野鳥の学校通信2016年5月15日

野鳥の学校通信20160515
リンク機構を用いた平行回転翼のピッチング機構の研究
土屋隆徳
5月は、翼輪のピッチング制御機構の可能性を検証することにしています。米国のバークレ
ー大学が空軍技術研究所とのタイアップで飛行可能な MAV を開発していました。2013年に
発行されていた研究論文の試作機には、極めてシンプルな新しいピッチング制御機構が採用さ
れていました。
http://mav.sagepub.com/content/5/2/145.full.pdf#search='Design%2C+Development%2C+an
d+Flight+Test+of+a+SmallScale+Cyclogyro+UAV+Utilizing+a+Novel'
一方、古典的な翼輪のピッチング制御機構については、下記の、1,970 年に発行された米国
防省のサマリーの中の、P.105~P.122、および、P.233~P.239 に、当時、本命とされていた機
構の原理が詳しく説明されていました。
http://www.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/857462.pdf#search='857462+summary+report+fo
r+horizontal+axis+roter+wing+vehicle'
最近のMAVの試作機では、新しいピッチング制御機構が次のように設計されていました。
・ 図6、図7に示すように、遠心力を利用して円周状のカムフォームにローラーアームを内
面から押付けてトレースして、回転翼に周期的なピッチング運動を発生させています。
・ 図4に示すように、用いるべきカムフォームは、 (a)Curtate (μ=0), (b)Cycloid (μ=1),
(c) Prolate (μ=2)の3種類を用意し、それらをピッチング運動モードによって切り替える設
計にしています。これらの3種類のカムフォームを滑らかに深さ方向で変化させて重ねて一体
化したカムにしています。
・ このカムフォームをローラーアームで深さを変えて拾うことにより3種類のピッチング運
動モードを連続的に変化させられる設計としています。
・ そして、今回の試作機では、MAVに限定して、図10に示すように、(a)Curtate (μ=0)用
のカムフォームのみを、図14、図15に示す機構によってX方向とY方向に割り出すことに
よって、推力の発生方向を上方から前方または後方に滑らかに変えられるようにしています。
注目すべきことには、国防省サマリー、P.116、に示すスライドリンク付き3節リンクの巧
妙な機構原理の罠から解き放されて、成形偏心カムを採用しています。しかし、実際には、MAV
専用には(a)Curtate (μ=0)のみで良しと割り切っていながら、3種類のピッチング運動モー
ドを切り替えるアイデアからは解放されていないようです。実際に鳥の飛行術には、
(a)Curtate (μ=0)と (b)Cycloid (μ=1) は無く、(c) Prolate (μ=2)しか無いのです。
(a)Curtate (μ=0)を選定した MAV 専用の原理では、飛行速度が上がらないため、滑空やオ
ートローテーションが難しく、エンジンストール時には、パラシュート効果でしか落下できな
いので、有人飛行や市街地上空での貨物輸送飛行には向かないでしょう。しかし、無人・軽量・
軽作業用に限定すれば商品開発の可能性は広く残されているでしょう。
私の平行回転翼の発明は、知らなかったこととは言え、(c) Prolate (μ=2)のみで、ヒバリ
のようにホバリングもできる機構を発明し、提案しています。歯車機構を使ったため一見複雑
で難しい機構に見えますが、本人に言わせれば、これ程、単純明解なアイデアは無いのです。
しかし、機構学の原理では歯車機構はリンク機構に置き換えられる筈なので、10年前に発明
に着手した時から、リンク機構への置き換えを念頭において研究は進めてきていました。昨年、
一連の発明の3件目の特許が取得できたのを機に、改めて、リンク機構の研究に着手しました
が、現在、その可能性が見えてきて、原理試作を設計する段階に入りました。
研究テーマ;リンク機構を用いた平行回転翼のピッチング機構の開発
古い機構と新しい機構を比較すると、その目的は同じでも、機構の原理には大きな違いがあ
ります。新しい機構が古い機構より優れているのが明らかであれば古い機構は捨てられます。
しかし、原理図や原理模型で具体化を進めた時に、問題が発生して暗礁に乗り上げることも良
くあることなのでそれは危険です。成功する原理機構は、古い機構と新しい機構の間にあるこ
とが多いのですから。今は、新しい機構の提案理由を考察しながら、未成功の古い機構の弱点
を克服する機構を検討して試作設計を進めています。
私の発明は、既存の歯車とカム&ローラーの技術を応用した具体化できる機構としているた
め複雑に見えますが、単純な原理の組み合わせに過ぎません。米国の古い機構は、一つの機構
でローピッチ(ホバリング)~パイピッチ~ハイピッチ(平行回転)へと翼輪のピッチングモ
ードを切り替える機構にしていますが、実用的には、モード切り替えには成功していないよう
です。私の発明は、ハイピッチ(平行回転)モード専用として、ヒバリのように、ハイピッチ
モードのままで空中停止ができるようにしています。歯車を用いた機構の発明を進めながらも、
この10年、リンク機構化の検討も続けてきました。今は、その可能性が見えてきた段階です
が、機構は歯車機構と比べて大分簡単にはなりましたが、それでも、米国の古い機構よりは少
し複雑になってきています。
翼輪と翼輪飛行機の研究は、1930年代から戦後のベトナム戦争に掛けて米国で大変精力
的に遂行されてきました。50年前に研究を打ち切り、棚上げされてきたテーマなので、その
内容の調査は容易ではありません。私の今の試作設計構想は当時の発明の追発明に過ぎないの
かも知れません。また特許要件の新規性の観点から見ると、私のアイデアは、むしろ、後退し
たアイデアになるのかも知れません。しかし、退化の決断で実用性の壁が乗り越えられるなら、
それこそがチャレンジすべき試作設計と言えるかも知れません。
必要性と実用性が極めて高い設計アイデアであれば、いっそのこと、公開しながら試作研究
を進めるのが良いのかも知れません。試作研究の内容を積極的にインターネットで公開してゆ
けば、興味を覚えた人が、自分の発明の参考にしてくれるかもしれません。
リンク機構を用いた平行回転翼のピッチング機構の開発をテーマとする場合は、翼輪研究会
の活動は、開かれたものにしてゆくのが良いのかもしれません。全国の何処で、誰に、何時、
新しい翼輪研究会を立ち上げてもらっても構わないのです。多くの研究会ができれば、お互い
に協力もし合えるでしょう。翼輪技術は100年の歴史を持ちながらも実用化できなかったタ
ブーのテーマとされてきました。しかし、このテーマは人類の悲願でもあり、機が熟するとい
うこともあるので、突破口が見つかれば大ブレークする可能性は否定できないでしょう。
誰かが、商品化や事業化を狙った応用商品開発を企画したら、その段階から、プロジェクト
を立ち上げて独立してもらい、そのメンバーに商品開発段階の発明で特許を取っていってもら
えば良いのです。研究会で勉強と研究を重ねた人材は、そのようなプロジェクトにおいて重要
な役割を果たしてくれることでしょう。
翼輪を応用した有人飛行機は、100年前とは違い、安全性・信頼性・公共性は元より、全
ての商品性と社会性を、将来を見据えて満足させるまで技術開発を進めないと発売は許されま
せん。出願から20年の特許の権利期間も、現代社会での新商品開発にとっては高過ぎるハー
ドルなのかもしれません。新技術/新商品には既存の商品に勝る卓越した商品性と社会性が求
められます。現代および将来を考える企業が、翼輪技術の研究を避けるべき道とするのは当然
なのかも知れません。そんな閉塞感を感じながらもこの発明を諦める分けにはいきません。