平成17年度卒業論文 お得な自殺 所属ゼミ 村澤ゼミ 学籍番号

平成17年度卒業論文
お得な自殺
所属ゼミ
村澤ゼミ
学籍番号
1013020436
氏
高島裕紀
名
大阪府立大学経済学部
要約
自 殺 に は 縊 首・ガ ス・薬 物・飛 び 降 り・入 水 な ど 様 々 な 手 段 が あ
る 。各 手 段 は 、① 苦 痛 の 大 小・② 遺 体 の 醜 美・③ 他 人 に 及 ぼ す 迷 惑 ・
④ 決 行 に か か る 手 間・⑤ 致 死 率 の 5 つ の 点 で 、そ れ ぞ れ 異 な る 特 徴
が あ る が 、自 殺 死 亡 統 計 に よ る と 選 択 さ れ る 自 殺 手 段 は 、縊 首 が 圧
倒的に多い。したがって最もお得な自殺手段は縊首と考えられる。
し か し 年 齢 ・ 性 別 ・ 生 活 様 式 な ど 、人 間 の タ イ プ に よ っ て 、実 際 に
選 ば れ る 自 殺 手 段 に は 偏 り が あ る 。例 え ば 、中 年 の 男 性 で 高 い 割 合
を 示 す の は ガ ス 自 殺 で あ る 。こ れ は 、ガ ス 自 殺 の 大 半 が 車 の 排 気 ガ
ス に よ る も の で 、自 動 車 の 保 有 率 の 高 さ が 自 殺 決 行 コ ス ト を 下 げ て
いるためである。
本 論 文 で は「 人 間 は 自 殺 を す る 時 、結 局 は 一 番 面 倒 臭 く な い 方 法
で 自 殺 す る 」と い う メ ッ セ ー ジ を 訴 え て い る 。そ れ を 説 明 す る た め
に 、ま ず 各 自 殺 手 段 の 特 徴 を 、上 記 の 5 つ の 要 素 で 考 察 す る 。そ し
て 個 人 の 属 性 や 、置 か れ て い る 環 境 に よ っ て 、自 殺 手 段 に 違 い が 生
ま れ る 疑 問 を 解 い て い く 。そ の 結 果 、自 殺 場 所 の 探 索 コ ス ト ・自 殺
必 要 品 の 調 達 コ ス ト な ど 、決 行 に か か る 手 間 が 自 殺 手 段 の 選 択 に 最
も影響を与えていることを明らかにする。
2
目次
第1章
は じ め に ............................................. 4
第2章
手 段 別 自 殺 死 亡 率 の 特 徴 ............................... 5
第3章
自 殺 手 段 の 比 較 ....................................... 7
1.
自 殺 手 段 の 決 定 要 因 ................................... 7
2.
各 自 殺 手 段 の 特 徴 ..................................... 8
( 1 ) ク ス リ ............................................ 8
( 2 ) 首 吊 り ............................................ 8
( 3 ) 飛 び 降 り .......................................... 9
( 4 ) 自 傷 ............................................. 10
( 5 ) ガ ス ............................................. 10
( 6 ) 入 水 ............................................. 11
( 7 ) 焼 身 ............................................. 12
( 8 ) 感 電 ............................................. 12
第4章
自 殺 死 亡 統 計 の 分 析 .................................. 13
1.
都 市 部 と 地 方 の 手 段 別 自 殺 率 の 比 較 .................... 13
2.
職 業 別 ・ 手 段 別 自 殺 死 亡 率 ............................ 14
3.
内 陸 と 臨 海 の 溺 死 率 .................................. 16
第5章
性 ・ 年 齢 別 に お け る 自 殺 手 段 構 成 に 偏 り が 生 ま れ る 原 因 .. 17
第6章
お わ り に ............................................ 18
参考文献
3
第1章
はじめに
自 殺 に は 縊 首・ガ ス・薬 物・飛 び 降 り・入 水 な ど 様 々 な 手 段 が あ
る 。各 手 段 は 、① 苦 痛 の 大 小・② 遺 体 の 醜 美・③ 他 人 に 及 ぼ す 迷 惑 ・
④ 決 行 に か か る 手 間・⑤ 致 死 率 の 5 つ の 点 で 、そ れ ぞ れ 異 な る 特 徴
が あ る が 、自 殺 死 亡 統 計 に よ る と 選 択 さ れ る 自 殺 手 段 は 、縊 首 が 圧
倒的に多い。したがって最もお得な自殺手段は縊首と考えられる。
し か し 年 齢 や 性 別 ・生 活 様 式 な ど 、人 間 の タ イ プ に よ っ て 、実 際 に
選 ば れ る 自 殺 手 段 に は 偏 り が あ る 。例 え ば 、中 年 の 男 性 で 高 い 割 合
を 示 す の は ガ ス 自 殺 で あ る 。こ れ は 、ガ ス 自 殺 の 大 半 が 車 の 排 気 ガ
ス に よ る も の で 、自 動 車 の 保 有 率 の 高 さ が 自 殺 決 行 コ ス ト を 下 げ て
いるためである。
本 論 文 で は「 人 間 は 自 殺 を す る 時 、結 局 は 一 番 面 倒 臭 く な い 方 法
で 自 殺 す る 。」 と い う メ ッ セ ー ジ を 訴 え て い る 。 そ れ を 説 明 す る た
め に 、ま ず 各 自 殺 手 段 の 特 徴 を 、上 記 の 5 つ の 要 素 で 考 察 す る 。そ
し て 個 人 の 属 性 や 、置 か れ て い る 環 境 に よ っ て 、自 殺 手 段 に 違 い が
生 ま れ る 疑 問 を 解 い て い く 。そ の 結 果 、自 殺 場 所 の 探 索 コ ス ト ・自
殺 必 要 品 の 調 達 コ ス ト な ど 、決 行 に か か る 手 間 が 自 殺 手 段 の 選 択 に
最も影響を与えていることを明らかにする。
ま た 本 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 り で あ る 。第 2 章 で は 、手 段 別 自 殺
死 亡 率 に 見 ら れ る い く つ か の 特 徴 を あ げ る 。第 3 章 で は 、各 自 殺 手
段 の 特 色 を 5 つ の 要 素 で 比 較 す る 。第 4 章 で は 、い く つ か の 自 殺 死
亡 統 計 を も と に 、自 殺 手 段 の 選 択 に ど の よ う な 背 景 が あ る の か を 説
明 し 、第 5 章 で は 、手 段 別 自 殺 死 亡 率 に 見 ら れ る 特 徴 が 、な ぜ 生 ま
れ る の か を ま と め る 。そ し て 第 6 章 で は 、本 論 文 の メ ッ セ ー ジ の 確
実性をより高めるためにすべき、今後の課題について述べている。
4
第2章
手段別自殺死亡率の特徴
こ こ で は 、性・年 齢 に よ っ て 自 殺 手 段 に 偏 り が 生 ま れ て い る こ と
を 見 て い く 。図 2 - 1 は 性 ・年 齢 別 に 見 た 、自 殺 手 段 の 構 成 比 較 で
ある。
図2-1
性・年 齢 別 に よ る 手 段 別 自 殺 死 亡 数 構 成 割 合( 2 0 0 3 )
男
女
出所
厚生労働省(2005)
5
2 0 0 3 年 に お け る 手 段 別 の 自 殺 死 亡 数 の 割 合 を 性・年 齢 階 級 別
にみると、その特徴として以下の点が挙げられる。
① 男女ともすべての年齢階級で「縊首」による割合が最も多く、
高齢になるほどその割合が高くなる。
② 中年の男性は「ガス」の割合が高い。
③ 若い年齢で特に女性は「飛び降り」の割合が高い。
④ 高年の女性は「溺死」の割合が高い。
以 上 の よ う な 特 徴 が 生 ま れ る か 原 因 を 探 る た め に 、以 下 の 章 で 各
自 殺 手 段 の 特 色 を 考 察 し 、自 殺 手 段 の 選 択 に ど の よ う な 背 景 が あ る
のかを、自殺死亡統計をもとに説明していく。
6
第3章
自殺手段の比較
こ こ で は 具 体 的 に 各 自 殺 方 法 に つ い て 考 察 し 、そ の 手 段 の メ リ ッ
ト ・ デ メ リ ッ ト 、特 徴 、注 意 事 項 な ど を 述 べ て い く 。最 初 に そ れ ら
の要素を簡単に整理した表も載せているので併せて参照していた
だ き た い 。 ま た 第 3 章 は 、 雨 宮 ( 2 0 0 2 )・ 鶴 見 ( 1 9 9 8 ) を
参考にまとめている。
1.自殺手段の決定要因
以 下 の 表 は 各 手 段 を 、自 殺 決 行 時 に 受 け る 苦 痛・自 殺 決 行 後 の 遺
体の醜美・自殺決行後に他人に及ぼす迷惑・自殺決行にかかる手
間・自 殺 決 行 後 の 致 死 率 の 5 つ の 要 素 で 考 察 し た も の で あ る 。表 中
の ◎ 、 ○ 、 △ 、 ×は 各 要 素 の 優 劣 の 程 度 を 示 し て い る 。
表3-1
5つの要素別における各手段の評価
苦痛
遺体
迷惑
手間
致死率
総合評価
クスリ
×
△
○
×
×
×
首吊り
◎
△
○
◎
◎
◎
飛び降り
◎
×
△
◎
◎
○
自傷
×
△
×
×
×
×
ガス
◎
◎
◎
△
◎
◎
入水
×
×
×
△
×
×
感電
◎
◎
△
×
×
△
7
2.各自殺手段の特徴
こ こ で は よ り 詳 し く 、各 自 殺 手 段 に つ い て 見 て い く が 、そ れ ぞ れ
の 特 徴 的 な 部 分 を 取 り 上 げ て い る 。各 自 殺 手 段 の 特 色 を 理 解 し て い
ただきたい。
(1)クスリ
薬 物 自 殺 は 、睡 眠 薬 を 大 量 に 飲 み 苦 し む こ と な く 、綺 麗 な ま ま で
眠るように死ねるというイメージがあるが、実際は全く違う。
薬 物 自 殺 の 大 半 は 農 薬 に よ る 死 亡 で あ る 。一 般 に 販 売 さ れ て い る
鎮痛薬や睡眠薬などは成分量が致死量には遠く及ばないものがほ
と ん ど で あ り 、数 1 0 0 錠 飲 ん で も 死 な な い よ う に 配 合 さ れ て い る 。
しかも注意しなければならないのは致死量が非常に曖昧であり
個 人 差 に よ る と こ ろ が 大 き い こ と で あ る 。眠 り な が ら 死 ぬ と い う 状
態 に は 程 遠 く 、嘔 吐 、全 身 麻 痺 を 繰 り 返 し な が ら 、内 蔵 出 血 、脱 水
症 状 、呼 吸 困 難 な ど を 引 き 起 こ し 、胃 洗 浄 の 苦 痛 を 味 わ っ た あ げ く
結局未遂に終わるのが大半である。
ク ス リ の 入 手 コ ス ト 、摂 取 の 手 間 、致 死 率 の 低 さ 、未 遂 の 苦 痛 な
どを考えると薬物自殺は賢明な手段ではないと言える。
(2)首吊り
首 吊 り は い つ の 時 代 に も 人 気 ナ ン バ ー 1 で あ る 。2 0 0 3 年 の 首
吊 り 自 殺 率 は 男 性 7 6 .8 % 、女 性 7 0 .1 % と 他 の 手 段 を 大 き く
引き離している。
首 吊 り の 長 所 は 致 死 率 の 高 さ と 手 軽 さ で あ る 。室 内 で 簡 単 に 実 行
で き る の も 優 れ た 特 徴 で あ る 。致 死 率 は ほ ぼ 1 0 0 % で 、手 間 も 紐
8
を用意することとそれを支える柱などを探すだけでいい。
首 吊 り は 首 を 絞 め る の と 違 い 窒 息 死 で は な く 、脳 に い く 血 液 が 遮
断 さ れ 脳 内 が 酸 欠 状 態 に な り 意 識 を 失 う 。法 医 学 の 研 究 に よ る と 首
を 吊 る と す ぐ に 意 識 が 遠 の き 、手 も 足 も 自 由 に 動 か せ ず 、し か も こ
の 過 程 で 全 く 苦 痛 は な い こ と が 常 識 的 に 明 ら か に な っ て い る 。柔 道
の絞め技で落とされた状態がこれにあたる。
首 吊 り 自 殺 に 関 し て 気 に な る の は 死 体 の 見 た 目 で あ ろ う 。こ れ に
つ い て は 、発 見 の 早 さ と 実 行 す る 本 人 の 事 前 準 備 が 大 き く 関 係 す る
よ う で あ る 。発 見 時 に 綺 麗 な 状 態 で い た け れ ば 前 も っ て 排 泄 行 為 を
済 ま せ 、早 め に 発 見 さ れ る よ う な 環 境 作 り や 事 前 連 絡 を す れ ば 問 題
ない。
以 上 の こ と を 考 え る と 、首 吊 り 自 殺 は 圧 倒 的 に 優 れ た 自 殺 手 段 で
あ る 。必 要 な も の が ロ ー プ と そ れ を く く る 場 所 が あ れ ば い い だ け で
手 間 が か か ら ず 、環 境 を 選 ば な い 。致 死 率 も 高 く 老 若 男 女 に 決 行 可
能な方法である。
(3)飛び降り
飛 び 降 り 自 殺 は 首 吊 り に 次 い で 人 気 の 高 い 自 殺 だ 。2 0 0 3 年 の
順 位 を 見 て も 男 性 、女 性 と も に 首 吊 り の 次 に 飛 び 降 り 自 殺 が き て お
り、特に若い女性に人気である。
飛び降りには他の自殺手段につきまとう暗いイメージがないこ
と と 、今 こ の 瞬 間 に 自 殺 を 望 む 人 に と っ て こ れ ほ ど 魅 力 的 な 手 段 は
な い こ と が 最 大 の 特 徴 で あ る 。一 歩 踏 み 出 す だ け で あ り と あ ら ゆ る
問題にけりをつけることができる。
飛 び 降 り 自 殺 は 痛 み も 不 安 も 恐 怖 も な い 。そ れ ど こ ろ か む し ろ 気
持 ち い い 。未 遂 者 の 体 験 談 を 総 合 す る と そ の よ う な 結 論 が 出 て く る 。
た だ 欠 点 も い く つ か あ る 。そ れ は 未 遂 率 が 意 外 と 高 い こ と で あ り 、
他 の 方 法 と 比 べ 遺 体 の 損 傷 は 激 し い 。そ し て 落 下 時 に 他 の 人 と の 巻
9
き 込 み 事 故 を 起 こ し 多 額 の 損 害 賠 償 を 遺 族 、未 遂 の 場 合 は 本 人 が 負
う可能性がある。
以 上 の こ と を 総 合 す る と 、全 く 苦 痛 は な く 、注 意 事 項 は 十 分 な 高
さ と 落 下 地 点 の 状 態 、最 低 限 下 に 人 や モ ノ が な い こ と を 確 認 し さ え
すればよいので遺体の損傷が多少あることを差し引いても優れた
自殺手段と言える。
(4)自傷
自 傷 と い う 手 段 は 自 殺 に 向 か な い 。手 首 を 切 る リ ス ト カ ッ ト 、首
の 頚 動 脈 切 り 、割 腹 と 全 て に お い て 未 遂 率 が 非 常 に 高 い 。自 傷 の 中
でもリストカットにおいては死ぬためではなく、切るために切る、
生 き る た め に 切 る 人 が 多 く 、も は や 趣 味 と な っ て し ま っ て 、手 首 の
傷が自らのアイデンティティになっている人もいるのが特徴的で
ある。
手 首 の 動 脈・頚 動 脈 は い ず れ も 的 確 に 切 断 す る こ と は 難 し く 、血
液 も 固 ま っ て し ま い 死 に 至 る 確 率 は 低 い 。割 腹 の 場 合 も 腹 膜 シ ョ ッ
ク を お こ し 、普 通 は 痛 く て そ れ 以 上 切 れ な い 。わ ざ わ ざ 割 腹 を 手 段
に 選 ぶ に は 何 ら か の メ ッ セ ー ジ 性 を 持 っ て い る の だ ろ う が 、相 当 の
覚悟と意志がなければ目的を達成することはできない。
こ の よ う に 自 傷 は 用 意 す る も の と い え ば 刃 物 ひ と つ だ が 、激 し い
苦痛を強いられる上に肝心の致死率も低いことを考慮すると良い
手段とはいえない。
(5)ガス
ガ ス 自 殺 は 中 年 の 男 性 に 多 い 。ガ ス 自 殺 は ほ と ん ど が 自 動 車 の 排
ガスを引き込む方法で、自動車の保有率が背景にある。
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都市ガスが一酸化炭素を含まない天然ガスに変わって室内では
死 ね な く な っ た 。し か し 地 方 で は ま だ プ ロ パ ン ガ ス を 使 用 し て い る
と こ ろ が 多 く 、部 屋 に ガ ス を 充 満 さ せ て 自 殺 す る こ と は で き る 。確
か に プ ロ パ ン ガ ス は 空 気 よ り も 重 く 床 下 に 溜 ま り 、横 に な っ て 寝 れ
ば 酸 素 欠 乏 状 態 に な っ て 死 に 至 る 。だ が こ の 方 法 で は ガ ス 中 毒 で は
な く 窒 息 死 な の で 非 常 に 苦 し い 。し か も 一 歩 間 違 え れ ば 大 爆 発 を ま
ね き 、飛 び 降 り 自 殺 の 巻 き 込 み 事 故 同 様 に 、多 額 の 賠 償 責 任 を 負 う
可能性がある。
そ れ と は 別 に 自 動 車 の 排 気 ガ ス に よ る 方 法 が 一 般 的 で あ り 、車 の
所 有 率 の 高 い 男 性 に 人 気 の 原 因 で も あ る 。車 内 の 一 酸 化 炭 素 濃 度 が
高 ま り 、吸 入 時 間 が 長 く な る に つ れ て 、め ま い や 頭 痛 を き た し 、動
悸 が 激 し く な り 、や が て 意 識 を 失 っ た の ち 呼 吸 停 止 に よ り 死 に 至 る 。
苦痛は少なく30分~1時間で意識を失う。
遺体は外傷もなく非常に美しい。
以 上 の こ と か ら 密 室 に よ る ガ ス 自 殺 は リ ス ク 、デ メ リ ッ ト が 大 き
いが、自動車によるものなら非常に優れた自殺手段といえる。
(6)入水
入 水 自 殺 は 大 掛 か り な 捜 索 活 動 が 行 わ れ 、莫 大 な コ ス ト が か か る
可 能 性 が あ る 。ま た カ ナ ヅ チ や お 年 寄 り ぐ ら い に し か 有 効 と は 言 え
ず 、実 際 に 2 0 ~ 3 0 代 の 男 性 の 入 水 自 殺 は 極 端 に 少 な い 。意 を 決
し て 飛 び 込 ん だ も の の 、苦 し み も が く た め ど う し て も 泳 い で い ま い 、
未遂率が高くなる。
また水死体は土左衛門と呼ばれ、一般に見た目も非常に悪い。
以 上 の こ と を 考 え る と 未 遂 率 の 高 さ や 苦 痛 、経 済 的 コ ス ト 、遺 体
の醜さどれをとっても自殺にはかなり不向きな手段と言える。
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(7)焼身
焼 身 自 殺 は 非 常 に 苦 痛 を 伴 う 。皮 膚 を 1 0 0 % 火 傷 し て も 即 死 で
き ず 、病 院 に 運 ば れ 半 日 程 度 も が い た 後 事 切 れ る 場 合 も 多 い 。死 に
切れなかった時の後遺症は他の手段とは比較にならないほど悲惨
である。ごく普通に自殺したい人には絶対に向かない。
ただし世間に何かを訴えたいために死ぬのなら焼身自殺ほど影
響 力 の 強 い も の は な い 。焼 身 自 殺 は 常 に 政 治 や 宗 教 と 隣 り あ わ せ で
あ る 。命 を 懸 け る に ふ さ わ し い イ デ オ ロ ギ ー や 宗 教 観 を 持 っ て い る
人には無関係かもしれないが、火災事故を招く可能性は十分あり、
この場合も損害賠償の経済的リスクの恐れがある。
やはり焼身自殺は一般的に優れた手段ではない。
(8)感電
感 電 自 殺 は 事 例 も 1 0 0 人 前 後 を 推 移 し 、手 段 別 の 統 計 に も そ の
他 で 分 類 さ れ て お り 、不 確 定 な 部 分 が 大 き い 。し か も 不 思 議 な こ と
に そ の 内 訳 は 男 性 が 9 0 % 以 上 を 占 め て お り 、ほ と ん ど 男 性 だ け が
使っている自殺手段である。
し か し 意 外 な こ と に 感 電 自 殺 に よ る 死 は 、一 瞬 の 呼 吸 停 止 、心 停
止 、シ ョ ッ ク な ど に よ る も の で 苦 痛 は ま さ に 一 瞬 で 楽 な 自 殺 の 一 つ
である。遺体の外傷も少ない。
た だ 電 気 系 統 の 知 識 が 豊 富 で あ る こ と が 必 須 で あ り 、未 遂 に 終 わ
る 可 能 性 が 大 き い こ と 、不 確 実 性 の 高 さ が つ き ま と う の が 難 点 で あ
る。
12
第4章
自殺死亡統計の分析
こ こ で は 自 殺 死 亡 統 計 に 見 ら れ る 特 徴 に 、ど の よ う な 背 景 が あ る
の か を 考 察 し て い く 。そ こ で 自 殺 手 段 の 選 択 が 、個 人 の 属 性 や 置 か
れ て い る 環 境 の も と で 、決 行 の 手 間 が か か ら な い と い う 要 素 に 、最
も反映されていることを検証する。
1.都市部と地方の手段別自殺率の比較
表4-1
都市部と地方の手段別自殺率(2003)
縊首
ガス
薬物
溺 死 飛 び降 り 飛 び込 み
14大 都 市
63. 6
10. 0
2. 2
2. 6
12. 6
3. 0
市部
65. 9
14. 3
2. 9
2. 3
6. 8
2. 0
郡部
70. 1
14. 9
3. 9
2. 1
2. 8
0. 8
14大 都 市
52. 7
3. 6
5. 5
5. 0
23. 4
4. 3
市部
58. 5
5. 5
6. 3
6. 9
12. 0
4. 0
郡部
65. 3
4. 5
8. 6
7. 5
5. 5
2. 1
男 (%)
女 (%)
出所
厚生労働省(2005)
表 4 - 1 か ら 見 ら れ る よ う に 縊 首・ガ ス・薬 物 が 地 方 に な れ ば そ
の 割 合 を 高 く し 、飛 び 降 り・飛 び 込 み は 都 市 部 の 方 が 高 く な る 傾 向
がある。この傾向が現れるのは、以下の背景があるためである。
① 地方の方がガス自殺の割合が高くなるのは、都市部より比較的
に車の所有率が高いためである。ガス自殺が、車の所有率に強
く影響されていることがこのことからも分かる。
13
② 薬物自殺も地方の方が割合が高いのは、薬物自殺の大半が農薬
によるもので、地方ほど農薬が入手しやすいためである。
③ 飛び降り自殺は、都市部と地方の差が最も顕著に現れている。
これは都市部ほど高層建築物の数が増えるためである。
④ 飛び込み自殺も同様に、路線の数・利用頻度が多いため、都市
部ほど割合がたかくなっている。
⑤ 縊首の割合が高く地域差があまりないのは、環境を選ばず決行
可能な手段だからである。
高 層 建 築 物 の 数 、農 薬 入 手 の 手 間 、路 線 の 数 ・ 利 用 頻 度 、車 の 保
有率などの特色が影響し、自殺手段は生活環境に大きく反映する。
い ず れ も 自 殺 決 行 に 対 し て 、自 殺 場 所 の 探 索 コ ス ト 、必 要 品 の 入 手
の手間に起因している。
2.職業別・手段別自殺死亡率
表4-2
職業別・手段別自殺死亡率(2003)
縊首 ガス 薬物 溺死 飛び降り 飛び込み
男 (%)
専門的・技術的職業従事者
75.7
6.1
3.4
2.0
6.6
0.7
管理的職業従事者
77.2
6.1
3.0
1.2
5.2
1.3
事務従事者
67.3
7.4
2.5
3.0
11.1
2.5
販売従事者
72.2
8.5
2.5
1.6
7.1
0.9
サービス職業従事者
73.9
8.1
3.0
1.7
6.2
1.4
保安職業従事者
73.5
5.2
1.3
1.3
7.0
2.6
農林漁業作業者
75.3
4.6 12.3
1.7
1.8
-
運輸・通信従事者
68.3 14.7
2.0
2.9
6.0
1.2
生産工程・労務作業者
73.0
3.6
2.1
5.2
1.0
14
9.4
縊首 ガス 薬物 溺死 飛び降り 飛び込み
女 (%)
専門的・技術的職業従事者
52.6
2.0
7.7
4.5
22.7
4.0
管理的職業従事者
56.3
3.1 10.9
7.8
12.5
3.1
事務従事者
57.2
2.6
6.6
5.9
18.8
3.7
販売従事者
62.3
5.2
6.1
6.1
11.3
1.9
サービス職業従事者
67.2
3.3
5.3
7.0
11.6
1.7
保安職業従事者
81.8
-
9.1
-
9.1
-
農林漁業作業者
66.2
0.4 21.5
4.2
1.3
1.3
運輸・通信従事者
66.7 10.0
3.3
3.3
6.7
3.3
生産工程・労務作業者
65.9
7.7
3.8
8.8
1.1
出所
5.5
厚生労働省(2005)
図4-2に見られる統計の特徴とその背景は以下の通りである。
① 縊首自殺率は幅広く高い。どのような職種においても決行が容
易で、優れた手段であることが分かる。
② 運輸・通信従事者はガス自殺率が高い。車を扱う職種であるこ
とが影響している。
③ 農林漁業作業者は薬物自殺率が高く飛び降り自殺率が低い。こ
れも薬物が手に入りやすく、高層建築物のない環境での職種で
あることが原因である。
④ 第3次産業は飛び降り自殺率が高い。高層建築物のオフィスと
いう職場環境の影響がある。
職場環境によっても自殺決行コストが低いものを選択している
ことが理解できる。
15
3.内陸と臨海の溺死率
表4-3
内陸と臨海の溺死率(2003)
溺死率%
注
内陸の県
1.6
その他の都道府県
2.4
内 陸 の 県 は 栃 木 、群 馬 、埼 玉 、山 梨 、長 野 、岐 阜 、滋 賀 、奈 良
出所
厚生労働省(2005)
内 陸 よ り 海 に 面 し た 地 域 の 方 が 溺 死 率 が 高 い 。た だ 滋 賀 県 に 関 し
て は 琵 琶 湖 が あ る た め か 溺 死 率 が 2 .9 % と 高 く な っ て い る 。溺 死
に 関 し て も 、置 か れ て い る 環 境 に 自 殺 手 段 の 選 択 が 反 映 さ れ て い る 。
自殺場所の探索コストの低さが影響しているわけである。
16
第5章
性・年齢別における自殺手段構成に偏りが生まれる原因
第 3 ・ 4 章 か ら 、個 人 の 属 性 や 、置 か れ て い る 環 境 に よ っ て 、自
殺手段に違いが生まれ、自殺手段の選択が、自殺場所の探索コス
ト・自 殺 必 要 品 の 調 達 コ ス ト な ど 、決 行 に か か る 手 間 に 最 も 影 響 を
受けていることが明らかになった。
こ こ で 第 2 章 の 、性・年 齢 別 に お け る 自 殺 手 段 構 成 に 見 ら れ た 4
つの特徴が、どのようなことに起因しているかをまとめる。
① 男女ともすべての年齢階級で「縊首」による割合が最も多く、
高齢になるほどその割合が高くなる。
② 中年の男性は「ガス」の割合が高い。
③ 若い年齢で特に女性は「飛び降り」の割合が高い。
④ 高年の女性は「溺死」の割合が高い。
① に つ い て は 、縊 首 が 、属 性 や 環 境 に 左 右 さ れ な い 最 も 優 れ た 手
段であり、高齢者にとって決行が容易であるためである。
② に つ い て は 、ガ ス 自 殺 の 大 半 が 車 の 排 気 ガ ス に よ る も の で 、自
動車の保有率の高さが自殺決行コストを下げているためである。
そ し て ③ ④ に つ い て は 、飛 び 降 り と 溺 死 が 自 殺 場 所 の 探 索 コ ス ト
に 関 係 し て い る こ と は 説 明 で き た 。し か し 、な ぜ そ れ ら が 若 い 女 性
と高齢の女性に、それぞれ選択されるのかは解明できなかった。
③ ④ の 解 明 に は 、性 ・年 齢 に お け る 手 段 別 自 殺 率 の 、地 域 ご と の
詳 細 な デ ー タ が 必 要 だ が 、厚 生 省( 2 0 0 5 )に は 記 載 さ れ て い な
かった。
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第6章
おわりに
世 の 中 に は 様 々 な 人 間 が い る の と 同 様 に 、自 殺 の 仕 方 に も い ろ い
ろな方法があり、
自 殺 の 決 行 に 臨 む 時 、ど の よ う な 方 法 が 自 分 に と っ て 良 い の か を 考
え る の は 自 然 な こ と で あ ろ う 。だ か ら 何 に 重 き を 置 き 、ど の 自 殺 手
段 を 選 ぶ か は 個 人 の 自 由 で あ っ て 、本 来 十 人 十 色 に な る よ う に 最 初
は考えていた。しかし実際は年齢や性別・生活環境などによって、
実際に選ばれる自殺手段には偏りがあった。
各 自 殺 手 段 の 特 徴 を 、苦 痛 の 大 小 ・遺 体 の 醜 美 ・他 人 に 及 ぼ す 迷
惑 ・決 行 に か か る 手 間 ・致 死 率 の 5 つ の 要 素 で 考 察 し 、個 人 の 属 性
や 、置 か れ て い る 環 境 に よ っ て 、自 殺 手 段 に 違 い が 生 ま れ る 疑 問 を
解 い て い く 上 で 、自 殺 手 段 の 選 択 が 、自 殺 場 所 の 探 索 コ ス ト ・自 殺
必 要 品 の 調 達 コ ス ト な ど 、決 行 に か か る 手 間 に 最 も 影 響 を 受 け て い
る こ と が 明 ら か に な っ た 。人 間 は 自 殺 を す る 時 、結 局 は 一 番 面 倒 臭
くない方法で自殺するのである。
た だ 本 論 文 で は 、若 い 年 齢 で 特 に 女 性 は 飛 び 降 り 、高 年 の 女 性 は
溺 死 の 割 合 が 高 く な る 原 因 は 分 か ら な か っ た 。今 後 の 課 題 と し て は 、
個 人 の 属 性 と 手 段 選 択 の 因 果 関 係 を 明 ら か に す る た め 、地 域 ご と の
詳 細 な デ ー タ の 分 析 や 、各 国 と の 統 計 の 比 較 な ど に よ っ て 、よ り メ
ッセージの確実性を高めていきたい。
最 後 に 蛇 足 を ひ と つ 。か つ て 藤 村 操 と い う 青 年 が 華 厳 の 滝 か ら 投
身 自 殺 し た 。彼 は 以 下 の よ う な 言 葉 を 遺 し 、自 殺 に そ れ ま で に な い
高 尚 で 哲 学 的 な イ メ ー ジ を 与 え た 。「 万 有 の 真 相 は 唯 一 言 に し て つ
く す 。曰 く『 不 可 解 』」秋 本( 1 9 8 6 )。彼 は こ の 世 の 中 の 真 理 が
不可解であるとし、自ら命を絶った。彼の言動の半分は賛成する。
この世の中の真理は不可解であろう。だから私は生きていく。
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参考文献
秋 本 國 男 ( 1 9 8 6 )「 自 殺 考 」 東 尚 社 会 保 険 企 画
雨 宮 処 凛 ( 2 0 0 2 )「 自 殺 の コ ス ト 」 太 田 出 版
厚 生 労 働 省 ( 2 0 0 5 )「 第 5 回 自 殺 死 亡 統 計 」
鶴 見 済 ( 1 9 9 8 )「 完 全 自 殺 マ ニ ュ ア ル 」 太 田 出 版
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