寄生や共生と
いう生き方といかなる関係があるのでしょ
うか?
非コード領域がほとんどない微生物にお
ける大幅なゲノム縮小は、多数の遺伝子の
喪失を伴います。すなわち、寄生、共生細
菌の小さなゲノムからは、彼らの進化の過
程でどのような遺伝子が失われ、どのよう
な遺伝子が保持されてきたのかを一目でみ
てとることができます。
「ゲノムをみて寄生、
共生という生き方の本質を理解する」という
ことが可能なのです。
そこで本シンポジウムは、昆虫類共生微
生物を専門とする私と、ゲノム解析の専門
家である服部正平先生の共同企画として、ツ
ェツェバエの共生細菌の研究で著名な米国
Yale 大の Prof. Serap Aksoy をはじめ、この
分野できわめてアクティブに活躍されてい
る以下の方々を演者としてお招きいたしま
した。
服部 正平(北里大・北里生命/理研・GSC)「ゲ
ノム解析技術の現状と将来展望」
Serap Aksoy(Yale Univ.) Symbiont Genomes
Provide Insights for Functional Relationships
中鉢 淳(理研・環境分子生物、産総研・生物機
「共生体ゲノミクスと宿主 EST によ
能工学)
り明らかとなったブフネラ?アブラムシ間相
互作用」
難波 成任(東大・院・農生命)「怠け者の小さ
な動植物寄生微生物:ファイトプラズマ」
多くの聴衆を得て、活発な質疑が行われ
ました。一般の微生物では、ゲノムを決定
したところで、
「全情報は得られたが、そこ
から何を読みとるべきかがよくわからない」
となる場合も多いのです。しかし、これら
の寄生、共生細菌の場合には、ゲノム情報
からただちに寄生や共生にともなう遺伝子
喪失や、高度に保持された生物機能を読み
とることができます。ゲノム解析が進化生
29
物学にもたらす知見として、きわめておも
しろい系であるということがよくわかりまし
た。
中井咲織(立命館宇治中学校・高等学校)
今回の進化教育のワークショップは、進
化のしくみ(メカニズムやプロセス)の重要
性にテーマを絞って企画された。進化のし
くみの基本的な考え方、現行の教科書や資
料集の進化の扱いの問題点などがわかりや
すく示されたと思う。会場には理科教員、
学生、研究者など約 80 名が参加し、大変盛
況であった。参加者の半分以上は理科教員
であり、進化を正しく理解したい、授業に
も取り入れたいという意気込みが感じられ
た。参加教員の満足度も高かったようであ
る。今回も昨年に引き続き公開ワークショ
ップにしていただき、さらに教員が出張や
自己研修というかたちで参加できるよう、大
会 HP に学校長宛の要項を添付していただく
など、教員が参加しやすい環境がつくられ
た。これは現場の教員としては、大変あり
がたかった。
ところで、進化学会では、進化教育のセ
ッションが第 4 回東京大会から連続して設け
られている。これは大変意義深いことだと
考えられる。進化教育のセッションを毎年
開くことは、
「
『日本進化学会』は、研究だ
けでなく教育にもちゃんと注意を払ってい
ますよ」という意思表示と実績になる。進化
教育の重要性をきちんと発信し続けること
が、現場の中高教員の意識改革と文部科学
省の学習指導要領の改革につながるのでは
ないかと思う。将来的には、進化学会から
正式な意見書として文部科学省へ働きかけ
が行われることを期待する。多くの生徒が
学ぶ教科書に、
「進化」が新しい形で ―すな
わちきちんと進化のしくみを学ぶことがで
きるようなかたちで― 復活すれば、中等教
育での生物学の地位向上につながるだろう。
ちなみに、今回このワークショップに、
文部科学省の教科書検定の調査官が人知れ
ず参加されていたそうである。進化教育を
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
30
軽視し続けてきた文科省検定官の意識変化
が静かに起こっていることを示唆するもの
ではないだろうか。中高の教科書で進化の
地位が見直される日も夢ではないかもしれ
ない。まさに「継続は力なり」である。また、
このワークショップがきっかけで、来年の
生物教育会(中高の生物教員が中心となって
組織されている研究会)の全国大会におい
て、進化の出前授業が行われる運びとなっ
た。現場の教員に直接、進化研究がどれだ
け進み、発展しているかや、進化のしくみ
の教え方などを示すことによって、中高で
扱う程度の「進化のメカニズム」はすでに確
立されていることや、進化のしくみを教え
るのは意外と簡単であることなどを理解し
てもらえればと考えている。
最後に、今回はワークショップというこ
とで、公募で講演者が1 名採用されたが、事
前に示されていた講演内容とはほど遠い、進
化教育とはほとんど関係ない内容の講演が
なされてしまった。公募を募ることは、意
識の高い進化教育の理解者を発掘できると
いうメリットもあるが、講演希望者が知人
でない場合には注意が必要である。今後は、
公募者に対しては事前に講演内容を具体的
にチェックするなどの方策が必要だろう。
佐倉統(東大・院・情報学環・学際情報学府)
昨年度に引き続き、非生命体進化理論の
シンポジウムを開催した。生物体でなくて
も、情報の自己複製による系統の形成があ
り、情報の複製ミス(突然変異)と複製効率
(適応度)の差が生じれば、ダーウィン的な
選択過程が作動する。これはまさしく「進
化」であり、このような現象を研究すること
で生物の進化現象に対する理解も深まるは
ずだ。今年度は具体的な事例を増やすこと
を目標に、以下の 4 人に講演を依頼した。
徳永幸彦(筑波大・生命共存)「人工生命の系
譜学と進化学」
佐藤啓介(大阪府立工業高専)「考古学におけ
る型式学」
矢野環(埼玉大・理・数学)「茶道古文書の定
量的文献系図」
屋名池誠(東京女子大・現代文化)「書字方向
と書式の系統進化」
徳永氏は、人工生命(A-Life)研究の歴史
を簡単に振り返り、人工生命体のゲノム科
学を展開することを提唱。自身の予備的な
研究例を紹介しつつ、A-Life と分子遺伝学研
究の接点はあるか、と問題を投げかけた。
佐藤氏は形式学の歴史と現状を紹介し、進
化理論とのアナロジーを論じた。生命体と
人工物の違いは、大きいのか小さいのか、
議論は分かれた。矢野氏は分岐分類学の手
法を使った文献系図の推定について、御自
身の研究を詳細に紹介され、会場の系統研
究者らから熱心な質問が飛んでいた。屋名
池氏は、現在の日本語に見られる左横書き
が、いつからどのようにして登場し、定着
したのか、その過程を詳細に説明した。
各演者の研究対象がバラバラであるため、
よく言えば多様な、悪く言えばとっちらか
ったセッションになってしまったが、これは
もちろん企画者の責任である。また、そう
はいっても、講演が進むにつれて、各演者
間にそこはかとなく共有されている「形質」
が見えてきたのもおもしろかった。たとえ
ば、情報の変化を考えるときには、その情
報だけを考えていたのではダメで、それを
運ぶメディアにも注目しなければならない
というのもそのひとつである。メディアがさ
まざまな制約となって情報に影響を与え、と
きにはそれが新たな環境を切り開くことも
ある。テキストに対してコンテキストが重
要なのだ、と言い換えてもよい。このよう
な視点は、進化生物学者にはむしろ受け入
れやすいものであろう。生物の進化とは、
まさにそのような環境との相互作用の歴史
なのだから。
昨年と今年のシンポジウムを通して、生
命体にも非生命体にも進化現象は共通して
いるという認識は、ほぼ問題なく共有でき
たと考えている。次のステップとして、こ
のような「進化」をどのように理論化するか
が浮かび上がってきたように思う。参加者
は約 40 名だった。
大会全体に目を向けると、参加者は昨年
の福岡大会よりやや少なかったとのことだ
が、若い世代の活躍が目立ち、すがすがし
くも活気のある、大変よい大会だったと思
う。嶋田大会委員長の人柄のおかげ、とい
うことにしておきたい。残念だったのは、
会場のエアコンがものすごく寒かったこと
と、大会参加登録のウェブサイトがわかり
にくかったこと。後者は、事前申し込みが
伸び悩んだ原因ではないかと、ひそかにに
らんでいる。あと個人的には、分子の研究
と生態の研究が、もっともっと活発に相互
交流してほしいと感じた。それぞれがすみ
分けてしまっては、同じ学会である意義も
薄れてしまう。多様性が次なる発展へと活
かされることを祈っている。
佐々木裕子(感染研)
〔協力〕佐々木顕(九大)、
加茂将史(産総研)
31
3)
「潜伏期間における HIV-V3 loop タンパ
ク質構造微細変化と配列進化の関係」では、
1 人の感染者の体内で新たに出現する複数の
ウイルス株の中和抗体結合部位 6 アミノ酸残
基を含む領域の3 次元構造が解析された。他
グループにより収斂進化と発表された同一
配列を含む領域については、ゆれもどしは
みられるものの構造レベルでの明確な同調
はみられないことが示された。
4)
「複数年周期の進化」では、麻疹等の感
染症の感染動態にみられる複数年周期を決
定する疫学パラメーターの解析がなされた。
感染率に季節変動による年周期があるとす
ると、変動が大きいときに 2 年周期が現れ
る。病原体の適応戦略として、感染率を環
境変動に応じて大きく変動させるタイプと
小さく変動させるタイプどちらが有利かを
調べると、変動の強さを大きくする方向に
進化すること、感受性個体と季節変動が無
相関になるところで進化が止ること、最適
な応答として複数年周期がもたさられるこ
とが示された。
感染症分野のわが国の研究者に「進化学
会」というと、なにか趣味の世界を連想させ
るようだが、病原体と宿主の相互作用の遷
移を科学的に理解しないと、感染症学は微
生物学と免疫学に終始してしまい両者の接
点はない。相互作用の変化に伴う病原性の
進化という観点を欠くと感染症対策も対処
療法にとどまる危険がある。感染する側も
される側も全ゲノム解読が進む中で、相互
作用の研究は様変わりしており、今回、他
のセッションでも議論されたゲノムから読
みとる寄生者・病原体の宿主適応戦略も相
互作用の解析法となってきている。さらに、
新興株の毒性や流行動態を決定する進化法
則などは、感染症という生物間の現象その
ものを正面から探るまさに感染症学のテー
マだなあと嬉しく感じられた。
寄生者と宿主は、相互作用を通じて共進
化する。このワークショップでは、寄生者
と宿主の共進化がゲノムに及ぼす影響なら
びに、両者の相互作用の進化について4 演題
が語られた。
1)
「強毒病原体の出現と宿主の集団構造」
では、新しい株出現が引き起こした強毒ウ
サギ出血熱ウイルスの感染事例を元に強毒
株流行の理由を解析した。抗原エスケープ
ではない強毒株大流行のシナリオを格子集
団の感染モデルに長距離相互作用を加味し、
さらに空間構造を入れることでシュミレー
ションに成功した。結果、もともとの弱毒
株の流行地においては、野生型よりわずか
に毒性の強い株は広がらないが、致死性の
強毒株が有利に広がることが示された。
2)
「マイコプラズマゲノムに見られる寄生
者の宿主との相互作用:退行進化とパラロ
グ形成」では、6 億年をかけて植物、昆虫、
脊椎動物の種の出現と共に種分化してきた
病原体が、自由生活をしていた祖先種の細
菌から絶対寄生性になる過程でゲノムの退
行進化を起こしてきた過程ならびに、宿主
三浦 徹(東京大学)
免疫を回避し体内での生存を可能にする為
昨年の福岡大会では、Evo-Devo 関連のシ
の抗原変異を担う 38 個の重複遺伝子と、そ
ンポとして、長谷部光泰(基生研)・倉谷滋
の発現機構により膨大な抗原性の多様性を
(理研 CDB)氏企画の「発生進化学と進化発
獲得したことが述べられた。
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
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生学の諸問題」と私と青木誠志郎氏(東大)
とで企画した「Eco-Devo-Evo 進化学の新た
なトレンド」があった。今回の東京大会で
は、プログラム委員会からの要望もあり、
これらの企画を受け継いで長谷部・倉谷氏
とともに本シンポジウムを企画した。現在
では、進化発生学はすでにメジャーな学問
領域となっているが、そこに生態的要因を
取り込んだ生態発生学(Eco-Devo)は近年に
なってようやく注目されてきている。今回
のシンポでは特に「表現型可塑性」というテ
ーマに焦点を当て、先駆的な研究を行って
いる5 人の演者の方をお招きして、ご講演い
ただいた。以下に簡単に演者と講演内容を
まとめた。
工藤洋氏(神戸大)の発表は、Eco-Devo
に関するシンプルかつ的確なイントロに始
まり、遺伝子型−環境共分散の例をタネツ
ケバナの開花反応におけるリアクションノ
ームの研究例をクリアに示していただいた。
そして根底に潜む分子発生学的機構に関し
ても示唆に富む考察を行っていた。
桑原明日香氏(東大)は、身近に見られる
植物の葉の形の多様性への純粋な疑問から、
同一個体でも異なる形態の葉をつける異型
葉植物を用い、葉の形態形成が環境により
いかにして決まるのかを、形態学的・生理
学的に説明し、熱のこもった講演をしてい
ただいた。
新美輝幸氏(名大)は、テントウムシの斑
文形成メカニズムの解明のため、実に緻密
かつ壮大な研究計画を進めている。遺伝子
機能解析を可能にするため、トランスジェ
ニックナミテントウを作成し、ショウジョ
ウバエで行われているような発生遺伝学的
基盤を構築しつつあり、今後の展開が非常
に期待される。
松尾勲氏(理研CDB)は、マウスの顔面頭
蓋形成という複雑な形質に関するゲノム情
報にアクセスするため、遺伝的背景に依存
して形質を変える変異マウスを用い、数値
化された形質をゲノム上にマッピングする
遺伝統計学を用いた解析を紹介した。これ
により実際に修飾遺伝子座があることを発
見し、この手法の有用性を示した。
望月敦史氏(基生研)は、L-system という
数理モデルを用い、発生過程の進化を、文
字列を生成するルールが進化していくこと
を示した。このモデルにより発生の初期段
階は比較的安定で、後期段階がより変化し
やすいことを明らかにした。
今回のシンポでは、材料も植物、昆虫、
哺乳類に関する話題であったのに加え、テ
ーマや研究手法も幅広く、生態・発生・生
理・分子・理論と多岐にわたっていた。ま
た、かなり大勢の聴衆の方々にも来ていた
だき、会場もほぼ満席であった。熱気の伝
わる講演と講演後のディスカッションも盛
り上がり、全て人の質問を受けることはで
きないほどで、成功裏に終わったと思う。
表現型可塑性のような進化生態学上のテー
マと、進化発生学(Evo-Devo)の融合はよう
やくここ数年になって始まったばかりであ
る。世界に先駆けて日本でも研究者間での
親睦を図っていければ何よりである。来年
以降の進化学会でも関連のシンポなど開か
れる事を切に希望する。
宇佐見義之(神大)
林氏から節足動物の肢の発生について以
下のような内容の講演がなされた。脚原基
と翅原基は最初胸部の3 体節で一体となって
現れるが、後に翅原基はストライブの方向
と垂直の方向に分離する。脚原基は最初 2 重
円のパターンをとるが、細胞の増殖に伴っ
て同心円の形になる。これらの異なった形
成のパターンは限られた遺伝子の発現パタ
ーンとシグナル分子の強度と組み合わせ、抑
制の時間・空間的様式によってつくられる
ことがわかってきた。
脚の形成を進化的に考えた模式に Snodgrass の考えがある。これはまず近位部と遠
位部からなる祖先型の付属肢が最初にあっ
たと仮定し、そこの中間部に節が加わって
いったとするものである。同心円の形で脚
原基が最初に形成され、脚の分節構造へ成
長 していく( 観 察 された)発 生 の様 式 と、
Snodgrass の考えた進化様式はある程度対応
していると考えられるが、現時点では進化
的な様式と発生の様式を直接結びつけて議
論するにはまだ不明な点がある。
野地氏は、使い回しをされている遺伝子
が、機能(遺伝子間相互作用)の上では必ず
しも種間で共通した働きを持っていないこ
とを示した。すなわち、節足動物のコオロ
ギの体節形成遺伝子をショウジョウバエの
それらと比較により、代表的な遺伝子 caudal と関連遺伝子との相互作用が、これら 2
種の間ではまったく異なることを発見した、
企画者の宇佐見は動物の基本的体型の進化
に関する理論的な研究の発表を行った。こ
れまでの研究により、体をくねらせて水中
を泳ぐ生物の場合、周囲の流体の性質から
離散的な構造や動きは効率が悪く、連続し
た体を屈曲させて周囲に流体の塊をつくり、
それを押しやる形で推進する方法を実現さ
せる体型と動きが有利であることを示した。
今回は歩行の場合について何も無いところ
から歩行に適した体をつくるにはどうした
らよいかということの方法論に関する考察
の途中報告をした。
これまでの物理学の考え方において生物
の3 次元の構造と動きを対象として、空間的
に広がりながら構造が複雑化していく理論
はないように思われる。このような系では
発展の自由度が大きすぎて第一義的な理論
を作るのは不可能である。そこで拘束条件
が必要になるが筆者は「基本要素の繰り返し
の構造からつくりだす」という原則を仮定
し、そこからつくりだされる構造について
議論した。特に、構造をつくりだす理論と
してはL システムが著名であるが、これは植
物のモデルであって、動物に対しては今回
のスキームの方が適しているとの指摘を行
った。
全般に実験と理論の組み合わせを模索し
た試みであったが、筆者の講演において新
しい部分を発表しようとして考察が不十分
な個所があり、このことに対する指摘があ
った。この不十分さに対する点については
率直に関係者にお詫びしたい。また、理論
と実験の対比に関する議論が不十分である
との指摘もあった。この点は筆者の責任と
33
いうよりも、異なった考え方の同居による
コミュニケーション不足があげられると思
う。異なった分野が同居するので、考える
ベースが異なり、30 〜 40 分の講演ではなか
なかお互いの考えをちゃんと伝えるのは難
しいところがある。この原稿においても、
字数の制限があるので、機会を改めて、こ
の場で議論できなかったことを考察してい
きたい。
大路樹生(東大・理)
進化学会は多様な生物学分野を研究する
人たちの集団であるが、化石の研究を行う
古生物研究者は多くない。生物学のさまざ
まな分野で「分子」が共通のキーワードとな
り、系統解析や形態形成において分子に基
づく議論が主流になって久しい。しかし最
近、さまざまな進化学の分野において古生
物学の重要性が今までにもまして強調され
るようになってきたように感じられる。こ
れは進化現象が実際に記録として残される
のは化石からであることはもちろん、分子
からだけでは理解されない現象が多いこと
がわかってきたためではないだろうか。また
系統解析における形態と分子の結果ような、
かつて対立ばかりが強調されてきたものも、
実はお互い相補的に有用な結果が得られて
いる例も多くなってきている。
さて、本シンポジウム「長時間軸の古生態
学」は、化石と現生の生物を扱い、それがど
のような生態をもっていたのかを探り、さ
らに長い時間軸でその生態がどのように変
化してきたのかを考えよう、という趣旨で
行われた。従来古生態学では、具体的なタ
クサ、あるいはある時代に限った議論が多
く、それが長い時間軸を通じてどのように
変化してきたのかを考えることは多くなか
った。今回は 1 番目の講演者の近藤康生さ
んが避けがたい理由により急遽欠席となっ
たが、他の3 名の講演者が化石の研究の面白
さや、過去の形態からどこまで生態学的情
報を引き出せるのかなど、興味深い話題を
提供した。金沢謙一は現生ブンブクウニの
水槽や実際の海底でのムービー映像を交え
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
34
ながら、形態とその生息姿勢や行動がいか
に深い関係にあるのかを示し、化石のブン
ブクウニ類の特徴ある形態からその古生態
の類推と多様化が明らかにされることを強
調した。Robert Jenkins は過去の化学合成群
集がどのような手段で認定されうるかを、同
位体の手法などを組み合わせて明らかにし
た例(北海道の白亜紀の例)をあげ、化学合
成群集の時代的変遷の研究の将来性に触れ
た。大路は捕食者と被食者の関係を化石記
録から見出し、その関係がいつ、どのよう
に強くなってきたのかをウミユリ類や軟体
動物の例を挙げて話題提供を行った。聴衆
は約 20 名で決して多くはなかったが、若い
学生、院生クラスが多く、最後まで興味深
く議論に参加いただくことができた。
最後に、講演開始間際にムービーファイ
ル等の不調に対し、すばやく機器の交換で
対処していただいた会場係の方々に厚くお
礼申し上げます。
石浦章一(東大・院・総文)
ワークショップ「ヒトの疾患・行動遺伝子
研究の最前線」は、当初、九州大学の矢原
徹一教授のご提案で話が始まり、私が人集
めのお手伝いするということで、5 人の演者
によるバトルを行った。昨年同様、精神疾
患などヒトの行動に影響を及ぼす遺伝子変
異をどう同定するかということに興味の焦
点が集まった。
大橋(東大・医)は、ヘモグロビンβ鎖の
E26K1 変異と周辺多型との関係やその起源
についての報告を行った。私は、タンパク
質の性質が進化を規定する、という演題で
疎水性ポリアミノ酸を持つタンパク質が細
胞死を引き起こすために、ヒトの遺伝子に
は淘汰されて残っていないことを示した。ア
ミノ酸が2 個増えて病気になるという点が興
味を引いたようだった。
村山(岐阜大・応用生物科学)は、サル、
イヌ、ウマなどの性格関連遺伝子の多型に
ついて膨大なデータを示し、有用犬や競走
馬の選抜に遺伝子型が使えるのではないか、
と発表した。これについても多くの参加者
から質問が続出した。福家(東大・教養)は、
ヒトの ADHD などの関係するドーパミント
ランスポーター遺伝子に焦点を絞り、3 非
翻訳領域にある繰り返し多型に結合する新
規転写因子の発見とその意味について発表
した。この遺伝子は覚せい剤の標的にもな
っており、多くの精神疾患に関係すると言
われているものなので、新しい因子の発見
は今後の治療や診断に役立つであろう。
最後の岩本(理研・脳)は、そううつ病、
うつ病、統合失調症の違いから話し始め、
そううつ病家系で見つかった発現低下遺伝
子 XBP1 遺伝子の話、百例以上のそううつ病
患者脳での DNA チップデータ解析の話、な
ど、我が国の脳・精神疾患研究の最前線を
説明した。最後の話のインパクトは大きく、
今後の脳研究の進め方に大きく影響を及ぼ
すことだろう。
今回のワークショップでは、参加者は医
学関係ばかりではなく、むしろ理学・農学
と多岐にわたっており、進化学会ならでは
の質問も見られ、有意義な集会であった。
是非、この伝統を次回も継続していただき
たいというのが私からの願いである。
日本進化学会は、私の所属している日本
生化学会や日本分子生物学会と異なり、文
系を含めた異分野の方の集まりが特徴であ
る。このような会で、ヒトの疾患が話題に
なるのは、疾病を研究してきた者にとって
たいへん嬉しいことである。できれば、参
加していただいていた高校の先生方や植物
学の研究者の方々にも聞いていただき、医
学・分子生物学が進化に対して強力なアプ
ローチ法を持っていて、それが現実に利用
され、進化生物学が私たちの生活にも関係
してきたことを知っていただきたいと思う。
大会は、手作りでしかも対応がはやいのに
感心した。ご苦労いただいたオーガナイザ
ーの方たちに感謝したい。
35
■ 飯島実(筑波大・生環研)
■ 四方哲也(阪大)
夏の学校を受講しました。当日は所用が
あって、遅れて参加したのですが、私が到
着したときには広い会場は満杯。他の受講
生の熱気が伝わってきて、息苦しいくらい
でした。2 限目の講義からはさらに広い部屋
に移動しなければならないとなるほどの盛況
ぶりでした。これは、広い範囲の方が進化
学に興味をもっていることの表れだろうと思
います。直接的には個人の健康や生活に強
く関係のない進化学が、このような高い関
心を集める理由は、やはり文化として重要
だからだと思います。医学、工学などの応
用研究が大きな関心と支援をうけている現
状で、文化としての進化学の楽しさをどの
ように発信していくかが重要であると思い、
現在頭をひねっているところです。あの部屋
に充満していた熱気を何とか研究分野へ反
映させることができれば、進化学研究にも
大適応放散が起こると信じています。
多くの受講生を集めるに値して、講義内
容も大変すばらしいものでした。最初に申
し込んだときは、事務局から研究者を対象
としているのでなく一般向けですからレベ
ルがあっていませんといわれたのですが、幸
いなことに(恥ずかしながら)私にぴったり
のレベルで講義が進みました。確かに一度
どこかで学んだことも多く含まれていまし
たが、一流の研究者である講師陣が100 の知
識のうち取捨選択して1 だけを講義されてい
るので、講師が何を進化のエッセンスだと
考えているかが大変よく伝わってきました。
実際のデータなどをみながら名講義を聴く
と色々な夢想が浮かんでくるものです。今
回の講義中には、3 つも面白そうな実験進化
を思いついたほどです。それだけ講義は楽
しかったということです。
普段は壇上に立つことが多いのですが、講
義を聴く楽しさを一学生として実感できま
した。時間が許す限り来年も学生として参
加しようと決意して席を後にしました。
私自身、研究の世界に足を踏みいれ、学
会というものに参加してからほぼ 10 年が経
ったが、本学会への参加はまだ 2 度目であ
る。大小含め他の学会にも多く参加してき
たが、まだ若い本学会に初回から参加して
いなかったことが悔やまれるほど、進化学
会は進化に興味をもつ者に有意義な時間を
与えてくれる学会である。それまで他の学
会で散在していた、進化をキーワードとし
た研究が一堂に会している訳だから、進化
を中心に研究している人たちにその利点を
わざわざ説くまでもないが、進化に何とな
く興味をもつ者、もち始めた者には、眺め
るだけでも、ぜひ、本学会に参加すること
をお勧めしたい。生物の進化から非生命体
の進化まで、非常に多様な分野の集合は進
化学会の比類なき特徴といえ、刺激を与え
られる研究に不意に出会えるであろうから。
その総数は昨年同様だったが、昨年は2 日
間であったポスター発表が、本大会では3 日
間であった。私自身もポスター発表をした
が、担当時間中は嬉しい悲鳴をあげつつ説
明に終始し、しかし同日の他のポスター発
表が聞けず終いだったので、演者の立場と
しては、3 日間に分散されている方がより多
くのポスターに接することができてよかった
と思う。また、シンポジウムやワークショ
ップは昨年よりも1 日当たり1 時限ずつ減り、
もう少し多くの講演を聞きたい感も残った
が、集中力の点からいうと実際はほどよい
コマ数だったかもしれない。
また、細かいことだが、講演要旨集のシ
ンポジウム/ワークショップの要旨が会場
ごとの順だったが、昨年のように時限毎の
順に並んでいたほうがみやすかったかと思
う。
会場となった東大駒場キャンパスは、都
心にあって、しかし蝉時雨にうたれる緑も
多く、心地良い環境であった。夏の強い日
射しをかいくぐって集う輩に、いつの間に
かヒグラシの音が届き、侃侃諤諤の宴で共
に暑さと乾きをビールで癒す、そんな時季
に開かれることも進化学会の有意義な点の
ひとつである、と感じているのは私だけで
はないだろう。
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
36
■ 金子聡子(総研大・先導科学)
進化学会の年会には、生態学・分子進化
学・分子系統学・進化発生学など多岐に渡
る分野の方々が参加しているため、ワーク
ショップやポスターでさまざまな話を聞け
るというのが特徴のように思います。しか
しながら異なる分野の人たちが議論をする
となると、各分野で暗黙の了解となってい
る事柄が通用しない、研究対象へのアプロ
ーチの仕方が違うために誤解が生じやすい
など難しい面も抱えているという印象を受
けました。また、各分野間の融合も起こり
つつあるように見受けられましたが、自分
が直接携わった部分以外は詳細を把握でき
ていない方もいらしたことをとても残念に
思いました。しかし、ポスター発表会場は
いつも人が多く盛んに議論がなされており、
とても活気のある学会だと思います。
私が現在学んでいる分子進化学は、
「塩基
置換、挿入・欠失、組換え、遺伝子交換な
どさまざまな要因により塩基配列が変化して
いき、それぞれの出来事が遺伝的浮動や自然
選択により集団中に固定していく過程を通し
て進化が起こる」という集団遺伝学の概念に
基づく学問です。しかし、この分子進化学
における進化の考え方に基づいて表現型の進
化を議論するにはまだ大きなギャップがある
ように感じます。一方、表現型進化と遺伝
子進化の間をつなぐ進化発生学という学問が
興り発展しつつありますが、分子進化学の概
念の礎となる集団内の過程についての関心は
乏しいように思います。今後、進化学会が
発生学・集団遺伝学双方の間を埋めていく
場になることを期待しています。
■ 小島健司(東大・院・新領域)
私は今年度の6 月に入会した者なので、こ
れまでの大会と比較して今回の大会の印象
を述べるということはできませんが、初め
ての進化学会大会ということでその感想を
述べたいと思います。全体の印象としては、
系統樹が思っていたよりも少ないなと感じ
ました。何となく進化というと系統という
イメージだったので、意外でした。シンポ
ジウム、ワークショップでは、興味を引く
テーマの時間帯が重なってしまって聴けな
かったものがあることが残念です。会場の
大きさなどの都合もあるのでしょうが、半
分くらいにしてもらえるとうれしいです。脊
椎動物の系統進化やシクリッドなどは全く
の門外漢ですが、大変面白く、勉強になり
ました。自分の研究に関係するところでは、
ベイズ進化学のシンポジウムがとても参考
になりました。ポスター会場は非常に盛況
で活気がありましたが、ちょっと狭い印象
でした。ポスター発表にはつきものなので
しょうが、同じ時間帯に発表している人の
話があまり聴けなかったことと、長引いて
しまってポスター発表時間直後の口頭発表
が聴けなかったのは残念でした。もちろん、
聴きに来てくれる人が多いのは大変うれし
いことなのですが。朝早かったので寝坊な
私にはちょっときつかったのですが、3 つの
シンポジウム、ワークショップとポスターセ
ッションという非常に充実した毎日が送れ
ました。自分の関係ある分野から全く知ら
ない分野まで一同に会しているので、自分
の研究と離れた分野は気楽に聞くことがで
き、おおいに楽しめました。
■ 小柳光正(阪大・院・理)
今回私は4 年ぶりに進化学会に参加しまし
た。印象記をとのご依頼をいただいたので、
久しぶりの参加で感じたことを率直に書こ
うと思います。
まず参加登録の段階で、4 年分の年会費が
未納だったことが判明しました。あわてて
一括納付し参加できましたが、やはり大会
に参加しないと忘れがちになってしまうの
で、会費の徴収には口座引き落としの徹底
が有効だと感じました。
大会全体の印象としては、ここ数年私が
参加していた他の学会にくらべると、学生
の参加者が多くて大変活気があると感じま
した。また今回私は、
「脊椎動物において二
度進化した UV 視物質」という内容でポスタ
ー発表させて頂いたのですが、ポスター討
論が1 日のど真ん中に十分な時間で設けられ
ていたおかげで、自分の仕事を多くの人に
聞いていただくことができ、貴重なコメン
トを多数いただました。欲をいえば、より
広い会場で全ポスターを3 日間貼りっぱなし
という形式にしていただければ、自分の発
表日と重なった他の人の発表をゆっくりみ
ることができたと思います。
ワークショップでは、主に「祖先」をキー
ワードとする講演をいくつか聞きました。最
後の講演で三中先生がおっしゃっていた「み
んな祖先って好きでしょ」という言葉が示す
通り、祖先の復元は研究者に限らず多くの
人が興味をもつところでしょう。いろいろ
なレベルでの祖先推定のお話のなかで特に
印象深かったのは、山岸先生の講演でした。
分子系統樹により理論的に推定した祖先配
列を実際に発現させ、その発現蛋白質の機
能解析から祖先蛋白質の性質そして祖先生
物の生息環境までも推定されており、とて
も説得力のある結果でした。視物質の研究
分野でも同様の手法を使って、ある時点で
の祖先蛋白質の機能解析がいくつか行われ
ていますが、将来的には脊椎動物の祖先が
何色を見ていたのか? という魅力的な問
いに答えがだせればと思います。いずれに
せよ、このアプローチがさまざまな遺伝子、
さまざまな形質に適用できる有用な手法で
あることを再確認しました。
一方で、別のアプローチである化石から
抽出したDNA、いわゆる古代DNA に関する
発表がみられなかったのは残念でした。こ
の場合、ぴったり祖先生物とはいかないか
もしれませんが、ある時点で進化が止まっ
た生物の DNA ですから、現存生物の DNA
よりもより多くの祖先生物に関する情報を
もっている可能性があります。現時点では、
数万年前の化石からの抽出が限界で、もっ
と古い化石からの DNA 抽出はほとんど不可
能といわれていますが、何人かの先生が言
及されていた「祖先を知るためには、まずタ
イムマシーンをつくって……」よりは何とか
なるのではないかと、希望をこめて思いま
す。とはいえ、困難であることには違いな
いので、来年とはいわないまでも数年後の
大会で、古代 DNA の解析結果をもとに祖先
生物に関する議論が繰り広げられることを
期待します。
■ 高橋亮(理研)
会場でいろんな分野の研究者と話をする
37
と、生物進化に関する非常に基礎的な概念
であっても、分野間でその捉え方に大きな
差があることに気付かされます。ある分野
では常識として受け容れられている考えが、
別の分野では過去の誤りとして退けられる
場面に出くわすことも稀ではなく、そうい
った見解の不一致が異分野間の交流の妨げ
になっているであろうことを想像すると、進
化学会の年次大会においても、もっと理論
的な側面に目を向けた集会企画があっても
良いのではないかと思いました。理論と言
っても、数理モデルの解析手法などという
限定された狭い話題を取り上げよというこ
とではなく、分野間で受け止め方が異なる
概念上の相違点について、もっと協議でき
る場があると良いなということです。
進化機構論の基礎概念は主に集団遺伝学
理論に即して基礎付けられてきた歴史があ
ります。伝統的な立場からすれば、集団内
変異の維持機構と集団間の分化を引き起こ
す進化の機構は同一の原理によって説明さ
れなければならず、従って、集団内多型と
して観察される変異と、種間差として認め
られる変異は本質的に同じものであること
になります。集団内多型は平衡選択により、
種間の多様性は正の選択によるといった極
端な見方が持ち出されることは、今では殆
どなくなりましたが、小進化・大進化の区
分けを認めない伝統的な立場に対して、集
団中に多型的に存在する変異と種間変異と
の間には厳然とした質の違いがあるとする
考え方も、未だに多くの支持を集めていま
す。この立場からすると、大進化は小進化
の単なる積み重ねでは説明できない別個の
過程であり、その理解に集団内変異の研究
はさして重要ではないことになります。ど
ちらの考えが進化の実際をより的確に反映
しているのか、最終的な判断は、進化的な
変化をもたらした遺伝変異の分子的な実態
の実証面からの解明を待つ必要があります。
しかし、その前段階として、抽象的になり
がちな進化の諸概念が意味するところを明
確にし、分野間で食い違いが生じる原因を
突き止めることは、何が解決されるべき課
題なのか、何を解明すれば問題が解決され
たことになるのか、等々、総合的な進化研
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
38
究を進める上での共通の指針を与えてくれ
るでしょう。そうすることで、生物進化の
仕組みをより広い視座に立って理解するこ
とに繋がるのではないかと考えています。仙
台では、そんな企画があれば良いなと期待
しています。
あと、一般講演(ポスター発表)にはもっ
とたくさんの時間を割り当てて欲しいとず
っと思っています。
ションの数を減らすために、基調シンポジ
ウムの形式を止めることを検討はできませ
んか?
最後に、木村資生博士記念学術賞受賞講
演は、ひとりの研究者の歴史をわかりやす
く説明していただける機会はめったにない
ことですから、将来どうしていこうか? と
考え中の私にとっては大変有意義でした。未
来の受賞者の方には、そんな聴衆がいるこ
とを覚えていていただけますと幸いです。
■ 館野実(早大・理工)
私は最近までモデル生物専門だった、進
化のど素人です。今回が大会参加 2 回目の
「ど素人」の印象記としてお読みいただけま
すと幸いです。
口頭、ポスター発表ともに研究テーマは
とても多種多様で、聞きたいものがたくさ
んありすぎて、どれから聞くか決めるのが
難しくて困るほどでしたし、順番待ちも当
たり前でした。一方で、ついていくのが難
しい発表もありました。特に途中で質問す
るのがはばかられる口頭発表では、細部は
別として、
「この研究の目的や動機」
「何を主
張したいのか」をわかりやすく発表していた
だけると、専門外の人間にもついていけそ
うな気がしました。ご一考くださいマセ。
また、口頭発表を聞きにいったら冒頭で「今
日お話しする内容は演題とちょっと違うの
ですが……」という説明から始まったものが
ありました。発表者の方には、演題は正確
にお願いしたいです。
聞いていて楽しかった発表は、やはり発
表者が楽しそうに話してくださったもので
した(内容はもちろんです)
。小方康至氏ら
の「内因性のストレスと変異率」のお話はと
ても興味をそそられるもので、楽しそうに
話される雰囲気もあってすっかり引き込ま
れました。あんな発表をしてみたいもので
す。ところでストレスは高等真核生物の変
異率にも影響するに違いない! と私は勝
手に想像するのですがどうでしょう?
聞きたかったのに聞けなかった発表が口
頭、ポスターともに、たくさんありました。
ポスター発表は奇数・偶数で時間をわける
ということも一度試してみてはいかがでし
ょうか? 口頭発表は、同時進行するセッ
■ 和田洋(筑波大)
進化学会の大きな目標のひとつは、進化
の理解に向けて、さまざまな研究を有機的
に結びつけていくことにあると思う。私も
異分野の研究をできるだけ追いかけていき
たと、進化学会を毎年楽しみに参加してい
る。だが、異分野の交流はなかなか容易で
はないと感じさせられる。
進化学に対する発生学からの貢献で、も
っとも期待されているのは発生拘束を理解
することにあると言われたことがある。実
は僕にはこの発生拘束という概念がもう一
つしっくりきていない。発生進化学のなか
で重要な概念とはなかなか思えない。発生
に限らず、生物は拘束だらけだ。拘束に目
を向けるよりも、innovation がいかに起こっ
たかを理解することの方がよほど大切だと
思う。発生拘束だけでなく、演題に抽象的
な概念が上ってくることは、進化学会では
比較的多く見うけられる。もちろん、その
ような概念や法則は現象の背景にあるもの
を鋭くとらえており、その生物学的な背景
を探ることに大きな意味がある。しかし、
しばしば抽象的な概念はひとり歩きし、現
象を正面からとらえずに、その概念のフィ
ルターを通して見てしまって、必ずしも建
設的ではない議論を展開してしまうことも
あるように思える。異分野からみると、現
象を抽象的な概念に置き換えられると、そ
れでわかった気になってしまうこともあるの
で特に危険である。抽象的な概念を異分野
間での対話にもちだすには、注意が必要で
あると感じた。
もうひとつ率直に驚いたことがある。あ
まり好きではないが、いわゆるミクロ生物
学とマクロ生物学という色分けがあって、前
者は生物学的な現象の背景にある分子的な
メカニズム(至近要因)を嗜好し、後者は適
応的な説明(究極要因)を指向すると分類で
きるような気がする。この 2 つのグループ
は、前者が分子を同定すると(たとえば蝶の
紋様に関する遺伝子が同定されるとその遺
伝子の集団のなかでの動態を追うことがで
きるようになって)
、自ずと融合していくだ
ろうと楽観している。両者とも、進化の歴
史を紐解いていくことにロマンを感じるこ
とに関しては一致できると思っていたから
だ。だが、祖先を復元することに意味があ
るのか(あるいは、好きか?)という議論が
進化学会で展開されることに率直に驚いた。
進化学は奥が深い。まだまだ相互理解を深
める余地がある。
それにしても、2 日目の基調シンポジウム
「Human Evolution」はおもしろかった。自
分の進化になると、これだけいろいろな方
法を使って研究するんだなあと感心した。な
かでも、古生物学的な研究と量的遺伝学を
融合させた Hlusko 氏の講演がもっとも印象
的であった。分野の拘束を逃れたinnovation
を十分予感させてくれた。
■ 岩永亜紀子(九大・院・理)
夏真っ盛りの 8 月 4 日〜 7 日、今年は東京
大学で第 6 回目の進化学会が開催されまし
た。今回はポスター発表という形式で参加
させて頂きました。
私は宿主と病原体の対抗進化といった生
態学的、疫学的な理論の研究をしているの
ですが、研究発表の場として最も適してい
たのが進化学会でした。第 2 回目の大会から
進化学会に参加しているのですが、年々、
進化学会の内容も充実してきているように
思います。個人的には今大会では共進化や
共生・寄生のシンポジウムが複数あり大変
嬉しく思いました。
(自分が興味をもってい
るテーマの話がたくさん聞けましたので。
)
進化学会の最大の特徴はカバーしている
分野の広さではないでしょうか。生態学や
発生学は勿論のこと、農学、遺伝学、医学、
言語の進化や行動学など、さまざまな分野
の人とお会いして話をすることができます。
39
分野を越えて情報交換ができるのは進化学
会の利点だと思います。
今大会ではA 〜 G の7 会場で並列してプロ
グラムが進行して行きましたが、時間帯に
よっては自分が聞きにいきたいシンポジウ
ムが重なってしまうことがあり残念でした。
これも学会が大きくなってたくさんの企画
がなされるようになった故のことでしょう
が、できるだけ講演が重ならず、数日とい
う短い期間でたくさんの講演を公聴できる
ような工夫がなされるとよいと思います。
最後に、大会実行委員の皆さま大変お疲
れさまでした。
■ 沓掛磨也子(産総研・生物機能工学)
猛暑が続く2004 年 8 月 4 日から6 日、東大
駒場キャンパスにおいて行われた第 6 回日本
進化学会に参加した。私は本学会の会員で
はなく、進化学にも足をつっこんだばかり
の初心者だが、今回、企画シンポジウム「昆
虫における社会システムの維持機構と進化」
において講演する機会をいただいたので、以
前より「面白い」と評判の本学会に初めて参
加することになった。
その評判通り、会期中は数多くの魅力的
なシンポジウムやワークショップが目白押
しだった。初日は「遺伝子水平転移」
「生殖
隔離と自殖」
「正の自然淘汰」を聞いて回っ
た。特に「正の自然淘汰」では、現在自分が
研究中の遺伝子にも正の自然淘汰がかかっ
ていることがわかってきたという背景もあ
り、自然と集中して聞いた。1 アミノ酸残基
ごとに正の自然淘汰を検出できる方法があ
るということを初めて知り(分子進化をやっ
ている人にとっては常識なのかもしれない
が……)
、大変勉強になった。自分の研究に
もこういう方法を取り入れられないかなぁ
とも思ったが、そう簡単にはいかなさそう
だ。3 日目の講演はEvo-Dev 関連の話や、タ
イトルに惹かれて「祖先復元」を聞きにいっ
た。カメの甲は、他生物には形態的相同性
が存在しない器官だが、甲近くの肢芽の遺
伝子カスケードを一部利用し、さらに新し
い遺伝子も発現させて発生するとのこと、こ
ういう研究は自分でやっていたらさぞかし
面白いだろうなと思った。
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
40
私の出番は3 日目の朝最初のセッションだ
った。第1 限は8 時50 分始まりと早いにもか
かわらず、聴衆のいりはまずまずで安心し
た。多くのシンポジウム同様、ここでも各
講演者の聞きごたえのある話をお聞きいた
だけたのではないかと思う。後で「面白かっ
た」といってくださった方も何人かいて、大
変嬉しく思った。
あっという間の3 日間だったが、活気にあ
ふれた充実した学会だったと思う。
「進化」
を軸に幅広い分野の人が集まっていたため、
ふだん聞く機会の少ないさまざまな話を聞
くことができて新鮮な気分だった。ただ少
し残念に思えたのは、講演時の人の多さの
割に懇親会の参加者がやや少ない気がした
ことだった。東京が会場だったせいだろう
か、プログラムによって来る日を選んだ人
も多かったのかもしれない。
最後になりましたが、今大会の運営にあ
たっていた方々のご尽力に心からお礼申し
上げます。
■ 中嶋美穂(桐蔭学園)
進化の単元は新課程では生物Ⅱの選択と
なり、扱いが少なくなっていますが、生物
学を見通すうえでは進化の概念は重要であ
り、あらゆる分野に関わってくるものです。
しかし、正しくその概念を理解できている
かというと進化に関心をもっている私でも
疑わしいものです。学会が、関係者でなく
ても大歓迎という方針で開かれるというこ
とだったので参加してきました。特に進化
教育に関するシンポジウム「中学・高校でど
のように進化のしくみを教えるか?」と中・
高校教員対象に開催された「進化学・夏の学
校」について報告します。
「中学・高校でどのように進化のしくみ
を教えるか?」3 人(高校教諭が小学生に進
化を教えた際の教材の紹介・予備校からの
DVD 教材開発の提案と協力依頼・大学教員
が高校教科書の記述を批判)の発表がありま
した。進化の概念が一般社会に間違って広
まっている現状(変態や成長を進化と混同し
ていることなど)を打破するには、教育現場
で正しく進化について理解させることが重
要であること、現代の進化学では今起こっ
ている進化についての研究が進み、一般に
よく言われている「進化を見た人はいない」
ということが間違いであることを認識させ
る必要性が述べられました。参加者も多く
質疑応答は大変活発に行われ、進化教育に
対して多くの人々が関心を持っていること
を感じました。
夏の学校は、それぞれ 120 分(講義と質疑
応答)行われました。1 限では花と昆虫の関
係を題材に、表現型の進化についてダーウ
ィンの理論やメンデル遺伝学と結びつけな
がら説明があり、自然選択・適応度・遺伝
的浮動などの用語が解説され、遺伝子探索
に向かう現代の進化学へと話が進みました。
2 限では有性生殖と無性生殖のシステムと、
それぞれを行っている種の紹介があり、現
在の研究成果が披露されました。この部分
はよく「有性生殖が有利である理由を述べ
よ」という設問になってでてくるところです
が、模範解答に判然としないまま説明する
のが常でした。しかし、性の進化は未解決
の分野で、模範解答的に簡単に片付けられ
るものではないことが、よくわかりました。
有利・不利で語るのではなく、それぞれの
システムがなにを目的としているのかをま
ずきちんと理解することが重要であると思
います。授業にも生かす表現を考えようと
思っています。
3 限では、まず進化について間違って信じ
られていることが紹介されました。特に「新
しい種が形成されないと進化とはいわない」
と、大進化だけが進化であると一般的に信
じられていることが間違いであるというの
は、専門的に学んできている人でもわかっ
ていない部分だと思いました。その後種分
化のしくみ(異所的種分化・側所的種分化・
同所的種分化)についてさまざまな例を挙げ
ながら説明されました。数理的モデルを使
って動態を説明する手法が開発されて、事
実としての進化が研究されていることがよ
くわかりました。進化の研究者が現状を憂
えて昨年からこの企画が行われています。科
学的に現象を捉えるということは人間とし
て生きていくときに多くの示唆を与えてく
れるものであり、あらゆる分野の人に必要
なことだと思います。文系・理系を問わず、
科学的思考の重要性を機会あるごとに説い
ていきたいと思っています。
■ 西本由利子(総研大)
「進化学」が生物学を土台とするさまざま
な専門分野の領域を越えて展開されるなか、
古典的疑問の解明だけではなく、学際的な
新しい着想による「進化」への理解が深まり
つつある。第 6 回大会は、そのような流れを
ふまえ、研究者の努力の結晶が集結した内
容の盛りだくさんな大会であったと思う。シ
ンポジウムやワークショップなどには、6 コ
マ7 会場分の分科会が開催され、聴講の組み
合わせ方は実に 10 万通りを超えている。お
よそ600 人の参加者があったそうだが、お一
人お一人が、興味に沿った組み合わせを満
喫されたであろう。ちなみに私は、
「脊椎動
物の系統進化」
「生物間相互作用・生物多様
性」
「共進化が促進する」
「植物系統地理学」
「表現型可塑性」
「長時間軸の古生態学」を組
み合わせ、興味のあるところはもちろんの
こと、専門外のお話からも大いに刺激を受
け楽しみながら学んだ。欲張りだが、別の
組み合わせをすれば、また違った刺激があ
ったかも知れないと少し思ってしまう。さ
て、シンポジウムのなかには公募で選ばれ
たテーマも多い。また、ポスター発表も多
岐にわたる内容と数の多さで観覧者を集め
た。これらは、まさに成熟せんとする研究
領域にもあると思うが、
「進化学」の裾野の
広さを実感させれらる。しかも、その裾野
の底をささえる学校教育についての討論や
「進化」をやさしく理解できるよう工夫され
た「進化学・夏の学校」など、対応のきめが
細やかである。日本進化学会を通じた交流
が、
「進化学」を支え、新たな視点をもった
「進化」の研究の動きを生みだす源泉になろ
う。
■ 疋田努(京大・院・理)
東京大会は、自分自身のポスター発表も
あり、シンポジウム・ワークショップにも
朝一番から聴きにいき、最終日の進化学・
夏の学校にもでてとなかなか充実した日々
でした。今大会の印象といくつか気づいた
点を書き留めます。これからの大会の改善
41
に多少でも役立てば幸いです。
いつも思うことですが、進化学会のもっ
ともいい点は、他の学会では会えない違っ
た分野の人たちと会って、議論できること
だと思います。若い学生、院生の参加者が
多いこともいいですね。
さて、ポスター発表は自分が説明してい
る間は、同時に行われている他のポスター
発表が聞きにいけませんでした。以前は、
偶数・奇数で時間をわけていたので、時間
的に余裕があれば以前のやり方がいいよう
に思いました。
シンポジウム・ワークショップは、7 つ並
行に走っていたので、こちらも聞きたいの
にというのがたくさんありました。この講演
だけと思っても、講演の時間がはっきりし
ないので、途中で移動してというのはむず
かしそうでした。しかし、きっちり時間を
設定すると自由度がなくなるので、これは
しかたないかなと思います。
昔にくらべるとだいぶよくなってきたよ
うに思いますが、液晶プロジェクターがら
みのトラブルで、手間取っていました。シ
ンポジウム・ワークショップの世話人に注
意事項を配布して、プレビューを徹底する
べきだと思います。持参のパソコンを立ち
上げているとそれだけで時間を消費してし
まいます。ウインドウズ、マックの機種の
違いだけでなく、OS とソフトのバージョン
の違いなどもあるようです。
最終日の「進化学・夏の学校」は以前から
一度通して聞きたいと思っていたのですが、
興味のあるシンポジウム・ワークショップ
と重なって今まで一部しか聞けなかったの
で、今回のように最終日に別に1 日とってく
れていたのは大変ありがたいことでした。矢
原さん、嶋田さん、長時間ご苦労様でした。
一般公開で参加者がどのくらいこられてい
るのかわかりませんでしたが、広い部屋に
移らねばいけないほどの盛況でした。
さて、昼食は構内のレストラン・生協食
堂でいただき、とくに問題はなかったので
すが、土曜日はお弁当を頼んでいなかった
ので、
「食事・コンビニマップ」をみながら
食堂を探しにでかけました。おいしい魚の
煮付けを食べさせてくれる食堂にであって、
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
42
たいへん幸せでした。今度駒場にきたとき
はここですね。
■ 前川清人(富山大)
猛暑が続く 8 月 4 日から、東大駒場キャン
パスで始まった第 6 回大会に参加した。本学
会の大会には1 回目から毎年だいたい参加し
ており、大学院生からポスドククラスの若
い人の多い、活気ある大会だと感じている。
今年も魅力あるプログラムが数多く組まれ、
どれを聞きにいくか迷うことも多かった。そ
の中で特に印象に残った2 つの講演について
感想を述べたい。
まずひとつ目は、今大会で学会の教育啓
蒙賞を受賞された三中信宏さん企画の「ベイ
ズ進化学」での宮正樹さん(千葉中央博)の
講演である。このシンポは、三中さんの受
賞理由である EVOLVE 上で、直前にアナウ
ンスされたこともあってか、立ち見がでる
ほどの盛 況 だった。 宮 さんの講 演 は、
MrBayes という解析ソフトのケーススタデ
ィーだったが、実際に直面する問題の対処
法など、きわめてわかりやすい発表だった。
たとえばマルコフ連鎖モンテカルロ
(MCMC)を繰り返して尤度が安定値に達し
たかどうかをどう判断し、またどのくらい
MCMC を繰り返すのがよいのかなど、かな
り具体的かつ実践的な内容だった。MCMC
を説明するのに最良という MCRobot のデモ
がうまくいかなかったのは残念だったが、最
後に紹介された小津安二郎監督の「何でもな
いことは流行に従う、重大なことは道徳に
従う……」という言葉には、妙に納得してし
まった。
もうひとつは、3 日目に行われた三浦徹さ
ん(北大)ら企画の「表現型可塑性の進化発
生学」である。さまざまな分野の講演者で構
成され、こちらも大変な盛況ぶりだった。
どの講演も魅力的で飽きさせなかったが、特
に桑原明日香さん(東大)らによる異型葉植
物に関する発表が印象深かった。水陸両生
の植物のなかには、周りが水中か陸上かで
異なる形態の葉をつくるものがいるらしい
のだが、1 枚の葉が形成される途中でも、水
中型から陸上型へ(あるいは逆も)形態形成
のプログラムを改変できる可塑性をもって
いることが、巧妙な実験系により見事に示
されていた。さらに、その際どのような形
態変化が起こっているのかを明らかにした
うえで、2 つの植物ホルモンがこの制御に関
与していることも突き止めており、歯切れ
のよい発表とともに論理的な研究の展開に
知的好奇心を大いに刺激された。このメカ
ニズムは色々な分類群で保存されているの
か、そして植物のさまざまな葉の形態は一
体どのように生まれてきたのか、今後の展
開が非常に楽しみだと感じた。
本大会は前回の九州大会より参加者が少
なかったようだが、私にとっては例年通り
の、あるいはそれ以上の刺激的かつ期待を
裏切らない大会だった。スタッフの皆さま、
暑いなか、本当にお疲れさまでした。
■ 齋藤慈子(東大・院・総文)
進化の研究がしたくて、現在の研究室を
選んだにもかかわらず、なぜか進化学会に
参加したのは今回が初めてでした。初参加
にしてワークショップの企画をすることに
なり、これもまた私にとっては初めての経
験でした。共同企画者の先生とともに、講
演の依頼をしたり、いろいろな調整をした
りと今後に役立つ経験ができました。また
大会実行委員の方々には、迅速かつ丁寧な
対応をしていただき感激しました。ワーク
ショップの企画だけでなくポスター発表も
させていただきましたが、分野の異なる方々
に意見をいただき、刺激をうけることがで
きました。細菌から哺乳類まで、分子から
行動までといったさまざまな分野の人々が
集まっており、視野を広げられるという点
が進化学会のよいところだと思いました。し
かし参加者が多数であるため同時に行われ
る発表の数も多く、関連した内容のシンポ
ジウム、ワークショップが同じ時間に重な
らないようにという配慮があったものの、聞
きたい発表が聞けないということがありま
した。大きな学会では仕方のないことだと
は思いますが、なにかよい解決策はないも
のかと思いました。さらに私は、ポスター
発表中に知覚実験の参加者を募らせていた
だきました。発表の内容に関連した実験だ
ったためか、協力を申しでてくださる方が
予想以上にいらっしゃり、大会期間中にか
なりのデータを集めることができました。
ということで、今回の進化学会では、ワ
ークショップ企画、ポスター発表、実験デ
ータ収集と、多くのものを得ることができ
ました。ワークショップ企画の対応をして
くださった実行委員の方々、お忙しいなか
ワークショップで講 演 をしてくださった
方々、ポスター発表を聞きにきて意見をく
ださった方々、わざわざ時間を割いて実験
に参加してくださった方々にこの場を借り
てお礼を申し上げたいと思います。どうも
ありがとうございました。
■ 田中健太(北大・苫小牧研究林)
日本進化学会は、設立当初から学際的で
活発そうだったので興味があったが、今回
初めて参加した。第一印象は、意欲的な集
会(シンポジウム・ワークショップなど)が
多いことだった。熱い領域、注目されてい
る領域の集会が目につく一方で、不勉強に
してなんだかよくわからない領域も多く、す
ごく「わくわく」させられる。自分がおもし
ろい話題をとりあげようという、企画者の
意欲が伝わってくる。ふだんは自分の研究
と直結する分野の集会に参加しがちだが、今
回はあえて自分が良く知らない分野の集会
に参加した。なかでも一番おもしろかった
のは、
「難培養微生物:地球上最大の生命多
様性のフロンティア」だった。私の専門の森
林生態学の分野では、土壌微生物の重要性
は年を追うごとに強調されてきている。し
かしこの集会で紹介されていた微生物の多
様さ・無尽蔵さ・奇異さは想像以上であり、
心地よい新鮮な風が私の自然観に吹き込ん
だ。
進化学会の存在意義のひとつに、
「進化」
の概念の下で学際的な研究を促進すること
があるだろう。このような学際的な取り組
みがどれくらい進んでいるのかも、私が興
味をもっていたことだった。初めて参加し
てみて、まだまだこれからだと感じた。私
の参加した集会では、心理学−行動生態学、
集団遺伝学−分子遺伝学−生態学などの連
携がみられ、異なる分野の発表を集めたり、
異分野の概念を交流させる議論を展開させ
43
ていたりして興味深かった。しかし、異分
野を合わせて新しい理解を生みだすところ
までは行っていなかったように思う。ポス
ターセッションで討論に参加しても、進化
に関する概念・用語が共通語化していない
のを感じた。たとえば、ある生物現象が話
題になっているとき、生態学者の私は「その
現象の適応的意義はなにか」についつい興味
がいく。しかしミクロ生物学者が興味をも
っているのは多くの場合、その現象の分子
メカニズムであり、わたしの興味は「とぼけ
たもの」としてうけとめらたようだ。進化
学会であれば、
「変異・淘汰・遺伝」の進化
の3 要素に関する興味は共有できると思いき
や、
「淘汰」に関する興味はいまだに広く浸
透していないことに戸惑いを覚えつつ、異
言語人どうしの対話を楽しんだ。多分野の
人が参加している「ごった煮」的状況は間違
いなくこの学会を「わくわく」するものにし
ている一要因である。分野間の共同・統合
が今後どれくらい進んでいくのかとても楽
しみだし、自分もそこに加わりたい。
■ 東樹宏和(京大・院・理)
今回、進化学会に始めて参加させていた
だきました。修士課程も2 年目にはいり、野
外調査ばかりでなく、そろそろ理論面の勉
強も始めようと、少々意気込んでの初参加
でした。
全体の印象として感じたのは、さまざま
な分野の研究者がそろっている、学際的な
雰囲気でした。私は普段、採集した昆虫や
植物の形態を計測するという「マクロ」な研
究を行っているので、遺伝子の解析をして
いる方たちの発表でその視点や方法論に触
れ、とても新鮮に感じました。
ポスター発表も刺激的でした。会場は人
でごった返していて、あちこちで熱い議論
が交わされていました。また、懇親会では、
分野の異なる研究者とくつろいだ雰囲気で
意見を交換でき、普段気のつかない視点か
らの指摘を受け、多くの収穫を得ました。
その後、知り合った人たちとの 2 次会でも、
数理生物学の話題から全く研究に関係のな
い話題まで、尽きることなく会話が交わさ
れ、楽しいひとときを過ごしました。
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
44
4 日には、ワークショップで発表をさせて
いただきました。学会での始めての口頭発
表だったこともあり、着慣れない背広での
初舞台は何がなんだかわからないうちに終
わってしまいました。ですが、発表後に何
人かの方々からコメントや鋭い指摘をいた
だくことができ、研究テーマについて自分
なりに整理することができました。今後の
研究の発展につなげていけたらと思います。
来年も進化学会に参加し、変化し続ける
進化学の最前線をしっかり捉えていきたい
と思います。
■ 森長真一(東北大/基生研)
進化学の最前線にふれるべく、進化学会
に初参加しました。結論からいうと、進化
学会はさまざまな意味で開かれた魅力的な
学会でした。そして私は、そんな進化学会
にこれからも毎年参加したいと心から思い
ました。
私にとって進化学会の最大の魅力は、マ
クロ生物学とミクロ生物学がその境を越え
て議論できることでした。それは、
「表現型
可塑性の進化発生学」
「概日リズムと生物進
化」
「昆虫における社会システムの維持機構
と進化」などさまざまなシンポジウムやワー
クショップの内容からもわかります。私自
身、花の形の適応進化について生態学的な
視点と発生遺伝学的な視点の両側面から理
解したいと考えており、今回さまざまな研
究発表から新たな着想を得ることができま
した。また進化学会のシンポジウムやワー
クショップでは、多くの学生や若手研究者
が講演者として発表していることに驚きま
した。他の多くの学会において、それらが
中堅研究者以上で占められていることとは、
とても対照的でした。特に同世代の方々の
すばらしい発表を目の当たりにし、心地よ
いプレッシャーを感じることができました。
ところで、学生や若手研究者にとっての
学会は、情報収集・交換・提供の場である
だけでなく、自分自身を売り込むための重
要な場でもあります。できれば次年度以降
の大会では、再び「ポスター賞」を設けてい
ただければと思います。なぜならば、それ
は私達にとって大きな励みになるからです。
今 回 進 化 学 の最 前 線 にふれたことで、
Dobzhansky の有名な言葉 Nothing in biology makes sense except in the light of evolution. を思い出しました。それは、進化の
視点をもつことがこんなにも生物学を楽し
くさせることを、再発見できたからです。
来年の仙台大会では、どんな発見ができる
のかとても愉しみです。
理研連と遺伝学研連に推薦
4 月 12 日 日本進化学会賞の公募案内を学会 ML
6月3日
7. 年会費未納者への対策
従来、年会費未納者が非常に多い(2003 年度
を通じて公告
の納入率は 30 %)。年額は他の学会とくらべて
2003 年度決算に対する会計監査実施
も非常に安いので(一般3,000 円、学生2,000 円)
、
(監査:岸野洋久委員)
5 月 30 日 進化学会ニュース Vol. 5, No.1 を発行
5 月 31 日 学会賞公募締め切り
金額の問題ではない。振込み方法を簡便にし、
かつ未納者に未納年度を知らせて督促する方法
を確立することが重要。
6月3日
2003 年度会計監査を実施
(a)銀行引き落とし制度を実施
6月7日
学会賞選考委員会を開催(東京・飯田
(b)未納年度を通知する督促メールシステムの
導入(2004 年 7 月 24 日より実施)
橋ビル)
6 月 11 日 学会賞の受賞者を評議員へ報告
7 月 24 日 未納年度を通知する督促システムを導
(c)会報を定期的に発行し、それに郵便振込用
紙を同封する。
入、これによる督促を開始
8月4日
第 6 回大会開催、初日夜に評議員会を
8月5日
8. 名誉会員の会則改正に向けた検討の開始
現在、本学会には名誉会員が 1 名存在し、大
開催
第 4 回日本進化学会賞・授賞式、総会
澤省三氏である(2001 年の評議員会で推挙、総
会で承認)
。名誉会員に関する会則は、第 16 条
2. 2003 年度収支決算の報告・承認
「2003 年度収支決算書」
(P.48 表 1)
、および
に以下のようにあるだけで、この他に名誉会員
に関する条項・細則はない。
通帳残高のコピー、監査報告書、を参照しなが
第 16 条【名誉会員】本会は名誉会員をおくこと
ら説明し、了承された。
ができる。名誉会員は、本会や進化に関する研
3. 第 4 回日本進化学会
学会賞報告
第 4 回日本進化学会賞・授賞報告を参照(P. 3
究分野において特に功労のあった者を、評議員
の推薦をもって総会の議決により、決めること
〜 4 コラム)
。
ができる。
4. 木村賞の将来計画
以下の条項が会則・細則で定められている必要
スズキ財団の鈴木修理事長の取り計らいで、
2004 年度日本進化学会評議員会 議事録
がある。
「公益信託基金」
(文部科学省管轄)として基金を
名誉会員の要件……非会員(海外の研究者)でも
発足する運びとなった。最初に 1 億円を基金に
推挙可能か。年齢規定は設
けるのか。
移し、各年度ごとの副賞を現在の150 万円を100
佐倉
事務幹事長・嶋田正和
藤
日
時: 2004 年 8 月 4 日(水)学会第 1 日目
会
場:東大教養学部 15 号館 1 階 104 講義室
哲也、加
和人(編集担当幹事)
● 会長挨拶(石川
統(会長)
、嶋田
事長)
、田村
和樹、四方
統)
● 大会委員長挨拶(嶋田
正和(事務幹
● 評議員・幹事紹介
「2004 年度予算案」
(P.49 表 2)を説明し、了
承された。
庸、上島
1. 学会活動報告(2004 年 1 月〜 8 月 5 日)
子、舘田
英典、団
睦、深津
武馬、三中
葉
まりな、西田
信宏、宮田
徹一
欠席者:粕谷 英一、五条堀 孝、斉藤 成也、
権・被選挙権は有するのか。
評議員会のメール持ち回りで会則の条項を確
定し、来年の大会時の総会で会則改正を承認す
る運びとなった。
―議
朋子、颯田
の印刷物の配布を受ける。
中央三井信託銀行に窓口が開設される。
浩一郎(web 担当庶務幹
励、太田
名誉会員の特典……会費納入の免除、学会発行
5. 2004 年度予算案審議
正和)
事)
、阿形 清和、浅見 崇比呂、巌佐
隆、矢原
万円に減額する代わりに、半永久的に続ける。
名誉会員の権利……一般講演ができるのか。選挙
18:40 〜 21:20
出席者:石川
統、辻
45
題―
1月8日
会長・幹事長引継ぎ
4 月 20 日 学会ホームページにて新幹事・新評議
員のお知らせ(公開)
3 月中旬 科研費の1 段審査委員候補を、生物物
6. 次期副会長の選挙
会則に則り会長選挙を行った。1 回目の投票
9. 次回(第 7 回)大会開催地の確認、次々回(第 8
で過半数を獲得した者がいなかったので、高位
回)の大会開催地の推薦
の得票者 2 名で決選投票を行った結果、嶋田正
第 7 回大会(2005 年):東北大学(河田雅圭氏を
和氏(東大・総合文化)が次期副会長(2006 年度
中心に)
、第 5 回大会(2003 年度)総会で承認済
会長)に選ばれた。
み。
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
46
第 8 回大会(2006 年):五條堀
孝 氏を中心に、
関東の研究機関で開くことに決まった。
10.「進化学会ニュース」の発行回数について
という配慮からと、学会の宣伝になればとの考
6月7日
えからであった。しかし、そのため、本来進化
学会賞選考委員会を開催(東京・飯
田橋ビル)
生物学に関係が深い研究しているにもかかわら
6 月 11 日 学会賞の受賞者発表→評議員へ報告
ず、学会員にならない研究者が非常に多い現状
7 月 24 日 未納年度を通知する督促システムを導
これまで「進化学会ニュース」は、年 3 回の発
がある。また、第 5 回大会は850 名も参加したに
入、これによる督促を開始
行を目指してきたが、最近 2 年間ほどは、1 号を
もかかわらず、非常に大きな赤字が出ている。
出したあとは、翌年の上半期に2 号/ 3 号を合併
第 6 回大会(本大会)では、講演日のみ来て他
号で出すという不健全な発行スケジュールにな
の講演も聞く程度では大会参加は免除とするが、
っている。今回の第 5 巻から、2 号/ 3 号の発行
会期中ずっと参加する場合は、参加費を払って
が遅れても、それを翌年に回さないこととした。
もらうやり方に変えた。そうでないと、会員で
さらに、年 3 号の発行は編集幹事の負担が大
いることよりも非会員でい続けるメリットの方
きいことと、財政上の問題(会費納入率が約
が大きくなってしまうからである。
30 %)が大きくなったこと、速報性を求められ
大会ごとに非会員のシンポ講演者に対する参
る記事や案内はできるだけ web サイトで流す方
加費徴収法が変わるのは好ましくないので、こ
が迅速に会員に伝わる、などを理由に、年 2 号
の辺で最も良い制度に統一したい。メール持ち
化が提案された。審議の結果、承認された。現
編集幹事の加藤和人氏は 2004 年度いっぱい(第
回りの評議員会で議論を継続することとなった。
(2)高校生にポスター参加を促すことの検討
5 巻 3 号の発行まで)で、2005 年度・第 6 巻 1 号
浅見評議員より、高校生にポスター発表を奨
から後任と交代する。後任の人は、メール持ち
励し、参加した生徒には全員、記念の賞状をだ
回りの評議員会で選任する。
してはどうか、との意見がだされた。これによ
り、一般社会に対する進化学の教育啓蒙を促進
11. その他
してはどうかとの趣旨である。浅見委員に他の
(1)非会員シンポ講演者からの大会参加費の徴
収について
九大大会までは、シンポで非会員が来て講演
8月4日
8月5日
第 6 回大会開催、初日夜に評議員会を
開催
参加者が未納会員であった場合、その場で
第 4 回日本進化学会賞・授賞式、総会
未納年度を督促し、大会に設けられた事務
局窓口で会費が徴収できるように、学会事
2. 2003 年度収支決算の報告・承認
「2003 年度収支決算書」
(P.48 表 1)のとおり
承認された。
(3)銀行引き落とし制度の導入(すでに実施し、
3. 第 4 回日本進化学会賞の報告
審査委員長の石川会長より、
「第 4 回日本進化
納した会員を退会させることができる。
」と
告があった。授賞式は総会の前に執り行ってい
あるので、2004 年度末の時点で該当者に再
る。
度督促の上、これを行使して、滞納者の数
を整理する。
4. 木村賞の将来計画
スズキ財団の鈴木修理事長の取り計らいで、
「公益信託基金」
(文部科学省管轄)として基金を
中央三井信託銀行に窓口が開設される。
第 8 回大会(2006 年):五條堀
1月8日
会長・幹事長引継ぎ
4 月 20 日 学会ホームページにて新幹事・新評議
員のお知らせ(公開)
16:45 〜 17:45
3 月中旬 科研費の1 段審査委員候補を、生物物
4 月 12 日 日本進化学会賞の公募案内を学会 ML
● 議長選出
を通じて公告
● 会長挨拶(石川
2003 年度決算に対する会計監査実施
(監査:岸野洋久委員)
統)
● 大会委員長挨拶(嶋田
6月3日
正和)
孝 氏を中心に、
関東の研究機関で開くことに決まった。
5. 2004 年度予算案承認
承認された。
9.「進化学会ニュース」の発行回数について
これまで「進化学会ニュース」は、年 3 回の
発行を目指してきたが、最近 2 年間ほどは、1 号
6. 次期副会長(2006 年度会長)の選挙結果報告
を出したあとは、翌年の上半期に2 号/ 3 号を合
8 月 4 日夜に開かれた評議員会で、会則に則り
併号で出すという不健全な発行スケジュールに
会長選挙を行った。1 回目の投票で過半数を獲得
なっている。今回の第 5 巻から、2 号/ 3 号の発
した者がいなかったので、高位の得票者2 名で決
行が遅れても、それを翌年に回さないこととし
選投票を行った結果、嶋田正和氏(東大・総合
た。さらに、年 3 号の発行は編集幹事の負担が
文化)が次期副会長(2006 年度会長)に選ばれた。
大きいことと、財政上の問題(会費納入率が約
理研連と遺伝学研連に推薦
・矢原徹一評議員が議長に選出された。
回)の大会開催地の推薦
み。
1. 学会活動報告(2004 年 1 月〜 8 月 5 日)
題―
8. 次回(第 7 回)大会開催地の確認、次々回(第 8
中心に)
、第 5 回大会(2003 年度)総会で承認済
2004 年度日本進化学会・総会議事録
―議
約 150 名の会員が利用)
(4)細則第 14 条には「会長は、会費を3 年以上滞
学会賞・授賞報告」
(P. 3 〜 4 コラム)のように報
別紙、
「2004 年度予算案」
(P.49 表 2)のとおり
900 番教室(講堂)
は一般講演をさせない、という方針で臨む。
万円に減額する代わりに、半永久的に続ける。
から郵送してもらう。
場:東大教養学部
務局(事務幹事長)と大会実行委員会が連携
する。その年の年度会費を払わない会員に
移し、各年度ごとの副賞を現在の150 万円を100
大会ごとに変わるのは好ましくないので、学
らに大会参加費を取るのはあまりに申し訳ない
会
(2)毎年の大会のときに、大会受付窓口に来た
(3)大会宣伝のポスターの郵送先
会事務局が郵送先アドレスを管理し、ポスター
時: 2004 年 8 月 5 日(水)学会第 2 日目
システムの導入(すでに 2004 年 7 月 24 日よ
り実施、会費納入がきている)
第 7 回大会(2005 年):東北大学(河田雅圭氏を
ができあがったら、事務局に納入して、事務局
日
実施に移すことが総会で承認された。
(1)未納会員に未納年度を通知する督促メール
発足する運びとなった。最初に 1 億円を基金に
員であるのに旅費も出さずに来てもらって、さ
統
方法を確立することが重要。以下の督促方法を
学会のやり方を調査してもらう。
する場合は、大会参加費は無料であった。非会
会長・石川
47
30 %)が大きくなったこと、速報性を求められ
7. 年会費未納者への対策
従来、年会費未納者が非常に多い(2003 年度
は納入率が 30 %程度)
。年額は他の学会と比べ
る記事や案内はできるだけ web サイトで流す方
が迅速に会員に伝わる、などを理由に、2005 年
から年 2 号化が提案された。
てもかなり安いので(一般 3,000 円、学生 2,000
総会での反対意見として、学会活動のアクテ
5 月 30 日 進化学会ニュース Vol. 5, No.1 を発行
円)
、金額の問題ではない。振込み方法を簡便に
ィビティを低下させないためにも年3 回の発行は
5 月 31 日 学会賞公募締め切り
し、かつ未納者に未納年度を知らせて督促する
維持し、そのうち 1 号を PDF 化して学会 web サ
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
48
イトに置くなどの予算軽減の方策も提案された
挙可能か。年齢規定は必要
が、審議の結果、年 2 号化が承認された。現編
か。
集幹事の加藤和人氏は 2004 年度いっぱい(第 5
名誉会員の特典……会費納入の免除、学会発行
巻 3 号の発行まで)とし、2005 年度・第 6 巻 1 号
の印刷物の配布を受ける。
から後任と交代する。後任の人は、メール持ち
名誉会員の権利……一般講演ができるのか。選挙
回りの評議員会で選任することで承認された。
権・被選挙権は有するのか。
(2)進化学普及の目的で高校生にポスター参加
10. その他
を促すことの検討
現在、評議員会で以下の案件が検討中である。
(1)名誉会員の会則改正に向けた検討の開始
他の学会での実施方法を調査したり、高校生
物教師の団体から意見を聴取する。
(3)大会参加費の徴収規定の統一
現在、本学会には名誉会員が 1 名存在し、大
澤省三氏である(2001 年の評議員会で推挙、総
大会ごとに非会員のシンポ講演者に対する参
会で承認)
。名誉会員に関する会則は、第 16 条
加費徴収規定が変わるのは好ましくないので、
に「本会または進化学に多大な貢献のあった者
最も良い方法に統一したい。評議員会でメール
を名誉会員にすることができる」とあるだけで、
名誉会員に関する条項・細則は他に何もない。
持ち回りの検討の上、制度として確立する。
⑤ 会議室使用料
150,000
⑥ 振込手数料
⑦ 2002 年度未払金支払
372,060
(1)2002 度ニュース送付切手代(残金)
(2)2002 年度下半期業務委託費
⑧ 特別会計への支出
500,000
⑨ 予備費
100,000
⑩ その他
(1)交通費
(2)木村賞メダル受賞者名入れ
(3)賞状名入れ
(4)封筒代
(5)飲食代
(6)ジフリくんパッケージソフト代
(7)郵便口座徴収料
次年度繰越金
740,282
支出合計
3,760,742
(4)大会宣伝のポスターの郵送先
しかし、以下の条項が会則・細則で定められて
大会宣伝ポスターの郵送先に年ごとに遺漏が
いる必要があるので、評議員会でメール持ち回
あるのはまずいので、学会事務局が評議員から
りの検討の上、会則改訂案をかため、2005 年度
推薦のあった郵送先アドレスを管理し、大会実
総会での会則改正の成立を目指す。
行委員会から学会事務局に納入されたポスター
名誉会員の要件……非会員(海外研究者)でも推
を、学会事務局から郵送する。
2003 年
収入−支出= 0
日本進化学会
日本進化学会
平成 15(2003)年度収支決算(表 1)
【収入】
① 会費収入
(1)一般会費
(2)学生会費
(3)滞納分
(4)年会費先払い
(5)会費余計に納入した人
2003 年度予算 2003 年度決算
3,642,500
2,130,000
480,000
1,032,500
② 第 4 回大会実行委員会より
③ 五條堀会長より選挙費用借入
④ 前年度繰越金
【支出】
① ニュース作成・印刷料等
② ニュース送料
③ 2003 度業務委託費
④ 評議員選挙
(1)封筒代(白)
(2)切手代(返信用)
(3)評議員選挙書類発送費
(4)評議員選挙印刷費等
710 名中 203 名払込
240 名中 81 名払込
滞納者延べ数(一般: 468 名、学生: 242 名)中 56 名
12 名払込
4 月 24 日
268,800
12 月 29 日
136,842
3,760,742
2,260,498
1 回分
計6件
矢原旅費(会長引継のため)
通帳帳残高
銀行(三井住友)
銀行(富士)
郵便局
2003 年 12 月 31 日現在
281,075
65,173
14,300
360,548
平成 16(2004)年度予算案(表 2)
【収入】
① 会費収入
(1)一般会費
(2)学生会費
(3)滞納分
② 2003 年度繰越金
収入合計
2004 年予算
3,962,500
1,680,000 700 名× 3,000 円× 0.8
432,000 270 名× 2,000 円× 0.8
1,850,500 回収率 5 割とする(3,701,000 × 0.5)
360,548
4,323,048
【支出】
① ニュース作成・印刷料等
② ニュース送料
③ 業務委託費(上半期・下半期分)
④ 事務消耗品費
⑤ 会議費
⑥ 旅費、交通費
⑦ 謝金
⑧ 大会援助金
2004 年予算
660,000 (220,000)×年 3 回
450,000 (150,000)×年 3 回
828,400 1000 名越えたので下半期より 10 万円増し
100,000
100,000
450,000
0
315,167 第 5 回九大
300,000 第 6 回東大駒場
300,000 第 7 回東北大
651,010
18,010
364,200
268,800
168,471
4,323,048
21 名払込
820,854
118,242
⑤ 利息
収入合計
1,034,000
609,000
162,000
188,000
63,000
12,000
13,650
1,470
372,460
7,860
364,600
0
0
135,620
40,600
4,000
18,900
37,800
2,310
31,500
510
360,548
2,260,498
2
2003 年度予算 2003 年度決算
690,000
467,040 2 号分(Vol.3 No.2/3,Vol.4 No.1)
480,000
292,000
728,400
364,200 上半期支払
253,510
4,200
78,160
113,400
57,750
⑨ 未払金
(1)2003 年度分ニュース送付切手代
(2)2003 年度下半期業務委託費
(3)五條堀会長より選挙費用借入
⑩ 次年度への繰越金
収入合計
49
Society of Evolutionary Studies, Japan News Vol. 5, No. 2
50
51
の中よりハイドパークの周辺で食事や散歩をし
ているのをよく見かけるので、余計な心配かも
第
3回
シカゴ大学生態進化学科
(アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ)
しれませんが。
私自身のシカゴ大での研究テーマは「植物と
寄生生物の共進化のメカニズム」で、1 年目は他
のポスドクと共同で植物(Arabidopsis)の病原性
荒木 仁志
抵抗性遺伝子の進化を、2 年目以降はそれら抵
抗 性 遺 伝 子 の標 的 となる病 原 体 バクテリア
(Pseudomonas)の標的遺伝子の進化を主に扱い
ました。普通、植物を扱うラボでは植物以外の
私がアメリカ、シカゴ大学生態進化学科にポ
スドクとしてやってきたのが 2001 年春、それか
かけでした。
とはいえ私にとってはほとんど初の海外生活。
テーマを選ぶのは困難なものですが、幸運にも
写真 2 シカゴの摩天楼。世界第 3 の高さのビル、シア
ーズタワーから
Bergelson 教授は以前からバクテリアとの共進化
ら現在在籍しているオレゴン州立大学に移るま
生活や仕事を立ち上げること、マナーや習慣の
にも興味を持っていて、バクテリアの研究が始
地区も存在しています。
(ハイドパークからはち
での約 3 年をシカゴで過ごしました。今回はそ
違いに戸惑いながら、ようやく馴染んできたの
められるだけの準備が整っていました。また、
ょっと遠いのですが、新鮮な魚ナシでは暮らせ
の当時の体験についてレポートしたいと思いま
は半年ほど経ってからだったでしょうか。シカ
植物の側の仕事も他のポスドク等が継続してい
ない私は、週末はそのスーパーへ日本食を買い
す。
ゴ大は比較的小さい大学で、シカゴのダウンタ
たため、お互いの情報が即時に交換できて、共
に行くのが日課でした)
。以前はギャングの街と
私がシカゴ大のポスドクに興味を持ったのは、
ウンから南に車で 20 分ほどいった大学街、ハイ
進化をテーマとするにはこの上なく理想的な環
して名を馳せた時期(アルカポネ?)もあったよ
やはりアメリカであった国際学会に参加してか
ドパークの中にあります。大学の中でも医学、
境だったと言えるでしょう。Kreitman 教授の方
うですが、現在はアメリカの都会の中では比較
らでしょうか。それまでは論文で見るだけだっ
生物系には力を入れているらしく、多くのノー
は常に非常に忙しくされていましたが、面白い
的安全な街と言ってよいでしょう。ちなみに3 年
た、私の専攻する集団遺伝の分野をリードして
ベル賞受賞者のみならず、私の分野ではThomas
データやアイデアがあると熱心に話を聞いてく
暮らしていて警察官以外が拳銃を持っているの
いる方々や彼らと共に働く若い学生達に身近に
Nagylaki、Richard Hudson といった理論の大御
れて、特に研究の方向を決める際には彼の忠告
を見たことはありません。内陸だけに冬はもっ
接することによって、自然と「こんな環境で仕事
所から Wen-Hsiung Li、Manyuan Long、Jerry
はとても役に立ちました。私は研究をBergelson
ぱら氷点下、ということも多いですが、それだ
ができたら」と思うようになっていました。シカ
Coyne や Chung-I Wu といった実験系、分子進
lab の研究者達と共同で行いつつも、ベンチは
けに暖房設備はどこもしっかりしていて、部屋
ゴ大に来ることになったのも、学会のついでに
化系の名だたる教授陣を一斉にそろえて、週 1、
Kreitman lab に置かせてもらっていたので、そ
に戻ると T シャツ生活、といった感じでした。
知人である同大学のポスドクを訪ねてシカゴに
2 回のペースで行われる学科単位のセミナーを中
ちらで世界に先駆けてショウジョウバエの調節
また、冬寒いだけに春が来た時の喜びは大きく、
遊びに来た時で、幸運にもその後ボスとなる
心に日々熱い討論を繰り返しています。あえて
遺伝子、eve2 を研究しているMichael Ludwig や
春のセントパトリックデー(アイリッシュのお祭
Martin Kreitman, Joy Bergelson 両教授のご自宅
言うなら、この分野でシカゴ大を世界のトップ
理論的研究をしている Josep Comeron、Marcos
りで、俗に緑の日。シカゴではミシガン湖に注
に宿泊させていただく機会があり(どちらも同学
の一角たらしめている最大の理由はこの「日常か
Antezana と日々研究を共にできたのも幸運でし
ぐシカゴ川を緑の染料で染めてしまいます! 環
科の教授でご夫婦です)
、お互いの仕事の話をじ
ら繰り返される遠慮のない討論」にあるように思
た。興味を共有しつつも方向性の違う研究が進
境には配慮しているとのことですが……)以降、
っくりとさせていただくことができたのがきっ
います。学生も一般によく勉強していて、また
んでいくのを身近に見ることができたのですか
街を挙げて毎週のように野外イベントが繰り返
ローテーションと呼ばれる制度(学生がラボに配
ら。
されます。カブス、ホワイトソックスといった
写真 1 シカゴ大学生態進化学科のはいるビル。キャン
パス内の建物はゴシック様式で統一され、厳かでアカデ
ミックな雰囲気に包まれている
属される前に複数のラボ生活を数ヶ月にわたり
最後にシカゴの街について。あまり知られて
メジャーリーグやアメフト、バスケットやアイ
体験する)のおかげでお互いによく相手の興味や
いませんが、シカゴは全米でニューヨーク、ロ
スホッケー、サッカーのプロチームを抱え、年
背景を知っており、教授陣の議論に対等な立場
スに次ぐ第 3 の巨大都市(写真 2)。街は五大湖
間を通してスポーツ観戦が楽しめるのもシカゴ
で参加しています。彼らも近い将来、世界をリ
の南西に位置するミシガン湖に面しており、先
の魅力のひとつでしょう。
ードすることになるのでしょう。我々のラボも
物取引に代表される経済都市です。ループと呼
含めて生態進化学科のラボのほとんどがひとつ
ばれるダウンタウンを中心に、ギリシャ人街、
ぞれでしょうが、最終的には日本も含めてどこ
海外での研究に興味を持たれる理由は人それ
のビルに入っているので(写真 1)、他のポスド
韓国人街、ロシア人街、ドイツ人街、チャイナ
で研究をするにせよ、自身の興味に沿った研究
クと「
(地震のないシカゴで)万が一大きな地震
タウンからリトルイタリーに至るまで、多種多
のできる、よりインタラクティブな環境を選ぶ
があってこのビルが崩れたら、世界の集団遺伝
様な人種、国籍の人々が入り交じっています。
ことが大事だと思います。そのためにもラボの
学は何十年遅れることになると思う?」と冗談
日本人も企業からの海外駐在員を中心として多
ボスとよく討論し、そこで何ができて何ができ
を言うほどです。もっとも大御所になればなる
く在住していて、空港周辺には日本食スーパー
ないのか、よく見極めることが後悔しない秘訣
ほど、
(おそらく忙しすぎて落ち着かない)ラボ
やレストランを始め、日本人街と呼べるような
かもしれません。
52
※ Vol.5, No.1 に誤りがございましたので、訂正してお詫び申し上げます。
表紙(誤)危機に立たされた日本の動物層→(正)危機に立たされた日本の動物相
P.23 右段 28 行目 「昆虫では、意図輸入種ではないが、
」削除
P.25 右段 1 行目(誤)タマメコガネ→(正)マメコガネ
日本進化学会ニュース Vol. 5, No. 2
発 行: 2004 年 10 月 20 日発行
編 集:日本進化学会ニュース編集委員会
印刷所:福々印刷株式会社
発行所:株式会社クバプロ
〒 102-0072
千代田区飯田橋 3-11-15 UEDA ビル 6F
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FAX:03-3238-1837
http://www.kuba.co.jp/ e-mail:[email protected]