平成22年度共同研究奨励研究成果報告書

2010
平 成 2 2 年 度
金沢医科大学
共同研究成果報告書
奨励研究成果報告書
平成24年11月
金沢医科大学
はじめに
平成 22 年度金沢医科大学共同研究・奨励研究の成果報告書を発刊
しましたのでお手元にお届けいたします。
本学では、平成 15 年度から若手研究者の育成を目的とした奨励研
究や、学部、大学院、総合医学研究所、他大学等との有機的連携を
目指す共同研究を展開することで本学研究の活性化を進めておりま
す。また、平成 17 年度からは、奨励研究に萌芽的研究の枠を設ける
など研究の多様化にも対応しています。
平成 19 年度からは、看護学部が設置されたことに伴い、医学領域
と看護学領域に分けて募集しています。
平成 22 年度は、
前年度同様学内公募を行った結果、医学領域では、
共同研究に 11 件の申請があり 6 件を採択、奨励研究に 29 件の申請
があり 10 件が採択されました。また、看護学領域では、共同研究、
奨励研究ともに各 1 件の申請があり、2 件とも採択されました。本書
はこれらの研究の成果をまとめたものであります。
なお、従来より別刷の掲載をしておりましたが、電子ジャーナル
が充実していること、また、著作権処理が困難になってきているこ
とから、別刷掲載を見合わせることとし、アブストラクトのみを掲
載しております。
今後、これらの共同研究と奨励研究で得られた研究成果を、社会
に還元するとともに本学の研究基盤がより一層充実することを期待
します。
最後に、本報告書の取りまとめの労をとられた研究業績評価委員
会、研究推進課並びに関係各位に感謝します。
平成 24 年 11 月
金沢医科大学
学長 勝田 省吾
目
次
はじめに
平成 22 年度 共同研究成果報告書
[医学領域]
C2010-1.
新規疾患、IgG4 関連多臓器リンパ増殖性疾患(IgG4+MOLPS)
の確立のための研究
研究代表者・梅 原 久 範・・・・・・1
C2010-2.
医工連携による母-胎児間シグナル伝達機構を担う
組織構築の解明
研究代表者・八 田 稔 久・・・・・・5
C2010-3.
53BP1 依存性 DNA 損傷修復経路阻害による癌治療
のための基礎的研究
研究代表者・岩 淵 邦 芳・・・・・・9
C2010-4.
重症心不全患者に対する心臓矯正ネット開発
研究代表者・秋 田 利 明・・・・・・13
C2010-5.
腫瘍血管の機構、構造、機能に対する一酸化窒素の関与と
その修飾による腫瘍血管の正常化および
抗腫瘍薬効果増強への応用
研究代表者・甲 野 裕 之・・・・・・17
C2010-6.
種を越えて保存された新規がん抑制遺伝子ファミリー
FAM107 分子の包括的探索
研究代表者・中島日出夫・・・・・・23
[看護学領域]
C2010-7.
看護実践能力に影響する要因
-臨床看護師への実態調査より明らかになったこと-
研究代表者・久 司 一 葉・・・・・・29
平成 22 年度 奨励研究成果報告書
[医学領域]
S2010-1.
Xp11.2 転座関連腎癌の FISH による診断法の確立
研究代表者・佐 藤 勝 明・・・・・・33
S2010-2.
イオン液体による細胞超微細構造の解析
研究代表者・石 垣 靖 人・・・・・・35
S2010-3.
頭頸部癌に対する化学放射線療法の治療効果予測における
機能・代謝画像の解析
研究代表者・的 場 宗 孝・・・・・・39
S2010-4.
ヒト口唇小唾液腺組織からの唾液腺幹細胞の予期的同定
研究代表者・河 南 崇 典・・・・・・43
S2010-5.
ヒト心筋由来バイオペースメーカーのロバスト性
及び心臓ドライブ機能強化方法に関する理論的解析:
Gene Therapy への応用を目指して
研究代表者・倉 田 康 孝・・・・・・47
S2010-6.
接触アレルギーにおける角化細胞接着分子と
皮膚ランゲルハンス細胞の経時的解析
研究代表者・西 部 明 子・・・・・・51
S2010-7.
ストレスによる「うつ病」発症メカニズムの解明
研究代表者・山
S2010-8.
本
亮・・・・・・53
胎盤形成におけるガレクチンファミリーの機能解析
研究代表者・東海林博樹・・・・・・55
S2010-9.
肺胞上皮細胞における小胞体ストレスと間質性肺炎
研究代表者・長 内 和 弘・・・・・・59
S2010-10.
アポトーシス誘導における 53BP1 の働き方及び 53BP1 を介したアポトー
シス誘導機構の解明
研究代表者・橋 本 優 実・・・・・・65
[看護学領域]
S2010-11.
地域の高齢者ボランティアを導入した老年看護学教育
―フィジカルアセスメント演習の学習効果―
研究代表者・小 泉 由 美・・・・・・67
平成 22 年度
共同研究成果報告書
医学領域
C2010-1~6
看護学領域
C2010-7
1.研究課題名:新規疾患、IgG4 関連多臓器リンパ増殖性疾患(IgG4+MOLPS)の確立のため
の研究(研究番号 C2010-1)
2.キーワード:1)IgG4 関連疾患(IgG4-related disease)
2)プロテオミクス(proteomics)
3)DNA マイクロアレイ(DNA microarray)
3.研究代表者:梅原
研究分担者:竹上
岡崎
吉野
久範・医学部・教 授・血液免疫内科学
勉・総合医学研究所・教 授・分子腫瘍学研究部門
和一・関西医科大学・教 授・消化器内科学
正・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・教 授・病理学
4.研 究 目 的
IgG4 関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)は、血清 IgG4 高値と病変部への著明な
IgG4 陽性形質細胞浸潤を特徴とする 21 世紀に生まれた新たな疾患概念である。その
発見から病態解明や診断基準の制定まで多くの重要な情報が日本から発信され、世界
的にもこの疾患概念が注目されている。平成 21 年に厚生労働省難治性疾患克服研究事
業において2つの IgG4 関連疾患研究班 、すなわち「IgG4 関連疾患診断確立のための
研究班」(班長;金沢医科大学 梅原久範、班員 66 名:梅原班)と「IgG4 関連疾患病
因病態解明のための研究班」(班長;関西医科大学 岡崎和一、班員 55 名:岡崎班)
が組織された。IgG4 関連疾患が多臓器に渡る疾患であるため、両班とも可能な限り多
領域の診療科による解析を行うべく、リウマチ膠原病、消化器、呼吸器、腎臓、内分
泌および眼科、口腔外科の専門医からなる臨床病態解析チームを編成し、IgG4 関連疾
患の病理診断の確実性を確保するためにリンパ増殖性疾患病理診断のエキスパートに
よる病理診断チームを加えたオールラウンドの陣容で構成されている。この両班が良
好に連携をとることにより、まさにオールジャパン体制で詳細な検討が行われ、
「IgG4
関 連 疾 患 の 病 名 統 一 」、「 IgG4 関 連 疾 患 の 概 念 確 立 」 (Umehara H, et al. Mod.
Rheumatol. 22: 1-14, 2011, 梅原久範. 日本からの発信:新たな疾患概念、IgG4 関連
疾患(IgG4-related disease). 日本内科学会誌 99: 237-245, 2010) 、
「IgG4 関連疾患包
括診断基準の制定」(Umehara H, et al. Mod. Rheumatol. 22: 21-30, 2011, 厚生労働
省難治性疾患対策事業奨励研究分野,日本内科学会誌 101: 795-803, 2012)など輝か
しい業績が日本から発信された。
当共同研究チームでは、膠原病・消化器臨床医に病理診断医を加え IgG4 関連疾患
の病態を詳細に解析すると同時に、DNA micro array 解析、プロテオミクス解析によ
り IgG4 関連疾患の病因病態関連遺伝子および蛋白を同定する。
5.研 究 計 画
<平成 21 年度>
臨床病態解析チームの活動
梅原らを中心にした臨床病態解析チーム(厚生労働省難治性疾患克服研究事業
「IgG4 関連疾患診断確立のための研究班」、班長;金沢医科大学 梅原久範、班員 66
名:梅原班))は,関連施設の倫理委員会の承認を受け、全国レベルで症例登録を募り、
関連学会を含めたオールジャパン体制で症例の収集と解析を行う(目標症例 100 例).
吉野らを中心にした病理診断チームと詳細な症例検討を行い、世界初の診断基準作
成を目指す。
IgG4 病因解析チームの活動
IgG4 関連疾患 における IgG4 の病態における意味あい、治療に伴う変動、IgG4
産生機序の解析など IgG4 の病因的意義を明らかにするために、病因病態解析グルー
-1-
プを組織し、DNA micro array 解析、蛋白 SELDI-TOF-MS 解析により IgG4 関連疾患の
病態解析を行う。
<平成 22 年度>
1)臨床病態解析チームは、登録症例におけるステロイド初期投与量、減量方式および
臨床経過を詳細に解析し治療効果や予後を明らかにし、標準的 IgG4 関連疾患治療プ
ロトコールを作成する。
2)自己免疫性膵炎チームと共同で、ステロイド反応性を検討し、共通標準的治療プロ
トコールを提案する。
3)IgG4 関連疾患の疾患概念確立のために、臨床病態解析チームと自己免疫性膵炎チー
ムは合同で暫定診断基準作成に着手する。
4)病因病態解析チームは,DNA micro array 解析,蛋白 SELDI-TOF-MS 解析により IgG4
関連疾患の病因病態解析を継続する.
上記を踏まえ、IgG4 関連疾患の診断基準、標準的治療プロトコール を確立 する 。
6.研 究 成 果
金沢医科大学共同研究およびオールジャパン IgG4 チームの成果
1)IgG4 関連疾患の概念の確立
IgG4 関連疾患は、Mikulicz 病、自己免疫性膵炎、下垂体炎、橋本甲状腺炎、Riedel
甲状腺炎 ) 、間質性肺炎、間質性腎炎、前立腺炎、リンパ節炎、後腹膜線維症、炎症性
大動脈瘤および肺、肝などの炎症性偽腫瘍など様々な疾患で、血清 IgG4 高値と IgG4
陽性形質細胞浸潤を伴う症例が報告されていた。IgG4 関連疾患の確定診断には、血清
IgG4 値の上昇(135mg/dl 以上)に加え、専門病理医による特徴的な病理像の確認が必
須である。吉野らを中心に日本のトップクラスの病理医からなる中央病理診断チーム
を結成し、IgG4 関連疾患の病理像の詳細な検討を行ない、1) 病変部に著明な IgG4 形
質細胞の浸潤が認められ、強倍率視野における IgG4+形質細胞/IgG+形質細胞比率は
40%以上でかつ強倍率視野で 10 個以上あること、2) 浸潤 B 細胞の免疫グロブリン L
鎖に偏りが無いこと、3) 唾液腺・涙腺病変やリンパ節病変では稀であるが、自己免疫
性 膵 炎 や 硬 化 性 胆 管 炎 で は 花 筵 様 線 維 化 ( storiform fibrosis ) お よ び 閉 塞 性 静 脈 炎
(obliterative phlebitis) が典型例で認められること、4) アレルギー症状や末梢血の好酸
球増多や高 IgE 血症を反映して組織でも好酸球浸潤が高率に認められることなどの共
通特徴を明らかにした。これらの検討の結果、
「IgG4 関連疾患は血清 IgG4 高値と IgG4
陽性形質細胞の腫瘤形成あるいは組織浸潤を特徴とする病態で、従来の診断病名の範
疇に留まらず、それらを同時性あるいは異時性に合併する新たな疾患である」という
統一概念を確立した (Umehara H, et al. Mod. Rheumatol. 22: 1-14, 2011)。
2)IgG4 関連疾患の病名統一
本邦から数多くの論文が報告されていたが、IgG4-related sclerosing disease、Systemic
IgG4 plasmacytic syndrome (SIPS)、IgG4 related multiorgan lymphoproliferative syndrome
(IgG4+MOLPS)と異なった疾患名で報告されていた。IgG4 関連疾患の解析は日本が先
駆的な役割を果してきたにも関わらず、このように異なった病名で報告されているこ
とが IgG4 関連疾患の統一的な解明を妨げている原因でもあった。オールジャパン IgG4
チームは「IgG4 関連疾患 (IgG4-related disease)」と病名統一を行った (Umehara H, et
al. Mod. Rheumatol. 22: 1-14, 2011)。
3)IgG4 関連疾患患者数の推計
厚生労働省梅原班では定点サンプリング法を用いて、人口流動の少ない石川県を例に
とり金沢医科大学および金沢大学の症例数から IgG4 関連疾患の国内患者数を推測し
た。その結果、年間で 336 人から 1300 人の新規発症があると推定され、本疾患が致死
的疾患でないことを考慮すると、現在本邦では最大 26,000 人の患者がいると推定され
た (Umehara H, et al. Mod. Rheumatol. 22: 1-14, 2011)。
-2-
4)IgG4 関連疾患包括診断基準の制定
IgG4 関連疾患の診断基準の早期制定が急務であったが、IgG4 関連疾患が多岐に渡る
病態を含む複合疾患であり、しかも Sjögren 症候群や Wegener 肉芽腫症などの自己免
疫性疾患、Castleman 病や悪性リンパ腫などの血液疾患や癌との鑑別が難しい疾患でも
あり、全ての症例を診断し得る単一基準は困難かと思われた。そこで、梅原班・岡崎
班の代表者による診断基準作成のためのワーキンググループが組織され、IgG4 関連疾
患包括診断基準(Comprehensive Diagnostic Criteria for IgG4-related disease (IgG4-RD),
2011)」の制定に至った。その内容は、1)臨床的に単一または複数臓器に特徴的なび
まん性あるいは限局性腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変を認めること、2)血液学的に
高 IgG4 血症(135 mg/dl 以上)を認めること、3)病理組織学的に、①組織所見:著
明なリンパ球、形質細胞の浸潤と線維化を認める。②IgG4 陽性形質細胞浸潤:IgG4/IgG
陽性細胞比 40%以上、且つ IgG4 陽性形質細胞が 10 個/HPF を超えることの3項目よ
りなり、これらの診断項目の満足度により、確定診断群(definite)、準確診群(probable)、
疑診群(possible)と診断するというシンプルなものである。
「IgG4 関連疾患包括診断基準」は、病理組織を重視することやステロイドの治療的診
断を推奨していないため、臨床的に生検材料の得られにくい臓器病変の診断感度は必
ずしも高くはない。この弱点を解消するために、実際の運用では、包括診断基準で準
確診または疑診症例には、アルゴリズムに示す如く臓器特異的 IgG4 関連疾患診断基
準を併用する。
「 IgG4-ミクリッツ病診断基準」、
「 IgG4-自己免疫性膵炎診断基準」、
「 IgG4
関連腎臓病診断基準」が既に公表されており、上手に両者を組み合わせることで、ほ
ぼ 100%の感度で IgG4 関連疾患を診断でき、現時点では最も有用性の高い IgG4 関連
疾患診断基準である (Umehara H, et al. Mod. Rheumatol. 22: 21-30, 2011)。
7.研究の考察・反省
我々は、Mikulicz 病、自己免疫性膵炎、Riedel 甲状腺炎、Küttner 腫瘍、後腹膜線
維症、間質性腎炎、間質性肺炎など先人達が見つけた多くの疾患に対して、これまで
知り得た知識や技術を駆使して最善の治療に努めている。そして、生じた疑問や障害
に取り組む中で、IgG4 関連疾患という新たな疾患に遭遇した。「古きをたずね、新し
きを知る」、まさに温故知新の精神から生まれたのが IgG4 関連疾患である。今日まで、
多くの日本人医師の努力により IgG4 関連疾患に関する多くの情報が日本から世界に
向けて発信されている。今後は、IgG4 関連疾患の認知が深まるにつれ、世界の注目が
この疾患に集まっていくであろう。その状況下で日本がこれまで同様に世界のリーダ
ーとして IgG4 関連疾患を牽引して行くためには、病因解析を含めた新たな情報を発
信し続けなければならない。現在、厚生労働省研究班で収集した 100 例を越える IgG4
関連疾患患者の血清サンプルを金沢医科大学血液免疫内科講座のスタッフにより解析
中であり、近い将来、IgG4 関連疾患の病因病態関連遺伝子や関連蛋白の同定結果を発
表する予定である。
8.研 究 発 表
① Masaki Y, Kurose N, Yamamoto M, Takahashi H, Saeki T, Azumi A, Nakada S,
Matsui S, Origuchi T, Nishiyama S, Yamada K, Kawano M, Hirabayashi A,
Fujikawa K, Sugiura T, Horikoshi M, Umeda N, Minato H, Nakamura T, Iwao H,
Nakajima A, Miki M, Sakai T, Sawaki T, Kawanami T, Fujita Y, Tanaka M,
Fukushima T, Eguchi K, Sugai S, and Umehara H. Cutoff Values of SerumIgG4 and
Histopathological IgG4+ Plasma Cells for Diagnosis of Patients with IgG4-Related
Disease. Int. J. Rheumatol. doi:10.1155/2012/580814, 2012.
Abstract IgG4-related disease is a new disease classification established in Japan in
the
21st
century.
Patients
with
IgG4-related
disease
display
-3-
hyper-IgG4-gammaglobulinemia, massive infiltration of IgG4+ plasma cells into
tissue, and good response to glucocorticoids. Since IgG4 overexpression is also
observed in other disorders, it is necessary to diagnose IgG4-related disease
carefully and correctly. We therefore sought to determine cutoff values for serum
IgG4 and IgG4/IgG and for IgG4+/IgG+ plasma cells in tissue diagnostic of
IgG4-related disease. Patients and Methods. We retrospectively analyzed serum
IgG4 concentrations and IgG4/IgG ratio and IgG4+/IgG+ plasma cell ratio in tissues
of 132 patients with IgG4-related disease and 48 patients with other disorders.
Result. Serum IgG4 >135 mg/dl demonstrated a sensitivity of 97.0% and a
specificity of 79.6% in diagnosing IgG4-related disease, and serum IgG4/IgG ratios
>8% had a sensitivity and specificity of 95.5% and 87.5%, respectively.
IgG4+cell/IgG+ cell ratio in tissues >40% had a sensitivity and specificity of 94.4%
and 85.7%, respectively. However, the number of IgG4+ cells was reduced in
severely fibrotic parts of tissues. Conclusion. Although a recent unanimous
consensus of all relevant researchers in Japan recently established the diagnostic
criteria for IgG4-related disease, findings such as ours indicate that further
discussion is needed.
② Kawanami T, Sawaki T, Sakai T, Miki M, Iwao H, Nakajima A, Jin Z-X, Dong L,
Huang C-R, Tong X-P, Sun Y, Nakajima H, Fujita Y, Tanaka M, Masaki Y,
Fukushima T, Hirose Y, Okazaki T, and Umehara H. Cytokine Production by
Cultured Salivary Gland Epithelial Cells Obtained from Patients with Sjögren’s
Syndrome. PLos One. in press, 2012.
③ Masaki Y, Iwao H, Nakajima A, Miki M, Sugai S, and Umehara H. IgG4-Related
Disease (IgG4+MOLPS) – Diagnostic Criteria and Diagnostic Problems. Current
Immunology Reviews 7, 172-177, 2011.
Abstract Since the first report on patients with elevated serum IgG4 in sclerosing
pancreatitis in 2001, various systemic disorders, described by many names, have
been reported. Despite similarities in the organs involved in IgG4-related Mikulicz's
disease and Sjogren's syndrome, there are marked clinical and pathological
differences between the two conditions. On the other hand, differential diagnosis of
IgG4-related Mikulicz's disease and Kuttner's tumor is very difficult, since their
pathological features are closely related except severe fibrosis. Most patients
diagnosed with autoimmune pancreatitis in Japan have IgG4-related sclerosing
pancreatitis, a disease distinct from the western type. It is likely that patients
formerly diagnosed with Castleman's disease with good response to glucocorticoid
treatment may have had IgG4-related lymphadenopathy, and should be re-assessed
in light of recent findings. Diagnosis of IgG4-related disease is characterized by
both 1) elevated serum IgG4 ( > 135 mg/dl) and 2) histopathological features
including lymphocyte and IgG4+ plasma cell infiltration (IgG4+ plasma
cells/IgG+plasma cells > 40% on a highly-magnified slide checked at five points).
Differential diagnosis from other distinct disorders, such as sarcoidosis,
Castleman's disease, Wegener's granulomatosis, lymphoma, cancer, and other
existing conditions that show the high serum IgG4 level or abundant IgG4-bearing
plasma cells in tissues is necessary.
-4-
1.研究課題名:医工連携による母-胎児間シグナル伝達機構を担う組織構築の解明
(研究番号 C2010-2)
2.キーワード:1)胎盤(placenta)
2)栄養膜(trophoblast)
3)胎盤関門(placental barrier)
4)透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope)
5)画像解析(imaging analysis)
3.研究代表者:八田 稔久・医学部・教 授・解剖学Ⅰ
研究分担者:渡辺弥壽夫・金沢工業大学・情報学部・教 授・情報学系情報工学科
大谷
浩・島根大学・医学部・教 授・発生生物学
島田ひろき・医学部・講 師・解剖学Ⅰ
島村英理子・医学部・講 師・解剖学Ⅰ
4.研 究 目 的
我々は、インターロイキン 6 ファミリーサイトカインの一つである白血病抑制因子
(LIF)のシグナルが、胎盤を介して母から胎児へ伝達され、大脳皮質ニューロン産生
に促進的に作用することを明らかにした(Simanura et al., 2010)。このシグナル伝
達過程では、分子の乗り換えにより情報のみが胎児に伝達される。すなわち、胎盤は
母と胎児をまたぐ情報のトランスミッターと位置づけることができる。しかし、従来
の血液-胎盤関門の概念をもっては、この機能を合理的に説明することができない。
母親由来の情報伝達分子が、絨毛細胞からセカンドメッセンジャーを誘導し、それが
特定のトラフィッキング・システム無しに、極めて短時間に 6 層からなる胎盤関門を
通過するとは考えにくいからである。我々は、母体血と胎児由来の毛細血管が、胎盤
絨毛のただ一つの細胞(合胞体性栄養膜)によって直に連絡されることを示唆する所
見を得ており、それが前述の機能と形態の乖離に対する回答になると期待される。本
研究課題では、母-胎児間の情報ネットワークにおける組織学的なバックボーンを明
らかにするとともに、血液-胎盤関門の新しい概念を提唱することを目的とする。
5.研 究 計 画
妊娠各時期のラットおよびマウス胎盤絨毛について、完全連続超薄切片の作成と透
過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行い、得られた画像を立体再構築する。最終的に、
血液-胎盤関門の 3 次元モデルを作成し、母体血をたくわえる胎盤絨毛間腔に面する
栄養膜合胞体層が胎盤絨毛の毛細血管内皮と物理的に連絡することを証明する。
以下の 3 項目が研究の主たる課題である。
(1)連続超薄切片の安定したプレパレーション法の確立
100 枚以上の連続超薄切片を安定して回収できる方法論を確立する。
(2)画像処理に適した TEM サンプル前処理法の検討
複雑な細胞境界をハイコントラストで描出することが可能な電顕標本の前処理法を検
討する。
(3)絨毛血管内皮細胞の観察
胎盤絨毛の毛細血管内皮細胞と合胞体性栄養膜の連絡性に注目し、共焦点レーザー顕
微鏡による観察を行う。
-5-
(4)組織像の 3 次元立体再構築
得られた連続 TEM 画像データをもとに立体再構築を行うための画像処理法の検討を行
う。前年度
は、Watershed アルゴリズムを用いた領域抽出法と V-Cat ソフトウエ
アを用いた 3 次元画像統合法について検討を行ったが、本年度はこれに加えてバーチ
ャルスライド連続組織画像からの 3 次元ボリュームレンダリング法について検討を行
う。
6.研 究 成 果
1)連続超薄切片の安定したプレパレーション法の確立
前年度までの検討により、大型の孔を有する電顕用 4 分割ワイドメッシュ(1 マス:
333×250μm)を用い、薄切された切片の形状がメッシュ孔のサイズに合うようにブロ
ックをトリミングすることで、複数枚の超薄切片を一枚のグリッドに乗せてゆく方法
を確立し、100 枚を超える連続切片を安定して取得することが可能となった。この方
法では、複数枚の超薄切片が一枚のグリッドに乗っているため、撮影のためのグリッ
ド交換回数を減らすことができ、その結果、大幅に作業効率を改善することができた。
電顕切片の作成・回収については、当初の目標を達成することができた。
2)TEM 用標本の前処理による観察画像のハイコントラスト化
常法どおりの電顕標本染色法では胎盤絨毛組織の細胞境界のコントラストが低く、
細胞膜を抽出する画像処理アルゴリズムを適用するための画質としては不十分である
ことが分かった。このため、昨年度は酢酸鉛によるブロック染色処理を施すことで、
一定レベルのハイコントラスト画像が得られたが、いまだ不十分であった。そこで、
還元オスミウムを用いた細胞膜の染色について検討を行った。その結果、細胞膜が非
常にハイコントラストに描出され、本法が本研究目的における標本前処理法として最
適であると考えられた。
3)ラット胎盤絨毛の共焦点レーザー顕微鏡観察
薄切したラット胎盤の組織標本を抗ラミニン抗体で免疫染色し、絨毛血管周囲の基
底板を描出した。さらに DAPI による核染色を行い共焦点レーザー顕微鏡で観察したと
ころ、絨毛毛細血管の内皮細胞の核が基底板をまたぐ像が得られた。これは、内皮細
胞の細胞体(あるいは突起)が間質に突出していることを意味することから、内皮細
胞の突起が間質に伸びており、直上の合胞体性栄養膜と物理的な接触を持つことを強
く示唆する。
4)高精度連続スケール断面画像の統合技術の開発
前年度までに、Watershed アルゴリズムを用いた領域抽出法と V-Cat ソフトウエア
を用いた 3 次元画像統合法を組み合わせて、胎盤の 2 次元デジタル連続画像から 3D モ
デルを自動的に作成するための基礎技術を確立することができた。
本年度は、より広範囲の組織画像を対象とする方法論の確立を目指して、本学に現
有する Nano Zoomer (浜松ホトニクス)を用いて、E15 ラット胎児全身の連続バーチ
ャルスライドからの 3 次元バーチャルスライド構築について検討を行った。SIFT 特徴
量取得、キーポイントマッチング、変形パラメータ算出などの画像処理技術を駆使し
て、大量の連続画像の自動整合処理法の基礎的な方法論が確立され、マクロレベルで
の精度としてはおおむね良好な結果が得られた。
7.研究の考察・反省
(1)超薄切片プレパレーション技術の確立
-6-
本研究課題において最も技術的難易度が高く、研究遂行の上での律速段階と想定さ
れていた「広視野」かつ「数百枚以上のオーダーでの安定した連続超薄切片」の作成
方法については、本研究課題の開始前年度から初年度までに行った様々な試行錯誤の
結果、安定して(損失率 10%以下、連続 100 枚以上)連続切片が得られる方法論が確
立された。我々が採用した方法では支持膜を用いずにグリッド枠で切片を保持する。
そのため、グリッド枠をまたぐ部位では観察不能となる。グリッドに支持膜を貼る方
法では、うまく切片をすくえば全視野の観察が可能であるという利点を持つ。しかし、
作成される支持膜のクオリティをコントロールすることが困難なため、せっかく連続
切片を作成しメッシュ上に回収しても、支持膜が厚すぎるためコントラストが極めて
低い像しか得られないことがしばしば認められるなど、安定した画像の取得が困難で
あった。母体側絨毛間腔と絨毛毛細血管を結ぶ組織構築の全景を描出するためには、
高倍率かつ広視野での観察という背反する条件の克服が必須であるため、大口径グリ
ッドにクオリティの高い支持膜を安定して作製する技術を確立する必要がある。
(2)画像処理法の検討
ミクロレベルからマクロレベルまでの連続スケール観察を可能とする 3 次元モデル
の構築を自動化するためのシステム開発を目指して研究を行った。組織標本の作製上、
取得された画像が XY 面で無秩序に回転することは避けられない。この問題に対して、
自動的に連続取得画像のアラインメントを行う方法が検討され、一定の成果が得られ
た。更に、非常に巨大なファイルサイズであるバーチャルスライド画像をベースとし
た画像解析法の可能性が示されたことは、非常に有意義である。今後、アラインメン
トの精度を向上させるとともに、演算の高速化について改善の必要がある。
組織画像に対する統合的な画像処理システムの研究開発は、共同研究者・渡辺の研
究室の卒業研究および大学院生の研究テーマとして採用されており、金沢工業大学と
金沢医科大学で締結した医工連携の実践という観点からも、有意義な取り組みがなさ
れていると評価される。
8.研 究 発 表
① Simamura E, Shimada H, Shoji H, Otani H, Hatta T: Effects of melanocortins on
fetal development. Congenit. Anom 2011; 51: 47-54.
Abstract Melanocortins, adrenocorticotropic hormone (ACTH) and α-, β-, and
γ-melanocyte-stimulating hormone (MSH) are produced in the placenta and
secreted into embryos/fetuses. ACTH concentrations are higher in fetal plasma
than in maternal plasma and peak at mid-gestation in rats, whereas ACTH
production starts in the anterior lobe of the fetal pituitary at later stages.
Melanocortin receptors (MC1-5R), receptors for ACTH and α-, β- and γ-MSH, are
expressed in various adult organs. The specific function of these receptors has
been well examined in the hypothalamic-pituitary-adrenocortical (HPA) axis and
the HPA axis-like network in the skin, and anti-inflammatory effects for white
blood cells have also been investigated. MC2R and/or MC5R are also expressed in
the testis, lung, kidney, adrenal, liver, pancreas, brain and blood cells at different
stages in mouse and rat embryos/fetuses. Melanocortins in embryos and fetuses
promote maturation of the HPA axis and also contribute to the development of
lung, testis, brain and blood cells. Recently, a unique ACTH function was
revealed in fetuses: placental ACTH, which is secreted by the maternal leukemia
-7-
inhibitory factor (LIF), and induces LIF secretion from fetal nucleated red blood
cells. Finally, the maternal LIF-placental ACTH-fetal LIF signal relay regulates
the LIF level and promotes neurogenesis in fetuses, which suggests that ACTH
acts as a signal transducer or effector for fetal development in the maternal-fetal
signal pathway.
-8-
1.研究課題名:53BP1 依存性 DNA 損傷修復経路阻害による癌治療のための基礎的研究
(研究番号
C2010-3)
2.キーワード:1)DNA 二本鎖切断(DNA double-strand break)
2)放射線照射(X-irradiation)
3)非相同末端結合修復(non-homologous end joining)
4)DNA リガーゼ 4(DNA ligase 4)
5)p53 結合蛋白質 1(53BP1)
3.研究代表者:岩淵
邦芳・医学部・教
授・生化学 I
研究分担者:橋本
光正・医学部・助
教・生化学 I
松井
理・医学部・助
教・生化学 I
渡邉
直人・医学部・特任教授・放射線医学
高野
文英・金沢大学大学院自然科学研究科・薬学系・准教授
4.研 究 目 的
X 線照射により発生する DNA 二本鎖切断(double-strand break:以下 DSB)に対して
細胞は、非相同末端結合、相同組み換えの 2 つの修復経路を備えている。前者は、G1
期を含めたすべての細胞周期に機能しているが、後者は、DNA 複製時の姉妹染色分体
を鋳型として損傷部位を修復するため、S、G2 期にしか機能しない。これを細胞周期
側からみると、G1 期には 2 つの修復経路のうちの一方、非相同末端結合修復経路しか
機能していないことになる。これまで非相同末端結合修復経路は、DNA-PK/Ku70/Ku80
複合体が DNA 断端を認識し DNA ligase 4 が断端を連結する経路(以下 classic 経路)
ひとつしかないと考えられていた。研究代表者が見出した 53BP1 は、DSB の発生に伴
い速やかに DSB 部位に集積することから、DSB の修復に関与することが想定された。
研 究 代 表 者 は こ れ ま で 、 遺 伝 子 欠 損 細 胞 を 用 い た 遺 伝 学 的 解 析 か ら 、 ① 53BP1 が
classic 経路とは別の経路で非相同末端結合に関与していること、②53BP1 依存性非相
同末端結合修復経路(以下 53BP1 経路)においても、最終的には DNA ligase 4 で断端
を連結すること、③classic 経路と 53BP1 経路の両者を同時に不活性化すると、G1 期
細胞は DSB を修復することができず X 線に対して極めて高感受性となることを見出し
た。本研究は、53BP1 経路の本態を明らかにするとともに、そこで得られた知見をも
とに G0-G1 期で停止しているため既存の抗癌剤が効かない休眠中(dormant)の癌細胞
を標的とする新たな抗癌療法を開発することを第一の目的とした。
一方 53BP1 は、DSB 部位に集積し個々の DSB に対応する点状物(dot)を形成する。こ
の性質を利用すると、光学顕微鏡を用いて核に存在する DSB 数を容易に定量すること
ができる。放射線内部照射による癌治療においては、かなりの程度の治療後骨髄抑
制がみられる。しかし各症例において、骨髄抑制の程度を放射線内部照射直後に
-9-
予測することはできない。本研究は、放射線内部照射直後の患者末梢血リンパ球
の 53BP1dot 数を数えることで、造血細胞に対する DNA 損傷の程度を推定できないか、
また 治療数週後に発生する骨髄抑制の程度を予見できないか、を明らかにするこ
とを第二の目的とした。
5.研 究 計 画
第一目標は、岩淵、橋本、松井、高野が担当した。研究期間中に、ユビキチン E3
リガーゼである Rad18 依存性に 53BP1 がモノユビキチン化されることが明らかになっ
た。そこで、53BP1-/-および Rad18-/- マウス胎児線維芽細胞を用いて 53BP1 経路に
おける Rad18 の役割、53BP1 モノユビキチン化の意義を調べた。また、53BP1 経路を特
異的に阻害する薬剤の発見を目的に、高野から天然物質のライブラリーの供与を受け、
岩淵、橋本が 53BP1dot の形成を阻害する物質のスクリーニングを行った。
第二目標は、岩淵、渡邉が担当した。正常人の末梢血リンパ球に X 線照射を行った
後、リンパ球の 53BP1dot を検出し、線量と DSB 数との関係をあらわす標準曲線の作製
を行った。また、放射線内部照射治療を受けた患者さんから末梢血リンパ球を採取
し、実際に患者リンパ球に 53BP1dot が見られるか否かを確認した。
6.研 究 成 果
ユビキチン E3 リガーゼである Rad18 が、53BP1 と同様に、細胞への X 線照射に反応
して DSB 部位に集積し dot を形成することを見出した。X 線による Rad18 の dot 形成
は G1 期細胞においてのみ 53BP1 依存性であり、さらに Rad18 と 53BP1 との結合依存
性であった。Rad18 は、in vitro で 53BP1 の 1268 番目のリジン残基をモノユビキチ
ン化し、さらに、Rad18 は 53BP1 のモノユビキチン化を介して 53BP1 の dot を安定化
させた。53BP1 および Rad18 は、G0-G1 期細胞に発生した DSB の修復を亢進させた。
Rad18 による DSB 修復の亢進には 53BP1 と Rad18 の結合、Rad18 による 53BP1 のモノ
ユビキチン化が必要であった。以上より、G0-G1 期細胞において Rad18 は、53BP1 と
の結合を介して DSB 部位に集積し、その後 53BP1 をモノユビキチン化することにより
53BP1 の DSB 部位でのクロマチン結合を安定化させ、その結果 53BP1 による DSB の修
復を亢進させることが示唆された。
骨肉腫細胞株 U2OS に、蛍光物質 EGFP を融合させた 53BP1(EGFP-53BP1)を発現
させるプラスミドを導入し、EGFP-53BP1 を恒常的に発現する細胞クローンを作製
した。これにより、生細胞の 53BP1dot 形成を蛍光顕微鏡下で容易に観察できるよ
うになった。天然物質ライブラリーをスクリーニングし、53BP1dot 形成を阻害す
る物質の発見を試みたが、現在まで見出せていない。
健常者 7 人より末梢血リンパ球を採 取し、異なった線量の X 線照射を行い、照射
量とリンパ球に発生する DSB 数の関係を表す標準曲線を作製した。末梢血リンパ
球の場合、DSB の検出には、53BP1 よりリン化 H2AX のほうが有用であった。ヒス
-10-
トン H2AX は DSB 部位でのみリン酸化され、リン酸化 H2AX 特異的抗体を用いると、
DSB をリン酸化 H2AX の dot として検出できる。I-131MIBG を用いた放射線内部照
射治療後の患者さん 15 人から末梢血リンパ球を採取し、抗リン酸化 H2AX 抗体で
DSB の検出を試みたところ、DSB が検出された。患者さん 15 人の治療前のリンパ
球の DSB 数は、1 リンパ球あたり平均 0.41±0.51 であったが、治療 4 日後には平
均 6.19±1.80 と有意に増加した。これを、先に作成した照射量と DSB 数の関係を
表す標準曲線と照らし合わせると、I-131MIBG を用いた放射線内部照射療法での患
者さんの被曝量は、平均 0.56±0.37 Gy であると推定された。
7.研究の考察・反省
53BP1 経路は、classic 経路と異なりリン酸化の制御を受けていないことが予想さ
れていた。今回 Rad18 が、53BP1 のモノユビキチン化を介して 53BP1 経路を制御して
いることが明らかになった。我々は以下のようなモデルを提唱する。1)G0-G1 期細胞
において Rad18 は、53BP1 との直接結合を介して DSB 部位に集積し、dot を形成する。
2)Rad18 は DSB 部位で 53BP1 の K1268 をモノユビキチン化する。3)モノユビキチン化
された 53BP1 は可動性が減少し、DSB 部位でのクロマチンとの結合がより強固となる。
4) Rad18 は、53BP1 経路で DSB の非相同末端結合修復に関与している。
モノユビキチン化を介した DNA 損傷修復経路の制御としては、シスプラチンなど DNA
クロスリンンカーによる DNA 損傷の修復経路での FANCD2 が知られている。紫外線に
よる DNA 損傷、DNA 複製阻害による DNA 損傷など、他の DNA 損傷に対する修復経路に
おいても同様な制御機構が働いている可能性も考えられる。
53BP1dot、リン酸化 H2AXdot による DSB の検出法は、感度が良く簡便で、リンパ球
の DSB 数の定量に極めて有用であった。この方法によって算出された、 I-131MIBG 放
射線内部照射療法での患者さんの被曝量は、これまで他の方法で算出された被曝
量と概ね一致した。
53BP1 経路に関する新たな発見があったため、当初の計画とやや異なった研究内容
になってしまった。特に 天然物質ライブラリーからの 53BP1dot 形成阻害物質のス
クリーニングの進行が不十分であった。
8.研 究 発 表
なし
-11-
1.研究課題名:重症心不全患者に対する心臓矯正ネット開発(研究番号
C2010-4)
2.キーワード:1)重症心不全(Heart failure)
2)心臓リモデリング(Cardiac remodeling)
3)心臓矯正ネット(Cardiac supporting net)
4)心臓 3 次元モデル(Cardiac 3D modeling)
5)心臓有限要素法解析(Cardiac Finite element analysis)
3.研究代表者:秋田
研究分担者:山部
瀬戸
倉田
勝田
利明・医学部・教 授・心臓血管外科学
昌・金沢工業大学・工学部・教 授・機械工学
雅宏・金沢工業大学ものづくり研究所・ 特別研究員
康孝・医学部・准教授・生理学Ⅱ
省吾・医学部・教 授・病理学Ⅱ
4.研 究 目 的
心不全患者では収縮力の低下を補うためより拡大した状態で収縮・弛緩を繰り返す
が、この代償機転は心拡大の進展(心臓リモデリング)とともに破綻し、心不全の進
行や致死的不整脈の合併により毎年米国で 5 万人が死亡する。この心臓リモデリング
の進展防止が重症心不全治療の鍵となっている。本研究は、重症心不全患者の心臓リ
モデリングに対する新しい治療法としての心臓矯正ネットの設計手法の開発と慢性心
不全モデルでの有効性の検証を行い、前臨床データをそろえることにある。
5.研 究 計 画
金沢医科大学心臓外科担当分:
1) 慢性心不全モデルに対する心臓矯正ネット装着心機能評価実験(圧容量曲線)
2) 心臓矯正ネットの慢性効果を急性実験同様に圧容量曲線を用いて検証する
3) 実験終了後心臓を取り出し組織切片を作成し、心筋変性の程度(心筋細胞脱落・繊
維化、Matrix Metalloproteinase 2&9)を評価し組織学的な検討も行う
(金沢医科大学病理 II・勝田教授指導)
4) 不全心(心臓矯正ネット装着前後)に生じる致死的不整脈に適切に対処するため、心不
全における不整脈の発生機序とその最適制御方法をコンピュータ・シミュレーショ
ンにより解析し、制御理論の妥当性を実験的に検証する(金沢医科大学生理学Ⅱ・倉
田担当)
金沢工業大学担当分:心臓矯正ネット最適化設計のための、
1) 心不全患者の心臓 CT および MRI 画像から心臓 3 次元モデル作成
2) 有限要素法を用いた心臓拡張期・収縮期の壁張力シミュレーションプログラムの
開発
3) 有限要素法の結果を基に左室圧容量曲線シミュレーション
6.研 究 成 果
【金沢医科大学心臓血管担当分】
1) 心臓矯正ネットの正常心に対する収縮能、拡張能に及ぼす影響を検討した。全身麻
酔下にブタの右心室、左心室に圧容積測定カテーテルを留置し、右室・左室圧容量
曲線を計測した。Just fit の心臓矯正ネットから 5%ずつサイズを縮小し、心臓矯
正ネットの正常心に対する収縮能、拡張能に対す効果を検討した(Phase I study)。
右室に対する拡張障害(拡張時定数τ、minimum dp/dt)が左室より早期出現する
ことを明らかにした(2010.3.7 日本循環器学会総会で発表)。
2) 次に心臓矯正ネットの慢性心不全心に対する収縮能、拡張能に及ぼす影響を検討し
た。高頻度心房刺激(200bpm)3 週間によるブタ慢性心不全モデル(LVEF 20% ,
LVEDV 200%)を作成し、右心室、左心室に圧容積測定カテーテルを留置し、右室・
-13-
左室圧容量曲線を計測した(Phase II study)。正常心同様 Just fit の心臓ネットか
ら 5%ずつサイズを縮小し、心臓矯正ネットの収縮能、拡張能に対す効果を検討し
た。正常心では収縮能(Emax)に対する効果は明らかでなかったが、慢性心不全
心では心拍出量は減少するものの収縮能(Emax)は有意に改善した。正常心同様
右心室に対する拡張障害(拡張末期圧容積関係)が左室より早期出現することを明
らかにした(2010.10 月 日本胸部外科学会総会で発表)。
3) 心臓矯正ネットの慢性心不全に対する Reverse remodeling 効果を検討した(Phase
III study)。ビーグル犬を用い左開胸、冠動脈結紮による後下心筋梗塞による虚血
性心筋症・僧帽弁閉鎖不全モデルを作成した。対照群と心臓矯正ネット装着群の 2
群に分け、ネット装着群は心筋梗塞作成 1 週間後に再開胸し Just size の心臓矯正
ネットを装着する。3 ヶ月後、胸骨正中切開を行い、右心室・左心室圧容積計測用
カテ ーテ ル を挿 入 し、 心臓 矯正 ネ ット の 両心 室収 縮能 、 拡張 能 に対 する Reverse
remodeling 効果を検討する。実験終了後、心臓を摘出し、心臓の Remodeling と密
接に関係する Matrix metallo-protease 9 のタンパク発現(Western blot)を検討
した。心臓矯正ネット群で心臓の拡張(左室拡張末期径、左室収縮末期径)が抑制
され、収縮能(Emax, LVEF)が改善されることを明らかにした。また非梗塞領域
での MMP-9 の発現が抑制されることを見いだした。これらの結果は 2011.10 月本
胸部外科学会総会および 2012.4 月の日本心臓血管外科学会で発表した。これらの
実験結果は、三上直宣、水野史人の学位論文として金沢医科大学雑誌に投稿収載さ
れた。さらに英文誌に投稿準備中である。
4) 摘出した心臓(梗塞部位、境界領域、非梗塞部位)の MMP-9 量を Western blot
法により比較検討した。
【金沢工業大学分担分】
1) 心臓 CT および心臓 MRI 画像から抽出された心臓壁データを修正し、今回の共同
研究補助金で購入した 3 次元 CAD ソフトを用いて、心臓 3 次元モデルを作成した。
2) 心臓 MRI の断層画像を元に、心臓表面、両心室内腔面をマウスで数点クリックし、
半自動でトレースするソフトウエアをさらに開発した。2 次元断層面を積層化する
ことにより 3 次元心臓モデルを作成した作成した。
3) 前述の 3 次元モデルに内外 2 層の心筋配列を加味した心臓 3 次元モデルを作成した。
有限要素法を適応し、壁張力を計算し、圧容積関係をシミュレーションした。
4) 心 臓 ネッ ト の 物 性 値 計 測 と モデ ル 化 心 臓 矯 正 ネ ット の な か に バ ル ー ン を入 れ 容
量圧曲線を計測し、等方向性のシートとしてモデル化を行った。
5) 心臓矯正ネットを装着した場合の左室圧容量曲線と 1 回拍出量の変化をシミュレー
ションした。
【金沢医科大学生理学Ⅱ担当部分】
慢性心不全における不整脈発現機構を明らかにするため、慢性心不全状態の固有心
筋で発現が増加する過分極活性化陽イオンチャネル電流(If)の自動能誘発作用につい
て、心筋細胞の非線形力学系モデルを用いたシミュレーション及び分岐構造解析によ
り検討した。過分極活性化陽イオンチャネル電流(If)の心筋自動能誘発・維持作用を
理論的に解析した結果、過分極状態のペースメーカー細胞やIf電流が増加する不全心筋
では、If電流の増減により分岐現象(自動能の発現・停止)が生じ、If電流依存性の自動能が
発現し得ることが明らかとなった。慢性心不全状態の固有心筋では重症度に比例してI
f電流発現が増加するため、If電流による異常自動能発現状態への分岐が不全心筋におけ
る不整脈発現機構の一つであると考えられた。本研究成果の一部は既に Am J Physiol
(研究論文1)に報告済みである。
7.研究の考察・反省
重 症 心 不 全患 者 の 心 臓 リ モ デ リ ング 防 止 を 目 的 と す る 心臓 形 状 矯 正 ネ ッ ト の 至適
設計手法の開発と大型動物での評価が本研究の主旨である。拡張型心筋症や虚血性心
-14-
筋症では収縮力の低下を前負荷の拡大=拡張末期容積の拡大で代償するが、拡張期お
よび収縮期の左室壁張力の増大を伴うためさらなる心筋変性、収縮低下→左室拡大と
いう悪循環(=心臓リモデリング)に陥る。心臓矯正ネットは心臓をメッシュ状の袋
で包み物理的に心臓の拡大を防ぐとともに、拡張期の壁張力を低下させて心臓リモデ
リング過程を防止する。しかし、心臓矯正ネットによる過度の心臓縫縮は拡張障害を
もたらし、一回拍出量の低下をもたらす。また機能不全に陥った左心室だけでなく右
心室もネットで覆われるが、右心室の拡張能・収縮能に対する影響は殆ど検討されて
いなかった。今回の我々の研究で、正常心機能の心臓に対しては、心臓矯正ネットは
もっとも正確な収縮能の指標である収縮末期圧容積関係(Emax)に関して右室・左室
ともに改善効果はなかったが、右室拡張能が左室拡張能に先行して障害されることを
見いだした。
高頻度刺激による慢性心不全モデルでの検討では、心臓矯正ネットは縫縮依存性に
右室左室ともに収縮能(Emax)の改善をもたらすが、拡張能(拡張末期圧容積関係:
EDPVR)は右室が左室より早期に障害されることを明らかにした。さらに後下壁心筋梗
塞後急性期に心臓ネット装着が心臓リモデリング虚血性僧帽弁閉鎖不全を予防する効
果を検証した。ビーグル犬の後下壁領域の冠動脈をすべて結紮(5,6 本)し、後下壁
心筋梗塞を作成し、半数に一週間後に心臓ネットを装着した。心筋梗塞作成 3 ヶ月後
に両心室の圧容積関係を評価し、心臓ネット装着群で心拡大(LVDd、LVDs)が抑えられ、
左室収縮能(Emax、LVEF)が良好にたもたれ、心臓リモデリング防止効果を確認できた。
しかし、側副血行の多い犬の心臓では安定して僧帽弁閉鎖不全を作成することができ
ず、虚血性僧帽弁閉鎖不全に対する心臓矯正ネットの有用性を検討ができなかった。
冠動脈側副血行が多い犬での実験モデル設定に問題があった。
本研究の成果を元に、平成 22 年度経済産業省「課題解決型医療機器・器具の開発・
改良に向けた病院・企業間連携事業(補正予算)」に「重症心不全患者に対するテイラ
ーメイド方式の心臓形状矯正ネットの開発」統括研究代表者(金沢医科大学心臓血管
外科部門教授秋田利明)、副統括研究代表(金沢工業大学山部昌副学長)として採択さ
れた(研究費合計 4500 万円)。平成 23 年度内に心臓矯正ネットの設計手法確立(心臓
壁抽出法の確立、コンピュータ編み機入力のための心臓矯正ネット用型紙プログラム
作成、心臓矯正ネット物性試験・耐久試験)と慢性心不全モデルでの心臓矯正ネット
の至適形状評価を行った。さらに平成 24 年度経済産業省「課題解決型医療機器・器具
の開発・改良に向けた病院・企業間連携事業(通常予算)」に「重症心不全患者に対す
る心臓サポートネットの開発」統括研究代表者(金沢医科大学心臓血管外科部門教授
秋田利明)、副統括研究代表(金沢工業大学山部昌副学長)として再度採択された(研
究費合計 5000 万円)。平成 24 年度は、心臓ネット実用化のため、設計手法の改良、安
全性試験、長期動物試験による安全性・有効性評価、PMDA 相談を予定している。さら
に大阪大学心臓血管外科澤芳樹教授が統括研究者を務める NEDO 次世代機能代替技術
の研究「幹細胞ニッチ制御による自己組織再生型心血管デバイス開発」に共同研究者
として加わることになった(金沢医科大学分研究費 1000 万円)。
8.研 究 発 表
① Kurata
Y,
Matsuda
H,
Hisatome
I,
Shibamoto
T.
Roles
of
hyperpolarization-activated current I f in sinoatrial node pacemaking: insights
from bifurcation analysis of mathematical models. Am J Physiol Heart Circ
Physiol 2010; 298: H1748-1760.
Abstract To elucidate the roles of hyperpolarization-activated current (I(f)) in
sinoatrial node (SAN) pacemaking, we theoretically investigated 1) the effects of
I(f) on stability and bifurcation during hyperpolarization of SAN cells; 2)
-15-
combined effects of I(f) and the sustained inward current (I(st)) or Na(+) channel
current (I(Na)) on robustness of pacemaking against hyperpolarization; and 3)
whether blocking I(f) abolishes pacemaker activity under certain conditions.
Bifurcation analyses were performed for mathematical models of rabbit SAN
cells; equilibrium points (EPs), periodic orbits, and their stability were
determined as functions of parameters. Unstable steady-state potential region
determined with applications of constant bias currents shrunk as I(f) density
increased. In the central SAN cell, the critical acetylcholine concentration at
which bifurcations, to yield a stable EP and quiescence, occur was increased by
smaller I(f), but decreased by larger I(f). In contrast, the critical acetylcholine
concentration and conductance of gap junctions between SAN and atrial cells at
bifurcations progressively increased with enhancing I(f) in the peripheral SAN
cell. These effects of I(f) were significantly attenuated by eliminating I(st) or
I(Na), or by accelerating their inactivation. Under hyperpolarized conditions,
blocking I(f) abolished SAN pacemaking via bifurcations. These results suggest
that 1) I(f) itself cannot destabilize EPs; 2) I(f) improves SAN cell robustness
against parasympathetic stimulation via preventing bifurcations in the presence
of I(st) or I(Na); 3) I(f) dramatically enhances peripheral cell robustness against
electrotonic loads of the atrium in combination with I(Na); and 4) pacemaker
activity of hyperpolarized SAN cells could be abolished by blocking I(f).
-16-
1.研究課題名:腫瘍血管の機構、構造、機能に対する一酸化窒素の関与とその修飾に
よる腫瘍血管の正常化および抗腫瘍薬効果増強への応用
(研究番号 C2010-5)
2.キーワード:1)一酸化窒素(NO)
2)腫瘍血管(tumor vessel)
3)転移(metastasis)
4)腫瘍微小環境(tumor microcirculation)
5)肝循環(hepatic circulation)
3.研究代表者:甲野
研究分担者:芝本
裕之・看護学部・教
利重・医 学 部・教
授・医科学
授・生理学Ⅱ
4.研 究 目 的
腫 瘍 の 増 殖 や 転 移 に は 酸 素 と 栄 養 を 補 給 す る た め に 腫 瘍 血 管 の 新 生 が 必 要 と なる
が、腫瘍組織における異常な血管とそれに起因する異常な微小環境は、腫瘍組織内の
低 酸 素 状 態 の 誘 導 あ る い は 抗 腫 瘍 薬 の 輸 送 や 効 果 を 減 弱 さ せ 腫 瘍 細 胞 の 悪 性 形 質の
獲得に有利に働くものと考えられている。血管拡張作用など様々な生理作用が知られ
ている一酸化窒素(NO)は腫瘍組織においてもがん実質あるいは腫瘍血管から分泌
され腫瘍の増殖や腫瘍血管維持に関与すると考えられており、我々の研究でも腫瘍組
織での NO 濃度の上昇や NO 合成酵素の発現亢進を確認している。
本研究では、腫瘍血管を病理学的かつ生理学的に解析し、腫瘍血管の機構、構造、
機能に対する NO の関与を明らかにするとともに、NO 産生の修飾による腫瘍血管の
正常化ならびに抗腫瘍薬の効果増強の可能性を探ることを目的とする。
5.研 究 計 画
1)大腸がん細胞の培養とラット転移性肝腫瘍モデルの作製
理化学研究所よりラット転移性肝腫瘍モデルの作製に用いるラット大腸がん細胞株
RCN-9 細胞の譲渡を受け、通常の培養条件にて培養を行い実験に供与する。転移性肝
腫瘍モデルを作製するために、培養した RCN-9 細胞を F344 ラットの門脈内より投
与し、RCN-9 細胞による転移性肝腫瘍を形成させる。(甲野担当)。
2)肝腫瘍の形成、血管新生および腫瘍増殖の観察、腫瘍血管の病理学的解析・免疫組
織化学的解析
腫瘍増殖の程度を動物イメージング装置 MRI により経時的に評価し、腫瘍容積が正
常肝組織の 1/5 を占める各段階から標本を作製する。また新生血管の程度はヘモグロ
ビン含量を指標とし評価する。摘出した腫瘍組織を用いて腫瘍血管の病理学的解析な
らびに免疫組織化学的解析(iNOS、eNOS、nNOS、HIF-1、VEGF、pimonidazole
の発現)を行い、腫瘍血管と正常血管における各分子の発現ならびに分布の相違点を
明らかにする(甲野担当)。
3)腫瘍血管の血管抵抗分布ならびに反応性の解析
摘出した肝臓を用いて、希釈血液で定流量灌流を行い、微小血管圧および微小循環
動態を測定し、腫瘍血管における血管抵抗・血流分布や血管反応性の解析を行い、正
常血管との相違点を明らかにする(芝本担当)。
-17-
\\XSERVE01\Xs01Data\520_Miyanishi_1\053_Yoshida_1\211630-金沢医科大学 平成 22 年度共同研究成果報告書(冊子&CD-R)
\1102 入稿\業者渡原稿\C2010-5 甲野裕之最終版.doc
6.研 究 成 果
1)ラット転移性肝腫瘍モデルの作製に用いる RCN-9 細胞の培養を行い転移性肝腫瘍モ
デルの確立を試みたが、先行研究で報告されている門脈投与、脾臓内投与のいずれの
方法でも転移性肝腫瘍の形成は確認できなかった。一方、脾臓内投与においてがん細
胞が脾臓から漏れ出て腹腔に播種した個体において肝転移巣が形成されたことから、
投与条件を再検討して転移性肝腫瘍の形成を試みている。
2)ラット転移性肝腫瘍モデルの確立が遅れたことから、並行してマウス大腸がん細胞
株(colon-26 細胞)を用いた転移性肝腫瘍モデルの確立を試みた。その結果マウスモ
デルでは微小な転移性肝腫瘍の形成が認められたため、現在種々の解析に耐えられる
ような腫瘍塊が得られるよう、実験条件の検討を行っている。
3)腫瘍血管と正常血管における微小血管圧、微小循環動態の解析を行うための予備検
討として、ラットとマウスの摘出潅流肝臓を用いて ethanol と虚血再灌流時の微小循
環動態の計測を行い、肝腫瘍組織の腫瘍血管の生理学的解析が実施可能であることを
確認した。
7.研究の考察・反省
ラットとマウスの摘出潅流肝臓を用いて ethanol と虚血再灌流時の微小循環動態を
計測し、微小血管圧、微小循環動態の解析が可能であることを確認した。一方、転移
性肝腫瘍モデルの確立では、当初計画していたラットを用いた転移性肝腫瘍モデルの
作製が困難を極め、マウス転移性肝腫瘍モデル作製を余儀なくされたことから、事前
の情報収集が不十分であったことが大きな反省点である。引き続きラットおよびマウ
スの転移性肝腫瘍モデルの作製を試みるとともに、転移性の肝腫瘍が認められたマウ
スモデルを用いて、NO 産生修飾剤ならびに抗腫瘍薬との併用による抗腫瘍活性を検
討していきたい。
8.研 究 発 表
① Zhang W, Shibamoto T, Kurata Y, Kohno H. Effects of β-adrenoceptor antagonists
on anaphylactic hypotension in conscious rats. Eur J Pharmacol. 2011; 650(1):
303-308.
Abstract Anaphylactic shock is sometimes fatal or resistant to therapy in patients
treated with propranolol, a nonselective β-adrenoceptor antagonist, against
cardiovascular diseases. However, it remains unknown which subtype of
β-adrenoceptors, β(1)- or β(2)-adrenoceptor, is primarily responsible for the
detrimental effects of propranolol on anaphylactic hypotension. Effects of β(1)- and
β(2)-adrenoceptor antagonists were therefore determined on the survival rate and
systemic hypotension in conscious Sprague-Dawley rats that suffered from
anaphylactic shock. Mean arterial pressure and portal venous pressure were
simultaneously measured. The control rats showed a decrease in mean arterial
pressure and an increase in portal venous pressure, but did not die within 48h
after an injection of ovalbumin antigen. The survival rate of the rats pretreated
with propranolol (1mg/kg; n=7), the selective β(2)-adrenoceptor antagonist ICI
118,551 (0.5mg/kg; n=7), or adrenalectomy (n=7) was significantly smaller than
that with the selective β(1)-adrenoceptor antagonist atenolol (2mg/kg; n=7).
However, the changes in mean arterial pressure and portal venous pressure were
-18-
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similar for 10min after antigen among any groups, although propranolol and
atenolol attenuated the antigen-induced increase in heart rate. Furthermore,
bolus injections of epinephrine (3μg/kg) at 3 and 5min after antigen prevented the
death of the atenolol-pretreated rats, but only marginally prolonged the survival
rates for the ICI 118,551- or propranolol-pretreated and adrenalectomized rats. In
conclusion, in rat anaphylactic shock, inhibition of β(2)-adrenoceptor causes more
detrimental effects than that of the β(1)-adrenoceptor. These β-adrenoceptor
antagonists may exert detrimental effects on rat systemic anaphylaxis via
inhibiting beneficial actions of catecholamines endogenously released from the
adrenal gland.
②
Zhang W, Shibamoto T, Kuda Y, Ohmukai C, Kurata Y. Pulmonary
vasoconstrictive and bronchoconstrictive responses to anaphylaxis are weakened
via β 2 -adrenoceptor activation by endogenous epinephrine in anesthetized rats.
Anesthesiology. 2011; 114(3): 614-623.
Abstract BACKGROUND: Patients treated with propranolol, a nonselective
β-adrenoceptor antagonist, have increased incidence and severity of anaphylaxis.
We determined whether β1- or β2-adrenoceptor antagonist modulated pulmonary
vasoconstriction and bronchoconstriction in rat anaphylactic hypotension.
METHODS: Anesthetized ovalbumin-sensitized male Sprague-Dawley rats were
randomly allocated to the following pretreatment groups (n = 7/group): (1)
sensitized control (nonpretreatment), (2) propranolol, (3) the selective
β2-adrenoceptor antagonist ICI 118,551, (4) the selective β1-adrenoceptor
antagonist atenolol, and (5) adrenalectomy. Shock was induced by an intravenous
injection of the antigen. Mean arterial pressure, pulmonary arterial pressure, left
atrial pressure, central venous pressure, portal venous pressure, airway pressure,
and aortic blood flow were continuously measured. RESULTS: In either sensitized
control or atenolol-pretreated rats, mean arterial pressure and aortic blood flow
decreased substantially, whereas pulmonary arterial pressure and airway
pressure did not increase soon after antigen injection. In contrast, in rats
pretreated with either propranolol, ICI 118,551, or adrenalectomy, airway
pressure significantly increased by 14 cm H 2 O, and pulmonary arterial pressure
by 7.5 mmHg after antigen injection. At 2.5 min after antigen injection, the
plasma concentration of epinephrine increased 14-fold in the sensitized rats
except for the adrenalectomy group. Portal venous pressure after antigen injection
increased by 16 mmHg similarly in all sensitized rats. All of the sensitized control
group and two of the atenolol group were alive for 60 min after antigen injection,
whereas all rats of the propranolol, ICI 118,551, and adrenalectomy groups died
within 50 min after antigen injection. CONCLUSIONS: The pulmonary
vasoconstrictive and bronchoconstrictive responses to systemic anaphylaxis were
weakened via β2-adrenoceptor activation by epinephrine endogenously released
from the adrenal gland in the anesthetized Sprague-Dawley rats.
③ Kamikado C, Shibamoto T, Zhang W, Kuda Y, Ohmukai C, Kurata Y. Portacaval
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shunting attenuates portal hypertension and systemic hypotension in rat
anaphylactic shock. J Physiol Sci. 2011; 61(2): 161-166.
Abstract Anaphylactic shock in rats is characterized by antigen-induced hepatic
venoconstriction and the resultant portal hypertension. We determined the role of
portal hypertension in anaphylactic hypotension by using the side-to-side
portacaval shunt- and sham-operated rats sensitized with ovalbumin (1 mg). We
measured the mean arterial blood pressure (MAP), portal venous pressure (PVP),
and central venous pressure (CVP) under pentobarbital anesthesia and
spontaneous breathing. Anaphylactic hypotension was induced by an intravenous
injection of ovalbumin (0.6 mg). In sham rats, the antigen caused not only an
increase in PVP from 11.3 cm H 2 O to the peak of 27.9 cm H 2 O but also a decrease
in MAP from 103 mmHg to the lowest value of 41 mmHg. CVP also decreased
significantly after the antigen. In the portacaval shunt rats, in response to the
antigen, PVP increased slightly, but significantly, to the peak of 17.5 cm H2 O, CVP
did not decrease, and MAP decreased to a lesser degree with the lowest value being
60 mmHg. These results suggest that the portacaval shunt attenuated
anaphylactic portal hypertension and venous return decrease, partially preventing
anaphylactic hypotension. In conclusion, portal hypertension is involved in rat
anaphylactic hypotension presumably via splanchnic congestion resulting in
decreased venous return and thus systemic arterial hypotension.
④ Shibamoto T, Tsutsumi M, Ohmukai C, Kuda Y, Zhang W, Kurata Y. Ethanol
predominantly constricts pre-sinusoids of isolated perfused livers of rat, guinea
pig and mouse. Alcohol Alcohol. 2011; 46(2): 117-122.
Abstract AIMS: Ethanol constricts hepatic vessels of isolated perfused livers of
rats, but not dogs. However, it is not known whether ethanol constricts or dilates
the hepatic vessels in other species such as guinea pigs and mice. In addition, the
sites of hepatic venoconstriction induced by ethanol were not known in rat livers.
We therefore studied the effects of ethanol on the segmental hepatic vascular
resistance and liver weight of mice, rats and guinea pigs. METHODS: The isolated
livers were portally perfused with diluted blood at constant flow. The sinusoidal
pressure was measured by the double occlusion method and was used to determine
the pre- and post-sinusoidal resistance. The change of liver weight was also
measured. Ethanol was administered cumulatively into the perfusate to gain
clinically relevant concentrations of 1-300 mM. RESULTS: Ethanol dose
dependently caused predominant pre-sinusoidal constriction in livers of all three
species. When compared with the livers of the guinea pigs and rats, the mouse
livers were the weakest in response. Dose-dependent decreases in liver weight and
bile flow accompanied predominant pre-sinusoidal constriction in guinea pigs and
rats. CONCLUSION: Ethanol predominantly constricts pre-sinusoids in rat,
guinea pig and mouse livers, although the mouse liver response was much weaker.
Ethanol-induced pre-sinusoidal constriction is accompanied by reduction of liver
blood volume in guinea pigs and rats.
-20-
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⑤ Zhang W, Shibamoto T, Kuda Y, Shinomiya S, Kurata Y. The responses of the
hepatic and splanchnic vascular beds to vasopressin in rats. Biomed Res. 2012;
33(2): 83-88.
Abstract Vasopressin, a vasoactive peptide, causes vasoconstriction via V1a
vasopressin receptors. Unlike other vasoconstrictor agents, vasopressin also has
vasodilatory properties. The purpose of this study was to determine the effect of
vasopressin on hepatic and splanchnic circulation in Sprague- Dawley rats. The
experiments were conducted in not only isolated blood- and constant flowperfused
livers but also anesthetized spontaneously breathing rats. In anesthetized rats,
portal venous pressure (Ppv), systemic arterial pressure (Psa), central venous
pressure, and hepatic blood flow (HBF) of combined portal venous and hepatic
arterial blood flow were continuously measured, and splanchnic vascular bed
resistance (Rspl) defined by (Psa - Ppv) / HBF was determined. In perfused livers,
vasopressin at 0.1-1,000 nM caused weak venoconstriction as evidenced by small
increase in Ppv. In anesthetized rats, when vasopressin was injected into the
portal vein as a bolus consecutively at 0.01-100 nmol/kg, Psa increased
dose-dependently with the peak increment of 60 ± 18 mmHg at 100 nmol/kg. Ppv
and HBF decreased, with resultant increase in Rspl, indicating splanchnic
vasoconstriction. In conclusion, hepatic venoconstrictor action of vasopressin was
weak in rats. Vasopressin causes splanchnic vasoconstriction, resulting in a
decrease in HBF and Ppv in anesthetized rats.
⑥ Zhang W, Shibamoto T, Kuda Y, Kurata Y, Shinomiya S, Kida M, Tsuchida H.
Vascular perfusion limits mesenteric lymph flow during anaphylactic hypotension
in rats. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2012; 302(10): R1191-R1196.
Abstract To determine fluid extravasation in the splanchnic vascular bed during
anaphylactic hypotension, the mesenteric lymph flow (Q(lym)) was measured in
anesthetized rats sensitized with ovalbumin, along with the systemic arterial
pressure (P(sa)) and portal venous pressure (P(pv)). When the antigen was
injected into the sensitized rats (n = 10), P(sa) decreased from 125 ± 4 to 37 ± 2
mmHg at 10 min with a gradual recovery, whereas P(pv) increased by 16 mmHg at
2 min and returned to the baseline at 10 min. Q(lym) increased 3.3-fold from the
baseline of 0.023 ± 0.002 g/min to the peak levels of 0.075 ± 0.009 g/min at 2 min
and returned to the baseline within 12 min. The lymph protein concentrations
increased after antigen, a finding indicating increased vascular permeability. To
determine the role of the P(pv) increase in the antigen-induced increase in Q(lym),
P(pv) of the nonsensitized rats (n = 10) was mechanically elevated in a manner
similar to that of the sensitized rats by compressing the portal vein near the
hepatic hilus. Unexpectedly, P(pv) elevation alone produced a similar increase in
Q(lym), with the peak comparable to that of the sensitized rats. This finding
aroused a question why the antigen-induced increase in Q(lym) was limited
despite the presence of increased vascular permeability. Thus the changes in
splanchnic vascular surface area were assessed by measuring the mesenteric
arterial flow. The mesenteric arterial flow was decreased much more in the
-21-
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sensitized rats (75%; n = 5) than the nonsensitized P(pv) elevated rats (50%; n = 5).
In conclusion, mesenteric lymph flow increases transiently after antigen
presumably due to increased capillary pressure of the splanchnic vascular bed via
downstream P(pv) elevation and perfusion and increased vascular permeability in
anesthetized rats. However, this increased extravasation is subsequently limited
by decreases in vascular surface area and filtration pressure.
⑦ Shibamoto T, Tsutsumi M, Kuda Y, Ohmukai C, Zhang W, Kurata Y. Mast cells
are not involved in the ischemia-reperfusion injury in perfused rat liver. J Surg
Res. 2012; 174(1): 114-119.
Abstract BACKGROUND: It is reported that mast cells are involved in
ischemia-reperfusion (I/R) injury of several organs such as intestine, heart, and
brain in rats. However, the roles of mast cells are not known in rat hepatic I/R
injury. We determined using genetically mast cell deficient (Ws/Ws) rats whether
mast cells participate in the genesis of hepatic I/R injury. METHODS: Isolated
livers from male Ws/Ws rats (n = 6), their wild type +/+ rats (n = 6), and Sprague
Dawely (SD) rats (n = 12) were perfused portally with diluted blood (Hct 8%) at a
constant blood flow. Ischemia was induced at room temperature by occlusion of the
inflow line of the portal vein for 1 h, followed by 1-h reperfusion in a recirculating
manner. The pre- and post-sinusoidal resistances were determined by measuring
the portal venous pressure (Ppv), hepatic venous pressure, blood flow and the
sinusoidal pressure, which was assessed by the double occlusion pressure (Pdo).
Liver injury was assessed by blood alanine aminotransferase (ALT) levels, bile
flow rate and histology of the livers. RESULTS: In the +/+ group, liver injury
occurred after reperfusion; blood ALT levels increased from 19 ± 4 (SD) to 71 ± 18
and 135 ± 30 (IU/L) at 30 and 60 min, respectively, and bile flow decreased to 51%
± 6% of the baseline at 60 min after reperfusion. Histologic examination revealed
marked hepatic degeneration. Similar changes were observed in the Ws/Ws rats
and the SD rats (n = 6), and there were no significant differences in the variables
among the Ws/Ws, +/+, and SD groups. In any ischemia groups, immediately after
reperfusion, Ppv substantially, but Pdo only slightly, increased, followed by a
return towards the baseline, indicating a predominant increase in pre-sinusoidal
resistance over post-sinusoidal resistance. Liver weight significantly increased at
60 min after reperfusion. In the control SD rats without I/R (n = 6), no significant
changes were observed in the variables. CONCLUSIONS:I/R injury occurs in the
absence of hepatic mast cells in the isolated perfused rat liver model of I/R injury.
-22-
1.研究課題名:種を越えて保存された新規がん抑制遺伝子ファミリーFAM107 分子の包
括的探索(研究番号
C2010-6)
2.キーワード:1)がん抑制遺伝子 (tumor suppressor gene)
2)熱ショック蛋白質 (heat-shock protein)
3)FAM107 分子 (FAM107 family gene)
3.研究代表者:中島日出夫・医学部・准教授・腫瘍内科学
研究分担者:元雄
良治・医学部・教
佐久間
勉・医学部・教
授・腫瘍内科学
授・呼吸器外科学
石垣
靖人・総合医学研究所・准教授・共同利用部門
小泉
恵太・金沢大学子どものこころ発達研究センター・准教授
丸山
光生・国立長寿医療研究センター研究所・老化機構研究部・部長
4.研 究 目 的
が ん 温 熱療 法 は 化 学 療 法 や 放 射線 療 法 と の 併 用 で 抗 腫瘍 効 果 を 増 強 さ せ る こと か
ら、補助療法の一つとして位置づけられているが、その分子機構には謎が多い。一方、
熱に対する生体の応答は熱ショック蛋白質(HSP)を中心として研究・理解されていて、
HSP70 や HSP90 は癌細胞で発現が上昇し、その発現によって各種治療に抵抗性となる。
HSP27 の発現は前立腺がんの予後不良のマーカーである。また、HSP の発現を誘導する
転写因子 HSF-1 も癌化を促進する。したがって HSP は癌原遺伝子であり、実臨床(温
熱療法)と基礎医学(HSP)との間に理論上大きな矛盾が存在する。これを解決すべく
白血病細胞に熱ショックを与え、がん抑制遺伝子候補である FAM107B 分子を同定した。
FAM107 ファミリー分子は進化の上で非常に良く保存された分子であり、哺乳類をは
じめ、カエル、魚類、ショウジョウバエにも相同遺伝子が存在し、また、ヒトとマウ
ス/ラットの間ではそのアミノ酸配列が 98%以上一致している。哺乳類は FAM107A と
FAM107B の2つのサプタイプが存在し、FAM107A は TU3A あるいは DRR1 と命名されて
いて、腎細胞癌、肺癌、脳腫瘍などで発現が低下し、強制発現で腫瘍の増殖抑制や細
胞死を誘導する事から癌抑制遺伝子の候補とされている。FAM107B について我々は、
消化管の癌の進展に伴って発現が低下し、熱ショック/温熱療法によって発現が誘導
さ れ る 熱 シ ョ ッ ク 蛋 白 質 の 一 種 で あ る こ と を 証 明 し 、 HITS (Heat-shock Inducible
Tumor Small protein)と命名した。HITS は、癌細胞で発現が低下して強制発現により
腫瘍の増殖抑制効果を持つ事から、癌抑制遺伝子の候補と考えられる。また、
TU3A(FAM107A)の 発現は 神経系に 偏在し ている のに対し て HITS(FAM107B)は広 汎な組
織に発現し、各種臓器の進化・分化の過程において重要な働きをしている事が推測さ
れる。FAM107 ファミリー分子の機能は未知の部分が多いが、癌をはじめとする疾患や
神経・免疫の分化などにおいて決定的な働きをしている可能性が高く、生化学的解
析・病理学的検討・遺伝子改変体による解析など包括的探索を行い、その全容を解明
したいと考えている。
5.研 究 計 画
HITS(FAM107B)をがん抑制遺伝子として確固たるものにするため、癌種を以前よ
-23-
り解析してきた胃癌と大腸癌に加えて、肺癌(佐久間との共同研究)や膵癌(元雄と
の共同研究)などに広げて病理学的・細胞生物学的解析を行い、適応拡大を試みる。
また、FAM107 ファミリー分子のがん抑制遺伝子としての分子機構は依然不明のため、
分子間相互作用やシグナル伝達機構の解明をマイクロアレイやプロテオーム解析の技
術を駆使して行う(石垣との共同研究)。
さらに研究の対象を癌のみならず、神経系(小泉との共同研究)や老化/免疫系(丸
山との共同研究)に拡大し、それら器官の発生や分化に対する影響を調べる。FAM107
分子の生体での働きを明らかにするために、遺伝子改変体の作製を遂行する。今まで
に FAM107 のショウジョウバエの相同遺伝子(CG9328)を RNAi でノックダウンさ
せた系統を小泉との共同研究で樹立していて、それを使って Ras-MAPK 経路やユビ
キチン系のシグナルとの遺伝学的相互作用を in vivo で確認する。さらに、トランス
ポゾンのシステムを利用したノックアウト系統の樹立とトランスジェニックによるレ
スキューの実験も行う。また、ショウジョウバエの各種疾患モデル(癌や神経変性疾
患)と CG9328 の改変体との交配を行って、疾患との相互作用を明らかにする。加え
て、胚〜幼虫を用いた神経系の発生・発達における CG9328 の影響も解析する。一方、
ノックアウトマウスの作製は丸山の協力の下に行い、FAM107A と FAM107B のそれ
ぞれのノックアウトマウスの系統を樹立し、その交配を重ねて FAM107A,B 両遺伝子
の欠損したダブルノックアウトマウスの作製を最終目標とする。
6.研 究 成 果
癌との関連:抗 HITS 抗体(ウサギポリクローナル抗体)が作製済であり、それを
利 用 し て 各 種 組 織 に お け る 免 疫 染 色 を 行 い 、 癌 化 と の 関 連 を 病 理 組 織 学 的 に 解 析し
た。まず消化器癌において、大腸癌への多段階進展過程(正常粘膜→腺腫→癌)の経
過に伴って HITS の発現量が段階的に低下し、胃癌をその主要な組織型別に解析した
ところ、腸型癌では HITS の発現量が顕著に低下しているのに対して、びまん型癌で
は低下していないことを報告した (Ineternational Journal of Oncology 37: 583-593,
2010)。胃癌・大腸癌に共通する組織亜系である粘液癌では HITS の発現は陽性であっ
た。組織アレイを用いて組織を拡大して大規模スクリーニングを行った結果、癌化に
伴った HITS の発現低下が、甲状腺癌・乳癌・肺癌・子宮頸癌・精巣腫瘍など複数の
臓器で見られた。さらにそれぞれの臓器に対する組織アレイを用いて統計学的解析を
施行した結果、乳癌・甲状腺癌では HITS 発現強度と病理学的ステージ分類(TNM 分
類、なかでも T 因子)との間に逆相関関係が見られた。さらに乳癌では、PgR 陰性、
HER2 陽性 、 Ki67 陽 性、 スキ ル スタ イプ で HITS の 発現 量が 高 い こと を証 明 した
( International Journal of Oncology 41: 1347-1357, 2012 )。
Tet-ON システムによる誘導発現系を用いた実験で、癌細胞に HITS を in vitro で
強 制 発 現 さ せ る と 増 殖 因 子 に 対 す る 応 答 性 が 低 下 し て 細 胞 増 殖 の 抑 制 が 見 ら れ 、ま
た、 in vivo (ヌードマウスを使った xenograft モデル)で HITS を誘導発現させても
腫瘍の増殖抑制効果が確認された。つまり、HITS の発現により腫瘍が増殖抑制され
る事を in vivo, in vitro の両方の系で証明することができた( Ineternational Journal
of Oncology 37: 583-593, 2010 & 41: 1347-1357, 2012 )。同じ Tet-ON システムによ
る誘導発現系を用いて、DNA マイクロアレイや Real-time PCR による遺伝子発現解
-24-
析を行った結果、細胞骨格系や細胞運動に関する分子(SNAIL, KRT17, AREG, IDH1,
Nudix, KPNA7 等)の変動が確認できた。
分子機構の解明:HITS の分子間相互作用を解明するために、酵母ツーハイブリッ
ドとプロテオーム解析を行った。免疫沈降や GST 融合蛋白質による pull down アッセ
イを施行し、未だ核心に迫る分子の同定はできていないが、β-アクチンをはじめとす
る細胞骨格系や細胞運動に関わる転写因子や接着分子と連動している証拠を得た。
神経系における働き:FAM107 ファミリー分子の神経軸索伸長時の役割について検
討した。ラット神経様細胞 PC12 を用いた FAM107 ファミリー分子の強制発現系や
RNAi を用いた実験から、HITS(FAM107B)が neurite 伸長を抑制、DRR1(FAM107A)
が 増 強 に 働 く こ と を 突 き 止 め た 。 マ ウ ス 脳 初 代 培 養 実 験 か ら も 同 様 の 結 果 を 得 てお
り、FAM107 フ ァ ミリ ー分 子 が神 経 軸 索伸 長 に決 定 的な 役 割 を持 つ こと が 証明 さ れ
た。一方、ショウジョウバエを使った実験から、CG9328(FAM107 分子の相同遺伝
子)の強制発現が毛細胞の伸長を抑制することがわかり、以上の結果から FAM107 フ
ァミリー分子はアクチン複合体の形成に関与する可能性が示唆された(投稿準備中)。
遺伝子改変体:ショウジョウバエの遺伝子改変体を使った実験で、tublin-GAL4 によ
って HITS を全身に強制発現させると、毛細胞の異常が起きアクチン複合体の形成に
関与していることがわかった。また、パラコートによる酸化ストレス/熱ショックに
よるストレスに対して耐性が低下する事が判明した。さらに各種疾患モデルと
CG9328 のノックアウト/ノックダウン/トランスジェニックのショウジョウバエと
の交配を進めた結果、疾患モデル(癌化)である oncogenic な Ras85DV12 を眼に特
異的に発現させた系統と交配させると、Ras85DV12 による眼の変性がレスキューさ
れる事が観察され、癌化と HITS との遺伝学的相関を in vivo で証明することができた
(左図)。一方、神経変性疾患–自閉症のモデルであるユビキチンリガーゼ Ube3a の変
異を眼に発現させた系統と交配した結果、HITS を強制発現する事により約 50%で眼
の変性をレスキューする事ができ、HITS と神経変性疾患との遺伝学的相関を証明す
る事ができた(右図)。ノックアウトマウスに関しては、依然、商業ベースで販売され
る ES 細胞の作製・購入待ちの状態である。
Ras85DV12
Ras85DV12
x HITS knockdown
Ube3a x GMR-GAL4
Ube3a x GMR-GAL4
x HITS
特許出願: 『HITS(FAM107B)を用いた癌の検査』
特願 2010-137406 出願日:平成 22 年 6 月 16 日
受賞:16th World Congress on Advances in Oncology, Greece Award for outstanding
performance:平成 23 年 10 月
Nakajima H, Minamoto T, Motoo Y.HITS (FAM107B): Νovel heat-shock induced
-25-
protein as a maker for cancer progression and diagnosis.
7.研究の考察・反省
HITS のがん抑制遺伝子である状況証拠(各種癌組織で発現の低下・腫瘍増殖の抑制)
は固まってきた印象がある。病理学的検索・生化学的解析は金沢医科大学で十分な研
究環境が整備されており、比較的順調に進んだと思われる。分子間相互作用のプロテ
オーム解析も石垣らによる協力のもと精力的に行ったが、未だ核心に迫る分子を同定
できず、今後はプロテインアレイなどの新しい手法を試す必要があると考えている。
神経系の解析は、小泉の全面的な協力で神経軸索伸長に FAM107 ファミリー分子が
決定的な役割を持っていることを証明し、現在論文を投稿準備中である。マウスやシ
ョウジョウバエを使った神経系の実験も金沢大学で行うことができ、ほぼ期待通りに
進むことができた。
遺伝子改変体であるが、ショウジョウバエは小泉の協力で疾患との相関を示す面白
いデータが得られた。しかしながら、ノックアウト(ショウジョウバエ/マウス)の
作製は他所に全面的に依存しなければならない状態であり、自分で作製すると膨大な
時間と労力を必要とするため、商業ベースでの販売を待つこととなってしまった。今
後は、金沢医科大学でも遺伝子改変体の作製ができるような環境が整備されると、こ
うした新規分子の研究の展開も違ったものとなると予想された。
8.研 究 発 表
① Nakajima H, Ishigaki Y, Xia Q-S, Ikeda T, Yoshitake Y, Yonekura H, Nojima T, Tanaka
T, Umehara H, Tomosugi N, Takata T, Shimasaki T, Nakaya N, Sato I, Kawakami K,
Koizumi K, Minamoto T and Motoo Y. Induction of HITS, a newly identified family
with sequence similarity 107 protein (FAM107B), in cancer cells by heat shock
stimulation. International Journal of Oncology 2010; 37: 583-593.
Abstract The Family with sequence similarity 107 (FAM107) possesses an
N-terminal domain of unknown function (DUF1151) that is highly conserved
beyond species. In human, FAM107A termed TU3A/DRR1 has been reported as a
candidate tumor suppressor gene which expression is downregulated in several
types of cancer, however no studies have investigated the other family protein,
FAM107B. In the present study, we designated FAM107B as heat shock-inducible
tumor small protein (HITS) and studied its expression and functional properties in
cancer. HITS is an 18-kDa nuclear protein expressed in a variety of tissues
including stomach, colon, lung and lymphoid organs. In human gastric and
colorectal cancers and a mouse model of colon cancer, its expression in tumor cells
was much lower than normal epithelial cells, while expression pattern and
intensity varied among different histological types of cancer. In functional analysis
in vitro, forced expression of this protein suppresses the cellular responses to
growth factors. Furthermore, HITS gene carries the promoter region providing
heat shock transcription
factor (HSF) binding sites
and amplifying the
transcription of HITS by heat shock or hyperthermia treatment both in vitro and
in vivo. Thus HITS would be a potential tumor suppressor gene similar to TU3A
-26-
containing heat responding elements, which contrasts with previously described
oncogenic activities of other heat shock proteins such as HSP70 and HSP90.
② Nakajima H, Koizumi K, Tanaka T, Ishigaki Y, Yoshitake Y, Yonekura H, Sakuma T,
Fukushima T, Umehara H, Ueno S, Minamoto T and Motoo Y. Loss of HITS (FAM107B)
expression in cancers of multiple organs: tissue microarray analysis. International
Journal of Oncology 2012; 41: 1347-1357.
Abstract Family with sequence similarity 107 (FAM107) proteins consist of two
subtypes, FAM107A and FAM107B in mammals, possessing a conserved
N-terminal domain of unknown function. Recently we found that FAM107B, an
18 kDa nuclear protein, is expressed in a broad range of tissues and is
downregulated in gastrointestinal cancer. Because FAM107B expression is
amplified by heat-shock stimulation, we designated it heat shock-inducible tumor
small protein (HITS). Although data related to FAM107A as a candidate tumor
suppressor have been accumulated, little biological information is available for
HITS.
In
the
present
study,
we
examined
HITS
expression
using
immunohistochemistry with tissue microarrays and performed detailed statistical
analyses. By screening a high-density multiple organ tumor and normal tissue
microarray, HITS expression was decreased in tumor tissues of the breast, thyroid,
testis and uterine cervix as well as the stomach and colon. Further analysis of
tissue microarrays of individual organs showed that loss of HITS expression in
cancer tissues was statistically significant and commonly observed in distinct
organs in a histological type-specific manner. The HITS expression intensity was
inversely correlated with the primary tumor size in breast and thyroid cancers. In
addition, effects of tetracycline-inducible HITS expression on tumor growth were
investigated in vivo. Forced expression of HITS inhibited tumor xenograft
proliferation, compared with the mock-treated tumor xenograft model. These
results show that loss of HITS expression is a common phenomenon observed in
cancers of distinct organs and involved in tumor development and proliferation.
-27-
1.研究課題名:看護実践能力に影響する要因-臨床看護師への実態調査より明らかにな
ったこと-(研究番号
C2010-7)
2.キーワード:1)看護実践能力(nursing practice ability)
2)影響因子(influential factors)
3)質問紙(questionnaire)
4)自己評価(self-evaluation)
5)他者評価(peer evaluation)
3.研究代表者:久司
研究分担者:笠井
一葉・看護学部・助
教・基礎看護学
恭子・福井県立大学看護福祉学部看護学科・講
師・基礎看護学
4.研 究 目 的
我が国の臨床看護の場では、医療の高度化、患者の高齢化や重症化、在院日数の短
縮などにより、看護を取り巻く状況を多様にし複雑さを増している。このような実情
の中、看護実践能力向上の対策は急務である。本研究の目的は、看護実践能力に影響
する新たな因子を明らかにすることである。
5.研 究 計 画
1)研究デザイン:関連探索型調査研究
2)対象:A県B県の大学病院及び総合病院の看護部長および病院長に紙面および面談
にて研究の趣旨を説明し、承諾の得られた病院に勤務する看護師 1,085 名。
3)調査期間:2010 年 11 月~12 月
4)調査方法:舟島(2002)ら作成の臨床看護師特性、中山(2009)ら作成の看護実践能力
自己評価尺度(①ケア展開能力、②看護の基本の実践能力、③調整能力、④研鑽能
力)を参考に質問紙を作成した。質問紙は全 6 ページ、基本調査 21 項目、看護実践
能力に関することは 32 項目で、「いつも行っている」「たいてい行っている」「とき
どき行っている」「まったく行わない」の 4 段階で自己評価してもらった。チーム内
の他者1名を自由に選択してもらい、その他者についても同様に評価してもらった。
調査の趣旨を記載した用紙を添えた無記名自記式調査用紙を配布し、留め置き法に
て回収した。
分 析 は 、 統 計 ソ フ ト SPSS ver.17 を 用 い 、 記 述 統 計 な ら び に 平 均 値 の 差 は
Mann-Whitney 検定を行った。有意水準は 5%とした。
5)倫理的配慮:所属機関の倫理審査委員会の承認(受付番号 83)を得た後、各病院長・
看護部長には調査趣旨と調査用紙は無記名であること、封筒に封入後は糊付けをし、
開閉不可能な回収箱に入れるため匿名性は保持されること、調査は自由参加であり、
いったん引き受けても後で断ることは可能であること、協力できない場合でも損害
は被らないこと、調査結果は研究者の施錠可能な研究室で保管すること、調査結果
は学会発表や論文投稿することなどを記載した書面を用いて説明し承諾を得た。対
-29-
象者には同様の書面を調査用紙と共に配布し、調査用紙の回収をもって同意を得た
ものとした。
6.研 究 成 果
1)回収数:892 名から回答を得た(回収率 82.2%)。そのうち記述の不備なものなどを除
き 677 名分を有効回答とした(有効回答率 75.9%)。
2)対象者の属性
性別は女性 647 名(95.6%)、男性 30 名(4.4%)、年齢は 20 歳から 62 歳であった。
3)看護実践能力調査結果:
<看護実践能力の実態>項目別では、最も得点の高い項目は自己・他者評価ともに「個
人情報の守秘」であった。一方、最も得点の低い項目は、自己・他者評価ともに「看
護研究の取り組み」であった。
<就業にかかわる背景と看護実践能力>看護師になった動機が、「一生の仕事にできる」
と 回 答 し た 者 が 20.1% と 最 も 多 く 、 次 い で 「 経 済 的 な 自 立 ( 16.5% )」「 や り が い
(16.5%)」の順であった。この 3 つの理由を選択した者はそれ以外の理由の者に比
べて、「ケア展開能力」の自己評価が有意に高かった(p<.05)。看護師として働いて
いる理由は「経済的理由」が 45.1%と高く、次いで「看護師が好きだ」、「人の役に
立つ」が共に 8.7%であった。
「経済的理由」以外の回答をした者の「ケア展開能力」
の自己評価が有意に高かった(p<.05)。これらはともに他者評価では有意差がなかっ
た。仕事継続の意志は「働き続ける」が 52.1%、「人生の転機に離職するが再就職を
試みる」が 28.4%という結果だった。
「働き続ける」と回答した者はそうでない者に
比べて、
「調整能力」の自己評価が有意に高かった(p<.05)。また、
「働き続ける」以
外と答えた者は、「看護の基本の実践能力」と「調整能力」の他者評価が有意に高か
った(p<.05)。相談相手の有無との関連では、相談相手がいる者はいない者に比べて、
自己・他者評価ともに「ケア展開能力」
(p<.01)、「看護の基本の実践能力」(p<.05)、
「調整能力」(p<.05)が有意に高かった。
<臨床経験年数および実習指導経験の有無と看護実践能力>臨床経験年数は 10 年以下
の者が 52.7%、11 年以上の者が 47.3%で、平均経験年数は 12.4 年であった。看護
実践能力 4 カテゴリーをみると、経験年数 11 年以上の者は、10 年以下の者に比べて
「調整能力」「研鑽能力」の自己評価が有意に高かった(p<.01)。一方、経験年数 10
年以下の者は 4 カテゴリーすべての他者評価が有意に高かった(p<.001)。実習指導
経験は指導経験ありの者が 52.4%、ない者が 47.6%であった。看護実践能力 4 カテ
ゴリーをみると、指導経験のある者は、4 カテゴリーすべての自己評価が有意に高か
った(p<.01~.001)。
7.研究の考察・反省
看護実践能力の自己・他者評価ともに高得点だったのが「個人情報の守秘」であっ
-30-
たことは、近年重視されている個人情報の取り扱いが徹底されてきていると考える。
また、低得点だったのが、自己・他者評価ともに「看護研究の取り組み」であったこ
とは、多忙な業務の中での看護研究実施の困難性がうかがえる。
対象者の背景別では、看護師の就業継続に関する項目では、高い志を抱いて看護師
になった者は「ケア展開能力」の自己評価が高かったことから、看護を目指す気持ち
や信念は、看護過程展開能力の自己評価に影響することが示唆された。また、仕事継
続の意志がある者は「調整能力」の自己評価が高かった。このことから、医療チーム
内での調整能力は就業継続の弾みとなり、仕事を続ける中で看護の基本の実践能力も
向上すると考えられた。相談相手がいる者は「ケア展開能力」、「看護の基本の実践能
力」、「調整能力」の自己および他者評価が高かった。自分が他者に相談するプロセス
では対人相互作用が発生し、双方の認知が必要であることから、同様の場面の多い看
護実践においても能力が発揮できるため、自己および他者評価が高まると推察する。
チームで遂行する看護の現場では、問題解決のために他者の意見を聞いたり話し合っ
たりすることは重要な要素であり、本調査からも看護実践能力向上のために相談相手
をもつことの重要性が示唆された。臨床経験を積んできた者は「調整能力」や「研鑽
能力」の自己評価が高く、また、他者の指導に携わってきた者は看護実践能力 4 カテ
ゴリーすべての自己評価が高かったことから、他者への指導を含めた豊富な経験が自
己評価を高める要因の一つと考えられた。一方、臨床経験の浅い看護師は、看護実践
能力を備えた先輩看護師に対して高い評価をつけたと考えられ、目標となる看護師の
モデルが身近に存在していることが推察できる。
結論:看護実践能力に影響因子の新たなものには、看護師になった動機、看護職に
就いている理由、看護職を継続する考え、相談相手の有無、実習指導経験の有無があ
ることが明らかになった。
本研究では看護師自身の主観的な自己評価法により看護実践能力を測定している。
そのため看護師個々に本来備わっている看護実践能力を正しく測定しているとは言い
難い。看護実践能力をどのような尺度でどのような方法で測定し把握するのかは、今
後の課題である。
8.研 究 発 表
本研究は、第 37 回日本看護研究学会学術集会(Aug/2011)、第 3 回日中韓看護学会(Oct
/2011)にて発表した。論文は、投稿準備中である。
-31-
平成 22 年度
奨励研究成果報告書
医学領域
S2010-
1~10
看護学領域
S2010-11
1.研究課題名:Xp11.2 転座関連腎癌の FISH による診断法の確立(研究番号
S2010-1)
2.キーワード:1)Xp11.2 転座関連腎癌
(Renal carcinomas associated with Xp11.2 translocations)
2)TFE3 遺伝子( TFE3 gene)
3)融合遺伝子(fusion genes)
4)Fluorescence in situ hybridization (FISH)
5)パラフィン切片(paraffin sections)
3.研究者氏名:佐藤
勝明・医学部・准教授・病理学Ⅱ
4.研 究 目 的
Xp11.2 転座/TFE3 遺伝子融合関連腎癌は、発見当初は小児に多い腎癌とされてきた
が、近年では若年成人から高齢者の報告例が増えてきている。また、この腎癌は通常
の淡明細胞型腎細胞癌よりも進行した病期で発見されることが多く、転移の頻度も高
く生命予後は良くないことが報告されており、その正確な診断と治療が必要とされて
きている。
Xp11.2 転座/TFE3 遺伝子融合関連腎癌の病理組織診断は、HE 標本による形態的な特
徴と TFE3 免疫染色の陽性像を総合して簡便に行われることが多い。しかし、近年、そ
れらの症例の中で、RT-PCR による解析で既知の TFE3 遺伝子と他遺伝子との融合が証
明できない症例がかなりあることがわかってきた。そこで我々は、TFE3 遺伝子が関与
した染色体転座の有無をパラフィン切片上での fluorescence in situ hybridization
(FISH)により簡便に検出し、FISH での確定診断法を確立するとともに、この腎癌の臨
床病理学的特徴を明らかにすることを本研究の目的とした。
5.研 究 計 画
1)症例の収集:HE 染色標本で、淡明あるいは好酸性の細胞質をもつ腫瘍細胞が乳頭状
から充実性に増殖し、間質には砂粒体や硝子結節がみられるという特徴的な像を呈す
る腎細胞癌症例のうち、免疫染色で TFE3 の核での発現がわずかでも認められ Xp11.2
転座/TFE3 遺伝子融合関連腎癌が疑われた 24 症例を複数の施設から収集し研究対象
とした。
2)FISH プローブの作製:TFE3 遺伝子の切断をともなう染色体転座を検出するために 、
BAC クローンコレクションから TFE3 遺伝子の centromere 側に位置する RP11-457I2
と telomere 側に位置する RP11-281B18 を選定しそれぞれ異なる蛍光標識をすること
により FISH プローブを作製した。
3)転座の判定:ホルマリン固定パラフィン包埋切片において FISH を行い、癌細胞を蛍
光顕微鏡下で 100 個観察し、2 色の蛍光シグナルの分離が認められた症例を転座陽性
-33-
例と判定した。複数の施設から収集した切片であり条件が異なることから、1 個以上
の確実なシグナル分離を観察できれば陽性とした。
6.研 究 成 果
Xp11.2 転座/TFE3 遺伝子融合関連腎癌が疑われた 24 症例について検討した。症例の
内訳は、年齢 4-74 歳、男性 8 例、女性 16 例であった。
シグナルの分離が観察され、転座陽性と判定されたのは、24 例中の 5 例(21%)で
あった。他施設での RT-PCR の検討により、その 5 例のうち 3 例は ASPL-TFE3 融合遺伝
子が、1 例は PRCC-TFE3 融合遺伝子が検出され、転座陰性の 19 例には TFE3 遺伝子が
関与した既知の融合遺伝子は検出されなかった。
今回の FISH で確定診断できたのは小児 2 例と成人例 3 例の計 5 例のみであり、臨床
病理学的検討には至らなかった。
7.研究の考察・反省
Xp11.2 転座/TFE3 遺伝子融合関連腎癌が HE 染色像および TFE3 免疫染色結果から疑
われた症例において FISH 法により TFE3 遺伝子が関与した染色体転座を検出したが、
転座陽性例は 21%と低い結果であった。この結果は、その後の他施設での RT-PCR によ
る検討でも同様であった。今回の対象症例には症例を幅広く収集する目的から、TFE3
免疫染色が弱陽性の症例が多く含まれていたことが原因と考えられた。TFE3 免疫染色
は偽陽性結果が出やすく、陽性および陰性対照をたてた厳密な免疫染色における中等
度以上の陽性所見を有意とすべきことが裏付けられた。
HE 染色像から鑑別が必要な腎癌としては、通常の淡明細胞型腎細胞癌や乳頭状腎細
胞癌、血液透析患者に多いとされる淡明細胞型乳頭状腎細胞癌などがある。いずれも
免疫染色で確定できるような有用なマーカーが現時点ではないため、HE 染色像と複数
の免疫染色結果から総合的に診断されている。TFE3 免疫染色で陽性と判定されると
Xp11.2 転座/TFE3 遺伝子融合関連腎癌と確定に近い診断がなされるため、免疫染色の
判定は厳しくなされなければならない。
今回の FISH では癌細胞 100 個中 1 個以上のシグナル分離の検出で陽性と判定したが、
実際にはシグナル分離が 100 個中 5 個を越える症例はなく、パラフィン切片上での間
期核 FISH による転座の検出感度は低かった。さらに、1 例は 100 個中 1 個のシグナル
分離を観察したのみで、観察部位によっては偽陰性となる可能性がありその検出の限
界が明らかで、診断に用いるには観察細胞数を増やす必要性が示唆された。
8.研 究 発 表
当研究課題に関しての論文発表はない。
-34-
1.研究課題名:イオン液体による細胞超微細構造の解析(研究番号
S2010-2)
2.キーワード:1)イオン液体(ionic liquid)
2)走査型電子顕微鏡(SEM)
3)培養細胞(cells)
4)EMT(EMT)
5)ダニ(Tick)
3.研究者氏名:石垣
靖人・総合医学研究所・准教授・生命科学研究領域
4.研 究 目 的
我 々 は 電 子 顕 微 鏡 下 に お け る 細 胞 内mRNA構 造 の 解 析 を 目 指 し 、 透 過 型 電 子 顕 微鏡
(TEM)による解析手法の構築を行ってきた。この手法の確立は招待講演2件に加えて、
医学生物学電子顕微鏡技術学会の奨励賞を受けるに至っている。しかし、TEMによる観
察は薄切切片を用いるために深みのある立体像を得ることが難しかった。
このため、焦点深度の深い像を撮影可能な走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた解析を
試みてきたが、最大の問題は試料作成に高度な技術が必要なうえに時間がかかること
であり、従来の手法では迅速な研究展開ができないことが明らかとなった。このため、
大阪大学工学研究科の桑畑進教授に共同研究を申し入れ、教授の開発したイオン液体
を活用した電子顕微鏡観察を試みることになった。
イオン液体は、常温において液体状態を保つ塩で、蒸気圧が限りなく0に近い性質
を持つために、熱しても真空下でも蒸発することがない。このため、走査型電子顕微
鏡(SEM)の真空チャンバに入れて観察することが可能であり、SEM観察におけるサン
プル処理の新しい方法として極めて有用であることを実証しつつある。
本研究では、イオン液体を利用したヒト培養細胞の超微細構造の観察法とそれに組
み合わせた免疫染色法の確立を目指して研究を進める。イオン液体による観察法は、
3日以上かかる従来法と比べて、わずか 15 分程度の処理により試料作製を完成できる
超迅速な手法である。しかし、現在までに昆布の形態観察についてのみ報告がある程
度であり、そのほかの生体試料への応用が未だに進められていない。本研究では世界
で初めて培養細胞を用いた研究を行うが、その応用により病原微生物の同定や組織構
築の異常などの診断を従来の手法と同様に行えることが期待される。
5.研 究 計 画
2010 年2月から大阪大よりイオン液体サンプルの供与を受け、エムシープロットバ
イオテクノロジー社の御支援を受けて研究を進めている。
現在までに検討した方法では、固定した細胞を純水で洗浄し、そこにイオン液体を
振りかけて放置した後、これを風や吸水性のシートで脱ぐい去ることでサンプルを用
意していた。この操作によりイオン液体が細胞表面に被膜を形成し、SEM の電子線を
受けることで2次電子あるいは反射電子を放出するために可視化が可能であると考え
られている。
しかし、ここまでに検討した操作では、確かに非常に短い時間でのサンプル作製を
可能にしたものの、実験自体が習熟を要する、試料が SEM 内でチャージアップしてし
まって観察不能になる、イオン液体溜まりができて試料を覆い隠してしまうなどの問
題点を経験してきた。
-35-
そこで、1年間で以下の事項を検討し、本手法の実用化を行う。
(1) 合成樹脂シート上での培養細胞系の確立
多数の検体処理を低コストかつ簡便に行えるようにするために、合成樹脂シート
上での細胞培養条件を検討し、より操作の簡単な実験方法を検討する。使用する素
材は、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、およびこれらの複合
シートである。
(2) 固定細胞における処理条件の検討
グルタルアル デヒド固 定細胞の観察 をイオン 液体の濃度お よび処理 温度を変 え
て検討する。通常使われる溶媒はアルコールまたは純水であるために、この処理条
件について検討を行う。またイオン液体自身が粘性を持つために、凹凸のある形状
を観察する際には構造が埋もれてしまうため、加温して粘性を抑えた条件について
検討を行う。
(3) 追加処理条件の検討
オスミウム酸処理、白金ブルー処理など、従来使われてきた電子顕微鏡観察の改
良法を追加して、より鮮明で解像度の高い像を得ることを目指す。
(4) イオン液体溜まりの処理方法の確立
頻繁に観察さ れる問題 点のひとつに イオン液 体の溜まりが 生じてし まう経験 が
多かったために、これを解消するために様々な吸水素材や乾燥法を検討する。
(5) SEM の設定を調整する。
SEM には加速電圧をはじめとする様々なパラメーターを調整して像を得るが、従
来法とは極端に異なる条件が適している可能性を見出しており、最適な機器の設定
を提案する。
(6) 免疫染色手法との併用
申請者は TEM による細胞内 mRNA 分子の観察法を提案してきたが、今後はこれと
合せて SEM を活用したより立体的な mRNA-タンパク質複合体の局在観察の工夫につ
いても検討していきたい。
(7) 感染病原体および組織観察への応用
上記培養細胞での経験を活かし、病原菌の観察や腎臓糸球体構造の観察条件を
検討する。
6.研 究 成 果
(1) 合成樹脂シート上での培養細胞系の確立
多数の検体処理を低コストかつ簡便に行えるようにするために、合成樹脂シート
上での細胞培養条件を検討し、より操作の簡単な実験方法を確立した。
(2) 固定細胞における処理条件の検討
グルタルアル デヒド固 定細胞の観察 をイオン 液体の濃度お よび処理 温度を変 え
て検討した結果、純水を溶媒として用いて 10%程度が形態観察に最適であることが
明らかとなった。
(3) 追加処理条件の検討
オスミウム酸処理、白金ブルー処理など、従来使われてきた電子顕微鏡観察の改
良法では像の改善は認められなかったが、白金粒子を固着させた抗体による前処理
が極めて有効であった。
(4) イオン液体溜まりの処理方法の確立
頻繁に観察さ れる問題 点のひとつに イオン液 体の溜まりが 生じてし まう経験 が
-36-
多かったために、様々な吸水素材や乾燥法を検討した結果、キムワイプによる除去
が最も優れていた。
(5) SEM の設定を調整する。
SEM には加速電圧をはじめとする様々なパラメーターを調整して像を得るが、最
終的には低めの加速電圧が適していることを明らかにした。
(6) 免疫染色手法との併用
免疫染色との 併用につ いては残念な がら信頼 性のおけるプ ロトコー ルを確立 す
るには至らなかった。
(7) 感染病原体および組織観察への応用
上記培養細胞での経験を活かし、病原菌の観察や腎臓糸球体構造の観察条件を検
討した結果、ピロリ菌の観察には成功した。しかし、腎臓糸球体構造の観察には十
分な解像力を得ることができなかった。
(8) 生きたままの生体観察
電子顕微鏡 におい て生 きたままの 生体試 料を 観察するこ とは不 可能 と考えら れ
てきた。その理由としては、電子線を利用する電子顕微鏡観察では試料を真空状態
に保つ必要があることが挙げられる。しかし、生きた状態に近い、あるいは生きた
ままの観察が可能になれば、光学顕微鏡では観察できない’超微細な’生体の動き
を見ることが可能になる。はじめはイオン液体処理により生体をコートすることに
より観察を可能にすることを目指したが、失敗に終わった。
そこで、真空に耐えうる生物を探索することにより、この難題を突破することを
試みた。様々な処理条件や生物種を検討していく中で、キチマダニ(学名:
Haemaphysalis flava (H. flava) )が真空に耐性であることを見出した。このダニ
を走査型電子顕微鏡内に導入し、これまで不可能とされてきた生きたままの個体の
運動を電子顕微鏡内で捉えることに初めて成功した。この成果は従来の試料作製法
に大きなインパクトを与えるとともに、電子顕微鏡観察が静止画から動画へと転換
する節目をきざむことになる。今後は、イオン液体の種類を変えるなどの工夫を行
い、生きたままの細胞の観察や生体内分子反応の解析へ研究を発展させていきたい
と考えている。
7.研究の考察・反省
ピロリ菌を観察するにあたって、大まかな構造は観察できたが、鞭毛や繊毛の観察
はうまくいかなかった。同様に腎臓の観察にも成功しなかった。赤血球や肺内部構造
の観察には成功しているために、今後サンプルの調製に工夫を凝らすことで、何とか
満足のいく観察像を得たいと考えている。
8.研 究 発 表
① Ishigaki Y, Nakamura Y, Oikawa Y, Yano Y, Kuwabata S, Nakagawa H, Tomosugi
N, Takegami T: Observation of live ticks (Haemaphysalis flava) by scanning
electron microscopy under high vacuum pressure. PLoS ONE 2012; 7 :e32676.
Abstract Scanning electron microscopes (SEM), which image sample surfaces by
scanning with an electron beam, are widely used for steric observations of resting
samples in basic and applied biology. Various conventional methods exist for SEM
sample preparation. However, conventional SEM is not a good tool to observe
living organisms because of the associated exposure to high vacuum pressure and
-37-
electron beam radiation. Here we attempted SEM observations of live ticks.
During 1.5×10(-3) Pa vacuum pressure and electron beam irradiation with
accelerated voltages (2-5 kV), many ticks remained alive and moved their legs.
After 30-min observation, we removed the ticks from the SEM stage; they could
walk actively under atmospheric pressure. When we tested 20 ticks (8 female
adults and 12 nymphs), they survived for two days after SEM observation. These
results indicate the resistance of ticks against SEM observation. Our second
survival test showed that the electron beam, not vacuum conditions, results in
tick death. Moreover, we describe the reaction of their legs to electron beam
exposure. These findings open the new possibility of SEM observation of living
organisms and showed the resistance of living ticks to vacuum condition in SEM.
These data also indicate, for the first time, the usefulness of tick as a model
system for biology under extreme condition.
② Ishigaki Y, Nakamura Y, Takehara T, Shimasaki T, Tatsuno T, Takano F, Ueda Y,
Motoo Y, Takegami T, Nakagawa H, Kuwabata S, Nemoto N, Tomosugi N,
Miyazawa S: Scanning electron microscopy with an ionic liquid reveals the loss of
mitotic protrusions of cells during the epithelial-mesenchymal transition.
Microsc Res Tech 2011; 74: 1024-1031.
Abstract Epithelial-mesenchymal transition (EMT) is a key event in cancer
metastasis and is characterized by increase in cell motility, increase in expression
of mesenchymal cell markers, loss of proteins from cell-to-cell junction complexes,
and changes in cell morphology. Here, the morphological effects of a
representative EMT inducer, transforming growth factor (TGF)-β1, were
investigated in human lung adenocarcinoma (A549) cells and pancreatic
carcinoma (Panc-1) cells. TGF-β1 caused morphological changes characteristic of
EMT, and immunostaining showed loss of E-cadherin from cell-to-cell junction
complexes in addition to the upregulation of the mesenchymal marker vimentin.
During scanning electron microscopy (SEM) with an ionic liquid, we observed
EMT-specific morphological changes, including the formation of various cell
protrusions. Interestingly, filopodia in mitotic cells were clearly observed by SEM,
and the number of these filopodia in TFG-β1-treated mitotic cells was reduced
significantly. We conclude that this reduction in such mitotic protrusions is a
novel effect of TGF-β1 and may contribute to EMT.
-38-
1.研究課題名:頭頸部癌に対する化学放射線療法の治療効果予測における機能・代謝画
像の解析 (研究番号
S2010-3)
2.キーワード:1)頭頸部癌(head and neck carcinoma)
2)化学放射線療法(chemoradiation therapy)
3)MRI(magnetic resonance imaging)
4)拡散強調画像(diffusion-weighted imaging)
5)PET(fluorodeoxyglucose positron emission tomography)
3.研究者氏名:的場
宗孝・医学部・准教授・放射線医学
4.研 究 目 的
頭頚部癌に対する 化学 放射線療法の治療 効果 の予測や早期治療 効果 判定を目的と
した、MRI 拡散強調画像および 18 F-FDG PET/CT の定量的指標である ADC 値およ
び SUV 値を用いた評価法を確立する。
5.研 究 計 画
頭頸部癌の原発巣と転移リンパ節の化学放射線療法開始前、治療期間中および終了
後の ADC 値および SUV 値を計測し、さらに経時的変化率を算出する。治療効果判定
は内視鏡所見と生検にて行い、治療効果良好群と不良群に群分けを行い、2 群間で腫
瘍縮小率や病理所見などと ADC 値および SUV 値を用いたパラメーターとの相関や対
比を行う。さらに、長期的 follow up を行い、再発率や遠隔転移の出現率、予後との
相関においても検討を行う。
平成 22 年度は、DWI および PET/CT の化学放射線療法の一次効果の予測と早期治
療効果判定への有用性について検討を行う。
対象症例は、化学放射線療法開始前に DWI と PET/CT の撮像を行い、治療前の原発
巣および転移リンパ節の ADC 値および SUV 値の計測を行う。化学放射線療法は、治
療期間に約 6 週間を要するが、治療期間中に、DWI の撮像は 2 回行い ADC 値を計測
し、治療前 ADC 値との経時的変化率を算出する。PET/CT は放射線被爆の問題があ
るので、治療期間中には撮像は行わないものとする。
化学放射線療法終了後の原発巣における一時的治療効果判定は、治療終了一カ月後
の内視鏡所見による腫瘍の縮小の程度と生検にて判定を行い、治療効果良好群と不良
群に群分けを行う。化学放射線療法終了後の転移リンパ節における一時的治療効果判
定は、治療終了後の DWI にて RECIST の判定基準に基づき、PR 以上を治療効果良
好群とし、それ以外を効果不良群と判定する。治療終了後の DWI と PET/CT は、治
療終了 1 カ月後に撮像を行い。ADC 値と SUV 値の計測を行う。
-39-
検討項目を以下に示す。
(1) 治療前 ADC 値、治療中期 ADC 値、ADC 変化率および治療前 SUV max の各パ
ラメーターと治療中期における腫瘍縮小率との相関性
(2) 最終治療効果判定による 4 段階評価の各群での治療前 ADC 値、治療中期 ADC 値、
ADC 変化率および治療前 SUV max の比較
(3) ADC 値と SUV max の相関性
6.研 究 成 果
対象症例数は 12 症例。内 1 症例は治療中間期の評価が PD のため化学放射線療法
は中止され、最終的な対象症例数は 11 症例で、最終効果判定は、CR:7 例、PR:4
例であった。治療前および治療中間期の ADC 値の平均値は、1.46±0.33×10 -3 mm 2 /sec、
1.86±0.31×10 -3 mm 2 /sec であった。また、ADC 変化率の平均値は、20.1±17.89%
であった。治療中間期における腫瘍縮小率は 46.2±11.1%で、治療中間期における腫
瘍縮小率と治療前、治療中間期 ADC 値および ADC 変化率との相関関係を調べた結果、
治療中間期における腫瘍縮小率と ADC 変化率との間に有意な正の相関関係が認めら
れた。
治療前 PET/CT のおける治療前 SUVmax の平均値は 20.53±13.99 であった。治療
中間期における腫瘍縮小率と治療前 SUVmax との間には有意な負の相関関係が認め
られた。最終効果判定における CR 症例と PR 症例の間で、治療前、治療中間期 ADC
値、ADC 変化率および治療前 SUVmax の有意差検定を行ったところ、CR 症例は PR
症例よりも治療中間期 ADC 値が有意に高値を呈した。治療前、治療中間期 ADC 値お
よび ADC 変化率と治療前 SUVmax との相関関係を調べた結果、有意な相関関係は認
められなかった。
以上、これまでの検討の結果、頭頸部癌に対する化学放射線療法の治療効果と拡散
強調画像の ADC 値および PET/CT の SUVmax の間には有意な関係が認められ、ADC
値および SUVmax は治療効果の予測や早期効果判定に有用な biomarker になり得る
可能性が示唆された。
7.研究の考察・反省
今回、我々が検討した化学放射線療法の治療効果と ADC 値との関連性において、
治療中間期における腫瘍の縮小率は ADC 変化率と有意な相関関係が認められ、かつ、
最終効果判定での CR 群の治療中期における ADC 値は PR 群と比較して有意に高値を
呈するという結果を得た。これは、治療による腫瘍細胞密度の低下やアポトーシスや
壊死による細胞外腔の拡張による水拡散能の増加によって ADC 値が上昇すると推測
され、治療後の ADC 値上昇は、治療に伴った腫瘍組織の細胞死の程度を反映してい
ると考えられる。SUVmax に関しては、頭頸部癌において原発腫瘍部の SUVmax が
-40-
高い程、予後が悪いとされる報告が見られる。今回の我々の検討でも、治療前 SUVmax
は治療中間期における腫瘍縮小率と有意な相関が認められ、SUVmax が高い程、腫瘍
縮小率は小さいという結果が得られ治療前 SUVmax にて治療効果の推測が可能かも
しれない。
今回の検討における反省点は、まずは検討症例数が少なかったこと、さらに頭頸部
癌であるが原発部位にばらつきがあること、さらに病期により化学放射線療法の使用
抗癌剤や放射線線量などに違いがあることなどである。但しこれらの問題点は今後の
症例蓄積にて解決されていくものと思われる。
8.研 究 発 表
今回の研究成果は、日本磁気共鳴医学会雑誌へ投稿中である。今後、症例の蓄積と
長期的な経過観察を行い、海外英文誌への投稿を行っていく予定である。
-41-
1.研究課題名:ヒト口唇小唾液腺組織からの唾液腺幹細胞の予期的同定
(研究番号 S2010-4)
2.キーワード:1)唾液腺(salivary gland)
2)再生医療(regenerative medicine)
3)組織幹細胞(tissue stem cell)
3.研究者氏名:河南
崇典・医学部・助
教・血液免疫内科学
4.研 究 目 的
現在、国内におけるドライアイ、およびドライマウス(口腔乾燥症)の患者数は800
万人以上と推定されている。唾液腺・涙腺の分泌低下の原因として、シェーグレン症
候群、頭頸部領域への放射線治療、種々の薬剤、加齢などがあげられる。これほど多
くの患者が存在するにもかかわらず、ドライアイ、ドライマウスは病気としての認識
が低く、その治療の中心は対症療法にとどまっている。現在のところ、人工唾液、人
工涙液の使用や、残存する腺房細胞の分泌能を促進する薬剤が使用されている。しか
し、腺組織の障害が軽度で分泌が低下した患者に対しては分泌を促進することも可能
であるが、一旦萎縮し不可逆的な障害を受けた唾液腺、涙腺機能の回復は現在のとこ
ろほとんど期待できず、失われた腺組織の再生、機能回復を目的とした根治的治療法
が強く望まれている。
近年、成体に存在している組織幹細胞は、損傷を受けた組織を修復・再生する際の
細胞供給源になっていると考えられており、再生医療への応用ができる細胞として注
目を集めている。唾液腺についてはこれまで、ラットとマウスを用いた組織障害モデ
ル、およびラット顎下腺からの組織幹細胞の分離などが報告され、その存在が示唆さ
れている。しかし、ヒト唾液腺幹細胞については、未だ知見は乏しく、クローナルな
解析や、特異的なマーカーについては明らかとなっていない。細胞表面マーカーは、
往々にして動物種によって異なる結果が得られることから、ヒト唾液腺幹細胞を同定
するためには、ヒト特有の組織幹細胞マーカーの検索が必須となる。そこで本研究で
は、唾液線分泌障害に対する唾液腺組織幹細胞の細胞治療を目指し、ヒト唾液腺組織
より組織幹細胞を分離・同定し、増幅する技術を確立し、唾液腺の再生医療を創始す
ることを目的とした。
5.研 究 計 画
当研究室では既に SS の診断に必須な口唇小唾液腺組織より、ヒト唾液腺培養上皮
細胞を特異的に分離培養する技術を確立している。そこでまず、SS、また non-SS 由来
ヒト唾液腺培養上皮細胞の characterization を施行し、サイトカイン産生能やその応
答性等、ヒト唾液腺上皮細胞の形質について検討を行い、次に、ヒト唾液腺初代培養
細胞を用い組織幹細胞の同定を行うこととした。組織幹細胞はこれまでにいくつかの
組織から発見されているが、それらの性質は組織により異なり、幹細胞の特異的マー
カーとなり得るものが非常に少ない。ヒト唾液腺における組織幹細胞の効率的な分離
には、培養唾液腺上皮細胞中の特異的な組織幹細胞マーカーが必要となる。既に我々
は、唾液腺上皮細胞の培養に伴う各種遺伝子発現、表面抗原変化について検討した際
-43-
に、継代初期の幼若な細胞にのみ EGF-R (epidermal growth factor receptor)が発現
し、また培養細胞が経時的に、いくつかの機能分子の発現を変化させる事象を見いだ
している。これは培養唾液腺上皮細胞が継代初期には主に導管細胞からなり、培養経
時的に腺房細胞へ分化していることを示唆するものであった。そこで幼若で未分化な
唾液腺組織幹細胞を分離するため、FACS (fluorescence activated cell sorting)を
用い、EGF-R をマーカーとした、個体中に極少数しか存在しない唾液腺幹細胞の純化
を試みた。その結果、ヒト唾液腺培養上皮細胞には EGF-R 弱陽性、強陽性の分画が存
在 し 、 強 陽 性 群 に は 、 他 の 幹 細 胞 に お い て 発 現 が 認 め ら れ る prostate stem cell
antigen (PSCA)、clusterin 遺伝子の特異的な発現が確認された。ヒト唾液腺培養細
胞は EGF-R 強陽性分画に幹細胞を含む可能性が示唆されたが、より純度の高い分離を
行うにはいくつかのマーカーを組み合わせる必要がある。そこで、近年、抗体を使用
しない新しい幹細胞純化法として使用され始めた DNA 結合色素 Hoechst33342 を排出す
る能力を指標として分離する side population (SP)法を組み合わせ、ヒト唾液腺組織
幹細胞の更なる純化を試みている。予備的実験において、SP 法によりヒト唾液腺培養
上皮細胞の解析を行ったところ、0.5〜1 %の SP 細胞集団を得ることに成功している。
今後、この SP 細胞群と EGF-R 強陽性群との各種プロファイルを比較し、唾液腺の幹細
胞を選択的に認識するマーカーの検索を行い、ヒト唾液腺培養上皮細胞からの幹細胞
の分離同定を行う。
6.研 究 成 果
ヒト口唇小唾液腺組織から上皮細胞を特異的に分離培養する系を確立し、このヒト
唾液腺培養細胞のcharacterizationから、次の結果を明らかにした。
1) 表面抗原の解析から、唾液腺上皮細胞はIFNγ刺激によりHLA-DR, CD40, Fasを発現
し、また、SS患者由来の唾液腺上皮細胞とnon-SS由来の唾液腺上皮細胞ではIL-6, TGF
β, TNFαなどいくつかの分子で発現する量が異なることを明らかにした。
2) 唾液腺培養上皮細胞をIFNγの存在また非存在下にて培養し、IL-6およびTGFβのmRNA
発現と、培養上清中のこれら分子をELISA法にて定量を行った。SS唾液腺上皮細胞で
は、IFNγ刺激によりIL-6が過剰産生され、その蛋白産生量はnon-SS唾液腺上皮細胞
に比べ、SS唾液腺上皮細胞では増大していることを明らかにした
3) SS 唾液腺上皮細胞において、IFNγ刺激に対する過剰応答性および TGFβの産生
能低下を見いだした。ナイーブヘルパーT 細胞からの Th17 細胞分化は、IL-6 と
TGF-βの刺激により効率よく分化が誘導される。また、一方で、ナイーブヘルパ
ーT 細胞を TGF-βで処理すると免疫応答を制御する Treg 細胞の分化が誘導され
る。本来 TGF-βで誘導される Treg 特異的転写因子 Foxp3 の発現は、IL-6 によっ
て抑制される。SS 唾液腺上皮細胞の TGFβ産生能低下と IL-6 の過剰産生が、Th17
と Treg の分化のバランス制御に異常をもたらしている可能性を示した。
4) 遺伝子発現の解析において、培養細胞は継代初期にEGF-Rを発現するが、経時的にそ
の発現を徐々に低下させ、継代後期にEGF-Rは陰性化し、α-amylase1の発現を増大さ
せる機能分子の経時的な発現の変化を見いだした。これは培養唾液腺上皮細胞が初期
には主に導管細胞からなり、徐々に腺房細胞に分化していることを示している。発現
する機能分子が、分化により変化することから、培養細胞中の組織幹細胞の存在が示
-44-
唆された。
5) 継代初期の幼若な細胞に発現するEGF-Rをマーカーとし、FACSにより、個体中に極少
数しか存在しない唾液腺幹細胞の純化を試みた。その結果、ヒト唾液腺培養上皮細胞
にはEGF-R弱陽性、強陽性の分画が存在し、強陽性群に、他の幹細胞において発現が
認められるprostate stem cell antigen (PSCA)、clusterin遺伝子が特異的に発現す
る事象を見いだした。
6) より純度の高い分離を行うため、抗体を使用しない新しい幹細胞純化法として使用
され始めた DNA 結合色素 Hoechst33342 を排出する能力を指標として分離する side
population (SP)法を施行した。その結果、ヒト唾液腺培養上皮細胞には 0.5〜1 %の
SP 細胞集団が存在することを明らかにした。
7) 高い割合で幹細胞が存在すると考えられる SP 分画の細胞に、前立腺の前駆・幹細
胞 マ ー カ ー と し て 報 告 さ れ て い る PSCA、 上 皮 幹 細 胞 の 増 殖 と 分 化 制 御 に 関 わ る
DNp63 などの特異的な発現を示すことを見出した。
7.研究の考察・反省
唾液腺再生の試みについては、動物を用いた組織学的、生化学的検討は行われてい
るものの、ヒト培養細胞からの唾液腺細胞の再生の取り組みについては世界でも初め
ての試みである。そのため唾液腺組織幹細胞に関する特異的なマーカーや、分化の指
標となる分子についての知見は未だほとんど得られておらず、ヒト唾液腺組織および
培養上皮細胞の特異的マーカー検索が必須であった。今回、我々は、ヒト唾液腺培養
上皮細胞が培養に伴い、いくつかの機能分子の発現を変化させる事象に注目した。そ
こから継代初期の幼若な細胞に発現するEGF-Rを見いだし、この分子を指標としたFACS
による唾液腺幹細胞分離を行った。その結果、このEGF-R強陽性の分画に、他の幹細胞
において発現が認められるPSCA, clusterin遺伝子の特異的な発現を見いだした。また、
もう一 つの 幹細胞 純化 のアプ ロー チとし てDNA結合色 素Hoechst33342を排出 する 能力
を指標として分離するside population(SP)法を施行し、ヒト唾液腺培養上皮細胞のSP
細胞集団とmain population(MP)細胞集団の遺伝子発現解析を行った。その結果、高い
割合で幹細胞が存在すると考えられるSP分画の細胞にもPSCAが特異的に発現すること
を明らかにした。これらの結果から、ヒト唾液腺培養上皮細胞中には組織幹細胞が存
在し、EGF-R強陽性分画に幹細胞を含む可能性を示した。今後、得られた複数のマーカ
ーを用いて細胞の分取を行い、これらの細胞が放出するサイトカインなどの因子を同
定し、この細胞集団の分化制御や自己複製能について検討を行いたい。
8.研 究 発 表
① Kawanami T, Sawaki T, Sakai T, Miki M, Iwao H, Nakajima A, Nakamura T, Sato
T, Fujita Y, Tanaka M, Masaki Y, Fukushima T, Hirose Y, Taniguchi M, Sugimoto N,
Okazaki T and Umehara H. Skewed Production of IL-6 and TGFβ�by Cultured
Salivary Gland Epithelial Cells from Patients with Sjögren’s Syndrome. Plos ONE.
in press.
㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌㻌
-45-
1.研究課題名:ヒト心筋由来バイオペースメーカーのロバスト性及び心臓ドライブ機能
強化方法に関する理論的解析:Gene Therapy への応用を目指して
(研究番号 S2010-5)
2.キーワード:1)ヒト心筋(human cardiac myocytes)
2)自動能(automaticity)
3)バイオロジカル・ペースメーカー(biological pacemaker)
4)分岐理論(bifurcation theory)
5)コンピュータ・シミュレーション(computer simulation)
3.研究者氏名:倉田
康孝・医学部・准教授・生理学Ⅱ
4.研 究 目 的
近年、徐脈性不整脈(洞不全症候群・房室ブロック)の新たな治療法として、バ
イオペースメーカーの開発が期待され、実験的研究が進められている。方法論のひ
とつとしての”Gene Therapy”は遺伝子操作によって固有心筋に自動能(バイオペ
ースメーカー活性)を発現させるものであり、心室ドライブ可能なバイオペースメ
ーカーの作成は実験的に成功しているが、自動能の安定性などに問題があり、実用
には至っていない。理想的バイオペースメーカーシステムの設計・開発には、心房・
心室筋自動能の発生機序の理解とともに、ペースメーカー機能(自動能のロバスト
性・心臓ドライブ機能)を強化する手法を理論的に究明する必要がある。
心筋細胞における自動能の発現は、非線形システムに生じる分岐現象(パラメータ
に依存した安定性とダイナミクスの質的変化)の一つと考えられる。従ってバイオペ
ースメーカーの開発には、非線形力学系の分岐理論に基づく新たな理論的・実験的
アプローチが必要不可欠である。我々は以前より、洞結節や心房・心室筋における
自動能の発生機序を非線形力学的に解析しており、昨年度の研究において、内向き
整流K + チャネル抑制及び過分極活性化陽イオンチャネル導入によりヒト心房・心室
筋由来バイオペースメーカー細胞を効率的に作成する方法を明らかにした。しかし
ながら、バイオペースメーカー実用化に向けた理論的基盤を確立するには、バイオ
ペースメーカー機能及びその強化手法を組織レベルで検証する必要がある。本研究
の目的(本年度の目標)は、ヒト心筋細胞由来バイオペースメーカーの機能を強化す
るための最適イオンチャネル修飾・導入処方を組織レベルで理論的に究明し、自動
能ロバスト性と心臓ドライブ機能に優れた理想的バイオペースメーカー開発(イオ
ンチャネル遺伝子操作によるヒト心房・心室筋由来バイオペースメーカー機能強化)
の手法を提案することである。
5.研 究 計 画
本研究では、まず昨年度までに作成したヒト心房・心室筋由来バイオペースメーカー細胞
モデルを用い、ギャップ結合を介してバイオペースメーカー細胞と正常細胞モデルとを連結さ
せ、1次元多細胞カップルモデルを作成する。このモデルで、バイオペースメーカー機能(過
分極負荷に対するロバスト性及び心房・心室ドライブ機能)への自動能調節イオン電流系導
入の影響を解析し、ペースメーカー機能強化方法を検証する。さらに、バイオペースメーカー
細胞及び固有 心筋 細胞 モデルを連結 した2次元 組織モデルを構築 し、バイオペースメーカ
ー機能強化における自動能調節イオン電流系導入の有効性を組織レベルで究明する。
-47-
ワークステーション(HP Z800, Hewlett-Packard Japan, Tokyo)及び科学技術計
算・シミュレーション用ソフトウェア(MATLAB 7.5, Math Works Inc., USA)、分岐
解析用ソフトウェア(MATCONT)を用い、①多細胞システムにおける活動電位の再構
成及び活動電位パラメータの計算、②活動電位のパラメータ依存性変化(分岐パター
ン)の計算・プロット、③システムの平衡点とその安定性の計算のための解析システ
ム(MATLAB プログラム群)を作成する。内向き整流K + チャネル抑制及び過分極活性
化陽イオンチャネル導入により作成したバイオペースメーカー細胞モデルと固有心
筋細胞モデルを連結した多細胞モデルシステムの安定性とダイナミクスをパラメー
タの関数として計算し、パラメータ依存性変化を表す“分岐図”を作成する。さらに
バイオペースメーカー細胞に自動能調節作用を持つイオンチャネル電流系を導入し、
得られた分岐図からバイオペースメーカー機能の変化を比較検証し、最適なバイオペ
ースメーカー作成手法を提案する。
1)バイオペースメーカー機能とイオンチャネル電流導入による機能強化方法の解析
まず、ヒト心房・心室筋由来バイオペースメーカー細胞と正常心房・心室筋細胞をギ
ャップ結合により連結した1次元多細胞(~130 細胞)カップルモデルを用い、ギャ
ップ結 合及 びイ オン チ ャネル のコ ンダ クタ ン スをパ ラメ ータ とす る 分岐図 を作 成し
て、心房・心室ドライブに必要な条件(バイオペースメーカー細胞数など)を決定す
る。さらに、自動能調節イオンチャネル電流系(過分極活性化陽イオンチャネル電流
I f 、持続性内向き電流 I st 、T 型 Ca 2+ チャネル電流 I CaT 、クラス D-L 型 Ca 2+ チャネル電
流 I CaLD )のバイオペースメーカー細胞への導入によるバイオペースメーカー機能の変化を、
ペースメーカー活性が消失する臨界ギャップコンダクタンス値及び心房・心室筋ドライ
ブ可能なギャップコンダクタンス領域を指標として解析する。これらの解析結果から、
自 動 能 調 節 イ オ ン チ ャ ネ ル 遺 伝 子 導 入 に よ る 最 も 効 果 的 な バイオペースメーカー機能
強化方法を提案すると共に、心房と心室でのバイオペースメーカー作成上の相違点と問
題点を明らかにする。
2)バイオペースメーカー機能強化におけるイオンチャネル導入効果の組織レベル解析
ヒト心筋由来バイオペースメーカー細胞の周囲に正常心筋細胞をギャップ結合によ
って連結した2次元組織モデルを構築する。バイオペースメーカー細胞に各自動能調
節イオンチャネル電流を導入し、組織モデルのギャップコンダクタンス依存性ダイナ
ミクスをコンピュータ・シミュレーションにより解析する。ペースメーカー活性と心
房・心室ドライブが消失するギャップコンダクタンス値の変化を解析することにより、
バイオ ペー スメ ーカ ー 機能強 化に おけ る自 動 能調節 イオ ンチ ャネ ル 電流導 入の 有効
性を組織レベルで検証する。
6.研 究 成 果
1)ヒト心房筋・心室筋由来バイオペースメーカーのロバスト性とドライブ機能の比較解析
ヒト心房筋由来バイオペースメーカー細胞と心房筋細胞、ヒト心室筋由来バイオペ
ースメーカー細胞と心室筋細胞をギャップ結合で連結した1次元多細胞カップルモ
デルを用い、各々のペースメーカー活性と心房・心室ドライブ機能をギャップ結合コ
ンダクタンスの関数として解析した結果、心室筋由来バイオペースメーカー細胞のペ
ースメーカー活性と心室ドライブを達成するには、心房筋の場合に比べ約5倍のバイ
オペースメーカー細胞数が必要であることが明らかとなった。これは、バイオペース
メーカー細胞自体の電気緊張性負荷に対するロバスト性の違いによるものではなく、
心房筋細胞と心室筋細胞との膜抵抗の差(内向き整流K + チャネル電流密度の差)に起
-48-
因するものと考えられた。
2)ヒト心筋由来バイオペースメーカー細胞のロバスト性強化方法の解明
ヒト心房・心室筋由来バイオペースメーカー細胞へ各ペースメーカー電流(過分極
活性化陽イオンチャネル電流I f 、T型Ca 2+ チャネル電流I CaT 、持続性内向き電流I st 、低
電位活性化クラスD-L型Ca 2+ チャネル電流I CaLD )を導入し、多細胞カップルモデルに
おけるバイオペースメーカーのロバスト性及び心房・心室ドライブ機能への各種ペー
スメーカー電流導入の影響を解析した結果、以下の結論を得た:①心房・心室筋から
の電気緊張性負荷に対するペースメーカー細胞のロバスト性はI f 電流の導入により強
化される。②ペースメーカー細胞のロバスト性と心臓ドライブ機能の強化にはI st 電流
の導入が最も効果的である。③I CaT 電流あるいはI CaLD 電流の増強でもペースメーカー細
胞のロバスト性は強化されるが、その作用は比較的弱く、細胞内カルシウム過負荷に
伴う不整脈を誘発する危険性がある。
7.研究の考察・反省
本研究では、非線形力学系の分岐理論を基に、ヒト心房筋・心室筋由来バイオペー
スメーカー細胞の過分極(電気緊張性)負荷に対するロバスト性並びに心房・心室ド
ライブ機能とその強化方法を理論的に検証した。本研究の成果は、過分極活性化陽イ
オンチャネル電流 I f と持続性内向き電流 I st の導入がバイオペースメーカー機能を強
化する上で有効であることを明確に示すものであり、バイオペースメーカーシステム
設計において、非線形力学系理論に基づく理論的解析が極めて有用であることを示し
ている。
このように非線形システム論的アプローチは有用かつ不可欠な方法論であると考
えられるが、現時点では問題点も多い。その第一は、細胞モデル自体の完成度が低い
ことである。本研究においては、ペースメーカー発生機序における細胞内 Ca 2+ 動態の
役割も解析し、その結果に基づくバイオペースメーカー細胞モデルの改良を行ったが、
モデルシステムのさらなる継続的改良が必要である。また、本研究では2次元組織モ
デルでの解析も進める予定であったが、計算時間の制約により十分に実現できなかっ
た。理想的なバイオペースメーカーシステム設計のための理論的基盤確立にはバイオ
ペースメーカーに関する組織レベルでの解析が不可欠であり、今後の重要な課題であ
ると考えている。
8.研 究 発 表
① Kurata Y, Hisatome I, Shibamoto T. Roles of sarcoplasmic reticulum Ca 2+ cycling
and Na + /Ca 2+ exchanger in sinoatrial node pacemaking: insights from bifurcation
analysis of mathematical models. Am J Physiol Heart Circ Physiol 2012; 302:
H2285-2300.
Abstract To elucidate the roles of sarcoplasmic reticulum (SR) Ca(2+) cycling and
Na(+)/Ca(2+) exchanger (NCX) in sinoatrial node (SAN) pacemaking, we have
applied stability and bifurcation analyses to a coupled-clock system model
developed by Maltsev and Lakatta (Am J Physiol Heart Circ Physiol 296:
H594-H615, 2009). Equilibrium point (EP) at which the system is stationary (i.e.,
the oscillatory system fails to function), periodic orbit (limit cycle), and their
stability were determined as functions of model parameters. The stability
analysis to detect bifurcation points confirmed crucial importance of SR Ca(2+)
-49-
㻌㻌㻌㻌㻌
pumping rate constant (P(up)), NCX density (k(NCX)), and L-type Ca(2+) channel
conductance for the system function reported in previous parameter-dependent
numerical simulations. We showed, however, that the model cell does not exhibit
self-sustained automaticity of SR Ca(2+) release at any clamped voltage and
therefore needs further tuning to reproduce oscillatory local Ca(2+) release and
net membrane current reported experimentally at -10 mV. Our further extended
bifurcation analyses revealed important novel features of the pacemaker system
that go beyond prior numerical simulations in relation to the roles of SR Ca(2+)
cycling and NCX in SAN pacemaking. Specifically, we found that 1) NCX
contributes to EP instability and enhancement of robustness in the full system
during normal spontaneous action potential firings, while stabilizing EPs to
prevent sustained Ca(2+) oscillations under voltage clamping; 2) SR requires
relatively large k(NCX) and subsarcolemmal Ca(2+) diffusion barrier (i.e.,
subspace) to contribute to EP destabilization and enhancement of robustness; and
3) decrementing P(up) or k(NCX) decreased the full system robustness against
hyperpolarizing loads because EP stabilization and cessation of pacemaking were
observed at the lower critical amplitude of hyperpolarizing bias currents,
suggesting that SR Ca(2+) cycling contributes to enhancement of the full system
robustness by modulating NCX currents and promoting EP destabilization.
-50-
1.研究課題名:接触アレルギーにおける角化細胞接着分子と皮膚ランゲルハンス細胞の
経時的解析(研究番号 S2010-6)
2.キーワード:1)接触アレルギー(allergic contact hypersensitivity)
2)接着分子(adhesion molecule)
3)デスモグレイン(desmoglein)
4)ランゲルハンス細胞(Langerhans cell)
3.研究者氏名:西部
明子・医学部・准教授・皮膚科学
4.研 究 目 的
接触アレルギーの機序の解明のためには、抗原提示細胞である表皮ランゲルハンス
細胞(Langerhans cell, LC)と隣接する角化細胞(keratinocyte, KC)との相関を明
らかにすることが重要である。本研究では、表皮における LC, KC に関わる接着分子
の形態・動態変化を検討することにより、接触アレルギーの機序解明に迫ることを目
的とする。
5.研 究 計 画
a) 接触皮膚炎モデルマウスの作成
マウスに、①既知のハプテンである dinitrofluorobenzene(DNFB)による感作・
惹起、②トリコフィチン(白癬菌抽出液)による感作・惹起を行うことにより、接触
皮膚炎を誘導する。
本研究では、KC デスモソームの主たる構成成分であるデスモグレイン(desmoglein,
Dsg)に着目し、Dsg3-EGFP トランスジェニック(TG)マウス(RIKEN Bio Research
Center)を使用することとした。このマウスを用いることにより、Dsg の接触アレル
ギーにおける静的および動的状態を可視化できるようになる。
b) 表皮接着分子および LC の観察
表皮での接着機構にはデスモソーム、アドヘレンスジャンクション(Jnc)、タイト
ジャンクション(Jnc)などが関与している。接触皮膚炎の感作相および惹起相での、
デスモソーム(Dsg3)、アドヘレンス Jnc(E-cadherin, p120 catenin)、タイト Jnc
(Occludin, Claudin, Zo-1)および表皮 LC に免疫染色を行い、観察・評価する。ま
た、Dsg3-EGFP TG マウスに麻酔を行い、共焦点顕微鏡を用いて Dsg3 の動態を in vivo
の状態で経時的に観察する。
6.研 究 成 果
a) 接触皮膚炎モデルマウス
マウスの背に DNFB およびトリコフィチンで感作し、耳で惹起することにより、耳
の 肥 厚 や 真 皮 内 リ ン パ 球 浸 潤 が 認 め ら れ 、 接 触 皮 膚 炎 が 誘 導 し え た ( Nakamura T,
Nishibu A, et al. J Dermatol Sci. 2012;66:144-53)。
b) 表皮接着分子および LC の観察
・DNFB、トリコフィチンいずれにおいても感作での接種 4 時間後から LC の形態変化(細
-51-
胞の変形、樹状突起の伸長)が観察され、48 時間後には表皮内の LC 数は 10%程度減少
した。惹起相では接種2時間後から LC の形態変化が観察された。
・感作相・惹起相で Occludin, Claudin, Zo-1 の発現に変化はなかった。無刺激状態で
は LC の樹状突起の先端はタイト Jnc にまで及んでおり、久保らの報告( J Exp Med 2009)
と合致した。
・E-cadherin, p120 ctn は LC の細胞体とほぼ同一部位に発現し、樹状突起と発現部位
は完全に合致した。一方、Dsg3 は LC の細胞体とほぼ同一部位に発現しているものの、
E-cadherin, p120 ctn よりは範囲も狭く発現も弱かった。また、LC 樹状突起部では
Dsg3 の発現がまったく見られなかった。このことは、表皮において KC と LC の接着に
は、デスモソームよりアドヘレンス Jnc が重要であることを示唆している。
・Dsg3-EGFP TG マウスを in vivo イメージングを共焦点顕微鏡で経時的に観察すると、
感作相・惹起相いずれにおいても EGFP の細かな動きが観察された。特に、LC の樹状
突起部と推察される線状の EGFP 無発現領域に変位が観察された。
これまでの結果から、接触アレルギーではLCの活性化・遊走に伴いDsg3の発現が変
位していると推察される。現在、画像解析中である。
7.研究の考察・反省
・トリコフィチンによるマウスの接触皮膚炎モデルを作成することに成功し、論文発表
した。
・共焦点顕微鏡を用い ることによって、Dsg3-EGFP TG マウスの皮膚を経時的に ex vivo
(organ culture)およ び in vivo で観察する系を確立することができた。レーザー照射
による蛍光退色がおこるものの、in vivo であっても適正な麻酔下では4時間程度の連
続観察が可能である。しかしながら、変位がごく微小なため、現在入手しうる画像解
析ソフトでは画 像編集 ・解析に膨大な時間 を 要しており、現在解 析 作業中である。
8.研 究 発 表
モデルマウスの作成や実験系の確立に時間がかかったこと、さらに画像のデータ解
析に時間を要していることのため、現時点で論文発表に至っていない。しかしなが
ら、早急にデータを 解 析し研究発表する予 定 である。
-52-
1.研究課題名:ストレスによる「うつ病」発症メカニズムの解明(研究番号
S2010-7)
2.キーワード:1)扁桃体(amygdala)
2)セロトニン(serotonin)
3)スパイク後脱分極(slow afterdepolarization)
3.研究者氏名:山本
亮・医学部・助
教・生理学Ⅰ
4.研 究 目 的
ストレスは「うつ病」の原因の一つとされている。ストレス時にはコルティコトロピン
放出因子(CRF)が脳内で上昇する事が知られおり、この CRF が不安中枢である扁桃体で
の GABA 伝達を祖害する事が病因の一つであるとされている。申請者らは GABA 伝達が抑制
されるとモノアミン作動系の扁桃体刺激作用が増幅される事を明らかにしてきた。本研究
の目的は、CRF が扁桃体外側核・外側基底核での GABA 伝達を阻害し、扁桃体の興奮性を高
める事でうつ症状・不安行動をひき起こすという仮説を検証する事である。
5.研 究 計 画
CRF がどのようにして GABA 伝達を阻害しているかを明らかにするために、GAD67-GFP
ノックインマウスから脳スライスを作成し、1)扁桃体外側核内の GABA 作動性ニューロ
ンから電気記録を行い、CRF が膜特性にどのような影響を与えるかサブタイプごとに調べ
る。2)さらに、GABA 作動性ニューロンの対から、同時記録を行い、相互の抑制性入力に
対して CRF がどのような影響を及ぼすかをサブタイプごとに調べる。同様に、GABA 作動性
ニューロンと興奮性ニューロンの対でも、同時記録を行い、相互の興奮/抑制性シナプス
入力が CRF によってどのように調節されるかをサブタイプごとに調べる。
実験1:扁桃体外側核内 GABA 作動性ニューロン膜特性に対する CRF の作用の検証
カレントクランプモードでパッチ電極から-200pA~+250pA、500ms の電流注入を行い、
GABA 作動性ニューロンの発火特性・膜特性を確認し、サブタイプごとに分別する(すでに、
十数個の GABA 作動性ニューロンから電気記録済みであり、いくつかのサブタイプが存在
する事は確認済みである)。その上で、CRF 受容体アゴニストである Urocortin を細胞外液
に投与し、サブタイプごとに発火特性・膜特性がどのように変化するかを確認する。電極
内液に Biocytin を入れておき、電気生理実験後にスライスを固定し、記録した細胞の形
態を DAB 染色で観察する。電気応答と形態との関連性を調べる事で、サブタイプの分類を
詳細に行うことができる。
実験2:扁桃体外側核内 GABA 作動性ニューロン間の相互抑制性入力に対する CRF の作用の検証
GABA ニューロンのサブタイプごとの関係性をより詳しく調べるために、近接する2個
の GFP 陽性ニューロンから同時にダブルパッチクランプ記録を行う。カレントクランプモ
ードで片方のニューロンに通電し、もう片方のニューロンのシナプス応答を観察する事で、
相互のシナプス応答を観察する。この応答が CRF 受容体アゴニストの Urocortin でどのよ
うに調節されるかを調べる。この実験により GABA 作動性ニューロンサブタイプごとのシ
-53-
ナプス連結の割合とそれに対する CRF の作用を明らかにできる。
実験3:扁桃体外側核内 GABA 作動性‐興奮性ニューロン間の相互入力に対する CRF の作用の検証
この実験では、GFP 陽性ニューロンとそれに近接する GFP 陰性ニューロンから同時にダ
ブルパッチクランプ記録を行う。カレントクランプモードで片方のニューロンに通電し、
もう片方のニューロンのシナプス応答を観察する事で、相互のシナプス応答を観察する。
この応答が Urocortin でどのように調節されるかを調べる。この実験により、どのサブタ
イプの GABA 作動性ニューロンが興奮性ニューロンに対して特に抑制的に働いているのか、
そしてフィードバックを受けているのかが明らかにでき、それらに対する CRF の作用も明
らかにできる。これと先の実験1・2と合わせることで扁桃体外側核内の GABA 作動性抑
制回路とそれに対する CRF の影響を明確にできる。
6.研 究 成 果
GAD67-GFP ノックインマウスを用いてストレスホルモン CRF の扁桃体局所回路への作用
を検討する計画であった。それに先立ち、ラットを用いて、平常時に扁桃体局所回路を調
節しているモノアミン作動系の作用を調べた。ノルアドレナリンとセロトニンはそれぞれ
扁桃体外側核興奮性神経において長く続くスパイク後脱分極をひき起こし、両者を同時に
投与した場合にはその効果は加算された。この長く続くスパイク後脱分極に注目し、セロ
トニンの扁桃体局所回路への作用を精査したところ、以下の事柄が明らかになった。
1)セロトニンは扁桃体外側核、基底外側核において興奮性伝達、抑制性伝達をともに抑制
する。
2)セロトニンは扁桃体外側核興奮性ニューロンにおいて長く続くスパイク後脱分極をひき
起こすが、基底外側核ではこの作用は見られない。
3)1)と2)の作用が組み合わさる事で、セロトニン存在下の扁桃体外側核は、弱い入力
を抑制し強い入力を増強する選択的フイルターの役割を果たす。また弱い入力が強い入
力と同期した場合にはそれを増強する。
この作用は、強い情報である恐怖・侵害体験とその時の環境・状況を結び付けて学習
する扁桃体の機能をサポートするものであり、扁桃体における情動的学習の機構を説明
しうるものである。
7.研究の考察・反省
当初は扁桃体局所回路へのストレスホルモンの作用を調べる計画であったが、無ストレ
ス時のモノアミン作動系の作用の研究に時間が掛かり、ストレスホルモンの作用について
は明らかには出来なかった。今後はストレスモデル動物を用いてストレスホルモンと扁桃
体局所回路の関係を明らかにする事を計画している。
8.研 究 発 表
なし
-54-
1.研究課題名:胎盤形成におけるガレクチンファミリーの機能解析(研究番号
S2010-8)
2.キーワード:1)レクチン(lectin)
2)ガレクチン(galectin)
3)胎盤形成(placentation)
4)栄養膜細胞(trophoblast)
3.研究者氏名:東海林博樹・一般教育機構・准教授・生物学
4.研 究 目 的
胎盤は妊娠の成立に必須な役割を果たし、その機能不全や低形成は妊娠高血圧症候
群などの深刻な事態をもたらす。こうした問題への対処の基盤として、胎盤形成の分
子機構の理解が重要であるが、未だ十分とはいえない。
我々がこれまで研究対象としてきたガレクチンファミリーは、そのメンバーの多く
が胎盤で発現しており、なかには胎盤でのみ発現するものもある。このことはガレク
チンが胎盤形成に重要であることを示唆しているが、その機能は不明な点が多い。免
疫寛容の成立に寄与するとの指摘がある一方、絨毛の組織形成に重要らしいとの報告
もある。
本研究では、ラット胎盤由来栄養膜細胞株 Rcho-1 分化系を中心に、胎盤形成にお
けるガレクチン分子種の機能を解析し、ひいては胎盤形成分子機構の一端を解明する
ことを目的とした。
5.研 究 計 画
(1)Rcho-1 細胞は培養条件の操作により、幹細胞の状態から Trophoblast giant cell,
invasive trophoblast, syncytiotrophoblasts 等 へ分化する。この系における分化
前後の各種ガレクチン遺伝子発現について、DNA マイクロアレイ解析、RT-PCR 法に
よる mRNA の発現解析、ならびにウェスタンブロッティング法や免疫染色法によるタ
ンパク質の発現解析を行う。
(2)胎盤形成初期からの各種ガレクチン発現分布について、ラットを材料に RT-PCR 法、
in situ ハイブリダイゼーション法、免疫組織化学法などにより mRNA およびタンパ
ク質の両面から詳細に解析する。
(3)以上の解析の結果を整理し、胎盤機能の中心的役割を担う細胞の分化機構や、胎盤
組織構築に重要と考えられるガレクチンを吟味する。
(4)絞り込まれたガレクチン遺伝子について、順次 Rcho-1 分化系にてその発現を操作し、
細胞形態やマーカー遺伝子の発現様式などにより、その影響を評価する。
6.研 究 成 果
Rcho-1 細胞分化系における遺伝子発現変化について、DNA マイクロアレイにより解
析した結果、ガレクチン1,3,4,5,7,8,9の発現が認められ、このうちガ
-55-
レクチン4については、分化に伴い発現が抑制されることが判明した。RT-PCR 法によ
りさらなる解析を行ったところ、ガレクチン4は分化誘導開始後 24 時間以内の比較的
はやい段階で発現が抑制されていた。この分化誘導は、増殖用の培地から低栄養培地
への交換により行うが、再度増殖用培地に戻してもガレクチン4の発現は復帰しない
こと、またガレクチン4を高発現する別の細胞株(結腸がん由来)で同じ処理を行っ
ても、発現レベルに影響が認められないことなどから、栄養膜細胞の分化に伴う現象
であることが示唆された。
また、形成途上のラット胎盤組織(妊娠 12.5 日)における発現を RT-PCR 法により
解析したところ、ガレクチン1,3,4,8,9の発現が認められた。さらに、ガレ
クチン4タンパク質について、免疫組織化学法により胎盤(16.5 日)における分布を
解析したところ、母体脱落膜や、脱落膜と接する胎児組織など、母胎間の境界領域に
検出された。
7.研究の考察・反省
ガレクチン4は、従来消化管上皮に特異的に発現するものと考えられていたが、今
回新たに胎盤でも特異な発現制御を受けることが判明し、その組織形成に関わる可能
性が示された。
ガレクチン4はこれまでに、腸上皮由来の培養細胞において、膜成分やタンパク質
の極性輸 送( polarized membrane trafficking )に重 要な役 割を果 た すことが 示さ
れており、すなわち上皮細胞の極性形成そのものに関与する可能性がある。一方、胎
盤栄養膜幹細胞は元来上皮様の性質を示し様々な細胞に分化するが、一部の細胞はそ
の分化過程において上皮間葉移行を経て、母体組織へ浸潤する invasive trophoblasts
へと分化する。今回実験に用いた Rcho-1 細胞はこうした傾向が強いとされている。こ
れらのことと、今回ガレクチン4の発現が Rcho-1 細胞の分化過程で抑制されたことを
考え合わせると、ガレクチン4は胎盤栄養膜幹細胞の上皮様性質維持に重要であり、
これを失うことが浸潤能獲得へとつながる可能性が考えられる。
今後は、本研究計画中で遂行できなかった Rcho-1 細胞の分化過程でのガレクチン
タンパク質発現の解析、ラット胎盤組織でのガレクチン mRNA 分布の解析( in situ ハ
イブリダイゼーション法)などを行いながら、上述のガレクチン4機能の詳細解明と
ともに、その他のメンバーを含めたガレクチンファミリーの胎盤形成における機能解
析を進めていきたい。
8.研 究 発 表
① Arikawa T, Simamura E, Shimada H, Nishi N, Tatsuno T, Ishigaki Y, Tomosugi N,
Yamashiro C, Hata T, Takegami T, Mogami H, Yamaguchi K, Nakamura T, Otani
H, Hatta T, Shoji H. Expression pattern of Galectin 4 in rat placentation. Placenta
2012; 33: 885-887.
Abstract Galectin 4 (Gal4) is abundantly expressed in the epithelium of the
gastrointestinal tract, and functional analysis has concentrated on its roles
-56-
㻌㻌㻌
associated with polarized membrane trafficking. This study aimed to investigate
the expression of Gal4 in placentation. The expression level of Gal4 was revealed
to be lower in differentiated Rcho-1 cells (a model system of rat trophoblast
differentiation)
than
in
proliferative
cells.
In
the
rat
placenta,
immunohistochemical analysis showed that Gal4 is preferentially located in the
maternal-fetal junctional zone. These results suggest that down-regulation of
Gal4 may be involved in the promotion of trophoblast cell differentiation.
-57-
1.研究課題名:肺胞上皮細胞における小胞体ストレスと間質性肺炎(研究番号
S2010-9)
2.キーワード:1)肺胞Ⅱ型上皮細胞(Alveolar type II cell)
2)小胞体ストレス(ER stress)
3)間質性肺炎(Interstitial pneumonia)
4)リソフォスファチジルコリンアシル基転移酵素1
(Lysophosphatidylcholine acyltransferase1)
5)オレイン酸実験肺傷害(oleic acid-induced lung injury)
3.研究者氏名:長内
和弘・医学部・教
授・呼吸器内科学
4.研 究 目 的
小胞体ストレスは糖尿病、肥満、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変
性疾患、心筋症、脳虚血障害、骨代謝、癌などに深く関与していることが分かってき
ている。しかし、間質性肺炎における小胞体ストレスの役割はまだごくわずかしか分
かっていない。最近、予後不良の間質性肺炎である特発性肺線維症(IPF)の肺組織
において小胞体ストレスの関与が示唆されている(Korfei M et al. Am J Respir Crit
Care Med. 2008)。すなわち IPF 患者の線維化巣の周囲に高率に小胞体ストレスメデ
ィエーターである ATF4、ATF6、XBP1 やアポトーシスメディエーターである CHOP、
Bax などの誘導がみられ、小胞体ストレスメディエーター発現細胞と TUNEL 法や
caspase3 でみたアポトーシス細胞は一致していた。肺胞Ⅱ型上皮細胞(Ⅱ型細胞)は、
肺障害時に分裂・増殖して組織の修復を担う「幹細胞」と考えられている(Uhal BD. Am
J Physiol 1997, 272:L1031)。本研究者は以前より同細胞での肺サーファクタントの
細胞内輸送、IL-1 によるオートクリン増殖、細胞内小胞輸送に関わる Rab 低分子量 G
タンパク質の特性解析と遺伝子異常形質などの研究を行ってきた。本研究者はこれま
で行ってきたⅡ型細胞内輸送と間質性肺炎の研究の流れから、小胞体ストレスと間質
性肺炎の関係に着目した。本研究の目的は、ラット実験間質性肺炎モデルにおいてⅡ
型細胞における小胞体ストレスの機序を解明することである。すなわち(1) II 型細胞
における小胞体ストレスへの応答機構のうち解明されている PERK, ATF6, IRE1 な
ど3つの主要経路の発動の解析、(2)小胞体ストレスによる肺線維化シグナル誘導機構
(TGF-α, -β, EGF, IGF-1, FGFs などの発現とこれらのシグナル伝達経路活性化)への
影響の解明である。本研究により、発症機序・治療法についての情報が限られている
間質性肺炎に、Ⅱ型細胞における小胞体ストレスの観点から新たな機序が明らかにな
り、予後不良の間質性肺炎の治療法の開発につながることが期待される。
5.研 究 計 画
1)分化機能を維持した II 型細胞初代培養系の確立
ラット肺か らエラス タ ーゼ消化お よびメト リ ザマイド密 度勾配遠 心 法を利用し て II
-59-
型細胞を単離する。ケラチノサイト増殖因子を添加したマトリゲル膜上に蒔き込み、
途中から上皮側を気相にして培養し、長期間Ⅱ型細胞の分化機能を維持した状態に保
つ。分化機能の確認には SP-A, SP-B, SP-C,SP-D の発現をリアルタイムPCR法と
ウェスターンブロットで確認する。
2)II 型細胞での小胞体ストレスに関わる遺伝子群の解析
ラット肺よりエラスターゼ消化、メトリザマイド密度勾配遠心により II 型細胞を単離
し、EHS ゲル上に培養し、分化機能を有したまま II 型細胞を培養する。これに小胞
体ストレス誘導剤を投与し、総 RNA を抽出する。ラットに対応した DNA マイクロア
レイチップを購入し、RNA サンプルと反応させ学内に所有している Affimetrix 社製
DNA マイクロアレイシステムを用いて解析する。発現のもっとも変化した遺伝子群
20 種類程度を同定する。対象を単離培養した同種細胞を使用することにより、網羅的
遺伝子解析の精度が上がると期待される。
3)急性間質性肺炎肺組織における小胞体ストレスおよびアポトーシス経路発現の観察
ラットにオレイン酸を経静脈的に投与し実験間質性肺炎を作成する。肺組織から RNA
を抽出し、XBP1 スプライシング(小胞体ストレス)、CHOP、カスパーゼ3(アポトー
シス)をリアルタイム PCR で定量化する。また肺をホモジナイズし、SDS-PAGE 電気
泳動、ニトロセルロース膜へトランスファーした後、ATF6、ATF4、Bip/Grp78(小胞
体ストレス関連)、CHOP、カスパーゼ 3、Bax(アポトーシス関連)などの小胞体スト
レス-アポトーシス関連タンパク質の発現をウェスターンブロットで確認する。肺線維
化シグナル誘導機構(TGF-α, -β, EGF, IGF-1, FGFs などの発現とこれらのシグナル
伝達経路活性化)を解析する。また肺組織切片に対し、これらの抗体を 1 次抗体に用い
て免疫染色を行い、発現細胞の同定を行う。
6.研 究 成 果
分化機能を維持した II 型細胞初代培養系の確立し、まず酸素ラジカル種のひとつ
である過酸化水素による細胞死を観察した。初期遺伝子(E1)を人為的に除き自己複製
能力を欠失するように作成されたアデノベクターにリソフォスファチジルコリンア
シ ル 基 転 移 酵 素 (LPCAT1)-cDNA を 挿 入 し て リ コ ン ビ ナ ン ト ア デ ノ ウ イ ル ス
(Ad-LPCAT1) を 作 成 し た 。 コ ン ト ロ ー ル と し て lacZ-cDNA を 挿 入 し た ウ イ ル ス
(Ad-lacZ)を作 成し た 。 ラッ トよ り単 離し た初 代培 養に multiplicity of infection
=5 でウイルスを感染させ、さらに2日間培養後に過酸化水素を濃度 0~10mM で一時
間添加し、細胞傷害を誘導した。過酸化水素添加により LPC が増加し、トリパンブル
ー染色でカウントした死細胞の増加がみられたが、Ad-LPCAT1 感染細胞ではいずれも
抑制がみられた。つぎにペントバルビタール腹腔麻酔下、ラットに経気道的にリコン
ビナントウイルス 3×10 9 pfu を肺に注入した。1 週間後に同麻酔下、オレイン酸を股
静脈より注入し急性間質性肺炎を誘導し、4 時間後に屠殺し実験を行った。Ad-LPCAT1
投与ラット群は乾湿肺重量比、気管支肺胞洗浄液中の総タンパク量や好中球数が有意
に低下し、ヘマトキシリン・エオジン染色による肺組織の観察でも、算出した肺傷害
-60-
スコアは有意に低下しており、肺傷害の改善が示唆された。TUNEL 染色法による肺組
織でのアポトーシス細胞の観察を行ったが、オレイン酸肺傷害4時間後でのアポトー
シス細胞は数少なかったため、アポトーシス経路の詳細な解析は行わなかった。
以上より LPCAT1 の強制発現は II 型細胞傷害を抑制し、オレイン酸肺傷害を抑制す
ることが示された。これにより間質性肺炎の病態におけるリソフォスファチジルコリ
ン(LPC)の重要性が判明し、治療法の開発に LPCAT1 が有望な分子であることが期待さ
れる。
7.研究の考察・反省
当初Ⅱ型 上皮細 胞の小 胞体スト レスの 分子機 構を解明 すると いう基 礎的な研 究を
目指していたが、実験開始後まもなくアデノベクターを用いた LPCAT1 遺伝子の強制
発現が、小胞体ストレスを誘導するために用いた酸素ラジカルによるⅡ型細胞傷害を
強力に抑制するという極めて有益な事象を発見したため、研究方向を酸素ラジカル細
胞傷害と LPCAT1 にシフトした。結果、間質性肺炎モデルであるラット-オレイン酸肺
傷害もアデノベクター-LPCAT1 で有意に抑制できるとの知見を得た。Ⅱ型細胞は肺サ
ー フ ァ ク タ ン ト 主 成 分 で あ る フ ォ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン (PC)を 大 量 に 合 成 す る 細 胞 で
あり、炎症時に増加するフォスフォリパーゼ A2 により PC は LPC に加水分解される。
LPC はそれ自体で強い組織傷害性を発揮するリン脂質であり、LPCAT1 は LPC を PC へ
ふたたび変換する。この内容は国際学会で発表し、アブストラクトとして学会誌に掲
載された。さらに英文原著にまとめて医学雑誌に投稿準備中である。
8.研 究 発 表
① Kazuhiro Osanai, Makoto Kobayashi, Junko Higuchi, Zhou Min, Jyongsu Huang,
Hirohisa
Toga:
Aberrant
lung
surfactant
homeostasis
in
Rab38
small
Gtpase-mutated rat lungs. Am J Respir Crit Care Med. 2011, 183:A5164. (2011
International Lung Conference, American Thoracic Society, Denver, CO, USA,
May 15-18, 2011)
Abstract RATIONALE: Rab38 is a member of Rab small GTPase family that
regulates intracellular transport. We previously showed that rat model of
Hermansky-Pudlak syndrome, Ruby , showed abnormal lung surfactant pooling.
The mutation responsible for the phenotype was identified as a point mutation in
the initiation codon of Rab38 small GTPase that completely abolish expression of
Rab38 protein. Alveolar type II cells were fulfilled with remarkably increased
size and number of lamellar bodies. Lamellar body fractions purified from lung
homogenates
by
sucrose
density-gradient
centrifugation
were
increased.
Hydrophobic lung surfactant constituents, i.e. phosphatidylcholine (PtdCho) and
SP-B, were increased in lung homogenates and in lamellar body fractions, but
were decreased in BAL fluids. The present study was aimed to clarify the origin
of the aberrant lung surfactant homeostasis. METHOD: We investigated Long
-61-
Evans Cinnamon (LEC) rats which were reported to carry Ruby mutation.
Alveolar type II cells isolated from the rats after elastase digestion and
metrizamide density gradient centrifugation were plated in plastic dishes
supplemented with [ 3 H]choline. [ 3 H]PtdCho secretion from adherent cells was
allowed for 3 hrs. We constructed recombinant adenovirus vector expressing
Rab38 and adenovirus vector expressing lacZ as control. Messenger RNA level for
SP-A, SP-B, SP-C, SP-D, and GAPDH was analyzed with Real Time PCR
employing the Taqman method. RESULT: The basal secretion of [ 3 H]PtdCho in
Rab38-deficient cells was significantly lower than that in control cells by ~20%.
However, agonist-induced secretion of [ 3 H]PtdCho was reversely 2-3 times higher.
These used agonists were phorbol ester (TPA), ATP, and terbutaline. SP-A
effectively inhibited TPA-induced secretion. The agonist-induced [ 3 H]PtdCho
secretion in Rab38-deficient cells infected with Ad-Rab38 was decreased close to
that in normal cells. Expression levels of mRNA for surfactant protein A, B, C,
and D were not altered between Rab38-deficient and normal cells. [3 H]PtdCho
synthesis and uptake by type II cells were not altered. Electron microscopic
observation revealed that prominently increased size of lamellar bodies in the
Rab38-deficient
type
II
cells
was
decreased
by
in
vivo
intratracheal
administration of Ad-Rab38 to rat lungs. CONCLUSION: These results suggest
that abnormal lung surfactant homeostasis in Rab38-deficient lung is caused by
aberrant secretion without abnormality in synthesis or recycling.
② Min Zhou, Kazuhiro Osanai, Shoko Kitadate, Shohei Shinomiya, Mari Higashino,
Katsuma Tsuchihara, Shiro Mizuno, Jongsu Huang, Hirohisa Toga: Exogenous
expression of lysophosphatidylcholine acyltransferase 1 protect alveolar type li
cells from hydrogen peroxide-induced cell injury. Am J Respir Crit Care Med.
2012, 185:A1999. (2012 International Lung Conference, American Thoracic
Society. SanFrancisco, CA, USA, May 19-23, 2012)
Abstract RATIONALE: Lysophosphatidylcholine (LPC) is a potent cytotoxic
mediator in many kinds of cell injuries. LPC is generated through hydrolysis of
phosphatidylcholine by phospholipase A 2 . Alveolar type II (ATII) cells produce
high
amount
of
phosphatidylcholine
as
lung
surfactant
and
also
lysophosphatidylcholine acyltransferase 1 (LPCAT1) which catalyzes conversion
of LPC to phosphatidylcholine. There are several reports that LPC increase in
the lung tissue in several kinds of acute lung injuries. However, how LPCAT1
activity changes in these lung injuries is poorly clarified. METHODS: Total RNA
was purified from mouse lung. cDNA was synthesized using oligo dT primer.
Using N-terminal primer which contain six-histidine tag and C-terminal primer,
LPCAT1-cDNA was synthesized by PCR and cloned into adenovector shuttle
plasmid. Recombinant adenovirus bearing cDNA of lacZ (Ad-lacZ) or LPCAT1
(Ad-LPCAT1) were constructed and propagated in HEK293 cells. ATII cells were
-62-
isolated from male Sprague-Dawley rats, infected with Ad-lacZ or Ad-LPCAT1 at
multiplicity of infection of 10, and cultured on EHS gel containing KGF with
[ 3 H]-choline. Three days later, cells were treated with H 2 O 2 (0 to 10 mM) for 1 hr.
Dead cells were counted with 0.15% Trypan blue. Total lipids were extracted with
Bligh-Dyer method. One-dimensional thin layer chromatography was performed
to separate [ 3 H]-phosphatidylcholine and [ 3 H]-LPC. Total RNA was extracted
from the cells, cDNA was synthesized, and real time PCR was performed with
Taqman method. RESULTS: Western blot using anti-6×histidine tag antibody
clearly showed presence of LPCAT1 protein in HEK239 cells infected with
Ad-LPCAT1. Microsomal fractions purified from Ad-LPCAT1 transfected HEK293
cells showed remarkably enhanced transfer activity of [ 14 C]-palmitoyl CoA to
palmitoyl LPC resulting in synthesis of [ 14 C]dipalmitoyl phosphatidylcholine.
Under treatment of H 2 O 2 , Ad-LPCAT1-infected ATII cells showed lower [ 3 H]-LPC
amount
and
lower
dead
cell
percent
compared
with
non-infected
or
Ad-lacZ-infected ATII cells. Under H 2 O 2 treatment, the ATII cells had lower
amount of mRNA of LPCAT1 and Ad-LPCAT1-infected ATII cells had significantly
higher amount of mRNA of LPCAT1 compared with control ATII cells.
CONCLUSION: These results suggest that oxidant burden increase cellular LPC
and cell death in ATII cells and that exogenous LPCAT1 gene delivery exert
protective effect in the oxidant stress.
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1.研究課題名:アポトーシス誘導における 53BP1 の働き方及び 53BP1 を介したアポトー
シス誘導機構の解明(研究番号
S2010-10)
2.キーワード:1)p53 結合タンパク質 1(53BP1)
2)アポトーシス(apoptosis)
3)カスパーゼ(Caspase)
4)タンパク質プロセシング(protein processing)
5)DNA 損傷応答(DNA damage response)
3.研究者氏名:橋本
優実・医学部・助
教・生化学 I
4.研 究 目 的
53BP1 は、アポトーシス誘導因子 p53 に結合し、p53 の転写を促進するタンパク質
として所属研究室
岩淵
邦芳
教授らにより同定された。これまでに 53BP1 の機能
としては、X 線照射によって生じる DNA 二本鎖切断部位に集積し、DNA 損傷修復に関与
すること、あるいは細胞周期制御に働くことが報告されている。しかし、それ以外の
53BP1 の機能はよくわかっていない。53BP1 は p53 に結合することから、アポトーシス
に関わる分子であることが予想される。
これまでに私たちは、ヒト白血病由来細胞株 Jurkat をアポトーシス誘導剤スタウ
ロスポリンで処理すると、約 70 kDa および 60 kDa の 53BP1 の C 末端断片(53BP1C)
が検出されることを見出した。また、53BP1C 末端領域側には、アポトーシス誘導で活
性化されるタンパク質分解酵素カスパーゼの認識予想配列が複数存在し、53BP1C 予想
配列内にはヒストン結合ドメイン Tudor および p53 結合ドメイン BRCT が含まれる。本
研究では、アポトーシス時にカスパーゼによる切断で生じると予想される 53BP1C が、
アポトーシスを制御するか否かを検証し、そのアポトーシス誘導機構の解明を試みた。
5.研 究 計 画
1) アポトーシス誘導時 53BP1C 末端領域断片化のカスパーゼ依存性の検証
さまざまなアポトーシス誘導剤処理をした細胞で生じる 53BP1C が、カスパーゼ阻
害剤存在下では生じなくなるかを調べる。
2) 53BP1C によるアポトーシス制御の検証
53BP1 欠損細胞株へ 53BP1C を発現させ、アポトーシスの程度を、53BP1C 発現の有
無で比較する。アポトーシスは、カスパーゼ活性化およびアポトーシス特異的な
DNA 断片化を指標に検出する。
3) 53BP1C の働き方の解明
① 53BP1C と相互作用する因子の同定
53BP1C とアポトーシス時に結合するタンパク質を免疫沈降法により回収し、質量
分析法により同定する。
② 53BP1C とその相互作用因子を介したアポトーシス制御機構の解明
同定された分子及び 53BP1 欠損細胞株を樹立し、アポトーシス誘導時の両分子が
同経路で働くかを調べる。
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6.研 究 成 果
本研究により以下のことが明らかになった。
1) プロテインキナーゼ C 阻害剤スタウロスポリン処理 Jurkat、X 線照射あるいはスタ
ウロスポリン処理 U2OS( ヒト骨肉腫由来細胞株)において、最終的に 60 kDa の 53BP1C
が検出された。この断片化は、カスパーゼ阻害剤 z-VAD-fmk 存在下で抑制された。
2) カスパーゼ認識予想アミノ酸残基である 1478 番目のアスパラギン酸残基をアラニ
ン残基に置換した 53BP1 を U2OS 細胞に発現させ、スタウロスポリン処理でアポトー
シスを誘導すると、60 kDa の 53BP1C の出現が抑制された。
3) 53BP1 shRNA 安定発現させた 53BP1 発現抑制 U2OS 細胞株を樹立し、その細胞にスタ
ウロスポリン処理でアポトーシスを誘導すると、53BP1 発現 U2OS 細胞株よりもアポ
トーシスが亢進した。
4) 53BP1 発現抑制 U2OS におけるアポトーシスの亢進は、53BP1 全長の発現で抑制され
たが、53BP1C の発現では抑制されなかった。
5) 53BP1 を発現した U2OS に 53BP1C を強制発現させると、スタウロスポリン処理によ
るアポトーシスが亢進した。
6) 53BP1 の細胞内局在は、アポトーシス時カスパーゼの活性化に伴い、核内から細胞
質へと変化した。
7.研究の考察・反省
1) 53BP1 は DNA 損傷性あるいは非損傷性アポトーシス時にカスパーゼにより切断され
60 kDa の C 末断片となることが明らかになった。この切断は 53BP1 の 1478 番目の
アスパラギン酸残基がカスパーゼにより認識されて起こると考えられた。
2) 53BP1 全長が DNA 非損傷性アポトーシスの抑制に働くことが明らかになった。
3) カスパーゼにより切断されて生じた 53BP1C には、アポトーシス抑制作用はなく、む
しろアポトーシスを促進する働きがあると考えられた。
4) 当初計画していた 53BP1C の相互作用分子の同定には至らなかった。今後、53BP1C
とともにアポトーシスを制御する分子の同定を試みる。53BP1C には p53 結合ドメイ
ン、ジメチル化ヒストン H3/H4 結合ドメイン、およびリン酸化タンパク質結合ドメ
インが含まれる。まずは、これらの分子を候補に 53BP1C との結合を解析する予定で
ある。
8.研 究 発 表
該当なし
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1.研究課題名:地域の高齢者ボランティアを導入した老年看護学教育
―フィジカルアセスメント演習の学習効果― (研究番号
S2010-11)
2.キーワード:1)地域の高齢者ボランティア(community elderly volunteer)
2)フィジカルアセスメント演習(physical assessment practice)
3)老年看護学教育(gerontological nursing education)
4)1対1(one to one)
5)リアリティ(reality)
3.研究者氏名:小泉
由美・看護学部・講
師・高齢看護学
4.研 究 目 的
老年看護学教育では老いの理解を基礎として、講義・演習・臨地実習と進むなかで
老年看護の実践力を培っていくことが求められる。核家族化世代で日々の生活におい
て高齢者を知る機会に乏しい学生にとって実際の高齢者によるリアリティある学習体
験は臨地実習に向けての自信や動機づけとなり、看護を創造し実践する意欲的な学習
姿勢につながるとともに、看護技術の習得にも有効であると考える。そこで学生全員
が実際の高齢者と接してリアリティある看護者体験ができるよう学生 1 名につき高齢
者ボランティア 1 名という形式のフィジカルアセスメント演習を授業に取り入れる試
みを行った。
本研究は、地域の高齢者ボランティアと 1 対 1 でフィジカルアセスメントを実施し
た演習体験を通しての学びをレポート記述内容から分析することを目的とする。
5.研 究 計 画
1)対象:平成 22 年 10 月、「高齢者看護方法演習」の高齢者のフィジカルアセスメン
ト演習を受講した看護学部 2 年生 58 名。
2)方法:対象学生が提出した「フィジカルアセスメント演習を通して学んだこと、感
じたこと」のレポート内容から高齢者ボランティアと 1 対 1 で実施した演習
における学生の学びを表す文節を抽出し、文節の意味内容を表すコードを表
現した。各コードの類似性に基づいて、サブカテゴリー、カテゴリーを生成
した。カテゴリー化にあたっては、質的分析の経験豊富な共同研究者と意見
交換し信頼性、妥当性を確保するように努めた。
3)倫理的配慮
学生には当該科目の単位修得後に課題レポートを返却し、研究の主旨、参加の自由、
匿名性の確保および成績評価とは無関係であること、研究の参加は課題レポートの再
提出をもって同意が得られたとすることを文書と口頭で説明した。高齢者ボランティ
アには“ふれあい・いきいきサロン”の企画として参加者を募り、文書と口頭で研究
の概要、参加の自由、個人情報の保護、教員の対応などを説明し同意を得た。
-67-
6.研 究 成 果
研究協力の同意が得られた学生 56 名(回収率 96.6%)のレポートを分析対象とし
た。高齢者ボランティアと 1 対 1 でフィジカルアセスメントを実施する演習体験を通
しての学びとして、9 カテゴリーが生成された。
カテゴリー
老化現象への理解の深まり
個としての捉え方を理解
加齢変化に適応した暮らしを
再構築する英知への気づき
暮らしに潜む危険性への援助
の気づき
高齢者から情報を得ることの
難しさを実感
1対 1の実 践 でつかんだ高 齢
者の問診のコツ
高齢者のフィジカルアセスメン
トにおける自己の課題を認識
人生の先輩である高齢者への
敬愛の念
死が身近な存在であることを
実感
サブカテゴリー
想像するしかなかった老化現象を確かめながら理解
教科書通りではない加齢による変化があることを実感
外見だけでは気づかない加齢による変化を理解
個人差は今までの暮らし方で左右されることを実感
祖父母のイメージ=高齢者像ではないことを実感
その人らしさを尊重して高齢者と関わることを日々心がける
個々に適切に対応することの必要性から看護学生としての責任を実感
衰えを補う知恵によって日々の生活で工夫している
身体の衰えを受け入れて自分なりの楽しみや生きがいを見出している
持病と折り合いをつけながらうまく付き合っている
老化によって危険と隣り合わせの生活をしている
安全な生活を保障するためには、高齢者自身や周囲の人への援助が必要
フィジカルアセスメントの問診技術の未熟さを実感
聴力低下に伴うコミュニケーションの難しさを実感
自分たちの普段使っている言葉では通じないことを実感
高齢者ならではの測定・観察の難しさを実感
聴覚機能の低下を補う工夫をすると良い
高齢者の強みに着眼して話を進めると良い
普段の動作や出来事にそって質問すると良い
具体的な言葉や表現を変えて質問すると良い
高齢者の反応に臨機応変に対応できるコミュニケーション能力を養う
高齢者を尊重した言葉使いや老化を考慮した話し方を普段から心がける
落ち着いて話しやすい環境を整える
講義や演習に加え、普段の生活でも高齢者理解を深める努力をする
人生経験に裏打ちされた語りから、人生の先輩として尊敬する
戦争体験を語ってくれる貴重な役割を持っている
高齢者の協力・気配りに感謝するとともに懐の深さを実感
高齢者からパワーをもらった、癒された
身近な人の死を乗り越えてきた人である
死が身近にあることを教えて下さった
7.研究の考察・反省
1)老化の実態をリアルに感じとる体験:<想像するしかなかった老化現象を確かめなが
ら理解>したり、<教科書通りではない加齢による変化があることを実感>しており、
既存の知識と関連づけながら、【老化現象への理解の深まり】を図ることができたと思
われる。また、高齢者は他の年齢層に比べて個人差が大きく、その差は生活史やライフ
スタイルの違いによる影響があることに気づき、【個としての捉え方を理解】すること
ができていた。そのうえで、高齢者を個別的に捉える視点を養いつつ、看護学生として
の課題や責任を認識したことを伺わせる内容が確認された。核家族化の影響で日常的
に高齢者と接する機会の少ない学生にとって、高齢者の個別性、多様性を理解する機
会となった。これは、実際に高齢者ボランティアと 1 対 1 で接しながら、加齢に伴う高
齢者の身体的変化を自分の目や耳で確かめ、問診を通してさらに老化の実態をリアル
に感じとることができる体験だからこその結果であると考える。
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2)日々の暮らしに着眼した看護援助への気づき:地域で生活し地元の公民館まで歩いて
来ることができる健康状態の高齢者が対象だったからこそと思われるが、<衰えを補う
知恵によって日々の生活で工夫している>ことや<持病と折り合いをつけながらうま
く付き合っている>など、【加齢変化に適応した暮らしを再構築する英知への気づき】
があった。一方で、そのような暮らしの中にも思いもよらない危険が潜み<老化によっ
て危険と隣り合わせの生活をしている>事実を高齢者の語りから知り、<安全な生活を
保障するためには、高齢者自身や周囲の人への支援が必要>であると【暮らしに潜む危
険性への援助の気づき】があった。日々の暮らしのあり様を詳しく語って頂いたことに
よって、高齢者を生活者として捉え、そこに看護ニーズがあることに気づくことができ
たようであった。
3)高齢者のフィジカルアセスメント技術の習得および課題の認識:本演習では、学生同
士では体験できなかった【高齢者から情報を得ることの難しさを実感】する一方で、高
齢者の強みに着眼したり、必要な情報を引き出せるようなコミュニケーションの図り方
を発見したりと、
【1 対 1 の実践でつかんだ高齢者の問診のコツ】を得たようである。こ
れは 1 対 1 でフィジカルアセスメントを実施する際に、高齢者の反応を見ながら話し方
や言葉の使い方、目線などをリアルタイムで考えることで得られた成果と考える。また、
<講義や演習に加え、普段の生活でも高齢者理解を深める努力をする>、<高齢者を尊
重した言葉使いや老化を考慮した話し方を普段から心がける>、など【高齢者のフィジ
カルアセスメントにおける自己の課題を認識】し、高齢者理解に対する関心が深まった
ようであった。
4)高齢者の発達課題に触れる機会:高齢者から語られた人生経験や学生へのアドバイス
から多くの学生は【人生の先輩である高齢者への敬愛の念】を抱くと同時にエンパワー
されていた。高齢者の歩んできた背景や経験、価値観などを次世代に伝承される貴重な
ものであると捉えており、フィジカルアセスメントを超えた学びを得ていた。また、配
偶者や 身近 な人々 の死 の体験 や自 らの死 や配 偶者の 死を 意識す るよ うにな ったと いう
高齢者の語りから【死が身近な存在であることを実感】していた。病院死が約 8 割を占
める今日、日常生活の延長線上にあった死は特別なものとなり忌み嫌われる傾向にある
ことから日常会話の中で死について語られることは少なくなった。本演習では、老年期
の発達課題である「死の受容」に関しても実感をもって理解でき、死生観を育む機会に
なったといえる。
5)今後の課題:今回の演習は、公民館の講堂において 58 名の学生が一斉に実施した。学
生は「隣と距離が狭くてプライベートなことを問う時に躊躇した」、「周囲の雑音のな
か問診がうまく進まなかった」と感じており、倫理的な配慮からもプライバシーの保護
も含めた学習環境の整備が課題となった。
8.研 究 発 表
小泉由美,髙山直子,橋本智江.学生が地域の高齢者ボランティアと 1 対 1 でフィジカ
ルアセスメントを実施する演習体験を通しての学びの分析.老年看護学
57-64.
-69-
2012;16(2):
抄録 本研究は、学生がリアリティある看護者体験ができるよう、地域の高齢者ボラン
ティアと1対1でフィジカルアセスメントを実施した演習体験を通しての学びをレポー
ト記述内容から分析することを目的とする。結果として[老化現象への理解の深まり][個
としてのとらえ方を理解][加齢変化に適応した暮らしを再構築する英知への気づき][暮
ら し に 潜 む 危 険 性 へ の 援 助 の 気 づ き ][ 高 齢 者 か ら 情 報 を 得 る こ と の む ず か し さ を 実
感][1対1の実践でつかんだ高齢者の問診のコツ][高齢者のフィジカルアセスメントに
おける自己の課題を認識][人生の先輩である高齢者への敬愛の念][死が身近な存在であ
ることを実感]の9カテゴリーが生成された。本演習体験は、フィジカルアセスメントに
関する技術の習得および自己の課題を認識できたことに加え、高齢者の老化の実態や暮
らしをリアルに実感でき、老年観、死生観を深める機会となっていた。
-70-
奥付
2010
平成 22 年度金沢医科大学共同研究成果報告書
奨励研究成果報告書
編 集
発行所
平成 24年 11月発行
研究業績評価委員会
金沢医科大学出版局
石川県河北郡内灘町大学 1 丁目 1 番地
禁無断転載