文化政策と行政の合理性 −市民状態と地方行政の文化化− 村 山 皓 はじめに 文化政策の新たな視角 Ⅰ.地方行政の3形態と地域社会の特徴 Ⅱ.行政執行の効果性と市民的積極参加 Ⅲ.行政の合理性のゆらぎと行政の文化化 まとめ 統治、自治、創治と文化政策 はじめに 文化政策の新たな視角 地方行政の文化政策について議論することで、行政の合理性についての新たな視点を提供で きると思う。文化センターやまちづくりセンターを地域社会の行政施策として展開する意味は どこにあるのか。これらのセンターについて話題になる市民の活動の活性化などを、地方政府 が推し進める理由がはたしてあるのだろうか。そのような文化政策での施策執行についての行 政評価や説明責任は、どのようなものであればよいのか。ここでは、これらの疑問に関わって、 地方行政の形態に注目するアプローチから、地域社会と地方政府のあり方を考えてみる。 地方行政の主題の一つに、地方市民生活体での市民状態があると仮定してみよう。地方市民 生活体はここでの造語であり、市民状態もここでは特別の意味で用いられる。地方政府は、時 には地方公共団体と呼ばれたり、地方自治体と呼ばれたりする。明確に区別されているともい えないが、どのような機能に注目するかによって、地方行政の形態を捉える呼称として使い分 けられているように見える。ここでは、さらに地方市民生活体という形態を加えて、それらを 区別する。その内容については後に詳述するが、地方公共団体は政治行政の客体としての国民 に注目し、地方自治体は政治行政の主体としての住民に注目し、地方市民生活体は、政治行政 生活者としての市民に注目するものと捉える。そのような地方市民生活体での政治行政生活者 の状態を、市民状態と名づける。 そこで、本稿での議論は次の3点に集約される。 ① 市民状態とは何か ② 市民状態をどのように考慮すればよいのか −237− 政策科学 11−3,Mar.2004 ③ 市民状態に注目するのはなぜか これらの議論から、文化施設の建設・運営の行政施策が、地域活性化の政策課題の下ですすめ られる理由と目的が、行政の文化化の視点から明らかにされ、文化政策の新たな意義が模索さ れる。文化政策を考えるための基本に市民状態があると考える。市民としての活動が積極的に 見られる地域社会の状態を、積極的な市民状態と見る。そのような市民状態の器としての地方 市民生活体を、行政の文化化に関わる地域社会の行政形態の一つとして構想することで、行政 の合理性を取り巻く今日の状況を、地方政府の行政責任や行政評価を視野に入れて示せる。 結論として、行政の文化化には、行政の合理性を新たに担保する可能性があり、文化政策の 施策としての意義もそこに見出されることが明らかになる。以下では、まず、地方市民生活体 での市民状態を何と見るかを、地方行政の3形態に注目して理論的に示す。次に、市民状態を どのように考慮すればよいかを知るために、文化施設の建設・運営による市民的積極参加の増 進がもたらす積極的な市民状態が、行政執行の効果性を高め、よい行政評価をもたらすことを、 ある町での調査結果で実証的に検証する。さらに、今日、行政の裁量権の拡大にともない、行 政の合理性について説得力ある説明が模索されるなかで、行政の文化化が新たな合理性の根拠 となりうることを示し、市民状態に注目する理由がどこにあるのかを明らかにしようと思う。 それによって、文化政策が地方行政において意味を持ちうるには、地域活性化の施策展開が積 極的な市民状態の創出に向けてすすめられればよいことがわかるだろう。そこでの地方政府の ガバナンスの特徴を、地方公共団体での統治、地方自治体での自治と対比して、地方市民生活 体での創治という言葉で表現しようと思う。 Ⅰ.地方行政の3形態と地域社会の特徴 市民状態とは何か。市民状態とは、ここでは、人々の市民的積極参加(Civic Engagement) が見られる地域社会の状態を指すとする。社会活動への参加の志向性を市民的積極参加と呼ぶ。 政党支持や投票などの政治的関与(Civic Involvement)よりむしろ、スポーツクラブや互助組 合や地域活動などの社会的交流(Networks)が市民的積極参加の概念の中心である1)。地域社 会でのそのような市民としての活動が積極的に見られる状態が、積極的な市民状態である。こ こでは、市民状態がどのようなものであると考えるかを、地方行政の3形態から示そうと思 う。 市民状態をいかなるアプローチから捉えられるか。市民状態(Civil Condition)へのアプロ ーチは様々である2)。ここでは、地域社会をある器で汲み取ると、そこに市民状態が見えると 想像してみよう。その器を地方市民生活体と名づける。地方政府を地方公共団体と呼ぶとき、 我々は、地方公共団体の機能に注目して、その地域社会の地方行政を見ようとしている。いわ ば、汲み取る器が地方公共団体である。地方自治体と呼ばれる器もまた、地方自治の機能から 見た地方行政の一形態であり、その器でもって、地域社会の状態にアプローチできる。重層的 な地方行政のどの形態に注目するかによって、地域社会の状態の見え方が異なってくる。図1 −238− 文化政策と行政の合理性(村山) 地方行政 地域社会 地 人々の立場 人 域 々 人々の立場の証明 社 の 会 人々の立場の性格 位 で 置 の 地方政府での人々の立場 人々・地方政府関係 ら 地 れ 域 地域社会での人間行動 社 る 会 行動の内容 状 に 況 見 地域社会の状態 地方公共団体 国民 戸籍簿 必然的 政治行政の客体 被治者統治者 国民としての権利義務 自由・納税(義務的関与) 国民状態 地方行政の形態 地方自治体 住民 住民票 半強制的 政治行政の主体 本人代理人 住民としての自治 投票(政治的関与) 住民状態 地方市民生活体 市民 身分証明・名簿等 任意的 政治行政生活者 顧客事業者 市民としての活動 市民的積極参加(社会的関与) 市民状態 図1 地方行政の重層する3形態とそれぞれで注目される地域社会の状態 は、地方公共団体、地方自治体、地方市民生活体の3種類の地方行政の形態から見た地域社会 の状態を比較している。 地方公共団体での人々の立場は、政治行政の客体としての国民である。地方自治体では政治 行政の主体としての住民としての立場に人々はいる。政治行政生活者としての今日の市民とし ての立場は、地方市民生活体において見られるものと捉える。人々は地方行政において、国民、 住民、市民の3種類の立場を同時に有している。本稿での造語である地域市民生活体とは、地 方の政治行政生活者である市民の行動を基礎として機能する地方行政の形態である。以下では、 国民、住民、市民それぞれの立場での人々の行動に注目し、そこで見られる地域社会の国民状 態、住民状態、市民状態を比較する。それによって、地方市民生活体での市民状態とは何かが、 具体的に明らかにできると思う。 人々と地方公共団体としての地方政府との関係は、被治者と統治者の関係にあると言える。 その関係は戸籍簿などで証明される必然的な関係である。要件を満たせば必ず日本国民である とされる戸籍上の立場は、地方行政においても政治行政の客体としてのものである。その立場 には、地域社会における国民としての行動の権利義務があり、移住移転の自由など権利として の地方政府からの自由があるとともに、地方税の納税などの義務を負う。そのような人々の立 場を基礎とする地域社会の状態を地方公共団体での国民状態と名づける。理論的には地域社会 によって異なる自由や納税が示す様々な被治者統治者の関係があり、地方公共団体によって異 なる政治行政の客体としての立場を人々は持ちうる 3)。つまり、国によっては、一国内でも、 地域社会の国民状態は異なりうる。 地方行政を地方自治体として捉えたときには、国民状態として見えていた地域社会は、住民 状態として見えてくる。地域社会の人々は、国民と住民の二重の立場にある。政治行政の主体 としての住民は、その地方自治体での立場を、日本では居住によって取得を半ば強制される住 民票で証明する。人々は、その証明に基づき投票などを通じて、地域社会での住民としての自 治に関わる行動をなす政治行政の主体としての立場にある。人々と地方自治体としての地方政 府との関係は、政治行政の主体としての本人が代理人としての地方自治体の議員や首長を投票 で選ぶという、本人代理人関係にあると言える。このような政治行政の主体としての住民の行 −239− 政策科学 11−3,Mar.2004 動が示す地域社会の状況が、住民状態である。住民自治に関わる住民の行動の違いが、地方自 治体ごとの住民状態の違いとなって表れる。 地方行政を地方市民生活体として捉えるときには、人々の地方行政における市民としての立 場を、地域社会への義務的関与を行動内容とする国民の立場、政治的関与を内容とする住民の 立場と重層するもう一つ別の、社会的関与を内容とする立場と見る。市民の行動は、時として、 統治や自治に関連して自由民主的な国民や住民の行動と区別されずに議論され、市民、住民、 国民の区別は曖昧になりがちである4)。そこで市民概念の混乱が生じる。それらを操作的に分 けることは、その混乱を避ける一つの方法だと思う。ここでは、人々と地方行政の関係を考え るうえで役立つように、市民概念を定義しなおすことを試みている。政治行政の客体や主体は、 人々と地方政府の関係において、何らかの役割を果たすように位置づけられた存在である。そ の位置関係を契約者としての自由な権利義務と解釈して、被治者統治者関係での国民の役割と 見ようと、その位置関係を民主政治的な自治と解釈して、本人代理人関係での住民の役割と見 ようと、そこでは、その位置関係が地域社会の状態の基礎になる。アプリオリな役割で形成さ れる秩序の下での自由な状態より、さらに自由な市民状態がもたらす秩序を求めるなら、市民 をこのような役割から解き放された存在として定義しなす必要があるだろう5)。旧来からの市 民の捉え方として議論される国民の権利義務での自由な市民の概念化や、住民の民主政治的な 自治での市民の概念化とは異なる市民概念の構築によって、公民関係の新たな展望が開ける。 そこで、国民状態や住民状態の公民関係とは区別される公民関係として市民状態を構想するこ とにした。 そのために、地方市民生活体を市民状態の器と捉え、地方公共団体、地方自治体と並ぶ地方 行政のもう一つの形態と見る。個々の人々の行動が地域社会の秩序を形成しながらも、その行 動が自由である状態を市民状態と見るなら、市民の自由な行動様式として表れる市民生活で創 り出される地域社会の政治行政秩序を、後に述べる地方市民生活体での公民関係の市民文化の 視点から捉えられよう。公民関係の市民生活での市民の行動様式として注目されるのは、人々 の市民的積極参加である。地域社会の活動への参加の志向性を意味する市民的積極参加は、そ の基盤が市民としての自由な活動である点で、その立場の証明も任意的なスポーツクラブの身 分証明や自治会名簿などであり、戸籍簿や住民票のような、必然的、強制的なものとは異なる。 このような地域社会での政治行政生活者としての人々の立場は、権力からの自由を求める契約 者としての国民の立場と見るのとは異なり、また、社会福祉などを主張する要求者としての住 民の立場と見るのとも異なり、社会サービスを利用する消費者としての立場であると考えるの が適しているように思える。そこでの人々と地方政府の関係は、顧客と事業者の関係と捉える ことができる。そのような関係での地方市民生活体としての地方政府の基盤となっているのが 市民的積極参加の市民状態である。 −240− 文化政策と行政の合理性(村山) Ⅱ.行政執行の効果性と市民的積極参加 地方市民生活体としての地方政府の機能を見るうえで、市民状態をどのように考慮すればよ いのか。もし、地域社会が市民的積極参加の盛んな市民状態にあることで、行政執行の効果が 増すならば、地方政府の行政執行を評価するには、市民状態に注目する必要があるだろう。こ こでは、文化施設の建設・運営による市民的積極参加の増進がもたらす積極的な市民状態が、 行政執行の効果性を高め、よい行政評価をもたらす可能性があることを、ある町での調査結果 で実証的に検証してみる。それによって、市民の行動様式に注目し、地方行政の基盤が顧客志 向行政であることを認識して、地方政府の行政執行を事業施策の効果性の視点から評価するの に、市民的積極参加の市民状態が重要な意味を持つことがわかる。図2は、行政執行の評価に 関して、地方市民生活体を、地方公共団体や地方自治体との比較で、どのように捉えればよい かを示している。 行政責任の根拠は行政の裁量権にある。何事についても裁量権のないところに責任は生じな いのが原則だろう。重要なのは、裁量権の違いによって、責任に違いがあることである。行政 責任の根拠となる裁量権は、図2が示すように、地方公共団体、地方自治体、地方市民生活体 によって質的に異なる。地方公共団体の機能に注目すると、地方政府は、国民に対して法に従 った行政執行をなす責任をもっている。そこでの裁量権は、法律の範囲内での行政執行という 法適合行政を行政基盤とする地方公共団体での裁量権である。そこから生ずる行政責任は、法 律の範囲内でいかに効率的な行政執行をなしうるか、効率的な執行の裁量権を根拠とする責任 である。したがって、行政評価も事業施策の効率性の追及の視点から判断される。その効率性 は、行政の活動量に比して、かかるコストがいかに低いかによって測ることができるだろう。 地方公共団体の行政の目標は、まさに、効率的な法適合行政である。今日の日本の、中央地方 関係での受託業務のみならず、地方公共団体自らの執行業務においても、事業施策の効率性評 価が、事務事業の執行への評価を中心に注目されるのは、このような地方公共団体としての地 方行政の機能から生じていると理解できる。 一方、地方自治体としての地方政府は、政治行政の主体である住民の行動に依拠する住民自 治行政を基盤に機能すると見るべきだろう。そこでの行政責任の根拠は、人々と地方政府が本 人代理人の関係にあることから、本人に説明できる有効な行政執行を行うための裁量権を、代 理人たる行政が持っていることによる。地方自治体としての行政は、実施施策の有効性を、本 地方行政 地域社会 地域社会の状態 地方政府の行政基盤 政 地 執 域 行政責任の根拠 行 社 の 会 行政評価の視点 評 の 価 行 行政評価の指標 地方公共団体 国民状態 法適合行政 効率的執行の裁量権 事業施策の効率性 効率性=活動量/コスト 地方行政の形態 地方自治体 住民状態 住民自治行政 有効な執行の裁量権 事業施策の有効性 有効性=成果量/活動量 図2 行政執行の評価における地方行政の3形態の特徴の比較 −241− 地方市民生活体 市民状態 顧客志向行政 妥当な執行の裁量権 事業施策の効果性 効果性=到達量/成果量 政策科学 11−3,Mar.2004 人たる住民に直接にもしくは議会を通じて間接的に説明する責任を負っている。そこでは、ま さに事業施策の成果が問われる。地方自治体の活動がどれだけ有効に成果をもたらしたかは、 活動量に比して成果量がいかに多いかの指標で測れるだろう。地方政府が、目指す成果につい て有効に行政の執行が行われたことの評価を実施し、行政改革に結びつけることが、今日の日 本の行政評価での関心事となっている。そのための重要な要素として、施策執行の有効性につ いての住民への説明責任に注目すべきことが、まさに、このような住民自治行政を基盤とする 地方自治体の機能において理解されうる。 それらと比較して、本稿で注目する地方市民生活体での行政評価の視点は、顧客志向行政を 基盤とする事業施策の効果性にある。行政の活動が市民に対してどれだけの効果をもっている かが効果性であり、ここでは、行政活動の成果量に比して、到達量がどれだけ大きいかを示す 指標で事業施策の効果性を測れるだろう。そのように効果性は先の有効性と区別される。地方 政府が提供する成果に市民がどれだけ満足したり期待するかは、行政の活動の成果が市民にも たらす効果である6)。市民の満足や期待の量を、ここでは事業施策の市民への到達量と捉えて いる。それはあたかも、商品やサービスを購買した人々が、それに満足し、さらにそのような 消費やサービスに期待するような、顧客である消費者に事業者の提供品がどのように受け取ら れているかに似ている。地方市民生活体での人々と地方政府の関係は、そのような顧客事業者 関係になぞらえることができ、顧客志向行政を基盤とするこのような地方行政での行政評価は、 事業施策がいかに効果的に市民に浸透しているかの視点で判断される。つまり、地方市民生活 体での行政責任は、行政活動の成果が市民に伝わるような妥当な執行をいかになしたかにかか っており、この妥当な執行の裁量権こそが地方市民生活体での行政責任の根拠となる。 商品やサービスを購買する消費者の満足や期待は、消費者の利用の仕方に左右されることに 注意しなければならない。うまく利用できる消費者の満足度は高い、行政サービスの顧客でも 同じだと思う。行政サービスが妥当なものとして人々にとどくには、サービスを受け取りそれ を判断する市民としてのスキルが必要と考える。行政には、限られた資源の配分執行を行う裁 量権があるが、その配分の裁量権は、地方公共団体の法適合行政での効率的な執行よりも、地 方自治体の住民自治行政での有効な執行においてより大きいだろう。地方市民生活体の顧客志 向行政での効果的な執行においては、さらに裁量権は大きく、それだけ行政責任も大きくなろ う。裁量権の詳細は次章で述べるとして、その責任の大きさとともに、効率よりも有効が、さ らに有効よりも効果が、人々の意識に左右される比重が高まるがゆえに、その責任の内容が不 明確になる可能性をここでは指摘しておく。地方市民生活体としての地方政府での行政責任が、 3種の行政形態のなかでは、市民への依存がもっとも大きい。したがって、行政の執行にとっ て、事業施策の成果が人々に到達しやすい地域社会の状態を創り出すことは、極めて重要な政 策課題となる。その目指すべき地域社会の状態が、人々が市民的積極参加のスキルを持つ積極 的な市民状態であると考えている。 そこで、地方市民生活体としての機能に注目して地方政府の行政責任を考えるとき、その行 政評価の視点となる事業施策の効果性が、市民状態にどのように左右されるかを明らかにして −242− 文化政策と行政の合理性(村山) 事業施策の効果性(効果的な行政パフォーマンス) 事業施策の成果(目標の増進) × 事業施策の到達(期待・満足) 市民的積極参加のスキル(市民状態) 図3 事業施策の効果性についての行政評価の分析の枠組み 表1 センター建設の事業施策の効果性の市民的積極参加のスキルによる違い 効果性評価 市民的積極参加 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ネ ッ ト ワ ー ク 家 族 会 話 量 友人等会話量 団体参加活動量 団体参加意欲量 無し 少し 多い 無し 少し 多い 無し 少し 多い 無し 少し 多い ふれあいセンターの効果性 まちづくりセンターの効果性 利用目的×満足 利用目的×期待 利用目的×満足 利用目的×期待 0.06 0.05 0.18 0.17 0.16 0.16 0.24 0.25 0.21 0.21 0.29 0.27 0.06 0.04 0.17 0.16 0.18 0.15 0.26 0.21 0.21 0.22 0.28 0.29 0.17 0.11 0.16 0.18 0.16 0.11 0.24 0.26 0.26 0.28 0.31 0.25 0.16 0.10 0.16 0.18 0.19 0.14 0.23 0.23 0.13 0.18 0.23 0.14 注)数値は効果に関わる指標としての満足、期待それぞれの到達量と利用目的の多様性が示す成果量の相関係数のタウCで ある。市民的積極参加はそれらの相関のコントロール変数である。調査および質問の詳細は注7を参照されたい。 おく必要がある。つまり、人々の市民的積極参加のスキルが多く見られる積極的な市民状態が、 事業施策の成果が人々に到達するその効果を増すのに影響することを検証しなければならな い。図3は、そのような検証のための分析の枠組みを示しており、表1がその分析結果を示し ている。 表1では、市民的積極参加の市民状態が、ふれあいセンターとまちづくりセンターの建設の 2つの事業施策の成果の人々への到達をいかに左右するかを示している。ここでの分析データ は、京都府南部のある町で、2003年に実施したものである7)。事業施策として文化施設の建設 を例に、ここでは施設を多様な目的で利用することをこれらの事業の成果量と見て、その建設 施策への人々の満足と期待を事業施策の浸透の到達量と捉え、市民的積極参加の高さを支える スキルを、地域の事柄についての家族や友人との会話量および地域の社会活動への参加や参加 意欲量で測っている。一部の例外を除いて、市民的積極参加のスキルが高くなるほど行政の効 果性を高めることが、事業施策の成果量と到達量の関係が強く表れる相関係数からわかる。つ −243− 政策科学 11−3,Mar.2004 まり、地域社会でのスキルの高い積極的な市民状態が、行政パフォーマンスの効果性をよくす ることにつながることを示している。市民的積極参加の多寡が、事業施策への満足や期待に関 わる行政パフォーマンスの良し悪しに影響することは、このような文化施策に限らず、広く施 策一般について言えることであり、そのことは同町の複数の施策についての検証結果からもわ かる8)。 以上のように、市民的積極参加のスキルが高い市民状態の実現に向けての施策執行が、地方 行政には求められる。文化施設の建設・運営の文化政策では、その事業施策の効果性が、ここ での分析から明らかになったように、市民的積極参加のスキルの高い積極的な市民状態でより 高められる。そこでは同時に、これらの文化施設の建設・運営がさらに積極的な市民状態を創 り出すことに寄与できるなら、その循環が市民的積極参加のスキルに満ちた地方市民生活体で の行政評価を高めるような行政の執行責任を果たすのに役立つ。市民状態は、まさにこのよう な行政執行の効果性についての行政評価や行政責任の視点で考慮される必要がある。 Ⅲ.行政の合理性のゆらぎと行政の文化化 ここでは、地方政府が文化政策をすすめることの今日的な意義を、行政の合理性の視点から 考えてみようと思う。行政の合理性は行政運営の前提であり、行政の執行は理にかなっていな ければならない。地方政府の行政基盤としてすでに指摘した法適合行政、住民自治行政、顧客 志向行政のいずれもがそのような合理性の根拠となりうる。行政の仕事の増加とともに行政の 裁量権の拡大が見られる今日、行政の合理性の根拠をどこに求めるのか、理にかなった行政執 行の評価が難しくなってきている。そのような行政の合理性のゆらぎが見られるなかで、行政 の文化化は新たな合理性をもたらす処方箋となりうると考える。地方市民生活体の顧客志向行 政での積極的な市民状態の創出を目指す施策展開は、行政の合理性についての説得力ある説明 となる可能性を持っていると思う。市民状態に注目する理由は、まさにそのような行政の合理 性の新たな根拠を求めて、行政の文化化による市民文化の形成を考えるところにある。 文化政策の推進は、後に述べるが、地方公共団体としての行政の経営化にとって必ずしも必 要ではなく、地方自治体としての行政の政治化の動向から必然的に導かれるものでもない。文 化政策は、まさに、行政の文化化にとってこそ不可欠なものである。ここでいう行政の文化化 は、単に文化に関わる事業施策が数多く執行されるというようなことを意味するのではない。 それは、地方政府の根幹に関わるような政策展開の動向を示すものである。行政の文化化は、 法適合の行政運営の下での効率性を追求する経営化や、正統な民主的手続を求める政治化との 対比で、地域特性に結びついた個性的で創造的な市民状態の文化、言わば政策展開に影響する 「政策文化」とも呼べるものを目指す文化化として、地方政府の指針に深く関わっている。 地方公共団体としての地方政府での人々の立場は政治行政の客体であり、地方自治体では政 治行政の主体であり、地方市民生活体ではそれが政治行政生活者の立場であることはすでに指 摘した。政治行政生活者の立場に立つ市民の状態は、その地域での公民関係の市民文化を示し −244− 文化政策と行政の合理性(村山) ている。市民文化とは、政治行政との関係における人々の行動様式と定義できるだろう9)。地 方市民生活体での市民文化は、人々と地方政府との顧客事業者関係での消費者である市民生活 者の立場から、人々が地域社会に関わる行動様式にどのような特徴が見られるのかに表れる。 そのような地域の社会活動への参加などを通しての政治行政への間接的な関係が示す市民状態 は、地方自治体での直接的な本人代理人関係の行動様式に表れる市民文化で示される住民状態 や、同じく直接的な被治者統治者関係での行動様式に表れる地方公共団体における市民文化が 示す国民状態とは異なる。地域社会での人々の行動様式で捉える市民文化はいずれの状態にも 共通に見られるものの、市民状態での市民文化は、国民状態と住民状態での市民文化が直接的 な公民関係に基づくものであるのに対して、間接的な公民関係でのものである点に違いがある。 行政の文化化は、このような間接的な公民関係に関わり、市民状態に注目して公民関係を間接 的に捉えてこそ、旧来とは次元の異なる行政の合理性を新たに模索できるのではないかと考え る10)。 行政の合理性が今日どのような状況にあるかを考えるとき、行政の合理性の危機を、住民自 治行政での公民協働の推進による直接的な関係を深めることで回避する傾向が見られる。ここ では、そのような行政の政治化による回避ではなく、積極的な市民状態の創出の結果として間 接的に公民協働の実現を目指す行政の文化化で克服すべきことを主張する。つまり、行政の文 化化に新たな合理性の根拠を求めようとする。住民と行政の協働を重視することは、最近の地 方行政の顕著な特徴だろう。地方分権化での住民自治の強調が、そのような公民協働の花盛り の背景をなしている。しかし、行政機関が住民と協働で行政を執行することが、地方行政の必 然的な帰結ではなかろう。何についてのどのような住民と行政の協働が重要かを知るには、も う少し踏み込んだ議論が必要と考える。そのためには、最近の地方行政の変化をどう捉え、行 政が向かうべき方向をどう見るかが示されなければならない。 地方自治体の政治行政に関わる住民の意識と行動には、全体としては国政におけると同様に、 人々の無関心や不信が最近の特徴として見られる。そのようななかでも、政治行政への参画に積 極的な人々もいる。地方の行政機関は、そのような一部の積極的な住民との協働を目指そうと言 うのか。それとも、住民全体をそのように積極的な人々にしようと思うのか。今日、協働の行き 先すら明瞭ではない。地方行政が公民協働を目指す理由が改めて問われなければならない。 地方政府は、ひっ迫した財政事情から、抱え込んだものすべてを単独で処理することが困難 になり、より効率的な道を公私の協働に求めているとの見方も、現象の説明としては可能だろ う。PFIの導入やNPOの活用など公共領域での民間活力を求めての公私の協働は、その方向に 位置する。しかし、公私協働と公民協働は同一ではない。行政運営での住民の参画を重視して、 住民と行政の協働を目指す最近の傾向の背後には、もっと大きな地殻変動が、地方行政におけ る公民関係について起こっているのではないか。その変動は、効率的な行政運営のために公私 の協働を目指す現象に隠れがちではあるが、地方政府の行政運営にとってより根底的な行政の 合理性に関して起こっていると思う。そこでは行政の合理性がゆらいでいる。図4はそのよう な行政の合理性への危機の状況とその回避および克服を考える枠組みを示している。 −245− 政策科学 11−3,Mar.2004 行政機能の拡大 裁量行為の拡大 行政執行の合理性 (法適合行政) 価値の配分執行の合理性 (政治行政融合) [ゆらぎの回避] 行政の政治化 [ゆらぎの克服] 行政の文化化 (新たな政治行政分離) 図4 行政の合理性のゆらぎ 行政は理にかなったものでなければならない。理にかなった行政運営がいかに効率的に行わ れるかが、行政の説明責任の基本的な主題であることに変わりはない。これまでも、行政が法 律に従って適法に行われるとき、そこに執行機関としての行政の合理性が示されてきた。しか し、最近の行政機能の拡大によって、そのような法適合性では説明しきれない範囲まで行政の 裁量権は広がっている。そこに、行政運営が新たな合理性の根拠を必要とする状況がある。地 方行政の地殻変動は、この合理性の新たな根拠をさらに求めなければならない変化として起き ている。行政の政治化がその地殻変動となって表れつつあるのではないかと見る。 人々が行政に求めるものが増している。増大する行政サービスの提供を人々が満足できるよ うにうまく行うのは至難の業になってきている。地方行政は、そう簡単に人々の期待と満足に 応えられない状況にある。財政のひっ迫はそれに拍車をかけている。つまり、適法な行政執行 だけでは、理にかなった行政運営であることを説明できなくなっている。たとえ、法に適合し た公平な行政運営をいかに効率的に行ったと説明しても、人々の期待と満足に足る説明とはな りにくいところまできている。行政サービスの拡大とともに、平等に享受できるとはかぎらな いサービスが増していることに人々は気づいている。いかに効率的な運営がなされても、満た されない不満と期待の喪失とともに説明不足が残る。 そこで行政は合理性の根拠を、住民の行政への参画に求めようとする。そのような行政の意 思決定への住民の参画を行政の合理性の根拠とする方向に、私は賛成できない。単純化して言 うなら、何をするかを決めるのが立法なら、どう行うかが行政である。住民の行政への参画が、 何を決めるかへの参加に向かうなら、行政は政治化することによって合理性の根拠を得られる が、そこでは、行政の政治からの自立が危うくなる。首長公選制の地方行政は、議院内閣制の 国の行政よりも、首長への裁量権の集中とともに、行政の合理性を民主政治的な手続きに求め る行政の政治化へと流れやすい。また、最近盛んになってきた争点指向の住民投票も、行政の 執行内容の決定に住民が直接に関わる点で、行政の政治化の促進要因となりうる。 −246− 文化政策と行政の合理性(村山) しかし、行政の政治化は、地方行政にとって好ましいとは思えない。政治化は行政サービス による価値の配分執行の説明理由として役立つとしても、その配分執行の効果の妥当性の担保 とはならない。それどころか、人々の政治参加を専門的に促進するのは行政の役割ではなく、 その専門性は政治に属する。これに対して、行政は、人々の地域社会への積極的な関与を促進 することについては専門性を発揮できると思う。加えて、そのような地域社会への市民的積極 参加の文化の醸成が、既に明らかにしたように行政のパフォーマンスを増すのであれば、それ は行政の専門的な職務の執行と密接に関わる。政治から自立した行政の専門性を保ちうる新た な行政の合理性を模索する方向として、行政の文化化を私は考えている。 行政の政治化へと向かう地殻変動は、行政の定義の変化として示すこともできる。政治行政 二分論と政治行政融合論には長い歴史があるが、今日、行政の実践的な展開において、政治行 政融合での行政の合理性の危機が具体的化している1 1 )。私が行政の定義を価値の配分執行と考 えるのは、そのような現状にあるとの認識からである。価値の配分執行である行政は、法適合 的な執行だけではその合理性を担保できない。現実は、価値の権威的な配分としての政治の定 義と、行政の定義が配分という点で重なり合う。そこに、行政の政治化により、行政の自立性 が危うくなる危険がある。行政の合理性のゆらぎによる行政の専門性の弱体化の危機の克服を、 専門的な価値の配分執行を、行政の自立性をたもちつつ行える方向で探る必要がある。行政パ フォーマンスを高めるような、積極的な市民状態の創出を目指す行政の文化化が進められるな ら、市民的積極参加のスキルに満ちた市民状態が間接的な公民協働に資するような市民文化の 形成において、行政の専門性を発揮できる可能性を見つけられるだろう。行政の合理性のゆら ぎを、図4が示すように、政治行政融合の行政の政治化で回避するのではなく、新たな政治行 政分離を目指す行政の文化化により克服することが求められる。 行政の文化化を、行政の合理性の視点から地方行政形態の違いに則して、行政の経営化およ び行政の政治化と比較したのが図5である。地方公共団体においては、法適合行政の下での資 源の効率的な配分執行に行政の合理性は求められよう。行政執行者の行為が立法に従っている ことは、従来からの行政の合理性の有力な根拠である。それだけでは不十分な今日、理にかな った行政であるかどうかは、その法適合性を前提としたうえで、行政が実施する事業内容の経 済的な効率性からも議論される。したがって、行政の経営化は法適合行政を基礎に進められる。 社会経営としての行政を目指す最近の傾向は、顧客志向行政と連携して議論されることも多い が、行政の経営化の基礎にある統治は、必然的に顧客志向に結びつくものではない。 行政の経営化の費用対便益も、行政のパフォーマンスの評価を通じて行政の合理性の判断に 影響するが、そのような行政執行のアウトプットの政治経済的合理性だけでは、今日の行政の 裁量権の拡大による合理性の危機を克服できないと思う。そこでは、人々の意識と行動が示す 市民文化を視野に置く合理性の根拠が求められなければならない。地方公共団体における統治 者の被治者に対する直接的な公民関係の国民状態での人々の行動様式は、行政システムの出力 のアウトプット重視の経済的合理性の下で、行政の合理性を支える市民文化としてはあまり意 味をもたない。そこで、現状はこの危機を回避するために、地方自治体の住民自治行政である −247− 政策科学 11−3,Mar.2004 地方行政 地域社会 地域社会の状態 価値の配分執行の合理性 地 政 域 の 行政の合理性の判断 社 合 会 公民関係の市民文化 理 の 性 地方政府の動向 行 地方公共団体 国民状態 資源の効率的な配分執行 費用便益合理性 直接的・出力執行重視 行政の経営化 地方行政の形態 地方自治体 住民状態 資源の有効な配分執行 民主手続合理性 直接的・入力手段重視 行政の政治化 地方市民生活体 市民状態 資源の効果的な配分執行 施策浸透合理性 間接的・出力達成重視 行政の文化化 図5 地方行政の重層する3形態とそこに見られる地域社会の特徴 ことからその直接的な行政システムの入力を重視して、民主的な手続きに従う民主政治的な正 統性に、行政の合理性の根拠を求めようとする傾向が見える1 2 )。しかし、民主的な手続が行政 パフォーマンスの向上に資するとはかぎらず、そのような行政の政治化に合理性の根拠を求め る方向は、すでに指摘したように行政の自立性を危険にさらす。 ここでは、市民的積極参加が行政施策の効果的なパフォーマンスをもたらすとする前述の検 証結果を踏まえて、行政が地域社会への人々の市民的積極参加の行動様式に働きかけることが 重要と考える。その働きかけを通じて、施策浸透による行政目的の達成が示す行政パフォーマ ンスの妥当性を増すことが、行政の合理性の根拠となりうると思う。それは、地方市民生活体 での政治行政生活者への施策の浸透を、行政の合理性の判断において注目することである。つ まり、施策浸透のアウトカムの達成を重視して、パフォーマンスの向上に資する積極的な市民 状態の市民文化の創出を図る行政の文化化でもって、合理性の危機を克服する方向を示してい る。住民の地域活動への積極的な参加や地域の事柄への関心が、その地域での行政パフォーマ ンスを良くする土壌になると私は思う。行政パフォーマンスの良し悪しは、一見、行政機関が どのように行政サービスを提供するかにかかっているように見えるが、必ずしもそうではない。 サービスを提供する行政機関がいかに良いサービスを提供しても、それがサービスを受ける 人々に受け入れられなければ、良いパフォーマンスとは言えないだろう。 行政は、提供するサービス内容とともに、人々の考え方、感じ方、行動の仕方にも注意を払 わなければならない。考え方、感じ方、行動の仕方が示す人々の行動様式がその地域の文化で ある。行政の文化化とは、そのような人々の行動様式に行政が関わろうとすることを意味する。 それは、行政の政治化が、行政が政治との重なりを増すことであるのに対比して、行政の文化 化は、行政が文化との重なりを増すことである。行政が活発に文化政策を展開するのも、この ような行政の文化化の表れである。しかし、ここで注目する文化政策は、もっぱら行政のアウ トカムの評価を左右する公民関係での人々の行動様式の市民文化に関わる政策であり、文化財 保存のような文化政策とは異なる。 −248− 文化政策と行政の合理性(村山) まとめ 統治、自治、創治と文化政策 これまでの議論によって、地方政府が、行政の文化化の施策展開を通じて、積極的な市民状 態をいかに実現するかが、地方市民生活体としての地方行政での目指すべき方向として重要で あることを明らかにできたと思う。活発な市民的積極参加の見られる市民状態は、行政施策の 人々への効果的な浸透をもたらすことで、価値の偏在的な配分にならざるをえない行政執行が 合理的であると説明できる土壌を整える。つまり、文化政策の具体的な施策は、積極的な市民 状態を創出する方向で展開されることによって、行政の合理性の新たな根拠を提供しうる。行 政が文化施設の建設・運営をすすめる意義を、そのような行政の文化化に見いだせるだろう。 本稿は、地方政府の形態について地方市民生活体を構想し、地方市民生活体での人々の位置 およびそこでの地域社会の状況を示すことで、今日、議論すべき市民状態とは何かを明らかに した。また、地方市民生活体での市民状態をどのように考慮すればいいのかを、行政の施策執 行が人々にもたらす効果を評価する基礎に、評価を左右する市民状態があることで示した。さ らに、市民状態に注目する理由が、行政の合理性を保つための地方政府の動向として、市民的 地方行政 地域社会 人々の立場 地 人 域 々 社 人々の立場の証明 の 会 人々の立場の性格 位 で 置 の 地方政府での人々の立場 人々・地方政府関係 地 ら 域 れ 社 地域社会での人間行動 る 会 行動の内容 状 に 況 見 地域社会の状態 地方政府の行政基盤 政 地 執 域 行政責任の根拠 社 行 の 会 行政評価の視点 評 の 価 行 行政評価の指標 価値の配分執行の合理性 地 政 域 の 社 行政の合理性の判断 合 会 公民関係の市民文化 理 性 の 行 府 の デ ザ イ ン 地 域 社 会 と 政 地方政府の動向 ガバナンスの特徴 人々に求められるスキル 職員の専門性の発揮 行政施策の展開目標 地方公共団体 国民 戸籍簿 必然的 政治行政の客体 被治者統治者 国民としての権利義務 自由・納税(義務的関与) 国民状態 法適合行政 効率的執行の裁量権 事業施策の効率性 効率性=活動量/コスト 資源の効率的な配分執行 費用便益合理性 直接的・出力執行重視 地方行政の形態 地方自治体 住民 住民票 半強制的 政治行政の主体 本人代理人 住民としての自治 投票(政治的関与) 住民状態 住民自治行政 有効な執行の裁量権 事業施策の有効性 有効性=成果量/活動量 資源の有効な配分執行 民主手続合理性 直接的・入力手段重視 地方市民生活体 市民 身分証明・名簿等 任意的 政治行政生活者 顧客事業者 市民としての生活 市民的積極参加(社会的関与) 市民状態 顧客志向行政 妥当な執行の裁量権 事業施策の効果性 効果性=到達量/成果量 資源の効果的な配分執行 施策浸透合理性 間接的・出力達成重視 行政の経営化 統治① 順法法治スキル 行政経営政策 NPM 行政の政治化 自治② 要求伝達表明スキル 広報広聴政策 公民協働 行政の文化化 創治③ 施策受容判断スキル 文化施設政策 地域活性化 ① 地方公共団体では、人々は政治行政の客体としての国民状態にあり、地方政府のガバナンスは、法適合行政による資源 の効率的な配分の執行責任を果たそうとすると、経営化する。そのガバナンスは統治を中心に展開される。 ② 地方自治体では、人々は政治行政の主体としての住民状態にあり、地方政府のガバナンスは、住民自治行政による資源 の有効な配分の執行責任を果たそうとすると、政治化する。そのガバナンスは自治を中心に展開される。 ③ 地方市民生活体では、人々は政治行政生活者としての市民状態にあり、地方政府のガバナンスは、顧客志向行政による 資源の効果的な配分の執行責任を果たそうとすると、文化化する。そのガバナンスは創治を中心に展開される。 図6 地方行政の重層する3形態の比較のまとめ −249− 政策科学 11−3,Mar.2004 積極参加の市民状態を促進する行政の文化化による市民文化の形成が求められるところにある と論じた。ここでのまとめとして、そのような行政の文化化を踏まえて、行政施策の展開目標 としての地域活性化がどのようにすすめられることで、文化政策が地方行政において意味を持 ちうるかを示してみる。図6は、これまでの議論に加えて、地域社会と政府のデザインに関わ るガバナンスの特徴を整理し、それらの全てをまとめたものである。そこでは、地方公共団体 の機能としての統治、地方自治体の機能としての自治との比較で、地方市民生活体の市民状態 でのガバナンスの機能として、創治の概念を新たに提示する。 図6は、地方市民生活体での市民状態を仮定し、地方政府の3形態として、地方公共団体、 地方自治体、地方市民生活体を比較している。それによって、地域社会の特徴とそのガバナン スをそれぞれの形態ごとに、統治①、自治②、創治③と区別した。創治は本稿での造語であり、 本稿での結論を象徴する言葉である。これらの区別は、地域社会での行政執行の評価や合理性、 さらには地方政府のデザインを考えるうえで極めて有用であると考えている。 地方公共団体の機能に注目して地方政府を考えると、そこでは、地方公共団体の統治機能に 役立つような、政治行政の客体としての人々のスキルが求められる。法適合行政においては、 法治国家での人々の順法のスキルが統治にとって重要である。そのような統治と順法の下での 地方公共団体の行政執行の評価は効率性が中心となり、そこに合理性の根拠を見出し、行政は 経営化する。そこでは、職員の専門性が行政経営政策で発揮されることが求められ、ニュー・ パブリック・マネージメント(NPM)などが、行政施策の展開目標として組み込まれた地方 政府の制度デザインが重視される。地方公共団体でのガバナンスは、統治を中心に展開され る。 地方自治体の機能に注目して地方政府を考えると、政治行政の主体としてその自治機能に役 立つような人々のスキルが求められる。住民自治行政においては、人々の要求の伝達や表明の スキルが重要であり、その要求に応える資源の有効な配分が評価の中心となる。その結果、民 主的な政治手続に依存することに行政執行の合理性の根拠を求めて、行政が政治化する可能性 がある。そこでの職員の専門性は、自治行政に資する広報広聴のような直接の公民協働の実現 に役立ち、公民協働が行政施策の展開目標として組み込まれた地方政府の制度デザインが重視 されるだろう。そのような地方自治体のガバナンスは自治を中心に展開されることになる。 地方市民生活体の機能に注目して地方政府を考えると、その機能に役立つような、政治行政 生活者としての人々のスキルが求められる。人々と地方政府の関係が顧客と事業者の関係にな ぞらえられる顧客志向行政においては、市民には行政の施策を受容して判断できるスキルが求 められる。そのようなスキルが地域社会への市民的積極参加で培われるなら、活発な社会的参 加の実現を目指す地域活性化が行政施策の展開目標となりうる。市民的積極参加を促進するた めの行政の専門性は、具体的には文化政策で発揮されるだろうし、文化施設の建設・運営など も地域活性化施策として意味を持つ。そのような市民的積極参加への文化政策を基盤として、 市民状態を創り出す地方市民生活体の機能を、ここでは創治と名づける。創治は、統治と自治 による行政と人々の直接的な公民関係ではなく、間接的に公民協働の土壌を形成する公民関係 −250− 文化政策と行政の合理性(村山) の創造的な側面を重視した呼称である。地方行政での限られた資源の配分の合理性の根拠は、 人々への施策の浸透による妥当な行政執行であることに求められる。そのためには、行政施策 の浸透を増す市民状態を地域活性化により創出することを、行政施策の展開目標として組込ん だ地方政府の制度デザインが考えられる必要があり、そのような地方市民生活体のガバナンス をここでは創治とした。 地方行政の文化政策は、統治や自治のためではなく、創治の実現を目指すものと捉えること で、地方政府が推し進める理由をより明らかにできる。地域社会への市民的積極参加を促進す る地域活性化に資する文化政策なら、行政の合理性の新たな根拠となりうる行政の文化化によ る市民状態の創出につながる。文化施設の建設・運営が、そのような創治の具体的な施策とし て、行政の専門性を生かしつつ展開されているかは、文化政策に関わる事業施策の行政評価や 説明責任の重要な判断基準となるだろう。 注 1)市民的積極参加の概念については、ロバート・パットナム著、河田潤一訳『哲学する民主主義』NTT 出版、2001年、105頁、184頁、215頁を参照。 2)本稿では市民状態を、統治や自治とは異なる状況でのものと捉えようとするが、一般的にルールの下 での人間相互の係わり合いとしての市民状態を考えるなら、統治のルールの下での人間相互の係わり合 いとしても市民状態を議論できる。国民状態におけるそのような係わり合い状況を市民状態として議論 するものについては、マイケル・オークショット著、野田裕久訳『市民状態とは何か』木鐸社、1993年、 35−36頁を参照。 3)アメリカ合衆国カリフォルニア州の1978年の住民投票での資産税率の制限についての提案13の結果な どは、地域で異なる国民状態をもたらす例といえる。州政府の広域補助機能を果たすカウンティや法人 化した都市と未法人化地域が錯綜するアメリカ地方政府の状況は、国民状態の地域的な差異の要因とな っている。そのようなカリフォルニア州の地方政府については、中邨章『アメリカの地方自治』学陽書 房、1991年、175−181頁を参照。 4)市民概念からの政治行政へのアプローチは様々あるが、市民文化論からは、民主的な市民文化を操作 的に概念化するアーモンドとヴァーバが、政治参加のような政治システムへの入力での行動様式に注目 する。G・アーモンド&S・ヴァーバ著、石川一雄他訳『現代市民の政治文化』勁草書房、1974年、10− 15頁を参照。 5)オークショットの『人間行動論』(On Human Conduct, Oxford ,1975)のテーマが、人間行動の緻密な 検討を通じて「市民状態」(市民的結合体・市民的関係)、つまり個々人が秩序を形成しながら自由であ る状態の可能性を論証することであると見るのについては、前掲『市民状態とは何か』121頁を参照。 6)事業施策への人々の満足や期待からその施策の浸透の効果を、文化施設について分析、評価した例と して、村山皓編『施策としての博物館の実践的評価―琵琶湖博物館の経済的・文化的・社会的効果の研 究―』雄山閣、2001年、第4章を参照。 7)家族会話量と友人等会話量は、共に、産業や経済、政治や選挙、文化や教育、自然や自然環境、生活 や社会環境の5項目についての家族内での会話、もしくは家族以外の人たちとの会話の経験を聞く複数 回答形式の質問でのカウント変数である。団体活動量と団体参加意欲量は共に、町内会・自治会活動、 −251− 政策科学 11−3,Mar.2004 生涯学習活動、スポーツサークル活動、ボランティア活動、老人クラブの5項目の地域活動への参加状 況と参加意欲を聞く複数回答形式の質問のカウント変数である。会話量、参加量それぞれの「無し」は 選択肢5項目中選択なし、「少し」は1つ選択、「多い」は2つ以上選択である。事業施策の成果として の利用目的の質問は、「あなたはふれあいセンターをどのような目的で利用していますか、もしくは利 用しようと思いますか」であり、その選択肢は、「1.図書館の利用、2.サークル活動などでの創作 室、和室、集会室の利用、3.集会や会合での利用、4.天体望遠鏡の利用、5.センターで催される 教室・講座への参加」である。また、「あなたは近いうちに完成するまちづくりセンターをどのような 目的で利用したいと思いますか」であり、その選択肢は、「1.サークル活動などでの集会や会合で利 用、2.まちづくりのための活動の拠点として利用、3.センターで催される教室・講座への参加、4. まちづくりについての情報をえられるところとして利用、5.人々と出会えるところとして利用」であ る。それぞれのセンターについて、複数回答形式の質問のカウント変数が示す目的の多様性を、施設建 設の目標増進の成果量の尺度としている。事業施策の到達を知るための満足の質問は、ふれあいセンタ ー管理運営事業とまちづくりセンター建設について、今までやってきて良かったと思うかどうかを聞き、 期待の質問は、同じく、ふれあいセンター管理運営事業とまちづくりセンター建設について、今後、積 極的に進めることを期待するかについて聞いている。調査は、京都府南部のある町の7136人の全有権者 を対象とし、2003年3月に実施した町内の全3159世帯への郵送および郵送回収による悉皆調査である。 有効回収世帯数は485世帯であり、有効回答者数は1039人である。この調査は、平成14年度の日本学術 振興会の基礎研究(C)研究課題「行政評価の新次元―地方分権下における文化行政施策を中心に」(研 究代表者重森臣広)の助成を得て実施した。 8)人々への浸透効果の高い行政パフォーマンスが、地域社会への人々の積極的な参加の文化の醸成によ ってもたらされる可能性についての分析として、村山皓『日本の民主政の文化的特徴』晃洋書房、2003 年、第六章を参照。 9)ここでは、人々と政治行政の関係での生活に見られる人々の行動様式が示す政治文化を市民文化と考 えている。行動様式としての政治文化の操作的概念化については、村山皓『政治意識の調査と分析』晃 洋書房、1998年、2頁、27−28頁を参照。 10)信頼や互酬性の規範のネットワークが形成されている社会では、そうでない社会の数倍も多くのこと を達成できると考え、そのような土壌としての社会資本(人間関係資本)の蓄積に注目するものとして、 前掲『哲学する民主主義』206−207頁を参照。 11)行政の裁量行為は法治行政で規定できるルールに限界のあることから必然的に生じるが、今日の複雑 な社会で一定の社会的結果を期待されるとき、詳細なルール化は困難であり、行政官に適切な対応を積 極的に委ねる方がよい場合もあるとの考えがある。それについては、西尾勝・村松岐夫共編『講座行政 学 市民と行政』有斐閣、1995年、9−10頁を参照。その背景には専門家集団の機能的な行政責任と民 主的統制の論争がある。政治行政二分論を克服し、政治行政融合論による政治の行政化ないし行政の政 治化は現代行政学の基点をなすとして、そこから行政裁量の概念の再構築に論及するものとして、西尾 勝『行政の基礎概念』東京大学出版会、1996年(1990年初版)、305−308頁を参照。 12)政治参加を中心とするシステムへの入力に力点をおく関与民主政の制度デザインよりも、システムか らの出力への評価を重視する評価民主政の制度デザインが、日本の政治文化に合った公民関係であるこ とを主張するものに、村山皓「公共性と市民的積極参加の制度デザイン」山口定他編『新しい公共性』 有斐閣、2003年、306−307頁がある。そこでは民主的な手続に行政の合理性の危機の回避を求めること が、日本の政治文化に沿うとは限らないことを示唆する。 −252−
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