3.ウサギの飼育

3.ウサギの飼育
本来ウサギは社会性(群居)をもつ。野生では階層が定義づけられてい
るコロニーやグループを形成しているが、一般的に単頭飼育でも複数飼
育でも問題はない。しかし、適度な個体数を確保する必要があり、過密
はストレスにもなり、個体管理が難しくなる。個体間の相性が明確である。
したがって相性が悪い個体同士は縄張りを意識して、特にメスでは縄張
り意識が強いために喧嘩をする。お互いを噛んだりして傷つけあうようで
あれば、別ケージで遭遇することがないようにする。飼育者に対しても攻
撃性を示すような個体も多く、警戒反応として後肢を地面に叩きつける動
屋外飼育
作(stamping)
を示す。
実際の飼育として、屋内のケージで飼育する場合と屋外の小屋で飼育する選択がある。さらに、屋内でサー
クルで飼育することも選択できる。各々の飼育状況、飼育者の嗜好、品種の特性などによって選択せざろうえな
いであろう。なお、本稿では屋内飼育を中心に解説を行う。屋内飼育の長所はウサギの状態を常時観察できる
こと、雨風に直にさらされないことであるが、これはウサギ自身の選択ではなく、飼育者の勝手な解釈である。
短所は世話や掃除が行き届かないと尿臭や糞臭が部屋にこもってしまうこと、屋外飼育と比較して居住空間が狭
いことである。
★順位
複数で飼育された場合、ウサギの相互関係には、直線的な順位関係が成立する。順位関係は同腹仔間で
も、離乳後まもなく生じて雌雄関係なく一直線となる。しかし、成熟するにつれてオス、メスの順位は別々と
なり、順位の高いオスが全てのメスを独占する傾向になる。成熟の早さやその他の条件によって順位は逆転
することもあり、この期間は双方は激しい喧嘩をする。順位が決定されると攻撃は再び一方向的なものとな
る。
(1)ケージセット
制限された居住空間で、生態を考慮した面積を考慮し、生活に必要な器具を設置する。飼育には動物の保管、
飼育管理、観察などが無理なく行えるように、また、ケージ類の洗浄や消毒なども容易なように、ケージのサイズ
は操作性を重視してコンパクトな形態が好まれる。
【ケージ】
ケージは構造上において、動物にとっての居住性(材質、形、床材)、洗
浄や消毒などの容易性、給餌など作業性、そして動物が観察しやすいな
どの利点を考慮する。ケージの材質は金属と木材がある。衛生上からは
金属製がよいが、保温性や防音性は木製が優れている。木製では柵とケ
ージを一緒にした飼育箱、例えばリンゴ箱など空箱を利用した飼育箱な
どを利用する。金属製は、専門店では多数販売されているが、ケージの
底に引出し式の糞受け皿がついている置式ケージがある。なお、ウサギ
では飼育箱つまり、ケージをハッチ( hutch)
と呼ぶ。
飼育ケージ
ケージの面積の規定については、近年ウサギの体長とストレッチファク
ターという考え方が報告されている。体重ではなく体長を考慮して、ケー
ジの幅と対角線の長さを測定して面積を設定する。体重は体長を推定す
るよい指標であるとはいえない〔Eveleigh 1988〕。ケージ内で対角線ある
いは横幅いっぱいに使って身体を伸ばすことができる面積を理想とする。
どの方向にも自由に身体を伸ばせるようにするには、体重が3kgの個体で
は0.64m2/頭(80 - 80cm)のケージが必要となる。また、繁殖も考えてい
る場合には、成獣の体長を考慮して,ケージの幅と対角線の長さを測定
ストレッチファクター
しておく必要がある
〔Eveleigh 1988〕。
専門店で販売されているウサギ専用ケージの約70 - 80cm四方位の製品なら、1頭もしくはつがいでの飼育が
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可能である。出入口は正面あるいは上面に装着しているもののほうが、
掃除やウサギの出し入れに便利である。さらに床は引き出し式であると
掃除が楽になる。ケージの床は牧草や乾草などを床材として十分に敷く
とよい。牧草や乾草は採食しても、それらは安全であるが、一方、排泄物
で汚染されると、腐敗したり微生物が繁殖するなどの問題がある。衛生
的な管理を望むなら、床が金属メッシュやすのこを使用するが(大型の
3kgくらいのウサギはこの方がよい)、メッシュやすのこの間に四肢や指を
挟む事故、あるいは足底への損傷が好発するために避けた方がよい場合
木製すのこ
もある。すのこも木製、プラスチック製、そしてエンボス加工の製品があ
る。プラスチック製であれば四肢への衝撃を和らげ、エンボス加工は釘な
どを使用しないため歩きやすい特長がある。特に足底皮膚炎を遺伝的な
素因から多発するレッキス、ミニレッキスでは、その選択に注意する。床
に直接ペットシーツ、新聞紙、タオルなどを敷くこともよいが、それを採食
するようなウサギでは消化管内の閉塞が懸念されるため注意する。飼育
者の観点からは、掃除が容易であること、作業の点では飛散しにくいもの
が理想である。現在のところ、これらの条件を全て満たすような理想的な
床材は存在しないため、飼育者や動物に応じて最良のものを選択する必
床材の牧草
要がある。
本来は上記の市販の製品の制約されたケージでの飼育は適切でなく、
ケージ内にはウサギが運動する場所と休息する場所を設けるくらいの床面
積が必要となる。ウサギの身体の大きさにもよるが、1回の跳躍力を考慮す
ると、かなりの空間となる。本来のアナウサギは身体が軽く、跳躍走行し、
特有の身体的進化を遂げたわけである。制限された空間ではストレスにも
なり、また直に長時間硬い床での飼育では、足底の皮膚への持続的圧迫壊
死を生じ、足底皮膚炎を引き起こしやすくなる。他にもストレスによる過剰
サークル
のグルーミングで、毛球症を引き起こす誘因にもなる。実際はケージと部屋
の放し飼いの組み合わせの方が、運動量を考慮しても理想的と言える。部屋の放し飼いにも様々な問題があり、
事故や異物摂取などを特に注意しなければならない。サークルを組んで放し飼いにすることにより、家具や壁を齧
ることは避けることができる。飼育者の都合が優先的になるが、最低でも日に数時間はケージから出して放し飼い
にするべきであろう。ウサギはこのケージの外の範囲でも、自分の縄張りを認識して確保しようとするが、それは部
屋の一部あるいは部屋全体かもしれない。
【餌容器・給水器】
ウサギは餌や床材を散らか
し、容器の上に乗って食べる
性質があるため、餌容器は、は
め込み式か壁掛け式が清潔で
適切である。床に置く容器な
ら陶製の重い物を使用し、安
餌容器
定化させる。最近は牧草を収
給水ボトル
容する牧草箱(牧草フィーダー)
なども市販されている。ウサギ
は身の回りに餌が散在してい
ると採食する特性があり、食欲
不振の場合には床材にも使用
できる乾草や牧草を敷きつめ
牧草入れ
たり、あるいは野菜や野草を床
上に散在しておくとよい。しかし、本方法では食物が排泄物で汚染されるため、衛生面を考慮するならば頻繁に
交換する。給水器は市販されているケージに取り付けるボトルタイプの給水器が最適である。糞便による汚染を
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防ぎ、被毛の乾燥を保つ。床に設置する給水器であると、容器の中に四肢を入れたり、舞った被毛が入ったり、
さらに口でくわえて放り投げることがあるため、ある程度重さのある陶器の器が適している。ウサギにとって高
い位置にボトルタイプの給水器を設置すると胸帯や肉垂が濡れて、ウエット デューラップ(Wet dewlap)
を引きお
こすために、飲水を行いやすい位置を考慮して適切な位置に設置する。
【排泄】
ウサギというと「臭い」というイメージがある。体臭はほとんど無いが、排泄物はかなり臭う。糞塊は2.5-3.0kg
の個体であれば、1日に約150個の硬糞を排泄する〔Lowe 1998〕。正常糞は乾燥して糞臭は少ないが、軟便や下
痢便は独特の臭いを放つ。尿は体調にかかわらず臭う。尿臭を取る消臭剤入りペレットが市販されているが、
全く臭いが消失するとは言い切れず、効果の程度は不明である。頻繁にトイレやケージの掃除を行えば、特に気
になるということはない。一般的にケージ内で閉鎖した場合、高湿度でアンモニア臭の強い空気環境を作りや
すい。アンモニアは尿素分解細菌の作用により、排泄物の尿素が分解されて発生するものである。アンモニア濃
度が高いと、気管や気管支粘膜に異常を引き起こし、微生物の侵襲と相乗的な作用で呼吸器疾患を好発させる。
◎トイレ
野 生 の アナウサ ギも巣 穴 の な か で 排 泄 する 場 所 を 決 めて いる
〔Donnelly 1997〕。イヌやネコと同様に飼育下でも、トイレのしつけを
することは可能である。個体差もあり、数日で覚える個体もいれば、
数ヵ月を要する個体もいる。壁寄りあるいは隅で排泄する習性がある
ため、ゲージの隅、部屋の隅、小屋の隅などをトイレの場所にする。ケ
ージの中では給餌器や給水器とは別の角に設置する。排尿時に尿が
ケージに飛ばないようにガード付の製品も多く見かける。トイレ用の容
器として、ウサギ専用トイレ以外にも猫用トイレ、フェレット用トイレあ
るいは浅いトレイなどが使用される。プラスチック製と金属製のもが数
多く市販されている。スノコ付きのケージでは特にトイレを用意せず、
そのままケージの下のトレイに落とさせる方法が取られている。いず
れの場合も、トイレの場所にはペット用のシーツや、猫の砂(または木
屑)などを敷くと掃除などが簡単になる。ペットシーツ、砂をウサギが
採食する時は金網でカバーをするか、または摂取しても問題がない牧
草や乾草を敷くとよい。
トイレ
【温度・湿度】
適当な換気、定期的な排泄物の清掃、またはアンモニア濃度を低下さ
せる環境が必要である。本来アナウサギを家畜化したものであり、ヨー
ロッパアナウサギの棲息地である地中海沿岸の温暖な気候が適切である
と思われる。温度管理では基本的に、暑さに若干弱く、寒さに強い動物
である。特に温度が高くなる7-8月に、病気(熱射病)や、体重減少、流産、
早産、死産などが起こりやすい。したがって、温度や湿度を調節するとと
もに換気を図り、不快を最小限にしなければならない。環境温度が28℃
以上になると、体温が上昇し、防御機構がほとんどないため、熱射病や
ペット用ファンヒーター
熱中病になりやすい〔Donnelly 1997〕。ある報告では環境温度が30.2℃以
上になると、体温上昇に伴うストレスに関連した生理的変化を示すという
〔Besch EL et al 1991〕
。ウサギでは皮膚の発汗作用が見られず、過呼吸
も効果的ではない。舌の一部と耳介の血管以外で発熱の緩衝作用を施す
のである
〔Donnelly 1997〕。特に直腸温度が40.5℃以上になると神経症状
が見られる
〔Gentz et al 1997〕
。一方、寒さに対しては褐色脂肪の蓄積が
ないために振戦のみで対応する
〔Donnelly 1997〕。屋内飼育ではエアコン
などの空調機器を利用して室内温度の調節をした方が理想であるが、さ
ほど神経質になる必要もないようである。もちろん、部屋の出入口付近や
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夏でも冷たい大理石
隙間風などの寒暖差がある場所は避ける。屋内は人に快適な温度に設定されているため、ウサギ自身が特別暑
いとか寒いとかを感じることは少ない。エアコン以外でも、夏季には冷したペットボトルや石をケージ内にいれ
たり、ケージを風通しのよい場所に移動したり、窓を開けたりして冷却する。寒期にはペット用のパネルヒータ
ーなどをケージの下に敷き、夜間はケージを毛布などで被って保温する。
なお、屋外飼育では直接に気温の影響を受ける。ウサギは自分自身で快適な場所を見つけ、移動したり、巣
穴を掘ってしのぐことになる。夏季は日差しを避けることができて風通しのよい場所を、冬季は反対に日当たり
がよく、冷たい風が吹き込まない場所が確保できれば問題ない。夏季では日陰を設置しないと、熱射病になる
ため注意する。大抵は巣穴を地中深くに掘って暑さを耐えしのいでいるが、飼育している場所にすだれなどを
設置して日陰をつくるようにするとよい。冬季では床材などを大量に敷いて暖をとらせるために利用させ、日中
は日当たりのよい場所に移動させるとよい。極度に寒い時は室内に入れる。
湿度に関しては、あまり気にする必要はないが、高湿度には弱い動物であるために梅雨の時期などは風通し
をよくする。
表:環境条件の基準
〔実験動物施設基準研究会編.ガイドラインー実験動物施設の建築および施設.P53.清至書院より引用〕
温度 18-28℃
湿度 40-60 %
照明 150-300ルクス
(床上40-85cm)
騒音 60ホンを超えない
(2)掃除
ウサギは尿臭や糞臭などの排泄物の臭いが特有で、個体によってはかなり臭うために頻回に掃除を行わなけ
ればならない。不衛生な環境により引きおこされる疾病も少なくない。なお、常用される消毒剤は,市販品でも
多数でており、消毒の対象と目的によって種類と方法は一様でない。
【ケージ】
ケージは飼育方法(完全ケージ飼いか屋内放し飼い)が異なるため、それぞれ適した掃除を行う。共通して言
えることは、ケージの床やすのこの下に敷いてある床材である新聞紙、ペットシーツあるいは乾草や牧草は汚染
具合によるが、可能ならば毎日交換する。特に梅雨の時は、ウサギの苦手な高湿度になるために頻繁に行うほ
うがよい。3-4週間毎にケージ全体やすのこを水洗いして日光消毒するとよい。すのこは交換して使用するため
に2-3枚用意しておくと便利である。
【トイレ】
室内やケージ内に設置してあるトイレは、アンモニア濃度が高くならないように毎日掃除する。トイレ砂やペッ
トシーツを交換するだけではなく、トイレ容器の水洗も毎日行うと清潔である。ウサギの尿は正常でもカルシウム
の結晶尿であり、トイレ容器には白色あるいは黄色の沈着物が付着するが、酢で溶かしてから拭くと簡単に取れ
る。掃除用のブラシやスパチャラなどを使って、こびりついた尿の結晶を取り除く必要がある。アンモニア臭、
および微生物の繁殖は相乗的な作用で、呼吸器疾患を好発させる。
【餌容器・給水器】
餌容器は給餌時に乾拭きする。これはペレットなど乾いた食餌を与える場合のことで、野菜など水分の多い餌
を与える時は、食後に水洗いして乾かす。ボトルタイプの給水器は水洗しにくいのが難点であり、水筒などを洗
うブラシを使用するとよい。吸口側に装着しているゴムの部分の水垢もふき取る。受け皿タイプの水入れは、ウ
サギが肢を入れたりして汚染しやすいため頻回に水洗いする。手間はかかるが、熱湯消毒するとよい。
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(3)食餌
ウサギは終生完全草食動物であり、野生の食餌は野草の茎、根、樹皮などで栄養が乏しく、繊維質を多く含ん
でいる。飼育下では主に配合飼料であるペレットが給餌されているが、これが必ずしもよいと言えない。消化管
における諸要因のみを考慮するのでなく、草食のための歯の咬耗という要因も考慮しなければならない。飼育
下の食餌のメニューは、適切な量や栄養バランス、また必要とする栄養素をすべて含有しており、嗜好性が高く
て吸収性が優れたものでなくてはならない。これらの食餌は短期的に要求を満たすだけでなく、繁殖や寿命の
点でも要求を満たす必要がある。ウサギ自身は非常に強い動物であるが、一方、消化器系統は非常にデリケー
トであるため、急激な食餌の変化には注意する。具体的に飼育下では下記の表の食材を給餌するべきである。
表:ウサギの食餌のメニュー(◎常時給餌するもの ○時々給餌するもの)
◎ウサギ専用ペレット ○果物
◎乾草、牧草
○その他
◎野菜、野草
ウサギは草食動物で消化管が長く、常時蠕動していなければならない。
そのためにも高繊維質、低カロリーである牧草や乾草の常時給餌が蠕動
運動に重要である。高繊維質である植物性食材であれば常時摂取しても
肥満になることは少ない。ウサギは本来、常に天敵から逃避しながら食
物を探索するという生態であり、必然的にカロリー燃焼にも繋がる。常に
食物が発見でき、年中摂取できるものは、やはり植物である。飼育下では
腐敗せず高繊維質である牧草や乾草などの食材は、なくなったら足してい
き、ウサギは早朝と晩に食餌をする個体が多いため〔Cheeke 1987〕、しお
牧草・野菜・ペレット
れやすい野菜は朝晩に確認して交換することが望ましい。ある報告では、
採食は15時から18時にかけて増加し、真夜中まで続き、午前2時までには終了する。その後に盲腸便の採食が
始まり、午前6時に最大となり、午前8時には終了する
〔Carabao and Piquer 1988〕
。しかし、これらのパターンは
食物の種類、年齢などによっても大きく異なる。基本的に乾草や牧草を中心に野菜、野草を常時、餌容器に入れ
て自由に採食させ、ペレットは日に2回与え、他のものは時々コミニュケーションとして与えるべきである。ペレッ
トのみを給餌しても量的に問題はないが、歯の咬耗や繊維質を十分に摂取することは期待できない。中には過
食する個体も見られるため、ペレットのみを給餌されている個体では、給餌量を確認しなければならない。一般
的に摂取量は体重の約5-15%と、各書物には記載されている。実験動物としての飼料としては、体重1.4-2.3kgの
個体で28.4-85.1gを要求するという
〔Canadian Council on Animal care 1969〕
。なお、種子類やペレット、そして
乾燥野菜などが混在したミックスフードは、この中で選り好みをするため、栄養素の不均衡になりやすい。
ウサギは本来夜行性であるため、飼育下では朝と夕方以降に活動を開始する個体が多い。給餌時間は朝と夜
を中心に考えることも大切である。しかし、この給餌の時間帯は個体差も見られるために一概には言えない。
間食はできる限り与えない、あるいはコミュニケーション程度やしつけの際に与える。もし与えるならば野草や
野菜、そして極少量の果物などが適している。スナックやクッキーなどの給餌は嗜好性が偏り、低繊維質である。
人が摂取するような炊いた白米や食パンなどは、咀嚼のためにも不適切で、栄養素の均衡を崩す原因にもなる。
特に非繊維質(澱粉質、果糖など)が大量であると消化器疾患の要因になるため、積極的に与える必要はない。
果物は水分も豊富であるが、果糖の影響による齲蝕を発生させる原因になり、嗜好性も優れているために好ん
で選択し〔Cheeke 1987〕、牧草や乾草、ペレットを摂取しなくなる。少量であればりんごや柑橘類などが適して
いるであろう。
ウサギは食餌に関しては、保守的で偏食が多いため、幼体時から多種多様の食餌を与える必要がある。しか
し、加齢とともに保守傾向が強くなり、老体では食餌内容の変更は容易ではない。ウサギの食餌の変更は4-5日
以上、あるいは10日くらい要して行わなければならない〔Harkness et al 1989〕。腸内細菌叢は浸透圧、pHの変
化に敏感であり、内容も徐々に増量する必要がある。特に幼体ではその変化が起こりやすい。
【牧草・乾草・わら類】
牧草や乾草は床材としても使用され、常に少量であるが摂取している。これらの植物は地域や季節により栄
養学的な評価が大きく異なる。食物繊維が豊富に含まれ、低カロリーで理想的な食材の一つである。牧草には
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ビタミンAが豊富に含まれ、これらを乾草にすることは、植物および微生物
の酵素の作用を防止できるようになるまで水分を減少させることである。
青刈りの牧草の水分含有量は65-85%であるが、乾草は15-20%である〔須
藤 1981〕。乾草は牧草を乾燥させるために、カロチンやビタミンCが損失
されるが、自然乾燥(天日干し乾草)であれば日光照射によりエルゴステ
ロールがビタミンDに変換することも知られている
〔須藤 1981〕。
市販でも牧草、乾草は多くの種類が見られるが、主にマメ科のアルファ
ルファとイネ科のチモシーの2種類が多い。高繊維質である本食材は疾病
牧草
あるいは老体には有用な食材である。それらの特徴として、マメ科である
アルファルファは蛋白質とカルシウムが豊富であり、嗜好性も優れている。
しかし、大量に与えると鼓腸症の恐れがあるので注意する。イネ科であ
るチモシーはマメ科と比較して蛋白質やカルシウムの含有量が少なく、ま
た栄養価も低く、嗜好性は劣る〔須藤 1981〕。しかしマメ科と比較すると
高繊維質であり、ウサギの体重の減量や消化管蠕動を促進させるために
最適である。カルシウム含量が少ないため、尿路結石の予防、腎不全の
個体の食餌としてもよい。なお、市販では牧草の刈り取る時期で、一番始
めに刈るものを一番刈り牧草、その後生えて来る物を刈るのが2番刈り牧
わら・野草
草、さらに穂が出きる前に刈り取ったものを3番刈りと呼ばれている。一般的に2番刈り牧草は、栄養価は低く細
く柔らかい。3番刈りは穂が含まれるためカロリーはやや高めとなる。
わら類は種実を脱殻して取り去った後の植物の茎と葉よりなるものである。成分は高繊維質で、リグニン(リ
グニンとは本来不溶性食物繊維であり、植物の細胞壁を形成する成分の一つでシイタケ、ニンジンなどに含有さ
れている。悪玉コレステロールを減少、善玉コレステロールを増加させる働きがある他に、抗菌、抗ウィルス作
用がある)含有量が高く、栄養価は低い〔須藤 1981〕。イネ科のわらはマグネシウム、リンが少なく、マメ科のわら
はカルシウムが多い〔Mcdonald et al1973〕
。
牧草、乾草は長期保管に難点があり、腐敗したり、虫がついたりすることもあるため、可能な限り新鮮である
ものを供餌する。特にカビが生えた乾草は、ウサギに悪影響を与えることも考えられる。必要以上の長期間保
存はビタミンの酸化による不活や異臭を放つ原因となるため注意する。
そして、乾草を圧縮したものがへイキューブである。ヘイキューブはペレットと異なり乾草が粉状になっていな
いため、乾草と同じ働きがある。切断長が1cm以上であれば、咬摩や栄養素も、長い乾草と同じ繊維効果があ
ることが確かめられている。
◎マメ科(アルファルファ、クローバーなど)
蛋白質が高く、開花期の初めに刈り取ったものは20%以上である。また、マグネシウムも豊富で重要な供給源
となる
〔須藤 1981〕。
(アルファルファ)
多年生のマメ科牧草で、他の多くの一年生の草と比較して、生育の
ための費用が少なくて済むこともある。また、窒素肥沃化を必要とし
ないために農家にとっても理想的である。多くのウサギ専用ペレット
の主原料に使用されるアルファルファミールは人が直接採食したり、使
用することもない。食物需要にも競合せず、安定供給が可能で安価で
あることも利点でもある。
アルファルファは大豆の2-4倍の蛋白質を含有し、ウサギにとって吸
収性が優れている。特に成長期に与える蛋白質源として有用である。
カルシウムとカリウムの含有が豊富で、不溶化繊維質は腸炎の予防に
アルファルファ
もなる。ビタミンAも豊富で、乾燥アルファルファは黄色トウモロコシやニンジンの4-60倍以上のカロチンを含
有し、嗜好性も高い。しかし、アルファルファをはじめとるすマメ科植物は尿色を濃くし、有色化する傾向に
ある
〔Cheeke et al 1987〕
。
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(クローバー)
クローバーはマメ科の植物で、ウサギに供給される栄養素がアルファルファに多少類似している。クローバ
ーも生や乾草ともに、嗜好性が高いことが特徴である。蛋白質、TDN(可消化養分総量)およびカルシウムに
関しては、アルファルファの代用としてクローバーを使用することも可能である。かび臭かったり、埃っぽい
ことが多いこともあるため注意する。
◎イネ科(チモシー、イタリアングラス、オーチャードグラスなど)
イネ科の植物は多年生で葉や茎は堅い。細胞壁をつくるセルロースを主体とする繊維分と、葉の表皮細胞に
分布する珪酸とよばれる結晶のためである。イネ科は生育時期などの環境により栄養価が変動しやすい特徴が
ある
〔Mcdonald et al 1973〕
。
マメ科と比較して高繊維、低カルシウムであるため、繊維質を必要とする消化器疾患、あるいは減量する際に
適している。また、低カルシウムを目的とする尿路結石、腎不全のウサギに適する。
(チモシー)
多年生のイネ科牧草で、イネ科牧草中耐寒性が最も強く、採草、放
牧兼用種として利用されている。1番刈りと2番刈りが見られるが、1
番刈りは茎が太く水分含有も多く、2番刈りは細い。一般的に1番刈り
のほうが流通量が多い。和名はオオアワガエリと呼ばれる。
(グラス)
グラスはアルファルファとクローバーのようなマメ科の植物より栄養
価は多少低くなる。蛋白質、カルシウムおよびビタミンにおいてより低
チモシー
い傾向がある。イタリアンライグラス、オーチャードグラス、バミューダ
グラス、スーダングラスなどが販売されている。
【野草・野菜】
嗜好性のよい野草、野菜などを自由に摂取させると、栄養の効果を下
げずにペレットの消費量を減量することができる。多くは水分含有量が非
常に高く、ウサギの必要栄養素を摂取するには、大量に消費しなければ
オーツ
ならないという欠点もある。
特に野菜はペレットを食べ飽きた個体や疾病中の個体の食欲を刺激するために有効な場合がある。新鮮な状
態で給餌しないとしなびやすく、ケージの床に落ちて糞尿で汚染される。
◎野菜
コマツナ、チンゲンサイなどの緑黄色
野菜を中心に給餌する。緑黄色野菜はビ
タミンK、ピリドキシン、パントテン酸、ビ
オチン、葉酸が豊富である。野菜やアル
ファルファのビタミンAはカロチンであり、
レチノールに比較して効力は劣るが、活
性酸素を抑える抗酸化作用を持つ。しか
コマツナ
キョウナ
チンゲンサイ
クレソン
し、多くのウサギは食感の優れたレタス、
キャベツ、ハクサイなどの淡色野菜を好
む。淡色野菜はビタミンAなどの栄養価
が低く、咬耗が少なくても摂取することが
可能であるために不正咬合になりやすく、
多給することは避けたい。淡色野菜の多
くはその80-90%が水分であるために、軟
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便や下痢を引き起こすこともあるので注意して与える。また、ウサギはニンジンが好物であるといわれている
が、ニンジンをはじめとする根菜類は水分含有量が多く
(75-92%)、繊維質が比較的低い特徴がある
(乾物あ
たり5-11%)
〔須藤 1981〕。給水器から水分を摂取し、野菜からも水分を取ることにより、軟便や下痢を引き起
こすこともある。特に幼体では糞の状態を観察しながら与えなければならない。そして、大量のキャベツの
摂取は甲状腺腫が発生するとも言われているが、発生頻度は低いと思われる
(アブラナ属の毒性参照)。キャ
ベツをはじめとするアブラナ科の植物は乾物含有が低く
(約14%)、蛋白質(約15%)、水溶性の繊維質(約2025%)
、およびカルシウム
(約1-2%)が高い特徴がある
〔須藤 1981〕。尿路結石や腎疾患のウサギではカルシウ
ム含有が少ない野菜を与えるべきである。
★アブラナ属の植物の毒性
アブラナ属は茎、根菜など全てにコイドロゲン物質を含有している。本物質はヨウ素の甲状腺への取り込
みを阻害する。本属の植物は、反芻動物では溶血性貧血を起すが、ウサギでは不明である。これらのアブラ
ナ属の食餌を乾物摂取量の約1/3以下に制限することにより、発生を予防するという
〔須藤 1981・川島 1995〕
。
(給餌しても大きな問題がない野菜)
ニンジン、ブロッコリー、パセリ、セロリ、カブの葉、チンゲンサイ、大根の葉、コマツナ、
サラダ菜、さつまいも、セロリ、カリフラワー、みつばなど
(不適切な野菜)
じゃがいもの芽と皮、生の豆、だいおう、葱、玉ねぎ、にらなど
◎野草
野生のウサギは本来、苦い植物を摂取しているといわれ、人が考えているような嗜好性とは限らない。しかし、
飼育下の個体は苦い植物を苦手とする個体が多いようである。農薬、イヌやネコの排泄物、排気ガスの影響を受
けていないような野草を採取して、給餌することもよい。ハーブはその種類や薬効によって異なるため、成分な
どを確認して選択して少量のみを与えることに止める。
(適切な野草)
野草は自然界でも通常摂取されているものもあり、薬効も期待できるものも多い。タンポポ、ノコギリソウ、
ハコベ、オオバコ、レンゲ、シロツメグサ、クローバー、フキタンポポ、ペンペングサ(ナズナ)、アルファルファ、
オーチャードグラス、イタリアングラスなどが問題なく給餌されている。そして田畑や原野の雑草であるメヒシ
バ、ツルマメ、ハギ類、メドハギ、カワラケツメイ、ヤハズソウ、ススキ、マルバヤハズソウ他のイネ科牧草と大
差なく、家畜の嗜好性も良好なので粗飼料としての価値は高い。雑草として繁茂し、手短な飼料として利用
できる。
(中毒を起こす可能性がある植物)
文献では次のような植物で中毒の報告がある。トウワタ属のAsclepias eriocarpa (wooly-pod milkwoodある
いはbroad-leafed milkwood)は葉と茎の乳状液に毒性があり、衰弱あるいは四肢と頸の筋肉の麻痺、流涎、被
毛粗剛、メレナなどが見られる。頸があげられないため、本病は“ヘッドダウン病”
といわれる。ラジノクローバー
は、エストロジェンが含有されているために不妊症を引きおこす可能性がある。ヒレハリソウ
(コーンフリー)、キ
ンポウゲ、アメリカボウフウ、キョウチクトウ、エゾユズリハでも毒性の報告がある〔水野1984・Cheeke et al
1987・Cheeke 1987〕。そして以下の植物も一般的に中毒がおきる可能性があるので注意する。
アサガオ、アジサイ、アマリリス、イチイ、イラクサ、イヌホウズキ、ウルシ、オシロイバナ、オトギリソウ、カポック、
カジュマル、カラジュール、ケシ、キョウチクトウ、クリスマスローズ、ゴムノキ、サツキ、サフランモドキ、サトイモ、
ショウブ、シャクナゲ、シダ、ジンチョウゲ、ジギタリス、スイセン、スズラン、セントポーリア、西洋ヒイラギ、チ ョ
ウセンアサガオ、ツツジ、ツゲ、デルフィニウム、ディフェンバギア、ドクニンジン、トリカブト、ドクゼリ、トチノキ、
ナツメグ、ヒヤシンス、ベンジャミン、ベゴニア、ホオズキ、ポインセチア、マロニエ、ヨモギギク、ワラビなど
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【ペレット】
ウサギにとって理想のペレットは、栄養素必要条
件が満たされていることである。これらの必要条件
についての情報は、全米研究会議(NRC:National
Research Council)出版の栄養素必要条件から得る
ことが可能である。NRCは、多くの家畜の必要栄養
素についての情報を調査し、評価するために委員
会を確立し、科学者と動物の栄養に関して認められ
維持用ペレット
高齢用・低Ca食
低Ca食
成長期用
維持用
高齢用
た専門家で構成されている。報告書では、他の動
物と比較するとウサギの栄養必要条件は、制限され
た条件でしか研究されていない。多くの場合、調査
には少数の動物と飼料(食餌)が使用され、飼料は
普及している商用の飼料とは異なるもので、利用で
きるデータは信用に多少欠けると思われる。しかし、
多くのペレット製造会社はこれらの栄養素について
の情報を利用している。
身体の大きさや消化器機能によっても、栄養必要
条件に相違が生じる。ネザーランドドワーフのような小さな品種は大きい品種と比較すると、低いエネルギーで
維持している。寒冷な気候では、防寒のために更にエネルギーを必要とする。小型種や授乳期のメスの場合は、
高繊維質である食餌のみでは必要エネルギー分を摂取しきれない可能性がある。このような場合、衰弱や栄養
障害のために死亡することもある。
本邦でも、近年多種のウサギ用ペレットが市販されている。ウサギによって嗜好性が異なり好き嫌いも見られ
る。形状は円柱状あるいは球状のもの、ハードタイプやソフトタイプまで様々な硬度のペレットがある。嗜好性に
偏ったもの、栄養的に考慮したものまで様々である。一般的にはソフトタイプのペレットのほうが嗜好性が高い
が、理想は適当な硬度があり、長さが1/4インチ(6.3ミリ)以下、直径は3/16インチ(4.8ミリ)以下が理想ともされ
る。形状が大きいと離乳中のウサギなどは、一齧りした後、残渣をケージの中で転がして、多くを食べ残してし
まう。柔らかすぎると軽い咬合力で砕けて咬耗をせずに嚥下するために、不正咬合の要因になりやすい。また、
近年は良質の専用ペレットが多社から開発され、ウサギの食生活についての飼育者の意識が高まってきたため、
栄養バランスの良い食事を給餌するという意識も増えはじめた。成長ステージ別のペレットも見られ、ウサギの
発育とともに変えていくのが望ましい。
【授乳中、離乳期、離乳後の食餌】
母ウサギには妊娠中から多彩で栄養価が高く、カルシウムとビタミンの含有の多いものを給餌する。大量の母
乳を分泌しなくてはならないため、多くの水分も必要とする。 ペレットを主食としている場合は特に出産から離
乳までは水を切らさないようにする。
【新生仔の食餌】
ウサギの新生仔は生後胃内細菌叢を形成できず、ミルクオイル(育仔・授乳参照)によって消化管内が制御され
ている。基本的に新生仔の食餌は授乳中は母乳で十分である。しかし、4週目頃から母ウサギの乳量が減少し
て離乳期に入る。したがって、ミルクオイルが減少し、自らの胃や腸の細菌叢が形成される6-8週までは母ウサギ
と一緒に飼育した方が無難である。小量ずつ母ウサギと一緒に食餌を採食しているようなら心配はない。採食
することが困難であるようなら、柔らかい野菜やペレットを砕いたり、ふやかしてたりして与える。ウサギ専用の
流動食も販売されている。
【飲水】
「ウサギは水を飲ませると下痢して死ぬ」
という迷信が広まっているが、基本的には水分が必要である。給水ボ
トルは初めは飲み方が分からない個体もいるため、飲水を確認させて飲み方を教えることもある。口渇時に、口を
給水器の飲み口に近づけて水を少し出してやると覚える。一般的にウサギの飲水量は約120ml/体重kg〔Cheeke
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1994〕、50-100ml/頭/日
〔Brewer and Cruise 1994〕
などと報告され、他の動物と比較して多い〔Donnelly 1997〕。
実験動物では60-140ml/体重kgという報告もある
〔Canadian Council on Animal care 1969〕。多飲により下痢を
呈するようなら控えめにし、野菜からも水分を吸収できるため多給した時は水を加減してもよい。野菜を多給する
と全く飲まない個体もいる
〔Cheeke 1987〕。主食がペレットの場合は必ず水を与える。
(4)ケア
愛玩目的のウサギは実験動物と異なり、飼育者とのコミニュケーション
として、給餌などの世話以外にも精神的なつながりを持たせるために、
様々な接触を行う。ウサギは愛情深く活発な動物であり、信頼関係を保
てば素晴らしいペットとなる。ウサギと人の関係は、健康面でも大きな影
響を及ぼし、精神的な問題が積み重なると、ストレス反応により心因性脱
毛や下痢などが見られる。重篤になると食欲不振、体重減少が見られ衰
弱する。さらに免疫低下により、日和見感染を起こし様々な感染症を引き
起こす。
咬傷
また、ウサギは社会生活序列を営む動物であり、ウサギ同士でもその
序列を保つ。その序列は飼育者あるいは同居しているウサギ以外の動物とも形成することもある。上位の者に
は従順であり、下位の者には攻撃的になる。一般的には下位の者にはグルーミングを要求したり、噛み付いたり
する行動が見られる。序列を持ったウサギ以外の動物が野生での捕食動物であるイヌやネコの場合でも、ウサ
ギはそれらに寄り添い、一方、イヌやネコも捕食行動を見せることはない。
しかし、フェレットに対しては特別な反応を示すことが多く、序列を形成することは難しい。
ウサギは本来好奇心が強い動物であり、特に幼体では環境の周囲に対して大変興味を抱き、探索するような
行動が見られる。品種や個体によって異なるが、ケージの外に出して遊んだり、人に抱かれたりする必要がある。
その性格は個体差が大きく、人に馴れる程度も異なり、抱っこや撫でられることを嫌う場合もある。イヌのよう
に寄ってきたり、ネコのように膝の上で甘えてくれるとは限らない。人に馴れていないと、死に物狂いで抵抗し、
抱かれることが好きではない個体もいる。人との接触がストレスになることも充分に考えられるため、その程度
は様々である。
探索行動は時にはカーテンや家具をかじったりもすることも見られるため、ケージから外に出す時は、室内で
あっても必ず目につくように注意しなければならない。観葉植物による中毒、火傷、落下事故などを注意する。サ
ークルなどを設置してその中で遊ばせることもよい。屋外に出すこともよいが、植物や重金属などの中毒、イヌ、
ネコによる咬傷の発生が好発するため、人の目につく範囲で出してやる。
【運動・活動】
ウサギは本来夜行性であり、飼育下でも早朝や夕方以降に活発に活動
する個体が多い。飼育者の多くが夕方や夜に自由な時間が取れるならば、
この時間帯に目の届く範囲で運動させたり、遊んでやるとよい。
ウサギの運動や活動量は成熟するにつれて変化する。本来は活発な動
物で幼体は好奇心旺盛である。特に幼小期は遊び好きで、興奮して走り
回ってジャンプをし、同時に回転するような動作を示す。これを「Happy
hops」、
「Binkies」などと呼ぶ。また、噛んだり、掘ったりすることもある。
小さい物であれば切歯で拾って投げることもする。オスは特に縄張り確認
ケージ外での遊び
として、尿や糞によるスプレーや下顎を物や人に擦りつける行為(チンマ
ーク chin mark)
を行う。しかし、老体になるとこのような活発な行為は減少する。
ウサギの運動量の最低限これだけはという時間制限は特にない。ケージの外に出ても、ずっと走り回ってい
るわけではなく、寝転んだりじっとしている時間の方が長いことが多い。ウサギは部屋の一部あるいは部屋全体
をケージの外の自分の縄張りとして認識しているため、それより外には出ようとはしない。活発でない個体では、
運動させなければというのではなく、息抜きや飼育者とのコミュニケーションをとるくらいのつもりで、1日1回ケ
ージから出して30分から2時間位遊ばせるとよいかもしれない。このような時におやつなどを与えると躾にも有
用である。
30
◎屋内で遊ばせる時に注意するもの
(電気コード・電話線)
齧ることで感電、漏電するので危険である。ウサギが噛み切った電気コードが原因で出火し、火事になっ
たという例もある
(ペット火災)
。コード類はまとめて高い位置を這わすか、カバーをかけるとよい。
(ドアの開閉・人の足元)
人の後ろをついて歩いたりするため骨折が多発する。踏まないように足元には充分注意する。
(高所)
双眼視でなく立体視が苦手であるため、物に対する距離などの計測ができない。したがって、高い所から
飛び降りたりすることがある。急に驚くと跳躍するため、決して高い所には置かないようにする。飛び降りに
よる骨折や脱臼を回避する。
(異物摂取)
ビニール製品や発泡スチロールなどが問題となるが、排出されれば問題はない。排出されないと胃に貯
まり閉塞がおきる可能性がある。タオルや毛布なども注意する。消化できないものではないが、観葉植物の
中毒にも気をつける。
(家具・壁)
ウサギは家具や壁紙を齧る行為が通常見られる。木製であれば摂取しても大きな問題は起こらないが、ベ
ニヤ板では接着剤を使用しているため注意する。壁紙などは有害物質を含んでいるために避けるべきであ
ろう。
(イヌ ネコ)
イヌやネコはウサギにとって大変危険で、一噛みでウサギは死亡することもある。特に幼体は襲われやす
く、屋外では野良犬には注意する。
◎身体的接触
基本的に人に抱かれることは好まない。幼体から人に抱かれたりせず接触がない個体は、一般的に触られ
ること自体に抵抗があり、人に恐怖心を持った馴れないウサギになる。愛玩目的で飼育されたウサギであれ
ば、人と交わって馴れたウサギにするべきである。ブラッシング、爪切り、あるいは投薬など様々な面でも楽
になる。
ウサギの飼育導入当初は多くは幼体であり、この時期は好奇心が大盛で、人への恐怖心も少ないために接
触 が 容 易 で あ る 。生 後 2 6 - 4 2日 齢 で 離 乳して 人と接 触した ウサ ギ が 、最も馴 れ るという報 告もある
〔DerWeduwen and McBride 1999〕
。
ウサギは好奇心が旺盛で探索する習性があるために、部屋で放していると、自然に寄ってくる。寄ってくる
ようになれば、撫でてやることで少しずつ信頼関係を築く。しかし、成体や老体では警戒心を持ち、馴れる
までには時間を要する。時間をかけながら、環境あるいは人に対する好奇心への延長で、接触されることの
恐れを取り除く。
◎表現
ウサギは比較的無表情であるが、実際は表現豊かな動物である。仲間に対して愛情深く忠実な部分をも
つ。自分をかわいがってくれる飼育者、仲間と認識したウサギなどに対して愛情表現を行う。例えば、人に
対して足元に寄ってきて、下顎や顔を擦りつけたり
(チンマーク chin mark)、足元をくるくる回ったり、ウサ
ギに対してはグルーミングを行う行為が見られる。実際はチンマークは社会性の中で下位とみなした個体に
対して行うべき行為であり、グルーミングも下位個体から上位個体にするべきものであり、これらの行為が愛
情の印と見受け間違えられている可能性もある。
見慣れない人やウサギに対して、あるいはリラックスしている状態を邪魔さたり、恐怖を感じると切歯で噛
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んだり、耳介を後方へ倒して「ブーブー」声を出して怒っ
て、噛みつこうと威嚇姿勢をとる。あるいは突進したり、
後肢で地面を叩く行為(スタンピング stamping)が見られ
る。人への攻撃性は相性だけでなく、飼育下の社会性の
中での優越性を示す行為の結果であり、特にオスで顕著
である。成熟後にそのような行為が頻繁に見られること
が多く、内分泌的な要因が関与していると思われる。反
対に恐怖を感じた時は恐れおののいて、微動たりともせ
ず、固まって歯ぎしりをするウサギも多い。個体によって
探索行動
性格も大きく異なる。
警戒
時に飼育者への意志表示として、餌容器や玩具を切歯
で拾って投げて音を立てたりもする。これは愛撫あるいは餌の要求
であることが多い。飼育下ではまた、複数の飼育者の中での特定者
だけを噛んだり、噛み付くウサギも多いが、これは悪相性なのか、あ
るいは下位の個体として認識して優位にたっている証拠である。反
対に人の指を非常に舐めるウサギも見られ、これは愛撫を求めてい
る時とも言われているが詳細は不明である。外鼻孔をピクピクさせ
る動きは「鼻でウインクする」などと言われ、外部の雰囲気を感じ取
っているのか、ジェスチャーであるのか不明である。
恐怖
【換毛・ブラッシング】
被毛は大きく春と秋の2回、冬毛から夏毛へ、そして夏毛から冬毛へと
換毛が見られる。飼育下では2回以上換毛している。時期や期間は個体
によって異なるが、ほぼ全身の被毛が抜け換わる。まとまって抜ける個
体も、少しづつ抜ける個体もいる。大抵は自らグルーミングしたり、複数
飼育の場合は、相性が良ければお互い、あるいは優位個体が下位個体
からグルーミングをされる。ウサギは前肢の掌側面を舐めて、耳介や顔
をきれいにし、全身の被毛を舌で整える。その結果、ウサギ自身が被毛
を舐めとって飲み込んでしまうことが多く、毛球症になる恐れがある。ウ
サギはネコのように、毛球を吐き出すことができないため、ブラッシング
ブラッシング
を行い、特に換毛期には頻回に行うことが必要となる。特にアンゴラ種
などの長毛種は、毎日行なわなければならない。ブラッシングはスリッカ
ーブラシ、ラバーブラシ、豚毛ブラシ、両目ぐしなどがあるので適宜に選
択する。短毛種であれば豚毛ブラシやラバーブラシが最適である。また、
長毛種では、口元の被毛は採食と共に飲み込んでしまう誤嚥を防ぐため
にも、常にカットしておくとよい。
【入浴・シャンプー】
体臭は少なく、自分で被毛を梳いて手入れを行う習性があるため、入
浴やシャンプーの必要がない。
高湿度は苦手で被毛も撥水性であるため、
シャンプー
行わない方が賢明であるとも言われている。飼育下では入浴、シャンプ
ーという行為に対してウサギが興奮せず、その後乾燥することが容易で
あれば行っても問題はない。下痢などで肛門付近が汚れた場合や、換毛
期においては有効と思われる。ドライシャンプーは消臭効果もあり、これ
もストレスにならなければ問題ないであろう。
【爪切り】
野生では地中に巣穴を掘ったり、走り回ることによって自然に爪が削
られて長く伸長することはない。飼育下ではケージから出すとしても、
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爪切り
絨毯、カーペット、フローリングの上にいることが多く、爪が過度に伸長することがあるため、屋内飼育のウサギ
では1-2ヵ月に1回くらいの間隔で爪切りの必要がある。爪の中に血管が通過しているため、その先端を切る。伸
張すると絨毯などに引っ掛かり折れることがある。イヌやネコなどと同様に、自宅でも切れるが、暴れて骨折や
脱臼などを起こすこともあるため注意する。人用の爪切りは、割れることもあるために推奨できず、イヌやネコ
用の爪切りで小さいサイズのものを使用するとよい。慣れないうちは、抱く係と切る係とに分かれたほうが安全
であり、切る際に怯えてウサギが足蹴りなどをすることがあるため、暴れないようにしっかりと抱く。ウサギは疼
痛を感じるというよりも、切られる衝撃の感覚を嫌うようである。一人で行う際は、前肢の爪を切るときには胴
体から後肢にかけて、後肢の爪を切るときには、前肢から胴体にかけてをバスタオルなどをきっちりと巻付けて
切るとよい。
【歯の磨耗】
ウサギは草食動物で高繊維質の食物を摂取する。切歯を主に前後、側
方に可動させて食物を切り取り臼歯を咬耗させる。咬耗のために臼歯の
エナメル質は摩耗され、なおかつ同時に切歯も摩耗される。一般に市販
されている歯を摩耗させるというスナックタイプの餌も歯を摩耗させるに
は、有用でない商品も多い。摩耗性の高い繊維質を多く含む食材、代表
的な食材として牧草や乾草が適切である。
【毛球予防】
牧草を固めたヘイキューブ
ウサギの換毛期は春先と秋に多く見られる。この時期は毛が抜けて飼
育者は宙に毛が舞って困ることが多い。ウサギは几帳面に毛繕いをする
が、ネコと異なり消化管の中に毛球が発生しても嘔吐ができず、幽門が小
さいために消化管を閉塞する。誘因として低繊維食による胃腸機能の低
下、ストレスによる過度のグルーミング、少回数の給餌による一時的な胃内
の蓄餌などが考えられる。被毛が混じるような糞、それによって被毛で連
なる糞が見られるようであれば、予防処置を積極的に行わないと毛球症
になる恐れがある。予防処置を以下の表にまとめてみた。
パパイヤのタブレット
<毛球症の予防>
◎ブラッシングを毎日行う。自ら梳いて被毛を嚥下することを最小限に
する。
◎グルーミングの回数を減少させ、ストレスを回避させるために運動や
遊ぶ時間を増やす。
◎繊維質の多いペレット、牧草や乾草、野菜、野草を多給させ、消化
管の運動を活発にさせる。
◎パパイヤ酵素、パイナップル酵素剤を投与する。ウサギの栄養補助
生のパイナップル
乾燥フルーツ
食品として蛋白分解酵素(proteolytic enzymes)は、毛球形成を促すムコ蛋白質(粘性蛋白質)
を消化する
ため、胃腸に溜まった毛球を細かくし排泄させる。パイナップルとパパイヤには、それぞれパパイン、ブロ
メラインという蛋白質分解酵素が含まれ、非加熱の生ジュースを投与することが推奨されている。蛋白分解
酵素を含有する乾燥フルーツやペレットも販売されている。他にも消化酵素であるアミラーゼ、リパーゼ、
セルラーゼ、ヒドロラーゼ、ペプチ
ドヒドロラーゼ、プロティナーゼ な
どの消化酵素剤も有効であるとい
う。しかし、強酸性である胃内で
の酵素活性は有用性が低いと疑問
視されている。
◎鉱質油のワセリン、グリセリンが含
まれる緩下剤である毛球予防(除
毛球予防除去剤
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去)剤を投与する。成分としては、流動パラフィンや白色ワセリンが主で、要は潤滑剤である。市販されて
いるウサギ用、以外にもネコ用の商品でも代用できる。油性潤滑成分が毛球をほぐし流出させる。しかし、
非常に味を嫌がるウサギが多い。
◎頻回の給餌により、常時胃腸を活発にして、一時的な胃内の蓄餌を避ける。
【屋外飼育】
市販の小屋や手製で小屋を作製する。屋外飼育は常に目が届かないた
め、温度、湿度、照明などに注意する。野生では土を掘って巣穴を作る
ため、床はできれば土のほうが理想的である。冬は床が冷たくなるため、
乾燥やわらを大量に入れる。隙間風が入らないように作るか、別に巣箱
を入れるとよい。ウサギは湿気に弱いため、水はけがよくなるように工夫
する。四肢の負担を軽くするためにも、すのこやわらを敷く。本来コロニ
ーを形成して生活する習性があるため、複数での放し飼いも十分な広さ
があれば可能である。グループはオス1頭に対してメスは6-8頭が最適であ
屋外飼育のケージ例
る。
屋外の場合の危険として毒性のある植物、例えば野草を食べさせるのはよいが、有毒であるものを摂取させ
てはいけない。イヌやネコはウサギにとって大変危険で、一噛みでウサギは死亡することもある。屋外では野良
犬には十分に注意する。
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