「Photo-IDEA」の開発~写真計測による3Dモデル構築システム~

Vol.38
SEPTEMBER 2014
Point
市販のデジタルカメラによる撮影写真から現地状況を定量的に計測できるシステム「Photo-IDEA」
を開発しました。本システムを用いることで安価で手軽に対象物の3Dモデルを構築でき、河道内
樹木・河口砂州等の長期モニタリングや災害前後の地形変化の把握に役立てることができます。
「P h oto-I DEA」の開発 ~写真計測による3Dモデル構築システム~
情報システム事業本部 防災情報システム部 小薮 剛史
はじめに
河川管理上、河口や河道内の砂州の挙動や樹木の
繁茂状況等を広範囲かつ定量的に把握することで効果
的な対策の検討が可能となります。しかし、面的な測量
を行うと費用が膨大にかかるため、継続的な測量は困難
という問題がありました。
また、地震や土砂崩れによる堤防や道路斜面の被災時
には、迅速な応急復旧活動のため早期に被害状況を把
握することが求められます。しかし、二次災害の発生が懸
念されるため現地での測量が困難な場合があります。
そこで、当社では安価で手軽に現地状況を把握できる
システムとして「Photo-IDEA」を開発しました。本システム
により、市販のデジタルカメラ(1,000万画素以上)で撮影
した複数枚の写真から対象物の3Dモデルを簡易的に構
築することができます。そのため、現地での測量が困難な
場所においても写真撮影のみで安価で手軽に現地状況
を把握することができるようになりました。本稿では、
「Photo-IDEA」の適用事例について紹介します。
①内部標定
内部標定
写真撮影
● ● 「Photo-IDEA」による処理
2
IDEA Consultants, Inc.
写真解析
3Dモデル構築
(図面作成・数量算出)
● レンズのひずみ特性等を標定
● ②写真撮影・写真解析
(x1,y1,z1)
(x2,y2,z2)
「Photo-IDEA」による3Dモデル構築事例
「Photo-IDEA」を実際に河口砂州へ適用した事例およ
び手順を図1に示します。
(1)内部標定
写真を撮影するカメラのひずみ特性や焦点距離との
関係等をマーキングシートにより事前に標定しておきます
(図1①)。
(2)写真撮影・写真解析
計測したい対象を複数地点(2地点以上)から写真撮
影し、「Photo-IDEA」により写真内の任意点を自動でマッ
チングさせる写真解析を行います(図1②)。
(3)3Dモデル構築
写真解析結果から3Dモデルを構築します(図1③)。既
知の座標値(3点以上のx,y,z) を付与することにより、緯
度経度や標高の情報を有する3Dモデルを構築すること
ができます。これにより対象物が定量化されるため、コン
ター図・縦横断図等の作成・出力・表示ができるようにな
ります。さらに任意の箇所における距離計測やボリューム
算出も可能となります。
3Dモデル構築の手順
マーキングシート
マッチング
(xl1,yl1,zl1)
(xl2,yl2,zl2)
(xr1,yr1,zr1)
(xr2,yr2,zr2)
←数歩左右に移動して撮影→
③3Dモデル構築
既知の座標値を付与して3Dモデルを構築
(本事例では橋梁地点の座標値を付与)
図1 「Photo-IDEA」による3Dモデル構築の適用事例および手順
新たな取り組み
精度検証
課題と対応策
「Photo-IDEA」による計測結果を、測量機器として最も
使用されている「トータルステーション」による測量結果と
比較し、精度を検証しました。河口砂州のコンター図(図
2)中の4測線上の標高を比較した結果、計測誤差(標準
偏差)が約0.1mであることが確認できました。図3に測線3
の標高比較結果を示します。精度検証結果を踏まえ、
「Photo-IDEA」の精度・適用範囲について「トータルステ
ーション」と比較した結果を表1に示します。
「Photo-IDEA」を用いることで、河口砂州・河道内樹木
の長期モニタリングや災害前後における地形変化の把握
を安価で手軽に行うことができます。しかし、河道内部の
砂州や樹木におけるモニタリングでは、堤防上からの撮
影が多く対象物の砂州が樹木等に隠れて撮れない場合
があります。また、凹凸の多い対象物の場合には、突起
状の裏側が死角となるため写真で捉えることができません。
これらの課題の対応策として、ラジコンヘリ(マルチコプ
ター)を用いた空撮試験を行っています。マルチコプター
は羽が複数枚(3~8枚)あるため、上空での安定性に優
れており、空撮に適しています(写真1)。
今後も精度向上に加え災害発生時の現場の撮影等さ
まざまな撮影条件に対応できるよう改良していく予定です。
39980.0
測線4
39960.0
測線3
標高(m)
測線2
3.2
39940.0
3.0
2.8
測線1
39920.0
2.6
2.4
横
断
方
向
距
離
(m)
2.2
39900.0
2.0
1.8
39880.0
1.6
1.4
1.2
39860.0
1.0
0.8
39840.0
0.6
0.4
0.2
39820.0
0.0
39800.0
39780.0
-150200.0
-150160.0
-150120.0
-150080.0
-150040.0
縦断方向距離(m)
写真1 ラジコンヘリ(マルチコプター)
図2 「Photo-IDEA」の3Dモデルによるコンター図
3.5
Photo-IDEA(測線3)
トータルステーション(測線3)
3.0
2.5
標 2.0
高
(m) 1.5
1.0
0.5
0.0
0
5
10
15
20
25
30
おわりに
「Photo-IDEA」は2013年2月にNETISに登録され
(NETIS登録番号:SK-120007-V)、特に河川の現場に
おいて実績を重ねています。また、本技術は下記のとおり
河川等の維持管理や防災・減災・災害復旧に役立てる
ことができます。
今後も、当社の画像解析技術や防災・減災技術と融
合させ、さらなる技術開発に取り組んでいきます。
測線上の点
図3 「Photo-IDEA」と「トータルステーション」の標高比較結果
本技術では、写真撮影によって安価で手軽に
対象物の3Dモデルを構築できます。
表1 「Photo-IDEA」と「トータルステーション」の精度・適用範囲の比較
~河川等の維持管理のために~
■河口・河道内の砂州のモニタリング
■河道内の樹木群のモニタリング
■洪水後における河岸侵食量の把握
項目
Photo-IDEA
トータルステーション
精度
計測誤差0.1m
(対象距離200m)
測量誤差1mm
(対象距離200m)
砂州・樹木モニタリングや広範
囲災害調査に適している
● 精度が求められる計測には適
していない
●
適用
範囲
広範囲測量の場合には高
価になるため適していない
●高精度測量に適している
●
~防災・減災・災害復旧のために~
■災害前後の変化状況の早期把握
■斜面崩壊量や堤防沈下量の早期把握
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