こちら - Malaria No More Japan(マラリア・ノーモア・ジャパン)

国際シンポジウム
「新たな国際目標(2030 アジェンダ)とエイズ・結核・マラリア
~日本から考える三大感染症の今後~」報告書
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目次
3 団体共催による国際シンポジウムを開催 ............................................................................................... 3
概要 .............................................................................................................................................. 3
スケジュール ................................................................................................................................... 4
シンポジウム詳細 ............................................................................................................................. 6
主催者挨拶
Malaria No More Japan 専務理事 水野達男氏..................................................................... 6
基調講演「国際保健と三大感染症」グローバルファンド戦略・投資・効果局長
三大感染症の今①当事者が語るエイズと共に生きること
國井修氏 ................................. 7
HIV/エイズと共に生きる国際女性コミュニティ マラウイ
代表 クララ・バニャ氏 ................................................................................................................. 12
三大感染症の今②マラリア制圧
支援戦略の構築 Malaria No More アジア・太平洋局長アンジャリ・カウール氏 15
三大感染症の今③結核 ストップ結核パートナーシップ日本理事
成瀬匡則氏 ............................................. 18
パネルディスカッション:三大感染症と SDGs:つながり、課題、見通し ................................................... 20
フロアからの質問 ........................................................................................................................ 28
評価 ............................................................................................................................................ 32
登壇者略歴.................................................................................................................................... 32
事前配布チラシデータ ...................................................................................................................... 34
シンポジウム情報メディア掲載先一覧 .................................................................................................. 35
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3 団体共催による国際シンポジウムを開催
10 月 27 日、都内で国際シンポジ
ウムを開催。100 人以上の参加者
が集まった盛大な会となりました。
2015 年 10 月 27 日、東京都千代田区の「弘済会館」にて、アフリカ日本協議会、
Malaria No More Japan、日本リザルツの共催で、国際シンポジウム「新たな国際目
標(2030 アジェンダ)とエイズ、結核、マラリア =日本から考える三大感染症の今後
=」を開催
本シンポジウムは国際保健の潮流の中でユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が主
流化する中で、三大感染症をいかに位置付けるかを再検討することを目的とする。加え
て、日本が今後、グローバルファンド増資準備会合や G7 伊勢志摩サミット、第 6 回ア
フリカ開発会議(TICAD VI)等、開発や感染症に関する重要な会議を主催する中
で、感染症を含めた国際保健のあり方を再検討し、国際保健支援の重要性と日本の
果たしうる役割を広く紹介する場とした。
概要

主催:特定非営利活動法人アフリカ日本協議会/認定 NPO 法人 Malaria No
More Japan/特定非営利活動法人日本リザルツ

協力:公益財団法人 日本国際交流センター/グローバルファンド日本委員会

後援:朝日新聞/外務省/独立行政法人国際協力機構/国連開発計画
(UNDP)駐日代表事務所

開催日程:2015 年 10 月 27 日 18:00-20:30

会場:弘済会館 (住所:東京都千代田区麹町 5-1)

参加者総数:106 名

通訳:同時通訳有
いまなぜ三大感染症なのか、
会場の様子
改めてその意義を問う場所を設定
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スケジュール
TIME
18:00
18:05
18:30
18:45
19:00
19:15
19:25
20:10
20:30
総合司会
主催者挨拶
基調講演
国際保健と三大感染症
三大感染症の今①
当事者が語るエイズと共に生きること
三大感染症の今②
マラリア制圧 支援戦略の構築
三大感染症の今③
結核
休憩
パネルディスカッション
三大感染症と SDGs:つながり、課題、見通
し
スピーカー
長島美紀(日本)
水野達男(日本)
國井修(日本)
所属
Malaria No More Japan 理事
Malaria No More Japan 専務理事
グローバルファンド戦略・投資・効果局長
クララ・バニャ
(マラウイ)
HIV と共に生きる女性の国際コミュニティ
(ICW Malawi Chapter)、GFAN スピーカー
ズ・ビューロー
Malaria No More アジア・太平洋局長
アンジャリ・カウール
(米国)
成瀬匡則(日本)
ストップ結核パートナーシップ日本理事
ファシリテーター:稲場雅紀(アフリカ日本協議会)
パネリスト
・レイチェル・オング(アジア太平洋グローバルファンド・アドボケイツ・ネット
ワーク、シンガポール)
・オリーブ・ムンバ(東アフリカ・エイズ関連組織ネットワーク、タンザニア)
・サラ・カーク(リザルツ・オーストラリア、オーストラリア)
・ルイ・ダ=ガマ(プリンセス・オブ・アフリカ財団、英国)
・伊藤聡子(公益財団法人日本国際交流センター、グローバルファンド
日本委員会)
フロアからの質問
終了
本シンポジウムには、アフリカ日本協議会が主催した国際ワークショップ「感染症対策とユニバーサル・ヘルス・カバレッジの相乗効果を探る」に
参加した海外招聘者 20 名に加え、紀谷昌彦・在南スーダン日本国大使館特命全権大使や杉下智彦・国際協力機構国際協力専門
員、田中剛・内閣官房企画官のほか、国際保健分野に関心をもつ学生や社会人、専門家総勢 106 名が参加した。
冒頭、國井修グローバルファンド戦略・投資・効果局長が三大感染症の現状及びグローバルファンドの設立経緯や同基金の三大感染症へ
の貢献につき説明した。また、三大感染症の終結に向け、戦略的な投資や効率的な資金投与、国際保健分野での相乗効果、ファイナン
ス、イノベーションが必要だと指摘した。
続いてアフリカ南部のマラウイから来日したクララ・バニャ氏(HIV と共に生きる女性の国際コミュニティ(ICW Malawi Chapter)、
GFAN スピーカーズ・ビューロー)が HIV 陽性者としての経験とマラウイでの HIV 支援に関する現状と問題点を、アンジャリ・カウール
Malaria No More アジア局長がマラリアという感染症と同 NGO の役割、成瀬匡則・ストップ結核パートナーシップ日本理事は自身の結
核体験談を語った。
パネルディスカッション「三大感染症と SDGs:つながり、課題、見通し」では、4 人の外国人登壇者より当事者や市民社会として三大感
染症に取り組む契機や、ミレニアム開発目標の時期(2000 年~2015 年)の取組みの現状及び現在の問題点、そして持続可能な開
発目標が採択された現在、2030 年を見据えてどのような夢をもっているかにつき説明いただいた。加えて、伊藤聡子・日本国際交流センタ
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ー執行理事より、グローバルファンドを国際公共財としてとらえ、幅広い民間セクターの役
割を活かしながら三大感染症の終結に向けて最後まで取り組む必要がある旨言及があ
った。
最後にフロアからは、気候変動と感染症の関係や、今後の日本の貢献の在り方につい
ての質問があった。また、家族をマラリアで亡くした女性から、マラリアの診断キットの信頼
性や、感染症の診断体制についての問題点、三大感染症への資金供与に関し、いか
なる指標を用いているのかなどについても質問があった。
お問い合わせ先
本シンポジウム開催にあたり、逢沢一郎衆議院議員(日本・アフリカ連合友好議員連
Malaria No More Japan
盟会長、グローバルファンド支援日本委員会議員タスクフォース代表幹事)より、「三大
[email protected]
感染症対策は国をこえて至急に取り組まなければならない深刻な課題である。より多く
の方にこの問題の意識を高めるものとなるよう祈念する」旨の電報をいただいた。
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シンポジウム詳細
主催者挨拶 Malaria No More Japan 専務理事 水野達男氏
ご紹介に預かりましたマラリア・ノー・モア・ジャパン、専務理事の水野でございます。本日
はまことに多くの方にお集まりいただき、本当にありがとうございます。毎年 400 万人近く
の命を奪うエイズ、結核、マラリアという三大感染症は、地球規模の大きな課題の一つ
です。国際機関が 2000 年から取り組んできたミレニアム開発目標達成に向けた活動
によって、多くの改善がもたらされたことは皆さんよくご存じだと思います。その中でグロー
バルファンドの設立は大きなはずみになりました。
本日のシンポジウムの目的は二つあります。一つは、エイズ・結核・マラリア、それぞれの
疾病について、そもそも何なのかというところを、国内外の第一線でご活躍されています
研究者の方、あるいは NGO の方、あるいは国際機関の方、そして実際に感染症と闘
っている当事者の方にお集まりいただき、スピーカーとしてわかりやすくご説明していただく
というのが一つです。
もう一つは、さらに国際保健の潮流の中にあって、三大感染症がどういうふうに位置づけられていくのか。特に 9 月に採択された持続可能な
開発目標、いわゆる SDGs を含む 2030 年のアジェンダに向けて課題、あるいはあるべき姿をどういうふうに実現していくのかということを議論
していく場と考えています。
スピーカーの方々はもちろんですが、今日ここにお集まりの皆様には、ぜひ活発なフロアからの発言も楽しみにしております。いま一度、お忙し
い中、たくさんの方にお集まりいただき、この会合を開けますことを大変喜ばしく思っております。これをもちまして開会の挨拶にさせていただきた
いと思います。よろしくお願いいたします。
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基調講演「国際保健と三大感染症」グローバルファンド戦略・投資・効果局長 國井修氏
皆さんこんばんは。國井です。今日は「国際保健と三大
感染症」というテーマでお話をさせていただきます。私はグ
ローバルファンドというジュネーブにある国際機関から来て
いますが、それ以前には子どもの健康や災害救援など、
感染症以外のこともやっておりました。いまはジュネーブで
戦略をつくったり、データを集めて分析したり、限られた資
金をどのように活用すれば、効率的にかつ効果的に人々
の命を救えるか、感染症を抑えられるか、インパクトを最
大化していく方法やメカニズムをつくったりしています。
1990 年代、私は NGO や JICA などを通じてアフリカなど
多くの国々で支援活動に従事してきましたが、特にアフリ
カは多くの病気がありました。多くの感染症で多くの子ども
たちが死んでいましたが、90 年代には何か違った力で、そ
の状況が悪化していくのが感じられました。特にザンビアと
いう国に行ったところ、保健省の高官に会う約束をしてす
っぽかされるということはアフリカではよくあるのですが、その理由として「お葬式に出席するため今日はオフィスに来ない」という理由を頻繁に聞く
ようになったのです。ザンビアはお葬式に 1 週間くらいかけることもあるので、親戚の中にお葬式が何度もあると、頻繁に仕事を休む、中にはほ
とんど仕事に来ないということもありました。社会全体として葬式が増えて、実際にお墓が広がっているのも目の当たりにしました。つまり死亡者
が非常に増えていたのです。
それも子どもだけではなく大人、特に 20 代、30 代、40 代、働き盛りの方が亡くなっていました。学校の先生が亡くなる。病院の医師が亡く
なる。田舎の村で唯一の看護師さんが亡くなる。これはおかしい。多くの場合、死亡原因はわかりませんでしたが、どうやら HIV のまん延によ
るものだとわかってきました。
アフリカでは以前からマラリアが非常に流行しています。特に 5 歳未満の子どもや妊婦さんがかかって死亡するケースが多いのです。マラリアに
なると赤血球が破壊されて重度の貧血になることが多いですが、妊婦さんにとっては一大事で、重度の貧血で赤ちゃんを産むと、それほど出
血量が多くなくても死につながる危険が高くなります。
アフリカでも平均余命が 60 歳以上と長い国も現れてきたのですが、HIV の影響でそれが急激に低下しました。実はヨーロッパでも 1800 年
代は平均寿命が 40 歳くらいで、そこから 60 歳、70 歳と上がるまでに 100 年以上かかっていました。その後、インドなどの中進国も少しずつ
平均余命が上がっていって、アフリカのボツワナなどの国でも平均余命が 65 歳にまで上がってきました。平均余命がそこまで上がるまでにはす
ごく時間がかかるのです。それなのに、HIV の流行で多くの人が死に始め、ぐっと国全体の平均余命を下げました。エボラや SARS では国全
体の平均余命はほとんど下がりませんから、大変な状況だったんです。
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HIV にかかると、多くの場合、結核で亡くなります。HIV 自体で亡くなるというよりは、皆さんご存じのように、免疫力が落ちてくるので、いろい
ろな感染症にかかり重篤になりやすい。中でも結核に感染して死亡することが多く、エイズ関連死亡の第一位です。皆さんご存じかもしれま
せんが、世界の人口の 3 分の 1 は結核に感染している可能性があるといわれています。栄養状態や免疫状態などがよければ、病原菌が体
内に侵入しても発症しなくても、HIV にかかって免疫力が落ちることで、結核を発病して進行するケースが増えていったのです。
以前猛威をふるっていたマラリアも、DDT などの殺虫剤やクロロキンなどの治療薬のお陰で感染や死亡がぐっと減ってきて、ある地域では撲滅
近くまでいきました。それが対策を止めたり、手を緩めたりしたことでまた増えてくる。そんな現象が様々な国で見られました。難民や移民などの
人口の移動、地球温暖化の影響などほかの原因もいろいろあるようですが、マラリアは昔の勢いを取り戻して再流行しはじめ、再興感染症と
呼ばれるようになりました。
このように 1990 年代は HIV を含む感染症が新興・再興し、中には HIV 感染が人口の 30~40%に及び、平均余命を急速に下げる国
が出てきました。アジアでも、たとえばタイ北部で性産業従事者の 6 割以上が HIV 陽性となり、世界的流行、パンデミックとなりました。これ
は緊急事態だとの認識から、2000 年 1 月に行われた安全保障理事会でも HIV の問題が保健医療分野として初めて議題にあがり、世
界の安全保障の問題として取り扱われました。
日本で開催された G8 九州沖縄サミットでも、感染症問題が取り上げられました。先進国が主導して資金を集めて、政府も国連も市民社
会も、世界中のアクターを総動員した新しい形のパートナーシップを作る必要がある。世界に呼びかけていきました。市民団体や国連や政治
家たちが動き始め、ブッシュ大統領も 2 百万ドルを誓約しました。そして 2002 年にグローバルファンドが創設。議論を始めて 1 年半で国際
機関ができるというのは、かなり切迫した事態だったということで、国際社会が本気で動いた証です。創設後、グローバルファンドは、例えば結
核で国際支援の7割以上を拠出するほどに成長して、低中所得国に診断・治療サービスを急速に広げて、死亡率や感染率の減少に大き
く貢献しています。
またグローバルファンドは、市民団体の方々、HIV や結核に感染した当事者の方々にも参加してもらい、それぞれの実施国にいるアクターが
一丸となって計画をし、アクションを起こすことになっています。そして結果・成果にはシビアです。どれくらいのサービスが広がり、人々を本当に
救っているのか、感染を防いだのかといった成果を示さなければならない。ただ、それをきちんと示して成果が出せば、資金はついてくるんです
ね。国際社会はきちんと見ています。現場のためになっている機関なのか、そうでないのか。成果が出ていれば、その成果をもっと高めようと資
金も集まってくる。ですからグローバルファンドとしては、現場で成果がでるためのメカニズムを作り、信頼できるデータが集まるような支援を行
い、、効率と効果を上げていかなければなりません。私が統括する局には多くの専門家がいて、データを収集分析していますが、実を言うと、
その情報収集というのは簡単ではありません。データのデの字もないような国もたくさんあり、あってもその信頼性が低い場合もあります。そうい
った国では保健医療データの収集から分析・活用のための情報システム管理の能力を高めなければなりません。
たとえばマラリア対策で、普通の蚊帳を使っただけではなかなかマラリアによる死亡率は下がらないのですが、住友化学がつくったオリセットネッ
トのような薬剤で処理した蚊帳を地域全体に配布すると、その地域でマラリアによる死亡率や感染率が劇的に下がります。蚊帳に蚊が留ま
ると殺虫効果で死んでしまう。つまりマラリアの原虫を持っている蚊、ベクターと呼びますが、その数が減るので、人に感染させるリスクが減ります。
この薬剤処理済の蚊帳を配布しはじめた頃は、実はそこまでの効果は期待していませんでしたが、これを広めることで子どもの死亡率が半減
する地域も出てきました。アフリカのマラリア流行地域に行く度に感じます。あんなにマラリアが流行していたのに、減ってる、と。以前は病院の
小児病棟にいくと 7 割がマラリアというところもよくありました。
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この蚊帳はグローバルファンドを通じて 5 億張以上が配布されました。妊産婦さんや 5 歳未満の子どものいる世帯を中心に、一世帯 2 張を
配布します。結核に関しては、1300 万人以上に診断と治療が行き渡りました。
HIV に関しては現在の治療法ではいまだ完治できないのですが、抗 HIV 療法をきちんと施せば、ウイルス量がぐっと減って器械で検知でき
ないほどになります。この薬を貧しくて入手できない人々に届ける。以前、実はこの薬は非常に高価で、日本では今でも患者さん 1 人当たり
年間 200 万円以上かかります。アフリカでも当初 1 人当たり 100 万円以上もしていて、それでも一人でも多くの人を救おうとグローバルファン
ドの創設にもつながったのですが、ジェネリック薬の広がりや製造元との交渉などを通じて、安価に入手できるようになり、現在では一人当たり
年間 1 万円以下の治療となりました。100 万円から 1 万円、100 分の 1 です。
さまざまな努力によって、グローバルファンド創設時には 1 日当たり約 1 万 2000 人が三大感染症で死亡していたのが、現在では約 7000
人くらいに減少しました。エボラ熱が世界を騒がせましたが、その死亡者数は 1 年間で 8000 人程度、2 年間で 1 万 2000 人程度ですから、
1 日 1 万人以上を死亡させていた三大感染症の威力は莫大で、減少した今でもその 1 日の死亡は最近のエボラ流行による 1 年分の死亡
に相当するわけです。
グローバルファンドの創設から 14 年が経ちますが、この間に 1700 万人くらいの生命を救ったと推算されています。実をいうと、この数字を計算
するのもなかなか容易ではありません。「サービスを届けることで救われた命」を測定することが難しいからです。どのようなサービスをどれだけ広
げると、どれくらいの死亡や感染を減らせるか、というのがある程度わかっているので、それらを用いた数理モデルを使って計算します。
このスライドは HIV に感染したインドの女性です。差別や偏見が強い国では、治療やケアをするだけでなく、このような女性たちにエンパワメン
トをして、差別や偏見に対抗して生きていく力や術を与えて、ネットワークを構築しています。
このスライドはアフリカのベニンです。HIV に感染した妊産婦さんに、子どもに HIV が感染しないようにするにはどうしたらいいかを教えて、その
予防を行うのです。お母さんが HIV 陽性だったら子どもはみんなかかってしまうと思われるかもしれませんが、子宮というのはうまくできていて、
お母さんが感染していても、胎児には簡単にうつらないようなバリアーがあります。それでも赤ちゃんが生まれるときに出血して、お母さんの感染
した血液を通じて赤ちゃんに感染したり、母乳を通じて子供が感染したりもします。そのため、お母さんに薬を使ってウィルス量を下げてお母さ
んから子供への感染を予防することができます。きちんと予防すればこのような感染もゼロに近づけることができます。
これはマラリア対策のスライドです。この写真のように電気のない田舎の村に出向いて行って、映画のようなものを見せると村人がたくさん集ま
ってきます。そこでマラリアというのはどういう病気なのか、どうやって感染するのかなどを動画で見せる。夜はなるべく外で寝ないで、蚊帳の中で
寝ましょう、などと予防法を伝えて、実際に薬剤処理済の蚊帳を配るというような地道な活動をします。ただし、蚊帳を配っても、熱帯地方で
は暑いために蚊帳の中で寝たがらない人もいます。蚊帳を配っても川で魚を採るのに使うこともあ
ります。特にオリセットはほかの蚊帳に比べて丈夫なので、魚を採ってもなかなか破けないといいま
す。魚を採ってそれが栄養になるならいいかという考えもありますが、きちんとした健康教育をしてマ
ラリアによる死亡を防いでいかなくてはなりません。
このスライドはコミュニティで活躍するヘルスワーカーです。橋がないので、川向こうにある村に行くの
にこのような筏のようなものを使います。村で生活する結核患者さんにヘルスワーカーが直接会っ
て、目の前で薬を飲ませるのです。自己管理に任せると治ったと思って飲まなくなり、病気が治ら
ないばかりか、飲んでいた薬に対する薬剤耐性菌ができたりします。そうならないように、患者さん
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がきちんと治るまで、6~9 カ月間くらいきちんと薬を飲ませるのです。なかなか大変な仕事ですが、コミュニティで地道な活動をすることで、先
ほど言った 1300 万人の人たちが救われています。こうした努力によって、過去約十年間で HIV の新規感染や結核の死亡は 3-4 割減と
なり、マラリアによる死亡はアフリカでは 6 割、地域によっては 8 割も下がっています。本当にインパクトが出たといえます。ボツワナは平均余命
が急激に下がった国ですが、集中的な支援・対策によって 2002 年ごろから劇的に死亡数が減りました。グローバルファンドのみならず、様々
なアクターが一緒に支援して努力した結果です。
グローバルファンドは、パートナーシップで成り立っています。私は事務局の職員ですが、私がグローバルファンドではなく、グローバルファンドのパ
ートナーシップを支援するサーバントです。グローバルファンドの資金を活用して実施してくださっているパートナーすべてがグローバルファンドとい
えます。実際に世界で、現場で頑張ってくださっているのは、(海外から出席している市民組織の代表を指して)こちらにいるような人たちで
す。レイチェル(HIV に感染した当事者で、NGO の代表)も本当によく頑張っていますが、このよう人たちが世界、そして現場で一緒に協
力して対策を進めなければ、本当の効果・成果は上がらないのです。
資金を集めないと薬も買えません。しかし、薬や診断薬を買っても、それらを現場まで届けるのもそう容易ではありません。例えば私は軍事政
権下のミャンマーや無政府状態のソマリアで働いていたのですが、海外から薬を調達してその国に輸入して中央倉庫に保管するまではいいの
ですが、そこから地方、さらに辺地の村まで送り届けるまでに大変な道のりがあります。道なき道を通って地方まで届けなければならないことも
あります。そこからさらに山奥の診療所、診療所がないときにはヘルスポストみたいなところに運ぶときは、ミャンマーでは歩いて 5 日というのもよ
くありますし、ソマリアだと歩いて 1 週間以上というのも珍しくありません。だいたい車を使いますが、途中、アカシアの棘などで車がパンクして、な
かなか現地にたどり着けません。
地域の住民参加やキーポピュレーションと呼ばれる感染リスクの高い人々の参加も重要です。グローバルファンドの重要なポイントは、市民組
織、または HIV などに感染した方々、影響を受けた方々がみな一緒になって支援していくこと。また、現地でそういったネットワークを広げて、
エンパワメントをしていくことです。政府だけではできないし、国連だけではなし得ない。市民社会にしかできないことが多くあります。ですからコミ
ュニティの参加・協力をグローバルファンドはとても大切にしています。
さらに政府と国際機関、市民団体、当事者の方たち、そういった人々が一緒になって計画を立てて、一緒に実施して、それをモニタリング・評
価して、成果を示す。このようなコーディネーション、調整メカニズムを国レベルに構築したこともグローバルファンドのイノベーションと言われるとこ
ろです。みんな頭ではわかっています。コーディネーションが大切だ、連携・協力は大切だ、と口では言うけれども、なかなか実施するのは難し
い。私も国連機関で働いていて、保健医療にかかわる主要な 3 機関で合同プログラムをつくりましたが、本当に苦労の連続でした。
2015 年、今年はとても重要な年です。MDGs(ミレニアム開発目標)の最終の年です。1990 年に比べて、本当に子どもの死亡が 3 分の
1 に減少したか。妊産婦の死亡が 4 分の 1 に減少したか。エイズ・結核・マラリアなどの新規感染が減ってきたか。それぞれの目標が達成した
かを最終評価する年です。幸いなことに、エイズ・結核・マラリアに関しては、多くの国で目標が達成され、世界全体としてはかなりの成功と言
えます。
ただ、先ほど言ったように、まだこれらの三大感染症で 1 日に 7000 人以上が死んでいます。いくつかの国では感染が増えています。マラリアは
手を緩めると再発する国や地域もあります。本気で感染症を抑えるためには、感染の多い場所・人口集団などにフォーカスを絞って、資金と
人をきちんと動かしていく。そして効果のあるサービスを最も必要としている人々、辺縁に押しやられている人々に届けることが大切です。
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われわれは 2030 年までにこれらの感染症を制圧をしようとの国際目標を打ち立てています。制圧というのは完全にゼロにするということでは
なく、人々が脅威と感じない、恐れなくてすむレベルに抑え込むということです。多くの国で感染症の発生や死亡を激減させて、人々の感染リ
スクを減らし、公衆衛生的な脅威から解放する。これをエンディングエピデミック(ending epidemic)と呼んでいます。
それを達成するには、私が考えるに五つのことが重要だと思います。一つは、資金の戦略的投資です。本当に必要なところに戦略的に資金
を活用していく。バリュー・フォー・マネーというのは効率です。限られた資金を活用して効果を最大化する。シナジーというのは相乗効果です。
単にエイズ・結核・マラリアだけではなく、母子保健や保健システムの強化につなげていく。ファイナンシングは、単に先進国から資金を集めるだ
けでなく、途上国政府が自らの予算を増やし、資金を保健分野に充てていく、民間セクターの資金を活用する、などがあります。5つめのイノ
ベーションは、新たに開発された治療薬・診断法を導入・拡大する、革新的な資金調達を模索する、革新的なプログラムやオペレーションを
導入・拡大するなどがあります。時間がないので詳細な説明は省きます。
グローバルファンドでは、世界全体で今までに 140 カ国以上を支援してきましたが、中でも本当に HIV が多い国は 20 カ国くらい、結核も
22 カ国が高負荷国ですので、資金や資源の分配を戦略的にする必要があります。また、対策が成功した国もありますが、失敗している国も
あります。新規感染が、過去約 10 年間でパキスタンは 9 倍、フィリピンも 6 倍にも増えているのです。こういった国では何が失敗したのか、ど
こを変えていかなければいけないかを学んでいかなければいけません。
同じ国の中でも、たとえばモーリシャスでは国全体の HIV 有病率は 1%なのに、薬物を打ち回している人たちでは同じ針を使い回すことで
HIV 感染が広がり有病率は 62%にも達しています。感染リスクの高い人々をキー・アフェクテッド・ポピュレーション(Key Affected
Population、KAP)と言いますが、そういうハイリスクの人たちに集中して予防・治療をしていくことも大切です。実は先週もフィリピンに行って
きたのですが、セブ島にあるスラム街で、針の打ち回しで薬物使用者に HIV が広がっています。感染を抑えるには、彼らへの更生プログラムと
ともに新しい針の交換プログラムも重要なのですが、ある政治家が、針を交換していたらドラッグユーザーが増えるのでやめろと言って、政治家
のその一声でプログラムが中止になりました。
それによって何が起こったかというと、一つの針で、10 人くらいが打ち回しして、HIV は広がり、一緒に C 型肝炎も広がっています。肝炎は彼
らの 80%にも達しています。彼らを犯罪者として扱うだけで、感染予防対策を施さなければ、人々はアンダーグラウンドに入り込み、問題は
大きくなる一方です。ハームリダクションと呼ばれる針の交換プログラムは世界的に効果があがる介入として知られてきているので、政治家など
への啓発がとても重要です。
南アフリカでは 2012 年時点で HIV 有病率が 36%にも達する地域があります。15~19 歳の女子は、男子の 8 倍くらい高いです。若い女
の子が年上の HIV 陽性の方とお付き合いする以外に、性暴力、レイプも多く、それで感染率が高いようです。人権、ジェンダーといった問題
に真剣に取り組み、現場で何が起こっているのかをきちんと分析評価しながら、それに適したプログラムをつくっていく。そういう細やかな活動が
必要ですし、ある時には人権を守るには国の法律を変えるための支援も必要です。たとえばゲイの方たちを犯罪人にして殺してしまい、そのよ
うな法律・政策によってかえって感染が広がっているような国もあります。人権を守り、感染を抑えるための支援も様々なアクターの協力が必
要となります。
抗エイズ薬の単価がすごく安くなったのですが、国によって大きな差があるので、それも是正していかなければいけません。
また、HIV・結核・マラリアのサービスを母子保健と統合していくことによって、子どもやお母さんの死亡、他の原因による死亡も減らしています。
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今、いろいろな機関と一緒に分析を進めています。今後、どのような努力をすればどのように感染を減らしていけるか、また放っておくとどのよう
に増えていくのかという将来予測です。たとえば、HIV 対策をこれから強化した場合は、しない時に比べて、2030 年までに HIV 感染を
2800 万人、死亡を 2000 万人防ぐことができます。これから本気で対策をするかしないかで、感染、死亡に大きな差が出るということです。
われわれは援助をいつまでも続けるべきだとは思っていません。大切なのは各国の自助努力ですから、それぞれの国の保健予算を経済状態
に合わせて増加させ、民間セクターからも資金を集めて、最終的には自立してもらう。グローバルファンドが必要なくなって、すべての国が自分
の力でプログラムを実施できればいいわけです。それを目指すには、今のところはグローバルファンドの資金を活用しながら、それをてこにして、
低中所得国の保健予算を増やして、またその国のキャパシティをあげていくことが重要です。
結核対策はとても難しくて、低中所得国では新規感染率が 1 年間に 1~2%の減少しかありません。これを 2030 年までに制圧するレベル
にもっていくには、より資源を動員して戦略的に投資する必要があります。さらにワクチンなどの予防法など、研究開発(R&D)もとても重要
です。
グローバルファンドに求められているのは、みんなで一緒にやっていきましょうというパートナーシップとともに、いままでなかなかできなかった革新
的なイノベーションを試しながら、いいものがあればどんどん導入して広げていこうというもの。よくあるのは、パイロットをやって、これはよかったで
終わってしまうこと。本当にいいものであれば、それをどうやって広げていくか。勢いが必要です。効果的なことでも、それが局地的に終わってし
まえば、感染を抑えることはできません。全国展開するには資金のボリュームが必要で、勢いも必要です。
長くなってしまいました。時間となりましたので私の講演を終わりたいと思います。ご静聴ありがとうございました。
三大感染症の今①当事者が語るエイズと共に生きること
ニティ マラウイ代表 クララ・バニャ氏
HIV/エイズと共に生きる国際女性コミュ
皆様こんばんは。クララ・バニャと申します。HIV と共に生きる女性の国際コミュニティのナショナルコーディネーターを務めています。2004 年、
私は HIV 陽性だということがわかりました。当時はまだレッテルを貼られ、差別が激しかった時代です。HIV だということで差別をされました。
女性であって、HIV になっているということで、非常に厳しかったです。私は間もなく亡くなると言われて、怒りが込み上げてきました。死んでし
まって、子どもを後に残すなどということはできないと思いました。
アフリカでは HIV の有病率は 10 代の若い女性は男性に比べて 3 倍ほど高くなっています。これはジェンダー格差、文化的な慣行ゆえです。
女性の有病率のほうが高くなっています。医師は私に治療することを拒否しました。私は日和見感染ではないと言って、治療を拒まれました。
当時、マラウイは ART が導入された時期でしたが、200 未満の免疫であれば治療を受けることも可能でした。あるいは下痢症状がある、皮
膚がん、髄膜炎などの疾患にかかっていれば治療を受けるチャンスもありました。でも、私はかかっていませんでした。そして免疫を測る機械も
3 機しかなくて、非常に遠い病院まで行かなければいけませんでした。免疫の測定のために 400 キロも行かなければいけませんでした。体力
がなくなってしまって、当時、1 歳 4 カ月だった娘を抱き上げることもできなくなってしまいました。私の免疫は 32 と出ました。
私の夫と娘もやはり HIV の陽性です。2 人とも耐性結核を患いました。私は妻であり、母であるので、2 人の看病をしながらぞっとしました。
私も死んでしまう。私も結核にかかってしまうと、暗くなりました。当時、多剤耐性結核に罹患するということは、死刑宣告を受けたようなもの
です。でも、夫も娘もグローバルファンドのおかげで生存することができました。多剤耐性結核の治療をグローバルファンドが提供してくれたから
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です。私がこのようなトラウマを経験したことで、ほかの人はこんな経験をしないようにと思い始めました。そして HIV の蔓延をストップさせるため
に、何か貢献できないかと思いました。
グローバルファンドが 2003 年にマラウイに投資を始めましたが、そのときのマラウイの国内の状況は劣悪でした。多くの人たちが HIV で死亡し、
病院は満床で、レッテルを貼られ、差別をされ、生産人口の若い人たちが多く亡くなっていきました。したがって国の経済も低迷してきました。
HIV と共に生きるマラウイのネットワーク、また HIV と共に生きる女性の国際コミュニティ、両方に参加して、レッテル貼りと差別と闘うことにし
ました。そして無料の ARV を推進するために働こうと思いました。若い人たちが亡くなっていきますが、貧しいと治療を受けられなかったのです
が、グローバルファンドのおかげで治療は無料で受けられます。HIV と共に生きる人たちは、治療費を払わなくていいのです。また、HIV と共に
生きる人たちが、早期の結核の診断を受けられるように、アドボカシーを行いました。結核と HIV
で二重感染をすることに対する意識喚起を図り、ARV とともに投薬をすれば、結核も治療可能
であるという認識を高めてもらう努力をしました。
グローバルファンドには非常に感謝しています。私、私の家族、そしてグローバルに、また国のため
にも尽くしてくれました。15 年前にできたファンドですが、1700 万人の人たちが結核・マラリア・
HIV から救われました。ARV にアクセスできる人も 20%に増えました。2002 年当時はわずか
1%でした。結核の症例の 66%が診断され、治療されています。2002 年当時は 32%でした。
これによって結核による死亡が大幅に減りました。
グローバルファンドが投資する中で、5 億 4500 万張が普及しましたし、2003 年当時は 3%しか蚊帳を使えなかった 5 歳未満の死亡率は、
68 の国で 3 分の 1 まで減りました。2003 年から 2013 年までグローバルファンドが投資したおかげです。マラウイは一つの国として、マラリアが
多かったのですが、私の家族もその例外ではありませんでした。免疫が低下していたからです。でも、蚊帳、また抗マラリア剤がグローバルファン
ドを通じて提供されました。グローバルファンドから受けたマラウイへの支援を大変うれしく思っています。
2003 年に娘が生まれて、感染してしまいましたが、グローバルファンドから 2007 年に支援を受けて、2 人目の子どもをもうけることにしました。
母子感染予防プログラムがあったからです。2 人目の子どもは HIV に感染していません。マラウィでは非常にすぐれたプログラムとして、母子感
染予防プログラムが現在実施されるようになっています。これはオプション B プラスと言われていて、このプログラムを通じて 96%の乳児が HIV
に感染せずに生まれています。
このように成果を上げてきたにもかかわらず、マラウイはまだ問題が残っています。マラウイの HIV 感染者の 80%が治療を必要としています。
ところがそのうちの半分しか治療にアクセスできていません。ARV センター、ART センターへの通院距離が非常に長いと、投薬をやめてしまうと
いうことが多く起きています。通院の距離が長すぎること、そして女性は通院できない人が多い。なぜかというと、経済的なハンディキャップがあ
るからです。したがって、移動型のクリニックがもっと必要です。
国連合同エイズ計画のグローバルターゲットにより、90%の人が HIV に感染していることを知り、90%の陽性の人たちは治療しなければいけ
ない。そして治療した 90%の人たちがウイルスを抑制できる状態にする。それを 2020 年までに達成するという目標です。また、WHO も新た
な HIV の治療ガイドラインを出しました。ということは、HIV と共に生きる人たちは、HIV 陽性だとわかったとたんに治療に入らなければいけま
せん。
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これはマラウイにとって、非常に大きな実施面での課題になっています。この先、数字も上がりますし、治療に対する需要も増えていくと思いま
す。マラウイは感染者のうち 80%が治療を必要としています。これはリソースが限られているからです。治療をする人が増えれば、よりリソース
が必要になります。でもすでに逼迫しています。リソースが減る中で、これが大問題になってきます。
マラウイは国として 3 億 2300 万ドルのグラントを受けることになっていますが、これでもまだ不十分です。HIV での死亡が増えた時期もありま
したが、グローバルファンド、ほかの協力者のおかげで死亡率を何とか抑え込もうとしています。したがって、HIV と闘うための継続的な支援が
あれば、エイズを終わらせることができる。2030 年までにできると思います。グローバルファンドにぜひ支援を増やしましょう。そうすることで過去
15 年間の成果が無駄にならないようにしたいと思います。グローバルファンドへの投資を増やすことは、こうした感染症をなくす歴史的なチャン
スになる。そういう意味で重要です。
グローバルファンドが支援しているのは、エビデンスベースへのサービスであり、権利ベースのサービスです。必要なコミュニティにそれを届けること
がグローバルファンドはできます。グローバルファンド、ドナーコミュニティは私たちと共に生き、そして当事者の意見を聞いてくれました。私たちの
課題を見据えて、生きる力を養い、増収して、将来にはこの疾病をなくしてしまいしょう。以上です。ありがとうございます。
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三大感染症の今②マラリア制圧
リ・カウール氏
支援戦略の構築
Malaria No More アジア・太平洋局長アンジャ
皆様本日はご参加ありがとうございます。また、多くの人の話を聞くのは辛抱
も必要だと思いますので、できるだけおもしろいプレゼンテーションを心掛けた
いと思います。多くの人が同じようなことを言っておりますので、マラリアについ
ては新しい情報だけに限ってお伝えしたいと思います。なぜマラリアはいま以
上に注意する必要があるかということを申し上げたいと思います。アジアにお
けるマラリアの制圧です。
アジアの状況を説明する前に、全体についてお話ししたいと思います。マラリ
アは世界で最も古い疾患の一つです。非常におもしろいと思う言葉がありま
す。石器時代以来起こった死亡の半分以上が、マラリアが原因です。つまり、
蚊が起こしている死亡です。マラリアを超えてほかのさまざまな病気を見ると、
蚊は最も死亡率の高い原因の一つです。したがって、蚊にどう対応するか。
特にマラリアがそれほどないようなところでも、個人的にどう影響するのかということを考える必要がありますし、グローバルな視点で見ていく必要
があると思います。
ここでのお話は、ライフサイクルについてです。現在、マラリアで死亡するのは毎年約 50 万人です。1 分に 1 人くらいです。そしてさまざまな進
歩が過去 15 年に見られましたが、それを認識することが大事です。600 万人が助けられ、死亡率を過去 15 年で 50%下げることができまし
た。しかし、まだできないことがあります。それは現在もまだ 50 万人が死亡している。それを減らすことができていません。そこでライフサイクルを
見てみたいと思います。私はマラリアの研究をしている者として、大変おもしろいと思っています。この技術、あるいはキャリアの中でこの研究をし
ていない人にとっては、これはどういう意味を持っているでしょうか。基本的にマラリアの原因は、四つの主な寄生虫があります。そのうちの二つ
が死亡に影響する一番大きな負担となっています。
現在は主な寄生虫であるメスの寄生虫があります。これが最初の人間の宿主に伝わります。そして人の最初の宿主が感染すると、その感染
は肝臓に留まります。ライフサイクルは複雑です。感染性の蚊が人を刺すと、寄生虫が血流の中に注入されて、そこから直接肝臓に行って、
成虫になるのに 6 日かかります。しかし、その間は感染した人には症状は出ません。それはあとで現れます。
そして次の蚊が来て、次の人を刺してしまう。そうすると寄生虫がほかの人にうつります。そして次の人の宿主の肝臓に入ります。このライフサイ
クルを理解することが大変大事だと思います。マラリアに感染したというときに、どういうプロセスを経ているのかということを理解することが大事だ
と思います。
マラリアは 1900 年はどういう状況だったでしょうか。ご覧のように、マラリアのグローバルでの制圧状況はこういう状況でした。約 20 万年前から
ある疾病で、1900 年にはこれだけ広がっていました。これはどういうコミュニケーションが必要なのか、グローバルにどういうことが伝わっているのか
ということです。それぞれ違うかたちでこの病気のことを伝えています。日本を探したのですが、見つかりませんでした。
グローバルな状況をご紹介したいと思います。図に示したのはアメリカです。隣が中国、下がモザンビーク、左はトルコの報告です。1940 年代、
50 年代のものです。マラリアはどのようにグローバルに理解しているのか。そしてどうやって人を助けることができるのか。どういう行動を取っている
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のかという例です。マラリアは減少しています。1970 年にはこのように減っています。1990 年、そして 2015 年は、さまざまな努力の結果、マラ
リア・ノー・モアでやっている技術的な努力、さまざまなこともこれに貢献していると思います。
では、何を目指しているのでしょうか。現在、グローバルファンドでは病気ごとにさまざまな計画があって、マラリアの目標が設定されています。
2030 年までにアジアで、世界では 2040 年までになくそうとしています。2025 年はこれを目指しています。カリフォルニア大学サンフランシスコ
校がこの研究をしています。これが病気に対してどうインパクトするのか。グローバルな視点で見て、自分の地域にはどう影響しているのか。また、
これを完全になくすにはどうなるかということを表しています。
2040 年の図はアジアにとってどういう意味を持つのでしょうか。マラリアはいま起きている多くはアフリカですし、死亡の大部分もアフリカです。ア
ジアはほとんどの人たちは目についていません。日本ではほとんどないと思います。しかし、なぜアジアが重要なのでしょうか。一つは、マラリアの
ない世界をつくる一歩として大事です。また、アジアでは多剤耐性が見られます。薬剤耐性が医療に影響しています。
マラリアが世界の中で 2 番目によく見られるのは、アジアの 3 カ国、インド、インドネシア、ミャンマーです。負担の 96%となっていますが、この
問題には対応できることはわかっています。また、最も脆弱なグループにターゲットを絞ること、移民とか移動している部族、つまり特定されてい
ない人、ほかのサービスではアクセスできない人たちです。これらがアクセスできない、診断を受けていない、取り残された人々です。1960 年代
に薬剤耐性が始まりました。そして現状です。3 年から 5 年に 1 回、薬剤耐性が見られます。
こういったシナリオを考えたときに、なぜいまが大事なのか。マラリアをグローバルに見て、なぜ大事なのでしょうか。現在、基本的には死亡を減
らすことができています。アフリカでは死亡率が 69%減少しており、現在、ターゲットをグローバルに目指しています。WHO がマラリアチームで
つくったプログラムがあって、またゲイツ財団やそのパートナーも貢献しています。どのようにして 2040 年、2030 年の目標を実現するかというこ
とです。そしてアフリカに注目してきました。いまあるリソースと、いまの勢いでこれからどうするのか。グローバルに展開する必要があります。そして
私たちが設定しているこの地域でのターゲットは、実現可能でなければなりません。
また、資金提供者にも目を向けています。大部分の資金はドナーから来ています。アメリカ、英国、グローバルファンド、しかしこれをもっと国内
のファイナンスに展開するにはどうすればいいでしょうか。この地域の多くの国は、現在、資金に対してアクセスできません。グローバルファンドなど
の主なドナーからアクセスできない。そうすると自分たちのリソースを得るにはどうすればいいでしょうか。さらに国民のニーズに応えていかなけれ
ばなりません。病気を完全になくすことは実際にできると思います。
それから MDGs があります。現在、SDGs となりましたが、 MDGs が主要なトリガーだと思います。マラリアの位置づけという意味で大事だとさ
れています。MDGs も SDGs もある物語の一部であって、ほかにも要素があります。ほかにもイニシアチブ、コミットメントが必要です。この地域
からも、国からも、政治からも、市民社会からも、これを現実にするためにはさまざまな分野の人が必要です。
そこで私たちは何をやっているか。マラリア・ノー・モアは、政治とアドボカシーにフォーカスした NGO です。日本にもオフィスがあります。また、シア
トル、ニューヨーク、ワシントン DC にもオフィスがあります。私たちのオフィスを通して政治的な意思をつくり、必要なリソースをマラリア対策に取
り入れようとしています。現在はこの地域(ニューデリー、ジャカルタやバンコクなど)で今後もオフィスをつくる予定です。そしてマラリアについて
の政治を変えて、この地域のマラリアの対応も変える。地域のリーダーがどう経済的に対応するかということを変えたいと思っています。私たちは
ターゲットを絞ったアドボカシーモデルを使って、マラリアをグローバルのヘルスアジェンダの中で位置を上げて、資金調達のための政治家のサポ
ートに移していく。これによって専門的なスキル、主要な関係、あるいは戦略的なフォーカスを合わせてインパクトを与える。
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このモデルの意味ですが、これはビジョンですが、実際にどうするのかということです。必要なインパクトを与えるためには、マラリア・ノー・モアのモ
デルでは、メディア、エンターテイメントセクターを活性化する。ビジネスセクターを活用する。いわゆる主要な影響力のある人たちを動員する。
技術的なパートナーを活用する。そうすることで戦略的なコミュニケーションをし、アドボカシープラットホームをつくって、最も高いレベルの意思
決定者に影響しなければなりません。そうすることでインパクトができます。マラリア・ノー・モアは全体のパズルの一部でしかありません。私たちに
はこの中で欠けているピースがありますが、それは付加価値があるものです。何が必要なのか、どうやっていまあるものを変えることができるのか
ということです。
簡単に、実際にアメリカで起こっている例をご紹介したいと思います。このモデルの成功をご紹介したいと思います。インパクトは毎年 12.5 億ド
ル調達しています。これは 270%の資金の増加です。これはタイム・ワーナーなどのビジネスパートナー、主要な影響力のある人、テクニカルパ
ートナーとの関係によるものです。これは WHO やユニセフなどもかかわっています。そしてブッシュ大統領といった意思決定者にも影響すること
ができました。そしてマラリアイニシアチブができて、資金が提供されました。では、資金としてどういう意味を持っていたのか。過去七、八年の状
況を表しています。主要なパートナーは、ご覧のように、すでにお話が出たパートナーですが、住友化学も重要です。そういった意味で、私は
日本には大変感謝しています。日本は昨年から東アジアサミットの締約国になっていて、ほかの 17 カ国とともに決めて、マラリアはなくすことが
できるということを実現しようとしています。
日本は大きな責任を担っていますし、ぜひその責任を全うしていただきたいと思います。住友化学のようなパートナーとともに、民間部門やその
ほかの主要な参加者にもかかわってもらうことができると思いますし、日本はリーダーの役割を果たすことができると思います。ほかの疾病でも
同じですが、グローバルファンドとともに、ほかのパートナーシップを通して実現していきたいと思っています。
では、アジアの戦略です。特にマラリア・ノー・モアとしては、必要な資金を調達すること、そしてマラリアをこの地域でなくしていく。インド、インド
ネシアを考えると、いまの 1000%の資金が必要です。国内の資金がないからです。資金調達ができる国、日本が政治的な影響力を発揮し
て、どうやってこれが実現できるか。さらに地域的な資金も必要です。たとえばインド、インドネシアのような資金源がない地域での医療の安全
保障をどうやって守るのか。アジア太平洋地域全体として、マラリアをなくすうえでの主要なマイルストーンがある地域だと考えています。ありがと
うございました。
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三大感染症の今③結核
ストップ結核パートナーシップ日本理事
成瀬匡則氏
初めまして。成瀬匡則と申します。今日、この分野のエキスパートの皆さんが
いる中で、私 1 人、まったくエキスパートではないのですが、多剤耐性結核の
元患者として簡単にお話しさせていただければと思います。
この時期になると毎年思い出すのですが、いまから 8 年前、2007 年 6 月か
ら 12 月まで、およそ半年間に二つの病院で多剤耐性結核の治療を受けて、
いま五体満足で生活しております。当時、私は民間企業の営業職として勤
務していたのですが、自分の周りには結核に感染するような友人や知人、家
族はいませんでした。ある日、急に体調が悪くなり、単なるか風邪だと思い、
仕事が忙しかったので、何となく体調が悪いだけだろうということで 3 週間ほど
市販薬だけで放っておいたのですが、なかなか熱が下がらず、体調が悪い状
態が続いていました。
近くにある小さなころから診てもらっている、おじいちゃん先生のクリニックに週に 1 回のペースで、「体調が悪いのですが、何の病気でしょうか。
単なる風邪にしてはちょっとおかしい」と言ったのですが、先生も「成瀬さんは忙しくやっているから、寝不足もあるだろうし、様子を見て」というこ
とで、風邪薬を 1 週間に 1 回のペースで、2 回もらったのですが、それでもまったく効かない。改めて家の近所にあった大学病院に急患というか
たちで診てもらったのですが、そのときには夜になると熱が 39 度、40 度を超す日もありました。明らかに様子がおかしかったので、急患というか
たちで慈恵医大に行きましたら、たまたまそのときの当直の先生が、「ひょっとしたら結核の可能性があるので、検査を兼ねて系列の病院に入
院してください」ということでした。僕自身、仕事がすごく忙しくやっていたこともあったので、検査を兼ねて入院ということであれば、正直な話、ち
ょっとゆっくりできるという程度に軽く考えていました。
荷物をまとめて翌日病院に向かったのですが、向かった先は、話では聞いたことがあったのですが、いわゆる隔離病棟でした。僕の中には病院
のイメージはもちろんあって、家族が事故で入院したことはあったのですが、隔離病院は本当に世の中に存在するのかと思いました。二重の扉
があり、そこから先は患者さん、マスクをした医療従事者がいました。ただ、そこまで重症ではないと思っていました。ご飯も食べているし、体調
が悪かったとはいえ、仕事にも行っていました。
結果、3 カ月そちらの病院でお世話になったのですが、普通の結核ではないということで、そのときに知ったのが多剤耐性結核(MDR-TB)
でした。先生にそう言われても、僕の中では MDR-TB とは何ですかという感じでした。たくさんの薬、1 日 20 錠くらいだったと思いますが、毎
日のように飲んでいる中で、入院して 2 週間もすれば熱も下がり、咳も出なくなったので、ある意味、体はピンピンでした。
そういうような病気にかかっていたとはいえ、薬もこれだけ飲んでいるし、体調も戻っているので、「退院してはだめですか」と聞いたら、「とんでも
ない。申しわけないけれども、うちの病院ではもう診られないので、もっと専門的な病院に行ってほしい」ということで転院を促されました。僕自
身、この病気についてまったく知ることもなく、入院中にも、看護師さんたちは「成瀬さんは若いし、死ぬことはないから大丈夫だよ」と言ってくれ
るものの、中には亡くなっていく患者さんがいるのを目の当たりにしていました。この病気に対する無知が故の不安な気持ち、これからどうなって
いくのだろうか。そして目の前で亡くなっていく患者さんがいる中で、本当に大丈夫なのかということで死への恐怖、それに輪をかけて、隔離病
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棟に入院するということはどういうものか想像もできなかったですし、そこの中で初めて感じたのは、本当に世の中のばい菌扱い、社会の隅に追
いやられて、外に出ることもできず、自由がまったく奪われた状態であるということでした。
ある患者さんは、隔離病棟は鉄格子のない刑務所と変わらないと言っている方もいました。すごくショックな言葉だと思いながら、僕自身、絶
対にここでひっそりと死ぬわけにはいかない。治療については専門の先生たちにお任せして、僕自身、入院中にどんなことができるのだろうか。
病気に負けないためにどういう気持ちでこの病気に向かっていけばいいのだろうと、毎日のように自問自答、自分との闘いでした。
二つ目の病院に転院して、おかげさまで専門の先生に診てもらうことで、本来であれば片方の肺を取る外科手術が必要だと言われていたの
ですが、幸運なことに手術もせず、退院することができました。当時、僕と仲よくしていた入院患者の仲間で、僕より少し年が上の方、小学生
の娘さんが 2 人いる方がいました。東京の方ではなく、宮城のほうから来ているとおっしゃっていたのですが、なかなか家にも帰れない。家族に
も会えない。「五体満足で退院できるのであれば、医療従事者だけに感謝の気持ちを持つのではなく、世の中のいろいろな人に感謝の気持
ちを持って、これから社会復帰をすべきだよ」と言っていました。
日本では結核になると治療費の 9 割くらいは助成金で賄われます。僕自身も少ない金額で治療を受けることができました。本当にラッキーで
した。適切なタイミングで適切な治療を、自分自身が負担可能な金額でできました。そしていまこうやって普通に生活できている。本当に大
切で重要なことであり、たとえば肌の色が違う、たとえば言葉が違うといったことでこういった治療が受けられないような状況は、いまでも世界に
たくさんある。そういった治療が受けられない人たちがたくさんいる。すごく悲しいことであり、僕自身、元患者としていったいどういうことができるの
だろうか。7 年、8 年経ったいまでも、常々考えています。ただ、僕はこの分野のエキスパートでもないですし、政策的に何か力を持っているわ
けでもありません。ただ、僕自身がいまできることは一つです。こういった思い、こういった経験を広く一般の方に伝えていく。そういったことが僕自
身にいまできることではないかと考えています。
実は 2 週間ほど前ですが、こんな僕の病気も理解してくれた彼女と結婚することができました。結婚式の席では、ちょうどこれくらいの人数、七、
八十人くらいの方に参列していただいたのですが、中には僕の病気を知らない方、また結核自体を知らない人もいました。幸せな席でしたが、
あえて実はこういうことがあって、あの病気が僕自身の人生の中で大きな起点になったという話をしました。人前で結核の話をするのは少々恥
ずかしい気もします。こういう話をすることで、中には差別的な目で見てくるような方もいらっしゃいますが、こんな声も上げられずに亡くなってい
った方々が身の回りにいたことを思い出すと、恥を忍んででもこういう話はすべきだと考えています。
これは日本国内だけではなく、実際にストップ TB のほうで理事としていくつかの国にも行かせていただきました。そういったところでほかの国の患
者さんとも交流することで、同じ病気を持って悩んでいたり、病気に対して諦めるような気持ちでいる方々に対して、「そうではないんだよ。もっ
と前向きに頑張れば必ず治療が受けられる。絶好のタイミングは来るし、病は気からではないけれども、気持ちがすごく重要なんだよ」というよ
うなことを話させていただくこともありました。
病気になってからだいぶ時間は経っていますが、これから引き続きこういったタイミングがあれば、どんどん発言させていただきたいと考えています。
今日はお時間をいただき、ありがとうございました。
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パネルディスカッション:三大感染症と SDGs:つながり、課題、見通し
司会 パネルディスカッションに入る前に、電報をいただきましたのでご紹介させていただきます。日本・AU 友好議員連盟会長で、グローバル
ファンド日本委員会議員タスクフォース代表幹事である衆議院議員の逢沢一郎先生よりメッセージをいただきましたので、代読させていただ
きます。「本日の国際シンポジウムの開催を心よりお喜び申し上げます。三大感染症対策は国を越えて至急に取り組まなくてはならない深
刻な課題であることを言うまでもありません。より多くの方へこの問題への意識を高める会となりますよう期待しております。皆様のさらなるご健
勝とご活躍をご祈念いたします」。
それではパネルディスカッションに入りたいと思います。それでは皆様、ご登壇どうぞよろしくお願いいたします。
稲場 今日はたくさんの方に参加していただき、どうもありがとうございます。三大感染症ということで、いままでもいろいろなお話を聞いてきたわ
けですが、三大感染症はずっと取り組まれてきましたが、特に 2000 年に始まったミレニアム開発目標(MDGs)の時代、この 2000 年から
2015 年、今年まで、世界はまがりなりにもエイズ・結核・マラリアの三大感染症に正面から向き合って取り組んできました。そういう意味では、
この 15 年間は非常に貴重な 15 年間であったと言えると思います。その背景には、世界中の三大感染症の当事者、関係者、市民社会、こ
うした人々の積極的なアクションがあったと言えると思います。まさに市民社会の行動こそが世界の積極的な対応を引き出したと言えると思い
ます。本日こちらに集まっているパネリストの方々は、いずれもエイズ・結核・マラリアというそれぞれの感染症に対して、当事者として、また市民
社会の活動家として運動のリーダーシップを取ってきた方々です。そういうような人たちのお話を聞くことができるというのは、非常に貴重な機会
だと思っているところです。
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感染症の問題ということですが、なぜこの三大感染症に皆さんが一生懸命取り組んでいらっしゃるのか、どうして感染症への取り組みを始めた
のか。そしていまどのような気持ちで取り組んでいるのか。こういったところに関してお話を聞いていきたいと思います。先ほど司会の長島さんが
紹介した順番で聞いていきたいと思います。最初に、アジア太平洋地域のエイズ問題に取り組まれているレイチェル・オンさんからお願いいたし
ます。
オン レイチェル・オンと申します。シンガポールから来ました。クララと同じで、18 歳のと
きに診断されました。いまの年齢は言いません。何歳かわかってしまうので、何年かか
っているかは言いません。それがきっかけとなって、2009 年、グローバルファンド関連の
課題にも取り組むようになりました。参加したときに、グローバルファンドはすでに急速
な変化を遂げつつある組織でした。各国への資金の供与の仕方という意味でも、方
向性、コミュニティに対する働きかけ、最も脆弱な人たちに対する取り組み、意思決
定など、いろいろと変わっていて、私としてもやる気が出て参加したわけです。クララが
言ったように、ここ何年か成果を見てきました。どれだけの人たちの命が救われたのか、
また感染を予防できたのか。その成果を見るたびに、ますますやる気が出てきていると
いう感じです。
稲場 ありがとうございました。当事者としてアジア太平洋地域のエイズの問題にずっとかかわってこられて、グローバルファンドのコミュニティの代
表団のコミュニケーション・フォーカルポイントとしても活動されている、一生懸命やられていると思います。
ムンバ ありがとうございます。オリーブ・ムンバと言います。ご紹介いただいたように、タンザニアで活動していますが、マラウィの出身です。私はマ
ラウイで生まれて教育を受けました。それからタンザニアに移りました。クララが、HIV がコミュニティにどう影響するかということについて、ずいぶん
お話しされました。4 人の姉妹を亡くしました。そのうち 2 人は、私の姉妹と夫と子どもたち、みんなが二、三年の間に亡くなってしまいました。
また、ほかの姉妹もそうです。娘が HIV に感染し、16 歳で亡くなりました。そういった意味で、多くのレッテルを貼られました。私自身、それを
経験しています。私は母とともに姉妹の面倒を見ていました。HIV がどう影響するかということを目の当たりにしましたし、私たちはある意味で
分離されてしまいました。私は金融セクターの企業で働いていました。そのときに草の根活動を始めようとして、予防や認識活動にかかわること
にして、EANNASO に入る前に子どもたちと働いていました。16 歳の私の姉妹ですが、死亡する前に治療があればよかったと言っていたのを
忘れることができません。ですから私にとっては戦いです。HIV の治療が必要な人には治療が受けられるようにしなければいけないと思います。
稲場 ありがとうございます。今度は結核の話になります。サラ・カークさんは結核に取り組んできていますが、結核に取り組む思いを教えてい
ただければと思います。
カーク ありがとうございます。私の動機づけ、なぜ結核に取り組むようになったかお話ししたいと思います。先ほど成瀬さんがおっしゃった話に似
ているところもあります。フィリピン人のルイという友人がいました。私のことを信じてくれて、時間をとってカラオケに連れ出してくれたりしました。私
はカラオケが大嫌いですが、よく付き合ってくれました。ルイは 20 代前半に建築士になる勉強を終えて、就職をして、楽しい生活を送っていま
した。ボーイフレンドもできて、パーティーもしていました。新年だったので帰省して倒れました。忙しくしていたし、楽しい日々を送っていて、疲れ
ていたのだろうということで病院に連れていきました。そうしたら入院して、非常に悪くなっていきました。検査に次ぐ検査で、2 週間、3 週間経
って、ルイは結核だったことがわかりました。しかも最悪なことに、多剤耐性結核性の髄膜炎でした。
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誰でもどんなかたちでも、結核に罹患するというのはひどいことです。でも、通常の結核であれば、6 カ月から 9 カ月治療を継続すれば治癒し
ます。しかし、多剤耐性ですと 2 年間かかります。2 年間の治療をルイは始めました。ひどい副作用に悩まされました。毎日痛みを伴う治療を
し、注射をし、2 年に渡って毎日 14 錠の薬を飲んでいました。痛みもひどく、抑うつ状態になって、精神病質にもなりました。ボーイフレンドとも
付き合いをやめました。いつも「入院中なのにボーイフレンドと付き合ってもしょうがないじゃない。病気なんだから」とか、「不妊になるかもしれな
い」とも言われました。
ある日、あることに気がつきました。よく周りが見えない。暗くなってくると目が見えにくくなると言って受診しました。副作用だと言われたそうです。
薬剤のせいだから、そのうちよくなると言われました。でも、どうしようもありませんでした。投薬をやめるわけにはいかない。死んでしまうからです。
投薬を続けて、結核を治療し、見えにくくなるのが治ればと思っていました。残念なことに、副作用はなくなりませんでした。現在は完全に視覚
障害となって、目が見えません。建築士になろうと思っていたけれども、その専門職に就くことはできません。ボーイフレンドはそれでもいいと言っ
てくれたのですが、「視覚障害なんだから付き合ってもしょうがない」と言いました。
ところがいまはとても幸せで、かつてのボーイフレンドと結婚して、自宅も建てて、生活を立て直すことができました。アクティビストとして、結核と
障害者のために働いています。彼女はみんなに言っています。結核のせいで視覚障害になったのではない、副作用のせいだ。2 年間経って、
視覚障害、聴覚障害、不妊になったりするけれども、最終的には治ってカラオケに連れ出そうとしてくれます。いろいろな国に行ってアドボカシ
ーをやっています。議員にも働きかけをしています。結核について話をし、世の中を変えようと頑張ってくれています。
稲場 ありがとうございます。先ほどの成瀬さんのお話にもあったと思いますが、多剤耐性結核はクララさんのお話にも出てきたと思います。この
多剤耐性結核については非常に大きな問題ですので、ぜひとも今回のシンポジウムで覚えて帰
っていただきたいと思います。
ダ=ガマ マラリアに対する私の情熱が始まったのは、大学生のときでした。感染症の勉強を始め
たころです。専門的な便用をし、ある週末に家に帰って、母親が、私自身が奇跡的な存在だと
言いました。私を妊娠しているときに、母親はマラリアに罹患したそうです。アフリカ生まれですが、
アフリカにいたときのことだと母に知らされました。なぜ生まれたのか、なぜ母親は死ななかったのか。
彼女は治療できたからです。母が治療を受けられたので、2 人とも死ななくて済みました。治療
は 3 日間、6 錠の錠剤で治癒したということでした。その結果、私が生まれました。ですから勉強
の一環として感染症の勉強もしようと考えました。研究や専門的な勉強を、仕事を通じてやろう
と思いました。
マラリアの原因究明、あるいは蚊帳などで予防すること、治療、診断にアクセスするという意味では大きな進捗がありました。現場に行くと、専
門的にわかっていること、技術的にわかっていることが、私が働いているコミュニティでは実は生きていない、実施されていないことがわかりました。
ショックでした。乳児を看取らなければいけなかった。なぜか。治療を受けられなかったからです。この 15 年間で治療へのアクセスは増え、かつ
治療が奏功しているにもかかわらずです。また、耐久性のある蚊帳で予防ができるにもかかわらずです。
予防ができ、治療でき、治癒できるのがマラリアです。したがって私には不可解でした。なぜ 300 万人もの子どもたち、女性、男性が毎年マラ
リアに罹患して死亡しなければいけないのかわかりませんでした。ですから研究に力を入れるのではなく、コミュニティで仕事をしようと思いました。
大学、学術機関で得た知識を現場の人々にもたらして、その情報を使って命を救えるようにしようと思いました。そして予防、治療、診断への
アクセスを要求できるようにと思いました。
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幸いなことに、その間、カメルーンで仕事をしていたのですが、非常に有名な南アフリカ共和国の音楽家が会議に出席してくれることがわかりま
した。イボンヌ・チャカチャカというアーティストです。彼女が情熱的なコミットメントを持ったアドボケイトとなってくれました。ガボンで音楽をやって、
南アにおけるアフリカ系の政治参加 10 周年記念で来たときに、バンドメンバーの 1 人が罹患していることがわかって、南アに戻ってきたときに倒
れて、病院で誤診をされて、誤った治療を受けて、二日後に亡くなってしまいました。そのバンドメンバーが亡くなったときに、チャカチャカはもっと
勉強しようと思ったそうです。なぜこんなに多くの子どもが亡くなっているのか。こんな大問題をなぜ自分は知らなかったのだろう。バンドメンバー
が亡くなったことで、彼女も意識が高まったそうです。カメルーンで彼女に会ったときに、協力しようということになり、10 年間協力してきました。
富裕な国では当たり前の知識をサハラ以南の諸国にもたらそう、提供しようと思ったわけです。そうすることでサハラ以南の諸国の人々も、予
防、治療、治癒ができるようにと思いました。
稲場 ありがとうございました。いまの 4 人のお話を聞いていると、三大感染症はみんなが当事者だという感じがします。たとえばお友達が病
気にかかったり、また親御さんがマラリアでというようなお話だったり、HIV エイズにしても、誰もが当事者になりうる。そして私たち一人ひとりが三
大感染症の問題の当事者になりうる。また、この三大感染症の主人公でもあるということが言えると思います。
では次の質問に行きたいと思います。先ほどミレニアム開発目標の 15 年間でエイズ・結核・マラリアの問題はかなり進展したと言いました。進
展したというのが、もうこの問題はいいのではないか、ほかのことをやろうというような感じになってしまっているような部分もなきにしもあらずだと思
います。では、実際のところはどうか。いまの三大感染症の状況はどうなっているのか。そして、それぞれの皆さんはどういう戦略を用いてこの問
題に取り組もうとしているのか。このへんについて皆さんから聞きたいと思います。いまの順番で、レイチェルさんからお願いします。
オン 挙手をお願いしていいですか。HIV・結核・マラリアの分野で働いていない、三大感染症に関係ない仕事をしている人は手を挙げてくだ
さい。大半の皆さんが関係しているということですね。皆さんがすでに知っていることをわざわざ言いません。特に HIV を取り上げたいと思います。
HIV が若干ユニークなのは、結核も似ているところがありますが、最も貧しい周辺に追いやられた人たちに影響を及ぼすということです。マラリ
アは本当に難しい感染症ですが、マラリアに罹患すると治癒することはできます。いつも思っていたのは、HIV の治癒ができたとしても、セックス
ワーカーとか、男性とセックスをする男性とか、難民とか、国内難民、あるいは獄中者とか、こうした人たちの烙印を押されて差別される。
そういう意味では、HIV は若干ユニークであるということです。それだけ対応が難しいということです。多くの国が直接こうした課題や政策に取り
組みたくない。正面から取り組みたくない。法的な障壁もあるし、アクセスを高めるとか、治療を安価にするといった施策をなかなか取ってくれま
せん。アジア太平洋諸国がユニークで、かつアフリカ地域と比べて違うのは、人口が最も多い国が集まっている。インド、インドネシア、中国とい
った人口の多い国があります。タイ、ベトナム、ミャンマー、マレーシアといった国々を入れると、域内における 90%を占めています。49%の感
染がインドです。パプアニューギニアは HIV に罹患している絶対人口では 39 万と一番大きいです。
統計は Google で検索すればいいのですが、私が言いたいのは、もっと投資が必要である。もっと政治的な意思が必要だということです。三
大感染症に取り組むには、もっとそういったものが必要です。國井先生がおっしゃいましたが、実際に達成したいところに近づいています。目標
に進んでいるけれども、あと一押しが必要です。そうすることでこの疾病を終わらせることができる。それには政府の政治的な意思が必要です。
グローバルファンドがなぜユニークかというと、各国の人権の問題にも取り組んでいるからです。二国間の支援ではこれができていない。ご存じ
の方もいるかもしれませんが、英国の開発庁は二国間での支援をしていますが、セックスワーカーに対する資金供与はできていません。したが
ってグローバルファンドは、数少ない組織の中で、実際にプログラムやサービスとして最も社会の周辺に追いやられた人たちに対する提供もして
いるということです。とりあえずここまでとします。
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ムンバ レイチェルもすでに話しましたが、アフリカ、特にアフリカの南部、東部が大きなインパクトを受けた地域です。1990 年代、罹患率は 23
~30%以上になりました。そしてアフリカ東部は 13%だったのが、18%にまでなりました。しかし現在、有病率は下がっていて、アフリカ南部で
は 10%、東部は 3~6%です。HIV はアフリカでは確かに有病率が高く、新しい感染が増えています。ザンビア、ウガンダが 13%、あるいはセ
ックスワーカー、MSM、薬物使用者で特にそれくらい大きいレベルまで増えています。これは法的環境が HIV への対応が十分にできていない
からです。
また、アフリカ南部、東部では、HIV 関連死は 2005 年に比べると約 40%
減少しています。ART へのアクセスも 10 倍に増えています。これは重要な役
割を果たしています。多くの国、エチオピア、ケニア、ナミビア、ルワンダ、ザンビ
ア、ジンバブエでも 50%、2005 年と比べるとエイズ関連死が減少しています。
結核と HIV 関連死も約 30%減少しています。アフリカ南部、東部では、こ
の減少は主に ART が導入されたためです。ART のアクセスは 2005 年の
62 万 5000 人から、2012 年には 630 万人になっています。これらの国、ボ
ツワナ、ナミビア、ルワンダ、ザンビアでは、ART が展開されています。つまり新
しい HIV 感染は 2001 年以降、減少しています。特に子どもの感染は減
少しています。成人でも減少しています。15~49 歳のことを指しています。
もう一つ言いたいのは、まだ課題もあることです。私たちがいま直面している課
題は、効果的に HIV の予防努力をすること、特に青少年、若い人たちに向
けてすることです。これは女性も含まれています。若者向けの質の高い HIV 対策にアクセスできない。またすでに申し上げましたが、女性に対
するジェンダーの暴力、HIV と共に生きる人たちで治療のギャップがある、また主要な国民の間でギャップも高まっています。また、薬物の使用
者で削減しようという政治的な努力もされていますが、まだ法律が十分に広がっていません。
カーク 結核はシンプルで、二つ問題があります。そして二つの解決策があります。まず問題の 1 点目ですが、毎年 900 万人くらいが世界中
で結核に罹患しています。そのうち 150 万人が死亡しています。考えてみるのは難しいことです。したがって、友人のこと、家族のことを考えま
す。900 万人の女性、子ども、男性が職場に行けなくて、ひどい治療を受けていて、結核で生活が支配されてしまう。そして 150 万人が死
亡しているということです。個人的に考えてみると、本当にひどい話だと思います。最悪です。
直近の統計はまた出てくると思いますが、世界の死因で HIV と並んで筆頭に出てくると思います。結核という病気は 6000 年に渡って存在
しています。エジプトのミイラにも結核が見られます。6000 年も経っているのだから何かできるだろうと思うけれども、それができていない。結核
は治療できます。それももう一つの点です。私の友達、あるいは同僚の治療同様、ちゃんと治癒できます。HIV で治癒ができたらどうなるでし
ょうか。みんな治せるんです。これだけの資金、時間をかけて、これだけの資源をかけている。でも、結核でそれと同じことができているでしょうか。
できていないのではないでしょうか。
それからもう一つ、結核というのはアジア太平洋の問題です。私たちの問題、私たちの近隣地域の問題です。世界の症例の 56%がアジア太
平洋に集中しています。これはどこか遠いところで起きている対岸の火事ではない。ここで、日本で、ベトナムで、パプアニューギニアで、オース
トラリアで起きていることです。したがって、結核への対応はアジア太平洋の対策でなければならない。自分の問題として主体性を持って解決
策を見出さなければいけないということです。
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二つの解決策として、まず一つ、グローバルファンドが潤沢な資金を持っていなければいけない。グローバルファンドが結核対策の 8 割の資金
を出しています。最強のチャンピオンです。もっと資源、資金が必要です。そうすることで結核対策がもっと打てる。二つ目も簡単です。二つ目
の解決策は、新たなワクチン、新たな薬剤、新たな診断薬、診断法が必要です。これらを開発すれば、誰が実施するか。グローバルファンド
です。グローバルファンドの仕事だからです。ですから二つ問題があって、アジア太平洋の問題だということ、解決策はグローバルファンドだという
ことです。
ダ=ガマ マラリアと闘うには、診断薬、診断法が必要です。それから屋内のスプレー、耐久性のある蚊帳、また治療法が必要です。これらは
そろっています。2000 年時点でこれらを入手できる状況にあったにもかかわらず、マラリアに罹患して死亡する人たちは 200~300 万人でし
た。これが劇的に減りました。なぜ劇的に減少したかというと、グローバルファンドのおかげです。グローバルファンドがすべての資金の 7~8 割を
出してくれたので、マラリアを減らすことができました。2002 年、2003 年に特に雨季に病院に足を運ぶと、女性、子どもを乗り越えて進まなけ
ればいけませんでした。病床が足りなかったからです。今日同じ病院に行けばどうかというと、雨季の最中であったとしても、病院は空で患者さ
んがいない。ですから病院における負担軽減にもなるし、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの貢献のすばらしい方法だと思います。
子どもや女性、妊婦、5 歳未満の小児が最もリスクが高いのですが、予防策にアクセスできる。耐久性のある蚊帳、屋内のスプレー、治療に
アクセスできるというのはすばらしいことです。子どもの治療費は 1 ドル未満です。しかし、今日でもなお 50 万人の人たちがなぜマラリアで死ぬ
のか。これはまったく受容できないと思う必要があると思います。
稲場 ありがとうございます。三大感染症の問題はまだまだ終わっていないということだと思いますが、次の質問、これは皆さんへの最後の質問
になりますが、2030 年、持続可能な開発目標という新しい目標が、この間、国連で採択されました。この新しい目標は、2016 年から
2030 年の 15 年間の目標です。この中で三大感染症については、2030 年までに終わらせる、END という言葉が使われていると思います。
そういったところもあるわけですが、2030 年に三大感染症に関して皆さんはどんな夢を持っているかというようなところをお伺いしたいと思います。
同じ順番で、レイチェルさんからお願いします。
オン 手短にお話ししますと、いろいろな節目、いろいろな宣言、いろいろな協定、合意があったと思います。HIV では 3 by 5、300 万人を
2005 年までに治療を受けさせるという目標を達成できませんでした。ユニバーサルアクセスというのもあって、みんな治療させるということですが、
目標を満たせぬまま終わりました。ユニバーサルを 8 割と定義している国すら出てきました。8 割では不十分です。
それから MDGs があって、いま SDGs です。持続開発目標ですよね。SDGs の目標達成はできるのか。大きな課題としては、はたしてそれだ
けの政治的な意思があるのか。プッシュをし、動機づけを持って進むことができるのか。私たち社会とかコミュニティはいろいろ言えるけれども、議
員とか政治家、首相、大統領などがきちんとコミットをし、課題に取り組まなければ、再び目標を満たせぬまま時期が過ぎてしまいます。みん
なかかわってもらう必要があります。最後のポイントとして、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジについてです。そういう意味では、同僚の皆さんがこ
こ数日提起してくれていますが、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)をどうやって定義するのか。UHC を 8 割と定義するのか。残り 2
割、最も治療が必要な人たちを見捨てるのか、という話になります。将来においては、設定した目標を達成できるように、政府がちゃんとコミッ
トし、政治的意思を持ってもらえるようにと思っています。
ムンバ 私にとっては二つあると思います。SDGs のほかに、「90-90-90」を真剣に受け止めるときが来たと思います。HIV の 90%の人が
自分たちの状況を理解しているということ、現在は自分の状態を知っている人は半分しかいません。つまり拡大しなければいけない。みんな検
査を受けるようにしなければなりません。全員がどうやったら検査を受けることができるのか。医療分野すべてがすぐに利用できるようにしなけれ
ばなりません。そしてコモディティも提供できて、誰もがアクセスできるようにしなければなりません。たとえば医療を受けるときに、隠れて行かなけ
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ればいけないようなことがあってはなりません。また、自分たちの状態を知っている人の 90%が ART を利用できなければなりません。しかし、
WHO のガイドラインを使うことによって、どうやって ART にアクセスできるか。政治的意思、資金の問題だと思います。
もう一つの「90」は、ART の治療を受けている人でウイルスが減少した人が 90%ということです。これは治療のほかにケアもサポートしなけれ
ばなりません。サービスを提供できなければなりません。そしてコミュニティの声が聞こえるようにしなければいけません。90-90-90 というのが
大変大きな可能性があると思います。
また、ユニバーサル・ヘルスへのアクセスも大事です。アクセスというのは、負担ができるということ、またコモディティを入手できる、医療サービスを
入手できるとういことです。フレンドリーな医療サービスに必要なときにアクセスできるということです。また、クララも言ったように、400 キロも移動
しなければサービスが受けられないとなると、非常に長い旅をしなければなりません。ですから必要な人のところにどうやってサービスを提供する
のかということが大事です。
カーク 2030 年までの夢は非常にシンプルです。結核を終結させたい。もうなくなってほしい。ゼロにしてほしい。あるいはそれに近いところまで
持っていきたいということです。世界が協力をし、撲滅をした例は過去にもありました。おそらく皆さんその接種を受けているでしょう。天然痘の
話です。天然痘は根絶されて、もう死亡する人はいません。完全に根絶できます。最も誇らしく思うべき成果です。ポリオ(小児麻痺)も同
じようなかたちで終結できると思います。もう最後の段階に入っています。昨年、小児麻痺は 300 症例しかなかったと思います。向こう 5 年か
ら 10 年でポリオも根絶できるかもしれません。結核も同じことをしたい。それが私の夢です。学校の歴史の教科書で、「こんな病気があったん
だ。これはひどい病気だったね」と言えるようにしたい。過去のものにしたい。なくしたいということです。これが私の夢です。
ダ=ガマ 私もマラリアでまったく同じ夢を持っています。
稲場 ありがとうございます。END を実現したい。基本的にこれが大きな柱になってくると思います。最後に、このようなかたちで世界全体で熱
い挑戦が始まっています。グローバルファンドは感染症対策をリードしているわけですが、実は日本が提唱してつくられたものです。日本はこれ
からも感染症対策で世界をリードしていけるのか。こういったところも一つあるかなと思います。これからの 15 年間において、日本はどのようなこ
とをしていけばいいのか。そういったものに関して、政府、市民社会、民間セクター、いろいろあると思いますが、最後に伊藤さんからお話をいた
だければと思います。
伊藤 日本国際交流センターの伊藤と申します。稲場さんが
私にも、どうしてこの活動を始めたのかとか、夢は何ですかと聞
いてくれるのかなと期待していたのですが、全然聞いてくれない
(笑)ので、ちょっと違う話をさせていただきます。来年、G7
の議長国の年を迎える日本で、グローバルファンドをどう位置
づけたらいいかという話をさせていただきたいと思います。三つ
ほどコメントがあります。
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グローバルファンドは先進首脳国会議(G7/8)の産物
一つは、先ほど皆さんからお話がありましたように、沖縄サミットでグローバルファンドが誕生したということの正確な意味を再認識してみたいと思
います。
G7 サミット、G8 サミットについて、皆さんどれくらい認識されているでしょうか。もしかすると首相が 8 人並んで、誰が真ん中だとか、今年の首
相は背が高くて格好よかったとか、そんな話で終わっていることが多いのではないかと思います。実はサミットの議長国になるということは、その 1
年、国際社会のアジェンダ設定にものすごく大きな権限を持つ、影響力を持つということなんです。
来年、伊勢志摩サミットの議長国として日本にいろいろな関心が集まってきています。今回、この時期に皆さんが来日されたのもその一環だと
思います。2000 年 7 月の沖縄サミットに至るまでの過程で、日本が、感染症対策は国際社会の大きな課題で、これは G8 国が率先して
お金を負担すべき事だと旗を振らなければ、グローバルファンドは成り立っていなかったわけです。そのことを各国が合意できるよう根回しをした。
それが G8 のプロセスですが、政府の皆さんだけでなく、世界中で民間も動いた。日本では、会場にいらっしゃるアフリカ日本協議会の林さん
も大きく関与されたと思います。そして G8 国が追加的資金を出そうと認めることとなった。そして何よりもすばらしいのは、それがグローバルファ
ンド設立というアクションに結びついたということです。
一つご紹介したいコメントがあります。ピーター・ピオットさんという方がいらっしゃいます。元国連合同エイズ計画事務局長、いまはロンドン大学
の衛生・熱帯医学大学院の学長をしていらっしゃいますが、6 月に私どもの会議に出られてこういうコメントをされています。 「私は 1980 年
代から日本とかかわりを持っているけれども、特にグローバルファンド誕生の契機となった 2000 年九州・沖縄サミットに深く関与してから、特に
親しくしている。歴史をつくっているかどうかは、その最中にいるときには当事者にはわからないものだが、沖縄サミットのコミュニケに書かれた、た
った 3 行の文章がグローバルファンドをつくり、歴史をつくることになった。私は何の変化ももたらさなかった 3 行をたくさん見てきたが、あの 3 行
は違った。グローバルファンドの誕生こそが、グローバル・ガバナンスとグローバルヘルスの資金のあり方を再考する始まりとなった」。こういうことを
ピーター・ピオットさんは言われています。これは私たち日本人としてもっと誇っていい。こういう歴史をつくったということを、もっと誇っていいと思い
ますし、同時に、そのコミットメントを維持していく責任もあるということを自覚したいと思います。
神話を崩したい
2 点目、グローバルファンドに関して、日本ではまことしやかな神話があって、私はこの神話を崩したいと思っています。一つ目は、グローバルファ
ンドは三つの疾患だけにお金を集中していて、ほかの病気がなおざりになっているのではないか、という見方をよく聞きます。それは違うということ
は、先ほどの國井先生のプレゼンテーションを聞いてもおわかりだと思います。医薬品の倉庫をつくる資金を出してその国の隅々まで医薬品が
流れていくような保健システムをつくったり、健康保険の仕組みづくりを支援したり、制度づくりにも大きく役に立っているのがグローバルファンド
のお金です。
神話の二つ目、日本の国益につながらない、という見方です。アメリカやヨーロッパの製薬企業が HIV の薬をたくさんつくっているので、そういう
国はいいけれども、日本はグローバルファンドにいくら資金を出してもお金が戻ってこないという声をよく聞くのですが、これは違います。実は日本
企業の製品は意外と買われています。もちろん住友化学さんの蚊帳が一番大きいのですが、そのほかにも医薬品、医療機器、車、顕微鏡、
いろいろなものがグローバルファンドのお金で買われていて、額としてはアメリカよりも少し低いくらいです。これは結構大きなことで、日本の経済
的な便益も十分役立っています。
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国際公共財のための増資
最後に申し上げたいのは、来年はグローバルファンドの増資の年だということです。グローバルファンドは、3 年に 1 回、必要な資金額の目標を
決めて世界中から資金を集める、これを「増資」と呼んでいます。来年は日本の G7 と重なります。これはどういうことかというと、国際社会から
の期待値が非常に高くなるということです。いまここで投資を止めたら感染症はぶり返すという話を國井先生がされていました。その局面で G7
議長国となった日本に対し、非常に期待が高くなっているということです。
私がここで強調したいのは、グローバルファンドを支える民間の力です。今日ここには NGO の方、当事者の方、グローバルレベルでリーダーシ
ップを取っていらっしゃる方、研究者、様々な方が参加されています。市民社会と一括りに言われることが多いのですが、当事者組織、草の
根の組織から、稲場さんのようなアドボカシー組織、JCIE のような事業財団やシンクタンク、一国の援助機関と同じと言われるようなゲイツ
財団まで、「民」の世界は非常に広く、多様です。そうした民の力が、世界各国で大きな流れと勢いをつくってグローバルファンドを下支えして
いるのです。
大事なのは、グローバルファンド増資は一つの国際機関のための募金ではないということです。もしそうだったら、グローバルファンドの渉外部が
がんばって募金集めをすればよい。そうではない。グローバルファンドは国際公共財だと思います。公共財のためにこれだけ民の力が大きく集ま
ってうねりをつくり出しているわけです。始めたものは仕事を成し遂げるまでは続けるという思いで、民間の力が集まっているということを最後に
申し述べたいと思います。
稲場 伊藤さん、ありがとうございました。パネルディスカッションはこれで終わりになりますが、日本の責任はかなり大きいと思います。特にこうい
うかたちで今回、ここに 20 人の皆さんがいらっしゃいますが、海外の三大感染症にかかわる活動家の方々をお招きしています。また、基本的
には G7、伊勢志摩サミットがあり、またアフリカ開発会議が来年開催されます。先ほど増資の話がありましたが、グローバルファンドの増資準
備会議は 12 月に日本の東京であります。
こういうようなかたちで多くの会議が日本で行われる。まさに日本がしっか
り取り組んでいかなければいけない状況にあります。ここで取り組めるかど
うかが、2030 年にわれわれの夢をかなえられるかどうかということを左右
すると思います。市民社会としてもかなり気合を入れてやっていきたいと
思いますので、ぜひ皆さんも関心を持ち続けていただきたいと思います。
どうもありがとうございます。
フロアからの質問
質問1 今年は 12 月からパリで気候変動に関する大きな会議があり
ます。気候変動と三大感染症は深く結びついているのではないかと思い
ます。特にマラリアは蚊の生息地が増えるために蔓延する。そして地球
温暖化のために干ばつ、食糧難、食糧がなくなるために人が移動する。
難民キャンプや、あるいは都市のスラムに移動する。そして人が集まると、結核や HIV が蔓延する。そういうかたちで地球温暖化、気候変動
は強く結びついています。私自身はエイズ・結核・マラリア・ノー、地球温暖化ノーと思いますが、いかがでしょうか。
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國井 とても難しい質問、ありがとうございます。ソマリアで活動していたときに東アフリカで 60 年来の大干ばつがありまして、ソマリアは飢饉に
なりました。干ばつは雨が少ないなどの気候の問題ですが、飢饉は人災です。もちろん気候変動もわれわれ人間の仕業かもしれませんが、
特にソマリアは紛争や無政府状態、貧困などいろいろな問題があるところで、安全な水へのアクセスが低く、多くの人たちが栄養失調で苦し
み、感染症がまん延していました。そこに干ばつが起こり、状況がさらに悪化した。栄養失調がさらに悪化し、感染症がさらにまん延しました。
しかし、周辺国では同様に降雨量が減少し、農業・牧畜への影響があっても、国として緊急対策ができたため、栄養失調や感染症流行は
最小限に抑えられました。
新たな国際目標である持続可能な開発目標(SDGs)は、私からみると良いことと悪いことがあると思います。個人的な意見を言うと、ター
ゲットがよく見えない。169 もターゲットがあって、測定可能ではないものもあります。MDGs の良い点は、焦点を絞って、子供の死亡を 3 分
の 1 に減らすなど、数値目標を示してモニタリングしていく。今後、指標が決められていきますが、今のところ SDGs では目標がよく見えない。
ただし、人間の健康や教育だけではなく、SGDs の中にはプラネットのヘルスみたいな形で、人間と地球をくっつける部分があります。人間のマ
インドセットを変えて、人間がもっと地球にやさしくなるには、われわれの健康だけではなく、地球の健康を考えて、もっと広い意味で考え、行
動していかなければならない。これはすごくおもしろいマインドセットのチェンジだと思っています。そういった意味では、エコシステムを含めて、もっ
と広く考えていかなければいけないと私自身最近感じています。答えになっていませんが、感想としてお伝えします。
ダ=ガマ 地球温暖化が何をしようと、マラリアで子どもが死ぬ理由はありません。子どもや女性がマラリアで死ぬのは、それは政治的な意思が
指導者の間にないからです。日本の指導者であろうと、あるいはほかのすべての豊かな国の指導者であろうと、指導者がアフリカ、アジア、ラテ
ンアメリカで行動しなかった。適切な資源を割り当てて、市民の命を救うことができなかったためです。子どもたちが死んでいるのは、マラリアだろ
うと、結核だろうと、HIV エイズだろうと、それは政治的な意思が指導者の間に欠如しているためです。ですからここがフォーカスすべきことです。
また、政治的な意思がないために、気候変動の問題も起こっているわけです。ですから単に約束をして、実際に行動に移さないようなリーダー
であってはなりません。私たち市民社会のアドボケイトはそのことに注目しているし、ぜひ皆さんにもそのことに注目していただきたいと思います。
質問2 私は 2013 年に娘をマラリアで亡くしました。そのことに関連して確認したいことがあるのですが、簡易診断テスト、キットで、たとえば
血液検査の結果でマラリア原虫がポジティブとなった場合、すぐに診療に移らない。言い換えますと、WHO の診断基準ですと、顕微鏡でマラ
リアを確認するところまでいかないと治療に入らないということを南アフリカのお医者さんに聞いたのですが、その点はいかがでしょうか。
ダ=ガマ いま使われる診断は、効果的で正しい結果を出します。アフリカ諸国の多くの病院、診療所においては、その診断を使って、熱帯
熱マラリアと三日熱マラリアの両方を正しく診断しています。そして病院の顕微鏡で実際に再確認できればいいのですが、診断は完璧に可能
です。熱帯熱マラリアと三日熱マラリア、どちらも診断できます。アフリカ大陸全体でこの診断は農村でも使えるようにしています。子どもとか女
性が効果的な診断、治療を受けるために 20、30、50 マイルも歩いて行く必要がないようにしています。
質問 それに関連してよろしいでしょうか。娘が最初に南アフリカのプレトリアで救急のお医者さんにかかったのですが、前の晩に診ていただいた
お医者さんは、彼女がアンゴラで働いていて南アフリカに来たので、マラリアを疑って血液検査を検査機関に出しました。次の日も快方しなかっ
たので、同じ救急病院で別なお医者さんに診てもらいました。すると前の晩の血液検査の結果でマラリアアンチゲンがポジティブだという結果が
出ていたにもかかわらず、2 番目のお医者さんは腎盂炎という診断をしました。私が少し得た知識では、そこでどうしてマラリアのアンチゲンポジ
ティブというところを重視してもらえなかったのか。南アフリカのお医者さんの医学的な認識に疑問を持ちました。その点はどうなのでしょうか。
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ダ=ガマ イボンヌ・チャカチャカは南アフリカ共和国に住んでいます。彼女のバンドメンバーがマラリアで死亡しました。誤診の結果です。それは
一つの問題としていろいろな国であって、南アフリカだけではありません。南アフリカ共和国は、基本的にマラリアはそんなに深刻な問題ではな
い。むしろスワジランドとかモザンビークなど、周辺地域での問題です。問題は、ドクターがマラリアの症状を見慣れていない。そして迅速な診断
ができないことです。ヨーロッパ、北米でもある問題です。日本でも起きうる問題です。なぜかというと、疾病として普段見慣れていない、診断
し慣れていない疾病でないと、どの症状を見ていいかわからない。イボンヌのバンドメンバーもそうだし、あなたのお嬢さんもそうだと思います。
この問題は起き続ける可能性があります。マラリアを減らし、そしてマラリアへの暴露が減っていく。罹患することが減ってくると、むしろ効果的に
診断することが難しくなる。ですからドクターの研修に力を入れなければいけない。訓練に力を入れなければいけないということです。きちんと症
状を見据えて誤診しないようにする研修が必要です。お嬢さんは本当に残念でした。お気の毒に思います。
國井 日本の場合マラリアの迅速診断テストは一般的に普及していませんし、スライドで検査診断したことのない医療施設も多く、おそらく
10 人くらいは輸入マラリアで亡くなっていると思います。初めの答えは、迅速診断テストで診断されればすぐに治療を開始する施設も多いです
し、最近では村のコミュニティ・ヘルスワーカーが診断して治療をすることもあります。いまおっしゃったように、南アフリカの都会の医療機関でマラ
リア患者さんの少ない場合ではそういうこともありえます。残念なことですが。
質問 それで先ほどルイさんも少しおっしゃいましたが、こういった組織を挙げて蚊帳とか簡易診断テストとか治療キットを配布することで死亡
率を減少させるという方向性は出ていますが、肝心の草の根のお医者さんと申しますか、南アフリカにないから知らないというようなことがないよ
うな活動もぜひやっていただきたいと思っています。以上です。
質問 3 日本人ではないので質問を遠慮していたのですが、2000 年の沖縄サミットを聞いて思ったのですが、グローバルファンドの前にこの資
金を得たくて日本に来ていたのですが、橋本イニシアチブを忘れてはいけないと思います。その年齢の人なら覚えていると思います。今度は安
倍イニシアチブが必要なときが来たと思います。この病気のどれかがいずれ根絶されることが見たいと思います。國井先生への質問ですが、医
療制度への資金について、たとえばマラリアについても、医療システムの中に資金が提供されるわけですが、資金の提供の効果をどのように測
定するのでしょうか。アフリカ西部でエボラでもこれは問題となっています。夢を実現するのは大事ですが、国内の資金だけではなく、持続可能
性を実現するためにさらなる方法が必要だと思います。
國井 ありがとうございました。いい指標をご存知でしたら教えてください。私自身ぜひ知りたいと思います。保健医療システムは測定が困難で
す。レイチェルも知っていると思います。保健医療システムであっても、その成果はそのシステム強化でどれだけの命が救われたのか、などでしり
たいものです。5 歳未満子どもの死亡率の減少という指標もよく使われます。ほかに 10 くらいの指標がありますが、すべてプロキシーで、実際
のインパクトを表しているわけではありません。医療人材を育成して、医師、看護師が人口 10 万人当たり何人いるかなどです。
グローバルファンドは、たとえば薬剤の調達・配達・配送などのサプライチェーンのシステム強化、あるいは人材の育成・訓練、情報システム強
化などにも支援していますが、それは各国のニーズに応じます。保健システムに関連する投資はグローバルファンドの 30%以上ですが、保健
システム横断的に、できるだけ包括的、統合的な支援になるよう配慮しています。たとえばジンバブエのケースがそうです。地域保健医療情
報システム(DHIS-II)をサポートして、10 以上のバラバラだった医療情報の流れを統合させることができました。そして地域、コミュニティレ
ベルの情報を収集できるようになってきました。こういう努力の積み重ねで成果を示すことができ、測定することができると思います。しかし、保
健医療システムを正確に測る一つの指標というものではないと思います。いい指標があったら教えてください。
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ムンバ 私からすると、それが科学的な方法だと思います。でも、村の住民としてタンザニアで医療制度について測定すると、病院に行って治
療を受けるわけですが、たとえば出産をするときに、自分の寝具などを持っていかなくてもちゃんと子どもが産めて、小児科医もいるという状況
がほしい。風邪をひけば錠剤をもらえる。そうなったら医療制度が機能しているとわかると思います。
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評価
持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、国際保健分野でも普遍的な医療アクセス、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジが主流化する中
で、三大感染症の重大性、三大感染症はまだ終わっていないことを印象付けるシンポジウムとなった。アフリカ日本協議会も、グローバルファ
ンドの設立された 2002 年から、アフリカをはじめ、国際保健分野に積極的に政策提言を進めている。そのような意味で、当事者や NGO、
財団、そして政府関係者も参加した今般のシンポジウムは、大変意義深く、効果的な政策提言となったと言える。
今後、日本では国際保健分野に関連する重要な国際会議が複数予定されている。「誰一人取り残さない」(Leave No One Behind)
は、新たな国際目標となった「持続可能な開発目標」(SDGs)のスピリットである。主催団体も、このスピリットにのっとり、国際保健や感染
症について、引き続き積極的な政策提言を続ける所存である。
登壇者略歴
国井修
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド The Global Fund)戦略・投資・効果局長
(日本)
医師、公衆衛生学修士、医学博士。1988 年大学卒業後内科医として勤務する傍ら NGO を立ち上げ
国際緊急援助に従事。国立国際医療センター、東京大学大学院、長崎大医学などを経て 2006 年より
ユニセフ(国連児童基金)の国連職員となり NY 本部で上級保健戦略アドバイザー、2007 年よりミャン
マー国事務所保健・栄養事業部長、2010 年よりソマリア支援センター保健・栄養・水衛生事業部長を
経て 2013 年 3 月より現職
クララ・バニャ
(マラウイ)
アンジャリ・カウール
(米国)
成瀬匡則(日本)
マラウイ出身、HIV と共に生きる女性の国際コミュニティ(ICW Malawi Chapter)、GFAN スピーカーズ・
ビューロー。
25 歳に地元病院でボランティアとして勤務しているときに HIV 発症。夫や 12 歳の娘も HIV ポジティブだ
ったことがわかったがグローバルファンドの支援を受ける。現在は所属団体で事業の計画、調整、モニタリング
に携わる。
Malaria No More アジア・太平洋局長
シアトルに本部を置く国際 NGO「Malaria No More」のアジアにおける事業展開を担当、戦略構築・政
策提言チームと連携しながら政府・民間・市民社会・メディアなどと協働している。世界各地でこれまで 15
年間ユニセフのポリオ対策をはじめ開発業務に携わった経験がある。
認定特定非営利活動法人 ストップ結核パートナーシップ日本 理事
2007 年に民間企業で営業職として在籍中に、多剤耐性結核(MDR-TB)に罹る。6 か月間に 2 つの
隔離病棟へ入院し、約 2 年間の投薬治療の末、完治する。結核は過去の病気ではないことを知り、患者
視点で広く一般社会に結核予防の必要性・重要性を広めるボランティア活動に励み、講演活動なども行っ
ている。現在は、ストップ結核パートナーシップ日本の理事も務めている。
稲場雅紀(日本)
アフリカ日本協議会国際保健部門ディレクター
1990 年代より国内外のエイズ問題などに取り組み、2002 年よりアフリカ日本協議会の国際保健部門デ
ィレクターとして主にアフリカのエイズ問題についての調査や政策提言に従事。2008 年の TICAD や G8
洞爺湖サミットでは日本の市民社会の立場より政策提言。2009 年以降 MGDs 達成のための NGO ネ
ットワーク「動く→動かす」(GCAP Japan)の事務局長も務めている。
サラ・カーク
(オーストラリア)
リザルツ・オーストラリアの「アクション・グローバルヘルス・キャンペーン・ディレクター」
これまでスワジランド、ケニア、オーストラリアでの NGO 経験、ニュージーランドの政府部門での公衆衛生に
関する業務に携わる。性と生殖に関する保健、HIV/AIDS などを専門とする。
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レイチェル・オング
(シンガポール)
グローバルファンド・アジア太平洋アドボケイツ・ネットワーク特別アドバイザー
2009 年 5 月より現職。1999 年からアジア太平洋地域でピア・エデュケーターとして若者・女性問題に関
する政策提言などに従事。2004 年からは中国・北京でポジティブ・アートワークショップに取り組む。2008
年からはアジア太平洋地域における HIV/エイズと共に生きる人々(PLHIV)のネットワークで中心的役
割を果たしている。
オリーブ・ムンバ
(タンザニア)
東アフリカ・エイズ関連組織ネットワーク(EANNASO)
タンザニアに拠点を置く東アフリカにおける HIV/エイズに関するアンブレラ団体で活動。 HIV/エイズと共に
生きる人々(PLHIV)のネットワーク業務を含め 15 年以上市民社会組織で勤務した経験を持つ。現
在は EANNASO の技術サポートセンターでグローバルファンドのプログラム進行プロセスの支援業務に従
事。
ルイ・ダ=ガマ
(英国)
伊藤聡子(日本)
プリンセス・オブ・アフリカ財団理事
マラリアに関するアドボカシー活動にこれまで従事。南アフリカの国民的歌手イボンヌ・チャカチャカのアドバイ
ザーも務める。マラリアに関する資金調達のための国際的キャンペーンを展開、1998 年にはマラリア財団国
際ヨーロッパ事務所を設置、現在もグローバルファンドを支援するためのキャンペーンも精力的に展開してい
る。
公益財団法人日本国際交流センター(JCIE) 執行理事 チーフ・プログラムオフィサー
民間・非営利セクターの基盤整備や企業市民活動促進のための諸事業に従事し、現在はグローバル・ヘ
ルス分野の事業を統括。グローバルファンドを支援する日本の民間組織「グローバルファンド日本委員会」事
務局長を務める。
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事前配布チラシデータ
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シンポジウム情報メディア掲載先一覧
1.
産経ニュース:http://www.sankei.com/economy/news/151022/prl1510220036-n1.html
2.
ジョルダンニュース!:http://news.jorudan.co.jp/docs/news/detail.cgi?newsid=PT000006A000010063
3.
現代ビジネス:http://gendai.ismedia.jp/ud/pressrelease/56285556b31ac90d4000002f
4.
PRESIDENT Online:http://president.jp/ud/pressrelease/562854deb31ac97cf200002f
5.
OKGuide:http://okguide.okwave.jp/cafe/908690
6.
ストレートプレス:http://straightpress.jp/company_news/detail?pr=000000006.000010063
7.
FreshEye:http://news.fresheye.com/article/fenwnews2/1000003/20151022104421_pr_pr000000006000010063/index.html
8.
Mapion ニュース:http://www.mapion.co.jp/news/release/000000006.000010063-all/
9.
JBpress:http://jbpress.ismedia.jp/ud/pressrelease/562854e1b31ac97ce800002e
10. 東洋経済 ONLINE:http://toyokeizai.net/ud/pressrelease/56284caeb31ac939bc00000d
11. 産経関西:http://www.sankei-kansai.com/press/post.php?basename=000000006.000010063.html
12. iza:イザ!:http://www.iza.ne.jp/kiji/pressrelease/news/151022/prl15102211380036-n1.html
13. MarkeZine:http://markezine.jp/release/detail/545698
14. 時事ドットコム:http://www.jiji.com/jc/prt/prt?k=000000006.000010063
15. livedoor NEWS:http://news.livedoor.com/article/detail/10737101/
16. Infoseek ニュース:http://news.infoseek.co.jp/article/prtimes_000000006_000010063/
17. Cube ニュース:http://news.cube-soft.jp/prtimes/archive.php?id=55897
18. YOMIURI ONLINE:http://www.yomiuri.co.jp/adv/economy/release/detail/00151338.html
19. @nifty ビジネス:
http://business.nifty.com/cs/catalog/business_release/catalog_prt000000006000010063_1.htm
20. 財経新聞:http://www.zaikei.co.jp/releases/297027/
21. DIAMOND ONLINE:http://diamond.jp/ud/pressrelease/56284813b31ac94ab300000d
22. 朝日新聞デジタル:
http://www.asahi.com/and_M/information/pressrelease/CPRT201539277.html?iref=andM_kijilist
23. とれまが:http://news.toremaga.com/release/others/728471.html
24. goo ビジネス EX:http://bizex.goo.ne.jp/release/detail/815158/
25. excite ニュース:http://www.excite.co.jp/News/release/Prtimes_2015-10-22-10063-6.html
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26. 国際開発ジャーナル社:国際開発ジャーナル 12 月号 72 ページ
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