ビジョン、レガシー及びコミュニケーション

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ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
Vision, legacy and communication
生涯に一度の最高の経験で、オリンピック・ムーブメントへの
100年レガシーを世界に披瀝する大会
− 東京オリンピック・パラリンピック
Tokyo 2016 - The experience of a lifetime;
a 100-year legacy for the Olympic Movement
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TOKYO 2016 Vol.1 Theme 1
TOKYO 2016 Vol.1 Theme 1
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ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
A - ビジョン
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1.2 貴都市/地域の2016年オリンピック競技大会についてのビジョンは何か、記述してください。また、このビジョンが大会組織
委員会の設置期間中にすべての計画にどのように統合されることとなっているか答えてください。
1.1 貴都市がオリンピック競技大会の開催を希望する主な動機は何ですか、答えてください。
オリンピック開催を通じ、都市と人間を再生
東京がオリンピック・パラリンピック競技大会の開催を望む理由
は、大 会が、東京、そして日本のターニング・ポイントを導く重要な
触媒としての役割を果たすことを確信するからである。
世界最大 規 模の都市である東京は、いち早く様々な地 球的課題
が顕在化し、変化や変革の時期を迎えている。
第一に、東京は活力、効率、繁栄の都市から持続可能な都市、とり
わけ自然環境と調和した都市へと変化を遂げなければならない。
第二に、急速に高齢化が進むとともに、人々のつながりが薄れつ
つある社会から、再び活力に満ち、明るい自信にあふれた、価値あ
る社会へと変化を遂げなければならない。
私たちの動機は、
「 東京は日本が、そして世界のすべてが直面して
いる危機を率直に認め、オリンピック競技 大会の開催を通じ、都市
と人間を再生することによって、新しい連帯を生み、これらの危機を
克服したい」という明快なものである。
東京は、社会の変革をもたらすオリンピックの力について、十 分
承知している。1964年東京大会を契機に、日本は国際社会の重要
な一員として、平和国家として確固たる地位を築いた。オリンピック
は第二次世界大戦後の社会経済の復興をもたらしただけでなく、国
民の心を再び統合し、前向きにさせる新風を吹き込んだ。都市全体
が活気にあふれ、人々は皆スポーツに対する熱い思いを抱いて世界
を迎えた。
あれから約半世紀を経た今日、東京の牽引力によって日本経済は
おおいに発展し、十分すぎるほど都市化した社会は成熟度を増して
いる。東京は都市として繁栄しているが、市民一人ひとりの心に直接
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TOKYO 2016 Vol.1 Theme 1
訴え、社会を再活性化させるための明確な目標を必要としている。
2016年の東京大会は、国内及び世界の両方の社会、環境、経済面
におけるレガシーを明確に重視している。
オリンピズムの本質である美しい夢と大きな感動こそ、私たちが
今、最も必要としているものである。オリンピック競技 大 会でアス
リートが示す価値、すなわち努力、最善を尽くすこと、フェアである
こと、他者に対する尊敬、より大きなものへの帰属感、夢に向かうこ
と、と、オリンピズムが目指すもの、すなわち国際平和、調和、持続可
能 性、社 会正 義は、まさに 私 たちの未 来の社 会 が求めるものであ
る。
都市の中心で多様な価値を統合
- Uniting Our Worlds 2016年東京大会のビジョンは、最高水準のスポーツを軸として、
あらゆる価値を一つの都市の中心で融合し、統合することである。
湧き上がる喜びと永続的な価値を強固に結び 付ける2016年東
京大会は、都市、国、世界を祝福する人間の祝祭となる。それは、生
涯を通じて色あせない体 験となり、世代を超えて社会に影 響を与
え、変革を推進する原動力となる。
最高のスポーツ体験 - All in Athlete Focus -
クーベルタン男爵の理想は、スポーツをはじめとする様々な価値
を一つの人格の中に統合し、総体としての人間性の向上を達成する
ことであった。私たちが目指すものは、人間活動の最も目覚しい現
れである一つの都市の中に、オリンピックが象徴する様々な価値を
統合することである。
2016年東京大会は、あらゆる側面にアスリートの視点がいきわ
たった計画とすることにより、アスリート、観客の双方にとって最高
のスポーツ体験を実現する。そのための取 組を、私たちは既に開始
している。
2016年東京大会は、東京の中心部で開催する。オリンピックと
都市生活を完全に融合させることにより、すべての人々が参加を実
感する大 会となる。都市の中心部全体がオリンピック・パークとな
り、オリンピックの価値が隅々に浸透する。
2016年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会は、オリン
ピアン、パラリンピアンで構成するアスリート委員会を設置し、その
意見を最大限尊重して計画づくりに反映している。また、国際競技
連 盟 の 要 望を 実 現 することは 、私 たちが 最 も優 先 するところで
ある。
2016年東京大会は、世代を超え、伝統と現代、持続可能な自然と
都市環境、技術とクオリティー・オブ・ライフ、そして経済と社会を一
つにすることで、世界中の人々を結ぶことになる。
最高の施設と優れた大会運営、万全のサポート体制を私たちは提
供し、そのための取組を大会開催の数年前から開始する。場慣れす
るための訪日や競技会を皮切りに、開催直前のトレーニングや開催
期間中、そして開催後も継続する。
2008年北京大会の事前キャンプのため、30以上の国々の国内
オリンピック委員会が来日した。2016年東京大 会を控え、日本の
様々なコミュニティにおけるスポーツ資源は一層充実し、そのいず
れもがアスリートを心から歓迎する。どこの国であろうと、また規模
の大小に関わらず、私たちはすべてのチームに対して平等なアクセ
スとサポートを提供する。
アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる檜舞台を、まさに
都市の中心に設置すること、それこそが、2016年東京大会の最大
の特色である。
アスリートへの配慮は、世界一コンパクトな会場計画に具現化し
ている。選手たちは、水と緑にあふれた選手村を出発後、わずか4分
でメインスタジアムに、20分以内でほぼすべての競技施設に到着す
ることができる。ストレスのない 移動は、アスリートに最良のコン
ディションを約束する。
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ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
都市環境の再生 - Green Urbanism -
豊かな交流の舞台 - Meet the People -
東 京 都 は 2 0 0 6 年に 、より機 能 的 で 魅 力 的な東 京の 未 来 像を
示す長期的な都市戦略「10年後の東京」を策定した。それはトータル
な戦略で、実に幅広い内容を含んでいる。その最 優先事項は、東京
を低カーボンで緑あふれる持続可能な都市に再生することである。
2016年東京大会は、様々な都市活動、地元コミュニティの中心で
行われる、アスリートと人々とが最も密接に結び 付いたオリンピッ
クである。日本人独特のホスピタリティでアスリートたちを歓迎し、
心からのもてなしを提 供するとともに、熱狂的な声援をおくるだろ
う。それは、アスリートを勇気づけ、最高のパフォーマンスを引き出
すに違いない。
東京都は、2020年までにカーボン排出を2000年比で25%削
減する取 組をすでに開始した。2016年東京大会は、世界初のカー
ボンマイナスオリンピックに挑戦する。
競技コンディションを支えるのは、第一に清浄な大気である。東
京の大気は、これほどの大都市であるにも関わらず、従来の努力の
結果、他都市に比べて非常に良好な水準にある。オリンピックの偉
大な力は、都市の挑戦を勇気づけ、大気の状 態はさらに良くなるだ
ろう。
私たちの目標は、アスリートがゲームに臨む最高の環境を提供し、
同時にそれらがもたらす負荷を最小にすることである。東京が既に
備えている充実した都市基盤、卓越した運営能力、オリンピックと
いう後 押しを得て一層目覚しく発 展する技 術 革 新は、その両立を
可能にする。
東京には、古典的な伝統文化から先端的な若者文化まで、多様な
文化がある。美術館や博物館、コンサートホールなど、各クラスター
に隣接して、豊富な文化施設が集積している。アスリートたちは競技
の合間に、これらの施設に自由に出入りすることができる。
一方、各クラスター、選手村は、いずれも高級デパート、世界のブラ
ンドショップ、世界で最も多様でおいしい食事を提供するレストラン
などが集積する魅力的な繁華街と近接している。アスリートたちは、
世界で最も安全な都市で、ショッピングや食事を心ゆくまで楽しむ
ことができる。そこには、様々な人々との出会いが約束されている。
豊かな交流が沸騰点に達するのは、開催期間には少なくとも8箇
所設 置を予定しているライブサイトにおいてである。アスリートと
国内外の観客、チケットを持たない人々、地 域社会とはこの上なく
強固に結び 付き、2016 年大 会の開催都市に共にいることの喜び
は、最高潮を迎える。
東京ベイゾーンでは、東京はもとより、世界の様々な人々、あらゆ
る世代の幅 広い 参画を得て、
「 海の 森」事 業が 着々と進 んでいる。
1964年東京大会のレガシーを包む森は、いまや豊かな緑をたたえ
ている。今日植えた苗木は、子 供たちの時代に緑の枝葉を広げ、涼
しい木陰を与えてくれる。森が呼び込む海からの風は、東京をめぐ
るグリーンロード・ネットワークを経由して都市全体に広がり、気温
を冷ましてくれる。
ライブサイトでは、
「 2016年東京大会文化プログラム」に基づき、
オリンピックの興奮を一層高め陶酔を誘うスペクタクルな映 像や、
音楽、演劇、ダンス、ストリート・パフォーマンス、一般参加のスポー
ツイベントなどを楽しむことができる。
2016年東京大会は、都市の隅々にまで緑がいきわたり、快適な
アーバンライフと自然が共生する、持続可能な都市におけるオリン
ピックとなる。
興奮と感動に満ち、同時に安全、清潔、ホスピタリティにあふれる
東京のライブサイト体 験は、忘れ得ないものとなり、人々の相互理
解、ひいては世界平和にも貢献するものとなる。 B - レガシー
1.4 オリンピック招致は、その結果に関わらず、貴都市にどのような恩恵をもたらすか、答えてください。
東京の招致がもたらす歓迎すべき恩恵
2 016 年 東 京 大 会の 招 致 活 動に後 押しされ、
「 10 年後 の東 京」
計画は、既に様々な成果を上げつつある。
スポーツの面を見ると、東京都は2007年に、世界の次世代のアス
リートやスポーツ指 導 者の交 流・育成を目的とする、約2億ドルの
「東京都スポーツ・文化振 興交流 基金」を創設した。20 08年には、
競 技 力の向上、青少 年の 健 全 育成、生 涯を通じた健 康的な生 活を
目指す「東 京都スポーツ振 興 基 本 計画」を策 定し、地 域スポーツ・
クラブの大幅な拡充など、多様なスポーツ振興策を展開している。
東京マラソンは3年前に創設され、参加者数は一層増大し、市民
から 一 流 のアスリートま で 、幅 広 いラン ナ ー が 競 い 合 う大 会と
なった。一方、20 08年に作成した「オリンピック学習読 本」を活用
して、都 内の小 学 校、中学 校、高 等 学 校 で 毎 年10 0万人の 生 徒 が
オリンピズムへの理解を深めている。
スポーツに関わる日本の法 制度にも、プラスの 効果が 現 れつつ
ある。スポーツ振 興法を21世紀の市民のニーズにふさわしいもの
東京都の長期的な都市戦略「10年後の東京」と完
全に一致
2016 年東 京大 会に向けた招致 委員会のビジョンは、東 京都の
長期的な都市戦略「10年後の東京」と、時期的にも内容的にも見事
に一 体となったものである。東 京都が目指す都市と社会の変 革を
達成するために、強力かつ全面的な資源が確保され、全ての計画と
オリンピック・プログラムとは、2本の撚り糸のように組織的に統合
されている。
2016年東京大会のビジョンは、
「10年後の東京」という未来図に
示された、スポーツの振興を通じた子供たちの健全育成と、生涯を
健康的に過ごせる社会、世界で最も環境負荷の少ない持続可能な都
市、より機能的で魅力的な都市、という青写真に基づいている。両者
は密接に関連し、相互に補完し合いながら、21世紀の理 想都 市の
ロールモデル実現に向けたトライアルを既に開始している。例えば、
東京湾で行われた、集積されたゴミを埋め立てた巨大な埋立地は、
客土し、その上への植林によって巨大な森に変わりつつある。
都市生活に関連するレガシー計画
2016年東京大会を触媒として再生される、世代を超えて人々が
緊密に結 び 付いた社 会、持 続 可能 な 都 市、大きな 経 済波 及 効 果、
これらの主要なレガシーには、
「 10年後の東京」に適用される業績
指標、監視、評価の手法がそのまま適用される。大会終了後、東京都
は、首都大学 東 京など 研究 機 関の協力を得て、レガシーの精 査と
評価を実施する。
世代を超えて人々が結び付き、互いに支え合う社会
2016年東京大会は、広範囲にわたる社会的レガシーをもたらす。
スポーツとオリンピックの価値、すなわち、努力を通じた自己変革、
公正さ、他者の尊重、夢に向かうこと、国際平和への希求が浸透し、
世代を超えた結び 付き、コミュニティの発展、自信と活力に満ちた
社会が再生される。
ス ポーツが 与える 感 動 体 験 は 、健 康 で 活 力ある高 齢 化 社 会 の
基 盤 づくりを加 速させる。ス ポーツが 持 つ動 機 付けの力は、子 供
たちに自分の能力を伸ばす意欲を持たせる。
5万人のボランティアがオリンピックに参加することにより、日本
のボランティア文化は大きく拡大する。
無形のレガシーとして非常に重要なのは、2016年東京大会の成功
体験が、日本の若者に及ぼす影響である。世界中の注目を集める最大
規模のイベントにおける体験は、若者のモチベーションやスキルを向
上させ、
優れた指導力を備え、
社会の発展に貢献できる人材を育てる。
2016年東京大会では、1964年東京大会のレガシーを改修して
活用する。環境の世紀にふさわしく再生し、長寿命化された施設は、
まさに100年レガシーとなる。
TOKYO 2016 Vol.1 Theme 1
環境における東京都の第一の目標は、低カーボン、低エネルギー
社会の実現である。2008年に、都市のカーボン排出に大きな割合
を占める大 規 模排出事業 者を対 象に、キャップ&トレーディング・
スキ ームに 基づきカーボ ン 削 減を 義 務 付 ける 条 例 を 制 定した 。
これは、都市として世界初の試みである。
水と緑の再生、生物多様 性の 維 持 発 展も、幅 広く募金をつのり
多様な世代の参画によって植樹を進める緑のムーブメントにより、
着実に進んでいる。ちなみに、東京都が管理精製して提供している
水 道 水 は 、新 技 術 によって 五 次 処 理までを 経 た 世界最 高の 水 で
ある。
文化・芸術活動の面でも、新たな動きがある。東京都は2009年に、
文化・芸 術 活動の担い手を、専門的な芸 術家にとどまらず、幅広く
市民や若者に求めるとともに、活動の範囲を大幅に拡大する、新たな
プロジェクトを開 始する。東 京の文化・芸 術 活 動が、一層身 近に、
かつ裾野の広いものとなる。
ついているか、示してください。
環境と共生する持続可能な都市のロールモデル
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へと抜本的に改正するため、国会議員による超党派のスポーツ議員
連盟によって、新法案の制定が進められている。
1.5 オリンピックのレガシーの計画は、どのようなものか、示してください。それはいかに貴都市/地域の長期計画や目標に結び
2016年東京大 会のレガシーは、スポーツを中心としつつ、これ
までの大会よりはるかに幅広いものとなる。
1.3 貴都市のビジョンは、どのように貴都市の長期的な戦略計画に合致したものであるか、説明してください。
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最高水準のスポーツと環境負荷の最小化を両立した新しい施設
は、スポーツ、環境、双方の重要なレガシーである。環境技術の革新と
普及拡大により、環境ビジネスが大きく育つ。新しい施設は、都市と
自然との調和という2016年東京大会のビジョンを視覚的に体現し、
都市景観の重要なレガシーとなる。
世界初のカーボンマイナスオリンピックを実現する戦略は、低カー
ボン社会の実現を加速する無形のレガシーとなる。カーボンマイナス
が、大会後の全ての国内・国際イベントのベンチマークとなる。
少なくとも1,000haの新たな緑が創出されつつある。人々が水と
一層親しめるようになり、水鳥や魚、様々な水辺の動植物が息づく、
生物多様性が確保された空間が拡大する。
供給者や消費者の意識、行動の変革は、2016年東京大会の最も
重要な無形の環境レガシーである。現に東京の公立小中学校では、
児童生徒の自発にまかせ、家庭生活での節電をポイントとして先生
に報告させる教育を徹底して行っている。
製 品 開 発 や 製 造 、購 入 に あたって 、環 境 へ の 配 慮 が 一 層 重 視
され、低カーボン製品やサービスの市場が大きく拡大する。
大きな経済波及効果、東京のプレゼンス拡大
2016年東京大会は、
東京だけでも1兆5,500億円
(143億米ドル)
、
日本全体で2兆9,400億円(272億米ドル)もの大きな経済波及効
果をもたらす。これは都市基盤の整備に伴う効果を含まない。それ
らを算入すれば、この額はさらに拡大する。
一層改善された道 路や公共交通機関、魅力的なスポーツ施設な
ど地域の中核施設を得て加速する地域再生プログラムにより、東京
の、そして日本の経済は大きな変革を遂げる。
2016年東京大会は、東京の魅力を世界に発信し、東京のシティ・
セールスを促進する。年間1,000万人が訪れる世界有数の観光都市
となることで、東京はもとより、首都圏、ひいては日本の産業構造に
大きな 変 革が 生まれ、恒 久 的・安定 的な 経 済 発 展をもたらすレガ
シーとなる。
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ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
1.6 貴都市/地域におけるスポーツへのレガシーはどのようになるか述べてください。
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1.7 貴都市でオリンピックを開催することは、オリンピック・ムーブメントにどのように寄与するのか、述べてください。
貴国で人気の低いオリンピック競技の振興・発展のため、大会の準備段階でどのような取組を行うか、説明してください。
スポーツのプレゼンスを、社会の中に一層拡げる
2016年東京大会のレガシーは、スポーツのあらゆる側面におい
て一層高い価値を持つ。
1964年東京大会の競技 施設は、アクセスの容易な市 街地の中
心に位置し、今日でも非常に人気が高い。これらが2016年東京大
会の水準に達するよう改修され、東京のスポーツインフラはさらに
強化される。新たに建設される施設は、エリートアスリートやコミュ
ニティに広く活用される。
今日、わが国で比較的人気の低いスポーツを見ると、会場が身近
になかったり、大きな経費を要し気軽に参加できなかったりするも
のである。東京の人々はスポーツ意欲が高く、機会さえあればこれ
らのスポーツに取り組む潜在的なニーズはある。2016年東京大会
により新たな専用施設が整備され、参加や観戦の機会が増えること
は、現在人気の低いスポーツの振興をもたらす。
一方、東京都がすでに開始しているアスリート育成の取 組が、大
会開催を通じて普及拡大する。これらは競技力の向上やアスリート
のサポート体制強化のみならず、これまで人気の低かったスポーツ
に光を当て、その振興と発展に寄与する。
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東京都は、2009年にアジアユースパラゲームズ、2013年に全国
障害者スポーツ東京大会を開催するなど、障害者スポーツの振興に
積極的に取り組んでいる。2016年東京パラリンピック競技大会に
より、高齢化が進む中で、年齢や身体機能に応じて、誰もがスポーツ
を楽しめる社会が実現する。
日本では、スポーツが青少 年に夢に向かって努力する喜びを教
え、心身共に健全な人間へと導く上で重要な役割を果たすことが、
広く認識されてきた。こうした考え方は、オリンピックが青少年に与
える価値と全く一致している。
オリンピックの感動は、スポーツの振興と発展を通じて、社会規
範の強化、社会貢献の重要性を再認識させ、青少年の教育はもとよ
り、社会全体にとって好ましい影響を及ぼす。
オリンピック・ムーブメント/人間教育・国際交流を
通じて世界平和に貢献
オリンピックの理想:人間教育と国際交流、世界平和への貢
献∼嘉納治五郎国際スポーツ交流センター構想∼
日本、アジア、そして世界に向けてオリンピックの理想を継続的に
発信し、オリンピック・ムーブメントに貢献する具体的な取 組は、既
に開始されている。この取組には、1909年に就任した日本、そして
アジア初のIOC委員、近代柔道の創始者「嘉納治五郎」の名を冠す
る予定である。
クーベルタン男爵と嘉納治五郎は、共に教育者であった。両者は、
スポーツが身体を強化するだけでなく、個人と社会全体の双方にお
ける倫理観の高揚、規範意識の強化に不可欠であるという確信を
共有していた。
2016年東京大会の開催に向けて、私たちは、国際競技大会やイ
ベントの開催、ドーピング防止活動、オリンピック教育プログラムの
支援、オリンピズム研究への支援など、嘉納治五郎の名を冠した一
連のプログラムを展開し、スポーツの発展とオリンピズムの発信、世
界平和への貢献に力を尽くしていく。
日本体育協会とJOCは、国や東京都と連携して、嘉納治五郎記念
スポーツ研究センター(仮 称)を設 置する。この事 業をさらに発展
させ、2 016 年 東 京 大 会の開 催 後、嘉 納 治五 郎 オリンピック記 念
国際スポーツ交流センター(仮称)をオリンピックスタジアムの中に
設置したい。
このセンターは、スポーツを通じた人間教育、国際交流、世界平和
への貢献のため、アジア各国、さらには世界の国々から人々が集う
場となる。センターは、2016年東京大 会のレガシーを世界に広げ
る。これこそが、オリンピック・ムーブメントとIOCに対する最大の
貢献である。
嘉納治五郎とクーベルタン男爵の友情の成果として開催が予定
されていたアジア初のオリンピック―第12回東京大会―は、第二次
世界大戦の戦火の拡がりに伴い、返上を余儀なくされた。クーベル
タン男爵の人生最後の手記は、東京大会の返上を悲しむものであった
といわれる。
オリンピックは、世界 平和の祭典である。19 6 4 年東 京大 会は、
まさに平和国家・日本の再生を祝うものでもあった。日本とアジアが
オリンピック・ムーブメントに参 加して10 0 年という特 別な時を
迎える今日、依然として世界の各地で悲惨な戦いが人々を傷つけて
いる。嘉納治五郎の名とオリンピズムの下に、人間教育と国際交流
を通じて世界平和に貢献することは、まさに日本の責務である。
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ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
C - コミュニケーション戦略及び計画
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1.9 オリンピックの価値を推進するための貴都市の戦略と計画を記述してください。
1.8 貴都市のコミュニケーション・プログラムは、どうするのか。国内で支援と関心を高める取組はどのようなものですか。
東京はオリンピックの価値を活かす
また、海外での取組はどのようなものですか。
卓越したストーリーを最大限活用する
開催決定後のプログラム
オリンピックは、世界の注目を集めて展開される最も優れたアス
リートたちの全身全霊をかけた勝負の舞台である。ゲーム自体はた
ちまち終わるとしても、その瞬間に、またその背後に、様々なストー
リーがある。
大会組織委員会は、IOC、オリンピック・スポンサー、サプライヤー
と緊密に連携し、大会開催までの様々な段階に応じて、多彩なプロ
グラムを展開する。
人々がオリンピックに魅了されるのは、一つには、それが想像力を
激しく刺激するからである。アスリートに声援をおくり、勝者を祝福
し、敗者と共に涙を流す人々は、アスリートの類いまれな体 験を追
体験する。
2016年東京大会のコミュニケーション戦略は、オリンピックを
主要な舞台とし、時間的・空間的に一層の拡がりを持つ卓越したス
トーリーを最大限活用することである。私 たちは、イベントを開催
し、テレビや新聞等のメディアを通じて、また、双方向のデジタル・メ
ディアを活用して、コミュニケーション・プログラムを推進する。ここ
でも、その主役はアスリートである。
招致段階でのプログラム
東京オリンピック・パラリンピック招致 委員会は、東京都と連携
し、オリンピアンによるトークショーやオリンピズムをテーマとする
パネルディスカッション「みんなのオリンピック」を日本全国で展開
している。日本には47都道府県の広域自治体があり、各都道府県出
身のオリンピアンが「ふるさと特使」として、オリンピック・ムーブメ
ントの拡大に取り組んでいる。加えて、毎週のゴールデンタイムに、
過去のオリンピックにおける日本選手の劇的な活躍を、それに至る
までの苦心、工 夫、鍛 錬、周囲の友情といった挿 話を交えて3分間
ではあるがきわめて印象 的な過去のオリンピックのドラマとして
放映している。
東京都は、2007年、2008年に、都市の中心で開催する2016年
東京大会のビジョンを象徴するイベント「丸の内ストリートスタジア
ム」を実施した。東京、日本のビジネス、文化、交通の中枢である東京
駅前に特設会場を設置し、オリンピアンや子供たちが陸上や体操、
フェンシング等のエキシビションを行った。
このほか、東京都が主催するイベントには全て、オリンピズムとオ
リンピック・ムーブメントの価値を推進するプログラムが組み込まれ
ている。基礎的自治 体が開催するイベントでも、オリンピック・ムー
ブメントの拡 大が推進されている。2008年だけで94もの事業が
実施された。あらゆる機会を捉えて、招致委員会と東京都は、人々の
関心と情熱を刺激し、招致への支援を訴えている。
招致段階でも展開する、オリンピアンのアウトリーチ・プログラム
(オリンピアンが様々な場所に出向き、オリンピズム、オリンピック・
ムーブメントを普及啓発する事業)を、海外のオリンピアンを起用す
ることなどによって、一層拡大する。
大会開催の少なくとも3年前から文化プログラムを展開する。そ
の中では、東京、日本の文化に加えて、世界の文化を発信し相互交流
を図る機会を拡大する。同様にプレ・ユースキャンプも、大会開催の
少なくとも3年前から実施する。その中では、国内外の、また幅広い
世代のオリンピアンが活躍する。
東京都は2008年に「オリンピック学習読本」を作成し、これを活
用して都内の小学校、中学校、高等学校の生徒100万人が、オリンピ
ズ ム 学 習 に 取り 組 んで い る 。東 京 都 は 、J O C 、J O A( J a p a n
Olympic Academy)とともに、この取 組を日本全国に広げるよ
う、他の自治 体にも働きかけている。すでに全国の道府県・区市町
村の議 会において、2016 年オリンピック招致の支 持支 援 決議を
行っている。 オリンピズム学習は、オリンピアンのアウトリーチ・プログラムと
連 動することで一層大きな効果を挙げる。オリンピ アンによる講
義、日本で盛んな学校の課外スポーツ活動をオリンピアンが指導す
ること、など、これまでの取組に加えて、さらに多彩なプログラムを
開発する。
日本の著名な映画監 督、市川崑による19 64 年東 京大 会の映 像
「東京オリンピック」など、オリンピックをテーマとする優れた映画
は多い。これらの映画を大 会組 織委員会や東 京都の事 業の中で、
また、民間企業の協力を得て、集中的・連続的に上映する。
学 校がそれぞれ国を選び、その国に焦 点を当てた学習や交流活
動を進める「2016年大会一校一NOC運動」を展開する。
ロゴコンセプトなど、2016年東京大会のデザインコンペ「オリン
ピック・エキスポ」を開催する。
オリンピックを振 興し、スポーツへの 参 加をうながす双 方向の
ウェブサイト「Athletes on the Move」を開設し、多様なメッセー
ジを受発信する。
これらのプログラムを、内外のメディアと密接に連携して推進す
ることにより、2016年東京大会への関心と支援を高めるよう取り
組む。
アニメーションやコミックは、今日、日本人の生活に浸 透してい
る。また、海外にも広く発信され、若い世代を中心に高い支持を得て
いる。これらの分野で、オリンピックをテーマとする作品を制作し、
魅力的なキャラクターを造形すれば、オリンピックの価値を推進す
ることができる。
オリンピックの価値は、日本の伝統的な価値観や規範意識、すな
わち、努力を通じた成長、スポーツと文化の両立、公正さ、他者に対
する尊敬、国際平和等と完全に一致する。2016年東京大会は、オリ
ンピックの価値を推進するまたとない条件を備えている。大会の準
備期間、開催期間、開催後を通じ、大会組織委員会は東京都と連携
し、国内外に向けてオリンピックの価値を発信する。
開催都市には、国内及び国際機関とのパートナーシップにより、
スポーツを発展のために有効に活用する大きな可能性がある。この
機をとらえて、日本中、そして開発途上の国において社会的に責任
あるスポーツ支援プログラムを進め、地球規模の問題に取り組んで
いく。こうした取 組が、オリンピズムを現代的な文脈の中で行動に
移したものであり、クーベルタン男爵や心を同じくした嘉納治五郎
が奨励した現代的な価値にも相応するものである。
1.10 組織委員会を見据えた貴都市のコミュニケーション面での課題は何か記述してください。
圧力グループ及びNGOに対応する際の貴都市の戦略を記述してください。
少数意見にも真摯に対応
現在、2016年東京大会に反対を表明している政党は、共産党一
党である。その理由は、開催に要する財源を、他の政 策分野に振り
向けるべきというものである。
民主主義国家である日本においては、表現の自由は完全に保障
される。組 織 委 員 会 及び 東 京 都 は 、少 数 意 見を 決して 軽 視せ ず 、
建 設 的 な 批 判 は 進 んで 受 け入 れ る用 意 があ る 。こうした 価 値 観
こそ、私たちのコミュニケーション戦略の基本的な指針である。
環境NGOとの連携を、大会組織委員会及び東京都は重視する。
大会組織委員会及び東京都は、こうした可能な限り率直で粘り強
い対話を続ける。一方、オリンピズムの価値と2016年東京大会が
東京、日本、世界にもたらす巨大な恩恵について、幅広く継続的に発
信する。
大会組織委員会及び東京都は、多様なメディアを通じ、あらゆる
機会をとらえて、コミュニケーションの充実に取り組む。その結果、
オリンピズムと2016年東京大会への強い支持が得られることを
確信する。
東京都は、2016年東京大会の環境対策のマスタープラン「2016
年東 京オリンピック・パラリンピック競技 大 会環 境ガイドライン」
を、学識経験者、環境NGOで構成する「環境専門家委員会」の意見
に基づいて策定した。また、NGO等から幅広く意見を求める「環境
アドバイザリー委員会」を設置した。
1.11 コミュニケーションに係る全体計画について、その時期と予算を含めて示してください。
コミュニケーション計画の時期と予算
コミュニケーション計画のために、十分な予算を確保する。2009年
から2016年までの予算総額は、96億円(8,890万米ドル)である。
うちオリンピック大 会開 催 期間を対 象としたコミュニケーション
プログラム予算は4億円(410万米ドル)で、その主なものは一校
一NOC運動(2億円、185万米ドル)、オリンピックエキスポ(1億円、
9 3 万米ドル)などである。大 会 組 織 委員会以 外 の 予算は 9 2億 円
(8,48 0万米ドル)で、その主なものはオリンピック・ムーブメント
推進費(36億円、3,338万米ドル)、ライブサイト(35億円、3,200
万米ドル)などである。
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TOKYO 2016 Vol.1 Theme 1
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