日本では古くから「白くて小さい、性格も温和で優しい、耳が立って、ぴょこぴょこしている」という可愛い印象 を持たれているウサギであるが、近年は品種によって体型や性格も大きく異なるものが見られる。ウサギは大き な耳を持つという概念も薄くなりつつあり、耳が垂れているもの、顔が丸いもの、あるいは白色でない毛色をし ているものなど多種にわたる。ウサギは現代医学において、病態や生理機能の解明のために実験動物として大 きく役立ってきた。そして、昔から肉や毛皮目的の産業動物としても扱われていたが、現在では使役目的のもの は一部に過ぎず、産業動物としての地位は低下してきた。一方、愛玩目的で飼われるカイウサギの数は増加した が、飼育環境や食餌内容および個々の性格など、様々な諸要因が複雑に絡んで病因になっている。 1.ウサギの基礎 (1)分類 ウサギ目に分類され、本目はナキウサギ科とウサギ科(ウサギ亜科とムカシウサギ亜科)に細分される。カイウ サギはウサギ科ウサギ亜科アナウサギ類アナウサギ属のヨーロッパアナウサギが起源とされ、あるいはその亜 種ともいわれている。本来ヨーロッパのイベリア半島に限局して棲息していたが、人の手で移入されたのかはと もかく現在は世界中に分布する。 かつてウサギは咀嚼機能が類似していたことから、げっ歯目に帰属する科とされていた。しかし上顎の小切歯 が見られることから、重歯類という名称が使用されていたことがある。現在は特異的な顎と歯列の形態は、げっ 歯目に対する収斂現象と解釈され、ウサギ目 (重歯目) と新たに分類された〔Layne 1967〕。むしろウサギ目は偶 蹄目に近いことも示唆されている〔Nowak1999〕。 本邦では、アナウサギ属のウサギは存在せず、ナキウサギ 科のエゾナキウサギ(北海道の山岳地帯に棲息)、ムカシウサギ亜科・アマミノクロウサギ属のアマミノクロウサ ギ (奄美大島と徳之島に棲息し、1963年に天然記念物に指定される)、ノウサギ属のユキウサギ (北海道に棲息)、 ニホンノウサギ(トウホクノウサギ、キュウシュウノウサギ、サドノウサギ、オキノウサギの4亜種に細分化される)の 2科3属4種のみが棲息している。エゾナキウサギとアマミノクロウサギの分布は限られ、個体数の減少が懸念さ れている。ニホンノウサギとアマミノクロウサギは日本固有種でもある。しかし、近年はアナウサギ(カイウサギ) が野生化した例が本邦の各地で多数報告されている。 <表1:ウサギの分類>〔今泉 1988〕 ウサギ(重歯目)Lagomorpha ナキウサギ科 Ochotonidae ナキウサギ属(キタナキウサギ) ウサギ科 Leporidae ムカシウサギ亜科 アマミノクロウサギ属(アマミノクロウサギ) メキシコウサギ属 アカウサギ属 ウサギ亜科 ノウサギ類 ノウサギ属(ニホンノウサギ) アナウサギ類 アナウサギ属(ヨーロッパアナウサギ) ブッシュマンウサギ属 アラゲウサギ属 ウガンダクサウサギ属 ワタオウサギ属 ピグミーウサギ属 スマトラウサギ属 1 【アナウサギ】Oryctolagus cuniculus〔今泉1988〕 英語名:Rabbit 身体:頭胴長38-50cm、尾長4.5-7.5cm、耳長6.5-8.5cm 原産:イベリア半島とアフリカ北西部(ヨーロッパ西部、オーストラ リア、ニュージーランドへは移入された) 生態:草原や森林、草木のある丘陵地帯に棲息し、1頭ずつ巣穴を 掘り、群集生活を行う。巣穴はワレン(warren) と言われ、多くの入 口と緊急用出口のある複雑な形態をする。巣穴のトンネルは約 15cm、部屋の高さ30-60cmであり 〔本〕、部屋は巣室、トイレなどに 分別されている。年長のメスはメインのトンネルに巣をつくるが、順 位の低いメスは出産のため短い行き止まりの巣穴を掘る。母親は 1日1回授乳のために通い、入口は常に土で塞がれている。基本的 に夜行性であり、成体は植物の葉、茎、根、そして穀類あるいは栽 カイウサギ(アナウサギ) 培食物などを摂取している。 アナウサギ属のように人為的に全世界に持ち込まれ、繁殖力の強さもあり、過剰に大繁殖している種類も いるが、一方では、野生のウサギは世界中で12属78種(うちナキウサギ属は1属25種)ほどしか存在せず、 1996年の国際自然保護連合(IUCN)の新基準によるレッドリストにおいては、絶滅に瀕するウサギとして41種 類が掲載されている。 以下、本稿でウサギと明記されるものは、一般的にアナウサギが起源である飼育下のカイウサギを指す。 (2)形態と生態 ウサギ科のウサギの生態を説明するにあたり、表1のように便宜上、ムカシウサギ類(ムカシウサギ亜科)、ノウ サギ類(ウサギ亜科)、そしてカイウサギが属するアナウサギ類(ウサギ亜科)に分けて解説する。 ムカシウサギ類は本来13属が属していたが、現在、アマミノクロウサギ、メキシコウサギ、アカウサギ3種の他 は全て化石種である。ウサギ科の祖先でもあるムカシウサギの化石に歯や骨格が類似していることから、ムカシ ウサギ亜科と属され、生きた化石とも呼ばれ、原始的なウサギと称されている。耳介と眼は他のウサギ類と比 較しても著しく小さい特徴的な形態を備えている。前後肢ともに短く、爪は強靭で大きい。一方、ウサギ亜科で あるノウサギ類とアナウサギ類の身体はムカシウサギ類と比較して大きい。ノウサギ類の耳介は特に長くて四肢 も長い。迅速性のある跳躍型の走行を行い、運動能力が高い。母親は育仔性を持ち、新生仔は有毛開眼の早成 型で、出生後に自ら行動できる状態にある。成体では冬季になると被毛が白色に変化する種類もいる。アナウ サギ類の体幹はノウサギ類よりは短くて筋肉質で四肢も短い。新生仔は無毛閉眼の状態で出生し(晩成型とい う)、自ら体温調節も行えない。母親は育仔性を持たず、世話や授乳回数が少ない。なお、アナウサギ類とノウ サギ類を外観上明確に区別することは容易ではない。 カイウサギはアナウサギ類に属し、アナウサギ属のウサギは人為的にヨーロッパ、オーストラリア、ニュージー ランド、南アメリカなどに導入されて定着した。一方、ノウサギ類は種類が豊富で、北極から熱帯砂漠地方まで 広範囲に分布し、ウサギ目のなかでも最も成功した種類である。なお、アナウサギ類とノウサギ類は染色体が異 なるために交雑種は存在しない。 ノウサギ類とアナウサギ類は元来、夜行性であり群居する。アナウサギ類は生活範囲が約数ヘクタール、ノウ サギ類は数10へクタールと言われている。アナウサギ類は名前の通り、トンネルを掘り巣穴を作る。トンネルは複 雑な形態をしており、ワレン(warren) といわれる。天敵に襲われないように、通常は巣穴に潜りこんで隠れ、社 会的秩序がある2-8頭の成体と仔からなる群居性を持つ〔McBride 1988〕。ノウサギ類は巣穴を持たないため、 遠方に逃走し植物などの陰に隠れ、単独で生活する。交配期のみ相手を捜し、開けた平野で巣を作り子育てを 行う。行動範囲が広いことも特徴である 〔上野 1992〕。食性は習性完全草食性であり、通常は水分の多い若芽や 葉を好むが、環境が苛酷であると茎、根、樹皮なども菜食する。生活範囲である縄張りの中を移動し探索して食 餌を採る。 ウサギは自然界においては身体の大きさ、および棲息数の多さから、イタチ、キツネ、コヨーテ、オオカミなどの 哺乳類、ワシ、タカなどの猛禽類の餌となる被捕食動物である。生態系の重要な役割を担い、食物連鎖の底辺に 位置する。したがって、多産で繁殖力が高く、天敵から逃避するために多くの特徴をそなえている。視界を広く 2 とるために眼球は頭蓋の横に位置し、耳介も大きく集音の効率を高めるている。跳躍力を得るために骨質を軽 くして体重の軽量化が進み、筋肉を発達させている (走行跳躍型)。これらの特徴は進化の過程でそなわった形 態変化である。 <表2:ノウサギ類とアナウサギ類の比較> (3)歴史 現在のカイウサギはアナウサギを家畜化したもので、古く紀元前25000年頃の旧石器時代に描かれたと思われ る絵画がフランスの洞窟の壁に残されている。初めて飼育されたのは約2000年程前のことで、当時は食用とし て飼育されていた。完全に家畜化されたのは11世紀頃で、当初は地中海付近 (イベリア半島からアフリカ北西部) で飼育されていたが、ウサギは繁殖力が強いために世界各地に広まった。中世の15-16世紀頃にはウサギは修 道院でも飼育されるようにもなり、修道士や修道院に宿泊する人の食料として飼われていた〔鈴木 1970〕 。現在、 オーストラリアやニュージーランドでは、野生化したアナウサギが農地を荒らするために害獣扱いされ、地域に よっては捕獲者に賞金が支払われるところもあった。15-16世紀頃からはヨーロッパ各地に広まり、日本には室町 時代の天文年間にポルトガルから、あるいは16世紀にオランダから渡来してきたと言われている。 本邦でウサギの資料は古代から残されているが、それらの大半がノウサギ類のものであり、アナウサギ類の ものではない。アナウサギは明治時代に中国、アメリカ、そしてイタリア、フランスからも輸入された記録があり 〔稲吉 1952〕、初めは珍重されて愛玩動物として飼育されていたが、当時、あまりにも投機化したために、明治9 年には兎畜税がかけられた。兎畜税はその後廃止され、再び飼育の人気は盛り返した。明治中期から後半にか けては毛皮や毛皮製品化の技術も進歩し、ウサギの実用価値が認識されるようになった。明治以降は日本の軍 事主義が拡大し、日清日露戦争が激化するにつれて、毛皮は衣料用に、肉は食料用に利用され、安価で簡単に 繁殖ができるウサギの飼育が国から奨励されたこともあった。その頃、日本では“白い毛に赤い眼”という日本白 色種が各地で飼育され、一時は600万頭以上が飼育されていた〔鈴木 1972〕。その理由は飼育するスペースも経 費もかからないという利点があったからである。第二次世界大戦後は、家畜として飼われることは激減し、医学 の実験用や愛玩目的でのウサギが多く飼育されている。 3 ★ウサギの数え方 本邦では昔、仏教の教えで動物の肉を食べることは禁止されていた。しかし、鳥肉は問題なかったため、 人々はウサギを摂取する際は鳥と見立てて1羽、2羽と数えたという説がある。また、外観上、肛門と生殖孔が 一つに見えるため、鳥のように1羽、2羽と数えたとも言われている。 (4) 品種〔Official Guidebook.Illinois.The American Rabbit Breeders Ass'n.;1996を参考〕 ウサギは愛玩用に改良され、1800年代オランダなどで品種改良が進み、被毛の長さ、毛並み、毛色などで細 分化され、品種も豊富である。通常は、展覧会(ラビットショー)を主催している欧米の愛好家の団体が、新品 種を認定して詳細なスタンダード種の基準も定めている。小型種から大型種まで、現在約150もの種類が知られ ている。なお、現在本邦で飼育されているカイウサギの多くはミニウサギと言われているが、雑種の小型のウサ ギを指すことが多い。これは品種ではなく、身体の大きさから表した俗称である。本稿に列記した各品種の経 歴については、ARBA(American Rabbit Breeders Association)のガイドブックの論説を参考にした。ARBAと は世界最大規模の非営利団体のウサギの協会であり、展示会を開催し、純血種の地位向上を図る活動を行って いる。 ウサギの各品種は被毛の毛質や色の特徴により大きく分けられ、ウサギの品種の基本的な分類となっている。 【ネザーランド ドワーフ】Netherland Dwarf オランダ(ネザーランド)の小型の野生ウサギとポリッシュ・ラビット (白色被 毛で、赤眼をもつ突然変異の個体)の偶然の交配の結果から作成されたウサ ギである。ドワーフ種の変種の起源であり、本種はイギリスの標準種に改良 が加えられて、1969年ARBAに承認された。 体型は短くコンパクトで、体躯は同幅を保つ。十分発達した後脚と腰部を 備え、身体は丸みを帯びる。頭蓋も丸く頸は短く、尖った耳介も特徴である。 性格は活発で神経質な個体が多く、被毛の色も豊富である。理想体重は雄 雌ともに900gで、カイウサギの中では最小である。 ネザーランド ドワーフ 本種はピーターラビットの原種とされているが、絵本が出版されたのは20世紀初頭であり、本種はまだ確立さ れていなかった。当時からはウサギの理想的な姿はネザーランドドワーフであったのかもしれない。 【ロップ イヤー】Lop Ear 長く下垂した耳介と吻部が短い顔が特徴である。本種の中でも被毛の毛質がウール状であるものはフレンチロ ップ、耳介を長くしたものがイングリッシュ ロップである。本来のロップ イヤーは耳介が長く、その重さで耳が下垂 するが、 ドワーフロップイヤーという品種は、ネザーランド ドワーフが起源であるために、耳自体がかなり小さい。ア メリカン ファジィー ロップやホーランド ロップなどの新種も作成されている。ロップ イヤー種は元来食肉用である ため肥満傾向にあるが、そこがかわいく見えるのが特徴であり、性格も温和であるため人気がある。ARBAでは、 ロップ イヤー種として数種の異なったスタンダードが認められている。 (ホーランド ロップ)Holland Lop フレンチ ロップにネザーランドドワーフを交配して、さらにイングリッシュロ ップと交配させて改良を加えて作成した。ロップ系のウサギの中では最少で あり、体躯は筋肉質で、一般的な外見はコンパクトでどっしりしている。頭部 は適度に大きく、眼の間が特に広い。頭蓋は耳から眼に至るまで丸形で、鼻 にかけては比較的平らであり、頸部にかけては丸々としている。耳介は頭に 接して下垂し、眼の後方あたりで口吻より1- 3cm長く下垂している。理想体 重は雌雄ともに約1.4kgで、性格はおとなしく従順である。1976年にARBAで ホーランド ロップ は初めて見られ、1980年に承認された。 4 (アメリカン ファジィー ロップ)American fuzzy Lop アメリカ西海岸で輸入されたホーランド ロップの毛質を改良するため に、アンゴラをホーランド ロップに交配させて作成した。他種に多く見ら れるような突然変異による品種改良ではなく、品種改良の際にホーランド ロップの中に見られるアンゴラ毛質を持ったウサギ同士を交配して、改 良を加えることにより作成された。ファッジィーとは毛質が柔らかいためで ある。1988年にはじめてARBAに承認された。理想体重はオス約1.6kg、 メス約1.7kgで、オスよりもメスの方が多少大きい傾向にある。体幹は短く 頭部も丸い。耳は頭頂に位置し幅広く垂直に下垂している。体躯のウー アメリカン ファジィー ロップ ルタイプの毛質はかなり密であるが、頭部と耳はウールではない通常の毛 並みで覆われている。性格は好奇心旺盛で、従順である。 【ヒマラヤン】Himalayam ヒマラヤ地方原産で、長い間ヒマラヤ山脈の北部と南部の両方の地域 に生息していると考えられていた。イギリスで改良され、種が確立された ウサギとしては最も古いとされている。1800年代半ばになって遺伝的に は突然変異である品種と証明された。体躯の被毛は白色で、眼は赤色で あり、鼻先、耳、尾、四肢の先は有色である。ネコのヒマラヤンは後に登 場したため、本種から名前を借りた。理想体重は雄雌ともに1.6kgで、小 型種であり、性格はおとなしい。 ヒマラヤン 【カリフォルニアン】Californian 1923年にスタンダードチンチラとヒマラヤンを交配させて作成したオスと、数頭のホワイトのニュージーランド のメスを交配し、1928年までには現在のカリフォルニアンと呼ばれているウサギが作成された。幅の広い肩、肉 付きのよい背中と臀部が特徴であり、本来は食肉用であった。体躯の被毛は白色であり、鼻、耳、四肢、尾は有 色で、有色の部分は黒色が理想である。最初に展覧会に出展されたのは1928年で、1939年には現在のスタンダ ードが作成された。理想体重はオス4.1kg、メス4.3kgで、性格はおとなしい。 【ダッチ】Dutch ダッチはオランダが原産とされ、最も古い品種の一つとされている。 1864年にイギリスで認められ、現在アメリカで最も人気がある。鼻の周り と頸部から前肢にかけてが白色であり、耳と眼の周り、後躯は黒色、茶 褐色、青色、灰色などの有色である。本邦ではパンダウサギと呼ばれて いる。理想体重は雌雄ともに約2kgである。小型種で、体形はしっかりと している。性格は独立心に富んでいるが、その反面人にもよく馴れる。本 種は遺伝的に子宮腺癌が好発するという。 ダッチ 【アンゴラ】Angora 原産地はトルコのアンゴラ地方で、長毛のウサギを神として崇拝する習慣があった。本種は本来毛皮用で、被 毛の長さは最低約8cmである。毛皮といえばアンゴラといわれるほど有名な種類である。被毛は短いアンダーコ ートと長いガードヘアの間に、オーンヘア、オーンフラックという独特の被毛を持つ4重構造である。オスよりメス の方が毛質は上質で1頭から体重1kgあたり0.2kgの毛皮が採取できる。本種の被毛は大変軽くて、羊の被毛と 比較すると1/4程度の重量であり、毛質は断熱と保温に大変優れている。アンゴラ種はイングリッシュ アンゴラ、 フレンチ アンゴラ、サテン アンゴラ、ジャイアントアンゴラに細分され、起源はイングリッシュ アンゴラから来て いる。アメリカでは1930年に毛皮用の繁殖がはじまり、本邦に最初に輸入されたのは大正時代で、イギリスから5 頭が輸入された。軽くて肌触りのよいアンゴラの毛織物は人気があり、昭和7年頃には1万2,000匹のアンゴラウ サギが飼育されるようになり、日本各地で品評会が開かれ、副業として飼育することも流行となった。その後、昭 和15-16年頃の最盛期には120万匹にもなり、日本アンゴラ種という品種も本邦だけで確立された。昭和17年に日 5 本はアンゴラの飼育頭数が世界一になったこともあった。その後、徐々に減少して終戦時には10万匹となった。 流行は昭和30年まで続いたが、現在は毛皮用の飼育はほとんど行われていない。性格はおとなしい。被毛が脱 毛して宙に舞うため、餌容器や給水器の中に被毛が入る。その結果、毛球症を誘発するため、常時ブラッシング を行うことが必要である。また、本種はアイランドスキンというウサギ特有の皮膚現象が起きにくい 〔浅野ら 1990〕 。 (イングリッシュ アンゴラ) 繁殖は何百年も前から、長毛のネコやヒツジ、ヤギのいる土地であるト ルコのアンカラで始まったと考えられている。1765年にすでにフランスの 科学辞典で言及され、1780-1791年にはプロシアの政府にアンゴラウサギ のウールとして珍重された。外観はコンパクトで丸型パンのような体型で、 きちんとした姿勢をとるとウールで覆われた綿毛の丸いボールのような印 象を与える。頭部には厚い前髪や房飾りのような耳が見られ、四肢や尾 は先端までウールの被毛で覆われている。本種のウールは粗いウールで あるフレンチの被毛のようではなく、絹のような光沢がある。理想体重は イングリッシュ アンゴラ オス2.7kg、メス2.9kgである。 【ジャージー ウーリー】Jersey Wooly 1970年代にニュージャージー州で、シルバーマーチンとネザーランドド ワーフを交配させて作成された。1984年にARBAで初めて見られ、1988 年に承認された。本種はドワーフの遺伝子を取り入れた小型のウサギで、 体長は短くコンパクトで、丸型である。頭部は丸く目立ち、頭部の被毛は 短い。耳は理想的には約6cmの長さである。体幹の被毛は密であり、ア ンダーコートよりオーバーコートの方が少し多く密である。理想の被毛の 長さは5-8cmである。本種は非常に性格が穏やかなことでも有名で、攻撃 的な性格は全く見られず、愛玩用としては理想的である。理想体重は雌 ジャージー ウーリー 雄ともに約1.3kgである。 【レッキス】Rex 本種は突然変異であり、1919年にベルベット状の被毛を持った仔ウサ ギを作成したことが起源となった。ビロードのような手触りのある毛皮で ある。本種のオーバーコートは、遺伝的にアンダーコートと同じ長さで成 長が留まるため、密度も濃く見え、刺し毛が退化した綿毛を持つ。体型 は中型種で、腰部の肉付きと丸い臀部は厚みがある。理想体重はオス 3.6kg、メス4.1kgである。遺伝的に肢端皮膚炎が好発するともいう。 レッキス (ミニ レッキス)Mini Rex アメリカで毛皮用に繁殖されていたレッキスとドワーフ種を交配させて小 型のレッキスとして作成された。全体に非常に均質でバランスの取れた体 型のウサギである。柔らかな肉質に包まれ、脚力も強い。体格は短くつま っている感じである。被毛の長さは1.6cmを越えず、ビロードや絹のような よい触感である。性格は温和である個体が多い。遺伝的にレッキスととも に肢端皮膚炎が好発するともいわれている。小型種で、理想体重はオス ミニ レッキス 1.8kg、メス1.9kgである。1988年にARBAに承認された。 【フレミッシュ ジャイアント】Flemish Giant 16-17世紀にオランダ人が、南米のパタゴニア地方に棲息 していたノウサギをヨーロッパへ持ち帰ったものが起源と される。ベルギーのフランドル地方原産で改良され、食肉 用に作成された。体型も大型で力強く、がっしりとして、ウ 6 フレミッシュ ジャイアント サギの中で最大種である。耳介は厚く、先はスプーンのような長い形をし、狭いV字型を描いている。耳介は生 後6ヵ月以降では少なくとも約15cm以上は必要である。性格は非常におとなしくて優しいが、身体的な大きさか ら飼育することは容易ではない。体重を十分に支えることが困難で、肢端皮膚炎等の四肢の障害が出やすく、 暑さにも弱い特徴がある。被毛は黒色、青色、淡黄褐色、灰色、赤黄色、白色などである。登録体重はオス 5.9kg、メス6.3kgである。 【アメリカン チェッカード ジャイアント】American Checkered Giant 本種の現在までの詳細な経緯は、明らかにされていない。当初はドイ ツで全く別個の品種として紹介され、フレミッシュ ジャイアトに由来すると されていた。最初に登場した種は固定されたものではなかった。一般的 な意見として、それらを作製するためにロップイヤーやいくつかのホワイト、 または斑点のある種類をフレミッシュに部分的に引き入れたと考えられて いた。1904年レイニッシュ チェッカーとフレミッシュ ジャイアントと交配さ せ、その後も改良を加え、1905年にスタンダード種が作成されたという。 アメリカン チェッカード ジャイアント 1910年初頭にチェッカード ジャイアントはアメリカに輸入された。その後 アメリカのブリーダー達はヨーロッパで飼育されていた個体とは異なり、 骨太な骨格とボリュームのある体型のアメリカンタイプに作り上げた。チェ カード ジャイアントは独特な体型で、体躯は細長くアーチ型をして弧を描 き、四肢も長く地面から身体を軽快に持ち上げる。ブラックとブルーの2 種類の色だけが承認されている。本種の模様も独特で、眼周囲や頬、鼻 には蝶の形の模様があり、耳介から背中そして尾の先端まで一本の線が 通り、体躯の両側には斑点がある。性格は落ち着きがなく、常に動き回 っていることが多い。体重はオス4.9kg以上、メス5.4kg以上である。 ニュージーランド 【ニュージーランド】New Zealand 当初はニュージーランドからサンフランシスコへ船乗りが持ち込んだとされていたが、詳細は不明である。ア メリカのカリフォルニア州、インディアナ州でレッドの個体が1912年頃に作成された。食肉用、毛皮用、研究用と 多用途である。体型は中型で、理想体重はオスは約4.5kg、メス約5kgである。性格はおとなしい。 【ジャパニーズ ホワイト】Japanese White(日本白色種類) フレミッシュ ジャイアントとニュージーランド ホワイトの交雑種で 明治以降に日本で作成された種類である。地域によって身体の大き さに変化があるが、白色の被毛に赤眼が特徴である。理想体重は 雌雄ともに4-5kgで、元来は毛皮と食肉用である。地域によって大 型のものを「メリケン」、中型を「イタリアン」、小型を「ナンキン」など と呼んでいた。現在はその数は減少している。戦中や戦後の食料 難の時代に、軍事用の毛皮などの目的で繁殖された品種でもあり、 戦後は学校で情操教育の一つとして飼育が推奨された。一般的に ジャパニーズ ホワイト 丈夫で粗食にも耐える。 (秋田改良種〔中仙ジャンボNakasen jyanbo〕) 日本白色種を主に改良した秋田県での改良種である。明治24年香川県 より導入したものにはじまり、その後フレミッシュ ジャイアント種などを導入 し改良された。大型で毛質の優れた品種の基礎が築かれ、第2次世界大 戦では軍部への毛皮や食肉用として大型化が図られた。昭和21年にはこ のウサギを秋田改良種と命名し、当時の農林省に届けられている。昭和25 年以降も秋田県では毎年「中仙ジャンボうさぎフェスティバル」を行い、展覧 会を催している。現在も展覧会以外に食肉用として飼育されている。平成 7年の秋田県の飼育頭数は2267頭である 〔藤本ら1997 藤本②ら1997〕 。 7 中仙ジャンボ 【ベルジアン ヘアー】Belgian Hare 本種はアナウサギであるが「ベルギーのノウサギ」という意味である。 18世紀前半、ベルギー北部のフランダース地方が原産で、野生のアナウサ ギとの交配種である。完璧なベルジアン ヘアーを作成するために行われ た選択交配は、イギリスのブリ−ダ−の功績である。外観は、長くて美し い体躯を持ち、肩から尾にかけて流れるようなアーチを描き、腰部および 後肢と臀部は幅広ではなく丸みを帯びている。突き出た腰骨が目立つこ とも特徴で、長くて細い四肢を持つ。毛色は濃い深みのある赤褐色であ るタンと栗色の濃淡が見られ、光沢のある黒色の被毛で覆われる。耳介 は輝く黒色の被毛で端の部分まで明確に縁取られている。被毛は密で寝 ベルジアン ヘアー ており、粗く 「ごわごわ」とした触感である。理想体重は雌雄ともに3.6kg であり、性格は神経質である。 【ホトト】Hotot フランス原産で、起源の詳細は不明である。フランス産の斑点のあるウ サギが使用されたともいわれている。全身が白色で眼周囲が黒色である ため「アイ サークル」や「アイバンド」といわれ、瞼と睫毛も黒色である。 耳が短く離れており、丸くずんぐりした肉付きの良い中型種である。1978 年に最初にアメリカで輸入され、1978年にARBAに受け入れられ、1979年 にはスタンダードとして承認された。理想体重はオス4.1kg、メス4.5kgで、 性格は穏やかである。 ホトト (ドワーフ ホトトDwarf Hotot) 東西ドイツの繁殖家により1977年まで、全く異なる二つの系統の交配で小型化した。本種のARBAへの初の 公開は1981年である。小型種で丸型であり、肩から尻にかけて同じ幅である。頭部は比較的大きく、幅の広い 額を持ち、短く柔らかい被毛で覆われた耳を持つ。被毛は白色で、模様はホトトと同様である。理想体重は雌 雄ともに約1.1kgで、性格は好奇心旺盛で活発である。 【ハレクイン】Harlequin 本種はフランスが起源であり、長年にわたり、フ ランス全土、中でも特にノルマンディーと北部で広 く普及した。ジャパニーズとマグパイという2品種 が知られている。1887年にパリで公開され、1891 年にはベイビーゼブラの呼称で公表された。ジャ パニーズとマグパイは、ブラック、ブルー、チョコレ ート、ライラックなどの基本的な色の間で交配され ハレクイン た。これらの色はジャパニーズではオレンジか、そ のぼかされた色であり、マグパイの場合には白色のどちらか一方である。身体には、互い違いの色で目立つ縞 があり、頭部は均等に分かれている。それぞれの側で、反対側の色の耳とは互い違いになっている。四肢もま た、互い違いの色である。理想体重はオス3.4kg、メス3.6kgである。ジャパ ニーズ種は一説では昔の日本国旗の太陽が熱を四方に発している形に類似 した模様に所以しているという。 【ライオンドワーフ】Lion Dwarf 頸部に鬣のように長毛がはえ、四肢は短いため、愛くるしい姿をしている。 ARBAではライオンヘッドという名前で申請中である。現在、本邦で流通して いるライオンラビットは本種とは異なる。性格はおとなしく、温和であるが、 怖がりな個体も見られる。 ライオンドワーフ 8 ◎ミニウサギ〔ワールドラビットファンクラブ 2001〕 多くの飼育されている愛玩目的のウサギはミニウサギといわれてい る種類である。ミニウサギとは身体が小さい個体を指す俗称であり、 特定の血統書は付いていない。体重は約1.5-3.0kg、耳長は約7-10cm である。交雑種であるため厳密な規定はないが、いくつかの系統に分 けられている。黒色系、白色系、グレー系、ダッチ系、ブロークン系、 三毛系、チェスナット系、ライオン系などが知られている。 耳介の入墨 ◎個体識別 繁殖場によっては、個体識別のために、耳介に入墨を施している。 多くは耳介内側の血管が少ない場所に、 手動や電動式の印刻式で行う。 あるいは脚輪を施している繁殖場もある。 脚輪 9 2.ウサギの生理・解剖 ウサギは終生完全草食動物で、常時植物質を採食する。生態系では下位の被捕食動物であり食物連鎖の底辺 に位置し、上位の肉食動物など、いわゆる天敵から逃れて逃避する生活を余儀なくされるため、特殊な習性、生 理、身体的特徴が備わっている。 (1)習性 本来は夜行性の動物で、明け方と日暮れ頃に最も活発に活動する。飼育下では、ある程度人の生活時間に適 応することができる。野生では被補食動物であるため、天敵に襲われても即座に逃避できるよう、開眼したまま 睡眠状態に入る。 縄張り意識が強く、縄張りの外に出ると神経質になり、背伸びをし、耳介を立てて前方をじっと凝視する。縄 張り内では、特にメスは飼育者である人に対しても攻撃性を示し、オスではマーキングを頻繁に行う。縄張り内 では安心するため、落ち着くと睡眠に入り、うつろな眼をしていたり、瞬膜が伸展していることもある。 ウサギは品種によって性格は異なるが、一般的におとなしく性格も温和であり、人にも従順な個体が多い。世 話をしてくれる飼育者を認識し、同居する人も一人一人区別できる。臆病でもあるため環境変化により拒食し、 機嫌を損ねて噛みつくこともある。これは本来の習性であるストレス回避反応の結果である。ストレスとは「外傷 や防御など外界の影響によって引きおこされる非特異的な生物反応」であり、行動あるいは一般状態にまで過大 な影響を与える。ストレス回避反応は、予期せぬこととして発現することが多いため、その状態を臨床獣医師は 十分に説明することができずに困惑することが多い。同居個体あるいは飼育者に対して攻撃性を示すと、後肢 で地面を蹴ってバンバンと音を立てる行為(スタンピング stamping) も示す。さらに加齢とともに、性格は頑固で 気難しくなり、特に老体では自己中心的な性格になる。 なお、ウサギは発声することがなく、声を出す時は重要なメッセージであり、激痛あるいは緊急状態と考えら れ、早急な対応が必要となる。 (2)身体的特徴(生理・解剖) 補食動物から逃避することは絶対的行為であり、そのための多くの形態 的特徴が備わっている。逃避するために骨質が薄く、体重は軽量化され、 後肢の筋肉が発達して跳躍歩行が優れている。天敵に襲撃された時は、 強靭な後肢で相手を蹴り、鋭い爪で引っかくこともある。大きな耳介は集 音効果を高め、眼球が頭蓋の側面に位置して周囲を常に観察できること も、逃避するための進化である。これらは進化的身体変化で、他の哺乳 類と大きく相違するところである。これらの特徴を簡潔に表現すると「ウ サギは小さくてピョンピョン飛び跳ねて、大きな耳と丸い大きな目を持ち、 頭蓋骨 愛くるしい顔をしている」となる。 終生完全草食動物で、繊維質を消化するために咀嚼、発酵、吸収以外 にも食糞という二重消化機能を持つ。ストレス反応により、食欲、繁殖、 排泄などに変調をきたすことも特徴である。具体的なストレスとは補食動 物に襲われる恐怖、慢性的な疾病による不快感、悪環境、栄養失宜など が代表的である。慢性的なストレスにより、視床下部―下垂体系の副腎皮 質ホルモン受容体が飽和状態となり、負のフィードバックが作用せず、副 腎由来の副腎皮質ホルモンが過剰に産生される。これに起因して基礎代 謝亢進、血糖値の上昇、心拍数や呼吸数増加、血中の酸素濃度の上昇な 上顎 どが見られ、生理的異常あるいは慢性的な感染症を発症させる。ウサギの疾病が治り難く、あるいは急死しや すいのは、これらのことが原因となっている。 愛玩目的のウサギの寿命は6-7歳、あるいはそれよりも少し長い。中には15年まで生存した例がある 〔Harkness et al 1989〕 。 10 ① 消化器系 草食動物であるため、繊維質を咀嚼するための臼歯、および長い消化管 が特徴である。繊維質は後腸で発酵され、これらの繊維質が拡張作用によ って後腸の運動も刺激する。なお、正常ではウサギの食物滞留時間は12時 間であり (液体は約1.3時間) 〔Kararli 1995〕 、イヌやネコと比較して長時間で ある。また、ウサギは消化管全体の容積が大きく、体重に対して腹腔内の占 める割合が大きいことも特徴である 〔Donnelly 1997〕。 ●歯は草食動物であるために、特殊に変化を遂げてきた。唇で食物をつか み、切歯で草や葉などの植物を切削し、臼歯で細かく噛砕する。これは 食物を分子レベルまで噛み砕くことで、腸内細菌が速やかに繊維質の食 上顎切歯と釘歯 物を消化できるように分解される。 歯式は乳歯では2(2030/1020)で計16本であるが、切歯は出生前に吸収され、生後30日齢までには乳臼歯も永 久歯に生えかわるため、ウサギの乳歯を確認することは困難である〔奥田ら 1999〕。永久歯の歯式は2 (2033/1023)で計28本である。かつて、ウサギはげっ歯目に分類され、その切歯の特徴から重歯亜目と呼ばれ ていた。切歯は大きく湾曲し、唇側面に縱走する1本の溝がある。上顎の切歯は4本で大きな切歯の裏に小切 歯が一対並んで萌出している。この小切歯は「Peig teeth」、 「釘歯」とも呼ばれ、円形で切縁を欠き、小さく円 柱状である。 切歯のエナメル質は前面は非常に厚く、後面はほとんどない。つまり、硬いエナメル質が前面にあるため後面 よりも摩擦が遅く、自己研磨により鋭い切断面を形成する。臼歯は繊維質の食物を広い咬合面で砕潰させる。 臼歯の上下の歯の凹凸面を密着させるために、歯冠はエナメル質でできた山と象牙質の谷とから作られてい る。これら凹凸面は上顎と下顎が咬み合うことができるように配列されている。切歯も臼歯も根尖が開放して おり、エナメル質、象牙質、セメント質などを形成する幹細胞が常に分化して各組織を形成し、生涯成長を続 ける「常生歯」である。上顎切歯の成長速度は1週あたり約2mmである 〔Shadle 1936〕。 切歯と臼歯の間には、本来犬歯があるべき場所であるが、大きな歯隙、すなわち歯間離開となって、口腔中の 食物が自由に循環できるようになっている。 ●顎関節の運動は下顎の関節突起と側頭骨の下顎窩で形成され、下顎の筋突起が小さいために側頭筋の発達 が悪い。そのために顎関節の可動範囲が広く主に側方運動を行うが、多少の前後運動も可能で回軸運動を行 う。ウサギは顎関節を亜脱臼させて、下顎と上顎の前進と後退で咀嚼し、1分間に120回以上動かすことがで きる 〔Cortopassi et al 1990〕 。そして、顎臼歯列は、下顎臼歯列よりも広く、側方運動で可動するが、正常な咬 合運動においては、上下顎臼歯はわずかに触れ合う程度で咬 合面の全体が咬耗し、歯冠を削る。また、ウサギは唾液中に アミラーゼを含み、植物を長時間、咀嚼している間も消化を 助けている 〔Fekete 1989〕。 ●胃は消化管の約15%を占める 〔Cruise and Brewer 1994〕 。単 胃構造で壁が薄く伸張性に乏しく 〔Brooks 1997〕、胃底部が大 きい。胃での消化は塩酸とペプシンによって行われ、他の哺 乳類と同様である。胃粘膜は全て腺部で占有し〔大島 2001〕、 食物が通過すると胃内pHは1.0-2.0と強酸になる(盲腸での消 化中にはpHは3.0に上がる 〔Deblas and Gidenne 1998〕)。胃 の噴門と幽門が接近して胃盲嚢を形成し、幽門括約筋も発達 しているために、ウサギは原則的に嘔吐はしない〔Brooks 1997〕 。 ●小腸は十二指腸と空腸と回腸からなり、腸全体の2/3を占める 〔大島 2001〕。十二指腸は下行部と上行部による係蹄を形成 し、空回腸は著しく迂曲している。十二指腸では重炭酸が膵 11 胃・小腸・盲腸・大腸 臓から分泌され、胃内で酸性に傾いた内容物を中和する。なお、小腸での 通過時間は短く、空腸10-20分、回腸30-60分である〔Carabao and Piquer 1998〕 。 ●大腸は結腸と直腸からなり、太い管腔である。結腸は上行結腸、横行結腸、 下行結腸からなる。結腸膨起と呼ばれる小嚢と外側に縦走する筋肉帯であ る結腸ヒモが特徴であり、これは結腸の蠕動に役立ち、内容物が長く滞留 するため、微生物によるセルロースなど繊維質の消化に都合がよい。 ●盲腸は大きく、胃の約10倍の大きさで、壁の薄いコイル状をなし重要な消化 過程を営む〔Donnelly 1997〕。小腸において消化をうけた内容物は、らせん 形をなす盲腸壁に沿って虫垂(盲腸先端部) まで流れ込み、次いで盲腸中央 部を通って盲腸基部へ戻る。盲腸は右側にやや片寄り右腹腔の大半を占め、 腹腔内の盲腸 盲腸自身は3回折り重なって位置する 〔Donnelly 1997〕。盲腸内では繊維質の消化と蛋白質の変換が行われる。 ●ウサギの繊維質を発酵し、消化する機能は特有である。回腸上部には、ほとんど細菌は存在せず〔Brooks 1997〕、下部以降に大量の細菌が存在している。繊維質を盲腸と結腸に蓄積して、腸内細菌叢によって発酵さ せ、多量の蛋白質とビタミン類を含んだものに変換する。また盲腸ではVFA(volatile fatty acids 揮発性脂肪 酸(酢酸塩、酪酸塩およびプロピオン酸塩) :セルロースやへミセルロース、ペクチン、澱粉、可溶性糖類など の炭水化物が微生物によって、高度の嫌気性発酵を受けて生成される最終産物の一つ)の産生が見られ、盲 腸や結腸で速やかに吸収され、 小腸で吸収される糖分、 胃で生産される乳酸とともにエネルギー源として用い られている 〔Cheeke 1994・大島 2001〕。 ●消化不能な繊維質は結腸で分離されて濃縮し、盲腸を 通過せずに硬便として排泄する。非繊維質(可溶性炭 水化物)は結腸内の隆起内で特殊な重力により分別さ れて盲腸に逆送し、発酵過程を営む〔Cheeke et al 1986〕。この硬便の排泄刺激は腸の運動を活発にし、 胃腸障害を防止する。盲腸に逆流し発酵過程を営んだ 後の排泄物は通常の糞(硬便)から分別され、盲腸便 硬便と盲腸便 (軟便) として排泄する。つまり、ウサギの糞には硬便 と盲腸便と大きく分けて2種類見られ、結腸でのこの選択的排泄を“結 腸分離機能”という。盲腸便は通常の硬便と比較して、柔性で、高蛋白 質、低繊維質、高ビタミン(ビタミンB12、パントテン酸、リボフラビン、 ナイアシン)である 〔Kardatsu et al 1959〕 。この盲腸便は結腸の上皮細 胞から分泌されるゼラチン質の粘膜に包まれて、肛門へ送られる。そ して“食糞”として再び、この便を再摂取して腸で消化する仕組みをも つ。軟便は水分が多く含有し柔らかく、丈夫なジェリー状のゼラチン質 の粘膜に包まれて、ウサギは直接、肛門に口をつけて噛まずに飲みこ 膵臓 む動作をする。盲腸便は胃内でも6-8時間くらいは停滞し、ある程度の 発酵が行われる 〔Camara and Prieur 1984〕 。 ●膵臓は小さく体重の約0.2%の重量で、十二指腸の環状部の各枝をつな いでいる十二指腸ワナに挟まれ、樹枝状に多数の葉に広く拡散してい る〔大島 2001〕。単一の膵管が十二指腸の上行肢の後方に開口してい る。膵臓でのアミラーゼ産生は比較的少量であるが、唾液や盲腸で代 わりのアミラーゼ源がある。 肝臓 12 ●肝臓は代謝、異化作用の中心として合成、異化、解毒、分泌、排泄、あるいは血液保有も行う。ウサギの肝臓 は体重の2-2.3%の重量で、他の草食性家畜のものよりも大きく 〔大島 2001〕、外側左葉、内側左葉、方形葉、外 側右葉、内側右葉、尾状葉の6葉からなる。 (2)泌尿器系 構造的には他の哺乳類とは大きな相違は見られず、腎臓、尿管、膀胱、 尿道からなる。なお、ウサギはカルシウムの代謝が特徴的である。 ●尿色は黄色あるいは茶褐色で不透明である。 尿が白っぽく混濁してい るため、白濁尿ともいう。ウサギでは正常である。 不透明で白濁しているのは多量の炭酸カルシウムなどの結晶を含有し ているからである。この有色尿はアルファルファやマメ科植物により強 くなる傾向にある〔Cheeke et al 1987〕 。キャベツやブロッコリーのよう な野菜やタンポポでは時に赤色尿を呈する。そして、余剰なカルシウム は主に尿から排泄される〔Buss et al 1984〕。ウサギではカルシウムは 尿中に47%、糞中に53%が排泄されるが、他の哺乳類の尿中排泄は 2%以下である 〔Buss et al 1984〕 。そして、ウサギの正常尿はアルカリ 性であるために、炭酸カルシウム結晶を形成しやすく、混濁した尿沈渣 成分として見られる。 ●ウサギのカルシウム代謝は特徴的である。上皮小体ホルモンとカルシト 腎臓・尿管・膀胱 ニンがカルシウム濃度を調節していることは他の哺乳類と同様である。 しかし、正常でも血中カルシウム濃度が、他の哺乳類と比較して3050%高く、広範囲の値を示す〔Buss and Bourdeau 1984〕。この高値は 食餌に含まれるカルシウムの摂取に影響される。カルシウムは小腸から 吸 収 され 、血 清 カルシウム 値 は 吸 収 され たカルシウム 量 に 比 例し 〔Donnelly 1997〕、イヌやネコでは明らかに異常といわれるような高値 を示すこともある。その理由の詳細は不明であるが、ウサギはカルシト ニンが少ないため、あるいはカルシウム代謝において、ビタミンD3の調 節が行われていないという説もある 〔Jenkins 1997〕。 白濁尿と有色尿 (3)循環器・呼吸器系 呼吸器は鼻腔、喉頭、気管、気管支、肺からなり、開口呼吸よりも鼻呼吸 が優位であることが特徴である 〔Donnelly 1997〕。 ●胸腔は極端に小さく肺活量も少ない。一方、腹腔が大きく、大きな横隔 膜の収縮によって呼吸は行われる。 スリット状の鼻孔 ●外鼻孔はスリット状を呈し、完全に閉鎖することができる。 ●肺は右肺は前葉、中葉、後葉、副葉の4葉に分かれ、左肺は前葉前部、 前葉後部、後葉の3葉で右肺の約2/3の大きさにすぎない。この構造は 持久力を持たず、長時間の無理な保定で低酸素症に陥りやすい。 ●心臓はイヌやネコと同様に2心房2心室であり、静脈から還流した血液 を肺を経て動脈系へ送り出す中腔器官である。形態は鈍円錘形で身体 13 肺 と比較して小さく、同じ身体の大きさのネコと比較するとほぼ半分である (心体重比はイヌで約1%、ウサギで は0.2-0.4%)。心臓は胸腔の中央部あるいはやや左側に位置し、心尖の拍動は第3肋骨間付近で触れる。1回 の拍出量に限界があるため、心拍数を多くする特徴がある。 ●声帯皺襞は痕跡的な傾向あるいは陥入しているとも言われ〔佐久間 1988〕、通常は発声しない。しかし、多く は食道を器用に使用して、発声して意思表示する。新生仔では「キュキュッ」、 「クククッ」などと発声する。成 体でも興奮時に「クックックッ」、恐怖を感じた時に「キキイーン」などと発声する。 ●脾臓は末梢リンパ組織であり、舌状の扁平で細長く胃間膜によって胃の 大湾の左背面に付着している。大きさは約4-5cmである 〔浅野ら 1990〕。 ウサギの脾臓は物質代謝性の脾臓であり、被膜や脾柱に筋繊維の少な い構造で、血球貯蔵所として働かないため、脾腫は顕著には見られな い〔津崎 1963〕 。 脾臓 ④ 筋・骨格系 ウサギは筋肉質であり、体幹はずんぐりとし、四肢は短いが後肢は前肢 と比較して長くて大きい。通常は跳躍型の走行を示し、後肢の発達した 筋肉系をもち、軽量である骨格系が跳躍に役立っている。筋肉は跳躍を 高めるために発達し、酸素との飽和がヘモグロビンよりも高いミオグルビ ンを豊富にもつため、紫桃色を呈して持久力に優れる 〔Donnelly 1997〕。 骨質は軽量化という進化の過程により弱い。骨質はネコの約1/3であり、 特に長骨や腰椎に骨折が多発する (ネコでは体重の12-13%に比べウサギ では7-8% 〔Donnelly 1997〕)。特に長骨の皮質は薄くて骨折が起きやすい。 尾 ●指数は前肢は5指、後肢は4趾である。自由に出し入れできない鉤爪をもつ。足底にはイヌやネコのような肉球 がなく、ブラシ状の被毛で被われている。これは走行中に固い地面をとらえやすくし、クッションの役目をする。 四肢の歩行は蹠行型(plantigrade)で、掌蹠の全面を地面に付着する。 ●尾は後肢跳躍型に進化して不要になり、短く退化して弓なりのへら型を呈する。危険を感じると尾を立てるこ ともあり、弱いオスは強いオスに対して尾を下げて服従する姿勢をとる。 ●高さ50-60cmくらいは飛び越せる脚力をもつ。大型のノウサギでは最高速度は80Km/時にも達する。加速す れば3m位は 軽く飛べると思われる。高さに関しても肢を掛けながら飛び越えるような形なら1m位は飛びこ せる。一方、飛び乗るのは簡単であるが、飛び降りるのは苦手である。中途半端な距離だと、視力の関係か ら距離感を認識出来ないまま飛び降りることがあるため怪我を負う。 ⑤ 皮膚 身体は上毛と下毛で密に覆われている。皮膚が露出しているのは鼻鏡 とオスの陰嚢、メスの鼠径部である。ウサギは汗腺が未発達で(口唇部の 皮膚に汗腺が多いという 〔津崎 1963〕)、耳介から熱放散を行う。ウサギで は毛髄が多く、毛皮質が少なく切れやすくて、細い特徴がある。 ●上唇裂(みつくち)、あるいは兎唇(としん harelip) といわれ、上唇が縦 に裂け、自由に開閉することができる。口輪筋が発達し、個体同士の表 情の伝達、あるいは臭いをかぐのに役立つといわれている。 口唇 ●触毛が上唇に豊富で、感覚が鋭敏な長毛である。野生では巣穴の中で、穴の端を感じとり、はまり込んで向 14 きを変えることができなくなるのを防ぎ、視界の位置から真正面の視界 が狭いために触毛で感じとるという。 ●生理的皮膚の現象としてアイランドスキン(Island skin) という皮膚が部 分的に肥厚し、その部分の被毛の発育が早くなる現象が見られる。原 因は不明であるが、遺伝的、季節的、あるいは換毛の時期と関係して いるともいわれている。 アイランドスキン ●耳介は大きくて長く、種類によっても形態は異なる。外敵の危険から守 るため、集音により聴力を高めている。一般的には体表面積の12%を 占める〔Melich 1990〕。皮膚の汗腺が乏しいために、体温を放散する 体温調節を行う。 ●鼠径部と肛門、下顎に臭腺を有する。これらの腺は汗腺が特殊に変形 したものである 〔津崎 1963〕。鼠径腺は陰茎および陰核の側方の被毛で 隠された部分にあり、悪臭を放つ黒色や茶褐色の分泌物が蓄積してい 耳介 る。いわゆる“ウサギくさい臭い”は、鼠径腺からの分泌物が主な原因 である。肛門腺は直腸の腹側壁で肛門の直上に位置する皮脂腺である。 この分泌物は糞塊を円滑に排泄させる。一方、顎の臭腺は顎下腺や下 顎腺と呼ばれ、顎の下を物に擦りつける習性(チンマーク chin mark) が顎の臭腺の臭いつけ(マーキング)であり、顎を左右に動かす。一回 の臭いつけは5秒ほども続く。メスよりオスが本行為を約3倍の頻度で行 い、1回の行為の時間もオスはメスの7倍に達するという 〔Stoddart 1976〕。オスの中でも優位な個体が頻繁に行い、自分のテリトリーを主 鼠径腺 張する。これらの分泌腺の大きさと臭いつけの回数はテステステロンの 支配によるものである。メスはこれらの臭腺により、自分の仔に臭いつ けを行い、他の個体と区別をする 〔Donnelly 1997〕。顎下腺と肛門腺は 縄張りにおける臭いつけ、つまりウサギの社会的な生活の中で優越や 縄張りの主張に利用される。鼠径腺は個体認識に使い分けられるとい う〔Stoddart 1976〕。 ●咽の下には弛みができることがある。これは健常体のメスに多く見られ る正常な形態変化である。頸袋(けいたい)、肉水(にくすい)、肉垂(に チンマーク くだれ dewlap) と呼ばれている。オスにはほとんど見られず、あったとしてもそれ程大きなものにはならない。 ●四肢の足底にはイヌやネ コのような角化した肉球 が見られず、被毛で覆わ れている。これは走行時 に地面をしっかりつかむ ことができるからである。 ●通常は4-5対の乳首を持 乳腺・乳頭 ち、胸部から鼠径部にか け、腹部外側に並列する。 頸袋 後肢 妊娠期最後の1週間に乳腺は発達し、分娩後2週間目に泌乳量は最高に達する。なお、ドワーフ種は数が少な い傾向にある。 15 ⑥ 生殖器系 ウサギは周年繁殖動物で年中繁殖することが可能である。繁殖能力に優れ、自然界では被捕食動物でありな がら、その旺盛な繁殖力で繁栄してきた。 ●メスには細長い楕円形の淡肌色を呈する2つの卵巣と卵管、子宮角、子 宮頸管が見られる。子宮の形態は、左右の子宮角がそれぞれ独立して 頸管に移行しているために、重複子宮と呼ばれる。子宮間膜には脂肪 が顕著に沈着し、ウサギの主な脂肪貯蔵場所となる。 ●オスは包皮で囲まれた先端が鋭い陰茎、精巣を包む無毛の陰嚢を持つ。 精巣は約12週齢で陰嚢に下降し、精巣には精巣上体が付着し、精巣上 体の尾端は輸精管へと連絡し、鼠径輪を介して腹腔へ入る。 卵巣・卵管・子宮 【繁殖】 ウサギの繁殖は乱婚性である。屋外で複数飼育を行うと、巣穴の中で 知らぬ間にメスは出産して仔が増えているようなことも多い。捕食の危険 を回避するためにも交尾時間も極めて短いのが特徴である。このような 旺盛な繁殖力のため、肉食や毛皮用に人為的に繁殖が盛んに行なわれて いる。繁殖を希望するならば、計画交配をしなければならない。年8回ま で出産可能であるが、多くても2回以内に抑えた方が母体の健康のために 精巣・精巣上体 もよい。 ウサギは基本的には周年繁殖動物である。しかし、真夏の繁殖は暑さ のためにオスの精子が減少することがある。真冬の出産は新生仔の保温 などに注意しなければならない。したがって飼育下では春や晩秋の繁殖 が理想である。繁殖寿命は短くて、品種によるが、オスは5-6歳、メスは3 歳くらいである。高齢個体では受精、受胎しにくく、妊娠中毒などの母体 への悪影響を及ぼすことも多々ある。 【雌雄鑑別】 雌性生殖器 未熟での雌雄鑑別は困難である。肛門と尿道開口部との距離はオスは メスの約1.5-2倍である〔毛利 1996 〕。オスの生殖突起は丸く開口するが、 メスは縦にスリット状に開口するのも特徴である。約3ヵ月齢を経過すると、 オスは睾丸が陰嚢に下降するために鑑別が容易となる。肛門よりの下腹 部に対に2つの細長い袋状の陰嚢が確認できるようになる。鼠径管が開口 し、腹腔内と陰嚢内を移動するため、腹腔内に位置している時や精巣上 体に付着する脂肪が大量であると明瞭に確認できない。 【性成熟】 雄性生殖器 性成熟は日照時間に影響をうける。メスの性成熟は約4-12ヵ月齢と個体 差があり 〔橋爪 1992〕 、長日環境ではその時期が早くなる。品種によっても異なり、小型種は約4-5ヵ月齢、中型種 は4-8ヵ月齢、大型種は約9-12ヵ月齢である。オスはメスよりも7-8ヵ月と性成熟が遅い傾向にあり、日照時間以外に もメスの尿臭が影響するという。したがって、繁殖を希望しない場合は、4ヵ月齢以降はオスとメスを隔離しなけ ればならない。 【発情】 メスは周年繁殖動物の交尾排卵動物で、交尾により排卵を行う。発情期が長いことも特徴であり、1-2日間の 休止期と4-17日の許容期というある程度の強弱抑揚が繰りかえされる。交尾が行われないと卵胞はしばらく存続 してから退行し、新たな卵胞が相次いで発育する。許容期の行動として、メスは下顎腺を物や他の個体に擦り つける動作(チンマーク chinmark)や、腰部を軽く押したり、またはオスが乗駕しようとする際に尾部を上げ許 16 容姿勢(ロードシス:lordosis)が見られる 〔橋爪 1992〕。時に飼育者である人の足に両前肢をかけて腰を動かす 行為をとることもある。本行為はメスにもよく見られる。 オスは性成熟以降は常に発情が可能となる 〔Donnelly 1997〕。縄張りのために、マーキング(臭いつけ)で尿を 飛ばしたり (本行為をスプレーともいう)、糞を撒き散らしたり、あるいは尾を挙上させて飼育者である人の腕や 足などにすがりつき、腰を振り動かして射精して自慰行為も見られる。腰を振る行為は成熟前から見られるこ とも少なくない。オスの発情行動をみて、メスは視覚的に発情がおこり、鼠径腺から臭覚刺激物を放散する。オ スでは気が荒くなり、人に噛みつくこともある。スプレー行為はメスにも見られる。 【交尾】 飼育下で人為的に交尾を行う時は、まずはメスをオスのケージに収容 する。オスをメスのケージに入れると、縄張り意識が強いメスがオスを攻 撃したり、メスのケージの臭いに夢中になり交尾が遅くなり、メスが交尾 を拒否して許容姿勢が見られないことが多い。オスの求愛行動は盛んに 後肢で地面を床を打ち鳴らしたり (スタンピング stamping)、駆け回った り、尾を挙上したり、ケージの外へ放尿したりする。メスに対して鼠径腺 から分泌物を放散し、メスを追いかけ放尿する。あるいは中立的な場所 に2頭を入れることもある。 交尾 メスがオスに対し、後躯を挙げて許容姿勢を示すと、オスはメスに乗駕 し、前肢でメスを抱える姿勢をとる。メスの耳の付け根、あるいは後背部の皮膚あたりを愛撫(なめたり、顎で こすったり、毛をかんだり) しながら乗駕を試みる。このようなオスの行動に対してメスは許容姿勢にあるため、 何もせずじっと静止している。オスは前肢でメスの体を抱きかかえ体勢を整え、オスは後駆を何度も振動させて 交尾をし、メスの尾および後駆を上げさせさらに許容姿勢をとらせる。陰茎が挿入されて射精するとオスの尾が 見えなくなるまで背を弓状に反らす。射精と同時に「キュー」という奇声を発しながら、メスもろとも横転して交 尾が完了する。交尾行動にかかる時間は1-2分である。受胎率を上げるために2-3時間後にもう一度メスをオスの ケージに入れて交尾をさせるとよい。ウサギは基本的になわばり意識が強く、長時間一緒にしておくとストレス がたまるため、交尾後は早めに隔離する。初めての交配を行うオスは本能が先行するのか、メスの頭に乗ること があり、メスはオスの求愛行動に驚いて、防衛のためにオスの生殖器に噛みつくことがある。即座に2頭を離せ るようにしなければならないので、人が必ず側にいてトラブルに対応できるようにする。 【排卵・妊娠】 排卵は交尾後約10(9-12)時間で見られる。数分以内に中枢性興奮伝達が始まり、1時間以内にLH(黄体形成 ホルモン luteinizing hormone)が分泌される 〔橋爪 1992〕。着床は7-8日で偏心着床が見られ〔斎藤 1998〕、次第 に胎仔は成長するが、腹部膨満は外観からは明確ではない。アナウアギ類(カイウサギ)の妊娠期間は30-32日で あり、受胎後は食欲も飲水も増加するが、あまり過多にカロリーを取らせると妊娠中毒になりやすいため注意す る。触診における妊娠診断は交配後10-12日目移行で胎仔が触知が可能となり、超音波検査では9日以降(胎仔 の生死判定は18日移行で可能)、X線検査では20日以降に胎仔の骨格が明確となる〔稲場ら1986〕。妊娠末期に は多数の胎仔を身ごもると腹部膨満になり、乳腺も発達する。 妊娠後期には食欲も低下してくるが、食餌をしないと妊娠中毒を起こす危険性がある。 【出産】 分娩は多くの場合、朝方に見られ、夜間での分娩は少ない。出産準備は予定日の4-5日前から始めるとよい。 飼育下では通常、室内で人の目の集まる居間のような場所にケ−ジが置かれているが、可能ならばケージを静か でウサギが落ちつける場所に移動するとよい。あるいはタオルなどでケージを覆い、騒がしくない状態にする。 この頃からメスは飼育者や他の個体に攻撃的になる。 乾草や牧草を口にくわえる営巣行動が観察されたら、巣箱を用意しなければならない。巣箱はステンレス製、 木製などがある (巣箱参照)。分娩前の30分から2日前から、乳腺がさらに腫脹し、周囲の被毛を自ら抜いて巣材 に使用する。なかには抜かない個体も見られるが、その場合は、人が手伝って乳首が全部見えるように被毛を 抜いて営巣の介助を行う。抜いた被毛は巣材の一部として新生仔の保温のために使用される。また新生仔が乳 首を探しやすく、飲みやすい状態にするためでもある。 17 正常な胎位での分娩所要時間は30分以下であることが多い。中には所 要時間が3日という最長記録もあるが、3日以上母体に残ると胎仔の多くは 死亡する。胎仔は胎盤を付着したまま羊膜に包まれて産まれてくるが、母 親が羊膜を破り、羊膜や胎盤を食べて胎仔の身体に付着する羊水や血液 をきれいになめる。 ウサギは加齢とともに、産仔数は平均よりも少なくなる。品種によって 異なるが、一般的に4-10(7.5)頭であり、小型種は少なく、大型種は多い 傾向にある〔Donnelly 1997〕。実験動物での日本白色ウサギは8.01±0.39 巣箱 頭〔平沢ら 1981〕、7.7頭〔辻紘ら 1991〕などの報告がある。ウサギは他の メスの交尾姿勢、オスが近くに存在することが刺激になり偽妊娠が好発す る。営巣や発情行動が頻繁に見られ、縄張りの中での警戒心が強くなる。 乳腺も腫脹して泌乳も見られることも多い。期間は15-16日くらい続くが、 卵巣子宮疾患が潜在する個体では、その期間が永続し頻繁に発生するの で注意する。 ◎分娩の準備 分娩予定日の1週間前から分娩あるいは哺育用のケージに移し、巣 営巣のために抜かれた被毛 箱と床敷の材料を準備する。巣箱は市販されている製品、あるいは木 製の板を使用して自作してもよい。幅23-30cm、置行45-55cm、高さは 背部約30cm、前部約23cmくらいが理想で、中に乾草や牧草を大量に 敷き詰める。ウサギは牧草や乾草、干し草などの巣材を口でくわえて 巧みに巣作りを行う。巣箱の奥の方には新生仔が入るような窪みを巣 材でつくる(全く巣作りを行わない個体もいる)。あるいは、分娩2-3日 前からウサギは胸腹部の被毛を抜き取り、自ら床材と混ぜて巣つくり を始める。早い場合は半日、長くても3日位を要して巣作りが終了する。 【育仔 授乳】 出産数日後は母親は精神的に不安定となり、乳仔を食殺することがあ る。これは胎盤を食べることの延長として行われるのかもしれない。そし 巣作り て、授乳は1日に1-2回で数分間の間に行い、通常は早朝に行われて夜間 は行わない。1回の授乳で24時間耐えることができるため、ウサギは乳頭の数以上の仔を育てることが可能であ る〔Lang 1981〕。仔は体重の20%もの母乳を摂取する〔Donnelly 1997〕。母乳は蛋白質13-15%、脂肪10-12%、 炭水化物2%からなり濃縮されている〔本〕一見すると出産後の母親は母乳を仔に与えていないように見えるが、 飼育者は神経質になる必要はない。ウサギでは授乳時に新生仔を乳頭に誘導するフェロモン(nipple-search pheromone)の存在が知られ〔橋爪 1992〕、これは野生でのアナウサギ類は天敵が多いため、新生仔の存在を目 立たせないように隠そうとして、能率よく授乳を行うからである。 新生仔たちは寄りそって丸くなって寝ているが、これは熱とエネルギーを温存する役目をする。母親は離れた 新生仔を探して連れ戻す行為を見せない特徴があり、群れから離れた時は、中に戻さないと死亡する。また、 母親は最終的には2つの群れを育てる形になり、負担が大きくなる。 中には初産や心的動揺のあるメスは育仔を放棄したり、あるいは新生仔を食殺することもある。このような状 況では人工飼育に切り替える。1日に1-2回の授乳であるために、育仔放棄であるかどうかは、新生仔の活動と 様子を観察しながら判断する。人工飼育する個体よりも母親に育てられ た個体のほうが成長率は高い。授乳を受けている個体は腹部が膨満して いるが、受けていない個体は陥没している。 ◎新生仔 アナウサギ類の新生仔は赤裸で閉眼し、体温調節が未発達な状態 であるため、自力では歩行できない(晩成性)。平均体重は約38gで、 生後2-3日で被毛が生えはじめ、色彩が少しずつ明瞭になる。開眼時 18 生後5日目の新生仔 期は生後約12-13日目からである。この頃になると乳歯も萌出して噛みはじめる。新生仔が巣箱から出てしま った場合は、素手で触ると母親が育仔を放棄したり、食殺をするといわれているが、実験動物でもそのよう な事故は少ないという報告もあり 〔詫广ら 2002〕、あまり心配はいらない。メスのウサギは自分の仔に対して 顎下腺の分泌物をつけてマーキングを行い、他の集団の仔あるいは他の臭いがついていると食殺することも あるという 〔Donnelly 1997〕。しかし、飼育下のウサギは人の臭いに慣れているため、過度に触わりすぎなけ れば問題ない。母親が巣箱の中で排尿を行うと、新生仔の体温が低下するため、特に冬季では危険な状態 になる可能性があり、巣箱の中の巣材が濡れていないか確認する。約20日目からは、新生仔は少しずつ巣箱 から出て遊びはじめる。なお、ウサギの新生仔の胃腸には他の動物で見られるような、一日で細菌叢の発達 がおこらず〔Smith 1966〕、ミルクオイル(Milk oil) と呼ばれる胃酸とは別の抗菌性の脂肪酸があり、授乳され た母乳を基質とした酵素反応によって産出される。これは感染などの防御に役立ち、胃腸内の細菌をコント ロールしている 〔Canas-Rodriguez et al 1966〕。一般的には離乳は約4週目からはじまり、少量ずつ食餌を自 ら摂りはじめる。消化器の機能が完全に発達(固形の餌や消化しにくい 植物に対応)するのが6週齢以降で ある。この時期、幼体のウサギは致命的な下痢を引き起こしやすい。それはミルクオイルが消失し、高酸性 の胃に発達する移行期だからである〔Brooks 1997〕。したがって、6週齢くらいまでは母ウサギと一緒にさせ て様子を観察したほうがよいことから、完全な離乳は8週齢以降が理想である。ペットショップでは、早いとこ ろでは4週齢の個体を販売していることもあるが、下痢や食欲不振などの腸疾患が起こりやすく、育てるには リスクが大きい。最初は一腹の子を同じケージで飼育してもよいが、成長するにしたがって分け、生後4ヵ月 齢以内に雌雄を判別し、別のケージで飼育する。 【人工哺乳】 アナウサギ類の哺乳は上記のように短時間で行い、授乳回数が少なく授乳間隔の長い哺乳形式は「スケジュー ル型」と呼ばれ、乳汁成分の固形成分が多く、回数の少ない授乳により、大量の熱量を確保できるように、脂肪 成分が高い特徴がある。 授乳期や自ら食餌を摂取するような年齢になる前に母親が死亡したり、育仔を放棄する場合がある。そのよう な場合には、スポイトや針なしのシリンジなどで新生仔に授乳する必要があり、市販されているヤギやネコのミ ルクを使用する。その他のレシピとして、水と牛乳を混ぜてコーンシロップを加えたものなどが試されている。 授乳回数もウサギの母乳でないため、数回にわたって与える必要がある。ミルクは人の手の甲に垂らしたときに 熱くない程度まで温めるとよい。他の動物の母乳を使用するとミルクオイルが含まれていないため、人工哺乳に 使用する水や器具は十分に清潔なものを使用する。12-14日齢に成長したら、オートミールと新鮮な草の葉もしく は野菜の葉の柔らかい部分を少量与えるとよい。15-18日齢になると、給水器から飲水したり、ふやかしたペレ ットや軟らかい野菜などを採食することを覚える。成長するにつれ摂取量は増えていく。また、新生仔を別の授 乳中の母親に養育させることも可能である。 そして、新生仔の排泄を促すためには、肛門と陰部を擦って刺激をする必要がある。しかし、母親は野生で は仔の排泄の世話はしないため、人工飼育下でも行う必要はないかもしれない。 ★去勢や避妊手術について 繁殖を希望せず、長寿を希望するなら、避妊手術(卵巣 子宮摘出手術)、去勢手術(精巣摘出手術) を推奨 する。ウサギは周年発情で発情が年中見られる。しかし、避妊、去勢手術を施すことによって発情行為自体 が無くなることはなく、性格が変わる(噛まなくなる、おっとりする) ことも、必ずしもなくなるわけではない。 手術の長所としては「攻撃性が減少する」、 「テリトリーを示す行為(スプレーなど)が減少する」、 「極端な求愛 行動も行動(マウンティング)がおさまる」、 「生殖器疾患(卵巣)の罹病率を抑えられる」、 「トイレのしつけが楽 になる」、 「繁殖を抑制する」などと言われているが、これらの結果は個体差があり、十分に検討してから行う とよい。 避妊手術していないメスは5-6歳までに子宮腺癌などの生殖器疾患になる可能性が高いといわれている。 長期間(3年以上)出産の経験のないまま過ごしたメスも同様で、他に様々な生殖器疾患の確率も高い。その ため手術する際には卵巣と子宮の両方を摘出したほうが安心である。オスも去勢していない場合 睾丸腫瘍 (セルトリー細胞腫)の可能性がある。避妊、去勢手術を行う時期としては、メスで6ヵ月、オスでは生後5ヵ月 以降が目安となる。成熟前に去勢すると、特にオスの場合では尿道結石になる可能性が高くなるといわれて いる。メスも避妊手術を行うことにより、尿失禁を生じると言われているが稀である。 19 ⑦ 神経・感覚器 ウサギは被捕食動物で、カテコールアミンに感受性が高く、闘争ではなく逃走に進化している〔Donnelly 1997〕。一般的に視力は弱く、反対に嗅覚、聴覚、味覚は優れている。脳は他の哺乳類と同様に大脳、間脳、 中脳、小脳、橋および延髄により構成され、大脳の皺は少なく単純である。嗅覚、視覚、聴覚に関わる領域 が大きく占めている。 【視覚】 頭蓋の両側に眼球が位置しているため視野は広くパノラマ的であり、片 眼の視界は約190度である 〔Harkness et al 1989〕 。背後まで視界が広く、 眼球自身も大きく突出しているため、天敵を発見するのに役立つ。全視 野は左右合わせて約360度であるが、同時に見える視界は約10度で、小 さな鼻先の部分だけである。したがって、鼻先や口先の餌は口唇や触毛 によって識別する〔Donnelly 1997〕。広範囲に見ることはできるが、物の 識別が困難であり、立体視は不得意で認識力に欠ける。 上眼瞼、下眼瞼、第3眼瞼 【嗅覚】 匂いにかかわる神経系は嗅覚系と鋤鼻系(副嗅覚系)に大別できる。 嗅覚系は機能的には匂いの物質を受容し、天敵からの逃避、餌の探索 行動や摂食行動などに関与する。ウサギは特に嗅覚は優れ、多くの匂い を嗅ぎ分けることが可能である。ウサギの嗅受容細胞は5億ほど存在する (イヌのシェパードでは約30億) 〔Stoddart 1976〕。ピクピクと動く鼻と鼻唇 で外界の揮発性のごく僅かな匂いまで感知する。上唇が正中で縦に割れ て「兎唇」と呼ばれ、口輪筋が発達しているために鼻が動くようである。 鋤鼻系はフェロモン物質を受容して、母性行動、生殖行動などにかかわ 鼻孔 る神経路とされる。ウサギの鋤鼻器の膜は鼻腔の膜と同感度を示し、嗅 覚の機能を補い〔Stoddart 1976〕、鼻孔を大きく広げて鋤鼻器を露出させ ようとする。 【聴覚・平衡感覚】 逃走して天敵から身を守るために聴覚は特に発達している。耳介は大 きく細長い形をしていることからも集音効果は高い。耳介は総体表面積の 12%を占めるほど大きく 〔Cruise 1994〕、集音以外にも体温調節も行う。 左右の耳は独自に可動し、その音の方を向くことが可能で約360度の範囲 で物音を聞き分け、かすかな音でも確認する。 【味覚】 耳介 ウサギはかなり多くの味を判別すると言われている。ウサギの味覚は 自らの嗜好性のためにあり、有毒な物を判別することはできないようである (しかし、消化管内の細菌が有害な 毒素を分解する能力を持つともいわれ、様々な植物を摂取し、一つの種類の毒素が大量に貯まるのを防ぐとい う)。野生では苦い植物も摂取するために苦味も平気であるが、飼育下の個体は甘味に対して執着することが多 く、幼体から果物などを多給している個体でその傾向が見られる。 【触覚】 触覚の刺激は身体の表面全体で感じとる。触毛は場所の幅を計るのを助け、暗闇の中で道を発見するのに役 立つ。そのためにも触毛を切ることは避ける。欧米では外鼻孔をピクピクさせる動きは人に人気があり「鼻でウ インクする」などと表記されている。このウインクは1分間に20-120回も動かすことが可能である〔Kraus et al 1984〕 。口唇や触毛の触覚により、視界に入らない鼻先の食餌を識別できる 〔Donnelly 1997〕。 20 3.ウサギの飼育 本来ウサギは社会性(群居)をもつ。野生では階層が定義づけられてい るコロニーやグループを形成しているが、一般的に単頭飼育でも複数飼 育でも問題はない。しかし、適度な個体数を確保する必要があり、過密 はストレスにもなり、個体管理が難しくなる。個体間の相性が明確である。 したがって相性が悪い個体同士は縄張りを意識して、特にメスでは縄張 り意識が強いために喧嘩をする。お互いを噛んだりして傷つけあうようで あれば、別ケージで遭遇することがないようにする。飼育者に対しても攻 撃性を示すような個体も多く、警戒反応として後肢を地面に叩きつける動 屋外飼育 作(stamping) を示す。 実際の飼育として、屋内のケージで飼育する場合と屋外の小屋で飼育する選択がある。さらに、屋内でサー クルで飼育することも選択できる。各々の飼育状況、飼育者の嗜好、品種の特性などによって選択せざろうえな いであろう。なお、本稿では屋内飼育を中心に解説を行う。屋内飼育の長所はウサギの状態を常時観察できる こと、雨風に直にさらされないことであるが、これはウサギ自身の選択ではなく、飼育者の勝手な解釈である。 短所は世話や掃除が行き届かないと尿臭や糞臭が部屋にこもってしまうこと、屋外飼育と比較して居住空間が狭 いことである。 ★順位 複数で飼育された場合、ウサギの相互関係には、直線的な順位関係が成立する。順位関係は同腹仔間で も、離乳後まもなく生じて雌雄関係なく一直線となる。しかし、成熟するにつれてオス、メスの順位は別々と なり、順位の高いオスが全てのメスを独占する傾向になる。成熟の早さやその他の条件によって順位は逆転 することもあり、この期間は双方は激しい喧嘩をする。順位が決定されると攻撃は再び一方向的なものとな る。 (1)ケージセット 制限された居住空間で、生態を考慮した面積を考慮し、生活に必要な器具を設置する。飼育には動物の保管、 飼育管理、観察などが無理なく行えるように、また、ケージ類の洗浄や消毒なども容易なように、ケージのサイズ は操作性を重視してコンパクトな形態が好まれる。 【ケージ】 ケージは構造上において、動物にとっての居住性(材質、形、床材)、洗 浄や消毒などの容易性、給餌など作業性、そして動物が観察しやすいな どの利点を考慮する。ケージの材質は金属と木材がある。衛生上からは 金属製がよいが、保温性や防音性は木製が優れている。木製では柵とケ ージを一緒にした飼育箱、例えばリンゴ箱など空箱を利用した飼育箱な どを利用する。金属製は、専門店では多数販売されているが、ケージの 底に引出し式の糞受け皿がついている置式ケージがある。なお、ウサギ では飼育箱つまり、ケージをハッチ( hutch) と呼ぶ。 飼育ケージ ケージの面積の規定については、近年ウサギの体長とストレッチファク ターという考え方が報告されている。体重ではなく体長を考慮して、ケー ジの幅と対角線の長さを測定して面積を設定する。体重は体長を推定す るよい指標であるとはいえない〔Eveleigh 1988〕。ケージ内で対角線ある いは横幅いっぱいに使って身体を伸ばすことができる面積を理想とする。 どの方向にも自由に身体を伸ばせるようにするには、体重が3kgの個体で は0.64m2/頭(80 - 80cm)のケージが必要となる。また、繁殖も考えてい る場合には、成獣の体長を考慮して,ケージの幅と対角線の長さを測定 ストレッチファクター しておく必要がある 〔Eveleigh 1988〕。 専門店で販売されているウサギ専用ケージの約70 - 80cm四方位の製品なら、1頭もしくはつがいでの飼育が 21 可能である。出入口は正面あるいは上面に装着しているもののほうが、 掃除やウサギの出し入れに便利である。さらに床は引き出し式であると 掃除が楽になる。ケージの床は牧草や乾草などを床材として十分に敷く とよい。牧草や乾草は採食しても、それらは安全であるが、一方、排泄物 で汚染されると、腐敗したり微生物が繁殖するなどの問題がある。衛生 的な管理を望むなら、床が金属メッシュやすのこを使用するが(大型の 3kgくらいのウサギはこの方がよい)、メッシュやすのこの間に四肢や指を 挟む事故、あるいは足底への損傷が好発するために避けた方がよい場合 木製すのこ もある。すのこも木製、プラスチック製、そしてエンボス加工の製品があ る。プラスチック製であれば四肢への衝撃を和らげ、エンボス加工は釘な どを使用しないため歩きやすい特長がある。特に足底皮膚炎を遺伝的な 素因から多発するレッキス、ミニレッキスでは、その選択に注意する。床 に直接ペットシーツ、新聞紙、タオルなどを敷くこともよいが、それを採食 するようなウサギでは消化管内の閉塞が懸念されるため注意する。飼育 者の観点からは、掃除が容易であること、作業の点では飛散しにくいもの が理想である。現在のところ、これらの条件を全て満たすような理想的な 床材は存在しないため、飼育者や動物に応じて最良のものを選択する必 床材の牧草 要がある。 本来は上記の市販の製品の制約されたケージでの飼育は適切でなく、 ケージ内にはウサギが運動する場所と休息する場所を設けるくらいの床面 積が必要となる。ウサギの身体の大きさにもよるが、1回の跳躍力を考慮す ると、かなりの空間となる。本来のアナウサギは身体が軽く、跳躍走行し、 特有の身体的進化を遂げたわけである。制限された空間ではストレスにも なり、また直に長時間硬い床での飼育では、足底の皮膚への持続的圧迫壊 死を生じ、足底皮膚炎を引き起こしやすくなる。他にもストレスによる過剰 サークル のグルーミングで、毛球症を引き起こす誘因にもなる。実際はケージと部屋 の放し飼いの組み合わせの方が、運動量を考慮しても理想的と言える。部屋の放し飼いにも様々な問題があり、 事故や異物摂取などを特に注意しなければならない。サークルを組んで放し飼いにすることにより、家具や壁を齧 ることは避けることができる。飼育者の都合が優先的になるが、最低でも日に数時間はケージから出して放し飼い にするべきであろう。ウサギはこのケージの外の範囲でも、自分の縄張りを認識して確保しようとするが、それは部 屋の一部あるいは部屋全体かもしれない。 【餌容器・給水器】 ウサギは餌や床材を散らか し、容器の上に乗って食べる 性質があるため、餌容器は、は め込み式か壁掛け式が清潔で 適切である。床に置く容器な ら陶製の重い物を使用し、安 餌容器 定化させる。最近は牧草を収 給水ボトル 容する牧草箱(牧草フィーダー) なども市販されている。ウサギ は身の回りに餌が散在してい ると採食する特性があり、食欲 不振の場合には床材にも使用 できる乾草や牧草を敷きつめ 牧草入れ たり、あるいは野菜や野草を床 上に散在しておくとよい。しかし、本方法では食物が排泄物で汚染されるため、衛生面を考慮するならば頻繁に 交換する。給水器は市販されているケージに取り付けるボトルタイプの給水器が最適である。糞便による汚染を 22 防ぎ、被毛の乾燥を保つ。床に設置する給水器であると、容器の中に四肢を入れたり、舞った被毛が入ったり、 さらに口でくわえて放り投げることがあるため、ある程度重さのある陶器の器が適している。ウサギにとって高 い位置にボトルタイプの給水器を設置すると胸帯や肉垂が濡れて、ウエット デューラップ(Wet dewlap) を引きお こすために、飲水を行いやすい位置を考慮して適切な位置に設置する。 【排泄】 ウサギというと「臭い」というイメージがある。体臭はほとんど無いが、排泄物はかなり臭う。糞塊は2.5-3.0kg の個体であれば、1日に約150個の硬糞を排泄する〔Lowe 1998〕。正常糞は乾燥して糞臭は少ないが、軟便や下 痢便は独特の臭いを放つ。尿は体調にかかわらず臭う。尿臭を取る消臭剤入りペレットが市販されているが、 全く臭いが消失するとは言い切れず、効果の程度は不明である。頻繁にトイレやケージの掃除を行えば、特に気 になるということはない。一般的にケージ内で閉鎖した場合、高湿度でアンモニア臭の強い空気環境を作りや すい。アンモニアは尿素分解細菌の作用により、排泄物の尿素が分解されて発生するものである。アンモニア濃 度が高いと、気管や気管支粘膜に異常を引き起こし、微生物の侵襲と相乗的な作用で呼吸器疾患を好発させる。 ◎トイレ 野 生 の アナウサ ギも巣 穴 の な か で 排 泄 する 場 所 を 決 めて いる 〔Donnelly 1997〕。イヌやネコと同様に飼育下でも、トイレのしつけを することは可能である。個体差もあり、数日で覚える個体もいれば、 数ヵ月を要する個体もいる。壁寄りあるいは隅で排泄する習性がある ため、ゲージの隅、部屋の隅、小屋の隅などをトイレの場所にする。ケ ージの中では給餌器や給水器とは別の角に設置する。排尿時に尿が ケージに飛ばないようにガード付の製品も多く見かける。トイレ用の容 器として、ウサギ専用トイレ以外にも猫用トイレ、フェレット用トイレあ るいは浅いトレイなどが使用される。プラスチック製と金属製のもが数 多く市販されている。スノコ付きのケージでは特にトイレを用意せず、 そのままケージの下のトレイに落とさせる方法が取られている。いず れの場合も、トイレの場所にはペット用のシーツや、猫の砂(または木 屑)などを敷くと掃除などが簡単になる。ペットシーツ、砂をウサギが 採食する時は金網でカバーをするか、または摂取しても問題がない牧 草や乾草を敷くとよい。 トイレ 【温度・湿度】 適当な換気、定期的な排泄物の清掃、またはアンモニア濃度を低下さ せる環境が必要である。本来アナウサギを家畜化したものであり、ヨー ロッパアナウサギの棲息地である地中海沿岸の温暖な気候が適切である と思われる。温度管理では基本的に、暑さに若干弱く、寒さに強い動物 である。特に温度が高くなる7-8月に、病気(熱射病)や、体重減少、流産、 早産、死産などが起こりやすい。したがって、温度や湿度を調節するとと もに換気を図り、不快を最小限にしなければならない。環境温度が28℃ 以上になると、体温が上昇し、防御機構がほとんどないため、熱射病や ペット用ファンヒーター 熱中病になりやすい〔Donnelly 1997〕。ある報告では環境温度が30.2℃以 上になると、体温上昇に伴うストレスに関連した生理的変化を示すという 〔Besch EL et al 1991〕 。ウサギでは皮膚の発汗作用が見られず、過呼吸 も効果的ではない。舌の一部と耳介の血管以外で発熱の緩衝作用を施す のである 〔Donnelly 1997〕。特に直腸温度が40.5℃以上になると神経症状 が見られる 〔Gentz et al 1997〕 。一方、寒さに対しては褐色脂肪の蓄積が ないために振戦のみで対応する 〔Donnelly 1997〕。屋内飼育ではエアコン などの空調機器を利用して室内温度の調節をした方が理想であるが、さ ほど神経質になる必要もないようである。もちろん、部屋の出入口付近や 23 夏でも冷たい大理石 隙間風などの寒暖差がある場所は避ける。屋内は人に快適な温度に設定されているため、ウサギ自身が特別暑 いとか寒いとかを感じることは少ない。エアコン以外でも、夏季には冷したペットボトルや石をケージ内にいれ たり、ケージを風通しのよい場所に移動したり、窓を開けたりして冷却する。寒期にはペット用のパネルヒータ ーなどをケージの下に敷き、夜間はケージを毛布などで被って保温する。 なお、屋外飼育では直接に気温の影響を受ける。ウサギは自分自身で快適な場所を見つけ、移動したり、巣 穴を掘ってしのぐことになる。夏季は日差しを避けることができて風通しのよい場所を、冬季は反対に日当たり がよく、冷たい風が吹き込まない場所が確保できれば問題ない。夏季では日陰を設置しないと、熱射病になる ため注意する。大抵は巣穴を地中深くに掘って暑さを耐えしのいでいるが、飼育している場所にすだれなどを 設置して日陰をつくるようにするとよい。冬季では床材などを大量に敷いて暖をとらせるために利用させ、日中 は日当たりのよい場所に移動させるとよい。極度に寒い時は室内に入れる。 湿度に関しては、あまり気にする必要はないが、高湿度には弱い動物であるために梅雨の時期などは風通し をよくする。 表:環境条件の基準 〔実験動物施設基準研究会編.ガイドラインー実験動物施設の建築および施設.P53.清至書院より引用〕 温度 18-28℃ 湿度 40-60 % 照明 150-300ルクス (床上40-85cm) 騒音 60ホンを超えない (2)掃除 ウサギは尿臭や糞臭などの排泄物の臭いが特有で、個体によってはかなり臭うために頻回に掃除を行わなけ ればならない。不衛生な環境により引きおこされる疾病も少なくない。なお、常用される消毒剤は,市販品でも 多数でており、消毒の対象と目的によって種類と方法は一様でない。 【ケージ】 ケージは飼育方法(完全ケージ飼いか屋内放し飼い)が異なるため、それぞれ適した掃除を行う。共通して言 えることは、ケージの床やすのこの下に敷いてある床材である新聞紙、ペットシーツあるいは乾草や牧草は汚染 具合によるが、可能ならば毎日交換する。特に梅雨の時は、ウサギの苦手な高湿度になるために頻繁に行うほ うがよい。3-4週間毎にケージ全体やすのこを水洗いして日光消毒するとよい。すのこは交換して使用するため に2-3枚用意しておくと便利である。 【トイレ】 室内やケージ内に設置してあるトイレは、アンモニア濃度が高くならないように毎日掃除する。トイレ砂やペッ トシーツを交換するだけではなく、トイレ容器の水洗も毎日行うと清潔である。ウサギの尿は正常でもカルシウム の結晶尿であり、トイレ容器には白色あるいは黄色の沈着物が付着するが、酢で溶かしてから拭くと簡単に取れ る。掃除用のブラシやスパチャラなどを使って、こびりついた尿の結晶を取り除く必要がある。アンモニア臭、 および微生物の繁殖は相乗的な作用で、呼吸器疾患を好発させる。 【餌容器・給水器】 餌容器は給餌時に乾拭きする。これはペレットなど乾いた食餌を与える場合のことで、野菜など水分の多い餌 を与える時は、食後に水洗いして乾かす。ボトルタイプの給水器は水洗しにくいのが難点であり、水筒などを洗 うブラシを使用するとよい。吸口側に装着しているゴムの部分の水垢もふき取る。受け皿タイプの水入れは、ウ サギが肢を入れたりして汚染しやすいため頻回に水洗いする。手間はかかるが、熱湯消毒するとよい。 24 (3)食餌 ウサギは終生完全草食動物であり、野生の食餌は野草の茎、根、樹皮などで栄養が乏しく、繊維質を多く含ん でいる。飼育下では主に配合飼料であるペレットが給餌されているが、これが必ずしもよいと言えない。消化管 における諸要因のみを考慮するのでなく、草食のための歯の咬耗という要因も考慮しなければならない。飼育 下の食餌のメニューは、適切な量や栄養バランス、また必要とする栄養素をすべて含有しており、嗜好性が高く て吸収性が優れたものでなくてはならない。これらの食餌は短期的に要求を満たすだけでなく、繁殖や寿命の 点でも要求を満たす必要がある。ウサギ自身は非常に強い動物であるが、一方、消化器系統は非常にデリケー トであるため、急激な食餌の変化には注意する。具体的に飼育下では下記の表の食材を給餌するべきである。 表:ウサギの食餌のメニュー(◎常時給餌するもの ○時々給餌するもの) ◎ウサギ専用ペレット ○果物 ◎乾草、牧草 ○その他 ◎野菜、野草 ウサギは草食動物で消化管が長く、常時蠕動していなければならない。 そのためにも高繊維質、低カロリーである牧草や乾草の常時給餌が蠕動 運動に重要である。高繊維質である植物性食材であれば常時摂取しても 肥満になることは少ない。ウサギは本来、常に天敵から逃避しながら食 物を探索するという生態であり、必然的にカロリー燃焼にも繋がる。常に 食物が発見でき、年中摂取できるものは、やはり植物である。飼育下では 腐敗せず高繊維質である牧草や乾草などの食材は、なくなったら足してい き、ウサギは早朝と晩に食餌をする個体が多いため〔Cheeke 1987〕、しお 牧草・野菜・ペレット れやすい野菜は朝晩に確認して交換することが望ましい。ある報告では、 採食は15時から18時にかけて増加し、真夜中まで続き、午前2時までには終了する。その後に盲腸便の採食が 始まり、午前6時に最大となり、午前8時には終了する 〔Carabao and Piquer 1988〕 。しかし、これらのパターンは 食物の種類、年齢などによっても大きく異なる。基本的に乾草や牧草を中心に野菜、野草を常時、餌容器に入れ て自由に採食させ、ペレットは日に2回与え、他のものは時々コミニュケーションとして与えるべきである。ペレッ トのみを給餌しても量的に問題はないが、歯の咬耗や繊維質を十分に摂取することは期待できない。中には過 食する個体も見られるため、ペレットのみを給餌されている個体では、給餌量を確認しなければならない。一般 的に摂取量は体重の約5-15%と、各書物には記載されている。実験動物としての飼料としては、体重1.4-2.3kgの 個体で28.4-85.1gを要求するという 〔Canadian Council on Animal care 1969〕 。なお、種子類やペレット、そして 乾燥野菜などが混在したミックスフードは、この中で選り好みをするため、栄養素の不均衡になりやすい。 ウサギは本来夜行性であるため、飼育下では朝と夕方以降に活動を開始する個体が多い。給餌時間は朝と夜 を中心に考えることも大切である。しかし、この給餌の時間帯は個体差も見られるために一概には言えない。 間食はできる限り与えない、あるいはコミュニケーション程度やしつけの際に与える。もし与えるならば野草や 野菜、そして極少量の果物などが適している。スナックやクッキーなどの給餌は嗜好性が偏り、低繊維質である。 人が摂取するような炊いた白米や食パンなどは、咀嚼のためにも不適切で、栄養素の均衡を崩す原因にもなる。 特に非繊維質(澱粉質、果糖など)が大量であると消化器疾患の要因になるため、積極的に与える必要はない。 果物は水分も豊富であるが、果糖の影響による齲蝕を発生させる原因になり、嗜好性も優れているために好ん で選択し〔Cheeke 1987〕、牧草や乾草、ペレットを摂取しなくなる。少量であればりんごや柑橘類などが適して いるであろう。 ウサギは食餌に関しては、保守的で偏食が多いため、幼体時から多種多様の食餌を与える必要がある。しか し、加齢とともに保守傾向が強くなり、老体では食餌内容の変更は容易ではない。ウサギの食餌の変更は4-5日 以上、あるいは10日くらい要して行わなければならない〔Harkness et al 1989〕。腸内細菌叢は浸透圧、pHの変 化に敏感であり、内容も徐々に増量する必要がある。特に幼体ではその変化が起こりやすい。 【牧草・乾草・わら類】 牧草や乾草は床材としても使用され、常に少量であるが摂取している。これらの植物は地域や季節により栄 養学的な評価が大きく異なる。食物繊維が豊富に含まれ、低カロリーで理想的な食材の一つである。牧草には 25 ビタミンAが豊富に含まれ、これらを乾草にすることは、植物および微生物 の酵素の作用を防止できるようになるまで水分を減少させることである。 青刈りの牧草の水分含有量は65-85%であるが、乾草は15-20%である〔須 藤 1981〕。乾草は牧草を乾燥させるために、カロチンやビタミンCが損失 されるが、自然乾燥(天日干し乾草)であれば日光照射によりエルゴステ ロールがビタミンDに変換することも知られている 〔須藤 1981〕。 市販でも牧草、乾草は多くの種類が見られるが、主にマメ科のアルファ ルファとイネ科のチモシーの2種類が多い。高繊維質である本食材は疾病 牧草 あるいは老体には有用な食材である。それらの特徴として、マメ科である アルファルファは蛋白質とカルシウムが豊富であり、嗜好性も優れている。 しかし、大量に与えると鼓腸症の恐れがあるので注意する。イネ科であ るチモシーはマメ科と比較して蛋白質やカルシウムの含有量が少なく、ま た栄養価も低く、嗜好性は劣る〔須藤 1981〕。しかしマメ科と比較すると 高繊維質であり、ウサギの体重の減量や消化管蠕動を促進させるために 最適である。カルシウム含量が少ないため、尿路結石の予防、腎不全の 個体の食餌としてもよい。なお、市販では牧草の刈り取る時期で、一番始 めに刈るものを一番刈り牧草、その後生えて来る物を刈るのが2番刈り牧 わら・野草 草、さらに穂が出きる前に刈り取ったものを3番刈りと呼ばれている。一般的に2番刈り牧草は、栄養価は低く細 く柔らかい。3番刈りは穂が含まれるためカロリーはやや高めとなる。 わら類は種実を脱殻して取り去った後の植物の茎と葉よりなるものである。成分は高繊維質で、リグニン(リ グニンとは本来不溶性食物繊維であり、植物の細胞壁を形成する成分の一つでシイタケ、ニンジンなどに含有さ れている。悪玉コレステロールを減少、善玉コレステロールを増加させる働きがある他に、抗菌、抗ウィルス作 用がある)含有量が高く、栄養価は低い〔須藤 1981〕。イネ科のわらはマグネシウム、リンが少なく、マメ科のわら はカルシウムが多い〔Mcdonald et al1973〕 。 牧草、乾草は長期保管に難点があり、腐敗したり、虫がついたりすることもあるため、可能な限り新鮮である ものを供餌する。特にカビが生えた乾草は、ウサギに悪影響を与えることも考えられる。必要以上の長期間保 存はビタミンの酸化による不活や異臭を放つ原因となるため注意する。 そして、乾草を圧縮したものがへイキューブである。ヘイキューブはペレットと異なり乾草が粉状になっていな いため、乾草と同じ働きがある。切断長が1cm以上であれば、咬摩や栄養素も、長い乾草と同じ繊維効果があ ることが確かめられている。 ◎マメ科(アルファルファ、クローバーなど) 蛋白質が高く、開花期の初めに刈り取ったものは20%以上である。また、マグネシウムも豊富で重要な供給源 となる 〔須藤 1981〕。 (アルファルファ) 多年生のマメ科牧草で、他の多くの一年生の草と比較して、生育の ための費用が少なくて済むこともある。また、窒素肥沃化を必要とし ないために農家にとっても理想的である。多くのウサギ専用ペレット の主原料に使用されるアルファルファミールは人が直接採食したり、使 用することもない。食物需要にも競合せず、安定供給が可能で安価で あることも利点でもある。 アルファルファは大豆の2-4倍の蛋白質を含有し、ウサギにとって吸 収性が優れている。特に成長期に与える蛋白質源として有用である。 カルシウムとカリウムの含有が豊富で、不溶化繊維質は腸炎の予防に アルファルファ もなる。ビタミンAも豊富で、乾燥アルファルファは黄色トウモロコシやニンジンの4-60倍以上のカロチンを含 有し、嗜好性も高い。しかし、アルファルファをはじめとるすマメ科植物は尿色を濃くし、有色化する傾向に ある 〔Cheeke et al 1987〕 。 26 (クローバー) クローバーはマメ科の植物で、ウサギに供給される栄養素がアルファルファに多少類似している。クローバ ーも生や乾草ともに、嗜好性が高いことが特徴である。蛋白質、TDN(可消化養分総量)およびカルシウムに 関しては、アルファルファの代用としてクローバーを使用することも可能である。かび臭かったり、埃っぽい ことが多いこともあるため注意する。 ◎イネ科(チモシー、イタリアングラス、オーチャードグラスなど) イネ科の植物は多年生で葉や茎は堅い。細胞壁をつくるセルロースを主体とする繊維分と、葉の表皮細胞に 分布する珪酸とよばれる結晶のためである。イネ科は生育時期などの環境により栄養価が変動しやすい特徴が ある 〔Mcdonald et al 1973〕 。 マメ科と比較して高繊維、低カルシウムであるため、繊維質を必要とする消化器疾患、あるいは減量する際に 適している。また、低カルシウムを目的とする尿路結石、腎不全のウサギに適する。 (チモシー) 多年生のイネ科牧草で、イネ科牧草中耐寒性が最も強く、採草、放 牧兼用種として利用されている。1番刈りと2番刈りが見られるが、1 番刈りは茎が太く水分含有も多く、2番刈りは細い。一般的に1番刈り のほうが流通量が多い。和名はオオアワガエリと呼ばれる。 (グラス) グラスはアルファルファとクローバーのようなマメ科の植物より栄養 価は多少低くなる。蛋白質、カルシウムおよびビタミンにおいてより低 チモシー い傾向がある。イタリアンライグラス、オーチャードグラス、バミューダ グラス、スーダングラスなどが販売されている。 【野草・野菜】 嗜好性のよい野草、野菜などを自由に摂取させると、栄養の効果を下 げずにペレットの消費量を減量することができる。多くは水分含有量が非 常に高く、ウサギの必要栄養素を摂取するには、大量に消費しなければ オーツ ならないという欠点もある。 特に野菜はペレットを食べ飽きた個体や疾病中の個体の食欲を刺激するために有効な場合がある。新鮮な状 態で給餌しないとしなびやすく、ケージの床に落ちて糞尿で汚染される。 ◎野菜 コマツナ、チンゲンサイなどの緑黄色 野菜を中心に給餌する。緑黄色野菜はビ タミンK、ピリドキシン、パントテン酸、ビ オチン、葉酸が豊富である。野菜やアル ファルファのビタミンAはカロチンであり、 レチノールに比較して効力は劣るが、活 性酸素を抑える抗酸化作用を持つ。しか コマツナ キョウナ チンゲンサイ クレソン し、多くのウサギは食感の優れたレタス、 キャベツ、ハクサイなどの淡色野菜を好 む。淡色野菜はビタミンAなどの栄養価 が低く、咬耗が少なくても摂取することが 可能であるために不正咬合になりやすく、 多給することは避けたい。淡色野菜の多 くはその80-90%が水分であるために、軟 27 便や下痢を引き起こすこともあるので注意して与える。また、ウサギはニンジンが好物であるといわれている が、ニンジンをはじめとする根菜類は水分含有量が多く (75-92%)、繊維質が比較的低い特徴がある (乾物あ たり5-11%) 〔須藤 1981〕。給水器から水分を摂取し、野菜からも水分を取ることにより、軟便や下痢を引き起 こすこともある。特に幼体では糞の状態を観察しながら与えなければならない。そして、大量のキャベツの 摂取は甲状腺腫が発生するとも言われているが、発生頻度は低いと思われる (アブラナ属の毒性参照)。キャ ベツをはじめとするアブラナ科の植物は乾物含有が低く (約14%)、蛋白質(約15%)、水溶性の繊維質(約2025%) 、およびカルシウム (約1-2%)が高い特徴がある 〔須藤 1981〕。尿路結石や腎疾患のウサギではカルシウ ム含有が少ない野菜を与えるべきである。 ★アブラナ属の植物の毒性 アブラナ属は茎、根菜など全てにコイドロゲン物質を含有している。本物質はヨウ素の甲状腺への取り込 みを阻害する。本属の植物は、反芻動物では溶血性貧血を起すが、ウサギでは不明である。これらのアブラ ナ属の食餌を乾物摂取量の約1/3以下に制限することにより、発生を予防するという 〔須藤 1981・川島 1995〕 。 (給餌しても大きな問題がない野菜) ニンジン、ブロッコリー、パセリ、セロリ、カブの葉、チンゲンサイ、大根の葉、コマツナ、 サラダ菜、さつまいも、セロリ、カリフラワー、みつばなど (不適切な野菜) じゃがいもの芽と皮、生の豆、だいおう、葱、玉ねぎ、にらなど ◎野草 野生のウサギは本来、苦い植物を摂取しているといわれ、人が考えているような嗜好性とは限らない。しかし、 飼育下の個体は苦い植物を苦手とする個体が多いようである。農薬、イヌやネコの排泄物、排気ガスの影響を受 けていないような野草を採取して、給餌することもよい。ハーブはその種類や薬効によって異なるため、成分な どを確認して選択して少量のみを与えることに止める。 (適切な野草) 野草は自然界でも通常摂取されているものもあり、薬効も期待できるものも多い。タンポポ、ノコギリソウ、 ハコベ、オオバコ、レンゲ、シロツメグサ、クローバー、フキタンポポ、ペンペングサ(ナズナ)、アルファルファ、 オーチャードグラス、イタリアングラスなどが問題なく給餌されている。そして田畑や原野の雑草であるメヒシ バ、ツルマメ、ハギ類、メドハギ、カワラケツメイ、ヤハズソウ、ススキ、マルバヤハズソウ他のイネ科牧草と大 差なく、家畜の嗜好性も良好なので粗飼料としての価値は高い。雑草として繁茂し、手短な飼料として利用 できる。 (中毒を起こす可能性がある植物) 文献では次のような植物で中毒の報告がある。トウワタ属のAsclepias eriocarpa (wooly-pod milkwoodある いはbroad-leafed milkwood)は葉と茎の乳状液に毒性があり、衰弱あるいは四肢と頸の筋肉の麻痺、流涎、被 毛粗剛、メレナなどが見られる。頸があげられないため、本病は“ヘッドダウン病” といわれる。ラジノクローバー は、エストロジェンが含有されているために不妊症を引きおこす可能性がある。ヒレハリソウ (コーンフリー)、キ ンポウゲ、アメリカボウフウ、キョウチクトウ、エゾユズリハでも毒性の報告がある〔水野1984・Cheeke et al 1987・Cheeke 1987〕。そして以下の植物も一般的に中毒がおきる可能性があるので注意する。 アサガオ、アジサイ、アマリリス、イチイ、イラクサ、イヌホウズキ、ウルシ、オシロイバナ、オトギリソウ、カポック、 カジュマル、カラジュール、ケシ、キョウチクトウ、クリスマスローズ、ゴムノキ、サツキ、サフランモドキ、サトイモ、 ショウブ、シャクナゲ、シダ、ジンチョウゲ、ジギタリス、スイセン、スズラン、セントポーリア、西洋ヒイラギ、チ ョ ウセンアサガオ、ツツジ、ツゲ、デルフィニウム、ディフェンバギア、ドクニンジン、トリカブト、ドクゼリ、トチノキ、 ナツメグ、ヒヤシンス、ベンジャミン、ベゴニア、ホオズキ、ポインセチア、マロニエ、ヨモギギク、ワラビなど 28 【ペレット】 ウサギにとって理想のペレットは、栄養素必要条 件が満たされていることである。これらの必要条件 についての情報は、全米研究会議(NRC:National Research Council)出版の栄養素必要条件から得る ことが可能である。NRCは、多くの家畜の必要栄養 素についての情報を調査し、評価するために委員 会を確立し、科学者と動物の栄養に関して認められ 維持用ペレット 高齢用・低Ca食 低Ca食 成長期用 維持用 高齢用 た専門家で構成されている。報告書では、他の動 物と比較するとウサギの栄養必要条件は、制限され た条件でしか研究されていない。多くの場合、調査 には少数の動物と飼料(食餌)が使用され、飼料は 普及している商用の飼料とは異なるもので、利用で きるデータは信用に多少欠けると思われる。しかし、 多くのペレット製造会社はこれらの栄養素について の情報を利用している。 身体の大きさや消化器機能によっても、栄養必要 条件に相違が生じる。ネザーランドドワーフのような小さな品種は大きい品種と比較すると、低いエネルギーで 維持している。寒冷な気候では、防寒のために更にエネルギーを必要とする。小型種や授乳期のメスの場合は、 高繊維質である食餌のみでは必要エネルギー分を摂取しきれない可能性がある。このような場合、衰弱や栄養 障害のために死亡することもある。 本邦でも、近年多種のウサギ用ペレットが市販されている。ウサギによって嗜好性が異なり好き嫌いも見られ る。形状は円柱状あるいは球状のもの、ハードタイプやソフトタイプまで様々な硬度のペレットがある。嗜好性に 偏ったもの、栄養的に考慮したものまで様々である。一般的にはソフトタイプのペレットのほうが嗜好性が高い が、理想は適当な硬度があり、長さが1/4インチ(6.3ミリ)以下、直径は3/16インチ(4.8ミリ)以下が理想ともされ る。形状が大きいと離乳中のウサギなどは、一齧りした後、残渣をケージの中で転がして、多くを食べ残してし まう。柔らかすぎると軽い咬合力で砕けて咬耗をせずに嚥下するために、不正咬合の要因になりやすい。また、 近年は良質の専用ペレットが多社から開発され、ウサギの食生活についての飼育者の意識が高まってきたため、 栄養バランスの良い食事を給餌するという意識も増えはじめた。成長ステージ別のペレットも見られ、ウサギの 発育とともに変えていくのが望ましい。 【授乳中、離乳期、離乳後の食餌】 母ウサギには妊娠中から多彩で栄養価が高く、カルシウムとビタミンの含有の多いものを給餌する。大量の母 乳を分泌しなくてはならないため、多くの水分も必要とする。 ペレットを主食としている場合は特に出産から離 乳までは水を切らさないようにする。 【新生仔の食餌】 ウサギの新生仔は生後胃内細菌叢を形成できず、ミルクオイル(育仔・授乳参照)によって消化管内が制御され ている。基本的に新生仔の食餌は授乳中は母乳で十分である。しかし、4週目頃から母ウサギの乳量が減少し て離乳期に入る。したがって、ミルクオイルが減少し、自らの胃や腸の細菌叢が形成される6-8週までは母ウサギ と一緒に飼育した方が無難である。小量ずつ母ウサギと一緒に食餌を採食しているようなら心配はない。採食 することが困難であるようなら、柔らかい野菜やペレットを砕いたり、ふやかしてたりして与える。ウサギ専用の 流動食も販売されている。 【飲水】 「ウサギは水を飲ませると下痢して死ぬ」 という迷信が広まっているが、基本的には水分が必要である。給水ボ トルは初めは飲み方が分からない個体もいるため、飲水を確認させて飲み方を教えることもある。口渇時に、口を 給水器の飲み口に近づけて水を少し出してやると覚える。一般的にウサギの飲水量は約120ml/体重kg〔Cheeke 29 1994〕、50-100ml/頭/日 〔Brewer and Cruise 1994〕 などと報告され、他の動物と比較して多い〔Donnelly 1997〕。 実験動物では60-140ml/体重kgという報告もある 〔Canadian Council on Animal care 1969〕。多飲により下痢を 呈するようなら控えめにし、野菜からも水分を吸収できるため多給した時は水を加減してもよい。野菜を多給する と全く飲まない個体もいる 〔Cheeke 1987〕。主食がペレットの場合は必ず水を与える。 (4)ケア 愛玩目的のウサギは実験動物と異なり、飼育者とのコミニュケーション として、給餌などの世話以外にも精神的なつながりを持たせるために、 様々な接触を行う。ウサギは愛情深く活発な動物であり、信頼関係を保 てば素晴らしいペットとなる。ウサギと人の関係は、健康面でも大きな影 響を及ぼし、精神的な問題が積み重なると、ストレス反応により心因性脱 毛や下痢などが見られる。重篤になると食欲不振、体重減少が見られ衰 弱する。さらに免疫低下により、日和見感染を起こし様々な感染症を引き 起こす。 咬傷 また、ウサギは社会生活序列を営む動物であり、ウサギ同士でもその 序列を保つ。その序列は飼育者あるいは同居しているウサギ以外の動物とも形成することもある。上位の者に は従順であり、下位の者には攻撃的になる。一般的には下位の者にはグルーミングを要求したり、噛み付いたり する行動が見られる。序列を持ったウサギ以外の動物が野生での捕食動物であるイヌやネコの場合でも、ウサ ギはそれらに寄り添い、一方、イヌやネコも捕食行動を見せることはない。 しかし、フェレットに対しては特別な反応を示すことが多く、序列を形成することは難しい。 ウサギは本来好奇心が強い動物であり、特に幼体では環境の周囲に対して大変興味を抱き、探索するような 行動が見られる。品種や個体によって異なるが、ケージの外に出して遊んだり、人に抱かれたりする必要がある。 その性格は個体差が大きく、人に馴れる程度も異なり、抱っこや撫でられることを嫌う場合もある。イヌのよう に寄ってきたり、ネコのように膝の上で甘えてくれるとは限らない。人に馴れていないと、死に物狂いで抵抗し、 抱かれることが好きではない個体もいる。人との接触がストレスになることも充分に考えられるため、その程度 は様々である。 探索行動は時にはカーテンや家具をかじったりもすることも見られるため、ケージから外に出す時は、室内で あっても必ず目につくように注意しなければならない。観葉植物による中毒、火傷、落下事故などを注意する。サ ークルなどを設置してその中で遊ばせることもよい。屋外に出すこともよいが、植物や重金属などの中毒、イヌ、 ネコによる咬傷の発生が好発するため、人の目につく範囲で出してやる。 【運動・活動】 ウサギは本来夜行性であり、飼育下でも早朝や夕方以降に活発に活動 する個体が多い。飼育者の多くが夕方や夜に自由な時間が取れるならば、 この時間帯に目の届く範囲で運動させたり、遊んでやるとよい。 ウサギの運動や活動量は成熟するにつれて変化する。本来は活発な動 物で幼体は好奇心旺盛である。特に幼小期は遊び好きで、興奮して走り 回ってジャンプをし、同時に回転するような動作を示す。これを「Happy hops」、 「Binkies」などと呼ぶ。また、噛んだり、掘ったりすることもある。 小さい物であれば切歯で拾って投げることもする。オスは特に縄張り確認 ケージ外での遊び として、尿や糞によるスプレーや下顎を物や人に擦りつける行為(チンマ ーク chin mark) を行う。しかし、老体になるとこのような活発な行為は減少する。 ウサギの運動量の最低限これだけはという時間制限は特にない。ケージの外に出ても、ずっと走り回ってい るわけではなく、寝転んだりじっとしている時間の方が長いことが多い。ウサギは部屋の一部あるいは部屋全体 をケージの外の自分の縄張りとして認識しているため、それより外には出ようとはしない。活発でない個体では、 運動させなければというのではなく、息抜きや飼育者とのコミュニケーションをとるくらいのつもりで、1日1回ケ ージから出して30分から2時間位遊ばせるとよいかもしれない。このような時におやつなどを与えると躾にも有 用である。 30 ◎屋内で遊ばせる時に注意するもの (電気コード・電話線) 齧ることで感電、漏電するので危険である。ウサギが噛み切った電気コードが原因で出火し、火事になっ たという例もある (ペット火災) 。コード類はまとめて高い位置を這わすか、カバーをかけるとよい。 (ドアの開閉・人の足元) 人の後ろをついて歩いたりするため骨折が多発する。踏まないように足元には充分注意する。 (高所) 双眼視でなく立体視が苦手であるため、物に対する距離などの計測ができない。したがって、高い所から 飛び降りたりすることがある。急に驚くと跳躍するため、決して高い所には置かないようにする。飛び降りに よる骨折や脱臼を回避する。 (異物摂取) ビニール製品や発泡スチロールなどが問題となるが、排出されれば問題はない。排出されないと胃に貯 まり閉塞がおきる可能性がある。タオルや毛布なども注意する。消化できないものではないが、観葉植物の 中毒にも気をつける。 (家具・壁) ウサギは家具や壁紙を齧る行為が通常見られる。木製であれば摂取しても大きな問題は起こらないが、ベ ニヤ板では接着剤を使用しているため注意する。壁紙などは有害物質を含んでいるために避けるべきであ ろう。 (イヌ ネコ) イヌやネコはウサギにとって大変危険で、一噛みでウサギは死亡することもある。特に幼体は襲われやす く、屋外では野良犬には注意する。 ◎身体的接触 基本的に人に抱かれることは好まない。幼体から人に抱かれたりせず接触がない個体は、一般的に触られ ること自体に抵抗があり、人に恐怖心を持った馴れないウサギになる。愛玩目的で飼育されたウサギであれ ば、人と交わって馴れたウサギにするべきである。ブラッシング、爪切り、あるいは投薬など様々な面でも楽 になる。 ウサギの飼育導入当初は多くは幼体であり、この時期は好奇心が大盛で、人への恐怖心も少ないために接 触 が 容 易 で あ る 。生 後 2 6 - 4 2日 齢 で 離 乳して 人と接 触した ウサ ギ が 、最も馴 れ るという報 告もある 〔DerWeduwen and McBride 1999〕 。 ウサギは好奇心が旺盛で探索する習性があるために、部屋で放していると、自然に寄ってくる。寄ってくる ようになれば、撫でてやることで少しずつ信頼関係を築く。しかし、成体や老体では警戒心を持ち、馴れる までには時間を要する。時間をかけながら、環境あるいは人に対する好奇心への延長で、接触されることの 恐れを取り除く。 ◎表現 ウサギは比較的無表情であるが、実際は表現豊かな動物である。仲間に対して愛情深く忠実な部分をも つ。自分をかわいがってくれる飼育者、仲間と認識したウサギなどに対して愛情表現を行う。例えば、人に 対して足元に寄ってきて、下顎や顔を擦りつけたり (チンマーク chin mark)、足元をくるくる回ったり、ウサ ギに対してはグルーミングを行う行為が見られる。実際はチンマークは社会性の中で下位とみなした個体に 対して行うべき行為であり、グルーミングも下位個体から上位個体にするべきものであり、これらの行為が愛 情の印と見受け間違えられている可能性もある。 見慣れない人やウサギに対して、あるいはリラックスしている状態を邪魔さたり、恐怖を感じると切歯で噛 31 んだり、耳介を後方へ倒して「ブーブー」声を出して怒っ て、噛みつこうと威嚇姿勢をとる。あるいは突進したり、 後肢で地面を叩く行為(スタンピング stamping)が見られ る。人への攻撃性は相性だけでなく、飼育下の社会性の 中での優越性を示す行為の結果であり、特にオスで顕著 である。成熟後にそのような行為が頻繁に見られること が多く、内分泌的な要因が関与していると思われる。反 対に恐怖を感じた時は恐れおののいて、微動たりともせ ず、固まって歯ぎしりをするウサギも多い。個体によって 探索行動 性格も大きく異なる。 警戒 時に飼育者への意志表示として、餌容器や玩具を切歯 で拾って投げて音を立てたりもする。これは愛撫あるいは餌の要求 であることが多い。飼育下ではまた、複数の飼育者の中での特定者 だけを噛んだり、噛み付くウサギも多いが、これは悪相性なのか、あ るいは下位の個体として認識して優位にたっている証拠である。反 対に人の指を非常に舐めるウサギも見られ、これは愛撫を求めてい る時とも言われているが詳細は不明である。外鼻孔をピクピクさせ る動きは「鼻でウインクする」などと言われ、外部の雰囲気を感じ取 っているのか、ジェスチャーであるのか不明である。 恐怖 【換毛・ブラッシング】 被毛は大きく春と秋の2回、冬毛から夏毛へ、そして夏毛から冬毛へと 換毛が見られる。飼育下では2回以上換毛している。時期や期間は個体 によって異なるが、ほぼ全身の被毛が抜け換わる。まとまって抜ける個 体も、少しづつ抜ける個体もいる。大抵は自らグルーミングしたり、複数 飼育の場合は、相性が良ければお互い、あるいは優位個体が下位個体 からグルーミングをされる。ウサギは前肢の掌側面を舐めて、耳介や顔 をきれいにし、全身の被毛を舌で整える。その結果、ウサギ自身が被毛 を舐めとって飲み込んでしまうことが多く、毛球症になる恐れがある。ウ サギはネコのように、毛球を吐き出すことができないため、ブラッシング ブラッシング を行い、特に換毛期には頻回に行うことが必要となる。特にアンゴラ種 などの長毛種は、毎日行なわなければならない。ブラッシングはスリッカ ーブラシ、ラバーブラシ、豚毛ブラシ、両目ぐしなどがあるので適宜に選 択する。短毛種であれば豚毛ブラシやラバーブラシが最適である。また、 長毛種では、口元の被毛は採食と共に飲み込んでしまう誤嚥を防ぐため にも、常にカットしておくとよい。 【入浴・シャンプー】 体臭は少なく、自分で被毛を梳いて手入れを行う習性があるため、入 浴やシャンプーの必要がない。 高湿度は苦手で被毛も撥水性であるため、 シャンプー 行わない方が賢明であるとも言われている。飼育下では入浴、シャンプ ーという行為に対してウサギが興奮せず、その後乾燥することが容易で あれば行っても問題はない。下痢などで肛門付近が汚れた場合や、換毛 期においては有効と思われる。ドライシャンプーは消臭効果もあり、これ もストレスにならなければ問題ないであろう。 【爪切り】 野生では地中に巣穴を掘ったり、走り回ることによって自然に爪が削 られて長く伸長することはない。飼育下ではケージから出すとしても、 32 爪切り 絨毯、カーペット、フローリングの上にいることが多く、爪が過度に伸長することがあるため、屋内飼育のウサギ では1-2ヵ月に1回くらいの間隔で爪切りの必要がある。爪の中に血管が通過しているため、その先端を切る。伸 張すると絨毯などに引っ掛かり折れることがある。イヌやネコなどと同様に、自宅でも切れるが、暴れて骨折や 脱臼などを起こすこともあるため注意する。人用の爪切りは、割れることもあるために推奨できず、イヌやネコ 用の爪切りで小さいサイズのものを使用するとよい。慣れないうちは、抱く係と切る係とに分かれたほうが安全 であり、切る際に怯えてウサギが足蹴りなどをすることがあるため、暴れないようにしっかりと抱く。ウサギは疼 痛を感じるというよりも、切られる衝撃の感覚を嫌うようである。一人で行う際は、前肢の爪を切るときには胴 体から後肢にかけて、後肢の爪を切るときには、前肢から胴体にかけてをバスタオルなどをきっちりと巻付けて 切るとよい。 【歯の磨耗】 ウサギは草食動物で高繊維質の食物を摂取する。切歯を主に前後、側 方に可動させて食物を切り取り臼歯を咬耗させる。咬耗のために臼歯の エナメル質は摩耗され、なおかつ同時に切歯も摩耗される。一般に市販 されている歯を摩耗させるというスナックタイプの餌も歯を摩耗させるに は、有用でない商品も多い。摩耗性の高い繊維質を多く含む食材、代表 的な食材として牧草や乾草が適切である。 【毛球予防】 牧草を固めたヘイキューブ ウサギの換毛期は春先と秋に多く見られる。この時期は毛が抜けて飼 育者は宙に毛が舞って困ることが多い。ウサギは几帳面に毛繕いをする が、ネコと異なり消化管の中に毛球が発生しても嘔吐ができず、幽門が小 さいために消化管を閉塞する。誘因として低繊維食による胃腸機能の低 下、ストレスによる過度のグルーミング、少回数の給餌による一時的な胃内 の蓄餌などが考えられる。被毛が混じるような糞、それによって被毛で連 なる糞が見られるようであれば、予防処置を積極的に行わないと毛球症 になる恐れがある。予防処置を以下の表にまとめてみた。 パパイヤのタブレット <毛球症の予防> ◎ブラッシングを毎日行う。自ら梳いて被毛を嚥下することを最小限に する。 ◎グルーミングの回数を減少させ、ストレスを回避させるために運動や 遊ぶ時間を増やす。 ◎繊維質の多いペレット、牧草や乾草、野菜、野草を多給させ、消化 管の運動を活発にさせる。 ◎パパイヤ酵素、パイナップル酵素剤を投与する。ウサギの栄養補助 生のパイナップル 乾燥フルーツ 食品として蛋白分解酵素(proteolytic enzymes)は、毛球形成を促すムコ蛋白質(粘性蛋白質) を消化する ため、胃腸に溜まった毛球を細かくし排泄させる。パイナップルとパパイヤには、それぞれパパイン、ブロ メラインという蛋白質分解酵素が含まれ、非加熱の生ジュースを投与することが推奨されている。蛋白分解 酵素を含有する乾燥フルーツやペレットも販売されている。他にも消化酵素であるアミラーゼ、リパーゼ、 セルラーゼ、ヒドロラーゼ、ペプチ ドヒドロラーゼ、プロティナーゼ な どの消化酵素剤も有効であるとい う。しかし、強酸性である胃内で の酵素活性は有用性が低いと疑問 視されている。 ◎鉱質油のワセリン、グリセリンが含 まれる緩下剤である毛球予防(除 毛球予防除去剤 33 去)剤を投与する。成分としては、流動パラフィンや白色ワセリンが主で、要は潤滑剤である。市販されて いるウサギ用、以外にもネコ用の商品でも代用できる。油性潤滑成分が毛球をほぐし流出させる。しかし、 非常に味を嫌がるウサギが多い。 ◎頻回の給餌により、常時胃腸を活発にして、一時的な胃内の蓄餌を避ける。 【屋外飼育】 市販の小屋や手製で小屋を作製する。屋外飼育は常に目が届かないた め、温度、湿度、照明などに注意する。野生では土を掘って巣穴を作る ため、床はできれば土のほうが理想的である。冬は床が冷たくなるため、 乾燥やわらを大量に入れる。隙間風が入らないように作るか、別に巣箱 を入れるとよい。ウサギは湿気に弱いため、水はけがよくなるように工夫 する。四肢の負担を軽くするためにも、すのこやわらを敷く。本来コロニ ーを形成して生活する習性があるため、複数での放し飼いも十分な広さ があれば可能である。グループはオス1頭に対してメスは6-8頭が最適であ 屋外飼育のケージ例 る。 屋外の場合の危険として毒性のある植物、例えば野草を食べさせるのはよいが、有毒であるものを摂取させ てはいけない。イヌやネコはウサギにとって大変危険で、一噛みでウサギは死亡することもある。屋外では野良 犬には十分に注意する。 34 参考文献 ■浅野敏彦.伊藤勇夫.岩城隆昌他.2実験動物の特性.光岡知足.波岡茂郎他編. 獣医実験動物学.東京:川島書 店;1990 ■稲場俊夫.森純一.鳥居隆之.超音波エコー画像診断によるウサギの妊娠診断.日本獣医学雑誌.1986;48:1003-1006 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