情報経済論 第9回 IT 投資の産業別推移とマクロ経済成長 IT 投資=情報化投資はフローでもストックでも増加しているが、各産業間の 格差が存在する。そこで、どの産業において IT 投資の効果が発揮されているか を分析する。 1.産業別 IT 投資の推移 表 9-1 は 1980 年代の景気拡大期(1983-90 年)と 1990 年代の景気拡大期 (1991-97 年)における各産業の国内生産高、IT 投資フロー(I1)、一般投資 フロー(IT 投資を除く投資 I2、労働投入(L)の年平均伸び率を比較したもの である。 表 9-1 レーガン (1983-90)、(1991-97)景気拡大期における 経済成長率と生産要素の伸びの比較 国内生産高 I1 I2 L 83-90 91-97 83-90 91-97 83-90 91-97 83-90 91-97 全産業 3.9 2.9 5.8 16.9 2 2.9 2.5 1.8 農業 4.2 4.1 12.4 7.6 2.3 3.7 -0.6 1.4 鉱業 3.1 1.9 -7.1 12.7 -7.9 4.2 -5.3 -2.5 建設 4.7 1.6 5.1 12.1 7 9.7 3.7 1.6 製造業 3.9 3.4 7.8 13.5 1.7 2.6 0.3 -0.2 輸送、通信、電気 3.3 3.9 1.8 7 2.6 3.4 1.4 1.7 卸売場 5 5.7 6 29.2 -1.2 9.4 1.9 1 小売場 4.5 3.9 10.4 29 5.2 4.1 3.2 1.7 FIRE 3 2.1 14.2 18.9 6.4 -0.7 2.9 0.6 サービス 4.4 2.4 13.9 25.4 3.3 7.1 4.5 3.6 表 9-1 より、農業を除いたすべての部門において IT 投資は 80 年代に比べて 90 年代には急速に伸びている。一方、農業、鉱業、輸送・通信・公共事業の除 いたすべての部門で労働投入の年平均伸び率は低下している。この傾向は卸売 業、小売業、FIRE(金融・保険・不動産)、サービス業で顕著である。 45 情報経済論 表 9-2 は 1983、91、97 年時点における IT 投資フロー(I1)、IT 資本ストッ ク(K1)の状況を各産業ごとに示している。 表 9-2 産業別情報投資、情報資本ストック動向;1983,1991,1997 単位:(%) I1/(全産業 I1) I1/(I1+I2)各産業 K1/(全産業 K1) K1/(K1+K2)各産業 83 91 97 83 91 97 83 91 97 83 91 97 農業 0.3 0.4 0.2 1 2 3 0 0 0 0 1 1 鉱業 2.6 1.2 0.8 5 6 8 2 1 1 2 2 2 建設 0.1 0.1 0.1 2 3 2 0 0 0 1 1 1 製造業 14.2 18.4 14.4 15 21 33 11 12 13 5 5 5 輸送、通信、電気等 45.5 35.1 20.1 38 38 44 64 55 39 19 23 25 卸売業 11.6 8.9 16.6 28 36 63 5 6 11 13 16 34 小売業 2.5 3.2 5.2 8 11 30 2 2 4 3 4 9 FIRE 14.5 19.5 22.8 14 20 43 10 14 18 5 7 13 サービス 8.7 13.2 19.8 17 27 53 6 9 14 8 12 25 100 100 100 100 100 100 ① 第一列は、各産業の IT 投資の全産業に占める割合である。卸売業、小売 業、FIRE(金融・保険・不動産)、サービス業の比率が高まっている。 ② 第二列は、各産業のそれぞれの全投資に対する IT 投資の比率を示してい る。ここでも卸売業、小売業、FIRE(金融・保険・不動産)、サービス業 が IT 投資の比重を高めている。 ③ 第三列は、各産業の IT 資本ストックの全産業に占める割合である。 ④ 第四列は、各産業のそれぞれの全資本ストックに対する IT 資本ストック の比率を示している。 これらの表から、IT 革新の農業、鉱業、建設への影響は小さく、卸売業、小 売業、FIRE(金融・保険・不動産)、サービス業への影響は大きいことがわか る。また製造業では資本ストックの変化があまり見られないことから、IT 資本 とそれ以外の資本との代替関係は弱いと考えられる。 46 情報経済論 2.産業別 IT 投資の影響 各産業 IT 資本ストックが各産業の伸び率に与える影響を考えるために、前回 と同様の生産関数を各産業ごとに仮定する。 Yi 産業 i の国内生産高 K1i 産業 i の IT 資本ストック K2i 産業 i の非 IT 資本ストック Li 産業 i の労働投入 Yi = F(K1i、K2i、Li) = A K1iαK2iβLiγ (A は定数) 表 9-3 は各産業の IT 資本ストックの弾力性 α の推定結果を、それぞれの IT 資本ストックの非 IT 資本ストックに対する比率(K1i/ K2i)、および労働者 のコンピュータ使用比率と比較したものである。 コード:産業 aff:農林水産業 10:金属鉱業 12:石炭鉱業 13:石油、ガス採掘 14:燃料を除く非金属鉱業 con:建設業 wst:卸売業 ret:小売業 24:木材・木製品 25:家具・装備品 32:窯業・土石製品 33:一次金属 34:金属製品 35:一般機械器具 36:電気機械器具 37:輸送用機械器具 38:機械器具 39:その他耐久財製造業 20:食料品製造業 21:タバコ製品 22:繊維 23:衣服・その他繊維製品 26:紙・紙加工品 27:出版・印刷 28:化学工業 29:石油製品・石炭製品 30:ゴム、その他プ ラ スティック製品 平均 労働 α K1/K 者の 弾力性 2 コン 1995- 比率 ピュー 96 1991‐ タ使用 0.1412 1.01 13 0.0971 1.13 45 0.1440 0.53 45 0.1497 2.89 45 0.1136 2.13 45 0.1864 1.21 16 0.1640 39.87 49 0.1608 7.28 31 0.1262 4.75 14 0.1162 6.49 24 0.1167 9.54 29 0.1236 4.50 33 0.1502 5.40 34 0.1591 17.64 55 0.1669 27.96 56 0.1485 8.66 63 0.1181 28.07 60 0.1292 9.64 23 0.1469 8.45 30 0.1876 7.62 48 0.1140 5.14 27 0.1230 8.84 15 0.1259 7.29 46 0.1350 24.17 50 0.1552 18.09 60 0.1402 8.21 61 0.1333 6.03 37 コード:産業 31:なめし皮・同製品 40:鉄道 41:地方、都市間乗客輸送 42:トラック、倉庫 44:水上輸送 45:空輸 46:ナチュラ ルガスを 除くパイ プ ラ イ ン 47:輸送サービス 48:コミュニケーション 49:電気、ガス、衛星サービス 60:銀行 61:銀行以外の信用調査機関 62:証券,一次製品ブローカー 63:保険会社 64:保険代理店、ブ ロ ーカ ー、保険 65:不動産 67:持ち株金融投資オフェス 70:ホテル、その他のロッジ 72:パーソナルサービス 73:ビジネスサービス 75:自動車修理、駐車場サービ ス等 76:その他の修理サービス 78:映画 79:娯楽、リクリエーション 80:ヘルスサービス 81:法律サービス 82:教育サービス 47 平均 労働者 α K1/K2 の コ 弾力性 比率 ン 1995- 1991‐ ピュータ 96 97(%) 使用率 0.1000 5.18 23 0.1147 2.20 35 0.0901 8.47 35 0.1388 4.49 35 0.0958 5.05 35 0.1249 11.22 35 0.1098 2.62 35 0.1110 16.87 35 0.1510 201.01 78 0.1619 6.52 54 0.1484 21.27 85 0.1097 45.73 85 0.1850 36.72 85 0.1371 28.24 68 0.1555 22.29 68 0.2084 7.62 68 0.0926 23.37 75 0.1212 1.99 36 0.1263 10.65 21 0.1525 150.21 53 0.1230 5.88 20 0.1145 9.20 20 0.1123 42.41 31 0.1288 4.08 31 0.1621 23.90 37 0.1630 35.26 51 0.1381 3.58 52 情報経済論 グラフ 10-1 は各産業の IT 資本ストックの弾力性 α と IT 資本ストックの 非 IT 資本ストックに対する比率(K1i/ K2i)の散布図、またグラフ 10-2 は各産 業の IT 資本ストックの弾力性 α と労働者のコンピュータ使用比率の散布図 である。 グラフ1 0 - 1 α . K1/ K2 比率 弾力性 0.22 0.20 0.18 0.16 0.14 0.12 0.10 0.08 0 10 20 30 40 50 K1 / K2 比率 弾力性 グラフ1 0 - 2 α 対労働者のコンピュ ータ使用比率 0.22 0.20 0.18 0.16 0.14 0.12 0.10 0.08 10 20 30 40 50 60 70 80 90 コ ン ピ ュー タ使用比率 いずれの場合も散布図が右上がりになっている(正の相関が見られる)こと から、IT 資本ストックの比率が高いほど、また労働者のコンピュータ使用比率 が高い産業ほど、IT 資本ストックの弾力性が高い数値を示す、すなわち限界生 産性が高くなっていることを示している。 48
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