秘書業務遂行の効率化に関する諸要因の研究

1
静岡県立大学短期大学部浜松校
特別研究報告書(平成11・12年度)−18
秘書業務遂行の効率化に関する諸要因の研究
中
福
加
内
石
柴
一
井
余
平
國
村
岡
藤
山
川
山
柳
上
語
田
田
健 壽(静岡県立大学短期大学部)
欣 治(静岡県立大学短期大学部)
宏 美(静岡県立大学短期大学部)
伊知郎(同志社大学)
雅 健(名古屋女子文化短期大学)
正(名古屋女子大学短期大学部)
達 幸(一宮女子短期大学)
英理佳(東京国際大学)
真 夫(同志社大学)
祐 子(近畿大学短期大学部)
千恵子(金沢学院短期大学)
A Study on factors related to the efficiency of secretarial works
in contemporary Japanese organizations
Kenju NAKAMURA
Yoshiharu FUKUOKA
Hiromi KATO
Ichiro UCHIYAMA
Masayoshi ISHIKAWA
Tadashi SHIBAYAMA
Tatsuyuki ICHIYANAGI
Erika INOUE
Masao YOGO
Yuko HIRATA
Chieko KUNIDA
2
国際化・情報化の波を受け企業等組織体は変革を求められている。ビジネス
環境は大きく変化し、オフィスワークも質的な変化を余儀なくされている。そ
れはわが国の秘書に特徴的にみられる秘書課・秘書課体制の在り方、秘書業務
の在り方にも大きな影響を及ぼしていると言えよう。
従来から、わが国企業の秘書課・秘書室体制および秘書業務の具体的内容を
明らかにするための多くの論考や研究調査報告がおこなわれてきた。しかし秘
書担当部門および秘書業務の効率性、効率化といった問題は、これまで直接に
は検討されることはなかった。本来、秘書業務遂行のためには問題の所在を適
切に把握し、迅速に処理することが強く求められ、その効率化は重要な課題で
ある。
秘書業務の効率性には、個人特性(キャリア、意識など)、業務環境(秘書
の形態、組織の規模など)などの領域における諸要因が相互に影響を及ぼして
いると考えられる。
そこで、我われはそれら各領域における業務効率化要因を明らかにし、諸要
因の関連性を分析し、その結果から秘書業務効率化に関するモデルを構築する
ことを目的とした。
平成7年、秘書学をはじめ経営学、心理学、情報処理、国語表現等の専門分
野からなる学際的チームを構成し、名称を「企業秘書研究会」とし、研究に着
手した。以来、本研究は毎年、静岡県立大学特別研究の助成を受け、着実に研
究の成果を積み重ね、学界の高い評価を得てきた。
以下、研究調査の軌跡を概観しておきたい。
①予備的検討
平成8年、中部地方に本社機能を有する一部上場企業194社に調査協力を依
頼し、協力の得られた29社を対象に、秘書へのアンケートおよび秘書課長への
ヒアリング調査を実施した。
その研究成果は、
「秘書業務の効率化に関する研究」(1996年度日本ビジネス
実務学会中部ブロック研究会、平成9年1月)、「秘書業務の効率化に関する諸
要因の研究」(日本ビジネス実務学会第16回全国大会、平成9年6月)として
口頭発表した。また 、「秘書業務の効率化に関する諸要因の研究―予備的検討
― 」(本学『特別研究報告書(平成7・8年度)』、平成9年3月)、「秘書業務
効率化に関する研究」『
( 秘書学研究』第6号、平成10年2月)、「秘書における
仕事の効率感とその関連要因―中部地区企業への調査にもとづく検討―」『
( 秘
書学研究』第7号、平成11年3月)として論文発表をおこなった。
②全国調査
平成10年、先の予備的検討の結果を踏まえ、調査対象を全国規模に拡大し、
3
資本金130億円以上の企業698社を抜粋し、秘書部門の責任者および秘書課員へ
の調査を実施した(補足調査を含む)。
その研究結果は、
「経営組織における秘書業務の現状と問題点」(1998年度日
本ビジネス実務学会中部ブロック研究会、平成11年1月)、「秘書業務の効率化
に関する諸要因の研究―経営組織と秘書との関わりを中心に―」(日本ビジネ
ス実務学会第18回全国大会、平成11年6月)、「秘書業務の効率化に関する諸要
因の研究(Ⅱ)―国語表現の分析― 」(1999年度日本ビジネス実務学会中部ブロ
ック研究会、平成12年1月)、
「秘書業務の効率化と心理的資質の関連について」
(2000年度日本ビジネス実務学会中部ブロック研究会、平成13年1月)として
口頭発表した。また 、「秘書業務遂行の効率化に関する諸要因の研究―全国調
査の概要―」
(本学『特別研究報告書(平成9・10年度)』、平成11年3月)、
「秘
書業務の効率化―全国調査の概要と国語表現の調査結果―」『
( 近畿大学短大論
集』第32巻)、「秘書業務の効率化に関する諸要因の研究―経営組織と秘書との
関わりを中心に―」『
( 秘書学研究』第8号、平成12年3月)として論文発表を
おこなった。
本報告書においては、上記のうち前回の本学『特別研究報告書(平成9・10
年度)』の発刊以降に発表した3つの研究成果を掲載する。
擱筆にあたり、本研究のために長年にわたり助成を続けてくださった本学「特
別研究」関係諸氏、またご多忙のなか質問紙調査やヒアリング調査に快くご協
力いただいた企業関係諸氏に対し心から感謝の意を捧げたい。
以上
4
1)2)
秘書業務の効率化に関する諸要因の研究
−経営組織と秘書との関わりを中心に−
A Study on factors related to the efficiency of secretarial works
in contemporary Japanese organizations:
Aspects in industrial organization and secretary
柴
中
井
國
余
加
山
村
上
田
語
藤
正
健 壽
英理佳
千恵子
真 夫
宏 美
Tadashi SHIBAYAMA
Kenju NAKAMURA
Erika INOUE
Chieko KUNIDA
Masao YOGO
Hiromi KATO
一
内
石
平
福
柳
山
川
田
岡
達 幸
伊知郎
雅 健
祐 子
欣 治
Tatsuyuki ICHIYANAGI
Ichiro UCHIYAMA
Masayoshi ISHIKAWA
Yuko HIRATA
Yoshiharu FUKUOKA
1.はじめに
バブル崩壊後、長期不況が続くなかでビジネス環境は未曾有の異質な激変に
みまわれている。そして経営の多角化、国際化が進み、経営組織の大改革を迫
られている。とくに情報・通信分野の技術の進歩はめざましく、全産業の経営
手法としてインターネットが利用されている。この革新的な経営環境の変容へ
の対応いかんが企業の存続を左右することになる。
企業が存続するには経営に必要な資源すなわち「ヒト・カネ・モノ・時間・
技術・情報」の活用が必要である。この資源の中でもとくに「ヒト」の効率的
な活用、いわゆる経営者を中心とした管理者や従業員の「能力」の活用にかか
わる管理が重要となろう。まさに「企業は人なり」である。つまり時代の変化
を察知し、ダイナミックに実行できる企業がサバイバルゲームに勝利を納める
ことができよう。そのために企業は、積極的にリストラクチャリングやリエン
5
ジニアリングを推進している。すでにわが国の基幹産業で重厚長大な会社が「マ
ルチメディア、ゲームソフト」のいわゆる軽薄短小の産業に進出している。
例えば戦後を概観すると、
「鉄鋼・造船」→「繊維」→「石油・化学」→「電
気・自動車」→「コンピュータのハードからソフト」そして「ネット産業」へ
と時代は推移したと言えよう。つまりその時代に乗り遅れた企業は「縮小か倒
産」し、その時代に適応した企業は「発展し成長」する。このことはいかなる
経営にも当てはまる。
このような状況下におけるオフィスワークの質的な変化は、企業の秘書部門
および秘書業務のあり方にも、大きな変革をもたらすことになる。そこでわれ
われは組織の「副」としての秘書業務の効率性・効率化に寄与する要因を探る
研究に着手した。なお、ここでの効率性・効率化は、客観的な指標ではなく秘
書の職務遂行における「効率感」すなわち「本人自身の職務が効率よく行われ
ているのかどうか」であり、本人が「積極的・主体的に業務遂行していること」
を意味する。
今回われわれは調査対象を拡大した全国規模の郵送調査を実施し、各企業の
秘書担当部門の責任者およびそこで勤務する秘書課員の双方から回答を得て、
秘書部門および秘書業務の効率感に関連する問題を、経営組織・運営の面から
考察することにした3 )。
2.調査の方法
1)調査対象
『会社四季報』98年3集(夏期号、CD-ROM版)より、企業の経営規模を勘案
して資本金130億円以上の企業698社を抜粋し、調査対象企業とした。これらの
内訳は、銀行82社、電気機器68社、化学50社など、33業種(表1)にまたがる
ものであった。
また、公開企業の内訳は、東証一部上場企業が667社、二部上場企業が16社、
店頭登録企業が15社であった。これらの企業における秘書担当部門の責任者、
およびそこで勤務する秘書課員の双方を調査対象者とした。
2)調査内容
調査内容は表2に示すとおり多岐にわたるものであった。しかし、本稿では、
経営組織・運営にかかわる問題に焦点を当てるため次の2点から考察する。
①責任者における「会社全体の組織運営の特徴」
②責任者と秘書の双方における「秘書部門の職場・業務の特徴(効率感を含
む)」
3)実施方法
①調査対象者:上記の調査対象企業の秘書部門の責任者宛に、責任者用の調
6
査票1部、秘書課員用の調査票3部を、挨拶状および返信用封筒とともに同封
して郵送した。責任者用は本人が、秘書課員用は責任者を通して、可能な限り
勤務年数が2年以上の人に配布し、回答者個人が特定されないよう無記名で回
答し、返送するよう依頼した。
表1
業種
調査対象企業、回収数(有効回答分)の内訳
送付企業
陸運
輸送用機器
保険
不動産
非鉄金属
電気機器
電気・ガス
鉄鋼
通信
倉庫・運輸関連
繊維製品
石油・石炭製品
精密機器
水産・農林
食料品
証券
小売
鉱業
建設
空運
銀行
金属製品
機械
海運
化学
卸売
医薬品
パルプ・紙
サービス
ゴム製品
ガラス・土石製品
その他製品
その他金融業
合計
※
回 答 数
責任者
秘書(企業)
秘書(総数)
対応企業※
26
29
13
13
18
68
13
18
4
2
19
7
5
3
25
17
40
2
46
5
82
9
35
6
50
31
18
10
25
6
14
20
19
5
6
6
1
3
12
2
3
0
0
2
4
3
0
7
2
9
0
10
1
8
4
6
0
9
2
2
1
4
2
3
2
4
4
8
4
0
3
15
2
2
1
0
3
3
3
0
6
3
6
0
12
1
8
3
7
0
10
3
5
1
4
1
3
1
3
9
15
9
0
7
35
5
3
1
0
5
6
6
0
16
7
12
0
27
2
21
6
14
0
20
8
5
1
8
2
6
2
5
3
6
4
0
3
12
2
1
0
0
2
3
3
0
4
2
6
0
8
1
8
3
4
0
8
1
2
1
4
1
2
1
3
698
123
125
263
98
責任者と秘書の双方から回答が得られた企業
7
表2
※
調査内容の概略
(1)責任者:秘書部門の名称・組織の独立性・規模(秘書数)等、会社全体の組織運営の特徴、秘
書部門の職場・業務の特徴(効率感を含む)、責任者として秘書課員に求める心理的資質(性格
特徴)
、秘書部門における情報化への対応、秘書課員の職務ストレッサー経験(責任者としての
推測)、秘書課員への責任者としてのサポート、責任者自身の社会的スキル等の自己評価、年齢
・性別・在職(経験)年数等
(2)秘書:秘書部門の職場・業務の特徴(効率感を含む)、秘書部門における情報化への対応、秘書
業務における国語表現上の諸問題、職務ストレッサー経験(自己評価)、秘書課長からのサポー
ト、同僚からのサポート、職務満足感ストレス反応、社会的スキル等の自己評価、心理的資質
(性格特徴)の自己評価、年齢・性別・在職(経験)年数等、秘書部門の執務形態別秘書数(特
定上役付き、内容別等)
※
下線部は、責任者と秘書に同様の質問がおこなわれ、両者の回答を直接比較し得るものを指す。
②調査時期:1998年10月1日∼10月20日
③有効回答数:年齢・性別・経験年数が記入されているもので、責任者123
社(17.6%)123名、秘書127社(18.2%)263名であった。責任者と秘書の双方から
回答が得られた企業は90社(14.2%)で、責任者98名、秘書214名であった。
3.結果
1)責任者の調査結果
責任者(123社、123名)の性別内訳は、男性117名、女性6名であり、平均
年齢は47.3歳、責任者としての勤務年数の平均は2.9年であった。
まず秘書部門の秘書数によって、企業数がほぼ均等に近くなるように「5人
以下(39社)」、「6∼9人以下(49社)」、「10人以上(35社)」に分類し、それぞ
れ「会社全体の組織運営の特徴」の各項目について平均値を算出した(表3)。
表3 秘書部門の人数別「組織運営の特徴」
5人以下
項目
6∼9人
10人以上
平均 SD
平均
SD
平均
SD
1)各部や各課の目的や目標がはっきりしている
3.00
0.80
3.27
0.81
3.25
0.80
2)職場内での個人の目標がはっきりしている
2.76
0.79
2.80
0.93
2.89
0.69
3)上司から部下に権限が十分委譲されている
2.34
0.86
2.63
0.80
2.57
0.57
4)職場で個々人にきちんと指示・命令が与えられている
2.61
0.69
2.93
0.65
2.64
0.62
5)仕事上の責任の所在がはっきりしている
2.38
0.82
3.05
0.68
2.79
0.74
6)上司から仕事上の的確な援助を受けることができる
2.45
0.78
3.05
0.50
2.86
0.59
7)担当者によって、仕事のやり方が変わることが多い
2.24
0.87
2.34
0.91
2.14
0.85
8
その結果、
「職場内での個人の目標の明確化」を除けば、「6∼9人以下」の
秘書部門の責任者において平均値が高いが 、「5人以下」、「10人以上」と比較
して必ずしも顕著でない。つまり責任者は秘書部門に対して総じて「組織運営
についての満足感・効率感が高い」といえよう。
次に、「秘書部門全体での業務の効率感」については、「業務が効率よくでき
ている」(72社、60.5%)場合の方が各項目とも平均値が高かった(表4)。
表4 部署全体の職務効率感の高低別にみた「組織運営の特徴」
項目
効率感:低
(N=47)
効率感:高
(N=72)
平均
SD
平均
SD
1)各部や各課の目的や目標がはっきりしている
2.96
0.75
3.33
0.76
2)職場内での個人の目標がはっきりしている
2.64
0.70
2.97
0.91
3)上司から部下に権限が十分委譲されている
2.34
0.81
2.69
0.79
4)職場で個々人にきちんと指示・命令が与えられている
2.47
0.65
2.92
0.64
5)仕事上の責任の所在がはっきりしている
2.50
0.81
2.90
0.66
6)上司から仕事上の的確な援助を受けることができる
2.52
0.72
3.03
0.57
7)担当者によって、仕事のやり方が変わることが多い
2.30
0.88
2.24
0.86
次に、「職場、業務の特徴」についての各項目を人数別に検討すると、
「10人
以上」では「昇進と昇格」や「仕事と給料」、「9人以下」では「組織の運営方
針」や「業務内容」の平均値が高いが、「5人以下」では全項目において評定
値が低い。また、人数に関係なく「秘書部門の業務効率化に向けて、改善の余
地がある」と考えている(表5)。
表5 秘書部門の人数別「職場・業務の特徴」
5人以下
(N=29)
6∼9人
(N=41)
10人以上
(N=28)
平均 SD
平均
SD
平均
SD
1)出社・退社時刻が不規則である
2.00 0.89
2.07
1.08
2.25
1.00
2)サービス残業が多い
1.83 1.04
1.80
0.93
2.00 0.94
3)給料以上の仕事をしている
1.83 1.00
2.07
0.88
1.96 0.96
1)定型的に決められた業務が多い
1.76 0.69
2.07
0.79
1.79 0.69
2)毎日仕事が変化に富んでいるすい
2.31 0.97
2.44
0.92
2.32 0.90
3)個人の思いつきや新しい試みを生かしやすい
1.83 0.80
2.05
0.80
1.86 0.80
4)手順や方法を個々人の判断で変更できる
2.29 0.76
2.15
0.91
2.14 0.76
項目
1.仕事と給料について
2.業務の内容について
9
5)共同で行う仕事が多い
2.14 0.74
1.95
0.92
2.21 0.88
1)能力主義である
2.59 0.73
2.51
0.71
2.68
0.72
2)配置転換が頻繁である
1.48 0.74
1.41
0.74
1.57
0.92
3)昇進・昇格制度が明文化されている
2.52 1.02
2.66
0.91
2.96
0.96
1)個人の自主性を重んじている
2.48 0.87
2.59
0.81
2.57 0.84
2)仕事の効率を重んじている
2.90 0.72
3.07
0.79
2.82 0.72
3)命令・規則を重んじている
2.45 0.78
2.56
0.84
2.54
1)人間関係が円満である
3.07 0.80
3.07
0.65
3.07 0.66
2)上司とのタテのつながりが強い
2.31 0.81
2.63
0.77
2.50 0.69
3)明るく活気があり、楽しく仕事ができる
2.82 0.82
2.88
0.64
2.89
1)秘書部門全体として、業務は効率よくできている
2.48 0.63
2.71
0.64
2.59 0.64
2)秘書部門の業務効率化に向けて、改善の余地がある
2.52 0.69
2.68
0.76
2.75 0.75
3.昇進と昇格について
4.組織の運営方針について
0.64
5.職場全体の雰囲気について
0.69
6.業務の効率性について
2)秘書課員の調査結果
秘書(127社、263名)の性別内訳は、男性23名、女性240名であり、平均年
齢は30.3歳であった。また秘書としての経験年数は平均6.0年で、責任者の秘
書としての経験年数の2倍であった。
まず秘書の有効回答者263名を、秘書業務の経験年数に基いて「1∼4年未
満(107名)」、「4∼8年未満(95名)」、
「8年以上(61名)」に分類し、各分類
別に「職場・業務の特徴」の平均値を算出した。
その結果、
「秘書業務全体での業務が効率よくできているか」は、
「そう思う」
が84.2%、「そう思わない」が15.8%であった。また「自分自身の秘書業務が
効率よくできているか」についても、
「そう思う」が88.8%で「そう思わない」
が11.2%であり、ほとんどの秘書が秘書業務の効率化あるいは効率感に満足し
ている。
各項目を勤務年数別にみると、「仕事と給料」については勤務年数の長いグ
ループの平均値が高かった(表6)。このことは年功序列制度の影響であると
いえよう。しかし、「4年未満」のグループは能力主義を支持しているとも考
られよう。また、このグループについて「業務内容」の平均値が高いのは終身
雇用制の特徴であり、ベテランになるためのステップと考えられる。しかし、
この終身雇用制はほとんどの企業で早晩崩壊してゆくであろう。その場合、ヒ
トが企業を求めて働くのか、それとも企業が必要としないヒトをリストラする
のか、など秘書部員に限らずビジネス環境の変化に応じた生き方を迫られるこ
とになる 。「職場全体の雰囲気」については、経験年数による差異は余り見受
10
けられなかった。しかし勤務年数「4年未満」の秘書は「秘書業務の業務効率
化に向けて、改善の余地がある」と考えている。
表6 勤務年数別の「職場・業務の特徴」
4年未満
4∼8年未満
(N=107) (N=95)
8年以上
(N=61)
平均 SD
平均
SD
平均
SD
1)出社・退社時刻が不規則である
2.09 0.98
2.08
1.01
2.43
1.03
2)サービス残業が多い
1.85 0.94
1.80
0.97
2.18
1.05
3)給料以上の仕事をしている
1.79 0.84
1.96
0.93
2.13
1.03
1)定型的に決められた業務が多い
2.15 0.96
2.01
0.80
2.12
0.88
2)毎日仕事が変化に富んでいるすい
1.95 0.96
1.93
0.85
1.92
0.87
3)個人の思いつきや新しい試みを生かしやすい
1.78 0.84
1.61
0.72
1.51
0.68
4)手順や方法を個々人の判断で変更できる
2.07 0.83
1.98
0.79
1.73
0.86
5)共同で行う仕事が多い
1.87 0.85
1.72
0.78
1.75
0.86
1)能力主義である
1.55 0.74
1.38
0.60
1.37
0.58
2)配置転換が頻繁である
1.22 0.54
1.16
0.42
1.18
0.54
3)昇進・昇格制度が明文化されている
1.57 0.83
1.68
0.89
1.26
0.52
1)個人の自主性を重んじている
2.01 0.79
1.93
0.83
1.72
0.78
2)仕事の効率を重んじている
2.27 0.85
2.24
0.80
2.30
0.87
3)命令・規則を重んじている
2.36 0.94
2.42
0.86
2.58
0.86
1)人間関係が円満である
2.77 0.91
2.67
0.93
2.70
0.79
2)上司とのタテのつながりが強い
2.22 0.96
2.31
0.88
2.25
0.89
3)明るく活気があり、楽しく仕事ができる
2.45 0.87
2.43
0.85
2.29
0.81
1)自分自身の秘書としての仕事は、効率よくできている
2.22 0.72
2.37
0.73
2.47
0.77
2)秘書部門全体として、業務は効率よくできている
2.17 0.70
2.15
0.67
2.03
0.64
3)秘書部門の業務効率化に向けて、改善の余地がある
2.77 0.79
2.69
0.77
2.67
0.68
項目
1.仕事と給料について
2.業務の内容について
3.昇進と昇格について
4.組織の運営方針について
5.職場全体の雰囲気について
6.業務の効率性について
次に、秘書自身の職務効率感の高低によって3群に分け「職場・業務の特徴」
をみると、
「出社・退社時刻が不規則」
、
「サービス残業」
、
「命令・規則の重視」
などの数値がわずかに高い程度で、
「職場全体の雰囲気」をはじめ「業務内容」、
「昇進と昇格」、「業務の効率性」などの平均値が高かった(表7)。
11
表7 秘書自身の「職務効率感」の水準別にみた「職務・業務の特徴」
効率感:低
(N=29)
効率感:中 効率感:高
(N=128) (N=102)
平均 SD
平均
SD
平均
1)出社・退社時刻が不規則である
2.45 0.95
2.10
1.04
2.16 0.98
2)サービス残業が多い
2.11 1.03
1.92
0.97
1.82 1.00
3)給料以上の仕事をしている
1.97 1.02
1.76
0.89
2.14
0.92
1)定型的に決められた業務が多い
2.07 0.98
2.14
0.89
2.04
0.86
2)毎日仕事が変化に富んでいるすい
1.69 0.76
1.86
0.90
2.10 0.91
3)個人の思いつきや新しい試みを生かしやすい
1.52 0.74
1.62
0.72
1.74 0.82
4)手順や方法を個々人の判断で変更できる
1.83 0.85
1.87
0.76
2.11 0.89
5)共同で行う仕事が多い
1.66 0.86
1.87
0.85
1.72
1)能力主義である
1.21 0.41
1.37
0.57
1.61 0.77
2)配置転換が頻繁である
1.24 0.64
1.15
0.45
1.23 0.51
3)昇進・昇格制度が明文化されている
1.38 0.68
1.52
0.82
1.61 0.84
1)個人の自主性を重んじている
1.66 0.72
1.86
0.76
2.05 0.87
2)仕事の効率を重んじている
2.07 0.70
2.24
0.85
2.36 0.84
3)命令・規則を重んじている
2.59 0.91
2.38
0.89
2.45
1)人間関係が円満である
2.62 0.73
2.67
0.92
2.80 0.88
2)上司とのタテのつながりが強い
1.83 0.93
2.27
0.89
2.37
3)明るく活気があり、楽しく仕事ができる
2.17 0.76
2.35
0.82
2.54
1)自分自身の秘書としての仕事は、効率よくできている
1.00 0.00
2.00
0.00
3.13 0.34
2)秘書部門全体として、業務は効率よくできている
1.76 0.74
1.99
0.54
2.41 0.71
3)秘書部門の業務効率化に向けて、改善の余地がある
2.76 0.83
2.67
0.77
2.75 0.72
項目
SD
1.仕事と給料について
2.業務の内容について
0.79
3.昇進と昇格について
4.組織の運営方針について
0.90
5.職場全体の雰囲気について
6.業務の効率性について
3)責任者と秘書の調査結果の比較
「職務・業務の特徴」に関しては、責任者と秘書の双方に同一の質問を依頼
し、そのうえで両者の違いを検討した。
分析は、すべての回答者による個人単位と双方から得られた組織単位の二通
り実施した。なお後者では、複数の秘書から回答の得られた企業については、
「経験年数・年齢・性別」から代表と思われる秘書(中央値)1名を抽出して、
責任者とのマッチングを行った。両分析の結果はほぼ一致していたため、ここ
では後者の結果を示す(表8)。
12
表8 責任者と秘書の「職場・業務の特徴」に関する回答の比較
項目
責任者
秘書
平均 SD
平均
SD
2.10 1.00
1.87 0.96
1.97 0.94
2.18 1.04
1.82 0.95
1.94 0.88
1.90
2.37
1.93
2.19
2.08
2.21
1.93
1.65
1.94
1.84
t 検定の
結果
1.仕事と給料について
1)出社・退社時刻が不規則である
2)サービス残業が多い
3)給料以上の仕事をしている
n. s
n. s
n. s
2.業務の内容について
1)定型的に決められた業務が多い
2)毎日仕事が変化に富んでいるすい
3)個人の思いつきや新しい試みを生かしやすい
4)手順や方法を個々人の判断で変更できる
5)共同で行う仕事が多い
0.74
0.92
0.80
0.82
0.86
0.89
0.93
0.71
0.77
0.86
p<.01
p<.01
p<.05
p<.05
p<.10
3.昇進と昇格について
1)能力主義である
2)配置転換が頻繁である
3)昇進・昇格制度が明文化されている
2.58 0.72
1.48 0.79
2.70 0.97
1.44 0.61
1.12 0.39
1.58 0.85
p<.001
p<.001
p<.001
2.55 0.83
2.95 0.75
2.52 0.76
1.91 0.86
2.23 0.90
2.53 0.99
p<.001
p<.001
n. s
3.07 0.69
2.50 0.76
2.87 0.70
2.75 0.87
2.26 0.93
2.44 0.83
p<.01
p<.05
p<.001
2.61 0.64
2.65 0.74
2.16 0.66
2.67 0.74
p<.01
n. s
4.組織の運営方針について
1)個人の自主性を重んじている
2)仕事の効率を重んじている
3)命令・規則を重んじている
5.職場全体の雰囲気について
1)人間関係が円満である
2)上司とのタテのつながりが強い
3)明るく活気があり、楽しく仕事ができる
6.業務の効率性について
1)秘書部門全体として、業務は効率よくできている
2)秘書部門の業務効率化に向けて、改善の余地がある
その結果、「仕事と給料」に関する項目は、責任者のほうが「給料以上の仕
事」が秘書に比べてわずかに平均値が高いが、「出退社時刻の不規則」は秘書
が高い。このことは責任者ほど「サービス残業」は当然と感じているためと考
えられる。しかし、他の項目で責任者と秘書の回答に有意な差異が見出された。
「業務内容」は、責任者のほうが業務についての裁量権があり仕事も変化に富
んでいると捉えている。その反面、「共同での作業が多い」のは、責任者ほど
職務が明確に分担されているからであろう。そして直接的に上司を補佐するこ
とに効率性を感じていると思われる。また責任者が、「昇進・昇格基準の明文
化」、「能力主義」、「配置転換」の平均値が高い。このことは、終身雇用制や年
功序列制から成果主義への過渡期の現われであると考えられよう。
「個人の自主性 」、「仕事の効率性」を重んじ、「円満な人間関係 」、「上司と
のつながり」、「明るく活気」ともに責任者の数値が高く、職場の雰囲気を肯定
的に捉えている。しかし、秘書は業務の効率性に関わる「命令・規則」、「秘書
13
部門の業務効率化の改善の余地がある」を支持する傾向にあり、明確な指示命
令のもとに行われる職場の雰囲気を望んでいる。全般的に秘書は責任者に比べ、
定型的業務が多く、仕事に変化がなく、積極的に能力を発揮する場面が少ない。
また、上司とのタテの関係が希薄であると感じている。いわゆる日本における
グループ秘書の特徴を現している。
4.おわりに
この分析結果から、次の二点が指摘できよう。第一点は、組織運営や職場・
業務の特徴が、責任者・秘書双方の仕事の効率感と関連していることである。
もちろん秘書業務の効率性は、主観的な効率感のみによって把握されるべきも
のではない。しかし「効率的でない」との認識のもとで業務が効率的に遂行さ
れるとも思われない。
第二点は、責任者と秘書の間で、職場・業務の特徴に関する認識にズレが見
受けられたことである。特に、責任者と秘書をマッチングさせた組織単位の分
析での結果であるが故に、秘書部門全体としての業務の円滑な遂行を妨げる原
因になっていることが推測される。このことは責任者と秘書間における「責任
・権限・義務の不明確化」や「職務の細分化や専門化」など双方の認識に起因す
るものであろう。つまり、①組織が固定的であること、②個人付秘書でないた
め、職務の不明確さや権限委譲の不足、③指揮・命令の多元化などが考えられ
る。
それぞれが自主性をもち、積極的に業務遂行に当たることが、効率感を満た
すことになる。このことが経営組織の効率性・効率化を実現することになる。
先にも述べたように、企業が存続するには数多の経営資源の活用が必要であ
る。それらの資源の中でもとくに「ヒト」の効率的な活用、管理が重要となろ
う。まさに「企業は人なり」である。つまり時代の変化を察知し、ダイナミッ
クに実行できる企業がサバイバルゲームに勝利を収めることができよう。
特に、秘書部門の業務においては、成果が個人のパフォーマンスにより大き
く左右されるため「ヒト」が重要なウエイトを占めることになろう。
今後、秘書学をはじめ心理学・情報処理・日本語表現等を含む学際的な観点
から、諸要因を多面的に分析し、客観的な効率性・効率化を把握することが課
題である。
すなわち、客観的な効率性・効率化は、秘書業務遂行に伴う秘書自身の各々
のスキルにより、その業務遂行への到達度による秘書自身の効率感が指標にな
っている。しかし、個々人のスキルの格差は業務処理量に違いが生じ、このギ
ャップを埋めるための客観的な効率感と効率性・効率化を明確にしていかなけ
ればならないであろう。
14
謝辞
ご繁忙の中、本調査にご協力くださいました各企業における秘書担当部門の
責任者ならびに秘書の皆様方に対し、心より感謝の意を表します。
【注】
1)
本研究の実施にあたっては、静岡県立大学短期大学部平成9・10年度特別研
究助成(研究代表者:中村健壽)による補助を受けた。
本研究の一部は、1999年度の日本ビジネス実務学会第18回全国大会において
発表された。
3)
全国調査の概要については 、「秘書業務の効率化に関する諸要因の研究−全
国調査の概要−」『秘書学研究7号』(1999)p.15-26を参照。
2)
(『秘書学研究』第8号所収をもとに作成)
15
秘書業務の効率化
−全国調査の概要と国語表現の調査結果−
平
田
祐
子
Yuko Hirata
Abstract.
This paper is a study on factors related to the efficiency of secretarial works in
contemporary Japanese organizations. Student scholars of secretary studies,
business administration studies, psychology, information processing, Japanese
expressions came together, and made a thorough vestigation all over the country.
The first, a preliminary report of the interdiciplinary questionnaire survey.
The second, the way of enforcement for an investigation all over the country.
The third, what's the items of Japanese expression's questionnaire.
And the finally, findings relaxed to secretarial works in Japanese expressions.
Key words.
Secretary
1.はじめに(研究の背景)
近年の厳しい経済状況の中で、企業ではいかに業務を効率的に遂行するかが
求められている。それに加えて、OA化や国際化の波は、企業の組織構造にも
大きな影響を及ぼしている。その企業に属している秘書担当部門(秘書課、秘
書室等)の業務についても効率的な業務のあり方が問われている昨今である。
企業における秘書担当部門(秘書課、秘書室等)の業務の内容については、
いくつかの論考や実態調査がおこなわれてきた(1)。しかし、秘書業務自体の効
率性や効率化については研究の跡が見られない。
このような背景のもとに、効率性に疑問を持つ様々の分野の研究者が集まり
企業秘書研究会(2) が発足した。1995年以降、秘書学、経営学、心理学、情報処
理、国語表現等を含む学際的な観点から、秘書業務の効率化に向けたモデル構
築とその具体的提言を目的とする研究に着手してきた。そして、1996年には中
部地区に本社機能を有する一部上場企業を対象に、秘書担当部門の責任者に対
する面接調査ならびにそこで勤務する秘書課員への質問紙(郵送)調査を実施
した。秘書担当部門の責任者と現場の秘書の認識のずれを探り、双方の勤務効
16
率感等を中心にそれぞれの観点から秘書業務の現状を分析した。その一部を19
97年1月に日本ビジネス実務学会中部ブロック研究会、6月には同学会全国大
会において報告した(3) 。
これらの研究は、秘書担当部門の責任者と秘書の双方から回答を得るという
点で従来にない視点を提供するものであったが、調査実施上の制約もあり、分
析対象が名古屋周辺の企業に限られたためサンプル数も少ないものであった。
そのため、秘書部門の組織に焦点を当てた分析を十分に行うことができないと
いう問題点を有していた。
そこで、今回は調査対象を拡大して、全国規模の郵送調査を実施した。各企
業の秘書担当部門の責任者およびそこで勤務する秘書課員の双方から回答を得
て、秘書担当部門および秘書業務の効率性に関連する問題を、個人レベルのみ
ならず組織レベルでも把握することを試みた。調査内容は、前回に引き続き経
営学、心理学、情報処理、国語表現等を含む多岐にわたるものであった。
本稿は、秘書業務についての全国調査の概要を述べ、筆者の担当部分である
国語表現に関する調査報告をして、考察を試みたい。
2.調査の実施方法(4)
(1)調査対象
『会社四季報』(98年3集、夏期号、CD-ROM版)より、企業の経営規模を勘
案して資本金130億円以上の企業計698社を抜粋して、それらを調査対象企業と
した。なお、それらの企業は、銀行(計82社)、電気機器(計68社)など計33
業種にまたがるものであり、秘書担当部門の責任者と秘書課員を調査対象とし
た。また、東証一部上場企業は667社、二部上場企業は16社、店頭公開・店頭
登録企業は計15社であった(表1)。(調査の対象企業については後掲の表1を
参照)。
(2)調査内容
調査内容は、秘書学のほか経営学、心理学、情報処理、国語表現等の諸分野
から秘書業務の効率性に関連すると思われるものを前回の調査を踏まえて選定
した(表2)。なお、下線部は、秘書担当部分の責任者と秘書の双方に質問が
なされたものである。
国語表現に関しては、秘書課員を対象に文書表現(書きことば)と口頭表現
(話しことば)、さらに電子メール(新しい書きことば)について設問した。
【表1】調査対象企業、回収数(有効回答分)の内訳
業種
陸運
送付企業
26
回 答 数
責任者
秘書(企業)
秘書(総数)
対応企業※
5
4
9
3
17
輸送用機器
保険
不動産
非鉄金属
電気機器
電気・ガス
鉄鋼
通信
倉庫・運輸関連
繊維製品
石油・石炭製品
精密機器
水産・農林
食料品
証券
小売
鉱業
建設
空運
銀行
金属製品
機械
海運
化学
卸売
医薬品
パルプ・紙
サービス
ゴム製品
ガラス・土石製品
その他製品
その他金融業
合計
29
13
13
18
68
13
18
4
2
19
7
5
3
25
17
40
2
46
5
82
9
35
6
50
31
18
10
25
6
14
20
19
6
6
1
3
12
2
3
0
0
2
4
3
0
7
2
9
0
10
1
8
4
6
0
9
2
2
1
4
2
3
2
4
8
4
0
3
15
2
2
1
0
3
3
3
0
6
3
6
0
12
1
8
3
7
0
10
3
5
1
4
1
3
1
3
15
9
0
7
35
5
3
1
0
5
6
6
0
16
7
12
0
27
2
21
6
14
0
20
8
5
1
8
2
6
2
5
6
4
0
3
12
2
1
0
0
2
3
3
0
4
2
6
0
8
1
8
3
4
0
8
1
2
1
4
1
2
1
3
698
123
125
263
98
※
責任者と秘書の双方から回答が得られた企業
【表2】調査内容の概略
(1)責任者
秘書部門の名称、組織上の独立性、規模(秘書数)等
会社全体の組織運営の特徴
秘書部門の職場・業務の特徴(効率性の評価を含む)
責任者として秘書課員に求める心理的資質(性格特徴)
秘書部門における情報化への対応
18
秘書課員の職務ストレッサー経験(責任者としての推測)
秘書課員への責任者としてのサポート
責任者自身の社会的スキル等の自己評価
年齢、性別、在職(経験)年数等
秘書部門の執務形態別秘書数(特定上役付き、内容別等)
、担当上役数等※※
(2)秘書
秘書部門の職場・業務の特徴(効率性の評価を含む)
秘書部門における情報化への対応
秘書業務における国語表現上の諸問題
職務ストレッサー経験(自己評価)
秘書課長からのサポート
同僚からのサポート
職務満足感
ストレス反応
社会的スキル等の自己評価
心理的資質(性格特徴)の自己評価
年齢、性別、在職(経験)年数等
執務形態別秘書数、自身の執務形態(特定上役付き、内容別等)等※※
下線部は、責任者と秘書に同様の質問がおこなわれ、両者の回答を直接比較し得るもの
を指す。
※
※※
補足調査において盛り込まれた内容。
(3)実施方法
調査対象企業における秘書担当部門の責任者宛に責任者用の調査票1部、秘
書課員用の調査票3部を、挨拶状および返信用封筒とともに同封して送付した 。
責任者用は本人が、秘書課員用は責任者を通して配布し、それぞれが個別に記
入のうえ返送するよう依頼した。秘書課員については、可能な限り勤務年数が
2年以上の人が回答するよう指示した。調査は回答者個人が特定されないよう
無記名式で実施し、回収後に返送企業のみ照合をおこなった。返送期日は1998
年10月1日であり、返送の期限は原則として同年10月20日としたが、期限後の
到着分も受理した(以下、「第一次調査」と記す)
。
なお、この調査で責任者もしくは秘書のいずれか一方でも調査票が返送され
た企業については、秘書部門の執務形態別秘書数(特定上役付き、内容別等)
や、秘書については自分自身の執務形態に関する質問などを盛り込んだ調査を
同様の手続きによっておこなった。回答は第一次調査と同一人物がおこなうよ
う指示した。発送期日は1998年11月16日、返送の期日は原則として11月30日と
した(以下、「補足調査」と記す)。
19
3.国語表現に関する質問項目
●秘書業務における国語表現(文書表現)についておたずねします。あてはまるものをそ
れぞれ1つ選び、○印をつけてください。
1.適切かつ効率的な文書表現のために、あなたは日頃、以下のことをどれくらい心がけ
ていますか?
心
が
け
いて
な
い
心少
がし
け
て
い
る
心か
がな
けり
て
い
る
心と
がて
けも
て
い
る
↓
↓
↓
↓
1) 平易な文章を書く ----------------------------- 1
2
3
4
2) 結論を最初に書く ----------------------------- 1
2
3
4
3) 検討の経過に重点を置く -------------------- 1
2
3
4
4) 文章の量を少なくする ----------------------- 1
2
3
4
5) 文章の量を多くする -------------------------- 1
2
3
4
6) グラフや図表を用いる ----------------------- 1
2
3
4
7) 資料の構成に気をつかう -------------------- 1
2
3
4
2.文書表現が不適切なために、修正を命じられたことがありますか?
(
ある
・
ない
)
↓
「ある」とお答えになった方におたずねします。その理由として、以下はそれぞれど
の程度あてはまりますか?
あ
て
は
なま
いら
あや
てや
は
ま
る
あか
てな
はり
ま
る
あと
てて
はも
ま
る
↓
↓
↓
↓
1) あいまいな表現 ------------------------------- 1
2
3
4
2) 敬語の用い方が不適切 ---------------------- 1
2
3
4
3) 書類の目的が不正確 ------------------------- 1
2
3
4
3.書式についておたずねします。以下はそれぞれどの程度あてはまりますか?
あ
て
は
なま
いら
あや
てや
は
ま
る
あか
てな
はり
ま
る
あと
てて
はも
ま
る
20
↓
↓
↓
↓
1) 社外文書には自社独自の定型がある -------------------- 1
2
3
4
2) 社内文書には自社独自の定型がある -------------------- 1
2
3
4
3) 秘書課独自の書式・方法がある -------------------------- 1
2
3
4
4) 電子メールの書式は社内文書の定型に従っている -- 1
2
3
4
5) 電子メールの書式をどうすべきか迷っている -------- 1
2
3
4
4.秘書課以外の課に対して仕事を文書で依頼する際、あなたは
以下のことにどの程度
気をつけていますか?
1) 誰の命令であるか
気
を
いつ
なけ
いて
つ少
けし
て気
いを
る
つか
けな
てり
い気
るを
つと
けて
ても
い気
るを
↓
↓
↓
↓
---------------------------- 1
2
3
4
2) 依頼先は正しいか -----------------------------
1
2
3
4
3) 仕事の目的が明確化されているか --------
1
2
3
4
4) 期限は記載されているか -------------------- 1
2
3
4
5) 責任範囲について -----------------------------
2
3
4
1
●秘書業務における国語表現(口頭表現)についておたずねします。あてはまるものをそ
れぞれ1つ選び、○印をつけてください。
5.適切かつ効率的な口頭表現のために、あなたは日頃、以下のことをどの程度心がけて
いますか?
心
が
け
いて
な
い
心少
がし
け
て
い
る
心か
がな
けり
て
い
る
心と
がて
けも
て
い
る
↓
↓
↓
↓
1
2
3
4
2) 相手の目を見て話す ----------------------- 1
2
3
4
3) 大きな声で話す -----------------------------
1
2
3
4
4) 結論を先に話す -----------------------------
1
2
3
4
5) 検討の経過に重点を置く -----------------
1
2
3
4
6) 簡潔に話す -----------------------------------
1
2
3
4
1) 敬語を用いる --------------------------------
6.ひとつの仕事に対して、複数の上司から異なる指示を受けたことがありますか?
(
ある
・
ない
)
21
↓
「ある」とお答えになった方におたずねします。上司に対して口頭で意見を述べる際、
あなたは以下のことにどの程度気をつけていますか?
気
を
いつ
なけ
いて
つ少
けし
て気
いを
る
つか
けな
てり
い気
るを
つと
けて
ても
い気
るを
↓
↓
↓
↓
1) 敬語を用いる --------------------- 1
2
3
4
2) 相手の目を見て話す ------------ 1
2
3
4
3) 大きな声で話す ------------------ 1
2
3
4
4) 結論を先に話す ------------------ 1
2
3
4
5) 検討の経過に重点を置く ------ 1
2
3
4
6) 簡潔に話す ------------------------ 1
2
3
4
7.ひとつの仕事に対して、複数の課から異なる依頼を受けたことがありますか?
(
ある
・
ない
)
↓
「ある」とお答えになった方におたずねします。あなたは、先方に対して口頭で意見
を述べる際、以下のことにどの程度気をつけていますか?
気
を
いつ
なけ
いて
つ少
けし
て気
いを
る
つか
けな
てり
い気
るを
つと
けて
ても
い気
るを
↓
↓
↓
↓
1) 敬語を用いる ---------------------- 1
2
3
4
2) 遠回しな断り方をする ---------- 1
2
3
4
3) はっきりと断る ------------------- 1
2
3
4
4) 結論を先に話す ------------------- 1
2
3
4
5) 検討の経過に重点を置く ------- 1
2
3
4
6) 簡潔に話す ------------------------- 1
2
3
4
8.上司に反対の考えを口頭で伝える場合、あなたは以下のことをそれぞれどの程度重視
していますか?
重
視
いし
なて
い
少
しし
て重
い視
る
か
しな
てり
い重
る視
と
して
ても
い重
る視
22
↓
↓
↓
↓
1) 敬語を用いる --------------------- 1
2
3
4
2) 相手の目を見て話す ------------ 1
2
3
4
3) 大きな声で話す ------------------ 1
2
3
4
4) 結論を先に話す ------------------ 1
2
3
4
5) 検討の経過に重点を置く ------ 1
2
3
4
6) 簡潔に話す ------------------------ 1
2
3
4
1-1.あなたは現在、電子メールを業務上利用していますか? → ( はい ・ いいえ )
1-2.電子メールについて、あなたは以下のような経験をしたことがありますか?
ま
一
っ
、
なた あ二
いく る度
数
回
あ
る
何
度
あも
る
↓
↓
↓
↓
1) 電子メールで連絡がきたために、不快な思いをした ------ 1
2
3
4
2
3
4
2
3
4
2
3
4
2) 電子メールで送られてきた文章を読み、不快な思い
をした ------------------------------------------------------------------- 1
3) 自分が電子メールを使って連絡したために、相手に
不快な思いをさせた ------------------------------------------------- 1
4) 自分の送った電子メールの文章によって、相手に不
快な思いをさせた ---------------------------------------------------- 1
4.国語表現に関する秘書の調査結果
現場で職務する秘書477名の方々のご協力により集計結果を得ることができ
た。まず、秘書が個人的に返送した企業が127社で264名の回答がある(以下、
秘書個人という)。
次に、秘書担当部門の責任者に送付した分で、責任者と秘書の両方の集計を
返送した企業が、98社で214名の秘書の回答がある(以下、秘書部門の秘書と
いう)。平均値表記の場合には、秘書個人を先に書き、秘書部門の秘書を後ろ
に明記する。それは、秘書部門の秘書のみ秘書部門の規模(人数)別の集計を
取ることが可能なために、敢えて分割して集計を取った。
文書表現(書きことば)についての質問が4問、口頭表現(話しことば)に
ついての質問が4問である。各設問ごとに全体の平均値、秘書業務の経験年数
別の相違、自身の職務効率感と部署全体の効率感についての調査結果を報告す
る。秘書部門の秘書に関しては、秘書部門の規模(人数)別の集計も合わせて
報告する。
また、最後に、電子メールに関する設問についても追加報告する。
23
4.1. 文章表現に関する調査結果と考察
(1)効率的な文書表現のための注意点
適切かつ効率的な文書表現のために心がけていることを7項目掲げて、「心
がけていない」を「1」、「少し心がけている」を「2」、「かなり心がけている」
を「3」、「とても心がけている」を「4」、の4件法で質問した。
全体の平均値(平均値表記の場合、秘書が個人的に返送したものを先に書き 、
秘書担当部門の責任者に送付したものを後に書く)が最も高かったのは「平易
な文章を書く(2.84・2.82)」ことであった。続いて、「結論を最初に書く(2.
84・2.82)」や「文章の量を少なくする(2.73・2.75)」ことを心がけているよ
うである。
秘書業務の経験年数別に見ると、経験年数が4年未満の秘書は 、「結論を最
初に書く」ことを意識しているのだが、経験年数が4年以上8年未満や8年以
上の秘書達は 、「結論を最初に書く」ことよりも、極力「平易な文章を書くこ
と」を心がけているようである。
自身の職務効率感については 、「平易な文章を書くこと」が最も効率的な文
書表現と考えられており、続いて「結論を最初に書く」や「文章の量を少なく
する」ことが自身の効率感の平均値の高いものであった。
部署全体の職務効率感については、自身の職務効率感の結果と同様であった 。
秘書部門の人数別では、規模が5人以下の秘書部門の秘書は、「文章の量を
少なくする」ことに注意を払っているようだが、5人以上9人以下の秘書室や
10人以上の秘書室では、文章の量よりも「平易な文章を書くこと」や「結論を
最初に書く」ということに重点が置かれている。
(2)文書修正について
文書表現が不適切なため、修正を命じられたことが「ある」か「ない」かを
質問した 。「ある」と回答したのは285名で、残りの180名は「ない」という答
えであった。
「ある」と回答したのは、61.3%であった。その理由を3項目掲げ、「あて
はまらない」を「1」、
「ややあてはまる」を「2」、
「かなりあてはまる」を「3」、
「とてもあてはまる」を「4」の4件法で質問した。「あいまいな表現」のた
めに文書作成の修正を命じられた平均値(1.94・1.98)が最も高く、続いて「 敬
語の用い方が不適切(1.57・1.46)」、「書類の目的が不正確(1.34・1.34)」の
順であった。
秘書業務の経験年数別に見ると、「ある」と回答した285名中、経験年数が4
年未満の秘書は134名おり、経験年数が4年以上8年未満の秘書は97人、8年
以上の秘書達は54人と、やはり経験年数を重ねた秘書は修正を命じられること
が少ない。内容別に見ると、「あいまいな表現」での修正が圧倒的に多いが、
24
2番目の修正として経験年数が8年以上の秘書は、敬語の用い方よりも「書類
の目的が不正確」という項目である。敬語のレベルは当然駆使している結果で
あろう。
秘書部門の規模(人数)別では、「ある」と回答した128名中、規模が5人以
下の秘書部門の秘書は58名中32名、5人以上9人以下の秘書部門の秘書は93名
中60名、10人以上の秘書部門の秘書は63名中36名であった。項目別に見ると、
秘書部門の人数の多少に関らず「あいまいな表現」のために修正を命じられて
いる。
(3)書式について
文書の書式(5項目)についてどの程度あてはまるかを尋ねた 。「あてはま
らない」を「1」、
「ややあてはまる」を「2」、
「かなりあてはまる」を「3」、
「と
てもあてはまる」を「4」として平均値を求めた。
まず、「社外文書には自社独自の定型がある」の項目では平均値(2.07・2.08)
と「ややあてはまる」に近く、次の「社内文書には自社独自の定型がある」と
いうのも平均値(2.28・2.26)と社内文書の方は各会社の独自の型が存在する 。
また、秘書課独特の書式・方法について尋ねたところ、これも平均値(1.92・
1.92)と「ややあてはまる」に近いものであった。あとの2項目は電子メール
に関するものなので、最後の電子メール関連事項の箇所で述べたい。
設題3.に関しては、秘書業務の経験年数別に見ても大差は無く、自身の職務
効率感や部署全体の職務効率感についても割愛する。
秘書部門の規模(人数)別に見ると、やはり10人以上の秘書室では、定型が
あるという数値が社外文書(2.30)・社内文書(2.46)と非常に高かった。秘
書課独自の書式や方法に関しては、規模の大きさに関らず、それぞれの書式や
方法を持っているようである。
(4)依頼事項の注意点
秘書課以外の課に対して仕事を文書で依頼する際に注意を払っている点につ
いて質問した。
全体の平均値は「依頼先は正しいか(3.41・3.43)」「仕事の目的が明確化さ
れているか(3.40・3.42)」「期限は記載されているか(3.30・3.36)」であっ
た。これらの項目はすべて、一般的な社内文書の書式作成上の注意すべき事柄
である。本来、秘書業務遂行の際に気をつけねばならない「誰の命令であるか
(3.25・3.24)」についても、「かなり気をつけている」ことがわかる。「責任
範囲について(2.78・2.85)」は、他の項目に比べると平均値は低い。
自身の職務効率感についてや、部署全体の職務効率感についても同様で、定
義されている事項に関しての職務効率感は高かった。
25
秘書業務の経験年数別に見ると、上記同様の順であるが、経験年数が8年以
上の秘書は平均値が全体的に高く、標準偏差値も低いため全体としてのばらつ
きも少なかった。
秘書部門の規模(人数)別でも同様で、規模別の差異は認められなかった。
4.2. 口頭表現に関する調査報告と考察
(1)効率的な口語表現のための注意点
適切かつ効果的な口頭表現のために心がけていることを6項目掲げて、「心
がけていない」を「1」、「少し心がけている」を「2」、「かなり心がけている」
を「3」、「とても心がけている」を「4」、の4件法で質問した。
平均値が特に高かったのは、「敬語を用いる(3.49・3.47)」と「簡潔に話す
(3.42・3.39)」であった。
秘書業務の経験年数別に見ると、経験年数が4年未満や、経験年数が4年以
上8年未満の秘書は 、「敬語を用いる」ことを最も意識しているようだが、経
験年数が8年以上の秘書達は、おそらく敬語に関しては自然と身に着いたもの
となっており、敬語よりも「簡潔に話す」ことに重きを置いている。
自身の職務効率感については、「簡潔に話す(3.63・3.60)」ことが秘書自身
の職務効率感としては最も高いのに対して、部署全体の職務効率感を見ると、
「敬語を用いる(3.59・3.55)」ことの方が職務効率感が高くなっている。
秘書部門の規模(人数)別では、人数の多少に関らず、「敬語を用いる」こ
とを一番心がけている。
(2)複数の上司からの依頼事項と注意点
ひとつの仕事に対して、複数の上司から異なる指示を受けたことがあるかを
尋ねた。「ある」と答えたのは54.6%であった。「ある」と答えた人を対象に、
上司に対して口頭で意見を述べる際に気をつけている点を6項目掲げて、「気
をつけていない」を「1」、
「少し気をつけている」を「2」、「かなり気をつけて
いる」を「3」、「とても気をつけている」を「4」、の4件法で質問した。
平均値は 、「簡潔に話す(3.30・3.29)」、「敬語を用いる(3.28・3.27)」の
順であった。第3位に「結論を先に話す(3.15・3.15)」ことになっており、
口頭表現(話しことば)の中の「わかりやすい話し方」の教育では、第1義に
結論を先に話すことを強調している(5) のだが、実際は異なるようである。
秘書業務の経験年数別に見ると、経験年数が4年未満の秘書や4年以上8年
未満の秘書は 、「簡潔に話す」ことに最も気をつけている。しかし、8年以上
の秘書達は上司に対して口頭で意見を述べる際には「敬語を用いる」ことを最
も意識しているようである。
自身の職務効率感については 、「簡潔に話す」ことや「敬語を用いる」こと
26
の順に効率感が高く、部署全体の職務効率感についても同様である。
秘書部門の規模(人数)別では、規模が5人以下の秘書部門の秘書と、10人
以上の秘書は「敬語を用いる」ことに平均値が高く、5人以上9人以下の秘書
部門の秘書は、「簡潔に話す」ことに効率感が高い。
(3)秘書課以外からの依頼事項について
ひとつの仕事に対して、複数の課から異なる依頼を受けたことがあるかを尋
ねた。「ある」と答えたのは33.3%であった。「ある」と答えた人を対象に、先
方に口頭で意見を述べる際に気をつけていることを6項目掲げ、(2)と同様に
4件法で質問した。平均値が特に高かったのは、
「敬語を用いる(3.21・3.22)」
ほうが「簡潔に話す(3.13・3.10)」であった。
秘書業務の経験年数別に見ても、上記と同じ結果である。
自身の職務効率感についてや、部署全体の職務効率感についても、「敬語を
用い」たり「簡潔に話す」ことに対して効率感が高い。
秘書部門の規模(人数)別の中で、規模が5人以下の秘書部門の秘書のうち、
「ある」と答えた人の項目で、「敬語を用いる」の次に「検討の経過に重点を
置く」が来ている。5人以上9人以下の秘書部門の秘書や、10人以上の秘書部
門の秘書は上記同様 、「敬語を用い」たり「簡潔に話す」に気をつけている。
(4)上司に意見を述べる際の注意点
上司に反対の考えを口頭で伝える場合に重視している点について6項目掲げ
て 、「重視していない」を「1」、「少し重視している」を「2」、「かなり重視し
ている」を「3」、「とても重視している」を「4」、の4件法で質問した。平均
値が最も高かったのは、「敬語を用いる(3.33・3.35)」で、次に「相手の目を
見て話す(3.14・3.14)」という項目であった。口頭表現(話しことば)に関
する質問の中で気をつける事項6項目中、「敬語を用いる」ことや「相手の目
を見て話す」ことの平均値は低かった。しかし、上司に反対意見を述べる設題
では、「簡潔に話す」ことや「結論を先に話す」ことよりも「相手の目を見て
話す」ことや「検討の経過に重点を置く」ことの方が重視されている。
秘書業務の経験年数別に見ると、経験年数が4年以上8年未満や8年以上の
秘書達は 、「敬語を用い」たり「相手の目を見て話す」ことを重視している。
しかし、経験年数が4年未満の秘書は、
「敬語を用いる」の次に「簡潔に話す」
ことを重視している。これは、経験年数の長い秘書達が、反対意見を述べる場
合に受け入れやすい方法として「相手の目を見て話す」ことと経験的に学んで
いるものと推察できる。
自身の職務効率感についてや、部署全体の職務効率感については、全体の平
均値同様 、「敬語を用いる」ことや「相手の目を見て話す」ことに対する効率
27
感が高い。
秘書部門の規模(人数)別でも、人数の多少に関らず、「敬語を用いる」こ
とや「相手の目を見て話す」ことを重視している。
4.3. 電子メールについて
電子メールを業務上利用しているか否かを質問した。利用していると答えた
のは88.2%であった。その人達を対象に、4項目の事柄を掲げ、「まったくな
い」を「1」、
「1・2度ある」を「2」、
「数回ある」を「3」、
「何度もある」を「4」、
の4件法で質問した。どの項目も平均値が低く、電子メールの文章に対して不
快感を感じていなかった。
これは、電子メールを従来からある定型文書(ビジネス文書の社内文書の形
式)の形で送信しているものと推測する。筆者の先行論文 (6)や学会(7) では、定
型的でない文章を電子メールで送信・活用する際の実態や問題点が討論されて
いる。
5.おわりに
本稿では、秘書業務に関する全国調査の概要と国語表現に関する調査報告を
おこなった。
秘書達は各人が秘書になるために基本的な国語表現力を身につけている。し
かし、情報化の波やビジネス環境の変化によって、より効率的な業務のあり方
を秘書担当部門として検討していくことが求められている。
一方、OA化により業務の処理方法を効率的にするあまり、対人関係が希薄
になりつつあるのではないかと危惧する。円滑なコミュニケーションを保ちつ
つ、業務を効率的に進めるための新しい国語表現というものが必要であると考
えられる。
新しい国語表現のひとつとして、従来の「書きことば」「話しことば」に加
えて、「新しい形の書きことば」である電子メールの表現方法について今後研
究を深めていきたい。
謝辞
本調査に快くご協力くださいました各企業の秘書部門の責任者ならびに秘書
の皆様に対し、深く感謝いたします。
本研究は、静岡県立大学短期大学部平成9・10年度特別研究助成(研究代表
者・中村健壽氏)による助成を受けたものであります。
本研究における調査は、筆者のほか、企業秘書研究会のメンバーである中村
健壽氏(静岡県立大学短期大学部)を筆頭に、内山伊知郎氏(同志社大学文学
部)、安田英理佳氏(静岡県立大学短期大学部)、福岡欣治氏(静岡県立大学短
28
期大学部)、一柳達幸氏(一宮女子短期大学)、柴山正氏(名古屋女子大学短期
大学部)、石川雅健氏(名古屋女子文化短期大学)、國田千恵子氏(金沢女子短
期大学)、余語真夫氏(同志社大学文学部)、加藤宏美氏(静岡県立大学短期大
学部)との共同作業としておこなわれました。
【注】
(1)江口真里「女性秘書についての実態調査−北海道内事業所の調査を通して
−」『静修短期大学紀要7』1976 P.95∼99、吉田寛治「短期大学における
秘書教育−金沢市およびその周辺地区における企業の秘書実態調査を中心
として− 」『学葉21』1979 P.56∼67、白川智洋「秘書職の現状と秘書教育
−秘書職の実態調査を中心として−」『秘書教育研究年報6』1981 P.157∼
169、浅川修二「秘書の実態調査−札幌市内の企業を中心として− 」『秘書
学論集1』1983 P.46∼57、北潟克輔「北陸三県における秘書の実態とその
展望 」『秘書教育研究年報8』1983 P.67∼86、島本みどり「秘書の実態Ⅱ
−職能−その1−秘書部門 」『秘書学論集1』1983 P.58∼81、島本みどり
「秘書の実態Ⅱ−職能−その2−他部門」
『秘書学論集2』1984 P.57∼81、
島本みどり「名古屋地方の秘書−第二回秘書の実態調査から」
『秘書学論集
3』1985 P.61∼80、石田 子他「秘書の実態調査−京都市及びその周辺の
企業を中心に−」『秘書学論集4』1986 P.27∼42、釆女節子他「松山市に
おける女性雇用者の実態と秘書教育 」『秘書学論集5』1987 P.39∼52、服
部美樹子「短期大学における秘書教育についての一考察−日本企業に働く
秘書の業務分析から− 」『梅花短期大学紀要37』1988 P.207∼220、井原信
允他「女性秘書の業務とその限界について−大阪市企業調査−」『秘書学論
集7』1989 P.25∼41、中村健壽「秘書職に関する実態調査−浜松市を中心
として−」『秘書学研究創刊号』1990 P.1∼13、島本みどり「日本の企業秘
書−第三回秘書実態調査から− 」『秘書学論集13』1995 P.41∼62、など。
(2)「企業秘書研究会」とは、静岡県立大学より研究助成を賜り、中村健壽氏
(静岡県立大学短期大学部)を筆頭に、安田英理佳氏(同上)
、福岡欣治氏
(同上)、加藤宏美氏(同上)、内山伊知郎氏(同志社大学文学部)、柴山正
氏(名古屋女子大学短期大学部 )、一柳達幸氏(一宮女子短期大学 )、石川
雅健氏(名古屋女子文化短期大学)、國田千恵子氏(金沢女子短期大学)、余
語真夫氏(同志社大学文学部)、そして筆者をメンバーとする研究会である。
(3)中村健壽他「秘書業務の効率化に関する研究」(1996年度日本ビジネス実務
学会中部ブロック研究会)1996、平田祐子他「秘書業務遂行の効率化に関
する諸要因の研究−予備的検討−」『平成7・8年度静岡県立大学短期大学
部特別研究報告書』1997 P.31∼42、福岡欣治他「秘書業務の効率化に関す
る諸要因の研究」(日本ビジネス実務学会第16回全国大会)1997、平田祐子
29
他「秘書業務効率化に関する研究」『秘書学研究第6号』1998 P.1∼42、平
田祐子他「秘書業務遂行の効率化に関する諸要因の研究−全国調査の概要
−」『平成9・10年度静岡県立大学短期大学部特別研究報告書』1999 P.123
∼158、中村健壽他「秘書における仕事の効率感とその関連要因−中部地区
企業への調査にもとづく検討」『秘書学研究第7号』1999 P.1∼26、柴山正
他「秘書業務の効率化に関する諸要因の研究−経営組織と秘書との関わり
を中心に−」(日本ビジネス実務学会第18回全国大会)1999
(4)調査の実施方法に関しては 、『秘書学研究』第7号 1999 P.15∼26に詳述
しているため、ここでは抜粋して要約する。
(5)大窪久代、平田祐子共著『国語表現法』近畿大学通信教育部、1996 P.58∼61
(6)平田祐子「電子メールにおける国語表現法」近畿大学短大論集第31巻、1999
P.45∼55
(7)日本ビジネス実務学会第18回全国大会、1999大島武他「ビジネスにおける
電子メール利用の実態と意識」、平田祐子「ビジネス実務における国語表現
−社内での電子メール利用方法と問題点−」
(『近畿大学短大論集』第32巻所収をもとに作成)
30
秘書業務の効率化と心理的資質の関連について
國
内
柴
平
井
加
田
山
山
田
上
藤
千恵子
伊知郎
正
祐 子
英理佳
宏 美
中
一
石
余
福
村
柳
川
語
岡
健
達
雅
真
欣
1)
壽
幸
健
夫
治
1.問題と目的
近年の企業をとりまくビジネス環境の急激な変化は目をみはるばかりであ
る。経済構造の変化、またインターネットに代表される情報化の進展に伴うオ
フィスワークの質的な変化等は、企業の秘書部門(秘書課、秘書室等)および
個々の秘書業務のあり方にも大きな影響を及ぼしていると思われる。
そのようななか、わが国企業の秘書課・秘書室体制および秘書業務の内容に
ついては以前からいくつかの論考や実態調査がおこなわれてきたが、秘書担当
部門および秘書業務の効率性、効率化といった問題は、これまで直接には検討
されてこなかった。しかし、企業等組織体における秘書の役割が組織の経営管
理者層を補佐しその円滑な業務遂行ひいては組織全体の効率的運営を支援する
ことにあるとすれば、そのための秘書担当部門および秘書業務それ自体の効率
性、効率感をも問われるべきではないかと思われる。
そこでわれわれは、秘書学をはじめ経営学、心理学、情報処理、国語表現等
を含む学際的な立場から秘書業務の効率化に寄与する要因を探る研究に着手し
てきた。具体的には、中部地区企業への調査(1996年)に引き続き、1998年秋
には全国規模の郵送調査を実施し、各企業の秘書担当部門の責任者とそこで勤
務する秘書課員の双方から回答を得て、秘書部門および秘書業務の効率性に関
連する問題を、個人レベルのみならず組織レベルでも把握することを試みた。
われわれはすでに、その調査の概要ならびに内容別の結果を順次報告してき
ている2 ) 。本報告はその一貫であり、今回は秘書の心理的資質ないし性格特徴
に焦点をあて、秘書業務の効率性との関連性を探ることとする。
なお本研究では、業務の効率性を主観的効率感すなわち効率性の自己評価か
らとらえる。効率感は効率性それ自体ではないが、効率的でないと感じられる
職場において効率的な業務がおこなわれているとは考えにくい。その意味で、
われわれは主観的な効率感が業務の効率性を反映する指標としての意味を持ち
31
うると判断している。
2.調査の概要
詳細は他稿3 ) で報告済みのため、ここでは本研究での分析に直接関係する部
分のみを記す。
2-1.調査対象
『会社四季報』98年3集(夏期号)より経営規模を勘案して資本金130億円
以上の企業計698社(一部上場667社、二部上場16社、店頭公開・店頭登録計15
社)を選定し、各企業における秘書担当部門の責任者、およびそこで勤務する
秘書課員の双方を調査対象者とした。
2-2.調査内容
調査内容は経営学、心理学、情報処理、国語表現等を含む多岐にわたるもの
であったが本研究では特に「秘書部門の業務における効率性の評価」および「秘
書としての心理的資質」に関する回答を分析した。なお、前者については責任
者には秘書担当部門全体としての業務効率感、秘書課員には秘書部門と自分自
身の業務効率感をぞれぞれ4段階(1.そう思わない∼4.とてもそう思う)で回
答させた。また後者については、責任者には20種類の心理的資質をそれぞれ秘
書課員にどの程度求めるか(:期待 )、秘書課員には自分自身がそれらの資質
をどの程度持っていると思うか(:自己評価)を回答させた(表1参照)。
2-3.実施方法
各企業における秘書担当部門の責任者宛に責任者用の調査票1部と秘書課員
用の調査票3部を送付した。回答は、責任者用は本人、秘書課員用は可能な限
り勤務年数が2年以上の秘書課員がそれぞれ無記名でおこなうよう依頼した。
実施時期は1998年10月であった。有効回答が得られたのは責任者123社123名、
秘書課員125社263名であり、双方から回答が得られたのは98社(責任者98名、
秘書214名)であった。本稿ではそのうち心理的資質の全項目に欠損値のない
データを分析対象とした。
3.結 果
3-1.心理的資質の構造と特徴:因子分析と平均値の比較
最初に、本研究で用いた心理的資質の20項目がどのような要素からなってい
るのかを明らかにするため、因子分析(主成分解、プロマックス回転)をおこ
なった。
32
表1
「秘書としての心理的資質」に関する質問内容
<責任者への教示文>
あなたは、秘書部門の責任者として、どのような秘書を求めていますか?
以下の項目1)∼ 20)があな
たの「求める秘書の特徴」にどの程度あてはまるか、それぞれ1つずつ数字に○印をつけてください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<秘書課員への教示文>
あなた自身のことについておたずねします。それぞれ、あてはまるものを1つ選び、数字に○印をつけ
てください。
(中略)
以下の特徴は、あなた自身にどの程度あてはまりますか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<選択肢と項目(共通)>
あ
て
は
ま
ら
な
い
や
や
あ
て
は
ま
る
か
な
り
あ
て
は
ま
る
↓ ↓ ↓
と
て
も
あ
て
は
ま
る
↓
あ
て
は
ま
ら
な
い
や
や
あ
て
は
ま
る
↓
か
な
り
あ
て
は
ま
る
↓
と
て
も
あ
て
は
ま
る
↓
↓
1) 積極的である -------- 1
2
3
4
11) 社交的である ---- 1
2
3
4
2) 責任感がある -------- 1
2
3
4
12) 柔軟性がある ---- 1
2
3
4
3) 協調性がある -------- 1
2
3
4
13) 創造性がある ---- 1
2
3
4
4) 慎重である ---------- 1
2
3
4
14) 明朗である ------ 1
2
3
4
5) 自主性がある -------- 1
2
3
4
15) 先見性がある ---- 1
2
3
4
6) 自己コントロールができる -- 1
2
3
4
16) 謙虚である ------ 1
2
3
4
7) 従順である ---------- 1
2
3
4
17) 行動力がある ---- 1
2
3
4
8) チャレンジ精神がある ---- 1
2
3
4
18) 思いやりがある -- 1
2
3
4
9) 表現力がある -------- 1
2
3
4
19) 愛嬌がある ------ 1
2
3
4
10) 几帳面である -------- 1
2
3
4
20) 誠実である ------ 1
2
3
4
責任者と秘書課員の別に分析したところ、固有値1以上の因子は前者では5
つ、後者では4つ見出されたが、因子構造が最も明瞭であったのはともに2因
子解であり、累積寄与率も2因子で45%を上回っていた。また2因子構造は責
任者と秘書課員で実質的に同等であった。そこで責任者と秘書課員のデータを
合わせて再度因子分析をおこない、因子負荷量が低く因子所属が不明瞭であっ
た2項目(12.柔軟性、19.愛嬌)を除き、18項目による2因子解を採用した。
33
各因子を構成する項目は表2に示すとおりであり、第1因子は「積極性」、第
2因子は「堅実性」を表すものと解釈した。なお因子間相関は0.40であった。
表2
因子1
心理的資質の2因子を構成する項目内容
チャレンジ精神がある、積極的である、行動力がある、表現力がある、
(積極性)
自主性がある、創造性がある、社交的である、明朗である、先見性がある
因子2
謙虚である、慎重である、誠実である、協調性がある、思いやりがある、
(堅実性)
責任感がある、几帳面である、従順である、自己コントロールができる
注:項目の配列は、因子負荷量の高い順による
続いて、秘書課員の自己評価、および責任者の期待による心理的資質につい
て、「積極性」「堅実性」の2因子をそれぞれ構成する項目の評定平均値を算出
した(表3)。被験者(秘書課員・責任者)×資質(積極性・堅実性)の分散
分析では両要因の主効果が有意であり、表3からも明らかなように、責任者の
期待は秘書課員の自己評価を上回っており、また積極性よりも堅実性の方が自
己評価でも期待でも高得点であった。
表3
秘書課員の自己評価と責任者の期待による心理的資質の平均値
積極性
得点内容
N
堅実性
平均
SD
平均
SD
秘書課員の自己評価
265
2.50
0.57
2.81
0.50
責任者の期待
112
3.09
0.50
3.38
0.40
3-2.秘書課員による心理的資質の自己評価と業務効率感との関係
秘書課員による心理的資質の2因子と秘書部門および自分自身の業務の効率
感との関係を検討した。心理的資質については「積極性」「堅実性」の因子に
該当する項目への評定平均値を算出した。効率感については、秘書部門・自分
自身とも「効率よくできているか」との問いに対して「4.とてもそう思う」と
いう回答が極めて少数であったため、「1.そう思わない(効率感:低)」「2.やや
そう思う(効率感:中)」
「3.かなりそう思う+4.とてもそう思う(効率感:高)」
の3群に回答者を分類した。そして、これら効率感の3群で心理的資質の得点
34
が異なるかどうかを調べた。効率感の高い群で「積極性」や「堅実性」の得点
が有意に高ければ、これらの資質を豊富にもつ秘書ほど効率的に業務が遂行で
きていると感じていることになる。秘書部門ないし自分自身の効率感(3群)
×資質(積極性・堅実性)の2要因分散分析の結果はともに両要因の主効果が
0.1%水準と顕著に有意であり(;前者では交互作用も5%水準で有意)、概し
て業務効率感が高いほど心理的資質としての積極性や堅実性が高かった(表
4)。
表4
秘書課員における業務効率感の3群別にみた心理的資質の自己評価
積極性
業務効率感
群
N
堅実性
平均
SD
平均
SD
秘書部門の効率感
低
40
2.36
0.59
2.70
0.53
(秘書課員の評定)
中
144
2.43
0.53
2.78
0.48
高
70
2.69
0.58
2.90
0.50
低
29
2.09
0.62
2.69
0.54
(秘書課員の評定) 中
126
2.39
0.53
2.73
0.49
高
99
2.74
0.49
2.93
0.47
自分自身の効率感
3-3.秘書課員による心理的資質の自己評価と、責任者の評定による業務効率感
との関係
秘書課員の心理的資質が責任者の評定による秘書部門の業務効率感に及ぼす
影響を検討した。この分析において、複数の秘書から回答が得られた企業の場
合には、経験年数、年齢、性別から代表的と思われる秘書を1名抽出し、責任
者の回答と対応づけられるようにした。業務効率感については 、「1.そう思わ
ない」および「4.とてもそう思う」という回答が少数であったため、秘書課員
による評定の場合とは異なり「1.そう思わない+2.ややそう思う(効率感:低)」
「3.かなりそう思う+4.とてもそう思う(効率感:高)」の2群に分類した。そ
して、これら効率感の高低による秘書課員の心理的資質の自己評価の違いを調
べた。効率感(高・低)×資質(積極性・堅実性)の2要因分散分析の結果、
効率感の主効果は有意でなかったが10%水準での交互作用があり、責任者の評
価による部署の効率感が高い群では秘書課員の自己評価による「堅実性」が高
い傾向が認められた(表5)。
35
表5
責任者における業務効率感の高低別にみた秘書課員による心理的資質の自己評価
積極性
業務効率感
群
N
堅実性
平均
SD
平均
SD
秘書部門の効率感
低
39
2.55
0.55
2.69
0.45
(責任者の評定)
高
57
2.47
0.50
2.84
0.55
3-4.心理的資質に関する責任者の期待と秘書課員の自己評価とのズレによる影
響
表3の結果からも明らかなように、心理的資質に関する責任者の期待と秘書
課員の自己評価の間にはズレがある。これは責任者が現状よりも高いレベルで
の積極性や堅実性を望んでいることを示唆するが、このズレが過度に大きけれ
ば、すなわち責任者が望むような心理的資質を秘書課員自身が持っていない度
合いがあまりに大きければ、円滑な業務遂行に支障をきたし効率感が低下する
のではないかと推測される。そこで、前項と同じく各企業の責任者と秘書1名
を対応させ、秘書課員および責任者による業務効率感のレベルによって心理的
資質に関する責任者−秘書課員のズレが異なるかどうかを調べるため、部署な
いし秘書課員自身の効率感×心理的資質のズレ(積極性・堅実性)による2要
因分散分析をおこなった。なお秘書課員の評定による効率感は、責任者と対応
可能な企業数では部署・自分自身とも「1.そう思わない」の群が少数となるた
め、責任者の場合と同じく「1.そう思わない+2.ややそう思う(効率感:低)」
「3.かなりそう思う+4.とてもそう思う(効率感:高)」の高低2群とした。
その結果、秘書課員の評定による秘書部門の業務効率感については10%水準
ながら効率感の主効果がみられ、効率感が高いほど積極性や堅実性におけるズ
レが小さかった。秘書課員の自分自身の業務効率感については交互作用が有意
であり、
「積極性」で効率感が高いほど責任者と秘書課員のズレが小さかった。
責任者の評定による秘書部門の業務効率感については、交互作用が10%水準で
みられた。ところがこの交互作用は 、「積極性」において効率感が高いほど責
任者と秘書課員のズレがむしろ大きくなっていることを意味するものであった
(以上表6を参照)
。
36
表6
業務効率感の高低別にみた、心理的資質に関する
責任者の期待と秘書課員の自己評価とのズレ
積極性のズレ
業務効率感
群
N
堅実性のズレ
平均
SD
平均
SD
秘書部門の効率感
低
62
0.69
0.75
0.60
0.66
(秘書課員の評定)
高
27
0.40
0.40
0.48
0.63
自分自身の効率感
低
52
0.75
0.64
0.57
0.67
(秘書課員の評定) 高
37
0.40
0.68
0.57
0.63
秘書部門の効率感
低
35
0.44
0.75
0.58
0.66
(責任者の評定)
高
53
0.70
0.62
0.55
0.68
表6最下段に示した責任者の評定による秘書部門の効率感に関する結果は、
心理的資質に関する秘書課員と責任者のズレが大きいと効率感が高いというも
のであり、一見すると常識に反しているようにも思われる。ところで、秘書課
員の自己評定と責任者の期待とのズレは、自己評定が低くても期待が高くても
大きくなる。すでに表5の分析で責任者の評定による効率感の高低によって秘
書課員の心理的資質の自己評定に顕著な差がないことが示されている。従って、
心理的資質に関する秘書課員と責任者のズレが効率感の高い群で大きいこと
は、責任者がより高い資質を秘書課員に求めているために生じている可能性が
ある。そこで、責任者の評定による効率感(高低2群)×資質(積極性・堅実
性)の2要因分散分析により、効率感の高低によって心理的資質に関する責任
者の期待度が異なるかどうかを調べた。その結果、効率感の主効果が有意であ
り、表7に示すとおり、責任者の評定による秘書部門の効率感が高い群では、
責任者が秘書課員により高い心理的資質を求めていることが明らかになった。
表7
責任者における業務効率感の高低別にみた責任者による心理的資質の期待
積極性
業務効率感
群
N
堅実性
平均
SD
平均
SD
秘書部門の効率感
低
36
2.99
0.55
3.31
0.42
(責任者の評定)
高
53
3.20
0.42
3.45
0.36
37
4.まとめと考察
本研究における一連の分析結果は、以下のようにまとめることができよう。
①秘書の心理的資質は「積極性」「堅実性」の2側面から把握し得る。より
細分化した把握も考えられるが、因子分析の結果は、これら2つが主要な要素
であることを示唆する。
②心理的資質に関する秘書部門の責任者による期待は、秘書課員が現在持っ
ていると自己評価するレベルを上回っている。積極性と堅実性の比較では後者
の得点が高いが、責任者の期待が秘書課員の現状を上回ることは、積極性と堅
実性の双方に共通している。
③秘書課員の心理的資質は、秘書課員自身が認知する業務効率感と関連する 。
積極性や堅実性の自己評価が高い秘書は、自分自身でも秘書部門全体でも業務
が効率よくできていると認知している。
④責任者の評定による秘書部門の業務効率感は、秘書課員が心理的資質とし
ての堅実性を豊富にもつほど高まるようである。しかし秘書課員の積極性が責
任者の認知する秘書部門の効率感を高めるという証拠はない。
⑤心理的資質に関する責任者の期待と秘書課員の自己認知、とりわけ積極性
についてのズレが小さいことは、秘書課員の認知する業務効率感を高める傾向
にある。ところが、責任者の認知する業務効率感は、逆に積極性についてのズ
レが大きいほど高い傾向にある。
⑥責任者の認知する業務効率感が高いほど積極性についての秘書課員の自己
評定と責任者の期待とのズレが大きいという現象は、秘書部門の業務が効率的
にできていると認知する責任者が秘書課員に高い積極性を求めていることによ
って生じている。
以上の結果は、心理的資質としての積極性や堅実性が高く結果として責任者
の期待に近いレベルの心理的資質を持つ秘書ほど業務効率感が高いこと、そし
て責任者が秘書に対して堅実性とともに積極性をも求めている場合に秘書部門
の業務効率感が高まることを示している。今後の秘書教育および秘書実務のあ
り方について、示唆的な知見が得られたといえよう。
【注】
1)
本研究の遂行にあたり、平成9∼12年度の静岡県立大学短期大学部特別研究
2)
助成(研究代表者:中村健壽)の補助を受けた。
福岡・中村他「経営組織における秘書業務の現状と問題点 」(1998年度日本
ビジネス実務学会中部ブロック研究会)1998、中村他「秘書業務の効率化に
関する諸要因の研究―全国調査の概要―」1999、柴山・一柳他「秘書業務の
38
効率化に関する諸要因の研究―経営組織と秘書との関わりを中心に―」1999、
平田他「秘書業務の効率化に関する諸要因の研究(Ⅱ)―国語表現の分析―」
1999
3)
中村他「秘書業務の効率化に関する諸要因の研究―全国調査の概要―」1999
(日本ビジネス実務学会・中部ブロック研究会「発表要旨集」(2001年1月)
にもとづく)