(天体3) 望遠鏡で見よう 小望遠鏡による天体観察 <目 1.ねらい<目的と概要> ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.材料集めのための情報やヒント ・・・・・・・・・・・1 2-1.指導方法(カリキュラム)作成のための情報やヒント 2-2.観測場所の選定 2-3.観測する際の補助資料 3.観測の実際 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 3-1.観測の際のマナー 3-2.見る対象を視野に入れる 3-3.望遠鏡での観察のポイント 3-4.様々な望遠鏡の利用法 次> 4.安全対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 5.科学する心を育てるための具体的なヒント ・・・9 6.この教材を用いることのできる子どものレベル・・9 7.この教材を用いることのできる活動団体の経験年数 ・・・・・9 8.関連項目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 8-1.学習指導要領との関連 8-2.活動総覧(活動マップ) 8-3.教材系統図(カリキュラムマップ) 8-4.キーワード 9.補足資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 本教材は宇宙とのつながりを軸として科学を身近に感じてもらうために作った 科学教材です。本教材の利用による事故等については一切責任を持ちかねます ので、本教材の利用は、経験のある指導者の指導の下に行って下さい。 2006年(平成18年)3月31日 「宇宙教育のためのリーダー育成」委員会 望遠鏡で見よう - 小望遠鏡による天体観察 - 1. ねらい<目的と概要> 望遠鏡で月や土星や木星や金星を初めて見て子供たちが感じることは、「この世にはなんてすば らしいものがあるんだ!」ということではないか。肉眼ではまったく見えなかったものが、望遠鏡 を通して見えることは大きな驚きでもある。月のクレーター、木星の衛星や縞模様、土星の環、金 星の満ち欠けなど、たとえ今まで写真で見たことはあっても、レンズを通してリアルタイムで見る 感動は、格別の体験となる。できるだけ多くの子供たちにこの驚きを味わってもらうことが天体観 望会の目的の1つである。その感動を知っている子は、同じ天文の本を読む時でも、本物を見たこ とがない場合とは違って、強い好奇心を持って読むことであろう。 さらに、観望会で望遠鏡を見せてもらうだけでなく、小さいながらも自分の望遠鏡を持つことが できれば、更に子供たちの活動は持続的、発展的になる可能性がある。子供たちが観望会で見せて もらった天体の変化を、その後も継続的に観察したり、天文年鑑などで他の天文現象がいつ起きる か調べたり、その現象を観察するために辛抱強く空が晴れるのを待ったり、更には家族や友達にも 見せてあげたり解説してあげることができるようになれば、子供たちは大きく成長していくことで あろう。 本教材では、主として口径5~6cm の小型望遠鏡を使用する場合について解説する。 2.材料集めの情報やヒント 2-1.指導方法(カリキュラム)作成のための情報やヒント 1)地元のアマチュア天文家をリーダーにするか、アマチュア天文同好会があれば企画、実施に 協力を依頼する。地元に子供科学館のようなものがあれば、そこを基地とした企画が可能で ある。 2)本教材では、小望遠鏡の具体例として「コルキットKT-5cm」を用いて説明する(表紙参照)。 口径5センチ、焦点距離600ミリのアクロマート対物レンズ。紙製の鏡筒。接眼レンズは ケルナー式12ミリで倍率50倍。約1時間で組み立てられる。鏡筒価格3,675円、天 頂ミラー630円(税込価格。通信販売の場合は別途送料が必要)。観測に適した対象は、月の クレーター、金星の満ち欠け、木星の衛星の動きと本体の2本の縞模様、土星の環。 販売元:オルビィス株式会社:http://www.orbys.co.jp ★2005年度の活動教材集「手作り望遠鏡」は口径5センチ、倍率7倍で、市販の双眼鏡の ように広い視野が得られ、天の川、すばる、アンドロメダ銀河やオリオン座の大星雲などの 観察に適している。月のクレーターも見ることができる。 3)毎年11月下旬頃に発売される、各種の天文年鑑で年間の天体の動きを調べ、実施日を決め る。「藤井旭の天文年鑑」(誠文堂新光社)は児童を対象に書かれていて分かりやすい。パ ソコンがあれば、アスキーの「星空年鑑」で年間の天文現象がわかる。12月初旬に発売さ れる天文月刊誌(1月号)にも年間の主な天文現象が掲載されている(天文ガイド、月刊天 文、月刊星ナビなど)。 4)ステラナビゲーター(株式会社アスキーソリューションズ)やザ・スカイ(誠文堂新光社) などの天文ソフトで、観測地に合わせて、日没時間、薄明の終了時間(星座解説や、星雲・ 1 銀河も見せる場合)、月没時間、惑星の高度、方角、視直径(見かけの大きさ)などを調べ て、どのような順番で見せるとよいか、活動時間割を作成する。 5)観測中に国際宇宙ステーションが上空を通過しないかチェックする。 宇宙航空研究開発機構(JAXA)のサイトで、「ISSとスペースシャトルを見よう」 (http://kibo.tksc.jaxa.jp/)を選び、観測地を選んで、通過時間と経路をチェックする。国際 宇宙ステーションは1等星よりも明るく見やすい。しかし、見えている時間はせいぜい数分な ので、詳しい予報を知っておく必要がある。もし見えたら、とても印象深い体験になる。 6)大きな望遠鏡で惑星を観測する場合には「月惑星研究会・関西支部」のサイトでアマチュア による最新の撮影画像を見ておくと参考になる。 (http://www.kk-system.co.jp/Alpo/Latest/index.html) 7)天体望遠鏡に関する知識 「最新・藤井旭の天体望遠鏡教室」で全般がわかる。「星を見に行く」、「続・星を見に行 く」(えびなみつる著・誠文堂新光社)はマンガ版。「反射望遠鏡光学入門」、「屈折望遠鏡 光学入門」(吉田正太郎著)には専門的な詳しい説明が載っている(いずれも誠文堂新光社刊)。 2―2.観測場所の選定 1)降るような満天の星を見たら、子供たちは一生その感動を忘れないだろう。そのためにもで きるだけ空の条件が良いところで観望会を実施したいもの。しかし、トイレが会場にあると いうことが必要条件である。 現地集合の場合には、必ず下見をして、分かりやすい案内図を作ることが大切である(途中 の目印までの距離と、道路標識なども書き込むこと)。必要なら、当日、要所に道案内の人や 立看板を配置するのも方法としてよい。 2)観測対象が月・惑星のみならば、必ずしも空が暗い場所まで行く必要はない。一人でも多く の人が参加しやすい場所がよい。その場合は駐車場があるかどうかに注意する。 2-3.観測する際の補助資料 1)観察時間の全天星図 星座早見盤は1年中の星空が表示できて便利だが、南の星座になるほど横長に表示されて いることを考慮しておく必要がある。惑星も表示していない。天文年鑑や各種天文雑誌や 「ジュニア・サイエンティスト」(日本宇宙少年団)に掲載されている月ごとの星図は、実際の 星座の形に近く惑星の位置も書いてあるのでわかりやすい。 2)天文年鑑などを参考に、月面図、金星の満ち欠けの様子、木星の衛星の名前と位置の変化、 土星の環の傾きの変化などの資料をプリントして渡しておけば、観望会の後も継続して観察 する助けとなるであろう。 3)下記のサイトには月・惑星の地図や多面体模型がある。多面体模型はプリントアウトして天 文工作として活動に組み込むと面白い。悪天候の場合の代替プログラムとして利用できる。 Making globes of the planets(英語) http://www.vendian.org/mncharity/dir3/planet_globes/ 4)太陽系天体に関するデータ(太陽からの距離、公転周期、直径、衛星の数の最新データな ど)はよく質問される。これらのデータは「宇宙大全」(藤井旭著、作品社)が少し高価だ が参考になる。天体に関するあらゆる項目について子どもたちにも分かりやすく説明してい る。「9.補足資料」も参考にして、リーダーが自らデータをまとめ、一覧表を作成して子 供たちに渡すと良い。 2 3.観測の実際 3-1.観測の際のマナー 観測会を成功させるために参加した子供たちに次のようなことを説明し、納得してもらって、 必ずマナーを守らせる。「観測の際のマナー」として資料化して配布すると効果的である。 1)走りまわらない ⅰ.暗いところで走り回ると、思わぬケガをしてしまう。 ⅱ.望遠鏡にぶつかると、精密に位置合わせをしたものが、台無しになる。 ⅲ.特に、乾燥している時には、ほこりが舞い上がり、レンズや鏡が十分な性能を発揮できな くなってしまう。 2)接眼部にさわらせない ⅰ.望遠鏡を見せる時には、接眼部にさわらせないような工夫がほしい。倍率が100倍なら ぶれも100倍になり、よく見えなくなる。例えばイスをおき、これを握って見せたり、 手を後ろに組ませて「そーっと」のぞかせたりする。 3)懐中電灯で人の顔を照らさない ⅰ.特に、月のない夜に星を観察している場合には、懐中電灯で顔を照らされると、せっかく 暗いところに目が慣れて、沢山の星が見えるようになった状態が一瞬で元に戻ってしまい、 再び暗いところに完全に目が慣れるのには20分はかかる。このことは映画館に入って目 が暗いところに慣れるのにしばらく時間がかかることからも分かる。 ⅱ.人の目は赤に感じにくいので、懐中電灯に赤いセロファンをかぶせる。(主催者側でも赤 いセロファンを準備しておき、懐中電灯に貼り付けてもらう。) 3-2.見る対象を視野に入れる 1)KT-5cm に付属している接眼鏡は焦点距離12mm で、対物レンズの焦点距離は600mm だから、倍率は600÷12で50倍となる。月は視直径が0.5度なので、50倍の望遠 鏡では見かけの大きさが25度になる。接眼鏡の見かけの視野が50度前後だから、月はそ の半分ほどの大きさに見える。手動で追尾するには適当な倍率である。 2)天体望遠鏡は上下左右が逆に見えているので、対象を入れようとしても逆に動かしてしまっ て見失う。昼間に遠くの風景を見て少し慣れておくように指導しておくとよい。 3)惑星を視野に入れるのはとてもむずかしい。カメラ三脚や KT-5cm 用の木製三脚では、ねら ったところでぴたりと止まってくれない。惑星は月ほど明るくないので、どちら側にずれて いるのかの見当も難しく、視野に入れるまでが一苦労である。日周運動(地球の自転)のせ いで、視野から対象がどんどん逃げて行くことにも子供たちには驚きとなる。 惑星を視野に入れるためには、ファインダーを平行に調整しておくことが重要である。ス ムーズに追尾するには微動つきの経緯台を使用するか、ミザール社の「手動経緯台」などを カメラ三脚の上に取り付けてそれに望遠鏡を乗せれば解決するが、それなりに費用がかかる。 4)高度が高い場合には、観察に天頂ミラー(天頂プリズム)の助けが必要である。惑星は高度 が低いと大気の揺らぎの影響を受けてシャープに見えないが、初めて観察するときには割合 低空にある方が導入も観察も容易である。時間をかけて苦労して対象を視野に入れることも 大切な活動である。 3-3.望遠鏡での観察のポイント 1)月 小望遠鏡でも月は実にくっきりと美しく見える。光が正面から当たる満月よりも、光が横から 3 当たっている上弦前後の時の方が、クレーターが立体的に見える。望遠鏡を自分でのぞいて見る と、写真で見た月よりもはるかに実在感があることに感激する。大気のゆらぎが画像のゆれとし て見え、自動追尾の赤道儀に載せていなければ、月が視野からどんどん外れていくことによって、 地球の自転を実感できる。 見えているクレーターの名前を月面図で確認させ、クレーターの大きさなどを教えると、一層 興味を持つであろう。なぜ空に浮かんでいるように見える月は地球に落ちてこないのかという、 ニュートンの妹が抱いたといわれる疑問を投げかけてみるのもよい。 天体望遠鏡では、肉眼で見た場合に比べて上下左右が逆になっているので(天頂ミラーを使え ば、左右のみが逆)、子供たちが月の満ち欠けの形を誤解しないよう、太陽に近い方が照らされ ていて丸いことを教える。 <参考資料> ・「図説 月面ガイド―観察と撮影」(白尾元理・佐藤昌三共著、立風書房) クレーターの鮮明な写真とともに、その成り立ちや月面探査の成果に基づく解説がある。 ・「エリア別ガイドマップ・月面ウォッチング」(A.クール著、山田卓訳、地人書館) 詳細な月面図で、月面の地形に付けられた歴史的人物についての解説もある。 ・月惑星研究所(Lunar and Planetary Institute)ホームページ http://www.lpi.usra.edu/resources/cla/ 地球から撮影した月面の写真、月周回衛星ルナー・オービターが撮影した詳細な月面写 真、アポロで月に行って宇宙飛行士たちが撮影した写真などの膨大な画像がある。 2)惑星 ⅰ.水星 水星が東方最大離角付近にあり、日没後観察しやすい時なら、ぜひ見せよう。ただし、望 遠鏡での観察には向かない。双眼鏡で見つけて位置を確認すれば、肉眼でも見えるように なる。カメラを三脚で固定し、自動露出で撮影できる。 ⅱ.金星 金星が欠けている様子が見える時期にはぜ ひ望遠鏡で観察するとよい。望遠鏡では上 下左右が逆になっている点を注意する。沈 んだばかりの太陽の側が照らされている。 継続して欠けていく様子を記録すれば、金 星が地球より太陽に近い軌道を回っている のが確認できる。よく晴れて太陽との離角 が大きい時には、昼間でも肉眼で見える。 決して太陽をまともに見ないように、太陽 を建物などで隠して探してみる。ただし、 目のピントが無限大に合っていなければ見えない。 ⅲ.火星 2003年8月の大接近の時には、KT-5cmで白い南極冠がはっきり見えたが、暗い模様 はよく見えなかった。火星は低倍率では明るすぎて模様が見えにくいので、倍率を口径の ミリ数の倍ぐらい(口径150ミリなら300倍)にして、微動装置やモーターつき赤道 儀で追尾しながら観察する必要がある。 4 ⅳ.木星 望遠鏡で見ると、本体が楕円であることがわかる。また、本体に2本の暗い縞模様が見え る。一番素晴らしいのがガリレオ衛星である。子供たちに衛星の位置のスケッチを描かせ る。ガリレオはこの衛星が木星のまわりを回っているのを観察して、地動説を確信したと いわれている。短時間の間に小望遠鏡で動きを確認するのはむずかしいかも知れないので、 継続して観察することを子供たちに勧めるとよい。それぞれの衛星の名前を天文年鑑や天 文ソフトで調べていけば一層親しみを持つであろう。 ⅴ.土星 自分の目で望遠鏡を通して見る土星の環には誰 もが感動する。50倍では米粒くらいにしか見 えないが、それでも自分の望遠鏡で見る土星の 環は格別である。環は一年で傾きの変化が分か るので、スケッチで記録を残すのもおもしろい。 2009年には土星の環が真横を向いて見えな くなる。 3)恒星・星雲・星団 ⅰ.恒星 恒星は望遠鏡で見ても点にしか見えないことを 確認しよう。恒星の色は望遠鏡を使った方が分 かりやすい。見て面白いのは、白鳥座のくちば しにあたるアルビレオ(色の対比が美しい二重 星)や北斗七星の中のミザールなどである。ミ ザールのすぐそば(角度で12分離れている。月の直径は約30分)にはアルコルという 4等星がある。視力の良い人には肉眼でアルコルとミザールが分離して見える。更に望遠 鏡でミザールを見ると、すぐそばにもうひとつの4等星がくっついているのがわかる。 自分の望遠鏡で何等星まで見えるかは、天文年鑑に載っている「北極標準星野」などで確 かめることができる。北極星付近は視野から星がずれていかないのでじっくり観察できる。 星図をプリントして配布し、子供たちに見えた星にしるしをつけさせるとよい。 ⅱ.星雲・銀河 口径5cm50倍で見てよく分かる星雲は夏ならM8干潟星雲、冬ならM42オリオン大星雲、 秋ならアンドロメダ銀河などであるが、双眼鏡で見る方が分かりやすい。アンドロメダ銀河 5 は人が望遠鏡を使わずに肉眼で見える最も遠い銀河で、ヒッパルコス衛星による最新のデー タでは293万光年の距離にある。したがってアンドロメダ銀河の光は人類が誕生していた かどうか分からないくらい昔のもので、それが今見えていることに不思議な気がしてくる。 しかしいくら遠いといっても、宇宙の物差しで考えれば、私達のいる銀河が直径10万光 年くらいなので、それを車輪のように10回ほど転がせばたどりつく程度の近くにあるとも 言える。(参考:「星雲星団ウォッチング」浅田英夫著、地人書館) ⅲ.星団 写真はすばる。天文年鑑に は「すばる標準星野」も載 っていて、何等星まで見え るか確かめられる。二重星 団も好対象である。しかし、 いずれも双眼鏡の方がかえ って 美しく見え る。 KT- 5cm に低倍率用のアイピー スが欲しいところである。 ★KT-5cm の接眼鏡は焦 点距離が12mm で倍率 が50倍になるが、焦点距離25mm 程度の接眼鏡に付け替えれば、すばる全体が見や すくなる。KT-5cm 用の接眼鏡は直径が24.5mm のものだが、最近はアメリカン サイズと呼ばれる31.7mm 径のものが主流になっているので、望遠鏡ショップなど でサイズの合ったものを探して買う必要がある。31.7mm サイズの接眼鏡は KT-5 cm の接眼部の外径とほぼ同じなので、ガムテープで止めたり、ダンボール紙をまるめて アダプターを作ったりすれば装着可能。普通の接眼鏡は見かけの視野がせいぜい50度 くらいであるが、高級なものになると60度以上のものもあり、すばらしいながめとな る。ただし望遠鏡本体(3,675 円)より高価。 4)太陽 太陽は望遠鏡で見ると失明のおそれがあるので、子どもは絶対に望遠鏡を向けてはいけな い。サングラスや太陽フィルターを使っていても、熱で割れたり、フィルターが破れたり、 はずれたりして、事故の危険性がある。また、下敷きや感光したカラー写真フィルムなどで 減光して肉眼で見る方法は、熱線(赤外線)がカットされないので目に悪いことを注意する。 白黒フィルムやレントゲンフィルムで感光 して十分な濃度のあるものならば使える。 対物レンズの前に付けるフィルターとして は、「アストロソーラー太陽フィルター」 がある(国際光器:http://www.kkohki.com)。 太陽は昼間に観測でき、唯一、表面の様 子を詳しく観察できる恒星である。KT-5 cm でも、少し工夫をすれば、投影法で安全 に太陽黒点や、日食、水星・金星の太陽面 通過などを観測できる(写真参照)。 6 KT-5cm 付属のアイピースはまわりがプラスチック製のため、太陽熱でとけてしまうが、 この問題はちょうどよい大きさのワッシャーをアイピースの内側に両面テープで貼り付ける ことで解決できる。鏡筒が紙製なので燃える心配があるが、迷光絞りが途中に2つあるため か、今まで燃えたことがない。しかし念のため金属製のアイピースに代えるか、各自でご確 認の上利用していただきたい。 もし太陽に黒点があれば、位置をスケッチしておき、翌日もう一度スケッチすれば、太陽 の自転による黒点移動が観察できる。赤道儀による自動追尾をしていても、モーターのスイ ッチを切って、黒点が投影板上を流れていく方向を記録すれば、そちらが西である。最近で は太陽黒点は約11年周期で増減を繰り返していて、現在(2006年)は極小期にあたる。今 後2010年前後の極大期に向けて増えていくことが予想される。大きな太陽黒点が出てい るかどうかは太陽観測衛星 SOHO のホームページ(http://sohowww.nascom.nasa.gov/)で 確認できる。このページではプロミネンスやコロナ、背景の星や、太陽に近づいた彗星など も見られ、画像は静止画と動画の両方がある。 また、プロミネンスが観察できる望遠鏡が10万円以下で入手できる。もしこれがあれば、 一層子供たちの興味を引くことができる。(CORONADO Hα 太陽望遠鏡 P.S.T.、販売/テ レビュー・ジャパン:http://www.tvj.co.jp) 毎日様子が変わり、長期的には地球の気象に大きな影響を与える太陽観察の面白さをぜひ 子供たちに体験させたい。 3-4.様々な望遠鏡の利用法 1)双眼鏡・7倍手作り望遠鏡 人間の目は暗いところでもせいぜい口径7ミリのレンズで光を集めている状態と同じに過 ぎない。もし双眼鏡のレンズの直径が50ミリあれば、直径が7倍、面積では50倍なので、 集光力は50倍となる。たとえ望遠鏡がなくても、双眼鏡が子供たちの家庭にあれば、ぜひ 活用させたい。 双眼鏡の性能を十分発揮させるには、手ぶれを防ぐことが重要である。双眼鏡をカメラ三 脚に固定する金具が販売されているので、これを利用してまず三脚に双眼鏡を取り付ける。 しかしこのままでは天頂付近は見づらいので、デッキチェアーやキャンプ用マットなどに寝 転がって見るとよい。三脚の足は伸ばしたまま、体に沿わせておけば、双眼鏡のみを手で持 っている場合よりはるかに安定する。一脚に取り付けて 椅子に座って見るだけでもかなり安定する。ある天体が どの位置にあるかを説明する時にも、このように三脚に 双眼鏡を固定してのぞいて見てもらえば、よく分かって もらえる。 もし、口径15センチといった大口径の双眼鏡が準備 できれば、ぜひ子供たちに見せてあげてほしい(写真)。 暗い空に浮かぶアンドロメダ銀河、澄みきった空に昇っ てくるすばる、きれいに並んだ二重星団、雄大なオリオ ン大星雲など、大型双眼鏡ほど星空を美しく見せてくれ るものはない。彗星も双眼鏡で見ると格別である。彗星 に関する最新の情報や投稿画像は、例えば以下にある。 アストロアーツ: http://www.astroarts.co.jp/ 7 「双眼鏡で星空ウォッチング」(白尾元理著、丸善株式会社)は、7倍双眼鏡の視野に合 わせた写真で構成されていて、参考になる。 2)口径15~25センチ程度の望遠鏡 土星や木星、接近中の火星などをある程度の大きさで見ることができるので、口径5cm の 望遠鏡で見た場合とは別の発見がある。ビデオやウェブカム(ウェブカメラ)を付けて、テレビ やパソコンの画面に表示して、順番待ちをしている子供たちに観測のポイントを解説すると 効果的である。ただし、画面による観察だけに終わることなく、必ず自分の目で直接望遠鏡 をのぞいて観察させることが大切である。 現在世界のアマチュア天文家の多くは、フィリプス社の「ToUcam Pro」という1万5千円 程度のウェブカメラを改造して惑星撮影をおこなっている。画像は USB コードでパソコンに 取り込み動画で表示できる。取り込んだデータは Registax というフリーソフトで数百枚から 2千枚近くの画像を重ね合わせ強調処理して仕上げる(詳しくは前述の「月惑星研究会・関 西支部」のホームページに紹介)。高感度の白黒またはカラービデオカメラも各種あり、月 面や惑星をテレビ画面に表示することができ、望遠鏡販売店を通じて購入できる。また、家 庭用ビデオカメラでもアダプターを介して望遠鏡に取り付け、月面や惑星をテレビ画面に表 示したり録画したりできる。ビデオカメラ付属のファインダー画面でも手軽に画像を見るこ とができる。 更に大口径の望遠鏡では、大気の揺らぎの影響が大きく、かえってよく見えないことがあ る。特に、ドームの中にたくさんの人が入ると、体温による空気の乱れの影響も出る。いず れにせよ、日本本土上空は、寒気と暖気がまざり合って、大気が乱れることが多い。しかし、 もし安定した状態で見ることができたら、「見え味」はすばらしく、幸運といわなければな らない。 3)球状星団や惑星状星団の観察 大きな望遠鏡で球状星団(M13、M22 など)や惑星状星雲(M27 や M57)の美しくも不 思議な姿をぜひ見せてあげたい。多くの星雲は、写真に撮ればはっきり見えているが、肉眼 ではたとえ望遠鏡を使っても、たいていは淡くしか見えない。人間の目は、解像力の良い視 野の中心部分は少し感度が低いので、例えば少し目(視線)を左上にそらし気味にして見る と良く見えることがある。またナローバンドフィルターの併用によってよく見えるものもあ る。もし蓄積型のビデオカメラが利用できれば、テレビ画面に星雲を写して見せることがで きる。「すばる」なら焦点距離100ミリ程度のカメラ用レンズで程よい大きさに写し出す ことができる。ただしテレビ画面は観察の邪魔にならないよう、できるだけ暗くする配慮が 必要である。ビデオ画像は観察の補助として用い、必ず望遠鏡をのぞくよう指導する。 ★天文ガイド・ワテック共同開発・蓄積型高感度ビデオカメラ TGV-M (88,000 円)。入手方 法は天文雑誌の広告欄などを参照のこと。 4.安全対策 4-1.実際の観測の場での注意点は3-1項で記した通りである。特に1)で記した夜間の走り の禁止と3)の懐中電灯の使い方に留意する。 4-2.防寒対策 場所や季節によっては、十分な防寒対策が必要である。気温だけでなく、風の影響も無視できな い。防寒は体が冷えないうちに早めに行なうこと。いったん体が冷えてしまったら、なかなか温ま 8 らないので、手袋、帽子、マフラー、カイロなど、十分な準備をしておく必要がある。車の中も避 難場所となる。また各自で魔法瓶に温かい飲み物を準備しておくとよい。 5.科学する心を育てるための具体的なヒント 5-1.望遠鏡操作を通して見た人の感想からヒントとなることを沢山見つけ出すことができる。 「月が見えなくなった」とか「鉄塔が逆に見える」という感想から、望遠鏡の特性を考える機 会となる。追尾式と手動式、反射と屈折式の望遠鏡、さらに、ケプラ式やガリレオ式などの望 遠鏡にもつなげることができる。 5-2.月を見ることでいろいろ考える場が生じる。「単に見えた」というレベルから、「月の欠 けているところの境を見てごらん」という言葉かけで感じることが変わってくる。「言葉かけ での観点変更」も効果がある。 5-3.スケッチをする中で生じるヒントも多い。暗い中でのスケッチは明りで苦労するが、夜間 でも月の円を書くなどしてスケッチすると、望遠鏡をのぞく時間が長くなり、詳しく見る目が 育つものである。 5-4.手作りの望遠鏡については、他の例があるので(「宇宙につなぐ活動教材集 平成16年 度版」:宇宙航空研究開発機構発行)そちらを参考にして、製作することで発展的活動が期待 できる。 5-5.望遠鏡も手作り、三脚も手作りということから、指導者自身の興味の深さと広がりで周辺 の関心へと広げることができる。そこには多くのヒントが含まれている。 6.この教材を用いることのできる子どものレベル 6-1.幼児段階では、星についての童話に関心が強い子供たちがいる。そこで童話や神話の語り と望遠鏡を見ることへの誘いへと進む。小学校中学年ともなると、星や望遠鏡に関心が深まる 年令なので、望遠鏡の体験を通じて感動を得る機会となる。 6-2.まずは指導者がアマチュア天文家や天文クラブに関係していればいたって簡単に活動でき る。指導者がそのような団体に所属していない場合でも、個人的に指導を依頼することで実施 が可能となる。子供たちはその指導のもとで体験できるので、初めてのことであっても、逆に 感動が大きい。 7.この教材を用いることができる活動団体の経験年数 7-1.経験年数に関係なく活動できるが、天体観察に詳しい指導者のいることが望ましい。 7-2.たいていは天文に詳しいアマチュア天文家が近くにいるものである。新聞の切り抜きから でも知ることができる。自分の回りにもいるはずである。その方にまず近づくことからはじめ る。 7-3.天文の世界もなかなか分野が広く、天文写真に詳しい方、望遠鏡に関して詳しい方、星座 に詳しい方、宇宙や天体の物理学に詳しい方などがいる。しかし、この方々が子ども達にうま く指導できるかというと必ずしもそうとは限らない。天文知識が深くなくとも、天体・宇宙が 解説できるという方が貴重といえる。それだけに自分と対比しながら、指導者としての経験と 知識と実践方法を積み重ねていくことが大切である。そうすることを通して十分対応できるよ うになる。 9 8.関連項目 8-1.学習指導要領との関連 小学校編:内容C「地球と宇宙」 中学校編:第1分野 第2分野 (1)身近な物理現象 (6)地球と宇宙 8-2.活動総覧(活動マップ) 天文・天体との関連(科学工作、観察、体験分野) 星座早見板(盤)の制作、天体観測、星座観察、天体写真撮影、天体望遠鏡操作 天文・天体との関連(観察・観測分野) 太陽黒点観測、月を見よう、日食観測、惑星観測 8-3.教材系統図(カリキュラムマップ):「天体(観察)」 8-4.キーワード:望遠鏡・大型双眼鏡・月・惑星 9.補足資料 9-1.参考文献 1)藤井旭の天文年鑑-スターウォッチング完全ガイド:誠文堂新光社 ¥683 毎月の天体の動き、天文データを掲載 2)星空年鑑-AstroGuide:(発行)株式会社アストロアーツ、(販売)株式会社アスキー ¥1,980 天文現象をシュミレーションできる CD-ROM ディスクつき 3)宇宙年鑑-Space Guide:(発行)株式会社アストロアーツ、(販売)株式会社アスキー ¥1,580 宇宙開発・科学探査の最新情報と成果、将来計画を掲載 4)最新・藤井旭の天体望遠鏡教室:誠文堂新光社 ¥2,310 5)星を見に行く―はじめてのスターウォッチング:えびなみつる著、誠文堂新光社 6)続・星を見に行く:えびなみつる著、誠文堂新光社 ¥1,533 7)新版・反射望遠鏡光学入門:吉田正太郎著、誠文堂新光社 ¥2,730 8)新版・屈折望遠鏡光学入門:吉田正太郎著、誠文堂新光社 ¥2,940 9)図説 月面ガイド―観察と撮影:白尾元理・佐藤昌三共著、立風書房 ¥2,100 10)エリア別ガイドマップ・月面ウォッチング:A.クール著、山田卓訳、地人書館 11)VISIBLE 宇宙大全:藤井旭著、作品社 ¥1,533 ¥5,040 ¥12,600 12)星雲星団ウォッチング:浅田英夫著、地人書館 ¥2,100 13)双眼鏡で星空ウォッチング:白尾元理著、丸善株式会社 ¥2,100 9-2.参考WEBサイト 1)JAXA「ISSとスペースシャトルを見よう」 2)月惑星研究会・関西支部 http://kibo.tksc.jaxa.jp/ http://www.kk-system.co.jp/Alpo/Latest/index.html アマチュアによる最新の撮影画像が掲載 3)Making globes of the planets(英語) http://www.vendian.org/mncharity/dir3/planet_globes/ 月・惑星の地図や多面体模型が掲載 4)月惑星研究所(Lunar and Planetary Institute) http://www.lpi.usra.edu/resources/cla/ 各種の月面写真が掲載 5)太陽観測衛星 SOHO(Solar & Heliospheric Observatory) http://sohowww.nascom.nasa.gov/ SOHO の観測データの画像が掲載 10 6)アストロアーツ http://www.astroarts.co.jp/ 彗星に関する最新の情報や投稿画像が掲載 9-3.教材入手先 1)オルビィス株式会社 〒542-0066 望遠鏡販売部 テレスコハウス 大阪府大阪市中央区瓦屋町 2-16-12 TEL.06-6762-1538 FAX.03-6761-8691 http://www.orbys.co.jp 2)株式会社ミザール 〒171-0051 商品係 東京都豊島区長崎 3-19-14 TEL.03-3974-3760 http://www.mizar.co.jp/index.htm 3)国際光器 〒615 -8217 京都府京都市西京区松尾東ノ口町 93 TEL.075-394-2625 FAX.075-394-2612 http://www.kkohki.com 4)テレビュー・ジャパン(株式会社ジズコ) 〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿 4-4-2 クレスト恵比寿 1101 TEL.03-5789-2631 FAX.03-5789-2632 http://www.tvj.co.jp 教材提供 :日本宇宙少年団備後ローズスター分団 児玉 英夫氏 追記、編集:「宇宙教育のためのリーダー育成」委員会 教材開発グループ お問合せ先:財団法人日本宇宙少年団 TEL.03-5542-3254 FAX.03-3551-4870 e-mail [email protected] 発行 :宇宙航空研究開発機構 宇宙教育センター ©JAXA 無断転載を禁じます 11
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