卒業論文 伸縮機構を持つ立体物「Adjustable Mesh

卒業論文
伸縮機構を持つ立体物「Adjustable Mesh」の試作と
その可能性の検討
慶應義塾大学 総合政策学部
清水茂樹
2015 年 1 月 20 日
指導教員 田中浩也准教授
1
論文要旨
本稿は伸縮機構を持つワイヤーフレーム状の立体形状とその機構を試作し、その今後の可能性につ
いて考察するものである。
物質世界において立体形状が伸縮しその形が変形、あるいは拡大縮小可能になった場合どのような
可能性が生まれるのだろうか。いままでコンピュータ上、デジタルデータのみで可能だった変形、拡大縮
小といった表現を物質世界においても可能にすることで、デジタルとフィジカル両者の交差が生まれ、
情報と物質の相互変換が実現するのではないか。そのような考えから、私は伸縮する機構を組み込ん
だワイヤーフレーム状の立体物「Adjustable Mesh」を制作した。プロトタイプの試作によって浮かび上
がった問題点をもとに、3DCAD Rhinoceros とそのプラグイン Grasshopper を用いて、機械の特性や条
件にあった伸縮機構を制作することができるシステムを制作した。プロトタイプと完成した「Adjustable
Mesh」の両者を比較し、後者の制作方法及び手法が前者の問題点解決に対して有効であるかをユー
ザー実験により検証した。
またソフトウェアによるデータ変換や 3D プリンタによるパーツの一体成型の実験を行い、本システムが
今後何に応用できるのか、機械や技術による制約条件が減った場合どのようなことが可能になるのか検
討、考察を行うものである。
慶應義塾大学 総合政策学部
清水茂樹
2
目次
論文要旨 ........................................................................................................................... 2
1.はじめに.......................................................................................................................... 5
1.1 緒言 ........................................................................................................................ 5
1.2 背景・前提知識 ............................................................................................................ 8
1.2.1 デジタルファブリケーション........................................................................................ 8
1.2.2 パーソナルファブリケーション .................................................................................... 9
1.2.3 STL とメッシュ ........................................................................................................ 11
1.3 目的 .......................................................................................................................... 12
2. 関連研究 ..................................................................................................................... 13
2.1 Chuck Hoberman による作品群 ................................................................................... 13
2.2 MorPhys.................................................................................................................. 14
2.3 WirePrint ................................................................................................................ 15
2.4 Morphing Cube......................................................................................................... 16
3. プロトタイピング ............................................................................................................. 17
3.1 機構 ....................................................................................................................... 17
3.2 制作手順 ................................................................................................................ 19
3.2.1 プロトタイプ 1 ..................................................................................................... 19
3.2.2 プロトタイプ 2 ..................................................................................................... 22
3.3 問題点・課題 ........................................................................................................... 24
3.4 仮定 ....................................................................................................................... 25
4. 制作 ............................................................................................................................ 26
4.1 Grasshopper・Rhinoceros ............................................................................................ 26
4.2 物質世界でのプロセス ............................................................................................... 28
4.2.1 3D プリンタとレーザーカッターを用いた機構の出力 .................................................. 28
4.2.2 組み立て ........................................................................................................... 29
4.3 コンピュータ上でのプロセス ........................................................................................ 31
4.3.1 MeshLab ........................................................................................................... 31
4.3.2 VoxEffects ......................................................................................................... 34
3
4.3.3 Blender ............................................................................................................. 38
5. 評価 ............................................................................................................................ 41
5.1 ユーザー実験 .......................................................................................................... 41
5.2 現時点での実現可能性 ............................................................................................. 44
5.3 一体出力の実験....................................................................................................... 46
6. おわりに ....................................................................................................................... 48
6.1 今後の可能性、展望 ................................................................................................. 48
文献目録 .......................................................................................................................... 50
謝辞................................................................................................................................. 52
付録................................................................................................................................. 53
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1.はじめに
1.1 緒言
昨今、3D プリンタという単語をテレビや新聞など各種メディアで目にする機会が多くなった。3D プリン
タは樹脂などの素材を積層し 3 次元形状を造形する機械であり、もとは製造業の分野で 3DCAD(三次
元設計支援ツール)で設計した立体形状を試作・出力するためのラピッドプロトタイピング(三次元造形
技術)ツールであった。一般人が目にすることはあまりない高価な工作機械であった 3D プリンタだが、
オープンソース [1]の 3D プリンタを開発する RepRap プロジェクト [2]が 2006 年、イギリスではじまり、
3D プリンタの熱溶解積層法に関する特許が 2009 年に失効したことで各社が一斉に低価格 3D プリン
タを発売、現在多くの人がその存在を知ることとなった。ここ数年で様々な企業が新たな家庭用 3D プリ
ンタを発売し、一部の家電量販店でも取り扱われるまでになっている。
このように工作機械が民主化されることでコンピュータとデジタル工作機械を用いたものづくりとそれを
用いて個人がものづくりを行う営みはますます広がりを見せるだろうと私は考えている。工作機械は低価
格化し、個人レベルでも高性能な機械を手に入れる、または使用することが年を追うごとに容易になっ
ているためである。各地に FabLab [3]が設立され、高性能な 3D プリンタを用いたオンデマンドのプリン
トサービスや各種工作機械を取り揃えたスタジオが出現したことで、誰もが PC さえ所有していればパー
ソナルファブリケーションを手軽に行うことができるようになった。また木製で配線や機構がむき出しで
あった Makerbot 社の 3D プリンタ「Replicator」 [4]がたった数年でソフトウェア・ハードウェア共に改良
が進み、家庭用インクジェットプリンタのような PC 周辺機器と呼べるものへと進化しているそのスピード
の早さを見るに、この考えは強まるばかりである。
例として 3D プリンタを取りあげたが、デジタルファブリケーションでは多種多様な工作機械が用いられ
る。3D プリンタのように素材を積層して造形する加算系工作機械、レーザーの照射で素材を加工する
レーザーカッターや、紙などを切り抜くカッティングマシーン等の減算系工作機械、また刺繌ミシンや布
用プリンタ等々、汎用コンピュータで制御できる機械は数多く存在する。
これらの機械で出力するデータは多くの場合共通性を持っており、例えば 3 次元形状であれば STL
などのデータ形式がデジタルファブリケーションの現場ではよく使われている。これを 3D プリンタに送れ
ば樹脂などの素材を積層した立体物になるが、ソフトウェアを用いて変換することで合板や段ボール等
の素材をレーザーカッターで切り出し積層してみることも、折り紙でその形状を再現することも可能だ(図
1.1.1)。
5
図 1.1.1 デジタル工作機械とソフトウェアの組み合わせによってできる出力物の例 [4] [5] [6] [7] [8]
[9]
デジタルファブリケーション環境下では、コンピュータ上で作り上げたデジタルデータを多様な素材と
工作機械を用いて物質世界における造形物として取り出し、手にすることができるのである。
コンピュータ上のデジタルデータと物質世界におけるモノ、両者の距離はデジタル工作機械の進化と
民主化によって確実に狭まっていると言える。例えばコンピュータで制作したデータを 3D プリンタなど
の工作機械で物質世界に取り出す行為は、その象徴だろう。しかし、そのサイズ、とくに拡大縮小に関し
6
ては依然大きな溝があると私は考える。
3DCAD 上で 3 次元データを拡大縮小することはいともたやすい。拡大縮小のコマンドで倍率を指定
すればすぐさまそのサイズを変えることができる(図 1.1.2)。一方、物質世界に取り出した造形物は基本
的にそのサイズを変更することができない。3D プリンタで出力した造形物を 2 倍の大きさにしたい場合
は 3DCAD 上で 3 次元モデルのスケールを 2 倍に変更し、再度出力するという段階を踏む必要がある
(図 1.1.3)。
本研究はこの点に着目し、伸縮機構を持つ辺によって構成されたワイヤーフレーム状の立体物の制
作を行った。出力後に物質世界で拡大縮小、あるいは変形を行うことができるこの立体物の試作及び制
作の過程を記し、このような構造物が出現することにより今後どのような可能性が生まれるのかについて
考察を行う。
また、コンピュータ上の 3 次元データを制作した作品で物質化するための手法として、複数のソフト
ウェアを用いた 3 次元データの変換手法について紹介する。
図 1.1.2 3DCAD 上での 3 次元モデルの拡大操作
図 1.1.3 3D プリンタで出力した造形物の拡大縮小
7
1.2 背景・前提知識
1.2.1 デジタルファブリケーション
現在デジタルファブリケーションという言葉はコンピュータとデジタル工作機械を用いたも
のづくりの総称として使われている。しかし本論ではデジタルファブリケーションの定義を単
なるものづくりの手段・手法ではなく
「デジタルデータから様々な物質(フィジカル)へ、またさまざまな物質(フィジカル)をデジタル
データへ、自由に相互変換するための技術の総称」(田中浩也, 2014, P55) [10]とする。
それは本論が 3 次元形状の拡大縮小、変形という事象を軸にデジタルとフィジカルの間に存在する溝
をどのように解消するか、あるいは両者の距離をどうすれば近づけることができるかという観点に
立っており、上記の考えが必要不可欠なためである。
本研究の先にある未来は、コンピュータのソフトウェアで変換した伸縮機構を持つ 3 次元形
状のデジタルデータを工作機械を用いて物質世界に取り出すこと(フィジカル化)、またその
出力物を物質世界で変形させ、その変化量の情報をコンピュータにデジタルデータとして取り
込み、デジタルデータにフィードバックするデジタル-フィジカルの相互変換・相互作用の実現
であり、以下の図が分かりやすい。(図 1.2.1)
図 1.2.1 本論におけるデジタルファブリケーションの定義 [10]
8
1.2.2 パーソナルファブリケーション
デジタルファブリケーションの広がりは人々にものづくりの新たな可能性をもたらした。デジタルファブリ
ケーションが広がる以前、つまり工作機械が高価でコンピュータを用いたものづくりが企業のものであっ
たころは、自らの必要とする条件に近い既成品を購入して使用する、また市場にその条件と合致するも
のがなければ諦めるほかなかった。
だがデジタルファブリケーションの普及により、自身の必要とするモノを自ら設計し、つくり上げることが
以前に比べ容易になった。MIT の「How to Make (Almost) Anything」という授業では自分が欲しいと
思っているが誰も作ってくれない、そんな世界に一つだけのプロダクトを作る実践が行われており、その
内容は「Fab――パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ」 [11]に詳しい(図
1.2.2.1)。
図 1.2.2.1 「How to Make (Almost) Anything」で作られた作品「スクリームボディ」 [11]
田中浩也研究室においても「Intro to FabLab」、「Intro to CodeLab」という授業が行われている。これ
は研究室に入った新規生が 1 年間かけて行う修行のような授業であり、様々な工作機械の使い方を制
作を通じて学び、ものづくりの基礎体力を付けるものである。MIT の「How to Make (Almost) Anything」
と同じく、毎週異なるデジタル工作機械を用いた創造的ものづくりを行われており、その最終成果として
履修者自身の欲求や要求を満たす、今まで世の中に存在しなかった新たな作品たちが毎学期生み出
9
されている(図 1.2.2.2)。
図 1.2.2.2 「Intro to FabLab」で筆者が制作した作品 [12]
10
1.2.3 STL とメッシュ
STL とはコンピュータ 3 次元形状のデータを保存するためのフォーマットであり、正式名称を
Stereolithography(日本では Standard Triangulated Language とも呼ばれる)という。
STL 形式のデータは 3 次元形状を 3 つの頂点座標および法線ベクトルで構成された三角形(ファ
セット)の集合体で表現するポリゴンデータである。(図 1.2.3.1)
法線ベクトルは境界の内外を判別するためのものでありその単位ベクトルの向きが逆転している場合
3D プリンタなどのラピッドプロトタイピングツールで正常に出力することができない。
この三角形の集合体によって表現された 3 次元形状の表面は一般的にポリゴンメッシュと呼ばれる。ポ
リゴンメッシュは 3DCAD のプレビュー画面ではワイヤーフレームのように表現されることがあるが実際は
上で述べたとおりファセットが集まった境界である。
STL デジタルファブリケーションにおいては広く使われているデータ形式であり、実質的な業界標準
フォーマットと呼べるだろう。三角形の集合体であるためカーブを表現することが出来ないが、ポリゴン数
を増やす=ポリゴンメッシュの数を増やし、その表面を限りなく曲線に近づけることで曲線を表現してい
る。
図 1.2.3.1 STL 形式の 3 次元モデルのメッシュ
11
1.3 目的
本研究の目的は、コンピュータ上、デジタルデータのみで可能だった変形、拡大縮小といった表現を
物質世界においても可能にすることである。そのために変形、拡大縮小が可能なワイヤーフレーム状の
3 次元形状の試作を行った。
プロトタイプ試作により浮かび上がった機構の形状と、組み立てに要する時間という二つの問題を解
決する手法として、新たな機構及びコンピューター上で機構を設計するシステムを制作、その有効性に
関して考察を行う。
完成した立体物をもとに、コンピュータ上のデジタルデータで容易に行うことができる 3 次元形状の拡
大縮小を、物質世界における造形物でも実現させることで、どのような可能性が生まれるのか、その考
察を行う。
12
2. 関連研究
拡大縮小可能な 3 次元形状を試作するにあたり、変形する機構や作品、ワイヤーフレーム状の構造
の出力手法などを参照した。
2.1 Chuck Hoberman による作品群
Chuck Hoberman はアメリカの建築家、および工学者である。氏は幾何学的に形が変形する建築物や
構造物を多数発表している [13]。
氏の作品の一例として、玩具にもなっているスフィアボール(図 2.1.1)が挙げられる。これは球状に折
りたたまれた機構が拡大し大きな球体になる玩具であり、大きなものは「Expanding Sphere」として展示さ
れている。この他にもマジックハンドのように伸縮する機構など、様々な機構を用いて変形する物体、オ
ブジェ、建築などを数多く手がけている(図 2.1.2)。
伸縮機構を用いて形状を拡大縮小させる例として、後述するプロトタイプ 1 のアイデア出し、及び制作
の際に参考にした。
図 2.1.1 スフィアボール [13]
図 2.1.2 Expanding Sphere [13]
13
2.2 MorPhys
MorPhys: Morphing Physical Environment Using Extension Actuators [14]は東京大学大学院情報理
工学系研究科学術支援専門職員の武井 祥平氏によって作られた 3 次元形状の表現デバイスである。
三角すいの骨組みの形をしたこの作品は、その大きさを 15cm から 4m まで自在に変化させることができ
る。フレームは三本の巻き尺とモーターを組み合わせたリール式伸縮アクチュエーターで構成されてお
り、XBee によって無線で操作することができる [15](図 2.2.1)。
メッシュ状の立体形状のサイズを辺の伸縮によって変化させる点において共通性があるため、研究の
参考とした。
図 2.2.1 MorPhys:Morphing Physical Environment Using Extension Actuators [14]
14
2.3 WirePrint
WirePrint は Hasso Plattner Institute とコーネル大学の共同研究で開発された 3D プリンタを用いた
ラピッドプロトタイピングツールである [16]。現在の 3D プリンタは造形物の出力に多大な時間がかかり、
コンピュータでデータを作成し実際に手で触れてその形状を確認、その結果を元にデータを修正すると
いう一連の流れに相当の時間を要する。この WirePrint は 3 次元形状のサーフェスを 3D プリンタで出
力可能なワイヤーフレーム構造に変換し、そのフレームのみを出力するものだ。これにより出力スピード
が従来のプリントと比較して 10 倍高速になるとされている(図 2.3.1、図 2.3.2)(3D プリント時間短縮の
関連研究として faBrickation:http://stefaniemueller.org/fabrickation/がある。)。
この WirePrint におけるワイヤーフレームは 3D プリンタの一筆書きで出力できる専用の形状に変換さ
れたものであり手法は異なるが、ポリゴンメッシュの解像度を落としたワイヤーのみの構造で 3 次元形状
の表面を表現、出力する点において参考となったため関連研究として取り上げる。
図 2.3.1 WirePrint [16]
図 2.3.2 WirePrint によって出力された造形物 [16]
15
2.4 Morphing Cube
Morphing Cube は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程在学中の山岡 潤一氏によっ
て作られた、コンピューターグラフィックス上で操作可能な 3 次元空間上のワイヤーフレームモデルの変
形を実世界のマテリアルを連動させ、表現する作品である [17]。丸ゴム,テグス,モータ,制御用コン
ピュータで構成されており、丸ゴムで出来た立方体がモータの制御により様々な形状に変化する(図
2.4.1)。
本研究も同じ発想から作品制作を行っており非常に共通点が多い。この作品はコンピューターグラ
フィックスと同様に様々な形状を表現できるが、枠内のみでの表現であること、ゴムで作られているため
形状を取り出して手にすることができないこと、拡大した状態を保持することができないなどの特徴があり、
本研究で制作した作品はそれらを可能にすることを目指した。
図 2.4.1 Morphing Cube [17]
16
3. プロトタイピング
拡大縮小する立体形状制作の第一段階として、二次元平面上で拡大縮小することが可能な形状及び
その機構の試作を行った。その制作方法と、試作の結果として明らかになった問題点について述べる。
3.1 機構
拡大縮小する構造を制作するためには機構を組み込む必要がある。様々な機構が存在するが、ここ
では今回検討した機構に関して解説を行う(以下 3 例の解説及び図はメカニズムの事典 [18]より)。
平行定規
- - - -
「 12 = 34 、 13 = 24 。上の定規は下の定規に対して平行に動く。」
伸縮する機構として使えるが、その両端の動きが直線的ではなく、立
体形状を作った際に干渉する可能性があることが問題だった。
伸縮やっとこ(レージ トング)
「四辺形 3,6,8,4 は確変の長さが等しく、他もまた同じである。1,2 を尐
し寄せるとき、3 はいちじるしく左方に動く。この機会は、伸縮しても一
直線上に配列された各ピンの距離の比は一定である。」
ラティスなどよく目にする機構であり、プロトタイプ1に用いた。
パンタグラフ
「2,3,4,7[図(d)]は、いずれも平行リンクである。
点 1,6,5 は一直線上にあり、点1を固定すれば点 5,6 の描く線図は相
似形となる。」
プロトタイプ 1 からプロトタイプ2へ移行する際、伸縮やっとこ機構を用
いると縮小した際に機構同士が干渉するためこちらの機構を使用した。
17
例に上げた 3 つの機構にスライダーを加えた 4 例をを実際にデジタルファブリケーション機器を用い
て試作、検討に用いた(図 3.1.1)。
使用した機材はレーザーカッター(Epilog Helix)、素材は4mm の MDF 板(中密度繊維板)である。以下
プロトタイプ 1、プロトタイプ 2 の制作に際しても、同じ機材と素材を使用した。
図 3.1.1 MDF 板とレーザーカッターで試作した機構
左、中、右、下の順に平行定規、伸縮やっとこ機構、パンタグラフ
スライダー
デジタルファブリケーションでは材料と機材の制約が存在する。上記の例では素材として MDF を使用
しているため樹脂や金属と比較し摩擦が大きいことがあげられる。また、レーザーで切断された断面は
炭化しており精度面で金属等に劣る。上記 4 例の中では、下のスライダー機構は上下のパーツと中央
のスライダーの摩擦が大きく、スムーズに動かないことが実際に試作したことで明らかになった。
プロトタイプ試作にあたり、 左、中、右の 3 機構の中から、伸縮運動をする端点が直線上で移動する
伸縮やっとこ機構とパンタグラフ機構を採用し、それぞれをプロトタイプ 1 とプロトタイプ 2 に取り入れた。
18
3.2 制作手順
3.1 で選択した機構を用いたプロトタイプの試作について順をおって述べる。平面での拡大、3 次元方
向への拡大の 2 つの段階にわけて試作を行った。これらを試作順にプロトタイプ1、プロトタイプ 2 と呼
称する。
3.2.1 プロトタイプ 1
第一段階として試作したのがプロトタイプ 1 である。このプロトタイプ 1 の目標は機構を上から俯瞰した
際に、二次元平面上でその辺及び頂点の関係性を維持したまま拡大と縮小を行える仕組みを実現させ
ることであった。つまり正三角形や正方形などの幾何学形状を相似的に拡大縮小するものである。試作
では正三角形を選択した。
以上を実現するため実際に機構の試作を行った。
幾何学形状の各辺を伸縮させるため、伸縮やっとこ機構を採用し、辺と頂点のパーツを設計した。設
計後テスト出力と調整を繰り返し行い再設計を行っている(図 3.2.1.1、図 3.2.1.2)。
図 3.2.1.1 上部から俯瞰した際に相似的に拡大縮小する機構の概要図
19
図 3.2.1.2 プロトタイプ 1 のレーザーカット用データ
レーザーで切り出したパーツはネジ(ナベネジ 3x20mm)とナットで各部を固定した。伸縮やっとこ機構
の交差部分は稼働することによりナットが緩まりネジが脱落することが想定されたため、ダブルナットで固
定し緩みを防止している。また摩擦を尐なくするため、伸縮やっとこ機構の MDF 板同士が重なる部分
に関してはワッシャをかませている。
パーツを組み上げ完成したのが以下のプロトタイプ 1 である(図 3.2.1.3)。
図 3.2.1.3 レーザーカッターで加工し組み立てたプロトタイプ1
この頂点のパーツを設計するにあたって当初考えていた幾何形状は、ジョイントと繋がれた辺によって
できる内角が 60°の正三角形であったが、ジョイントの形状を変更し様々な角度及び頂点に集まる辺
の数に対応したモジュール式のジョイントが制作できるのではないかと考えた。これにより平面だけでな
くこの構造の伸縮を立体へと拡張することが可能になった(図 3.2.1.4、図 3.2.1.5)。
20
図 3.2.1.4 各種角度に対応するプロトタイプ1用ジョイントのスケッチ(図における内角は制作する幾何
学形状の内角を表す)
図 3.2.1.5 試作したジョイント 左から内角 60°、90°、72°
このジョイントにより正三角形以外の多角形のみならず、立体形状を試作することが可能となった。
例えば三角錐は 4 つの頂点と 6 本の辺を持つ。これを試作するためには 3 本の腕を接続可能な
120°、正三角形のジョイントと伸縮する辺のパーツを出力すればよい。
立体の試作に関しては 3.2.2 で記述する。
21
3.2.2 プロトタイプ 2
平面上での拡大縮小がこの試作によって可能になったため、これを用いて 3 次元形状の立体物、プ
ロトタイプ 2 を試作する。プロトタイプ 1 を上部から俯瞰した際に現れる三角形の面を 3 次元データの三
角メッシュの一つとみなし、これを複数つなぎ合わせ表面を作ることで立体形状を作り上げる。この際に
選択した形状はデルタ多面体の 16 面体(双四角錐反柱)である。デルタ多面体とはすべての面が正三
角形で構成された 8 種類の凸多面体の総称である(図 3.2.2.1)。
デルタ 16 面体はすべての面が正三角形で構成されるため、辺の長さが全て等しく設計が容易である
こと、頂点のパーツが 2 種類(4 本の辺が集まる頂点、5 本の辺が集まる頂点)に限られることなどの理
由から選択した。
図 3.2.2.1 デルタ多面体 [19]
プロトタイプ1からの変更として機構を伸縮やっとこ機構からパンタグラフ機構へ変更したことがあげら
れる。これは最小化(縮小)した際に各辺の機構同士が干渉しうまく折りたためなくなるためである。パン
タグラフ機構にしたことで必要となるジョイントの数が半分になり、互いに干渉せず折りたたむことが可能
となった。
そして組み上げたものが以下のプロトタイプ 2 である(図 3.2.2.2)。
22
図 3.2.2.2 プロトタイプ2によるデルタ 16 面体(双四角錐反柱)の試作
縮小時には折りたたまれた辺のパンタグラフによって、形状が若干つかみにくいものの、頂点の関係
は維持したまま相似的に拡大縮小できていることが分かる。これによりデルタ 16 面体の拡大縮小を実
現することができた。
23
3.3 問題点・課題
次にこれらのプロトタイプの制作によって明らかになったこと、そして問題点について記す。
まずは立体の拡大縮小を実現するための機構としてパンタグラフ機構を用いているため、縮小させた
際にその立体形状が相似形であると認識しづらいという点があげられる。ホバーマンのスフィアボール
は球体であるためこのような問題は起きなかったが、今回のようにサーフェスを構成する面が特徴的な
凸多面体等では別の伸縮機構を用いる必要があるだろう。
このプロトタイプは MDF 材をレーザーカッターを用いて切り出し制作したものであるが、頂点のパーツ
は複数パーツの貼り合わせによって制作しており(図 3.2.1.2 参照)量産するためには手間がかかる。ま
た組み上げる際にはそれぞれの辺のパンタグラフ機構の支点をダブルナットによるネジ止めで固定して
おり、各部のネジ止め作業は制作者にとって大きな負担となる(このデルタ 16 面体では 200 本近いネ
ジを使用し、組み立て作業時間は 12 時間を超えた。)(図 3.3.1)。そのため伸縮する機構にネジを用い
ず、簡単にアセンブリすることができるパーツを設計し、制作にかかる労力及び時間を減尐させる必要
があると考えた。
またプロトタイプ 2 のパーツは設計を全て手作業で行っており、複雑な形状を再現することが出来ない。
そのため辺の長さなどの設計を自動、あるいは半自動で生成するシステムが必要であると考える。
図 3.3.1 プロトタイプ 2 制作の様子
24
3.4 仮定
以上の問題点から、このような拡大縮小が可能なオブジェクトを出力するためには、以下の 2 つが必
要であると考えた。
・3 次元形状の変換及び機構の設計を支援するシステム
・ネジ止めや貼り合わせなど労力及び時間のかかる作業を極力排し、単純で、3D プリンタなどの工作機
械を用いて複数、あるいは一体で出力することができる構造のパーツ
これらを実現すれば三角メッシュで表現された様々な 3 次元形状を拡大縮小可能な造形物として出力
することができるのではないだろうか。
2 点目の一体出力による機構の出力は Nervous System の「Kinematics」[20]などが行っている。高精
度の 3D プリンタを用いてヒンジでつながった複数のパーツを一体で出力することにより、3D プリンタに
よる服の出力が可能となった(図 3.3.1)。
モジュールを量産するためには制作及び組み立てにかかる労力と時間を減らすことが必至である。
パーツ数を減らし組み立てを容易にする、あるいはこの例のようにある一体で出力するなどの工夫が必
要となるであろう。
図 3.3.1 3D プリンタで一体出力されたヒンジと一体出力された服 [20]
25
4. 制作
第 3 章で明らかになった問題点を解決するための新たな機構とそれを用いた「Adjustable Mesh」を制作
した。パーツの設計と試作システムの開発を行った「第 1 節 Grasshopper・Rhinnoceros」、出力と組み
立てを行った「第 2 節 物質世界でのプロセス」、今後の更に複雑な形状の制作に向けた「第 3 節 コ
ンピューター上でのプロセス」の 3 つに分けて記す。
4.1 Grasshopper・Rhinoceros
Grasshopper を用いて実際に出力する伸縮機構の設計を行う。Grasshopper は 3DCAD ソフト
Rhinoceros を支援するグラフィカル・アルゴリズミック・エディターと呼ばれるプラグインである。
これを用いて必要に応じた長さの伸縮機構を出力するコードを作成した(図 4.1.4.1)。
今回はプロトタイプで用いた伸縮やっとこ機構ではなく、スライダーを用いることとした。これにより立体
形状を縮小した際にも、辺と頂点が同じ関係性を持つ相似形を維持することができるようになった。
このスライダーは三層構造になっており、出力後にパーツを組み立てることを想定している。以前のプロ
トタイプでは伸縮やっとこ機構を組み上げる際のネジ止めに最も時間を要していたが、スライダーは簡
易なはめ込み式であり、組み立てに時間を要さない。またスライド端の幅を狭めることにより展張した際
に形状を保持することが可能となった。
26
図 4.1.4.1 Grasshopper と Rhinoceros
3D プリンタには様々な種類がありそれぞれ精度や出力特性が異なる。今回は実験も含めプリンタス社
の CUBIS、ムトーエンジニアリング社の MF-1000、ストラタシス社の uPrint を用いて出力を行った。最適
なオフセット量を調整できるよう数値を可変に設定しているため、ユーザーが使用する 3D プリンタの精
度に合わせた最適なデータを作成することができる。Grasshopper 上でのユーザー操作領域は左上に
あり、メッシュの辺の基本長に対する比率(整数値)をスライダーで指定し、Bake することでデータを出
力することができる。拡大縮小の比率などは自動で計算されるためユーザーは長さを指定するのみでよ
い。
ジョイントはプロトタイプで作成したものを基本としつつ、簡易な構造で伸縮機構を固定できるものを設
計した。軸受けの数は可変になっており、立体形状を作るにあたって、ユーザーが必要な物をスライ
ダーで選択し出力する(図 4.1.4.2)。制作した Grasshopper のコードは巻末付録に記載した。
図 4.1.4.2 Bake したスライダーとジョイント
これらのデータを stl 形式で保存し実際に 3D プリンタとレーザーカッターを用いて出力する。
27
4.2 物質世界でのプロセス
4.2.1 3D プリンタとレーザーカッターを用いた機構の出力
機構を 3D プリンタで出力する。今回主に使用した機材はストラタシス社製の uPrint SE である。これ
FDM 方式のプリンタであり、精度の高い造形を行うことができる(造形ピッチ 0.254mm)(図 4.2.1.1)。
FDM 方式は日本語で熱溶解積層法とよばれる方式であり、熱した熱可塑性樹脂を積層し造形を行う
シンプルな方式だ [21] 。なお、FDM 方式という呼称はストラタシス社の商標であり、FFF 方式とも呼ば
れる。
図 4.2.1.1 uPrintSE と出力されたパーツ
今回はスライダー機構の最下層とジョイントパーツを 3D プリンタで出力し、他のパーツは 3mm の透
明アクリル板をレーザーでカットし作成した。
レーザーカット用データは Rhinoceros 上に Bake したモデルの内スライダー機構の 2 パーツを選択し、
make2D コマンドで輪郭線を取り出し、.ai 形式で保存することで制作することができる。
3D プリンタは数多くあるが、同じ FFF 方式の 3D プリンタでも出力特性や精度はバラバラである。数
万~数十万円台の低価格プリンタは出力の精度が数百万円台の高価な 3D プリンタに比べて低い。今
回は uPrintSE を使用するため μm 単位精度の調整を行うことが可能であり、Grasshopper もそちらに合
わせた設定を行っている。この出力ではジョイントにはめ込む軸と軸受けの隙間を 0.1mm に設定した。
28
4.2.2 組み立て
これらのパーツを組み立て、立体形状を作成した。この制作では正四面体と、デルタ 16 面体を作成し
た。スライダーパーツはそれぞれはめ込み式であり、誰でも簡単に組み立てることができる。スライダーと
ジョイントパーツは、はめ込み式のシャフトで固定され他のスライダーと接続される。これらにより制作し
た立体を「Adjustable Mesh」と呼称する。
図 4.2.2.1 完成したスライダーとジョイントパーツの組み立て
図 4.2.2.2 ジョイント部と最小形状の Adjustable Mesh 正四面体
図 4.2.2.3 展張した Adjustable Mesh 正四面体
29
図 4.2.2.4 最小形状の Adjustable Mesh デルタ 16 面体
図 4.2.2.5 展張した Adjustable Mesh デルタ 16 面体
30
4.3 コンピュータ上でのプロセス
3 次元形状のメッシュ構造は複雑であり、それに対応するジョイントや伸縮機構を準備する場合、その
種類と数は膨大なものとなる。ここではメッシュの形状を制限することで、使用するジョイントや機構の種
類を減らし、実際に出力することを想定したデータの変換手法について記す(図 4.3.1)。
図 4.3.1 データ変換手法の概要図
4.3.1 MeshLab
MeshLab はオープンソースの 3 次元メッシュ編集・加工ソフトである。3D スキャナで取り込んだ 3 次元
形状の編集(クリーニングやフィルタリング)などを目的にしており、平滑化や穴埋めなど多種のメッシュ
編集機能が備わっている。
このソフトウェアを用いてメッシュの解像度を落とし(メッシュ数を減尐させる)4.3.2 で行う作業の準備を
行う。
31
図 4.3.1.1
MeshLab を起動し対象の STL データを読み込む。
図 4.3.1.2
「Filters」->「Remeshing, simplification and Reconstruction」->「 Quadric Edge Collapse Decimation 」
を選択する。
32
図 4.3.1.3
ファセットの数を指定しメッシュを減らす処理を行う。
図 4.3.1.4
メッシュ数の減尐したモデルが完成した。
今回の例ではファセットの数が 150 枚になるように設定している。ファセットの数を減らすことは出来た
が、辺の長さと頂点に集まる辺の数等はかなりの種類がありそれぞれに対応するパーツを準備すること、
正確に組み上げることは非常に困難である。そのため、このデータを STL 形式で保存し、次の工程へ
移ることとなる。
33
4.3.2 VoxEffects
VoxEffects [22]は慶應義塾大学 田中浩也研究室で作られた 3 次元データに様々なエフェクトを掛け
るソフトウェアである。STL 形式で入力した 3 次元形状のデータに対して、田中浩也研究室
Computational Fabrication Group で作られたエフェクトによりデータを加工し出力することができる。
今回は 3 次元形状を立方体の集合(ボクセル)に変換しその各部に MarchingCubesと呼ばれる処理を
行う。
ここで出てくるボクセルについては以下のとおりである。
「volume と pixel(ディスプレイ上の 2 次元画像の最小単位)からつくられた造語。小さな直方体要素の集
合体で物体形状を表現する場合、それぞれの直交格子をこのように呼ぶ。ボクセルの長所は、CAD の
ような形状データから短時間で計算モデルを自動的につくれること、ソルバーによる計算が単純化され、
要素数のわりには計算時間が短いことがあげられる。短所は構造物の表面形状が階段状になり、滑ら
かな局面を正確に表現できないこと、詳細モデルになるほど要素数が膨大になることがあげられる。」
(大車林, 2004, オンライン [23])
VoxEffects はそのソフトウェア名からわかるとおり 3 次元データを Voxel 化することを前提としている。
これによって作られたデータはオープンソースのボクセルモデリング・解析ソフトウェアである VoxCad
[24]に引き渡すことも可能である。
MarchingCubes [25] は 1987、SIGGRAPH の Lorensen Cline によって発表されたアルゴリズムでありそ
の組み合わせは 2^8 通り、表裏を考えない場合は 15 通りの結果で表現される(図 4.3.2.1)。
VoxEffects における MarchingCube は上記のそれとは若干異なり正三角形、直角二等辺三角形、長方
形、正方形のみで表現されることを注釈する(図 4.3.2.2)。
物質化の際に障壁となる、膨大な種類に及ぶ辺の長さと頂点の設計における問題を解決するため、こ
れらの手法を用いて、3 次元形状のデータを限定された面及び辺のみで構成されたデータへと変換す
る。
34
左 図 4.3.2.1 MarchingCubes法で得られる 15 パターン [26]
右 図 4.3.2.2 VoxEffects における MarchingCube で得られるメッシュ形状と辺の長さのパターン
図 4.3.2.3 VoxEffects
35
図 4.3.2.4
STL 形式の 3 次元データをインポートし、適切な解像度を設定する(左下から 4 番目の RESOLUTION
を調整)ここで設定した解像度が Voxelize する際の解像度となる。MarchingCube はボクセルに対して
行われるため実現可能性を考えた解像度を選択する。
36
図 4.3.2.5 ボクセル化された 3 次元形状
左から 3 番目のドロップダウンメニューより Voxelize を選択しボクセル化を実行する。赤く表示されたも
のがボクセル化された 3 次元形状である。
図 4.3.2.6
左から 2 番目のドロップダウンメニューより MarchingCube を選択しエフェクトを実行する。画面上で緑色
に表示されているのが MarchingCube の処理が施されたされたボクセルモデルである。
左上の 4 つ並んだボタンのうち MarchingCube の項目のみをオンにし MarchingCube の結果を表示す
る。このデータを STL 形式で保存する。
VoxEffects における MarchingCube でデータを
変換することにより、物質世界で作成する立体形
状が決まるため、出力するジョイントやスライダー
の数、出力後の立体形状のサイズ等を考慮しなが
ら
図 4.3.2.7 MarchingCube で処理された 3 次元形状
37
データを作成することに注意されたい。
4.3.3 Blender
Blender は主に 3DCG アニメーションを作成することを目的に作られた 3DCG ソフトウェアである。
元は商用ソフトウェアであったが現在は無償のオープンソース、クロスプラットフォームのソフトウェアと
なっている。モデリング、アニメーション、物理演算等も行うことができる。
ここでは制作上不必要な同一隣接平面上のメッシュを統合する作業を行う。また物質世界に出力される
形状はワイヤーフレーム形状であるため、参考としてメッシュをワイヤーフレーム構造に変換する方法も
記載する。
図 4.3.3.1
VoxEffects で作成した STL データを Blender にインポートする。
38
図 4.3.3.2
モデルの編集を行うため Object Mode から Edit Mode へ変更
図 4.3.3.3
Limited Dissolve(限定的融解)を行う。Deleting>Limited Dissolve を選択し実行する。
39
図 4.1.3.4
これにより隣接する同一平面上の不要なメッシュが削除された。ソフトウェア上で必要となる作業は以上
である。
なお参考としてワイヤーフレーム構造を出力する場合は
Edit mode > ctrl+F"Faces" > wire frame を順に選択し
設定を
☑なし ReplaceThickness0
と設定することで可能である。
40
5. 評価
5.1 ユーザー実験
新たな機構とそれを用いて制作した Adjustable Mesh はプロトタイプ 2 で発生した問題を解消すること
が出来たのか、ユーザー実験をもとに検証する。制作にかかる労力が減尐したかを検証するため、ユー
ザーにプロトタイプと新たな機構、その両者を組み立ててもらい、かかった作業時間を計測する。
また終了後にヒアリングを行った。
ユーザー実験
被験者:2 名
実験内容:①プロトタイプ 2 と②Adjustable Mesh の両者の組み立てをユーザーに行ってもらい、その作
業時間を計測する。
ユーザー1
女性
作業時間
① 1 時間 16 分 54 秒
② 0 時間 07 分 31 秒
ユーザー2
男性
作業時間
図 5.1.1 ユーザー実験の様子
① 0 時間 45 分 02 秒
② 0 時間 05 分 09 秒
それぞれ①に対する②の組み立て作業時間が 90%、89%減尐しており、制作にかかる時間は大幅に
減尐したことが分かる。次にそれぞれの組み立てを終えたユーザーにヒアリングを行った。
ヒアリング項目は以下の 4 点である。
41
・ ②のアセンブリの難易度はどうだったか。
・ ①、②、それぞれで更に大きなものを組み立てることは可能だと思うか。またそれをしたいか。
・ この作品及びこれらの機構は何に使えるか(アプリケーション先)。
・ このような伸縮する立体形状の小型化や一体出力が可能になった場合、何が作れると思うか。
-----------------------------------------------------------------------------------ユーザー1
・容易であった。
・①はやりたくない。②ならばもっと複雑な形状なども作ってみたいと思う。
・②はパズルみたいだった。世の中のありとあらゆるものがこのような構造物でできていれば、縮小するこ
とで持ち運びが便利になるのではないか、スモールライトのようだ。
・大きいものであれば公園の遊具などに使えるのではないか。公園の遊具は子供が使用するためのサ
イズで設計されているが、大人も遊びたい時がある。大人が使用するときにはそのサイズを拡大し、使用
することができる遊具などがあれば楽しいだろう。
ユーザー2
・容易であった。
・②ならばやってみたいと思う。 ②は①と比較してパーツ数が尐なくて組み立てが楽だった。
①は組み立てが大変で大きなものを作るとなると作業がつらい、悲しくなる
・見た目が綺麗なのでオブジェとしておいておきたい。 教育用途など、例えば小学校の算数で立体
(三角錐など)を手でさわり、底面積や高さの変化によってその体積が変わることを体感的に学ぶ事がで
きるのではないだろうか。目盛りなどをつければその体積が測れるのでは。
・伸ばした長さをデジタルデータとしてフィードバックすることで画面上にその体積をリアルタイムで表示
する機能があれば有要だろう。
・形状、構造を触ることができることが強みだ。
------------------------------------------------------------------------------------この結果からファブリケーションにかかる時間および労力は、Adjustable Mesh の構造及び設計によっ
て解消されたと考えられる。
また、ユーザー2 の意見から目盛りを付けたスライダーの試作を行った。
42
図 5.1.2 目盛りをつけたスライダー
43
5.2 現時点での実現可能性
STL データのファセットの数は多いものでは数万~数十万にも及ぶ。このままのメッシュ構造をワイ
ヤーフレームに変換し出力することは非現実的であるため、解像度を更に下げる必要があるが、ここで
問題となるのは「元の形状を認識できる解像度はどの程度か」という点である。
以下の画像は Stanford bunny の 3 次元モデルの解像度を MeshLabを用いて変化させたものである
(図 5.2.1)。
図 5.2.1 解像度を変えた Stanford bunny
44
対して VoxEffects の Voxel 化及び MarchingCube の処理を施したものが以下である(図 5.2.2)。
図 5.2.2 VoxEffects で変換した Stanford bunny
一旦ボクセルへ変換した後に MarchingCube の処理を行っているため Voxelize 時の解像度が低けれ
ばディティールは失われてしまうがこの程度であればうさぎと認識できるのではないだろうか?。
しかし現段階においてこのモデルを出力するのは難しい。現在の Adjustable Mesh は基本長のスライ
ダーの長さが約 130mm あり上記の 3 次元モデル完成後のサイズは数メートル級の巨大なものとなる。
またパーツ数も莫大になり組み立て時間よりも 3D プリンタでの出力時間が問題となる。例として図 5.2.3
のパーツは出力に 11 時間程度を要している。また、機材の都合上、基本長の 2 倍の長さのスライダー
が出力限界である(図 5.2.4)。現時点で実現可能なモデルは十数面の立体形状である。
図 5.2.3 3D プリンタによるパーツの出力
図 5.2.4 2 倍の長さのパーツ
45
5.3 一体出力の実験
本制作では出力した複数のパーツを組み上げたが、更なる制作労力の減尐および複雑なメッシュ形
状の出力を実現するためには Nervous System のように機構やジョイントをすべて 3D プリンタで一体出
力することが望ましい。そこでポリジェット方式の 3D プリンタであるストラタシス社の Objet EDEN260 を
用いて機構の一体出力の実験を行う。
ポリジェット方式とはインクジェットプリンタのように硬化性液体フォトポリマーを噴射、UV ライトの照射
により硬化させ新たな層を噴射することを繰り返し 3 次元形状を造形するものである。前述の FDM 方
式と比較し更に精度の高い出力が可能であり様々な色、様々な特性を持ったマテリアルを使用すること
も可能だ。サポート材は水溶性であり除去も比較的容易である。 [27]
以下出力実験の様子を記す。
図 5.3.1 Objet EDEN260 と一体出力されたパーツ
図 5.3.2 サポート材除去、テスト出力したパーツ
テスト出力したものは Grasshopper でパーツ同士の隙間を調整しており、0.5mm 単位で設定、1.5mm
まではサポート材除去が困難であり作業中にパーツを破損した。(左から 3,4 番目) 0.2mm の隙間を
作ったサンプルはサポート材除去を行うことができ、可動するスライダーとジョイントを一体出力すること
ができた。
46
図 5.3.3 一体出力されたパーツを動かす様子
47
6. おわりに
6.1 今後の可能性、展望
この Adjustable Mesh は、枠や特定の空間に依存しない、自立する、展張した状態でその形状を保持
できるといった特性を備えている。また一定度の強度があるため、実用物への応用可能性があると考え
られる。実際にディスカッション・ヒアリングを行い、意見として以下のものが挙がった。
・変形する家具
・空間を計測するためのツール
・形状を実際に手で変化させることができるプロトタイピングツール、あるいはデザイニングツール
・オブジェ
・立体の体積について学ぶための教育用ツール
・遊具など
私は Adjustable Mesh の今後として、さらなる小型化、一体出力により手のひらサイズで変形するオブ
ジェクトを出力することなどを考えていたが、これにより様々な応用先があると気付かされた。この作品は
デジタル空間で行われてきた拡大縮小・変形という表現を物質世界でも実現するための表現手法であり、
まだまだ基礎的なものである。しかし今後機械的な制約条件などが減ることで、様々な応用可能性があ
ると考える。ファブリケーションの手段を MDF 板のレーザー加工から、3D プリンタでの出力およびアクリ
ル板のレーザー加工に変更したことで組み立てにかかる労力及び時間は格段に減尐した。またポリ
ジェット方式の 3D プリンタを用いたパーツの一体出力が可能であることを実証し、一体出力による更な
る組み立ての簡易化への道筋が見えた。
今後の手法として SLS 方式の 3D プリンタによる一体出力などが考えられる。
SLS(粉末焼結方式)タイプの 3D プリンタはナイロンなどの粉末にレーザー光を照射し焼結させる 3D
プリント方式である。ポリジェット方式の 3D プリンタで機構を一体出力する際にはサポート材除去の作
業(水に漬け、内部のサポート材を手作業で除去する)が必要であったが、SLS では粉末がサポート材
の代わりをするためエアで不必要な材を吹き飛ばすことで可動部品を取り出すことができる。これならば
多くのパーツ、あるいは全てのパーツを一体化して出力することも可能となるだろう。
48
関連研究として紹介した Morphys や Morphyng Cube は今回制作したデルタ 16 面体をはじめとする
複雑な形状を作ることは特性上難しいのではないかと考えられ、本研究の手法を用いることで物質世界
における複雑で変形する立体形状の表現の可能性が開かれたのではないかと考える。
コンピューターやデジタルファブリケーション機器は日々で進化を続けており、そのスピードはめまぐる
しい。数年前では考えられなかったことが実現するこのデジタルファブリケーションの潮流の中で、近い
未来、世の中の様々なものが拡大縮小可能なものになったならば、それはスモールライト・ビッグライトの
実現と同義ではないだろうか。
大仰ではあるが、そんな未来をデジタルファブリケーションが実現すること、また今まで存在しなかったも
のを創り出す無限の可能性を秘めたデジタルファブリケーションの今後に期待したい。
49
文献目録
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5. AUTODESK 123D Make. AUTODESK 123D. (オンライン) (引用日: 2015 年 1 月 6 日.)
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51
謝辞
本研究をすすめるにあたり、多くの方々のご指導とご支援を賜りました。
2 年半にわたる研究室での活動で、ご指導いただきました田中浩也准教授に心より感謝申し上げます。
日々の制作に対して熱心に、時に厳しくアドバイスを頂き、多くのことを学ばせていただきました。活気
づくデジタルファブリケーションの最前線で研究ができたことは、かけがえのない財産となりました。
また本稿作成にあたって指導、校正に多大な協力を頂きました、院生と同期の皆さんに深く感謝いた
します。研究の目標や方向性が定まらず悩むことが多い 1 年でありましたが、ゼミでのディスカッションを
はじめ、さまざまな場面で熱く、真剣に議論を行い様々な意見やアイデアを頂いたおかげで、最後まで
本稿を書き上げることができました。
田中浩也研究室の後輩の皆さんにも多くの支援を頂きました。ユーザー実験を快く引き受けてくだ
さった淺野義弘くんと深井千尋さんに感謝します。2 年半の研究室生活、とくにイントロにおいて、切磋
琢磨し合い、より良い作品を作りあげることができたのは田中浩也研究室の皆さんのお陰です。大変で
したが本当に楽しかったです。どうもありがとう。
最後になりましたが、今まで暖かく支援してくださった家族、つらいと言いつつも励まし合った友人達、
そして私を支えてくださったすべての方々に感謝いたします。
皆さん本当にありがとうございました。
52
付録
Grasshopper による伸縮機構を設計するコード
53