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【NPHC 研究会】
【講演録】
日時:2015 年 5 月 23 日(土)18:00~20:00
場所:東京大学本郷キャンパス工学部1号館建築学科3階会議室
主催:こどもの病院&プレイセラピィネットワーク(NPHC)
【内容】
講演:
「人工呼吸器をつけた子どもたちの QOL-その現状と課題-」バクバクの会会長 大塚孝司氏
<大塚孝司氏のプロフィール>
・人工呼吸器をつけた子の親の会〈バクバクの会〉会長
・認定 NPO 法人難病のこども支援全国ネットワーク運営委員
・社会福祉法人鶴風会倫理審査委員会委員
・臓器移植法を問い直す市民ネットワーク事務局員
1949 年,静岡県浜松市生まれ。筋疾患(ミオチューブラー・ミオパチー)のため,出生直後から 24 時
間人工呼吸器を使用していた息子(1984 年 2 月~2005 年 6 月)の父親。バクバクの会が全国組織にな
った 1990 年に入会し,翌年,大阪で開催された第 1 回定期総会に出席した時から会の活動に参加する。
第 8 回定期総会時(1998 年 8 月)に会長職を拝命,現在に至る。
NPHC 研究会の趣旨説明(NPHC 代表・柳澤要)
。
NPHC は 1998 年,故・野村みどり先生らにより,病院の中の子ども達の権
利を守っていこうという趣旨で設立されました。日本では,入院する子ども達
の生活などの保障が色々な意味で守られていない現状に対し,病院において
CLS(チャイルドライフスペシャリスト)や HPS(ホスピタルスペシャリスト)
等の専門家が働いており,環境整備に加え子どもの発達や権利を守っている欧
米並みに日本でも進めていこうという趣旨で設立されました。
最近では病院に保育士さんらが勤務していることも増え,その情報交換の意
味でも,引き続き研究会で交流できたらいいです。
講演「人工呼吸器をつけた子どもたちの QOL-その現状と課題-」
バクバクの会会長
大塚孝司氏
私の息子(1984.02~2005.06)は,随意筋が働かない筋疾患(ミオチューブ
ラー・ミオパチー)という病気で生まれました。当初は医師から半年しか生き
られないだろうと言われていましたが,21 歳まで生きることができました。
「バ
クバクの会」のリーフレットを配布しましたので,ご覧下さい。今日は,会の
活動の概要と尊厳死法制化についてお話ししたいと思います。
1.バクバクの会の発足・経緯
1989 年 5 月,淀川キリスト教病院の院内グループ(7 家族)により結成され
ました。1990 年 3 月,当時 4 歳の前会長の娘(平本歩)さんが退院し(小児
が人工呼吸器をつけて在宅した初めての事例)
,保育園に通うという記事が新聞
に載り,全国から同じ境遇の親から問い合わせが相次いだことから,同年 5 月に会を全国組織にしまし
た。
会員数(2014.07 現在)は,正会員 271 名,賛助会員 180 名,購読会員 36 名,と約 500 名です。現
在のバクバクっ子(人工呼吸器をつけた子)の年齢は,0 歳から 50 歳を超えた方までいます。
当会は,人工呼吸器を使用したり気管切開をしたりして,医療的ケアが必要な「状態」の方の集まり
の会です。難病で呼吸器を必要とする子,溺水など事故により呼吸器を必要とする子など,原因は様々
です。病気の解明ではなく呼吸器をつけていても,社会の中で楽しく生きていくための方策を追求して
いる会です。大阪に本部事務局があります。
2.呼吸器をつけて生活している子ども達ってどんな感じなのか?
東京では人工呼吸器をつけた人と街中で出会うことは少ないと思いますが,大阪では公共交通機関を
使う方も多く,比較的見慣れているように思います。
【添付資料参照】スライド 3~5 には,授業で手動
式人工呼吸器をつけてプールに入っています。北海道への修学旅行に親が同行しないで参加しています
(学校では医療的ケアのため親の付き添いを求められることがほとんどです)。
原宿の竹下通りに遊びに
行った時の写真です。都バスにストレッチャー型の車いす 2 台が乗って移動しています。のぞみ型の新
幹線は, 11 号車だけがストレッチャー型車いすが搭載できる車両です(車いす席 2 台分のスペースを
使用する)
。新型のぞみ号は,個室(多目的室)があり 2 台搭載できるようになりましたが,多人数で
の移動には,乗車する新幹線の時間をずらす必要があります。飛行機では 3 列シートの窓側 6 席分(3
×3 の 9 席の窓側 6 席:通路側 3 席も実際は使用不可となる。)
にストレッチャーを設置して使用します。
当初は 6 席分の座席料金を課せられたこともありました。飛行機の場合は,気圧や酸素濃度の変化によ
り,状態を見て人工呼吸器の設定を調節する必要があります。スキーもします。1995 年には総勢 94 名
で立山に登山をしています。当時は 14~15kg あった呼吸器を介護者が背負って並走して登りました。
臨海学校で海水浴をしています。不便なこともありますが,工夫すれば何処でも行けます。普通の人と
同じように行動できます。
在宅で行っている主な医療的ケアです。呼吸管理・水分栄養管理・排泄管理などが必要になります。
次は,在宅で使用している主な医療・福祉機器です。人工呼吸器は,現在、保健点数で賄えるようにな
っていますが,当初は人工呼吸器を自費で購入(150 万円程)していました。前会長の平本は,人工呼
吸器を個人では購入できなかった時代でしたので,病院へ寄付するという形で, 周辺機器を含め,2 台
を 500 万円ぐらいで購入していました。人工呼吸器をはじめ,様々なものが在宅生活には必要になりま
す。子どもの場合のリースは難しい物もありますが,レンタルしやすい状況になってきております。
3.QOL の現状と課題
人工呼吸器は特別なものなのでしょうか。一般的に,人工呼吸器を使用するということは,終末期の
対応のように思われていますが,私たちの子どもはそこからが生きることの始まりと認識しています。
現状では,在宅における「医療的ケア」も「医行為」とされていますが,たんの吸引や経管栄養など在
宅で家族や介護者が行うことができる医療的ケアは,医師が行う医行為とは異なり,生活支援行為と私
たちは考えています。個々人の在宅生活の介護を「医行為」として医師の管理下に置くことは不可能で
す。メディカルコントロールではなく,当事者の安全と生活を大切にしたメディカルサポートをお願い
したいと考えています。人工呼吸器使用者にとっては,呼吸器をつけているのが普段の状態です。そこ
から体調を崩した場合には治療が必要になるので,その時にはメディカルサポートで関わっていただく
ことになります。医行為と医療的ケア,医療関係者が行うことと家族や介護者が行えることの中には,
グレーゾーンになっている部分もあります。医療的ケアを家族が行う事や,研修等一定の条件を満たせ
ば「違法性の阻却」として介護者に認められているのが現状です。
教育問題では,人工呼吸器をつけた子どもが通学する場合,ほとんどの親が付き添いを求められる現
状です。学校は,本来子どもが親から離れ自立していくための場所ですが,何かあった場合に責任が取
れないということから,親の付き添いを強要してくる現状があります。修学旅行にもほとんど親の付き
添いを求められる状況です。
(付き添う親の旅行費用は自己負担を求められる)
。
交通のバリアフリーに関して。この写真はストレッチャー型車いすの一例です。本人と合わせると重
さ 100kg 以上になります。長さ 160cm 幅 70cm が概ねの大きさです。ハンドル+リクライニングを起
こす+足部を折ると 130cm ぐらいになります。JR の持ち込み荷物の規定では最長 120cm となってい
ることから,しばしば乗車拒否問題があります。私と同じくらいの身長(170cm)があった息子が 120cm
に収まれという方がおかしいと思いませんか。2020 年には東京五輪とパラリンピックが開催されますが,
再考・改善が求められるところです。以前,シルバーカーを更に小型にしたスクーター式電動車いす使
用の外国の方が,新幹線を利用できず京都旅行を断念したこともあります。公共交通機関のバリアフリ
ー化は重要な課題だと考えます。呼吸器をつけての修学旅行では,医師の診断書を求められることがあ
ります。JR やフェリーなどの乗船に,承諾書(呼吸器をつけていることで,万が一の際に対応ができ
ない旨の念書)を求められることも多々あります。今でも飛行機の搭乗には診断書が必要です。大都市
の路線バスでは車いすが乗れる低床バスが出てきていますが,長距離バス・リムジンバスには車いす配
慮がされていない現状です。
4.いのちの問題,今後の活動
脳死・臓器移植法,尊厳死法制化,出生前診断など,いのちに関する問題を多々抱えています。会員
には低酸素脳症の子どもも多く,ドナーにされる可能性もあります。尊厳死法制化や出生前診断など、
社会全体がいのちを切り捨てる風潮になる事が、脳死者とされる人や人工呼吸器を装着している人々の
生存を脅かす事態になりかねないのではと危惧しています。
当会の活動に「まいど医療的ケア」という医療的ケアの研修事業があります。2009 年に WAM(独立
行政法人福祉医療機構)の助成事業を受け,東京・仙台・福岡で研修会を開催しました。翌年三菱財団
の助成を受けることができたので,2010 年 12 月から 2011 年 9 月にかけて,全国 10 か所で研修会を開
催しました。研修会では,
「吸引シミュレータ“Qちゃん”
」を使用して,たんの吸引方法を体験するこ
とができます。はじめに座学で看護師と理学療法士から生理学的なことなど,たんの吸引に関する医療
的ケアの基礎知識を学び,次に“Qちゃん”を使用して,たんの吸引体験をします。最後に人工呼吸器
を使用している本人を被験者として,実際の吸引体験してもらいます。多くの人たちがたんの吸引に関
心を持ち,たんの吸引ができる人材を増やすことが,子ども達の QOL の向上につながると思っていま
す。また会では「バクバクっ子の為の生活便利帳」や「防災ハンドブック」
「退院支援ハンドブック」を
作成・販売しています。
「生活便利帳」には,在宅生活で培ってきた会員の 25 年分の創意工夫が込めら
れており,会の収入源にもなっています。
「防災ハンドブック」には,さまざまな災害への対応や,緊急
時の対応について書かれており、付属の別冊にはバクバクっ子個人の医療情報,生活情報などを記載で
きるようになっており,緊急時に別冊だけ持って避難すれば,受け入れた先の医療機関で対応できるよ
うになっています。最近は呼吸器をつけてから 2~3 か月で在宅訓練や準備期間もほとんど無いまま,
退院させられることも多々あります。家に帰ることは嬉しいけれども,何に困るかもわからない不安な
当事者家族に向けて「退院支援ハンドブック」を作成しました。
2010 年,当会 20 周年の総会で「いのちの宣言文」を作成しました。行政の施策に対して後追いする
ことが多い中,普遍的な「いのち」とは何か?という事で「いのちの宣言文」をまとめました。最後の
スライドは,同じく 20 周年の時に,会場の代々木にある国立オリンピック記念青少年総合センターに
公共交通機関(小田急線)を利用して向かった際の写真です。1 車両に 5 人の人工呼吸器使用者が乗っ
た写真です。自分達が生きていることをアピールするためにも良い写真だと思っております。
質疑ほかから抜粋)
(右は会場の様子→)
*赫多(NPHC 運営委員)
:認定 NPO 難病のこども支援全国ネットワークの
運営委員・機関紙『がんばれ!』編集委員のお仲
間でいらっしゃる大塚さんに今回のご講演をご
依頼しました。大塚さんは,人工呼吸器をつけた
お子さんをもつ親の会のまとめ役として,長年精
力的に活動され,全国各地で講演されています。
一般的に人工呼吸器を使用することは終末期の最後の手段というイメージがあります。しかし,人工
呼吸器を使用しながらこんなに豊かに生きることができる,家族にとってもただただ大変な介護生活
が続くということではないという貴重なお話をいただけたと思います。
*大塚(息子さんの在宅生活への経緯,関わることの大切さ)
:私の息子は都立大久保病院で生まれましたが,
「次の人工呼吸器が必要な患者が出た場合に対応できな
い」という理由で,3 日目に親の承諾なしに東京女子医大病院へ移送されました。息子は 5 歳まで女
子医大の NICU で過ごし,病状も落ち着いていたので退院しました。殆ど訓練しないままの在宅生活
だったため1週間でギブアップ,武蔵村山市にある東京小児療育病院・みどり愛育園に緊急一時保護
で入院し,その後措置入所となり重心施設での生活となりました。
8歳の時に心停止するまでは,手足を持ち上げ悪戯できる状態であり,面会後の帰り際には,手鏡で
病室を出ていく私たちを見つめていました。8 歳の時の心停止のダメージが大きく,かすかな反応が
出てきたのが2年半を過ぎた頃で,その後亡くなるまでは,声掛けへの反応,注射の痛み,周りで面
白い話をしている時,4月に新任の看護師さんが大勢で来たときなどの嬉しそうな反応を,まぶたや
口元のわずかな表情の変化で読み取れる程度に回復しました。
息子に対し,療育という観点で早期から接していたら,もっとコミュニケーションが取れたのではな
いかと思っています。生まれてすぐに半年ぐらいの命と言われたことや,NICU という環境下であっ
たため,ある意味傍観していた自分があったことを反省しています。
活動報告「柳澤研究室の昨今の活動報告」
千葉大学大学院工学研究科修士課程 1 年
佐々木郁弥氏
障がい者施設の計画に関する研究を,柳澤先生と本日参加の 4 人のゼミ生が
行っております。今回は,自閉症者・高度行動障害者向け施設に関する調査結
果ほかを報告します。
関東近郊の 7 施設を調査しました。共通の現状としては,
18 歳以上の入居者が増えていることが挙がります。
国立秩父学園の建物は施設らしい要素が,槇の木学園は小舎型住宅に近い施
設でした。施設の利用形態では,大・中・ブース型・ユニット型があり,大舎
型・中舎型・ユニット型など色々な配置がされていました。入居者それぞれの
特性に合わせ環境調整や対応しているので一概には言えませんが,配置の長短
所や,職員の仕事場(職員室など)と共用スペースが近いといいのではといった解釈ができました。そ
れに基づき,秩父学園の検討平面,内装インテリアパターンを提示しました。
*柳澤先生より
理想としては,ユニットケアが重要と思われますが,大勢が大勢の対象者をみるのではなく設計はユ
ニットケアであっても,運営上は人員が足りず 1 人が数ユニットを担当する現状もあるといいます。一
方,槇の木学園のように,家庭的な雰囲気があるかかわりもあるので,入居者や職員体制などによって
一概ユニットケアがいいとはいえない面もあります。こういった前提に加えて,自閉症者にも個性や差
異があり,意外に社交性がある方がいらっしゃる一方,頭を打ち付ける方もいらっしゃいます。スイス
先進事例では住宅に近い形であり,入居する個人に合わせて,そこが終の棲家のような住まいになって
いることもあるといいます。しかし日本においてはその実施は中々難しく,改修依頼も,現存の建物を
活かしながらということでして,レイアウト等を変更し,順次建て替えていこうとしています。計画・
慎重に進めていきたいと考えます。展開次第また報告させて頂きたいと思っております。
記録:鈴木健太郎(杏林大学保健学部)
監修:大塚孝司(バクバクの会会長)
,赫多久美子(国立特別支援教育総合研究所)
総合監修:柳澤要(千葉大学大学院工学研究科)