オバマ政権下の IT マネジメント改革

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オバマ政権下の IT マネジメント改革
目次
要約 ......................................................................................................................................... 3
第 1 章.
連邦政府における IT マネジメントの枠組み ...................................................... 4
1.1.
IT 調達制度の問題点 ............................................................................................... 4
1.2.
IT マネジメントの問題点 ........................................................................................ 5
1.3.
90 年代の IT マネジメント改革............................................................................... 6
1.4.
00 年代の IT マネジメント改革............................................................................. 10
1.5.
CPIC の枠組み ....................................................................................................... 13
第 2 章.
オープンガバメントの概略 ................................................................................ 16
2.1.
オープンガバメントの原則と指針 ......................................................................... 16
2.2.
透明性原則に基づく財政支出の公開 ..................................................................... 19
2.3.
オープンガバメントに基づくマネジメント改革 ................................................... 23
第 3 章.
IT ダッシュボードと TechStat セッション ....................................................... 26
3.1.
IT ダッシュボードと TechStat セッションの概要 ............................................... 26
3.2.
IT ダッシュボードの成立経緯 ............................................................................... 27
3.3.
IT ダッシュボード上の情報 .................................................................................. 29
3.4.
TechStat セッションの概要 .................................................................................. 36
3.5.
TechStat の実施状況 ............................................................................................. 40
3.6.
PortfolioStat の展開 .............................................................................................. 43
第 4 章.
IT マネジメント改革のための 25 の施策 .......................................................... 44
4.1.
概要 ........................................................................................................................ 44
4.2.
「軽量な技術」と共有ソリューションの導入 ...................................................... 46
4.3.
PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化....................................... 57
4.4.
プログラムマネジメントの強化 ............................................................................ 59
4.5.
技術サイクルと調達プロセスの親和性向上 .......................................................... 65
4.6.
技術サイクルと予算プロセスの親和性向上 .......................................................... 70
4.7.
ガバナンスの軽量化とアカウンタビリティの向上 ............................................... 72
4.8.
産業界との交流強化............................................................................................... 76
第 5 章.
政府説明責任院(GAO)による評価 ..................................................................... 80
5.1.
支出情報の公開に対する評価 ................................................................................ 80
5.2.
IT ダッシュボードと TechStat セッションに対する評価..................................... 82
5.3.
IT マネジメント改革のための 25 の施策に対する評価 ........................................ 86
出典一覧 ............................................................................................................................... 93
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要約
米国連邦政府は 90 年代初頭に遡る IT 投資マネジメント改革の歴史を有する。2009 年に
成立したオバマ政権では過去の改革を土台としつつ、徹底した情報公開を原則とするオー
プンガバメントの理念を軸として、公開情報に基づく一般国民からの監視の目による外圧
を用いた IT 投資マネジメントの技法が確立しつつある。
オバマ政権における IT 投資マネジメントの中核的枠組みは、IT ダッシュボードと呼ばれ
る IT 支出情報の公開 Web サイトと、要注意プログラムを対象になされる質疑応答・対策
決定のレビューであるところの TechStat セッションである。情報公開を土台として IT ダ
ッシュボードが成立し、IT ダッシュボードの情報から要注意プログラムが検出され、
TechStat セッションにより是正が図られるという流れがある。
以上のような行政透明性の原則に基づく外圧主導型の改革アプローチと双璧をなすのが、
2010 年 9 月に発行された「IT マネジメント改革のための 25 の施策」である。同施策はク
ラウド型サービスの積極的導入という技術的側面と、IT 投資マネジメントを支えるノウハ
ウや人材の強化という対人的側面からなる。同施策は IT マネジメントの改善とは何である
のかを具体的に規定し、達成すべき目標を明確にしたものであって、省庁の取組という自
発性主導型の改革アプローチとなっている。
これらの取組を主導する行政管理予算局(OMBi)によれば、多くの取組がスケジュール通
りに進捗し、特にクラウド型サービスの導入やデータセンターの統廃合からは 30 億ドルを
超えるライフサイクルコストの削減効果が達成できているとしている。しかしながら、政
府説明責任院(GAOii)による第 3 者視点からの評価によれば、取組の細部に質の問題がある
他、取組の成果を客観的に評価するための指標の設計も不十分である。
全体を振り返れば、今回の 25 の施策でも過去の資産を継承した上で狙いとする効果を具
体的に実現する取組であることが謳われており、20 年近い歴史を積み重ねてきた連邦政府
の IT 投資マネジメント改革はより具体的な実践を重視する段階に至っている。
※本稿は 2012 年 7 月時点での調査に基づく※
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Office of Management and Budget
Government Accountability Office
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第1章. 連邦政府における IT マネジメントの枠組み
それまでの IT マネジメント改革がしばしば大掛かりな法改正を通じて推進されてきたのに
対し、オバマ政権下で推進される改革は法改正をほとんど伴わず、既存の枠組みの中で手
堅く具体的な実践を積み重ねる内容となっている。このため、オバマ政権下の IT マネジメ
ント改革を紐解くには、過去に形成されてきた現行法制のあらましを把握する必要がある。
第 1 章では、1980 年代から 2000 年代に掛けての IT 調達制度の変遷を特に IT マネジメン
トの観点から概観する。
1.1.
IT 調達制度の問題点
連邦政府における現在の IT マネジメントの枠組みは 1990 年代以降に取り組まれた様々
な IT 調達制度改革の結果であり、1990 年頃までに形成された旧来の IT 調達制度の持つ問
題と表裏一体をなしている。しかも 90 年代初頭に指摘されたそれらの問題は依然として完
全には解決されていない。IT マネジメント改革の原点を振り返るために、90 年代初頭の国
家業績レビュー(NPRi)による分析結果1に従い、何が当時から現代に至る課題となっている
のかを簡単に振り返る。
90 年代初頭の IT 調達制度の枠組みはブルックス法2によって規定されていた。連邦政府
には省庁横断で調達業務を賄う一般調達庁(GSAii)が存在しているが、ブルックス法は一般
調達庁の設置法の一部として、自動データ処理(ADPiii)システムの調達に関する権限を一般
調達庁に集約することを定めた法であった。一般に公共調達は公平性・公正性を期するが
ために多量の文書化と厳格な手続きの順守を求められる。このため、民間企業における資
材の購買に比べ数段の手続きコストと時間を要する。調達した IT システムを利用する各省
庁にしてみればただでさえ調達手続きの負担が重い上に、一般調達庁を介した間接的な調
達手続きが要求されるivため、IT システムの調達はとりわけコストと時間を要する調達事案
となる傾向があった。
制度に関してもう一点考慮すべきは、連邦調達規則(FAR3)の未成熟である。連邦政府の
各省庁が持つ調達機能は第二次大戦中の戦時体制下に著しく肥大し、省庁間での業務重複
や類似業務の分散による無駄が 60 年代頃から問題視されるようになった4。このことを受け、
70 年代から 80 年代に掛けて連邦政府横断での調達制度の標準化と統合が推進されたが、そ
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iii
iv
NPR : National Performance Review
GSA : General Services Agency
ADP : Automatic Data Processing
少額の調達に関しては一般調達庁から各省庁への権限移譲が認められていた。
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の要とも言える大統領府直下iの調達制度管理部局である連邦調達政策部(OFPP5)が恒久設
置されるようになったのは 1988 年6、同部による連邦調達規則(FAR)が整備されたのが 1984
年である。省庁ごとにばらばらであった調達規則を標準化したことは大きな前進であった。
しかし、制度の統合と明確化に重点を置いたため巨大な調達規則となってしまい、IT 調達
ではない調達一般に関しても制度の簡素化による調達手続きの負担軽減が待たれる状況で
あった。
これらの制度的制約は IT 調達に関して特に不利に働く。大規模 IT 調達には数年以上も
の時間を要するのが常態化していたのに対し、IT は日進月歩の存在であるため、調達が完
了した頃には導入したシステムの技術が既に陳腐化しているといった事態が生じるのであ
る。連邦政府における IT 調達制度は、鈍重で拙速である、という課題に取り組まねばなら
なかった。
1.2.
IT マネジメントの問題点
制度上の問題とは別に、IT マネジメントそのものの難しさも重要な課題であった。予算
超過やスケジュール超過に代表される IT プロジェクトの失敗は、一般に大規模プロジェク
トにおいて過半にも及ぶとされる7。その原因は技術的なものではなく、専ら要件定義やプ
ロジェクトマネジメントの失敗に帰着される。後のクリンガー・コーエン法の策定時には、
米国連邦政府においても多くのプロジェクトがこの例に漏れないことが指摘されている8。
要件定義の難しさは、IT システムの持つ細部の仕様に対する依存性に由来するものと考
えうる。行政 IT システムは通例ホワイトカラー業務の自動化や迅速化に用いられることが
多いが、IT システムは定められた仕様に従って杓子定規に動作することしかできないため、
最終的なシステム設計に当っては「どのようなホワイトカラー業務を行うのか」というこ
とを仔細に至るまで定義しなければならない。しかも IT システム導入後には業務の流れが
変化するため、将来における業務のあり方を精緻な手順書に相当する情報量で書き下すこ
とが求められる。要件定義はそれら全てを見越して事前に行わなければならないスコープ
設定であり、プロジェクトが大規模になるほど難易度が飛躍的に高まる。
プロジェクトマネジメントの難しさは、多様な利害関係者が絡みあう中での的確なリス
クコントロールの難しさと言いうる。前記のようにプロジェクトの目標たる要件定義が困
難であるからには、プロジェクトが抱えるリスクの把握も容易ではない。また、プロジェ
クトには必ずしも利害の一致しない複数の利害関係者が関わるのであって、リスクに対処
するための手を打つに当っても利害調整の労を割かなければならない。IT システムの特性
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正確には行政管理予算局(OMB)直下。
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をよく承知しつつ利害関係者間の調整にも有能な資質を備えたプログラムマネージャ、プ
ロジェクトマネージャは稀であり、体制において万全を期して IT プロジェクトの立ち上げ
に臨むことは困難な課題である。
以上の大きく 2 つの問題は官民問わず IT マネジメント一般に見出される。ばかりでなく
古くより知られた古典的な課題でもあり、解決に向けたノウハウも徐々に蓄積されてきて
いる。そこで、過去の模範例―ベストプラクティスを積極的に吸収し、マネジメント手法
そのものを洗練させることが連邦政府においても改善に向けた指針となった。
1.3.
90 年代の IT マネジメント改革
90 年代に入ると前述の課題に対処するための法改正として 2 つの重要な法案が可決され
た。1994 年の連邦調達簡素化法(FASAi)9、1996 年のクリンガー・コーエン法(Clinger-Cohen
Actii
iii)10である。
連邦調達簡素化法は先立つ 80 年代からの調達制度の分析に基づき立法された。同法では、
政府に固有の発注要件や手続きを入札業者となる民間企業に強いていることに連邦調達制
度の問題があるとし、調達価格において低価格帯に属するものと高価格帯に属するものと
でそれぞれに規制緩和を行った。11
低価格帯に関しては、民間で広く流通しているコモディティ型の製品・サービスivを対象
に簡素な手続きでこれを調達できるように規制緩和を行った。民間市場での流通実績があ
れば品質も保証されており、改めて政府向け納入のために個別の要件を設定する必要性は
乏しいという論理によるものである。連邦調達簡素化法ではこれらコモディティ品の調達
を奨励している。
高価格帯に関しては、パフォーマンス基準契約(PBCv)の利用を基本方針として打ち出し
た。パフォーマンス基準契約は主にサービス契約を念頭に置いた契約手法であり、納入さ
れる製品・サービスの内容ではなく、それらによって達成されるべき業務上の目標を要件
として調達契約を締結するものである。例えば、官舎の清掃サービスについて外部委託を
行う際、清掃用具の種類・個数や清掃員の数などを逐次指定するのではなく、必要となる
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iii
iv
v
FASA : Federal Acquisition Streamlining Act
ITMRA : IT Management Reform Act とも呼ばれる。
クリンガー・コーエン法と時を同じくして可決された法律に連邦調達改革法(FARA,
Federal Acquisition Reform Act)がある。同法では競争入札を行わなくてもよいケースを
増やすことで更に調達手続きの負担を軽減するなどの改革が行われた。
連邦調達簡素化法では Commercial Items と称する。
PBC : Performance Based Contract
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衛生基準や許される清掃時間帯だけを要件として定め、その枠内でどのようにサービスを
実施するかは受託業者に委ねるのである。従来の連邦調達制度ではこの種のサービス契約
においても業務定義書(SOWi)を準備して調達要件の中で事細かに業務内容を指定しなけれ
ばならなかったため、調達手続きの負担を軽減すると同時に受託業者の裁量を高めること
で最適化の余地も生まれると期待された。パフォーマンス基準契約は業務にとっての調達
の意味を明らかにするという仕掛けでもあり、その後の IT マネジメント改革でも 1 つの理
論的柱となっていく。
規制緩和だけでなく、連邦調達簡素化法では調達マネジメントのあり方について厳しい
基準を設定した。省庁の手がける主要な調達においては、コストやスケジュールに関する
計画からの乖離は原則として平均 10%程度までしか認められず、それ以上の乖離を生じ改
善も見込めない場合には、調達プログラムの再編成や中止について検討することを各省庁
に義務付けた。同じく義務付けられた議会への年次報告と合わせ、緩めるところは緩めつ
つもガバナンスを引き締めることで、全体のバランスをとる構成となっている。
連邦調達簡素化法の流れを汲みつつ IT マネジメントに特化した改革法がクリンガー・コ
ーエン法である。クリンガー・コーエン法はブルックス法を改廃し IT 調達の権限を一般調
達庁から各省庁に移譲することで、制度上の制約を大きく緩和した。両者の違いは次のよ
うにまとめられる。
クリンガー・コーエン法(1996 年から)
ブルックス法(1996 年まで)
視点
パフォーマンス・結果
調達のプロセス
調達権限
各省庁
一般調達庁が一手に引き受け
統括部局
行政予算管理局
一般調達庁
異議申立
会計検査院(GAOii)
一般調達庁の契約審判ボード
関連規則
通達 A-11 など
連邦情報資源規則(FIRMR)
ブルックス法とは異なり、調達した IT 資産がどのように活用されるのか、という業績予
算の観点が取り入れられていることが分かる。合わせて、IT マネジメントの手法やガバナ
ンス機構の強化も求められた。以下に 3 分して概要を示す。
(1) パフォーマンス基準マネジメントと計画的投資管理の導入
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SOW : Statement of Work
GAO : Government Accounting Office (後に政府説明責任院 Government Accountability
Office に改称)
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パフォーマンス基準マネジメントの実現のため、各省庁には IT 支出に関する下記のよう
な新しい取り組みを進めることが義務付けられた。
・ IT の資本計画・投資管理(CPICi)の確立

IT 資産のライフサイクル(投資決定・投資管理・結果の評価)を通した管理を行う。

省庁の予算および政策と IT マネジメントを統合する。

コスト、パフォーマンス、スケジュール上の計画を逸脱した IT システムを継続す
るには合理的な説明を与える。
・ 政策プログラムへの IT によるサポート状況のパフォーマンス指標による評価と管理ii

省庁業務の効率と効果に関する改善目標を設定する。

コスト、スピード、生産性、結果と成果の質の定量的比較が可能であれば、それ
に基づいて IT 導入の成果を評価する。

IT 投資の前に省庁の業務目標の分析を行い、その結果に基づき必要なプロセスの
見直しを実施する。
・ 調達方式の変更

大規模 IT 調達ではなく、
モジュールに分解した上での漸進的な調達iiiを推奨する。
(2) 戦略的 IT 投資に向けた組織体制の構築
省内 IT ガバナンスの最高責任者として、閣僚を含む省庁トップ層と連携する CIO の設置
が各省庁に義務付けられた。
・ CIO の責務12

クリンガー・コーエン法と文書事務削減法(PRA13)に沿った長官およびその他高官
への助言・支援を行う。

優れた統合 IT アーキテクチャを開発し、維持・促進を進める。

業務プロセスの改善を含む、すべての主要な情報資源管理プロセスの効果的・効
率的な設計とオペレーションを推進する。
・ CIO の任務と資格14

情報資源管理を統括する。即ち、省庁の任務を達成しパフォーマンスを改善する
ために情報を管理するプロセスを管理する。
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CPIC : Capital planning and investment control
原文表記:Performance and results-based management
原文表記:Incremental Acquisition of Information Technology
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
省庁の IT 利用プログラムのパフォーマンスを監視し、適用可能なパフォーマンス
測定に基づいた評価を行う。また、これらに基づき、プログラムおよびプロジェ
クトの継続、修正、廃止について長官への助言を行う。

情報資源管理の知識とスキルに関する能力要件と省内人材の IT マネジメント能力
を評価する。また、省庁において情報資源管理に求められる能力要件と現状のギ
ャップを埋める人材確保戦略を策定する。
(3) 予算プロセスと統合した監査・改善の枠組み整備
行政管理予算局に対しては次の役割を果たすことが求められた。
・ IT の資本計画・投資管理の監査

各省庁の IT 投資を分析・評価するための予算プロセスを整備する。

官民における IT 活用状況を把握し、比較検討の上でベストプラクティスの共有と
活用を支援する。
・ 政策プログラムへの IT によるサポート状況のパフォーマンス指標による評価と指導

各省庁での IT 投資の結果となる情報資源管理の取り組みを効率性と効果の側面か
ら評価する。

各省庁での IT 投資計画策定の際のガイドラインを整備する。

予算プロセスなどを通じ各省庁に IT 投資計画に関する説明責任を要求する。
クリンガー・コーエン法において定められた個別の施策は更に多くの要素を含んでいる
が、
これらの要件の下で各省庁に求められる IT マネジメント改革の青写真となるのが、CIO
の責務においても言及された、IT アーキテクチャである。クリンガー・コーエン法では IT
アーキテクチャを次のように規定している15。
組織の戦略目標と情報資源マネジメントにおける目標達成のために、現存の情報技術を
徐々に進化させ、あるいは維持し、そして新技術を獲得するための統合的な枠組み。
これは今日においてエンタープライズ・アーキテクチャ(EAi)と呼ばれるものである。エ
ンタープライズ・アーキテクチャは組織の有する業務、業務で用いる IT 資産、IT 資産が用
いるデータ、IT 資産を支える技術、というそれぞれの台帳をまとめ、かつ、相互の関係を
整理した資料である。エンタープライズ・アーキテクチャを参照することで省内にどのよ
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EA : Enterprise Architecture
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うな IT 資産が存在しどのように利用されているのかを把握することができるため、IT 投資
を検討する際の基礎資料となる。
尚、クリンガー・コーエン法の制定に続いて、1996 年 07 月 17 日付で各省庁の CIO の
連携の場となる CIO 協議会が設立された16。CIO 協議会は、IT マネジメント標準や電子政
府政策全体での戦略に関する行政予算管理局への助言、ベストプラクティスやシステムの
共有機会の吟味、政府職員への教育や IT 労働力の調達支援などを賄うものとされている。
クリンガー・コーエン法は現在に続く IT マネジメント改革の理念を最も色濃く映しだし
た改革法であり、その後のすべての取組は本法の示した方針の下で展開されている。
1.4.
00 年代の IT マネジメント改革
2000 年代に入り政権が交代すると、着任したブッシュ大統領は現政権の総合的な行政改
革指針となる大統領行政管理アジェンダ17を打ち出した。同改革では業績予算の徹底やアウ
トソーシングの活用による行政コストの削減が謳われたが、電子政府政策の推進も 1 つの
柱として盛り込まれた。推進にあたって解決しなければならない課題が、連邦政府全体で
の IT 投資の重複であった。
電子政府政策が大きく取り上げられた背景には、90 年代中盤より急速に発展したインタ
ーネット経由での行政サービス提供が不可欠の要素となったことがある。しかしながら連
邦政府全体で統制のとれた電子政府政策というものが存在していたわけではなかったため、
各省庁が独自の予算で展開した無数の Web サイトが乱立しており、一般利用者となる国民
から見ると、分かりにくく利用しづらい、似たり寄ったりの Web サービスが整理されない
ままに提供されている状況であった。時を同じくして各省庁内で導入が進んだ業務用 IT シ
ステムについても同様であり、財務管理から電子メールサービスまで、よく似ているにも
関わらず各省庁が別個に調達を行ったため、スケールメリットを活かした一括調達なども
なされず、システム間の相互運用性も確立されていない状況となっていた。これらは全て
国民の血税の無駄遣いであって、いかにしてこれらの無駄・重複を特定し、連邦政府全体
の IT 資産の有り様を整理するかが問題となったのである。18
かかる課題の解決に向けて立法されたのが 2002 年電子政府法19である。同法では電子政
府が一般国民向けに提供すべきサービスの基準などに触れている一方、IT マネジメント改
革の観点からは、連邦政府の全体最適化の観点を導入した点に特色がある。全体最適化の
取組は、初期のパイロットプロジェクトに相当するクイックシルバー・イニシアティブと、
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継続的な全体最適化を支える FEA プログラムiに 2 分できる。
(1) クイックシルバー・イニシアティブ
2002 年電子政府法の策定にあたってはタスクフォースが設置され、乱立する行政 Web
サイトの統合機会についての調査を行った。その結果判明した比較的短期間の内に統合可
能で統合の利益も大きいと期待されるサイトの統合プログラムが本イニシアティブである。
本イニシアティブはその後、電子政府イニシアティブへと発展し、統合後の Web サイトの
もたらす便益に関する報告書が現在も議会へと年次で提出されている。
(2) FEA プログラム
FEA(連邦エンタープライズ・アーキテクチャ)とは連邦政府全体を対象にしたエンタープラ
イズ・アーキテクチャである。基本的なアイデアは、各省庁の作成したエンタープライズ・
アーキテクチャを行政管理予算局に集約し相互比較することによって、類似業務や重複す
る IT システムを発見するというものである。行政管理予算局と CIO 協議会はこのアプロー
チの土台として、各省庁がエンタープライズ・アーキテクチャを策定する際の標準モデル
となる FEA 参照モデルを策定している。各省庁は独自のエンタープライズ・アーキテクチ
ャを策定した上でその内容を FEA 参照モデルによって統一された語彙で翻案し、毎年の予
算プロセスの中で結果を行政管理予算局に報告している。FEA プログラムを通じて特定さ
れた、省庁横断で統合可能な業務・IT システムは LOB(Lines of Business)と呼ばれ、その
統合等の進捗が電子政府イニシアティブの年次報告書の中に合わせて記載されている。
ブッシュ政権時代には調達制度改革においても進展があった。その代表がパフォーマン
ス基準調達(PBAii)の積極的推進である。
パフォーマンス基準調達は前掲のパフォーマンス基準契約そのものであり、名前が異な
るだけで内容に大きな変化はない。しかし、連邦調達簡素化法において基本方針が設定さ
れて以来、限られた数のパイロット事例を除いて連邦政府全体に浸透することはなかった。
ブッシュ政権時代にはその原因を分析し、パフォーマンス基準マネジメントそのものが高
度なマネジメントスキルを要求する取組であり、明瞭なガイダンスや人材育成プログラム
の充実が必要であることを看破した20。その上で改めて連邦調達政策部と一般調達庁の主導
でこれらの弱点を補い、実施に関する数値目標iiiを設定して大々的な導入を推進したのであ
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FEA : Federal Enterprise Architecture
PBA : Performance Based Acquisition
$25,000 以上のサービス調達契約に占めるパフォーマンス基準方式の契約金額の割合とし
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る。
パフォーマンス基準調達が積極的に推進された背景には、サービス調達の規模がモノの
調達を上回るようになったという変化がある。法制におけるその反映が 2003 年 11 月のサ
ービス調達改革法21である。同法は連邦調達政策部の設置法の改正を含んでおり、その中で
「調達」という言葉の意味を次のように拡張している。
(連邦調達政策部法第 4 条(16))
「調達」とは―
(A) 行政機関の業務目標と目的を支援するための資産やサービスを、リースまたは購入
契約に基づき、予算上認められた資金を適用して入手するプロセスを意味する。そ
の際の行政機関からの要求事項は当該機関の最高調達責任者(CAOi)の助言の下に
定められる。そして、
(B) 次の要素を含む―
(i)
各種の資産やサービスの調達のプロセス。調達対象には、既存のもの、新
規に作られるもの、開発されるもの、実施されるもの、評価されるものを
含む。
(ii)
省庁の需要を満たす要求事項の取りまとめ。
(iii)
公募と調達先の選定。
(iv)
契約の発注。
(v)
契約のパフォーマンス。
(vi)
契約にかかるファイナンス。
(vii)
最終的な実施と支払を通じた、契約パフォーマンスの測定とマネジメント。
(viii)
契約に含まれる省庁の要求事項を満たすプロセスに直接に関連する技術的
および管理的機能。
i
て目標値は設定された。2004 年の 40%から順次目標値は改定され、連邦政府の調達情報
データベースである FPDS NG 上のデータによれば、現在ではサービス調達契約の約 75%
が本方式に則っているとされる。ただし、行政管理予算局への報告に含まれる契約が本当
にパフォーマンス基準方式に則ったものであったかどうかについて議会主導の調査委員
会から疑義が投げかけられており、実態と数値には乖離があると見られる。
CAO : Chief Acquisition Officer
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形式的手続きだけに目を向けるのではなく、何らかの業務目標の達成ありきでの調達で
あり、伴うマネジメントの責務を含むものであることが明記されている。ここから垣間見
えるのは、IT プロジェクトのマネジメントがそうであるように、調達マネジメントに関し
ても高度なプロジェクトマネジメントのスキルが必要とされる時代が訪れているというこ
とである。サービス調達改革法ではクリンガー・コーエン法に類似の CAOi協議会設置など
を通じて人材育成プログラムを推進することにも言及している。
1.5.
CPIC の枠組み
以上に述べた取組のそれぞれは基本的に調達または IT 調達の枠組みに属するものであっ
た。
これに対し、
予算プロセスの観点から構成された IT ガバナンスの手法が確立している。
これが CPICii(資本プログラミングと投資管理)である。CPIC はクリンガー・コーエン法に
よって導入された行政管理予算局主導の IT 予算管理手法であり、IT ポートフォリオとビジ
ネスケースの活用を要諦とする。
IT ポートフォリオとは現在計画中または進行中の IT 投資計画の一覧表であり、書式 53
と呼ばれる指定様式に従って各省庁から行政管理予算局へと年次予算請求の一環として提
出される。IT ポートフォリオの各行は IT 投資プロジェクトを表す。
ビジネスケースとは IT ポートフォリオに含まれる各 IT 投資プロジェクトの情報をまと
めた概要資料であり、書式 300 と呼ばれる指定様式を用いて IT ポートフォリオと同様に行
政管理予算局へと各省庁から提出される。ビジネスケースにはその IT 投資プロジェクトに
対する支出を正当化するに足るだけの理由や必要性を記述しなければならない。行政管理
予算局では収集した情報を分析することにより、危険性のある IT 投資プロジェクトの発
見・指導や省庁間で内容の重複する投資の統合機会を模索することが可能となる。
収集した情報の分析にあたって役立つのが FEA 参照モデルである。行政管理予算局に提
出される IT 投資プロジェクトは、それが FEA 参照モデルに含まれる IT 投資分類コードで
言うと何に当たるのかが付記されている。この分類コードを参照することで、行政管理予
算局では同種の IT 投資を特定することができる。あるいは、様々な IT 投資プロジェクト
のパフォーマンスが良いのか悪いのかを判断する上で、ベンチマーク基準との比較を容易
にする効果も期待される。一見些細に思えるこのような利点も、FEA 参照モデル抜きには
容易に実現できないものであり、連邦政府におけるマネジメント手法の際立った合理性が
表れていると言える。
i
ii
CAO : Chief Acquisition Officer (最高調達責任者)
CPIC : Capital Programming and Investment Control
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オバマ政権下の IT マネジメント改革
これに対し、各省庁にとっての CPIC とは、IT ポートフォリオおよびビジネスケースを
洗練させると共に、計画段階で約束した IT ポートフォリオおよびビジネスケースを計画通
りに実施してみせることである。前者は要件定義の困難に、後者はプログラム/プロジェク
トマネジメントの困難におおよそ対応する。民間でのベストプラクティスを元に、これら
の領域での模範的取組の指針をまとめたものが資本プログラミングガイド22である。
資本プログラミングガイドは予算要求の規則である通達 A-1123の付属文書であり、資本
制資産への投資に際して考慮すべき事柄や陥りやすい失敗への注意を表したガイダンスと
してまとめられている。多くの内容が計画段階でのベストプラクティスの整理に割かれて
いる一方で、初期導入後の長期運用フェーズにおけるマネジメントや、最終的な撤去・廃
棄に関するマネジメントにまで言及しており、IT 投資プロジェクトのライフサイクル全体
を見据えた内容となっている。サービス調達改革法によって拡張された「調達」の意味が
色濃く反映されていると言える。
以上のように、連邦政府における調達改革、予算マネジメント改革、そして IT 投資マネ
ジメントの改革は相互に関わりあいながら長く変遷を重ねてきている。にも関わらず、現
在もなお多くの課題が残されている。次章以降ではここまでに述べた背景を踏まえつつ、
オバマ政権における IT マネジメント改革について論じる。
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第2章. オープンガバメントの概略
オバマ政権の IT 戦略はオープンガバメントの名でよく知られる。オープンガバメントの骨
子は徹底した情報公開と国民からの声の収集という正に開かれた行政の実現にあるが、こ
のメカニズムを援用する形で強力な IT マネジメントの手法が確立しつつある。第 2 章では
IT マネジメント改革から少し離れてオープンガバメントの概略について述べると共に、先
進的な情報公開の状況と、情報公開に基づくマネジメント改革の例を紹介する。
2.1.
オープンガバメントの原則と指針
オープンガバメントとはオバマ大統領が就任初日に打ち出した行政指針であり、徹底し
た情報公開と国民からの声の収集、その向こうにある協業を骨子とした行政改革の取組で
ある。端的には情報公開法(FOIAi)の施行強化の延長にある施策と言えるが、ただ情報公開
の範囲を拡げるという程度に留まるものではなく、政府の有する情報は原則として公開さ
れるものであって非公開となるものは例外的に認められるに過ぎない、という姿勢を明確
にしたことに従来の情報公開法の運用には見られない画期的な性質がある。
オープンガバメントの根拠通達となっているのは 3 つの通達である。最初の 2 つはオバ
マ大統領の就任初日である 2009 年 1 月 21 日に通達され、1 年間の準備を踏まえて 3 つめ
は同年末に通達された。
1 通目は「透明性とオープンガバメント」と題する通達24である。「オープン性は我々の
民主主義を強化し、行政の効率と実効性を後押しする」という理念の下に、新政権が「過
去に類を見ない水準のオープン性を政府内に生み出すことを決意」し、オープンガバメン
ト推進の 3 原則を示した。
1.
政府は透明性を保たなければならない(透明性原則)
政府の透明性とは、政府が何を行なっているかについて国民への情報提供を行い、
説明責任の履行を促す特質である。連邦政府の管理する情報は国家の資産である
との観点の下に、現行法の範囲内で一般公衆による迅速で容易なアクセスを可能
にすることが第 1 の原則である。その際、各省庁には情報公開の手段として新し
い技術を積極的に利用することを促し、また、公開すべき情報と公開のあり方に
ついて問うべく国民の声を直接に収集することを各省庁に求めた。
i
FOIA : Freedom of Information Act
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2.
政府は参画を受け入れるものでなければならない(参加原則)
一般公衆の参画は行政の実効性を高め意思決定の質を改善するとの前提に立つと
共に、社会の中に広く分散した知へのアクセスを得ることで行政自身が改善の利
を得ることができるとした。この論理に沿い、政策上の意思決定過程に対する一
般公衆の関与機会を増すことが第 2 の原則である。また、どのような意思決定過
程について関与機会を増すべきかの判断についても国民の声を集めて判断すべき
であるとした。
3.
政府は協業を進めるものでなければならない(協業原則)
協業を通じて政府と国民の関係が深まるとし、政府内外、官民、営利・非営利の
垣根を超えた協業機会を増すことが第 3 の原則である。この原則についても新技
術の駆使や国民の声の収集に基づく協業機会の模索を求めるべきとした。
本通達は、原則に従ったより具体的な施策をまとめたオープンガバメント指令を後日公
開すると予告して終わっている。これらの原則に沿った取組の基盤としては IT の活用が強
く意識されており、予告されたオープンガバメント指令の策定に先駆けた各省庁からの意
見収集には、連邦 CTO と一般調達庁が協力して当たるものとした。
2 通目は「情報公開法」と題する通達25である。本通達では次のように述べている。
「情報公開法は次の明確な前提に則って運用されるべきである。すなわち、疑わしきは公
開せよ。政府は、ただ開示すると恥をかくという理由で情報を秘密にしてはならない。あ
るいは、間違いや失敗が露見するという推測に基づく恐れ、漠然とした恐れを理由にして
情報を秘密にしてはならない。国民に仕えるべき政府機関がそのことを蔑ろにして私的な
利益を守らんがためになされる情報の非開示は最早生じるべきではない。」
「情報公開法に表された原則に対する決意を改めるため、そしてまたオープンガバメント
の新しい時代を画するため、すべての省庁は原則開示を前提とすべきである。」
つまり、情報公開請求があってから情報を開示するという原則非公開の姿勢を廃し、誰
から問われることがなかろうとも情報は可能な限り公開するという原則公開の姿勢である。
若干の注意を要するのは、上掲の 2 つの通達がいずれも現行法の枠組み内での取組を求
めていることである。これはオバマ政権における IT マネジメント改革にも見られる特徴で
ある。議会による審議を必要としない範囲で、行政管理予算局の通達に基づく行政府内の
自主的改革としてこれらの施策は推進されている。
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最後となる 3 つめの通達が 2009 年 12 月 8 日の「オープンガバメント指令」26である。
本通達はオープンガバメント 3 原則の実現に向けた具体的な取組をまとめたものであり、4
つのステップから構成される(各ステップの内容は一部抜粋に留めた)。
1.
政府の情報をオンライン公開する

説明責任履行の向上、一般公衆による参画における情報提供、経済的機会の創出
を狙いとして、各々の省庁にオープンなフォーマットによるデータ公開の拡大を
直ちに開始するよう義務付けた。その他にも、次のような個別の要求がなされて
いる。

特に公開する価値が高いと思われるデータについては通達から 45 日以内に開
示すること。

自組織のオープンガバメントに対する取組をまとめた Web ページを 60 日以
内に開設すること。当該ページには国民の声を収集する仕組みを設けること。
集まった国民の声には一定のサイクルで応答すること。

情報公開法の定める年次報告書を当該ページに掲載すること。

未処理の情報公開請求の件数が多大である場合にはこれを毎年 10%ずつ減ら
すこと。
2.
政府の情報の質を高める

公開対象となる情報の質を高めるため、上級幹部の責任において各省庁には行政
管理予算局の定める情報の質についてのガイダンスを遵守するよう義務付けた。
特に、行政管理予算局との協議の下、公開対象となる財務支出情報の質・客観性・
内部監査に対する説明責任を負う担当者を上級幹部の中から 45 日以内に任命する
ことが命じられた。
3.
オープンガバメントの文化を創り出し定着させる

過去に類を見ない水準のオープン性と説明責任の履行を実現するには、幹部職員
らがオープンガバメントの 3 原則を日々の業務に取り入れなければならない。オ
ープンガバメントの実現には政策、法令、調達、財務、技術など多種多様な側面
からの配慮が必要であり、それぞれに見合った専門家の協業が欠かせない。こう
した観点から、120 日以内に省庁ごとのオープンガバメント施策について指針をま
とめることを要求すると共に、60 日以内にはそれらの進捗の受け皿となるオープ
ンガバメントダッシュボード27を行政管理予算局が用意することを言明した。
4.
オープンガバメントの推進に適した政策的枠組みを作る
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
例えば明白な機密情報やプライバシーに関わる情報の公開など、オープンガバメ
ントの推進にあたっては現行法制・政策との兼ね合いを慎重に検討しなければな
らない場合がある。これらの課題を検討し、120 日以内に判断基準となるガイダン
スをまとめることを情報・規制問題部(OIRA28)と連邦 CTO に命じた。
上記の 4 つのステップの内、政府の情報の質に関するステップに言う情報とは、政府支
出に関する情報である。オープンガバメント指令ではそれ以外の情報の質については言及
していない。このことから、情報公開法に則った情報公開の強化と、政府支出に関する情
報の公開が念頭に置かれていることが分かる。2008 年のリーマン・ショックと、議論が百
出する中で大規模な財政出動による経済政策を推進しなければならなかったオバマ政権の
台所事情が垣間見えるところであろう。また、4 つめのステップに表れているように、オー
プンガバメントの推進に支障をきたす法制・政策的枠組みの問題があった場合にも、対処
方法をまとめたガイダンスを提供するにとどまり、議会立法を必要とするような政治的コ
ストを飲むことはしないという方針がここでも守られている。
オバマ政権は上記の 3 原則と 4 つのステップを柱として、様々な個別のイニシアティブ
を立ち上げ、情報公開や電子政府サービスの拡充に努めている29。
2.2.
透明性原則に基づく財政支出の公開
前掲の 4 つのステップの内、IT マネジメント改革との関連が深いのは情報のオンライン
公開とその質の向上である。この 2 つのステップに関し本稿執筆時点での公開状況を簡単
にまとめる。
政府の情報をオンライン公開する
公開された情報は次の 3 つの系統に区分できる。
1.
政府支出の情報

IT Dashboard ~連邦政府の IT 支出および IT 投資情報の開示
http://www.itdashboard.gov/

USASpending.gov ~連邦政府の行政業務に関わる支出情報の開示
http://usaspending.gov/

Recovery.gov ~再生法(Recovery Act)30関連の支出に関する情報の開示
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http://www.recovery.gov/
2.
地理情報や政府統計などの再利用可能なデータ類

Data.gov
http://www.data.gov/
3.
各省庁のオープンガバメント施策に関する情報

Open Government Dashboard
http://www.whitehouse.gov/open/around
これらはオープンガバメントの始まりとともに整備が進んだものであるが、上記以外に
も政府支出や調達に関する情報を開示している Web サイトが以前より存在している。例え
ば予算案はホワイトハウスのホームページから参照できるし、連邦政府の調達データにつ
いては FPDS NG と呼ばれるサイト31から参照できる。後述するように USASpending.gov
もオープンガバメントの開始以前、2007 年末から開設されている。また、再利用可能なデ
ータ類は地理情報と統計局の統計情報が大半を占め、オープンガバメント施策に関する省
庁ごとのページも省庁によって充実度がまちまちであるなど、情報の質に関しては必ずし
も一貫していない。
政府の情報の質を高める
これに対し、本稿執筆時点で支出情報の説明責任者(SAOi)が全省庁で任命済みであり、
ホワイトハウスのホームページの一角に一覧32が掲示されている。行政管理予算局では情報
の質に関する複数の通達・ガイダンスを発行しており、次に示す主要な 3 つの通達におい
て各省庁に情報公開に向けた取組の推進を課している。

2010/02/08 「連邦政府の支出情報の質に関する枠組み」33

開示すべき支出情報の質を担保するための内部統制機構の整備と、支出情報の開
示場所となる USASpending.gov で開示される情報について言及している通達で
ある。前者については、内部統制に関する通達 A-123 を土台としつつ、オープン
ガバメントの要求する高度の情報公開を前提とした内部監査機構の整備を各省庁
に求めている。後者については、補助金、ローン債権、調達契約、その他の支出
という 4 区分が指定されており、これらの支出情報の提出にあたって十分な品質
を担保できそうにない場合には改善を検討するよう各省庁に命じている。各省庁
はこれらの要求に沿った情報管理計画を 2010 年 4 月 14 日までに提出するよう指
i
SAO : Senior Accountable Officials
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示された。

2010/04/06 「政府支出の透明性」34

USASpending.gov での開示のために提出すべき支出の内容をより細かく指示し
た通達である。焦点となっているのは、各省庁からの支出を親請けだけでなく子
請けの範囲まで開示せよ、という要求である。例えば調達契約時に主契約企業に
対する支払額だけではなく、その主契約企業から下請け企業に対する支出情報も
合わせて開示することが求められた。開示範囲となるのは親請けと$25,000 以上の
金額で業務受託している子請けまでの範囲である。また、対象となるのは民間法
人だけに限らず、地方自治体への補助金などにも同様の原則が適用される。更に、
事案に関わる高級官僚への報酬支払い状況も報告に含めることとした。合わせて
特徴的なのは、通達に言う支出情報の中にはただ金銭的な情報が含まれるのみで
なく、関連する事業の内容やそのパフォーマンスに関する指標も包括されるとし
た点である。各省庁には 2010 年 10 月 1 日以降の情報開示が命じられた。

2010/08/27 「政府支出の透明性と子請け支出および報酬情報の報告」35

支出情報の具体的な提出手順および提出先、提出すべき項目などをまとめたガイ
ダンスiを本体とする通達である。子請けに対する支出情報を開示するためには親
請け法人の協力が必要となるが、これら関係者間でどのように情報をやりとりし、
どこへ何を提出しなければならないのかを指示している。36
以上の 3 つの通達から読み取れるのは、血税が公正に使われているかどうかを誰もがチ
ェックできる仕組みを整備しようとする強い意志である。USASpending.gov はその受け皿
となる Web サイトとして位置づけられた。そもそも USASpending.gov は、2006 年 9 月か
ら施行された政府拠出の説明責任と透明性に関する法律(FFATA)37
38 の中で要求された支
出情報の受け皿として整備された。同法では子請け向けの支出の開示も将来目標として義
務付けており、オープンガバメントの実施如何に依らずこの種の情報の開示場所となる存
在であった。オバマ大統領は当時上院議員としてこの法律の推進に携わったことにも注意
すべきである。
こうした流れを経て現在運営中の USASpending.gov は、政府支出の情報公開事例として
は他に類を見ない極めて高水準のサービスを実現している。USASpending.gov の機能を用
i
細かなことながら、ガイダンスの表記に BPMN(Business Process Modeling Notation)が
ふんだんに利用されていることも興味深い。BPMN は業務プロセスの分析や文書化のた
めに IT 業界において開発された表記法であるが、連邦政府ではこのような手法が政府文
書の中に気負いもなく織り込まれている。
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いて、米国内務省における IT 関連の支出状況iをグラフ化したものを以下に例示する。
支出額 (100万$)
1,800
IT Services
1,600
IT Hardwares & Softwares
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
支出年
IT サービスに限定して同じく内務省の 2011 年中の支出先企業を支出額と共に一覧表示
することもできる。上位 5 社の名前と支出額を以下に示す。
#
企業名
支出額
1
International Business Machines Corporation
$53,887,171
2
Deloitte Llp
$35,327,121
3
Terrapin Systems Llc
$26,071,242
4
Sterling Parent INC.
$24,899,461
5
Delta Solutions & Technologies Inc
$23,704,463
次のように IBM 側から捉えた場合の上位 5 つの収入元省庁を調べることもできる。
i
グラフ中の IT Services は連邦政府における調達区分で Automatic data processing and
telecom. services とされるものであり、IT Hardwares & Softwares は Automatic data
processing equipment とされるものである。これらの区分はブルックス法の時代から続
くものであり、時代に合わないため 2012 年以降は新しい区分に基づく集計がなされてい
る。
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#
省庁名
収入額
1
国土安全保障省 (Department of Homeland Security)
$473,629,962
2
国防省 (Department of Defense)
$445,644,922
3
社会保険庁 (Social Security Administration)
$155,166,709
4
保険社会福祉省 (Department of Health and Human Services)
$126,181,935
5
法務省 (Department of Justice)
$109,038,987
従来ならばこの種の情報は国民に対して開示されず、いざ入手するとしても情報公開請
求の手続きに則って少なからぬ労力を費やすことを強いられるものであったのに対し、今
では USASpending.gov の提供する機能を用いて誰もが手軽に参照できる状況が実現して
いる。政府の有する情報に対する容易なアクセスの提供は、国民による政府の監視を容易
なものとし、行政改革に向けた無言の圧力を形成する上で潜在的に大きな影響を及ぼすこ
とが見込まれる。行政府が改革に対して怠惰であったならば、そのことが国民にも容易に
知れ渡る仕組みとしてこれらが機能するからである。
2.3.
オープンガバメントに基づくマネジメント改革
第 2 章の締めくくりに、オープンガバメントに基づくマネジメント改革の実例として
PaymentAccuracy.gov の取組を紹介する。
PaymentAccuracy.gov は連邦政府の不当支出に関する情報を公開する Web サイトである。
不当支出とは、間違った相手方への支払、正しい相手方への間違った金額の支払、裏付け
文書のない支払、支払を受けた相手方による不適切な流用、に該当する政府支出を言う。
不当支出は主に 3 つの要因により発生する。
1.
文書作成および行政手続き上の不備
連邦政府からの給付金に対する受給者からの申請について、その内容の正確性を
裏付ける文書類を欠いたままで給付プログラムを運営している場合、これが不当
支出の原因となる。この種の不備は、連邦政府、州政府、第三者機関によるデー
タ入力、分類、申請の処理、あるいは支払い手続きのミスによって生じる。
2.
受給資格証明と医学的必要性に関する不備
検証に必要な情報が存在しないあるいはアクセスできない状態にあり、受給者が
受給要件を完全に満たしていることを確認できないままに給付プログラムを運営
している場合、これも不当支出の原因となる。例えば必要でないにも関わらず車
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椅子を支給するなど、患者の状態から言って医学的には必要でないにも関わらず
何らかのサービスを供給してしまうことでこの種の不備は生じる。
3.
検証に関する不備
検証に必要な情報が存在しアクセス可能であるにも関わらず、例えば受給者の所
得や資産、就労状況などを確認することに失敗した場合、これも不当支出の原因
となる。この種の不備は、失業保険の受給者が就職の報告を怠るなど、受給者が
正しい情報を省庁に対して提供しておらず受給資格の喪失を見逃してしまう場合
にも生じる。
不当支出の問題は以前より認識されており、2002 年には不当支出情報法39が制定されて
いる。2010 年にはオバマ政権の下で改正法40が成立し、行政管理予算局内にも専門の部署41
が設置されている。
2011 会計年度における不当支出は 1,150 億ドルにも及び、その内の 1,040 億ドルが過払
いに分類されている。従って、不当支出の削減により財政上の大きな節約を実現すること
ができる。
オバマ政権の当面の目標は、
2011 会計年度で 4.7%に上る不当支出の割合を、
2014
会計年度において 3.3%まで押し下げることである。
PaymentAccuracy.gov には不当支出の現状と、不当支出削減に向けた取組の進捗状況が
開示されている。これだけならば説明責任の履行という以上の役割を持たないように見え
るが、Web サイトの一角には「不備の多いプログラム(High Error Programs)」と称するペ
ージがあり、この中では特に不当支出の多いプログラムに関する情報が開示されている。
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この情報の中には不当支出の規模と削減状況は勿論のこと、当該プログラムの責任者の
個人名が掲載されている。この情報は会員登録などの手続きなしに誰もが参照できる。つ
まり、不当支出の改善が進まない場合、その事実や程度を誰もが容易に知ることができ、
更にその責任者まで特定することが可能な仕組みとなっている。PaymentAccuracy.gov で
は合わせて不当支出の原因もマネジメントの質の問題として説明されており、国民は何が
政府の中で問題となっているのかを容易に想像することができる。これらの仕組みは総体
として言外の強い圧力を各省庁にかけるものとなると考えられる。
PaymentAccuracy.gov は、情報公開を通じてマネジメント改革への圧力を世論形成に基
づき生み出す、言わば外圧主導型の行政改革の可能性を示す例と言える。マネジメント改
革の領域にオープンガバメントが提起する新しい可能性である。i
i
これ以外にも連邦政府は partner4solutions.gov という Web サイトを運営している。この
サイトは連邦政府の抱える様々な課題に関し解決策となるアイデアを広く一般から募る
常設窓口である。この窓口に寄せられた有望なアイデアは行政管理予算局を交えたフォー
ラムにおける議論の俎上となり、本格的な取組の推進が決まった場合にはそのための諸費
用を充当する資金が拠出されることになっている。本稿執筆時点で資金拠出の対象となっ
た事例を 1 つ挙げると、雇用保険の不当支出を改善するためのアイデアとして、民間金融
機関で用いられる挙動不審な口座預金額の変動を検出する手法を応用し、資格を喪失して
いるにも関わらず受給を続けている対象者を発見することが提案されている 。パイロッ
トプロジェクトとして資金拠出の対象となっているアイデアは本稿執筆時点で他にも 5 つ
あり、オープンガバメントの原則に言う参加と協業の例としても注目に値する。
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第3章. IT ダッシュボードと TechStat セッション
オープンガバメントの枠組みに則った外圧に基づくマネジメント改革は IT 投資マネジメン
トにも当てはまる。その筆頭が、省庁の IT 投資プログラムの概況を開示する IT ダッシュ
ボードとその中で見つかった問題事案について集中質疑を行う TechStat セッションであ
る。しかし IT ダッシュボードは、オープンガバメントの開始以前からの、連綿と続く連邦
政府内のマネジメント改革の下積みがあって初めて可能になった取組である。第 3 章では
これらの取組の概要と経緯を振り返り、これまでの実績と今後の展望について述べる。
3.1.
IT ダッシュボードと TechStat セッションの概要
IT ダッシュボード42は連邦政府の各省庁が推進している主要な IT 投資プログラムの一覧
とその投資額、進捗状況等をまとめた情報を公開する Web サイトである。IT ダッシュボー
ド上で参照可能な情報には次が含まれる。
・ 省庁の CIO によるプログラム評価、コスト、スケジュールの 3 つの側面について、赤・
黄・青(緑)の 3 つの信号色で表されたプログラムの状況とその推移
・ ビジネスケース(CPIC の書式 300 に基づく情報)
・ 関連するパフォーマンス指標
・ 関連する調達契約と発注先事業者
・ プログラムの予定された目標値であるベースラインの変更履歴
これらの情報は各省庁が責任をもって開示しており、当該 IT プログラムの状況が変化次
第速やかに更新することが法的にではないものの義務付けられている。
IT ダッシュボードに開示される情報は行政管理予算局によるプログラム審査の対象とな
る。すなわち、プログラムの進捗遅延やコスト超過が生じ当初計画から大幅に乖離してい
る、CIO によるリスク評価結果が非常に悪いなど、当該プログラムの状況に重大な懸念が
ある場合、行政管理予算局はこれを要注意プログラムと位置づけ、個別に集中的な質疑を
行う対象とする。
IT ダッシュボードで特定された要注意プログラムを対象に行われる集中質疑が TechStat
セッション43である。その実態はプログラムの責任者や上級管理職の参加による直接対面に
基づくセッションであり、1 時間と区切った中で、プログラムの重要課題に的を絞って状況
説明と改善に向けた対策を策定する。対策の中にはプログラムの一時中止や廃止も含まれ
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うる。策定した対策の実施状況はその後の監視対象となる。
本稿執筆時点で、TechStat セッションには行政管理予算局主導によるものに加え、各省
庁の内部で自主的に推進されるものが存在する。後者については TechStat セッションの方
法をまとめた TechStat ツールキットが行政管理予算局より提供されており、各省庁はこの
ガイダンスを参考にして各自の取組を推進している。
3.2.
IT ダッシュボードの成立経緯
IT ダッシュボードは 2009 年 6 月より運用開始となったが、その前身は VUE IT と呼ば
れる同種の IT 投資情報の開示システム(Web サイト)であり、更にその原型は行政管理予算
局のまとめる監視対象 IT プログラムの一覧 Management Watch List であった。そもそも
の起点となるのは、1996 年のクリンガー・コーエン法によって行政管理予算局に課せられ
た、連邦政府全体での IT 投資マネジメントの改善義務である。以下ではこの間の事情を振
り返る。
1996 年、クリンガー・コーエン法は行政管理予算局に対し、予算プロセスの一環として
各省庁の主要な IT 資本投資のリスクを分析・追跡・評価するプロセスを策定するよう義務
付けた。対象となるのは調達時の活動だけではなく当該投資のライフサイクル全体であり、
また、実費、実益、リスクの分析基準を明示することとした。更に、これらの IT 投資プロ
グラムが狙いとする実益とその達成状況を、年次予算報告と合わせて議会に報告すること
も義務の内に含まれた44。これらの法的な義務に従い、行政管理予算局は CPIC の手法を編
み出し、IT 投資プログラムの情報を書式 53 および書式 300 の書面提出を通じて各省庁か
ら収集し、得られた情報に基づいて見出された監視対象プログラムの一覧をまとめること
とした。その結果が行政管理予算局の Management Watch List である。行政管理予算局は
Management Watch List 中のプログラムの中から特に高リスクであると見られるプログラ
ムを High Risk List へと転記し、当該プログラムのリスク緩和策について主幹省庁への指
導・監督を推進した。
しかしながら、Management Watch List は行政管理予算局の内部でのみ運用され、一般
には公開されることがなかった。Management Watch List に基づく IT 投資プログラムの
監視・改善の状況は長らく概要のみが漏れ聞こえるに留まった45。クリンガー・コーエン法
の制定から約 10 年後の 2005 年になって議会の追求により明らかになったのは、同法の定
めにも関わらず、行政管理予算局の内部では IT 投資プログラムのリスク状況を判断するの
に客観的な基準を確立することができておらず、また、その後の対策の実施状況の追跡も
不十分であるという実態であった。かかる実態は米連邦議会下院の行政改革委員会46の公聴
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会47で公となり、翌 2006 年には、トム・コバーン上院議員の求めによって、Management
Watch List の内容が行政管理予算局の Web サイトにて公開される運びとなった。48
公開されて以後、Management Watch List の運用状況は議会からの求めに応ずる形でし
ばしば政府説明責任院(GAO49)による調査の対象となり、運用上の課題が数多く指摘される
ようになった50
51 52。こうした流れの中でリスク判断の基準明確化や要注意プログラム一
覧の一元管理、議会への報告などについては順次改善されたものの、解決されないままに
残った課題も少なくなかった。特に大きな問題は、掲載されている情報が細部を欠き公開
情報だけでは行政管理予算局が適切にリスク事案を見分けることができているかどうかを
外部から判断できないことと、掲載されている情報の正確性にも疑いのあることであった。
後者の問題は、省庁がプログラムの目標値であるベースラインの設定や引き直しを適切に
行なっていなことに大きな要因があることも指摘された。例えば、予定されたスケジュー
ルに対して遅れが生じている場合には高リスクであると判定されるが、予定そのものを変
更して完了予定日を先送りしてしまえば、表面上の遅れは消えてしまう。ベースラインの
引き直しにはこのような恣意的な事実上の粉飾の恐れが伴うにも関わらず、政府説明責任
院の 2008 年の調査では連邦政府の主要な IT 投資プログラムの 48%が何らかのベースライ
ン引き直しを経験しており、更にその内の 51%は少なくとも 2 度の、11%は 4 回以上の引
き直しを実施していた。Management Watch List に基づく IT 投資プログラムの監視を有
効に機能させるべく、これらの不備を解決することが行政管理予算局の課題となった。
こうした流れを受けてブッシュ政権当時の行政管理予算局が推進したのが、VUE-IT53と
呼ばれる Web サイトの創設である。VUE-IT は Management Watch List の機能強化版で
あり、CPIC の過程でなされる FEA プライマリマッピング54を活用したシステムである。
FEA プライマリマッピングとは、IT 投資プログラムを FEA 参照モデルに含まれる分類コ
ードを用いて分類し、書式 53 および書式 300 を通じて行政管理予算局に報告する作業であ
る。
VUE-IT は収集された IT 投資プログラムの情報を、申告された分類コードを用いて FEA
参照モデルに沿って分類し、書式 300 に含まれる詳細情報と合わせて一般に開示するシス
テムであった。VUE-IT は 2008 年夏から順次整備が進み、2009 年には現在の IT ダッシュ
ボードと同様の、ベースライン変更履歴などを開示する予定となっていた。
2009 年に入りオバマ政権が成立すると、オープンガバメントの流れを組む情報開示シス
テムとして、同年 6 月に IT ダッシュボードが立ち上げられるに至った。IT ダッシュボード
は VUE-IT の改訂版ではなく独立した情報開示システムであり、2009 年中は両者が並行運
用されていた。後に IT ダッシュボードの機能が充実するに合わせ VUE-IT が廃止され、現
在では IT ダッシュボードのみが、連邦政府における主要な IT 投資プログラムの集約され
た情報開示拠点として運営されている。IT ダッシュボードに至る過程で認識された課題の
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解決、例えば情報の正確性の確保やベースライン変更の可視化や、あるいは FEA プライマ
リマッピングを活用した情報整理などの特徴は IT ダッシュボードにも受け継がれている。
3.3.
IT ダッシュボード上の情報
既述の通り、IT ダッシュボードは連邦政府内の各省庁の主要な IT 投資プログラムについ
て情報公開を行う Web サイトである。公開の元となる情報は、クリンガー・コーエン法の
定める CPIC の一環として、毎年の予算プロセスを通じて行政管理予算局に集約された書
式 53(ポートフォリオ)および書式 300(ビジネスケース)と呼ばれる提出資料に記載された情
報である。本稿執筆時点では連邦政府の 27 省庁iの情報が掲載されている。
IT ダッシュボードには公開情報を多面的に閲覧するための機能が備わっている。閲覧機
能は次の 3 系統に分けることができる。
1.
ポートフォリオと詳細情報
2.
全体構造とトレンドの可視化
3.
分析のためのデータ抽出
以下で個別に特徴を述べる。
(1)ポートフォリオと詳細情報
ポートフォリオとは IT 投資プログラムの一覧である。連邦政府全体、省庁ごと、のそれ
ぞれについて一覧を参照できる。各一覧には、各省庁の CIO による評価、コスト目標の遵
守状況、スケジュール目標の遵守状況、という 3 つの側面からプログラムを評価したスコ
アが付記されている。スコアは赤・黄・青(緑)の 3 つの信号色で表現されており、危険な状
態(赤・黄)にあるプログラムの存在比率やその増減を一瞥して把握することができるように
なっている。
i
Department of Agriculture, Department of Commerce, Department of Defense,
Department of Education, Department of Energy, Department of Health and Human
Services, Department of Homeland Security, Department of Housing and Urban
Development, Department of the Interior, Department of Justice, Department of Labor,
Department of State, Department of Transportation, Department of Treasury,
Department of Veteran’s Affairs, U.S. Agency for International Development (USAID),
U.S. Army Corps of Engineers, Environmental Protection Agency, General Services
Administration, National Aeronautics and Space Administration, National Archives
and Records Administration, National Science Foundation, Nuclear Regulatory
Commission, Office of Personnel Management, Small Business Administration,
Smithsonian Institution, Social Security Administration
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信号色を用いたスコアグラフの下には IT 投資プログラムの一覧が配置されている。
一覧は、組織別(Agency)・業務区分別(Service)・勘定科目コード別(Budget Account)・
投資プログラム別(Investments)に分かれている。それぞれに、総投資額、プログラム件数
などを含んでおり、見出し列をクリックすることで当該組織や当該区分に属する投資につ
いて同様のサマリーを閲覧できる。もしくは、プログラム別の一覧における見出し列をク
リックすると、そのプログラムの詳細情報ページへと画面が切り替わる。
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詳細情報ページにはプログラムの概要、直近の会計年度における支出額、主幹省庁の CIO、
CIO によるプログラム評価スコアの推移、プログラムに含まれるプロジェクトの一覧、業
務パフォーマンスの評価などが含まれる。更に、情報源となった書式 53 および書式 300、
調達契約の一覧、ベースラインの変更履歴、プログラム評価の履歴へのリンクも含まれる。
ベースラインの変更履歴とプログラム評価の履歴には変更事由が添え書きされている他、
調達契約の情報は更に USASpending.gov の関連ページに繋がっており、当該契約に基づく
受託業者への支払い状況を確認できる。IT ダッシュボードや USASpending.gov の枠内に
は収まらないが、契約番号を元に別途運用されている調達情報の開示 Web システムである
FPDS NG を引くことで期間や契約方式等の詳細情報を参照することができる。
補足として、信号色によるスコア評価の基準を以下に紹介しておきたい。スコア評価は
CIO による評価と、コストまたはスケジュールの予定からのずれに分けられる。前者は次
の基準55に従う。
評価軸
評価基準(例)
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リスクマネジメント
要求マネジメント
受注業者の監査
・
リスクマネジメント戦略は存在しているか?
・
上級管理職によりリスク事項が理解されているか?
・
リスクの記録が完備され最新化されているか?
・
リスクが明瞭に優先順位付けされているか?
・
リスク緩和計画が実践されているか?
・
投資の目的は明確でスコープは管理されているか?
・
要求は明瞭で完全に表現され、検証されているか?
・
要求定義の際に適切な利害関係者を関与させているか?
・
統合プログラムチームiにより調達戦略の策定と管理がなされて
いるか?
・
受注業者の業務遂行における EVM の報告、リスクの記録、プロ
グラムの現状など重要なレポートを省庁は受け取っているか?
・
調達事案のパフォーマンスに対する負の影響を緩和、管理、モ
ニタリングするための政府自身の手による適切な監査のための
マネジメントを実践できているか?
パフォーマンス推移
・
計画されたコストおよびスケジュールからの大幅な乖離は存在
していないか?
人的資本
・
得られた教訓とベストプラクティスを反映できているか?
・
IT 投資や調達契約のマネジメントを執行するチームには質の保
証された人員が配置されているか?
その他
・
離職率は低く保たれているか?
・
将来の成功を占うにあたり重要であると CIO が考える他の要因
評価基準の項に含まれる具体的な項目は CIO ごとに事前に定めた基準が採用される。評
価結果は全体を総合した上で 1~5 点の点数として表現され、1~2 点が赤、3 点が黄、4~5
点が青(緑)で表現される。コストおよびスケジュールの計画からのずれに関しては、30%以
上のずれが赤、10%以上 30%未満が黄、10%以下が青(緑)に分類される。
(2)全体構造とトレンドの可視化
IT ダッシュボードでは情報の閲覧だけでなく分析のための機能も提供している。分析機
能はトレンド分析と構造分析に二分される。前者は二軸のグラフ上に IT 投資関連の様々な
数値をプロットする機能である。以下にエネルギー省(DOE)と内務省(DOI)の総 IT 支出の
i
IPT : Integrated Program Team
契約担当官や調達物の導入先部門の業務責任者、技術の専門家など、調達プログラムの推
進に関わりのある重要な利害関係者を集めた総合的な調達チームを言う。
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推移を比較したグラフを例示する。
選択可能なグラフにはバブルグラフ、棒グラフ、折れ線グラフがある。例えばバブルグ
ラフを選択し、横軸に直近会計年度における IT 支出の変動率を、縦軸に IT 支出の総額を
指定すると、IT 支出の規模と変動を同時に把握できる。この場合には直ちには時系列に沿
った推移を把握できないが、指定期間に沿ってデータを切り替えながら変化をアニメーシ
ョン表示することができる。この例で言えば、過去には支出額の変動が大きくマネジメン
トが不安定であったのが、時間とともに変動が縮小し、マネジメントが安定したと思しき
変化の様子を見て取ることができる。
もう 1 つの機能が構造分析(ツリーマップ)である。この機能は階層的な構成比率を直感的
に把握する上で役立つ。例えば連邦政府全体の IT 支出に占める各省庁の IT 支出の割合を
見て重点対策の対象となる組織を選ぶことは比較的容易だが、それと並行して、IT 支出の
対象分野に基づいて同様の判断を行うという方法も成り立つ。更に両者を組み合わせるこ
とも考えうる。こうした切り口には様々なものがありえるが、その組み合わせを複数検討
する作業はしばしば軽微でない負担となる。ツリーマップはこうした状況に適用できる情
報の視覚化手法である。2012 会計年度における組織別の IT 支出の割合を基準にしたツリ
ーマップを以下に例示する。
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一瞥して国防総省(DOD)の支出が大きな割合を占めることが分かる。尚、各矩形の色は
IT 支出の変動率の大小を表している(青が減少で黄色が増大である)。そして各矩形の内側に
支出分野に基づく同様の区分を追加することができる。
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ツリーマップの左側にある国防総省の矩形が更に区分けされていることが分かる。この
部分をクリックすることで表示を拡大し、具体的な支出先の内訳名称を確認できる。
これらの組み合わせは自由に選ぶことができる。連邦政府の IT 投資がどのような構造を
持っているのかを多面的・直感的に把握する上で有用な機能を IT ダッシュボードは提供し
ている。
(3)分析のためのデータ抽出
IT ダッシュボードの提供する機能は高度なものであるが、それ以上に踏み込んだ分析を
行う局面においては、直接にデータを抽出する必要がある。IT ダッシュボードはこのよう
な要望にも応える。IT ダッシュボードで開示されている情報についてはその任意の一部を
選択して抽出の上、CSV ファイルや XML ファイルとしてダウンロードする機能が提供さ
れている。また、RSS と呼ばれる機能を用いることで、該当するデータに更新があった場
合にも最新の情報が提供される URL を発行することができる。取得したデータは他のソフ
トウェアにより容易に処理可能な形態であるため、より深い分析を誰もが自由に行える。
以上のように、IT ダッシュボードは連邦政府の IT 支出の状況を具に把握することのでき
る窓口として、豊富な機能を提供している。これらの機能は必ずしもどの省庁にも内在す
るようなものではなく、場合によっては各省庁の IT 投資マネジメントシステムを超える水
準にも達している。行政管理予算局では、IT ダッシュボードを用いた IT 投資の分析を各省
庁に奨励している。
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3.4.
TechStat セッションの概要
IT ダッシュボードで開示される情報の分析を経てリスクの高い IT 投資プログラムが特
定されたならば、次に論ずべきは実施すべきリスク対策である。TechStat は高リスクプロ
グラムを対象に実施される対話型の集中質疑であり、行政管理予算局の関係者と IT 投資プ
ログラムの実施省庁の関係者とが、1 時間と区切った中で直接に議論を行うセッションであ
る。セッションの結果として選択される対策の中にはプログラムの一時中止や廃止も含ま
れる。実際に実施された TechStat セッションの議事録等は公開されていないが、TechStat
セッションを各省庁が内部で行う際のガイダンスとして TechStat ツールキット56が提供さ
れている。この内容を参照することで、実施の詳細を窺い知ることができる。以下ではツ
ールキットの記載に基づき、TechStat セッションの概要と進め方を述べる。
TechStat セッションは次の特徴を有する。
・ 行動的であって事務的ではない
参加者はセッションの結果として次に実行すべきステップを明確にする。事務的
にただ議事を進行するような取組とはしない。
・ 焦点を絞るのであって包括的ではない。
解決すべき問題と特に重要性の高い的を絞って議論を行う。導入後レビューiのよ
うに書面を起こし包括的に問題を分析する取組とはしない。
・ 対処の明確化であって問題の全面解決ではない。
1 時間のセッションで期限と担当者を明確にした次のステップを定める。あらゆる
問題に回答を与える取組とはしない。
・ ツールであってレビューではない。
上級マネジメントによる介入が必要になった時点で用いられる。定期的な監査目
的等で実施する取組とはしない。
全体の流れは次の通りに図示される。
特定
i
分析
準備
TechStat
フォロー
セッション
アップ
PIR : Post Implementation Review
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この流れに沿って TechStat チームと IT 投資の責任者側とが相互に作業を進める。
特定のステップでは、IT ダッシュボードの情報や政府説明責任院(GAO)によるレポート、
各省庁の監査報告など種々の情報を元に、TechStat チームが TechStat セッションの対象と
なる IT 投資プログラムを洗い出す。洗い出しのためのミーティングは定期的に実施する。
IT 投資プログラムが特定されたなら、当該プログラムの責任者に対し、特定の根拠となっ
た資料類に 1 ページのサマリー資料を合わせて TechStat セッションの開催を通知する。開
催日は通知から原則として 1 ヶ月以内とし、また、通知から原則として 1 週間以内に関連
資料を提示するよう要請もする。特定後のサマリー資料作成と通知に掛かる見込み作業日
数は 1 日である。
分析のステップでは、通知を受けた責任者の側で提示された関連資料を精査し、最新の
情報を揃えた上で TechStat チームに返送する(5 営業日)。TechStat チームは返送された資
料を精査し助言を請うべき特定分野の専門家を招く。専門家による検討の上で得られた助
言をレビュー結果にまとめる(4 営業日)。続いてここまでに得られた情報を責任者側と共有
し、議論の土台となる事実認識を揃える。当該プログラムの課題を分類・整理した上で根
本原因の分析を行い、上級マネジメント層によるあるべき関与を導ける状態につなぐ。と
るべき是正措置の計画を踏まえた上で次に取るべきステップを絞り込む。これらの結果を
整理し、なぜこの IT 投資プログラムが TechStat セッションの対象となったのかという事
由と合わせて資料をまとめる(5~10 営業日)。
準備のステップでは、セッションに招集すべき関係者を決定し通知する(2 日)。招集すべ
き関係者のうちには、投資マネージャ、プログラムマネージャ、受け入れ側業務部門の責
任者、関連部門の幹部、専門家が含まれる。原則として調達契約の受注業者は、そのパフ
ォーマンスに関する議論を制約しないようにという意図の下に、この中には含まれない。
また、契約担当官の招集にあたっては、TechStat チームは CIO から事前承認を得ておくべ
きとされる。一方、TechStat チームはセッションの開催事由を説明するスライドを作成す
る(1~3 営業日)。セッションの実施場所となる部屋や使用する機材を確保し、配布資料の印
刷等を手配する(1~3 営業日)。最後に、当該プログラムを管轄する CIO に対し事前ブリー
フィングを行い、TechStat セッションの進め方に関する助言を得て若干の調整を行う(1 営
業日)。
TechStat セッションのステップにおいて実際のセッションを行う。セッション自体は 1 時
間に区切る。洗い出された事実の説明と確認を経て、講じうる潜在的な是正措置について
論じ、講ずる是正措置を期限と担当者を定めた上で決定する。
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フォローアップのステップでは、TechStat セッションの結果をまとめたメモを作成し関係
者に回覧する(2 営業日)。以後、TechStat チームは決定された是正措置の進捗状況を追跡し、
最終的な完了を IT ダッシュボードに報告する。この時点で当該 IT 投資プログラムに関す
る取組はひとまずの完了となるが、その過程で得られた教訓を整理し、後続の IT 投資マネ
ジメントにも役立てられるよう共有を進めることもまた、TechStat チームの役割である。
以上のように、TechStat セッションそのものは 1 時間のミーティングであるが、その前
にはセッションを支える入念な準備があり、事後には決定した措置の履行を確実なものと
するためのフォローアップがある。これらの実施を支えるのは関係者の行動である。
TechStat セッションにおいて特に重要な役割を果たす関係者には次がある。
・ TechStat チーム
TechStat セッションの推進を司るチームである。特定のステップの性質に由来し
て、実体としては CPIC の推進チームに同じとなる。
・ CIO
TechStat セッションの対象となる IT 投資プログラムの最上級の責任者の一員で
ある。
・ 投資マネージャ/プログラムマネージャ
IT 投資プログラムの実務面における最高責任者である。
・ 業務部門の責任者
IT 投資プログラムは業務改革の手段として実施されるのが通例であり、調達され
た IT 資産を利用する業務部門が存在する。その責任者である。
・ IRB 委員長/委員
投資レビュー委員会(IRBi)は IT 投資プログラムのレビューを行う集団意思決定機
構である。
これら各員の役割は次の通りである。
i
IRB: Investment Review Board
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投資/
TechStat
責務
CIO
業務部門の
IRB
IRB
責任者
委員長
委員
プログラム
チーム
マネージャ
対象事案の特定
主任
資料精査・分析と IRB への通知
主任
最新化された資料の精査
主任
セッションで決定した是正措置の実施
状況追跡
セッション実施前のブリーフィング
X
X
X
X
主任
主任
資料の最新化と TechStat チームへ
の提供
セッションの実施に必要な関係者の
X
X
主任
X
主任
X
主任
確保
セッションで決まった是正措置の実施
分析結果の IRB に対する説明
主任
セッションの司会進行と各種調整
主任
セッションにおける議論の深堀り
X
X
主任
X
IRB の意思決定を支える助言
決定事項と既存法令・ガイドラインの
X
整合性確保
セッション開催の通知
X
X
主任
セッションの決定事項と実施計画の
文書化
セッションへの参加と集団意思決定
主任
X
X
X
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X
X
X
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投資/
TechStat
責務
CIO
業務部門の
IRB
IRB
責任者
委員長
委員
プログラム
チーム
マネージャ
への参画
ツールキットにはセッションで用いる各種資料のひな形や詳細なガイドも含まれている。
しかし重要なのは手続きや資料ではなく、具体的な結果に繋がる具体的な是正措置を着実
に決定し実施することである。TechStat セッションは正にその点に的を絞ったマネジメン
トツールである。
3.5.
TechStat の実施状況
TechStat セッションの実施状況を成果については、CIO 協議会による振り返りの報告書
57が
2011 年 12 月 8 日付で発行されている。以下ではこの報告書の記載を下敷きとして、
TechStat セッションの実施状況と実績について述べる。
TechStat セッションはフェーズ 1 とフェーズ 2 に分けて推進されている。フェーズ 1 は
行政管理予算局主導によるセッションの実施であり、IT ダッシュボード上の情報を元にし
て 2010 年 1 月に実施された。
フェーズ 2 は各省庁の内部で実施するセッションであり、
2010
年 12 月の TechStat ツールキットの公開を始点として現在に至るまで推進中である。その
後、CFO 法の適用を受ける 24 省庁に対し 2011 年 3 月までに少なくとも 1 回の TechStat
セッションを実施することが求められ、21 省庁がこの目標を達成した。残りの 3 省庁につ
いても 2011 年 5 月までに目標を達成した。以後、これらの省庁は必要に応じて随時 TechStat
セッションを開催し、その結果を行政管理予算局に報告している。CIO 協議会のベストプ
ラクティス委員会ではこれらの動きを支援するために TechStat ワーキンググループを編成
し、これを「IT ガバナンスと TechStat に関する小委員会」と名付けた。
フェーズ 1 では行政管理予算局の主導により合計で 60 以上の TechStat セッションが開
催された。結果として IT 投資プログラムの想定される総コストを 30 億ドル節約し、プロ
グラムの成果物納品に至るまでの平均期間を 24 ヶ月超から 8 ヶ月に短縮したとされる。行
政管理予算局ではこれらのセッションの実施によってフェーズ 2 における各省庁への展開
の基礎となるノウハウを得た。尚、行政管理予算局主導の TechStat セッションは今後とも
必要に応じて開催するとしている。
フェーズ 2 では前掲の報告書の時点で各省庁主導による 294 のセッションが実施され、9
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億ドルのコスト削減と 6 つの IT 投資の停止に至った。2011 年 11 月時点でのこれらの成果
をコスト削減の内訳とともに表したのが次のグラフである。
重複の除去がコスト削減実績の約半分を占めることが興味深い。ただし一方で注意を要
するのは、ここでいうコスト削減が、現在発生している実コストそのものの削減とは限ら
ないことである。計画の引き直しや停止によって当初計画よりもライフサイクル全体での
コストが削減された場合のその削減額が実績には含まれる。
前節でも触れたように、TechStat セッションのもう 1 つの重要な副産物が、セッション
を通じて得られる教訓である。報告書に記載の 5 つの教訓を以下に示す。
1.
合意に基づく是正措置の実施のために投資マネージャと連携する。
是正措置の通知はしばしば IT 投資プログラムの担当チームの問題を指摘するもの
であり、必ずしも好意的には受け止められない。関係者のモチベーションを保っ
た上で有効な取組を推進するためには、責任者である投資マネージャとの密な連
携が求められる。
2.
広範囲に及ぶプロジェクトレビューよりも的を絞った戦略的アセスメントを。
各省庁には既に投資レビュー委員会が存在しているが、組織内の各種プロジェク
トを浅く広くレビューする傾向があり、実効性の観点で弱みを抱えている。具体
的な行動に繋ぐことを見据え、有効性の高い的に絞って戦略的に深掘りを行うよ
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う行動指針を変えるべきである。
3.
投資レビューには上級マネジメントを参加させる。
大型の IT 投資事案を効果的にマネジメントするためには多方面から高度な知見を
集約する必要がある。戦略計画、予算編成、契約・調達マネジメント、IT セキュ
リティ、リスクマネジメント、パフォーマンスマネジメントに加え、業務部門の
責任者も参加する中、プログラムの中止を含む困難な決断を下すには、上級マネ
ジメントの参加が決定的に重要な要因となる。
4.
TechStat セッションを省庁の IT マネジメントの枠組みに組み込む。
TechStat セッションは既存の IT マネジメント手法と相補的な位置付けにある。
TechStat セッションを IT マネジメントの枠組みの中に組み込むことで、それぞれ
の有効性は最大限に発揮される。
5.
TechStat セッションを各自の事情に合わせて調整する。
TechStat セッションは行政管理予算局主導によって始められたものであるが、省
庁レベルの TechStat セッションは大きさや文化において大きく異なる色々の組織
で実施される。そのことを踏まえ、各自の事情に合わせて必要な調整を施した上
で取組を進めることが必要となる。
TechStat セッションは発生した問題に対する応急処置の一種であり、IT マネジメントの
質を高めるためにはより根源的な課題への取組が欠かせない。これもまた TechStat セッシ
ョンの実施により見出された知見として、次の根源的課題が挙げられている。
・ CIO の早期介入
IT 投資マネジメントの失敗を防ぐには、プログラム開始にも先駆ける可能な限り
早期段階からの CIO の関与が有効である。CIO の早期介入はプログラムマネージ
ャに適切な指針を与えプログラム要件を明確にする機会を与える。
・ 効果的な調達プロセス
プログラムの開始前に、プログラムに適した調達プロセスを選択しなければなら
ない。多年度に及ぶプロセスを選択してシステム納入時には既にそのシステムが
時代遅れになってしまうような事態を招くよりも、短期間で順次成果物を得るア
プローチを選ぶ方が望ましい。
・ 有能な労働力
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オバマ政権下の IT マネジメント改革
正しい方法の選択も有能な人材を確保してこそ意味がある。最後は人材を以下に
確保・育成するかに掛かってくる。
これらの知見の一部は CIO の職責の変更などを通じて既に制度に反映されている。
TechStat セッションは直近の成功と今後の学習の礎の 1 つとして、今後も有効に活用され
ていくと見られる。
3.6.
PortfolioStat の展開
本稿執筆時点での最新の動きとして、PortfolioStat についても紹介しておきたい。
PortfolioStat は TechStat セッションに類似の直接対話型のセッションであり、重複投資の
除去を目的とする取組である。2012 年 3 月 30 日付で行政管理予算局より覚書58が通達され
ており、
同年 7 月 31 日までに最初のセッションを開催することを各省庁に義務付けている。
この動きに先駆けて、共有型の IT サービスの利用を促進する戦略59が 2012 年 3 月 2 日に
公開されている60。この動きについては、次章で論じる IT マネジメント改革のための 25
の施策と共に述べる。
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オバマ政権下の IT マネジメント改革
第4章. IT マネジメント改革のための 25 の施策
オバマ政権ではオープンガバメントとは別系統の取組として連邦政府内における IT マネジ
メントの改革を推進している。その焦点となるのが 2010 年 12 月に指針が示された「IT マ
ネジメント改革のための 25 の施策」である。同施策は過去の経緯を踏まえつつ具体的な成
果を着実に実現することに的を絞った内容となっている。第 4 章では本稿執筆時点での実
績と合わせて同施策について述べる。
4.1.
概要
前章までで述べた通り、連邦政府には 15 年以上に及ぶ IT マネジメント改革の長い歴史
があり、その中で色々の仕組みが整備されてきたものの、オバマ政権に至って尚、かねて
よりの課題が解決されたとは言えない状況が続いていた。後述する改革指針の冒頭で述べ
るところによれば、依然として看過できない水準の予算超過、スケジュール遅延、業務要
件の未達といった問題が生じており、その背景には旧態依然とした大型プロジェクトのマ
ネジメント作法があると指摘している。こうした状況は更なる IT マネジメント改革の必要
性を生み出していた。
連邦政府は 2010 年 12 月 9 日付で「IT マネジメント改革のための 25 の施策」61を発表
した。同施策は同日に行政管理予算局主催で開かれた IT マネジメント改革フォーラムのな
かで連邦政府 CIO の Vivek Kundra 氏より公開された62ものであり、先立つ過去 18 ヶ月の
間に、議会、各省庁の CIO、調達部門の上級職員や、調達、プログラムマネジメント、産
業界、学術界の専門家らを広く招いて議論を行って得られた色々の勧告に基づいている。
同施策は、オバマ政権における IT マネジメント改革を 6 つの領域に分かれた 25 の施策と
して打ち出している。施策の全体構成は次の通りである。
PART I:オペレーションの効率化
A.「軽量な技術」と共有ソリューションの導入
1
データセンター統合計画の実施を補強する。
2
データセンター共同利用のための政府横断型の取引所を設ける。
3
「クラウド優先」のポリシーへ切り替える。
4
セキュアな IaaS ソリューションのための典型契約を整備する。
5
コモディティ型サービスのための典型契約を整備する。
6
共有サービスのための戦略を策定する。
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PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化
B. プログラムマネジメントの強化
7
IT プログラムマネジメントに関する正式なキャリアパスを策定する。
8
IT プログラムマネジメントのキャリアパスを連邦政府全域に拡げる。
9
統合プログラムチームの運用を要求する。
10
ベストプラクティスの共有プラットフォームを立ち上げる。
11
TechFellow プログラムを立ち上げる。
12
IT プログラムマネージャの官民間での異動を可能にする。
C1. 技術サイクルと調達プロセスの親和性向上
13
IT 調達専門家の精鋭部隊を設計・育成する。
14
IT 調達のベストプラクティスを特定し連邦政府全域で採用する。
15
モジュラー開発のためのガイダンスとひな形文書を整備する。
16
革新的な中小技術企業への参入障壁を低減する。
C2. 技術サイクルと予算プロセスの親和性向上
17
モジュラー開発に適した IT 予算のモデルを議会と共同で策定する。
18
柔軟な IT 予算モデルのためのガイダンスと参考資料を整備する。
19
柔軟な IT 予算モデルの適用範囲を議会と共同で拡げる。
20
各省庁の CIO 管轄下のコモディティ型の IT 支出を議会と共同で整理統合する。
D. ガバナンスの軽量化とアカウンタビリティの向上
21
投資レビュー委員会(IRB)を改革し強化する。
22
各省庁の CIO と連邦 CIO 協議会の役割を改正する。
23
TechStat を部局レベルで展開する。
E. 産業界との交流強化
24
「迷信打破」キャンペーンを立ち上げる。
25
要求定義に先立つ官民交流のための双方向プラットフォームを立ち上げる。
これらの施策はいずれも実施内容と期限iが定まっており、過去の取組に比べて具体的に
編成されている。発表時の表題にも「施策(Implementation Plan)」という語が用いられて
おり、実効性を重視した取組であることが窺われる。過去の取組では法改正による新しい
規則の採用や、新しいマネジメント作法の導入など、取組の開始と同時に導入される新た
な概念を伴うことが常であったが、25 の施策では現行法制の枠組みから逸脱することなく、
道具立てとなる概念についても以前から存在しているものiiを実際に導入するあるいは駆使
i
ii
最も長いものでも 18 ヶ月以内の実施完了。
例えばデータセンターの統合や共有サービスの活用はクイックシルバー・イニシアティブ
の頃から推進されている他、統合プログラムチームやモジュラー開発といった概念も古く
から存在している。
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することに注力した構成iとなっている。
加えて注意しておきたいのは、前章までで述べたオープンガバメントに基づく IT マネジ
メントと異なり、25 の施策が連邦政府の IT マネジメント体制や仕組みなど内面の改善に的
を絞ったものとなっていることである。前章までの内容との対比で全体を捉えるならば、
透明性に基づく外圧を利用したオープンガバメント型の IT マネジメント改革と、その改革
を支えることになる内面の基礎体力作りを手がける IT マネジメント改革の両立によって、
オバマ政権の IT マネジメント改革が構成されていると言える。
本稿執筆時点ではこれらの施策の多くが完了期限を迎えており、議会との協力が必要な
ものを除いて概ね予定通りの進捗が達成できたとされている63
64。2011
年の秋頃には連邦
CIO である Vivek Kundra 氏が退任し Steven VanRoekel 氏が後任になるという行政管理
予算局内での体制変動65はあったものの、施策は途絶えることなく継続している。当初設定
された全体の完了期限は 2012 年 7 月 9 日であり、現在も残る施策の完了に向けて取組を推
進中である。
次節以降ではこれらの施策の詳細を、6 つの領域ごとに 2011 年末時点での進捗およびこ
れまでの実績と合わせて述べる。
4.2.
「軽量な技術」と共有ソリューションの導入
PART I:オペレーションの効率化
期限iiと進捗
A.「軽量な技術」と共有ソリューションの導入
i
ii
6: 完了
1
データセンター統合計画の実施を補強する。
2
データセンター共同利用のための政府横断型の取引所を設ける。
3
「クラウド優先」のポリシーへ切り替える。
6: 完了
4
セキュアな IaaS ソリューションのための典型契約を整備する。
6: 完了
5
コモディティ型サービスのための典型契約を整備する。
12: 遅延
6
共有サービスのための戦略を策定する。
12: 推進中
18: 未着手
このことは、指針の中でも「ポリシー策定から実行と監督へ(By shifting focus away from
policy and towards execution and oversight)」というフレーズで言い表されている。
期限は施策の表明から 1~6 ヶ月以内、7~12 ヶ月以内、13~18 ヶ月以内の 3 段階に分けて
設定されている。表にはこの数字の後半部分のみを記載した。進捗状況は 2011 年 12 月時
点での報告に基づく。従って「18: 未着手」とある項は進捗の遅れを意味しない。以下同
様である。
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施策[1] データセンター統合計画の実施を補強する。
この施策は 2010 年から継続中の「連邦データセンター統合イニシアティブ(FDCCI)」66の
実施を確実なものとする補強策である。
連邦データセンター統合イニシアティブは行政管理予算局による手引きの下で各省庁が
自らの管理下にあるデータセンターの統合を進め、その過程で得られた情報を元に連邦政
府全体でもデータセンターの統合を進める取組である。本イニシアティブは 2010 年に立ち
上がり、各省庁は次のスケジュールに沿ってデータセンターの統合計画を策定し提出する
ものとされた。67
•
2010/01/15 までに、行政管理予算局はデータセンター統合計画策定のためのガイダン
スを提供する。
•
2010/04/30 までに、各省庁は現在進行中または計画中のデータセンター建設・拡張・
統合を報告する。また、各省庁は行政管理予算局と共同して各省庁内でのデータセン
ター統合計画を策定する。
•
2010/06/30 までに、行政管理予算局は各省庁に承認済みのデータセンター統合計画を
提供する。各省庁はこれらを 2012 会計年度の予算申請に組み入れる。68
上記の通り行政管理予算局からは統合計画策定のガイダンスと一体化したひな形文書が
提供されており、ひな形に基づく統合計画の策定について、2010 年 10 月 1 日時点で予定
通りの進捗が報告69されている。この結果、連邦政府内ではおよそ 2,100 のデータセンター
が稼働していることが判明iし、イニシアティブの目標としてこの内の少なくとも 800 を
2015 年までに削減することが設定された。
25 の施策では上記イニシアティブの実施計画を補強することが謳われている。補強策の
内容は次の 3 つである。
•
各省庁で統合の推進役となるプログラムマネージャを特定する。
大規模 IT プロジェクトによく見られる失敗要因の 1 つは説明責任の分散である。
データセンター統合も大規模で複雑なプロジェクトであることを踏まえ、単一の
人物に説明責任を集約することを各省庁に要求する。このため、各省庁ではデー
タセンター統合のプログラムマネージャを指名することとした。指名対象となる
i
尚、この中で突出して多数のデータセンターを抱えているのは国防総省(DOD)であり、
2010/10 の報告時点で 772 を数える。続いて国務省(DOS の 361、内務省(DOI)の 210、保
険社会福祉省(HHS)の 185 となっており、この上位 4 省のデータセンターだけで 1528、
全体の約 3/4 を占める。
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担当者は、プロジェクトマネジメントの経験と IT インフラに関する技術的素養を
備えた人物であることを求めた。
•
データセンター統合タスクフォースを立ち上げ進捗を確実なものとする。
データセンター統合のプログラムマネージャや施設のマネージャらからなるタス
クフォースを立ち上げ、2015 年までに最低 800 のデータセンター削減という目標
に向けた進捗の共有を行う。タスクフォースは月次のペースで会合を開き進捗状
況のレビューを行うとともに、政府全体での取組に整合性を保つよう取り計らう
ものとした。
•
データセンター統合の進捗状況を可視化したダッシュボードを一般公開する。
行政管理予算局はデータセンター統合の状況を一般公開するダッシュボードを立
ち上げる。これにより透明性と説明責任の履行を向上するものとした。
本稿執筆時点でこれらの取組はいずれも完了しており、次のような実績となっている。
まずデータセンター統合タスクフォースは 2011 年 2 月に立ち上がった。タスクフォース
立ち上げに関する CIO 協議会のリリース70には各省庁におけるデータセンター統合のプロ
グラムマネージャの一覧が含まれており、この時点でプログラムマネージャの特定も完了
していたことが窺われる。
次にデータセンターの統合状況の一般公開は CIO 協議会の Web サイト 71 または
Data.goviを通じて実施中である。公開されている情報には対象となるデータセンターの所
管省庁、データセンターの位置、閉鎖予定のスケジュールが含まれる。これ以外の情報に
ついては各省庁から公開されているデータセンター統合計画の文書 72を参照することで補
うことが可能である。2011 年 10 月 1 日より、データセンター統合の進捗を各省庁から 4
半期ごとに報告することが義務付けられている73ため、これらの情報もその間隔で順次更新
されていくものと見られる。
Data.gov で開示されているデータによれば、2012 年 4 月 30 日時点で閉鎖済みのデータ
センターは 268 であり、進捗は概ね順調であるように見える。その後、CIO 協議会の情報
公開ページでは 3,133 のデータセンターの内の少なくとも 1,200、すなわち全体の約 40%
を閉鎖するとの数字が掲示されており、進捗に応じて深まった状況把握を元に更に野心的
i
実際には Data.gov 上で公開されている情報を CIO 協議会の Web サイトに埋め込む形で
仕組みが整備されている。複数の Web サイト間でのこのような連携をマッシュアップと
呼ぶことがある。
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な目標が設定されている。ここでデータセンターの数が 2,100 から大幅に増加しているの
は、統合イニシアティブにおけるデータセンターの定義が変化した74ことによると見られる。
当初の定義では 500 平方フィート以下の面積の施設はデータセンターとされなかったが、
消費している資源が看過できないため対象の内に含めることとしたとされる。
しかしながら最新の民間報道75では、容易に達成可能な成果を実現する段階を経て、本格
的な対応を進めなければならない状況に移行しつつあり、今後の進捗は必ずしも容易では
ないとの政府関係者の声も紹介されている。特に課題となっているのはデータセンターが
提供しているサービスの利用形態や利用状況といった面の洗い出しであり、技術的課題よ
りもむしろ業務文化の多様性にどう取り組むかに困難があるとしている。
施策[2] データセンター共同利用のための政府横断型の取引所を設ける。
データセンターの統合と歩調を合わせて進めなくてはならないのが共同利用である。25
の施策では稼働中のデータセンターの持つ余力を互いに融通しあえる仕組みとしてオンラ
インの取引所を設置することを掲げている。この施策は 2012 年に入って以降の取組となる
予定であり本稿執筆時点では情報がほとんど開示されていない。2011 年 7 月 20 日付の覚
書76では 2012 年 7 月 9 日までに行政管理予算局と一般調達庁(GSA)が共同してこの取引所
を設置するとしている。現在はこの目標に向けて進捗中であると思われる。
施策[3] 「クラウド優先」のポリシーへ切り替える。
25 の施策に言う「軽量な技術」とは端的にはクラウドコンピューティングを指す。クラ
ウドコンピューティングとは、多数のサーバーをあたかも 1 台のサーバーに見せかけた上
でそれらのサーバー群からサービスを提供することを言う。クラウドコンピューティング
には次のような利点がある。
•
負荷の平準化による運用コスト削減
複数の利用者へのサービス提供処理を単一のクラウドセンターに集約することに
より、通常であれば時間帯等でばらつきの生じるサービス処理量が平準化され、
稼働空き時間が低減し、ひいては運用コストの低下につながる。
•
利用動向の変動に対する速やかな追随
実際のサービス提供に必要となるサーバーの台数を随時増大・減少させる仕組み
を備えるため、突発的な負荷の増大や漸進的なサービス規模の拡大に対しても不
安なく追随できる特徴がある。
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•
サービス保守の外部化による利用負担の軽減
クラウドコンピューティングの提供事業者がサーバー環境のメンテナンスやソフ
トウェアの改修などを一手に引き受け、利用する側ではただサービス提供のみを
受ければよいため、技術的専門性が高く労働集約の必要性も高い IT サービスの保
守運営負担を被らずに済む。
クラウドコンピューティングが提供するサービスの分類には次の 3 つの区分がよく用い
られる。
•
SaaS(Software as a Service)
メールやグループウェア、ワープロや表計算のようなオフィススイートなど、一
般の利用者が直接に触れるアプリケーションサービスを提供するクラウド型サー
ビス。
•
PaaS(Platform as a Service)
Web サーバーやデータベース管理システム、Web アプリケーション開発のための
プログラム実行環境など、アプリケーションサービスを開発するために必要なミ
ドルウェアがインストールされた状態のサーバー環境を提供するクラウド型サー
ビス。
•
IaaS(Infrastructure as a Service)
仮想化されたサーバー環境を提供するクラウド型サービス。IaaS を利用する場合
には、提供された仮想サーバー環境上に OS やミドルウェアの導入を利用者自身が
行わなければならない。
SaaS、PaaS、IaaS の違いは、アプリケーションをインストール済みの PC を買うか、
OS だけが入っている PC を買うか、OS さえも入っていない空の PC を買うか、の違いに
対応する。
2000 年代以降、クラウドコンピューティングは急速に普及が進んでおり、Google のよう
な事業者がインターネット経由でクラウド型サービスを提供するパブリッククラウドや、
大規模な組織内で外部から隔絶したデータセンターを確保してその上に構築するプライベ
ートクラウド、両者の中間形態として特定の複数の組織間だけで共有されるコミュニティ
クラウドなどがある。世界的に、電子メールやグループウェアのようなコモディティ型の
サービスについてはクラウドコンピューティングの利用が事実上の標準として定着しつつ
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ある。77
これらのクラウドコンピューティングの利点に着目した連邦政府の取組が「連邦クラウ
ドコンピューティングイニシアティブ(FCCI)i」である。同イニシアティブは 2009 年 9 月
の Vivek Kundra 氏のスピーチを起点として立ち上げられた78。クラウドコンピューティン
グに対する関心はイニシアティブの立ち上げ以前からもあり一般調達庁(GSA)によるサポ
ートなどを通じて幾つかの導入事例が存在していたが、資源利用の効率化を通じたコスト
削減を大きな狙いとして、オバマ政権では連邦政府の IT マネジメントにおける重要テーマ
に位置付けた。本イニシアティブは FEA プログラムの流れをくむ ITI LOBiiの延長上にあ
り、新たに次の 4 つの取組が完了している。79
1.
クラウドコンピューティングの定義を与える。80
2.
クラウドコンピューティングサミットを開催する。81
3.
IaaS 型のクラウドコンピューティングについて RFI と RFQ を開示する。82
4.
連邦政府で利用可能なクラウドコンピューティングの情報を一元的に提供するポータ
ルサイトとして Apps.gov を立ち上げる。83
2010 年 5 月には本イニシアティブの進捗報告に相当する「公共セクタにおけるクラウド
コンピューティングの状況」84がまとめられている。この時点ではクラウドコンピューティ
ングの定義を明確にすることやクラウドコンピューティングに関わる標準の策定 iiiが進ん
でいることと、先行事例として各省庁における 30 のクラウド導入事例が紹介されている。
一方、クラウドコンピューティングの導入推進にあたって独特の課題となるのがセキュ
リティとリスクの管理である。クラウドコンピューティングは端的には仮想的な 1 台のサ
ーバーを複数の利用者で共用するサービス形態であるため、サービスの利用にあたっても、
情報の漏洩や他の利用者の利用状況変動に伴うサービスへの影響といったリスクを念頭に
置かなければならない。また、連邦政府において利用される情報システムの運用について
は一定のセキュリティ要件を満たすことが法的に要求(FISMA85)されており、このことはク
ラウドコンピューティングの導入にあたっても変わらない。クラウドコンピューティング
の導入は実態としては IT サービスプロバイダからのサービス調達契約に他ならないが、当
該のサービスプロバイダとの契約がこれらのセキュリティ要件を満たすものとするための
細部の組立や検証は負担の重いものである。
i
ii
iii
Federal Cloud Computing Initiative
IT Infrastructure LOB
これらの作業は国立標準技術研究所(NIST, National Institute of Standards and
Technology)が推進している。
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このような課題に対し連邦政府全体で一貫したガイダンスと認証制度を提供する仕組み
が FedRAMP86である。FedRAMP の基本的なアイデアは 2 つある。第 1 に、法令上の要件
を踏まえた上でセキュアなクラウドコンピューティングとは何かを明確に定義することと、
第 2 に、ある省庁での最初の導入においてセキュアであると認定されたクラウドサービス
については、その後の他省庁での導入においてもセキュアであると認めて良いように環境
づくりを行うことである。特に後者を強調して、”一回の認証を何度も使いまわす (do once,
use many times)”87という標語でも紹介される。
FedRAMP は次の 5 者を軸として展開されるプログラムとなっている。

連邦政府の各省庁(=顧客組織)
クラウドサービスを利用する各省庁。クラウドサービスに対するサービス要件を
抱える他、FISMA などの法令上のセキュリティ要件を順守する義務を負う。

クラウドサービスプロバイダ(CSP)
クラウドサービスを提供する事業者。要件を満たすサービスを提供する。

共同認証委員会(JABi)
CSP の提示するセキュリティ仕様を検証し操業許可を与える。

第 3 者検証機関(3PAOii)
クラウドサービスプロバイダの提示するセキュリティ仕様とその法令遵守の妥当
性を第 3 者の立場から検証する。

FedRAMP プログラムマネジメントオフィス(PMO)
プログラムの全体進行と継続的なモニタリングを司る。
FedRAMP の推進に関する詳細は CONOPS88にまとめられている。
FedRAMP 自体は一般調達庁を幹事省庁として 2010 年 11 月頃より推進されてきた取組89
90である。25
の施策の立ち上げ以後はその一部に組み入れられることとなった。この位置
付けの変更は 2011 年 12 月 8 日付けの覚書によって指示されている91
92。本稿執筆時点で
は、リスク評価において重要性が低いと位置付けられる種のクラウドサービスの導入に際
して FedRAMP の利用が義務とされている93。しかしながら、位置付け変更後の本格的な
i
ii
Joint Authorization Board
Third Party Assessor
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展開は 2012 会計年度の第 3 四半期以降となっており、25 の施策への組み入れ後の具体的
な実績についてははっきりとしない。
FDCCI と FedRAMP を背景としつつ、25 の施策ではクラウド優先(Cloud First)のポリ
シーを連邦政府で採用することを第 3 の施策と位置づけた。この施策は更に次の 2 つのア
クションを柱としている。
第 1 のアクションは連邦クラウドコンピューティング戦略94の策定である。戦略と銘打っ
てはいるものの、内容はクラウドコンピューティングの長所と導入に向けたおおよその手
順を述べた上でその積極的採用を促す呼びかけの文書となっており、連邦政府全体での取
組としてクラウドサービスの採用に関する具体的なマイルストーンやスケジュールを設定
したものではない。手順の中では、すぐに導入できて価値の高いものに的を絞ること、組
織内に分散する類似の需要をなるべく一本化して一括契約に持ち込むこと、などが述べら
れている。
第 2 のアクションはクラウドサービスの導入を実践することである。25 の施策は、各省
庁の CIO に対し、
「必達目標」として 3 つのクラウド化すべき IT サービスを選定するよう
要求しており、その内の 1 つは 25 の施策の開始から 12 ヶ月以内に、残りの 2 つについて
も 18 ヶ月以内に移行を完了するものとしている。本稿執筆時点では目標の完遂が報告され
ており、移行対象となった 25 省庁の 78 システムの一覧が開示されている95。
クラウドコンピューティングを重視する姿勢は 25 の施策の以前から続く流れであり、今
回の施策に伴う変化や差分は大きいものとは言えないようである。ただし、第 2 のアクシ
ョンの通り具体的な必達目標が設定された他、クラウドサービスの調達契約締結に際して
の注意事項をまとめたガイダンス96を CIO 協議会と CAO 協議会の連名で発行するなど、具
体的で着実な行動を積み重ねる様子が垣間見える。
施策[4] セキュアな IaaS ソリューションのための典型契約を整備する。
クラウドサービスの中には特によく利用される典型的な形態のものがある。4 つめの施策
は、典型的な IaaS ソリューションについて特定のベンダーおよびそのサービスに事前認証
を与え、手続き上の負担を大きく軽減した上で随時、調達契約を締結できるようにすると
いう取組である。一般調達庁を幹事省庁として、本稿執筆時点では次のような IaaS 型のク
ラウドサービス97に関する包括合意iが 12 のベンダーとの間で取り交わされている。
i
Blanket Purchase Agreement
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
第 1 ロット:クラウドストレージ
動的で冗長性を備えたスケーラブル(=随時拡張可能)なストレージサービスを提
供する。提供されるストレージに対してはインターネット越しにアクセスできる。
必要に応じて提供されるストレージの容量を変更できる。

第 2 ロット:仮想マシン
動的で冗長性を備えたスケーラブルな仮想マシンサービスを提供する。提供され
る仮想マシンに対してはインターネット越しにアクセスできる。ネットワークア
プリケーションを仮想マシン上に導入すること、で物理的なメンテナンスや廃棄
の手間の掛からないコンピュータとして利用できる。

第 3 ロット:Web ホスティング
動的で冗長性を備えたスケーラブルな Web ホスティングサービスを提供する。仮
想マシンの場合と同様であるが、Web アプリケーションや Web サービスの提供に
特化した形で環境が提供される。
一般に広く知られる同種のサービスとしては、オンライン書籍販売の世界最大手として
著名な米 Amazon.com による Amazon EC2 がある。
これらのサービスに関する問い合わせ情報は Apps.gov に掲載されている他、セキュリテ
ィ仕様が FISMA 等の法令に準拠していることが事前検証されている。更に、契約締結の際
に連邦調達規則上必要となる業務定義書(SOWi)などの書類について一般調達庁よりひな形
文書が提供されており、各省庁は相対的に軽い手続き負担の下でサービス調達を推進でき
るよう仕組みが整備されている98
99。このことからも分かるように、契約締結そのものは各
省庁とベンダーの間で個別に行い、一般調達庁はその手続きを簡素化するための下ごしら
えに相当するサポートを行う形の取組となっている。
この施策の内容は前項に述べた FedRAMP の考え方に非常に近いが、目下のところセキ
ュリティに関する事前検証の実施は FedRAMP とは別の一般調達庁(GSA)の管轄する枠組
みの中に位置付けられている。また、一般調達庁によるこれらの典型契約サービスは 25 の
施策よりも前から先行して推進されてきたものである100。25 の施策はこれをその一部に位
置づけて説明しなおしたのみであって、特に新しい施策というわけではない。
施策[5] コモディティ型サービスのための典型契約を整備する。
i
Statement of Work
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5 つめの施策は 4 つめと同様の取組を IaaS ではなく SaaS 型のクラウドサービスに関し
て進めるというものである。対象となる SaaS 型サービスとしてクラウド型の電子メールサ
ービスが取り上げられている。一般に広く知られる同種のサービスとしては、米 Google の
提供する GMail がある。
本施策は 2011 年 12 月時点の中間報告では遅延中とされており、細部に関する情報も開
示されていない。しかし、本稿執筆時点ではスケジュール遅れなし(On Track)となっている
他、一般調達庁(GSA)の Web サイト上に EaaS(Email as a Service)と称するクラウドサー
ビスについてのページ101が設けられており、近々進捗すると付記されている。同ページの
記載によれば、電子メールに限らずオフィスオートメーションや電子的記録の管理などの
アプリケーションも視野に入るとしている。これ以上の詳細は不明である。
施策[6] 共有サービスのための戦略を策定する。
PART I の最後の施策は共有サービスの導入推進に向けた戦略を 12 ヶ月以内に策定する
というものである。例えば電子メールサービスであればどの省庁、どの部署においても利
用され、かつその内容も似通っている。このような場合に単一のサービスプロバイダに発
注を一本化してしまえば規模によるコストメリットの享受が期待される。このような着想
に沿って、なるべく多くの組織の間で IT サービスの調達を一本化しサービスを共有して利
用しようというのが本施策の骨子である。
なお、施策に言う共有は、ひとつの省庁の中での複数部署間での共有と、省庁間での共
有の両方を含む。大まかには、組織内での部署間共有の推進を手始めとして、より大きな
単位での組織間共有を順次進めていくという流れが想定されている。
本施策の直接の成果物は 2012 年 5 月 2 日に発行された連邦 IT 共有サービス戦略102であ
る。しかしそれ以外にも関連するイニシアティブや事項が幾つかある。全体の構図は、共
有第一(Shared First)と将来性第一(Future First)というイニシアティブに二分される。
共有第一(Shared First)イニシアティブの実態は本施策に言う戦略の推進そのものである。
発行された戦略は達成しなければならないマイルストーンを含む工程表となっており、
2012 年中には各省庁内の部署間で重複している IT サービスの調達一本化を少なくとも 2
つの IT サービス分野について行うことを要求している。更に、その後のサービス共有化推
進に関するロードマップを 2013 年 4 月頭までに行政管理予算局(OMB)へと提示するようも
求めている。端的に言ってしまえば、組織内での部署間共有に関するノルマ設定を行なっ
ている。
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これに対し、各省庁におけるサービス共有化の状況を行政管理予算局(OMB)が監査し厳
しく質疑する機会となるのが、PortfolioStat である103。PortfolioStat は TechStat に類似
のセッションであり、各省庁の CIO、CAO、CFO、COO を召喚して行政管理予算局(OMB)
のスタッフが行う質疑面接である。TechStat が特定の IT プロジェクトを対象にして実施さ
れるのに対し、PortfolioStat で質疑の対象となるのは各省庁における IT 投資ポートフォリ
オとその改善に関する行動計画とされている。明記はされていないが、TechStat が書式 300
に記載のビジネスケースに、PortfolioStat が書式 53 に記載の IT ポートフォリオにそれぞ
れ対応するピアレビュー型のセッションであると見られる。最初の PortfolioStat セッショ
ンは 2012 年の 7 月 31 日に実施予定となっているため、本稿執筆時点では未実施である。
共有サービスの導入に関わるもうひとつのイニシアティブが将来性第一(Future First)で
ある。これはイニシアティブと言うよりも IT サービスの調達あるいは長期的な IT ポート
フォリオの編成において念頭に置くべき目標・基準を表す。目先の IT 需要を満たすように
だけ調達を進めるのではなく、将来の IT ポートフォリオが次の状況に合致する・要件を満
たすものとなるようにすべきだというのがその骨子である。

それぞれのサービスに複数の利用者がぶら下がる。

再利用可能なコンポーネントをモジュラー方式で開発する。

プロセスを標準化し、カスタマイズを最小化する。

標準化された APIiに基づく Web ベースのアプリケーションを用いる。

オブジェクトの再利用、マシンリーダブルなデータ、フォーマットの標準化。

クラウド型アプリケーションの利用とサーバーの仮想化。

セキュリティとプライバシーの管理、システムとサービスの継続的モニタリング。

システムおよびサービスに対する構成管理とバージョン管理。
その達成に際して重要な鍵になると見られるのがエンタープライズ・アーキテクチャの
活用である。エンタープライズ・アーキテクチャは業務と IT 資産の全体構成と関係性を顕
にすることで中長期的な IT 投資を合理化する支えとなる。ではエンタープライズ・アーキ
テクチャをどのように活用すれば上記にいう将来性第一の原則を満たすことができるのか、
ということについて、2012 年 3 月 2 日に行政管理予算局(OMB)より発行されたガイダンス
が「FEA に向けた共通アプローチ」である104。
ガイダンスではエンタープライズ・アーキテクチャが IT 投資マネジメントにどのように
i
API : Application Programming Interface
IT システム間の連携を行うためのインターフェースを指すと考えてよい。
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役立つかを詳しく説明した上で、実体としては文書類一式に他ならないエンタープライ
ズ・アーキテクチャを更新・参照・活用するプロセスを例示している。FEA プログラムの
中でこれまでに述べられてきたものと基本的な考え方に大きな差異はないが、次の 2 つの
変化が注目に値する。
第 1 の変化は各省庁内でのエンタープライズ・アーキテクチャ活用に焦点を当てている
ことである。90 年代から続く FEA プログラムでは FEA 参照モデルを中心に省庁間での重
複 IT 投資の統合を狙いとしており書きだされた FEA の読み手は専ら行政管理予算局であ
ったのに対し、本ガイダンスでは各省庁の内部でいかにして基本的な考え方にを活用しう
るかに大半の議論を割いている。このこともあってか、FEA 参照モデルのように連邦政府
全体で共通化された語彙や記法を用いることは必ずしも強調されておらず、基本的な考え
方にの考え方、を論じる内容となっている。これはむしろ 90 年代前半の FEA プログラム
に至る前史に近いものである。
第 2 の変化は FEA 参照モデルの構成そのものも変化していることである。本ガイダンス
中では FEA 参照モデルを構成する 6 つのサブモデルとして、パフォーマンス参照モデル
(PRM)、業務参照モデル(BRM)、アプリケーション参照モデル(ARM)、インフラストラク
チャ参照モデル(IRM)、セキュリティ参照モデル(SRM)、データ参照モデル(DRM)が紹介さ
れている。これまでの FEA 参照モデルには ARM・IRM・SRM がなく、その代わりにサー
ビスコンポーネント参照モデル(SRM)が取り入れられていた。ガイダンス中の記載によれば、
連邦 EA が改定され第 2 版が策定された模様である。本稿執筆時点では旧参照モデルしか
開示されていないため、詳細は不明である。
共有サービスに関するオバマ政権の取組は 2012 年に入ってから成果物が順次表に出てい
る状況であり、今後とも継続して注視しなければならない状況であるが、総じて言えば、
クイックシルバーの昔から変わることのない目標を着実に実現するために、共有第一
(Shared First)の名目で各省庁にはノルマを課し、同時に、中長期的なエンタープライズ・
アーキテクチャの活用を促すために将来性第一(Future First)としてこれまでの FEA 参照
モデルに必ずしもこだわらない形での取組指針を示したものと解される。導入が期待され
る共有サービスにはクラウド優先の枠組み内で Apps.gov や一般調達庁から提供される各種
のクラウドサービスに加え、FEA プログラムの中で洗い出されてきた LOB も含まれてお
り、過去の基盤の上に今後をつないでいく姿勢が垣間見える。
4.3.
PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化
25 の施策に含まれる残る 5 つの領域はいずれも大規模 IT プログラムのマネジメント効率
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化と題する PART II の中に含まれる。PART II の施策のねらいを要約すれば、民間に比べ
て遅れをとっている IT プログラムマネジメントの体制および能力を強化することと、その
結果として迅速で機動性の高い IT 投資を実現すること、である。問題意識はこの裏返しで
あり、IT の急速な浸透によって民間組織が達成した生産性やサービス品質の向上を連邦政
府の省庁では獲得できておらず、とりわけ、長い時間をかけて大規模なプログラムを推進
することが前提となっている既存の IT 投資マネジメント体制が回転の早い昨今の IT 投資
と齟齬を期待しているという認識が示されている。
IT 投資の迅速化において鍵となるのはモジュラー開発である。すなわち、多数の目標を
プログラムの集結時点で一括して達成しようというのではなく、小さく分割された目標と
それを実現するための小規模プロジェクトを段階的に順次積み上げていくことで、プログ
ラムの期中において具体的な成果を実現していくというアプローチである。大規模なプロ
グラムでは最初の成果物が納品されるまでに数年もの時間を要するような計画が是とされ
ることもあるが、日進月歩が当たり前の IT の世界では数年も経つと全く世界の様相が変化
することさえありうる。PART II に含まれる施策は、業務上の利用に資する最初の成果物
をプログラム開始から 18 ヶ月以内に提供し、その後のリリースサイクルも最長 12 ヶ月以
内、望ましくは 6 ヶ月以内としなければならないと述べている。従来の IT 調達とは異なる
こうしたテンポを維持するには、高度な能力を有したプログラムマネージャの確保と参画
が欠かせない。
以上の認識の下に、モジュラー開発の実現という目標を支えるための取組として下記が
掲げられている。

プログラム全体の目的および業務上の目的に対して個々のモジュールが位置付けられ、
プログラムの成否を計測するための定性的・定量的指標を明確に定められるよう取り
計らう。

業務上の明確な目標、明確なパフォーマンス指標、将来のアーキテクチャに関する明
確なビジョン、反復設計と開発に関する明確な要素認識という全てを兼ね備えた調達
事案についてのみ予算を認める。

システムの詳細要件を決定するのに 3 ヶ月以上をかけないようにしつつ、少なくとも
12 ヶ月毎に新機能をリリースする。

個々のリリースについて利用者満足度を評価する反復プロセスを設け、その中で利用
者からのフィードバックを常に収集し、業務上のニーズに沿ったシステムとなるよう
継続的に設計の質を高める。

要件定義の膠着状態を避けるために、抽象的な要件を決めたら目先のリリースに集中
し、必須要件とはいえない追加機能の取り入れを将来のリリースへと先送りする。
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
個々のリリースが完了する毎にそのリリースのために引き当てていたリソースを次の
リリースのための作業へと速やかに充当する(例:あるリリースについて要件定義が終
わったら開発チームがそのリリースに関する開発を進める傍らで、手の空いた要件定
義チームの仕事として次のリリースに関する要件定義を割り振る)。
次節以降に述べる個々の施策を位置づける文脈として上記を念頭に置かれたい。
4.4.
プログラムマネジメントの強化
PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化
B. プログラムマネジメントの強化
期限と進捗
7
IT プログラムマネジメントに関する正式なキャリアパスを策定する。
6: 完了
8
IT プログラムマネジメントのキャリアパスを連邦政府全域に拡げる。
18: 未着手
9
統合プログラムチームの運用を要求する。
6: 完了
10
ベストプラクティスの共有プラットフォームを立ち上げる。
6: 完了
11
TechFellow プログラムを立ち上げる。
12: 完了
12
IT プログラムマネージャの官民間での異動を可能にする。
18: 未着手
施策[7] IT プログラムマネジメントに関する正式なキャリアパスを策定する。
IT プログラムマネジメントに特化した職務区分を、行政管理予算局の協力の下、人事院
(OPM105)が策定するという取組である。端的に言えば、会計や調達契約官といった専門職
の一種として IT プログラムマネージャという職種を連邦政府の人事体系内に作るというこ
とである。この施策に基づき、GS2210 Information Technology Management という職階
の中に職務区分が新設された106。人事院の説明資料107によれば、これらは次の内容を持つ
職務である。
まず、この職種は大きく次の 3 つに区分される。

IT プログラムマネージャ
多年度にまたがる主要な IT 投資で、幾つもの関連する IT プロジェクトの遂行を
通じて実施される取組の 1 つ乃至複数を管理する職種。IT プログラムマネージャ
は、プログラム全体の成功に対する責任を負い、省庁の有する業務上の優先事項
に対しプログラムが整合的であるよう取り計らい、そのために必要なリーダーシ
ップ、調整、コミュニケーション、および統合の役割を担う。IT プログラムマネ
ージャは省庁の業務戦略に含まれる所定の成果を達成するために必要な努力の遂
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行に関し責任を負うものであり、ここに言う業務戦略の中には、適切な戦略計画、
ライフサイクルマネジメント、資本性 IT 投資の計画を含む。また、上記に言う必
要な努力の内には、実施すべきプロジェクトの選定、優先順位付け、評価、モニ
タリング、コストとスケジュールの管理、リスクマネジメント、品質マネジメン
ト、リソースの確保が含まれる。

IT プロジェクトマネージャ
特定のサービスまたは成果物を提供する IT プロジェクトを直接にマネジメントす
る職種。

IT スペシャリスト
IT システムおよび IT サービスの開発、提供、支援を担う職種。
GS2210 自体は 2001 年より設けられている職階108であり、IT スペシャリストと IT プロ
ジェクトマネージャについては以前よりこの職務区分が設けられていた109。
尚、今回の制度改定では、IT スペシャリストについても対象となる技術領域に応じて次
の 11 の専門領域iが想定されている。これらの専門領域は職名に対して括弧付きで付される
(例:
「IT スペシャリスト(インターネット)」)。専門領域という考え方は本職階のドラフト
案が提示された段階では含まれていなかった。前掲の説明資料によれば、ドラフト公開後
の関係各所との協議の中で強い需要があって特にこれらは追加されたとのことである。大
きな理由としては、当該職種に対する人員採用のための一般公募に際して特にどのような
スキルが要求されているのかを説明する上で有益であるという点が挙げられている。一方
で、職種の細分化は管理上の負担にもつながりうるため、今後の精度運用を通じて更なる
簡素化が図られる場合もあるとしている。
25 の施策ではこれ以外にも、各省庁が人事院(OPM)を介さずに IT プログラムマネージャ
を直接雇用する権限の付与を行うことを謳っている。更に、連邦政府全体で行われている
人的資本マネジメント状況の年次調査における IT プログラムマネージャ職に関する需給ギ
ャップ調査に基づき、各省庁が編成するその是正策を省庁の幹部がレビューし中間報告を
行政管理予算局に提出すること、IT プログラムマネジメントにおける新職種のパイロット
運用を財務省および農務省で実施すること、を行うとしているii。
i
ii
内訳は次の通り:Policy and Planning, Network Services , Enterprise Architecture,
Data Management , Security, Internet , Systems Analysis, Systems Administration ,
Applications Software, Customer Support , Operating Systems.
これらの実施状況については情報を得ることができなかった。
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施策[8] IT プログラムマネジメントのキャリアパスを連邦政府全域に拡げる。
前項に言う財務相および農務省でのパイロット実施結果を踏まえ、その結果を連邦政府
全体へと適用するという施策である。この施策の存在から察するに、施策[7]で導入された
IT プログラムマネジメント職への人員配置は、一気呵成に推進されるのではなく順次展開
が進むものであると考えられる。本稿執筆時点では既にこの取組はほぼ終盤を迎えている
時期であるが、2011 年末の成果報告では未着手扱いとなっている。
施策[9] 統合プログラムチームの運用を要求する。
多種多様な関係部署から幅広く人員を招集して編成される統合プログラムチーム(IPTi)
に基づく IT 投資マネジメントを推進するよう要求したガイダンス資料を、行政管理予算局
より発行するという施策である。省庁の幹部、業務プロセスの責任者、IT 関係者、調達・
財務部門の関係者など、IT 投資には様々なステークホルダーが関与するが、これら関係者
間の利害調整や協働体制の構築が IT 投資の成否を大きく左右する要素であると従来から認
識されており、通達 A-11 の付属文書である資本プログラミングガイドにおいてもこれに類
似の統合プロジェクトチームの招集が IT 調達の要となることを述べている。ここで、業務
プロセスの責任者は解決しなければならない課題を深く理解する立場にあり、IT 関係者は
技術的な手段に知悉し、調達関係者は必要な労働力やリソースの確保計画と購買を司り、
財務関係者は必要となる決済が滞り無く実施されるよう取り計らう役をそれぞれ担う。必
要に応じて法務や人事部門からも人員を招集する場合がある。しかし、大規模 IT 投資につ
いて投資事案のレビューを開始する前にはこうした統合プロジェクトチームを招集するこ
とが義務付けられているものの、その実践の実情となるとむらがあるとされる。先に述べ
たガイダンスでは、大規模 IT 投資に関し行政管理予算局がプログラム予算の承認を与える
には、それに先立って専任のプログラムマネージャと IT 調達の専門家らによる支援ありき
で率いられる統合プログラムチームを要求するとしている。
25 の施策では、更に次の 2 つの補助的な施策を組み合わせるものとしている。
第 1 の補助的施策は、プログラムのライフサイクルを通じて統合プログラムチームの中
核メンバーを維持し続け、可能ならば地理的にも同じ部署に配属させるよう要求すること、
である。中核メンバーの中には IT プログラムマネージャが含まれ、これについてはプログ
ラムごとに完全な専任であることを求める。メンバーの所在の地理的な近接性は、反復サ
イクルを素早く積み重ねて要件の修正を進めていく前提ならば、とりわけ要件定義のフェ
ーズにおいて重要な要素となるとしている。中核メンバーはプログラムの初期段階から集
i
IPT : Integrated Program Team
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結に至るまで同じ構成のままで維持されるべきである。大規模 IT 投資に関しては、こうし
た編成の統合プログラムチームを維持することを省庁の幹部が承認することになる。
第 2 の補助的施策は、統合プログラムチームに対し、プログラムに含まれる個別の目標
だけでなくプログラム全体の成功の達成について説明責任を負わせることである。25 の施
策に含まれる記載によれば、連邦政府におけるプログラムマネジメントの一般的問題とし
て、個々の利害関係者が自身に関わりのある範囲での目標達成にばかり集中してプログラ
ム全体の成功が疎かになることが挙げられている。例えば、IT 関係者は特定のベンダーに
対する発注に偏る。あるいは、契約担当官は調達時の競争要件の盛り込みに執心するあま
り、競争要件には見合わないがプログラム本来の目的にはよく合致したソリューションを
提供できる中小企業への発注が排除される。こうした木を見て森を見ずの状況を是正する
ための対抗措置として、各省庁の調達部門における幹部や CIO、プログラム責任者らによ
る対応が講じられるよう要求する。この際に考慮すべき 2 つの勧告は、個別具体的な達成
目標を明示することと、それらの間に迅速性・品質・有効性・コンプライアンス性の間で
バランスが保たれるよう取り計らうこと、である。
本稿執筆時点では本施策は完了しており、該当するガイダンス資料が既に発行されてい
るはずであるが、これを特定することはできなかった。
施策[10] ベストプラクティスの共有プラットフォームを立ち上げる。
連邦政府内のベストプラクティス(模範事例)を共有できるオンラインの情報集積拠点を
作るという取組である。実際上は CIO 協議会の公式 Web サイトに一角に、ベストプラクテ
ィスの共有コーナーが設けられる形となった110。共有対象となるベストプラクティスは、
各省庁のプログラムマネージャが実施後レビューの結果を同サイトへと投稿することによ
り収集するとされているが、一般利用者としてアクセス可能な範囲にその投稿窓口を確認
することはできなかったi。本稿執筆時点では内務省や商務省統計局など 10 の省庁からの合
計 10 の事例が開示されている。個々の事例は数ページの簡潔な文書にまとめられており、
当該省庁で取り組んだ課題、ソリューション、結果、得られた教訓、関連情報を記載して
いる。
農務省におけるクラウドメールサービスの導入事例111を要約して以下に紹介する。
i
CIO 協議会にはベストプラクティス小委員会が含まれており、こちらで連邦政府内のベス
トプラクティスの収集を継続的に行なっているため、この小委員会が情報源になっている
可能性もある。
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
課題

2008 年時点で農務省内には 29 の電子メール関連システムが存在していた。

多数のシステムの乱立はコスト負担になっているだけでなく省内における情報交
換の妨げともなっていた。

これらのシステムの統合先として大規模な省内電子メールシステムの導入を検討
したが、次のような制約がネックとなった。


検討対象となったソリューションのメールボックスはサイズが小さかった。

移行期間を 2 週間以内に抑える必要があったが困難が見込まれた。

利用状況の変動に応じたキャパシティの増強に困難が見込まれた。

クラウドサービスも選択肢となったがセキュリティ上の懸念で敬遠された。
ソリューション

農務省はクラウドサービスの市場について調査を行い、自組織が必要とするサー
ビス要件に対する理解と、それらの要件に対し存在するソリューションの実情を
深く理解した。

クラウドサービスは機能要件、移行要件、コスト要件等において問題ないことが
判明した。

2010 年春にはクラウドサービスへの全面的移行が実施されることとなった。

実際の移行にあたっては既存の多数のシステムとの連携・調整に想定外の手間を
要することとなったが、ベンダーによる支援ツールの提供、統合プロジェクトチ
ームの招集などが奏効して無事に対応を進めることができた。

結果

新しいクラウドサービス型の電子メールの導入により、それまで利用者 1 人あた
り月額$13 であった運用費用が$8 以下に低下した。これは年間でおよそ$600 万に
相当する節約である。

新規に導入したサービスはより優れた機能を省内全域にもたらした。

新しい電子メールサービスの下では省内全域に対する一括管理が可能となり、サ
ービスの更新などが直ちに全部署に反映されるようになった。


最終的に、省内コミュニケーションの統合戦略が促進された。
得られた教訓

省内全域にまたがる統合ソリューションとしてクラウドサービスは魅力的な選択
肢となる。

クラウドサービスへの移行では組織内でのチェンジマネジメントが鍵を握る。
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
新機能は入念な戦略に基づいて実際の利用現場に紹介・導入しなければならない。

関係者がコストの全体像を正しく理解するよう仕向けること。電子メールサービ
スのコストには関連するシステムやインフラの維持コストが伴う。

移行のためには 2 つの戦術を使い分けること。大規模部署に対しては段階的な移
行戦術を、小規模部署に対しては一括移行が機能した。

新サービスへの切り替えに合わせて旧サービスは停止するが、過去情報の検索を
可能とするためのアーカイブシステムを並行運用すること。
施策[11] TechFellow プログラムを立ち上げる。
TechFellow プログラムは IT 関連の専門技能について基礎力を有する大学院卒の新卒学
生を対象にした採用プログラムである。修士卒の新卒学生を対象とした採用プログラムに
は従来より大統領研修員プログラム(PMF112)と呼ばれるものが存在しており、制度上はこ
の一種であって IT 関連の採用に特化した性質の取組となっている。採用された新卒者は 2
年間の所定時間数の座学を含む 2 年間の実務研修を経て後、正式な配属先が決定する。研
修中も有給の職員として扱われ、正式配属後には日本の公務員制度でいうところの課長補
佐級程度の職位に就くのが通例である。大学院卒または卒業見込でありかつ大学院長から
の推薦があれば応募資格を満たすものの、TechFellow プログラムでは特に計算機科学や情
報科学などの IT に関わる専攻分野での教育を受けていることが望ましいとしている(必須
条件ではない)113
114CIO
協議会の Web サイト上には応募窓口が設けられている115。
TechFellow プログラムに関しては、その背景になったと見られる IT 人材の受給状況に
関するサーベイの結果が興味深い。2010 年 4 月付けで CIO 協議会より発行された「ネット
世代」と題する文書116では、現在の連邦政府において IT 労働力の中核を占める第 1 次ベビ
ーブーム世代の大量退職が迫っており、その影響を津波(tsunami)にもなりうると表現して
いる。これに対し、第 2 次ベビーブーム世代が 2008 年以降に就労可能年齢に達しており、
インターネットが普及して後の時代に育った彼らが今後の連邦政府における IT 労働力の中
核を担う立場にあるとして、その積極的採用の重要性を訴えている。米労働省の調査では
2008 年から 2018 年に掛けて、官民全体で IT 労働力に対する需要は軒並み 10%以上、ネッ
トワークやデータ通信分野に至っては 50%以上の伸びを示すと予測しており、官民間の人
材獲得競争にも激化が見込まれる。しかも、コンピュータオペレータやプログラマについ
ては対照的に需要が減少するとしており、実利用の側面を意識したシステムエンジニアや
管理者、分析家などの高度人材の重要性がますます高まる未来が描かれている。他にも、
連邦政府内での IT 関連の人材配置状況や来るネット世代の文化的特徴などにも言及してお
り、連邦政府界隈での状況認識を読み取ることのできる資料となっている。
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尚、大学教育との関係の下での IT 労働力確保の施策としては CIO 協議会による CIO 大
学(CIO University)プログラム117が以前より存在している。同プログラムは、基本的には連
邦政府職員を対象に、IT マネジメントに関する専門知識を著名大学院における教育カリキ
ュラムを通じて獲得する取り組みである。同プログラムに沿う形で各大学は教育課程を提
供しており、その中には大学学部の卒業生が進学可能な修士課程を提供しているケースも
含まれるが、新卒学生の採用を主たる目的としたものではない。むしろ、CIO 大学ではカ
バーされていなかった新卒採用の領域を埋め合わせるものが、TechFellow プログラムであ
ると言える。
施策[12] IT プログラムマネージャの官民間での異動を可能にする。
省庁間、官民間の垣根を超えてプログラムマネージャが随時転属し、経験を積むことを
奨励・支援する施策である。組織の枠を超えた人材の移動により、省庁をまたいだノウハ
ウの伝達・共有の一助となることが期待される他、あるプログラムで得た経験を類似する
別のプログラムに対して適用し磨き上げる機会をプログラムマネージャが獲得する一助と
もなる。同様にして、民間企業の中でスキルを身につけることも想定されている。CIO 協
議会、行政管理予算局、人事院の連携によって、このような人材交流機会の設計を進める
他、連邦政府内に所属する IT プログラムマネージャの台帳を整備することなどが 25 の施
策では謳われている。2011 年末の時点では未着手となっており、本稿執筆時点でも特に情
報が開示されていないため、この施策についての進捗は不明である。
4.5.
技術サイクルと調達プロセスの親和性向上
PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化
C1. 技術サイクルと調達プロセスの親和性向上
期限と進捗
13
IT 調達専門家の精鋭部隊を設計・育成する。
6: 完了
14
IT 調達のベストプラクティスを特定し連邦政府全域で採用する。
6: 完了
15
モジュラー開発のためのガイダンスとひな形文書を整備する。
12: 推進中
16
革新的な中小技術企業への参入障壁を低減する。
18: 未着手
施策[13] IT 調達専門家の精鋭部隊を設計・育成する。
IT 調達を専門とする人材の精鋭部隊とはどのような集団であるかを定義し、そのような
集団を実際に構成する上で必要となるトレーニング機会の提供を中心に、人材育成面での
支援を行う施策である。政府における調達は公平性や公正性の確保、関連法規の遵守とい
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ったコンプライアンス上の要求事項が多いが、IT 調達の場合には更にそこへ加えて IT に固
有の特性を考慮した判断が求められる場合が少なくない。IT 調達の専門家とは、連邦政府
における公共調達プロセスの専門家であると同時に、IT にも知悉した人材を言う。本施策
ではそのような高度人材からなる精鋭部隊を各省庁が内部に育成できるよう、連邦 CIO と
行政管理予算局の内局である連邦調達政策部が協力して、そもそも目標となる IT 調達専門
家の精鋭部隊とは何であるか、を明確に定義するとしている。注意すべきは、精鋭部隊の
育成は各省庁が実際に行うのであって、25 の施策に含まれるのはその手引きとなる情報の
整備のみということである。本施策の直接の成果物となるガイダンス資料は 2011 年 7 月
13 日付で連邦調達政策部からの通達として発行されている118。
発行されたガイダンスによれば、IT 調達の精鋭部隊(IT Acquisition Cadre)とは、IT 調達
に関連する業務に知悉した専門家の集団である。この部隊は単一種の専門家から構成され
るのではなく、プログラムマネージャ、契約担当官(COi)、契約担当代表者(CORii)の 3 種の
人材を中心とする多種多様な人材からなる集団であり、この 3 種以外にも、対外窓口(リエ
ゾン)担当、特定の IT 製品分野に関する専門家、財務分析の専門家などが含まれうる人材の
例として取り上げられている。主要 3 種の人材については、連邦調達研究所(FAI119)の管轄
するスキル認定制度120においてそれぞれ対応する FAC-PM(調達プロジェクト・プログラム
マネージャ認定試験)、FAC-CO(調達契約担当官認定試験)、FAC-COR(調達契約担当代表者
認定試験)の認定を受けていなければならないとしている。
この部隊が果たす機能について具体的な言及はガイダンスに含まれない。しかし、一般
に言うところの PMOiii に相当する位置付けの集団と考えられる。即ち、PMO 自身が個々
のプログラム・プロジェクトのマネジメントを引き受けるのではなく、省庁内で IT 投資事
案が立ち上がるのに合わせて、企画のチェックや進め方のレビューなど、プログラムマネ
ジメントに関する支援を第 3 者の立場から提供する。多様な人材の集団であるという意味
では前述の統合プログラムチームにも似ているが、統合プログラムチームが個々のプログ
ラムに対して遂行の責任を負う本質的に時限の組織であるのに対して、ここで言う精鋭部
隊は省庁内の IT 調達マネジメントの質の向上に対して責任を負い、常設されるものとなっ
ている。
常設組織であるからには、基準を定めて編成するだけでなく、長期的な人材の育成を通
i
ii
iii
CO : Contracting Officer
契約担当官は契約手続き上の責任者であり、契約のコンプライアンスに特に深く拘る。
COR : Contracting Officer Representative
契約担当代表者は契約担当官が設計した調達契約および手続きの実施面における実務担
当者のことを言う。
Project Management Office
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じた維持と向上にも努めなければならない。この点でもガイダンスは、標準的なスキル習
得のあり方について指針を示している。柱となるのは、座学講習、業務経験の蓄積、メン
タリングの実施、の 3 つである。講習は連邦調達研究所や防衛調達大学校(DAU121)で提供
される。メンタリングの実施については連邦調達研究所(FAI)がそのための仕組みを立ち上
げる予定となっている。これらの柱を頼りつつ、IT 調達の専門家にはスキル認定を受けた
後にも継続的に自らの能力を維持・発展させ続ける義務が課せられている。スキル認定は
有期であるため、こうしたトレーニングを怠っていると認定の更新ができなくなる制度で
ある。
連邦調達政策部の発行したガイダンスにはこれ以外にも精鋭部隊の組織構造として考え
られるパターンの例示が含まれる他、ガイダンスに記載の情報を参考にしつつ、精鋭部隊
を創設あるいは維持・拡張するのか、そもそもこの種の機構を用いずに済ませるのかを判
断するよう各省庁に求めている。その判断と IT 調達分野の人材に関する課題を整理した上
で、IT に限らない調達人材の管理計画の一環として行政管理予算局に提出することを義務
付けており、いずれにせよ省庁は、精鋭部隊なしに IT 調達を成功させるか、さもなくば精
鋭部隊の活用に取り組むかの選択が迫られる格好となっている。
順番が前後するが、25 の施策ではこうした取組の背景となる問題認識として、法制上は
IT 調達を円滑にこなすための道具が多く整えられているのに対し、連邦政府内の人材が制
度に追いついていない、という見解を示している。実際、調達スキル認定制度や精鋭部隊
(cadre)の立ち上げといった要素は今回の施策に合わせて登場したものではなく前ブッシュ
政権の頃から継続しており、今回の施策も実効性を確立するための補強としての意味合い
が強いと言える。
施策[14] IT 調達のベストプラクティスを特定し連邦政府全域で採用する。
IT 調達に特化した調達チームを有する省庁のベストプラクティスを抽出し、連邦政府全
域へと広める施策である。分析の際に注目する点としては、スタッフが IT プログラムチー
ムで実働可能な水準へと達するのに必要な IT 調達への専任期間の長さ、最も有効性の高い
トレーニングと職務経験、適切な組織構造、調達戦略や実践の成功事例、が挙げられてい
る。この分析には 25 の施策開始から 6 ヶ月を費やすものとしており、2011 年末時点の進
捗報告でも完了となっている。抽出結果となるベストプラクティスの内容は不明である。
25 の施策では、更に引き続いて連邦調達政策部(OFPP)が国土安全保障省(DHS)およびエ
ネルギー省(DOE)と連携し、連邦政府全域にまたがる IT 調達の精鋭部隊編成に向けた取組
を推進するともしている。国土安全保障省(DHS)とエネルギー省(DOE)では IT 調達の精鋭
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部隊を 2011 年中に編成する予定となっているためである。こちらの取組は 18 ヶ月内の達
成を目標としており、2011 年末時点での進捗報告はない。
施策[15] モジュラー開発のためのガイダンスとひな形文書を整備する。
モジュラー開発を前提とした調達契約を締結する際の考慮事項と指針を整理したガイダ
ンスを整備する施策である。整備対象にはガイダンス以外にひな形文書やサンプルが含ま
れる。連邦調達政策部主導の下、政府内の調達関係者や IT 業界の関係者を交えての共同作
業によりとりまとめを進めるものとしている。2011 年末時点では推進中となっていたが、
ガイダンスについては 2011 年 6 月 14 日付で公開された122。
公開されたガイダンスの大きく 2 つのセクションからなる。前半の主部はモジュラー開
発の関連用語を解説し、その特性について論じている。後半の主部はモジュラー開発を前
提としたモジュラー契約について、連邦調達規則上利用することのできる各種の規定と、
いつどのように判断してそれらの道具を使い分けるべきかについての判断の指針を論じて
いる。
ガイダンスによれば、モジュラー開発とは全体的な目標を支える要素としての IT 投資、
プロジェクト、活動について焦点を当てたものであり、目標達成に向けて徐々にその実施
範囲が広がっていく基本的特徴を持つ。端的に言ってしまえば、最終成果物を幾つかのモ
ジュールに分割し、モジュールごとに順次開発を進めるということである。モジュールと
して何が適切な単位となるのかは事案により異なる。意識すべき単位として、IT 投資、プ
ロジェクト、活動という 3 つをガイダンスでは挙げている。IT 投資は予算配分上の単位で
ありしばしば非常に大きな金額を伴い、個々のシステム開発プロジェクトを包括する受け
皿として位置付けられる。プロジェクトはそれぞれに明確な成果物を定義された有期の活
動であり、活動はプロジェクトの要素である。モジュラー開発の単位はプロジェクトとな
るのが通例と考えられているようである。活動の期間という意味では、プロジェクトにつ
いては長くとも 6 ヶ月以内には最初の成果物を出し、プロジェクト内の活動については 90
日以下の日数で区切るのが典型的な例とされる。IT 投資をどうモジュールへと分割するか
については、仮想的な分割の一例が示されているのみで、詳細な具体例や判断の指針はガ
イダンスに含まれていない。
同じくガイダンスによれば、調達契約の設計時に考慮すべき次のような事柄がある。

契約方式はモジュラー開発に適しているか?
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数量・納期限不定(IDIQi)方式、一回のみの契約、段階的契約、パフォーマンス基
準契約など連邦調達規則(FAR)の範囲内で利用できる選択肢が複数ある。

支払いの戦略をどうするか?
これも同様に、固定価格、実費償還、インセンティブ設定など、受注事業者に対
する報酬設定の方法に規則上の選択肢が複数ある。

入札時の競争をどう活用するか?
競争を促すように公募方法などを練りこめばコストを安く上げることができるが、
他方で準備自身にコストが掛かる。

契約条項と文言をどのように構成するか?
モジュラー開発の基本である段階的納品を補強するようスケジュール制約などを
重視した条項を盛込むことや、前段階の納品物ありきで後続の発注が決まるよう
な仕掛けを取り入れる戦術が使える。

その他の考慮事項は検討しているか?
既にノウハウを有している他の省庁が提供する包括的基本契約に相乗りすること
と、中小事業者の参画を促すことが考慮事項として取り上げられている。
巻末には付録としてパフォーマンス基準契約に用いるパフォーマンス基準業務定義書
(PWSii)のひな形サンプルが収録されている。ただし、このひな形はわずか 3 ページのもの
であり、そのまま実用できるものであるかどうかは定かでない。
前述の通り、モジュラー開発が重視される理由は、マネジメント上のリスクが小さく納
品サイクルも短いことによる。実例として、ガイダンスの付属メモ123に記載されていた農
務省の IT 投資の紹介を抜粋する。
助成金受給者の状況をモニタリングする新しいソフトウェアの開発に着手する準備が整
ったという時、農務省ではこれらの過ち(訳注:大型開発の推進が招いた失敗)を避けようと
心に決めていた。農務省ではソフトウェアへの投資を個々のプロジェクトに分割し、最初
のプロジェクトは女性、小児および自動のためのプログラムに対するマネジメント評価ツ
ールにすることにした。更に、このプロジェクトを複数の活動に分割し、ツールの設計か
i
ii
IDIQ : Indefinite-delivery indefinite-quantity
PWS : Performance Work Statement
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ら進めていくことにした。農務省はこのソフトウェアの開発を受注事業者が順次進めるご
とに利用者からのフィードバックが得られるよう契約をしつらえた。情報収集と顧客フィ
ードバックからなるこれらのサイクルは、マネジメントしやすいプロジェクトの大きさと
相まって、納品を成功裏に達成する助けとなった。納品は契約の締結から一年以内に達成
された。利用者に対する納期は半減し、高く付く手戻りの非効率も避けることができたの
である。加えて、(訳注:この第一歩の成功によって)他のプログラムに対応するための機能
拡張を数ヶ月足らずの内にも素早くこなせるようになり、夏季フードサービスプログラム
と財務マネジメントレビューにおいて既にそれを実践してみたのである。
モジュラー開発推進のねらいは、このような成果をより多くの省庁において実現するこ
とにある。
施策[16] 革新的な中小技術企業への参入障壁を低減する。
中小事業者に対する連邦政府の契約方針をより明確で包括的なものにするという施策で
ある。2011 年末の時点では未着手となっている。具体的な施策の内容は 25 の施策にも現
れていないが、背景となる論理は述べられている。それによると、公共調達手続きへの対
応は負担の掛かるものであり、手続きそのものが中小事業者にとって参入障壁となってい
ること、他方で、大企業は漸進的なソリューションを提供するのに長けているが政府にと
って本当に必要な革新的なソリューションには中小事業者の方が適していること、を指摘
している。興味深いのは、発注規模が大きいと中小事業者による入札が困難になるため、
それを避ける意味でもモジュラー契約が有効であると示唆している点である。
尚、25 の施策との関係性ははっきりしないが、2012 年 7 月 6 日付で、連邦調達政策部
(OFPP)から通達124が発行されており、政府調達の実態として中小事業者への発注が依然と
して低率に留まっていることを踏まえつつ、積極的に中小事業者への発注を増やし、その
状況について行政管理予算局(OMB)に報告するよう求めている。
4.6.
技術サイクルと予算プロセスの親和性向上
PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化
C2. 技術サイクルと予算プロセスの親和性向上
17
モジュラー開発に適した IT 予算のモデルを議会と共同で策定する。
18
柔軟な IT 予算モデルのためのガイダンスと参考資料を整備する。
12: 推進中
19
柔軟な IT 予算モデルの適用範囲を議会と共同で拡げる。
18: 推進中
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6: 遅延
オバマ政権下の IT マネジメント改革
20
各省庁の CIO 管轄下のコモディティ型の IT 支出を議会と共同で整理統合する。
6: 遅延
施策[17] モジュラー開発に適した IT 予算のモデルを議会と共同で策定する。
予算に対する省庁の裁量を増やす方法を現行法制の調査の上で編み出し、試験運用のた
めの幾つかのパイロットプログラムを特定する施策である。背景となっているのは、モジ
ュラー開発のための予算管理を行うには、議会に対する予算案承認を申請する段階にも影
響があるという現行法制の事情である。
行政予算は原則として出費が実際に発生する会計年度に先行して予算案として議会に申
請されなければならないが、モジュラー開発は投資を段階的に進めてその中で組み換えや
部分的中止などの調整を行うことでリスクを最小化する手法であり、予め予算案を固める
という方法とは隔たりがある。このギャップを解消あるいは緩和するためには、議会と共
同で法運用を変更する必要がある。同時に、議会の立場では行政の支出を国民の立場から
チェックする必要があるため、綿密な調整が必要であることも明らかである。
以上の背景に鑑み、現行法制で各省庁に裁量が認められている各種の予算システムがど
こまで流用できるのかを分析し、幾つかの典型的な新しい予算運用の型を見出すことと、
その試験運用例となるパイロットプログラムを特定することを 25 の施策では目標としてい
る。まずは現行法制の範囲内で可能性を模索する取組であり、立法の手段に訴えるのは主
としていない。
この施策は 2011 年末時点で遅延とされており、本稿執筆時点でも完了は報告されていな
い。政府説明責任院の報告125によれば、遅延後の新しい期限は設定されておらず、2013 会
計年度中に次の動きをとる見込みとなっている。
施策[18] 柔軟な IT 予算モデルのためのガイダンスと参考資料を整備する。
柔軟性を確保した IT 予算モデルのベストプラクティスを抽出し関連資料を整備する施策
である。この種の予算モデルの必要性から始まって、より柔軟な予算モデルに至るまでの
道筋を示す資料になるとしている。
施策の内容は 2 段階に分けられている。
前半は一般的な IT プログラムの型を分類し、それぞれに関連する予算要求上の特性を分
析することである。この分析は CIO 協議会が行う。分析結果は状況別の判断シナリオとし
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て再編成され、IT プログラムの型ごとにどの予算モデルを活用すればよいかが示される。
後半は IT 予算の拠出に関する透明性向上のためのガイドライン整備である。予算に対す
る省庁の裁量を増やしつつ健全な財務運営とするためには透明性の向上が欠かせない。こ
の点について連邦 CFO と CIO 協議会が連携してガイドラインを整備するとしている。
この施策については 2011 年末の報告では完了とされているが、その後、本稿執筆時点の
CIO 協議会の Web サイトでは推進中の扱いとなっている。内容からは施策[17]の完了を
待たねばならないと考えられることと、成果物も開示されている様子もないため、施策[1
7]と共に現在も取組を継続中であると見られる。
施策[19] 柔軟な IT 予算モデルの適用範囲を議会と共同で拡げる。
前項に言う IT 予算モデルを試験運用するためのパイロットプログラムに実際に着手し、
進捗を踏まえつつ連邦政府全域へと適用範囲を拡げる施策である。前半はパイロットプロ
グラムを推進する限られた省庁との連携が主となり、その進捗と平行として行政管理予算
局が議会と共に政府内の他の領域への適用拡大について検討するとしている。この施策も
2011 年末時点では推進中となっており、本稿執筆時点でもその状況に変化がないため、実
情としては遅延しているものと見られる。
施策[20] 各省庁の CIO 管轄下のコモディティ型の IT 支出を議会と共同で整理統合する。
電子メールや Web サーバのレンタルなど、一般性が高く複数の省庁間で需要を一本化し
て共同発注できる種類のコモディティ型 IT サービスに適した予算モデルを編み出す施策で
ある。取組は行政管理予算局と議会が共同して推進するものとしている。更に、この予算
モデルの適用対象となるコモディティ形 IT サービスを毎年のペースで新たに特定し続ける
ことを標榜している。この施策は 2011 年末で遅延しており、本稿執筆時点でも状況に変化
は見られない。
4.7.
ガバナンスの軽量化とアカウンタビリティの向上
PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化
D. ガバナンスの軽量化とアカウンタビリティの向上
期限と進捗
21
投資レビュー委員会(IRB)を改革し強化する。
6: 完了
22
各省庁の CIO と連邦 CIO 協議会の役割を改正する。
6: 完了
23
TechStat を部局レベルで展開する。
18: 未着手
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施策[21] 投資レビュー委員会を改革し強化する。
各省庁の内部にあって IT 投資の承認と監督を司る投資レビュー委員会の活動強化を狙う
施策である。連邦政府の省庁における IT 投資は省庁内の投資レビュー委員会による審査を
経て実際の予算申請許可やトラブル発生時の継続判断を受ける。行政管理予算局によれば、
投資レビュー委員会の活動は多くの場合に形骸化しており、実効性のある仕組みとして機
能させるには改革が必要な状態である。この問題に鑑み、IT 投資事案に関する説明資料で
あるところの書式 53 と書式 300 の取り扱い規則を改定すると共に、TechStat セッション
を各省庁の内部でも各自で実践することによって、IT 投資が着実に監督されるよう仕向け
るのが本施策の骨子である。
書式 53 と書式 300 の取り扱い規則の改訂は通達 A-11126の改訂を通じてなされた。変更
点は多岐に及ぶが、大きな変化としては、まず書式 53 と書式 300 のそれぞれに対応するセ
クション 53 とセクション 300 の規定が廃止され、両セクションに記載の内容が IT 投資に
限定されない一般の規定として他のセクションに分散・併合された。この結果、資本プロ
グラミングガイド(CPG)に基づく資本性資産の調達に関する考え方が一般に適用されるこ
ととなった。その一方、書式 53 と書式 300 は維持されており、取り扱い規則は通達 A-11
の本体には含まれない付属文書127
128にて言及される形に変更されている。この附属文書が
これまでのセクション 53 とセクション 300 の改訂版に相当する。改訂の内容は主に考え方
の説明の明確化であり、一部には実効性の確保という意図が垣間見える。以下では書式 53
の取り扱い規則について、改訂の前後で特徴的な違いのある箇所を抜粋して翻訳する。注
目すべき差異については下線を付した。
旧
53.3 IT 投資によるプログラムパフォーマンスの改善を確かなものとするにはどうすれ
ばよいか?
<中略>(訳注:書式 300 に表されるビジネスケースや資本性資産の管理計画書に対する)
あらゆる附属文書は維持されるべきであり、かつ、行政管理予算局(OMB)の求めのあ
る場合にはいつでも参照可能な状態になっているべきである。
新
53.3 IT 投資を省庁の戦略計画に対するつながりを持ちかつ確かにこれを支えるものと
するにはどうすればよいか?
<中略>IT 投資の企画、開発、導入、運用に用いられる文書、および、省庁や部局など
の意思決定がもたらす効果を示す文書は維持されるべきであり、かつ、行政管理予算
局(OMB)の求めのある場合にはいつでも参照可能な状態になっているべきである。
旧
主要な IT 投資とは、システムあるいは調達事案であって、マネジメント上の注意を特
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に要するものを言う。<中略>どのような投資が「主要な」ものなのかについて判断に
迷う場合には、行政管理予算局(OMB)の予算担当者もしくは代表に相談を求めよ。
主要な IT 投資とは、プログラムであって、マネジメント上の注意を特に要するものを
新
言う。<中略>どのような投資を「主要な」ものとするかについては、行政管理予算局
(OMB)の予算担当者またはアナリストに相談を求めるべきである。(訳注:判断に迷う場
合、という条件付けがなくなり相談が原則化している。)
書式 53A は次の 6 つのパートからなる。
旧
1.
ミッション領域の支援のための IT 投資
2.
インフラ、OA 化、電話・通信のための IT 投資
3.
エンタープライズ・アーキテクチャと企画のための IT 投資
4.
補助金マネジメント・システムのための IT 投資
5.
国家安全保障システムの IT 投資
6.
州政府および地方政府の IT 投資に対する補助金
書式 53A は次の 6 つのパートからなる。
新
1.
ミッションの実務およびマネジメントの支援のための IT 投資
2.
インフラ、OA 化、電話・通信のための IT 投資
3.
エンタープライズ・アーキテクチャと資本計画、CIO 業務のための IT 投資
4.
補助金マネジメント・システムのための IT 投資
5.
国家安全保障システムの IT 投資
6.
州政府および地方政府の IT 投資に対する補助金
省庁の裁量に任せることで IT 投資マネジメントの質が低下しうる局面については行政管
理予算局の介入を増やす変更、FEA と投資プログラミングガイドの考え方については更な
る具体的な説明、プログラムマネジメントの観点からの議論の整理といった要素が今回の
改訂からは読み取れる。また、これまでは「すべき」とされていた行政管理予算局に対す
るドラフト版書面の提出が「しなければならない」扱いになるなど統制の強化が図られて
いたり、これとバランスをとるかのように IT セキュリティ投資に関する記載項目を集約し
て簡素化するなど記載上の負担軽減も取り入れられている。予算案申請に対するこの変更
の適用は 2013 会計年度からとなっている。
省庁レベルでの内部 TechStat セッションの実施状況については既に第 1 章にて述べた通
りである。ここでも再掲すれば、2011 年 12 月 8 日時点で 294 のセッションが実施済みで
あり、9 億ドルのコスト削減と 6 つの IT 投資の停止に至っている。この補助施策について
付記すべきことは、これらの内部 TechStat セッションを統括する責務が CIO に割り当て
られたことである。これが次項の施策[22]に繋がる。
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施策[22] 各省庁の CIO と連邦 CIO 協議会の役割を改正する。
各省庁の CIO の役割をポートフォリオ・マネジメントに集中させるという施策である。
CIO の職責は主にクリンガー・コーエン法によって規定されており、省内の情報マネジメ
ントと IT マネジメントを司るものとされている。しかし、特に後者の推進に際して必要と
なるはずの幹部会への参加や省内業務、調達に対する十分な権限を持たないままに業務に
携わるケースが多く、技術の専門家としての立ち回りからなかなか脱却できない傾向が長
年続いている129。前ブッシュ政権の頃から行政管理予算局(OMB)の覚書を通じてこれらの
課題に対する取組はなされていた130が内容が包括的・抽象的に表現されていたのに対し、
今回の施策では、CIO の職責を具体的に明示しており、実効性の確保に狙いがあると考え
られる。本施策に沿って発行された 2011 年 8 月 8 日の覚書131から、CIO の権限に関する
記載を以下に要約する。
今回の IT 改革に沿い、ただ指針を策定しインフラ維持に携わる今の CIO の役割を、あら
ゆる IT の真のポートフォリオ・マネジメントを包括するものへと変更する。本覚書は省庁
の CIO の主要な職責を明確するものである。
省庁の CIO は業務効率の向上に必要な責任と権限と共に任命されなけれならない。法に
定められた職責に加え、以下の 4 つの領域に関して CIO は主導的役割を果たさなければな
らない。
1.
ガバナンス
CIO は省庁の IT ポートフォリオ全体に関する責任者であり、IT 投資のレビュー
プロセスを率いなければならない。CIO は CFO および CAO と共同し、IT ポート
フォリオの分析を毎年の予算プロセスの中に確実に一体化させなければならない。
TechStat セッションの実施責任は CIO に置かれる。これらのセッションの成果(と
指摘)は正式に承認・完遂されなければならず、2012 年 6 月までにパフォーマンス
に問題のある IT 投資の 1/3 について中止または問題緩和の措置を達成しなければ
ならない。
2.
コモディティ型 IT
CIO は IT 投資の重複を除去し合理化を進めることに焦点を当てなければならない。
コストを削減しコモディティ型 IT サービスを改善するために、CIO は省庁の購買
力を統合・一本化しなければならない。CIO はカスタム化された個別のサービス
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ではなく共有型のサービスに対する選好を示さなければならない。
3.
プログラム・マネジメント
CIO は IT プログラム・マネジメントのトップ人材を特定・採用・雇用することに
よって大規模 IT プロジェクトのマネジメント全体を改善しなければならない。
CIO は主要な IT プログラムの責任者を訓練し、年次パフォーマンスレビューを提
供する。ガバナンスプロセスと IT ダッシュボードに基づき、CIO は IT プログラ
ムマネージャのパフォーマンスに関する説明責任を負う。
4.
情報セキュリティ
CIO もしくは CIO に対する報告を担う上級職員は、省内全域に及ぶ情報セキュリ
ティプログラムの実践と情報セキュリティの提供に関し、権限と主たる責任を有
さなければならない。
以上の領域に加え CIO は、運用コストの低減、問題を抱えたプロジェクトの中止または
緩和措置の実行、情報システムのセキュリティを高めつつも可能な限り速いペースで実用
的な機能を提供することについて、説明責任を負う。
更に、CIO 協議会を通じて省庁の CIO は省庁の垣根を超えたポートフォリオのマネジメ
ントを担うことが求められる。
上記の内容は 25 の施策の中で取り上げられている色々の課題と色濃く重なっていること
が分かる。言い換えれば、25 の施策の推進において実際にそれを反映するための責任の少
なくない割合を各省庁の CIO に割り当てている構図がここにある。
施策[23] TechStat を部局レベルで展開する。
省庁レベルでの TechStat セッションの成功を踏まえ、更にその内部組織である部局レベ
ルでもこれを展開するという施策である。2011 年末時点では未着手となっており、本稿執
筆時点でも実施状況は不明である。
4.8.
産業界との交流強化
PART II:大規模 IT プログラムのマネジメント効率化
E. 産業界との交流強化
期限と進捗
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24
「迷信打破」キャンペーンを立ち上げる。
6: 完了
25
要求定義に先立つ官民交流のための双方向プラットフォームを立ち上げる。
6: 完了
施策[24] 「迷信打破」キャンペーンを立ち上げる。
現行の調達制度に対する行政内の誤解を解くために正しい理解とあるべき取組の姿を広
く訴えるキャンペーンを打つという施策である。90 年代にも遡る調達制度改革を経て、現
在の連邦政府の制度では情報共有を深めるための官民交流は奨励されるに至っている。し
かし、公正性を重視する行政文化の観点からは、ともすれば癒着の温床とも受け止められ
かねない官民交流は消極的に受け止められており、しばしば違法であると誤解されている。
日進月歩の技術を相手にした IT 調達においては、このような心理的障壁に基づく相互理解
の不足が適切なソリューションの選択を妨げる大きな要因となっており、今回の施策はそ
の緩和を狙いとしたものとなっている。
具体的な取組は連邦調達政策部(OFPP)からの通達の形をとった啓蒙用パンフレットの公
開が主である。本稿執筆時点では 2 つの覚書132
133が発行されており、行政内に見られる次
のような「迷信」を否定している。
迷信
「入札する可能性のある業者と 1 対 1 で会ってはならない」
事実
「手心を加えることがない限りにおいて会うこと自体は一般に許されている」
迷信
「受注事業者との交流は情報開示の対象となるため記録作成の負担がある」
事実
「何もかもが情報開示の対象となるわけではなく大抵はその必要に当たらない」
迷信
「産業界との交流を制限してでも異議申立てを避けなければならない」
事実
「産業界との交流を制限することは異議申立ての抑止にならない」
迷信
「提案書を受領した後の議論・交渉は著しくスケジュールを遅延させる」
事実
「スケジュールの都合で議論を避けることはむしろ後々の問題を引き起こす」
迷信
「事業者との交流を増やすと非正規の提案が増え調達プロセスが遅延する」
事実
「非正規の提案は調達規則通り分離して取り扱いスケジュールから切り離す」
迷信
「連邦サプライ表iから発注する場合にはフィードバックを返さない方が良い」
i
連邦サプライ表(Federal Supply Schedule)は一般調達用(GSA)が運営するコモディティ
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事実
「フィードバックは官民双方にとって有益であり可能な限り返すべき」
迷信
「各種の官民交流イベントはあるが有益な情報は少なく無駄な機会である」
事実
「よく練られた官民交流イベントは要求に関する相互理解を深める貴重な機会である」
迷信
「プログラムマネージャが技術的課題について相手事業者と話し込んでいるのだか
ら契約担当官は要求定義書の発行に先立ってそれ以上特に先方と話さなくて良い」
事実
「技術的課題は調達の一部に過ぎないのであって、契約条項、価格構造、パフォー
マンス指標、評価基準等についてフィードバックを得よ」
迷信
「先行する情報開示期間が十分に長ければ要求定義書に対する産業界からの反応も
2、3 日以内に回収するとしてよい」
事実
「公募期間がわずかだと十分な数・質の提案を得られない恐れがある他、政府がこ
の調達に実は大して関心を持っていないという誤ったメッセージとなる」
迷信
「多数の事業者からの入札参加に応ずるのは困難に過ぎるから、実績のあるよく知
られた事業者とだけ交渉すれば良い」
事実
「馴染みのある事業者とだけ付き合っていては政府の損を招くのであって、中小事
業者を含む多くの事業者の競争を呼ぶ機会を模索すべきである」
これに対して、応札する事業者の側にある誤解も次のように指摘されている。
迷信
「自社を売り込む最良の方法はメーリングリストなどを使って契約担当官らにマー
ケティングを行うことである」
事実
「行政内では一般的なマーケティングによる過剰なアプローチは日常的に却って無
視されており、具体的な需要に基づいて省庁が開催する各種のセッションなどに参
加する方が良い」
迷信
「IT を専門とする行政関係者との打ち合わせには事業開発担当やマーケティング
部門などのスタッフだけで参加するのがよい」
事実
「IT 専門の行政関係者と打ち合わせる際には関連事項の専門家を参加させること
が遥かに有益である」
品の一覧表である。コモディティ品の多くについてはこの表を用いて簡単な手続きで発注
することができる。ここでは、このような手続きで発注を行った場合に、サプライ事業者
に対して何の情報フィードバックも与えなくてよいのかどうか、を論じている。
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迷信
「一般に要求定義書の開示前に既に省庁は調達要件やアプローチを決定しているの
でこの段階で我々事業者にできることは限られている」
事実
「早期段階における産業界からの情報収集は有益であり、省庁は一般に市場の現状
がどうであるかということについての情報収集に大いに労力を費やしている」
迷信
「行政関係者との対話を通じて重要な情報が競合他社に漏洩する可能性がある」
事実
「行政関係者には法的な守秘義務が課せられている」
迷信
「守秘義務の一環として既存の他の契約に関する価格等の情報も開示されない」
事実
「既存の契約に関する一般的な守秘規則は存在せずむしろ積極的な共有によるコス
ト効率の改善が奨励されている」
迷信
「行政関係者は提案の細部を読まないので提案策定にあたっても調達ごとの事情に
照らしあわせた細部の作りこみを行う必要はない」
事実
「調達要件に照らしあわせ提案の一致を検証するために契約担当官および評価チー
ムは念入りに提案を評価している」
迷信
「落札できなかった場合、特別有益な情報が得られることもないのでそれ以上の問
い合わせなどはすべきでない」
事実
「事業者指名に至る意思決定について理解し今後の入札に役立てるため問い合わせ
をすべき」
パンフレットの発行に加えて、連邦調達研究所(FAI)によるオンラインセミナー134の実施
や調達に関連する各種のカンファレンス等での呼びかけがキャンペーンの一環として 2011
年に展開されている。
施策[25] 要求定義に先立つ官民交流のための双方向プラットフォームを立ち上げる。
要求定義書を世に開示する前の段階で、広く色々のアイデアや可能性について情報を共
有し議論を重ねるためのオンラインコミュニティを立ち上げるという施策である。IT 市場
の現況に沿った適切な判断の一助となる。この施策については調達コラボレーションツー
ルキットという名前でオンラインコミュニケーションの場を設置したものと見られるが、
当該の Web サイト135は連邦政府関係者および契約事業者のみにアクセスが制限されている
ため、詳細は不明である。
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第5章. 政府説明責任院(GAO)による評価
これまでの章で述べてきた内容は基本的に連邦政府自身の開示する資料に基づいている。
これらの施策に対し、政府説明責任院(GAO)により第 3 者の視点からなされた多数の評価
報告書があり、その記載によれば進捗にも成果にも課題があるとされる。第 5 章ではこれ
らの評価報告を概観し、オバマ政権の施策の課題を取り上げる。
5.1.
支出情報の公開に対する評価
第 2 章で述べたようにオバマ政権における行政改革の屋台骨となっているのがオープン
ガバメント構想であり、中でもとりわけ IT 投資との関連性が深いのが透明性原則に基づく
支出情報の徹底した公開である。支出情報は USASpending.gov を通じて広く一般に公開さ
れているが、
その質については課題がある。政府説明責任院による 2010 年 3 月の報告書iと、
2012 年 7 月の最新の報告書iiの双方にもとづいてこれらの課題を取り上げる。
USASpending.gov の設立は 2006 年の政府拠出の説明責任と透明性に関する法律
(FFATA)に基づくものであるが、同法では連邦政府による施行状況について検証し議会に報
告するよう政府説明責任院に命じている。これに従い、政府説明責任院は 2009 年 6 月から
2010 年 3 月に掛けて調査を実施し、その結果が次のようにまとめられている。

調査時点で 29 省庁の内の 9 省庁において、報告すべき合計 15 の補助金支出に関する
情報が報告されていなかった。しかも、行政管理予算局では報告の実施状況を検証す
る仕組みを備えておらず、各省庁の自発的な協力だけを頼りにしていた。

100 件のランダムサンプリングに基づく支出情報の調査では、USASpending.gov 上の
情報とその情報源となった省庁の開示情報との間に幅広い不一致が見られた。100 件の
どのサンプルにも、少なくとも 1 個の空欄、または間違い、または情報の不足が含ま
れていた。この一因は行政管理予算局のガイダンスの記載が不十分であることによる。
これ以外にも調査時点での情報開示の遅れ(主契約のみの情報開示で下請け契約の情報を
欠いているなど)が指摘されているが、全体として大きな課題と言えるのは、情報の正確性
i
ii
GAO-10-365, “Implementation of the Federal Funding Accountability and
Transparency Act of 2006”, (GAO, 2011/03/12)
http://www.gao.gov/products/GAO-10-365
GAO-12-913T, “Efforts to Improve Information on Federal Spending”, (GAO,
2012/07/18)
http://www.gao.gov/products/GAO-12-913T
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や充実度に問題があり、にも関わらず行政管理予算局による対策が不十分なことである。
政府説明責任院では講ずべき是正措置として、検証プロセスの整備やガイダンスの更新な
ど幾つかの勧告案を示している。第 2 章で触れた行政管理予算局による「政府支出の透明
性」iや「政府支出の透明性と子請け支出および報酬情報の報告」136といった覚書はこの勧
告に沿ったものとも見ることができる。
上述の背景を踏まえつつ 2012 年 7 月に公開された最新の調査報告では、勧告に沿った改
善の取組が順次進められていることを認識する一方で、次のような課題が指摘されている。

USASpending.gov 上に以前は掲示されていた、省庁からの提出情報の適時性や完全性
に関する情報が消えてしまっている。この情報は行政管理予算局により管轄されてい
た。

前掲の「政府支出の透明性」の覚書では前項に言う適時性および完全性、そして正確
性を開示するためのダッシュボードを USASpending.gov 上に設け、四半期ごとに更新
するものとしていたが、調査時点ではそのようなダッシュボードが存在していない。

行政管理予算局には USASpending.gov の利用状況を議会に対して年次報告すること
が法的に求められているが、2010 年 7 月に 1 回の報告があっただけでその後の報告が
継続していない。同報告では同サイトが一般利用者からのアクセスを極めて多く集め
ていることが指摘されており、行政管理予算局ではこれら利用者からのフィードバッ
クに基づき改善を進めることになっていた。
2012 年 7 月 13 日時点で政府説明責任院が行政管理予算局の関係者に行ったインタビュ
ーでは、データの品質に関する情報を一般に公開するためのダッシュボードという考え方
は最早持っていないとの回答であった。行政管理予算局の判断によれば、これまでに発行
した覚書等に基づく情報の品質改善活動を徹底したいとのことである。
以上のように、理念としては画期的であると言えるオープンガバメント構想に基づく支
出情報の公開も、実施側面においては課題を抱えている状況である。政府説明責任院の報
告からも窺われるように、情報公開の監督を担う行政管理予算局の取組は十分でない。他
方で、情報を提出する主体となる各省庁の取組も疎かにされているわけではない。特に、
リーマンショックを受けた復興法関連の支出情報の公開については各省庁の内部で正式の
i
Memorandum, “Open Government Directive – Federal Spending Transparency”,
(OMB, 2010/04/06)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/open_gov/OpenGovernmentD
irective_04062010.pdf
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指針や手続きの整備が進んでいる。行政管理予算局以上に各省庁の自発的な取組が重視さ
れる傾向にあると言える。
興味深いのは、支出情報の一般公開を徹底することそのものから各省庁が得る便益は必
ずしも大きくない、という一部省庁からの指摘である。自らの業務遂行に必要な情報の洗
い出しや確保が十分であるとして、それを外部に公開したところで追加的に便益が得られ
るかどうかは状況による。これが連邦政府内において大勢を占める認識なのかどうかは政
府説明責任院の報告からは判然としないが、このような声もあって、外部公開を前提とし
ない自発的な取組に対する揺り戻しの力が働いている可能性もある。
5.2.
IT ダッシュボードと TechStat セッションに対する評価
情報公開の質に問題があるとの指摘は USASpending.gov に限定された問題ではない。IT
投資に直接に関わる IT ダッシュボードにも、
更にその原型である Management Watch List
にも同様の問題は見られ、その解消に向けた取組が連綿と続いて今に至っていることは第 2
章でも触れた通りである。以下では過去に認識された課題を掘り下げると共に、それが IT
ダッシュボードにおいてどう改善され今もなお残存しているのか、そして TechStat セッシ
ョン自体にも見られる各種の課題がどのようなものであるのかを述べる。
Management Watch List の課題
Management Watch List は毎年行政管理予算局に提出される書式 300 を主な情報源とし
て編成される要監視 IT 投資プログラムの一覧であり、2004 会計年度から 2008 年頃に掛け
て用いられていた。この一覧を元に、更に注視すべきプログラムをまとめたものが High
Risk List である。これらの一覧の質は書式 300 に記載の情報に大きく左右される。
Management Watch List に関して政府説明責任院より指摘された課題は、正にこの書式
300 の質の課題であった。
書式 300 はビジネスケースとも呼ばれ、IT 投資プログラムの目的、概要、課題、是正措
置が記載される。2007 年 9 月の報告137では、実際に行政管理予算局へ収集される書式 300
について次の問題点が指摘されている。

書式 300 の記入規定に沿っていない記載がなされる場合がある他、そもそも記載が欠
如している場合がある。

マネジメントおよび報告に関する連邦政府標準もしくは各省庁内標準の規定に対する
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準拠を示す証拠付けが必ずしもなされない。例えば、行政管理予算局の規定に従う形
で記載された書式 300 に含まれるコスト分析が見当たらなかった。

実費報告の欄に記載の内容が十分に管理された費用計上の仕組みに裏付けられておら
ず信頼できない。適切な仕組みがない場合、省庁は一般にその場凌ぎの手順で費用の
情報をひねり出している。
各省庁に対するヒアリングによれば、これらの問題は省庁の内部における情報の集計・
管理の仕組みが不適切であることに起因して生じたものである。3 つめの指摘にあるその場
凌ぎの手順による対応が如実に表れているのが、第 3 章でも述べたベースラインの不適当
かつ頻繁な引き直しであると言える。再掲すると、連邦政府の主要な IT 投資プログラムの
48%が何らかのベースライン引き直しを経験しており、更にその内の 51%は少なくとも 2
度の、11%は 4 回以上の引き直しを実施していた138。ベースライン引き直しの理由はプロ
ジェクトの目標変更や拠出予算の変動とされ、各省庁ともこうした引き直しに関する原則
を内規として設けていたものの、包括的で整備された内規は 2008 年 7 月時点では皆無であ
った。具体的には、新しいベースラインの策定および検証に関する手続きを規定するとい
った、政府説明責任院が認識するところのベストプラクティスが反映されていなかったの
である。政府説明責任院は、この一因は行政管理予算局からガイダンスが発行されていな
いことにあるとも指摘した。
以上が 2008 年頃までに認識されていた Management Watch List の課題である。ここで
も支出情報についての評価と同様に、情報の質、各省庁自身の取組の重要性、行政管理予
算局による支援の必要性という 3 つの要素が見出される。時期の違いも考慮すれば、これ
らは連邦政府におけるマネジメント上の情報の集約と分析における一般的課題であると考
えられる。
IT ダッシュボードの課題
IT ダッシュボードは連邦政府内の主要な IT 投資プログラムの状況を開示するオンライ
ンシステムであり、Management Watch List の後継に位置する存在である。Management
Watch List の更新責任は行政管理予算局に置かれていたのに対し、IT ダッシュボードの更
新は各省庁に責任がある。また、Management Watch List はただの一覧であるのに対し、
IT ダッシュボードは IT 投資プログラムが健全な状態にあるかどうかを示す評価情報を視
覚的に表現する仕組みであり、より抽象度の高い情報源となっている。政府説明責任院に
よる IT ダッシュボードに焦点を当てた調査報告は、2010 年 7 月と 2011 年 11 月に発行さ
れている。
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2010 年の報告書139で指摘された課題は次の通りである。

コストとスケジュールに関する評価が必ずしも正確でない。例えば IT ダッシュボード
上では 5%以内の超過や遅れに収まっているとされたものが、政府説明責任院による追
加検証では実際には 10%から 15%のずれの範囲にあり、注意喚起すべき対象となって
いる事例があった。この逆に、IT ダッシュボードは要注意とされたものが、追加検証
によればそうではないという事例も紹介されている。

コストとスケジュールに関する評価が必ずしも現在の状態を反映していない。前項に
言う不正確さの第一の原因は、最新の情報を考慮に入れて評価がなされていないこと
である。特に、プログラムに複数設けられているマイルストーンの内、評価の時点で
完了しているものだけが考慮されるため、最後に完了したマイルストーンが古いもの
であった場合、古い情報だけに基づいて評価が決定されることになる。

省庁によってプログラム当たりのマイルストーンの密度が異なる。例えばエネルギー
省のあるプログラムは 314 のマイルストーンを含むのに対し、国防総省の別のとある
プログラムでは 6 つだけが含まれる。マイルストーンの数はプログラムの規模や性質
によっても異なるが、省庁ごとに設定の基準が著しく異なるようでは、マイルストー
ンに基づくプログラムの評価が一貫しない。一般に、マイルストーンの数が多くなる
と過去の進捗評価に現在の進捗評価が引きずられる傾向があり、逆に少なすぎると得
られる情報が少なくなり評価の正確性が損なわれる。
2011 年の報告書140では情報の正確性の向上が報告されている一方で、現在状態の反映に
ついてはまだ課題が残っているとされる。行政管理予算局は 2010 年の報告の時点では政府
説明責任院とは意見を異にして、IT ダッシュボード上の情報は十分に最新化されていると
の立場であったが、2011 年 9 月には改善に向けた次の施策を示し、順次実施するとした。

プロジェクトレベルの状況に関し情報の提出を求める。書式 300 を改訂することによ
り、プログラムの構成要素となるプロジェクトについても情報を提出するよう求める。

ベースラインの更新を求める。既存の投資プログラムのベースラインを最新の情報に
基づき更新するよう各省庁に求める。合わせて IT ダッシュボードも改良する。

コストとスケジュールに関する評価指標の計算式を改める。現在進行中の取組の状況
が反映されるようにし、また、システムの運用と維持活動は切り分けて開発のみを評
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価の対象とする。
情報の質、各省庁自身の取組の重要性、行政管理予算局による支援の必要性、という前
節で示した 3 つの課題は共通して見出される。しかし、情報の質は情報の鮮度として、各
省庁の取組は各自の責任において報告の義務を果たすこととしてより具体化され、行政管
理予算局による指針や対処も積み重ねられるなど、Management Watch List の時代には開
示される情報が結局のところ IT 投資プログラム名の一覧程度でしかなかったことに比べれ
ば、課題を抱えつつも着実な改善を重ねている。
TechStat セッションの課題
本稿執筆時点では TechStat セッションを対象にした政府説明責任院による調査報告はな
い。しかし、TechStat セッションの対象となって改善したはずの IT 投資プログラムが実際
には課題を消化しきれぬまま一旦の区切りを迎えるに至った事例について調査報告141がな
されている。以下ではこの事例を取り上げる。
問題の事例は国立公文書記録管理局(NARA142)の電子的記録保管(ERAi)プログラムであ
る。同プログラムは国立公文書記録管理局の管理対象となっている様々な情報を電子化し、
検索等のアクセス可能な状態とする IT システム開発の取組であり、2001 年より継続して
いる。受注企業はロッキード・マーティン社であり、当初予定では 2012 年 3 月にすべての
開発を完了する予定であったところ、目標スケジュールの延期や想定コストの積み増しが
再三繰り返された。2011 年春時点で見積もられた総コストは 4.56~4.81 億ドルとなってい
る。最終的には 2011 会計年度末(2011 年 9 月末)に限定した範囲で機能を完成させそこで開
発が打ち切られており、事実上の中止判断がなされた状態となっている。
本プログラムを対象にした TechStat セッションは 2010 年 6 月に実施されており、行政
管理予算局から提示された 6 つの勧告に改善を進めたとされる。勧告の内容は公開されて
いないが、2011 年 3 月の政府説明責任院の説明によれば「2010 年 6 月に行政管理予算局
はプログラムの方向性を変更し、国立公文書記録管理局は機能を絞った ERA システムを
2011 会計年度末までに配備することを計画している」とあり、TechStat セッションでなさ
れた判断の実態はプログラムの規模縮小と中止であったと見られる。プログラムの中止判
断も辞さないとする TechStat セッションによる勧告の実例と言え、後には CIO 協議会の
Web サイト上で 6 ヶ月の期間短縮とコスト削減を実現した成功事例の 1 つとして紹介され
ている143。しかし、政府説明責任院によれば国立公文書記録管理局の支出計画に見えるプ
ログラム推進のあり方は極めてずさんであり、支出根拠の正当性が示されていないという
i
ERA : Electronic Records Archive
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評価であった。
本件に関しては民間の報道機関による掘り下げの方が充実した内容を伴っていると共に、
オープンガバメントの理念に反した情報公開の壁が認められる。FierceGovernmentIT.com
の報道 144 によれば、情報公開法に基づく公開請求に対しても行政管理予算局からは
TechStat セッションの詳細は開示されなかった。代替として国立公文書記録管理局に対し
予算拠出計画書の開示を求めたところこれは受け入れられている145。開示された計画書146
は 2011 年 1 月時点でのものだが、この時点でも政府説明責任院の勧告は 1 つを除いて今後
の対応課題とされており、ほとんど反映できていないことが読み取れる。最終的に開発さ
れたシステムは保管されている記録のごく一部しか検索できず、失敗プログラムというべ
き結果である147。国立公文書記録管理局によれば、当初構想からの差異については今後の
運用の中で少しずつ解消を目指すものとしている148。
以上の事例はあくまでも一例であって議論を一般化することは難しいものの、情報公開
に対する行政側の消極性、CIO 協議会と政府説明責任院の間に見られる評価の食い違い、
TechStat セッション後のフォローアップの不足など、TechStat セッションの課題を幾らか
推量することは可能であろう。
5.3.
IT マネジメント改革のための 25 の施策に対する評価
2012 年の 4 月から 7 月にかけて、政府説明責任院は 25 の施策に関する総合的な評価報
告書を 4 編149
150 151 152公開した。合計
200 頁以上ものこれらの報告書は、25 の施策の予
定期間満了を迎えての棚卸評価に相当する。
以下ではこの 4 編の内容を要約して紹介する。
実績の全体評価
政府説明責任院が特に重要と判断した 10 の施策の内、2011 年 12 月時点で完了していた
と政府説明責任院が判断したものは 3 つで、残る 7 つは部分的な完了に留まった。本来な
らば何れも完了している予定のものである。遅延を生じた 7 つの施策に共通するのは内容
が複雑さを伴っていることであり、2012 年の棚卸調査の時点でも取組は継続している。こ
れに対し、政府説明責任院が部分的完了とみなした 7 つの施策の内の 4 つを、行政管理予
算局は完了したものと認識している。行政管理予算局の見解によれば、評価に差異を生じ
た原因は長期的な継続性を持つ施策の取り扱いであり、継続性を確立するところまで漕ぎ
着けることを行政管理予算局としては完了とみなしたとのことであった。政府説明責任院
はこれに同意せず、上掲の 10 の施策iについて次のような評価を与えている。行政管理予算
i
調査対象外となった残る 15 の施策は次の通りである。
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局との間で認識に差異を生じている部分については下線を付した。

施策[1] データセンター統合計画の実施を補強する。

行政管理予算局の評価:完了

2011 年、各省庁は更新された統合計画を発行し、データセンター統合の取組にお
政府説明責任院の評価:部分的完了
ける専任プログラムマネージャを指名した。また、行政管理予算局は省庁のこれ
らプログラムマネージャらから構成される政府横断のタスクフォースを設置し、
月次で会合を開くとともに、データセンターの閉鎖に関する進捗を広く一般に開
示するためのダッシュボードを立ち上げた。しかし、省庁の更新した統合計画の
中には必須要素を欠いたものが含まれる。政府説明責任院がレビューを行った 3
つの省庁iの中では、司法省の計画においてマイルストーンの設定が欠けていた。
加えて、2012 年 2 月の調査報告153では、同様のギャップが複数の省庁の統合計画
の中に見出された。計画の不備について各省庁に問うたところでは、データセン
ターの統合計画作りには時間が掛り、多くの場合にはそれが不足しているとのこ
とであった。

施策[3] 「クラウド優先」のポリシーへ切り替える。

行政管理予算局の評価:完了

連邦 CIO はクラウドコンピューティングの利用を促す戦略を発行し、各省庁には
政府説明責任院の評価:部分的完了
クラウドに移行すべき 3 つのサービスを特定するよう求めた。加えて、政府説明
責任院が調査対象とした 3 つの省庁ではこれらのサービスの移行計画を策定済み
であり、2011 年 12 月を目標とした少なくとも 1 つのサービスの移行をそれぞれ
完了していた。しかし、どの省庁の移行計画にも重要な必須事項の記載が欠けて
いた。具体的には、必要なリソースに関する議論、移行のスケジュール、旧シス
i
施策[2] データセンター共同利用のための政府横断型の取引所を設ける。
施策[5] コモディティ型サービスのための典型契約を整備する。
施策[6] 共有サービスのための戦略を策定する。
施策[7] IT プログラムマネジメントに関する正式なキャリアパスを策定する。
施策[8] IT プログラムマネジメントのキャリアパスを連邦政府全域に拡げる。
施策[9] 統合プログラムチームの運用を要求する。
施策[11] TechFellow プログラムを立ち上げる。
施策[12] IT プログラムマネージャの官民間での異動を可能にする。
施策[14] IT 調達のベストプラクティスを特定し連邦政府全域で採用する。
施策[16] 革新的な中小技術企業への参入障壁を低減する。
施策[18] 柔軟な IT 予算モデルのためのガイダンスと参考資料を整備する。
施策[19] 柔軟な IT 予算モデルの適用範囲を議会と共同で拡げる。
施策[23] TechStat を部局レベルで展開する。
施策[24] 「迷信打破」キャンペーンを立ち上げる。
施策[25] 要求定義に先立つ官民交流のための双方向プラットフォームを立ち上げる。
国土安全保障省(DHS)、法務省(DOJ)、退役軍人省(VA)である。以下同様。
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テムの取り扱いに関する計画などである。ただし、政府説明責任院では継続して 7
つの省庁におけるより詳細なレビューを進め、その結果として不足情報が大幅に
減少する、クラウドへの移行が遅れていた事案について年末を目標とする最終ス
ケジュールが設定されるなどの改善が夏までに確認された。

施策[4] セキュアな IaaS ソリューションのための典型契約を整備する。

行政管理予算局の評価:完了

一般調達庁はセキュアなクラウド型サービスによるインフラソリューションに関
政府説明責任院の評価:完了
し一連の典型契約を整備し、連邦政府全体からこれらを利用できるようにした。
2012 年 1 月の時点で、各省庁は一般調達庁により認証された 3 つのベンダーから
選んでクラウド型ソリューションを調達できる状態を達成した。

施策[10] ベストプラクティスの共有プラットフォームを立ち上げる。

行政管理予算局の評価:完了

CIO 協議会はプログラムマネージャらがベストプラクティスとケーススタディの
政府説明責任院の評価:部分的完了
情報を交換することのできる Web ベースのコラボレーションポータルを開発し、
政府説明責任院の調査対象となった 3 つの省庁はいずれもケーススタディを行政
管理予算局に引渡し、ポータルにも掲載された。しかし、ポータルに掲載される
情報は効果的に体系化され編成されているとは言えず、プログラムマネージャら
がデータベースを検索し、自身の課題を解決するために情報を用いることを困難
にしている。例えば、クラウドコンピューティングに関するベストプラクティス
の検索を行うと 13,000 件以上もの結果が得られるが、期間指定を行い昨年分の範
囲に対象を制限すると 14 件にまで結果が減少する。しかも、クラウドコンピュー
ティングに関する明確なベストプラクティスを提示している資料はその内の 8 つ
のみである。CIO 協議会の副議長によれば、これは立ち上げたばかりのシステム
ゆえの不備であり、機能性の向上に向けた活動を継続中とのことである。

施策[13] IT 調達専門家の精鋭部隊を設計・育成する。

行政管理予算局の評価:完了

2011 年、
連邦調達政策部は IT 調達の専門家という職種を定義するガイダンスを発
政府説明責任院の評価:完了
行した。当該の職に就くにあたっての要件、ガイダンス、カリキュラムとプロセ
スが定められ、彼らの有する IT 調達のスキルおよび能力を強化するためのガイダ
ンスも整備された。精鋭集団の育成については、元来各省庁の自発的判断に依拠
するため、政府説明責任院の調査結果においても各省庁の状況は様々であった。
退役軍人省は IT 調達に特化した精鋭集団を抱えるが、国土安全保障省では立ち上
げ中であり、法務省ではそのような集団を賄うべきかどうかを検討中である。
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
施策[15] モジュラー開発のためのガイダンスとひな形文書を整備する。

行政管理予算局の評価:部分的完了

連邦調達政策部の関係者によれば、同部ではモジュラー開発のためのガイダンス
政府説明責任院の評価:部分的完了
の策定に向けて IT および調達分野のコミュニティと共同作業を進めており、産業
界側の指導者らからフィードバックを得たところである。しかし、政府説明責任
院の調査報告の時点では連邦調達政策部はモジュラー開発を支援するためのガイ
ダンスおよびひな形、サンプル文書を発行できていない。遅延の原因は、政府と
産業界の間でモジュラー開発とは何かを一貫した形で定義することが困難である
ことによるという。(4.5 で述べたようにその後ガイダンス類は発行された。)

施策[17] モジュラー開発に適した IT 予算のモデルを議会と共同で策定する。

行政管理予算局の評価:部分的完了

既存の法的な枠組みの中で予算の取扱いにどのような柔軟性が存在しており追加
政府説明責任院の評価:部分的完了
的な裁量の確保が必要なのかどうかを分析したと行政管理予算局は回答している。
また、追加的な裁量についての具体案(他年度予算や拠出の順次拡張)を推進するた
めに国会内の幾つかの委員会と検討を進めた。更に、政府説明責任院の調査した 3
つの省庁では、追加的な差利用の確保によって結果の改善が果たされるプログラ
ムが見出された。例えば、国土安全保障省は IT の運用とメンテナンス機能のため
の運転資金という枠組みを提案している。しかし、行政管理予算局のこれらの着
想に対し、予算にまつわる新たな権限を付与する法の整備は現段階では進んでい
ない。同時に、行政管理予算局ではこうした追加的な裁量と引換になるはずのプ
ログラムの透明性向上に関する選択肢を特定できていない。行政管理予算局の主
張によれば、議会との連携におけるスケジュール上の遅延は、そもそもの 25 の施
策が 2010 年 12 月に発行されたものであり、既に 2011 会計年度が始まった後で
あったことに一因があるとしている。つまり、現状から言えば次は 2012 年 10 月
より始まる 2013 会計年度以降にならなければ制度改訂を実態に反映することもで
きないという説明である。

施策[20] 各省庁の CIO 管轄下のコモディティ型の IT 支出を議会と共同で整理統合する。

行政管理予算局の評価:部分的完了

2011 年 8 月に行政管理予算局は覚書を発行し、各省庁は CIO の主導の下でコモデ
政府説明責任院の評価:部分的完了
ィティ型の IT サービスを統合するよう求めた。加えて、連邦 CIO は国会内の幾つ
かの委員会との間でこのようなコモディティ型 IT の統合に関する重要性を議論し
た。しかし、行政管理予算局の申告によればこの施策はスケジュール上の遅延を
生じており、覚書の内容の実践について議論を継続するとともに、コモディティ
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型 IT に適した拠出モデルの開発を省庁および議会との間で継続中である。
更には、
コモディティ型の IT サービスを共有型サービスへと移行するという課題について、
政府説明責任院の調査した 3 省庁では行政管理予算局に対し報告をおこなってい
なかった。省庁の説明によれば、その一因は行政管理予算局のガイダンス発行を
待っているためとのことであった。ここでも前項の施策[17]の場合と同様に、会
計年度とのタイミングの兼ね合いの問題が遅れの一因であると行政管理予算局は
説明している。

施策[21] 投資レビュー委員会(IRB)を改革し強化する。

行政管理予算局の評価:完了

2011 年、行政管理予算局は省庁からの IT 予算申請に関する要件を改定した。行政
政府説明責任院の評価:完了
管理予算局はまた各省庁の CIO を対象として、TechStat セッションの実施につい
てのガイダンス策定、発行、トレーニングの提供を行った。ここでいう TechStat
セッションの実施には、説明責任に関するガイドライン、関係者への呼びかけと
まとめ上げのコツ、評価プロセス、報告プロセスを含む。2011 年 12 月までには
24 の主要省庁全てで少なくとも 1 つの TechStat セッションを実施済みである。

施策[22] 各省庁の CIO と連邦 CIO 協議会の役割を改正する。

行政管理予算局の評価:完了

2011 年 8 月、行政管理予算局は CIO の役割を強化するよう各省庁に指示する覚書
政府説明責任院の評価:部分的完了
を発行した。これにより、各省庁の CIO は指針の策定とインフラの維持にばかり
責任を負うのではなく、あらゆる IT のポートフォリオ・マネジメントを包括する
役割を担うよう位置付けが変更された。しかし、CIO の権限は省庁によって様々
に異なっており、各省庁が覚書の指示を実現するには時間がかかることをを行政
管理予算局は認めている。政府説明責任院が調査した 3 省庁では 2 人の CIO があ
らゆる IT プロジェクトを包括する真のポートフォリオ・マネジメントの任にあた
っていると回答した一方、国土安全保障省の CIO の回答は否定的であった。なお、
政府説明責任院では各省における IT 投資ガバナンスのアセスメントを現在進めて
いる。CIO 協議会の役割の変更については、マネジメント上のベストプラクティ
スをテーマとする委員会を招集した。この委員会では各省庁の内部で行われる
TechStat セッションの結果を分析し、連邦政府の傾向を論じた報告書を 2011 年
12 月に発行した。
改善に向けた課題
政府説明責任院の評価において部分的完了とされた 7 つの施策については行政管理予算
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局および各省庁との間で改善に向けた取組を推進する合意が成立している。改善の内容は
下記の通りである。

施策[1] データセンター統合計画の実施を補強する。

2011 年 7 月、行政管理予算局は統合計画にすべての必須要素を補うよう各省庁に
指示した。
更新後の統合計画は 2012 年 9 月に各省庁から提出される見込みである。

施策[3] 「クラウド優先」のポリシーへ切り替える。

行政管理予算局の担当者は、必須要素の不備に合わせて施策[3]の完了を見直すこ
とはしないが、施策の成功を確かなものとするために各省庁に協力を求めると解
答した。改善は概ね 2012 年 7 月までに完了している。

施策[10] ベストプラクティスの共有プラットフォームを立ち上げる。

CIO 協議会は情報共有ポータルサイトの改善を約束したが、期限を設けることは
していない。

施策[15] モジュラー開発のためのガイダンスとひな形文書を整備する。


ガイダンスの発行が遅れていたが、最終的には発行に漕ぎ着けた。
施策[17] モジュラー開発に適した IT 予算のモデルを議会と共同で策定する。

行政管理予算局では、2013 会計年度に伴う大統領予算案の申請に際して必要な追
加的裁量を議会に対して要求する予定であるとしている。これについても期限は
設けられていない。

施策[20] 各省庁の CIO 管轄下のコモディティ型の IT 支出を議会と共同で整理統合する。

前項の施策[17]同様に、2013 会計年度の開始に合わせてコモディティ型 IT に適
した拠出モデルを提示し、議会と共同して新しいモデルの導入を図りたいと行政
管理予算局は回答している。やはり期限は設けられていない。

施策[22] 各省庁の CIO と連邦 CIO 協議会の役割を改正する。

行政管理予算局は 2012 年春に調査を行い、各省庁における CIO の位置付けを覚
書に沿って変更する上で必要な追加措置を洗い出すとしている。しかし期限は設
けられていない。
改善の必要性については行政管理予算局と政府説明責任院の間で認識をある程度共有で
きているが、具体的な対応については期限を設けることはせずに対応するなど、行政管理
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予算局の姿勢は必ずしも積極的とは言いがたい。
政府説明責任院が施策全体について指摘しているもう 1 つの改善点は、成果を評価する
ための指標の導入である。例えばデータセンターの統廃合を謳う施策[1]では閉鎖されたデ
ータセンターの数や期待される削減コストが指標となり、これらの指標を踏まえた上で、
2015 年までに 800 のデータセンターを閉鎖する、30 億ドルのライフサイクルコスト削減
を目指すといった目標が明確に定義される。しかしながら、前掲の 10 の施策の内でこのよ
うな評価指標と目標が設定されているのは施策[1][3][4]の 3 つにとどまっている。この
点について行政管理予算局は、25 の施策の多くは当初設定した期間を超えて継続的に改善
が進んでいく文化を醸成するための触媒であって指標の導入は必ずしも重要でなく、仮に
導入するとしても各省庁が自主的に行うことが望ましいと回答している。政府説明責任院
ではこれに同意せず、指標と目標の明確化は関係者の動機づけ、優先順位についての議論
活発化、パフォーマンスの改善に極めて有効であり、また、各省庁が独自の指標を用いる
ようでは政府横断で全体の評価を行う場合の一貫性が損なわれるとしており、行政管理予
算局に指標と目標の設定を求めている。
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出典一覧
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1987-11-20)
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http://www.whitehouse.gov/omb/procurement_default
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http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d100:SN02215:|TOM:
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よく知られるのは次の報告書。
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http://www.projectsmart.co.uk/docs/chaos-report.pdf
ただし批判的観点からの次のような反論もある。
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2008/12/17)
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.143.7918&rep=rep1&typ
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“House of Representatives Report 104-450 Conference Report”, (1995)
http://dodcio.defense.gov/Home/DoDCIO/DoDCIOLawsRegsandPoliciesPocketRefe
rence/HouseofRepresentativesReport.aspx
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1994/10/13)
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d103:s.01587:
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P.L. 104-106, "Clinger-Cohen Act of 1996", (Congress, 1996/02/10)
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Clinger-Cohen Act of 1996, Section 5125(b), General Responsibilities
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P.L. 104-13, “Paperwork Reduction Act of 1995”, (Congress, 1995/05/22)
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d104:S244:
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Clinger-Cohen Act of 1996, Section 5125(c), Duties and Qualifications
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Clinger-Cohen Act of 1996, Section 5125(d)
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Executive Order 13011, “Federal Information Technology”, (President, 1996/07/16)
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-1996-07-19/pdf/96-18555.pdf
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http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/omb/inforeg/egovstrategy
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P.L. 107-347, "E-Government Act of 2002", (Congress, 2002/12/17)
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http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/procurement_guides/070
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http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d108:HR01588:
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“Capital Programming Guide v3.0”, (OMB, 2011/08)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/a11_current_year/capital
_programming_guide.pdf
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Circular A-11
http://www.whitehouse.gov/omb/circulars_a11_current_year_a11_toc
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M-09-12, “President’s Memorandum on Transparency and Open Government Interagency Collaboration”, (OMB, 2009/02/24)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/memoranda_fy2009/m09
-12.pdf
※一般に公開された通達の日付は 02/24 となっているが、添付されている大統領から
の覚書”Transparency and Open Government”の日付は 01/21 となっている。
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Presidential Memorandum, “Freedom of Information Act”, (2009/01/21)
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/freedom-information-act
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M-10-06, “Open Government Directive”, (OMB, 2009/12/08)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/memoranda_2010/m10-0
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Open Government Dashboard
http://www.whitehouse.gov/open/around
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OIRA : Office of Information and Regulation Affairs
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http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ogi-progress-report-ameri
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The Recovery Act
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FPDS NG : Federal Procurement Data System Next Generation
https://www.fpds.gov/
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Open Government Directive: Senior Accountable Officials (SAOs)
http://www.whitehouse.gov/open/documents/open-government-directive/officials
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Memorandum, “Open Government Directive―Framework for the Quality of
Federal Spending Information”, (OMB, 2010/02/08)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/20100206-open-governme
nt-framework-quality-federal-spending-information.pdf
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Memorandum, “Open Government Directive – Federal Spending Transparency”,
(OMB, 2010/04/06)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/open_gov/OpenGovernm
entDirective_04062010.pdf
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and Subaward and Compensation Data Reporting”, (OMB, 2010/08/27)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/open/Executive_Compensation_
Reporting_08272010.pdf
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ており、親請け法人に対する利用者ガイドが提供されている。
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https://www.fsrs.gov/documents/FSRS_Awardee_User_Guide.pdf
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http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d109:s.02590:
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Wikipedia : Federal Funding Accountability and Transparency Act of 2006
http://en.wikipedia.org/wiki/Federal_Funding_Accountability_and_Transparency_
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http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d107:h.r.04878:
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P.L.111-204, “Improper Payments Elimination and Recovery Act of 2010”,
(Congress, 2010/07/22)
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d111:s.01508:
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TechStat
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http://gcn.com/articles/2006/09/21/omb-to-release-watch-lists.aspx
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(GAO, 2005/04/15)
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http://www.gao.gov/assets/120/117799.pdf
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Oversight of Projects Totaling Billions of Dollars", (GAO, 2008/07/31)
http://www.gao.gov/assets/130/120968.pdf
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http://georgewbush-whitehouse.archives.gov/omb/egov/vue-it/about.html
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http://www.whitehouse.gov/blog/2012/05/02/introducing-it-shared-services-strateg
y
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http://www.cio.gov/pages.cfm/page/White-House-Forum-on-IT-Management-Refor
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http://www.cio.gov/documents/Transforming_Federal_IT_Management.ppt
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Investments", (OMB, 2011/12/08)
http://www.cio.gov/itupdate.pdf
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その後 Vivek Kundra 氏はハーバード大学にて教職についた模様である。交代の日付
が明記された資料は未確認でるが、各自の着任日付は次の通りである。
President Obama Names Vivek Kundra Chief Information Officer
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/President-Obama-Names-Vivek-Kund
ra-Chief-Information-Officer/
President Obama Announces More Key Administration Posts
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/08/04/president-obama-announce
s-more-key-administration-posts
U.S. C.I.O. to Serve Joint Fellowship at Harvard
http://cyber.law.harvard.edu/newsroom/vivek_kundra_fellowship
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http://www.cio.gov/pages.cfm/page/FDCCI
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“Data Center Cosolidation Initiative: Agency Consolidation Plan Template”, (CIO
Council, 2010/02)
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"Federal Data Center Consolidation Initiative Initial Plans", (CIO Council,
2010/05/26)
http://www.cio.gov/documents/FDDCI-Initial-Plan-Memo-5-26.pdf
69
“Update on the Federal Data Center Consolidation Initiative”, (OMB, 2010/10/01)
http://www.cio.gov/documents/State-of-the-Federal-Datacenter-Consolidation-Initi
ative-Report.pdf
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"IT Reform: Task Force Will Drive Data Center Closures", (CIO.gov, 2011/04/07)
http://www.cio.gov/pages.cfm/page/IT-Reform-Task-Force-Will-Drive-Data-CenterClosures
71
CIO.gov: Data Centers
http://www.cio.gov/datacenters/
72
CIO.gov: FDCCI Public Plan Links
http://www.cio.gov/pages.cfm/page/FDCCI-Public-Plan-Links
73
“The Federal Data Center Consolidation Initiative”, (OMB, 2011/07/20)
http://www.cio.gov/documents/FDCCI-Update-Memo-07202011.pdf
74
“Implementation Guidance for the Federal Data Center Consolidation Initiative
(FDCCI)”, (OMB, 2012/03/19)
http://www.cio.gov/documents/CIO_Memo_FDCCI_Deliverables_Van_Roekel_3-19
-12.pdf
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“Tougher sledding ahead for data-center consolidation”, (FCW, 2012/05/18)
http://fcw.com/articles/2012/05/30/feat-data-center-consolidation.aspx
76
“The Federal Data Center Consolidation Initiative”, (OMB, 2011/07/20)
http://www.cio.gov/documents/FDCCI-Update-Memo-07202011.pdf
77
CIO 協議会が公開しているクラウドコンピューティングの概説資料には次のような
ものがある。
Cloud Computing Concepts
http://www.cio.gov/Documents/Cloud_Concepts_Fleming.ppt
Cloud Computing Basics
http://www.cio.gov/Documents/Cloud_Basics_Foxwell.pdf
Cloud Computing
http://www.cio.gov/Documents/Cloud_Computing_10-28-2009.zip
78
このスピーチそのものやイニシアティブの詳細資料は特定できなかったが、次の言及
がある。
CIO.gov: Streaming at 1:00: In the Cloud
http://www.whitehouse.gov/blog/Streaming-at-100-In-the-Cloud
CIO.gov: Vivek Kundra Speech at Brookings Institution
http://www.cio.gov/pages.cfm/page/Vivek-Kundra-Speech-at-Brookings-Institution
CIO.gov: Vivek Kundra Testimony on Cloud Computing (2010/07/01)
http://www.cio.gov/pages.cfm/page/Vivek-Kundra-Testimony-on-Cloud-Computing
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About FCCI
http://www.info.apps.gov/node/2
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“The NIST Definition of Cloud Computing”, (NIST, 2011/11)
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http://csrc.nist.gov/publications/nistpubs/800-145/SP800-145.pdf
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Cloud Computing Summit
http://1105govinfoevents.com/EventTracks.aspx?Event=CLC09#84
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QTA-0-09-MH-I-0003 , “Infrastructure as a Service (IaaS) offerings”, (GSA,
2009/05/13)
https://www.fbo.gov/index?s=opportunity&mode=form&id=d208ac8b8687dd9c692
1d2633603aedb&tab=core&_cview=0&cck=1&au=&ck=
83
Apps.Gov
https://www.apps.gov/
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“State of Public Sector Cloud Computing”, (CIO Council, 2010/05/20)
http://www.cio.gov/documents/StateOfCloudComputingReport-FINALv3_508.pdf
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“Federal Information Security Management Act of 2002”
http://csrc.nist.gov/drivers/documents/FISMA-final.pdf
※FISMA は E-Government Act of 2002 の Part III として法制化された。
86
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http://www.fedramp.gov/
http://www.cio.gov/modules/fedramp/index.cfm
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http://www.gsa.gov/portal/category/102439
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※CONOPS は Consept of Operations の略でサービスやプログラムの運営に関する
基本的なねらい、体制、プロセス、制約事項などをまとめた要件定義書に相当する資
料を言う。
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