みんなでつないで! シュートプレルボール!

65
No.
[企画]みんなの体育編集委員会
中学年ネット型ゲーム「プレルボール」の授業実践例
みんなでつないで! シュートプレルボール!
埼玉県熊谷市立熊谷西小学校教諭 小林 淳志
シリーズ 17 基本の運動で使える楽しい運動遊び
マットを使った運動遊びについて考える
(3)
信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明
中学年ネット型ゲーム「プレルボール」の授業実践例
みんなでつないで! シュートプレルボール!
埼玉県熊谷市立熊谷西小学校教諭 小林 淳志*
1
プレルボールを教材化する視点
小学校 3 年生で,このオフィシャルなルールに近
い形で「プレルボール」を実践したところ,以下の
ような課題が浮き彫りとなりました。
学習指導要領の中学年ネット型ゲームに例示され
ている「プレルボール」は,
「自陣の床にこぶし又
は前腕を用いてボールを打ちつけ,味方にパスした
り,自陣のコートにボールを打ちつけて低いネット
を越し,相手のコートにボールを返したりするゲー
ム」とあります。また,学習指導要領には,その学
習内容として「ボールの方向に体を向けたり,ボー
◆ルールや動き方の理解に時間がかかる。
◆げんこつや片手でコントロールしてプレルすること
は難しい。
◆セッターからのパスをダイレクトにアタックしたり,
ねらってアタックしたりすることは非常に難しい。
◆メンバー一人一人の役割がはっきりしないと,誰が
ボールをレシーブし,誰がアタックするのかがはっ
きりせず,ボールをつなぐことが難しい。
◆ラリーが続かず,運動量が乏しい。
ルの落下点やボールを操作しやすい位置に体を移動
したりすること」「いろいろな高さのボールを片手
当然のことながら,このゲームでは子どもたちの動
又は両手ではじく,打ちつけるなどして,相手コー
きが少なくプレー性の乏しいものとなり,学習内容の
トに返球すること」と具体的に示されています。
習得を保障できるようなものではありませんでした。
「プレルボール」のオフィシャルなルールは,以
下の通りです。
(一部抜粋)
限られた単元時間の中で,学習内容の習得を保障
し,子どもたちが夢中になってゲームに取り組み,
ネット型ゲームの特性を十分味わわせるようにする
● 4 人対 4 人
●コート 16 m×8m
●ネットの高さ 40㎝
●げんこつ,あるいは両腕でボールを地面に向けて打ち
つける。(プレル)
●相手チームから来たボールがネットを越えて,自陣の
コートでバウンドする前か後に,味方にパスするか,相
手コートに返球することができる。返球するときは,必
ず自陣のコートに 1 回バウンドさせなければならない。
●味方チーム内で,同一プレーヤーは 1 回だけボールに
触れることができる。チームで合計 3 回まで打つこと
ができる。
(*:文部科学省『学校体育実技指導資料第 8 集 ゲーム及びボール運動』
2010 年,
作成協力者)
には,オフィシャルな「プレルボール」から「プレ
ルボールを基にした易しいゲーム」へと教材化を図
る必要があります。そこで,以下のような視点でルー
ルを易しくしました。
☆プレルの方法を易しくする
プレルを,比較的ボール操作をしやすい両手の平
手打ちとすることで,ボールの落下点やボールを操
作しやすい位置に体を移動したりするという学習内
容も効果的に身に付けさせる。
☆一人一人の役割をはっきりさせる
球機会を保障する。また,相手からの返球に対する
チームの人数を 3 人とし,
『レシーブ−セット−
ファーストタッチは後衛の2人のうちのどちらかに
アタック』の一連の三段攻撃を通して,ラリーが続
することで,状況判断の選択肢を少なくする。
くように,
基本ポジションを前衛に1人(セッター),
☆アタック場面を易しくする
後衛に2人(レシーバー,アタッカー)とする。ま
アタックの方法を,セッターからのパスをキャッ
た,全員に積極的に役割行動に関与させるため,1
チ し, 自 陣 に ワ ン バ ウ ン ド さ せ て, 投 げ 入 れ る
人 1 回ボールに触れ,3回で相手コートに返球する
(「シュート」とする)こととすることで,技能的に
こととする。さらに,ポジションは毎プレーごとに
易しくかつねらったところに決まったときの喜びを
ローテーションすることでゲームでの学習機会,触
味わわせることができる。
2
シュートプレルボールの授業展開例
プレルボールを前述のように易しくしたゲームが,この「シュートプレルボール」です。
◉コート:14m×7m(バドミントンコートを利用)
◉ネットの高さ:50㎝
★シュートプレルボール★
セットアップ
シュート
アタッカー
山なりの
サーブ
ボール
セッター
サーバー
〈主な規則〉
・サーバーは,山なりの易しいボールを投げ入れる。
(打ちにい場合はやり直し)
・レシーバーは自分のコートにワンバウンドしたボール
を自分のコートにプレルしてセッターに返球する。
・セッターは,アタッカーにプレルして返球する。
・アタッカーは,ボールをキャッチし,相手コートにワ
ンバウンドで投げ入れる。(シュート)
・アタッカーは,ボールをキャッチしたら,その場から
シュートする。(1歩の踏み出しは可)
・1人1回必ずボールに触り,3回で相手コートに返す。
・両手でプレルする。シュートは片手でもよい。
・1プレーごとに,セッター・レシーバー・アタッカー
をローテーションする。
この「シュートプレルボール」を単元後半でのメ
レシーブ・
パス
セッター
レシーバー
・相手チームから来たボールは,最初にセッターが触る
ことはできない。(ファーストタッチは後衛の二人の
うちのどちらか)
・サーブは得点したチームが行う。
(変則ラリーポイント制)
・自分のコートに2回バウンドしたら,相手チームの得
点とする。
・自分のコートにワンバウンドせず,相手コートに返し
たら,相手チームの得点とする。
・3回で相手コート内に返せなかったら,相手チームの
得点とする。
・ノーバウンドで相手からのボールに触れたら,相手
チームの得点とする。
・同じ人が2回打ったら,相手チームの得点とする。
単元前半では,2 人組でのパス,後半は 3 人組での
インゲームとしました。ネット型ゲームは,ボール
パスの回数を記録し,技能の向上を実感させます。
のつなぎ方やルール理解に時間がかかるので,単元
クラス合計も算出すると,クラス全員で喜びを共有
前半は「上手なプレルの仕方」や「ボールのつなぎ方」
できます。ゲームについ
をハーフコートで効率よく学習し,単元中盤はメイ
ては,毎時間課題を明確
ンゲームを見据え,オールコートでのラリーゲーム
にし,児童との発問−応
を通して「ゲームの行い方」や「ボールのつなぎ方」
答を通して,課題を意識
を学習します。また,基本的なボール操作技能の向
化させていきます。次に
上をねらい,毎時間スキルアップゲームを行います。
単元計画を示します。
【単元名】
「みんなでつないで! シュートプレルボール!」
【目 標】○規則を守って,友達と練習やゲームをしたり,勝敗を素直に受け入れたりすることができるよ
うにする。
(関心・意欲・態度)
○自分の役割がわかり,チームで簡単な作戦を考えることができるようにする。(思考・判断)
○ボールの正面に入り味方に正確にパスしたり,相手が捕りにくいようなシュートをしたりする
ことができるようにする。
(運動の技能)
【単元の指導計画】( 全8時間)
1
2
ねらい……ボールを上手にプレルしよう
ボール操作【指先の使い方・足の使い方・体の移動の仕方】を学習する
●ボール慣れ(ペア)
・ワンバンキャッチボール(❶)
・プレルパス(❷)
●スキルアップゲームを行う
・プレルパスゲーム(30 秒間)
●ハーフコートラリーゲームを行う
❶
❷
◆ボールの基本的な投げ方,とり方について,演示を交えながら丁寧に説明する。
◆ボール操作のコツについての発問を行い,児童から引き出させるようにする。
◆上手にできている児童・ペアを称賛し,コツを全体に広める。
・兄弟チーム
①ボールは弟チームが出し,兄チームのレ
シーバー,セッター,アタッカーでボール
をつなぎ,弟チームへ返球する。
(一方通行)
※ 3 つのポジションをローテーションし,全
員が全てのポジションを経験する。兄チー
ムの後,弟チームが行う。
②ボールを往復でつなぎ,何回連続でボール
がつながるかチャレンジする。
◆初めに中央のコートに全員を集め,ボールのつなぎ方,パスの方向,
ローテーションの仕方について演示を交えながら丁寧に説明する。
3
4
ねらい……ボールをつないでゲームを楽しもう
各ポジションの役割とボールのつなぎ方【レシーバーの動き方・セッターの体の向き・アタッ
カーのシュートの仕方】を学習する
●ボール慣れ(ペア),スキルアップゲーム(プレルパスゲーム)を行う
●オールコートラリーゲームを行う
◆発問−応答を通して,ボールをつなぐコツについて確認
し,
「セッターの体の向き」のほかに「レシーバーの動き
や体の構え」
,上手に連係するための「チームのかけ声」
を意識させてゲームに取り組ませる。
◆チームで元気よくファイトコールを言えるようにしたり,
ハイタッチや励ましの声かけなどを称賛したりし,温かい
雰囲気でゲームが行えるようにする。
ゲームの行い方や自分のポジション
での役割がわかったかな?
ボールの正面に回り込むと,
正確にパスができるよ!
教師
・兄弟チームでラリーを行わせる。
・ルールはメインゲームと同じだが,相手
コートに何回返球できたかを競わせる。
5
6
7
8
ねらい……攻撃を工夫してゲームを楽しもう
相手が捕りにくいようなシュートの仕方【ネット近く・ライン際・セッターをねらう・後衛
の2人の真ん中・斜め・低くて速い】を学習する
●ボール慣れ(ペア),スキルアップゲーム(サークルパスゲーム)を行う
体の向きを変えて,パスができているね。
教師
声がよく出ているね。
3〜4人で時
計回りに,ボー
ルをつなぐ。
●シュートプレルボールを行う
◆発問−応答を通して,
「相手が捕りにくいところ」を引き出し,
段階的に共通課題にして取り組ませる。
【第 5 時】コートの前後を意識させる。
【第 6 時】コートの左右や斜め方向,高低を意識させる。
【第 7 時】セッターや後衛の真ん中などプレーヤーを意識させる。
・リーグ戦
・2ゲーム(ゲーム①,
ゲーム②)を行う。
・前半:兄チーム
後半:弟チーム
相手が返球
しにくいと
ころはどこ
だろう?
ネットの近
くと,コー
トの後ろの
ほうです。
◆ゲーム①とゲーム②の間に作戦タイムを設け,ゲーム①の反省をゲーム②に生かせるようにするとともに,本時の
課題について焦点化して振り返らせる。
【用具について】
◎支柱は,ペットボトルを組み合わせ,塩化ビニル
子どもたちにとって,連係してボールがつながっ
たり,ねらってシュートし,それが決まったりした
管を差し込むことで簡単に作成できました。また,
ときの喜びは格別なものだったと感じます。また,
ネットは,ゴムひもにポリエチレンテープを下げ
シュートの技能が向上するにつれて,レシーブ側の
たものを使用し,先に S
プレーヤーの動きも活発になり,結果的に運動量が
字フックを取り付け,支
増えていきました。ファイトコールやハイタッチ,
柱にワンタッチで取り付
かけ声などの『仲間とのかかわり』を奨励したこと
けられるようにしました。
もこの盛り上がりに欠かすことができないものでし
軽く運びやすいので,準
た。全ての子どもたち
備・片付けの時間が大き
に,ネット型ゲームの
く短縮できました。
すばらしさを味わわせ
◎ボールは,ソフトバレーボールを使用しました。
るために,今後も教材
柔らかく,ある程度の弾性が必要であることを考
づくりに励んでいきた
えると,ライトドッジボールなども適していると
いと思います。
思われます。
3
おわりに
このシュートプレルボールは,大変盛り上がり,
単元終盤では形成的授業評価もほぼ満点でした。
【引用参考文献】
・文部科学省『小学校学習指導要領解説 体育編』東洋館出版社,
2008
・文部科学省『学校体育実技指導資料第8集 ゲーム及びボール運
動』東洋館出版社,2010
・髙橋健夫著『新しい体育の授業研究』大修館書店,1989
・小林淳志『平成20年度埼玉県長期研修教員研修報告書』,2009
シリーズ 17
基本の運動で使える楽しい運動遊び
マットを使った運動遊びについて考える(3)
信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明
今回は,前回に引き続いて「逆立ち遊び」の中か
足−足」のリズムで手足の支えに時間差のある乗せ
ら,
「支持での川跳び」を取り上げて,その学習指
替えを行います。支持での川跳びを左右どちらの側
導について考えていくことにします。
で行うにしても,手足を着く順次性には「絶対的な
1
支持での川跳びの
学習指導ポイント
順序」が生じてきますから,確実につかませてあげ
ることが大切になります。
②体を手足に乗せ替える要領をつかませよう
「支持での川跳び」は,マットを使った運動遊び
慣れた段階の「支持での川跳び」では,足を振り
の中で,子どもが最も挑戦してみたい動き方(技)
上げながら「足から手」に体を乗せ替える局面や,
といえるでしょう。それは,逆さまになりながら回
逆さまの体勢からマットに足を下ろして「手から足」
転する「非日常性」のダイナミックな動き方に魅力
へ体を乗せ替える局面につまずきが生じやすくなり
があることに加えて,
「かえるの足打ち」や「壁登
ます。その原因の多くは,子ども自身の持つ「側方
り逆立ち」といった経験があれば,運動が得意でな
に回転する動き」のイメージから,開始姿勢を進行
い子どもでも「できそうな気がする」という身体状
方向に対して横向きに構えていたり,手足を着くラ
態感を持てるからです。実際,子どもの多くは,教
インを直線上に設定していることにあるようです。
師の見せる「動きのお手本(示範)
」を真似するこ
実は,人間の体は側方に曲がりにくい構造になっ
とで,
すぐに「支持での川跳び」ができるようになっ
ているので,横向きの姿勢(前後軸回転)を崩さず
ていきます。
にマットに手を着いたり,逆さまの体勢から足を下
もちろん,ここでいうできるとは「一応のまとま
ろすことは,非常に難しい動き方といえるのです。
りのある動き方が生み出された段階」のことですか
同様の理由から,手足を着くラインを直線上に設定
ら,器械運動の「側方倒立回転」へと一足飛びに
することも難しさを高めてしまう要素といえるので
発展させられるわけではありません。「側方倒立回
す(曲線上に手足を着く目安を置いてあげることで,
転」の習得には,「支持での川跳び」の習熟に加え
やさしく取り組めるようになります)。
て,上体を振り下ろして着手しながら足を振り上げ
実際に上手な子どもを観察してみると,横向きの
る「壁倒立」などの経験が必要になるからです(中
姿勢で始めていても,手を着くときには腰をねじっ
学年以降の学習内容)。本稿では,低学年の子ども
て(前後軸回転にゆがみを生み出して,左右軸の回
に「支持での川跳び」の動き方(技)を促して発生
転を起こすことで)手を着きやすくしていることが
させる促発指導について考えますから,「側方倒立
わかります。こうした「腰のねじれ」は,逆さまの
回転」につながる教材づくり(道しるべ教材)につ
体勢から足を下ろしやすくするためにも使われてい
いては,別稿で紹介したいと思います。
る操作ですから,体を手足に乗せ替えるための要領
さて,ここで「支持での川跳び」の学習指導を行
ううえで知っておきたいポイントを3つ挙げておく
ことにしましょう。
①手足を着く順序をつかませよう
として,つかませてあげることが大切になります。
③目線の置き場所をつかませよう
「支持での川跳び」の特徴的な局面は,何といっ
ても手で支えて「逆さまの体勢」を経過する動き方
「支持での川跳び」は,手と足で交互に体を支え
にあります。もちろん,「逆さまの体勢」といって
て回転する動き方(技)です。初めの段階では,足
も低学年の運動遊びですから,「逆立ち(鉛直運動
を閉じて「両足−両手−両足」と同時に体の乗せ替
面)」を経過させることにこだわらなくてもよいで
えを行いますが,慣れた段階では,逆さまの体勢を
しょう。むしろ逆さまの意味を広く捉えることで「頭
経過させるために,足を開いた姿勢から「手−手−
より高い位置に腰が上がっている体勢」を経過して
(注):シリーズ名の「基本の運動」は,旧学習指導要領における運動領域名です。
いればよしとしてあげたいものです。
「支持での川跳び」を行う中で「逆さまの体勢」
を経過させるには,手の支えが有効に働く位置まで
腰を跳ね上げることが必要になります。そのために
は,少し専門的になりすぎるかもしれませんが,手
を着いているときの目線(視線)の置き場所を定め
ておくことが大切になります。
②かえるの足打ちの要領で腰を跳ね上げるように踏み切って,
手で体を支えながらマットを越えます。
③マットを越して両足で着地します。マットの幅が広いと跳び
越しが難しくなりますから,幅の狭いマット(60㎝)を用
いたり,テープなどで子どもの実態に合わせたラインを引い
て行わせます。
〈慣れた段階の川跳び遊び〉
5)
この目線の問題について,三木四郎先生は「基本
的には,手と手の間に置きますが,頸反射の問題が
あり,首を中に入れすぎる(腹屈)と背中が丸くな
り,手の支えが弱くなります。また,頭を起こしす
ぎる(背屈)と体が反りやすくなり,足が上がりに
くくなります。視線の問題は,子どもの頭の位置の
状態によって指導するのがよいでしょう」と解説さ
れています。
このように,目線の置き場所は「逆さまの体勢」
を経過する動き方の正否を大きく左右するものです
から,低学年の運動遊びの時期にこそ,つかませて
あげることが大切になるのです。
2
動きの感覚づくりに着目した
川跳び遊びの教材づくり
【1】支持での川跳び
支持での川跳びは,
「
(川に見立てた)マットの外
側に立って構え,マットに手を着いて体を支えなが
ら反対側に越える運動」です。側方倒立回転のよう
に,逆立ちの体勢(鉛直運動面)まで足を振り上げ
なくても行えることから,運動が得意でない子ども
にも取り組みやすい動き方といえます。学習指導は,
体を「足−手−足」と乗せ替える動きの要領と,体
を横方向に移動する要領を中心に行います。川跳び
川跳びの動きの要領がつかめてきたら,開始姿勢を前後の開
脚で構え,片足ずつ踏み切ってマットを越えます。
①開始姿勢は,マットの「手前に着いた手」と同じ側の足を前
に出して構えます。
②後ろ足を振り上げながら,前の足で踏み切って(腰を跳ね上
げて),手で体を支えます。
③マットを越した後の着地は,開始姿勢で「向こう側に着いた
手」と同じ側の足から着地します。
(2)よくあるつまずきの状態
①腰の位置が上がらない
マットを越えることが
できても,いわゆる皿回
し(水平運動面)の動き
方で越えている子どもが
います。多くの場合,横
方向への移動の中で「手
の支えが有効に働く位置
に腰を跳ね上げる要領」
がつかめていないことに
よると考えられます。後々の発展技(側方倒立回転など)の学
習を考えると,頭の位置よりも高いところを腰が通過する動き
の要領をつかませておきたいものです。
■つまずいている子どもへの指導例
〈ケンケン・ぴょ〜んで足を入れ替えさせる〉
遊びでは,左右どちら側からでもマットを跳び越せ
ることが大切ですが,子どもの得意とする側(優勢
7)
化された側)を見つけさせてあげることで,後々の
発展技(側方倒立回転など)の学習を有利に進める
ことができます。
(1)マットで川跳び遊び
〈初めに行う川跳び遊び〉
①マットの外側にしゃがみ立ちになり,マットに両手を着いて
構えます。
①四つんばいの姿勢になって,片足を上げて,片足ジャ
ンプの連続を行います(踏み切り足でケンケン)。
②ぴょ〜んのタイミングで腰を跳ね上げて,
空中で足を挟む
ように入れ替えて着地します
(上げていた側の足で着地)
。
「ケンケン」のリズムから,「ぴょ〜ん」と大きく腰を
跳ね上げることで,手に体重を乗せている時間を長くす
る(足の入れ替えを大きく行う)ことを目標とします。
一連の動きの中で,手の支えが有効に働く位置に腰を跳
ね上げる要領をつかませます。
②手足を着く順序がつかめない
②
慣れた段階の川跳びでは,子どもの得意とする
①
7)
側(優勢化された側)との関連で「手足を着く順序」
③
が決まっています。マットを自分の左側から越える
場合は「足(右・左)→手(左・右)→足(右・左)」
となり,マットを右側から越える場合には「足(左・
右)→手(右・左)→足(左・右)」の順となります。
この順次性がつかめていないと,踏み切り足や着地
する足が「逆足」になってしまうことがあります。
〈踏み切り足が逆足になっている〉
本来は左足で行うはずの踏
み切りが,逆足(右足)に
なっています。マットを自
分の左側から超える場合に
は,マットの手前側に左手
を着きますから,踏み切り
も同側の左足で行うようア
ドバイスします。
〈着地する足が逆足になっている〉
本来は右足で行うはずの着
地が,逆足(左足)になっ
ています。マットを自分の
左 側 か ら 越 え る 場 合 に は,
マットの奥側に右手を着い
ていますから,着地するの
も同側の右足で行うようア
ドバイスします。
■つまずいている子どもへの指導例
〈低い台でまたぎ越しを行わせる〉
①
③
②
①マットから手を離して足を前後に開いた姿勢で構えます。開
始局面で膝を曲げておくと,手を着きやすくなります。
②手をマットに着いて体を支えながら,片足ずつマットを越え
ます。手を着く際には,両手を同時に着くのではなく,手前
側の手から順次に着くことでスムーズに体を支えることがで
きます。
③マットを越えて,片足ずつ着地します。最後まで両手を着い
ていると立ちにくくなりますから,着地位置から遠い側の手
をマットから離します。
■つまずいている子どもへの指導例
〈かえるの足上げで
「手−手−足−足」のリズムをつかませる〉
マットから手を離した姿勢から行うことで,今まで「ま
とまっていた動き方」が,バラバラになってできなくなっ
てしまう子どもがいます。以前に行った練習まで戻って
も,動きがまとまってこないようでしたら,
「かえるの足
上げポーズ」で「手−手−足−足」のリズムをつかませ
る練習を行わせます。
①かえるの足上げポーズで得意な側を見つける
四 つ ん ば い に な り,
「左側の手足→四つん
ばい→右側の手足」と
いうように片側の手足
を交互に上げます。自
分の得意な側を見つけ
るように促します。
②「手−足−足」のリズムをつくる
この動き方は,ケンケン・ぴょ〜んで足を入れ替える練
習の要領で行います。①低い台(跳び箱の頭)に両手を
着いて,踏み切り足で片足ジャンプの連続を行います(ケ
ンケン)
。②ぴょ〜んのタイミングで踏み切って,跳び箱
をまたぎ越します。
③またぎ越すことで,
おのずと踏み切っ
てない側での着地となり,
「手足を着く順次性」をつかむ
ことができます。慣れてきたら,大きくまたいだり,前後
の開脚立ちや,
台から手を離した姿勢から行わせることで,
側方倒立回転の原初形態に変形・発展していきます。
(3)手を離した姿勢からの川跳び遊び(発展的な学習)
川跳び遊びの動きの要領に慣れてきたら,マット
から手を離した姿勢から行う,発展的な川跳び遊び
に挑戦させます。
片側の手足を上げて,
「かえるの足上げポーズ」をとり,
先に紹介した「ケンケン・ぴょ~ん」の要領で,着いてい
る側の足でジャンプして,
「手−足−足」のリズムで着地
します。
「上げていた側の手,上げていた側の足,ジャン
プした足」の順に着地します。
「かえるさんが足を上げて,
ぴょ~んで手−足−足」などと,動き方のリズムを言葉か
けすることでリズムをつくりやすくなります。
(次ページに続く。
)
「手−手−足−足」と
声を出して行わせる
こ と で, リ ズ ム を つ
くりやすくなります。
③「手−手−足−足」のリズムをつくる
かえるのポーズ(しゃがみ立ち)から,
「手−手−足−足」のリズムで着地します。
(1)かえるのポーズでしゃが
み立ち(膝と腕を曲げてしゃ
がみ立ちの姿勢で構える)
。
(2)前に倒れて,得意な側の「かえるの
足上げポーズ」になりながら,手を着
くとともに,着かない側の足を上げる。
④場づくりの工夫を行う
3
手
足
手
足
(3)着いている側の足でジャンプして,
「上げていた側の手,上げていた側の
足,ジャンプした足」の順に着地する。
四角形にした新聞紙を,床面に置
いて行わせることで,手足を着く目
安を持つことができます。
「手−手
−足−足」を着く要領やリズムに慣
れてきたら,フープを用いて円周上
で行ってみます。後々は,なわとび
のロープで緩やかな弧を描いて,そ
れを目安にして行わせます。
まとめにかえて
こうした教材づくりや学習指導の工夫に加えて,
スポーツ運動学に基づく教材づくりでは,目標と
「動きのコツ情報」や「動きを見るための観点」を
する運動遊び
(技)
にとって「類縁性のある動き方(ア
伝えていくことで,動きの学習に焦点化した発展学
ナロゴン)
」を教材として体系化しています。それぞ
習(自主的・主体的学習,課題選択学習)にもスムー
れの教材のもつ意味を考えてみると,今の動きの学
ズに進んでいけるのです。
習が
「何につながっているか
(どこに向かっていくべ
きか)
」という方向標識としての役割と,今は「どん
な感覚づくりや動きづくりをするべきか」というめ
あてを提示する役割を持っていることがわかります。
このような観点から,今回まで3回にわたって紹介
してきた「マットを使った運動遊び」の教材づくりや,
教師の皆さんが苦労して作成してきた教材(学習カー
ド)を捉え返していただくと,
「易から難へ,単純か
ら複雑へ」と形式的に課題(教材)を経験させてい
るだけではないことを理解していただけるでしょう。
低学年の運動遊びだからこそ,まずは教師が明確
に学習の進んでいく方向を示すべきですし,一人一
人の子どもの実情に合わせた練習の仕方を提示する
学習指導が大切にされなければなりません。
小学校体育ジャーナル 65号
●企 画 みんなの体育編集委員会
●発行人 石津 正文
●編集人 清水 晃一
●発行所 株式会社 学研教育みらい
平成23(2011)年4月発行 ※この冊子は,環境に配慮した紙,インキ,CTP方式で製作しています。
【引用参考文献】
1)金子明友「器械運動の神話Ⅵ 側方倒立回転をめぐる神話」
『学研 教科の
研究(第 11 巻第 11 号)
』学習研究社,1977
2)金子明友『マット運動』大修館書店,1982
3)髙橋健夫・林恒明・藤井喜一・大貫耕一編著『マット運動の授業』大修館書店,
1988
4)林恒明『子どもが喜ぶ体育の授業づくり』明治図書,1995
5)三木四郎「シリーズ みんなが楽しめる器械運動の学習指導 No.8 マット
運動 側方倒立回転」
『小学校体育ジャーナル 11 号』学習研究社,1996
6)松本格之祐『写真で見る「運動と指導」のポイント 2マット』日本書籍,1998
7)金子明友『わざの伝承』明和出版,2002
8)三木四郎『新しい体育授業の運動学』明和出版,2005
9)三木四郎「動感能力の育成から見た器械運動の教材的価値」
『体操競技・器
械運動研究 14』1-6,2006
10)
「特集 器械運動の意義を問い直す」
『体育科教育』第 54 巻第 11 号,大修館
書店,2006
11)文部科学省『小学校学習指導要領解説 体育編』東洋館出版社,2008
12)髙橋健夫・藤井喜一・松本格之祐・大貫耕一編著『新しいマット運動の授業
づくり』大修館書店,2008
13)三木四郎「
『習得,
活用,
探究』に応じた学習指導をデッサンする」
『体育科教育』
第 56 巻第 10 号,大修館書店,2008
14)清水由『とってもビジュアル!筑波の体育授業・中学年編』明治図書,2008
15)金子明友『スポーツ運動学』明和出版,2009
16)木下光正『とってもビジュアル!筑波の体育授業・低学年編』明治図書,2009
17)
「特集 器械運動の授業はこう変えよう」
『体育科教育』第 58 巻第 1 号,大
修館書店,2010
18)髙橋健夫・松本格之祐他『体育の基本』学研教育みらい,2010
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