ギターの演奏条件と脳波の関係

ギターの演奏条件と脳波の関係
産業デザイン学科 人間工学研究室
97-1-74-043 時任 大樹
目的
私は、路上ライブやライブハウスでのアコースティックラ
イブを定期的に行っている。
お客さんが少ないときもあれば、
大入りのときもある。常に良い精神状態でライブを行うよう
に心がけているが、もちろんそのときどきでやる気や盛り上
がりが違ってくるのは必然的なことである。また、ギターの
種類によって音量や弾きやすさの違いは当然あり、その日の
天気や温度、湿度の違いでギターのコンディションは変わっ
てしまうもので、音の鳴りかたや聞こえ方も毎日のように変
わっている。音楽に接している私にとっては、その色々な条
件が重なったときの気分の高まりや陶酔感についての関係が
気に掛かっていた。
そこで、私の卒業研究は異なるギターで演奏を行ったとき
に、私の内面にどういう違いがみられるのかを調べることに
した。しかし、漠然と「違い」といっても、感情や、いわゆ
る「ノリ」といった主観の変化だけを検討するのではなく、
演奏時に脳波を測定し、その特性などからどういう精神状態
にあるのかをふまえながら違いとの結びつきを調べ、考察す
ることを目的とする。
脳波について
まず、脳波について簡単に説明をする。脳波を導出する部
位は、
「10/20 法」という国際的に認められた電極配置法によ
って、頭部の 21 ヶ所が決められている(加藤象二郎 他、
1999)
。今回は、正中前頭部(以後 Fz)
、正中中心部(以後
Cz)
、正中頭頂部(以後 Pz)の 3 ヶ所と、左右の両耳たぶに
電極を貼り付けて測定した。なお、測定方法については実験
方法の項目で説明する。脳波の周波数は、低いほうからδ(0
∼4Hz)
、θ(4∼8Hz)
、α(8∼13Hz)
、β(13∼30Hz)
、
γ(30Hz 以上)の 5 つに分類できる。特にα波は、一般的
にもよく言葉を聞くことがあり、精神的に落ち着いた状態の
とき、目を閉じているときなどに発生する、振幅 30∼50μV
程度の規則的な波形である。これは主に頭頂部で優位に導出
されるといわれている。δ波やθ波のような周波数の低い帯
域の波形は、覚醒水準が低いときに発生するといわれる。δ
波は睡眠が深いときに現れ、振幅 100μV 前後の波形であり、
θ波は入眠のまどろんだ状態のときに出現する、振幅 50μV
以下の波形である。しかし、Fmθ(Frontal-midline-θ)と
呼ばれる Fz 付近に観測される 6∼7Hz の波形は、細かい手
仕事などの精神作業などに集中しているときや、その作業に
よる難易度、緊張の度合いなどによって現れる。Fmθの現
れかたには個人差があり、断続的に現れる人もいれば、全く
現れない人もいると言われている。β波のように周波数の高
い帯域の波形は、意識のはっきりしている状態や、興奮状態
をあらわす。振幅は 20∼30μV である。α波が発生している
状態で、視覚や精神的な刺激を受けたときに、β波が現れて
α波が減少することをα波阻止という。
脳波の測定方法
準備したもの 脳波用皿電極 5 本、電極ペースト、
紙やすり、脱脂綿、消毒用アルコー
ル、紙テープ、ひも、マーカー、テ
スター、ギター3 本
使用機材 NEC 三栄 生体電気用アンプ
1253A
写真 1 準備したもの
電極の貼り付けとセッティング
脳波を測定するためには、活動電位を導出するために電極
を貼り付ける。まず、頭部の前述の決められた 3 ヶ所に電極
を貼り付けるために、その場所にわかりやすいように赤のマ
ーカーでしるしをつける。場所の特定は、ひもで眉間と後頭
部の出っ張った部分の長さをはかり10等分にする。ひもの
真中が Cz で、前後に2目盛りずつずらした所がそれぞれ
Fz,Pz となる(写真 2、写真 3)
。しるしをつけた頭部と両耳
たぶは紙やすりで皮膚をよく削り皮膚抵抗を落としたのち、
消毒用アルコールで拭き余分な脂分を取り除く。電極ペース
トを塗った電極を紙テープによって剥がれないように貼り付
け(写真 4)
、テスターで抵抗が落ちているかを確認する。抵
抗が十分に落ちていないときは、電極を取り抵抗が落ちるま
で紙やすりで削り、アルコールで拭く。電極の配線は、演奏
の邪魔にならないように、首の裏側で紙テープなどで固定し
てから生体電気用アンプ(ポリグラフ)に入力する。頭部以
外に、両耳たぶの片方を不関電極、他方をアース電極として
貼り付けた。
生体電気用アンプのセッティングは、波形が振り切れない
ように GAIN(波形の増幅)が 0.05mV、θからβまでの周
波数を求めるので、HI-CUT30Hz、時定数0.3秒(=0.
5Hz)とした。頭部 3 ヶ所のデータは、Fz,Cz,Pz の順に,1,
2,3チャンネルと分けて記録した。
実験条件
被験者は、著者一名(22 歳)のみでおこなった。脳波のほ
かに、被験者の主観的な評価(集中の度合い、疲労度、陶酔
度、ギターの弾きやすさ)を以下のように 5 段階で記録した。
表 1 主観的評価の判別表
写真 2 電極位置の決定
写真 3 電極位置に赤のマーカーで印をつけたところ
集中できない
①②③④⑤
集中できる
疲れた
①②③④⑤
疲れない
陶酔できない
①②③④⑤
陶酔できる
弾きにくい
①②③④⑤
弾きやすい
脳波の測定時の実験条件は以下の 4 項目である。
z
ギターの種類別(3 本)
z
目を開けて演奏したときと閉じて演奏したとき
z
ギターのみ演奏した場合とギターを弾きながら歌っ
たとき
z
静かな曲と激しい曲の違い
これらの条件を組み合わせた 24 条件を、日を変えて 2 回
測定した。ギターは、明らかな違いのある以下の 3 本を用い
た。
z
ネックが反っているため弾きにくく少し大きめのア
コースティックギター(写真 6)
z
小ぶりで弾き易く音も良いアコースティックギター
(写真 7)
z
弾き易いが生の音は物足りないエレキギター(写真
8)
写真 4 脳波用皿電極に電極ペーストを塗布するところ
写真6 安いアコースティックギター(左・正面 右・側面)
写真 5 セッティング終了の図
写真7 小ぶりなアコースティックギター(左・正面 右・側面)
写真8 エレキギター(左・正面 右・側面)
また、24 の実験条件の順番は全くのランダムとし、時間を
長く使ってゆとりを保ちながら、なるべく無心で演奏を行っ
た。目を開けて演奏したときは、まばたきによる眼振電位や
眼球電位、頭を動かすための筋電位が計測されないように、
できるだけ一点を注視して、頭と目を動かさないように心が
けた。一つの条件が終わるごとに、すぐそのときの主観を5
段階に分けて表に記録した。演奏は少し間を置いて前の条件
の感覚を引きずらないようにしてから次の条件に望むように
した。
脳波の分析方法(周波数分析)
記録された脳波を分析する方法として、周波数分析を用い
た。周波数分析を簡単に説明すると、脳波として検出された
波形をさまざまな周期と位相の正弦波(sin の波)が合成さ
れたものと考えて正弦波に分解することで、各周波数ごとの
振幅の量や割合を求める方法である。昔は脳波の各周波数帯
域ごとにフィルタを用いて成分抽出をしていたが、今ではコ
ンピュータによって数値計算をするのが一般的である。その
理由は、コンピュータの発達と周波数分析をおこなうときに
用いるフーリエ変換の計算における、アルゴリズムの FFT
法の考案によるためで、
今回の分析もその方法でおこなった。
記録された脳波は連続的なアナログのデータであるので、コ
ンピュータが電気信号を処理できるように、200Hz でデジタ
ルのデータに変換(AD変換)をしてパソコンに取り込み、
ハードディスクに記録した。
分析
演奏中の脳波は、10.24 秒間隔ですべての部分を周波数分
析した。一曲の演奏時間はおよそ 1 分 40 秒∼2 分 20 秒なの
で、9∼13 ヶ所に分割することになる。その中から脳波の波
形を見ながら眼球や筋活動の電位ノイズの影響が大きいと判
断できる部分は分析対象から除外したため、実際は一曲で 6
∼12 ヶ所の分析結果を平均している。θ、α、βの帯域の成
分は、それらの合計を 1 とした相対値として求めた。また、
α波についてのデータとして、θ、βとの相対的な割合の他
に、目を閉じたときを開けたときで割ったときのαの絶対値
(αアッテネーション)を求め、目を開けることによって目
を閉じていたときと比べてどの程度α波を抑制しているのか
を求めた。α波は目を開けたときに抑制されることがわかっ
ているので、条件別での値の増減を調べることで目の開閉に
よるα波の発生のしかたを知ることができる。さらにθ波の
増減が各条件で異なっていたので、θ波の成分を省いてα波
とβ波の割合だけの比較をしたときの値も求めた(α/α+β)
。
これらの数値をグラフ化して、各条件において主観的評価を
参考にして脳波の増減や傾向を考察する。しかし、これらす
べてにおいて考察した場合、変化が表れなかった項目などを
全て含めるとデータの数が非常に多くなり、分かりにくいグ
ラフになってしまう。そのため、各条件項目で分散分析によ
る統計解析をおこなって、危険率 5%以下で違いが認められ
た条件についてのみ、平均値と標準偏差を示すグラフを作成
した。β波についての考察は統計解析による違いが認められ
ないことに加えて、演奏に伴う筋活動電位のノイズが含まれ
ている可能性があるので、考察は行っていない。なお、統計
的に差が有意な項目は○、そうでない項目は×で以下の表に
示した。
表2 危険率 5%以下での違いの有無
集中度
目の開閉 歌の有無
曲調
○
×
×
疲労度
○
×
○
陶酔度
○
×
○
弾きやすさ
×
×
○
θ
○
○
○
α
○
○
○
β
×
×
×
α/(α+β)
○
×
○
αアッテネーション
―
○
○
集中度
ギター
日付
電極の位置
○
×
―
疲労度
○
×
―
陶酔度
○
×
―
弾きやすさ
○
×
―
θ
○
○
○
α
×
○
○
β
×
×
×
α/(α+β)
×
○
○
αアッテネーション
×
○
○
θ
結果
0.6
z
日による影響
主観的評価の違いは求められなかった。α、α/α+β、α
アッテネーション共に二日目の値が大きく、θは一日目の値
が大きくなった。
α
0.5
0.4
一日目
二日目
0.3
0.2
0.1
0.5
0
0.4
Fz
0.3
Pz
グラフ 1-4 θ波の日による影響
一日目
二日目
0.2
Cz
0.1
0
Fz
Cz
Pz
グラフ 1-1 α波の日による影響
0.6
z
電極の位置による影響
αでは Pz がわずかに値が大きい。θでは Fz,Cz,Pz の順で
値が大きい。α/α+βでは Fz の値が大きく、Cz,Pz の値はあ
まり変わらない。αアッテネーションは Fz,Cz,Pz の順で値
が大きくなった。
0.5
α
α/α+β
0.7
0.4
一日目
二日目
0.3
0.5
0.4
0.2
0.1
0.3
0
Fz
Cz
0.2
Pz
0.1
グラフ 1-2 α/α+βの日による影響
0
αアッテネーション
Fz
Cz
Pz
3
グラフ 2-1 α波の電極の位置による影響
2.5
α/α+β
2
一日目
二日目
1.5
0.7
0.6
1
0.5
0.5
0.4
0
Fz
Cz
Pz
0.3
0.2
グラフ 1-3 αアッテネーションの日による影響
0.1
0
Fz
Cz
Pz
グラフ 2-2 α/α+βの電極の位置による影響
αアッテネーション
疲労度
3
5
4
2
3
2
1
1
0
0
Fz
Cz
Pz
開眼
閉眼
グラフ 2-3 αアッテネーションの電極の位置による影響
グラフ 3-2 疲労度の目の開閉による影響
θ
陶酔度
0.5
5
0.4
4
0.3
3
0.2
2
0.1
1
0
0
Fz
Cz
Pz
開眼
グラフ 2-4 θ波の電極の位置による影響
閉眼
グラフ 3-3 陶酔度の目の開閉による影響
弾きやすさ
5
4
z
目の開閉による影響
主観的評価の集中度、疲労度、陶酔度は閉眼のとき評価が
高い。弾きやすさは、開眼のとき評価が高い。α、α/α+β
は、共に閉眼のときに値が大きく、θは開眼のとき値が大き
い。
3
2
1
0
開眼
集中度
閉眼
グラフ 3-4 弾きやすさの目の開閉による影響
5
α
4
0.6
3
0.5
2
0.4
1
開眼
閉眼
0.3
0
開眼
閉眼
0.2
0.1
グラフ 3-1 集中度の目の開閉による影響
0
Fz
Cz
Pz
グラフ 3-5 α波の目の開閉による影響
α/α+β
陶酔度
0.7
5
0.6
4
0.5
0.4
開眼
閉眼
0.3
3
2
0.2
1
0.1
0
0
Fz
Cz
Pz
静かな曲
激しい曲
グラフ 3-6 α/α+βの目の開閉による影響
グラフ 4-2 陶酔度の曲調による影響
θ
α
0.6
0.5
0.5
0.4
0.4
開眼
閉眼
0.3
0.3
静かな曲
激しい曲
0.2
0.2
0.1
0.1
0
0
Fz
Cz
Pz
Fz
グラフ 3-7 θ波の目の開閉による影響
Cz
Pz
グラフ 4-3 α波の曲調による影響
αアッテネーション
4
3
z
曲調による影響
主観的評価の疲労度、陶酔度は、静かな曲のとき評価が高
い。α波、αアッテネーションは静かな曲のとき値が大きく、
θ波は激しい曲のとき値が大きい。
静かな曲
激しい曲
2
1
0
疲労度
Fz
Cz
Pz
5
グラフ 4-4 αアッテネーションの曲調による影響
4
θ
3
0.6
2
0.5
1
0.4
0
0.3
静かな曲
激しい曲
グラフ 4-1 疲労度の曲調による影響
静かな曲
激しい曲
0.2
0.1
0
Fz
Cz
Pz
グラフ 4-5 θ波の曲調による影響
弾きやすさ
z
ギターの種類による影響
主観的評価のすべてにおいて、安いギターの評価が一番低
い。集中度、陶酔度は小ぶりなギター、疲労度、弾きやすさ
はエレキギターの評価がそれぞれ高い。θ波は安いギターの
値が特に高く、小ぶりなギター、エレキギターの順に高くな
っている。
5
4
3
2
集中度
1
5
0
4
安いギター
3
小ぶりなギター
エレキギター
グラフ 5-4 弾きやすさのギターの種類による影響
2
θ
1
0.6
0
0.5
安いギター
小ぶりなギター
エレキギター
0.4
グラフ 5-1 集中度のギターの種類による影響
0.3
疲労度
0.2
安いギター
小ぶりなギター
エレキギター
0.1
5
0
4
Fz
3
Cz
Pz
グラフ 5-5 θ波のギターの種類による影響
2
1
0
安いギター
小ぶりなギター
エレキギター
グラフ 5-2 疲労度のギターの種類による影響
陶酔度
5
z
歌の有無による影響
主観的評価の違いは求められなかった。α波、α/α+β、
αアッテネーション共にギターのみの演奏の値が大きく、θ
波は歌とギターの演奏の値が大きくなった。
α
4
0.6
3
0.5
2
0.4
1
ギターのみ
歌とギター
0.3
0
安いギター
小ぶりなギター
エレキギター
0.2
0.1
グラフ 5-3 陶酔度のギターの種類による影響
0
Fz
Cz
Pz
グラフ 6-1 α波の歌の有無による影響
二日目は精神的に落ち着いているのがわかると思う。このこ
とから、今回の実験においては二日間のデータの違いが出て
きたのはごく当たり前のことだと考える。
α/α+β
0.7
0.6
0.5
0.4
ギターのみ
歌とギター
0.3
0.2
0.1
0
Fz
Cz
Pz
グラフ 6-2 α/α+βの歌の有無による影響
αアッテネーション
4
3
ギターのみ
歌とギター
2
1
0
Fz
z
電極の位置による影響
3 つの電極の位置の中で Fz からが一番多くθ波が検出さ
れている。α波は Cz、Pz 付近でおもに優位に発生すると言
われている。実際に Pz 付近からの発生量が一番多いことが
わかる。ただし、α波とβ波の割合で見ると Fz が一番多く、
αアッテネーションで見ても Fz が一番大きくなった。
Cz
Pz
グラフ 6-3 αアッテネーションの歌の有無による影響
θ
z
目の開閉による影響
まず、主観的評価の結果では目を閉じているとき集中度、
疲労度、陶酔度の評価は高く、弾きやすさは目を開けている
ときのほうが評価が高くなった。これは、目を開けている状
態では、ものが見えて気が散ってしまうからであると思われ
る。つまり、演奏をしているうちに「自分の世界に入る」状態
が起こりやすいため疲労を感じることが少なく、集中度、陶
酔度は高くなると考えることができる。確かにライブハウス
などで演奏を行うとき、私自身目を閉じていることが多いの
は事実であるが、そのような場合は衆人環境の中でみんなが
私に注目しているという意識が働くため、照れ隠し的な意味
合いで目を閉じることがほとんどであったが、他人の視線を
さえぎると同時に自分の演奏に集中することにも繋がってい
たという関連づけをすることができるはずである。
α波については、目を閉じたときの値が大きくなった。こ
のことは以前から判っていることであり、今回の実験との結
びつきは無いので特にふれない。
0.5
0.4
z
0.3
ギターのみ
歌とギター
0.2
0.1
0
Fz
Cz
Pz
グラフ 6-4 θ波の歌の有無による影響
考察
z
日による影響
全く同じ条件で演奏を行ったにも関わらず、一日目と二日
目の脳波の成分には違いがあった。自分では二日間同じコン
ディションだと思っていても、精神状態や体調は全く一緒と
いう訳ではないだろうから、二日とも同じ脳波が検出される
とは限らない。また実験室での演奏に対する慣れという点で
も二日目のほうが落ち着きが出てくることが言えるだろう。
実際に、α波は二日目のほうが優位となっていることから、
曲調による影響
主観的評価においては、静かな曲の方が疲れにくく陶酔感
もあるが、代わりに弾きずらいことがわかる。静かな曲は指
で弦を爪弾いて音を出す、ゆったりとしたバラードなのに対
して、激しい曲はピックでジャカジャカと音を出すため落ち
着きのある曲とは言いがたく、感情移入がしやすいかしにく
いか、また演奏する際、腕の運動量と行動範囲の大小によっ
てこの結果になったと思われる。ただ、弾きやすさの面で激
しい曲の方が優位になったのは、私が指弾きによる演奏が苦
手であることも要因に入るとは思うが、そのことよりも指弾
きは、1 本の弦に対して指で弾いて音を出すという行為にな
るので、ピックによって 6 本の弦をいっきに弾くよりも繊細
で非常に気を遣う演奏法であり、弾きやすさの違いが表れる
のも当然のことだといえる。
α波については静かな曲のときの方がα波の値、αアッテ
ネーション、α/α+β共に値が大きい。静かな曲はバラード
なので精神的に落ち着きや安らいだ気持ちが生まれることは
容易に想像でき、α波が優位になったと思われる。このこと
から、α波の増減は主観的評価の陶酔度の増減と関係してい
るのかもしれない。
z
ギターの種類による影響
主観的評価は安いギターの評価が低く、小ぶりなギター、
エレキギターは共に高い評価となっている。これは弦のテン
ション(弦の張りの強さ)の影響が大きいと思われる。これ
が強ければ、弦を押さえるのに強い力を加えなければならな
いので、疲労を感じたり弾きにくくなったりする。一般的に、
アコースティックギターに比べてエレキギターのほうが、ギ
ターの構造上の違いや弦の太さなどから、テンションは低く
なっているので、弾きやすく疲れにくい。また、安いギター
はネックが前に反っているために弦高(ネックの指板から弦
までの高さ)が高くなっており、押さえるのに強い力が必要
となる。そのため、この実験では同じアコースティックギタ
ーであっても、小ぶりなギターのほうが弾き易くなった。そ
のことから、弾きやすさと疲労度の評価が高ければ、それだ
けのゆとりが生じる分、演奏に集中でき、集中力も高くなり、
集中度が異なったと思われる。
z
歌の有無による影響
歌の有無については主観的評価において有意な違いが認め
られないので脳波についてのみ考察を行う。
α波については、ギターのみの演奏のときがα波の値、α
アッテネーション、αとβの割合共に値が大きい。ギターの
みの演奏は歌わなくても良いだけに、落ち着きや精神的なゆ
とりが生じるため、αが優位になると思われる。曲調の項で
も述べたが、主観的評価の違いが表せないため断言はできな
いが、歌の有無に関してもα波は、陶酔度と係わってくると
考える。
まとめ
この実験の当初の主旨は、ギターの形態別での脳波の変化
を調べるものであった。ギターの形態での違いは現れなかっ
たが、曲調と歌の有無によるα波の違いが現れたことで、ギ
ター演奏時の主観(特に陶酔度)とα波との結びつきをつか
むことができたように思う。ギター演奏において重要なこと
は、テクニックだけではなく、その場を変えてしまうような
独自の雰囲気や世界観を作り出すことだと思う。周りの人の
心に響く演奏をするために、まずは自分の心に響く気持ちの
良い演奏を心がけなくてはならないためである。α波は演奏
中に目で見えるものではないが、この先も続いていく私のラ
イブワークにおいて、今回の実験で得た知識を十分に生かし
ていきたい。
参考文献
加藤象二郎、大久保尭夫 編著:初心者のための生体機能の測
り方・脳の働き、反応を測る,113-134, 日本出版サービス、
東京, 1999