カリブ地域における洪水被害軽減のための技術協力

カリブ地域における洪水被害軽減のための技術協力プロジェクト
海外事業部 技術部 荒木 秀樹
国際協力機構(JICA)は、カリブ海諸国の災害管理能力の向上を目的に、「カリブ災害管理プロジェクト(フェーズ2)」
(2009年2月~2011年12月)を実施中です。当社は、本プロジェクトのフェーズ1に引き続き、幹事会社として洪水管理に
関わる技術者をカリブ諸国に派遣し、技術支援を通して日本の国際協力に貢献しています。
カリブ災害管理プロジェクトの背景
プロジェクトの概要
カリブ海の東側に連なる大小アンティル諸島は、大型
ハリケーンの襲来による風水害、日本と同様に洪水災害
等により大きな被害を受けやすい地域です。また、カリブ
海諸国は経済規模の小さな国が多いことから、自力でこ
れらの災害に対処することが難しく、カリブ共同体(カリコ
ム)首脳会議における合意に基づいて設立された「カリブ
災害緊急管理機関(CDEMA)」が同地域の災害に係る地
フェーズ2では、当社を幹事会社とする共同企業体が
プロジェクトを受託し、ベリーズ、ドミニカ、グレナダ、ガイア
ナ、セントルシアの5ヵ国をパイロット対象国として、フェーズ
1での経験を踏まえた以下5項目の活動を中心に、CDEMA
及び対象国への技術支援を展開しています。(図1)
域調整機関の役割を担っています。
しかしながら、CDEMAは、総合的な災害管理を行う機
関としての体制(組織・技術・人材・機材等)が十分に整っ
ているとは言いがたい現状を抱えていました。
このような状況の下、カリブ海諸国の洪水管理能力の
向上を目的にJICAの支援により、「カリブ地域災害管理プ
ロジェクト(フェーズ1)」(2002~2006年)が実施され、引
き続き、2009~2011年の3カ年の予定で現在フェーズ2
が実施されています。
1)パイロット対象国における洪水氾濫解析の実施。
2)洪水氾濫解析結果にもとづく洪水ハザードマップ
の作成。
3)作成された洪水ハザードマップにもとづくコミュニティ
防災計画の策定。
4)コミュニティにおける洪水被害の軽減を目的とした
早期洪水警戒体制の構築。
5)カリブ地域を対象とした、ウェブによる水文データ
ベースの構築。
図1 プロジェクト位置図
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Working Report
プロジェクト活動
(1)洪水氾濫解析
パイロット対象国の河川状況は、ドミニカ、グレナダ、セ
ントルシアの島嶼国河川流域と、ベリーズ、ガイアナの大
陸河川流域に大別できます。島嶼国河川流域と大陸河
川流域では、流域の規模、洪水氾濫の形態、洪水被害
の発生状況等が大きく異なります。洪水氾濫解析の技術
支援にあたっては、国ごと・地域ごとに異なる自然的・社
会的特性を十分に考慮した技術指導を実施しています。
また、解析ツールとしては、GIS汎用ソフトとGISと連携し
た汎用解析プログラム(HEC-GeoHMS、HEC-GeoRAS、
FLO-2D)を活用し、GISに関するワークショップの開催や
解析マニュアルの整備と併せて、持続可能な防災管理
能力の向上を目指しています。(図2)
St. Lucia (Hec-GeoRAS Output)
(3)日本での研修
本プロジェクトの一環として、パイロット対象5ヵ国の防災
機関の職員を対象として、2010年2月16日より約1ヶ月
間、日本でのJICA国別研修が実施され、当社は研修の
企画・運営も担当しました。
研修員は日本における災害管理の技術手法や、国・
地方自治体・住民組織の各レベルでの防災への取り組
み等についての研修を受け、自国の災害管理の向上に
役立つ知見を習得しました。
特に、2004年の台風で大きな被害を受けた愛媛県西
条市大保木地区の住民による防災への取り組み事例の
研修では、同様の洪水災害の課題を抱える研修員に大
いに参考となったとともに、地域の方々との交流に深く感
銘されたと思われます。(写真2)
写真2 研修員と大保木地区の皆様
図2 洪水氾濫解析結果の一例(セントルシア)
(2) 参加型コミュニティ防災計画
コミュニティ活動による洪水被害軽減対策への技術指
導もプロジェクトの重要な活動要素となっています。パイロ
ットサイトのコミュニティを対象に、防災機関、地方行政機
関、地域住民が参加する合同避難訓練や図上避難訓
練の実施を指導し、コミュニティによる自助としての防災
能力の向上にも取り組んでいます。(写真1)
プロジェクトの今後
本プロジェクトでは、(1)洪水早期警戒体制、(2)洪水解
析、(3)洪水ハザードマップ、(4)コミュニティ防災、(5)水
文データベース/GISの5名の技術者が互いに連携しつつ
JICA専門家チームとしてプロジェクトに参画しています。
各専門家は、CDEMA事務所のあるバルバドスを拠点とし
て、パイロット5ヵ国を対象に活動を継続しています。
将来的には、本プロジェクトでの活動を通して培われた
技術が、本プロジェクト終了後もCDEMAを軸として、カリブ
地域の加盟各国に持続、展開的に普及することが期待
されます。これにより、CDEMA加盟各国の洪水管理能力
が向上し、カリブ地域の洪水被害が軽減されることを最
終目標としています。
写真1 住民参加による避難訓練指導(ドミニカ)
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