地すべり地における対策工排水量と降雨量・積雪量との関係について

【1】
全地連「技術フォーラム2010」那覇
地すべり地における対策工排水量と降雨量・積雪量との関係について
キタイ設計株式会社
1. はじめに
地すべり地に施工される対策工のうち,地下水排除工
○五十嵐 慎久
〃
岩瀬
信行
自然地下水調査研究所
竹内
篤雄
(1) 集水井 [H-1]
連続的な排水量の観測対象とした集水井の概要と写真
(横ボーリング工や集水井工)の効果判定は,一般的には
を以下に示す。
地すべりブロック内に設けられた地下水位観測孔の水位
・集水井:直径φ=3.50m,深度=GL-15.00m
低下量をもって判断される。
・上段集水ボーリング:深度=GL-9.25m,仰角5゜
しかしながら,このような水位観測孔を用いた効果判
定の実施において,しばしば下記のような問題に直面す
ることがある。
①孔内水位が中間区間や下部の岩盤亀裂等から逸水して
しまっている。
(歪み計の観測孔も兼ねた水位観測孔の場合,すべり面
を貫いた観測孔となるため特に多い。)
掘削径=φ90mm,保孔管 VP40ストレーナー加工
掘削長=9.50m~26.50m,計11本
・下段集水ボーリング:深度=GL-13.25m,仰角5゜
掘削径=φ90mm,保孔管 VP40ストレーナー加工
掘削長=5.00m~20.00m,計9本
・排水ボーリング:深度=GL-13.80m,伏角3゜
掘削径=φ135mm,保孔管 SGP 90A
②上記のような観測孔で,地下水排除工の施工前の時点
で解析上設定されている計画水位よりも低い位置に水
位が確認される場合,効果判定が不可能である。
③水位観測孔の平面的な設置位置が主要な地下水流動層
(水ミチ)の上に設置されていなければ,水位低下の効
果が把握できない場合がある。
④地下水排除工の施工深度や横ボーリングの施工方向が
水ミチに向けて設置されていなければ,水位低下の効
果が把握できない場合がある。
これらの問題を回避するため,筆者らは地温探査手法
(1m 深地温探査,多点温度検層)を用いた地すべり地での
地下水調査を提案・実施している。
写真-1 観測対象の集水井(2010.4/9撮影)
上記集水井の排水ボーリングからの排水をコルゲート
管で配管し,斜面中腹の水路へ排出している。
越流堰はその流末に写真-2のように設置し,ノッチ内
に自記水位計を設置して排水量の観測を実施している。
本発表の事例は,上記のような問題がある場合でも,
地下水排除工の対策効果を水位観測孔の水位低下量以外
の指標で判定する方法を模索するものである。
具体的手法としては,既設集水井または横ボーリング
工の排水量を越流堰と自記水位計を用いて連続的(1時間
ピッチ)に観測し,降雨量や積雪量との関係を考察するこ
とで,地すべり地における対策工の効果判定手法として
利用できるかを検証する。
写真-2 集水井の排水流末に設置した越流堰
2. 観測フィールドの概要
観測フィールドは,長野県北部の山間部に位置する地
すべり地である。
当該地すべり地周辺の地質としては,基盤に新第三紀
中新世~鮮新世の泥岩が分布し,その上位に新第三紀鮮
新の砂岩・泥岩・礫岩が分布する地質構成である。
また,周辺は完新世の地すべりが数多く分布している
地域であり,観測対象となるフィールドも地すべり堆積
物の分布域となっている。
なお,調査地では観測の準備工を開始した4月初旬でも
積雪が1m 程度残っており,完全に残雪がなくなったのは
5月10日頃であった。
(2) 横ボーリング工 [H-2]
地すべりブロック内に,集水井とは別に横ボーリング
工(1群・L=15.00m×5本)も施工されており,その流末に
も同様の越流堰を設置して観測を実施している。
しかしながら,4月下旬の観測開始後~7月下旬までの
全地連「技術フォーラム2010」那覇
期間で排水が確認されていないことから,本稿への詳細
(2) 排水量の日サイクルの存在
の記載は省略する。
今回の排水量の連続観測により,確認される排水量に
ほぼ1日周期のサイクルが存在することが確認された。
3. 排水量観測結果
観測当初は残雪が日射により融雪したことによる排水
集水井の排水流末に設置した越流堰による排水量の観
量の増減ではないかと考えたが,残雪がなくなった後に
測データを図-1に示す。なお,図-1には集水井の近傍に
もサイクルがみられることから,別の要因が考えられる。
存在する水位観測孔(BV-3)の地下水観測データと調査地
田口・安原(1987) 1)では,地下水位に対する地球潮汐の
付近のアメダス観測局データに基づく時間降水量,日本
影響について報告されている。当該地すべり地内の水位
海側(富山)における潮位の観測データも併せて示した。
観測孔(BV-3)では有意な変動は確認されていないが,排
(1) 排水量の変化と対策工の効果判定
水量と潮位には調和的な関係がみられ,数日間降雨が続
くとサイクルが乱れるケースも確認された。
排水量の観測データをみると,当初は最大で40 L/min
程度の排水量が確認され,時間の経過と共に排水量が
4. まとめと今後の課題・展望
徐々に減少する傾向が確認された。これは,観測開始時
期と本格的な融雪時期が重なったことから,融雪水の影
本事例で紹介した方法により,地下水排除工の効果を
響が徐々に小さくなる過程を捉えたものと考えられる。
直接的な排水量として評価することが可能である。また,
強制的に排水される地下水量に,日サイクルが存在する
現地で5月初旬まで残雪がみられたことと,降水量と排
可能性を見出した。
水量の関係から,融雪水の影響は6月中旬頃まであったも
のと予想される。地下水排除工の効果としては,観測開
今後,気温や気圧,積雪量や実効雨量と排水量の対比
始当初で57.6t/日~6月中旬で1.4 t/日の排水効果が直接
を行う予定である。また,このような観測事例を蓄積し,
的に確認することができている。
日サイクルの影響を除外して融雪水や降雨そのものの排
また,降雨量との関係については,5月末と6月中旬の
水量に対する影響を評価できる手法を確立したい。
降雨により若干の排水量の変化がみられ,7月中旬のまと
《引用・参考文献》
まった降雨の際には顕著な排水量の増加が確認された。
1)田口雄作・安原正也:伊豆大島における地下水水位等
これも対策工の効果として,直接的な排水量(14.4t/日~
の連続観測,地質調査所月報 第38巻 第11号,pp.705
1.4t/日程度)として評価できる。
~717,1987
60
潮位(富山)
潮位 (標高 cm)
50
40
30
20
10
0
7/27
7/20
7/13
7/6
6/29
6/22
毎時潮位 (富山)
6/15
6/8
6/1
5/25
5/18
5/11
5/4
4/27
4/20
-10
排水量 Q (L/min)
50
5/10頃まで現地に雪あり→
40
H-1 集水井排水量
まとまった降雨により
排水量が増加
まとまった降雨により
サイクルが乱れる期間
30
20
10
7/27
7/20
7/13
7/6
6/29
6/22
H-1 集水井排水量
6/15
6/8
6/1
5/25
5/18
5/11
5/4
4/27
4/20
0
地下水位 (GL-m)
0
地下水排除工の効果により
水位上昇が抑えられている
BV-3 地下水位
5
10
15
7/27
7/20
7/13
7/6
6/29
6/22
BV-3 地下水位
6/15
6/8
6/1
5/25
5/18
5/11
5/4
4/27
4/20
20
時間降水量
15
20
10
10
5
時間降水量
積雪
図-1 排水量観測結果 [H-1] (2010年4月~2010年7月)
7/27
7/20
7/13
7/6
6/29
6/22
6/15
6/8
6/1
5/25
5/18
5/11
5/4
0
4/27
0
最深積雪 (cm)
30
4/20
時間降水量 (mm)
20