日本保険学会関西部会 第2回報告会 「ベトナムにおける協同組合とマイ クロインシュアランスを活用した保 険市場開拓の可能性」 2016.11.12 滋賀大学経済学部 久保英也 本報告の背景と目的 (1)成長率が高く、親日的なベトナムは、日本企業進出希望先国トッ プである。一方で、中国の3分の1の国民所得と貧困格差が際立 つ。人口の6割の農村部市場を先行的に押さえる長期戦略が重要。 (2)農村部の保障は弱小なマイクロインシュアランスのみで、日本で 成功を収めた協同組合と共済のノウハウ移転可能性を探る。 (3)都市部の少数の富裕層や高所得層を狙うのは常道だが、農村部 の保険市場開拓を通じたベトナム農民のリスクを移転こそ、保険、 共済の本来の相互性の実現と国際的社会貢献ではないか。 (4)このため、①ベトナム保障市場の推計(まずは死亡保障)と ②協同組合という器の多様性、柔軟性を国際的に分析する中で、 ベトナム農村部にふさわしい保険提供の在り方を考える。 2 ベトナムの保険市場の状況 表1 ベトナム保険市場の国際比較 地域 2015: 損保 2015: 生保 (参考) 2003: 生保 北米 欧州 アジア 日本 中国 ベトナム 北米 欧州 アジア 日本 中国 ベトナム 北米 欧州 アジア 日本 中国 ベトナム 収入保険料 シェア(対世 名目GDP比 人口1人当たりP P増加(対 (P::100m$) 界計:%) (%) (保険密度:ドル) 829,402 596,763 446,405 105,891 175,737 1,414 601,837 872,115 904,569 343,816 210,763 1,583 503,759 584,705 522,340 381,335 32,422 331 41.06 29.54 22.1 5.24 8.7 0.07 23.75 34.42 35.70 13.57 8.32 0.06 30.12 34.96 31.23 22.8 1.94 0.02 4.22 2.73 1.74 2.55 1.63 0.74 3.06 4.16 3.59 8.27 2.72 0.83 4.25 4.64 5.74 8.61 2.3 0.87 2,322 647.2 102 836.8 127.6 15.1 1,684.9 987.2 209.8 2,717.0 153.1 16.9 1565.7 726.9 140.1 3002.9 25.1 4.1 (出所) Swiss Re社のsiguma2016/3と2004/3のデータを基に筆者が作成。 2003:倍) ― 1.19 1.49 1.73 0.90 6.50 4.78 - 3 ベトナムの長期的な市場見通し (生保個人保険+個人年金) 図3 日本から見たベトナムの長期市場見通し 倍 US ドル 50000 45000 40000 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 ベトナム2006 2011 2008 2005 2002 1999 1996 1993 1990 1987 1984 1981 1978 1975 1972 1969 1966 1963 1960 0.0 日本の一人当たりの名目GDP(右目盛) ベトナムの一人当たり名目GDP(右目盛) 日本保有保険金/名目GDP(左目盛) ベトナム保有保険金/名目GDP(左目盛) (出所)日本の総務省統計局の資料などから、筆者が作成。 4 ベトナムの生保保障市場拡大の可能性 図2 ベトナム生命保険各社の「保障単価」の動き 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 2006 2007 ACE Life Dai-ichi Life 2008 2009 2010 2011 AIA Manulife (注) 保障単価は保有契約高を収入保険料で除したもの。 2012 Bao Viet Life Prudential 。 (出所) ベトナム保険協会等の資料から筆者が作成。 5 死亡保障市場を考える 保有個人保険(死亡)保険金額【含む個人年金】 マクロ保障倍率 = 名目GDP(自国通貨建て) (個人保険P+個人年金P) = 個人可処分所得 保有個人保険金額 個人保険P × × 個人保険P (個人保険P+個人年金P) 【消費者の保険選好】 【保障単価】 【保障選好】 個人可処分所得 × 名目GDP(自国通貨建て) 【家計割合】 6 日本のマクロ保障倍率変化の要因分析 図M1 日本のマクロ保障倍率要因分析 23% 18% 13% 8% 3% -2% -7% -12% -17% 寄与度:個人消費/名目GDP【家計割合】 同:個人保険P/個人年金P【保障選好】 同:死亡保障額/収入P【保障単価】 収入P/個人消費【消費者の保険選好】 マクロ保障倍率(対前年度比) (出所)筆者作成 7 日本の「1970年代前半」のマクロ保障倍率要因分解 図M2 日本の1970年代のマクロ保障倍率(寄与度) 15% 10% 5% 0% -5% -10% 1971 1972 1973 1974 1975 1981 1982 1983 1984 1985 寄与度:個人消費/名目GDP【家計割合】 同:個人保険P/個人年金P【保障選好】 同:死亡保障額/収入P【保障単価】 収入P/個人消費【消費者の保険選好】 マクロ保障倍率(対前年度比) (出所)筆者作成 8 ベトナムのマクロ保障倍率の要因分解 図V6 ベトナムマクロ保障倍率増加率の寄与度分析 80% 60% 40% 20% 0% -20% -40% 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 寄与度:個人消費/名目GDP【家計割合】 保有契約高/収入P【保障単価】 収入P/個人消費【消費者の保険選好】 (出所) 筆者作成 マクロ保障倍率(対前年度比) 9 マクロ保障倍率の推計結果 表3 マクロ保障倍率の推計結果 説明変数 1人あたり名目GDP(ドル) 男女の労働力格差(%) 女性の労働力率 定数項 自由度調整済R², DW 説明変数 1人あたり名目GDP(ドル) 男女の労働力格差(%) 65歳以上人口比率 定数項 自由度調整済R², DW 説明変数 1人あたり名目GDP(ドル) 男女の労働力格差(%) 定数項 自己回帰係数 赤池情報量基準 Log Lilelihood 推計式1(M21,Log) 推計式2(M22,Log) t値 標準誤差 パラメータ t値 標準誤差 パラメータ 0.57447 12.294 0.1555 0.4565 8.5197 0.0536 0.97016 6.241 0.0467 - - - -3.40539 -7.57124 0.4498 -3.43542 -34.928 0.0984 4.19992 4.27661 0.9821 0.955, 0.276 0.9483, 0.182 推計式3(M11) 推計式4(M24,Log) t値 標準誤差 パラメータ t値 標準誤差 パラメータ - - - 0.6336 9.29519 0.0682 0.11521 9.108 0.0126 0.90111 5.44288 0.1656 0.1011 5.658 0.0178 -0.17194 -1.18855 0.1447 -1.51732 -5.911 0.2567 -3.43542 -34.9283 0.1007 0.9486, 0.196 0.73780. 048581 推計式5(残差の自己回帰) 推計式6(残差の自己回帰,Log) t値 標準誤差 パラメータ t値 標準誤差 パラメータ 0.0000255 10.207 0.0001 0.428892 11.374 0.038 0.07257 13.192 0.006 1.34395 10.724 0.125 -0.52466 -2.126 1.909 -3.43293 35.666 0.096 0.96557 34.387 0.028 0.833423 12.526 0.067 -151.515 -284.734 79.757 78.146 (注)標本数は78、5各国によるパネル分析、DWはDurbin-Watson ratioの略。(出所) 筆者が推計、作表。 10 倍 0.00 Japan1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 Korea1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Thailand 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 Vietnam 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Taiwan2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 アジア5か国のマクロ保障倍率の推計 図5 マクロ保障倍率の推計 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 マクロ保障倍率実績(個人保険+個人年金) 推計式6:残差自己回帰LOG有 推計式5: 残差自己回帰LOG無 (出所)筆者が推計、作図 11 ベトナムマクロ保障倍率の将来推計 倍 0.7 0.6 図G ベトナムのマクロ保障倍率の推計 日本の1970年度のマクロ 保障倍率:0.81 予測値 40% 35% 0.5 30% 0.4 25% 0.3 20% 0.2 15% 0.1 10% -0.1 5% 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 0 0% マクロ保障倍率(倍:左目盛) 推計式5(倍:左目盛) 推計式6(倍:左目盛) 名目成長率(%、VND:右目盛) (出所) 筆者が推計、作図 12 共同体組織の変遷と特徴 図V2 共同体組織の性格による組織特性 組織形態 長短 生産資源(土地)の共有(社会主義) 極端に生産性が低い 個人所有 生産性は上昇。しかし小規模で技術進歩なく、 農薬の過剰投入など収穫逓減、 官製共同体組織 技術力は向上するが、制約多くやがて衰退。一 方、安定的な運営で、財政基盤は確保。 自主的共同体 ①小規模だが、生産性上昇インセンティブ強く、 安全性認証など新しい目標も実践。 ②限られた業務に特化 (出所) 筆者が作成。 13 アジアの多様な農村協同組合(1) 表A10 多様なアジアのの農業等協同組合(1) 日本 JA正会員456万 人、単位農協 協同組合 892、農業組合 組織 9,884、連合会185 (2016/3末) 農協形態 総合農協 ①地縁・職業的共 同体と村落を基盤 とする相互扶助の 精神、②数百人の 農村協同 コミュニティで顔と 組合の概 顔が確認。 要 ベトナム インド 人口の68%が農村、貧困率は27%(都市部 は6%)。農業業合作社(旧組織)1987年: 17,022⇒2000年:7,349迄減少、新しい新合 作社(新合作社)が1,415誕生。 人口の7割が農村居住 (2011)、全国の村の 99.5%、農村の67%が農業 信用組合がカバー。 専門農協 専門農協 ①1982年のドイモイ(DoiMo)iまでは社会主 義的集団農業、その後の個人農家復活は 規模の細分化、生産手段の離散化、生産性 の低下を招来。その対策として農村合作社 の機能を見直し、農村合作社と大衆集団が 誕生。②古い価値観・システムを温存しなが ら、市場化と対峙。③地方や市町村に「国家 農業普及センターを設置、常勤職員数は 17,200人(新品種の普及など)。 ①国民も政府も協同組合に 共済機能を期待。ただ、その 恩恵は上層農民のみ。②信 用協同組合はインフォーマル な市中金融に勝てない、③ 最近は政府の徳政令で「返 さなくても良いとに認識」と借 り手の金融規律の欠如。 (出所) 苑鵬(2013)、秋葉まり子(2015)などを基礎に筆者が整理。 14 アジアの多様な農村協同組合(2) 表A11 多様なアジアのの農業等協同組合(2) 中国 2012年6月時点では全国で60万社、 登記資本額は0.9兆元、組合員は 協同組合組 4,600万全農家の18.6% 織 農協形態 韓国 農業組合数:1,181、組合員数:245万人、総資 産:206兆ウォン(約19兆円、2009)。他に、水産 業(15.8万人)、山林(47.7万人)に加え、労働、 福祉、教育、育児、住居、貧困などの社会福祉 サービス関連で約8,000の事業体。 農民専業合作社 ①本来の協同組合組織の相互性が希 薄化、②当初から民主的な意思決定 や自治を欠く環境下で法整備、③都市 化、工業化、市場化が急速に進展、地 農村協同組 縁、血縁、同族という伝統的なコミュニ 合の概要 ティが崩壊、④国内外の農産物の市 場競争激化の中で、零細農家は、企 業の競争力を必要とする。 地域農業協同組合 協同組合の新しい位置づけは、市場万能主義に 代わり、社会格差の是正に貢献。新たな職の創 造と共生により資本主義の脆弱性を補完。2012 年12月協同組合基本法が成立、①5名以上が集 まれば自由に競争組合が設立が可能(金融、保 険業以外のすべての産業)、②非営利目的の 「社会的協同組合」を多数設立し、社会的弱者の 雇用と支援に繋ぐ、③出資金規制の撤廃や市道 府県知事への届け出制、④連合会組織の設立 が可能。 (出所) 苑鵬(2013)、秋葉まり子(2015)などを基礎に筆者が整理。 15 ベトナムの農業組織の変遷 (1)1982年のドイモイ(DoiMo)で体制変更 ①1981年の共産党中央書記局100号指示により、農業生産 の単位は「旧合作社」から「農家」に変更 ②1988年の共産党政治局10号決議:税および合作社基金 (組合費)を除くすべての生産物を自由に処分可能 ③1993年の土地法:長期使用とその権利の移転、貸与、相続、 担保拠出、が認められる (2)1996年合作社法:合作社は、社会民主主義の「生産単位」 から「市場経済の協同組合」へ ①共通する目的と利害関係があれば、自由に創設。 ②組合員の加入、脱退の自由、「1人1票」の民主的運用。 ③合作社の機能は(ⅰ)肥料・農薬の共同購入・販売、(ⅱ)水 利用灌漑サービ、(ⅲ)害虫対策、(ⅳ)耕起支援。 16 ベトナムの共同体組織 表V7 ベトナムの2つの共同体組織 根拠法 設立要件 運営原則 納税義務 「合作社」:官製中間組織 「協力組」:自主的中間組織 1996年 合作社法 2007年 政府議定151号 ①村(「社」と言われている)レベルの人民委員 自主的に設立された共同所有の法人組織 会が認定するが、自主性が強い、②米産地で は上部組織として「農民会」を組織 ①自主、自己責任、平等、民主 有 ①自主、自己責任、平等、民主 無 信用業務 財源 有(メンバーに対する預金貸付サービス) ①社員の拠出金 ②社員の預金 ③利益留保金 ④政府補助金 無 ①組合員による拠出(合作社の約1割) ②利益留保金 ③贈与資産 ④その他 業務 総合型:右記の3つ+生活水の提供、 灌漑サービス、輸送サービス 2001年:7,513社⇒2011年:6302社 専門型:3つ(資材供給、技術普及、買取販売) ・安全認証の取得を大きな目的 2000年:15万社⇒2011年37万社 組織数 (出所)秋葉まりこ(2015)の内容を筆者が再整理 17 ベトナム新農業合作社の生産効率(養豚) 表V5-1 ベトナムの新農業合作社の生産効率例(養豚) 一般農家(養豚) 新農業合作社(ナムサック畜産合作社) 飼料購入費用(25㎏) 単価19.5万ドン(891円) 単価19.5万ドン(823 円)::、仕入:17.7万ドン 育てる種類 在来種(モンカイ種) 農業省畜産試験場などから外来種 種付け 自宅、周辺村落、もしくは県獣医局 購買(薬) 代理店(市場)もしくは、県獣医局 獣医師 行政府(社)の嘱託獣医 自分で治療、合作社の獣医担当副組合長 ワクチン注射 獣医師に依頼:1頭8,000ドン(371円 ) ワクチン購入し自分で:同2,400ドン(10.9円) 販売チャネル ナムサック県内もしくは隣接県の買い ナムサック、隣接県に加えハノイ、ハイフォン 付け業者 など大都市の買い付け業者 (注1) ナムサックは、ベトナムハイズオン省の県。ハノイ近郊農村で市場アクセスも良好(ハノイから60キロ)。 (出所) 岡江恭史(2006)を基礎に筆者が加筆修正。 18 (続き)ベトナム新農業合作社の生産効率(養豚) 表V5-2 (続き)ベトナムの新農業合作社の生産効率例(養豚) 一般農家(養豚) 新農業合作社(ナムサック畜産合作社) 27.50% 76.70% 4.47頭 30頭 同(母豚) 1.40頭 3.86頭 合作社組合員農家数 53 7 販売単価 14,000ドン/㎏ 16,000ドン/㎏ 年間売上高 1,882万ドン 1億2406万ドン 年間所得 376万ドン(17,187円) 3,803万ドン(173,875円) 養豚部門所得割合 19.97% 30.65% 給水方法(自動割合) 消毒頻度(月1回以 上) 3.90% 57.10% 9.30% 71.40% 飼育総数に占める外 来種の割合(2004年) 平均飼育頭数(肉豚) (注1) ナムサックは、ベトナムハイズオン省の県。ハノイ近郊農村で市場アクセスも良好(ハノイから60キロ)。 (出所) 岡江恭史(2006)を基礎に筆者が加筆修正。 19 中国の農村共同体組織の合作社の変貌 表 C1 中国の農民専業合作社の3タイプ 生産工場型 流通型 地域政治型 合作社は、企業の一工場という位置づけ。①企業は品種の選択、生産技術・運転資金の供 与、農産物の回収、販売を手掛ける。②合作社は企業の生産計画に沿い農産物の品種、規 格、生産量、納期、引き渡し価格を決め、生産する。③農民は工場の従業員。いわば、企業の 労働力のアウトソーシング。 付加価値の高い農産物、ブランドを扱うため、農家も大規模専業農家で、ある程度の技術水 準と生産安定性を持つ。企業が生産手段である農地に着目し、国の農業生産助成を受けなが ら、生産性を引き上げ、利益を確保する一方、農民という家族労働者に就業機会を与えるとい う利益共同体的関係。 企業(販売業者や資材供給者が主で規模は小さい)がマーケティングの1つとして販売先の顧 客を合作社の構成員として組織化、市場確保を企図。企業は、販売に時間が割けない少量生 産の農民の販売代理店となる。農民は合作社の外に位置(取引相手)し、合作社の構成員と しての発言権や意思決定には参画できない。 村の代表者(書記や村長)が自らのリーダーシップで村全体の農民を率いて合作社を開設。合 作社の発展を通じ自分の政治的地位を強固にすることが目的であり、動機は政治的。村長は 事務所や事務機器を提供するなど長所もあり、農民にもプラスであるため、中央政府もこの方 式を後押ししている。 一方で、、零細農家が相互主義に基づく合作社を自ら起こし豊かになる道を閉ざす。 (出所) 苑鵬(2013)を基礎に筆者が取りまとめ。 20 多様化する協同組合 表K5 協同組合の5つの本質 ④目的:社会制度不備の補完、相互性 ③組織形態:自主、民間 日本 韓国 ②専門性、技術力:高 ⑤市場の開放度 (国際競争):低 (①生産性:低) ①生産性:高 インド (⑤市場の開 放度:高) (②専門性:低) (出典)筆者作成 (④目的:政府の意向、 政策の浸透) (③組織形態:政府主導) 21 ベトナム非営利組織金融の比較(1) 表V20 ベトナムの非営利組織銀行の比較 社会政策銀行(VBSP) 誕生 1995に貧民銀行を再編して誕生した「非 ベトナム北部農村の貧困女性に小規模融資を行う組 営利組織体」 織体 政府、中央銀行、VBARDの幹部、貧困 削減委員会 婦人連合会 スウェーデンの政府援助機関(SIDA)、国連人口基 金(UNFPA)とパートナーシップを組み、バングラディ シュのNGOであるASAから運営ノウハウを提供。 2010年にマイクロファイナンス機関として認定。 主体 融資対象 TYM ①貧困者 ②雇用創出促進プログラム(戦傷者対 象) ③水と衛星のための貸し出し ④教育支援など ①政策的資金(政府規定に基づく) ②家計所得を増やすための生産事業への融資 ③家計の消費資金 ④家の補修、内装経費、など (出所)秋葉まり子(2015)等を基本に、筆者が加筆修正。 22 ベトナム非営利組織金融の比較(2) 表V21 ベトナムの非営利組織銀行の比較 社会政策銀行(VBSP) 財源 TYM 国家予算21%、基本建設投資資金(国) 2%、5つの国有商業銀行からの預け入 れ43%、市場金利による調達29%、その 他調達5% ①1994年にアジア太平洋貧困クレジットネットワーク (CASHPOR)やアメリカのOXFAM(140万ドル)の 支援、ドイツの貯蓄銀行国際協力基金とCARD(農 業開発センター)とパートナーシップ締結。 他に税額控除あり ②株式資本36%、預金20%、外部借入(海外)44% ③政治組織の持ち株比率25%以内。上限借入金利 貸出金利 政策金利で月0.25~0.9%と低利 貸出期間 3年~10年 6か月~2年 72,660billion VDN -10.7 -2 2.1 18.7 大 借り手のモラルハザードの防止と貸し手のリスク削減 に工夫。完済すれば逐次的に融資期間や金額を拡 大、センターミーティングで返済、婦人会のスタッフを 使いコスト圧縮。 237 billion VDN 27.3 7.3 10.8 29.3 少 特徴 融資残高(2009) ROE(2012) TOA(2012) コスト比率(対資産) 自己資本比率 不良資産 政策金利で月0.4~1.0%と低利(短期借換型) (出所)秋葉まり子(2015)等を基本に、筆者が加筆修正。 23 インドの協同提携融資のメリット 図J2 提携融資のメリット(インセンティブ) 製糖協同組合 信用協同組合 ①農家の投資促進により、生産 性上昇 ②出荷量の安定と増加 ③作物の品質改善 ④一方で、給与天引き、Letter発 行などの事務コストの上昇 ①農民の信用情報の入手(情報 の非対称性の圧縮)⇒信用リス クの圧縮 ②確実な返済(給与引き去り、一 括入金 ③事務コストの圧縮 協同組合 連携融資 農 民 ①借り手の低い金融規律 「徳政令がある中で、天引きは避 けたい」 ②一方、手続きが簡単、必要な時 にいつでも借りられるという高い 「利便性」 (出典)草野(2014)を基礎に筆者が加筆修正。 返済率(2000年代) ・全インド:35% ・州平均:47% ・同信用組合の 開始時1963年 :58% 2007年:90% 24 ベトナムのマイクロインシュアランス 表D ベトナムのマイクロファイナンスの概要 保険者 マイクロインシュアラ ンスの提供組織 提供商品【保障】 保障内容 医療保険、生命保険 ①医療保障100万ドン(約5,300円)、5年間に1回。 TYM ファンド TYM Mutual Fund M7 (M7 MPA) M7 Bao Viet Manylife 女性支援ファンド (Women support fud Ninh Phuoc) 女性組合 (Women Union of Vietnam) ABIC Agribank Bao Viet, Bao Minh (政府事業) 20の地方政府 債務相殺 債務相殺 債務相殺 定期保険 ②死亡保障:300万ドン家族(配偶者と子供) ③ローンの残高を相殺(契約者死亡時) ①医療保障(病院への支払額) ②ローンの残高を相殺(契約者死亡時) ①ローンの残高を相殺(契約者死亡時、16歳~70歳) ②死亡もしくは高度障害:本人は債務残高の 80%、配偶者は50% ①死亡、事故による高度障害、 ②病院への支払額 農家保障 ①病気による死亡 「Security credit」 ②事故による死亡及びけが ①作物保険 農家保障 ②家畜保険 ③漁業、養殖保障(自然災害の被害、伝染病) (出所)2nd Microinsurance Forum (2011) 25 ベトナムの少額共済の保険料の妥当性 表B ベトナム少額共済の保険料率の妥当性 年齢区分 死亡率格差(倍 (A)ベトナム 率:ベトナム/ ABIC保険料 日本) 率(18歳~) 日本の少額共 (B)日越死亡率 済保険料率(注 調整後、認可 2) 共済(COOP) (A)‐(B) 0歳~15歳 4.51 - - - - 16歳~25歳 2.37 0.65 0.22 0.52 0.13 26歳~35歳 2.08 0.65 0.25 0.52 0.13 36歳~45歳 2.10 0.65 0.43 0.90 -0.25 46歳~55歳 1.94 0.9 0.81 1.56 -0.66 56歳~65歳 2.01 0.9 2.00 4.05 -3.15 66歳~79歳 1.88 - - - - (注1)ベトナムの年齢別死亡率は、ベトナム財務省(2013)、日本の同データは 厚生労働省生命表による。 (注2)認可共済COOP共済の10歳ごとの保険料と保険金と少額認可共済のブロードマインド社、 メモリードライブ社、いきいい世代社のデータを合わせ、単価を算出、これに死亡率格差を乗じた値とした。 (注3)各歳ごとに計算したデータを表の区分で足仕上げ、その区分平均値を掲載した。 (出所)筆者作成。 26 マイクロインシュアランスの展開の視点 図F マイクロインシュアランスの展開の提案 貧困と大きな格差の存在 <一般の保険> <マイクロインシュアランス> 生活基盤確保のための農業技術支援と信用補完、保障 <対 応> 社会保障の普及まで、このリスクを少しでも抑えながら保 障の提供 ①信用情報の非対称性を緩和できる相手と組む(提携 企業とその従業員:インド) ②「新型」合作社、現地のNGOやボランティア組織と組む ③農業技術支援(教育)、信用事業を通じたチャネル化 一般リスク 一般に、貧困層を対象と するため高リスク 2.チャネル、教育 代理店、営業職員、 高度な教育 教育は低コストで簡素 3.ソルベンシー、 経営 規制による健全性確 保、契約者保護機構 4.商品開発 貧困層(準貧困層も)の ニーズ把握できず ニーズ把握できるが、ア クチュアリーなどの人材 不足 数理計算に基づく商品開発。 5.組織 株式会社、相互会社 相互組織、株式会社 相互組織、共済 (日本の共済、保険会社の相互理念の具現化) 1.リスクベース (出所) 筆者作成。 不十分、 政府の支援に依存 ①リスク管理と自己資本の確保 ②ブランド戦略、社会貢献の1つとして出資 ③クラウドファンディング 27 普遍性のある共同金融・保険 表V3 すべての国で必要とされるマイクロクレジット、マイクロインシュアランス ベトナム(発展途上国) 日本など先進国 貧困 格差社会 原因 主な対象 補填すべき対象 マイクロクレジット マイクロインシュアランス 社会の貧困層(同世帯比率30%) 働き手の病気、解雇 山岳部の住民、女性 ①生活困窮者、生活保護世帯(日本:3.1%) ②非正規労働者(日本40.5%:2015年12月) また、1962万人のうち12 %の235万人が65歳以上 ③欧米の移民 病気 ①社会保障料の未払い、公共料金未納 ②金融排除、口座が長期に貸越状態 ③病気、失業、離婚、配偶者との死別 「手に職」、起業資金 ①資格取得資金、独立資金 事業経営アドバイス ②事業経営アドバイス ①政府系のVBSP、婦人連合会のTYMなど クレジットアグリコール(協同組合銀行)の相談制度 による開業資金、設備投資 「相互主義に基づく協同組合の理念」の実践 相談窓口の設置:ポワンパスレルPoint Passerelle ①本人、家族の病気 ①本人、家族の病気 ②経営者死亡 ③事業資金返済担保 (出所)宮正一洋(2016)などから、筆者が整理 ①Adie(起業計画の事前審査や起業後の支援<伴走組織> ②Secours Catholique:スクール・カトリック基金(FCS) 提携銀行クレディミュチュアルの融資に50%政府が保障 通勤用バイクの購入、職業訓練経費、暖房器具の購入 28 結 論 (1)ベトナムの死亡保障市場は今後拡大、そのペースは格差是 正のスピードと連動。 (2)協同組合組織は達成する目的に応じ柔軟に形を変えられる。 現に、アジアでは、社会、経済、文化・歴史により多様な展開。 (3)ベトナムにおいて、①「新型合作社」、 ②婦人連合、③農産 物加工業者などと連携・支援することにより、信用業務、共済 事業の展開の可能性が高まる。 (4)農業指導と連動し、①合理的な保険料計算、②リスク管理・ 商品設計、③社会保障制度見直しへの対応など日本の共済、 保険会社のノウハウも寄与。 29 参考文献(1) 1. 苑鵬(2013)「中国農民専業合作社の発展の現状・問題と今後の展望」『農林金融』2013年2号、 pp.37-50。 2. 秋葉まり子(2015)『ベトナム農村の組織と経済』弘前大学出版会2015年、7月、全171p. 3. 明田裕(2003)「共済事業の現状と課題」『ニッセイ基礎研REPORT』、2003年2号、pp.1-4。 4. 賀川豊彦(1941)「協同組合保険論」pp.1~256。 5.河本淳孝(2016)「保険業法の適用除外要件について」『日本保険学会関西部会報告資料』2016年2月、 pp.1-24。 6. 金融庁(2011)「東日本大震災に係る保険金・共済金の支払い見込み額、支払い実績等」2011年7月、 pp.1-4。 7. 在日米国商工会議所保険委員会(2015)「共済と金融庁規制下の保険会社の間に平等な競争環境 の確率を」『在日米国商工会議所意見書』、pp.1~7。 8. 8 関英明(2012)「協同組合の潜在能力と発展可能性」『日本共済協会論文・講演集』、2012年10月、 2012 2012 10 pp.7-83。 9. 戸石七生(2015)「日印の伝統の農村の共済機能-地域社会における社会的分業の比較史的研 究」『共済総合研究』第70号、2015年3月、pp.41~72。 10. 富永紅(2012)「共済の特徴と役割」『結成20周年・2012国際共同組合年論文・講演集』、2012年2月、 pp.217~240。 11. 松吉夏之介(2013)「躍進する少額短気保険」『共済総研レポート』、2013年2号、pp.24~29。 12. 宮正一洋82016)「日本と英国の地域共済に関する比較研究」『日本保険学会関東部会報告』、pp.1 ~29。 13. 米山高生(2012)「日本における共同組合共済の歴史的役割と存在意義―所有権理論の枠組み ―」『日本共済協会論文・講演集』、2012年10月、pp.87~146。 14. 李奇泰ほか(2014)「韓国協同組合の歴史と動向」『共済総合研究』第69号、2014年9月、pp.134~ 151. 30 参考文献(2) 16. 2nd Microinsurance Forum (2011)“Information updated 2011”,Hanoi ,Vietnam. 17. Gaby Ramm, Mayur Ankolekar (2015) “The role of microinsurance in social protection: A country study of Vietnam, p Microinsurance Network 2015, p.1-44. 18. Ministry of Finance(2013)“Decree 115/2013/TT-BTC, Appendix 1”. 19. Masato KAWANISHI, Cometta Surya GURITNO, Fahmi Yanuar FARID “Assesment of Farmer Demand for Crop Insurance: A Case Sutudy in Indonesia” Japanese Journal of Risk Analysis, Vol. 26 (2016) No. 1 p. 31-39. 20. Ministry of Health(2013)“GenralHealth Review in 2013”. 21. Nguyen Thi Hai Duong, Nguyen Thi Chinh(2014)“Microinsurance inVietnam: Risk Analysis and Case Study of Microinsurance Performance”pp.1-25. 22.Serena Guarnaschelli, Gill Cassar, Aparna Dalal (2012) “Selling more, Selling better: A Microinsurance Sales Force Develoment Study” Microinsurance Paper ,No. 16, May 2012. 23. Son Hong Nghiem & An Hoai Duong(2012) “Client-Value of Microinsurance Products: Evidence from the Mutual assistance in Vietnam”ILO Research Paper No.18, 2012.5 pp.1-15. 31 (参考1)ベトナムの農村と農業 ①ベトナム農村:人口の68%、GDP割合:20%、貧困率:27% (都市部は6%)。 ②農業協同組合などの共同組織体(個別農家経営の企業化 と地域統合)が増加。古い価値観・システムを温存しながら、 市場化と向き合う。 ③コメの高収穫品種の導入で一時的には収穫が増加、ただ、 肥料と殺虫剤使用量急増が水田地力の低下を招来。 ④肥料価格の上昇率>米価格の上昇率で農業生産性が低下。 ⑤政府の備蓄米政策も生産過剰による価格低下に効果少。 ⑥農業技術は、国営農場から、個人経営+合作社へ。技術指 導は、市町村の「国家農業普及センター(常勤職員は17,200 人)」が担当。新品種の普及や集中農法モデルの普及 ⑦一方で、合作社の共同購入が肥料の過剰投入を促進。 32 (参考2)韓国の協同組合:国際共同組合法への呼応 表K1 韓国の国際共同組合法 ①2008年のリーマン危機に対応、衝撃吸収力も高いことから 「代替的」企業 経緯 としての評価が高まる。 ②2012年国連が国際共同組合年を採択。 ③2012年12月協同組合基本法の成立。 ④以前の8つの分野別組合法と共存する形。 目的 ①協同組合の新しい位置づけは、市場万能主義による「社会格差の是正」。 ②新たな職の創造と共生により資本主義の脆弱性を補完するとする。 ③非営利目的の「社会的協同組合」を多数設立し、社会的弱者の雇用と支援。 ①5名以上で自由に協同組合の設立が可能 (金融・保険業以外の全産業)。 要件 韓国の伝統的な協同組織「契」をモデル。 ③出資金規制の撤廃、市道府県知事への届け出制 (認可制度ではない) ④連合会組織の設立が可能 (出所) 李奇泰ほか(2014)より、筆者が整理。 33 (参考3)変貌する中国合作社 表C2 中国の進化系合作社 (1)合同自己経営型 合同して統一生産計画を作成、サービスチームを組織し、栽培、技術、規 格、品種の統一化をすする。組合員・農民は請負地の出資額(面積)に応じ 配当を受け取る。 (2)下請け経営型 合作社が土地を集約、統一的に生産計画を立て公開競争入札方式による 販売。合作社と大規模専業農家(請負料を受領)が請負契約を結ぶ。 (3)リース経営型 合作社が農業生産企業に農地を賃貸してその経営も任せる。合作社は賃 料を受け取り、農家の出資比率に応じ分配。 (4) 共同出資経営型 合作社が企業を取り込み、農民が土地を拠出、生産企業が現金出資し、双 方は発行した株式を持つ。農民も生産のリスクを一部保有し、収益も分か ち合う(分配権を有する)。また、農家には最低保障配当を約束する。 (注1)これらの仕組みで農民が不利益を受けないように、登記制度を改正したり、農民の持ち分が51%以上、 ③組織の理事長には農民が付くことなどを地方政府(例えば湖北省)が指導。 (注2)上記のように合作社が流動化、集約化した農地耕地の全国の13.4%(2011年末)。 (出所 )宛鵬(2013)を基礎に筆者が加筆修正。 34 (参考4)インドの協同組合金融 図J-1 インド協同組合連携融資の仕組み 県中央協同組合銀行 (11)返済 (8)融資決定 (7)融資依頼 (9)融資実行 単位信用組合(農協支部) (6)融資審査 (4)借入申込:①Letterと② 担保不動産書類 (9)融資の実行 (5)融資内容書類 製糖協同組合(本部) (2)Letterのサイン 信用組合 組合員かつ 製糖協同 組合組合 員 (1)Letterの発行依頼 返 済 製糖協同組合(支部) (3)Letterの発行 (9)給与の天引き (10)定例返済 (注1) Letterは、生産状況や借り入れ状況を示す書類で、本人が製糖協同組合に配布申請。 (出典) 草野(2014)を基礎に筆者が加筆修正。 35 (参考5)ベトナムの社会保障、福祉の概要 表E ベトナムにおける社会保険、社会福祉の概要 種類 給付、保障内容 公的年金保険 15年以上の保険料納付で平均所得の45%の年金を支給。 加入者範囲 また、最低賃金の50%葬儀代も支給。 強制保険 生活保障 病気による休業で、所得の75%保障、年間30日上限。 出産手当 直前6か月平均所得の100%を4~6か月間を支給。 職務上の病気及び事故(急性、慢性疾患)で外来もしくは入 院した場合、上限、最低賃金の10か月迄支給。リハビリ、障 害手当もあり。 労災保険 自由加入 保険 労働力人口 の19% 失業保険 失業申請、登録した労働者。失業期間6か月間以内平均月 労働力人口 収の60%、職業訓練。 の13.9% 加給年金 年金、生存リスク保険(葬儀手当を含む)、 任意医療保険 保険料は月額最低賃金の4.5%、で更に30日間の保障 85歳以上、孤児、戦傷者、弱者(病気の子供、重病者など) 社会福祉 貧困者、社会的弱者 に対し、120,000~5,000,000BND (4.48~71.7ユーロ)の手 当などを支給。 災害の被災者 1,000,000~5,000,000BNDの医療、食糧支援、就業支援。 (出所) Gaby Ramm, Mayur Ankolekar (2015)を基礎に筆者が整理。 年金加入者 の0.12% 370万人 人口の 1.73% 36
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