インデックス運用への挑戦 ~「市場の効率性」 年金事業部 チーフアナリスト 舎利弗 孝通 各種報道では、「アクティブ運用が付加価値を生まないので、インデックス(パッシブ)運用 にする」という動きが一部の年金基金にあるようだ。こうした背景には、「市場は効率的だから、 アクティブ運用はインデックスに勝てない」という考えがあるらしい。しかし、よくよく考えて 欲しい。市場は、果たして本当に効率的なのだろうか? ここでは、巷間言われている「市場の 効率性」について考えたい。 始めに理論的な側面から考えてみよう。こうした議論の出発点となるのは、1970年にユー ジン・ファマが提唱した効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis:EMH)にある。「証券 価格は利用可能な情報をいつも完璧に反映している市場」という意味で「効率的な市場」が定義 された。すなわち、その時に利用可能な情報だけで市場を超えるリターンを得ることを否定して いた。ただし、こうした市場の効率性を支持していた大きなひとつの理論的な仮定は、「投資家 には、合理的な投資家と非合理的な投資家(ノイズトレイダーとも言う)が存在する。合理的な 投資家の行う取引によって、非合理的な投資家は損失を出す。結果的に市場から淘汰され、合意 的な投資家のみが市場には残るはずである」というものであった。しかし、「そもそも人間(投 資家)は合理的ではない」という昨今の行動ファイナンス等の研究から、こうした市場の効率性 を支持する根拠が大きく揺らいでいるのが現状である。これは、明らかに理論が想定するレベル での「完全な」効率性を市場が備えている訳ではないということを示している。 また、理論が想定するレベルでの「完全」とまではいかないものの、市場がある程度の効率性 を備えるためには、投資家が熱心に財務諸表を分析したり、テクニカル分析をしたり、必死でミ スプライスされた株を探すことが必要となる。不特定多数の市場参加者が、それぞれの判断で、 証券を売買する結果として形成される株価が、効率的であるのである。よって、市場参加者のす べてが「市場が効率的」と考えたら、どうなるか? 株価の予測は意味がないと考え、だれも財 務諸表の分析や新しいニュースの影響等を考えるのは時間の無駄だと思ってしまうであろう。な ぜなら、そんな分析が必要だったら「とっくに市場がやっているはずだから」。その結果、市場 は新しい情報を織り込まなくなり効率的ではなくなってしまう。実は、市場参加者が「市場が効 率的」と信じないときにより「効率的」になり、市場参加者が「市場が効率的」と信じると、 「効率的でなくなってしまう」のである。「市場の効率性のパラドックス」と言われているのは、 このことを指している。 このように、市場の効率性を支えているのは、投資家独自の判断やそれに依拠する証券売買で あって、何もせずに自明として市場が効率的だということではない。自らは何も判断せず、市場 でついている株価を受け入れるだけであるインデックス運用に「ただ乗り」という批判があるの は当然である。もし、インデックス運用が主流を占めるようになってしまったら、市場が本来持 つ価格調整機能は停止してしまうかもしれない。国民共有の財産とも言える市場の機能を守るた めにも、アクティブ運用の意義を強調しておきたい。 参考文献:「金融バブルの経済学」(A.シュレイファー著、東洋経済)
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