日本病院会雑誌 病院学 2004年3月号

日本病院会雑誌
目
2004年3月号
病院学
次
グラフ:富士吉田市立病院……………………………………………………………………… 7
15
巻頭言:「医師卒後初期臨床研修制度の義務化について」…………… 井手 道雄
<第53回日本病院学会>
シンポジウム 「病院改革と医療 IT」……………………………………………………… 17
関
英一・塩谷泰一・倉知
圓・近藤達也/座長
井上通敏
<医療安全対策のためのセミナー>
講演 「医薬品における医療安全対策と実施状況」………………… 吉澤 潤治
59
<図書研究会>
講演 「図書館サービスと著作権について」…………………………… 松村多美子
73
実務講座 「病院機能評価新評価体系を初受審して」……………… 奥出 麻里
78
<第53回日本病院学会推薦演題>
(1)「バランス能力測定と転倒予防トレーニングの有効性」……… 木村郁男他
―ハイリスク患者を中心とした試み―
(2)「臨床工学技士が施行する機器メンテナンスの経済性」……… 井筒宏之他
―メーカーとの比較・検討―
(3)「病院における,人事・給与・就業業務の統合システム化
への取組みについて」………………………………………………… 古澤 洋他
(4)「医師のインシデントレポート提出状況」…………………………村越昭男他
―与薬に関する報告―
(5)「病院における環境に配慮した食品ゴミの処理について」……山本昭彦他
(6)「リンクナースによる CV ラインサーベイランスの効果」… 大村果代恵他
(7)「産科病棟における変則2交替制勤務への導入」……………… 山口和美他
病院経営管理者養成課程通信教育「通教月報」巻頭言…………………………………
<寄 稿> 「消毒薬クレオソート内服の危険性について」…………… 海老沢 功
<紀 行> 「第3回近代医学のルーツを探る会」…………………………中西淳朗他
85
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―長崎の旅の印象記―
<ようこそ日病へ・新入会員の紹介>
谷田病院(熊本県)
「常に患者様の視点で」……………………………谷田理一郎 131
<一番町だより>
平成15年度第9回定例常任理事会議事抄録(平成15年12月13日)………………… 132
<掲示板>
(1) 独立行政法人福祉医療機構貸付利率の改定について…………………………… 142
(2)「選定療養及び特定療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」
第4号の2ロに該当する医薬品について …………………………………………… 144
(3) 保健師助産師看護師国家試験問題の公募について……………………………… 149
第54回日本病院学会開催案内 ……………………………151
診療報酬改定内容決まる …………………………………157
診療報酬改定に伴う説明会の開催について …………168
3月研究会のお知らせ ……………………………………170
巻 頭 言
医師卒後初期臨床研修制度の
義務化について
井
手
道
雄※
わが国は欧米の先進国よりも早く超少子高齢化社会へ移行しており,国の人
口動態報告によるといよいよ2007年から総人口の減少が始まり,2025年には高
齢者人口のピークを迎え,その後は減少していきます。どのように短く考えて
もあと18年後までの社会保障制度の変革の時間軸は決まっていると言えます。
今後大量に移民を受け入れなければその後の人口減少は止まらず,今直ぐに少
子化が改善されても生産年齢人口層が増えるのは2025年以降となります。
世界ではじめての超高齢化社会の時間軸が定まっているにも関わらず,昨年
の年金改革案のように,財政破綻や受益者負担ばかりが強調された目先の問題
だけが論議されているように思います。
2003年の死亡数は102万5,000人となり100万人を超えました。今後毎年100万
人前後の人口が減少することは,毎年一つずつ小さな県が減ることを,一つず
つ大都市が消滅することを意味します。より具体的には,国立社会保障・人口
問題研究所の発表によると,0歳から14歳の年少人口の割合は全国3,245ある自
治体のうち2000年の14.6%から2030年には11.3%に減少し,年少人口が10%未
満の自治体は2000年の3.2%から2030年には実に31.4%と急増します。
一方,65歳以上の老人人口は2000年の17.4%から2030年には29.6%に増え,
全自治体の99.6%で老人人口は増加し,その比率が40%強となる自治体は2000
年の2.3%から2030年には30.4%と増えます。全国の自治体で2005年から2010
年で2,540自治体(78.3%)で,2025年から2030年では実に3091自治体(95.3%)
で人口が減少するとすでに予想されています。
人口数,人口構成率が大きく変化することは,社会のあらゆる分野で急速に
変革が進み,今後の社会の在り方まで影響します。このような大変革が急速に
進んでいるにも関わらず,保健・医療・福祉・年金を含む基本的人権の根幹に
ある社会保障制度全体の将来への具体策,言い換えれば,今後,国はどのよう
な社会を目指すのか未だに明確には示していません。また,国民も今後の社会
保障制度,今後目指す社会についてのマクロ的な方向性について関心が低いよ
うに思います。このままで進めば高負担低福祉で,社会保障は有名無実の国に
なるように思えてなりません。
いずれにしても,現在日本の社会全体が大きく変化しており,当然,保健・
医療・福祉に関する教育を取り巻く環境も大きく変化しなければならない時で
※いで
みちお
(社)日本病院会常任理事
聖マリア病院理事長・病院長
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す。その点では今年度から始まります2年間の医師の卒後初期臨床研修制度の
義務化とその中心となる全人的教育と救急・プライマリ・ケア,スパーローテー
ションの研修,そして平成17年度から正式に全国共用試験後に始まる医学生5,
6年生のクリニカル・クラークシップは医学生の大半が将来進む臨床医の教育
研修において極めて重要な改革だと思います。
昭和40年頃から昭和45年頃まで続いた医学部学生運動(青医連,インターン
制度反対,医師国家試験ボイコット,大学院,博士号ボイコットなど−丁度私
たちの世代にあたりますが−)によりインターン制度が廃止され,卒後2年間
の医師卒後初期臨床研修制度に代わりましたが,その後の医師の卒後研修・教
育はほとんど変わらず36年経過しました。医学部紛争の時と現在では大きく環
境が変化していますが,今病院が大きく変わっていると同様に医学教育,特に
臨床医の教育も変わらねばならないと思います。
初期臨床研修制度の義務化を,今まで続いてきた研修制度がたんに義務化に
なったに過ぎないと捉えるか,わが国で続いてきた臨床医の教育が根本から変
わると捉えるかでは今後の病院のあり方も大きく異なったものになるように思
います。何も現在までの医学部の教育を否定する訳ではありません。今まで果
たしてきた大きな成果を認めた上で今回の研修・教育制度改革に取り組まねば
ならないと思っています。
最後に,当院の初期臨床研修プログラムの16名募集に対し140名の応募があり
ましたが,全受験者に対する論文,面接を通じて,ほとんどの応募者が今回の
義務化を真剣に考えて対応しており,モチベーションがしっかりしていること
を知り,嬉しく,頼もしく思うと同時に研修の責任の重大さを改めて認識して
いる次第です。
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第53回日本病院学会・シンポジウム
病 院 改 革 と 医 療 IT
関
塩
公立井波総合病院院長 倉
国立国際医療センター院長 近
(座長)国立大阪病院名誉院長 井
厚生労働省医政局医療技術情報推進室室長
坂出市立病院院長
谷
知
藤
上
英
泰
達
通
一
一
圓
也
敏
平成15年6月・大阪市
井上
皆さん,おはようございます。私は国立
それでは医療改革,病院改革のターゲットは何
大阪病院名誉院長の井上でございます。シンポジ
かということですが,これは皆さん方,すでによ
ウム「病院改革と医療 IT」の座長を務めさせてい
くご承知のことでございますけれども,一昨年ぐ
ただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
らいから医療改革については政府も厚生労働省も
タイトルを「病院改革と医療 IT」ということに
医師会も大変熱心にいろいろ提言をしておりま
させていただきましたが,日本語は少し曖昧なと
す。そして,それらを見ますと,共通するターゲッ
ころがございまして,本当は「病院改革のための
トがございます。私なりにそれを整理しますと3
医療 IT」ということでございます。IT というのは,
つございます。
あくまでも手段でございまして,その目的とする
1つは,医療における情報公開,情報開示,情
ところは医療をいかに良くするかということで
報提供,言葉をかえますと,医療の透明性をもう
あって,電子カルテを導入することだとか,病院
少し向上させようというターゲットでございま
情報システムを稼働させることが目的では決して
す。
2番目は医療の質および安全性の向上というこ
ないわけでございます。
ところが,得てして IT の技術におぼれて,IT
化すること自体が目的になってしまう恐れもござ
います。そういうことでは医療を良くするという
とであります。これはいうまでもないことであり
ます。
3番目は医療の効率を良くしようということで
ございます。
ことにはならないわけであります。
きょうのシンポジストでございますが,厚労省
この3つが医療改革あるいは病院改革といって
から1人,あとの3人は病院長の先生でございま
もいいかもしれませんが,それの大きなターゲッ
す。病院長の先生方は,自分たちの病院をいかに
トだといえるだろうと思います。
良くするかということをつねに考えていらっしゃ
1番最初の医療の透明性ですが,恐らく10年ぐ
る立場で,その立場から医療の IT が,そのことに
らい前までは,医療改革,あるいは病院を良くす
役立つかどうかということを,つねに冷静にご判
るといったときに,医療の透明性,情報公開とい
断されているだろうというわけでございます。
うことがトップに出るということはなかっただろ
きょうのシンポジウムは,そういうわけで,医
うと思うのです。しかし最近は医師会を含めて,
療をいかに良くするか,医療改革あるいは病院改
医療の透明性ということが非常に重要であるとい
革をいかに進めるか,それに IT がいかに役立つか
うことで,ほとんど一致しているのではないかと
ということをテーマにしたいと考えているわけで
思います。恐らく会場の皆さん方も,そういうこ
す。
とを強く意識されているだろうと思うわけであり
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だろうということを,きょうのシンポジストの皆
ます。
この3つのターゲットについては,きょうのシ
さん方と私とで共通認識を持ちまして,あくまで
ンポジストの皆さん方も異論がないだろうと思い
も目的論的に医療 IT を,これから議論させていた
ますし,会場の皆さん方も,それは当然のターゲッ
だきたいと思います。
トだと思っていらっしゃると思います。
シンポジストの皆さん方を先にご紹介させてい
しかし,そこから先が,私にいわせると少し難
ただきますので,恐れいりますが,まずシンポジ
しいところがあって,例えば医療の透明性といっ
ストの皆さん方,一応壇の上におあがりいただけ
たこと,その具体的なことについて,会場にお集
ますでしょうか。
まりの皆さん方,きょうのシンポジストの皆さん
最初の演者は厚生労働省の関室長でございま
方の間で,その定義や内容について一致している
す。2番目の演者は坂出市民病院の塩谷院長でご
かどうかは,これははなはだ疑問ではないかと思
ざいます。3番目のシンポジストは公立井波総合
うわけであります。
病院,富山からお越しいただきましたけれども倉
同様に医療の質という言葉は,非常に分かりや
知院長でございます。最後にこのプログラムでは
すいのですが,医療の質とは何か,その質をどの
国立国際医療センターの矢崎総長にシンポジスト
ようにして測るかといったこと,これについては
に加わっていただく予定でございましたけれど
恐らく,やはり意見が一致していない,いろいろ
も,矢崎総長は実は SARS 関係のことで日本を代表
な見方があるだろうと思うのです。
して中国に行かれて,その関係で足止めされてお
また医療の効率とは分かりやすく思いますが,
られて,急遽,大阪へ来ていただくことができな
一体医療における効率とは何かということをあら
くなりました。代わりまして,国立国際医療セン
ためて問うてみると,これもコンセンサスがまだ
ターの近藤院長にお越しいただきました。よろし
得られていない,人によって意見が違うのではな
くお願いしたいと思います。
それでは,早速,トップバッターの関室長から
いかなと思うわけです。
実は,こういった内容や定義の違い,これが医
療の IT 化を進めて行く上で大きな問題になるの
お話を伺いたいと思います。
ご承知のことかと思いますが,平成13年12月に
厚生労働省は保健医療分野の情報化推進に向けて
ではないかと私は感じております。
なぜかというと,そういったターゲットを実現
のグランドデザインを発表しました。これをつく
すること,その手段をコンピュータをはじめとす
られたのは関室長の前任のそのまた前任の谷口室
る IT に委ねるわけでありますが,委ねるときに,
長の時代でございまして,前任の遠藤室長の時代
こういうふうに変えるんだよという定義・内容を
に出来上がったわけです。関室長が着任されたと
しっかりと教えてやらなければ,コンピュータは
きに,すでにこれが公表されておって,室長とし
動いてくれないわけです。電子カルテだって,目
ては,これをぜひ実現しなければならないという
的に合う電子カルテとして役立つためには,こう
立場になられたわけでございます。関室長は着任
いうふうに医療を変えるんだよということを教え
早々,熱心に走り回っていただきまして,このグ
てあげる必要があるわけです。
ランドデザインの実現に向けて現在大変なご努力
それが病院によって,地域によって,ドクター
をいただいているところでございます。
ごとに違う定義を与えようとすると,なかなか難
関室長いわく,今ここで具体的な成果を出さな
しいことになってくるわけでございます。そう
いと,せっかくの医療 IT 推進の気運がバブルのよ
いったところが今,日本の医療 IT,とくに電子カ
うに弾けてしまう,何とか医療者が協力をしてぜ
ルテについて,それが役立つのかどうか,やや混
ひ IT がいかに医療を良くするかということを示
乱している一因ではないかと思うわけです。
さなければいけないということで,非常に熱心に
といったことで,先に結論めいたことを申し上
考えていただいております。きょうは,そういう
げましたけれども,医療の IT は,本当に医療を変
思いを含めて,お話をいただけるのではないかと
えていくいいツールになっていただく必要がある
思います。
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それでは関室長,よろしくお願いいたします。
関
井上先生,ありがとうございます。ご紹介
いただきました厚生労働省の関と申します。もう
井上先生の冒頭のお話で,ほぼ議論の流れを非常
に適切に語っていただきましたので,それに尽き
ていると思うのですが,行政の立場から若干そう
し た 議 論 に 肉 付 け を い た しま し て , 最 初20 分
ちょっとぐらい時間をいただきまして,そのあと
の,実際のお取組みをされております病院長のお
スライド2
3方の先生方の前座ということで務めさせていた
問題,診療報酬,老人医療制度の問題を含めまし
だければと存じます。(スライド1)
て,大きな議論になっているのはご案内のとおり
ですが,医療提供体制につきましても,とくに医
師の臨床研修の必修化の問題,あるいは看護業務
についても,かなり今日的な目で長年の課題で
あったいろいろな問題が整理されてきたというこ
とがございます。あるいは救急救命士の問題を含
めました救急医療のあり方といったことにも,か
なり個別具体の問題が出てきました。
そういったものに対して一つひとつ検討会を立
ち上げて,一番多いときには40ぐらいの検討会が
立ち上がっておりましたけれども,そういったも
のの一種の目録,ディレクトリのような意味合い
スライド1
も含めて,ビジョン案というものをまとめている
厚生労働省の最近の取組み,とくに昨日,保険
わけでございます。
局で診療報酬とか医療経済実態調査をやっておら
それ全体として,個々の課題の集大成であるわ
れる武田企画官から若干お話があったようにも
けですけれども,やはり大きな考え方というのが
伺っておりますが,私どものおります医政局で医
ございます。井上先生が冒頭におっしゃられまし
療提供体制,これは施設の問題やマンパワーの問
たように,やはり患者本位といいますか,患者の
題,地域展開の問題,保険局のほうではご案内の
参加ということを本当に真剣に考えていかなけれ
ように医療保険制度,診療報酬等のことをやって
ばならないという問題意識は,これは医療現場で
おるわけですが,相まって医療制度改革というこ
とになろうかと思います。
私のほうは冒頭,医療提供体制改革のビジョン
案(スライド2)というもの,これは昨年来検討
してきたものでございますが,今の時点ではまだ
「案」ということばがついておりますけれども,
4月30日に公表させていただいたものがございま
す。21世紀における医療提供体制の改革のイメー
ジと当面進めるべき施策を提示したものでござい
ますが,医療経済といいますか,医療を支える財
政基盤の問題につきましても,保険者のあり方の
スライド3
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はもちろんかと思いますが,行政サイドにおいて
に,やはりいろいろな人が違った意味で質という
も,本当に必要なことだという考え方が定着して
ことを語っていくということでは,なかなか皆で
きているのではないかと思います。
考えていくうえで歯車がかみ合っていきません。
そういう基本的考え方のもとに,きょうアウト
どういうフレームワークでいくかという,議論の
ラインだけお話しますが,この案のもう一つ前の
枠組みづくりが一層求められているのではないか
ドラフトの段階からこういうまとめ方でした。若
と思います。厚労省のほうでまとめました文章で
干ワーディングが変わっているところはあります
けれども,この3つの大きな柱です(スライド3)。
も,こういうことをうたっております。
それから人材の問題,これは当面,医師の臨床
患者の視点の重視ということを一番最初に打ち出
研修必修化の問題が最大の,今まさに胸突き八丁
しております。そのなかで,やはりさまざまな意
のところでございますけれど,そういうことに加
味合いでの情報提供の推進ということが非常に大
えまして,医師の関係でいいますと,この次にく
事なカギになる部分であろうということでござい
るであろう問題は,専門医の制度をどうするかと
ます。
か,さらに検討すべき課題はたくさんあろうかと
また今,ある意味で医療に対する関心のなかで
思われます。また看護マンパワーを含めまして,
一番多いものの1つは,医療安全の問題です。こ
それぞれの職種の方々の問題も大きなものとして
れは質の問題を語るときの一番先鋭化された問題
あるわけです。
ということにもなろうかと思う訳です。先般も
それから,基盤整備,リサーチ・アンド・ディ
NHK スペシャルで,かなり腰の据わった取材に基
ベロップメントみたいな問題もありますし,そう
づく番組が放映され,御覧になった先生方も多い
したものとの関係において情報基盤というものを
と思います。そういった問題を含めまして医療安
どういうふうにしていくかということもあるわけ
全の問題は今,激流のさなかにあるといいますか,
です。
国民と医療との信頼関係を語るときの一番大きな
そういうことで全体で20ページぐらいの文章に
トピックスの1つになっているかと思いますが,
なっておりますけれど,こういうものが4月末に
そういうものに対するさまざまな取組み。これは
とりあえず1つのまとまりとして,
「案」というこ
医療機関のなかで体制を整えていただくというこ
とはついてありますが,まとめさせていただいて
ともありますし,あるいはいろいろ紛らわしい薬
いるという段階でございます。
を製薬メーカーのほうで,どういうふうに工夫し
ていただけるか,いろいろな意味でヒューマンエ
ラーをなくすためのシステム面からのバックアッ
プをどうするかという話で,やはりシステムの問
題は大きいわけです。
そういうなかで,情報という観点からどのよう
に取り組んでいくのかという意味合いを考えれ
ば,これも医療情報とかかわりのある大きな問題
であります。
ふえん
それをさらに敷衍していきますと,やはり医療
の質全般ということになってくるわけだと思いま
す。これはいろいろな意味での患者さんの状態,
スライド4
転帰といった面でもありますし,同じアウトカム
これ(スライド4)は翻訳書が出ていますが,
といっても,最近では患者満足度のようなものも
ア メ リ カ の Institute of Medicine of the
アウトカムといわれておりますので,そういった
National Academy of Sciences,こちらのほうで
面も含めて質の向上ということを語っていくわけ
1999年に医療事故の問題を扱った,「To Err is
ですが,冒頭井上先生がおっしゃられましたよう
Human」というものが出まして,その第2弾という
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ことで,Quality of Health Care in America と
り,そうしたなかで,何に取り組んでいかなけれ
いうことの委員会が2001年に出したものでして
ばいけないか,釈迦に説法のような感じもありま
「Crossing the Quality Chasm」という,要は現
すが,やはり安全管理から,それを質の向上につ
在提供できるはずのもの,あるいは医療提供者含
なげていくという取組みです。
め,みんなが提供できるはずと思っているものと,
それから民間のビジネスでも,よくカスタマー
現実に提供できている医療との間にクオリティの
ズ・リレーションシップ・マネジメントというこ
大きな溝があるということで,それを関係者の一
とをいいますけれど,やはり患者さんの視点でど
丸となった努力のもとに,これは国をあげてとい
れだけ満足度を高められるかということも含めま
うことですけれども,改善していく努力を始めな
して,患者サービスの向上ということです。
ければいけないという話でして,医療の質を語る
これがないと倒れてしまいますが経営の効率
ときの参考文献として大変参考になる文書であろ
化。情報化の話をしていくうえでも,この面でど
うかと思っています。
う役立つかということを避けては通れない,この
読み上げませんけれども,この文書では6項目
面での効果がないのであれば,情報システムは,
の軸を掲げております。一番最初のところは医療
やはり維持可能な形で導入できないということに
安全の問題,少なくとも医療を受ける,治療を求
もなるのだろうと思います。原価計算などを含め
めて医療を受けたときに,逆に傷害を受けてしま
て,マネジメントをデータに基づいてやっていく
うということがないようにというところから始ま
ときに必須のツールという意味での情報システム
りまして,患者本位主義ということも非常に大き
という視点も大事になってくるのではないかと思
く打ち出しております。我々が今日本で関係者,
います。
それぞれ必死になって考えていることは,文化的
さらには地域でのいろいろな情報のやりとりを
な違いがある国,あるいは医療の行われている状
通じた医療機関の相互連携という視点,それから
況が違う国でも,同じような問題意識で,考えて
さらには医師の臨床研修も含めまして,さまざま
いることはかなり共通性があるような気もいたし
な教育研修機能,それから大規模治験ネットワー
ました。これだけ包括的な視点を盛り込んだ文書
クというものを今打ち出しておりますが,そう
を早くもまとめてきているアメリカの医療政策を
いったものも含めてR&Dにもからんでいく,そ
語る方々の底力ということを感じる文書です。こ
ういうことでも情報化を避けてとおれないわけで
ういう文書は我々も十分参考にしていく必要があ
す。(スライド5)
いろいろな側面があるわけですが,問題の濃淡
るんではないかと思っております。
はあるにせよ,やはり具体的な目的にきちんと奉
仕する,こういう仕事をしていきたい,これが先
にあってはじめて,ではどういうふうに IT がそれ
らの目的に奉仕していくのか,活用されていくの
かということ。先ほど井上先生がおっしゃられた
スライド5
今申し上げてきたような日本の我々の厚生労働
省がまとめたもの,また,アメリカのものを,列
示としてお示ししましたが,いずれにしても病院
がおかれている全体としてのきょうの環境があ
スライド6
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ように,IT 先にありきではなくて,やはりすべき
から発生してきておりますので,その現状を踏ま
ことというものがあっての IT なのだと,この点,
えて定義をするという,なかなか難しいところが
よく IT の議論をしていきますと,何か本末転倒に
ありますが,しかし考え方としては,やはりどう
なって,IT のほうが先にありきという議論になり
いう機能が期待されているのか,それに対して電
がちな面もあるわけです。とくに,あまり医療を
子カルテというものがどこまでその要請にこたえ
知らない方々との議論をしているときに,そうい
ているのかという現状を踏まえて整理すること
うことになりがちなわけですけれど,つねにこの
が,今後の展開に意味のあるまとめとなるのだろ
根本のところに立ち返って考えるということは必
うという問題意識で貫かれております。
要だと思っております。(スライド6)
今,井上先生からもお話があったグランドデザ
インのなかでは,とくに電子カルテ,レセプト電
それぞれの機能についてどのような達成状況に
なっているかということを踏まえた見解というこ
とになっております。
あと り よ う
算処理システムというものを前面に押し出して数
質の向上の努力につながる,いわゆる後利用の
値目標をたてておりますが,電子カルテというも
問題で見ますと,やはりここのところは今のシス
のがグランドデザイン以降,急速に着目を浴びて
テムのなかでは利活用があまりなされていないの
きていますので,いろいろな意味で混乱もありま
ではないかということがあります。あらかじめど
す。そういうなかで井上先生が医療情報学会長と
ういうことを,これは原価計算なども含めたマネ
いうお立場で,医療情報分野の精鋭の方々に指示
ジメントシステムという意味合いもありますし,
をされて概念整理に着手され,この2月に電子カ
患者さんの状態,あるいは治療の内容の評価をし
ルテの定義に関する日本医療情報学会の見解とい
ていくうえでの面と両方あるわけですが利活用の
うものをおまとめいただきました。(スライド7)
問題,これがやはり今後の非常に大きな課題に
これ(スライド8)は,電子カルテとは何かと
なってくるかと思います。
また日常的な使い勝手の良さ悪さということで
いう定義,各医療機関での実地のお取組みのなか
いいますと,まだまだ課題があるわけでして,使
いにくい,重いといった話です。一方で,スタッ
フ間で診療情報を共有したり,あるいは患者さん
に対して提示するという機能は,かなり工夫され
向上されてきているというところがあって,患者
さんに対する PR,説明を十分するという意味合い
では,非常に強力なツールになってきているとい
うことも確かではないかと思います。
いろいろな情報システムがあるなかで,電子カ
スライド7
ルテというのは,患者の症例記述というものが本
来のアイデンティティであろう,オーダーエント
リーシステムの上にこういうものが乗っかってく
る,これまでの経験を踏まえると,そのような形
で発展してきているものでありますが,オーダー
エントリーというのは,依頼情報の伝達と結果の
返信という情報伝達業務ということで,オーダー
エントリーシステムと電子カルテとは,概念上,
少し分かれるのだろうということです。
システムにいろいろな側面や要素があるわけで
すけれど,例えば患者基本情報などは,システム
スライド8
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として共有している,そういう姿が一般的でしょ
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うということです。これは先生方の常識ともかな
ます。
それから先ほどちょっと出ました事後利用,こ
うものだと思います。(スライド8)
電子カルテといっても,完全ペーパーレスを目
れをできる,最初から想定したシステムを組まな
指すというのが,はじめにありきというわけでは
ければいけないが,そこがあまりできていないと
ありません。むしろ完全ペーパーレスでやってい
いうことであります。
ないところが多いかもしれません。そういう意味
セキュリティ技術も日々向上してまいります
で,ペーパーレス,ペーパーレスでないというと
が,あるいはプライバシー保護やセキュリティ確
ころでひとつの区分けをしている。ペーパーレス
保の標準というものも,このたび個人情報保護法
でなくても,多くの情報種について,あるいは診
が成立して,これが施行されていく過程でますま
療録の多くの情報について,ということですが,
す関心が高まってくると思いますが,そうしたこ
オーダリング機能があり,数カ所で迅速に古いも
とを含めまして,不断の見直し,そのときのレベ
のまで参照可能である,それがいろいろな形で展
ルに合わせた運用ということが求められていくの
開できる,それから標準的なベースのうえに立っ
だろうと思います。(スライド9)
ている,また,電子情報の3原則といわれている
ここから足早に,少し端折りながら話します。
ものが確保されていること,プレゼンテーション
の機能,さらには電子カルテシステムそのものに
加えてスタッフ1人ひとりのきちんとした問題意
識ということを含めて,運用面での裏打ちがされ
ているということ,こういったことがセットとし
てできているということが,今,電子カルテが導
入されているといえるための最低条件ではない
か,そういう見解としてまとめていただいている
わけです。
今後,いろいろと議論をしていくうえでの土台
として,適切な時期に適切な考え方を提供してい
ただいたと思っています。
スライド10
これまでのところはどちらかというと診療の
1年半前に出たグランドデザインの話です(ス
面,あるいは患者さんとの関係という面になると
ライド10)。電子カルテとレセプト電算処理システ
思いますが,やはり物流管理,これは経営向上ツー
ム,全国400床以上の病院の6割以上,診療所6割
ルとしての情報システムということで,この種の
以上に18年度までに普及させるという,ある意味
機能は全体として情報システムを維持可能なもの
で大胆な数値目標を示しているものでして,レセ
にしていくうえで不可欠の要素ではないかと思い
プトのほうでは枚数ベースで,16年度までに5割,
18年度までに7割という目標があるわけです。こ
の2つを,分かりやすい目標ということで示して
いるということです。
遠隔医療の推進というのも1つ,医療の IT 活用
に大きな関連のある部分ですので,この3つぐら
いを分かりやすく国民に PR するときには柱とし
て打ち出しておりますが,それぞれ基盤整備の面
について国がきちんとやっていかなければいけな
いということがあるわけです。
電子カルテということに特化して申しますと,
スライド9
先ほどの目標を達成するためには,やはり課題が
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23 )
わけです。
こういうものが相まって進めていこうというの
が今の考え方でございます。
レセプト電算の話もありますが,詳しくは時間
の関係で触れませんが,2年前,全部のレセプト
の0.何%だったものが,今,とりあえず今年の3
月の時点で110病院,診療所780ぐらいで,病院レ
セの2.1%ぐらいになっております。先般の私ども
の補正予算で140病院ぐらいに入ってくるという
ことで,15年度にこれらが加われば20%に近いと
ころまでいくのではないかといわれています。こ
スライド11
れは可搬媒体でのもので,オンライン請求という
いろいろあります。標準化の問題,セキュリティ
ことについては,まだ実証段階で,その結果をと
の問題,そういう基盤の整備がまだ十分終わって
りまとめ中という段階であります。こちらもよう
いないところがありますので,これらを鋭意やっ
やく立ち上がってきたというところであります。
ていく。とくに用語コードの標準化の面でメディ
実用に際して,使いにくい面があったりするこ
ス,
(財)医療情報システム開発センターで鋭意努
とも事実で,それを一つひとつ,どうやって克服
力していただいていますけれど,とくに病名の部
していくか,これは保険局のほうでやっておられ
分については,支払基金のレセ電算コードと表裏
ます。(スライド11)
一体のもので,それを使うためのアシストをする
ソフトウエアなども頒布されておりますが,こう
した取組みです。
これから大きな問題になってくると思います
が,維持できるだけの財政的裏打ちが不透明なな
かで,コストが高いということがネックになって
いるということです。当面,厚労省サイドでの補
助金ですとか融資,また IT 投資促進税制を経産省
が中心になって確保しており,環境整備に努めて
いるわけですが,根本的には維持可能な財源的を
スライド12
どう考えるかという問題は残っていて,これをど
うしていくのか,今後ますます議論されていくべ
このように電子カルとレセプト電算処理システ
ムをグランドデザインのなかでは前面に打ち出し
きことかと思います。
当初の導入後のシステムのバージョンアップの
ているわけですけれど,それは IT 化の効用を国民
際に必要な部分だけ,いいものに取り替える,あ
に向けて PR するうえで効果は十分あったと思い
るいは段階的に導入していくのが難しいというこ
ますが,やはり先ほどの経営支援ということを含
とがあります。これはあとで簡単に触れますが,
めて,院内情報システム全体として考えていくと
今の市場に出回っている病院向けの電子カルテと
いうことが,病院のマネジメントを預かる実務の
は,少し考え方を異にして,根本から考えなけれ
面では,むしろそういう視点も大事なのではない
ばいけない問題があるのではないかということ
かと思っております。(スライド12)
これ(スライド13)は私は繰り返しになるので
を,今議論しております。
効果については成功例の蓄積ということで,
とばします。
きょうご発表いただく先生方も成功例ということ
いろいろな効果がありますよということで,国
で情報や経験をシェアしていければと思っている
会議員の先生方などにも説明しているのですが,
24
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形式的にいうと,最近開業された診療所などで
は5,000件の個人データがないので対象外になる
とか,あるいは個人情報保護法のうえでの個人情
報というのは生存する個人ということになります
ので,遺族との問題というところについては,個
人情報保護法はカバーしておりません。そういっ
たことを含めまして,基本的な考え方として,医
療機関は患者に診療情報を積極的に提供するとと
もに,患者の求めに応じて原則として診療録を開
示すべきであるという,基本原則は改めて明確に
スライド13
ちょっと今までの説明の仕方が総花的すぎたかな
という反省はありまして,やはりどこにポイント
をおくかという話,もう少し戦略的なプレゼン
テーションを我々もしていかなければいけないと
思っております。総じてこういう効果があるとい
うことで,これはよく対外的に使っている資料で
す。
厚生労働省の診療情報提供についての検討会の報
告書のなかで,述べられています。
議論になったことの一つは,個別法による法制
化の是非をめぐる議論ですが,これはいろいろな
議論があって,今後の引き続きの検討課題となり
ました。個人情報保護法でカバーできないものも
含めたガイドラインの案がつくられており,厚生
労働省のホームページからアクセスできますが,
今,その案がパブリックコメントに付されている
というところでございます。(スライド14)
ちょっと早めます。これは日本病院会の調査で,
診療情報開示を行っている病院の状況ですが,や
はりもう実施しているというところが,申請が
あった場合には圧倒的に多くなってきている,一
昔前に比べて本当に変わってきているところであ
ります。先ほどのは求めがあった場合ですが,こ
ちらは日常的にということで,若干パーセンテー
ジが下がりますけれど,やはりこれだけの病院が
スライド14
取り組んでいただいているということが背景にあ
それから情報公開という話が出てまいりました
けれど,この関係では,日本大学の大道久先生が
るのだと思います。(スライド15,16)
少しとばしますが,基盤整備ということの中で
座長を務められた厚生労働省の「診療に関する情
報提供者等の在り方に関する検討会」がありまし
て,この5月末に報告書をまとめていただきまし
た。その間,個人情報保護が成立したこともあり
まして,診療記録というのは多くの医療機関で,
多くの医療機関という意味は5,000人以上の情報
を持っている医療機関ということですが,その場
合には個人情報保護法の対象となる個人情報取扱
事業者に該当しますので,本人からの情報開示の
もとにおいて,原則として情報を開示する法律上
の義務,これは個人情報保護法をバックにした義
務が生じるということになります。
スライド15
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25 )
スライド18
スライド16
し,いろいろなシステムコンポーネントが集まっ
用語コードの標準化,MEDIS-DC のほうでやってお
て電子カルテなり院内情報システムということに
りますもので,今こういったものができているわ
なっているわけですが,先ほど申し上げましたよ
けですけれども,まだできているといわれている
うに,ひとたび開発した後には,やはり一体的に
もののなかでも,さらに充実を要する部分もあっ
全体としての構築物ということになります。画像
て,一方で右側のものは今開発中ですが,こうい
のところなどはほかの社のステムとつなげばいい
う基盤整備の取組みというものは,やはり今のと
という運用が今でもできておりますし,国立大阪
ころ公的な努力でやっていくしかないだろう,今
病院などでもだいぶ先駆的なお取組みをされてお
後の維持管理みたいなことをどうするかというの
りますが,インターフェイスの部分などはかなり
が課題になりますが,こうしたことを今鋭意やっ
ユーザーの側で手を入れることが可能だという実
ております。(スライド17)
践的取組みも出てきてはおりますが,やはり全体
として1回システムを入れた後に,何かちょっと
手を入れようとすると,全体として手が加わるの
で非常にコスト高になるし,なかなか身動きが取
りにくい,ほかのメーカーに変えることも容易で
はないという状況がございます。
現在出回っている各社の製品を個別にいくら良
くしていっても,この問題は解消されないわけで
して,そこをどういうふうにするか,電子カルテ
の構造面のある意味での標準化というのでしょう
か,少し根本のところから考え直す必要があるの
スライド17
ではないかということです。
これ(スライド18)もよく出すスライドですが,
それから先ほどらい,井上先生のお話にもある
あまり正確ではないところがあるかもしれません
ように,何のためにやるのか,やはり機能の面,
が,いろいろな機能のコンポーネントがあります。
何のためにこういうシステムを組むのかというこ
オーダリング機能のうえに,先ほどいったように
との明確化と合わせて,少し電子カルテというも
電子カルテの診療記録を載せるという部分があり
ののシステムというかソフトウエア,構造物とし
ますが,画像の部分とか検査データのいろいろな
てどう考えるかという意味での標準化のようなこ
サブシステムとか,いろいろなものが加わります。
とも必要なのではないかということです。これは
あるいは外からいろいろなデータベースにアクセ
今はまだ打ち出しておりませんけれども,関係す
スして診療支援を行うようなシステムもあるで
る研究班が幾つか立ち上がりましたので,来月く
しょうし,連携のためのシステムもあるでしょう
らいにそういった研究班の合同会議をするという
26
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ことを通じて,少し腰を据えた取組みとするため
るのではないかということで,今いろいろと準備
に,研究事業を軸としつつ頻繁に情報発信できる
の作業をしているところでございます。このモデ
ようなメカニズムを今考えております。これはタ
ル事業は今,千葉と宮崎でやっておりますが,来
イムスパンとしては恐らく3年といった少し長い
月の上旬に1回,最終的な成果発表会ということ
時間軸になる問題だと思いますけれど,将来,こ
を,また厚労省のほうで予定しております。
ういう方向にいくという期待を与えるようなプロ
ジェクトにしてまいりませんと,今の製品の延長
だけを考えていると,幾ら部分的にインクリメン
タルに良くしていっても,やはり限界があるので
はという気がしており,それを実践に移そうとし
ております。
時間配分が悪くて,だいぶ押してきてしまいま
したので,少しとばしながらやっていきます。
スライド20
最後の2枚のスライドですが,要は総論的なこ
との繰り返しになりますが,どういうメリットが
あるのかということと,リスクやコスト,こうい
うものを比較衡量していくということで,ある意
味で方針を決めて進めるべきところは進めていく
ということがあるのですが,一方で,かなり慎重
な配慮をしながら,つねにやってきたことを振り
返りながら,評価しながら進んでいくという姿勢
スライド19
も大切かと思っておりまして,単純化していうと
こういうことです。
これ(スライド19)は地域の中核機関と診療所,
そのなかで,情報技術的な問題はどんどん進ん
部分的には調剤薬局なども含めて,情報のやりと
でいきますが,制度的にどうしていくのかという
りをするというモデル実験などをやっています
大きな問題を検討していく,これは政策というこ
が,これまでは,システムとしてつながってきち
とで,ある程度政府が中心になってやっていく必
んと動くかといった,基本的なレベルのモデル事
要があるでしょうが,その背景に関係団体,ある
業をしております。今後いろいろな情報をやりと
いは国民的な合意というもの,こういうものが相
りするということになった場合,どういう情報
まって進んでいくわけでして,当たり前のことを
だったらやりとりして意味があるのかとか,それ
書いているにすぎないわけですが,ともすれば何
に見合ったセキュリティの基盤をどうするか。と
か IT ということでどんどん先に進めという声が
くに今 PKI という公開鍵基盤というセキュリティ
我々のところにも叱咤激励がくるわけですが,そ
技術がありますが,こういうものを医療の分野で
れはそれで受け止めながら,やはり我々としては,
活用するとしたら,どういうことがありうるのか
こういう視点,本当は何のためにということをつ
というところ,その辺が今大きな議論になりつつ
ねに考える必要があるということを繰り返し思っ
あります。政府をあげての e-JapanⅡ戦略の策定
ているところでございます。(スライド20)
過程でも,医療において,情報を通じて地域連携
そういうことで最後のスライド(スライド21)
をする場合の認証基盤の問題というのが出ており
ですが,とくに持続可能な情報システムという話
ます。
のなかで,電子カルテの話とちょっと離れますが,
これについても近く検討の場を設ける必要があ
医業経営をいかに改善できるかという点は非常に
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す。
いろいろご質問があるかと思いますけれど,最
後にずいぶんと時間の余裕があるかと思いますの
で,総合討論のところで,ぜひ会場の皆さん方か
らも活発なご意見を賜りたいと思っております。
それでは2番目の講師の坂出市民病院院長の塩
谷先生にお願いします。塩谷先生はこの抄録集に
経歴が紹介されておりますが,『病院,変わらな
きゃ』というご著書で大変インパクトを与えてく
ださった方で,今医療 IT にも取り組んでおられま
すが,病院を良くするための IT という,目的指向
スライド21
そのもののお話を聞かせていただけるのではない
大事なところで標準化,例えば指標によるモニタ
リングとか,どういう観点から情報を分析チェッ
かと思っております。
それでは塩谷先生,よろしくお願いいたします。
クしていくかということを考えたときにも,先ほ
どの質の問題ということと合わせて,ここの大切
塩谷
おはようございます。坂出市立病院の塩
谷でございます。
さを感じております。
こういう面では,厚労省内の局ということでは,
私は,潰れかけていた坂出市立病院の再生過程
医政局とともに保険局がある訳でして,特定機能
で,医療の IT 化がどのような役割を果たしたかを
病院では DPC など,かなり精緻な情報システムを
お話したいと思います。
必要とする取組みが始まっておりますが,今後ま
すます情報ツールを活用しての経営面,提供する
病院運営失敗の本質
医療の質の向上面での努力というものが,うまく
当院では,平成3年に累積欠損金が約25億円,
かみあって進んでいくように,そのための努力を
不良債務もそれと同額の約25億円にまで膨れ上が
どういうふうにしていったらいいか,真剣に考え
りました。当時の不良債務比率は125%を超えてお
なければならないと思っている最近でございま
り,全国の自治体病院約1,000のなかで,ダントツ
す。
の日本一の赤字病院に落ち込んでいました。
少し長くなってすみませんでした。以上で,私
しかも,提供していた医療内容は「安かろう,
悪かろう」といった劣悪なもので,住民からの信
の発表をとりあえず終わります。
頼を失い,当然の成り行きとして,自治省から“病
井上
どうも関先生,ありがとうございました。
行政の立場でございますので,当然のことかと
思いますけれど,医療 IT の光の部分だけではなく
て,やはり技術的な問題だとか制度的な問題,さ
らにはプライバシー保護だとかセキュリティと
いったことに留意しながら進めていかなければい
けないというお話をしていただきました。
院廃止”を勧告されたのです。(図1)
なぜ,自治体病院でありながら,これほどまで
に落ちぶれてしまったのか。
端的にいえば,病院運営失敗の本質を見極める
作業が,まったくなされていなかったのです。
病院というところは「知的創造組織」である,
と私は思うのです。そこでは,国家試験をパスし
きょうは最初に申し上げましたように,そうし
た医師や看護師など医療職によって,また,地方
た技術的な問題や影の部分は,あまり議論として
公務員試験に合格した事務職員によって,診断・
は踏み込まず,目的指向というのでしょうか,光
治療・看護・管理という「知的作業」が,日々,
の部分に光を当ててシンポジウムをしたいと考え
ごく当たり前のこととして行われています。
ております。今ご指摘になったことは当然大変重
しかし,当院では,
「失敗の本質を見極め,それ
要であることは,まったくそのとおりでございま
を教訓にして生かす」という,病院運営にとって
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図1
赤字報道
一番大切な「知的作業」が,まったくなされてい
なシステムを病院側が構築し,職員がそれに則っ
なかったのです。これは,致命的な欠陥でした。
て仕事をしていれば,実は,日々の仕事そのもの
では,「失敗の本質」は何だったのでしょうか。
が時代の要請に応えていることになる。そのよう
それは一言でいえば.「日常性への埋没」です。
なシステムを,院長としてどう創り出していくか。
10年20年と続けてきた仕事のやり方に何の疑問も
抱かない。住民のニーズや周囲の医療環境が変わ
言い換えれば,
「大きな塔を建てて,塔につなが
る道を創ること」だと思うのです。
ろうとも,そんなこと我関せず。どっぷりと安住
「塔」は,だれが見てもそこに行きたいと思うも
の世界に浸り切ってきた。医療に対する時代の要
の,だれが見てもはっきりと見えるもの,だれが
請というものに無頓着でしたから,惨憺たる状況
見ても美しいと思えるものでなければなりませ
に陥ってしまったわけです。
ん。そして,
「道」は,1本より2本,2本より3
本がいい。
「道」は,真っ直ぐよりも曲がりくねっ
医療に対する時代の要請
た道がいい。曲がりくねった道を職員が自分の足
先ほど井上先生もご指摘されましたように,ま
さに今,時代は,我々医療に携わる者に対して,
で歩いて行くことによって,医療人として人間と
して成長する。そういう「塔を建てて,道を創る」
「医療の質と透明性,そして効率性」を求めてい
ます。(図2)
このことを頭の片隅において仕事をするのと,
頭のなかにまったくなくて仕事をするのでは,
“同
じ仕事をしても,生ずる結果は絶対に違う”とい
う意識を私は持っています。
これにどのように応えていくかです。その手段
の1つとして,IT が存在していると思うのです。
しかし,時代の要請に応えることを,
“職員1人
ひとり”という「個人の努力」に依存していては,
それは長続きしません。大切なことは,さまざま
図2
時代の要請にいかに応えるか
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29 )
ことを,我々はこの13年間,ずっとやってきまし
たと,
“生きがいと働きがいを実感できるような風
た。
土”。それが病院医療 IT 化の大前提として醸成さ
当院の電子カルテにしても,あるいは瀬戸内海
の島々への巡回診療で活用している遠隔医療にし
ても,まさにこれらは,数多い「道」のうちの1
れておくべきではないかと思っています。
IT を駆使したプロジェクトチームの活動
本にすぎないという認識です。しかも,
「道」の1
さて当院では,95年にオーダリングを導入し,
本1本が,それぞれ単独で存在しているのではな
2000年には電子カルテを稼働させました。そこで,
くて,あるところでは合流し,あるところでは分
「医療の質と透明性,そして効率性」という時代
岐しながら,最終的には「塔」につながっている
の要請に応え,病院基本理念という「塔」の実現
という“クロス・ファンクショナル”的な意味合
のための「道」として結成されたさまざまなプロ
いを有していることが重要であると思っていま
ジェクトチームが,この電子カルテシステムをい
す。
かに活用しているかを,お話したいと思います。
このような観点から,当院の医療情報システム
(図3)
についてお話ししてみたいと思います。
医療の IT 化は,
「目的ではなく,手段」
先ほどからもいわれていますように,医療の IT
化は,
「目的ではなく,手段」です。いわば意識不
明の重体患者であった過去の坂出市立病院職員の
「意識を覚醒させる」ための1つの手段でもあり
ました。紙カルテ時代の業務をそのまま電子化す
るのではなく,業務を本質的に根本から見直し・
やり直し,そして,医療に対する時代の要請に応
えるための手段としての位置づけです。
ただ,ここで,私が一番大切に思うのは,
「情報
テクノロジーは急速に進歩するか,組織文化はな
かなか変わらない」を認識することです。
図3
電子カルテとプロジェクトチームの歩み
1)感染制御チーム(ICT)
当院では電子カルテを導入して4年目に入りま
3年前に発足した ICT は,その分野では全国的
したが,それはめまぐるしくバージョンアップさ
に有名な沖縄県立中部病院の遠藤和郎先生の指導
れています。しかし,それを活用すべき人や組織
と助言を受けながら,次第に力をつけてきました。
は,そう簡単には変わらないのです。このことを
この ICT は,各種サーベイランス登録用の画面
電子化に際して院長がどう認識しているかです。
ソフトを自分たちで作成し,それを電子カルテに
情報テクノロジーは驚くように進歩を遂げる
組み込むことで,ほとんどの ICT 業務を IT 化して
が,組織風土は変えようとしなければ,5年たっ
います。それによって,今まで十分に把握できて
ても10年たっても変わらないという本質を見極め
いなかった MRSA 感染症や菌血症,あるいは中心静
ていなければ大変なことになります。つまり,
「組
脈カテーテルや手術部位感染症などに対するサー
織風土を変えなければ,情報文化は変わらない」
ベイランスが,迅速かつ的確に行われるようにな
のです。
り,当院の感染症の実態が明らかとなりました。
我々は,この13年間,病院組織風土を変えるこ
もう一つの ICT 業務の IT 化は,感染症サーベイ
とに全力を注いできました。その基本は,
「ファイ
ランスによってその濫用が明らかとなった広域抗
ン・チームワーク」であり,
「全員参加の病院運営」
生剤の使用を規制するソフトを ICT メンバーが作
です。とにかく,みんなで−緒にやろうというこ
成し,電子カルテ上に使用届出制を構築したこと
とです。そして,坂出市立病院に勤務してよかっ
です。
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第4世代セフェム系・カルバペネム系・抗 MRSA
剤・ニューキノロン系の4種の抗生剤を規制抗生
剤に指定し,医師がそれらをオーダーするときに
は,画面上にその必要性を問う警告が発せられま
す。そして,電子カルテ上に組み込まれている抗
生剤使用届に,その理由と細菌検査実施の有無と
その結果を入力しなければ,抗生剤が使用できな
いというシステムです。(図4)
図5
新たな感染対策によるコストの発生と削減
2)栄養サポートチーム(NST)
2年前に発足した NST も,IT を活用しながら,
大きな成果をあげてくれています。ICT と同様に,
NST のメンバーが,年齢・身長・体重・上腕三頭
筋厚など患者の身体状況と,点滴と食事の内容を
入力すれば,必要カロリーと摂取カロリーが自動
図4
ICT 介入による規制抗生剤使用量の減少
その結果,規制抗生剤の年間使用量は,前年度
に比べて02年度には約45%減少しただけでなく,
抗生剤全体でも約12%の減少が認められました。
その一方で,ファーストチョイスとして使うべき
ペニシリン系抗生剤の重要性が再認識され,約
3%とわずかではありますが増加してきており,
適正な感染症治療がなされるようになりました。
これも ICT が IT 化を活用して生み出してくれた成
果であり,正しい医療をやっていこうという当院
のスタンスの現れです。
医療材料など物品管理もスムーズに IT 化され
ており,ICT のメンバーは感染対策に費やされた
金額を,自分たちがソフトを操作しながら,簡単
かつ正確に把握してくれています。
ICT は新たな感染対策としてこの1年間に,採
血時の手袋着用の義務化・気管内吸引チューブの
使い捨て・IVH 閉鎖式回路の導入など,新たなコ
ストが発生しましたが,エビデンスに基づいてい
ない感染対策を廃止していきました。
その結果,病院全体での感染対策費用はむしろ
減少し,01年1∼4月と02年1∼4月で1カ月当
たりの感染対策費用を比較してみると,約17万円
もの削減が達成されました。これも IT を使っての
的に算出されるというソフトを自分たちで作成
し,電子カルテに組み込んでくれました。ですか
ら,ICT のメンバーではない看護師であっても,
いとも簡単に患者の栄養状態を把握できるので
す。
管理栄養士によって作成された,食事の1品ご
との三大栄養素別のカロリー表が,常に食事に添
えられています。ですから,看護師は,患者さん
が食べた量を0・30・50・70・100%などと数値入
力すれば,自動的に栄養素別の摂取カロリーが算
出され,しかも,患者さんに不足しているカロリー
が自動的に瞬時に計算できるシステムが,NST に
よって構築されています。
その結果,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者5名
の調査をしてみますと,NST が IT を活用しながら
介入した後には,患者の摂取カロリーが約500Kcal
も増加しました。しかも,主食ではなくて,副食
の摂取率が増えています。もともと COPD 患者はエ
ネルギーを炭水化物に依存する傾向が強く,脂質
や蛋白質の摂取割合は少なくて,低栄養の状態に
あります。しかし,NST の介入によって炭水化物
は減り,そのかわりに脂質と蛋白質が増えて,患
者の状態もよくなってきた。これも IT 化の大きな
成果だと考えています。(図6)
1つの成果だと思っています。(図5)
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31 )
当院の年間報告件数は約300件であり,病床数は
216ですから,この条件はクリアできていないので
す。2つ目の条件は,
「医師の提出率が全体の10%
以上であること」ですが,当院は6%とそれを下
回っています。3つ目は,
「与薬に関する報告件数
が全体の50%以下であること」。これはクリアでき
ています。
このような解析が,IT を導入することによって
図6
簡便かつ迅速にできるようになりました。さらに
COPD 患者における NST 介入効果
は,ここには示しませんが,コンピュータ入力に
際してのヒューマンエラーを防止するために,サ
3)安全管理チーム
クシンとサクシゾン,ノルバスクとノルバデック
安全管理チームは4年前に発足しました。当院
ス,タキソールとタキソテールなどが誤って入力
には悲しい出来事,今から33年前の,70年のこと
されないように,類似品目名の薬剤に関しては,
ですが,未熟児網膜症の医療事故訴訟があり,最
商品名ではなく成分名を入力しなければオーダー
高裁で結審するまでに,15年という長い年月を要
できないシステムを作りました。
しました。この間,そして現在も,患者さんやご
家族に大変ご迷惑をおかけしましたし,病院に
とっても苦しい時期を過ごしたのです。
私はこの事実を最近になって知ったわけです
電子カルテが可能にした究極のカルテ開示
「医療の透明性」の問題の解決に,IT 化がどう
貢献できるかです。
が,その悲しい出来事というか,
「失敗が教訓とし
当院では,電子カルテから診療録そのものをプ
て,現在の坂出市立病院スタッフに伝えられてい
リントアウトし,説明を添えて患者さんにお渡し,
なかった」ことが大きな問題です。
患者さん自身が保管するという患者用カルテ「私
では,IT を活用して安全管理をどうするかで
のカルテ」を4年前から発行しています。
医師記録そのもの,看護記録そのもの,画像や
す。
当院では LAN を用いたヒヤリハット報告用のソ
フトを安全管理チームが作ってくれました。
事故が発生したら即座に,事故種別・職種・経
内視鏡所見そのものなど,あらゆる職種に関わる
すべての診療記録を,説明をつけたうえでお渡し
ています。いわば,究極のカルテ開示です。
験年数・発生時間帯・多忙度など,ヒヤリハット
患者さんは,医者から説明を受けても,家に帰
に関するさまざまな項目を選択的にクリックし,
れば,いわれたことの3分の1も分っていない。
詳細をテキスト形式でキーボード入力するように
しかし,
「私のカルテ」を家で見返せば,診療内容
しています。
がどうであったかを理解できます。「私のカルテ」
院内に配置している約140台の端末のどこから
は,地域の診療所を受診するときにも持って行っ
でも,また,病院職員であれば誰であっても,リ
てもらっています。よほどの先生でなければ,当
アルタイムでその内容を知ることができるシステ
院と重複した検査や薬を出すわけがありません。
ムにしました。大阪大学の電子報告と同じ考え方
セカンドオピニオンを聞きたいときにも便利で
ですが,我々はほとんどお金をかけることなく構
築することができ,ヒヤリハット報告の詳細な分
析とタイムリーな対策が可能になりました。
す。(図7)
例えば,医者から癌を宣告された場合,患者さ
んは命にかかわる問題ですから,大学病院や大病
ある専門家が,その病院のヒヤリハットの実情
院の専門医の意見を聞きたいと思うのは当然の成
をきっちりと反映した報告がなされているか否か
り行きです。しかし,実際には,患者さんはその
を判断するための条件の1つに,
「病床数の2倍以
ことを担当医に言い出しにくいものです。ところ
上の報告がなされていること」をあげています。
が,
「私のカルテ」には,すべての診療データがファ
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日本病院会雑誌
しかし,電子カルテが導入されてからは,私と
患者さんの2人の共同作業でカルテを作成してい
ます。
私が,
「喘息は出ていない?」と入力して聞くと,
聴覚が不自由な患者さんが青のフォントで「出て
ません」とキーボードを叩く。
「ピークフローは?」
で,「450前後です」と入力。カルテ記載には,日
本語を使わないのが,当院の原則です。英語も略
ぜいめい
語も使わない。
「喘鳴」という言葉も使っていませ
ん。
「ヒューヒューヒュー」という表現にしていま
図7
す。
「もう気管支拡張剤は中止し,吸入だけにしま
患者用カルテ:「私のカルテ」
しょうね」と入力すれば,患者さんはそれを画面
イルされていますから,患者さんは担当医の許可
上で確認し,
「はい,わかりました」と入力し,答
を得なくても,専門医のところへ持っていけば,
えてくれます。「私のカルテはどうですか?」で,
セカンドオピニオンを聞くことができるのです。
「便利で安心できます」。そして,最後の行には,
こういうことこそ,税が投入されている自治体病
「この診療録は他の医療機関を受診する際には持
院が率先してやっていくべきではないかと,私は
参し,必ず先生に見せてください」と記載してい
思います。
ます。
この方は,何年か前,東京のディズニーランド
人口約58,000人の坂出市のなかで,現在までに
約2,000人に発行しました。できることなら,すべ
に遊びに行ったときに,喘息の発作が起きました。
ての市民に「私のカルテ」を発行して,住民の健
しかし,「私のカルテ」を持参していたおかげで,
康を支援していきたいと思っています。
そこの診察医は,私の診療内容や投薬内容,そし
IT を駆使して完璧な地域医療情報ネットワー
て患者さんの病態をすぐに把握することができ,
クを,いくら構築しようとも,それには致命的な
的確な治療が施され,発作はすぐに消失したとの
欠陥があると思うのです。確かにそれは,医療を
ことでした。
提供する側にとっては便利ですが,患者さん本人
は家では絶対に自分の医療情報を見ることができ
ないのです。しかし,
「私のカルテ」は,患者さん
自らで保管していますから,そのことが可能です
電子カルテを活用すれば,患者さんにとってよ
り良いアウトカムがもたらされるのです。
電子カルテは看護業務を変えたか?
し,他の医療機関を受診する際に持参すれば,そ
では実際,電子カルテで,当院の看護師の業務
この医師や看護師も医療情報を見ることが可能で
が変わったのかどうかです。それを明らかにする
す。
ために,電子カルテ導入後半年,1年,1年半後,
2年半後と,経時的にさまざまな調査をやってみ
聴覚不自由者と電子カルテ
ました。(図8)
電子カルテには多くの解決すべ問題が存在して
日勤帯でのすべての看護業務を100%とすると,
いますが,それを上回る利点を聴覚が不自由な患
書類整理に費やす時間の全体に占める割合は,
者さんとの診療形態に見出すことができます。
11%から6%に半減し,ベッドサイドで看護する
紙カルテ診療では,医師が手話ができない場合,
時間は,47%から55%と8%増加しましたが,電
耳も聞こえない・ものもおっしゃれない患者さん
子カルテのメリットとして,一般的にいわれてい
との問診やコミュニケーションは,紙に書くこと
るほどは,増えていないのです。
にしか頼らざるを得ません。しかも,忙しい外来
しかし,この「8%の増加」をどう評価するか
診療のなかで,そのための時間を十分に取れるも
です。電子化することなしに,現在のような猫の
のではありません。
手も借りたいほどの忙しい看護業務を効率化し,
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33 )
電子カルテと経済性
次に,経済性の問題について述べてみます。
我々院長には,
「高品質と低コスト」という相反
する命題が突きつけられています。これを IT を
使って,どう解決するかです。電子化の経済性や
効率性について,いろいろいわれていますが,そ
の指標を何にするかは,議論のあるところです。
当院では,その指標として,すべての職員の1
年間の時間外勤務時間を調べてみました。電子化
する前の95年のすべての職員の年間時間外勤務時
図8
電子カルテで看護業務は変わったか
間は約25,000時間だったものが,電子化すること
によって年平均約4,700時間も減少しました。お金
8%の時間を∼実際,時間に換算すれば,日勤帯
にすれば,年間約1,400万円。IT 化して8年にな
8時間のうち約40分間になります∼ベッドサイド
りますから,合計で約1億円を超える削減がもた
業務に振り分けることは,とてもではないができ
らされたことになります。これは何も“ケチケチ
るものではないと思うのです。このように考えれ
作戦”を展開したわけではなくて,病院がシステ
ば,わずか8%の増加という少ない数字ですが,
ムとして IT を導入し,職員が適切にそれを使って
大きな意味をもっていると思います。
仕事をしてくれた結果です。(図10)
次に,電子カルテを導入することによって,看
護師の知的レベルが向上したかどうかを調べてみ
ました。(図9)
図10
IT 化による年間時間外勤務時間の削減
つまり,病院医療の IT 化にはお金がかかります
が,きっちりと考えてやれば,経済性は必ず確保
図9
できると思っています。
看護師の患者病態理解度が高まった
その証拠に,日本一の赤字病院として廃止勧告
内科病棟に入院しているすべての患者さんの病
を受けた当院では,医療電子化を推進することに
名と治療上の問題点を問う試験を定期的に行って
よって,全国の自治体病院のなかでトップクラス
きています。
の経営優良病院に変身することができました。統
電子カルテ導入後半年の時点での病名正解率は
合型病院医療情報システムの構築には,数億円の
53%でしたが,2年半後には82%に上昇しました。
費用がかかりましたが,それは十分カバーできて
患者さんの治療上の問題点把握の正解率は,導入
いると思っています。(図11)
直後には10%と惨憺たる状況でしたが,現在では
62%となり,着実な成果をあげています。
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図11
医業収支とその比率の推移
図12
情報を知識に,知識を行動に
インテリジェント・ホスピタル
に記載しない医師は,電子カルテにも記載しませ
今,世の中は,「IT 化=情報の共有」という,
ん。つまり,いくらお金をかけて立派なシステム
変な錯覚に陥っているのではないでしょうか。
「情
を導入しても,それを正しく活用しなければ,
「宝
報を共有しさえすれば,病院が抱えている問題す
の持ち腐れ」になるのです。
べてを解決できる」かのような風潮です。私はそ
このことをしっかりと認識すべきです。すでに
述べましたが,電子カルテを十二分に活用するた
うではないと思います。
また,当院での IT 化8年の経験からしても,す
めには,その大前提として,病院の組織風土とい
べての職員は,決して情報を共有しようとはしな
うか,組織文化を変えておかなければなりません。
いのです。情報は見にいかなければ目に入ってき
つまり,
「組織風土を変えなければ,情報文化は変
ません。つまり,
「情報の共有ではなくて,情報を
わらない」ことを認識したうえでの医療の IT 化で
知識に変えること」です。そして,得られた「知
あるべきではないかと思っています。
識」を共有し,
「知恵」に変え,あらゆる事象に付
ちょうど時間になりましたので,私の役割はこ
れで終わらせていただきたいと思います。どうも
加価値を与えることです。
さらには,獲得した「知恵」を働かせて,
「行動」
ありがとうございました。
を起こすことだと思うのです。つまり,IT 化の究
極的な目的は,
「行動」です。そうすることによっ
井上
塩谷先生,ありがとうございました。最
て,病院の“知能指数”を高めること。今,医療
後のスライドはかなり厳しいご指摘でございまし
に心が求められていることを考えれば,
“頭の知能
たけれど,しかし大変分かりやすい話をしていた
指数”としての IQ ではなくて,“心の知能指数”
だいたと思います。
つまり IT 化によって,今まで見えなかったもの
としての EQ を高めていくことです。
その結果として,病院は「インテリジェントホ
が見えるようになった,あるいは見えにくかった
スピタル」になれるのです。情報の共有ではない
ものが見えるようになった,見えることによって
のです。
「知識を共有し,知恵に変換し,知恵を働
改善が可能になったということであります。言葉
かせて行動を起こす」ことが,医療の IT 化を考え
を変えますと,IT による医療の透明性,それを達
るうえで,一番基本的なことだと思います。
(図12)
成することによって,それが医療の質改善につな
組織風土を変えなければ,情報文化は変わらな
い
がっていったと,こういうことを具体的な例をあ
げて指摘していただいたんだろうと思います。
医療の透明性と質,これと IT の関係については
私は,電子カルテは,IT 化時代の救世主にはな
総合討論のところで,もう一度議論をしたいと思
います。
り得ないと思っています。
当院での IT 化8年の経験からしても,紙カルテ
それでは3番目は公立井波総合病院の倉知圓院
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35 )
長にお願いしたいと思います。倉知先生,よろし
電子カルテというか,IT だけではなくて,いろ
いろなことを同時に取り組んでおります。した
くお願いいたします。
がって,ブランチラボで検査業務を簡素化するこ
倉知
富山県の公立井波総合病院の倉知でござ
と,あるいは薬剤業務を見直すこと,SPD の導入
います。井上先生,どうぞよろしくお願いいたし
であるとか,院内ページングであるとか,いろい
ます。
ろなことを手がけました。つまり情報の IT 化は医
私の病院は富山県のいわば田舎の180床の病院
でございます。考えてみますと,この医療改革の
療業務の改革の一環としてとらえていたわけであ
ります。
荒波を乗り切るなかで私たちは小船でございまし
私の病院は昨年10月に電子カルテ化したわけで
て,荒波をまともに受ければひっくり返るのは必
すが,特徴としては総合患者情報システムの総仕
定ということでございます。そういう小船のほう
上げだったということと,各部門の情報共有,双
が実は数は多いのかなということで,きょうは私
方向性利用を重視している,それから看護過程を
の病院でのつたない経験をお話させていただきま
システム内で開発した,サマリー機能を重視した,
す。
全部門で POMR の記載をしよう,それから電子レセ
先ほどの塩谷先生の重厚なお話のあとでは大変
プトを実現しております。
お話しづらい面もあるのですが,皆さんのなかに
考えてみますと,カルテの変遷ですが,1979年
も多分同じお考えもあると思いますが,私も塩谷
あたりに1患者1ファイルにしておりましたが,
先生のご実績をお手本にしながらやってきている
このなかで検査データ部分が総合患者情報でトー
つもりでございます。したがって,きょうはまだ
タルになったということで,これで一時カルテの
IT 化,電子カルテの導入がこれからだという方々
再分散化をしております。その後,カルテの診療
に参考になるように,お話ができればと思ってい
記録のところを電子化したのでペーパーレスに移
ます。
行したと,こういう経緯でございます。
何が変わったかといいますと,境界のない診療
総合患者情報システム
情報の共有ができる,それから情報活用による無
私は平成6年に病院長としてまいったのです
駄のない診療ができるのではないか,積極的な情
が,その前の平成4年にオーダリングシステムが
報提供をしようと,それから検索可能であるとい
すでに入っておりました。そのあと,次期モデル
うことが大事だと思うのですが長期データ保存が
構想をする時期になりまして,いろいろと考えま
できる,診療形態が変わってくるといったことを
して「総合患者情報システム」という名称をつけ
期待しておりました。
ましたが,電子カルテを想定して取り組みました。
医療の質,先ほどらいいろいろとお話も出てお
平成10年に導入をしたのですが,その後いろいろ
りますけれども,透明性,とくにピアレビュー,
と積み重ねてまいりまして,昨年の10月に電子カ
監査といった面を含めて,こういう検索性,チー
ルテに移行しております。
ム医療,それから情報開示,ネットワークの医療,
平成10年,1998年の導入のコンセプトとしては
EBM に対応,いずれも紙カルテではほとんど実現
患者さまの診療情報のデータベース化,あるいは
したくても非常に困難だったことばかりですが,
情報の共有化,双方向利用,それから入力者,医
そういったことがこの IT 化によってできるよう
療者にメリットのあるシステムにしたい,ペー
になりました。
パーレスにしようということだったのですが,だ
ただ,先ほど塩谷先生もおっしゃいましたが,
んだん欲が出まして,コメディカルの業務も全面
結局は情報収集能力がないと役に立ちません。IT
電子化をしよう,あるいは無線 LAN を使おう,情
化したら技量が向上するわけでもない,ここが非
報公開,医療連携に取り組もう,安全医療への貢
常に苦しいところであります。
献をしようといったことを視野に入れてやってま
いりました。
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一方,患者さまからの利便性は,これは一定の
成果が得られる,しかし経営面ではそれほどのこ
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とは期待できませんので,これを直接的な経営改
看護ステーションあるいはホームヘルプステー
善に役立つというふうにとらえると,多分間違い
ションへそれぞれ分類して配られる,給付管理表
が起こると思います。
の自動作成ができるといったことになっておりま
す。
看護支援システム
たくさんのなかで,看護支援システムというこ
IT による医療連携
とに少し重点をおかせていただきます。これは当
また,IT による医療連携でございますが,平成
時,システム内で他部門とフル連動できるシステ
10年の時点では,近隣のある診療所,井口の診療
ムがございませんで,それをやろうと,転記業務
所と連携をしましたが,最近利賀村の診療所がご
を解消しよう,勤務表などの自動作成をしよう,
ざいまして,そこと連携をいたしました。医師会,
ワークシート作成をしよう,無線 LAN のノートパ
いわゆる他病院との連携,患者さんへの公開を検
ソコンによるベッドサイド看護を実現しようと
討しているところであります。
いったことを考えました。その後,看護過程のコ
これはごく常識的ですが,病院と診療所とのや
ンピュータ表示記載支援といったことに取り組ん
りとりなのですが,実は電子カルテになりまして,
で,実現をいたしました。クリティカルパスは当
病院の電子カルテの画面を連携サーバーを介しま
然ですが,これも順次バージョンアップをしてお
して,診療所でも見れるということで,当然です
ります。
が,患者さまには当院から退院されるときに,こ
これは画面ですが,常識的な状況になっており
ういうことがあるので利用させてもらっていいか
ます。看護計画,コード分類を採用いたしまして,
と同意書をいただいているということでありま
いろいろな手がかり因子から看護計画に到達でき
す。
るように組んであります。計画から問題リスト,
一方,安全医療に関しては大変力強いツールで
評価,そして退院されると,退院サマリーに積残
ありまして,指示,伝達,共有,それから患者さ
し部分が自動的にサマリーに転記されますので,
まの参加,エラー防止システム等々に役に立って
看護サマリーの記載が非常に迅速かつ正確になっ
いるかなと思います。本当に得意分野かと思いま
たといわれています。
すが,リスク情報であるとか,処方支援,輸血業
転記業務ですけれど,実は調べますと,カーデッ
務の支援その他,自動的に誤りなく行われる大変
クスとか三測表とか,いろいろな各種の帳票に,
有効な手段だと思っております。インシデントレ
こういう項目をこんなにたくさん転記をしていた
ポートも院内 LAN を用いて,自動的に収集してお
のです。これが全部なくなってしまったというこ
ります。
とで,大変な成果になっております。
病棟の申送りの様子でございますが,紙カルテ
当院の電子カルテ
はございませんで,2チームがそれぞれ申送りを
当院の電子カルテのことに少し触れたいと思い
複数の無線 LAN の端末を用いて行っています。日
ます。これは普通の画面ですが,いろいろ入力支
常的にはスタッフステーションにはほとんど看護
援ツールもございますけれど,電子カルテになっ
師がいなくて,自分のノートパソコンを持って病
て変わったことといえば,各職種が患者さまの情
室を回っているという状況でございます。
報の共有,双方向利用をするので,どういう方だ
地域病院でございますので,こういう社会復帰
という患者さんの把握と理解が非常に良くなっ
の支援,あるいは在宅支援センター,訪問看護ス
た,それから時間の短縮であるとか,コピーを差
テーション,ホームリハビリステーション,それ
し上げることなどいわゆる簡便な情報提供,他施
からホームヘルプステーション,あるいは地方に
設との連携が実現できたということです。
あります特別養護老人ホームとの情報連携が大変
先ほど塩谷先生もおっしゃいましたが,カルテ
大切でございまして,これはその1例ですが,在
をきちんと書くか,なかなか難しいのですが,そ
宅看護支援センターでつくったケアプランが訪問
れでも書くようになったかなと,少なくとも読め
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師,リハビリ,栄養といったふうにしてヘッドに
るということがあります。
これは医師だけではなくて,職員の監視といい
色をつけることによって見やすくしたということ
ますか,ピアレビューの状況が生まれつつありま
です。また,各部門でみんなでピアレビューと
す。
SOAP をやろうということで,とりあえずは書けて
従来の医師記録の問題点ということでございま
きているということであります。
すけれども,残念ながら日本ではあまり統一され
すべて POMR に準拠させるのですが,それでもそ
た教育がされていない,とくに POMR ということを
のなかでとくにデータベースの部分,診断の部分,
教わっていないのです。手で書いていますと,読
診療計画の部分,説明,カンファランス記録,継
めない,分からないというのが常識になっていま
続事項,時間外救急の記録,評価,サマリー,そ
した。それよりも何よりも書いてないというのが
ういったふうに分けて,この番号をすべての業種
ございます。白紙のカルテではどうにもならない
に当てはめております。
わけです。口頭指示がはびこっている,それから,
また外来では,外来サマリーというのが地域の
これも医師の悪い癖なんだと思うのですが,他職
病院として,長期の疾患を扱うことが多いもので
種の業務に比較的無関心であるといったことがあ
すから,サマリーが大変重要になりますのでサマ
げられます。
リー画面を別につくっております。大変有効であ
そうしますと,医師の記録に含まれるべき項目
ります。
というのは何か。とくにピンクで示しました,外
この半年ほど経験いたしまして分かってきまし
来では外来のサマリー,入院では入院時の初期治
たのは,とくに医師が POMR に即した記録ができな
療計画,あるいは患者さまへの説明内容,これが
いのです。一生懸命教えるのですがまだまだでき
きっちりとできていないと,今後対応できないと
ない,書いてあると,本当に見よう見まねの SOAP
いうことを強調しているのですが,そういう内容
である,きちんとできていない,たまにたくさん
がどうしても十分に書けていないのです。とくに
書いてあって,おお勉強したなと思ってよく見る
トラブルが起こったときの証拠能力としてきちん
と,ほかのドクターが書いたのをコピーしてある
と対応できるかということになると,大変お寒い
だけで,これは責任をとる気概が薄いのか,自信
ことが実際かと思います。
がないのか分かりませんが,これから教育をしな
考えてみますと診療の過程というのは,情報収
ければいけないということです。
集と分析,問題点の把握,その治療を計画して,
それから先ほども申し上げましたように,意外
実行して評価する,これの繰り返しである,当然
と他業種のことに無関心である,ですけれど電子
のことなのですが,これをすべての職種と業務に
カルテになって初めて明らかになってくることな
当てはめようとするのですが,看護部のほうは比
のですが,患者さまの入院されたり退院される,
較的早くからこういう態勢ができていたのです
そういう全体の医療のなかで,医師が直接にたず
が,医師を含めてコメディカルがほとんど対応で
さわっている部分が非常に少ないということが,
きていなかったというのが実情であります。
電子カルテで非常に明確になってきているかと
私のところの工夫点といたしまして,各部門を
思っています。
POMR で書こうと,それから業種別記載と共通記載
そうはいっても,大変熱心な医師,これは眼科,
を共用しよう,それからこの黄色ですが,業種別
内科ですが,大変克明な記載をしてくれています。
のカラーリング,記録の重要度の設定,診療方針,
全員がこういうふうに書いてくれると大変うれし
サマリーを重視するといったことを工夫点にして
いのですが。
おります。ここらあたりは当たり前でありますが。
とりあえず,医師は黒で書く,看護は青,薬剤
クリティカルパス
は緑,リハビリは黄色,その他は申し訳ないので
クリティカルパスに関してちょっと触れておか
すがピンクというふうになっております。これが
なければいけないと思います。このようにデータ
実際ですが,ヘッドラインのところ,栄養とか医
ベース,情報収集,検査その他を踏まえて,診断
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をして,パスを応用して,それを評価してサマリー
す。インフラにお金をどれだけかけるかという問
へいく,この診療過程全部が,今現在電子化され
題になるのですが,私は平成6年にまいったので
ております。
すが,赤字の病院でございました。それを幸い,
パスに関しては段階的に分けてみたのですが,
大幅に黒字に転化できまして,その勢いを駆って
最初は,IT 化がなくてもパスはできるわけですけ
IT 化に取り組んできたわけですが,多少引っ込む
れども,それからオーダリングになりますと一つ
場合もあるのですが,何とか黒字基調で維持がで
ひとつをオーダーできる,その次,一気にマルチ
きている,31億前後の年商の企業としてとらえま
にオーダーができるということで1999年に導入い
すと,年2%ぐらいの出費は必要であると捉えて
たしました。
おります。
現在第4段階で,電子カルテの機能と連動する
ただ気になるのはだんだん下がっておりますの
で,これは私の指導が悪いのか,社会情勢が厳し
パスということで,今更新中です。
次は多分,パスを運用する,つまり吟味された
標準医療を実行するためのツールが電子カルテだ
ろうというふうなことになると思っています。
いのか,マンネリか,いろいろと今苦慮している
ところでございます。
いろいろございますけれど,流行追従あるいは
将来のことですが,これからディスカッション
補助金といった理由で IT 化に取り組むと不十分
の対象になることばかりですが,地域の共通の情
な結果になりやすいと思います。これからの病院
報管理ができないか,それから情報センターで集
とすれば,電子カルテというのはあくまで道具で
中情報管理ができないか,それから医療・福祉・
ある,意識改革あるいは業務改革の起爆剤,ある
保健の統合がこれでできないか,災害時,あるい
いはツールとして理解していかないといけません
は教育,この赤字で書いたところが,大変ネック
し,オーダリングの延長線上ではだめです。そう
になっているわけであります。
いったことを強調させていただきたいと思いま
将来を考えてみますと,現在,当院では関連の
診療所とは ISDN 回線でつながっておるのですが,
す。
あるべき診療システムというのが電子カルテで
インターネットに暗号化した情報で流したい,そ
はじめて実現できるという,何か信念のようなも
の先には患者さま個人が自分の情報を見に来てい
のがないと成功しないというふうに感じておりま
ただくということになるのではないかというふう
す。
皆さんの何か参考になることがあれば幸いでご
に思っております。
これは大阪の城東中央病院の井川院長にご提供
ざいます。ご静聴ありがとうございました。
いただいたのですが,あそこではすでに患者さま
に ID パスワードをお渡ししているということで,
井上
倉知先生,どうもありがとうございまし
このアクセス件数を見ると大変驚きます。7,000,
た。お聞きいたしまして,院長のリーダーシップ
8,000のアクセスがあるということでありまして,
のもとに大変チームワークよろしく,IT を上手に
今後これも1つの方向であると思っています。
運用されていらっしゃると感じました。できれば,
今からどうなるのかなと思うのですが,先ほど
それによって医療内容,例えばクリニカルイン
関室長からも話がありましたコンポーネント化,
ディケーターといったようなことが,どのように
そういったことを非常に期待をしながら,今後い
改善したかといったようなことを,これから結果
つになったら完成するのか,それもなかなかだろ
を出していただけたらというふうに期待しており
うと思っております。
ます。後ほど,また討論のときに,そういった問
題をさせていただくことにします。どうもありが
まとめ
とうございました。
情報化ということですが,私とすれば今求めら
それでは最後に近藤達也院長からお話を伺いた
れている医療改革,これを支えるのが IT 化だ,逆
いと思います。最初にお断りしましたように,当
にいうとインフラ整備だというふうに考えていま
初国際医療センターの矢崎総長にお越しいただく
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39 )
予定だったのですが,例の SARS 問題で急に来れな
か,EBM への展開,医療連携,医療の質的評価,
くなりまして,大変申し訳なかったのですけれど
つまり多くのデータベースを駆使して,こういう
も,近藤達也院長に急遽来ていただいてお話を伺
方向で開発していくべきであるという,こういう
うことになった次第であります。
秋山先生の信念に基づいて開発されました。
(スラ
抄録のほうにはご経歴が紹介されておりません
イド1)
ので,簡単にご紹介申し上げます。昭和43年に東
京大学医学部を卒業されまして,ご専門は脳神経
外科でございます。平成15年4月から国際医療セ
ンターの病院長としてご活躍のところでございま
す。
国際医療センターのシステムは大変有名で,よ
くご承知のとおりと思います。相当たくさんのお
金を費やして,秋山さんという大変有能な人が非
常に精力的に,これからの病院情報システムとい
スライド1
うことで電子カルテを含めたシステムを開発中で
あります。
電子カルテ化で一番重要なことは正確な実施記
私も大変期待しているわけです。矢崎総長には,
録です。医師や看護師が,いろいろな情報の実施
これは実験でいいんじゃないか,とにかくどこま
記録を入れますけれど,それを全部時間とか場所
で IT によって医療あるいは病院を変えることが
とか全部含めて記録しておきます。それから医療
できるか,何とかいい結果を出してほしいという
行為の単位のデータ化,評価可能なデータ,それ
ことをお話しておったわけでこざいます。まだ稼
から画像に関してもすべての画像を全部取り込ん
働して間がないので,具体的な成果はこれからか
でおく,いつでもそれにアクセスできるようにし
と思いますけれども,現状につきまして近藤先生
ておくということです。それから部門別の管理会
からお話を伺って,近藤先生個人としてもいろい
計の病院管理,そういうものを今度は院外連携が
ろご注文があるかと思いますので,そういったお
可能にすること,先ほどいいましたようにすべて
話も聞かせていただければと期待しております。
の ME 機器が POS 端末で入力できるということです。
では,近藤先生,よろしくお願いいたします。
(スライド2)
病院管理と IT
―医療の質的評価を可能にするために―
近藤
ただいまご紹介いただきました近藤でご
ざいます。もともと私はアナログ人間なので,こ
のデジタル化に関しては多少の抵抗勢力でも一時
あったわけですが,とにかく一緒にやってきて,
私の思いも含めてちょっとお話させていただきま
す。スライドお願いします。
病院における情報システムとしては,これまで
のシステムでは一応医事会計計算であるとか,患
者の待ち時間の減少,省力化,こういったどちら
スライド2
ここにありますのは POS システムです。
かというと省力,時間を短くする,物事を簡単に
コンビニエンスストアのレジでお客さんの対応
するということが中心だったと思いますけれど,
をとって,物事が全部どういうふうな動きになる
これからのシステムとしてはリスクマネジメン
かということを逐一全部記録をとっていくわけで
ト,経営改善,正確な部門別の原価管理であると
す。そういう過程のなかで流通というものが非常
40
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に明確になってきて,事業が非常に効率的に展開
つということが正確に記録されます。いろいろな
できる,こういうことは医療にも応用すべきであ
トラブルがあれば,どこでどういうことが起こっ
るということで,下にあります POAS を開発したわ
たか,またどういう使われ方をしたかが分かるわ
けです。
けです。(スライド5,6)
そのことによって患者ニーズにこたえてリスク
マネジメント,正確な実施記録,経営改善,医療
連携,こういうところに展開していこうという理
念であります。(スライド3)
スライド5
スライド3
例えば,投薬や注射を行う場合,それから根拠
に基づいた医療を構築する,そのデータをクリ
ティカルパスや EBM の解析に利用する,それから
使用した物品の正確な記録,有効期限やロット管
理も可能である,これはまだ理想の段階でありま
すが,トラッキングが追跡可能であるということ
です。(スライド4)
スライド6
コンビニと同じようなこういう PDA を医師と看
護師が病床の周りで使って,データを記録してお
くということです。
例えば,点滴例です(スライド7)。看護師が自
分のバーコードをこれに登録して,それからお薬
スライド4
例えば,これはお薬の展開でありますが,製造
メーカーから販売業者にいき,販売業者から医療
機関にわたって,医師の指示のもとに看護師・医
師が注射をして,患者のもとにいく,こういうと
ころで正確にバーコード,電子タグがつけられて
いれば,だれにどういうものが,どの時間帯,い
スライド7
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日本病院会雑誌
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41 )
をバーコードで登録する,そうしてオーダーに
ろで応用できるであろうということであります。
従って入れていくわけですが,患者さんのところ
(スライド9)
に行って,自分のバーコードをまたもう1回確認
をとって,患者のバーコードを入れて,そしてど
のルートから入れるかを確認をとって,もしも
ちょっとルートや薬が違えば,ここで警告が発せ
られるわけです。こういうふうにして正確に患者
のところに提供できるような仕組みにします。そ
れから側管から別のお薬を入れたりする場合も,
あらためて確認するとルートが違っているかどう
かも,これで確認できるのです。
スライド9
これは次に患者さんの外来の受付の話ですけれ
ど,ここに患者さんのカードを入れますと,例え
ば循環器に登録された人であれば,岡崎先生のと
ころで,その人が何時受付と見ると,自分の診療
時間が分かって,もしもこれが遅れているようで
あれば「何分遅れ」と出てきます。例えば3時の
約束で,2時50分に来て3時と出ていれば時間ど
おり診てもらえるわけですけれども,2時50分に
スライド8
来て,これが30分遅れになっていれば,3時半に
これ(スライド8)はバーコードに含まれる情
行けばいいんだろうということが分かるわけで
報でありますけれども,製品名,価格,製造番号,
す。その間,廊下とか喫茶店とか別のところに行っ
その他さまざまな情報,幾つかの簡単な入力を組
て,その表示板の展開を見てそちらに駆けつける,
み合わせれば,すべての医療行為が発生する以下
つまり外来のブースの前にいつまでもいる必要は
の 情 報 が 分 か る , こ れ を 秋山 先 生 は 5 W1 H
何もないということです。(スライド10)
(What, When, Where, Why, Who, How)こういう
ことが確実に記録されるということになっている
わけですが,残念ながらバーコード化については
すべてのものにされているわけではなくて,お薬
でも小さなアンプルにはついていないわけで,
ロット化まではまだ進んでおりません。
オーダーを立てると,医療行為,Act が発生し
て,電子記録がされるわけですが,そのこと自体
によってバーコードチェックで医療過誤の対策が
なされる,それから医療の実施記録によって,こ
れが積み重ねられることによって EBM,医療の標
スライド10
準化が提供できる,それから物流に向かっていけ
実はカルテは2種類の記録形態をとっておりま
ば,医療,経営改善,業務管理,発注に従ってい
して,これは一般的な2号用紙であります。もう
くということです。つまり,いろいろな情報が,
一つは時系列に並べて,オンデマンド様式のもの
この医療行為のなかで同時に記録されておくと,
も裏返して使うことができます。それはオーダー
いろいろな展開の仕方によって,いろいろなとこ
にしても全部両方できるわけですけれども,医師
42
42(392)
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または看護師,どちらの好みでも使えるように
できます。
なっているわけです(スライド11)。これ(スライ
先ほど申し上げました主治医の案内ですけれ
ド12)は2号用紙方式でありますけれど,時系列
ど,色,形によって,指示を受けていないかどう
表示で上から順番に時間とともに出ております。
か,受けたかどうか,今例えばオーダーが立った
これは検査のオーダー,これは点滴のオーダー,
段階だけではなくて,実施の段階,それから中止
それからこれはやはり指示オーダーが出ています
のことを,色で見ることができます。
が,途中で中止した場合,まったくなくなるので
さて物流の問題でありますが,医療現場で薬を
はなくて,線引きで消されるような仕組みだった
使用したり,請求が出れば,当然蔵出しがされる
り,それも何時何分に消したということも記録で
わけですけれど,それに対して自動的にこういう
きるようになっております。
請求,発注ができるわけです。この段階において
は医療従事者はいちいち物流のことを意識しなく
ても,自動的にそういうことができる,だからあ
まり不必要な情報を入力させないということで
す。それから EAN128というヨーロッパの基準があ
るそうで,これを使って医療過誤対策を考慮する
ことができます。(スライド13,14)
スライド11
スライド13
スライド12
そういうときに,例えばいろいろな病理の報告,
CT の報告とか出ておりまして,病理の報告をのぞ
スライド14
いて見ますと,病理の組織の画像も展開できます。
それからここに MMM とありますが,ここをのぞい
それから,例えば注射の流れでありますけれど,
てみますと,CT の内容がすべて入っておりまし
指示をして伝票発行になって,調剤,処方監査,
て,いつでもここからのぞいて見ることができま
混注,実施と,こう流れていきますけれど,この
す。このカルテを御覧になって分かりますように,
星印のところで確認作業を行っていくわけです。
図書館とかUネット,それから医療機関名簿が出
そして例えば有効期限がチェックされ,患者さん
ていまして,もし外来であれば,医療連携もこれ
との紐つけが確認される,それから処方の監査,
で展開できるし,図書館に入れば電子ジャーナル,
内容で,一体指示の変更があるかどうかを確認す
Pubmed その他の必要情報もここから得ることが
る,時間チェック,正しいかどうかです。混注し
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43(393
43 )
てしまうと,もうこれは使ったことというか再利
今この時間帯で見てみると,点滴をやっている最
用は不可能である,消耗してしまって無駄になっ
中である,前のほうは終わっている,それから医
たということが確認されるわけです。(スライド
事請求がなされるわけです。それから,この部分
15)
は混注済みである,これから投与を予定している
わけです。それからこれは翌日の分でありますけ
れども,病棟で監査済みであると,それからこれ
は明後日以降の指示された内容でありますけれど
も,ここにありますように混注しないで中止した
場合は原価には含めない,混注した薬品をやめた
場合は原価に含むという,こういう請求になるよ
うになっています。(スライド17)
スライド15
その内容をいいますというと,例えばこの段階
で中止だとかいろいろなことが起これば,お薬は
再利用が可能である。それから混注前であっても
再利用が可能である。混注以降であれば廃棄処分
であると,こういうところできちんと確実に再利
用ができるといういうことが,早めに伝えること
によって,あとでどれほどか経費の節約にもなる
スライド17
ようであります。(スライド16)
指示を出してその物品準備をしますと,準備品
の確認,有効期限のチェック,事故ロットのチェッ
クがなされます。それから,医療過誤を防止し,
使用物品の質を保証するということです。実施し
た場合,ロット番号を患者に紐づける,製造不良
事故発生時のトラッキングを可能にする,遡って
調べることができるということです。(スライド
18)
スライド16
これはもう一つのカルテの見方でありますが,
1週間の時間系列があって,実はこれはたまたま
注射のビュアーでありますが,展開すると温度表
から,例えば血圧とかいろいろな展開があるわけ
です。その中で注射のところを見ていきますと,
例えばきょうは10月31日であったとすると,昨日
のことを見ますというと,ここの点滴のマークが
白く抜けている,もう終わったということです。
スライド18
一部残っているのがありますけれども,これでや
これが先ほど示した PDA でありますけれども,
めたということが分かるのです。それから本日,
温度板だとか荷卸,物流,医事会計,そのまま反
44
44(394)
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映いたします。実際,これによって医療過誤対策
と労務負荷の集中度管理ができる,これからその
話をさせていただきます。(スライド19)
スライド20
スライド19
病棟管理の実際
―医療過誤対策と労務負荷の集中度管理―
例えば,あるスタッフAが事故を起こしたとし
ます。そうすると,スタッフB,スタッフC,ほ
スライド21
かのメンバーの行動も実は記録されているわけで
す。そうすると,このスタッフAだけの問題では
なくて,そのときの事象,周辺のスタッフの面の
解析ができて,事の事情が同時に記録されている
わけですから,どういうことで起こったかという
ことが予想され,また今後,こういうことがない
ようにとかいう分析もチームワークとしてできる
わけです。(スライド20)
あらためていいますけれど,事故発生前後の当
事者の行動だけではなくて,ほかの医療スタッフ
スライド22
の行動や,病棟や外来などの周辺の状況も正確に
把握可能である,それから発生現場の直接的な原
のうち24%が変更されているということが分かり
因ではなく,周辺の間接的な原因も発見可能であ
ます。オーダーの中止によって,リアルタイムに
るということです。(スライド21)
オーダーの中止がいっていれば,このままこれは
それから,これは注射を実施したり,中止した
問題なく還元されるわけでありますけれど,放っ
りとかいろいろなことがありますが,そういった
たらかしておくというと,薬剤が混注されて無駄
ことによる効果を算出したものです(スライド
になったりします。そうすると1日に約59万円,
22)。実績データより算出したものであります。1
1年間に2億1,500万円,これだけの損失が発生す
日に750オーダーが注射で発行されて,2,329品目
るということで,この方法でこれを防ぐことがで
が出されますけれども,そのうち570オーダーが変
きたと秋山先生はいっています。
更なく実施されます。ところが,1日180オーダー
が中止,変更があって戻ってきます。つまり,そ
一方,ルートの変更であるとか,混注したあと,
また変更もありえるわけです。このとき,どうい
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45 )
うことがあるかというと,約15%においてルート
の変更で指示が変わっておりますが,もしもこれ
が確認しないでなされたとすると医療事故を起こ
している可能性がありえるのです。たまたま,点
滴スピードだとかその程度のことであって,問題
なかったわけでありますけれど,もっと大きな事
故も起こりうるが,これを未然に防ぐことができ
るということであります。
さて,これは薬品です。先ほどは25%がうまく
スライド24
戻ったという話がありましたけれども,平成13年
度当時には入っておりませんので,当時の医薬品,
てずいぶん違う,どうしてそうなるのかは,まだ
すなわち医療品だけでありますが,講入額が28億
まだ分析が不十分で,例えば手術のこともあるの
5,200万円だったのが,平成14年度には26億2,600
かもしれないし,手術日に関係しているかもしれ
万円で,約2億2,500万円救われたというふうに
ないという話もありました。同じ外科ですが,南
いっておりました。(スライド23)
北によってずいぶんまた違うし,病棟によって質
が違う可能性がある,こちらのほうが比較的安定
している感じがあります。
スライド25
スライド23
さて,これは病院全体でのエラーの発生率を見
たものでありますが,この1月2月3月のことで
ありますが,先ほどいった手順のエラーの発生率
でありますが,大体3%∼5%ぐらいあって,こ
れは日月火水木金土とあって,処置の多い月火水
木金は比較的高めでありますが,土曜日曜はやは
り事故率が少ない,事故率が少ないということは,
やはり少し余裕があるから少ないのかもしれませ
スライド26
ん。これは病棟で調べてみますと,月によってず
いぶん変動があって何ともいえないのですけれ
これは呼吸器の内科の病棟(スライド27)であ
ど,金曜日が高そうであると,大体週末にオーダー
ります。やはり金曜日が比較的高い,まだ分析が
が集中するということも関係しているのではない
不十分なので,こんな展開があるということをお
かといっています。(スライド24)
見せします。
これは外科の病棟(スライド25,26)でござい
ますけれど,これを見ても分かるように月によっ
46
46(396)
このように日にち,ウィークによって,すぐ対
処することができるということです。
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て,その後 Task が出てくるという仕組みになって
います。そうして,それに基づいて処方箋が,例
えば11月1日から11月3日というオーダーが出て
きます。それからこういうふうに出てくるわけで
ありますが,さらに本数の管理から個別管理,そ
れから一人ひとりの診療行為を行った医師や看護
師まで分類されるということによってできること
であります。(スライド29)
スライド27
経営管理
―日次処理による迅速な対応,配賦式によらな
い部門に直課した部門管理―
この方法によって,オーダー,医療行為,電子
記録ということを通しながら,いろいろな人の人
件費も原価計算が可能になってまいります。正確
な管理会計ができるということです。(スライド
28)
スライド30
情報が,これは何をいいたいかというと,粒度
それから,例えば診療費の計算でありますけれ
といいますが,1つのオーダーを立てた場合,薬
ど,例えば7月の診療費を出したとすると,例え
剤一つひとつに対して,番号づけがされてくるわ
ば7月いくら頑張っても,そのお金は実は2カ月
けです。つまり処方箋1枚で出すのではなくて,
後の9月ぐらいに来るわけで,実態は7月の収益
処方箋のなかの一つひとつの薬に対して Act が出
というのは戻していかなければいけないわけであ
ります。この方法でありますと前もってバーチャ
ルに会計簿をつけることができまして,7月にど
のぐらい稼ぐことができたか,どのぐらい収益が
あったか,8月はどのぐらいあったかと,それぞ
れ分けて見ることができます。今のままだと,本
当にそのときに入ったマネーフローによってだけ
しか見ることができませんが,それぞれの月の本
当の分析が正確にできるような仕組みになるとい
スライド28
うことです。
さらに原価計算の考え方でありますけれど(ス
ライド31,32),例えばAの診療科で医療材料とし
て,これだけ物を使った,Bの診療科ではたった
1本である,Cの診療科で5本使った,そうする
と,実はその収益はまとめてこういう値だとしま
すと,この収益が実際にこういうふうに分かれて
いると,材料費はまとめて配賦をしていた,40万
40万80万と分けてしまうロスが,この現実の方法
だと,これだけ使ったものを,そのままこちら側
スライド29
に出て,その診療科がどれほど材料を使ったかが,
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47(397
47 )
スライド33
スライド31
益の計算も,たちどころに毎日のようにすぐ出て
くるわけです。その月でリアルタイムに出てきま
す。(スライド34)
それから,医師1人当たりの収益も出てくるこ
とになっています。その人の原価も,給料である
とかそういったものを含めて出てくるわけです。
それから損益,この人は稼いでいるけれど,この
人はちょっと赤字があるとか,そういうこともリ
アルタイムに出てきます。(スライド35)
患者さん一人ひとりについても,もちろんプラ
スライド32
そのまま計算される仕組みになっております。本
当にその診療科がどれだけ正確に原価があるの
か,計算できるわけであります。本当の実態に沿っ
た原価が計算されるということです。
これは医師や看護師についても同じでありまし
て,配賦方式だとやはり不公平が生じる可能性が
あるわけでありますが,これだと正確に分布され
るであろうということです。
またこうした同じことが,疾病別の損益の計算
になるし,主治医別の損益の計算,さらに医師別
スライド34
の損益の計算,患者別の損益の計算,従来どおり
の診療科別の損益の計算,もちろんいくらでもで
きるわけであります。非常に分かりやすい格好に
なるのかなと思います。(スライド33)
例えば,これは収益で見ますと,手術が22%,
それから処置が15%というふうにまとめてできま
すけれど,またそのうちの人件費が47%である,
材料が21%という分類が分かります。さらに中央
診療部門,検査であるとか放射線であるとか,こ
ういうところも分けて計算できます。それから損
48
48(398)
スライド35
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スライド39
スライド36
けれど,実はもっと黒字であるということが分
かったわけです。
私は脳外科ですが,脳外科は黒字であると思っ
たのですけれど,実は赤字である,なんでだろう
と聞いてみたら,実は放射線科というのは,見た
目は赤字なんだけれど,実は黒字なんです。です
から,実は脳外科のいろいろな MRI とか CT とか,
そういうのは全部こっち側でくっていたわけで
す。ですから放射線科のおかげで生きていたよう
なわけで,だからやはりこれは組み合わせて生き
スライド37
ていかなければいけないというのが分かります。
同じようなことが,本当は赤字なんだけれど黒
字に見えるところもあるわけです。ですから,病
院というのは,やはりこういうでこぼこがあるの
だけれど,偉そうなことをいっても,実はいろい
ろな人のおかげであるというのが,こういうとこ
ろでよく分かるということがあります。
それから,お医者さんの平均収入ですけれど,
これは当院の研修医と普通のお医者さんのもので
す(スライド40)。普通の医師が大体300万ぐらい
でがたがたしています。研修医のまったく1年目
スライド38
スになっているか,マイナスになっているか分か
ります。このなされた治療の色分けで出てくるわ
けです。高額医療患者についても,そうです。ど
ういう疾患群が収益があって,どういう疾患群が
赤字になるか,これも出すことができるわけです。
(スライド36,37,38)
これは当院の収支の比較(スライド39)であり
ますが,下が赤字になっているわけです,上が黒
字でありますが,左側のほうが従来の方法で,例
えば循環器内科はこの程度の黒字であると思った
スライド40
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49 )
ジェネラリストコースが一番下ですが,実は5月
に採用ですから,6月ぐらいはまだまだ見習いで
すから,実施入力はほとんどありませんから25万
円ぐらい,それがだんだん上がってきてこういう
ふうになっていく,研修医の稼ぎというのもこれ
で出てきて,このブルーの研修医の2年目のジェ
ネラリストがこういう値になってきていると思い
ます。だんだんいろいろなことをやらされている
ということが,よく分かります。これを一般の医
師を100として,その何%かと見ると,2年目の
ジェネラリストは大体60%ぐらいから80%ぐらい
の稼ぎであるということです。(スライド41)
スライド42
とです。(スライド42)
そうはいっても,医者は診療業務に専念してい
ただかなければ,金のことばかりいってはいけな
い,やはりモラル高く仕事してもらわなければい
けないわけですけれど,同時に一生懸命やっても
らえれば,周りで自動的にこういうことがちゃん
とできますということです。
地域医療連携
―ゆーねっと
と連動―
さて,こういう内容があれば当然地域医療連携
も本来,容易なわけでありますが,うまく作動し
ていない点もあります。一生懸命やるお医者さん
スライド41
こういったことを今度は経営にどういうふうに
反映させるかということでありますけれど,これ
は固定費用,つまりどうしても固定費,比率であ
りますが,57億8,100万円,これはほとんど人件費
であるとか,不変のものがありますけれど,それ
に加えて変動する値がどうかというと,例えば材
料費とかそういうものになってきます。そうする
と,うちの病院は4月から9月37%ぐらいのカー
同士では,これは可能なわけです。こういう(ス
ライド43)画像が展開されまして,お互いのアク
セスでうまく当院の医療情報をお互いに提供する
ことができますけれども,セキュリティガードが
秋山ラインは非常に固いので,面倒くさくて時間
をくうので嫌になってしまって使わないというと
ころがあるのです。あれをもう少しスマートにす
れば,例えば医療情報のなかで検査のデータであ
ブをとってきまして,患者さんの量によって,こ
うなってくるわけです。だからある一定のところ
を超すとまるまる黒字になってくるわけですけれ
ど,残念ながら,あまりいいところはなくて,こ
れは秋山先生がそのまま僕にくれたんだけれど,
本当にそうだなと思っているのです。
実は,この黄色い線で10億の赤字になってしま
うのです。ところが,これを優良の病院といわれ
ている25%ぐらいの材料費にすると,実はもっと
減るんだという話になるわけです。ですから,こ
ういうふうなシミュレーションができるというこ
50
50(400)
スライド43
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るとか,簡単に手に入れることができます。43カ
うえにおいて,ものを考えるうえにおいて,非常
所の医院でリアルタイムに閲覧可能であるという
に便利な機械であることは間違いありません。
ことです。(スライド44)
インターネットの利用
―文献検索やガイドライン参照―
インターネットの利用,文献検索のガイドライ
ン,これはたちどころに分かるわけです。そうい
う全国規模での展開が望まれるわけです。
(スライ
ド46)
それから EBM の応用では,これは秋山先生が見
つけたのですが,肝癌の全患者の1年余りの判定
モデルをつくってみたところ,こういうお薬を使
うと,この線を超えると治療法にかかわらず1年
スライド44
以内に死亡するということが分かったといって見
それからもう一つ,これは役に立つ方法であり
ますけれど,一般的に私たちがカルテに,例えば
1週間,温度板に抗生物質やいろいろな薬を鉛筆
で書いたりして,それに基づいて温度板がどうい
うふうに変わったかとか,白血球がどのように変
わったとか,検査のデータを比べて見たい,使っ
たお薬によってどういうふうに変化したか見たい
わけですけれども,これを必ず入れるようにとお
せてくれました。(スライド47)
データをうまく使えば,EBM というのが非常に
簡単に手に入るということです。こういう医療セ
ンターの目的として,患者のニーズを反映した医
療をやろう,それからグローバルスタンダードを
超える新しい医療をやろう,コストエフェクティ
ブな医療をやろう,こういったものを展開するた
めに,この精度の高い原価計算や実施データに基
願いいしていたわけです。
実はこれが可能になりまして,例えばセルベッ
クスであるとか,パンスポリンとか,メバロチン,
こういうお薬を使うと白血球がどうなるとか,こ
ういう値がリアルタイムにいつでも見ることがで
きる,これはものを考えるツールとしては非常に
有効であるということです。(スライド45)
ですから,経営が楽になるとか,それもあるか
もしれないけれど,お医者さんにとって,診療の
スライド45
スライド46
スライド47
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51(401
51 )
システム構築である,正確な記録と評価可能な記
録,IT 時代の医療,診療研究のあるべき姿を追求
する,国民の強い信頼のある実現ということでご
ざいます。(スライド50)
どうもご静聴ありがとうございました。
井上
どうも近藤先生,ありがとうございまし
た。塩谷先生のご講演のあとで,IT によって見え
ないものを見えるようにするということを私のほ
うからちょっと申し上げましたけれど,近藤先生
スライド48
のお話は5W1Hということで徹底的に病院のな
づいた分析が非常に重要であるということです。
かでの業務を見てしまおうと,いわゆる POS シス
(スライド48)
テムということでやっていらっしゃるわけでござ
医療機能を正しく評価することと経営とをうま
います。
くバランスをとることによって,正しい医療が行
そこまで見るのかという考え方もあるかもわか
われるのではないかということです。(スライド
りませんけれども,今ご紹介いただきましたよう
49)
に,見えなかったものが見えることによって,我々
病院の医療スタッフの専門能力の発揮を妨げる
がこれまで知ることができなかったさまざまなこ
作業と要因を可能な限り排除する,本来の使命で
とが,幾つも分かってきたという事例をご紹介い
ある患者の診療に專念できる環境づくりを実現し
ただいたと思います。どうもありがとうございま
たい。それから情報発生時の正確な記録,経営分
す。
析,臨床研究,評価基準づくりに生かす情報収集,
医療の質の測定であります。患者を中心に考えた
それでは45分まで,あと30分ほどございますの
で,せっかくでございますので討論に入りたいと
思います。演者の先生方,どうぞ壇上にお願いし
たいと思います。
最初に申し上げましたように,今日のこのシン
ポジウムは IT を徹底的に目的指向で論じようこ
とでございます。目的というのは日本の医療を良
くすること,あるいは病院の医療を良くするとい
うことでございますけれども,そのことについて
は,具体的にいうと,3つのターゲットがあり,
1つは透明性,2番目が医療の質,3番目が医療
スライド49
の効率ということでございます。
このことを順次,本当に IT に期待することがで
きるかという観点で議論を進めていきたいと思う
わけであります。
病院長も自分の病院を良くするのに透明性や医
療の質の改善,効率の向上が目的だと思っている
に違いないのですが,国の立場と院長の立場,多
少違うところもあるかと思います。
まず今日3人の院長先生に病院の IT を紹介し
ていただいたのですが,関先生,厚生労働省の立
スライド50
52
52(402)
場から,今ご発表いただいた3つの病院の IT 事例
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日本病院会雑誌
について,ご感想ございますでしょうか。
――――――――――◇――――――――――
関
面もあるかもしれませんが,ここでかなりの投資
をしたことは,LEAF というシステムとして先般の
厚生労働省の補正予算の補助金でも,少数ではあ
ありがとうございます。塩谷先生,倉知先
りますが,実際に幾つかの病院で導入を準備中で
生のお話を伺って,グランドデザインのときに把
ございます。多様な病院情報システムがあるなか
握のしやすさということもあって,ターゲットに
で管理面で特に重装備されたこのようなシステム
したのが400床以上の病院の導入目標というもの
が,どのぐらいのコストでできて,しかもどうい
を立てた訳ですけれども,両先生の病院それぞれ
うインパクトを与えるのかというのは非常に関心
公立の病院でございますけれど,それぞれについ
のあるところで,秋山先生が始められたお取組み
て非常に感銘を受けました。まさに,達成すべき
が徐々に広がりを見せ始めたということで,非常
目標が最初からはっきりしていて,それで活用し
に関心をもって見ているところでございます。
た場合にはこれだけの効果を発揮するということ
雑ぱくな話になってしまいましたが。
かと思います。
その基軸にあるのが,文字どおり,患者さんの
井上
ありがとうございます。それでは,これ
参加あるいは情報開示ということを,本当に病院
から,透明性と医療の質,医療の効率という順序
の組織のなかで徹底させるということに始まりま
で話を進めていきたいと思います。
して,明確にやりたいことがあって,それで IT
まず透明性でございますけれど,総合規制改革
を使っているということ,それが非常に感銘を受
会議,これは医療改革のトップに徹底的な情報公
けたところであります。
開を掲げています。それから厚生労働省の医療提
国の施策というのは,やはりそれぞれの医療機
供体制(案)のなかで,医療情報の提供という言
関のおかれた状況,地域性もございますし,運営
葉が出てまいりますけれど,これは何のためかと
母体の違いということもありますし,さまざまで
いうと,患者,国民が医療を選択するための情報
あるわけですけれど,やはり創意工夫をこらしな
提供ということであります。
がらやっていくときに,やりやすい環境づくり,
つまり,そういったニュアンスの透明性を求め
私の話のなかでも申しましたけれども,やはり全
ている訳であります。では具体的にどういう情報
体の基盤になるような非常に基礎的な部分のコー
かということが問題になる訳でございますけれ
ド体系のようなものから始まりまして,制度基盤
ど,どこの病院の手術件数が幾らで,その結果が
に当たる部分をやはりきちんとやっていって,そ
どうかということを,公表しなさいということな
れぞれの医療機関での取組みをやりやすくする基
んだろうと思います。
盤づくりを本当に考えなければいけない,やりに
ところが,私は7年間,国立病院の院長をさせ
くくする基盤づくりをしてはいけないということ
ていただいたのですけれども,残念ながら院長を
だと思います。
していても自分のところの病院のデータが見える
きょうコストの話はあまりしないということの
かというと,これがなかなか院長にも分からない
ようですが,その話はつねに重くかかってくると
のが,日本のほとんどの病院の現状ではないかと
いうことでございまして,これからの課題だと
思います。院長にすら分からない情報を一般の国
思っています。
民,患者さんに提供するというのは,その次の問
国立国際医療センターの話は,きょう近藤先生
題ではないかと感じるわけです。
からお話いただきまして,非常に複雑なシステム
今日は塩谷先生から感染症チーム,ICT のこと
なものですから,私も国際医療センターのシステ
について,IT によって情報を把握できるように
ムの話を聞くのは5回目ぐらいですけれど,その
なったという紹介がございましたし,また倉知先
たびに新しいポイントに気づいたりするわけで,
生は,情報を共有することによってピアレビュー
すごいシステムだと敬意の念で拝聴しました。一
が進んだとおっしゃいました。近藤先生は,5W
般に広く普及するということにはなかなか難しい
1Hで職員のやっている医療行為のすべてを把握
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日本病院会雑誌
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53 )
するんだというご紹介がございました。
データでなければならない,そういうことを IT
私からも事例を追加して報告させていただきま
によって実現することによって,つまりそれが透
すと,国立病院は全国で今200近くあるのですが,
明性の意味だろうと思うのですが,それが医療の
それを結ぶホスプネット(Hosp-net)というネッ
質の向上にもつながってくると,こう痛切に感じ
トワークが出来ております。私が班長になりまし
たわけであります。
て,これには25ぐらいの病院が参加したのですが,
同じようなことは,保険局が特定機能病院に対
急性心筋梗塞のデータをホスプットを通じて集め
して DPC 分類で定額払いを始めましたけれども,
ました。ホスプネットがあったおかげで,あっと
定額払いのことよりも,むしろ重要なことは DPC
いう間に2,000例以上の急性心筋梗塞のデータが
に基づくデータを提出させて,それを公表したこ
集まったわけであります。
とです。しかも新聞紙上にも公表したわけであり
それを解析しましたところ,あるAという病院
ます。ある大学病院の心臓バイパスの平均在院日
の急性心筋梗塞の在院日数は35日だったけれど,
数は58日,ある大学はそれが18日だった,40日の
別のB病院は15日だったというように,同じ国立
差があるということが,まざまざと明らかになっ
病院で同じように急性心筋梗塞を診ながらばらつ
たわけであります。
きがあるということが分かったわけであります。
そういうことが,やはり医療の透明性であって,
しかも医療の内容もずいぶん違う,あるところ
透明にすることによって,58日の病院は18日を目
はステントを全部入れているのに,あるところは
指して,30日20日と縮めていく。IT には鏡の役割
ほとんど入れていない,退院時の処方も違うと
を期待できるのではないかと感じたわけでありま
いった,そういったことが明らかになってきたわ
す。
演者の先生方,その医療の透明性ということに
けであります。
班会議で集まりまして,それをお互いに見せ合
いをしたわけであります。同じ国立病院でありな
がら,これだけばらついていては少しまずいので
ついて追加してコメントいただけたらと思いま
す。
塩谷先生のご経験からして,いかがでしょうか。
はないか,来年度はもう少し収束するようにしよ
うではないかということで,第2期の調査研究を
塩谷
先ほど,患者さん用のカルテ「私のカル
テ」についてお話しましたが,それを発行した約
したわけであります。
そうすると,見事に在院日数が少なくなって,
医療費も安くなって,しかもばらつきも小さくな
2,000人の患者さんに対してアンケート調査をし
ています。
りました。例えば入院中の死亡率なども,非常に
我々は,
「私のカルテ」によって,医療の透明性
高かった病院が非常に低くなったというデータが
を高め,その質的向上を図ると同時に,患者さん
得られたわけです。
にも主体性をもっていただき,自分自身の病気に
そういうことを経験して私が痛切に思ったの
は,医療の IT というのは,「鏡の役割」だ,つま
ついての理解を深めてもらうことを目的にしてい
ます。
り自分の姿というものを,我々医師というのは見
しかし,
「私のカルテ」をもらってよかったと思
ていなかったのだけれど,IT によって自分がどう
う患者さんは,2人に1人しかいないのです。診
いう診療をしているかを映すことができるように
療記録そのものを,説明をつけてお渡ししている
なった,そういうことをきちんと映せるようにす
にもかかわらず,タンスの中にしまい込んだまま
ることが電子カルテの1つの役割ではないか,あ
で,まったく活用してくれていない患者さんが少
るいはデータベースの役割ではないか。次に自分
なからず存在するのです。つまり,単にカルテを
の姿だけを映していたのでは意味がなくて,やは
開示すればいいという問題でもないと思っていま
り他と比較して初めて意味がある,他人の姿と自
す。
分の姿を比べてみる,それを可能にするのがネッ
しかし,その一方で∼小児科は全患者に「私の
トワークである。比較をするためには比較可能な
カルテ」を発行していますが∼お母さん方からの
54
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日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
「母子手帳と同じような成長記録になって,非常
少しお聞かせいただけますでしょうか。
にありがたい」という声が多くあります。
つまり,医療の透明性は,医療を受ける側が,
倉知
ピアレビューの問題は,結局電子カルテ
開示された情報を正しく活用してはじめて,意味
で同じ診療記録のなかで各職種,医師を含めて全
あるものになるのではないかと考えています。
員が同じようなシステムで書き出しましたら,ま
もう1つ,カルテ開示法制化の問題が議論され
ず他職種が何を考えて何をやっているかというこ
ていますが,開示によって医療訴訟が増加するの
とがよく見えるようになったということが,まず
ではという危慎があります。しかし,私は,平時
第1点です。
のカルテ開示は当たり前のことであり,有事の場
その結果,とくに医師の診療方針,診療内容が
合にこそ病院側の姿勢が問われるのだと思いま
もろにほかの医師にも見えますし,それから他の
す。
職種からも丸見えになってしまうということが起
つまり,何もトラブルがない段階で,
「はい,カ
ルテをお見せして,説明します」というのは,ど
きまして,当然これは二次的にピアレビューの効
果が出てきています。
この医療機関でもできるのです。大切なのは,医
ただ,そういう形にして半年ですので,具体的
療的なミス,あるいはミスに近いものが発生した
にどうということではないのですが,そこを何と
ときに,カルテ開示ができるかどうかです。
かしていかないと,クリアしないと院内の信頼す
当院ではそのような趣旨から,有事に際しては
らも維持できない医師が見えてきたということは
その当日に,患者さんや家族に,医師記録・看護
はっきり申し上げられます。これは個人的に努力
記録・検査データなどすべての診療記録をお渡し
いただいて,そうでなければ,病院長としては替
し,ありのままを誠心誠意,説明させていただく
わっていただくしかなくなるということが生まれ
ことにしています。病院を預かる院長としては,
るだろう,非常に厳しい側面があると思います。
胃に穴が開くような思いがする場面ですが,そう
透明性の問題に関しては,そういうことでもあ
することによって,患者さんとの信頼関係を強化
りますけれど,患者様に関しては,塩谷院長のお
したいと思っています。
話にまったく同感です。日常的な情報提供,説明
「患者中心の医療を!」と,どこの病院でも,ど
責任を果たすという意味での情報提供がしっかり
この医療従事者も,また,どこの知識人も唱えて
できていれば,事故等があったときに,私のとこ
います。しかし,うがった見方かもしれませんが,
ろも全面的にお見せしているのですが,そういう
それは,
“ポピュリズム”というか,大衆迎合主義
ことでご理解いただける面が非常に多うございま
的な面もなきにしもあらずの感じがする訳です。
す。あらためて構えることがなくなるということ
そこのところを,矩的創造組織といいますか,知
では,大変助かっております。
的作業を本質としている病院が,どうクリアし,
ただ,各病院の医療水準を開示するという話に
「患者中心の医療」を実践していくのか。これも
なると,なかなか実は基礎データの蓄積にてこ
非常に大切な問題だと考えています。
ずっておりますので,地域の小規模病院としては
まったくこれからの課題になります。
井上
ありがとうございました。今の問題も大
変重要でもう少し議論したいのですが,あまり時
井上
ありがとうございます。近藤先生のとこ
間がございませんので,倉知先生はピアレビュー
ろは,今お話を聞きましたところ,徹底的に何で
という言葉を2回ほど使われましたけれども,各
もデータを集めるということでございました。
職種が違うカラーで診療記録を書いていらっしゃ
例えばドクターについても,
「あなたのやってい
る,それをお互い見る,そのことによって井波総
る業務が赤字になっていますよ」とか,
「あなたは
合病院の医療が恐らく良くなったとお感じになっ
何人の患者を診ています」とか,すべて明らかに
ているだろうと思うのですけれども,IT と医療の
なるわけですね。そういう透明性について職員,
透明性ということについて,先生のお考えをもう
とくにドクターの受け取り方はいかがでございま
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日本病院会雑誌
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こういうデータセットは出せるようにしましょう
しょうか。
といったこととか,あるいは保険局がやっている
近藤
まだ公開はしていないのです。また,ま
DPC でもいいと思うのですが,比較可能な分類で
だ公開する気はないのです。ただ人の評価という
データを出すことを,電子カルテの必要条件にし
意味において多少の参考になるのかもしれないと
ましょうといったところにもっていけると,恐ら
思います。すべての情報が完璧に入っているわけ
く医療のばらつきを小さくすることに役立つので
ではなくて,見えない部分の貢献度,お金だけで
はないかと思っているわけです。
はないところがあります。例えば私の仕事などと
そういうことを含めて,どなたか先生方,ご意
いうのは,お金ではまったく出て来ないかもしれ
見ございませんでしょうか。クリティカルパスを
ません。そういう意味では使えないのではないか
電子カルテ上で実現するということも1つの方法
と思っています。
だと思いますし,EBM だとかガイドラインといっ
た標準的な医療に,電子カルテでもって誘導する
井上
ありがとうございます。透明性の問題,
といったことも1つの方法だと思います。
まだまだ議論しなければいけないのですけれど,
研修医レベルのドクターが経験のあるドクター
医療の透明性ということは,確かに患者さんから
と同じとはいきませんが,それに近いレベルの診
の要望とともに透明性によって医療の質向上につ
療をできるように,電子カルテ上で誘導するとい
ながっていくという部分があることを医療者側も
うことも不可能なことではないわけです。
そういったことも含めて,医療の質の向上と IT
自覚すべきと感じます。
次に,医療の質,これが IT によってどのように
改善されるかということに移りたいのです。医療
の質を何で定義するかというのは,意見が一致し
について,何か追加的なご発言は,どうぞ,塩谷
先生。
塩谷
ちょっとピントがずれますが,先生が
ないのではないかと思います。しかし医療の質が
おっしゃいましたように,
「医療の質」の定義は非
改善したことを,こういう指標で測りますよとい
常に難しい。
うことについて,我々医療人がきちんとしたコン
それには,病院の規模や置かれている環境,地
センサスを持っていないと,IT で医療の質を改善
域特性,あるいは住民特性によって,さまざまな
する,そのための電子カルテといったものをつく
形があってよいと思います。地方の人口6万人弱
れといっても,つくらされるほうが大変困るので
の坂出市と東京など大都市とでは,当然,患者が
はないかと思うわけであります。
求めるものが違ってきます。瀬戸内海の島々へ巡
簡単に結論は出しにくいと思うのですが,きょ
回診療に行ってみますと,島に住む人と街に住む
うの演者の先生方で,医療の質と IT について何か
人の医療に対する考え方も,大きく違っているこ
お考えがございますでしょうか。
とがわかります。
僕 の 個 人 的 な 意 見 か ら いい ま す と , 先ほ ど
つまり,このような背景を考えれば,一言で「医
ちょっと DPC のデータでお見せしましたが,僕は
療の質」を定義することは不可能です。しかし,
医療のばらつきということに注目して,ばらつき
「良質な医療を考えるうえで,忘れてはならない
をいかに小さくするかということを指標にすると
こと」は,声を大にしていうことができます。そ
いうのが一番分かりやすいのではないかと思って
の1つは,
「患者という相手があってはじめて成り
いる訳です。そのためにはお互いを比較しなけれ
立つ医療」であり,いま1つは,
「一方的な価値観
ばいけない,比較するためには,比較可能なデー
を患者さんに押しつけてはならない」ということ
タを集めなければいけないのです。例えば,各病
です。
院が共通のデータを出せるようにするような仕掛
この2つの要素を,医療の IT を使いながら,ど
けというものを,ぜひだれかがいい出してコンセ
う満たしていくか。その1つの表現形が「私のカ
ンサスを形成してやっていくべきではないか。例
ルテ」である訳で,病院や地域の特性を反映させ
えば退院された患者さんについては,少なくとも
ていきたいと思っています。
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日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
一方,日本全体での「医療の質」の向上におけ
る IT 化の役割を考えることは,非常に重要な問題
です。例えば,DPC や DRG,そしてそれらを確立し
産婦人科のカルテにしても赤で私は書き入れるよ
うにしています。
井上
平成18年には400床以上の病院で60%は
たうえでのベンチマーキングには,IT 化は必須で
電子カルテ導入というグランドデザインでのリコ
あると思います。
メンドがあるのですが,どういうふうにすべきか
ただ日本全体での質と IT 化の問題はきっちり
ということで,いろいろとご検討中の先生方もい
DPC であれ,DRG であれ,それはベンチマーキング
らっしゃると思うのですが,会場の院長先生で,
をすることによって出していくことも必要だとい
どなたかご発言ございませんでしょうか。はい,
うふうには思います。
どうぞ。
井上
時間が十分にあるかと思っていたのです
質問
医療の質なんですけれども,私が思うの
が,あまりなくなってきました。せっかく会場に
はハイテクの診療とローテクというのがあると思
お集まりでございますので,会場の皆様方からも
うのです。最近ずっと見ていましても,ハイテク
ぜひご意見を伺いたいと思います。会場からどな
のほうは割と数量化にしても何にしてもしやすい
たかご発言,あるいはご質問でも結構でございま
のですが,ローテクのほうが非常にしにくいので
す。はい,どうぞ。
す。
質問
研修医の1年2年3年というドクターの
しかしながら,患者さんと接触していて,患者
診療録のなかで,指導医の関与の記載はどういう
さんの我々医師や医療者側に対しての不満は,ど
ふうになっておられるのでしょうか。
ちらかというとローテクのほうにあるのです。体
近藤
これはお金の計算だけなものですから,
を診てくれない,お腹は触ってくれない,何もし
直接,オーダーを入れた人のものにしかなってい
てくれない,話はしてくれない,外来でもそうな
ないので,指導医ははっきり出ておりません。同
のです。もう少し話をしてほしい,どうのこうの
時に出すということはないわけですから,施行し
いっても,1日に200人300人診るとなったら,そ
た人の名前だけで出てきます。そういう意味では,
んなことしていられないわけです。
ですから,私はこれは診療報酬にも問題がある
あまり分かりません。
倉知
私のところでは指導医というか,研修医,
と思うのですが,そういうローテクのほうをどう
学生,看護大学の学生も来ておりますので,その
いうふうにして数量化できて,報酬にでもなれば,
あたりの記録は別に重要度分類というところに,
今の医療経営のところでも,そういう計算でもう
その項目を設けてありまして,そこに入れて書い
まくいけると思うのですが,ローテクのところが
てもらっているということで,あとで抽出,閲覧
数量化できないと,なかなか IT をうまく使って,
が可能です。それをのぞいて見ることも可能です。
医療の質を判断していくことは難しいと思うので
質問
指導医の書いているところとは違うとこ
倉知
す。その点,何かお考えあれば,お教え願えたら
と思うのです。
ろに書く訳ですね。
書く場所は同じなのですが,分類をしま
して,学生なら学生という欄で収めておきます。
井上
確かにそういう問題がいろいろあるかと
質問
別の欄に書くのですね。
思います。私が答えるよりも,塩谷先生等の話に
倉知
はい,そういうことになります。
ございましたように,医療の IT を病院が導入する
塩谷
うちの場合はフォントの色を変えて,指
というのは,院長が自分の病院をどういうふうに
導医の所見と研修医の所見を書いています。
質問
変えたいかというビジョンがあって,それを実現
内容的には,例えば批判的なことを書く
する手段として IT が役立つかどうかと,こういう
ことを避けなければいけないと思うのですが,そ
判断をトップがされておるのだろうと思います。
ういうこともしておられるわけですか。
塩谷
したがって,メーカーが持ってくる電子カルテ
私自身,全部の診療科のカルテ,病院を
といったものが,いいのか,悪いのかということ
回診しますけれど,そこで私が気づいたことは,
ではなくて,院長自身が自分の病院をどういうふ
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うに変えたいかということが一番重要なことなの
ういうふうに変えたんだということを将来お示し
ではないかと思うわけであります。
いただけると,大変うれしいなというふうに思う
そのことがなければ,恐らく医療の IT あるいは
電子カルテ等々入れても失敗をするのではないか
というふうに心配するわけであります。
次第でございます。
私がべらべらしゃべって,時間がなくなってし
まいまして,まだまだ議論しなければいけない,
院長がという話ですけれど,その院長それぞれ
とくに効率性の問題だとか,それから IT の経費を
が院長ごとにあまりばらばらに,例えば医療の質
だれが負担するんだという問題について,もう少
について,あるいは医療の透明性について,ある
し触れたかったのでございますが,残念ながら時
いは医療の効率について違った考え方では,これ
間がなくなりました。
はまずいのです。やはり僕は日本の医療を良くす
しかしこれは,今日明日に解決できる問題では
るために,日本病院会等々通じて,院長が病院を
なくて,かなり急ぎはするのですが,我々は根本
良くするため,医療を良くするために,どのよう
的なところからよく考えて,IT の導入,それがい
に考えているかということについて,できるだけ
い成果を生むように導く必要があるのではないか
コンセンサスを得るような,急がば回れで,そう
と思っております。そういうことのために,今日
いうことが IT を医療に応用して有効に使うため
のシンポジウムが少しでもお役に立てれば幸いで
の1つの道ではないかというふうに感じるところ
ございます。
少し尻切れトンボになりましたけれど,これで
でございます。
今岡先生,成人病センターという大変りっぱな
終わりたいと思います。演者の先生方,大変お忙
病院を抱えていらっしゃるので,ぜひ成人医療セ
しいところご講演いただきまして,ありがとうご
ンターで IT を導入されて,成人医療センターをこ
ざいました。
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日本病院会雑誌
医療安全対策のためのセミナー・講演
医薬品における医療安全対策と実施状況
日本製薬団体連合会
安全性委員会委員長
吉
澤
潤
治
平成15年7月・東京
ただいま紹介いただきました日本製薬団体連合
示の設計を行いますが,その医薬品の品質保持の
会安全性委員会の吉澤でございます。よろしくお
ために必要なこと,医薬品の品質を劣化させる要
願いします。
因,とくに温度,湿度,酸素,光,このようなも
のが医薬品の品質を劣化させる要因としてあるわ
〔はじめに〕
けですが,それぞれの医薬品の成分の性質によっ
今日は製薬企業の立場からお話をさせていただ
ては,これらから遮断する必要が出てまいります。
きたいと思っております。製薬企業におきまして
それと,容器包材からの揮発物とか,あるいは溶
も,医薬品に関連する医療事故防止のために積極
出物が出てはいけない,さらには,容器・包装と
的に対応を講じておりますが,製薬企業では何を
医薬品が接触したときに相互作用が起きてはいけ
やっているのか,あるいは歴史的な背景,最近行っ
ないというような背景もございまして,このよう
てきた事例,今後の課題などを,
「医薬品の包装・
なところも検討をしております。そして,包装作
表示設計の概要」,それから2番目に「医療安全に
業中,あるいは輸送・流通の過程,また保管の過
対する製薬企業の取り組み経緯」,そして,そのな
程での重みとか震動とか衝撃,そういうものに対
かで「PTP 誤飲事故防止対策」を取り上げて説明
して医薬品そのものが破損する,あるいは容器が
させていただきます。それから次に,
「業界共通で
破損するということがあってはいけませんので,
最近行ってきた医療事故防止対策とその実施状況
こういう震動・衝撃に対する強さについても検討
について」,つづきまして「各企業個別の医療事故
をしております。それからもちろん,微生物の汚
防止対策について」,最後に「今後の課題と対応」
染等からも防ぐ必要がございます。
ということで,きょうの話を進めさせていただき
このような検討を行うと同時に,例えば,PTP
包装のような医薬品につきましては,箱から出し
ます。
〔医薬品の包装・表示設計の概要〕
まず最初に「医薬品の包装・表示の設計の概要」
について説明させていただきます。医薬品の容
器・包装の基本的な役割は,品質の保持,それと
輸送中等の物理的力からの保護という役割を持っ
ております。したがって,この基本的な役割を犠
牲にして使いやすさを追求するとか,あるいは医
療事故防止の観点から,大きな変更を加えるとい
うのは非常に難しいという状況がございます。
企業では,医薬品を開発するに当たりまして,
まず,図1に示すように,容器・包装,それと表
図1
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日本病院会雑誌
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た状態での安定性,光,温度,湿度などに対する
安定性についても試験いたします。
こうして医薬品の容器・包装の材質,あるいは
包装形態を設定いたしまして,そののちに,有効
性や安全性についての臨床試験を行い,また安定
性試験を行ってまいります。それと同時に,適正
使用等に対する情報,あるいは安全性,識別性と
か,あるいは誤使用防止等の使用の安全に関する
情報,それから使いやすさ,利便性を付与いたし
まして,最終的に製品の包装品質を保持するとい
うことを確認いたします。包装品質が保持できる
なら,その包装,あるいは表示で最終的に医薬品
図2
として世の中に出していく,このようなことを
緯を振り返ってみますと,図2に示していますが,
行っております。
〔医療安全への製薬企業の取り組み経緯と PTP
誤飲防止対策〕
PTP 包装が開発されたのは1965年のことです。こ
の年に初めて PTP 包装製品が登場してまいりま
す。この頃の PTP 包装製品には何の表示もなく,
それで,製薬企業が過去に医療安全に対して取
これでは製品を識別できないということで,1973
り組んできた歴史的背景,それと,とくに PTP 誤
年には識別コードを表示するようにということ
飲事故防止対策について,次に説明いたします。
で,日本薬剤師会からの要望がありまして,この
1.
あたりから,ほとんどの製品で識別コードが表示
過去の歴史
されるようになってまいりました。
まず,日本の医療環境の変化でございますが,
それから,1970年代前半までは,PTP シート,
日本の医療環境のなかでは,患者さんの治療効果
PTP 製品というのは1錠ずつを切り離すための,
を上げるという目的で,患者さんには薬の名前な
いわゆるミシン目という切り離し線,分割線は付
どの情報は提供しないということが過去に行われ
与されておらず,そのまま1枚になっておりまし
てまいりまして,医薬品についても,これに対応
たが,1976年に PTP への分割線の付与の要望があ
して,患者さんの手に渡る,例えば PTP とか SP
りまして,これ以降,ほとんどの PTP 製品が1錠
包装の薬には製品名を表示せずに,プロダクト
ずつが切り離せるように,あるいは1カプセルず
マーク,あるいはプロダクトコードを表示する。
つが切り離せるように分割線,いわゆるミシン目
製品名を表示しても,PTP の耳と呼ばれる部分に
を入れた製品に変わってきました。このことが医
表示して,患者さんに渡すときは耳の部分を切り
療事故に結びついてきたわけですが,PTP 包装の
取って渡す。あるいは目薬とか軟膏などでは,フ
医療事故防止対策は,1996年に業界が初めてすべ
ライラベルと呼ばれる,すぐに切り離すことので
での製薬企業に対して,医療事故防止対策をする
きるラベルに製品名を表示して,患者さんに渡す
ようにということで行った対策でございます。こ
ときには,そのフライラベルを切り取って渡すと
れは後で説明します。
一方,PTP 包装の耳の部分に英語の製品名が表
いったことが行われてきました。
その後,患者さんに情報を提供して,患者さん
示された製品が登場したのが1990年のちょっと前
自身が医療に参加していただくことを求めるよう
ということで,1990年には耳の部分への英語表示
に大きく変化してまいりましたが,患者さんへ薬
が約半分になってきております。それでカタカナ
の名前等をお知らせしないという医療環境はつい
で日本語の製品名が耳の部分に表示された製品が
数年前までのことです。
登場したのは1992年,わずか11年前のことです。
PTP 包装の包装形態を中心に,過去の歴史,経
60
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それから,PTP の本体へカタカナの販売名が表示
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日本病院会雑誌
された製品が初めて登場したのは1995年,これも
で,角を丸くする方法をまず検討しました。その
わずか8年前のことです。大体,1990年ぐらいま
検討結果として,いわゆるミシン目のところと,
では医療関係者の方には,製品名を患者さんにわ
それから角を丸くするところでずれが出てくると
たる医薬品に表示することについては,なかなか
いうことが分かりまして,これはあとで詳しく説
受け入れてもらえないという状況が続いてまいり
明しますがかえって危険性が高まってしまうとい
ました。
う結果になりましたので,この対策はちょっと無
それで,1999年に,これは米国で年間10万人の
理であろうということになりました。
医療事故による死亡者が出ているという報告書が
それから,PTP の分割線を昔のようになくして
出て,当時のクリントン大統領が医療事故を削減
しまう,あるいは分割線を少なくするという対策
するようにという目標を決めて指示が出されまし
なのですが,これはどちらかの1辺が2㎝以上の
た。その同じ年,1999年には,日本でも医療事故
大きさになると,PTP 片を物理的に飲み込むこと
が多く報道されるようになりまして,日本におい
ができなくなるということがございまして,これ
ても医療事故防止対策が大きな課題として取り上
によって誤飲の機会を減らしていこうという考え
げられてくるようになりました。
方です。これについては,容易に対応が可能です。
2.
それから次に検討いたしましたのが,可溶性の
PTP 誤飲事故防止対策
素材を使うということで,いろいろなものを検討
業界で最初に行いました PTP 誤飲事故防止対策
いたしました。しかし,現在入手できるかぎりの
についてちょっと説明させていただきます。PTP
可溶性素材では,吸湿性が非常に高くて,防湿,
誤飲というのは,PTP からなかの薬を取り出すこ
湿度を防ぐという包装本来の役割を果たすことが
となく,PTP 片ごとに飲み込んでしまって,食道
できないということと,もう一つ,可溶性素材で
を大きく傷つけるという事故でございまして,日
も,飲み込んだ途端に溶けるというわけではなく
本気管食道科学会からこの事故を削減するため
て,食道は相変わらず傷つく状態で,要は溶ける
に,あるいはなくすために対策を講じるようにと
までに非常に時間がかかるので,可溶性素材では
いうことで,強い依頼がございまして,日本気管
食道を傷つけることを防ぐことはできないという
食道科学会と日本薬剤師会,それと日本病院薬剤
ことも分かってきました。
師会の先生方の協力をいただきまして,誤飲事故
次に,柔軟な素材を使おうという試みをしまし
たが,これも湿度を防ぐという包装本来の役割が
防止対策を検討してまいりました。
検討した内容を図3に示しましたが,まず形状
果たされないこと,もう一つは物理的力から保護
を変えていく,すなわち,PTP シートの角を丸く
することができないということで,この対応もで
する。1錠ずつ切り離したときに,角の鋭角な部
きないという結論になりました。
分がなくなると食道を傷つけずに済むということ
それから現在の PTP 素材ですと,飲み込んでし
まっても,その PTP 片が食道のどこにあるのか,
あるいは胃まで落ちたのかどうかということをX
線で調べることができません。それで,これを何
とかX線で撮影可能な素材にできないかというこ
とで,いろいろ調べていきまして,造影剤を60%
まで入れた素材をつくりましたが,これでもまだ
X線撮影には不十分だということで,これも失敗
に終わりました。60%以上増やしていきますと,
これはもうボロボロになって,いわゆる PTP とし
ての役割は果たせないということが分かってきま
した。
図3
それから,ほかにできることということで,PTP
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
61(411)61
シートの裏側,アルミ面に統一のケアマーク,注
しては,日本気管食道科学会,それから日本薬剤
意マークを記載しようということで対応をいたし
師会,日本病院薬剤師会,および厚生労働省と協
ました。さらに添付文書には,服薬指導を実施し
議して決定したものです。
ていただくために,注意喚起文書を記載するとい
うことで対応をいたしました。さらにこのほかに,
患者さんの教育・啓発用のポスターを3度つくっ
て配付させていただいたのと,また薬袋に書いて
いただく,あるいは印刷していただくケアマーク
等の提案もさせていただきました。
先ほど,PTP シートの一つひとつの角を丸くす
る方法といいましたが,PTP シートというのは,
つくるときに5錠あるいは7錠幅で連なって包装
していくわけです。これを2列あるいは3列ごと
に切り取ると同時にミシン目の分割線を入れます
が,切り取り線あるいは分割線の交わる部分に星
型の打ち抜きをいたしますと,角が丸くなってい
図5
きます。こうしますと,PTP 片は比較的長楕円形
対応の内容を図5に示していますが,対象とい
のものになるというアイデアなのですが,これは
たしますのは,すべての PTP 包装医薬品を対象と
PTP 包装機の特性で,作業中に本来あるべき標準
して,対策の内容は,まず,従来製品では,縦,
的な位置での分割線がずれてまいります。ずれて
横に1錠ずつが切り離せるように分割線を入れて
まいりますと,本来は円滑な丸みのところに,図
おりましたが,これを横だけ,あるいは縦だけの
4に示すような非常に鋭角な形の突起みたいなも
いずれかにするということで,最少で2錠単位の
のができてしまう。こうなりますと,誤飲だけで
分割線に切り替えるということです。それから,
なしに,切り取ったときに手を怪我をするという
統一のケアマークを PTP のアルミ面に表示する。
ような,新たな事故まで発生するということが分
それと添付文書のなかの適応上の注意欄に統一の
かりまして,これは,むしろ逆効果であるという
文言で注意喚起文書を記載するという内容でござ
結論になったわけです。
います。
それに,日本製薬団体連合会では,患者さん用
のカードをつくりまして,薬局の窓口等で患者さ
んが自由にお持ちいただけるように置いてくださ
いということで,医療機関の方に送らせていただ
きました。それからまた,ポスターを74万部印刷,
配付いたしまして,医療機関の方で,例えば待合
室とか,あるいは薬局の窓口の近く等に掲示して
いただくようにお願いいたしました。ポスターな
のですが,これは製薬企業の MR がお持ちしてお願
いしたのですが,なかなかこれは掲示していただ
けなかったという経緯がございまして,第3回目
に作製したポスターは,この平成12年11月以降,
図4
病院へ送らせていただくとか,お持ちするのでな
それで,これらの対応につきまして,日本製薬
しに,いろいろな学会にこちらの団体の担当者が
団体連合会では,1996年3月27日に,自主申し合
出向きまして,薬剤師の先生方を中心に,直接,
わせとして通知を出しました。この内容につきま
手渡しまして,ぜひ掲示をお願いしますというこ
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日本病院会雑誌
とを直接依頼するということでの配付を現在も続
けております。
薬袋への注意書きの表示例としまして,図6に
図7
図6
示しました絵柄を薬袋に印刷してくださいという
ことで,日本薬剤師会と日本病院薬剤師会の方へ
提示させていただきました。
さて,こうして行った対策についての効果です
が,これは日本気管食道科学会の方でアンケート
調査をしていただきまして,その結果として,減
少しているというのが57施設です。57施設という
のは全体のうちの63%です。減少していないが14
施設,これは全体のなかで16%,それから不明が
図8
19施設で,全体では21%ということですが,必ず
では,医薬品等関連事故防止対策検討プロジェク
しも満足できる結果ではありませんが,一応の効
トというブロジェクトを安全性委員会のなかに立
果があったのかなというふうに考えております。
ち上げまして,2000年6月から活動して,現在ま
〔業界共通の医療事故防止対策と実施状況〕
1.
医薬品関連医療事故防止対策の検討
でに約15回,これを開催しています。いろいろな
企業からそれぞれの分野の専門家を集めてプロ
ジェクトを立ち上げたわけです(図8)。現在まで
に誤用されやすい剤型等に関する実態調査,それ
次は最近行ってきました医薬品業界共通の医療
に改善対策案の検討,作成,そして実施の指示,
事故防止対策と,その実施状況についてお話しさ
また対策を実施するに当たって必要な Q&A の作
せていただきます。厚生労働省では,2000年に医
成,更に実施状況調査などに取り組んでまいりま
薬品・医療用具等関連医療事故防止対策検討会と
した。
いう組織をつくりまして,5月から翌年の4月ま
医療事故防止対策案は,業界の方で中心につく
での1年間に5回の会議をもちまして,医療事故
りまして,厚生労働省ともいろいろ協議し,そし
防止対策について議論がされてまいりました。製
て,先ほどの検討会議のなかでも議論していただ
薬業界からも当時の安全性委員会の委員長が委員
きまして,最終的に2000年9月19日に厚生労働省
として出席して活動を行ってまいりました。(図
の方から,局長通知として出していただきました。
7)
その内容を図9に示しましたが,早急に改善を
これに対応いたしまして,日本製薬団体連合会
図るべきものということで,バイアル,またはア
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図9
図10
ンプル入り経口剤・外用剤,これは注射剤と間違
統一表示により確認を容易にすることと,取り出
いやすいもの,それと錠剤・カプセル剤の形状を
したあとにも注意喚起を続けていくということを
した外用剤,これは経口剤と間違いやすいもの,
目的としております。
点眼剤に類似した容器の外用液剤,これは目薬と
間違いやすいもの,これらに対する対応と,それ
から PTP シートへの記載事項の取扱い,PTP シー
3.
錠剤・カプセル剤等の剤型の外用剤に関する
対応
トへいずれも日本語の販売名と規格などを統一し
それから次は経口剤と間違って飲んでしまう可
て表示するという方策です。それと誤認されやす
能性があるような錠剤とかカプセル剤の形をした
い販売名の取り扱いという,この5項目について
外用剤に対する対策でございますが,これも谷川
の改善を指示した通知でございます。この5項目
原先生が『臨床看護』のなかで錠剤・カプセル剤
については,1項目ずつ説明させていただきます。
等の剤型をした外用剤の事例を示されています。
2.
バイアル・アンプル入り経口剤・外用剤に関
する対応
バイアルまたはアンプル入りの外用剤・経口剤,
これは注射剤と間違いやすいということで,間違
えると非常にシリアスな結果になるということな
のですが,慶応大学の谷川原先生が,『臨床看護』
のなかで注射剤でないバイアル入り製剤の事例を
示されています。
これに対して,どのような対応を実施したかと
申しますと,図10に示しますように,ラベルの上
部3分の1を使って,赤い生地に白抜きの文字で
12ポイント以上で,目立つように「禁注射」とい
図11
う表示を必ず入れる。それと同時に,投与経路,
こういう外用剤に対しての対応を図11に示しま
あるいは使用方法に関する情報を白い生地に黒い
したが,PTP シートとか SP シートの両面に「のま
字で入れる。それともう一つは,なか個装箱の中
ないこと」の文字をはっきり目立つように表示す
に禁注射シールを提供し,注射筒,あるいはバイ
るということで,おおむね2錠分のシートに1カ
アルのゴム線の天面に張りつけることができるよ
所ということで,切り離してもこれが残るという
うにするという対応でございます。この対応は,
形の表示を行いまして,この統一の表示によって
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確認を容易にすると同時に,患者さんに薬剤師の
これらの事故防止対応のポイントなのですが,
先生が薬を渡されるときに,この表示の部分を指
これは患者さんが自分で気がついて,アッという
さして,
「これは間違いやすいので,絶対ここに書
のでなしに,その薬をみるたびに,ああ,先生に
いてあるとおり飲まないように注意してください
いわれた,ここに書いてあるということで,自分
ね」ということを指導していただく。これによっ
で注意して,自分で積極的に事故防止に参加して
て患者さん自身が積極的に事故防止に参加すると
いただくことが非常に重要になってきますので,
いうことを目的にしております。ただ,書いてあ
まさに服薬指導が事故防止のポイントになってき
るから患者さんが勝手にみるんだろうということ
ます。
ではなくて,きちんと指導していただくことが重
要ということです。
4.
5.
PTP シートへの販売名,規格等の統一記載
点眼剤に類似した容器の外用液剤に関する対
応
それから次は点眼剤に類似した容器に入った外
用液剤,これは点眼剤と間違いやすいということ
です。
これも谷川原先生の『臨床看護』のなかに点眼剤
に類似した容器の外用剤の事例が示されていま
す。
図13
それから PTP シートへの販売名,規格等の統一
記載についての対応について図13に示しました
が,これは確実な確認作業を可能にするための対
応ということでございます。PTP 包装製品につき
ましては,先ほども申し上げましたとおり,わず
か8年前までは PTP シートの本体に日本語の販売
名は書かれていなかった,あるいは書くべきでは
ないとされてきた,そういう歴史的な背景があっ
図12
て,この時期におきましても,PTP の本体,患者
対策の内容は図12に示しましたが,販売名の近
さんの手に渡る部分に日本語の販売名の書かれた
くに赤字で「目には入れないこと」と目立つよう
薬は決して多くない状況でした。そこで,この対
に表示して,この統一表示によって確認を容易に
応は,PTP のシートの裏面,アルミ面に和文販売
する。これも先ほどと同じように,患者さんに薬
名および規格を表示するという対応でございま
剤師の先生が渡されるときに,必ず,
「これは目薬
す。PTP 以外も,例えば SP 包装,あるいは分包品
と間違いやすいけれども,絶対に目薬と同じよう
等も同様にやってくださいということでございま
に目に入れてはいけませんよ。使うときはここの
す。
ところをみて思い出してくださいね」という指導
この目的は,統一記載によって PTP シートの製
をしていただいて,患者さん自身が積極的に事故
品,あるいはそれに類するような製品は,どの薬
防止に参加するということを目的にしておりま
も PTP シートの場合は,アルミ面をみると医薬品
す。
名と含量が容易に確認できるということを目的に
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しております。それと同時に,服薬時に患者さん
種類の規格があったものが,○○○錠5と○○○
も自分の飲んでいる薬を確認して,間違いでない
錠10ということで,5㎎と10㎎ということを販売
ことをもう一度確認したうえで服薬することがで
名のなかではっきり示そうという考え方でござい
きるということです。
ます。これによって,従来○○○錠と書かれたの
PTP シートにつきましては,プラスチック面の
は,5を書き落としたのか,あるいは○○○錠だ
色が,例えば同じぐらいの大きさで,どちらも赤
けで正しいのかというようなことをいろいろ考え
い色をしているから取り違えるんだという話が非
なければいけない,あるいは誤解を生じるような
常によく聞かれるのですが,PTP シートの製品に
名称は,規格が複数あるものでははっきり複数あ
ついては,置き方なども工夫していただきますと,
ることを表示していこうという考え方です。
アルミ面を上にしていただきますと,アルミ面に
は必ず日本語の販売名と規格が表示されておりま
す。目立つ部分で識別したいという気持ちもある
のでしょうが,必ず表示してあるもので識別して
いただきたいというふうに考えております。
6.
販売名の取り扱い
次は販売名の取り扱いについて,医療用医薬品
の販売名については,今まであまりはっきりした
原則がございませんでした。それで,従来あった
のは,
「保健衛生上の危害の発生する恐れのないも
ので,かつ医薬品としての品位を保つものである」
というような基準があったのですが,これは何の
図15
ことかよく分からないし,本当に販売名の一般原
それからもう一つ,販売名についてですが,図
則として,これはあまり役に立たないというよう
15に示したように,濃度表示をパーセント表示に
なものでした。それで,一般原則として,図14に
切り替えていったということです。従来,とくに
示したように「ブランド名+剤型+規格・含量あ
倍散というのはもう非常に分かりにくい言葉であ
るいは濃度」ということで,名称のなかに剤型と
る,古い薬剤師が,薬剤師になるための勉強とし
含量,あるいは規格が入ってきて,名称で全体が
て,古くはこういう倍散を勉強してきたわけです
分かるというような形になっています。
が,必ずしも薬剤師の先生方だけが医薬品を取り
扱うわけではないということで,倍散表示は非常
に分かりにくい。それと表示もいろいろな種類の
表示が入り混じっているが,表示をすべてシンプ
ルにしていこうということで,パーセント表示に
するということになりました。例えば100倍散は
1%ですので,1%と表示していくということに
切り替えてきました。
7.
医療機関への伝達と実施状況
このようにして,製薬企業はいろいろな対策を
講じてまいりますが,これは製薬企業の MR が医療
機関を訪問して,変更の案内をさせていただいて
図14
います。案内には,包装変更の案内パンフレット
例えば,従来は○○○錠5と○○○錠という2
66
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使うわですが,どういう目的で,どこを変更した
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かを写真入りで説明しているのが一般的です。
〔各企業個別の医療事故防止対策〕
ただ,製薬企業の MR が医療機関内の関係される
先生方,医師,薬剤師,看護師の先生方のすべて
の一人ひとりに対してこれを説明して回ることは
1.
識別性の向上
とても物理的に不可能でございます。したがいま
業界が共通で行った事故防止対策以外にも,各
して,MR は医療機関までは伝達させていただきま
製薬企業は個々にも事故防止に取り組んでおりま
すが,医療機関内でのこういう医療事故防止対策
して,さまざまな事故防止対策を実施しております。
の伝達に関しましては,医療機関内でぜひ,一人
まず,販売名をみやすく変更するという対策の
ひとりの先生方に漏れなく,その内容が伝わるよ
事例でございますが,例えばある一面では大きく
うに伝達をしていただけたらというふうに考えて
販売名が表示されているが,他の面では日本語の
おります。
販売名は非常に小さくて見にくいということで,
図柄すべてを非常に大きく,見やすい販売名表示
に変えて,どの面からも販売名が分かるという対
策を講じております。
また消毒薬の例では,床に置かれることの多い
医薬品でございますので,従来はすべての面に販
売名が記載されていたわけではなくて,とくに床
に置かれても,上から容易に販売名が確認できる
ようにという工夫をすると同時に,すべての面か
ら販売名がみえる,もちろん底はちょっと別です
が,それ以外だとすべてみえるというふうに変更
した事例がございます。
それから,アンプルの表示ですが,従来,アン
図16
プルにつきましては,非常に古くはすべてが紙の
こうして行いました5つの項目の医療事故防止
ラベルでした。その後,医療関係者から紙のラベ
対策ですが,実施状況を図16に示しました。販売
ルだとなかがみえないから何とか,紙のラベルか
名のつけ方については,ちょっとまだ実施状況が
らほかの,なかがみえるような形に切り替えてほ
67%と低いのですが,そのほか,表示関係では90%
しいという要望を受けまして,製薬企業の方では,
から100%までということで,ほぼ対策が完了して
誘明ラベルだとか,あるいは直接印字を行うこと
います。
によってなかがみえるように工夫してきたわけで
調査母数が変わっておりますが,これは調査を
すが,このことが非常にラベル,あるいは名称等,
行うたびに協力してくれた企業数が異なっており
表示をみにくくしてしまうという結果になり,こ
まして,そのために母数が必ずしも一致しており
れもまた医療事故に結びつくという結果になって
ません。ただ傾向としては,こういうことで間違
まいりました。それで現在は,直接印字からラベ
いないだろうというふうに考えています。
ルへの切り替えを各社とも進めております。直接
またこのパーセントにつきましては,品目での
印字ですと,写真でみると非常にきれいに,ちゃ
パーセントでございまして,処方数の非常に多い
んと読めると思うのですが,実際に机とか棚とか
薬,いわゆる売れ筋商品につきましては,表示関
の色によっては,まったく読めないということも
係の対応は非常に早くから行っておりまして,そ
出てまいります。したがって,紙のラベルへと切
ういう意味では,先生方のお手元に届いている医
り替えて,表示を読みやすくするという努力がな
薬品については,ほぼ完了に近い状況にあるとい
されています。
うふうに考えております。
それと同時に,例えば,25㎎,50㎎,100㎎の3
つの規格がある場合に,25㎎は中抜きの黒文字,
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それから50㎎は黒文字,100㎎は赤文字ということ
しては,これを発売していますそれぞれの会社が
で,その3つの規格の区別もつきやすいという状
共同で,
「間違いやすいですから気をつけてくださ
況に変更した事例もあります。
い」というパンフレットをつくって,医療機関の
それからさらに,規格の違いを分かりやすくし
方への配付もさせていただいています。
「ウテメリ
た事例として,これは10㎎と5㎎のバイアルで,
ンはこういう色とこんな表示をしてますよ,メテ
もともと10㎎,5㎎ともに青系統の色分けをして
ナリンはこういう色でこんな表示をしてますよ,
いたのですが,同系統の色分けだと,結局,片方
どうぞ気をつけてください,よろしくお願いしま
だけみたときに分かりにくいということがござい
す」というパンフレットで,2001年6月にお知ら
まして,10㎎は赤,5㎎は青と,はっきり片方だ
せしています。
けみても分かるように色分けをした事例です。そ
その後,先ほどもウテメリンについて申し上げ
れでラベルも,これに対応する赤いラベルが10㎎
ましたが,先ほどのはアンプル,今度は錠剤です
になるわけですが,バイアルのキャップも同じ色
が,錠剤についても同じようにパンフレットをつ
で統一して分けております。
くりまして,PTP シートの裏に「切迫流早産治療
同じく,100㎎と200㎎の規格を識別しやすくし
剤」という言葉を入れております。こうして入れ
ようという試みで,従来から識別のカラーマーク
ましたので,ほかの薬を間違わないようによろし
が入っていたのですが,小さくて非常に分かりに
くお願いしますということをいっています。
くい。それでカラーマークを大きくして,分かり
同じようにメテナリンも,これも翌年の3月で
やすくしたという事例では,キャッブも同じ色調
すが,同じような対応を行っておりまして,メテ
で色分けしております。
ナリンの場合は,
「妊婦,妊娠の可能性のある方は
2.
服用しないこと」ということを入れております。
誤使用防止への注意喚起
したがいまして,薬剤師の先生,看護師の先生,
それから今.非常に問題になっております類似
あるいは医師の先生方のみならず,患者さんもこ
名称への注意喚起の事例ですが,ウテメリンのア
の薬を使うときに,自分で注意していただけるよ
ンプルの事例で,従来,通常の表示を行っていた
うにという対応を行っております。
のですが,医療事故が発生して,いろいろな対応
次はタキソールの事例でございまして,タキ
を考えておりまして,その対応の一つに,ラベル
ソール,タキソテールという,間違いやすい代表
にこの薬の効能・効果をはっきり書きました。
「切
的な名称でございます。このタキソール,タキソ
迫流早産治療剤」ということで,ウテメリンと間
テールにつきましては,いずれも製品名のほかに
違いやすいメテナリンとは違いますよと,ここを
成分名,これはパクリタキセルという言葉を大き
みたときに,もしメテナリンを使おうとしていた
く表示しております。箱だけでなく,なかのラベ
ら,患者さんを思い浮かべていただくと,これが
ルにも同じように表示しています。それと同時に,
正しいのか正しくないのかは分かっていただける
「製品名の類似医薬品にご注意ください」という
はずだと,分かっていただきたいということで対
ことで,注意喚起をするタグをつけております。
応したものです。メテナリンについても同時に同
ですから,この薬を使われるときに,確かに間違
じような対応を行っております。
いないということを再度確認していただいたうえ
その対応についてのお知らせも医療機関の方に
で使っていただこうという工夫でございます。
配付させていただいておりまして,ウテメリンで
そのほかにもいろいろなことをやっております
は「他剤との識別性を高めるためにこういう,切
が,例えば,
「点滴静注用」ということを非常に大
迫流早産治療剤という文字をラベルに表示いたし
きく赤で目立つように,分かりやすく書いている
ました」ということを記載して,
「他剤との間違い
ということで,点滴静注でなしに,ワンショット
やすい製品ですので注意ください」ということの
で行いますと,急激にカリウム値が上昇して危険
注意喚起を行っております。
な状況になるということで,注意喚起をしている
それで,このウテメリンとメテナリンにつきま
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事例もございます。
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日本病院会雑誌
策を検討しなければならないと考えています。
〔今後の課題と対応〕
1.
それと,とくに名称類似については犬きな課題
として取り上げられておりまして,これは米国で
今後の課題
も同じように名称類似は非常に大きな課題である
ここまでが今まで行ってきた個々の対応につい
ということで取り上げられておりますが,現在の
てのお話ですが,
「今後の課題と対応」ということ
ところ決定的な対策はない,まだ FDA でもみつ
で,次に話をさせていただきます。厚生労働省の
かっていないという状況にあるかと思いますが,
医療安全対策の組織が変わりまして,現在は図17
日本では,データベースを使って,何とか類似性
に示すように医療安全対策検討会議という会議が
を検討していって,対策を講じていきたいという
組織されております。そしてその下に,ヒューマ
ことで,大きな課題と考えております。
ンエラー部会,医薬品・医療用具等対策部会,ヒ
ヤリ・ハット事例検討作業部会と,医療にかかわ
2.
ワーキンググループでの検討
る事故事例の取り扱いに関する検討部会という4
それで,ヒヤリ・ハット事例について厚生労働
つの部会が組織されておりまして,医薬品業界か
省の方で非常にたくさん受けておりまして,その
らは医薬品・医療用具等対策部会とヒヤリ・ハッ
事例を検討した結果,医薬品・医療用具等対策部
ト事例検討作業部会に委員として参加させていた
会のなかに5つのワーキンググループを設けて,
だいております。
さらに具体的な対策を検討しようということで,
検討を進めているところです。
図17
医薬品業界が抱えている課題としまして,今,
紹介しましたが,各企業が個別の対応を行ってい
図18
5つのワーキンググループは,図18に示しまし
る場合に,企業間での,あるいは製品間での対策,
たが,規格ワーキンググループ,名称類似ワーキ
対応の矛盾が出ることがございます。例えば,規
ンググループ,注射薬の外観類似ワーキンググ
格で,低用量のものと高用量のものの色分けをす
ルーブ,輸液ワーキンググループ,眼科用剤ワー
る場合でも,逆の色になったりするようなことも
キンググループと,こういう5つのワーキンググ
出てきますので,可能なかぎり,これを個別対応
ループが今,活動を開始しておりまして,目標と
から共通対応へと切り替えていくことを検討しな
してはできるだけ早い時期に対策案を検討して,
ければならないというふうな,これを一つの課題
今年度中には報告書としてきちんとした形でまと
と考えております。
めるという目標で作業を進めているところです。
それからヒヤリ・ハット事例報告で,いろいろ
業界が個々に対策を講じてまいりましても,や
出てきた事例に関して,それぞれ,あるいはとく
はり実際にそれをご使用いただく医療関係の先生
にたくさん出てきているようなものについての対
方,医師,薬剤師,看護師の先生方のコンセンサ
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スがないかぎり,何か勝手に医療事故対策のため
らないものと考えております。
にこんなに変更しましたというのを業界共通で
先ほどもちょっと申し上げましたが,PTP シー
やったとしても,これはなかなか,本当の意味で
ト,薬局で棚のなかでいろいろな種類の薬を保管
の医療事故防止に結びつきませんので,ここで検
されている場合に,PTP シートはアルミ面を上に
討して,コンセンサスを得たうえで,業界共通の
して置いておいていただけると,取り出すときに
対策として実施していくということで,私ども,
そのまま確認できる,そういう状況をつくってい
医薬品業界では,この5つのワーキンググループ
ると思いますので,確認作業をやる場合,いろい
は非常にありがたい存在であり,重要な役割を果
ろな工夫があるかと思うのですが,ここのところ
たすというふうに考えております。
はご協力をいただきたいと考えております。
3.
4.
医薬品における医療事故防止対策の限界と確
認の重要性
関係者の協力の重要性
医療事故防止は,今,申し上げましたとおり,
医薬品における医療事故防止対策,これには大
医薬品だけで物理的に医療事故を防止する方法と
変限界がございます。例えば医療用具では,チュー
いうのはほとんどありませんので,関係者が協力
ブのつなぎ目のサイズを切り替えることによって
し合って初めて医療事故は防止されるということ
物理的につなげなくするというような対策も可能
で,医薬品で行った医療事故防止対策を,医療関
ですが,医薬品の場合は,物理的に医療事故を防
係者の先生方,医師,薬剤師,看護師の先生方が
止するための対策というのは非常に限られており
よく理解していただいて,こういう対策を行った
ます。
のだなと認識していただくことが非常に重要にな
多くの場合は,物理的に完全に医療事故を防止
ります。
しようと医薬品側で考えた場合は,その医薬品を
もし,理解,認識していただけないなら,医療事
なくしてしまうこと,それ以外には対策は難しい
故防止対策は,医薬品で行った医療事故防止対策
というケースが非常にたくさんございますが,こ
というのがほとんど役に立たないということにも
のようなことになりますと,今度は医療そのもの
なってしまいます。
に対して支障を来すことにもなるということで,
医薬品での可能な医療事故防止対策にはかなりの
限界があります。
それで,この対策の大部分は識別性を向上させ
ることにあります。例えば,名称類似で名称を変
えるといっても,これも詰まるところは識別性の
向上であって,物理的に何か事故を防止するため
の,物理的な手だてでは決してございません。ま
ず,99%までの対策は識別性の向上にあるといっ
てもいい過ぎではないかと思います。したがいま
して,使用時に確認していただくということは,
これはもう必須不可欠でございまして,確認作業
はぜひお願いしたいと思います。医薬品側ででき
る識別性の向上というものは,この確認作業をい
図19
図19にそれぞれの関係者の役割分担を示しまし
かにスムーズにできるか,どの医薬品についても,
たが,製薬企業は,その医療事故防止対策の情報
統一した場所に表示することによって,確認作業
をすべての医療機関へ確実に伝達しなければいけ
のための医療関係者の負担を減らす,あるいは見
ないという義務があるものと考えておりまして,
落とし等をなくすことを考慮して,対策を検討し,
これをきっちりやるようにということで,日本製
実施してまいりましたが,今後もその方向は変わ
薬団体連合会では,それぞれの傘下の団体に対し
70
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色が限度だといわれています。
ての指導をしているところです。
一方,医療機関のなかでの情報の伝達につきま
ですから,形状,色で区別できる医薬品は数が
しては,製薬企業がすべての先生,一人ひとりに
非常に少なくなってしまいます。また,例えば五
伝達して歩くことはできませんので,これはぜひ
角形の錠剤をつくった場合に,五角形の錠剤とい
とも医療機関内で,医療事故防止対策をすべての
う印象だけが非常に強くなりますと,五角形とい
関係される先生方に行き届くように,その情報の
うことの認識だけでものを判断していこうという
伝達をしていただきたいというふうに考えており
ふうになると確実に医療事故が増えます,人間工
ます。
学の先生などはそのようにいわれています。だか
もう一つは,患者さんの協力も非常に医療事故
ら形状,色に頼るというのは,むしろ事故増加に
防止の大きな力になってくるということです。医
もつながりかねない,よほど人間工学的な検討を
薬品の方も,もう過去にはとらわれず,患者さん
進めないかぎり形と色は頼らない方がいいという
の手に渡るものは,もう可能なかぎり製品名が
ふうにされています。
はっきりと印刷されている,表示されているとい
色につきましては,製薬企業としては,色その
うことで,患者さん自身が識別できる医薬品をつ
ものを包装形態等で,錠剤の色もそうなのですが,
くっていくという方向で頑張っております。こう
品質保持のために使いたいケースがあるんです
なりますと,とくに薬剤師の先生方の服薬指導が
ね。赤い色というのは,ある波長の光を遮断しま
非常に重要になりまして,患者さんがいかに積極
す。その薬がその波長の光で分解しやすいような
的に医療事故防止に参加していただけるか,ある
場合には,赤い包材というのが非常に有効に働き
いは患者さんの家族がいかに積極的に医療事故防
ますので,医療事故防止のために色を使うという
止に参加していただけるかは,まず服薬指導にか
のは,品質保持の観点から非常に難しいというこ
かっているということができるかと思います。
とになります。
こうして関係者全体の協力で初めて医療事故を
―――――――――◇――――――――
減らすことが可能になるということです。製薬企
名称につきましては,医薬品の販売名というの
業も今後とも,医療事故を防止するために,可能
は承認事項なんですね。厚生労働省の方へ医薬品
なかぎりの対策を検討して,また,対策を実施し
としての承認申請をして,そのなかで評価されて,
て,さらに実施した対策については,医療機関の
承認事項としてもう,これは承認されてしまって
方へその情報を伝達していきたいというふうに考
いる,そういう形で医薬品の販売名が動いており
えております。
ますので,医薬品業界,業界として個々の企業を
医療機関内での情報の伝達,それと患者さんに,
医薬品に関連した誤飲,誤投与が起きないように,
指導しても,指導にはものすごい限界があります。
ですから,もう一つは,その名前というのは変
患者さん自身が医療事故防止に参加していただく
えていったときに新たな事故を引き起こす可能性
ような服薬指導を積極的に行っていただきたいと
がある。ブランド名を変えるというのはよほど,
いうことをお願いいたしまして,私の話を終わら
もう新しい名前とのコンセンサスがあって,その
せていただきます。どうもご静聴,ありがとうご
切り替えをどうやっていくか。ある日を境に翌日
ざいました。
からこう,名前が変わっていますよというのを全
関係者に認識してもらう,あるいはコンピュー
(質問に答えて)
ターのなかのオーダリングシステムも全部変えて
形状でいろいろ分かる,識別できるようにとい
いただく。製品自体も取り替えていくというのが
うお話なのですが,現在,1万8,000を超える医薬
1日のうちには絶対にできませんので,そのへん
品があります。経口剤だけでも,経口剤,錠剤だ
を,両方が混在しているときの問題とか,解決で
けですね,7,000,8,000ございます。これを形で
きない問題が山のようにあります。
区別できる形というのは,どう多くても10種類程
ですから,変えろといわれて,ああ,変えると
度しかございません。色で区別できる場合は,5
確かによくなるよという,何となくそういうイ
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
71(421)71
メージはあるかと思うのですが,実際に変える作
なっておりますので,我々も積極的に検討して,
業,変えている過程で何が起きるかということを
名称を変える場合に,新たな事故が起きない対策
検討していきますとすごく難しいものがありま
としてどういう対策を講じたらいいのかというこ
す。そのへんも含めて,今度の,名称類似のワー
とも含めて,検討をしていきたいというふうな考
キングのなかで検討を進めていくということに
えています。
「病院の年輪」原稿募集中
本誌では「病院の年輪」欄を設け,病院の歴史,病院の建物その他貴重な物件,資料などに関する
紹介記事を掲載しており,下記の要領で原稿を募集中です。
貴病院に関する上記関連記事をぜひご寄稿ください。
記
1.
記事の内容
貴病院の建物などに関して,その歴史,由来,現状とそれらに関する写真,資料など(なるべく
古いもの)。
2.
原稿枚数
400字原稿用紙(横書き)で約25枚以内(雑誌ページ数で約5ページになります(写真資料を含
む))
3.
謝礼
別刷50部をもって謝礼にかえさせていただきます。
4.
あて先
〒102-0082
東京都千代田区一番町13−3
(社)日本病院会
学術委員会
雑誌編集室
TEL
72
72(422)
03(3265)0077
FAX
あて
03(3230)2898
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
図書研究会・講演
図書館サービスと著作権について
椙山女学園大学文化情報学部教授
松
村
多美子
平成15年9月・横浜市
皆さんおはようございます。ただいまご紹介い
図書館の資料の面ではないかと思います。皆さん
の間でも電子情報資料が多かれ少なかれ問題に
ただいた松村です。
著作権は皆さんが日ごろ身近に体験していらっ
なってきていると考えますが,電子形式の情報資
しゃるきわめて今日的な大きな問題であると思い
料の数が教則に増加し,またその種類が多様化し
ます。著作権に関する特定の問題については,文
てきているのが顕著な特徴です。とりわけ図書の
献や Web サイトに事例等による解説などが多数出
電子本もさることながら,医学関連分野では電子
ていますので,本日はそういう個別のケースでは
ジャーナルの目覚しい普及があげられます。
なくもう少し広い視点から,著作権にかかわる世
界的・国際的な動きと,さらに国内での文化審議
電子ジャーナル
会著作権分科会の審議のなかで,とくに図書館に
ご存知のように電子ジャーナルは,学会等の非
関連する著作権の問題についてお話をしたいと思
営利団体機関が出版している場合もありますが,
います。それに先だって,まず図書館サービスが
現在,世界的に広く流通しタイトル数も多く実質
現在大きな転換期にあることから,そのことにつ
的な影響力をもっているのは商業出版者の学術雑
いて見ていきたいと思います。
誌です。専門分野としても特に医学,バイオ関連
の電子ジャーナルが多く出版されています。現時
図書館サービスの変化
点では,出版者も完全に電子形式の雑誌だけに切
情報化の急速な進展にともなって図書館をとり
り替えたわけではなく,従来からのプリント形式
まく環境が急速に変化しつつあり,とりわけ ICT
の雑誌と並行出版しているのが現状です。しかし
の影響がさまざまな面で出てきているのが現状で
いずれ電子ジャーナルだけになることは時間の問
す。むろん図書館の基本的な活動,すなわち,情
題とされています。
報資料を収集し,整理して利用者の必要に応じて
電子ジャーナルは欧米の大学研究図書館,とく
提供する,また同時に保存をすることは,図書館
に医学図書館等において急速に普及しています
のタイプの違いにかかわらず共通するところで
が,それは電子ジャーナルには従来の印刷形式の
す。しかし,このような活動のほぼすべての段階
雑誌とは比較にならない大きなメリットがあるか
で ICT の影響を直接的,間接的に受けているのが
らです。たとえば,印刷版では不可能な多様な検
実情です。現在の図書館は「ハイブリッド図書館」
索機能がある,一つの論文を手がかりにして関連
と言われますが,これは従来からの図書館といわ
論文へ情報収集の範囲を広げることが出来るリン
ゆる電子図書館の両者の機能が並存している状態
クの機能がある,保存のためのスペースの問題が
をさしているもので,ほとんどどの図書館が程度
解消される,など多様な付加価値があることです。
の差はあるとしてもハイブリッド図書館であるの
むろん問題点・課題もあり,現在では印刷版に比
が現状であると思います。
較してコストが高い,累積していく雑誌を保存し
まず,最も直接的な影響が現れてきているのが,
必要に応じて利用できるようにするアーカイビン
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
73(423)73
グの問題,出版者側は技術の進展にともなってさ
ス・シェアリングです。
まざまな改善を加えていきますが,これに対応し
しかし,インターネット時代の今日では,図書
てデータを移し替えるデータマイグレーションの
館界の外に多くの情報源があり限りない情報の宇
問題などがあげられます。しかしながら利用者の
宙が広がっています。このような情報源の利用に
視点に立ち,また,中・長期的な図書館マネージ
関して図書館は全く無関係でいいのであろうか?
メントの見地から,欧米の図書館では電子ジャー
図書館界の外の情報源に対するアクセスを提供す
ナルに利用が急速に進んでいます。利用者志向の
る,利用者が効果的・効率的なアクセスができる
図書館サービスを展開するためにはきわめて重要
ように支援するのも新しい図書館サービスであ
な資料であると捉えています。
り,電子図書館の機能の一つであります。電子図
書館が「壁のない図書館」といわれる理由もここ
契約と著作権
にあると言えます。
このように新しいタイプの情報資料を導入する
また,利用者の変化も顕著であり情報に関する
に当たっては,
「契約」という図書館にとってこれ
知識,技術が進み,とりわけ若い世代を中心に自
までになかった全く新しい業務が発生することに
分で情報を探す,集めることが多くなってきてい
注目する必要があります。従来の印刷形式の雑誌
ます。これに伴って図書館はあふれる情報の中か
の購読契約とは異なり,電子ジャーナルの利用に
ら利用者がいかにして的確な情報を効率的・効果
係わるさまざまな条件を購読契約の際に明確にし
的に見つけ出すか,その支援を行うのが,新しい
なければなりません。たとえば,パスワードの数
図書館情報サービスの重要な部分を占めることに
をどの程度にするのか,プリントアウトやダウン
なります。
ロードの可否・条件などです。実際ここに著作権
に係わる問題,すなわち出版者に対する著作物使
著作権をめぐる国際的動向
用料の問題があり,それが購読料金に含まれて「契
知的財産権に係わる政府間国際機関としては
約」が成立することになります。むろんこのよう
WIPO(World Intellectual Property Organization)
な条件設定の根底には著作権法がありますが,図
があり,ここでさまざまな条約等の取り決めを
書館はこの契約の条件内で利用するかぎり著作権
行っており,わが国は文化庁が対応しています。
の問題に直接係わることは,契約違反で訴訟にで
しかし他の国際機関の最近の動きも見逃せませ
もならない限り少ないといえます。このように図
ん。とくに WTO(World Trade Organization)が
書館にとって電子情報資料の契約はこれまでにな
締結した2つの調停は,図書館に大きなインパク
かった新しい業務であり,また著作権法等の法制
トを与えるものといえます。WTO/GATS(General
度の知識も必要であることから,欧米の図書館で
Agreement on Trade in Services)は各種サービ
は契約に当たって法律専門家の助言を求める場合
スの通商に関する調停で1995年1月に成立しウル
が少なからずあります。
グアイ・ラウンドの成果の一つとされています。
ここではあらゆるタイプのサービスが対象になり
情報アクセスの支援サービス
公的機関が提供するサービスも含まれることか
他方,従来からの印刷形式の雑誌の価格も高騰
ら,公共図書館等の無料サービスがこの対象にな
を続け,それに反して図書館の予算は一般的に削
ります。これに対してカナダ図書館協会はいち早
られる傾向にある,となるとどうしても自館で所
く危機感を表明しポジション・ペーパーを発表す
有すべきものに限定した選択的収集にならざるを
るなどの運動を展開しています。また,WTO/TRIPS
得なくなり,それぞれの図書館が親機関の研究・
(Trade-Related Aspects of Intellectual Property
業務に必要な特色ある蔵書を構築していくことに
Rights)は1995年に調停が成立し2005年に効力が
なります。そして必要に応じて相互貸借により他
発生することになっていますが,これは WIPO と協
の図書館の所蔵資料を利用することを行ってきま
調しさらにふみこんで知的財産権全般にわたって
した。これはいわば図書館界のなかでのリソー
規定しています。対象としているのは,著作権お
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74(424)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
よび関連の権利,トレードマーク,地理的意味を
用する部分の量と複製により生じる損害の程度,
もつもの(たとえば,パルマハム,ボージョレワ
(5)利用により可能性のある市場や価値に対して
インなど),商業デザイン,特許,IC のレイアウ
与える影響などがあげられています。
ト・デザイン,トポグラフィ,商業秘密をふくむ
非公開情報などです。これにより WTO メンバー国
に対して最低限の基準を示し,各国がこれに基づ
わが国の現況
―文化審議会著作権分科会
このような国際的な動向のなかで,わが国にお
いてそれぞれに国内法の制定をはかることとされ
ける顕著な動きの一つに「知的財産基本法」
(法律
ています。
第122号平成14年11月27日)があります。これは知
著作権に関してはベルヌ条約および1971年のパ
的財産権のなかでも特許に焦点が当てられている
リ条例の大半は取り込まれていますが,倫理的側
ように見られますが,第10条では知的財産の保護
面,すなわち人格権にかかわる問題にはふれてい
および活用に関する施策を推進するに当たって
ません。したがって単に通商上の問題のみに限定
は,その公正な利用および公共の利益の確保に留
されているという批判があり,IFLA(国際図書館
意するとともに,公正かつ自由な競争の促進が図
連盟)は人格権は経済権とはまったく異なるもの
られるように配慮すべきであるとしており,世界
であり,これが除外されていることは大きな欠陥
的な方向性にそったものであるといえます。
であると指摘しています。GATS は図書館サービス
この基本法の枠組みのなかで著作権に直接関係
に関連するという点で比較的分かりやすいのに対
するのは,文化審議会著作権分科会における審議
して,TRIPS はきわめて複雑であり図書館に対し
の状況です。
てどのような実質的な影響があるのか,現在カナ
著作権に対する図書館関係の権利制限について
ダを中心に調査研究が進められているところで
は,平成13年度に図書館等における著作物等の利
す。
用について検討を行うワーキング・グループを設
IFLA(International Federation for Library
置して,権利者側《出版者等)と利用者(各種図
Associations and Institutions)(国際図書関連
書館等)の双方から実態の説明や提案等を行って,
盟)は,図書館と著作権の問題をコアプログラム
論点の整理を行いました。ここでいう「図書館」
とし Copyright and Legal Matters Committee:CLM
とは日本図書館法で規定されている図書館を指し
(著作権および法律問題委員会)を設置して,図
ています。
書館の立場から著作権にかかわる問題に積極的に
この論点整理をふまえて,権利者・利用者の双
取り組んできており,各種調査の実施や報告書の
方によりさらに具体的な検討を行うための当事者
出版等の活動を行っています。
間の協議の場が設けられました。この協議は平成
TRIPS/ベルヌ条約では原則として著作権により
14年2月から9月までの間に7回開催され,権利
権利者にあらゆる可能な権利を与えているとも限
制限の拡大に関する論点,権利制限の縮小に関す
りません。たとえば著作物の物理的移動を制限す
る論点について,具体的な検討を行いました。
る権利はないので,これにより図書館で図書等の
権利制限の拡大に関する論点,すなわち図書館
現物の貸借ができます。また,各国でそれぞれに
側の主張する点は,
著作権法における例外を設けることを許容してい
(1)
図書館等が例外的に許諾を得ずにファクシ
ミリ等の公衆送信により複写物を提供できる
ます。例外は基本的にベルヌ条約の「3段階方式」
ようにすること。
に基づいて各国政府の方針によって規定されま
す。したがって国により対応が異なりますが,図
(2)
入手困難な図書館資料に掲載された著作物
書館との関連で有名なのがアメリカにおける公正
の全部を例外的に許諾を得ずに複製できるよ
利用「Fair Use」の理論です。
「Fair」であるか否
うにすること。
かを決定する要素は,(1)利用の目的と正確(商業
(3)
再生手段の入手が困難である図書館資料を
上の目的ではない,教育のための非営利的利用な
保存のために例外的に許諾を得ずに複製でき
ど),(2)著作物の種類,(3)著作物全体に対して利
るようにすること。
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日本病院会雑誌
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(4)
図書館等においても視覚障害者のために例
全部を例外的に許諾を得ずに複製できるようにす
ること。
うにすること。
2)図書館等においても視覚障害者のために例外
(5)
外的に許諾を得ずに録音図書を作成できるよ
的に許諾を得ずに録音図書資料を作成できるよ
その他として,
①図書館等に設置されたインターネット端末か
うにすること。
ら図書館利用者が著作物を例外的に許諾を得
3)図書館とうに設置されたインターネット端末
ずにプリントアウトできるようにすること。
から利用者が著作物を例外的に許諾を得ずにプ
②図書館内のみの送信を目的として図書館資料
リントアウトできるようにすること,があげら
を例外的に許諾を得ずにデータベース化でき
れています。これらの事項については著作権分
るようにすること。
科会契約・流通小委員会における「権利者によ
他方,権利制限の縮小に関する論点,すなわち
る意志表示のためのシステムの開発・普及のあ
権利者側の主張は,
り方」の検討との連携をはかりながら,関係者
(1)
間の協力により対応することが適当であるとし
商業目的の調査研究を目的として利用者が
複製を求めた場合について権利制限の対象か
さらに,引き続き関係者間の協議が行われる事
ら除外すること。
(2)
図書館資料の貸出について補償金を課すこ
図書館等において利用者の求めに応じて行
う複製について補償金を課すこと。
(4)
項としては,
1)公衆の用に供するコピー機を利用した私的使
と。
(3)
ています。
用のための複製を権利制限の対象から除外する
こと。
2)図書館等が例外的に許諾を得ずにファクシミ
その他としては,
①公衆の用に供するコピー機を利用した私的使
用のための複製を権利制限の対象から除外す
リ等の公衆送信により複製物を提供できるよう
にすること。
3)商業目的の調査研究を目的として利用者が複
ること。
②図書館等においてビデオ等を上映することに
ついて権利制限の対象から除外すること,な
製を求めた場合について権利制限の対象から除
外すること。
4)図書館等において利用者の求めに応じて行う
どであります。
このような当事者間の協議の結果をふまえて,
複製について補償金を課すこと。
著作権分科会法制問題小委員会で検討を行いまし
5)図書館等においても視覚障害者のために例外
た。その結果は「文化審議会著作権分科会審議経
的に許諾を得ずに録音図書を作成できるように
過報告」(平成15年1月)に述べられていますが,
すること,をあげています。
法改正を行う方向とすべき事項のうち,再生手
まず,
法改正をおこなう方向とすべき事項として
段の入手困難な図書館資料を保存のために複製で
1)再生手段の入手困難である図書館資料を保存
きるようにすること,ならびに映画の著作物等を
のために例外的に許諾を得ずに複製できるよう
図書館などの公共施設等が上映することについて
にすること。
権利制限の対象から除外することの2件について
2)図書館等の公共施設等において映画の著作物
を上映することについて権利制限対象から除外
は,平成15年通常国会に提出する予定でしたが,
結局見送られることに成りました。
図書館資料の貸出に対して補償金を課す件につ
すること。
3)図書館資料の貸出について補償金を課すこと,
いては,きわめて活発な論議が展開されたところ
の3事項があります。また,
です。権利者側が論拠の一つとしているヨーロッ
「意志表示」システム等により対応すべき事項と
パ諸国で実施されている「公貸権」制度は,イギ
しては,
リスの場合は自国の文化振興政策の一環として政
1)入手困難な図書館資料に掲載された著作物の
府が基金を設置して行っているもので,わが国で
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2004年3月
日本病院会雑誌
は補償金が確実に当該権利者に支払われるシステ
なるであろうことは容易に予想されます。これか
ムの確立がまず当面の課題といえるでしょう。
らの図書館サービス,ひいては図書館のあり方そ
また,商業目的の調査研究のために著作物を複
製する件についても,権利者側からきわめて強い
のものに対しても,多かれ少なかれ影響をあたえ
ることになると考えられます。
主張がなされました。しかし商業目的をどのよう
先にふれたように,ここでは図書館法による図
に見分けるか,個別の利用者については実行上で
書館と著作権についてお話してきました。きょう
困難な場合が少なからず生じることが予想されま
ご参加の方達のなかにはこの規定に当てはまらな
す。
い図書館/図書室の方々もおいでになるとうかが
いました。それでは著作権の問題にどう対応すべ
今後の展望
きであるのか,利用者に対するサービスに直接か
これまで述べてきたように,平成15年9月現在
かわる問題であり,さらに図書館/図書室のあり方
では法改正に至った事項はなく当事者間の協議が
にも関連する基本的な問題ではないのでしょう
引き続き行われているのが現状です。しかし「審
か。そのような図書館・図書室全体の問題として,
議経過報告」の事項については今後もさらに審議
みなさんの間で十分に検討なさって今後の対応を
が継続され図書館にとってますます厳しい環境に
決めることが必要ではないかと思います。
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
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図書研究会・実務講座
病院機能評価新評価体系を初受審して
JFE 健康保険組合
川鉄千葉病院図書室
奥
出
麻
里
平成15年9月・横浜市
皆さん,こんにちは。川鉄千葉病院図書室の奥
号の病院を認定してから6年になり,新評価体系
出麻里と申します。日本病院会の委員をしており
Ver.4.0は,昨年,2002年度から実施されていま
ます。
す。
今年,7月24日から26日の3日間,当院は日本
2003年8月18日現在で,全国1,000病院が認定さ
医療機能評価機構の病院機能評価,Ver.4.0によ
れています。(2003年12月15日現在,1,100病院認
る訪問審査を受審しました。その準備と当日の受
定)
審査体制区分は表1のように4つに分かれてい
審状況などについて,図書室を中心にご報告いた
ます。当院は,360床の一般病院ですので,この区
します。
1.
分の「3」の一般,200から499床の中に入ります。
病院機能評価とは
サーベイヤーが7人,内訳はリーダー1人,診療
財団法人日本医療機能評価機構は,医療機関の
第三者評価を行い,医療機関が質の高い医療サー
系,看護系,事務管理系サーベイヤーが各2人で
す。審査日数は3日間でした。
ビスを提供していくための支援を行うことを目的
表2は当院の概要です。正式名は,JFE 健康保
として,1995年に設立されました。1997年に第1
険組合川鉄千葉病院といいます。診療科17科,ベッ
表1
審査体制区分
審査体制区分
1
適用病床数
サーベイヤー体制
表2
2
3
一般・複合
20∼99
一般・複合
100∼199
一般・複合
200∼499
精神・療養・複合
20∼199
精神・療養・複合
200∼399
精神・療養・複合
400∼
2003.4.1現在
表3
面
川鉄千葉病院図書室の概要
積
162㎡
診療科
17科
座席数
12席
病床数
360床
職
1名
職員数
534名
医師数
58名
看護師数
1日平均外来患者数
242名
1,243名
員
蔵書数
単行書 7,074冊
雑誌数
国内 213誌
経
単行書
費
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
製本雑誌 9,450冊
外国 141誌
計
354誌
248万円
国内雑誌 367万円
15.1日
付属看護学校,訪問看護ステーション併設
78
78(428)
一般・複合
500∼
4人(リーダー・診・ 4人(リーダー・診・ 7人(リーダー・診2・ 7人(リーダー・診2・
看・事)
看・事)
看2・事2)
看2・事2)
JFE 健康保険組合川鉄千葉病院の概要
平均在院日数
4
外国雑誌 973万円
データベース等 57万円
計 1,645万円
ド数360床,職員数534名,医師数58名,看護師数
表5
242名,1日平均外来患者数1,243名,平均在院日
4.4
数15.1日。付属に看護学校があります。独立して
4.4.1
図書室の評価項目
図書室機能
図書室が確保され図書・文献が整備されてい
いますが,訪問看護ステーションがあります。
る
表3が図書室の概要です。面積162平方メート
4.4.1.1
図書室があり担当者が明確になっている
ル,座席数12席,職員が専任で1名,蔵書数等,
4.4.1.2
図書が一括管理され適切に分類・整理され
ご覧のとおりです。雑誌,現行受入れ雑誌ですが,
寄贈誌が多く,国内雑誌213誌のうち79誌が寄贈,
ている
4.4.1.3 必要な図書・文献が購入され各部署に定期
外国雑誌120誌のうち3誌が寄贈です。国内雑誌で
的に図書情報が提供されている
は学会誌を中心に寄贈が多く,約37%にのぼって
4.4.2
います。
4.4.2.1
図書室の利用促進と便宜が図られている
経費はご覧のとおりですが,これは平成14年度
の実績です。
2.
経過
表4は受審申込みから,認定までの簡単な経過
各職種の職員がいつでも利用することが
できる
4.4.2.2
文献検索を容易に行うことができる
4.4.2.3
文献入手の便宜が図られている
あります。
です。2002年10月に申込みをしまして,12月,受
4.4が「図書室機能」で,ご覧のとおりです。
審説明会,今年の5月に書面審査調査票提出,7
日本医療機能評価機構のホームページに詳しい
月に訪問審査がありました。実をいいますとまだ
情報が載っていますので,ぜひご覧ください。
どのくらいの蔵書数が適当であるとか,雑誌数
結果が出ておりません。
(9月22日付で無事,認定
がどのくらいかというような,具体的な数字は
されました。)
表4
まったく審査されません。
経過
2002年10月
4.
受審申込
2002年12月
受審説明会
2003年5月
書面審査調査票提出
2003年7月
訪問審査
2003年9月
認定
準備した資料
表6は準備した資料のリストです。これを全部
準備しなければいけないということではありませ
ん。当図書室として準備したものです。まず,図
書室概要を簡単にまとめました。
それから図書室運営規程,図書室運営委員会規
どういった形で認定されるかと申しますと,各
評価項目について5段階評価ですべて3以上が基
程,図書室利用要領です。この3つを新しくしま
した。
本となります。ただし,2あるいは1という評価
「図書室利用案内」は以前から作っていました
があっても,
「報告書内指摘事項」,
「留意事項」で
が,図書室運営規程というきちんとしたものはあ
あれば認定されます。ただし,
「改善要望事項」が
りませんでした。私が病院に就職した当初,運営
一つでもあると認定されず,留保となります。そ
規程の案を作成したのですが,そんなものは誰も
の場合は,1年以内に再審査を申請することにな
見てくれなくて,無視され,放ったらかしになっ
ります。再審査で改善されたことが確認されれば,
てしまったことを思い出しました。そのまま自分
認定されます。認定されますと,5年間有効です。
なりにずっと仕事をしてきたのですが,今回,こ
3.
れをチャンスに規程類をきちんとしました。
図書室の評価項目
それから,図書室運営委員会議事録,委員会名
表5は図書室の評価項目です。図書室の評価項
簿。そして,スタッフマニュアルを改訂しました。
目は,4の「診療の質の確保」の中に含まれてい
図書室のレイアウト,それから図書室のホーム
ます。4以外の分野に,図書室に関連する項目も
ページですね。ホームページは以前から作成して
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表6
準備した資料
図書室概要(面積,座席数,設備,スタッフ,蔵書数,雑誌数,経費,サービス,利用統計など)
図書室運営規程,図書室運営委員会規程,図書室利用要領
図書室運営委員会議事録,委員名簿
スタッフマニュアル(雑誌ルーティーンワークマニュアル,単行書ルーティーンワークマニュアル,除籍マニュ
アル,相互貸借サービスマニュアル,貸出・返却・督促業務マニュアル)
図書室レイアウト
図書室ホームページ
図書室利用案内
蔵書管理資料(目録カード,図書原簿,蔵書目録データベース)
分類関連資料
新規購入図書リストファイル
購入希望図書リストファイル
購入希望図書申込書
雑誌所蔵リスト(国内・外国)
データベース関連資料(医中誌 Web 資料ファイル,JOIS 資料ファイル,
『図解 PubMed の使い方』
,国内雑誌特集
索引データベースなど)
文献相互利用申込書(借・貸)ファイル
文献相互利用申込書
ほか相互貸借資料(現行医学雑誌所在目録の当室分,VML 資料,NACSIS Webcat の当室分)
文献相互利用申込書・通知書ファイル
図書室統計資料
『川鉄病院誌』より図書室利用統計・活動状況のファイル
日本医学図書館協会年次統計調査(当室分)
にデータ登録しているものの当室分などもプリン
いました。そして図書室利用案内。
次に蔵書管理関係の資料です。蔵書管理につい
トアウトしました。
それから,図書室統計資料です。『川鉄病院誌』
ては,全部をパソコンで管理しているわけではな
くて,古い受け入れ分は目録カードも残っていま
という病院誌を毎年発行しているのですが,そこ
す。
に,図書室開設以来の利用統計・活動状況が書い
それから分類関連の資料,新規購入の図書リス
トファイル,購入希望図書リストファイル,購入
てありますので,それをコピーしてファイルしま
した。
また,日本医学図書館協会の年次統計の調査が
希望図書申込書,そして国内雑誌所蔵リスト,外
ありましたので,それを一緒にファイルしました。
国雑誌所蔵リスト。
データベース関連資料としては,医中誌 Web や,
JOIS のファイル,『図解 PubMed の使い方』,国内
5.
図書室内の整備
雑誌特集索引データべース,これは自作している
図書室内の整備として,新着雑誌架の整理,製
ものです。余談ですけれども,この『図解 PubMed
本雑誌の移動,図書室サインの整備等がありまし
の使い方』
(安部信一,奥出麻里共著,日本医学図
た。これが実は一番大変だったことです。つまり
書館協会発行)の第2版が最近出版されました。
大掃除です。やはり見た目が問題になります。日
本日見本をお持ちしましたので,ご覧ください。
頃なかなかできないので,どうにか少しきれいに
続いて,文献相互利用申込書(借・貸)ファイ
なりました。図書室の写真少しをお見せしましょ
ル,それから相互貸借関係の資料として,
『現行医
う(図1,2)。
学雑誌 所 在 目 録 』の 当 室 の 分 や ,VML(Virtual
Medical Library)の資料。そして NACSIS Webcat
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日本病院会雑誌
ちんとしたものがない部分もあって,図書室でで
きるだけ収集し,それを基に病院として作成しま
した。
それから倫理委員会,医療事故防止対策委員会,
院内感染対策委員会等,とくにわりあい最近でき
た委員会なのですけれども,その辺のサポートを
しました。要するに情報収集です。文献検索など
もよく頼まれました。
このほかにも,看護師さんたちが文書作成する
ことが多かったので,Word,Excel についての使
い方など,よく聞かれました。
図1
7.
当日の審査進行表
表7は,当日の進行表です。第1日目は3時か
ら5時半まで,書類確認のみでした。これは特別
何かなければ呼び出しはありません。それから2
日目に,9時からあいさつ,スケジュール確認,
合同面接調査。この調査は管理者の出席だけで私
は出ていません。
11時20分からお昼までが,領域別面接調査とい
うのがありまして,診療と看護と事務管理,3つ
に分かれて面接調査が同時に行われました。この
ときは図書室は診療グループに組み込まれて,一
緒に面接調査を受けました。
図2
6.
1時から5時までは,各部署訪問ということで,
あちこち訪問されるわけですが,図書室はこの日
その他の関連業務
は事務管理系サーベイヤーが訪問に来ました。
関連業務としまして,診療ガイドラインの収集
リーダープラス事務管理系3名が来られていまし
とリスト作成をしました。これは,評価項目の4
た。そして5時から5時半がサーベイヤーミー
全般として,そういうことが求められている部分
ティング,サーベイヤーの方たちのミーティング
があります。東邦大学医学メディアセンターの
です。
3日目です。3日目朝,あいさつ,スケジュー
ホームページに診療ガイドラインのリストが載っ
ていまして,それを参考にさせていただきました。
ル確認,9時5分から10時20分まで各部署訪問。
それをまず,全部チェックしまして,図書室に
このときは図書室は診療系サーベイヤー2名が来
あるもの,ないものを把握しました。診療ガイド
られました。医師と薬剤師でした。実際は時間が
ラインと一言で申しましても,きちんと中身が本
ずいぶんずれ込んでいたみたいです。10時20分か
当にガイドラインになっているのか,EBM に基づ
ら12時20分まではサーベイヤーミーティング,12
いているのかなど,その辺をチェックしていくつ
時20分以降,全体講評ということで終了していま
か購入したり,ウェブをプリントアウトしてファ
す。
イルしました。
また,各診療科に必要な説明書・同意書等の収
8.
質問事項と回答
集です。患者さんへの説明書ですね。いろいろ診
質問事項と回答です。まず,2日目にありまし
療科でつくっているのですけれども,なかなかき
た部署訪問で,事務管理系サーベイヤーからの質
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表7
当日の審査進行表
7月24日(木)
7月25日(金)
15:00−17:30
書類確認
9:00−11:20
挨拶,スケジュール確認,合同面接調査
11:20−12:00
領域別面接調査
診療
(図書室含む)
看護
事務管理
7月26日(土)
13:00−17:00
各部署訪問(図書室は事務管理系サーベイヤーが訪問)
17:00−17:30
サーベイヤーミーティング
9:00−9:05
挨拶,スケジュール確認
9:05−10:20
各部署訪問(図書室は診療系サーベイヤーが訪問)
10:20−12:20
サーベイヤーミーティング
12:20−13:00
全体講評
問事項です。
務部長回答)
1)蔵書管理はパソコンでやっていますか。
10)利用時間は?
1990年からパソコンにデータを入力していま
夜8時に施錠しますが,それ以降,夜間・休日
す。それ以前は,目録カードです。
も職員であれば,警備員室で鍵を借りられます。
2)分類はどうしていますか。
24時間利用できます。
単行書の分類は,NLMC で分類しています。雑誌
は,雑誌名のアルファベット順に配架しています。
11)このような図書室になったのはいつですか。
平成9年の増改築で移動しました。それ以前は
半分ほどの面積でした。今までに3回引越してい
3)経費は,どのくらいですか。
年間図書資料費は,約1,645万円,内訳は,単行
書約248万円,国内雑誌約367万円,外国雑誌約973
万円,データベース等約57万円となっています。
ます。
12)文献検索はできますか。
Windows2台,Macintosh1台,計3台のパソコ
平成14年度実績です。
ンがインターネットに接続しており,各種データ
4)担当者は司書ですか。
ベースを検索できます。PubMed(MEDLINE)
,医中誌
Web,JOIS,The Cochrane Library などが利用で
司書で,サーチャーです。
5)雑誌のバックナンバーは製本していますか。
きます。
次に3日目の図書室部署訪問,診療系での質問
費用がかかりますね。
短期間で廃棄する雑誌以外は,製本しています。
事項と回答です。
1)利用対象に職員の制限はありますか。
年間150∼160万円かかります。
ありません。全職員が利用できます。
6)図書の購入手続きは?
希望図書を随時受け付けています。各所属長の
承認を得て,それらをまとめて,図書運営委員会
2)開業医の方などが利用できますか。
紹介があれば,地域の医療関係者にも利用して
委員長の決裁となります。
いただいています。
7)利用対象は?
3)外部利用者のリストを作るなど管理はしてい
ますか。
職員全員が利用できます。
していません。
8)利用者は,医師が多いですか。
医師はもちろんですが,看護,リハなどコメディ
4)患者さんなどは利用できますか。
規程では,患者さんへの公開はまだしていませ
カルの利用が増えています。
9)臨床研修病院の申請をしようとしていました
んが,主治医の紹介があれば利用できます。
か。
5)分類はどうしていますか。
今回,臨床研修病院の申請をする予定です。
(事
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単行書に関しては,医学書は NLMC,
一般書は NDC
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日本病院会雑誌
で分類しています。雑誌は,雑誌名のアルファベッ
になるのではないかと思います。また,これを機
ト順に配架しています。
会に,病院内の他部署の方々に対する幅広いサー
6)コメディカルの方々が文献検索したいときは
ビスなどとともに,図書室の重要性,図書室の便
どうしていますか。
利さをあらためて見直していただけたかもしれま
医中誌 Web,JOIS 等の契約をしていますのでイ
せん。
ンターネットで検索が可能です。代行検索もしま
また,全国的に病院機能評価を受審する病院が
すが,できるだけ,自分で検索できるように個人
増えているので,図書室の全国的レベルが上がっ
指導しています。付属の看護学校で文献検索の授
てくることを心から望んでいます。
業を担当していますので,看護師さんもかなりで
本日は,熱心にお聞きいただきありがとうござ
きるようになってきています。
いました。
7)文献検索,複写の費用はどこが負担していま
(キーワーズ:病院機能評価,日本医療機能評価
機構,新評価体系受審,病院図書館,図書室機
すか。
データベースの費用は,病院が負担しています。
年間約57万円です。複写に関しては,所蔵してい
るものについては,セルフサービスで複写できま
能)
―――――――――◇―――――――――
質問
うちも来年の2月に受審するのですけれ
す(病院負担)。相互貸借でかかる費用は,個人負
ども,今,一番ちょっと図書委員会とか何かで問
担です。ただし,看護研究などで必要な場合は,
題になっているのが,24時間開館というふうにい
病棟で負担していることもあります。
われているのですけれども,奥出さんのところで
8)夜間の利用はどのようにしていますか。
は,24時間,鍵で開けて利用できるのですか。そ
職員であれば,警備員室で鍵を借りられますの
れとも24時間フリーで出入りできるんですか。
奥出
で,24時間利用可能です。
午後8時に閉館です。一応8時に警備員
が回ってくるのですが,たいてい使っているんで
9)図書室の広さは?
162㎡です。
すよ。そうすると締めません。またしばらくする
以上です。
と回ってきて,いなくなったところで締めます。
図書室でいろいろな資料を揃えましたが,全部
でも,また開けたければ鍵を借りられるように
ではありませんけれども,フォルダーをお持ちし
ましたので,もしご興味のある方はあとで展示の
なっています。
質問
それで24時間オーケーということでオー
ケーになるんですか。
方でご覧ください。
今回の機能評価受審に当たって,提示すべき資
奥出
はい,そうらしいです。
料はすでにほとんど存在していたのですけれど
質問
そうですか。うちも今はそれなのですけ
も,準備中は,それらの改訂作業がなかなか進ま
れども,テンキーにするか,カードキーだとちょっ
なくて,さまざまな不安材料があり,時間的にも
と予算が今とれないので,テンキーだと何か5,
精神的にもきつい時期がありました。しかし,あ
6万でできるから,24時間開放が条件だとすると,
らためて図書室機能の基本に戻り,総点検できた
そのテンキーにしようかといっているのですけれ
ことは有意義であったと思います。
ども。私は何かちょっと,そうではない,今のま
面接調査・部署訪問ともに,指摘された点はあ
りませんでした。診療系サーベイヤーの方には,
事前に図書室ホームページを観ていただいてい
までいいのではないかなと思って,それが24時間
オーケーということにとられるかどうか。
奥出
べつに指摘されませんでしたので,多分
て,全体的に好意的な印象を持ちました。図書室
いいと思うんですけれども。当院くらいの規模で
に関しては,全体講評でも良い評価を得ました。
すから,そんなことをしろということは全然いわ
機能評価の評価項日が必ずしも適切かどうか分
かりませんが,図書室全体のマネジメント,利用
者へのサービス,将来構想などを考えるきっかけ
れませんでした。
質問
それで奥出さんのところの,場所的に大
体どの辺に位置しているんですか。
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日本病院会雑誌
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83 )
奥出
1階奥です。だからたまに患者さんなど
決策というのは,あまりないのではないでしょう
が入ってくるということはあるのですけれども。
か。やはり,何度も督促するとか。でも,貸出手
質問
では医局とは離れているわけですか。
続きをしないで持っていかれてしまうというのは
奥出
医局は2階なので,ちょっとだけ離れて
本当に困りますよね。私のところでもあります。
います。
製本しようと思ってもできないということで,掲
質問
それからもう一つ,いろいろな書類があ
示したりとかはやっていますけれども,なかなか
りましたよね。あれは何を出さなければいけない
うまくいきません。どうしたらいいでしょうか。
という規定はあるんですか。
会場でどなたかいい方法があればお聞きしたいと
奥出
ないです。できるだけいろいろ出したん
質問
思います。
それから,当院では,患者さんに対してのサー
です。
サーベイヤーのお名前というのは事前に
ビスはまだ公にはしておりませんので,していな
分かるのですか。どのくらい前に分かるのでしょ
いということはいいました。評価項目の中で,必
うか。
ずしなければいけないということではありませ
奥出
どのくらい前に分かったのか,ちょっと
ん。今の段階ではまだ大丈夫みたいです。
分かりません。
質問
2つお尋ねしたいのですが,私どもの病
参考文献・サイト
院は,あまり管理が十分ではないので,一応,図
1)日本医療機能評価機構
書室は電子ロックをかけているのですが,時間外
2)『病院機能評価への取り組み
の場合にはだれも管理する人がいないので,今,
一番問題になっているのは,図書の管理で,ノー
トに,貸出簿に書かないで持っていっているとい
う本があって困っているのですが,そういうこと
に対する何かお知恵を拝借できればいかがかなと
思うのですが。
それからもう1点は,患者さんのための図書と
中に,患者さんの利用ということが書いてあるの
ですが,私どもの病院では全然,そういうことま
でまだ達していないのですけれども,どの程度求
められるものなのでしょうか。その2点について
お尋ねしたいと思います。
日本医療機能評価機構,2003
3)星和夫:医療機能評価と病院図書室『日本病院会雑
誌』1999;46(4):501−511
4)上林三郎:病院機能評価と図書室機能『ほすぴたる
らいぶらりあん』2002;27(2):105−114
病院図書室―アンケートを実施して『病院図書室』
1999;19(3):126−130
6)松村一隆:医療機能評価受審と病院図書室機能『病
院図書館』2001;21(3):112−115
7)中野夕香里:病院機能評価の概要と図書室機能の評
価『病院図書室』1999;19(3):110−117
8)東邦大学医学メディアセンター:診療ガイドライン
ご質問ありがとうございます。紛失に関
http://www.mnc.toho-u.ac.jp/mmc/guideline/
しては,どこもみんな頭を悩ませていまして,解
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84(434)
2003』日本医療機能
5)近畿病院図書室協議会会誌編集部:病院機能評価と
いうことなのですが,たしかに機能評価の項目の
奥出
評価機構事業部編集
http://jcqhc.or.jp/
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
第53回日本病院学会推薦演題
バランス能力測定と転倒予防トレーニングの有効性
――ハイリスク患者を中心とした試み――
財団法人竹田綜合病院(福島県)
玉川かおり
山内真由美
木村
郁男
次に,①ハイリスクの概念を明確にするため,
はじめに
患者のバランス能力を測定する。②転倒予防ト
当精神科開放病床60床は,平均入院年数が男女
レーニングを実施,その前後における転倒頻度を
共12年以上と長く,平均年齢は男性55.1歳,女性
もってトレーニングの有効性を確認する。の二項
65.1歳である。特に壮年期以降が多く,女性では
目を実施・検証方法と考えた。
半数が65歳以上となっている。平成13年10月より
また検証対象としては転倒の危険因子が複数
精神科療養型病棟に移行したため,さらに入院日
で,さらにバランス能力の低下が認められる患者
数は延長され,平均年齢も高くなるものと予測さ
を転倒ハイリスク患者として選出した。その上で,
れる。入院患者は,精神疾患の慢性化に伴う情意
そのバランス能力の向上が,転倒予防に効果的で
障害の陰性症状から,逃避的適応機制の機能回復
あることを明らかにする目的で,ハイリスク患者
が遅れ,感情と身体機能と生活技能の障害で病室
6名のバランス能力に焦点を当てて分析した。そ
が生活の中心となる傾向が多い。そのため,体力
の結果,今後の課題と方向性を見出したので報告
の低下は否めず通常であればふらつく程度でも,
する。
つまずいたり・転んだりの事例が見受けられた。
長期入院・高齢化・疾病の慢性化により高まる転
倒の危険度への対応として,環境整備・薬物調整・
研究方法
Ⅰ
1.
研究対象:入院患者60名(男性34名・女性
看護展開を実施し,転倒予防に努力してきた。し
26名)と選出のハイリスク患者(男性1名・
かし,回数の減少はあったものの,その後も転倒
女性5名)
は続き対策に苦慮していた。
その折に,
「基礎体力の敏捷性・柔軟性・瞬発力・
筋力・持久力は60歳で50%以上維持される。しか
し,その中で平衡性(バランス能力)は60歳でピー
2.
調査期間:平成15年4月∼8月末日
3.
調査方法:バランス Test による能力測定
1)全患者へのバランス能力測定実施
≪測定方法≫須藤真史らの研究による(資料
1)
2)
ク時(20歳)の20%にまで低下する」 (資料1)
との報告があることを知った。そこで,①バラン
①Functional Reach Test
(以下 FRT と略す)
ス能力は,実年齢より加齢されている幅が大きい
のではないか。②バランス能力の向上が転倒予防
②The Timed Up and Go Test
(以下 TUGT と略す)
につながるのではないか。の二項目について研究
仮説を提起した。
2)ハイリスク患者6名:
(初回測定と転倒危険
キーワード:転倒,危険因子,バランス能力,転倒予防トレーニング
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日本病院会雑誌
85(435)85
因子で選出の男性1名・女性5名)初回・中
期(3週後)
・終了期(6週後)にバランス能力
を測定する。
3)転倒予防のトレーニング(ビデオ TV)を1
週3回/6週間の予定で実施する。
4.
分析方法:患者のバランス能力測定値と資
料基準値との比較から現状分析する。
5.
倫理的配慮:対象者に対して事前に研究内
容を伝え,得られた情報は研究目的以外使用
図2
全患者のバランス能力(FRT)測定値:女性
せずに研究を報告する時は,個人名が特定で
きない配慮をすることの説明で承諾を得た。
経過と結果
Ⅱ
1.
が病室を中心と狭いために,体力低下・動作
緩慢が数値として現れたと言える。また,男
(図1∼6)
性の壮年期と老年期の入院年数が平均値より
入院患者へのバランス能力測定の実施
高い割に,女性の方が20秒標準値近くに見ら
1)FRT 測定者の約80%は,バランス年齢が高
れる傾向は,転倒危険因子の内的因子である
齢者レベルの数値であった。実年齢よりも加
身体疾患・薬物・加齢等のリスクを男性より
齢されたバランス年齢の平均値は,男性約26
も相乗している事が原因と言える。
歳・女性約15歳であった。この結果は,私た
ちが仮説とした転倒の危険度が高まる要素の
進行を示している。
【TUGT 測定値:参考時間単位の説明】
20秒値:歩行能力が院内レベルか院外レベルか
男性の特徴としては,青年期・壮年期と活
動性のある年代で高齢値を示したため,今後
を判断する標準値
7秒値:病棟看護職員35名の平均値
の日常生活でより支障をきたして,早期に転
倒例のあることを予測させた。女性の特徴と
しては,壮年期に加齢以上の高齢値を示して
いるため,やはり男性同様に早期の転倒対策
が求められる。
【FRT 測定値グラフの見方説明】
棒グラフの頂点を左右に延長し折れ線グラフに
接した点の数値が現時点のバランス年齢。
図1
図3
全患者のバランス能力(TUGT)測定値:男性
図4
全患者のバランス能力(TUGT)測定値:女性
全患者のバランス能力(FRT)測定値:男性
2)TUGT 測定者の約90%が7秒参考値より高値
を示すのは,情意障害の陰性症状で生活範囲
86
86(436)
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日本病院会雑誌
2.
転倒危険因子からのハイリスク患者選出と転
倒原因の調査
(資料3)
3名にその傾向が強くみられた。
2)転倒予防トレーニング実施
(資料4)
○高齢者の転倒予防トレーニング/35分
1)転倒危険因子を内的・外的因子別にみると身
トレーニングの内容は①下肢筋力の強化②下肢
体的疾患では,6名のうち5名が整形的疾患を
関節可動域の向上③ウォーキングに下肢筋力を意
抱えており,2名に脳血管疾患の既往があった。
識した動きを加え,腸腰筋・大腿四頭筋・中殿筋
薬物に関しては,程度の差はあるものの抗精
の強化が中心である。
神薬や眠剤の影響が6名全員にみられ,特に歩
※トレーニングの実施に当たり,指導方法・内容
行時のふらつきや眠気が目立った。加齢変化の
に統一性が持てる・覚えやすいという点から高
影響からは,筋力・反射力などの低下により,
齢者の転倒予防トレーニングのビデオテープ
段差歩行困難や不安定な方向転換・すり足歩行
(小野
晃らの研究による)を使用した。
その内容は,
「立位」
・
「座位」のどちらでもト
などが認められた。
物的環境としては,段差・履物・照明等の整
備が十分でなかったための転倒例があった。
以上のことから,内的因子・外的因子を持つ
入院患者6名を転倒ハイリスク患者として選出
レーニングが可能で,時間は約35分のプログラ
ムである。トレーニングの回数は,週3回/6週
間実施をした。
3)中期バランス能力測定
FRT では,6名のうち Y.W 氏(74歳)を除く
した。
2)転倒原因別にみると,排泄に関わる一連の動
5名が3∼6㎝の伸びを示して,平均5㎝で
作がもっとも多く,次いでカーテンの開閉・後
あった。バランス年齢は6∼10歳実年齢に近づ
退時・ベッドや車椅子に移乗時と日常の何気な
いた。
TUGT では,6名のうち Y.W 氏(74歳)を除く
た,段差が明らかに判断できる高さよりも1.5
5名が0.2∼2.0秒短縮し,平均が1.4秒の短縮で
㎝程度の段差の方が転倒する傾向にあった。
あり,初回測定時,境界値より高い値を持つ3
3.
い動作が原因となっていることが分かった。ま
バランス能力測定と転倒予防トレーニングの
実施
名は境界値に近づいた。その間,5名には転倒
がみられなかった。
Y.W 氏(74歳)は精神症状の再燃により,処
1)初回バランス能力測定
方変更がなされたが,副作用が出現し,歩行に
○トレーニング実施前の状態を測定
ふらつきが生じて2回の転倒があった。
①測定の実施に当たり,ハイリスク患者には転
妄想内容は以前と同様で新たな妄想ではな
びたくないとの思いが強いことを確認し,イ
く,主治医の診断は,今回のトレーニングは妄
ンフォームドコンセントをとりながら参加を
想と関連はないと説明された。
(その5週間一時
促した。また,混乱が生じないようにバラン
中断)
ス能力測定の目的・方法は実演を交えて説明
4)終了期バランス能力測定
FRT では,中期から終了期で2∼7㎝伸び,
した。
能力測定の結果,初回の FRT では,全員が
平均5㎝であった。初回測定時から終了期では
10歳以上の高齢値となり,特にK・F氏は30
5∼12㎝伸び,平均9㎝であった。バランス年
歳以上の高齢値という値が表示された。
齢は,実年齢に対して10∼20歳で平均12.1歳近
初回の TUGT では,6名全員に股関節や足関
づき,トレーニングの効果が見られた。
節の可動域が小さく,固定されたようなすり
もっとも効果が得られた患者は,Y.W 氏(79
足歩行がみられ,歩幅の短縮や不安定な方向
歳)で12㎝,もっとも効果が得られなかった患
転換もみられた。
者は前述の,Y.W 氏(74歳)で5㎝であった。
特に,室内実用レベルか院内実用レベル以
危険因子の程度により,測定値に差がみられ,
上かを判別する20秒標準値より高い値を持つ
特にその影響を受けたのは6名のうち薬の副作
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日本病院会雑誌
87(437)87
用がみられた Y.W 氏(74歳)1名であった。ト
レーニングの参加は5週目から再開された。
これらは TUGT 実施時の患者の特徴と符号して
おり,トレーニングの内容に股関節を開いて歩く
TUGT では,中期から終了期で0.6∼2.0秒短縮
パートや足関節を伸展・屈曲させるパートがあっ
し,平均が2.4秒であった。初回測定時から終了
たことで,日常においても股関節や足関節の可動
期では,1.4∼3.9秒短縮し,平均3.6秒の短縮で
域が大きくなり,基礎体力の向上が転倒予防につ
あり,前述の3名のうち2名はさらに7秒参考
ながったのではないかと考えられる。
値に近づいた。残る1名の Y.W 氏(79歳)は20
秒標準値をきる結果となった。
また,転倒予防トレーニング導入により FRT・
TUGT 共に測定値が向上し,トレーニング終了後ハ
中でも,車椅子使用で他科受診をしていた
イリスク患者の転倒はみられなかった。これは,
Y.W 氏は,歩行での受診が可能となり,また,
トレーニングによりバランス能力に情報を与える
注目の転倒は中期の測定後から1名もみられ
深部感覚の機能が回復したことと,下肢筋力が強
ず,バランス能力測定値は,3週後・6週後と
化されたためと思われる。さらに,転倒をテーマ
測定毎に,向上する好結果が得られた。
に掲げたことで患者や看護者間での転倒に対する
意識が高まり危険因子を予測した対策が図られた
ためとも考えられ相乗効果とも言える。以上のこ
とから,転倒予防トレーニングがバランス能力の
向上に有効であり,その向上したバランス能力が
転倒予防につながることを確かめた。
おわりに
Ⅳ
今回,バランス能力の向上を目指して研究した
図5
ハイリスク患者6名のバランス能力 FRT 測定値
(初回・3週後・6週後別測定値)
ことで,その有効性が得られ,ハイリスク患者の
転倒を予防できた。加齢変化の大きい患者にはバ
ランス能力の向上が転倒予防になるとの仮説も確
認された。また,バランス能力測定結果をT検定
すると,有位性は示したが対象人数が少ないとの
判定もあった。そこで,今後は,ハイリスク患者
以外も対象範囲に拡大していきたい。
資料1
図6
木村みさからの研究による
(基礎体力の年齢による変化)
ハイリスク患者6名のバランス能力 TUGT 測定値
(初回・3週後・6週後別測定値)
考察
Ⅲ
木村みさかは,高齢者の歩行パターンの特徴と
して「①歩行速度の低下,②歩幅の短縮,③両足
支持時間の延長,④遊脚期での足の挙上の低下,
⑤歩幅の増大,⑥腕の振りの減少,⑦不安定な方
向転換などにまとめられる。」1)としており,小
野晃らは,
「歩幅の短縮は踵着地時に,股関節の屈
曲角度が小さいためである。」2)と述べている。
88
88(438)
図−A
基礎体力の年齢による変化(男性)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
3)両上肢を水平に拳上,この時の第3中手骨遠
位端を計側し,身体は捻らないこと。
4)バーに触れず,ステップせず,バランスを崩
さず,出来るだけ前方・水平に手を伸ばすよう
指示し,2)の状態で計測する。
5)計測は3回実施し,そのリーチ距離の平均を
FRT 値とする。
《練習は行わない》
注意事項:被検者が測定用メジャー・バーに触れ
た時,ステップした時は再検肩甲骨の
図−B
過度な前方突出をしない。
基礎体力の年齢のよる変化(女性)
基礎体力:20歳前後で体力はピークを示します。
○The Timed Up and Go Test の方法
基礎体力:20歳を100%として60歳前後では50%
Podsiadlo らの原法に準じて行う。
1)被検者は,椅子の背もたれに背を付けて座り,
以上を維持します。
平 衡 性:20歳を100%として60歳では20%まで
手は膝の上に置く。
2)被検者は,検者の合図で立ちあがり,「楽な」
に低下をします。
ペースで前進し3m先のマークの所で方向転換
資料2
須藤真史らの研究による
し,元の椅子に座り背をつける。
(Functional Reach Test の方法)
3)測定前に,一度練習し,理解されたことを確
認した後で施行する。
○Functional Reach Test の方法
Dncan らによる原法に準じて,簡便な装置を作成
4)測定は3回実施し,その所要時間の平均を
TUGT 値とする。
《介助は行わない》
し,以下の手順にて行う。
1)測定用メジャー・バーを片側肩峰の高さで固
注意事項:測定は自力で行う。普段使用している
歩行補助具(杖・歩行器)を使用して,
定する。
補助具は持った状態で実施をする。
2)被検者は,測定用メジャー・バーに沿って立
ち,足の幅は踵部で10㎝開く。
資料3
表−1
ハイリスク
患者
項目
転倒危険因子別ハイリスク患者一覧
K.Y氏
(61歳)
統合失調症
K.S氏
(62歳)
統合失調症
Y.W氏
(74歳)
反応性精神病
Y.W氏
(79歳)
軽度痴呆症
A.W氏
(79歳)
統合失調症
K.F氏
(68歳)
統合失調症
身体的疾患
先天性股関節脱 脳梗塞,気管支 胸 腰 椎 圧 迫 骨 第一腰椎圧迫骨
整形的疾患 臼
喘息,慢性硬膜 折,両変形性膝 折,両白内障,
眼疾患
下血腫術後
関節症,両緑内 慢性硬膜下血腫
内科的疾患
障,気管支喘息 術後
脳血管疾患
脊椎骨粗しょう 大 腿 骨 骨 頭 壊
症,変形性脊椎 死,膝蓋骨骨折,
症,右膝変形性 両白内障
関節症
薬
<中等度>
<軽度>
退院の話に反応 ・夜間歩行時の
を起こし徐々に ふらつき
幻 聴 出 現 。 ADL
低下し,移動時
介助必要とな
り,薬物調整に
て症状軽減する
経緯あり。
物
<中等度>
・夜間歩行時の
ふらつきと強
い眠気
・過鎮静傾向あ
り,現在薬物
調整中
<中等度>
・傾眠作用
・歩行時のふら
つき
・早歩き
<重度>
<軽度>
副作用でやすい。・夜間歩行時の
妄想あり処方変 ふらつき
更で症状消失。副
作用にて移動困
難・ふらつきあり
転倒。再調整にて
軽減するが妄想
残存。
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
89(439)89
加
齢
物的環境
ポータブル
歩行器
入浴
照明
その他
転倒回数
トレーニング
(前)
(中)
(後)
転倒理由
FRT 測定値
トレーニング
(前)
(中)
(後)
TUGT 測定値
(前)
(中)
(後)
K.Y氏
(61歳)
K.S氏
(62歳)
Y.W氏
(74歳)
Y.W氏
(79歳)
A.W氏
(79歳)
K.F氏
(68歳)
61歳
すり足歩行
段差困難
不安定な方向転
換
62歳
すり足歩行
段差困難
不安定な方向転
換
74歳
すり足歩行
段差困難
不安定な方向転
換
79歳
すり足歩行
段差困難
不安定な方向転
換
79歳
すり足歩行
段差困難
不安定な方向転
換
68歳
すり足歩行
段差困難
不安定な方向転
換
○(夜間)
○(24時間)
×(トイレに ○(24時間)
近い部屋)
×
×
○
半介助
見守り
全介助
×
×
○
靴の履き方指導 ヘッドギア着用
○
2
0
0
0
0
0
16秒
14.2秒
12.2秒
○
半介助
○
4
0
0
0
0
0
0
0
0
3
2
0
・排泄時(下着
の着脱)
17㎝
(23歳高値)
20㎝
(17歳高値)
25㎝
(6歳高値)
○
半介助
×
スリッパから靴
着用
×(トイレに近
い部屋)
○
見守り
×
・排泄時(下着 ・カーテン開閉
の着脱)
時
・椅子に座ろう ・歩行器使用で
として
後退時
・乾燥室前で ・椅子から立ち
上がろうとし
て
・排泄時(下着
の着脱)
15㎝
(27歳高値)
20㎝
(16歳高値)
25㎝
(5歳高値)
15.2秒
14秒
13.4秒
10㎝
12㎝
12㎝
7㎝
(20歳以上高値)(15歳以上高値)(10歳以上高値)(30歳以上高値)
15㎝
18㎝
18㎝
−
(1歳高値) (3歳高値) (20歳以上高値)
−
22㎝
20㎝
23㎝
12㎝
(15歳以上高値)(7歳若年値) (1歳若年値) (16歳高値)
31秒
−
22.4秒
22秒
20.2秒
19秒
23.2秒
21.2秒
20.4秒
14秒
13.8秒
12.6秒
<薬物>
軽
度
転倒の恐れはあるが,見守りで可
中等度
転倒の恐れがあり,状況によって介助を要する。
重
転倒の恐れがあり,日常生活に介助を要する。
度
資料4
小野
晃らの研究による高齢者転倒予防
トレーニングのビデオテープより
中心で《高齢者の転倒予防トレーニング》35分の
プログラム
≪転倒予防トレーニングのプログラム≫
≪ウォームアップ≫
トレーニングは①下肢筋力の強化②下肢関節可動
o深呼吸
域の向上③ウォーキングに下肢筋力を意識した動
〇ストレッチング
きを加え,腸腰筋・大腿四頭筋・中殿筋の強化が
≪上半身≫
90
90(440)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
2回
《10分》
o首:10秒ずつ交互に2回。左右に倒す
o:10秒ずつ左右交互に2回。踵を床につけるよう
o胸:10秒ずつ2回。両腕を肩のラインまであ
に片足を前に出し,息を吐きながら体を前に倒す。
≪上半身≫
げ,肘を後ろに引く。
o背中:10秒ずつ2回。両手を前に組み,背中を
o体側:10秒ずつ交互に2回。片腕を上げ,体を左
右に倒す。
後ろに引いて,手の甲を前に突き出し,
o胸:10秒ずつ2回。両腕を肩のラインまで上げ,
頭を軽く下げる。
肘を後ろに引く。
o体側:10秒ずつ交互に2回。片腕をあげて,そ
o背中:10秒ずつ2回。両手を前に組み背中を後
の腕を横に倒す。
ろに引き手の甲を前に出す。
≪下半身≫
o大腿二頭筋:10秒ずつ左右交互に2回。
o上体全体:両手を組んで伸びをする。
o首:10秒ずつ交互に2回。左右に倒す
片脚の踵を突き出し身体も前に倒す
o大腿四頭筋:10秒ずつ左右交互に2回。
片脚のつま先を持ち後ろに引き上げる。座位の
o深呼吸(2回)
〇水分補給を促して終了とする。
時は浅く座り片脚を椅子の下に入れ上体を後ろに
反らす。
《引用文献》
o下肢筋:10秒ずつ左右交互に2回。片足を前に
1)木村みさか他:高齢者への運動負荷との体力の加齢
変化および運動週間,JJ sport 10,p722-728,1991
出しつま先を手前に引き寄せる。
≪ウォーキング≫
2)小野
《10分》
o:両手を軽く振りながら,足踏み動作。
o:足踏み動作をしながら両足を徐々に開いて腕
の振りも大きくする。《反復動作》
o【ヒールタッチ】
:リズムにあわせて,片方ずつ
踵を床につける様に前に出す。
晃他:高齢者への転倒予防トレーニング,Book
House HD,p12, 2002/09/01
《参考文献》
金 憲 経他:転倒ハイリスク患者の身体的特徴
鈴木
隆雄:高齢者の転倒事故へのアプローチ
高齢
者 の 転 倒 事 故 , JOURNAL OF CLINICAL
o:基本動作をしながら,手に動きを加える《4
REHABILITATION,Vo1.10 No.11 955-960,
回ずつ》
2001
*:両肘を曲げ,ゆっくりもどす。
小玉嘉昭他:高齢者の転倒予防へのアプローチ『ハイリ
*:両肘を外側に開き肩まで上げ,ゆっくり戻
ス ク 転 倒 者 の 見 分 か た 』 JOURNAL OF
す
CLINICAL REHABILITATION Vo1.10
*:両腕をまっすぐ上に上げる。
o【ニーアップ】:左右交互に膝をあげる。
≪クールダウン≫
NO.11
961-965,2001
津村哲彦他:精神分裂病者の欠陥自覚症状,臨床精神病
理,Vo1.10. No.4
《10分》
o足のリラクゼーション:大腿部等を軽く叩きな
p301-310,1989
須藤真史他:脳卒中片麻痺に対する医学療法効果と測
定,PT ジャーナル,第35巻第12号,p879-
がらリラックスできる様にする。
884,2001
〇ストレッチング
≪下半身≫
o腰:10秒ずつ左右交互に体をねじる。
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2004年3月
日本病院会雑誌
91(441)91
第53回日本病院学会推薦演題
臨床工学技士が施行する機器メンテナンスの経済性
――メーカーとの比較・検討――
医療法人社団常仁会牛久愛和総合病院(茨城県)
井筒
古渡
工藤
1.
宏之
教之
初美
3.
要旨
関 謙太郎
中村亜希子
大沼 峰児
佐久間なつ紀
小酒井唯起
対象
CE が平成13年6月1日から平成14年5月31日
近年,医療機器に起因する事故が多発しており,
医療機器の管理体制が問われている。しかし,そ
までの1年間に定期点検および点検・修理伝票を
れらを解決するためには,ハード・ソフト面での
基にメンテナンスを行った,171件。
充実や維持管理費用の捻出および軽減が必要不可
欠である。今回は臨床工学技士とメーカーとの維
4.
CE は171件のメンテナンスにかかった所要時間
持管理費用に着目した。
結果,すべてにおいて,臨床工学技士による維
持管理が費用を削減させることが分かった。
だが,費用面にのみに着目することでの新たな
を CE の平日時間外の時間給(当院の中堅クラスの
時給を参考に1530円とした)より総費用を算出し
た。
メーカーは,同点検・修理を依頼した場合の通
問題点も明確となり,今後の検討課題となった。
2.
方法
常勤務時間帯における標準的な費用から総費用を
緒言
算出した。
当院では,平成13年6月より医用工学(以下 ME)
機器管理センターを開設し,約200台の ME 機器に
5.
調査項目
①総件数の内訳
対する保守点検・修理および管理業務を行ってい
②各項目別(定期点検・修理・その他点検)総
る。
近年,ME 機器による医療事故が増加傾向にあ
費用
り,機器のメンテナンスを含む管理業務の重要性
③各項目別機器単価
が示唆されている。しかし,それには多大な維持・
④各項目別時間単価
管理費用が必要となり,場合によっては,病院の
経営自体を脅かしかねない。
そこで今回,当院,臨床工学技士(以下 CE)と
メーカーで同じメンテナンスを行った場合の経済
性について,比較・検討をしたのでここに報告す
る。
以上,4つの項目に分類し,比較・検討した。
6.
結果
①総件数の内訳
総メンテナンス件数の内訳は,定期点検が45%
(77件)修理が38.6%(66件)その他点検が16.4%
(28件)であった。(図1)
92
92(442)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
CE が15万6060円38%であった。
その他点検では,メーカー96万500円17%,CE
は6万5790円16%と,それぞれの項目で費用に大
きな較差が見られ,全体では,メーカー574万800
円,CE41万40円であり,CE の費用はメーカーに依
頼する場合の14分の1であった。(表1)(図2)
③各項目別機器単価
各項目別機器単価の比較では,定期点検は,平
均1台当たりメーカー2万5136円,CE2026円,修
理は,メーカー4万3103円で,CE2851円,その他
点検では,メーカー3万4303円,CE2349円であり,
全体的にメーカーに依頼する方がより多くの費用
図1
がかかることが分かる。(図3)
④各項目別時間単価
②各項目別総費用
各項目別総費用の内訳比較では,メーカーに依
各項目別時間単価の比較では(各1台当たりの
頼した場合,修理費用は284万4800円でメーカーメ
費用を1台当のメンテナンス時間で割る)定期点
ンテナンス費用の49%を占め,CE は18万8190円で
検が1台1時間当たり,1万1286円。修理は1万
費用全体の46%であった。
6007円。その他点検は,1万5329円であった。
(図
次いで,定期点検が,メーカー193万5500円34%,
4)
表1
図3
図2
図4
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
93(443)93
7.
不可能となっている。
考察
また,対応が可能である部分に関しても,機器
今回,すべての項目においてメーカーに依頼す
る方が,費用がかかるという結果になった。
の測定の精度や製品の知識・技術には明らかな違
いがある。
これは,ほとんどのメーカーの料金体系が基本
例えば,薬液の流量精度を測定する場合,当院
料金・作業時間に対する料金・出張料(交通費含
ではメスシリンダーを使用しているが,メーカー
む)の3つからなっており,システム的に作業単
では電子計りを使用している。そして,機器内部
価が高くなるためと思われた。
に関しては,基盤等のクリーニングも定期点検ご
また,機器単価の修理に対する費用が高いのは,
故障箇所の特定に時間がかかることや修理後に定
とに行い,機器の経年劣化等に対する安全性の低
下を最小限に維持している。
期点検と同項目の動作点検を施行するため,作業
今回の結果から,CE がメンテナンスを行うこと
時間が長くなり,費用に反映されたためではない
の経済性は明らかとなったが,安全性の維持とい
かと思われた。
う観点から考えると機器に対する豊富なノウハウ
と,点検機器の充実している,各メーカーの協力
表2
が必要不可欠であると思われた。
8.
まとめ
今回,当院 CE が施行する ME 機器メンテナンス
の経済性について,メーカーとの比較・検討した。
結果,CE による機器メンテナンスは,メンテナン
ス費用を大きく減少・軽減させることが分かった。
今後は,経済性を考慮しながら,さらなる安全
性の向上と維持のために,どの位の頻度と割合で
メーカーにメンテナンス依頼を行うのか。
また,メンテナンスで必要不可欠な点検機器を
表2は,ある輸液ポンプメーカーと当院の点検
どのような形で病院に申請し,購入を促していく
のかが,検討課題である。
項目を比較したものである。
表のごとく,ほとんどの項目が当院でも対応可
能だが,特殊な機械を必要とする項目は,対応が
94
94(444)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
第53回日本病院学会推薦演題
病院における,人事・給与・就業業務の
統合システム化への取組みについて
聖路加国際病院(東京都)
古澤
〈目
洋
渡辺
明良
所属長は毎月,この画面で出退勤や残業時間の
的〉
確認をして,承認欄にチェックをつける。このこ
現在,大企業などでは,人事・給与・就業シス
とによって,現場での管理を徹底させている。ま
テムの IT 化が急速に進められている。病院におい
た,医師にも必ず打刻をさせているため,労災な
ても,これら IT 化の実現がどこまで可能である
どの問題が生じた時にも勤務実績の証明になる。
か,実際に聖路加国際病院での導入事例をもとに
さらに,その勤務実績は院長も確認していて,評
検証した。
価面接の資料にも役立てている。各部署で承認が
以前,当院においては,人事・給与・就業とい
終った後に,人事課で勤務データの集計をシステ
う3つの業務が独立しており,それぞれ別の担当
ム上で行う。そして,その月次データを毎月の給
者が個別のシステムに入力していた。そのため,
与計算に反映させている。
従業員の情報を入力するにも,3つの業務それぞ
さらに,当院の全職員が名札として胸に着けて
れで行わなくてはならず,手間がかかっていた。
いるネームカードには IC チップが内蔵されてい
また,システムごとに互換性がなかったため,人
て,打刻ターミナルで打刻する時にかざして使っ
事データベースと給与システムで所属や住所の更
ている(図3)。このカードは,当院が2002年の10
新にタイムラグなどの不都合が生じる場合がある
月に創立100周年を迎え,それを機にデザインを一
など,データ精度管理が大変であった。そこで,
新させた。ご意見箱で患者からの要望もあったた
これら3つのシステムを統合させ,さらに,IT 化
め,従来のものより名前を大きく印字させて見や
を進めることによって,効率化と正確性を上げる
すくした。
取組みを行った。
〈方
法〉
まず,職員の就業状況を明確に把握するため,
院内に打刻ターミナルを7台設置した(図1)。職
員は,このターミナルで出退勤の打刻や残業時間
の申請をする。また,このターミナルは非接触の
ID card に対応していて,カードをかざすだけで
打刻されるようになっている。
また,打刻したデータは,院内の各部署にある
パソコンの Web 上で参照することができるように
なっている。(図2)
図1
打刻ターミナル
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
95(445)95
図2
勤務データ入力画面
図3
図4
96
96(446)
ネームカード
人事情報画面
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
図5
扶養控除申告書
図6
保険料控除申告書
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
97(447)97
また,ID card を作成する時にデジタルカメラ
で撮影した画像は,人事情報の中にも取り込んで
いるため,1200人ほどいる全職員の顔が瞬時に参
照できるようになっている(図4)。この画面で家
族情報や昇給履歴などの管理もしている。また,
人事統計を出す時にも使われている。
一方,毎年,人事業務の中でも一大イベントで
ある,年末調整の時に職員に配布している扶養控
除申告書については,このシステムより人事情報
画面の家族情報をあらかじめ印字させることとし
た。(図5)
これにより,各職員は必要事項を書く手間が省
け,判を押して人事課に戻すだけで済むように
なった。また,人事課では変更項目だけをマスター
修正するだけで済むようになり,年末に2週間以
上かかっていた膨大な確認作業が,わずか2日で
済むようになった。さらに,保険料控除申告書に
おいても,生命保険や損害保険の情報を人事シス
テムで管理しているため,あらかじめ印字させる
ことができる。(図6)
また,ここに印字されている保険料をそのまま
NTT コム,給与明細書を全廃
給与明細も紙からウェブへ。
NTT コミュニケーションズ(NTT コム)は,こ
れまで社員に配布していた給与明細書を廃止
する。社員は自分の給料明細はインターネット
の専用サイトにアクセスして知ることになる。
人事・労務管理業務の効率化が狙いで,すでに
労働組合側とも合意,20日の給与支給日から適
用する。同社は人事・労務業務の申請を,すべ
てインターネット上で完結する方針を打ち出
しており,これまでに社員のスケジュール管理
や交通費,休暇の申請などほとんどの業務から
書類を全廃している。給与明細書は,そうした
中でも,紙での支給が残っていた最後の制度
だった。
同社は給与明細の印刷や配布をやめることで
コスト削減効果を期待している。
一方,社員は今後,自分の給料額を専用サイト
にアクセスし,ID・パスワードを入力して見る
ことになる。
年末調整の計算にも反映させているため,再度保
険料を入力する手間も省かれた。
〈結
上記は日刊工業新聞から抜粋したものだが,給
与明細書や各種申請書のペーパーレス化は年々増
果〉
加してきていて,すでにインターネット上での管
以上のような統合システム化を進めるにつれ
理を導入している企業も多くなってきている。将
て,人事課の業務は合理的に改善され,負担も大
来的にも,給与明細書をEメールで各職員に送信
幅に軽減された。また,就業管理を各職場の所属
することができ,ペーパーレス化によるコストダ
長が行うことで,残業時間の状況や有給休暇の管
ウンが望める。
理などを所属長が把握することができるため,管
理者としての役割の明確化と職場の労務管理の徹
〈結
語〉
底につながることになった。さらに,監査の際の
職種が多く部署も多岐に及ぶ病院においても,
データ抽出と資料作成においても,精度の高い
IT 化を進めることによって,人事管理の合理化や
データ作成が容易に行えるようになった。一方,
セキュリティーの強化を図ることは可能である。
ID card を使って,管理部への入室管理を行い,
さらに,従来の処理中心の業務から人事制度構築
セキュリティー強化が求められる今日的課題にも
や人材育成などの人事企画中心の業務への転換を
対応することができた。
めざし,さらなる改善をすすめたいと考えている。
98
98(448)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
第53回日本病院学会推薦演題
医師のインシデントレポート提出状況
−与薬に関する報告−
東京医科大学(東京都)
村越
沼部
益子
昭男
博直
研土
名和
大原
肇
達美
北村
宮本
昌之
潤一
月次の推移は図に示すとおり4月から6月にかけ
【はじめに】
ては右肩上がりで増加していたが7月からは多少
東京医科大学病院では平成13年2月5日より安全
減少傾向がみられた。
管理体制を確立して以来,厚生労働省の書式に準
2,569件のレポートの内訳を多かった事例順に
じた「安全管理 (インシデント・アクシデント)
示したものが図−2である。与薬・処方に関する
レポート」を全病院的に導入し種々の検討を行っ
事例980件,療養上の世話,いわゆる転倒転落に関
てきた。全体的に安全管理に対する意識は高まっ
する事例406件,チューブ・カテーテル類に関する
て来たが,導入後の問題点の1つとして医師部門か
事例378件で,全国の事例報告2)と同様な傾向で
らの報告数が少ないことが疑義された。
あった。
【目
的】
平成14年4月から10月までに提出されたインシ
デントレポートを基に診療部門の報告数の少ない
原因を検討し,アクシデントにつなげないための
フィードバックをより充実させることを目的とし
調整を行った。
集計期間のレポート総数は図−1に示すように
2,569件で月平均367件であった(重複事例を含
む)。が報告数の多いことが悪いとはいえない1)
図−2
主な事例の種類別件数
次に,事例の種類別で最も多かった与薬・処方
980件に関しての内容を示したものが図−3であ
る。内服に関する事例が616件と多くその内医師が
関与している事例が269件あったなかで医師から
の報告数は49件(18.2%)と低率であった。なお,
図−1
インシデントレポート件数
月次推移
内服に関する事例のうち,内容として多かったの
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
99(449
99 )
認知していても報告しなかった例があり,医師の
インシデントに対する認識が他部署に比べ低いこ
とが考えられた。そこで月例安全管理委員会にお
いて報告した結果,改善策を医療安全管理部会に
て検討し実行するよう指示が出された。医療安全
管理部会ではこの指示により各科の医療安全管理
者にレポートの提出のないことを報告し,さらに
当該科の医療安全管理者が当該医師に対して直接
図−3
指導するようにした。また,全体としては医療安
与薬に関する事例の内訳
全管理者研修会において状況説明を行い各科医師
に医局会を通じて指導するように教育をした。こ
の結果,徐々に医師からの提出の増加がみられた。
このことから今後も引き続き教育・指導を行う必
要があると思われ,現在も継続して指導を行って
いる。(図−5)
なお,現時点においては全てのインシデント報
告を提出するようにもとめているが,注射アンプ
図−4 同一事例に関する本人と発見者からの報告件数
は処方ミスや処方変更の連絡ミスなどであった。
一方,図−4はインシデント報告の全例に対し
て同一の事例で報告者が重複した例を示すと医師
部門から107件の報告に対し,他部署からは404件
の報告があったことからも医師のインシデントに
対する認知がないことが判明した。
ルの破損や,機器の破損などの本来インシデント
となるべきではないと思われる事例については除
外するようにし,今後報告義務項目のスタンダー
トマニュアルを作る必要があると思われた。
2)インシデントレポートの提出が多いことがよ
いのか,少ない方が良いのか判定は,必ず報告が
されていれば少ない方が良い。また,多ければ悪
いと一概には言えない。むしろ多い場合には改善
をするための基データが多く,今後の対応が可能
医療安全管理部会
となる。しかし,報告が無いことには問題がある。
⹏
3)調査対象期間が4∼10月だったため5月から
ଔ
インシデント未報告の検討
数カ月については新入医局員が入ってくる時期で
医療安全管理者研修会
もあり,新入医師のインシデントに対する認識が
インシデント報告の重要性を教育
低かった可能性もあるので,共通の視点・共通の
認識が出来る新人研修の体制整備をより強化する
各部署の職員
必要性があると考えられた。
インシデントに関しての共通認識
【結
図−5
【考
教育と指導
論】
医師からの報告が少ない事はどの施設でも見ら
れる傾向であり,医療安全管理部会の強力で継続
案】
した教育・指導が重要であると言える。
1)インシデントレポートの提出を義務付け,1
年が経過した時点で,6カ月間の推移を見てみる
参考文献
と,医師からの報告が他部署より極端に少ないこ
「ヘルスケアリスクマネジメント」
:医学書院,中島
とが分かった。このことは,医師がインシデント
江・児玉
レポートを提出することを認識していない場合と
「医療現場のリスクマネジメント入門」:同友館,日本
100
100(450)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
和
安司
リスク・マネジメント協会
理体制と安全管理レポートの意義」名和
昭男(VOL.28(No.2
引
用
肇,村越
2003)1月臨時増刊号91ページ)
2)医療安全ネットワーク事業:集計資料(社会保険旬
1)看護展望:「全国特定機能病院における医療安全管
報
NO2152(2002.11.1)10ページ)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
101(451
101)
第53回日本病院学会推薦演題
病院における環境に配慮した食品ゴミの処理について
長野県厚生連長野松代総合病院(長野県)
山本
村松
昭彦
友雄
松澤
秋月
俊宏
章
檀原
野口
浩
修
ゴミを肥料化する。
はじめに
方法(A−2)
:微生物の発酵活動を利用して食
長野松代総合病院では1日平均319.9名(平成13
品ゴミを水と二酸化炭素に分解し残渣を一切
年12月1日から14年3月31日までの4カ月間の実
残さず処理する。分解後の水は下水道に排出
績値)の入院患者を受け入れており,その食事提
供に付随して発生する食品ゴミが1日平均(同期
する。
方法(A−3)
:炭化処理は食品ゴミを加熱・燃
間の実績値)172.0±14.2(SD)㎏排出されていた。
焼することで水分を蒸発させて,容積を50%
これまで,この食品ゴミの処理は養豚業者に依頼
以下に減容する。2次廃棄物は可燃物として
していたが,腐敗臭に対する周辺住民の苦情によ
市営のゴミ焼却場で焼却処分する。
り受け入れを中止せざるを得ない状況となった。
このため,新しい処理方法を比較検討することと
なった。本報告では低費用でしかも環境への負荷
が少ない処理方法を採用した経過を報告する。
評価方法
方法(A−1)から方法(A−3)までを対象
に1日当り172.0㎏処理すると仮定した。
なお,本稿は平成15年6月に行われた日本病院
評価項目として,①1カ月当りの処理費用②1
学会で発表したものに,その後の研究結果につい
日当りの環境への負荷,具体的には二酸化炭素排
ても言及していることをお断りしたい。
出量を求め,環境効率も検討を行った。
①の算出方法は,10年償却で1カ月当りの減価
食品ゴミの処理方法
償却費1)を求め,電気,ガス,水道,その他の費
食品ゴミの処理方法として「循環型食品ゴミ処
用の合計と合算して運用費用を求めた。なお,電
理方法」以下,方法(A−1)と「消滅・液状化
気,ガス,水道,その他の使用量は各メーカのカ
処理方法」以下,方法(A−2)および「炭化処
タログの数値を参考にした。
理方法」以下,方法(A−3)の3方法を比較の
②の算出方法は食品ゴミが発生し最終的に処分
対象とした。以上3方法は病院内に処理機を設置
されるまでの二酸化炭素排出量を段階ごとに積み
して処理する方法で,外部委託する焼却処理方法
上げるライフサイクルアセスメント手法を用い,
は処理費用が安価であるが,食品リサイクル法で
具体的には各処理機の製造過程から各処理で使用
規制している「食品ゴミの総排出量の20%を再生
する電気,ガス,水道,焼却場までの運送,焼却
利用または減量する」に適用していないため比較
場にて発生する二酸化炭素排出量を算出し比較評
対象から外した。各処理方法は以下のとおりであ
価を行った。算出式は[各二酸化炭素排出量=各消
る。
費量(または価格)×係数]で求めた。なお各項目
ごとの係数は表1に示した。環境効率2)は次の算
方法(A−1)
:微生物の発酵活動を利用し食品
102
102(452)
出式で検討を行った。
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
表1
食品ゴミ処理に起因するところの二酸化炭素排出量(1日当り)
処理過程
換算係数
処理機器
機器/日
製造過程
CO2排出量
食品ゴミ
電力/日
処理過程
CO2排出量
979.7
0.3574)
(Kwh×係数)
食品ゴミ残渣
運送/日
移送過程
CO2排出量
食品ゴミ残渣
焼却/日
焼却過程
CO2排出量
方法(A−2)
方法(A−3)
15.00
12.50
15.90
4.03
3.36
4.27
146.40
63.10
44.50
52.26
22.53
15.89
3.023)
15.60
(Kg×係数)
47.11
0.583)
水道/日
CO2排出量
方法(A−1)
(百万円×係数)
(365日×10年)
LPG/日
CO2排出量
3)
76.90
(K ㍑×係数)
44.60
2.514)
(㍑×係数)
0.50
1.00
1.26
2.51
0.845)
34.40
(Kg×係数)
排出量合計
28.90
57.55
70.49
98.68
(Kg)
[環境効率=処理法が提供するサービス
÷
処
も導入は困難であり,それに次ぐ処理方法として
理法の環境負荷]
結
食品リサイクル法の規制を満たし,費用が安く環
果
1.
るメタン発酵利用による処理は技術的,経費的に
境への負荷の少ない処理は方法(A−1)である
1カ月当りの食品ゴミの処理費用は,表2に
と考えた。
示すとおり方法(A−1)が安価であった。そ
F.シュミット・ブレーク7)はサービス単位あた
の理由はリサイクル処理を前提とした方法(A
りの物質集約度の指数で環境効率を考慮すべきだ
−1)に対して国から処理機器価格の1/2相当
と述べている。つまり,処理方法の評価で考える
の補助金交付(平成13年度第一次補正予算内食
と,利用することによって生み出される付加価値
品リサイクルモデル展示緊急事業)を受けられ
が多いほど望ましく,また可能な限り環境負荷が
初期導入費用が圧縮されたことによる。
少ないことが望まれる。処理方法が提供するサー
2.
1日当りの食品ゴミの二酸化炭素排出量は表
1の示すとおり,食品ゴミの処理過程において
電力のみ利用する方法(A−1)がもっとも排
出量が少なかった。環境効率は処理法が提供す
るサービス(食品ゴミを処理する目的)が同一
であるため,環境負荷(二酸化炭素排出量)が
表2
各処理方法による1カ月当り処理費用
(A−1) (A−2) (A−3)
減価償却費
62,130円
93,750円
119,175円
(補助金含まず:113,542円)
運用費
合
計
73,570円
53,249円
88,639円
135,700円
146,999円
207,814円
少ない方法(A−1)がもっとも環境効率が良
運用費
の内訳
いと言える。
考
察
二酸化炭素の排出量に関しては方法(A−1)
の処理方法が優れていた。平井6)らは食品ゴミを
メタン発酵させて電力を利得し,残渣の肥料を農
地に還元する方法がもっとも環境負荷が少ないと
述べている。残念ながら現段階では一企業におけ
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
発酵菌代
水道料
燃料(ガス料金)
9,250円
19,008円
電気料
電気料
32,250円
電気料
49,320円
21,241円
15,000円
保守料
保守料
保守料
15,000円
13,000円
16,000円
最終処分費
25,389円
103(453
103)
ビスに,再生した肥料を利用することも含めると
更に方法(A−1)が効率の良いものであると考
表3 成分分析結果(同一仕様機種による他施設での結果)
分
析
えた。
なお生成した肥料は配布を希望する当院職員は
もとより,近郊 JA の協力を得て地域農業生産者に
無償配布を行い,安定した処分を可能とすると同
時に病院の取り組みについて地域住民に理解と協
含
有
率
力を得たいと考えた。
結
1.
語
ゴミの処理方法について検討を行った。
1カ月当りの処理費用は補助金を利用するこ
とで循環型食品ゴミ処理方法が一番安価であ
り,もっとも環境への負荷が少なく環境効率が
良い結果となった。
3.
今後の課題として循環型社会形成の基本は
「できるだけゴミを出さない」ことがもっとも
重要であり,栄養科と協力してさらに残飯・残
菜の減量に努めていきたいと考える。
4.
目
水
分
塩
炭
無償提供している肥料は,地域農業生産者に
も大変好評で,常に品切れの状態である。肥料
としての有効性は表3の示すとおり,市販品と
比較し窒素,燐酸,加里の成分比率は十分では
ないが,有機物の比率が高いことから土壌の団
粒構造化には効果があると考えられる。
有
害
成
分
判定規制値(有機肥
料の販売値)
値
2.30%
25.00%以下
分
1.80%
3.00%以下
全窒素
3.60%
3.00%以上
全燐酸
1.30%
3.00%以上
全加里
0.89%
3.00%以上
有機物
90.40%
水素イオン濃度
入院患者の食事提供に付随して発生する食品
2.
項
5.4
5∼8
素
率
13
5∼30
ひ
素
0.50㎎/㎏
50.00㎎/㎏以下
0.27㎎/㎏
5.00㎎/㎏以下
0.04㎎/㎏
2.00㎎/㎏以下
カドミウム
水
銀
2)稲葉敦:ライフサイクル思考が環境調和型社会を導
く。Techno−Stream,VoL.25:2−7,2002
3)南齋規介,森口祐一,東野達:産業連関表による環
境負荷原単位データブック,第1版,国立環境研究セ
ンター,茨城,1−27,2002
4)環境省:温室効果ガス排出量算定に関する検討結果
(別冊電気・熱報告書)
,第1版,環境省,東京,19,
2000
5)環境省:温室効果ガス吸収・排出目録,第3版,環
境省,東京,50,1997
6)平井康宏,酒井伸一,高月紘:食品残渣を対象とした
循環・資源化処理方式のライフサイクルアセスメン
文
ト。廃棄物学会学会論文誌,12:219−228,2001
献
1)加用俊栄:法人税の決算調整と申告の手引き,第1
版,清文社,東京,1−120,2001
104
104(454)
7)F.シュミット・ブレーク,佐々木健
翻訳:ファク
ター10,ジュブリンガー・フェアラーク東京,東京:
10・150,1997
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
第53回日本病院学会推薦演題
リンクナースによる CV ラインサーベイランスの効果
名古屋第二赤十字病院(愛知県)
大村果代恵
七村裕美子
所
明美
邊見
大渡
田村
明美
佳世
秀代
廣田
丸山
吉田
智子
桂子
悦子
サーベイランスを行う中で CV ライン刺入部の
【はじめに】
管理が統一されていないことに気づき,サーベイ
感染を起こせば重篤な症状となる可能性が高い
ランスを行っている病棟の内 CV ライン感染者の
血管内留置カテーテル(以後 CV ラインと略す)の
多かった5病棟を対象に水蒸気透過性ドレッシン
管理は,看護師にとって重要な業務である。また,
グ材を使用し,消毒方法,手技,回数の統一化を
感染症サーベイランスは感染発症の実態を知り,
図った。
看護ケア,処置に還元するための手がかりとして
図1の写真は CV ライン固定を統一化する前の
具体的な感染対策を立案し,その対策が効果的で
3部署の固定方法である。向かって左からガーゼ,
あったかを判断するために有効であると言われて
フィルム材,通気性創傷用粘着ドレッシング材と
いる。
さまざまなもので刺入部を保護していた。また,
今回,リンクナースによるサーベイランスを行
い,具体的な感染対策を行ったことで CV ライン関
消毒を週に2回行う部署もあれば,毎日行う部署
もあった。
連感染症率を低下させることに貢献できたと考え
られるので報告する。
1.
方法・期間
CV ライン挿入者の多い7病棟を対象に,CDC ガ
イドライン,ICP の会資料の診断基準(表1)に
基づいてサーベイランスを開始した。
表1
血管内留置カテーテル関連感染症の診断基準
図1
従来の固定方法
図2は水蒸気透過性ドレッシング材を使用した
統一した固定方法である。刺入部がドレッシング
材の中央になること。空気が入らないようにする
こと。また,しわをつくらないように密着させた。
消毒はポピドンヨードを使用した(図3)。刺入部
を中心に外側へ半径5㎝の円を描くように消毒し
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
105(455
105)
図2
図3
水蒸気透過性ドレッシング材を使用した固定法
図4
サーベイランス開始後の感染率月別推移
図5
刺入部管理統一前後の感染率
消毒方法
た。ポピドンヨードが乾燥してから水蒸気透過性
ドレッシング材で固定した。
以上,CV カテーテル刺入部の管理方法を統一す
る前後で CV ライン感染症サーベイランスを継続
し,その感染率を比較検討した。
2.
結
今後,25パーセンタイル値1.9を下回るよう,サー
ベイランス及び,介入を継続していきたい。
3.
果
考
察
刺入部の管理方法を統一したことで感染率が低
図4が示すように,サーベイランスを開始した
下したのは,ドレッシング材を変更したことによ
2002年11月から12月にかけて感染率が11.1から
るものと考えられる。導入したドレッシング材は,
2.3へ低下した。これは,サーベイランスを開始し
水蒸気透過性で刺入部の乾燥が保たれる,通気が
たことによる監視効果があったと思われる。CV ラ
良い,密着性が強いという材質である。また,透
イン使用比は0.22から0.20へ徐々に低下している
明であるため常に刺入部の観察ができることなど
ように思われるが,感染率との関連ははっきりし
で処置回数を減らすことができ,さらに処置回数
なかった。(血管内留置カテーテル関連感染率と
が減ったことで清潔野が外気に触れる機会が減っ
CV ライン使用比の算出方法は図4を参照)
たため,感染率が減少したと考える。
図5は,グラフ左側が刺入部の管理方法を統一
今回の調査では,CV ライン挿入中に38℃以上の
する前の感染率4.9で,グラフ右側が統一後の感染
発熱をした患者を対象に調査したが,その対象者
率3.2である。統一してからは,感染率は低下して
全員に血液培養が行われたわけではない。また,
いる。NNIS レポートで血管内留置カテーテル使用
診断基準は統一していたものの,実際サーベイラ
比が一番近い(0.32)循環器内科での感染率と比
ンスを行う上ではリンクナースにより判断基準に
較すると,50パーセンタイル値4を超えていた感
多少ずれがあり,データーに誤差が生じていると
染率が下回った。
思われる。さらに,まだサーベイランス期間が短
しかし,使用比は NNIS レポートの方が高いので
106
106(456)
くデーターの集積が十分とは言えない。
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
今後はリンクナース間で診断基準を統一し,継
続してサーベイランスを行っていく必要がある。
また,当院では血管留置に使用するルートが完全
閉鎖式ではなく接続部が感染源となる可能性もあ
合った診断基準を再統一していく必要があ
る。
・今後も,継続してサーベイランスを行ってい
く。
るため,今後は完全閉鎖式のルートを取り入れて
いきたい。
参考文献
青木眞監修:明日からできる病院感染サーベイランス,
【まとめ】
メディカ出版,2002.
・CV ラインサーベイランスを開始して,感染率
国立大学医学部附属病院感染対策協議会:病院感染対策
ガイドライン,2002.
は低下した。
・サーベイランス経過中に,刺入部の管理が部
署によりまちまちであることが分かったた
め,水蒸気透過性ドレッシング材を使用する
方法に統一した。
小林寛伊他編集:エビデンスに基づいた感染制御,メヂ
カルフレンド社,2002.
小林寛伊他監訳:サーベイランスのための CDC ガイドラ
イン―NNIS マニュアル(1999年版)より―,メディカ出
版,2000.
・刺入部の管理を統一してから,感染率は低下
した。
柴田清他:感染管理のすすめ方,メヂカルフレンド社,
2001.
・リンクナースによるサーベイランスであった
ため,診断基準等にばらつきがあり,現状に
矢野邦夫訳・編:CDC 最新ガイドラインエッセンス集2,
メディカ出版,2002.
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
107(457
107)
第53回日本病院学会推薦演題
産科病棟における変則2交替制勤務への導入
特定医療法人愛仁会高槻病院(大阪府)
山口 和美
西谷理絵子
成川由貴子
松下
沖野
保条
奈美
智子
麻紀
西阪登紀子
西田 宏美
・変則2交替を実施するにあたり,病棟の職員
はじめに
全員で夜勤時間を12時間に決定。
看護実践における勤務体制は,ケアの質と看護
・申し送り時の入院,分娩に対応できる職員数
職者の QOL に大きく影響する。産科病棟において
を配置し,さらに1週間40時間の労働時間を
は,3交替制勤務を実施している施設が多く,先
保つために,8時間日勤と11時間日勤(以下
行研究でも2交替勤務実施についてはいまだ報告
長日勤とする)に加え,9時間日勤(以下A
がない。当産科病棟は,総合周産期センターの機
日勤とする)の勤務線表を作成。(図1)
能を有し,緊急母体搬送を24時間受け入れている。
・これらのことと連動して,各勤務時間帯の業
1カ月平均110件の分娩があり,さらに自然分娩を
務改善,業務分担を病棟全体と各チームで実
主体としているため,夜間の分娩が約半数を占め
施。
ている。分娩時間の推移は,勤務交替時に関わる
分娩が25%を占め,これを中心にした入院の受け
入れなどから,職員38名の1カ月の超過勤務が平
均6時間であった。このような超過勤務時間の多
さや,めまぐるしい勤務交替により,職員の QOL
低下につながっていると考えた。そこで,勤務体
制を見直し,変則2交替制の導入に至った。試行
後3カ月の認識調査を実施したので報告する。
図1
病棟の概況
結
Ⅱ
・病棟数−産科34床,MFICU6床
・月平均分娩件数−107件/年間1,285件(平成
14年)
果
分娩件数と超過勤務時間との関連では,変則2
交替勤務導入前は分娩件数に対して超過勤務時間
・病棟職員数−助産師29名,看護師16名
の変動はなかった。導入後は分娩件数に対して超
・夜勤人数−産科3名,MFICU2名
過勤務時間の変動があり,導入前より分娩件数が
方
Ⅰ
多かったにもかかわらず,超過勤務時間は平均2.6
法
時間減少した。(図2)
・変則2交替勤務の実施と3カ月後に,超過勤
務時間と職員の認識調査を実施前後で比較
108
108(458)
超過勤務時間の業務内容として,分娩に関わる
時間の変化はなかったが,入院に関わる問診,内
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
入前のメリットは,「長期休暇をとりやすい」「十
診,記録などの業務は短縮された。
また,日勤最終で確認する薬剤などの定数管理
についての超過勤務時間はなくなった。(図3)
分に休息できる」
「余暇が充実する」などが多くあ
がり,導入後には,「日勤深夜がなくていい」「余
暇が充実する」
「十分に休息できる」となり,余暇
の充実に対しては前後とも変わらず,勤務体制に
ついてのメリットが導入後で多くあがっていた。
(図4)
反対にデメリットは,導入前は「集中力が低下
する」「体力的につらい」「休憩がとれない」導入
後は,
「集中力が低下する」
「長日勤がつらい」
「休
憩がとれない」など夜勤時間や,長日勤時間が長
いことから,集中力の問題がどちらも多くあがっ
図2
ていた。(図5)
次に,希望する勤務体制を聞いた結果,試行す
る前は53%が2交替を実施してみたいと答えてい
たが,試行後は83%が2交替を希望していること
図3
これらの超過勤務時間の減少時間から生じた経
済効果は,導入後3カ月で118万8,720円と大きな
成果をとげることができた。
次に,導入前後の職員の認識調査を行った。導
図5
図4
図6
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
109(459
109)
結
Ⅳ
論
変則2交替勤務を3カ月実施した結果,以下の
ことが分かった。
・超過勤務時間は平均2.6時間減少し,3カ月で
約118万円の経営貢献につながった。
・変則2交替勤務におけるもっとも大きなメ
リットは,余暇の充実,日勤深夜がなくて良
い,だった。
図7
・デメリットは,長日勤の時間が長くつらいこ
とであった。
が分かった。しかし,試行後の内訳の中で,2交
・今後の勤務体制は,83%の者が変則2交替勤
替勤務希望のうち,時間を検討しての2交替勤務
務を希望しているが,時間の調整も希望して
を希望という答えが60%あった。(図6,図7)
考
Ⅲ
察
いる。
おわりに
Ⅴ
変則2交替勤務の導入により超過勤務時間が減
少したのは,申し送り回数の減少,そのことに伴
う業務の中断がなくなり,交替時の入院や分娩に
対しては,マンパワーが充実したためと考えられ
る。また,2交替勤務に合わせ,業務改善や業務
分担の整理を行い,業務が効率化されたのではな
いかと考える。薬剤などの定数管理の超過勤務時
間は,変則2交替から生じたA日勤ができたため,
通常の日勤時間では終了できなかったことが可能
今回は超過勤務の削減によるスタッフの QOL に
視点をおき,導入に至った。今後は,変則2交替
勤務におけるスタッフの疲労度調査を実施し,さ
らなる看護の質向上を目指していきたい。
参考文献
霜
貞子:総合病院で変則二交替制勤務を試みて.看
高橋
美智:GHQ が推進した看護改革.週刊医学学会新
護管理,Vol.11
になったと考える。経済効果については,超過勤
務時間の短縮に加え,準夜勤時に発生する交通費
聞,2217,1996
西元
勝子/杉野
からも影響があった。この経済効果について職員
が知ることで,驚きと創意工夫することの意義を
感じ,経済的感覚を自覚したと考える。
110
110(460)
№2,2000
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
元子:固定チームナーシング事例
集,医学書院,2002
病院経営管理者養成課程通信教育「通教月報」より
病院の癒しの環境づくり
青梅市立総合病院院長
欧米に比して,わが国の病院はどこも殺風景,
1.
星
和
夫
美しい環境:「うちは建物が古いからしよう
まさに肉体の修理工場の感ありだが,最近は患者
がない。今度建て替えるときは・・・」という話
さんが病院を選ぶ時代となり,アメニティの改善
をよく聞くが,大事なことは使い方であると思う。
が叫ばれるようになり,きれいな病院も目立つよ
たとえ新築でも,廊下に色々な物が置いてあった
うになってきた。我々は「癒しの環境づくり」を
り,壁は貼り紙だらけだったりすると,雑然とし
掲げて些か努力している。
て汚らしく感じるものである。欧米の病院では絶
古代ギリシャの総合病院アスクレピオス神殿
対に見られないこのような風景,これをなくすだ
は,きれいな空気と水を求めて静寂な山中に建て
けで,ずいぶんきれいになるものだと感じている
られているし,十字軍の中核となった聖ヨハネ医
が,緑や芸術作品は当然目も心も癒される。
療騎士団,マルタ騎士団の病院は今も地中海の
ロードス,キプロス,マルタ島などに残っている
2.
が,いずれも病院の中庭には芳香を放つアフリカ
を訪れたとき,
「病室で寝ている患者に,廊下を歩
静かな療養環境:かつてアメリカのある病院
の植物が植えられ,周囲の病室には絶えず芳ばし
く職員の足音が聞こえるようではその病院は失格
い香りが漂ったという。またトルコの北境エディ
だ」といわれてショックを受けたことがある。以
ルネにあるオスマントルコ時代の精神病院を訪れ
来「静かな療養環境づくり」も心がけているが,
たが,放射状に置かれた病床の中心には噴水が,
それには廊下にカーペットを敷くのが最善だ。い
そしてその周囲にはつねに数人の楽士がいて,静
まやアメリカでは病院の廊下はほとんどカーペッ
か調べを奏していたという。
ト敷き,中には ICU でさえも。その他職員のサン
薬も治療技術もなかった昔は,このような心の
ダル履き,コ−ドブル−(緊急招集システム)以
癒しこそが唯一の治療手段であったのもうなずけ
外の院内放送なども考え直さなければならない。
るが,高度な治療技術の進歩とともに,心の癒し
3.
はいつしか忘れ去られつつある。
子供に恐怖を与えない環境:子供にとって病
しかし,アメリカにも北欧にも,ヒーリングアー
院は恐ろしい所,というイメージは払拭しなけれ
トと称する癒しの芸術,室内装飾が発達しており,
ばならない。これもアメリカで,
「子供の時に受け
この面におけるわが国の病院の貧困さが目立つ。
た恐怖は大人になった時の人格を変える。我々に
わが国は医学は一流だが,病院医療特にアメニ
はそんなことをする権利がない」と聞かされたこ
ティは二・三流ともいわれているが,
「医療は文化
とがある。小児科外来,病棟は他と違って当然で
なり」である。制約された保険制度下にはあるが,
ある。遊園地風にして患者集めをしようというの
少しは「心も癒す環境づくり」を心がけていきた
ではない。少なくとも子供に恐怖を与えないよう
いものである。ちなみに,病院の癒しの環境とい
な環境づくりを心がけるべきである。
うのは,主として患者さんの五官(五感)に心地
よい安全な療養環境を作ることだと考えているの
4.
いやな臭いのない環境:昔の病院には特有な
で,以下少し具体的に述べる。
臭いがあった。最近でも,排泄が不自由な老人が
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2004年3月
日本病院会雑誌
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111)
多い病棟,精神科病棟,喫煙室,トイレなど悪臭
と考えている。これは災害時などの緊急避難時に
が気になる個所がある。とくに病院のトイレは特
は重要な役割を果たすと信じている。
有な諸条件のため臭いやすい。「癒しの環境研究
会」のセミナーでは,コーヒーかすがもっともよ
6.
家族の癒し:付き添う家族の癒しも忘れては
いとの結論であったが,最近は光触媒膜付防臭蛍
ならない。とくに ICU などの重症患者家族は夜間
光ランプも開発されている。
も待機することが多いので,仮眠できるような部
屋またはリクライニング椅子などを用意すべきで
5.
安全な環境:院内感染防止はもちろんである
ある。昔のようにコンクリートの床に板床を置い
が,院内交通事故防止も重要である。アメリカで
て寝かせるなどの風景は考えられない。以上の指
は,院内交通事故は全部病院の責任と聞いた。ス
摘事項は,日本医療機能評価の評価項目にちゃん
トレッチャ−や車椅子などに関する交通事故は,
と入っている。機能評価の認定が得られるために
十字路にハーフミラーを設置することで防止でき
も,患者に選ばれる病院になるためにも,
「癒しの
る。わが国の病院もこれを多く取り入れるべきだ
環境づくり」を心がけようではないか。
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2004年3月
日本病院会雑誌
病院経営管理者養成課程通信教育「通教月報」より
薬学教育6年制について
日本病院薬剤師会専務理事
関
口
久
紀
薬学教育の6年制については,厚生労働省の「薬
点化され,医療薬学,及び臨床教育の充実した6
剤師問題検討会」,文部科学省の「薬学教育の改
年間の学部教育と最低6カ月程度の実務実習を含
善・充実に関する調査研究協力者会議」がそれぞ
む薬剤師教育を終了した者に与えられるべきであ
れ薬剤師の受験資格,薬学教育の問題について協
るとされた。
議を行ってきた。前者は平成8年より,文部科学
一方,文部科学省では平成14年10月から「薬学
省等の関係者と「薬剤師養成問題懇談会」として
教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」
定期的に薬剤師養成にかかる諸問題について意見
を開催し,薬学教育におけるカリキュラムについ
交換がなされ,平成14年1月の懇談会で薬剤師の
て,実務実習について,薬学に関する教育制度に
質の向上を目指した具体的な課題が示されたこと
ついて検討された。15年8月に中間まとめが出さ
から,平成14年6月に厚生労働省医薬局に設置さ
れ,最終報告案が検討されている。また,これら
れた。9回の会合を重ね薬剤師国家試験の受験資
の議論の整理を行うため,大学分科会に「薬学教
格の見直し等の薬剤師の質の向上に関する事項に
育の改善・充実に関するワーキンググループ」が
ついて検討され,平成15年10月に中間報告が纏め
設置され,薬学養育の年限延長,大学院教育のあ
られた。これによると薬剤師を取り巻く環境が医
り方等について検討された。この結果,薬剤師養
薬分業の進展や,薬剤管理指導業務の定着など大
成のための薬学教育は学部段階の修業年限を6年
きく変化したこと,しかし,病院薬剤師の病棟業
に延長すること,多様な分野の人材育成のため4
務や,薬剤に関する総合的リスク管理等について
年学部も認めることとされた。
本来果たすべき役割を果たしていないといった指
今後,学校教育法,薬剤師法の改正が行われ,
摘があることが根本にあるとしている。これに対
正式に薬剤師養成のための教育は6年間とするこ
して,薬剤師のあるべき役割は適切な薬物療法の
と,6年間の薬学を修めなければ薬剤師国家試験
提供,適切な服薬指導,処方に関する医療関係者
の受験資格がないことが決まる。
への適切なアドバイス,薬剤関連事故のリスクの
日本病院薬剤師会では,これを受けて長期実務
軽減等であり,そのために薬剤師としての必要な
実習の受け入れ態勢の整備,実務実習の質の担保
能力は「疾病,病態を理解し,治療計画等の医療
に向けて取り組むこととしている。受け入れ態勢
全般を把握する能力」,「臨床的な有効性・安全性
については,約9,000名の学生の受け入れ方策とし
の評価に関する知識」,
「最先端の生命科学の知識」
て,ふるさと実習制度(出身地の病院で実習),質
が必要であること。また身につけるべき技能とし
の担保方策として,グループ実習制度(基幹病院
て「薬物治療計画への助言・管理・評価」,「医薬
を中心に複数病院が実習生を受け入れる)を提唱
情報についての関係者とのコミュニケーション」,
している。また,全国共通の指導者用テキストの
「安全情報処理とリスク管理」であること。態度
作成,実習指導者の養成も行うこととしている。
として「医療の担い手としての態度,倫理観」が
また,4年制学部の教育を受けて薬剤師になっ
必要であるとされた。これらを受けて,薬剤師国
た者に対して制度の移行に伴う必要な支援を行う
家試験受験資格は,臨床・技能に関する技能が重
ための取り組みも検討しなければならない。実務
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113)
実習は,薬学生が始めて臨床の場で患者さんと接
医薬品に関する新しい情報,日々進歩する医療
する重要なものであり,業務の片手間に行えるも
技術など病院薬剤師を取り巻く環境は常に変化し
のではないし,病院内の他の医療スタッフの協力
ており,新しい知識を常に吸収し研鑽する努力を
なくしてできるものでもない。もちろん,教育の
惜しんではならない。日本病院薬剤師会としても
一環として行うのであるから大学の責任ある指導
積極的にこれらの問題に取り組み,薬剤師の質の
体制も重要である。
向上に貢献できるよう取り組んでいく。
114
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日本病院会雑誌
<寄
稿>
消毒薬クレオソート内服の危険性について
元東邦大学公衆衛生学教授
海老沢
功
口腔粘膜等に付着しないよう配慮する。
(c)軟組
はじめに
織に付着した場合は直ちに拭き取る,または多量
海外旅行中あるいは国内で下痢性疾患にかかる
の水で洗うなど適切な処置を行う。以上のように
と,本来は消毒薬として認可されているクレオ
説明し規則等の項目には,局,劇,指の3文字が
ソートを主成分とする民間薬正露丸を服用する者
記されている。調べた範囲内ではクレオソートを
が多い。テレビでも盛んに宣伝されており,一般
内服用の医薬品としては記載が見当たらない。
大衆は厚生省認可の内服治療剤と誤解している。
クレオソートは劇薬に指定された外用薬である。
本剤は自殺用にも用いられているので,その危険
2.
クレオソートの構成成分
正露丸のホームページ http://www.seirogan.co.
jp/seihin/toui/seibun_1.html によると,その成
性を強調したい。
分はクレオソール,フェノール,グアヤコール,
A)旅行者下痢症と素人の対応
クレゾール(o-, para−クレゾール),4−エチル
旅行者下痢症については,他誌にも紹介した1)
グアヤコールの6成分が75%,その他キシレノー
が,日本ではいまだこの言葉が定着せず,一般旅
ルなどを含むと記されている。また「日局クレオ
行者は食あたり,しぶり腹などの概念で理解して
ソート」の文字が見えるが,これは液状の外用薬
いる。その治療薬として民間薬正露丸を持参,愛
のことで,固形物あるいは錠剤の形になったクレ
用するものが多い。驚いたことに,医師の間にも
オソートは医薬品の中には記載されていない 2)
旅先で下痢したら,正露丸と答える者がいる。日
3)
進月歩の医学の現状に暗い素人的考えに驚かされ
クレゾールなどの消毒薬で危険な物質であること
る次第である。
を指摘している。
。浜4)もクレオソートの主成分がフェノール,
正露丸の主成分クレオソートは劇薬指定の,消
フェノールは英国の外科医リスターが始めて外
毒薬としてのみ使用認可されていることを示し,
科手術の前に皮膚の消毒に用い,消毒の概念を医
それがフェノール,クレゾールなどの消毒薬の混
学会に導入した由緒ある物質である。今では消毒
合物であることを強調したい。
薬の力価検定の基準薬で,他の消毒薬の力価を示
すフェノール係数という言葉がある。クレゾール
B)クレオソートの本態
1.
医療関係者に知らされているクレオソートの
用法
は広く使われた消毒薬であるが,強い刺激臭があ
り,今ではほとんど使われない。グアヤコールも
歯科用消毒剤として記載されている。すなわちク
医薬品の解説書2),3)には本剤は木タールから
レオソートの主成分は消毒薬に含まれる薬品であ
作られ,クレオソール,グアヤコールを含む。動
る。後に再び述べるが,現在は歯科でも獣医も消
物の消毒用,人では歯科で根管消毒と麻酔に用い,
毒薬として使っていない。
口腔内に洩らさぬよう注意されている。さらに適
用上の注意として(a)歯科用にだけ用いる。
(b)
市販非糖衣正露丸の使用指示書によると,1日
9錠,クレオソートにして400㎎内服するよう記さ
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れている。糖衣錠では1日12錠,270㎎となってい
原大腸菌,キャンピロバクター,腸炎ビブリオ,
る。家畜にも使われなくなった消毒薬を主成分と
その他サルモネラ,赤痢菌などであり,コレラ菌
するクレオソート含有製品を,整腸剤あるいは下
が原因になることはまれである。その他にギアル
痢治療薬として1日400∼300㎎も内服する危険性
ジア,赤痢アメーバなどが検出されることがある。
については,医学的初歩の知識があれば容易に理
しかし,95%が細菌性であるから,これを念頭に
解できよう。なお本品のラベルには胃腸薬と記さ
おいて,適当な抗生剤を処方すればよい。筆者は
れているから,素人は消化器障害一般の治療薬と
その有効性と値段の点でナリジクス酸(ウイント
誤解するであろう。
マイロンなど)をもっぱら処方している。本剤は
3.獣医学大辞典と米国の医学辞典の記載
女性の場合は膀胱炎に極めて有効であるから,帰
国後も使用機会がある。
クレオソートを頻繁に用いた獣医関係者は,主
ニューキノロン剤(ノルフロキサシン,オフロ
と し て 動 物 の 消 毒 用 に 用 いた 。 獣 医 学 大辞 典
キサシン,シプロフロキサシン)
,ST 合剤(スル
(1989)5)のクレオソートの項目には,「一般に
ファメトキサゾール SMX とトリメトプリム TMP)
は外用殺菌剤として使用されるが,現在では臨床
の有効性も確認されている。
的応用価値は低い。」と記されている。すなわち畜
1日1回くらいの軽症下痢であれば,必ずしも
産関係者の間でもすでにあまり使われなくなった
抗菌剤にたよらず,ロペミンなどの腸管運動抑制
薬剤である。
剤でもよい。
米国の医学書にはほとんど使用の記載がない
が,Butterworths Medical Dictionary,1978 6)
2.
緊急自己治療薬処方の実際
には「クレオソートおよびその誘導体を含めて医
旅行者に緊急自己治療薬を処方して持参させる
療面ではほとんど使われていない。」と記されてい
際には現時点で病人ではないから健康保険は使え
る。抗生物質が発見される前,米国では悪臭のあ
ない。事情を説明して自費で支払ってもらうしか
る喀疲のでる気管枝拡張症患者に使った記録があ
ない。
実際問題として,インド旅行中に下痢を発症し
る。
た患者に国際電話で依頼を受けて,航空便で抗生
C)旅行者下痢症の対策
1.
物質を送っても数日はかかる。当然現地の医療機
対策の必要性
関で受診するよう説明することになるが,金曜日
海外旅行とくにインド亜大陸のインド,バング
の夕刻から下痢が始まり,月曜まで受診できない
ラデシュ,ネパール等の諸国,その他東南アジア,
ような場合もある。またバスで集団旅行中前夜か
熱帯アフリカ等への旅行者は,飲料水の水質が悪
ら下痢が始まった場合,本人はバスに乗って移動
1)
,7)
。欧米諸国の統計ではイン
できないから,1人でホテルに休んでいなければ
ドに1週間滞在すると,旅行者の40%が下痢する
ならない。その間に同行者は数百㎞も先に移動し
可能性があると警告している。政情が混乱してい
てしまう可能性があり,合流するのが困難である。
るアフガニスタン,イラクなどに出向する者も同
このような場合に本人持参の薬剤で自己治療が
く,下痢しやすい
できれば本人にとり,大いに役立つことになる。
じ危険にさらされる。
これに対しては種々の抗生物質の有効性が証明
もし下痢治療薬を何も持たせないでインドへの旅
されている。国際旅行医学会では旅行者下痢症は
行を黙認すれば,不要に旅行者を苦しめることに
もっとも重要な疾病単位として研究,調査の対象
なる。
疾患となっている。発症場所と時期が外国旅行中
で,身近な医療機関から離れているので,自ら判
断して適切な自己治療を行うよう,旅行前にあら
かじめ一定の薬剤を処方して持参させている。
旅行者下痢症の起因病原体は95%が細菌性で病
116
116(466)
D)正露丸内服による急性肝障害の報告
最近正露丸内服により,急性肝障害を起こした
3症例に関する警告が厚生労働省から報告され
た8)。臨床経過が簡単に報告された70歳代の男性
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日本病院会雑誌
は心窩部不快感のため本剤計8粒(クレオソート
クレゾール,クレオソール,グアヤコールなど)
として約360㎎)内服3日後に黄胆を伴う肝機能障
を含む正露丸を,民間薬であるという理由で旅
害を呈して受診している。この患者はさらに29日
行者下痢症をはじめ,国内で下痢治療薬として
後に同剤を内服して黄胆が出現している。患者の
用いるのは危険である。正露丸が下痢性疾患に
リ ン パ 球 に つ い て DLST(drug lymphocyte
有効である根拠はなく,医薬品としての価値は
stimulation test 薬剤リンパ球刺激試験)が陽性
認められないと浜4)は結論している。
と記されている。この患者は本剤が胃腸薬と記さ
2)クレオソートは以前歯科医,獣医が外用薬と
れているので,軽度の消化器症状が出るたびに頻
して用いていたが,現在彼らは使っていない。
繁に内服していたと推定される。
有効な下痢治療薬が使える現状では極力その使
自殺目的(?)による,大量の正露丸内服によ
用を断念させるべきである。
る急性腎不全,意識障害,肺浮腫,肝機能障害を
3)正露丸が自殺用に使われた報告があるので,
起こした例も報告されている9)。救急医学が発達
クレゾール臭のある意識障害患者に接したら本
剤中毒を考慮すべきである。
し,血液透析などが行われたから助かったが,そ
れがなかったら致死的な中毒症である。意識障害
4)販売する者はその危険性を知らせ,精神障害
を起こし,血液透析を行って助かった例もある10)。
歴の有無に注意して販売する必要がある。
正露丸大量内服が誘因と思われる小腸壊死の報告
例もある11)。
文
救急医学の分野では今後,クレゾール臭のある
献
1)海老沢功:旅行者下痢症の現状と対策,日本医師会
急性の意識障害,腎機能不全等を示す患者に接し
雑誌,120:1631−1636,1998
たら,正露丸中毒を念頭において対処する必要が
2)日本医薬情報センター:医療薬
日本医薬品集,2003
年版
ある。
3)医薬品要覧
E.発癌性の問題
第5版,大阪府病院薬剤師会,1992
4)浜六郎:正露丸の安全性(危険性)について,The
厚生労働省の出版物にはクレオソートは発癌性
の疑いがある物質に分類されている12)。石炭を材
料として得られるクレオソートは木材の防腐剤と
して広く使われていたが,発癌性のリスクがある
Informed Prescriber,14:99−106,1999(邦文)
5)畜産出版社:獣医学大辞典(1989),p.389
6)Butterworths Medical Dictionary,1978
7)海老沢功:旅行医学,第二版,日本医事新報社,東
京,2003
として,欧州委員会(EC)で使用禁止,制限措置
8)厚生労働省医薬局:医薬品・医療用具等安全性情報
がとられた。日本でも国土交通省が国の工事で本
№165,p.10−11,2001年3月号(日本医師会雑誌,
剤の使用を禁止した13)。
125:1088−1089,2001)
9)梶本心太郎,田中孝也,平川昭彦ほか:正露丸の大
F.自殺患者発生時の薬局の責任
量服用後に症状の再燃を認めたクレオソート中毒の
市内の薬店では正露丸を客に売却する際,無条
件で渡すのでなく,相手が自殺用に大量内服する
可能性も考慮して以前精神障害で入院したことの
有無をチェックすることも大切である。少なくと
も大量内服の危険性を説明する必要がある。これ
を怠り客が大量内服して自殺した場合,法律的問
題に巻きこまれる可能性がある。
結
1例,中毒研究,15:393−396,2002
10)雨田立憲,橋本高博:クレオソート(正露丸)大量
服用による急性薬物中毒の1例,日本救急医会誌,
5:626,1994
11)荒木京二郎,伊与木増喜,小林道也ほか:正露丸が
誘引と思われる小腸壊死の1例,臨床消化器内科
9:741−745,1994:
12)労働省労働衛生課監修:産業医の職務Q&A,第6
版,産業医学振興財団,平成12年9月発行,Ⅶ健康管
語
理,P.282,
1)消毒薬(外用薬,劇薬指定)としてのみ承認
13)朝日新聞
2003年5月4日,朝刊
されているクレオソート(主成分はフェノール,
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日本病院会雑誌
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117)
紀
行
第3回 近代医学のルーツを探る会
―
―長崎の旅の印象記―
―
平成15年10月11日(土)∼13日(月)
見学できなかったところ,佐古小学校々庭(旧
長崎よかとこ
―医学史をめぐる旅―
長崎小島療養所のあったところ,休日につき入れ
なかった。),諏訪神社と長崎公園(時間不足),キ
リシタン関連寺院(時間不足)などである。また
中西
淳朗
日本病院会の「医学史をめぐる旅・国内編」は,
'03年は第3回目で長崎が選ばれた。
今回は初めから中国関係特に館内町周辺をカット
したが,再び長崎に行かれた折には是非訪れてく
ださい。
コーディネーターとしては,内容の多い街であ
出島がピカピカで全く観光地化してしまったの
るので,どのような切口から入るか苦労をした。
は残念と申す他はない。古い木材をもう少し上手
講師の相川忠臣先生とは9月に打合せをし,先生に
に利用できなかったかと思う。
は大所高所からのお話をしていただき,筆者は下
世話な話をするということに決めた。歴史の話や
あつい,あつい3日間,1人も病気で倒れずに,
目的をほゞ達した次第であります。
史蹟見学の他に,観光の要素も入れたいし,良い
食事もとりたいと工夫をこらしたつもりである。
〔主な見学地〕
10月11日から3日間,30度を越したかと思うほ
長与專斉旧宅(大村市の国立病院内),稲佐山展
どの夏日で,汗だくになりながら3日で3万歩を
望台(夕暮れの街や造船所を望む)
,長崎県庁周辺
歩く見学会になってしまった。
(吉雄耕牛宅跡他),出島,銅座(シーボルト・い
夫々の地については参加された方々が記録を寄
ね開業地),楠神社(大楠を目印にし旧長崎医学校
せられるので,コーディネーターとして気をく
跡へ),寄合町「花月」緑茶の接待あり,大浦(天
ばった点を書いておきたい。
主堂とグラバー園),シーボルト記念館,寺町,中
1)長崎は坂と階段が多い。出来るだけこれをさ
嶋川石橋群,光永寺(福沢諭吉仮宿舎),西坂聖人
けたい。ということで有名人墓所のお参りをカッ
記念館,長崎大学ポンペ記念館,浦上天主堂と如
トした。お寺のうら山が多いからである。2)そ
己堂
れでもバスが入らないところがある。鳴滝のシー
―以上―
(筆者は日本医史学会評議員)
ボルト記念館はタクシーも入っていけない。5・
6分歩くのだがこの時間をどう利用するか。3)
大学構内に休日は入れないのではないか等々があ
近代医学のルーツを探る長崎の旅
る。
(初日のコース)
相川先生(長崎大学の生理学教授で医学概論も
講義されている)や,長崎記念病院の福井順先生,
石田
JTB の添乗員の方々に大変なお世話をいただき,
清
福井先生からは皆様へおみやげをいただいた上,
長崎空港からバスで行程表どおり…弁天町…稲
「花月」への口きゝをしていただいた。このよう
佐山と行くのかと思ったら大村国立病院(旧海軍
な現地の方々のサポートがあって内容の濃い見学
病院)で下車ということになった。海軍病院と医
会が成りたつのである。紙上をかりて厚く御礼申
学の歴史とをつなげるものは何か,若干ケゲンな
し上げます。
思いであたりを見まわすと長与専斎の生家(宜雨
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ホテルで休憩後,弁天町を通過。この地(弁天
町13番地)…現在はスーパー・ジョイフルサン稲
佐店は,本邦で最初に検梅が行なわれたところで
ある。1857年第二次海軍伝習の際に来日したポン
ペは,松本良順の協力をえて西洋医学伝習を開始
した。1860年(万延元年)ロシアのビリレフ提督
の艦隊が入港したとき,軍医の要請によりポンペ
が当地で検梅を始めた。これをもって本邦におけ
る人間ドックの嚆矢とするという説もある。なお
当時の検梅台は1945年(昭和20年)8月の原子爆
長与専斎
弾投下により焼失した。車窓から当時の検梅状況
旧宅(宜雨宜晴亭)の説明板
を追想するのは大へん困難であった。まもなく稲
佐山,ケーブルカーで展望台へ。
長崎は曽遊の
地である。しかし戦前は要塞地帯であったため登
山はおろか写真撮影も禁止されていたので,稲佐
山山頂から落日の眺めを鑑賞できるなど
ほとん
ど初めての体験であり至極印象的であった。
夕闇せまる稲佐山をあとにレストラン「銀嶺」
へ。日本病院会福井先生のご懇篤なおもてなしに
あずかり一行はホテルへ向かった。(第一日目終
了)
(埼玉医科大学名誉教授)
旧宅全景
宜晴亭)が旧海軍病院の門柱の奥にあった。長与
主な参考書
専斎の名は,かつての東京帝国大学総長,長与又
・「医療福祉の祖
郎氏が専斎の三男であったことぐらいしか知識が
2002年6月)
なかったが,昨年上梓された外山幹夫氏の著書「医
・「長崎医跡散歩」「第65回日本精神神経学会総会記念」
学福祉の祖
(中西
長与専斎」によると,近代医療,衛
生,福祉の父ともいうべき人物であり,とくに「衛
生」という言葉を最初に使ったのも彼である。さ
啓
長与専斎」(外山幹夫
思文閣出版
1968年発行年不詳)
・相川忠臣先生資料。
・中西淳朗先生資料。
らに外山氏によれば,彼は明治初期に,文明の制
度に即した基本的な方針を示した規程というべき
「医制」を明治6年に文部省で完成した。その医
オランダ坂とグラバー邸
制の内容を要約すると ①衛生行政の機構の確立
②西洋医学による医学教育体制の確立 ③その上
田邊
に立って医師開業免許制度の樹立 ④さらに近代
栄吉
的薬鋪の制度を創立して医薬分業制度を確立する
長崎大学医学部の相川先生の御案内で稲佐山に
などなど,その後の衛生行政の基本となるものば
登り素晴しい夜景を堪能したあと,街中の異国情
かりである。この長与専斎については,彼と同時
緒のあるレストランで福井先生を迎えての夕食で
代で親交のあった福沢諭吉さらに後藤新平らにく
馴染みの多い会員の紹介があり,なごやかなうち
らべ,残念ながらあまり知られていないのではな
に過ごした最初の夕食が印象に残る。
いか。私を啓蒙してくれたこの「長崎の旅」に感
謝したい。
一夜明け車の中で相川先生の説明があり,オラ
かっすい
ンダ坂を訪れた。活水女子大学に上る石だたみの
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坂道がオランダ坂である。此の周辺に幕末に一時
歳の時長崎に上海から来航して大浦にグラバー商
アメリカ・イギリス・フランスの領事館がおかれ
会を設立し貿易商を始めた。薩長土肥と結び鉄
た。かつてのイギリス領事館(国重文)の建物は
砲・大砲等の武器を売り込んで巨利を得た。前述
今児童科学館になっているが此の地一帯が外国人
の竜馬の亀山社中とも深い繋がりがあった。グラ
居留地であった。1858(安政5)年日米修好通商
バーは唯の武器商人でなく,徳川幕府の将来を見
条約が結ばれたことにより,翌年露・仏・英・蘭・
限り,天皇中心の新しい近代国家の誕生を期待し,
米の五ケ国との自由貿易が許可され,長崎・横浜・
尊皇に関心を寄せ,若い勤皇の志士達を応援した
箱館の3港が開港され。幕府は外国人居留地を整
のである。此の最古の木造洋館には竜馬等志士の
備することになり長崎は再び西洋の息吹が蘇っ
多くが訪れ,天井には彼等のかくれ部屋迄あった
た。そして幕末から明治にかけて近代日本の夜明
のが印象に残る。1863(文久3)年には伊藤博文
けに大きな役割を果した。英人のグラバーや亀山
等を,2年後には森有礼・五代友厚等の若い志士
社中(海援隊)の坂本竜馬等が此の地を舞台に活
をイギリスに留学させたことは特筆に値する。
躍したのである。此の外国人居留地をつくるため,
明治になるとグラバーはソロバン・ドックを建
大浦町を中心に広い範囲にわたって海が埋め立て
設し,高島炭鉱に様式採炭法を取入れ又大阪造幣
られ,のちには出島も加えられ,広大な外国人居
局の創設に携わった。彼は日本人妻を迎え,商会
留地が出来上り,ホテル,商社が建ち,山の斜面
を閉じ東京に移り住んだ。長男の倉場富三郎は長
には領事館,住宅等の木造洋館が建ち並び異国情
崎実業界のためにつくした。
此のグラバー園にはオルト邸(重文),リンガー
緒豊かな長崎の街並が生まれた。
オランダ坂というのは,此の居留地,特に山手
邸(重文)等があり,グラバー園を出ると十六番
一帯の石畳の坂道をこう呼んでいた。長崎では西
館があり,之は幕末に米国領事館の宿泊所であっ
洋人を見ると皆「オランダさん」と呼んでいたこ
た建物を戦後現在地に移築し現在は観光資料館と
とによるのだという。
なり貴重な歴史資料が展示されている。
(元青梅市長)
坂を登って行くと活水女子大の正面に出ると目
の前に洋館が見える。十二番館で,1868(明治元)
年に建てられた元プロシアやアメリカの領事館が
あった。向う側は石畳の下り坂になっているがこ
「出島」「花月」
の坂もオランダ坂と言われているという。坂の右
手に洋館長屋があり,近くには孔子廟がある。元
杉森
の道を戻りバスで大浦天主堂に行く。バスを降り,
ゆるやかな坂をのぼると正面に白亜の教会大浦天
弘子
出島
主堂(国宝)が見えてくる。1859(安政5)年に
1634年江戸時代の鎖国政策で,ポルトガル商人
創建され,此の天主堂は1596(慶長元)年に殉教
を置くために埋め立てた約4千坪の扇形砂洲。ポ
した廿六聖人を顕彰する意味で西坂殉教地の方に
ルトガル船渡航禁止後,平戸にいたオランダ人を
向って建てられ,当時地元ではフランス寺と呼ん
移転させ200年余も続いた。鎖国中のわが国唯一の
でいて,現存する日本最古の天主堂である。幕末,
貿易港となり,この小さな島が世界の各地からの
かく
くず
此の地に隠れキリシタンが現れ,浦上四番崩れの
情報の窓口となった。
悲劇がおこったことが今に言い伝えられている。
此処を通り過ぎエスカレーターで登りつくとグ
は失われている。1951年からの復元工事で当時の
ラバー邸(国重文)に出る。長崎市が巨費を投じ
建物が5棟建ち往時を偲ぶことが出来る。オラン
山一帯を公園化しグラバー邸をはじめ8棟の洋館
ダ人だけが居住をゆるされ,次の商船が到着する
が集められ明治村の様相を呈している。
までの何年かを過ごしたのだ。
現在は道路拡張工事により変形し扇形の島の姿
此のグラバー邸からの眺望は全く素晴らしい。
私は出島がこんなに狭い所であったのかとまず
英国の貿易商人のグラバーは1859(安政6)年21
驚いた。さぞかしオランダ商船の帆が見えたとき
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出島図
の喜びは如何ばかりであったろう。
西側一帯には,オランダ商館の中心となるカピ
タ部屋,首位門,検使部屋,通詞部屋などである。
東側には庭園,畑,玉突き部屋等があり接客やレ
クリエーションに使われていた。庭園にはシーボ
「花月」玄関先
ルト時代に栽培された植物の数々が復元されてい
た。西側の5棟が復元され見学者は当時を知る。
われている。現在は史跡料亭に指定されている。
当時の出島で活躍したオランダ人は何人か居る。
門前,玄関は当時その儘で紋を記す大提灯や花
月の金文字と房で飾られた大笊はどっしりとした
・ヘンドリック・ドゥーフ.Jr.
蘭日辞書『ドゥーフ・ハルマ』を編纂。
風格で往時を偲ばせる。文人墨客の訪れも多く頼
山陽,梁川星厳等も長崎独特の風流をめでたとい
・ヤン・コック・ブロムフ
出島模型のほか,町家の模型や民具など膨大な
う。其扇とシーボルトも艶聞も残している。
長崎特有の高低を生かした手入れの行き届いた
コレクションを持ち帰る。
・ヨハン・フレデリック・ファン・オーフルメー
回廊式庭園と池を愛でながら一同散策した。訪れ
ル・フィッセル
た日は天気もよく広い芝生の緋毛氈の縁台でお茶
『日本風俗備考』を著す。
を頂きながら当時の華やかな遊女と客達に思いを
・フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト
馳せた。
(1823年∼1829年滞在)
オランダ商館で商館員の健康管理に当たりなが
ら日本に関する知識を深めた。更に,出島で医学
や植物学の講義を行った。やがて出島外で日本人
の診療を行うようになった。
(彼については別項で詳しく書かれると思うの
で省く。)
花月
江戸時代『丸山』遊郭の引田屋の庭園に在った
亭を花月楼といったが,評判が高く崎陽随一の酒
楼と言われるようになり遂には店名となった。
開業は三百六十有余年前で,当時オランダ人や
唐人たちの丸山見物の際には必ず立ち寄ったと言
ちょうちん
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幕末には明治維新の志士達が出入りし,大広間
医学伝習所跡見学の後,繁華街思案橋を歩き銅
の床柱に残る刀疵は松本良順と共に遊びに来た坂
座町へ。ここはシーボルトの娘楠本イネが開業し
本竜馬が残したものだとされている。また,英国
ていた所である。イネは,この銅座と東京築地で
人暗殺の件で長崎奉行所に苦情書を提出した際の
開業していたとのこと。
下書は掛軸にして今も残って居るとのこと。門前
の右側に向井去来が丸山で詠んだ句碑がある。
『いなずまや
中西先生の解説によると東京築地で産科医開業
していた明治6年に福沢諭吉の推薦により明治天
どのけいせいとかりまくら』
皇の側室の分娩を担当する事になった。しかし皇
(東京武蔵野病院医学図書室)
子は死産,側室も産後4日目に死去してしまった
と。後に慰労金を下賜され御用掛けご免となった。
母児双方を失う悲劇を思うと同じ産科医として無
県庁周辺の医学跡と銅座
念であり同情を禁じ得ない。母児双方死亡の原因
−医学伝習所跡と楠本イネの開業地−
金城
は,おそらく胎盤早期剥離であり不可抗力であっ
忠雄
マサ子
たのではないかと私なりに考察する。後にイネは,
この地長崎区銅座に転居,開業している。現在こ
長崎小島養生所跡の佐古小学校を訪ねた後「医
の場所は,パチンコ店になっていて,当時の面影
学伝習跡」の長崎県庁周辺を訪れた。医学伝習跡
は全くない。イネは,父シーボルトの弟子達とポ
の碑は,長崎グランドホテル玄関左側にある。石
ンぺ等日蘭双方の医師達から産科の指導を25年間
碑の右隣に本木昌造の名をひっくり返した印鑑彫
受けた後開業している。明治17年,女性にも医術
りの碑がある。この地は,活版印刷の創案者であ
開業検定試験が実施されたが,イネは57歳にもな
り日本のグーテンベルグといわれる本木昌造の宅
り,受験を断念している。その経歴を持ちながら
跡とのことである(写真)。本来は,医学伝習所跡
イネは産婆免許で,ここ銅座に開業し,正式には
は,30m程離れた砲術家高嶋秋帆宅(現長崎地方
女医1号は,萩野吟という事になっている。
幕末から明治にかけての激動の中,混血児とい
裁判所)にあったとのこと。
「医学伝習所」とは,長崎海軍伝習所のオランダ
海軍軍医であったポンペが日本に最初に西洋医学
う不利な境遇を乗り越え,父シーボルトの名に恥
じないイネの一生には敬服する。
を講義伝授をした所という。ポンペは,弱冠28歳
彼女は,明治22年長崎から東京へ転居,明治36
で来日し滞在5年間に,幕医松本良順を筆頭に多
年76歳で死亡す。遺言により,墓は長崎の楠本家
くの門弟に西洋医学を厳しく指導し「近代西洋医
の墓地にあるという。
学教育の父」と称されている。ポンペと松本良順
今回も感動の旅であった。西洋医学発祥地長崎
等の「医学伝習所」は,長崎大学医学部の出発点
の旅,ご指導の中西淳朗先生,相川忠臣先生に厚
である。
く感謝申し上げます。
(沖縄県立中部病院婦人科部長,同夫人)
シーボルトの女癖
金山
知新
篤子
2日目の昼食は新地中華街の老舗「会楽園」
。座
敷の丸テーブルを囲んで名物の卓袱料理と皿うど
んを頂いたが,中でも8時間煮込んだ豚の角煮を
饅頭に挟んで食べる東坡肉(トンポーロー)は絶
医学伝習所跡碑
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品だった。食後はまたバスに乗り,途中諏訪神社
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写真2
写真1
の社前で下車遥拝し,シーボルト記念館に向かう。
女に生まれて良かったのかも知れない。
新長崎街道の大通りでバスを捨て,
「シーボルト通
安政六年(1859)
,13歳の長男アレクサンダーを
り」と呼ばれる狭い坂道を登りつめると,そこは
連れて再来日した63歳のシーボルトは,しばらく
大正11年に国が指定した史跡「シーボルト宅跡」
本蓮寺(3日目に訪ねた)内の一乗院に寄宿して
である。
いたが,ここで雇った17歳の女中しお(Siwo)と
教育委員会の案内板には「シーボルトはドイツ
シーボルトの間に子供が出来た。しおの本名は伊
人。文政6年(1823)出島オランダ商館の医官と
東イトで,シーボルトの愛弟子二宮敬作の娘だっ
して来航。長崎奉行の特別許可により翌文政7年
たとも言われる。
(1824)ここ鳴滝郷に塾舎を設けて,医学・博物
翌年の初夏シーボルトは人手に渡っていた鳴滝
学などを講じ,患者の診療にあたったので,全国
の家を買い戻し,江戸に出るまでの約1年間をこ
から人材が集まり,多くの蘭学者や医学者が輩出
こで暮らした。ヘビやムカデの多い所だったとい
した。実子楠本いねは日本最初の女医で宮内省御
う。来客に会い,植物採集に出掛け,庭で栽培し,
用掛も務めた。正面の胸像はシーボルト晩年の像」
夜は書斎でライフワーク「日本」執筆の日々。こ
とある。木立の中の胸像(写真1)を見上げるう
こでもシーボルトは4人の愛人を持っていた。一
ちに,なぜか彼をめぐる女性たちを想った。
人はお栄という20歳位の美人。伊木姓の一人は一
文政六年(1823)七月に長崎に来た27歳のシー
児を挙げ,あとの二人は近郷の女だったらしい。
ボルトは,その九月には17歳の其扇と出島で同棲
「その頃のシーボルトは今の私と同い年?」と
した。彼に限らず,蘭館のスタッフ全員に馴染み
思った時,ふと我に帰った。シーボルト宅跡の隣
の丸山遊女が居たという。出島に遊女を呼び入れ
りに建つモダンな建物は,長崎市が市制100周年の
る事は金次第で,気に入れば何日でも何年でも留
記念事業として1989年10月にオープンした記念館
め置くことができた。いねが生まれたのは文政十
(写真2)。彼のオランダ・ライデンの住居をアレ
年五月六日。同棲を始めて4年後の出産は一寸遅
ンジしたと聞くが,赤い壁が後ろの木立の緑に映
い気もする。出島ではいね以外にも多くの混血児
え,長崎市の都市景観建築賞を受賞したのもうな
が生まれたはずだが,情報は少ない。15歳まで厳
ずける。
しく監視されバタビアに送られたとも,男の子は
(新日鉄安全健康グループ主任医長,同夫人)
殺された(トゥンベルグ)ともいわれる。いねは
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板の踏み絵板の凸の部の頬が踏まれ踏まれて,て
長崎医療「長崎寺町」
かてかと光っている。心なくも踏んだ人哀れ。
戦国時代のうち続く戦乱後,貧しさに追い打ち
をかける幕府の厳しい年貢の催促,仏教を始め既
中村
實郎
ら来たバテレンが飢餓と病気に救いの手を呉れた
興福寺
ときそれこそ異国の教えであれ民衆はそれに飛び
長崎の昼静かなる唐寺や
さるすべりの花
成宗教が救いの手を伸べぬ時,遠くヨーロッパか
思ひ出ずれば白き
茂吉
ついた。その民衆の中に日本人化した中国から来
た明の商人達も多くいた。その耶蘇化を防ぐため
今度の長崎医学史探訪に参加して,30代の若き
幕府は中国寺院を長崎に造ることを許した。その
頃,ツアーという言葉や習慣もなき時代とは言へ,
一つがこの興福寺であり,次の崇福寺,福済寺も
何度もこの興福寺に来ていながら,今この碑が思
そうである。ともに,日本の中の中国を示してい
い出せなかったことに気がついて愕然とした。私
る。高僧達は眼鏡橋を造ったり,皿うどん,卓袱料
は昭和19年,医学生になったとき,東京世田谷代
理,長崎クンチなど数々の中国文化を伝えた。興
田2丁目にいた斎藤茂吉の童馬山房を父に頼まれ
福寺は1620年(元和6年)に中国貿易商人により
て訪れたことがある。父は茂吉の柿本人麻呂の没
航海安全の小庵が出来,1631年(寛永8年)徳川
地探しを石見の国(島根県)で手伝っていたから
家光の時,大きく建立。耶蘇に勝つため赤い中国
である。
風の大山門を建て,大雄宝殿なる本堂には航海の
しっぽく
ま
そ
思ひ出ずれば,長崎に寺は多い。マルクスは宗
神様媽姐など道教の影響を受けたものがある。後
教は阿片なりと喝破したことがある。確かに悪政
1654年(承応3年),インゲン豆で有名な隠元禅師
は宗教を利用する。
が来て日本黄檗宗の発祥の地とした。彼は後,京
おうばく
この記事の想を練っている早朝,NHK の花舞台
都宇治に行き万福寺を開いた。万福寺の寺内のお
に登場したのが「踏み絵黙示録」であった。耶蘇
経は全て中国語である。山門を出ずれば日本ぞ茶
に身を捧げる丸山のバテレン花魁,それを転ばそ
摘み歌
うとするサイコロ賭博師の攻防が三味線でお互い
自由なき身をさいなむ。観ていても切なくなる。
身にしむる踏絵のマリヤ頬ひかり
岡部
六
弥太
崎大学本部正面とアジサイを,
崇福寺
この寺も唐寺で興福寺より2年早い寛永6年の
あり,異国情緒たっぷりである。元は奇麗だった
②長崎中川局はシーボルト像とア
ジサイを
枠は中国凧
124
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の句があるほどである。
建立でピンク色の竜宮門を備え,文化財の宝庫で
信者の判定のために踏まれた銅板,真鍮板,木
①長崎文教局は原爆にやられた長
菊舎
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③長崎桜町局は路面電車と茂吉の
歌碑に桜花
ので何度も来たものであるが,今はピンクも色あ
とである。ルイス・デ・アルメイダもその1人で
せていた。ご朱印も木版の中国の神を描いてロー
ある。日本の戦国時代,ポルトガル生まれのユダ
マ字入りのもので,日本のそれに比べて少し違和
ヤ系外科医師で,商人になるつもりで日本に来た。
感を感じた。
事実生糸で大儲けをしている。が,フランシスコ・
ザビエルのイエズス会の影響を受け,30歳で入信
耶蘇伝導医師と日本宗教
し,山口で修道士になり,長い戦乱で打ちひしが
長崎医学史の講義を長崎医大の相川忠臣教授か
れていた貧しき人々の病ばかりでなく心まで癒そ
ら受けて非常に感銘した。始め儲け商売のつもり
うと努力した。子供の間引きや孤児を見て,孤児
で来た多くの外人医師が日本に触れて,命を捨て
院を造ったり,乳牛を飼ったり,乳母を雇ったり,
てもの熱情で,日本を愛し,病めるものを苦しみ
ついにはホスピタルまで造っている。しかも各地
から解放し,日本の古い頭を開かせようとしたこ
を廻り,やがて迫り来るバテレン追放の嵐を身に
感じながらも,こつこつと慈善医療の種を蒔いて
いた。
本蓮寺
アルメイダなき後,後任の耶蘇医師は長崎の一
角にサン・ラザロ病院を造り,癩病を中心に施療
をした。1614年(慶長19年),徳川秀忠の命により
破壊,その後に1620年(元和5年)日蓮宗聖林山
本蓮寺となる。長崎3大寺の一つである。日本宗
教は病人や孤児をどうしたのだろうか?ただただ
神仏に頼りお経を上げ,祝詞を唱えていただけな
のだろうか。禅を説き,高邁な東洋思想を述べる
高僧,名僧のもとでは貧民や,病人は救われなかっ
た。幕末此処に逗留した勝海舟は耶蘇治療の歴史
を知っていたのだろうか。
その他
日本・ポルトガル友好450年記念
長崎の各郵便局には市花でありシーボルトの妻
の名前お滝さんから学名を付けたオタクサこと
あ じ さ い
紫陽花をあしらった風景印が多い。
(「はびろの里」施設長)
眼鏡橋から本蓮寺まで
馬場
英子
眼鏡橋,光永寺
長崎の市内を4キロにわたって流れる中島川,
そこには100∼200メ−トルおきに古い石橋がか
かっている。中でも眼鏡橋(写真1)は日本最古
日蘭交流400周年記念
の石橋なのだそうだ。
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写真1
写真2
眼鏡橋全景
二十六聖人殉教地のレリーフ
眼鏡橋は半円が2つ連なったアーチ型石橋であ
ン禁止令により捕えられた,外国人の宣教師6人
るが,水に映ると眼鏡の形になるのでこの名がつ
と,子供3人を含む日本人20人が十字架上で処刑
いたという。
された地である。
岸には柳の枝がそよぎ,中国蘇州の風景を思わ
坂を上がると,彫刻家舟越保武の作になる26人
せる。それもそのはず,眼鏡橋は中国(明)から
のレリーフ像が清らかな姿で出迎えてくれた。
(写
来た興福寺の僧黙子如定が設計・指導して寛永11
真2)
年(1634年)に架けられた。え?お坊さんが橋?
右から9人目は最年少12歳のルドビコ茨木で,
と不思議に思われるが,もともと西洋でも中国で
その隣りが13歳のアントニオ。ルドビコは,彼の
も,橋の技術者は僧侶だったという。僧侶は橋や
ために作られた一番小さな十字架に,大好きなお
道を造って公共の役に立つことで,死後の至福が
もちゃのように抱きついて処刑されたという。
レリーフの背後に記念館があり,2階に上がる
得られると信じられていた。
同じ石橋でもローマ人の橋は,戦車も走るとい
と,京や大坂で捕えられた殉教者たちが,道中見
う巨大なものだ。戦勝を誇示する意味からもでっ
せしめにされながら西坂まで連れて来られた物語
かいのを造ったので,1個の石が6トンもの重さ
を描いた大きな絵がある。3層にわたって話が描
があるといい,丈夫そのものである。中国の石橋
かれているというので,どうつながるか皆で論議
の工法は,石の節約か,中の方は砂利や土を入れ
していると,背の高い外国人が流ちょうな日本語
る。そのせいか,眼鏡橋は昭和57年,洪水により
で熱心に説明してくれた。迫害の厳しさと同時に,
大きなダメージを受けた。アーチ型石橋は上から
信仰の力の強さについて考えさせられる。
続いて本蓮寺へ。
の圧力には強いが,浮力に弱いという。
石橋の東の山裾はお寺のラッシュである。有名
アヘン戦争やペリーの来航など,アジアの情勢
な唐寺もある。皆,橋の方,すなわち西方を向い
が風雲急を告げる中,オランダの提案により,1855
ているのは,遥か故郷の中国を偲んだものだろうか。
年に幕府の海軍伝習が始まった。その時日本人の
続いて光永寺に向かう。
指揮官の中にいたのが勝麟太郎(勝海舟)である。
ここは安政元年(1854年)当時19歳だった福澤
彼はやがて1860年,木村摂津守とともに,伝習生
諭吉が約3カ月,寺男代理として寄宿し,オラン
を指揮して咸臨丸でアメリカに渡ることになるの
ダ語を学んだところで,門前に小泉信三による「福
だが,伝習の4年間は,ここ本蓮寺に住んでいた。
本蓮寺は日蓮宗の寺であるが,もともとはサン
澤先生留学址」の碑が立っている。
フランシスコ会のサン・ジョアン教会があったと
二十六聖人殉教地,本蓮寺
ころで,ハンセン病患者のためのサン・ラザロ病
次に訪れたのは,JR 長崎駅からやや北にある西
坂の日本二十六聖人殉教地。豊臣秀吉のキリシタ
126
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院が建てられていた。寺の石段の下に跡地を示す
石碑と説明板がある。
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宣教師をはじめ多くの外国人が日本に渡来,技
術や学問を伝えたおかげで,日本が明治以降,先
進国に追いつく下地ができた。思えばスエズ運河
もない時代,遠く喜望峰をまわって,はるばるやっ
て来たポルトガルやオランダの人たち。日本人も
熱心に学んだけれども,それより何より,よくぞ
遠くから来てくれた!と,彼らに感謝したい。
長崎はまさに日本近代文明の玄関なのだ。
(コピーライター)
写真1
ポンペと長崎大学医学部および如己堂
河部
1.
小島養生所全景(ポンペ著「日本における5年
間」の口絵,ポンペ会館展示室より)
康男
の項目を抜粋し,虎狼痢治準を出版した。この中
睦美
でポンペの治療法をめぐっての洪庵と良順のやり
とりは,心温まる佳話である。
ポンペと長崎大学医学部
安政6年9月に西坂の丘の本蓮寺で,人体解剖
私の先輩でもある某先生は長大医学部出身者で
を行った。門人の関寛斎の日記から,その時の解
も,ポンペが母校の創立に深く関わっていること
剖法は極めて系統的で詳しく,現代の解剖学に等
を知る人は少いと嘆いている。それはシーボルト
しいものであったことが分る。
文久元年(1861)9月20日に港を見下ろす小島
の存在があまりに大き過ぎて,その名に隠れてポ
郷(現佐古小学校)に,待望の小島養生所と,隣
ンペの存在感が薄いためかもしれない。
しかしポンペは徳川幕府の招請に応じて長崎の
に医学校も完成し,日蘭両国旗が屋上に翻った。
蘭館医として赴任し,約5年間に14,530人の患者
これが日本で始めての洋式医学校と付属病院(124
を治療し,天然痘や梅毒,コレラの予防や治療に
床)である。(写真1)
貢献したのはいうまでもないが,それ以上に日本
そこで彼は門人たちに系統的な医学の講義と,
での洋式病院をはじめて創立して,近代医学教育
ベットサイドの臨床教育をした。彼は貧富,身分
体制を確立した大恩人なのである。彼の門下生ら
の区別なく診療したので,門人たちに強烈なイン
は明治初期の医学界をリードした。
パクトを与えたことは想像に難くない。
医学部本館入口の壁面に,ポンペ像のレリーフ
併せて長崎大学医学部の創立に深く寄与したこ
と,彼の言葉を刻んだ青銅板が飾られている。
(写
とも忘れてはならない。
ポンペ(J.L.C.Pompe van Meerdervoort.1829
真2)
−1908)は,安政4年(1857)Japan 号(後の咸
「医師は自らの天職をよく承知していなければ
臨丸)で長崎に来た28歳のオランダ海軍軍医だっ
ならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上,もはや
た。若き俊秀の幕医松本良順は自ら願い出て師事
医師は自分自身のものではなく,病める人のもの
し,彼の補佐役として活躍した。彼の参加により
である。もしそれを好まぬなら他の職業を選ぶが
各藩から多くの秀才が馳せ参じた。
よい」。
後任のボードウインの着任を待って,文久2年
同年11月12日に長崎奉行所西役所に医学伝習所
を開設した。ちなみにこの日が長大医学部の創立
記念日に当たる。
翌安政5年7月に長崎でコレラが流行した時
に,その予防と治療に当たった。大阪でも流行し,
適塾の緒方洪庵は急ぎオランダ医学書からコレラ
(1862)11月に帰国した。
2.
如己堂について
浦上天主堂の近くに如己堂がある。ここは永井
隆博士(長崎医大放射線科教授)が被爆後に療養
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写真2
写真3
如己堂全景
写真4
永井隆博士像(永井隆記念館内)
ポンペ像レリーフとポンペの言葉を刻んだ青
銅板(長崎大学医学部本館入口の壁面)
された2畳一間の小さな狭い居宅である。後ろに
永井隆記念館がある。(写真3,写真4)
私は昭和23年頃(医学部3年生)友人ら数人と
ここを訪れ,病床に横たわる博士にお目にかかっ
た。何を話されたかは覚えてないが,優しい温顔
は今でも忘れられない。
博士は昭和26年5月1日,慢性骨髄性白血病で
43歳の若さで亡くなられた。
私が卒後第二病理学教室に入局して間もなくの
ことで,松岡茂教授執刀の下,病理解剖がなされ
たが,それに立ち合い,勉強できたことも忘れ得
めない。
ない想い出である。
博士は島根県出身で,昭和7年長崎医大を卒業
病理解剖された松岡教授は「死を賭して精進し
た結果,死期が延びたのでは」と述懐されたとの
し,放射線医学を専攻した。
昭和20年6月に慢性骨髄性白血病と診断され,
ことであるが,剖検所見から推察すればむべなる
かなと思う次第である。
余命3年といわれた。
同年8月9日,原爆被災,自らも負傷したが3
(東芝林間病院精神科非常勤医師,同夫人)
日間救護活動に従事し,3日後に帰宅して被爆死
された緑夫人の遺骨を拾って埋葬した。
昭和21年教授に昇任し,23年3月,如己堂に移
爆心地,浦上天主堂,平和公園
り住んだ。その後もヘレン・ケラー女史の訪問を
検見崎
受けたり,昭和天皇に拝謁を受けられたり,教皇
哲夫
敬子
からロザリオを贈られるなど,博士の栄誉を称え
る声は後を絶たなかった。著書の長崎の鐘,ロザ
初参加の今度の旅では,西洋医学発祥の地で,
リオの鎖,この子を残してなどは,涙なしには読
その礎を築いたポンペなどオランダ人教師や,日
128
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日本病院会雑誌
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長崎医科大学正門
本人門下生らが養生所はじめ各所で,全身全霊を
注ぎ込んだ施療について,相川先生が熱く語られ,
それと糾うように,キリスト教の人類愛の足跡を
浦上天主堂一部分
たどり,人命の尊さについて痛感しながらの行程
一方,無残に破壊された旧浦上天主堂は,柱一
が,三日目正午まで続いた。そして最後の訪問先
本だけが別の場所に移設されている。長い迫害の
が一転,ショッキングな人命軽視の爆心地であっ
歴史に耐え,信仰の灯を守りとおして来た人々が,
た。
20年の歳月をかけ完成させた東洋一の天主堂で
16世紀よりキリスト教布教の歴史をもつ浦上地
あったというが,広島の原爆ドームのように,現
区,養生所以来の伝統を受け継ぐ大学病院の上空
場に記念碑として遺せなかったのか。被爆遺跡を
で爆発は炸裂し,多くの人命が無差別に殺傷され
目の当たりにすれば,反戦のインパクトは更に増
た。原爆資料館には惨劇の記録が展示されている。
大したであろう。被災した人々が水を求めて集
広島の記念館ほどの生々しさはないが,かえって
まって来た場所は平和公園となり,噴水が上がり,
悲しみと憤りがこみあげてくる。マザー・テレサ
死者に捧げるように満々と水をたたえていた。
は「すべての核保有国の指導者は,ここに来てこ
しかし,長崎,広島の願いは核保有国に届かず,
の写真を見るべきです」と述懐したという。ロー
最近では,北朝鮮の核使用発言が,国際社会の緊
マ法王ヨハネ・パウロ二世も浦上でミサを行い,
張を高めている。改めて「ノーモア原爆」の思い
世界に向けて平和を呼びかけている。医科大学の
を深くした旅のフィナーレであった。
頑丈な正門は爆風で傾き,黒こげになった姿をそ
(検見崎薬局,同夫人)
のまま残している。
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常に患者様の視点で
特定医療法人谷田会谷田病院理事長
谷
田
理一郎
50年前,熊本市の東南約20㎞甲佐の
街角のささやかな瓦葺きの小さな医院
がその始まりでした。明治,大正,昭
和とこの地の人から慈恵の如く慕われ
た当代の名医吉村春次先生の跡です。
当時まだ26歳の谷田末高(現名誉院
長,理一郎現院長の父)が数名の看護
師と家族総動員で「患者様のために」
をモットーに船出となった訳です。
以来50年幾多の紆余曲折を経て,現
在も尚,開設当初の初心を忘れず日夜
「かかりつけ医」としての役割を果た
すべく全職員一丸となって精進してい
るところです。
簡単に病院の概要をまとめますと,
ベッド数(一般病棟39床,療養病棟60
床
合計99床)診療科目(内科
科
外科)を持つ地域医療病院です。
(写真は谷田病院の正面部分)
小児
前述しましたとおり私たちの役割は,この地域での良質の「かかりつけ医」であるこ
と,急性期から慢性期にかけての入院治療,リハビリテーション,そしてさまざまな
病気の状態に対応するために急性期専門病院との連携,在宅医療,福祉との連携をと
ることです。
全従業員数130名,常勤医師7名(内科医5名
小児科医1名
外科医1名),看護
職75名,その他48名。平成13年3月に特定医療法人の指定をうけ,病院の公共性と経
営の永続性を高めると共により質の高い地域に求められる医療の提供が可能となりま
した。平成9年4月に現在の院長が病院経営を引き継いでからは,もちろん父である
前任院長の開設当時の熱意を大事にしながらより将来を見据えた以下のような考え方
のもとで業務を展開中です。
24時間体制の在宅支援のシステムの構築と,地域のコミュニケーションケアアクセ
スセンター(CCAC)部門の設立。つまり病気の治療だけではなく,病気によって損な
われた QOL の回復を目的としたグループ全体でのトータルヘルスケアサービスを提供
することです。
(「新入会員の紹介」は今号から始まったコーナーで,同院は平成15年11月の本会入会)
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■一番町だより
平成15年度
日
時
第9回定例常任理事会
TEL0166-65-2111
議事抄録
2.
医療法人
(200床:一般200)
平成15年12月13日(土)
会員名
午後1時∼4時30分
場
福岡新水巻病院
所
藤井茂(院長)
〒807-0051
日本病院会会議室
福岡県遠賀郡水巻町立屋敷
1-2-1
出席者
会
TEL093-203-2220
長
副 会 長
B.正会員の退会5件
中山耕作
大道
學,奈良昌治,武田隆男,
1.
国
常任理事
西村昭男,林
洋,
池澤康郎,天川孝則,土屋
章,
(12.1付で廃止)
2.
国
国立療養所名寄病院(210床)
会員名
佐々木信博(院長)
北海道名寄市東6条南5-91-3
順
(12.1付で名寄市に経営移譲)
星
和夫,梶原
代議員会副議長
赤沼克也
顧
問
登内
真,依田忠雄
参
与
松田
優
朗,鴨下重彦,永井良三,
3.
国
国立療養所恵那病院(250床)
会員名
行天良雄,牧野永城,岡崎
日栄康樹(院長)
岐阜県恵那市大井町2725
(12.1付で恵那市に経営移譲)
通,
4.
三宅浩之
委 員 長
秋田県本荘市石脇字田尻野18
勝,元原利武,
角田幸信,瀬戸山元一,福井
事
佐藤隆夫(院長)
雅人,真田勝弘,
近藤達也,齊藤寿一,秋山
福田浩三,中後
監
国立療養所秋田病院(280床)
会員名
山本修三
国
国立療養所南愛媛病院(130床)
会員名
里村洋一,大井利夫
赤松興一(院長)
愛媛県北宇和郡広見町永野市1607
(12.1付で社会福祉法人に経営移譲)
定刻となって中山会長から開会の挨拶が行わ
個人
京橋病院(66床)
しているので,4時30分までに終えたい旨を述べ,
会員名
濱屋昌一(院長)
会議定足数として定数24名に対し出席20名,委任
東京都中央区新川2-12-3(診療所へ移行)
れ,本日は会議終了後林先生の叙勲祝賀会を予定
5.
状4通,計24名の出席で本会議が成立している旨
を報告,議事録署名人に天川,池澤両常任理事を
以上について山本副会長から,正会員の入会が
選出し,山本副会長の司会進行により議事に入っ
2件と退会5件について諮られ承認された。退会
た。
5件のうち4件は国立療養所の廃止または移譲,
1件は診療所への移行で,計正会員数は2,736病院
〔承認事項〕
1.
(公的964,私的1,772,総病床数72万100床)とな
り,賛助会員数は入退会がなく527会員のままと報
会員の入退会について
告された。次いで,中山会長から,本日の退会は
国立病院が多いが,今度独立行政法人になるので,
A.正会員の入会2件
1.
文部科学省
会員名
旭川医科大学医学部附属病院
引き続き独立行政法人として入会してもらうよ
(602床:一般569,精神33)
う,これから進めていきたいと述べ,了承された。
石川睦男(院長)
〒078-8510
北海道旭川市緑が丘東2条
1-1-1
132
132(482)
2.
厚生労働省及び各団体からの依頼について
(1)
第13回シンポジウムの後援(依頼元:医療
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日本病院会雑誌
■一番町だより
ましいことでなく,各施設の料金一覧の印刷も価
関連サービス振興会)
(2)
北海道ホスピタルショウ2004開催の名称
るのはかまわないなどという軽い注意処分であっ
使用と後援(日本経営協会)
(3)
第24回産業医科大学国際シンポジウムの
た。それでおさまっていたところ,最近になって
共同通信の取材が入ったわけである。そこで私か
後援(同シンポジウム会長)
(4)
格統制につながる恐れがあり,健保連が独自にや
臨床検査室認定プログラム開発委員会委
員の推薦(同開発委員会準備委員会)
らは,上限値については儲け主義に歯止めをかけ
るという趣旨であり,料金を拘束するつもりでな
公開シンポジウムの後援(日本学術会議・
く,だいたい常識的にこのぐらいの線というとこ
小児科産科若手医師の確保育成に関する研究
ろで上限値を決めたものであると説明した。通信
班)
社側では,総合健診医学会について,解任された
(5)
第7回国際福祉健康産業展−ウェルフェ
人が取材に応じたり,最近も優良施設認定更新の
ア2004−の協賛(名古屋国際見本市委員会)
ための研修会を開くというおかしいところがあ
(6)
(7)
ミュージカル「ドクトル長英」「よろけ養
る,少し張り付いてみるというので,そこは当方
安」の後援(たざわこ芸術村・わらび座)
と関係はないことを説明した。会長・副会長会議
以上について山本副会長から説明され,(4)は臨
でも協議したが,当分,総合健診医学会とは距離
床検査関連の団体,学会による臨床検査室認定プ
をおいて静観する。また問題が起こったら,場合
ログラムの開発を目的とする委員会で,四病協に
によっては袂を分かつということをしないと日本
依頼があり,日病から奈良副会長を推薦すること
病院会にまで迷惑がかかる。そういう決断をした
とし,(7)は高野長英生誕200年を記念しまた院内
と説明があり,了承された。
銀山医師の門屋養安をテーマにした2つの舞台作
品で,他の後援,協賛依頼とともに承認された。
〔報告事項〕
3.
1.
一泊人間ドック実施病院の指定について
(1)
A.一泊人間ドック施設の指定1件
(1)
各委員会,研究研修会の開催報告について
広報委員会(真田常任理事,11/21)
日病ニュース掲載の新春座談会を11/11収録し,
秋田組合総合病院
(秋田市飯島,坂本哲也院長,指定2床)
「高齢者医療と病院の役割」というテーマで,中
奈良副会長から,上記の一泊人間ドック施設指
山会長以下5人が参加した。日病ニュースの新企
定1件の申請について,調査報告書にもとづき説
画として,
「今,日本病院会は何をなすべきか」と
明がなされ承認された。
いう題で会長,副会長,常任理事,理事,参与,
引き続き,関連事項として奈良副会長から,12/7
委員長の方々に寄稿をお願いし,1月から順次掲
付の東京新聞及び新潟日報掲載の「人間ドックの
載していくこととした。次期シリーズ特集は「混
値引き妨害,認定団体が圧力文書,公取委注意処
合診療」を取り上げ,いわゆる混合診療の実態と
分」という記事について説明が行われた。この発
問題点ということでシリーズにしたい。執筆者は
端は,警視庁職員の健診を7∼8項目省いて入札
これからお願いするが,混合診療についての総論
した施設に対し,日本総合健診医学会がダンピン
的解説,医療現場での実態,保険適用外の手術用
グに相当するとして優良認定施設を返上せよとい
材料との関連,民間医療保険の実態,特定療養費
う文書を送り,それが公取委から「独禁法違反に
制度との関係などをテーマに考えている。
つながる恐れがある」と,9月に注意処分を受け
(2)
学術委員会(星監事,11/21)
日病雑誌1月号の編集を行った。グラフは「富
ていたというものである。
我々日本人間ドック学会も2度ほど公取委と話
士宮市立病院と富士」,巻頭言は2004年の年頭所感
をしたが,料金の上限値を決めるということは好
として中山会長から,
「臨床研修制度の必須化と診
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■一番町だより
療報酬の矛盾について」の原稿をいただく予定で
員会(山本副会長,11/28)
ある。その他,病院長・幹部職員セミナーの講演
現在テキストの見直しをしており,そのためシ
などを掲載する。2月号についても企画した。第
ラバスの内容の整理を急ぐこととした。「医学概
53回日本病院学会の優秀演題として,座長推薦に
論」及び「病院設備・施設管理」について,退任
基づき表彰候補10題を選考し,雑誌2,3月号に
する講師の後任を探すこととし,
「医療管理」につ
論文を掲載していく。
いては星和夫先生にお願いすることとした。
(3)
人間ドックに関する意見交換会
(6)
インターネット委員会
(大井委員長,12/12)
(三者会議)(奈良副会長,11/28)
健保連,全日病との三者会議を行い,当方から
来年7月,第54回日本病院学会において,当委
は加藤副委員長,笹森委員と出席した。公取委の
員会としてシンポジウムを組むことが土屋学会長
指導により料金の交渉はできなくなったが,基本
に了解され,その内容について中村副委員長と打
検査項目が日進月歩で変わっているので,まず
ち合わせした。テーマは「インターネット時代の
HCV を必ず入れたらどうかと提案した。また,総
病院」,副題に「IT を活用した新たな挑戦」とし
コレステロール以外に HDL,LDL コレステロール,
た。シンポジストに内定しているのは,米沢市立
特に LDL コレステロールは悪玉コレステロールと
病院,織本病院,神奈川県下からの代表で,合わ
いうことで認知されてきたから,これを基準項目
せて4∼5施設を予定することとした。
に加えてほしいと提案し認められた。HCV はオプ
(7)
医療制度・社会保険老人保健合同委員会
(西村常任理事,12/12)
ションとして残った。なお料金については,あく
までも個々で交渉するということになった。
また,人間ドックの機能評価機構について,健
冒頭,中医協の開催スケジュールが示され,山
場に差しかかっているが,診療側と支払側の溝が
保連からの参加を求めた。ほかに一般受診者関係
深く,12日は基本問題小委員会と総会が開かれて,
の人選を進め,行天参与にもお願いしているが,
15日には次期改定の方向を示すという,いわゆる
第三者的な評価を行う委員会にそのような方々に
1枚ものの発表が予定される状況の中で,政治決
出ていただき,運営していきたいと説明し了承を
着というかたちもあり,その間,我々病院会とし
得た。
てはマイナス改定をさける,あるいは低いところ
(4)
日本人間ドック学会・学術図書編集委員会
(天川常任理事,12/5)
に抑えるということが期待されている。そういう
状況について議論したあと議事に入った。
昨年,今年とかけて日本人間ドック学会の抄録
各委員からの報告事項で,
「平成15年度試行調査
集をつくるなど,この編集委員会も学会との関わ
検討委員会」の出席報告として,急性期入院医療
りが深くなったので,第45回日本人間ドック学会
の定額払い方式の DRG/PPS の5年間の試行が11月
について学会長の JR 東海総合病院長の高木先生
で終わり,その取りまとめの評価が行われた。平
に出席いただき,話を進めた。学会は来年8/26∼
均在院日数が短縮し,その代わり病床利用率が5
27,名古屋国際会議場で開かれ,28日は認定指定
∼10%低下し,危惧されていた粗診粗療は特に再
医研修会を行うことになっている。学会長からは
診率や死亡率からみるとなかったということで,
シンポジウムとして,
「日帰りドックか宿泊ドック
5年間の成果は DPC 導入の追い風になるのではな
か」
「消化管造影か内視鏡か」ということを強調し
いか。しかし,これを一般病院に拡大することは
てやりたいと説明があり,委員からは「高齢者の
慎重にすべきである,などと意見があった。内保
人間ドック」が増えているのでこれを取り上げて
連について診療報酬改定要望書がまとまり,分厚
はどうかという提案もあった。健康医学の第18巻
い140∼150ページのもので各学会の要望が入って
3号が仕上がり,12/19発刊される予定である。
いるが,今後は効率的に与えられた役割を果たし
(5)
通信教育委員会・病院経営管理者養成小委
134
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たいという意向も示された。臨床研修マッチング
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日本病院会雑誌
■一番町だより
の結果は登録数に対し95.6%と高かった。
ついては要求項目が多かったが,今回はやはり客
診療報酬改定の問題では,中医協の基本問題小
観的に見て特に診療報酬が少ない小児科の領域に
委員会で診療側から問題提起された病院の外来専
大幅な見直しが必要と申し入れを行い,厚労省か
用診療所(門前診療所)について,さまざまな意
らは,少し財源を小児科,精神科につけるという
見が出た。日病や四病協が診療報酬引下げ方針に
発言が出ているので,今後も注目して見守ってい
反対する声明を出し,記者会見も行われているが,
きたいと述べた。
マスコミはその真意を理解しているか懸念される
中山会長からは,先月の常任理事会で日病とし
という意見があり,例えば読売新聞は12/7付朝刊
て反対声明を出すということが決まって,急遽
のミニ解説で「改定は医師側にとってベースアッ
11/19付で「財務省の社会保険診療報酬引下げ方針
プ交渉にあたる」と解説し,このほかにも,診療
に強く反対する」という文書を出し,四病協でも
報酬改定を医師の診療報酬改定というふうに書か
12/11声明を出した旨の説明がなされた。
れる。この診療報酬という言葉が不適切で国民か
(8)
ら非常に誤解を受けており,医師のベースアップ
①
という感覚で受け止められている。これは実態と
11/20∼21小田原,120名。用度業務と病院機能
は全く合ってないわけで,このへんをキチッと正
評価(新評価体系)の概要,用度業務全般にわた
しく理解してもらうことが大事であるなどと論議
るアンケート報告,用度業務全般にわたるグルー
した。
プ討議と情報交換,他
用度研究会
②
外保連手術委員会(11/20)の報告は池澤常任理
研究会・セミナー報告
四病協・ICS 養成のための感染管理講習会
11/29∼30東京,380名,平成15年度第1クール。
事から説明され,一つは,手術料の計算方法につ
いて,各学会がいろんなやり方で出しているので
病院感染と感染制御,病院感染制御の歴史,看護
どうも統一したデータが集まらない。バラツキが
の立場から望むこと,問題の病院感染症,他
③
激しいのでこれを統一したいということ。もう一
四病協・臨床研修指導者養成課程講習会
点は,11/17の中医協の医療技術評価分科会におい
12/5∼7日病,責任者・指導者等3日間コース
て,手術件数が多い病院ほど死亡率が低いという
50名,統括者・協力者等半日コース43名。医師の
参考人の発言があり,診断後90日死亡,5年生存
教育に望むこと:市民からのメッセージ,成人教
と施設あたり手術件数の間にはそれぞれ正と負の
育と教育方略,ワークショップ(カリキュラム作
相関が認められたというが,手術に関しては非常
成,コミュニケーション教授法,フィードバック
にバラツキが激しいので,ロジスティック回帰分
法,研修医評価等),他
析は使えない。また手術件数が少なくても良い成
④
績を上げている病院があるが,そこはこの分析で
11/20日病,37名。看護教育と看護師確保対策,
は拾えない。よって,手術点数は100分の70に下げ
るのではなく100分の100としておいて,一定数よ
り多く手術している施設に加算した方が妥当であ
る,などと議論した旨の報告がなされた。
看護教育施設委員会全体会議
今後の展望
2.
四病協諸会議の開催報告について
(1)
総合部会(中山会長,11/26)
追加報告として齊藤常任理事から,DRG はもう
医療情報システム開発センターから「プライバ
役割を終わっていま DPC のほうに移っているが,
シーマーク審査委員会」委員の推薦依頼があり,
基本的には DRG でかなり在院日数の低下とかクリ
日病武田副会長を推薦することとした。武田副会
ニカルパスの進行とか良い面が認められ,粗診粗
長からは,医療は情報を開示することと同時に個
療はなかったので,そのかたちがよりきめ細かな,
人情報を守るという義務も生じる。そこで,個人
例えば施設係数を加味した DPC に移行してよいの
情報保護法を順守している病院にマークを与えよ
ではないかという意見が主流であった。内保連に
うというのがプライバシーマーク制度の趣旨で,
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2004年3月
日本病院会雑誌
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135)
■一番町だより
この委員会で審査し認定しようということであ
部負担の場合いちいち細かい計算をして,患者さ
る。プライバシーマークは法人に与えるものでな
んからもらわなければいけない。そういう診療報
く,情報を守る取扱い業務が他の部門と完全に独
酬がらみであるなら,いっそゼロにしてもらえば
立している部分を指し,認定の有効期間は2年間
今と同じで,税率が変わっても患者さんには大丈
で費用は60万円である。個人情報保護法は全員す
夫ですよと言える。とにかく,ここのところを突
べて守らなくてはいけないが,それを完全に守っ
破して,診療報酬のところを課税にするというこ
ているということを表すのがプライバシーマーク
とをこの1∼2年にやらないと,悔いを千載に残
制度である旨の説明がなされた。
し,多くの私的中小病院は倒れてしまうなどと述
続いて中山会長から,財務省の診療報酬引下げ
方針に四病協として反対表明を行い,八人委員会
べ,その対応を求めた。
(2)
医療制度委員会(奈良副会長,12/2)
で声明文を作成し,12/11記者会見した。入院時食
総合部会から,
「病院の医師数算定」について検
事療養費と委託費に差があり,その分を引下げよ
討することと,
「地域医療に関する関係省庁連絡会
うとする動きがあるが,実際に原価計算すると,
議」のヒアリングに向けて意見をまとめておくよ
栄養士の人件費や配膳,下膳のコストなどが入り,
う諮問があり,厚労省医政局の土生企画官をまじ
マイナスになってしまう。特に管理栄養士や栄養
え意見交換した。総務,文部科学,厚生労働3省
士が病室に行って患者一人ひとりの希望をきき,
の地域医療に関する関係省庁連絡会議のヒアリン
相談,観察しながら食事のメニューをつくるとこ
グは12/25にセットされ,各団体から出席すること
ろは非常なマイナスとなり,引下げは容認できな
とした。
い。また,部門別の収支に関する調査研究が医療
(3)
医療保険・診療報酬委員会
(西村常任理事,12/5)
経済研究機構に委託され,各団体から1名ずつ参
画するが,給食部門のコスト計算も早くやろうと
中医協の動向と診療報酬改定の問題,及び四病
協の各種調査を議題に開催した。診療報酬改定で
いうことを決めた。
病院の医師数算定の問題は,医療制度委員会に
は急性期の「ハイケア病棟評価(案)」が提示され,
付託して四病協の意見をつくり,3省合同の「地
特定集中治療室の後方病棟と位置づけられている
域医療に関する関係省庁連絡会議」のヒアリング
が,間口を広げて,在宅や介護施設からも入れる
に対応することとした。病院の廃棄物処理経費の
ようにすべきだという意見が出た。また,亜急性
調査は,本来診療報酬でカバーすべき問題であろ
期(回復期)について,
「回復期医療を行う新たな
うということで実施したものだが,242病院の集計
タイプの病棟(案)」が提示されており,これは四
結果によると,昨年度1年間の処理経費は,市町
病協が主張してきた地域一般病棟をモデルにした
村や廃棄物処理業者への支払額,その他外部処理
ことは間違いないが,一定以上の看護配置とはど
費用,院内焼却費用の合計で1病院当たり1,300
の程度か,精神科は違った視点でまとめる必要が
万円であり,年々増加していることもわかった。
あるのではないかと意見が出た。
廃 棄 物 処 理 業 者 へ の 委 託 費用 は 1 病 院 当た り
四病協調査の「180日超入院患者の特定療養費化
1,006万円で,これも年々増加している。当然,病
に関する実態調査」と「入院時食事療養費に関す
院の規模で費用が異なるので,中医協には1床当
る緊急調査」について,いずれも中間の経過報告
たりの費用で要望していくこととした。
がなされた。四病協声明として,診療報酬の引下
以上の報告のあと福田常任理事から,消費税に
げ方針に反対すると同時に,医療安全体制の整備
ついてはゼロ税率でも軽減税率でもいいという話
費用,医療廃棄物の処理費用,褥瘡対策費用,IT
が出ているというが,ゼロ税率にしないと何が困
導入に伴うメンテナンス費用等が年々増加するこ
るか。将来,診療報酬非課税が課税になって,病
とから,プラス改定を求める内容をまとめて,
院が税務署に出したものが戻ってくる。それが一
12/11厚労省に手渡し,記者発表した。
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■一番町だより
3.
公明党・平成16年度税制改正,予算要望等ヒ
アリングの出席報告
手渡したり注射をしたりする。むしろ,大勢いる
ところのほうが事故が起きるのではないか,それ
を調べてほしいと。それから,重症度の高い病院
奈良副会長から,11/27公明党のヒアリングに大
ほど医師数・看護師数が多いのか,病院の経営成
井先生と出席したが,当方からはまず,経済財政
績と患者の重症度は相関があるのか,という4つ
諮問会議が福祉や医療の問題を無視してやってい
について調べてほしいと川渕委員に頼んでおい
るので,この会議に厚生労働大臣を加えることを
た。
この回答があって,一般診療所と病院の常勤・
提言した。次に,消費税を医療福祉目的税として,
医療と教育,育児,食品についてはゼロ税率とす
非常勤を合わせた数は2000年で28万4000人である
ることを求めた。3番目は,臨床研修医の研修費
が,耳が遠くなったり寝たきりで何もできない先
は月20万円程度を国費で支給し,研修病院がそれ
生というのは何人かわからないという。医師数・
に加えて給与を支給してよいとすることを求め
看護師数と医療過誤率の相関はまだ調査中で時間
た。20万円出しても予算は380億円であり,更に,
がかかるが,今までのところでは統計的には全く
タバコ税を欧米並みに上げて健康被害を少なく
有意性がないということだったので,むしろ人手
し,税収財源とすることと,医療制度改革よりも
の多いところのほうが連絡ミスで医療事故が起こ
医療保険制度改革が先で保険制度を統一すべきで
るということがあるのではないかと発言した。重
ある,という5項目について意見表明した旨の報
症度の高い病院ほど医師数・看護師数が多いかと
告がなされた。
いうことも,全く相関がない。病院の経営成績と
4.
医療分野における規制改革に関する検討会の
出席報告について
患者の重症度に相関があるのかということは,相
関があったのは補助金の額で,医業収支が良好な
大学ほど経常収益に占める補助金収入の割合が小
奈良副会長から,第12回(11/21)と第13回(12/3)
の報告がなされ,今度,病院の医師数算定に関連
して関係省庁連絡会議が開かれ,12/25に出席する
予定だが,その前に,この委員会で規制改革とい
うのだから,変な規制は取り払うよう主張した。
外国には医師数が何人だから何人とか看護師が何
さいという話であり,そこは納得して帰ってきた
旨の報告。
5.
医業経営の非営利性等に関する検討会の出席
報告について
大道副会長から,第1回(10/17),第2回(10/29)
人とかという規制はないはずであり,標欠病院と
の検討会が予定どおり行われ,3回目を11月中旬
いう言葉があるのもおかしい。北海道の医師の名
に開いて中間答申のとりまとめを予定していた
義貸し問題も出たが,診療報酬で名義を借りるこ
が,延期になり,12/8に四病協と医師会,厚労省
とは許されないけれど,実際に地方の病院などは
で話し合いをもって翌日中間報告を出そうとした
金の草履を履いて探しても医師,看護師が見つか
が,どうも財務省との詰めがいかないということ
らないということがあると,何回も繰り返し述べ
で,12/9医療側だけで話し合いをもったという経
た。
過である。この検討会は,持分がなく公益性が極
先に,私のほうから問題提起として,一体日本
めて高い特定医療法人,特別医療法人と,持分の
の医者で本当に働いているのは何人かきちんと調
ある社団医療法人の間に出資額限度法人をつくろ
べてほしいということと,2番目に,医者が足り
うという目的の会で,このとき問題になるのは,
ない看護師が足りないから医療事故が多いという
税務と非同族の問題である。
が,どうもそういう気がしない。地方で,少ない
税制上の課税関係についてみると,まず定款変
人数でやっているところは,一旦医療事故を起こ
更をして出資額限度法人になるという場合,課税
したら大変だということで,それこそ薬を自分で
はされない。定款変更後,出資者が脱退する場合
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は,出資額だけを払い戻すということで課税は生
められない場合は権利の乱用になる,などという
じないが,出資者の死亡に伴って相続人が払戻し
内容の報告。
請求権を行使する場合,払戻しを受けた金額につ
(2)
大井委員長から,第3回の事故報告範囲検
いて相続税が課税される。そのほか,他の出資者
討委員会が12/9開かれ,来年度から国立,特定機
に対する贈与税等の課税とか,出資者の死亡に伴
能病院に義務づける医療事故報告の範囲を規定し
い相続人が出資者の地位を継承した場合の課税関
ようという会で,事例の報告先については日本医
係という問題がある。いわゆる所得税,法人税,
療機能評価機構を予定することを了承した。評価
相続税,贈与税の措置は今のところ無理であると,
機構に事例報告を出し,そこで分析してもらうこ
結論としては,税法を変えるのはなかなか大変で
とになる。
時間もかかり,我々の望む法制化は見送りの可能
報告を求める範囲として,①明らかに誤った医
性が強い。この出資額限度法人というものをつ
療行為あるいは管理上の問題によって事故が発生
くっただけで,法改正を伴わなければ,税制上の
した場合,②明らかな過失は認められないが何ら
問題は解決しないということである。
かの予期せざる不慮の事故が起こった場合,③そ
医療法人協会とも話し合ったが,出資額限度法
の他,医療現場に対する警鐘的意義が大きいと考
人が舞台に上がってきて,今から検討しようとい
えられる場合,という案が提示され,この文言に
う状況にあり,こちらが無理な要求をして埋没し
ついて激しい議論が展開された。昨日のファック
てしまったら永久に浮かび上がらない。ある程度
スでは,②のところの「過失」という言葉が穏当
妥協しながらも,この出資額限度法人をずっと検
でないとして,
「明らかに誤った行為は認められな
討していくという舞台をつくっていこうと,基本
いが,医療行為や管理上の問題により,予期しな
的に合意している。12/下旬までには中間答申さ
いかたちで患者さんが死亡もしくは障害が残った
れ,それが終わると,非同族の問題が議論される
場合」というように変えられていた。大体この意
予定である旨の報告であった。
見でまとめようと了解された旨の報告。
6.
第4回医学の歴史を巡る旅の開催報告につい
て
(3)
山本副会長から,日経の11/17付朝刊「医
療 Q&A」で,「病気はどのように分類されるのか」
という質問に対して,回答者が国際疾病分類学会
星監事から,11/19∼29までの11日間の日程で南
の学会長という,発足して2年目の学会であるが,
イタリアのローマ,ナポリ,シチリア島,マルタ
「国際コード,日本では定着せず」というタイト
島,ゴゾ島の医学の歴史を巡ってきた。武田副会
ルをつけて,「日本ではほとんど定着していない。
長,岡崎参与も参加され,総勢21名で大変盛会で
米国には約8,000人いる。コード化に対応できる専
あった。南イタリアというのは主として古代ギリ
門知識をもったスペシャリストを積極的に育てて
シャの医学であり,その一端を勉強することがで
こなかったのが原因の一つである」と大変誤った
きたと思うという旨の報告がなされた。
見解が載っている。
7.
直ちに,これはおかしいということで,中山会
その他
長と私の連名で文章と資料を付けて日経に送っ
山口事務局長から,11/28付で厚労省労働
た。日病は既に30年にわたって診療情報管理士を
基準局長から日病会長あて,労働基準法の一部を
育て,現在7,000名近くになる。かなりの人が病院
改正したので周知徹底を図ってほしいという依頼
で活躍し,実際にコーディングスペシャリストと
がきた。有期労働契約の場合は原則として3年間,
してやっている。また,WHO に対して ICD−10に関
特に専門的な知識があるものとして医師,歯科医
する見直しの意見を提出し,評価をいただいてい
師,薬剤師が列挙され,この方は5年間である。
る。そのような申し入れをした旨の説明がなされ
また,解雇権に関して社会通念上相当であると認
た。
(1)
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大道副会長から,大阪で開かれた第53回日
長は決をとって現行のままでよいと考える役員の
本病院学会の収支決算報告がなされ,監査報告と
挙手を求め,常任理事全員が賛成し,この件は了
ともに了承された。
解されたとしてこの項を終えた。
(4)
2.
〔協議事項〕
1.
平成16年度事業計画(案)について
中山会長から,来年の事業計画(案)について
会員資格について
資料をもとに説明され,1.医療制度殊に病院制
中山会長から,協議事項の最初に諮りたいこと
度の調査研究に関する事項,2.病院の管理運営・
があるとして説明があり,現役員の3/31任期満了
経営改善,施設の改善向上に関する事項,3.病
に伴う役員改選について12/1選挙告示を行った
院職員の教育・指導に関する事項,4.病院職員
が,この際,当会の会員資格について諮りたい。
の養成・確保に関する事項と続き,12.学会およ
会員資格は定款第5条で,正会員とは「この会の
び病院大会等の開催に関する事項では,日病と学
目的および趣旨に賛同し入会した病院の代表者。
会の関係について顧問税理士,公認会計士から,
代表者はその病院を管理する病院長または医師で
学会の収支決算は日病本体と連結して決算すべき
ある開設者とする」とされ,更に,定款施行細則
だという指摘を受けている旨を説明した。
第1条で,「定款第5条の規定による正会員のう
この対応について,山口事務局長から補足説明
ち,医師である開設者とは,法人における医師で
がなされ,学会の収支予算等は従来,それぞれの
ある代表として病院より届出た者,地方公共団体
学会単独で経理を行い,日本病院会の本体関係と
における医師である病院事業管理者等であり,本
は切り離していたのが慣例であるが,昨年,一昨
会の常任理事会にて承認したものをいう」と規定
年来,顧問税理士特に麹町税務署の意向で,学会
されている。
会則上「日本病院会の事業の一つとして」という
これについて,会員資格の要件については定款
文言が3学会に入っていることからして日本病院
の規定どおり運用し,定款施行細則の規定のよう
会の本体会計と一緒ではないかという指摘を受
な,いわば拡大解釈する運用は廃止したらどうか
け,是正するよう指導を受けた。このため平成14
という意見が会員から私に寄せられた。これにつ
年度は急遽,3学会の収支を日本病院会の収支と
いて会長・副会長会議で協議したが,定款施行細
連結決算して税務申告し処理したが,今年度以降
則の規定というのは,平成7年11月25日に各病院
の対応について会長・副会長会議で協議した結果,
の事情を考慮して提案され理事会で承認されたも
やはり学会,学術活動については,ある程度予算,
ので,以後,会員資格要件について特段の問題は
決算も学会長の裁量に任せて運営したほうがいい
なく,その後の平成10年と13年の2度の改選も有
という実態上の問題もあり,各学会会則の,日本
効に行われ,現在会務は何ら問題なく運営されて
病院会の事業としての文言を削除しようという趣
おり,現行の役員の会員資格要件を変更する理由
旨である。日本病院会と学会の関係は従来どおり
はないものと考えている。一方,各病院にあって
であり,ご了解いただければ,3学会の理事長等
は,例えば名誉院長,理事長職にある先生を会員
にお願いして会則変更の手続きをしていただくこ
としたいとの個別事情もある場合があると思うの
とになる。文言の整理等は税理士,公認会計士と
で,そのような意向は尊重すべきものと考える。
調整中で,そのへんがはっきりすれば相談させて
そのようなことで,会長・副会長会議では現行
いただきたい。以上のような説明がなされ,了承
の取扱いを変更する必要はないという結論になっ
された。
ているが,この際,皆さんの意見を聞き,取扱い
続けて中山会長から,12.の学会等は,①第54
を確認したいと諮った。これに対し,現行でよい
回日本病院学会の開催が7/2∼3横浜のパシフィ
とする意見表明や質疑応答がなされた後,中山会
コ横浜で開かれ,学会長は土屋章先生,②第45回
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■一番町だより
日本人間ドック学会が8/26∼27名古屋の名古屋国
いう話になっており,先般開かれた八人委員会で
際会議場で開かれ,学会長は高木弘先生,③第30
その方向が了承され,来週の総合部会で決めてい
回日本診療録管理学会学術大会が9/16∼17千葉の
ただくという経過になっている。四病協の任意の
幕張メッセで開かれ,学会長は里村洋一先生,④
団体を立ち上げて,そこで事業計画,予算,決算
国際モダンホスピタルショウ2004は7/14∼16東京
等の事務処理を行う計画があり,今回の日本病院
の東京ビッグサイトで開かれ,⑤として病院大会
会の事業計画からは切り離しているが,四病協の
の開催も場合によっては行うということになって
扱いについては別途諮りたいという旨の説明が
いる。次いで,13.病院機能評価の研究に関する
あった。
以上の協議が行われ,平成16年度事業計画(案)
事項以下,23.その他目的達成に必要なる事項ま
で,事業計画(案)として例年の23項目が挙がっ
ており,これにもとづいてただ今収支予算案を編
成中であるが,これは1月の常任理事会で原案を
は了承された。
3.
医療費,医療制度,医療保険制度について
中山会長から診療報酬改定について,薬価の切
提出させていただく。
平成16年度の委員会・部会については,
「政策策
下げはほぼ間違いなく,診療報酬についてもあま
定」「病院経営」「事業展開」「情報発信」「総務企
りいい線が出ていない。それで諦めてはダメなの
画」の5分野に分けて合計21の委員会があり,研
で何か食い込む問題はないか,本当にそれが国民
究会開催計画として8研究会,セミナー開催計画
のためになるという確信のもとに進めていかなく
として7セミナーの開催期日と開催地の計画があ
てはならない。食事の問題にしても,刑務所の食
り,通信教育実施計画として2課程のスクーリン
事と比較してなどということでなく,健康増進法
グ,試験の実施予定,人間ドック認定指定医研修
という法律ができたばかりであって,栄養と予防
会実施計画が年2回,海外病院視察研究会開催計
が大事であり,食事に手をつけるのは健康増進法
画とあり,最後に平成16年度役員会等の開催計画
に対する法律違反ではないかと思う。これらの点
について説明した。
について,各理事の意見を求めた。
以上の提案に対して西村常任理事から,事業計
福井常任理事からは,一つ皆さんにお尋ねして
画の第30回日本診療録管理学会学術大会について
みたいとして,いわゆる損害保険における保険料
は,会則変更をしたので名称を「総会並びに学術
と給付という関係が,社会保険という医療保険制
大会」とし,学会長という名称も「学術大会長」
度のなかでは,被保険者である国民の皆さんが今
としてほしい。また,臨床研修の必修化が病院団
度保険料を上げられボーナスからも取られる,窓
体にとっては重要な項目になると思うが,事業計
口の負担も上がっているという一方で,それに対
画の6.に病院の資質向上,医の倫理の昂揚,医
する給付というのは一体何なのか。これは,社会
師の研修に関する事項とあってそれに含まれると
保険診療報酬として担保されている,いわゆる社
思うが,このへんを特出しして項目を加える必要
会保険診療に関する費用というのが医療給付とし
がないか検討してほしい。更に,四病協で行う合
て現物給付であるから,これが削られるというの
同の事業も含まれるのかどうかという質問がなさ
は国民の立場はふんだりけったりではないか。マ
れた。
スコミは今でも医師の収入であると書き,患者さ
これについては山口事務局長から,医療安全管
んも窓口で払うお金が多くなって病院は儲かって
理者の養成,感染管理者の養成,臨床研修医の指
いるでしょうとか,これだけ余計に支払っている
導者養成,診療情報管理士の認定という4つの事
のだからもう少しサービスを良くしてくれとか,
業が四病協共同で既に実施されているが,これも
そういうことに我々は非常にたくさん出会ってい
先ほどの学会と同じように,日病なり全日病なり
ると思う。そういうことに対する,皆さんの意見
の団体と切り離した扱いとするべきではないかと
をお聞きしたいという問題提起であった。
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日本病院会雑誌
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これに対し秋山常任理事は,強制的に徴収され
おいて医療を担保するという構造になっている。
る保険料というのは税と同じで,同じ保険でも火
それは,給付される医療の中身を保証するという
災保険のように,給付する場合詳細な調査があっ
大前提で外から考えられているが,その大前提は
て給付されるが,医療保険の場合は医療の不確実
医療機関に対する甘えそのものだと思う。そのよ
性という言葉があるように,給付の範囲が難しい。
うなことを国民が理解して,病院の収入が減れば
それに患者側のモラルハザードが入って,それが
医者の懐がさみしくなるだけでしょうと,そうい
財政破綻につながっているという面もあるのでは
う単純発想の問題ではないということを示さなけ
ないかと述べ,大井委員長からは,昨日の合同委
ればいけない。給付の内容が悪くなるということ
員会で話があったように,医療というのは現物給
は安全が損なわれることにもなりかねないので
付として医療行為を行う。その行為に対して点数
あって,その構造をマスコミ,国民に理解しても
がつくということは,点数は報酬ではなくて医療
らうことが大切であり,どういう戦略が可能か考
行為の費用ではないか。国が4%とか5%下げろ
えることではないかと述べた。
と言っているのは医療行為の費用を下げろと,買
そのほか各理事から,健康保険の事業主負担と
い叩くということであって,それを国民に知って
いう特異性や医療費に対する国の哲学の問題であ
もらうほうが近道ではないか。診療報酬は診療行
ると強調する意見,また,この問題は同じことの
為費用とおきかえて理解していただくというキャ
繰り返しで,かなり大胆な,医療の基礎部分と2
ンペーンしたらどうかと提言があった。
階建ての個人保険というような考えで一つのきっ
齊藤常任理事は,昨日の合同委員会に出て福井
かけをつくるべきではないか,などという意見が
先生の発言はその通りであると思うとし,保険料
あった。中山会長は,給付というものがどう国民
をなかば強制的にとられて,それが保険者に行き,
に解釈され,負担と給付の関係をどう考えている
病気になったとき行われるのが給付で,その給付
のかクリアでないところが随分あり,国民に PR
の値段を下げようというのが政府の考えているこ
して知ってもらうことが大事だと思う。診療報酬
とである。その給付の中身は外から見るとブラッ
という言葉も適切な言葉におきかえ,セーフティ
クボックスで,いわゆる情報の非対称性があって
ネットを高いところにおいて,それを我々でつく
よくわからない。しかし,例えば胸のレントゲン
ろうかという話も出ているなどと述べ,議論を終
1枚撮ったときの費用が5%下がったからといっ
えた。
て,5%質の悪いレントゲン撮影をするわけにい
以上で議事を終了し,常任理事会を終えた。
かない。結局は病院側の持ち出しで,その痛みに
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日本病院会雑誌
(日本病院会事務局広報部)
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掲 示 板
企企第0209001号
平成16年2月9日
関係団体各位
独立行政法人福祉医療機構
理事長
山
口
剛
彦
独立行政法人福祉医療機構貸付利率の改定について
当機構の業務につきましては、日頃から格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、今般、当機構の貸付利率を別紙のとおり変更し、平成16年2月12日以降の貸付けから適用す
ることとしましたので通知します。
固定金利
独立行政法人福祉医療機構(医療貸付)貸付利率表
平成16年2月12日改定
施
設
の
種
類
資
病
院
診
療
所
助
産
所
歯
科
技
工
金
新
の
種
築
類
資
増 改 築 資 金
利
金
甲
種
乙
種
所
機
械
購
入
資
金
医 療 従 事 者 養 成 施 設
長
期
運
転
資
金
薬
新
局
衛
生
検
施
査
所
術
築
増
所
資
改
築
金
資
金
機
械
購
入
資
金
長
期
運
転
資
金
率
新
旧
年1.40%
年1.50%
年1.55%
年1.65%
年1.60%
年1.70%
年1.55%
年1.65%
年1.60%
年1.70%
介
護
老
人
保
健
施
設
全
資
金
年1.40%
年1.50%
疾
病
予
防
運
動
施
設
全
資
金
年1.60%
年1.70%
温
泉
療
養
運
動
施
設
全
資
金
年1.60%
年1.70%
指
定
訪
問
看
護
事
業
金
年1.40%
年1.50%
国
立
金
年1.40%
年1.50%
142(492)
142
病
院
等
の
譲
全
受
資
に
要
す
る
資
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日本病院会雑誌
2004年3月
10年経過後金利見直し(当初10年)
独立行政法人福祉医療機構(医療貸付)貸付利率表
平成16年1月19日改定
施
設
の
種
類
資
病
院
診
療
所
助
産
所
新
金
の
築
種
利
類
資
率
新
旧
年1.20%
年1.20%
年1.55%
年1.65%
金
甲
種
乙
種
増 改 築 資 金
医 療 従 事 者 養 成 施 設
介
護
老
人
保
健
施
設
新 築 ・ 増 改 築 資 金
年1.20%
年1.20%
疾
病
予
防
運
動
施
設
新 築 ・ 増 改 築 資 金
年1.60%
年1.70%
温
泉
療
養
運
動
施
設
新 築 ・ 増 改 築 資 金
年1.60%
年1.70%
国
立
年1.20%
年1.20%
病
院
等
の
独立行政法人福祉医療機構
譲
受
に
〒105−8486
要
す
る
資
金
東京都港区虎ノ門4−3−13
TEL
日本病院会雑誌 2004年3月
日本病院会雑誌
2004年3月
秀和神谷町ビル
03(3438)0211(代表)
143(493)
143
掲 示 板
事
務
連
絡
平成16年1月28日
地方社会保険事務局
都道府県民生主管部(局)
各
国民健康保険主管課(部)
御中
都道府県老人医療主管部(局)
老人医療主管課(部)
厚生労働省保険局医療課
「選定療養及び特定療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」
第4号の2ロに該当する医薬品について
先般,「選定療養及び特定療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等の一部を改正する件」(平成
15年厚生労働省告示第459号)が公布され,平成16年1月1日から適用されているところですが,改正
後の「選定療養及び特定療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」
(平成14年厚生労働省告示第88
号)第4号の2ロに該当する医薬品について,別添の通りお知らせいたしますので,その取扱いに遺
漏のないよう関係者に対し周知方よろしくお願いいたします。
(参考)
※
平成16年1月5日付事務連絡からの変更点
1.
本リストに,受理日欄を追加した。
2.
クエン酸フェンタニルについて,受理日より2年以上が経過しているため本リストより削除した。
3.
エピネフリンについて,薬価基準未収載のため,本リストより削除した。
4.
「イホスファスミド」について,「イフォスファミド」に訂正した。
5.
アスピリンに3品目を追加し,申請に係る用法・用量を訂正した。
6.
アスピリン・ダイアルミネートを本リストに追加した。
7.
無水エタノールについて,無水エタノール注が薬価基準未収載のため,本リストより削除した。
8.
M-VAC 療法に関する医薬品についてのリストを整備した。
9.
塩酸セフェピムについて,本リストに追加した。
10.
塩酸ドキソルビシンについて,申請に係る効能・効果に膀胱腫瘍を追加した。
以上
144(494)
144
日本病院会雑誌 2004年3月
日本病院会雑誌
2004年3月
(別添)
「選定療養及び特定療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」第4号の2ロに該当する医薬品
(平成16年1月28日現在)
一般名(成分名)
販売名
申請者名
受理日
申請に係る効能・効果
申請に係る用法・用量
ブレオマイシン
ブレオ
日本化薬(株) 平成14年5月31日 精巣腫瘍
―
塩酸セレギリン
エフピー錠2.5 藤本製薬(株) 平成14年12月5日 パーキンソン病(Yahr 重症
度ステージⅠ∼Ⅳ)
(レボドパ含有製剤との
併用療法の記載削除)
通常,成人に塩酸セレギリンと
して1日1回2.5㎎を朝食後服
用から始め,2週ごとに1日量
として2.5㎎ずつ増量し,最適
投与量を定めて,維持量とする
(標準維持量1日7.5㎎)。1
日量は塩酸セレギリンとして
5.0㎎以上の場合は朝食及び昼
食後に分服する。ただし,7.5
㎎の場合は朝食後5.0㎎及び昼
食後2.5㎎を服用する。なお,
年齢,症状に応じて適宜増減す
るが1日10㎎を超えないこと
とする。
(「本剤は,レボドパ含有製剤
と併用する」を削除)
イホスファミド
注 射 用 イ ホ マ 塩野義製薬(株)平成14年12月20日 精巣腫瘍 ただし,精巣腫
イド1g
瘍については,他の抗腫瘍
剤と併用することが必要
である。
アスピリン
バ イ ア ス ピ リ バ イ エ ル 薬 品 平成14年12月24日 川崎病
ン錠100㎎
(株)
―
ただし,川崎病の患者には,ア
ス ピ リ ン と し て 1 回 10 ㎎ / ㎏
を,急性期有熱期間中は1日3
回,解熱後は1日1回経口投与
する。なお,症状に応じて適宜
増減する。
アスピリン「ヨ 吉田製薬(株) 平成15年12月19日 川崎病(急性期(有熱期間)急性期(有熱期間):通常,ア
シダ」
及び解熱後から慢性期(心 スピリンとして30∼50㎎/㎏相
アスピリン「メ 中北薬品(株) 平成15年12月19日 血管後遺症のある場合)) 当量を1日3回に分けて経口
投与する。
タル」
解熱後から慢性期(心血管後遺
アスピリン「ホ メルク・ホエイ 平成15年12月22日
症のある場合):通常,アスピ
エイ」
(株)
リンとして3∼5㎎/㎏相当量
を1日1回経口投与する。な
お,いずれにおいても年齢及び
症状に応じて適宜増減する。
アスピリン・ダイ バ フ ァ リ ン 81 ライオン(株) 平成15年12月19日 川崎病(急性期(有熱期間)急性期(有熱期間):通常,ア
アルミネート
㎎錠
及び解熱後から慢性期(心 スピリンとして30∼50㎎/㎏相
ニ ト ギ ス 錠 81 シオノケミカル 平成15年12月24日 血管後遺症のある場合)) 当量を1日3回に分けて経口
投与する。
㎎
(株)
解熱後から慢性期(心血管後遺
バ ッ サ ミ ン 錠 大 洋 薬 品 工 業 平成15年12月24日
症のある場合):通常,アスピ
81㎎
(株)
リンとして3∼5㎎/㎏相当量
を1日1回経口投与する。な
フ ァ モ タ ー 81 鶴原製薬(株) 平成15年12月22日
お,いずれにおいても年齢及び
㎎
症状に応じて適宜増減する。
ア ス フ ァ ネ ー 中北薬品(株) 平成15年12月19日
ト錠81㎎
塩酸モルヒネ
塩 酸 モ ル ヒ ネ 武 田 薬 品 工 業 平成15年1月24日
注 射 液 「 タ ケ (株)
ダ」10㎎
塩酸モルヒネ
注射液「タケ
ダ」50㎎
塩 酸 モ ル ヒ ネ 三共(株)
注射液「三共」
平成15年1月24日
日本病院会雑誌 2004年3月
日本病院会雑誌
2004年3月
硬膜外に注射する場合は,通
常,成人には,塩酸モルヒネと
して,1回2∼6㎎を生理食塩
液又はブドウ糖注射液5∼
10mL に希釈して投与する。
硬膜外に持続注射する場合は,
通常,成人には,塩酸モルヒネ
として,1回4∼10㎎を生理食
塩液又はブドウ糖注射液に希
釈して投与する。
145(495)
145
塩 酸 モ ル ヒ ネ 塩野義製薬(株)平成15年1月24日
注射液「シオノ
ギ」10㎎
塩酸モルヒネ
注射液「シオノ
ギ」50㎎
アンペック注
大日本製薬(株)平成15年1月24日
―
塩 酸 モ ル ヒ ネ 田辺製薬(株) 平成15年1月24日
注射液10㎎「タ
ナベ」
塩酸モルヒネ
注射液50㎎「タ
ナベ」
メトトレキサート 注 射 用 メ ソ ト 日本ワイスレダ 平成15年4月24日 M-VAC 療法
レ キ セ ー ト 5 リー(株)
尿路上皮癌
㎎
M-VAC 療法
ビンブラスチン,ドキソルビシ
ン及びシスプラチンとの併用
において,メトトレキサートと
して,通常,成人1回30㎎/㎡
を静脈内注射する。前回の投与
によって副作用があらわれた
場合は,減量するか又は副作用
が消失するまで休薬する。な
お,年齢,症状により適宜減量
する。
標準的な投与量及び投与方法
は,治療1,15及び22日目にメト
ト レ キ サ ー ト 30 ㎎ / ㎡ , 治 療
2,15及び22日目にビンブラス
チン3㎎/㎡,治療2日目にド
キソルビシン30㎎/㎡及びシス
プラチン70㎎/㎡を静脈内投与
する。これを1クールとして4
週ごとに繰り返す。
注射用メソト
レ キ セ ー ト 50
㎎
ロイコボリンカル 筋 注 用 ロ イ コ
シウム
ボリン
平成15年4月24日
―
メトトレキサート通常療法,
CMF 療法,メトトレキサート慢
性関節リウマチ療法又は M-VAC
療法:
メトトレキサート通常療法,
CMF 療法,メトトレキサート慢
性関節リウマチ療法又は M-VAC
療法でメトトレキサートによ
ると思われる副作用が発現し
た場合には,通常,ロイコボリ
ンとして成人1回6∼12㎎を
6時間間隔で4回筋肉内注射
する。
なお,メトトレキサートを過剰
投与した場合には,投与したメ
トトレキサートと同量を投与
する。
(下線部を今回追加)
―
メトトレキサート通常療法,
CMF 療法,メトトレキサート慢
性関節リウマチ療法又は M-VAC
療法:
メトトレキサート通常療法,
CMF 療法,メトトレキサート慢
性関節リウマチ療法又は M-VAC
療法でメトトレキサートによ
ると思われる副作用が発現し
た場合には,通常,ロイコボリ
ンとして成人1回10㎎を6時
間間隔で4回経口投与する。
(下線部を今回追加)
ロイコボリン
錠5㎎
146(496)
146
日本病院会雑誌 2004年3月
日本病院会雑誌
2004年3月
硫酸ビンブラスチ エ ク ザ ー ル 注 日本イーライリ 平成15年5月2日 M-VAC 療法
ン
射用10㎎
リー(株)
尿路上皮癌
M-VAC 療法
メトトレキサート,塩酸ドキソ
ルビシン及びシスプラチンと
の併用において,通常,硫酸ビ
ンブラスチンとして,成人1回
3㎎/㎡を静脈内に注射する。
なお,年齢,症状により適宜減
量する。
標準的な投与量及び投与方法
は,メトトレキサート30㎎/㎡
を1日目に投与した後,2日目
に硫酸ビンブラスチン3㎎/
㎡,塩酸ドキソルビシン30㎎/
㎡及びシスプラチン70㎎/㎡を
静脈内に注射する。15日目及び
22日目に,メトトレキサート30
㎎/㎡及び硫酸ビンブラスチン
3㎎/㎡を静脈内に注射する。
これを1コースとして4週毎
に繰り返す
乾燥人血液凝固因 ファイバ
子抗体迂回活性複
合体
ただし,原則として1日最大投
与量は体重1㎏当り200単位を
こえないこととする。(投与量
の上限の設定)
バクスター(株)平成15年4月25日 血液凝固第Ⅷ因子または
第Ⅸ因子インヒビターを
保有する患者に対し,血漿
中の血液凝固活性を補い
その出血を抑制する。
(「インヒビター力価
10Bethesda 単位以上の患
者」→「インヒビターを保
有する患者」,インヒビ
ター濃度の設定削除)
セフトリアキソン ロ セ フ ィ ン 静 中外製薬
ナトリウム
注用0.5g
ロセフィン静
注用1g
平成15年5月8日 「淋菌」,「淋菌性尿道炎,ただし,淋菌尿道炎,淋菌性子
淋菌性子宮頸管炎,淋菌性 宮頸管炎及び淋菌性咽頭炎に
咽頭炎」
は0.5∼1g(力価)を単回静
脈内注射又は点滴静注する。
ロセフィン点
滴静注用1g
バッグ
塩酸エフェドリン 塩 酸 エ フ ェ ド 扶 桑 薬 品 工 業 平成15年6月5日 麻酔管理時の血圧降下
麻酔管理時の血圧降下には,通
リン注「フ
(株)
(脊椎麻酔時の血圧降下 常成人1回5∼10㎎を静脈内
からの変更)
注射することができる。
エ フ ェ ド リ ン 大日本製薬(株)平成15年6月5日
「ナガヰ」注射
液40㎎
塩 酸 エ フ ェ ド 三和化学研究所 平成15年6月5日
リン注「三
グラクソ・スミ 平成15年6月18日 下記の状態を示す中等度 通常,成人及び小児において,
スクライン(株)
から重度の炎症性腸疾患 下記量を1日量として経口投
(クローン病または潰瘍 与する。炎症性腸疾患の場合ア
性大腸炎)を有する患者に ザチオプリン1∼2㎎/㎏相当
おける緩解導入及び緩解 量
維持
・他の標準的な第一選択療
法では十分に効果が得ら
れない患者
・副腎皮質ステロイド離脱
が困難な患者
アザチオプリン
イムラン錠
塩酸セフェピム
注 射 用 マ キ シ ブリストル製薬 平成15年8月28日 好中球減少に伴う発熱の 通常成人には,症状により1日
(有)
ピーム0.5g
エンピリックセラピー
2∼4g(力価)を2回に分割
し,静脈内注射又は点滴静脈す
注射用マキシ
る。
ピーム1g
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日本病院会雑誌
2004年3月
147(497)
147
シスプラチン
ランダ注
日本化薬(株) 平成15年11月27日 M-VAC 療法
プ ラ ト シ ン 注 ファイザー(株)平成15年11月27日 膀胱癌,腎孟尿管腫瘍
10,25,50
シ ス プ ラ メ ル メルク・ホエイ 平成15年11月28日
ク注
(株)
シ ス プ ラ チ ン マルコ製薬(株)平成15年11月27日
注「マルコ」
ブ リ プ ラ チ ン ブリストル製薬 平成15年11月27日
注
(有)
塩酸ドキソルビシ ア ド リ ア シ ン 協 和 醗 酵 工 業 平成15年12月4日 M-VAC 療法
ン
注
(株)
膀胱腫瘍
M-VAC 療法
メトトレキサート,硫酸ビンブ
ラスチン及び塩酸ドキソルビ
シンとの併用において,通常,
シスプラチンとして成人1回
70㎎/㎡(体表面積)を静注す
る。標準的な投与量及び投与方
法は,メトトレキサート30㎎/
㎡を1日目に投与した後に,2
日目に硫酸ビンブラスチン3
㎎/㎡,塩酸ドキソルビシン30
㎎/㎡及びシスプラチン70㎎/
㎡を静注する。15日目及び22日
目にメトトレキサート30㎎/㎡
及び硫酸ビンブラスチン3㎎/
㎡を静注する。これを1コース
とし,4週毎に繰り返す。
M-VAC 療法
メトトレキサート,硫酸ビンブ
ラスチン及びシスプラチンと
の併用において,通常,塩酸ド
キソルビシンを日局注射用水
または日局生理食塩液に溶解
し,成人1回30㎎(力価)/㎡
を静脈内に注射する。
なお,年齢,症状により適宜減
量する。
標準的な投与量及び投与方法
は,メトトレキサート30㎎/㎡
を1日目に投与した後,2日目
に硫酸ビンブラスチン3㎎/
㎡,塩酸ドキソルビシン30㎎
(力価)/㎡及びシスプラチン
70㎎/㎡を静脈内に注射する。
15日目及び22日目に,メトトレ
キサート30㎎/㎡及び硫酸ビン
ブラスチン3㎎/㎡を静脈内に
注射する。これを1クールとし
て4週毎に繰り返すが,塩酸ド
キソルビシンの総投与量は500
㎎(力価)/㎡以下とする。
(注)あくまでも申請ベースの内容であり,今後,承認審査において変更されることがあり得る。
148(498)
148
日本病院会雑誌 2004年3月
日本病院会雑誌
2004年3月
掲 示 板
平成16年1月20日
(社)日本病院会長
殿
厚生労働省医政局長
岩
謹啓
尾
總一郎
時下益々御健勝のこととお慶び申し上げます。
看護行政の推進に当たりましては,かねてより格別の御協力,御高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて,厚生労働省におきましては,保健師助産師看護師国家試験において良質な問題を効率的に作
成及び出題する体制の強化を図ることを目的に,試験問題をあらかじめ蓄えておくプール制の導入を
進めております。
このたび,インターネット上で試験問題を登録できる「Web 公募システム」を稼働いたしました。こ
れにより,保健師,助産師及び看護師の教育に携わる方のみならず,医療の現状をふまえた問題を提
供いただくために医療機関等の看護職員の方々から広く試験問題を公募することといたしました。つ
きましては,別添資料の内容を貴団体看護職者に周知いただき,多くの試験問題を公募いただけます
よう御協力方よろしくお願いいたします。
なお,公募問題登録の際に必要となる ID 及びパスワードにつきましては,問題を提供して下さる方
から別添資料に記載しております問い合わせ先にお問い合わせ下さいますよう併せて周知方よろしく
お願いいたします。
敬具
保健師助産師看護師国家試験問題の公募について
1.
3)試験問題公募に際しては,
「保健師助産師看
護師国家試験公募問題作成マニュアル」(Web
プール制への移行と試験問題のご提供
公募システム上で閲覧可能)をご参照下さい。
プール制とは,試験問題をあらかじめ蓄積
4)試験問題の登録にあたっては別添の「Web
しておき,その中から試験問題を出題するこ
公募システムの利用方法」をご参照下さい。
○
5)各施設できる限り一部の領域に偏ることな
とです。
○
く均等に応募して頂きますようお願いいたし
現在の保健師助産師看護師国家試験では毎
ます。
年新規に試験問題を作成する方式を採用して
6)養成機関におきましては教員一人当たり最
いますが,プール制に移行すればより良質な
低一題はご応募頂きますようお願いいたしま
問題を出題することが可能になります。
○
す。
(規定数にとらわれることなくそれ以上ご
厚生労働省では平成17年の保健師助産師看
提供いただければ幸いです)
護師国家試験から段階的にプール制に移行す
ることを予定しております。このため,試験
問題のご提供にご協力をお願いいたします。
2.
締切日
多くの問題をプールするため,試験問題の公募
試験問題の作成・登録等
は年間を通して随時受け付けることといたしま
1)「Web 公募システム」の URL は http://www.
newpass.jp です。
2)
「Web 公募システム」にアクセスするために
は別添のパスワードが必要です。
3.
す。
4.
出題に関する留意事項
1)出題の範囲は「保健師助産師看護師国家試
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
149(499
149)
験出題基準(平成15年版)」(Web 公募システ
お読み頂き,同意された上でご応募下さい。
ムからもご覧になれます)に準拠して下さい。
また,公募問題としてどの問題を提供したか
2)問題作成にあたっては,保健師助産師看護
極力秘密にして下さい。
師の資質として,看護師等の基礎教育が終了
2)応募された問題は,ブラッシュアップ委員
した時点で求められる基本的な知識,技能を
会において精錬し,厚生労働省において蓄積
見ることができるような問題,さらに状況判
していくとともに,将来的には国家試験問題
断に基づいた看護の実践ができる総合能力を
に利用することをご了承下さい。
客観的に評価できるような問題を心掛けて下
さい。
3)臨床の場においてよく見られるニーズの高
い題材を重視して下さい。また,単純な知識
【お問い合わせ先】
〒100-8916
厚生労働省医政局看護課
や記憶再生を要求するのではなく,臨床的問
きすぎ
来生(内線2599)
医事課試験免許室
題解決能力を問う問題の出題を心掛けて下さ
い。
4)学内試験等に出題した既出問題および新規
に作成した問題等を提供して下さい。
5.
上野(内線2574)
TEL
(03)5253-1111(代表)
FAX
(03)3591-9073
応募にかかる留意事項
1)Web 公募システム初期画面の同意文を必ず
150
150(500)
東京都千代田区霞が関1-2-2
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
第54回日本病院学会開催案内
日本病院会雑誌2004年3月
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151(501
)
151
152
152(502)
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日本病院会雑誌
日本病院会雑誌2004年3月
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日本病院会雑誌
153(503
)
153
154
154(504)
日本病院会雑誌2004年3月
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)
155
診療報酬改定内容決まる
2月13日(金)中医協総会で諮問案了承,坂口厚労相に答申
厚生労働省発保第0213001号
る効率的な医療を確立するという基本的考え
平成16年2月13日
方に立って,合理的でメリハリのついたもの
とする。
○
中央社会保険医療協議会
会
長
星野
進保
現状の厳しい経済社会情勢を反映する中
で,医療の安全・質の確保,具体的には,DPC,
殿
小児医療・精神医療等を重点的に評価し,国
民が納得できる改定とすることとし,改定率
厚生労働大臣
坂
口
は±0%とする。
力
諮問書
健康保険法(大正11年法律第70号)第82条第1
項,第86条第11項及び第88条第5項並びに老人保
Ⅱ
主な改定内容
1
医療技術の適正な評価
○
難易度,時間,技術力等を踏まえた評価
健法(昭和57年法律第80号)第30条第1項,第31
手術の施設基準については,技術集積性と
条の3第7項及び第46条の5の2第5項の規定に
アウトカムとの関係に関する調査・分析を継
基づき,健康保険法の規定による療養に要する費
続することとするが,暫定的措置として,現
用の額の算定方法(平成6年厚生省告示第54号),
行の施設基準の見直しを行う。
老人保健法の規定による医療に要する費用の額の
○
医療技術の評価,再評価
優れた有効性,安全性を有する新たな医療
算定に関する基準(平成6年厚生省告示第72号),
訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の
技術を迅速に国民に提供するため,普及性を
算定方法(平成6年厚生省告示第296号),老人訪
勘案した上で,優先度の高いものについて保
問看護療養費に係る指定老人訪問看護の費用の額
険導入する。併せて,骨髄移植・臍帯血移植
の算定に関する基準(平成4年厚生省告示第29号)
やリハビリテーション等を含む既存の技術に
及び厚生労働大臣が指定する病院の病棟における
ついて,臨床現場における実態等も踏まえた
療養に要する費用の額の算定方法(平成15年厚生
見直しを行う。
労働省告示第75号)をそれぞれ別紙1から別紙5
○
歯科固有の技術の評価
歯科固有の技術の適正評価として,かかり
までのとおり改正することについて,貴会の意見
つけ歯科医の機能や病院歯科機能の充実及び
を求めます。
病診の連携の推進,齲蝕や歯周疾患等の重症
平成16年度社会保険診療報酬等の改定概要
化予防の評価,在宅歯科医療等の評価,歯及
び補綴物の長期維持に関する基本的技術の評
基本的考え方
Ⅰ
○
価等の見直しを行う。
平成16年度診療報酬改定は,フリーアクセ
○
調剤技術の評価
スを原則としつつ,国民皆保険体制を持続可
患者の安全性の確保や医薬品の適正使用の
能なものとし,患者中心の質がよく安心でき
推進のため,患者や家族に対する情報提供,
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
157(507
)
157
○
服薬管理の推進等の評価,かかりつけ薬剤師
外来医療
外来医療における医療機関の機能分担の明
機能に応じた調剤基本料の区分の見直し等を
確化の観点から,病院・診療所間の初診料の
行う。
格差の是正,外来診療料の包括範囲の拡大を
2
の機能の評価等を行うとともに,保険薬局の
行う。
医療機関のコスト等の適切な反映
①
疾病の特性等に応じた評価
○
急性期入院医療等の評価
3
患者の視点の重視
①
情報提供の推進
急性期入院医療に係る診断群分類別包括評
施設基準が設定された手術について,実施
価について,診断群分類及び包括評価の範囲
件数の院内掲示,当該手術の内容・合併症等
について見直しを行うとともに,DPC 導入の
に係る書面による患者への説明等の要件化等
影響の検証を引き続き行うため,調査協力医
により,国民に対する情報提供の推進を図る。
療機関についても試行的に DPC を適用して
②
データ収集の拡大を図り,その評価を検証す
患者による選択の重視
180日を超える入院に係る特定療養費の適
る。
用除外要件について,15歳未満の患者を追加
併せて,集中的な治療が必要で重症度が高
する等の見直しを行う。
い患者を対象とするハイケアユニットの評価
なお,一定のエビデンスが認められる抗
を行う。
○
がん剤等の医薬品の適応外投与について,
小児医療の評価
患者の視点を重視する観点から,今回改定
小児救急医療体制,特に夜間診療体制に応
に先立って特定療養費の対象としている
じた評価や,専門的な小児入院医療等に対す
(平成16年1月施行済)
。
る評価の充実を図るとともに,新生児救急医
療について,新生児入院医療管理加算の見直
4
診療報酬体系の在り方
し等の評価の充実を図る。
○
○
精神医療の評価
加算・減算・逓減制・算定制限等について,
簡素・合理化の第一歩として,一部項目につ
精神医療の充実を図る観点から,医療保護
いて見直しを行うとともに,事務処理につい
入院等における適切な処遇の確保への対応や
ても簡素・合理化を図る。
標準的な薬物治療の評価を行うとともに,地
○
域への復帰を支援する医療,精神科在宅医療
老人の診療特性等を踏まえた見直しの第一
歩として,歯科診療報酬の一部項目について,
等の評価の充実を図る。
○
一般,老人診療報酬の統合を図る。
在宅医療の評価
在宅医療の充実を図る観点から,重症者に
5
対する複数回訪間看護,在宅終末期医療の評
その他
○
価の充実等を図る。
②
医療機関等の機能に応じた評価
○
入院医療
酸素価格の特例及び入院基本料における離
島加算の新設により,特定地域へのきめ細か
な対応を図る。
医師の新臨床研修制度の導入に併せ,臨床
研修機能の整備に伴う医療の質の向上の評価
Ⅲ
医
各科の改定内容(主要項目)
科
を行う。
また,地域における救急医療や在宅医療の
充実等の役割に着目して,有床診療所の入院
について人員配置や機能に応じた評価を行う。
158
158(508)
1
(1)
医療技術の適正な評価
難易度,時間,技術力等を踏まえた評価
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
①
手術における難易度に基づく評価の精緻化
・放射性同位元素内用療法管理料
甲状腺癌に対するもの
肺悪性腫瘍手術,食道悪性腫瘍手術,大動
甲状腺機能亢進症に対するもの
脈弁置換術について「難易度」に基づき,点
数の相対関係を調整する。
②
手術に関する施設基準の暫定的見直し
手術に関する施設基準について,技術集積
性とアウトカムとの関係に関する調査・分析
を継続することとするが,地域性・緊急性の
考慮や患者への情報提供の推進の観点から,
暫定的措置として,以下のような見直しを行
う。
・症例数及び医師経験年数の基準を満たす施設
105/100の加算
・症例数は基準に満たないが,医師経験年数の
基準を満たす施設
2,270点
・経尿道的尿管ステント抜去術
1,000点
(新規承認の保険医療材料に係る技術)
・植込み型補助人工心臓
・体幹部に対する定位放射線治療
63,000点
・肝悪性腫瘍ラジオ波焼灼療法
13,600点
既存技術の再評価
・骨髄移植・臍帯血移植の評価の充実
・リハビリテーション等の評価の見直し
リハビリテーション等の算定制限及び逓減
制の見直し
集団療法
※急性発症した脳血管疾患等の患者であって
・その池,共通の要件として,症例数の院内掲
発症後180日以内のものに限る。
示,手術内容・合併症等に係る患者への説明
器具等による療法,湿布処置の逓減の緩和
重症化予防等の評価
言語聴覚療法の評価の見直し
言語聴覚療法Ⅲ
肺血栓塞栓症予防のための医学管理の評価
術後等の重篤な合併症である肺血栓塞栓症
の予防のために必要な機器,材料を用いて医
100点
集団療法
40点
・集団療法用専用室は集団療法を実施する
・肺血栓塞栓症予防管理料
305点(入院中1回)
医療技術の評価,再評価
場合のみ要件とする。
等
・在宅血液透析の導入期の重点評価
・睡眠時呼吸障害の診断のための検査の評価の
見直し
新規技術の評価,既存技術の再評価
終夜睡眠ポリグラフィー
診療報酬調査専門組織医療技術評価分科会
の調査などにより有効性が確認された技術等
1
携帯用装置を使用した場合
2
1以外の場合
600点
について,新たな技術の保険導入及び既存技
術の再評価等を行う。
2,200点
新規技術の保険導入
(医療技術評価分科会の調査によるもの)
・乳腺腫瘍画像ガイド下吸引術
(新設)→個別療法
※算定要件
学管理を行った場合を評価する。
・経皮的中隔心筋焼灼術
等
消炎鎮痛等処置
等を新設する。
○
8単位まで(1月)
→12単位まで(1月)
30/100の減算
①
5,000点
等
○
い施設
(3)
13,100点
(高度先進医療技術からの保険導入)
・症例数及び医師経験年数ともに基準に満たな
(新設)→
(初日)30,000点
・両室ペースメーカ移植術
減算を行わない
○
250点
・経尿道的尿管ステント留置術
・神経磁気診断
(見直しの要点)
(2)
500点
720点
→ 3,300点
・腫瘍マーカー(PSA)の評価の見直し
癌を強く疑う数値であるが確定診断のつか
3,400点
22,800点
→
ない症例への定期的測定を可能とする。
○
等
行われなくなった医療技術等の整理・再評
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
159(509
)
159
一般病棟よりも手厚い体制の治療室で行う
価
・非観血的マニプラチオン
→
重症度の高い患者に対する集中的な治療を評
廃止
価する。
・経尿道的前立腺高温度治療
17,400点
②
→
・ハイケアユニット入院医療管理料(1日に
8,550点
つき)(新設)
長期投薬に係る技術の評価
生活習慣病の増加や投薬期間の長期化に伴
・看護配置
い,処方時における病態分析と処方管理の評
ること
処方期間が28日以上の処方を行った場合
45点)を追加
加算等で評価している材料,医療機器等の
適正評価
○
看護師
常時4対1以上
・8割以上の患者が重症度等を満たしてい
・特定疾患処方管理加算
③
3,700点
・特定集中治療室に準ずる設備
価を充実する。
(月1回
→
※算定要件
③
慢性期入院医療
○
180日超入院の適用除外要件の見直し
・適用除外要件に15歳未満の患者等を追加
○
在宅療養指導管理料の加算の見直し
慢性期病棟等に入院している患者に係る他
医療機関受診時の評価の見直し
・在宅自己注射指導管理料の注入器加算等の
・他の医療機関を受診した日の入院基本料等
見直し
注入器を使用した場合に加算
→
等
の算定
注入
15/100
器を処方した場合に加算
・在宅酸素療法指導管理料の携帯用酸素ボン
ベ加算等の見直し
○
④
亜急性期(回復期)医療
○
亜急性期入院医療の評価
→
30/100
亜急性期医療を必要とする患者について,
手術時に使用する自動吻合器,自動縫合器
一定の入院期間(90日)に在宅復帰等を目的
加算の見直し
・自動吻合器加算
5900点
→
5500点
として行う入院医療管理を評価する。
・自動縫合器加算
2700点
→
2500点
・亜急性期入院医療管理料(1日につき)
(新設)→
・使用回数の上限について,実態に合わせた
2,050点
※算定要件
見直しを行う。
・一般病棟の病室単位
2
医療機関のコスト等の適切な反映
(1)
・看護配置
2.5対1以上
・在宅復帰支援を担当する者が配置されて
疾病の特性等に応じた評価
いること
①
急性期入院医療
・退院患者の6割以上が在宅等へ退院し
○
診断群分類別包括評価
ていること
・急性期入院医療に係る診断群分類別包括評
価(DPC)の診断群分類,包括範囲等の見直
⑤
小児医療
専門的な小児入院医療や新生児・小児救急
しを行う。
・DPC 導入の影響の検証を引き続き行うとと
もに,調査協力医療機関についても本支払
い方式を試行的に適用してデータ収集の拡
大を図り,その評価を検証する。
医療体制等に対する評価の充実を図る。
○
専門的な小児入院医療の評価
・小児入院医療管理料の在院日数要件や複数
病棟での算定の要件の見直し
小児入院医療管理料1
14日以内
②
集中的な治療病室の評価
○
ハイケアユニット入院医療管理料の新設
160
160(510)
等
・新生児入院医療管理加算
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
→
21日以内
250点
○
→
・在宅患者訪問看護・指導料の加算
750点
1日2回訪問の場合
小児に対する時間外診療体制の評価
→
800点
・(老人)訪問看護基本療養費の加算
乳幼児を診療する場合は,当該保険医療機
1日2回訪問の場合
関の診療時間であっても,時間外加算等を
2,500円
算定可能とする。
→
4,500円
→
8,000円
1日3回以上訪問の場合
乳幼児の時間外加算
102点
→
115点
(新設)
等
・地域連携小児夜間・休日診療料の算定要件
○
在宅で点滴治療を必要とする患者に係る主
治医の訪問看護師等への指示の評価
の見直し
・在宅患者訪問点滴注射管理指導料(1週に
24時間対応→夜間・休日の定められた時
つき)
間に対応
(新設)
(対応可能時間が地域住民に周知されているこ
○
と)等
→
60点
在宅訪問リハビリテーション指導管理料の
要件の見直し
⑥
精神医療
○
医療保護入院等における適切な処遇の確保
・言語聴覚士が訪問した場合を算定要件に追
加
を評価
医療保護入院等の患者に対する精神保健指
定医の計画的な治療管理の評価を行う。
・医療保護入院等診療料(入院中1回)
(新設)
→
300点
※算定要件
・院内に患者行動制限最小化委員会を設
置していること
等
精神科包括評価病棟における標準的薬物治
療の評価
(2)
医療機関等の機能に応じた評価
①
入院医療
○
臨床研修機能の整備に伴う医療の質の向上
の評価
平成16年度からの新医師臨床研修制度の導
入に併せて,臨床研修機能の整備に伴う医療
の質の向上を評価する。
・臨床研修病院入院診療加算(入院初日)
(新設)
精神科の包括評価を行っている病棟におけ
しくはこれに相当する大学病院で研修
・特定抗精神病薬治療管理加算(1日につき)
→
医が研修している病院であること
10点
・診療録管理体制加算を算定しているこ
精神科入院患者の地域への復帰支援と在宅
と
医療の評価
・研修医の診療録の記載について指導医
・精神科退院前訪問指導料の訪問回数増と複
が指導・確認する体制がとられている
数職種による訪問の評価
・精神科訪問看護・指導料における複数名の
訪問の評価
・精神科デイケア等の実施回数の見直し
30点
・単独型又は管理型臨床研修指定病院若
う。
(新設)
→
※算定要件
る非定型抗精神病薬を用いた治療の評価を行
○
450点
(新設)
小児科を標榜する医療機関で6歳未満の
○
→
1日3回以上訪問の場合
・小児の外来の時間外加算の評価の見直し
初診時
250点
こと
○
等
有床診療所の入院の評価の充実
有床診療所の入院について,夜間緊急時の
対応体制の強化の観点から,評価の充実を行
⑦
在宅医療
う。
○
末期がんや神経難病等の患者に対する1日
・有床診療所入院基本料Ⅰ群1について,医
複数回訪問看護の評価の充実
師数が2人以上で夜間に看護職員を配置し
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
161(511
)
161
ている場合に加算
(新設)
→
○
40点
診療計画等の作成と患者への説明に対する
評価を充実する。
②
外来医療
○
初診の評価の充実
(再掲)
・褥瘡患者管理加算
(再掲)
初診時における診察や患者への説明の重要
・特定抗精神病薬治療管理加算
性を踏まえ,初診料の評価の見直しを行う。
・初診料
○
病院の場合
250点
→
255点
診療所の場合
270点
→
274点
(2)
患者による選択の重視
○
外来診療料の見直し
・15歳未満の患者,小児慢性特定疾患治療研
外来診療の医療機関の機能分化と請求事務
究事業の対象患者,育成医療の対象患者を
の簡素化の観点から,外来診療料の包括範囲
適用除外要件に追加
を拡大する。
・外来診療料
68点
→
72点
4
尿検査,糞便検査及び血液形態・機能検
その他
○
査について包括範囲を拡大
(3)
特定地域への対応
離島等の特定地域における物流コスト等の
その他のコストの適切な評価
①
特定療養費制度について180日超入院の適
用除外要件の見直しを行う。
評価を行う。
・離島等の特定地域における酸素価格の特例
医療安全対策の適正評価
特段の事情がある場合には実態に応じた
褥瘡対策について,従来の未実施減算を見
価格で償還する
直すとともに,ハイリスク患者等に対する診
等
・入院基本料に係る離島加算(1日につき)
療計画の作成や必要な器具の整備等について
(新設)
加算評価を行う。
・褥瘡患者管理加算(入院中1回)
(新設)
→
②
検体検査,画像診断等の適正化
○
市場実勢価格を踏まえた検体検査料の適正
調
剤
(省略)
1
かかりつけ薬剤師の役割を踏まえた情報提
供・服薬管理指導等の評価
化と緊急時の院内検査体制の評価
30点 →
40点
・検体検査管理加算(Ⅱ) 250点 →
300点
○
科
18点
20点
・褥瘡対策未実施減算の要件の見直し
・検体検査管理加算(Ⅰ)
歯
→
(1)
薬剤服用歴管理・指導の適正評価
かかりつけ薬剤師として,より一層の綿密な
画像診断の評価の見直し
710点
指導を行うことにより医薬品の適正使用を推進
・特殊 MRI 撮影(頭部) 1,760点 →1,500点
する観点から,特別指導の適正化及び重点評価
・画像診断管理加算1
48点 →
58点
を行う。
・画像診断管理加算2
72点 →
87点
・特殊 CT 撮影(頭部)
715点 →
・特別指導加算
月1回目
等
月2回目以降
3
患者の視点の重視
(1)
情報提供の推進
・麻薬管理指導加算
(2)
30点
→
28点
25点
→
26点
5点
→
8点
薬剤情報提供の適正評価
手術の施設基準を見直し,医療機関の診療
かかりつけ薬局・薬剤師機能を強化し,継続
実績等に関する院内掲示及び患者への説明を
的に薬剤を服用する患者にとって特に重要な相
充実する。
互作用(飲み合わせ)等の情報の手帳(いわゆ
○
162
162(512)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
る「おくすり手帳」
)への記載を充実することに
より,より一層の適正使用の推進を図る。
・薬剤情報提供料1
(3)
15点
→
17点
3
調剤技術の適正評価
(1)
長期投薬の処方実態を踏まえた調剤料の見
直し
長期投薬の処方実態を踏まえた薬剤管理及
・内服剤(1剤につき)(3剤まで)
び情報提供等の評価
14日分以下の場合
7日目以下の部分(1日分につき)
従来の投薬期間の制限が撤廃され,長期投薬
5点
が処方されている実態に鑑み,患者の安全性確
4点
→
4点
→
70点
→
80点
90点
→
88点
95点
→
88点
う。併せて,長期にわたる保存の困難性などか
15日分以上21日分以下の場合
ら,分割して行う調剤についても評価する。
15点
→
18点
・長期投薬情報提供料2
25点
→
28点
70点
22日分以上30日分以下の場合
80点
・調剤基本料(分割調剤)
(新設)
2
→
31日分以上60日分以下の場合
5点
保険薬局の機能に応じた調剤基本料の評価
1月の処方せんの受付回数及び特定の保険医
療機関に係る処方せんによる調剤の割合によ
61日分以上の場合
(2)
医薬品の特性に応じた調剤技術の評価
漢方薬の浸煎剤等については,調剤日数及び
り,4区分に分けられている調剤基本料につい
剤に基づく調剤料と製された製剤の形態が必ず
て見直しを行う。
しも相関していないことから,調剤料と加算か
・調剤基本料(処方せん受付1回につき)
調剤基本料(Ⅰ)a
調剤基本料1
(処方せん受付回数が月
(処方せん受付回数が月
4,000回以下,特定の医療
4,000回以下,特定の医療
機 関 の 処 方 せ ん 70 % 以
機 関 の 処 方 せ ん 70 % 以
下)
調剤基本料2
調剤基本料(Ⅰ)b
44点
(処方せん受付回数が月
4,000回超,特定の医療機
らなる仕組みの見直しを行う。
49点
49点
下)
①
39点
(例)15日分の場合
(処方せん受付回数が月
③
一包化加算(1週間毎)
4,000回超,特定の医療機
○
調剤料
関の処方せん70%超)
調剤基本料3*
・浸煎薬(新設)
39点
に係る処方せんによる調
機関の処方せん70%超)
剤の割合の合計が80%以
下の場合は49点
21点
4,000回超,特定の医療機
廃止
→
105点
→
廃止
30点
→
廃止
120点
→
120点
(1調剤につき算定(3調剤まで))
(*)処方せん受付回数
4,000回以下,特定の医療
→
(1調剤につき算定(3調剤まで)
)
・湯薬(新設)
外の場合)
の多い上位3の医療機関
(処方せん受付回数が月
70点
自家製剤加算(浸煎剤,湯剤)
(例)乳幼児用製剤の場合
21点
(処方せん受付回数が月
調剤基本料(Ⅱ)b
調剤料
②
関の処方せん70%以下) → (調剤基本料1及び2以
調剤基本料(Ⅱ)a*
5点
8日目以上の部分(1日分につき)
保に係る情報提供等についてさらなる評価を行
・長期投薬情報提供料1
→
・一包化薬(新設)
→
97点
(1週間分ごと)
4
在宅医療における薬剤管理指導の評価
在宅のがん末期患者や居宅において中心静脈
栄養療法が施されている患者について,患者
関の処方せん70%超)
個々の病態に合わせた在宅医療の充実を図る観
(*)処方せん受付回数
点から,在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定回
が 月 600 回 以 下 の 場
数について見直しを行う。
合は44点
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
163(513
)
163
(1)
・在宅患者訪問薬剤管理指導料
月の1回目
500点
月の1回目
500点
診断群分類毎の1日当たり点数は入院日数
に応じて3段階の点数を設定。
(診断群分類の
月2回目以降(4回まで) 月2回目以降(4回まで)
→
300点
300点
入院日数の25パーセンタイル値まで平均点数
に15%加算し,平均在院日数を超えた日から
(がん末期患者及び中心
前日の点数の85%で算定。ただし,悪性腫瘍
静脈栄養療法対象患者に
に対する化学療法等の短期入院の分類につい
ついては,週2回かつ月
ては,25パーセンタイル値までの15%加算を
8回までに限り算定。)
――――――――――◇―――――――――――
診断群分類毎の1日当たり点数
○
5パーセンタイル値までに繰り上げて加算
し,算定)
(2)
急性期医療に係る診断群分類別包括評価(DPC)に
医療機関別係数
○
ついて
医療機関別係数は次の①と②を合算したも
1.
の。
①
対象病院
○
臨床研修病院入院診療加算等)等を係数にし
大学病院,国立がんセンター,国立循環器
たもの
病センター(計82病院)
2.
②
調整係数
対象患者
○
・診断群分類による包括評価に係る医療費が
一般病棟の入院患者であって,傷病名等が
平成15年7月∼10月の医療費の実績に等し
診断群分類に該当するもの。ただし,以下の
くなるように各医療機関ごとに設定する調
ものを除く。
整係数。
入院後24時間以内の死亡患者,生後7日以
(3)
その他
①
内の新生児の死亡,治験の対象者,臓器移植
特定入院料の取り扱い
患者,高度先進医療の対象患者,回復期リハ
・救命救急入院料等の急性期の特定入院料の
ビリテーション病棟入院料等の算定対象患
算定対象の患者については,診断群分類に
者,その他厚生労働大臣が定める者
よる包括評価の対象とし,所定点数の加算
3.
を行う。
診療報酬の額
②
診療報酬の額は,以下に掲げる額の合計額とす
入院期間が著しく長い場合の取り扱い
・入院期間が診断群分類毎の特定入院期間
る。
(1)
(平均在院日数から標準偏差の2倍)を超え
診断群分類による包括評価
○
た場合,その超えた日以降は,出来高によ
診断群分類毎の1日当たり点数×医療機関
り算定する。
別係数×入院日数×10円
(2)
5.
出来高評価
○
診療報酬の請求
○
入院基本料加算(入院時医学管理加算等を
退院時の診断群分類が入院中のものと異な
除く),指導管理,リハビリテーション,精神
る場合には,退院時に診療報酬差額を調整す
科専門療法,手術,麻酔,放射線治療,選択
る。
的動脈造影カテーテル手技,病理診断,病理
学的検査判断,心臓カテーテル法による諸検
査,内視鏡検査,診断穿刺,処置(1,000点以
上のもの)について,出来高により算定した
額
4.
入院基本料等加算(入院時医学管理加算,
実施時期等
(1)
実施時期
○
(2)
平成16年4月1日
その他
○
診断群分類による包括評価の算定方法
164
164(514)
6.
新たな算定方式の導入時に既に入院してい
た患者については,4月1日をもって新たな
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
算定方式に切り替えることとする。
診断群分類の見直しについて
1日当たり点数の設定の見直しについて
○
化学療法などの一部の診断群分類について診
断群分類毎の1日当たり点数の設定を見直し。
(診断群分類の見直しについて)
○
臨床専門家により構成される診断群分類調査
研究班における見直し案の報告及び DPC 対象病
院における平成15年7月から10月の退院患者に
急性期医療に係る診断群分類別包括評価の試行適
用の範囲について
急性期医療に係る診断群分類別包括支払い方式
係る調査(29.3万人分のデータ)に基づき診断
については,再入院率や退院先転帰,患者満足度
群分類の見直しを実施。
・抗 TNF 抗体,大量γグロブリン療法などの
高額な薬剤・医療材料等への対応
等様々な角度からの導入影響に関する評価が重要
である。
したがって,大学病院に加え調査協力医療機関
・合併症による分類の精緻化
・重症度による分類の精緻化
(見直し前)
(データ収集を行っている医療機関)について本
等
(見直し後)
16主要診断群(MDC) →16主要診断群
575疾患
→591疾患
支払方式を試行的に適用して,データ収集の拡大
を図り,その評価を検証する。
【案】
1,860診断群分類(告示)→
1,727診断群分類(告示)
1.
対象医療機関
調査協力医療機関(92医療機関)のうち一定
(診断群分類ごとの包括評価について)
○
の基準を満たすもの。
見直し後の診断群分類のうち1,727の診断群
一定の基準:DPC に対して協力する意思の
分類について,1日当たりの包括評価の診療報
ある医療機関
酬点数を設定。
データ/病床比が概ね3.5以上
・1日当たりの平均点数:2,718点/日
データの質が確保されている
※包括評価対象患者の包括範囲の点数
こと
2.
比較評価事項
再入院率等「DPC 導入の影響評価に関する調
査」
(中間報告)にある評価項目について調査・
評価を行う。
3.
比較データの取り扱い
比較データを1年ごとに中医協基本問題小委
員会に報告する。
4.
試行期間
平成16年4月から平成18年3月まで
5.
その他
各医療機関における DPC 比較調査研究担当責
任者の配置および DPC 調査専門組織分科会の体
制強化等について,引き続き検討する。
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)
165
166
166(516)
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
報酬との整合性も図りつつ,引き続き,検討を
平成16年2月13日
行うこと。
厚生労働大臣
坂口
力
殿
4
外来医療については,病院の外来の在り方を
中央社会保険医療協議会
会長
星野
含め,病院・診療所間等の機能分化と連携強化
進保
を推進し,初診料・再診料体系の見直し等,外
来医療の在り方について,引き続き,検討を行
うこと。
答申書
平 成 16 年 2 月 13 日 付 け 厚 生 労 働 省 発 保 第
5
歯科診療報酬については,口腔機能の維持・
増進に資する効率的な歯科医療技術の評価の在
0213001号をもって諮問のあった件については,諮
り方について検討するとともに,かかりつけ歯
問のとおり改正することを了承する。
科医の機能の充実改善,情報提供の充実等,患
なお,答申に当たっての本協議会の意見は,別
者サービスの一層の向上に向けて,体系的な検
添のとおりである。
討を行うこと。
(別添)
1
「患者中心で質が良く安心できる効率的な医
6
調剤報酬については,医薬分業の進展を踏ま
え,調剤基本料の区分,
「剤」に基づき算定する
療を確立する」という基本的な考え方に沿って,
調剤料や,かかりつけ薬剤師の機能等の保険薬
診療報酬調査専門組織も活用し,医療の質や安
局の機能について,体系的な検討を行うこと。
全の確保等に要するコストの評価の在り方,簡
素化・合理化や IT 化対応等を含めた診療報酬体
7
今回新たに導入したハイケアユニット及び亜
急性期入院医療,地域連携小児夜間・休日診療
系の改革について,引き続き,検討を行うこと。
2
料等について,その実態の調査・評価を行うこ
急性期入院医療については,DPC や手術の施
と。
設基準などについて,必要なデータの整備や分
析体制の強化等を図り,その評価の検証を行う
8
後発品の使用環境の整備の在り方について,
引き続き,検討すること。
こと。
3
慢性期入院医療については,患者の特性等に
応じた包括評価について,介護保険制度・介護
9
医療経済実態調査,薬価調査等の改善につい
ても,引き続き,検討すること。
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
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)
167
診療報酬改定に伴う説明会の開催について
1.
2.
開催要領
日
時
(東京)共
催
(社)日本病院会,全国公私病院連盟
(神戸)主
催
(社)日本病院会
後
援
兵庫県病院協会,(社)兵庫県私立病院協会
(東京)平成16年3月10日(水)午後1時30分∼4時30分
*受付開始
午後12時より
(神戸)平成16年3月11日(木)午後1時∼4時
*受付開始
3.
会
場
午前11時30分より
(東京)東京国際フォーラム「ホールA」
東京都千代田区丸の内3−5−1
TEL
03-5221-9000
交通:JR 有楽町駅から徒歩1分
地下鉄有楽町線有楽町駅とBⅠ地下コンコースにて連絡
日比谷線銀座駅から徒歩5分/日比谷駅から徒歩5分
(神戸)ワールド記念ホール
兵庫県神戸市中央区港島中町6−12−2
TEL
078-302-8781
交通:JR 三ノ宮駅からポートライナー(市民広場駅下車)で10分
関西国際空港からリムジンバス(三宮乗換え)ポートライナーで80分
4.
講
師
5.
参 加 費
厚生労働省保険局医療課担当官
※支払方法が,東京会場と神戸会場は異なります。
(東京会場)
郵便振替で事前にお振込みいただきます。
(神戸会場)
当日会場で申し受けます。
・当日は混み合う事が予想されますので,釣銭のないようご協力ください。
※参加費は,白表紙本代「点数表改正点の解説」込み,DPC 関連は含みません。
1)会員病院
お一人
8,000円
①日本病院会会員の方
②全国公私病院連盟会員の方
2)非会員病院
168
168(518)
お一人
10,000円
日本病院会雑誌2004年3月
2004年3月
日本病院会雑誌
6.
定
員
(東京会場)3,000名
(神戸会場)3,000名
7.
申込方法
※申込方法が,東京会場と神戸会場は異なります。
定員になり次第,締切日前でも締め切りますのご留意ください。
(東京会場) 参加申込書に必要事項をご記入の上,3月1日(月)までに全国公私病院連盟事
務局までFAXでお申込みください。参加のお申込み受付後,全国公私病院連盟
からファックス送信者に受講票による出席および会費の振込み方法のご案内を
送付いたします。
全国公私病院連盟事務局(TEL
FAX
03-3402-3891)
03-3402-4389
(神戸会場) 参加申込書に必要事項をご記入の上,3月2日(火)までに日本病院会事務局に
FAX及び日病ホームページ上よりお申込みください。
(日病ホームページ
http://www.hospital.or.jp/
の「研究会・セミナー」か
らお申込みいただけます。)
日本病院会事務局(TEL
FAX
020-4669-8066
FAX
020-4669-8051
FAX
03-3230-2898
03-3265-0077)
以
上
※申込受付は,東京会場は全国公私病院連盟,神戸会場は日本病院会が担当します。
□東京会場(担当:脇田)
FAX:03-3402-4389
□神戸会場(担当:一之瀬)
FAX:020-4669-8066
020-4669-8051
03-3230-2898
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169)
3月研究会のお知らせ
事務長セミナー
主
催
社団法人
日
時
平成16年3月10日(水)
日本病院会
10:00∼17:00
3月11日(木)
9:30∼12:00
会
場
笹川記念会館
4階「鳳凰の間」
東京都港区三田3−12−12
電話
03−3454−5062(代)
―― プログラム ――
第1日目
3月10日(水)
10:00∼17:00
講演「DPC を活用した病院マネジメント」
産業医科大学公衆衛生学教授 松田
晋哉
三宅
祥三
石垣
修一
日本大学商学部教授
高橋
淑郎
石井公認会計士事務所所長
石井
孝宜
国立保健医療科学院経営科学部長
小山
秀夫
講演「安全管理体制の構築に向けて」
武蔵野赤十字病院院長
講演「これからの給食管理(セントラルキッチン方式)」(仮題)
社会福祉法人こうほうえん法人本部副本部長
講演「バランスト・スコアカードによる病院経営」(仮題)
第2日目 3月11日(木)
9:30∼12:00
講演「病院会計準則適用への対応」
講演「診療報酬改定と病院経営」
170
170(520)
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