在来型鉄道の騒音予測における防 音 壁 の 多 重 反 射 に関する高 架 構 造 模 型 に よる実 験 的 検 討 (第 3報 ) −吸音材の貼付面積や位置及び吸音率の関係について− 環境エネルギー部 ※ 緒方 正剛 九州芸術工科大 藤原 恭司 ( 財) 鉄道総研 北川 敏樹 1.まえがき 長倉 清 ある。②防音壁と車体の距離が広がるに従い騒音放射特 在来鉄道沿線の環境保全のために騒音対策が求められ 性が水平方向の指向性を持つ傾向がある。③車体と防音 る機会が増大しており、在来鉄道騒音の予測手法に対す 壁との間で発生する多重反射の影響は、車体と防音壁の る重要性が増している。 距離や予測点の位置に応じて0 〜2 d Bの範囲で変わり得る 在来鉄道騒音の予測手法 1 ) では、鉄道車両から発生す 、などについて報告した。 る主な騒音源である転動音やモータファン音などの車体 本 報では、防音壁面に貼付する吸音材の貼付面積や貼 下部の音源から受音点までの伝搬経路に高架高欄などの 付 位置 、 また吸音材の吸音率などをパラメータにした場 障壁が存在する条件での減衰量は、半無限障壁の場合の 合の騒音放射特性を比較することにより、多重反射の影 近似式を適用している。しかし、実際には予測値と実測 響について検討した結果を報告する。 値が合致しない場合があり、この理由の一つとして、筆 者らは騒音の伝搬過程で車体側面と障壁間に多重反射が 2. 高架構造模型実験の概要 発生しており、騒音予測手法ではその影響を一定値とし 模型実験の検討に際しては、模型の縮尺比に対して全 ていることが予測精度低下の主因であることを報告した。 ての物理量が実物と模型とで相似則の関係が成り立つと 2) 仮定した。 車体と障壁の距離による多重反射の違いや防音壁面の 1/ 2 0 の 縮 尺 の 高 架 構 造 及 び 車 両 の 模 型 を 全 無 響 内 吸音材が騒音放射特性に及ぼす影響について定量的に体 (5 . 4 m ×4 . 9 5 m ×2 . 7 m )に設置した。騒音の測定は近 系化することを目的として、更に詳細な模型実験(縮尺 接側の軌道中心からの距離が6 .25m , 12.5m , 18. :1 / 2 0 )を行った。前報 3 ) 4 ) では防 音 壁 と 車 体 と の 距 離 75m , 25m , 37.5 m , 50m に 相 当 す る 測 定 点 上 で を変えた場合や防音壁面に吸音率が高い吸音材を全面に のレール高さ(以下、「R.L.」という)からの高さ+ 1 貼付した場合と吸音材が無い場合の騒音放射特性を比較 0m から−10m の2m 間隔で各距離11点の合計66点 し、音線法を用いて音の振る舞いについて考察すること のメッシュ上において行った。騒音レベルは、1.6〜1 により、①防音壁面に吸音材を貼付した場合のコンター 00k H z の 1 / 3 オクターブ中心周波数について計測した の傾きは、吸音材がない時に比べて垂直側に向く傾向が 0.5m 6.25m 1m 車体模型 2m 3.4m 5.3m (17cm) (26cm) 0.6m 12.5m 18.75m 25m 37.5m 50m Lc 音源 防音壁 :測定点 R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m Rail Level R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 図1 車両模型、音源及びマイクロホンの配置図 (数字は実寸法)(模型縮尺:1/20) 線間4.3m (3cm) 2.7m (21.5cm) (13.5cm) 0.6m 1m (3cm) 4.2m (21cm) 3.4m 遠隔側 近接側 (5cm) (17cm) 2m 0.8m (10cm) (4cm) 7m (35cm) 線音源 D=0.4m (2cm) ( )内は模型の寸法 図2 鉄道車両模型実験寸法図(縮尺: 1/20) (a) 車体・ 防音壁間距離0.5m 吸音材なし (条件A−N−N) 6.25 12.5 18.75 25 cL 37.5 90dB 85dB 95dB 50m 80dB R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 75dB 0.5m 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 (b) 車体・ 防音壁間距離0.5m 吸音材( 吸音率低) 全面貼付 (c) 車体・防音壁間距離0.5m 吸音材(吸音率高)全面貼付 (条件A−H−F) 6.25 12.5 18.75 25 cL 90dB 85dB 80dB 37.5 6.25 12.5 18.75 25 cL 75dB R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 0.5m 5 (条件A−M−F) 50m 5 10 15 10 ( 吸音材なし―吸音材あり( 吸音率低) ) 車体 吸 音 材 5 高架 模型 吸音率:低 全面貼付 0 6.25m 図5 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 低減量︵ dB ︶ 高架 模型 吸音率:高 全面貼付 50m R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 0.5m 10 15 20 25 30 35 40 45 50 低減量︵ dB ︶ 吸 音 材 50m 75dB 70dB 10 車体 37.5 85dB 80dB 20 25 30 35 40 45 50 凡例 ■ R.L.+10m ● ▲ R.L.+6m ▼ R.L.+4m ◆ R.L.+8m R.L.+2m ★ ◇ R.L. R.L.-2m (吸音材なし―吸音材あり(吸音率高)) ▽ △ R.L.-6m ○ R.L.-4m 5 R.L.-8m ◇ 0 R.L.-10m 6.25m 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 50m 吸音材の吸音率の影響(車体・防音壁間距離0.5m-条件A) (a) 車体・ 防音壁間距離2m 吸音材なし (条件C−N−N) 6.25 12.5 18.75 25 c L 90dB 95dB 37.5 50m 85dB R.L.+10m R.L.+8m 80dB R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 2m 5 75dB 10 15 20 25 30 35 40 45 50 (b) 車体・ 防音壁間距離2m 吸音材(吸音率低) 全面貼付 (c) 車体・防音壁間距離2m 吸音材(吸音率高)全面貼付 (条件C−H−F) (条件C−M−F) 6.25 12.5 1 8 . 7 5 25 cL 37.5 90dB 95dB 50m 6.25 12.5 1 8 . 7 5 25 Lc 80dB R.L.+10m 85dB 90dB 95dB R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 37.5 85dB 50m 80dB R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 75dB 75dB 2m 5 20 25 30 35 40 45 (吸音材なし―吸音材あり(吸音率低) ) 5 50m 15 20 25 30 35 40 45 50 車体 吸 音 材 吸音率: 高 全面貼付 (吸音材なし―吸音材あり(吸音率高)) 5 ● ▲ R.L.+6m ▼ R.L.+4m ◆ R.L.+2m ★ R.L. ◇ R.L.-2m ▽ R.L.+8m R.L.-4m △ ○ R.L.-6m ︶ dB 図6 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 10 10 高架 模型 0 6.25m 5 50 ︶ dB 吸音率: 低 全面貼付 15 低減量︵ 高架 模型 吸 音 材 10 低減量︵ 車体 10 2m 凡例 ■ R.L.+10m R.L.-8m 0 6.25m ◇ 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 吸音材の吸音率の影響(車体・防音壁間距離2m-条件C) 50m R.L.-10m (a) 車体・ 防音壁間距離1m 吸音材なし 表1 吸音材の貼付面積及び貼付位置による低減量の違い (条件B−N−N) c L 6.25 12.5 18.75 25 90dB 95dB 37.5 85dB 50m 80dB R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 75dB 1m 5 10 15 20 吸音率低 (ハンプ) R.L.より高い 位置の受音点 R.L.より低い 位置の受音点 R.L.より高い 位置の受音点 R.L.より低い 位置の受音点 全面貼付 2〜3 1〜2 5〜7 4〜5 上半分貼付 1〜2 1〜2 4〜5 3〜4 下半分貼付 1 1 2〜3 1〜2 25 30 35 40 45 50 (b) 車体・ 防音壁間距離1m 吸音材( 吸音率低) 全面貼付 (c) 車体・防音壁間距離1m 吸音材(吸音率高)全面貼付 (条件B−H−F) (条件B−M−F) 6.25 12.5 18.75 2 5 cL 37.5 90dB 85dB 95dB 80dB 50m 6.25 12.5 18.75 2 5 cL R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 90dB 85dB 80dB 37.5 50m 75dBR.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 75dB 1m 5 吸 音 材 高架 模型 (吸音材なし―吸音材あり(吸音率低)) 5 吸音率:低 全面貼付 5 車体 吸 音 材 高架 模型 0 6.25m 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 50m (d) 車体・防音壁間距離1m 吸音材( 吸音率低)上半面貼付 6 . 2 5 12.5 1 8 . 7 5 2 5 37.5 95dB 90dB 85dB 80dB 10 吸音率: 高 全面貼付 (吸音材なし―吸音材あり( 吸音率高)) 5 0 6.25m 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 50m (e) 車体・防音壁間距離1m 吸音材( 吸音率高)上半面貼付 (条件B−H−U) c L 10 15 20 25 30 35 40 45 50 低減量︵ dB ︶ 低減量︵ dB ︶ 車体 1m 10 15 20 25 30 35 40 45 50 10 (条件B−M−U) 50m 6 . 2 5 12.5 1 8 . 7 5 2 5 cL R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 90dB 85dB 37.5 50m 80dB R.L.+10m R.L.+8m 75dB R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 75dB 1m 5 高架 模型 20 25 30 35 40 45 5 50 ( 吸音材なし―吸音材あり(吸音率低)) 5 6.25m 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 50m (f) 車体・防音壁間距離1m 吸音材(吸音率低)下半面貼付 吸音率: 高 上半面貼付 90dB 37.5 85dB 15 吸音率:低 下半面貼付 20 25 30 35 40 45 95dB 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 5 車体 高架 模型 0 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 図7 50m 吸 音 材 吸音率: 高 下半面貼付 ■ R.L.+10m ● ▲ R.L.+6m ▼ R.L.+4m ◆ R.L.+2m ★ R.L. ◇ R.L.-2m ▽ R.L.-4m △ R.L.-6m ○ R.L.-8m R.L.+8m R.L.-10m 50m 90dB 85dB 37.5 80dB 1m 5 凡例 ◇ 6.25m 50m R.L.+10m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 75dB 50 ( 吸音材なし―吸音材あり(吸音率低)) 6.25m 0 10 1015 20 25 30 35 40 45 50 低減量︵ dB ︶ 吸 音 材 ︶ 低減量︵ dB 車体 5 6.25 12.5 18.75 25 Lc 75dB 10 高架 模型 50m R.L.+8m R.L.+6m R.L.+4m R.L.+2m R.L. R.L.-2m R.L.-4m R.L.-6m R.L.-8m R.L.-10m 10 35 40 45 50 (g) 車体・ 防音壁間距離1m 吸音材(吸音率高)下半面貼付 80dB R.L.+10m 1m 5 20 25 30 (吸音材なし―吸音材あり(吸音率高)) (条件B−M−L) 6 . 2 5 12.5 1 8 . 7 5 2 5 95dB 10 吸 音 材 (条件B−H−L) cL 10 15 車体 高架 模型 0 吸音率:低 上半面貼付 1m 低減量︵ dB ︶ 吸 音 材 15 10 低減量︵ dB ︶ 車体 10 単位:dB 吸音率高 (モルトプレーン) (吸音材なし―吸音材あり(吸音率高)) 5 0 6.25m 12.5m 18.75m 25m 37.5m 軌道中心からの距離(m) 吸音材の貼付面積及び位置の違いによる影響 50m 。 車 両 模 型 の 車 両 長 は 4 m (実物80m 相 当)で連結部 2.3.実音源に対する補正 がない均一断面である。車両模型と騒音の測定点との関 在来鉄道の軌道近傍点(2m )での1/ 1オクターブ中 係を図1に示す。また、高架構造模型と車両模型の配置 心周波数の騒音レベルの測定例を図4に示す。これは一般 を図2に示す。 的 な 都 市 近 郊 型 車 両 が 9 0k m / h で走行した場合の単 発 2.1.実験条件 騒 音 暴 露 レ ベ ル ( L A E )のスペクトルである。今回の騒 ① 防音壁高さ 2m ② 車体防音壁間隔 音放射特性や吸音材の減音効果などの検討では、模型実 0.5m (条件A), 1m (条件B) , 験に用いた線音源と実路線の車両から発生している音の 周波数構成の違いを考慮して各周波数で以下の方法で整 2m (条件C) 理を行った①模型実験において、各測定点における騒音の ③ 防音壁面の吸音材 モルトプレーン(条件M), ハンプ(条件H), 吸音材なし(条件N) ④ 吸音材の吸音率 5 ) (音源重み付け平均斜入射吸音 率 ) モルトプレーン(条件M)0.77, ハンプ( 6) 条件 周波数スペクトルを求め、各バンドごとに線音源近傍での 結果とのレベル差を求める。②模型と実物との相 似 則 に 基づいて周波数をn倍(1 / 2 0 縮 尺 の 場 合 、n = 1 / 2 0)し 、①で得られた関係を図4に示す在来鉄道の騒音の周波 数スペクトルに対して適用し、各測定点における音圧レベ H)0.40 ルを算出する。 ⑤ 防音壁面の吸音材貼付面積 全面貼付(条件F)、上半分貼付(条件U)、下半 分 3.各条件のコンターマップ及び吸音材による低減量 3.1.吸音材の吸音率の違いによる影響 貼付(条件L)、吸音材なし(条件N) 標準高さ(2m)の防音壁を有する高架構造模型上に ⑥ 軌道条件 スラブ軌道(吸音材なし) 防音壁から0.5mの距離に車体を設置した条件(条件A 2.2.音 源 )において、防音壁面に吸音材がない場合(条件N-N) 音源は、円筒形の和紙に均等な分布にピンホールを開 と 吸 音 率 が 低 い 吸 音 材 を 全 面 に 貼 付 ( 条 件 H - F)した け筒中に圧縮空気を送ることで発生するジェットノイズ 場 合 及 び 吸 音 率 が 高 い 吸 音 材 を 全 面 に 貼 付 ( 条 件 M- F 線音源を用いた。音源の1 / 1 オクターブ中心周波数特性 )した場合の3条件のコンターマップ及び各測定点にお を図3に示す。 いて吸音材がない条件に対して吸音材を貼付した条件を 差し引いた音圧レベル差(以下、 「低減量」という)を図 110 相対騒音レベル(dB) 5( a )〜( c )に示す。 100 また、防音壁から2mに車体を設置した条件(条件C) 90 における条件N- N 、 条 件 H- F 、 条 件 M- F の 3 条 件 の 80 コンターマップ及び各測定点における吸音材による低減 70 量を図6( a )〜( c )に示す。 図5( a )〜( c )の各コンターを比較すると、コンターの傾 60 2.5 5 10 20 40 80 1/1 オクターブ中心周波数 (kHz) 方向に向く傾向がある。吸音材による低減量は、吸音率 図3 線音源の周波数特性 が高い吸音材を貼付した場合は、4〜7d B の低減量があ 110 騒音レベル (dB-A) きは防音壁面の吸音材の吸音率が高くなるに従い、垂直 るが、吸音率が低い場合の低減量は、約半分の2〜3d B 100 になる。また吸音率が高い場合には、受音点の高さが高 90 くなると低減量が2d B 程度大きくなる傾向が見られるが 80 、吸音率が低い場合には測定点による変動の傾向は見ら れず、ほぼ一定値である。 70 90km/h 近 接 側 軌 道 中 心 か ら 2 m (LAE) 60 125 250 500 1K 2K 1/1 オクターブ中心周波数 (Hz) 図4 在来鉄道騒音の測定例 4K 図 6( a )〜 ( c )から、防音壁と車体との距離が2mの条 件では、吸音材による低減量は、吸音率が高い吸音材を 貼付した場合は2〜4 d B である。吸音率が低い吸音材の 場合の低減量は、吸音率が高い場合に比べて約半分の1 率が高い吸音材を上半分に貼付した場合(条件B- M- U 〜2d B であり、吸音材による騒音の低減効果は期待でき )と下半分の場合(条件B- M- L)を比較すると、上半 ない。これらから、図5( b )の条件A- H- Fように防音壁 分の方が低減量は大きい。特に、R.L.より高い位置での と車体との間隔が狭い条件では、吸音材の吸音率が低く 受音点については、上半分の面積だけでも4〜5d B の低 てもある程度の低減量が得られるが、図6( b )の 条 件 C- 減量が得られる。この上半分の方が低減量が大きい傾向 H-Fように、防音壁と車体との間隔が広い条件では、吸 は、吸音率が低い吸音材の場合でも同様である。 音材による低減量が得られないことが分かる。これは車 この理由を前報 3 ) 4 ) で示した音線法を用いて考察するこ 体と防音壁の間隔が狭い場合は、壁への反射回数が多い とにする。音線法による音の振る舞いのイメージ図を図 ために吸音率が低い場合でも多少の低減量が得られるも 8に示す。 のと考えられ、低減量は防音壁の反射回数に依存するこ 音源から出た音を①車体と軌道面で反射した音が防音 とが分かる。 壁と車体との間を抜け防音壁の頂部に達する経路、②音 3.2.吸音材の面積と貼付位置の影響 源から出た音が防音壁で反射した後に車体と防音壁の間 防音壁から1mの距離に車体を設置した条件(条件B を反射を繰り返して頂部に達する経路、③①のうち防音 )において、防音壁面に吸音材がない場合(条件N- N) 壁の頂部で回折する経路、④②のうち防音壁の頂部で回 吸 音 率 が 低 い 吸 音 材 を 全 面 に 貼 付 ( 条 件 H- F)した場 折する経路の4経路に分類して、この何れかの経路を伝 合 、 吸 音 率 が 高 い 吸 音 材 を 全 面 に 貼 付 ( 条 件 M - F)し 搬すると仮定する。ここで防音壁の全面に吸音材を貼付 た 場 合 、 吸 音 率 が 低 い 吸 音 材 を 上 半 面 に 貼 付 ( 条 件 H- した場合は、①のうち防音壁に触れずに頂部に達する音 U)した場合、吸音率が高い吸音材を上半面に貼付(条件 を除けば、どのルートを伝搬しても吸音材の影響を受け M- U)した場合、吸音率が低い吸音材を下半面に貼付( る。これに対して上半分の場合は、②の経路途上の防音 条 件 H- L)した場合、吸音率が高い吸音材を下半面に 壁の下半分に吸音材がないために音源から直接に防音壁 貼付(条件M- L)した場合の7条件のコンターマップと に当たる音は、ここで完全反射するものの、その後車体 吸音材による低減量を図7( a )〜( g )に示す。 に反射した後に防音壁上部の吸音材に入射して減音され 図7( a )〜( c )の各コンターを比較すると、条件Aと同様 る。①の経路を伝搬する音は、全面貼付の場合の振る舞 にコンター全体の傾向は、防音壁面の吸音材の吸音率が いとほぼ同様であると考えられる。従って、上半分に貼 高くなるに従い垂直側に向く傾向がある。 また吸音率の 付した場合は全面に貼付した場合とほぼ同程度の低減量 高い吸音材で面積を半分にした場合の上半分に貼付した が得られるものと考えられる。また、下半分に貼付した 場 合(条 件 M -U)のコンターの傾向は全面貼付の場合に比 場合は、②の経路は音源からの音が防音壁の吸音材によ べ て 水 平 側 に 向 く 傾 向 が あ る 。 下 半 分 の 場 合( 条 件 M- り減音されるものの、①のルートを伝搬する音は吸音材 L)では、さらに水平側に向く傾向がある。この傾向は が全く関与せずに吸音材なしの条件とほぼ同様に車体と 、吸音率の低い条件についても同様の傾向が認められる 防音壁の間を反射を繰り返して頂部より放射される。よ 。 って、下半分に貼付した場合の減音量は、全面または上 条件Bにおける吸音材の吸音率を変えた場合や貼付面 半分に貼付した場合より小さいものと考えられる。 積及び貼付位置による低減量の違いを表1に示す。吸 音 4.ま と め 在来鉄道の騒音予測における多重反射の検討のための 模型実験を行い、防音壁面に貼付する吸音材の面積や位 置及び吸音材の吸音率をパラメータにした場合の騒音放 射特性を比較することで多重反射の影響について検討し 0.5m ①直接音 ②車体防音壁反射音 ③直接音+回折 ④車体防音壁反射音 +回折 (a)車体-防音壁 距離 0.5m た 結 果は以下にまとめられる。 2m (c)車体-防音壁 距離 2m 図8 音線法による音の放射イメージ図 1) 防音壁の全面に吸音材を貼付した場合、コンター の傾き傾向は、吸音材の吸音率が高いと垂直側に向 く傾向がある。 2) 防音壁と車体の距離が狭い場合には、吸音材によ る低減量は、吸音率が高い場合は4〜7d B であるが、 吸音率が低い場合は、低減量は約半分の2〜3d B に なる。 防音壁と車体との距離が広い場合は、吸音材 <参考文献> による低減量は、吸音率が高い場合は2〜4 d B である 1 ) 森藤他:騒音制御 V o l . 2 0 N o . 3 1 9 9 6 . 6 が、吸音率が低い場合には、低減量は約半分の1〜2 2 ) 緒方他:鉄道技術連合シンポジウム1 9 9 7 1 9 9 7 . 7 d B になり、吸音材による騒音の低減は期待できない。 3 ) 緒方他:第 3 0 回交通安全公害研究所研究発表会 3) コンター全体の傾向は、面積が半分で上半分に貼 付した場合は全面貼付の場合に比べて水平側に向く 傾向があり、下半分の場合は、さらに水平側に向く傾 向がある。 4) 防音壁面の吸音材の低減量は、貼付位置を上半 分の場合と下半分の場合を比較すると、上半分の方 が大きい。 今回は、模型実験結果から防音壁に貼付する吸音材の 面積や貼付位置及び吸音率の違いが騒音放射特性に与え る影響について報告した。車体と防音壁間で発生する多 重反射は、現象そのものが複雑であり、今回は定量化に は至らなかった。今後は、3次元の境界要素法などを用 いたシミュレーションなどで更に検討を行う予定にしてい る。 講演概要 2000.11 p.21〜 4 ) 緒方他:振動・音響新技術シンポジウム 2 0 0 1 . 6 p . 1 7 1〜 5 ) 緒方他:日本音響学会2 0 0 0 年春季発表会, 2 0 0 0 . 3 p.715〜 6 ) 国土交通省 国土技術政策総合研究所「道路用吸 音板斜入射吸音率試験方法」
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