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80
No.
[企画]みんなの体育編集委員会
体育の時間の「気になる子」への配慮
筑波大学附属小学校教諭
清水
由
『みんなが輝く やさしいベースボール型授業』の活用
一般社団法人日本野球機構(NPB)
シリーズ 29 基本の運動で使える楽しい運動遊び
走・跳
の運動
小型ハードル走の学習指導について考える⑴
信州大学教育学部准教授
渡辺 敏明
体育の時間の「気になる子」への配慮
筑波大学附属小学校教諭
1
体育授業の「気になる子」
清水
由
験できなかったとも考えられます。
もう一つ,違った観点からの「気になる子」がい
「先生!できないよ。どうしたらいいの?」授業
ます。勝敗のある場面でムキになりすぎたり我慢が
の 中 で こ ん なことを言ってくる子はいないでしょ
できなかったりして他の子とすぐけんかになってし
うか?
このような子にどう返すかは先生の考え方
まう子。じっとしていることができず,虫を追いか
しだいですが,教師として,「まだできない子」に
けたり穴を掘ったりして他の子から注意を受けるこ
できるようになってほしいと願うことは共通の思い
との多い子。このような「気になる子」は,クラス
ではないでしょうか。なかなかできるようにならな
に何人かいるのではないでしょうか。このような子
い子が,すでにできている子よりも「気になる」か
は,発達的な課題を持つ可能性が考えられる子です。
ら何とかしてあげたいという思いを持つのは,教師
これからの体育授業は,技能水準の高低や発達的な
として当然のことなのかもしれません。
課題や障害の有無といった大きな差に関わらず,運
でも,私がここで注目したい「気になる子」とい
うのは,
「まだできていないから,何とかできるよ
うになりたいと思って頑張っている子」だけではあ
りません。もちろん,そういった子への配慮も必要
ですが,体育授業で注目しなければならない「気に
なる子」とは「自分ができないことがわかっている
から,運動そのものに積極的に関わろうとしない
動に対して苦手意識を持つ子を含み込んだ授業づく
りをしていくことが求められます。
2
「気になる子」へ配慮した
授業づくり
「気になる子」へ配慮した体育の授業づくりでは,
次の三つの視点を大事にしていきたいと思います。
子」ではないかと思っています。これまでの体育授
業を中心とした運動経験の中で,「できない」とい
① 基礎感覚づくりを大切にする
うことを繰り返してきた子です。「できない」を繰
②「できた」の基準を易しくする
り返してきたのには,さまざまな原因が考えられま
③ 友達や教師と関わることで「できる」
すが,根本は,楽しい運動経験(頻度や量)の不足
ではないでしょうか。それは,体重が重くて負荷が
あらゆる運動に,その動きの基礎となる感覚が「で
大きいことから経験が不足していったとも考えられ
きる」ためには必要です。例えば,逆立ちをするには,
ますし,幼少期に大事に守られ過ぎていたり,思い
逆さの姿勢でいる感覚(逆さ感覚),逆さの姿勢の
切り運動できる環境になかったりといったことで経
まま腕で全身の体重を支える感覚(腕支持感覚),
その姿勢を保持して止まっている感覚(体幹の締め
を積み重ねていく必要もあります。逆立ちの例を続
感覚)が必要となります。
けますが,よじ登り逆立ちができた後に,次の①〜
こ れ ら の 感 覚 が な い と,
③の運動が考えられます。
途中で倒れてしまったり
①頭着き壁逆立ち(お手伝い→1人で)
反射的に体が危険を感じ
て丸まってしまったりし
て,その姿勢になること
すらできません。
⇨
これらの基礎感覚を身に付けるためには,誰にで
もできる簡単な動きでそれらの基礎感覚を意図した
運動を潤沢に行っておく必要があります。例えば,
逆立ちへつながる基礎感覚を養う動きとして,次の
②引っぱり逆立ち
③壁逆立ち(お手伝い→1人で)
①〜⑥のような運動を行います。
①クマさん歩き
②カエルの足打ち
③アザラシ歩き
④ウサギ跳び
⇩
このような誰でもできる運動から「スモールス
⑤手押し車
⑥よじ登り逆立ち
テップ」で「できる」経験を積み重ねていくことは,
「運動そのものに積極的に関わろうとしない子」に,
自分にもやればできる力があるという有能感を持た
せることができます。また,友達や教師の補助で「で
きる」ことを合格にすることで,多くの子が「でき
た!」と感じることができます。逆立ちは,逆さ姿
勢で腕で支持して止まっていることができればよい
わけですから,補助で持ち上げてもらっても,10
これらの運動は,先述した「気になる子」であっ
秒間姿勢を維持できれば合格といえるのです。簡単
ても何回か行えばすぐにできる運動です。これらの
だと思う子がいれば,その先の課題を示してあげれ
運動をゲーム化して楽しく繰り返し取り組むことで
ばよいわけで,共通の課題としては,友達や教師の
基礎感覚が養われます。基礎感覚が養われていれば,
補助で「できる」ので十分です。さらに,友達と関
逆立ちを行おうとすると「できるような気がする」
わり合いながらできるようになることで「友達のお
のです。ただし,これらの運動をしたら,すぐ逆立
手伝いがあったからできるようになった」「お手伝
ちができると思ってはいけません。基礎感覚は体に
いをしていた友達ができるようになって自分のこと
染み込むように養われていくものなので,一定期間
のようにうれしい」という思いをもたせることがで
は必要です。また,目指す運動の「類似の運動」を
きるのです。そこには信頼関係が生まれ,集団とし
経験させて「スモールステップ」で「できる」経験
ての高まりが見られるようになります。発達的な課
(イラスト:
『気になる子の体育 つまずき解決 BOOK』より)
題を持つ可能性のある子にとっても,その
ような信頼関係はうれしいものなのです。
通常学級の体育で気になる 52 の場面に,
著者が実践している解決プランを厳選紹介。
運動ができるようになるためのコツ,教材の
工夫,発達障害のある子への配慮など,みん
なが満足感を味わえる授業のヒントが満載。
このたび,『気になる子の体育 つまず
き解決 BOOK −授業で生かせる実例 52』
が発刊されました。ぜひ,ご覧ください。
新 刊(2015 年 8 月刊)
気になる子の体育
▪お問い合わせ:
㈱学研教育みらい
学校教育事業部
TEL03-6431-1151
つまずき解決 BOOK 授業で生かせる実例 52
監修:阿部 利彦
編著:清水 由,川上 康則,小島 哲夫
▪定価:本体 1,800 円+税
「学研 学校教育ネット」
:
http://gakkokyoiku.
gakken.co.jp/
日本野球機構発行
『みんなが輝く やさしいベースボール型授業』
の活用
一般社団法人日本野球機構(NPB)
1
はじめに
そこで,プロ野球 12 球団と NPB は,先生方が
「ベースボール型」授業を気軽に行うための手助け
本稿では,2015 年4月に,一般社団法人日本野
や環境づくりを目指し,今回の指導用教材を制作し
球機構(以下,NPB という)が発行しました『み
ました。指導用教材は小学 3 〜 6 年生の授業を対象
んなが輝く やさしいベースボール型授業』(DVD
とし,イラストを豊富に用いて学年ごとの進め方な
付き)について紹介します。この指導用教材は,全
どを丁寧に紹介しています。また,付属の DVD で
国の小学校及び各教育委員会に無償配布されてお
は実際に授業を行っている場面を収録し,動作や児
り,主として小学校の先生方に,体育の授業で活用
童への言葉かけなどの指導ポイントをわかりやすく
してもらうことを目的としています。
確認することができます。
現行学習指導要領においてさまざまな運動種目が
例示されているボール運動系は,種目固有の技能で
2
はなく,攻守の特徴や「型」に共通する動きや技能
髙橋(2009)は,「ゴール型」「ネット型」「ベー
を身に付けるという視点から,
「ゴール型」
「ネット型」
「ベースボール型」ゲームの展開
3)
スボール型」のそれぞれにおいて,子どもたちの能
「ベースボール型」
に分類されています。
「ベースボー
力レベルにマッチした素材を発掘することや,学習
ル型」授業では,捕る・投げる・打つ・走るなどの
内容の習得に効果的な易しい下位教材を開発するこ
多様な運動を経験することができ,加えて,特有の
とが,今後の重要な課題となるだろうと述べていま
“間”を教材として上手に活用することで,考える力
す。そこで,体育科教育の専門家である筑波大学,
や課題を解決する力を養うことが期待できます。
一方で,技能の格差や運動量の少なさ,安全面の
東海大学,日本体育大学,東京学芸大学,東京学芸
大学附属小金井小学校の先生方に監修をお願いし,
確保,
施設・設備の問題などの理由で,先生方は「ベー
今ある力で楽しむことができる易しいルールを考案
スボール型」授業に不安や悩みを抱えていると伺っ
しました。「バックホームゲーム」(p.4 資料1)は,
ています。また,昨今では子どもの体力・運動能力
攻撃側・守備側ともに難しい判断要素はなく,学年
の低下が深刻化し,その中でも投力の低下は著しく,
に関わらず,初めて「ベースボール型」授業を行う
懸念要因は一層増幅しているといえるでしょう。
際には有効です。また,攻撃手段を「下投げ」「上
投げ」
「バット」から選択することができ,児童の
プレーゲーム」,そして,走者が塁に残るなど,総
実態や学校の環境に応じて,ゲームの難易度を調整
合的な判断が必要となる「ホームインゲーム」へと
することが可能です。
発展します。このような段階を踏むことで,それぞ
資料
1
れで必要な知識や技能を学習することができ,小学
校から高等学校までを見通した無理のないプログラ
ムとして理解いただけると考えています。また,基
準となる「バックホームゲーム」の難易度が高いと
感じる場合は,攻守における判断と投動作の場面が
なく,豊富な運動量を確保することができる「キャッ
チ&ランゲーム」が有効です。野球やソフトボール
といった競技の正式ルールにこだわらず,児童の実
なお,
「ベースボール型」授業に不安がある場合は,
「具体的な単元計画案」
(資料2)を参考にしてくだ
さい。導入段階では打者の攻撃手段として,下から
態に合わせたルールを採用し,とにかくゲームを楽
しんでもらいたいと考えています。
ボールを投げ,次に上から思い切り遠くに投げます。
3
ルールに慣れてきたところでバットを使用し,最終
ゲームのほかにも,指導用教材では「ベースボー
的にリーグ戦などを行うと,段階的に「ベースボー
ル型」特有の捕る・投げる・打つという 3 つの技能
ル型」の特性や魅力を味わうことができます。
を習得するために,さまざまな準備運動及びドリル
資料2
を紹介しています。性別や野球経験の有無に関わら
準備運動・ドリルの紹介
ず,無理なく楽しみながら取り組むことができるよ
う,難しい表現は一切使用していません。例えば,
ワニの口のように「パクッ」と捕る,手の甲で頭を
4)
「とんとん」する(資料4),腰を「くるっ」と回転
加えて,藤田(2013)が指摘するように,学び
するなど,擬音語・擬態語を用いて指導することが
やすいゲームという発想を持ちながら,野球やソフ
できます。また,それぞれのプログラムにおける指
トボールといったいわゆる「既存の種目」につなげ
導のポイントや留意点,効果的な言葉かけ,意欲を
ていくことを視野に入れて,中学校から高等学校段
高める工夫なども記載していますので,参考にして
階におけるゲーム教材の創出にも目を向けていく必
ください。その他,巻末には「ベースボール型の遊
要があるでしょう。そこで,
「バックホームゲーム」
び」や「投力向上プログラム」なども紹介しています。
を基準として,既存の種目へつなげていくための特
低学年の授業や休み時間の遊びとしても活用できる
性や要素を整理し,計画的にステップアップさせた
ヒントがあると思いますので,ぜひご覧ください。
ルールを考案しました。その系統化したプログラム
資料4
を図式したものが「ベースボール型」ゲームの展開
(資料3)になります。
資料3
4
おわりに
先生方が積み重ねてこられた経験や研究,創意工
夫と今回の指導用教材を照らし合わせながら,児童
の実態や学校の環境に応じたよい授業が展開される
ことを願っています。また,学校体育における「ベー
スボール型」を通して,いわゆる「野球遊び」や「野
まず,
守備側の判断が必要となる「フォースプレー
球ごっこ」がわが国の文化として定着するよう,教
ゲーム」
,続いて,攻撃側の判断も加えた「タッチ
員向けの授業研究会などを積極的に開催し,先生方
と情報交換できる機会を設け,よりよい教材を追求していきたいと思い
ます。今後はプロ野球 12 球団と NPB はもちろんのこと,BC リーグ,
四国アイランドリーグ plus などの独立リーグやアマチュアも含めた球
界全体として,さらには日本ソフトボール協会などとも連携・協働し,
学校体育における「ベースボール型」授業の支援活動を進めていきたい
と考えています。
【参考文献】
1)日本野球機構『みんなが輝く やさしいベースボール型授業』
(制作:
学研教育みらい)
,2015
2)文部科学省『小学校学習指導要領解説 体育編』東洋館出版社,
2008
3)髙橋健夫「こう変えなければならないボール運動・球技の授業」『体
育科教育』大修館書店,2009.4
4)藤田育郎「ベースボール型ゲームの授業づくりをめぐる今日的課題」
『体育科教育』大修館書店,2013.10
シリーズ 29
【問い合わせ先】
一般社団法人日本野球機構
[email protected]
基本の運動で使える楽しい運動遊び
(注)
:シリーズ名の「基本の運動」は,旧学習指導要領における運動領域名です。
走・跳の運動
小型ハードル走の学習指導について考える⑴
信州大学教育学部准教授
1
渡辺 敏明
運動組み合わせになじませることが大切になりま
はじめに
す。この動き方を子どもの運動感覚から見ると,
「跳」
小型ハードル走は,並べられた小型ハードルを走
には,走りの中で「着地後の走り出しを先取り」し
り越えていく動き方そのものの学習に楽しさがあ
ながら,「障害物に足を合わせて踏み切る(跳ぶ)」
り,
「走って・跳んで・走る」という動き方の要領
という2重の先読み能力が必要になることが分かり
を身に付けさせてあげることで,誰もが調子よく走
ます。そのため学習指導では,並んだ小型ハードル
り越えたり,スピードに乗って競走する活動に夢中
をゴールに向かって走り越えていくための先読み能
になって取り組んでくれるものです。
力(カン)を育てるという視点が大切になるのです。
しかし一方で,障害物を走り越えていくという非
教材づくりで注意したいのは,やさしくハードル
日常的な動き方は,子どもに違和感や怖さを感じさ
を跳ばそうとしてフープなどの目印で踏み切りや着
せてしまうため,連続して走り越えられないことが
地位置を指定すると,子どもは2重の先読みに加え
多くあります。そのため,子どもが初めて取り組む
て足の置き場所まで意識しなければなりませんか
小型ハードル走の授業では,ハードルの走り越えを
ら,結果的に運動を難しくしてしまうことです。ハー
可能にしている能力性(コツとカン)の学習指導か
ドル走研究の成果から伊藤先生も指摘しているよう
ら始めることが大切になるのです。
に,「異なる身長や能力をもった生徒を対象とする
7)
そこで本稿では,子どもの運動感覚(動感意識)
4)
授業で,ハードルの踏み切りと着地位置を画一的に
に寄り添ったスモールステップの教材を紹介しなが
指定し,意識させるべきではない」ことに注意して
ら,子どもも教師の皆さんにも楽しく取り組んでも
おきましょう。
らえる小型ハードル走の学習指導について一緒に考
えていきたいと思います。
第二に,ハードル間のインターバルを3歩の助走
で行わせることが大切になります。学校体育では,
自分の身体能力に応じてインターバルの距離を選択
2
ハードル走の学習指導ポイント
できます。インターバルは,図1のように概ね「3
初めてハードル走に取り組む子どもには,第一に
地足+4歩で踏み切る足が交互」「5歩:着地足+
「走って・跳んで・走る」という「走−跳−走」の
5歩で踏み切る足が一定」になります。一般にイン
歩:着地足+3歩で踏み切る足が一定」「4歩:着
【図1】
を育てる教材づくりの工夫が必要になるのです。そ
の上で,子ども同士の「こんな感じで動くと良いよ」
とか,「どんな感じでやっているの?」といった動
きの学習に焦点化した関わりを促していくことが,
学習指導において大切にされなければなりません。
3
小型ハードル走の教材づくり
学習の入り口では,並んだ小型ハードルを「止ま
らずに走り越える」ために必要な動きのコツとカン
を運動アナロゴンで育てます。特に,一定のインター
バルから始め,不規則に並ぶ人間ハードルリレーに
挑戦することで,足合わせのカンを働かせながら走
り越える感じをつかませます。
次に,そうした学習を土台として,いろいろな幅
ターバルが,4歩の場合は踏み切る足が交互に変わ
や高さの小型ハードルに「足を合わせること」
「走っ
るので動きがぎくしゃくすることが多くなり,5歩
て・跳んで・走る」という動き方を身に付けます。
では歩数が多いことで走り越えるスピードが遅くな
そのうえで,ハードル走の中心的な学習内容の一つ
ります。
である「3歩の助走」を,子どもに合わせた「トン・
インターバルの助走を子どもの運動感覚から見る
と,複数のハードルを走り越えるには動きのリズム
タタタ」の動きのリズムとしてつかませるためにシ
ンクロハードルの学習に取り組みます。
を再現しやすいことが重要ですから,3歩の助走が
こうしたハードルを走り越えるために必要な動き
安定した動き方であり,最もスピードに乗って走り
のコツやカンを身に付けさせた上で,
「自分に合っ
越えられる助走であると理解されます。3歩の助走
たインターバルを見つける」ことや,
「スピードに
は高学年のハードル走にもつながる大切な学習内容
乗って調子よく走り越える」という高学年のハード
ですから,その動きのリズムを確実に身に付けさせ
ル走にもつながる発展的な学習に取り組みます。
てあげたいものです。
それぞれの学習では,友達と一緒に取り組める課
第三に,誰もが楽しみながら動きの学習に焦点化
題で動きの学習を深める「学び合い」を工夫します。
できる教材に取り組ませることが大切になります。
こうした意味のある学習内容を教材として配置して
クラスには運動の得意な子も,あまり得意でない子
いくところに小型ハードル走の教材づくりの面白さ
もいます。学校体育では,そうした能力差のある子
があるといえます。
どもが一緒に楽しく取り組めて,個人のめあて(動
今号では,こうした教材構想からインターバルの
き方の学習)を持つことのできる教材が求められて
距離に応じたいろいろなリズムで小型ハードルを走
います。例えば,「短距離走とハードル走の同距離
り越えるための学習指導モデルとして,「止まらず
のタイム差の得点化(タイム差の短縮)からハード
に走り越そう」について紹介します。
ル走の技能に目を向けること」や,それをもとにし
た「グループ対抗」等があります。
こうした教材の楽しさの出発点を子どもの運動感
覚から見ると,練習によって記録向上を目指すこと
よりも,むしろ練習を通して「ゴールまで走り通せ
ること」
「自分がどう動いたら良いのか身体で分か
ること」
「友達と一緒に活動すること」であること
がわかります。従って学習指導では,誰もがやさし
く取り組める練習方法によって,違和感なくハード
ル走の学習に招き入れながら,
「走り越え方の要領
(コツ)
」とともに,
「走り越えの先読み能力(カン)」
(1)止まらずに走り越そう
①「走−跳−走」の動きの感じをつかもう
【行い方】
●初めの段階:その場でケンケン・スピードかけ足
①その場で片足ケンケンを 4 回行い,続けて腕を振りながらス
ピードかけ足を 8 回行います。ケンケンもかけ足も,素早く
弾むように行うことに挑戦します。足裏全体を着けた「べた
足」で行っている子どもには,つま先を中心に小さく跳ぶと
良いことをアドバイスします。
②慣れたら,交互にケンケンする足を代えて4回繰り返すこと
に挑戦します。「ケンケンケンケン,タタタタタタタタ(足
を代えて繰り返す)」と,友達と一緒に声を合わせて取り組
みます。
②人間ハードルリレーで走り越える感じをつかもう
〈ケンケンかけ足競走〉
〈基本のリレー〉
小さくす早く
進むといいよ。
スタート
スピードを落と
さず,かけ足に
手タッチ
なろう!
するよ!
・コーンの間隔は
3mを基準にし
ます。
2m
4m
3m
ゴール
●慣れた段階:ケンケンかけ足競走(上図)
①スタートラインに 6 〜 10 人程度で並びます。最初に,片
足ケンケンで移動する足を確認します(2回目からは左右交
互)。
②教師の合図「ヨーイ・ドン!」でスタートして,目安のライ
ンまで片足ケンケンで移動(競走)します。
③目安のラインに到達したら,かけ足でゴールまで移動(競走)
します。ケンケンからかけ足になる際にスピードを落とさな
いで走り出せると上手であることをアドバイスします。
〈またいで走ろう〉
止まらずに
走れるよ!
【行い方】
①2人組になり,ジャンケンで大の字寝になる子どもと,走る
役割の子どもを決めます。
②教師の合図でスタートし,手や足を走り越えて3周したら
「ゴール!」といって座ります。
③役割を交代して繰り返し挑戦します。走り越えでは,またぐ
ように走り越せると上手であること,両足着地にならないよ
う注意することをアドバイスします。
〈人間ハードル〉
5〜 10 m
【行い方】
①1チーム6人の班をつくります(人数がそろわない場合は,
2回走る人を決めておきます)。2チームできょうだい班を
つくり,ジャンケンで「ハードル役になる班」と「走る班」
を決めて,班対抗リレーを行います。
②ハードル役になる班の子どもは,3m 間隔に並べたコーンを
目安に長座をします。走る班の子どもは,走る順番を決めて
第1走者からスタートラインに並びます。
③第1走者は,教師の合図でスタートして長座ハードルを走り
越していきます。コーンを回って折り返し,再び長座ハード
ルを走り越してスタートラインまで戻り,次の走者と「手タッ
チ」で交代します。長座ハードルは,どちらの足から走り越
えてもよいことをアドバイスします。
④チームの最終走者が走り終えたら,「ゴール!」と言って全
員が座ります。全ての班が走り終えたら,1位の班から順に
立ち,みんなは「1位(○位)おめでとう!」の拍手で称賛
します。
⑤きょうだい班と役割を交代して,次のリレーを行います。
〈ジャンケン組み替えリレー〉
・隣同士でジャンケンを
します。
3回越えたから
ゴール!
⇩
【行い方】
①2人組になり,ジャンケンで長座になる子どもと,走る役割
の子どもを決めます。
②走る子は長座にかかとを着けて立ち,準備します(2回目か
らはスタート位置を逆側にして,交互に時計回りと反時計回
りを行います)。
③教師の合図でスタートし,座っている子どもの背中側から長
座を3回走り越えたら「ゴール!」と言って座ります。
④役割を交代して,繰り返し挑戦します。スピードに乗って走
り越せると上手であることをアドバイスします。
・ジャンケンで負けた子は,
逆側を向いて座り直します。
【行い方】
①基本のリレーに引き続いて行います(基本のリレーのきょう
だい班)。ジャンケンで「ハードル役になる班」と「走る班」
を決めて,班対抗リレーを行います。
②ハードル役になる班の子どもは,3m 間隔に並べたコーンを
目安に長座をします。ハードル役の子どもは隣同士でジャン
ケンをして,負けた子どもが逆側を向いて座り直し,インター
バルを変化させます。走る班の子どもは,走る順番を決めて
第1走者からスタートラインに並びます。
③第1走者は,教師の合図でスタートして長座ハードルを走り
越していきます。コーンを回って折り返し,再び長座ハード
ルを走り越してスタートラインまで戻り,次の走者と「手タッ
チ」で交代します。長座ハードルは,どちらの足から走り越
えても良いことをアドバイスします。
④チームの最終走者が走り終えたら,「ゴール!」と言って全
員が座ります。全ての班が走り終えたら,1位の班から順に
立ち,みんなは「1位(○位)おめでとう!」の拍手で称賛
します。
⑤きょうだい班と役割を交代して,次のリレーを行います。
人間ハードルリレーは,全ての子どもにハードル
を走り越えるコツとカンを育てる有用な教材である
だけでなく,子どもが友達と一緒に夢中になって活
動できる教材づくりの工夫です。
友達を走り越えることで,
「引っ掛かりたくない」
といった運動の意味が生まれます。同様にハードル
役の子どもも「踏まれたらどうしよう」と走り越え
てくる友達の動きに共感しながら見ることになりま
す。そのため「できた」
「やったね」
「がんばれ」と
いった歓声が自然とわき上がってくるのです。
ICT 教材
動できる場面を多く取り入れる中で,子どもたちに
自分自身(身体)への新たな発見や面白さを感じて
もらうことで,違和感なくさらなる学習へと招き入
れることが可能になると思います。
次号(81 号)では,こうした楽しい運動経験の
あり方を踏まえながら,ハードル走の中心的な学習
内容の一つである「3歩の助走」をつかませる「ト
ン・タタタのリズムで走り越そう」,また発展的な
学習として「スピードに乗って調子よく走り越そう」
として取り上げて考えていきます。
【引用参考文献】
1)池田延行・岩田靖・日野克博・細越淳二編著「新しい走・跳・投の
運動の授業づくり」『体育科教育 63 ⑺』大修館書店,2015
2)
「特集:ハードル走の授業を変える」
『体育科教育 61 ⑿』大修館書店,
2013
3)髙橋健夫監修『小学校体育科教師用指導書 1 〜 6 年』学研教育みらい,
2010
4)伊藤章「短距離走・ハードル走授業の間違った常識」『体育科教育
57 ⑹』大修館書店,2009
5)深田直宏・大友智「子どもの「固定的な能力観」を揺さぶる技能課
題はどう設定するか? ハードル走を例に」『体育科教育 57 ⑹』大修
館書店,2009
6)文部科学省『小学校学習指導要領解説体育編』東洋館出版社,2008
7)金子明友『身体知の形成(上・下)』明和出版,2005
8) 三木四郎『新しい体育授業の運動学』明和出版,2005
9) 金子明友監修/吉田茂・三木四郎編『教師のための運動学』大修館
書店,1996
10)マイネル .K 著,金子明友訳『スポーツ運動学』大修館書店,1981
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「学研 学校教育ネット」
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9300005156