IBM SmarterCloud ストレージ・マネジメント・サービス (SMS)

IBM SmarterCloud ストレージ・マネジメント・サービス (SMS)
1.ビッグデータ時代のストレージに求められ
るもの
化技術により、高速処理が必要なデータや大容
量保管が必要なデータなど、データの特性によ
り使い分けることができる新たなストレージ・
サービスを開発しました。
IBM SmarterCloud ストレージ・マネジメン
ト・サービス(以下、SMS)は、分散系サーバ
ープラットフォームにおいて、お客様のご要求
に合わせてストレージ資源をファイバー・チャ
ネル経由で提供する従量課金型ストレージ・ク
ラウドサービスです。基幹系システムからの大
容量データの保管やバックアップ先等、用途や
要件に合わせて 3 階層のストレージ・レベルを
提供します。効率化・標準化されたストレージ
運用を合わせて提供することで、お客様の運用
負荷を軽減するだけでなく、可用性の高い信頼
性のあるストレージ・クラウドサービスを提供
します。
SMS は次の図 1 のような構成になっています。
企業におけるデータは、ますます多様化され、
かつ高い頻度で生みだされ、大容量化してきて
います。これは、従来からの情報システムにて
使用されてきたトランザクション・データや構
造化されたデータに加え、モバイル機器やソー
シャル・メディアの普及、各種センサーやスマ
ートフォンなどの様々な機器が、日々刻々とデ
ータを生みだすことなどに起因されます。IBM
の調査によると、その容量は 18 カ月∼24 カ月
で倍増し、仮に年率 60%の割合で増加すると、
100TB 注 1 のデータは 5 年後に 1PB 注 2 にも到達す
るという結果を得ています。こうした膨大なデ
ータを、ストレージは効率的に処理、分析、保
管しなければなりません。ストレージの効率が
悪ければ、アプリケーションのパフォーマンス
低下などの問題を引き起こす可能性があります。
さらには、生産性の低下、ユーザー満足度の低
下、最終的には収益の減少といった事態が生じ
かねません。ビッグデータ時代には、増大する
データを単に管理するだけでなく、膨大なデー
タ、多様なデータ、リアルタイムに変化し続け
るデータを戦略的に活用するための新しいテク
ノロジーとソリューションが必要になっていま
す。
一方、増大するデータ量に対して、ストレー
ジへの予算を比例的に増大させることは、一般
的には困難であると考えられます。
図 1.SMS 概要構成
現在のストレージを取り巻く環境は、データ
の増大、要求パフォーマンスの多様化などを、
SMS は、階層化、仮想化されたストレージ機
限られた予算や納期の中で実現する事が求めら
器を関東と関西の
IBM データセンター内に設置
れています。
します。同じデータセンター内でお預かりして
注1
テラバイト:情報量の単位(約 1 兆バイト)
いるお客様のサーバー、および IBM マネージ
注2
ペタバイト:情報量の単位(約 1,000 兆バイト)
ド・クラウド・コンピューティング・サービス
(以下、MCCS)上の仮想サーバーからファイ
バー・チャネルによる接続が可能で、サーバー
2.IBM SmarterCloud ストレージ・マネジメン
毎に仮想的にストレージ容量を割り当てます。
ト・サービス(SMS)の概要
また、ストレージは、パフォーマンスや機能の
違いによって 3 種類に階層化されており、お客
前述のようなストレージを取り巻く環境の中、
様の要件に合わせて最適な階層のストレージを
IBM は、爆発的に増加するデータを仮想技術に
選択することが可能で、価格性能比に優れた構
より統合されたストレージ環境に保管し、階層
成を実現します。
1
2.1 階層化
ストレージの階層化は、異なるストレージ機
器を用いて、データ価値に応じて最適な階層の
ストレージを用いるという考え方です。例えば、
大量の画像データを取り扱う場合に、編集中の
画像データは高速処理が可能なディスクに保存
する一方、アーカイブ保管用のデータは安価な
ディスクに大量保管するなどの使い分けを階層
化により実現します。ストレージの階層化とい
う 概 念 は 、 以 前 よ り Information Lifecycle
Management (ILM:情報ライフサイクル管理)と
いう概念とともに広く一般的に知られており、
ストレージ・コストを抑制し、効率的な利用を
実現するための重要な手段となります。
一方で、階層化ストレージを実装する場合、
ストレージ運用管理の複雑性増大や、階層ごと
にストレージ機器を準備する必要があるため初
期投資が大きくなりがちなこと、また異なるス
トレージ機器間のデータ移行が一般的には複雑
な手順を要することなどから、お客様環境にお
いて十分に普及している状況とは言えません。
SMS では、お客様はストレージ資産を持つ必
要がなく、必要な階層のストレージを必要な容
量だけ使用することが可能となるため、上記の
問題点をクリアし、メリットを享受することが
可能となります。
SMS では、ハイパフォーマンスな階層から順
番に Tier1、Tier2、Tier3 という 3 階層のストレ
ージを提供します。
(アプリケーションやサービ
スレベルによって保管先のストレージを変える
ことを階層化と呼び、階層化されたストレージ
の種類を機能や性能、サービスレベルが高い順
に Tier1、Tier2、Tier3 と定義しています)
。
想化によりデバイス・ドライバーも統合され、
単一のサーバーから複数階層のストレージを簡
単に利用することが可能となります。このこと
により、ストレージ階層化の導入の課題の一つ
である階層間のデータ移行を容易に行うことが
できます。
また、仮想化装置の付加機能である SVC の瞬
時コピー機能を使用注 3 することで、ストレージ
上のデータの高速コピーを行い、バックアップ
に伴うアプリケーションの停止時間を最小化す
ることも可能となります。
2.2 仮想化
ストレージの仮想化は、複数の異なるストレ
ージ装置を論理的に統合し、仮想的にストレー
ジ・ボリュームを割り当てることを可能にする
技術です。ストレージの仮想化方法にはいくつ
かの方式がありますが、SMS ではストレージ仮
想化装置として、IBM System Storage SAN ボリ
ューム・コントローラー (SVC) を採用し、ブロ
ック・レベルのストレージ仮想化を行います。
ストレージの仮想化により、ストレージ装置に
依存しないストレージ環境を実現し、お客様は
階層ごとの物理ストレージの違いを意識するこ
と無くストレージを利用することができます。
また、通常はサーバーからストレージを利用す
る場合、ストレージ機器ごとに異なるデバイ
ス・ドライバーの導入が必要となりますが、仮
3.1 IBM Standard Delivery Model (SDM) による
標準化されたストレージ運用
日本 IBM では、1980 年代から日本で進化さ
せてきた機能分化 IT 運用モデルをもとに、1993
年より高品質な IT アウトソーシング・サービス
を日本のお客様にご提供しています。さらに、
海外リソースの活用や品質と生産性を両立させ
る新たな仕組みの導入により、一層のモデルの
進化を図ってきました。それが Standard Delivery
Model(以下、SDM)です。
SDM とは、IBM のベスト・プラクティスを結
集した IT 運用のための総合基盤です。SMS は、
この SDM の仕組みでストレージ運用を行い、各
分野のスペシャリストによるベスト・プラクテ
ィスに基づいた、高品質かつ適正コストの運用
管理を実現しています。
注3
一部の階層のみでの機能提供となります。
2.3 統合監視、レポーティング
IBM コマンド・センターは、システム運用に
かかわるスキル要員、運用ノウハウを集約し、
IBM グローバル標準の運用管理プロセスにより、
システムの運用監視・制御を実施する運用基盤
です。SMS では、長年実績のある IBM コマン
ド・センターを利用し、ストレージの常時監視
を行い、機器障害などの情報を迅速に検知し、
回復させることで、サービスへの影響を未然に
防ぎます。
また、SMS では、統合監視による障害検知以
外にも IBM Tivoli Productivity Center (TPC) の機
能を用いて、SAN ファブリックのパフォーマン
ス監視を実施します。パフォーマンス情報を継
続的に収集しますので、お客様はストレージの
パフォーマンス情報を活用して、最適な拡張計
画・投資計画を立てることが可能となります。
3.SMS の特長
2
3.2 優れた信頼性と柔軟性
SMS は、IBM のストレージ・テクノロジーを
基にしたストレージ・クラウドサービスとして、
以下の特長を持ちます。
・ 冗長構成による高い信頼性、可用性
・ 階層化に基づくパフォーマンス要件の充足
・ 柔軟かつ迅速な拡張
災害対策のためのリモート・データコピー、ビ
ッグデータの効率的な処理を紹介します。
4.1 ファイル・サーバー統合
事業所や工場に乱立するファイル・サーバー
は、使用効率の低下や不要なサーバーの増加、
運用コストの増大を招く上に、セキュリティー
管理も難しくなります。それらの課題の解決策
として、ファイル・サーバーの統合が考えられま
(1) 冗長構成による高い信頼性
すが、初期の資源の見積もり次第で、統合先サ
SMS は、サービスを構成する全ての構成要素
において冗長化が考慮されています。またディ
ーバーの資源の不足や過剰といった問題が発生
します。SMS を活用したファイル・サーバー統
スク装置自体も、信頼性確保のために、RAID5
合では MCCS などの IBM のクラウドサービス
以上の構成としています。更に、Tier1、Tier2 に
と併用することにより、柔軟にファイル・サーバ
はオプションで提供する瞬時にコピーする機能
ーの設置やストレージの拡張が可能となります。
を使うことで、データ保護向上を図ることも可
また使用頻度が低いデータが多い場合には、
能です。機器構成だけではなく、運用の面から
もサービスの信頼性を確保します。また SMS は、 Tier3 のストレージを使用することにより、コス
ト面での効率化も実現することができます。
定期的な予防保守により、障害を未然に防止し
ます。
4.2 リモート・データコピー
(2) 階層化に基づくパフォーマンス要件の充足
事業継続のために重要なデータは、複数サイ
SMS は、3 階層のサービスを提供することに
ト間のデータ複製により保全することが可能と
より、パフォーマンス要件に応じた適切なスト
なります。SMS を使用した場合、関東と関西の
レージ・サービスを利用することができ、投資
IBM データセンターにストレージを設けること
を最適化することが可能です。例えば、データ
ができます。コピー先のデータは、通常運用で
ベース・サーバーやメール・サーバといった入
は使用しないため、Tier2 や Tier3 のストレージ
出力処理の性能が求められる場合には、Tier1 の
を使用し、かつ必要最低限の容量とすることに
ストレージを使用します。アクセス頻度の低い
より、コストを最小限とすることができます。
文書の保管を目的としたファイル・サーバーな
データ転送は、OS やアプリケーションの機能で
どでは、Tier3 のストレージを使用します。
実装することにより、データの静止点を考慮し
たデータ転送が可能となります。注 4
(3) 柔軟かつ迅速な拡張
注4
通信回線はお客様でのご用意となります。
SMS では、必要な時に必要な容量のストレー
ジを利用することが可能です。独自にストレー
4.3 ビッグデータの効率的な処理
ジ装置を使用する場合に必要となる、機器の発
ビッグデータの活用においては、大容量のデ
注、および納品、設定の調達にかかるまでの期
ータの蓄積とビジネスに活用するための分析の
間が短縮されます。そのため初期の構成は、最
ための高速なストレージが必要となります。
低限の構成とし、必要となったときに拡張する
SMS では、階層化の特性を活かしたビッグデー
ことが可能です。容量単位での課金のため、初
タの効率的な処理のためのストレージを所有す
期投資を抑え、追加投資を効率化することがで
ることが可能となります。データを蓄積するス
きます。
トレージには、データ使用の特性に応じて、Tier2,
Tier3 のストレージを使用します。分析には高い
4.SMS の利用例
パフォーマンス要件が求められるため、Tier1 の
ストレージを活用します。それぞれの階層で適
次に、実際の活用例をご紹介します。SMS の
切な容量とすることにより、ビッグデータを活
サービスの階層、柔軟性と拡張性といった 2 章、 用するためのストレージを最小限のコストで構
3 章で挙げた特性から様々な構成が可能です。
成可能です。
ここでは構成例としてファイル・サーバー統合、
3
5.まとめ
ビッグデータ時代のストレージには、増加し
続ける膨大なデータを保管し、ビジネスに活用
するための柔軟性、拡張性が求められます。SMS
は IBM の持つストレージ仮想化技術、階層化技
術、統合管理技術の3つを融合し、柔軟かつ拡
張性の高いストレージをご提供します。また、
必要容量を、適切なパフォーマンス要件に応じ
たストレージ階層を選択することにより、予算
の有効活用を図ることができます。SMS は ITIL
をベースとしたベスト・プラクティスを包含す
る SDM により運用されるため、お客様はご自身
でストレージ運用管理の専門要員や基盤を保持
することなく、高品質なストレージ・クラウド
サービスを利用することが可能です。
グローバル・テクノロジー・サービス事業
SO デリバリー、サーバー・システム・オペレーションズ
アソシエイト・アーキテクト
松本 耕介 Kohsuke Matsumoto
グローバル・テクノロジー・サービス事業
SO デリバリー、サーバー・システム・オペレーションズ
アソシエイト・アーキテクト
劉 功義 Gongyi Liu
[プロフィール]
2001 年、日本 IBM 入社。製造分野でのアプリケーション
開発、IBM 社内システムにおけるサーバー設計・構築・運
用や大規模ファイル・サーバー統合プロジェクトを経験。
2007 年より金融のお客様にて大規模ストレージ統合およ
びバックアップ統合を担当。2011 年より SMS のリード・
アーキテクトとしてストレージ・サービスの設計・開発を
指揮している。
[プロフィール]
2006 年、日本 IBM 入社。アウトソーシング部門にて公共、
流通、金融、製造業のお客様向けのストレージ、データ・
バックアップ・システムの設計、構築、運用を担当。2011
年よりクラウド・ストレージの検討、設計に従事。プロジ
ェクト・マネジメント学会、日本品質管理学会会員。米国
PMI 認定プロジェクト・マネージャー。
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