日建設計、講演会 平成 20 年 7 月 4 日 グローバル世界と日本 演者

日 建 設 計 、講 演 会 平 成 20 年 7 月 4 日
グローバル世 界 と日 本
演 者 、黒 川 清 、福 島 敦 子 さん司 会
司 会 ただいまから、日 建 設 計 グループ共 催 によります、NSRI 都 市 ・環 境 フォーラムを
開 催 させていただきます。本 日 はお忙 しいところお越 し下 さいまして、誠 にありがとうござ
います。本 日 のご案 内 役 は、私 、日 建 設 計 経 営 企 画 室 の谷 礼 子 でございます。どうぞ
よろしくお願 い申 し上 げます。(拍 手 )
本 日 のフォーラムは、内 閣 特 別 顧 問 の黒 川 清 先 生 にご講 演 をお願 いいたします。そ
して、キャスター、エッセイストの福 島 敦 子 さんをコーディネーターにお迎 えし、パネルト
ークをお送 りいたします。
黒 川 先 生 のご紹 介 は福 島 さんにお願 いすることとして、福 島 さんのプロフィールを私
どもからご紹 介 申 し上 げます。福 島 敦 子 さんは、テレビ東 京 の経 済 番 組 のキャスター
や、週 刊 誌 『サンデー毎 日 』でのトップ対 談 など、企 業 や経 営 者 の取 材 に勢 力 的 に取
り組 んでおられ、取 材 体 験 をまとめた著 書 も多 く出 版 されています。また、環 境 問 題 や
コミュニケーションなどをテーマとしたフォーラムや講 演 でも活 動 されています。
それでは、これから先 の進 行 は福 島 さんにお預 けいたします。福 島 さんのご登 場 です。
皆 様 、どうぞ盛 大 な拍 手 で福 島 さんをお迎 え下 さい。(拍 手 )
福 島 皆 様 、こんにちは。ご紹 介 をいただきました福 島 敦 子 でございます。本 日 のフォ
ーラムのコーディネーターを務 めさせていただきます。どうぞよろしくお願 いいたします。
(拍 手 )
私 と日 建 設 計 の皆 様 とのお付 き合 いは、今 から3年 ほど前 、2005年 のピンナップボ
ードでコーディネーターを務 めさせていただいたのが始 まりです。日 頃 、取 材 者 として、
経 済 や環 境 問 題 、コミュニケーションなど、様 々な現 代 社 会 のテーマと向 き合 って参 り
ましたが、ピンナップボードの際 には建 設 という違 う視 点 から、これからの時 代 にどんな
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ことが求 められるのかを考 えさせられた、大 変 貴 重 な経 験 をさせていただきました。
本 日 もピンナップボード2008ということで、新 たな時 代 に向 けて、意 欲 的 、挑 戦 的 な
建 設 のあり方 、都 市 づくりについてのプレゼンテーションがありました。改 めて、建 設 とい
うのは時 代 を映 し出 す一 つの鏡 であることを痛 感 させられました。
さて、ここからのフォーラムでは、グローバルに幅 広 くご活 躍 の黒 川 清 様 に、「グローバ
ル世 界 と日 本 」というタイトルで50分 にわたりご講 演 していただきます。その後 、ご講 演
の内 容 を受 けまして、さらに深 くお話 を伺 っていきたいと思 っております。
それでは、黒 川 様 のご経 歴 をご紹 介 いたします。黒 川 清 様 は内 科 ご専 門 の医 学 博
士 で、2003年 から2006年 9月 にかけて、日 本 学 術 会 議 会 長 ならびに内 閣 府 総 合
科 学 技 術 会 議 議 員 を務 められました。今 後 の日 本 の科 学 技 術 分 野 のあり方 、国 際
交 流 などについて、世 界 を舞 台 に啓 発 活 動 を展 開 されている、大 変 エネルギッシュな、
最 先 端 の科 学 者 でいらっしゃいます。
また現 在 、内 閣 特 別 顧 問 、政 策 研 究 大 学 院 大 学 教 授 として、毎 月 のように世 界 各
国 に出 向 かれ、そのご経 験 を基 に、今 後 の日 本 のあり方 についても積 極 的 に情 報 発
信 をされていらっしゃいます。本 日 のフォーラムでは、黒 川 様 ならではの視 点 で、日 本
が抱 えている問 題 点 を鋭 くご指 摘 いただけるものと期 待 しております。
そ れ で は 黒 川 様 、 よ ろし く お 願 い い た し ま す 。 皆 様 、 大 き な 拍 手 で お 迎 え く だ さ い 。
(拍 手 )
黒 川 ただいまご紹 介 いただいた、黒 川 でございます。このような暑 い時 にご苦 労 様 で
す。本 日 行 われた日 建 設 計 の展 示 会 を見 てみると、なかなかかっこいいと思 われたの
ではと思 います。このような素 晴 らしい技 術 を持 った皆 様 方 が、グローバル世 界 でどう
やってビジネスを打 って出 ていこうとしているのか。何 をしたいのか。できれば国 内 に引
っ込 んでしまいたいという気 持 ちもあると思 いますが、そうはいかないということなのだと
思 います。
今 年 、日 本 は世 界 に非 常 に注 目 を浴 びていました。例 えば、アフリカ開 発 東 京 会 議
(TICAD)という会 議 が1993年 からやられています。国 連 の開 発 プログラムと世 界 銀
行 との共 催 で5年 に1回 日 本 が主 催 していて、アフリカの国 家 元 首 も来 られる会 議 で
すが、今 年 5月 に第 4回 が開 催 されました。日 本 の方 はあまり知 りません。何 故 なら、こ
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ういう良 いことを政 府 が普 段 から広 報 しないからです。役 所 というのは、何 も知 られたく
ないという気 分 が内 在 的 にあるらしく、今 年 の初 めでも、「TICAD」や「アフリカデベロッ
プメント何 とか」とインターネット検 索 しても、外 務 省 のウェブサイトが一 番 先 に出 てくるこ
とはありませんでした。
このTICADに、今 年 はアフリカの 40 カ国 の国 家 元 首 や政 府 のトップが来 られて、大
変 素 晴 らしいプログラム、新 しい関 係 ができました。特 に小 泉 前 総 理 の提 言 された「野
口 英 世 アフリカ賞 」の最 初 の発 表 があり、これは大 変 良 かったと思 います。この賞 の委
員 として、医 学 研 究 でアフリカの問 題 について貢 献 した方 と、保 健 医 療 で活 躍 され方
をお二 人 が選 ばれましたが、まさにお二 人 とも野 口 英 世 の実 際 の活 動 を体 現 するよう
な方 でした。これから野 口 英 世 アフリカ賞 のアンバサダーとして、このお二 人 がご活 動
いただけると思 います。
その次 はご存 じの G8 サミットです。日 本 の新 聞 の論 調 はどうだったかわかりませんが、
海 外 のメジャーなメディアでは、日 本 は非 常 に頑 張 ったと評 価 しています。今 、トロント
大 学 に、G8 サミットのフォローアップの研 究 をするセンターがあり、それを見 ていただけ
ればわかると思 いますが、世 界 の状 況 を考 えるとかなり評 価 が高 かったと思 います。そ
の理 由 は、グローバルヘルスの問 題 、食 料 の問 題 、オイルの問 題 、アメリカ発 の金 融
危 機 の問 題 、クリーンエネルギーの問 題 などといろいろありましたが、少 なくとも今 年 の
G8 首 脳 は、メルケルさんを除 いて、自 分 の国 ではあまり支 持 されていない人 ばかりが
集 まっている状 態 だったわけです。アメリカでもブッシュさんの言 うことなど誰 が聞 くかと
いう雰 囲 気 がある一 方 で、次 の大 統 領 に なったら、ローカーボンソサエティ低 炭 素 社
会 へ向 かう、カーボン・キャッピングをやるとはっきり言 っているわけです。ですからこれ
をどうするかという話 です。
日 本 は、ご存 知 のような支 持 率 です。サルコジさんも最 初 は良 かったのが、あっという
間 に下 がりました。ゴードン・ブラウンさんも最 初 は上 がっていたのですが、選 挙 を打 って
出 るとところでつまずいて、なかなか決 断 できないトップということで、支 持 率 が一 気 に
下 がっています。ソ連 は、首 相 がいても、本 当 の実 力 者 は後 ろにいることをみんな知 っ
ています。50%近 い支 持 があったのはメルケルさんだけだったので、その割 には日 本 は
頑 張 ったという印 象 になりました。非 常 にポジティブなメッセージがあったと思 います。
今 日 のお話 は「グローバル世 界 と日 本 」です。皆 さんもビジネスなどで結 構 世 界 に出
かけられると思 います。このようなグローバル世 界 の中 で、どのくらい日 本 の存 在 が見 え
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てきますか。GDP が世 界 で 30 番 だというなら別 ですが、借 金 まみれとは言 いながらも、
日 本 の GDP は世 界 2 番 です。日 本 が借 金 まみれだということは、世 界 では普 通 あまり
知 られていないかもしれませんが、少 なくとも GDP2 番 目 の人 達 が、世 界 的 な課 題 に
対 して、何 をしたいのというのが全 然 見 えてこない。
外 交 の力 もそうかもしれませんが、企 業 にしても政 治 にしても、学 の世 界 にしてもメデ
ィアにしても、世 界 に発 信 するという意 識 があまりにも少 ない。見 られているという意 識
が少 ない。どうしても内 向 きの議 論 しかしていない。何 か言 う時 には、負 け惜 しみ的 にソ
フトパワーだ、まんがだと言 っていますが、それでは困 るわけで、「しっかりしてよね」とな
ることが大 切 なのです。新 しいキーワードが出 てきて、世 の中 がすっかり変 わっているの
に、日 本 は何 であんなに元 気 がないのというのが、世 界 からの一 般 的 な評 判 ではない
かと思 います。
例 えば皆 さんが世 界 に行 くと、いろいろなホテルに泊 まる。皆 さんが泊 まるようなホテ
ルは比 較 的 立 派 なホテルだろうと思 いますから、各 部 屋 にテレビが付 いているでしょう。
いろいろな放 送 がありますが、ローカルのテレビの他 に、BBC や CNN、ディスカバリーチャ
ンネルやナショナルジオグラフィックなど、いろいろなチャンネルがあります。中 国 では最
近 、CCTV というテレビ局 が二 つチャンネルをやっていて、英 語 で中 国 のことをガンガン
発 信 しています。アルジャジーラも英 語 で出 していますね。世 界 の共 通 語 は英 語 です
から、ローカルなテレビチャンネルは別 として、どんどん英 語 で発 信 しています。
日 本 はどうですか。何 が出 てくるかというと、NHK の BS で、ふるさとの何 かとかで、あい
かわらず日 本 から海 外 でご苦 労 さんというような調 子 でやっていますが、外 国 に向 かっ
て日 本 を宣 伝 している番 組 はありますか。そういう精 神 構 造 そのものに問 題 があるので
はないでしょうか。
塩 崎 恭 久 さんが外 務 副 大 臣 の時 に「三 十 人 委 員 会 」という委 員 会 をやりました。そ
の報 告 書 の 中 に日 本 発 テレビ国 際 放 送 の 強 化 という話 が書 いてありました。最 近 海
外 でも、NHK の BS で、英 語 の番 組 が結 構 出 るようになりましたが、もっと大 事 なことは、
NHK も大 変 いい番 組 をたくさん持 っています。例 えば世 界 遺 産 やアフリカ問 題 など、素
晴 らしいドキュメンタリーがあり、BBC に負 けません。そういう番 組 をどうして英 語 のナレ
ーションを付 けて出 さないのでしょう。
そういう番 組 がないのであれば、外 国 の日 本 ファンの人 にプログラムを選 んでもらって
出 したらどうだと言 っているのですが、NHK の偉 い人 に聞 くと、「これは NHK の規 則 上 で
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きないんですよ」と言 います。そんなのは規 則 を変 えればいいのに、「どうしてできない理
由 を先 に言 うんだ」と私 は言 うのです。変 える方 策 を考 えればいいのです。
1.
新 しい「キーワード」の出 現
世 界 がグローバルになってくる中 で、最 近 のキーワードを最 初 に共 有 しましょう。
最 初 のキーワードですが、10 年 くらい前 まで、世 界 中 で通 用 していたのは「国 際 化 」「イ
ンターナショナル」という言 葉 だったと思 います。最 近 はあまり聞 かなくなりました。みん
な「グローバル」と言 っている。何 故 、インターナショナルではなくてグローバルになったの
でしょう。これには理 由 があるはずです。それを考 えていただかなければいけません。
「インターナショナル」はあくまでも国 、ナショナルが基 本 になっている世 界 だということ
です。だからインターナショナルだった。ところが、最 近 は、国 境 を越 えて、ヒト、モノ、カ
ネなどどんどん移 り始 めた。そのために、逆 にナショナルアイデンティティーは何 かという
ことが問 われるわけですが、1番 目 のキーワードは「グローバル」です。
2番 目 。皆 さんが人 材 の育 成 ということをよく言 うようになったのは 1990 年 代 からで
すが、英 語 でも「ヒューマンリソースデベロップメント」という言 葉 がたくさん出 てきました。
企 業 も社 会 も、どうやって人 材 を育 成 するか。人 材 の「材 」は材 料 の「材 」ですね。とこ
ろが最 近 は、「ヒューマンキャピタル」という言 葉 が出 るようになってきました。そこで、『エ
コノミスト』や『ファイナンシャルタイムス』などの英 語 の雑 誌 を見 てみると、人 間 の能 力
開 発 について、「ヒューマンデベロップメント」「ヒューマンリソース」という言 葉 と「ヒューマ
ンキャピタル」が、2 対 1 で使 われるようになりました。まだキャピタルの方 が少 ないです
が、それでも、ヒューマンキャピタルという言 葉 が多 く使 われています。
何 故 か。これも同 じような社 会 背 景 があると考 えなければいけません。一 つひとつの
言 葉 の背 景 が別 の理 由 だという考 えをするのは、どちらかといえばこじつけです。やはり、
全 体 を仕 切 っているパラダイムが変 わっていると考 えなければなりません。何 故 ヒュー
マンキャピタルか。これは日 本 語 に訳 すとまた調 子 が悪 いのですが、やはり「人 財 」で、
「ざい」は財 産 の財 です。材 料 の「材 」ではなく、キャピタルです。少 し話 は違 いますが、
日 本 語 というのは、凄 く調 子 が悪 い。皆 さんがよく「きぎょうか」と言 います。皆 さんの前
の 時 代 は 業 を 企 て る「 企 業 」で す 。 最 近 大 事 な の は 業 を 起 こ す 「 起 業 」 人 で す 。「 起
業 」と「企 業 」は全 然 違 う意 味 ですが、これが同 じ発 音 だからまずいのです。というわけ
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で、ヒューマンキャピタルですが、これは何 故 か。
それから、最 近 、「イノベーション」という言 葉 がはやり出 しました。これは一 体 何 故 か。
これも、もともとは20世 紀 初 頭 の経 済 学 者 シュンペーターが言 った言 葉 なのですが、
最 近 になってイノベーションという言 葉 がビジネスや経 済 以 外 にも、政 策 等 に頻 繁 に使
われ始 めました。例 えば科 学 技 術 政 策 など、いろいろな範 囲 で使 われ出 したのは、せ
いぜいこの 10 年 くらいです。それは文 献 的 に調 べても確 かであり、リチャード・ネルソン
というイノベーションで有 名 な経 済 学 者 の最 近 書 いた『ハンドブック・オブ・イノベーショ
ン』という本 を見 ても、イノベーションという言 葉 が学 術 世 界 で突 然 増 えたのは、1994
年 からです。それまでの使 用 頻 度 は、1970 年 あたりからほとんど変 化 していません。
何 故 か。しかも、「リニアイノベーション」ではなくて、「ディマンドドリブン」や「オープンイノ
ベーション」という言 葉 が急 に出 始 めたのは何 故 かということを考 えて下 さい。
それからもう一 つは、最 近 言 われ始 めた言 葉 で「コア・コンピテンス」という言 葉 があり
ます。昔 は、ほとんど聞 きませんでしたが、そういう言 葉 がどんどん出 てくるようになった。
そして、もう一 つは「クラスター理 論 」。これはマイケル・ポーターが広 く提 唱 しており、97
年 の『ハーバード・ビジネスレビュー』あたりから出 てきて、クラスターがナショナルコンペ
ティティブネスの非 常 に大 事 な要 素 になってきていると書 かれています。それから、「ダ
イバーシティー」や「ヘテロジェネイティ」「アダプタビリティ」というキーワードなどが沢 山 出
てきていますし、「世 界 がフラットになった」という言 葉 も出 てきています。これはどういう
意 味 でしょう。
「フラットな世 界 」、これは「ニューヨークタイムス」のコラムを書 いているトーマス・フリー
ドマンの『The World is Flat』という本 からきています。彼 はその前 に、『The Lexus and
the Olive Tree』という本 も書 いています。ニューヨークタイムスで週 二 、三 回 、世 界 の
動 きをジャーナリストの目 から、非 常 にダイナミックに書 いて、それを本 にしたりと素 晴 ら
しい発 信 力 ですが、彼 が 2005 年 に出 した『The World is Flat』という本 には、「世 界 が
フラットになってきた。平 らになって世 界 中 がよく見 えるようになった。丸 い時 は裏 が見
えなかったが、みんな見 えてしまう、つまりコネクテッドワールドなってきた」という世 界 の
動 向 の背 景 を書 いています。
もう一 つ違 った状 況 があります。人 類 が今 まで経 験 したことのない環 境 問 題 という新
しい問 題 が出 てきました。100 年 前 と比 べてみればすぐわかりますが、100 年 前 によう
やく人 間 の人 口 が 16 億 人 になりました。ところが、この 100 年 間 で 66 億 人 です。とん
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でもなく増 えて、みんな長 生 きします。これだけの人 を支 えるスペース、エネルギーも大
変 ですし、水 、食 料 、資 源 をどうするのか、効 率 向 上 と環 境 汚 染 ということもでてきます。
これが環 境 問 題 です。今 日 、日 建 設 計 の展 示 でもあったように、みんな「環 境 問 題 、
環 境 問 題 」と言 っています。
これまで、地 球 環 境 問 題 がどういうふうに意 識 されてきたかを言 いますと、60 年 代 に
レイチェル・カーソンの『沈 黙 の春 』という本 が出 ました。そこには、産 業 経 済 の大 量 生
産 の規 格 品 や、農 薬 を使 った農 業 は効 率 が良 いから良 いという状 況 は、もうこれ以 上
は続 かず、すでにとんでもない環 境 になっているのではないかという話 が書 かれていまし
た。日 本 は水 俣 病 、イタイイタイ病 などです。そして、さらにその 10 年 後 の 1972 年 に、
ローマクラブが『成 長 の限 界 』という報 告 書 を出 しています。現 在 までの産 業 構 造 では
うまくいかなくなるという警 告 ですが、結 局 、冷 戦 が終 わるまでそれは止 まることはありま
せんでした。東 西 両 側 で 3000 発 くらいの核 弾 頭 ミサイルを持 って対 峙 していた時 代 が
あったわけです。
これが突 然 変 わってきたのは何 故 か。これまでも地 球 環 境 問 題 はありましたが、ここ
にきて突 然 石 油 も高 くなり、食 料 問 題 も出 てきた。でも、突 然 言 われてもなかなか変 わ
らないということで、これは大 きな政 治 的 イシューになった。2005 年 の G8 サミット以 来 、
これが中 心 のひとつです。それまで全 く予 測 されていなかった、世 界 を巻 き込 んだサブ
プライムから始 まったファイナンシャル・クライシス、オイルが上 がったことによる食 料 問
題 、さらに、ジオポリティカルな軸 が、大 西 洋 をはさんだところから、明 らかにアジアにシ
フトし始 めるという事 態 となった。そうなると一 体 何 が起 こるのかということです。冷 戦 後
のグローバル市 場 経 済 によって新 しいリッチがどんどん出 てきた、石 油 の高 騰 によって
中 東 に物 凄 くお金 が集 まる。その結 果 、サブプライムのレスキューも中 東 のオイルマネ
ーがするというような世 の中 に間 になりました。これが、たった 10 年 のことです。
2.20年 前 からの激 変
さて、そこで日 本 は何 をするのかということです。
91 年 に冷 戦 の枠 組 みがなくなってしまったことはやはり大 きなイベントでした。それま
で、世 界 の国 々は、どちらかに属 しているか第 三 世 界 でした。その時 代 は、東 西 のレジ
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ームが世 界 をがっちりと押 さえていたので、世 界 的 なコンフリクトやいろいろなことを、そ
の両 方 がかなり押 さえてくれていました。ところが、それがなくなった。一 気 に世 界 がグロ
ーバル市 場 経 済 になったのです。そこでアングロサクソンは、すぐに、「おっ、新 しいお客
さんが突 然 増 えてきたな」ということで、がんがんマーケットに出 てくるのですが、日 本 は
むしろセキュリティーがなくなってしまったので大 変 だという不 安 があった。アメリカにどう
しましょうというような態 度 が基 本 だったと思 います。
一 気 に人 、もの、金 が自 由 に動 くような市 場 経 済 になり、あっという間 に北 欧 はファイ
ナンシャルクライシスに襲 われました。今 や飛 ぶ鳥 を落 とす勢 いのノキアですが、フィン
ランドはその頃 、年 に 10%も GDP が減 るという、とんでもない危 機 に襲 われます。それ
を教 育 改 革 に重 点 を置 いて立 て直 してきました。それから 5 年 後 のアジアにもファイナ
ンシャルクライシスが起 こって、グローバルなマーケット市 場 というのは一 体 何 なのかを
思 い知 らされるわけです。
今 、世 界 中 がグローバル市 場 で動 いているのですが、もう一 つ、その次 の年 にとんで
もないことが起 こりました。それは世 の中 のあり方 を変 えるような技 術 革 新 です。1980
年 代 に、テーブルトップからラップトップのコンピューターがどんどん広 がっていったわけ
ですが、その後 、92 年 にワールド・ワイド・ウェブ、WWW が導 入 され、インターネットで一
気 につながりだした。コンピューターはみんな使 っていたのですが、Excel やワープロが一
気 につながりだし、世 界 が平 ら「フラット」になり始 め、情 報 が瞬 時 に届 く、アクセスできる
ようになった。
92 年 になって何 が出 てきたか。日 本 のメーカーはあいかわらずコンピューターをつくっ
て、より軽 く、より薄 く、より小 さくと言 っていたのですが、94 年 には、皆 さんが今 使 ってい
るようなヤフーやアマゾン、ネットスケープ、その次 の年 にはマイクロソフトが Windows95
を出 してきます。そしてネット社 会 の新 しいビジネスがたくさん出 てきます。もちろん、たく
さん失 敗 します。しかし、失 敗 しない人 は成 功 しません。そして、マイクロソフトのビジネス
モデルを壊 すような、Linux のようなオープンソースが出 てきてます。これが今 の中 心 に
なり、いよいよマイクロソフトも公 開 しなければいけないというところまで来 ています。つまり、
常 に競 争 で新 しいものが、それもとんでもないスピードで新 陳 代 謝 を促 進 する世 界 が動
いているのです。
今 まで、日 本 の経 済 成 長 を牽 引 した「政 産 官 の鉄 のトライアングル」といったパラダイ
ムは、すっかり根 底 から変 わってきています。それから日 本 では水 俣 病 やイタイイタイ病
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など、明 らかにレイチャル・カーソンやローマクラブがいっていたことが起 こっていました。
その経 験 を生 かしながら、どうやって今 それが起 こりつつある中 国 やインドに貢 献 できる
かということが、一 つの日 本 のセールスポイントです。
最 近 のビッグニュースは iPhone でした。実 は 1 年 前 の経 団 連 の夏 のセミナーに私 が
呼 ばれて話 したのですが、ちょうどその時 、アメリカで iPhone が出 たばかりでした。その
時 に、「あの iPhone をいじってみると、実 にユーザーフレンドリーで面 白 い。WiFi で、
iPhone の電 話 の機 能 以 外 は日 本 でも使 える、でも iPhone の電 話 機 能 が日 本 でも使
えるのに何 カ月 かかるか、何 年 かかるかが、日 本 の既 存 構 造 の抵 抗 勢 力 を打 破 でき
るかどうかの一 つの指 標 です」と言 ったのです。ちょうど 1 年 で達 成 されましたね。
1 年 で達 成 した理 由 は、実 は、iPhone のコンセプトが従 来 の携 帯 電 話 とまったく違 っ
ていたからです。日 本 のプロバイダーと言 われるドコモなどが、今 までは日 本 の携 帯 電
話 を「ああしろこうしろ、ワンセグだ」と言 ってやっていたのですが、iPhone はそれを越 え
てしまったわけです。とんでもないことを作 ってくれたので、むしろ日 本 のキャリアが「うち
でやらせて下 さい」と陳 情 に行 った。これは技 術 者 だけでは出 てこない発 想 なのでしょう
ね。
技 術 者 は、技 術 者 であり、必 ずしもカスタマーを向 いて仕 事 をしているわけではありま
せん。当 然 です。しかしいまのビジネスはどうお客 さんに向 いて商 売 しているかということ
が大 事 です。振 り返 ってみれば、97 年 はアップルにスティーブ・ジョブズが戻 ってきた年
ですが、あと 5 週 間 しかキャッシュフローがなかったのです。もうアップルはつぶれるぞと
いうことで、誰 が買 うかという話 になっていた。それが、10 年 でこんなに変 わってしまっ
た。iPod、iTunes、iPhone は世 界 一 のブランドになりました。スティーブ・ジョブズがした
ことですが、あの iPod を開 けてみてご覧 なさい。アップルが作 ったものは何 もないんです
が、中 の部 品 の四 つくらいは日 本 製 です。
日 本 のつよさはものづくりといいますが、これでは「部 品 屋 」ともいえます。確 かに部 品
の性 能 はいい。しかし、それだけでは勝 負 できません。アップルが作 っているのはコンセ
プトです。新 しいコンセプトをいかに単 純 にしながら、どうやってカスタマーに届 けるかです。
iPod の裏 は銀 色 でベタベタ指 紋 が付 きますね。あの試 作 品 も、日 本 人 が作 りました。
これは一 発 で合 格 です。これを作 っているのは台 湾 の会 社 で、その工 場 は中 国 にあり
ます。
日 本 は何 をしているのかということなのです。iPhone を出 してくると、今 まではメーカー
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が何 を言 っても言 うことを聞 いてくれないキャリアが、是 非 うちで使 って下 さいということ
でシリコンバレーに行 って、「スティーブ・ジョブズさんお願 いね」なんて言 っている。そう
すると、昔 のよしみもあって孫 さんが取 れるというような話 になってくるわけです。
こういう大 きな構 想 力 は凄 く大 事 です。日 本 の強 さは何 だと、経 済 産 業 省 、企 業 など
いろいろな人 に聞 くと「ものづくりです」「環 境 技 術 です」と。だからどうしたと私 は言 うので
す。それをお客 さんに届 けるような、お客 さんがお金 を払 っても買 いたくなるような、お
客 さんの気 持 ちをつかむものは何 かと言 うと、それは必 ずしも「もの」ではないのです。こ
れはエンジニアの理 屈 です。日 本 に欠 けているのは「物 語 」です。経 営 者 は、物 語 を語
らなくてはいけません。物 語 の中 の大 事 な要 素 の一 つとして「ものづくり」があるのです。
ソニーは井 深 さんと盛 田 さんの作 った会 社 ですが、60 年 代 に盛 田 さんは、「ソニーは
世 界 一 の会 社 になるぞ」と、家 族 一 緒 にニューヨークに移 りました。セールスマンとして
物 語 を売 った。iPod はソニーのものじゃないのと思 いたくなるような「もの」ですが、違 う
のです。こういうところから、今 の新 しい産 業 が出 るインフラが変 化 しているのです。
これによってできた IT でつながったフラットな社 会 で、何 をするのか。これが日 本 の一
番 のチャレンジでしょう。今 のエスタブリメッシュメントは、昔 の経 済 産 業 構 造 のパラダイ
ムと製 造 業 というリニアのジャストインタイムやセルという、一 つのプロダクションラインで
やっていく、経 営 は垂 直 モデルで大 成 功 したのですが、今 のフラットな世 の中 で問 われ
ているのは、新 しいビジネスであり、ビジネスモデルであり、自 分 の強 さを全 体 のスキー
ムのどこのコンポーネントに入 れて世 界 に売 る、世 界 のお客 さんの心 をつかむかというこ
とでしょう。
最 近 言 われていることですが、明 らかに新 しいビジネスモデルの出 現 とは、サービスを
どこに売 るかと言 うことです。世 界 中 に売 る必 要 はなく、それを一 番 欲 しがる人 たちに
売 る。世 界 中 に散 らばる顧 客 のニッチ、ターゲットをいくつも集 めて商 売 するのが非 常
に大 事 だとなってきたわけです。
クラスターというのは非 常 に大 事 です。クラスターはカルチャーや気 候 など、いろいろ
なことに培 われた特 異 な、文 化 的 なバリューがつくったものですので、ユニークなカルチ
ャーがあります。例 えばフローレンスのような場 所 やナパバレーのような場 所 などです。
フランスのワインは気 候 やいろいろな環 境 によった、いろいろな「エクスパティーズ得 意
なもの、こと」があるわけです。それをどうやって、世 界 の誰 に売 ると一 番 いいのかという
話 が新 しいビジネスモデルになってくるわけです。新 しい市 場 の形 成 。新 しい顧 客 層 を
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つくる。技 術 だけではないのです。
その一 番 いい例 がソニーのプレイステーション 3 です。これは本 当 に素 晴 らしい技 術
です。解 像 力 、画 面 は素 晴 らしい。技 術 者 も精 度 などにぐーっと突 っ込 んでいるから確
かにいい。ところが、ビジネスとなったら負 けてしまいました。Wii ですね。ソニーのモデル
は明 らかに若 い男 性 がターゲットだったのですが、男 性 も中 年 になるとそれから離 れて
しまいます。しかし、Wii は明 らかに、全 く想 定 していなかった新 しいお客 さんの層 をつか
みました。例 えば家 族 で一 緒 に楽 しめる。おじいちゃんも孫 娘 と一 緒 にゲームができる。
しかもやっているうちに汗 をかいて、少 し体 重 が減 るんじゃないのということで、一 挙 に新
しい客 層 をつかんでしまったのです。技 術 はもちろん大 事 なのですが、技 術 だけではなく、
いかに物 語 を作 って、心 をつかみ、売 るのかということです。任 天 堂 は今 や日 本 第 3,4
位 の企 業 です。
今 日 の日 建 設 計 が行 った展 示 会 を見 ていると、何 か物 語 を感 じますか。日 本 の人
は感 じているかもしれませんが、世 界 のお客 さんは感 じるでしょうか。相 手 がどういう価
値 観 で、どういう文 化 で、どういう社 会 的 な背 景 で、どういう地 域 的 な背 景 があって、だ
からどういう好 みなのか、嗜 好 なのか、価 値 観 なのかということです。人 によって好 きな
ものは違 うと思 います。
例 えば箱 根 の旅 館 で立 派 な旅 館 がいろいろありますが、2 月 くらいに行 くと、夜 中 はら
はらと雪 が降 ったりしています。そうすると、庭 の松 の枝 や竹 の葉 の上 半 分 に雪 が積 も
る。それを、下 からライトを当 てて見 ると、日 本 の人 はとても「美 しい」と思 うんじゃないか
と思 うのです。明 け方 4 時 頃 、私 もそういう場 面 を経 験 して、「本 当 にきれいだな」と思
ってしばらく見 ていたのですが、そんなことを中 東 の人 は感 じるかなと思 って見 ていまし
た。「これはとてもすばらしいんですよ」と言 っても、相 手 が納 得 するかどうかは全 然 別 の
話 なのです。
相 手 は何 が一 番 好 きなのかをどうやって知 るか。若 い時 から、いろいろな人 たちとの
付 き合 いがあればあるほど、違 った価 値 観 、何 が売 れるんだという話 がよくわかるもの
です。そういうモデルで出 てきたのは、例 えばリテールでは、ユニクロの柳 井 さん。凄 い
天 才 ビジネスマンですが、ザラというスペインのブランドが話 題 になっています。私 の本
『イノベーション思 考 法 』にも書 いたのですが、ザラは、今 日 本 にもアメリカにも進 出 して
いますが、当 分 の間 はヨーロッパ中 心 でいこうとしています。女 性 、子 どもの、割 に安 い
アパレルを売 っている店 ですが、男 の人 はほとんど知 らないと思 います。でも、日 本 でも
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多 くの女 性 は知 っています。
何 故 これを知 っているのかを考 えて下 さい。ザラは 60 年 代 くらいにできたスペインの
縫 製 工 場 ですが、IT を使 って、それぞれの国 、地 域 のお客 さんが好 きそうなものをつく
っています。ストックホルムやマドリッド、マルセイユなどいろいろなところに店 を出 してい
ますが、場 所 によってものが違 います。お客 さんの好 みが違 うのからです。常 に、お客 さ
んが欲 しがるものを出 すことによって、お客 さんにリピーターが増 えるのです。あそこに行
くと、つい買 いたくなる安 いものがある。同 じものを一 所 懸 命 にプレゼンテーションするに
しても、相 手 によって変 えないといけません。それはどうしたらいいでしょうか。相 手 を知
る。そして、個 人 的 な付 き合 いがたくさんなければというようなことがわかるようになって
くるわけです。
日 本 はどうしても技 術 が進 んでいたので、技 術 屋 さんが多 い。技 術 の人 はその技 術
に突 き進 みますから、いいはずだと思 い込 んでしまうのですね。でも、そうではないので
す。最 近 では野 村 證 券 が使 い始 めた「ガラパゴス化 」という言 葉 があります。技 術 の進
化 を国 内 だけでやっていることを言 います。
どういうことか知 っていますか。携 帯 電 話 は、世 界 で 1 日 に 100 万 個 売 れています。
そのうち 40%はノキアで、14%がモトローラー、14%がサムソンです。やっと 4 番 目 に日
本 の企 業 が出 てきます。「ソニーエリクソン」ですが、9%です。
ソニーがエリクソンとやると言 った時 に、役 所 も業 界 もみんな「裏 切 り者 」と言 った。数
年 前 ですよ。何 が裏 切 り者 ですか。そういう内 向 きの文 化 が困 るのです。携 帯 電 話 は
日 本 では 14 社 くらいで作 っていますが、世 界 の市 場 の 4%しか取 れないのです。国 内
では 3G とか言 って確 かにどんどん進 んでいますが、外 国 は 3G でないのだから、やった
って全 然 意 味 がないのです。技 術 が進 んでいると言 いますが、それは自 己 満 足 のガラ
パゴスです。外 ではイレレバント、意 味 がない、競 争 できないということになるわけです。
ところが、一 方 で、日 本 の強 さと言 えるのは、世 界 で売 れている携 帯 電 話 の内 部 の部
品 の 65%は実 は Made in Japan だということです。つまり、「モノつくり」ですね。
では、この「モノ」で勝 負 するとなると、インテルみたいな会 社 にならないと汎 用 品 での
勝 負 ですから難 しいですね。インテルだと、常 に部 品 のクオリティにしても、常 に一 番 で
ないといけない、ムーアの法 則 を実 現 していく、パラノイアしか生 き残 れないような会 社
にならなければいけない。それもしんどいというのであれば、「モノつくり」といっても何 をや
るかということが一 番 大 事 でしょう。
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3.日 本 の環 境 技 術
日 本 の環 境 技 術 も確 かに優 れています。ソーラーパネルもシャープなどから始 めてき
て、今 も素 晴 らしい。技 術 はいい。「だからどうした」と問 いかけましょう。皆 さんも会 社 で
考 えてみて下 さい。うちの技 術 は素 晴 らしい。だからどうした。技 術 が進 んでいなくても、
売 れるマーケットはいくらでもあります。というわけで、日 本 は水 処 理 技 術 も素 晴 らしい。
しかし、全 体 の大 きな都 市 計 画 をする時 、水 の全 体 の制 御 のシステムを日 本 が持 っ
ていますか。全 体 の制 御 が一 番 大 事 で、そうするとやはり部 品 屋 さんになってしまうの
です。水 の浄 化 技 術 は日 本 が一 番 いい。だからどうした。一 番 大 事 なのは、その大 き
な構 想 力 と相 手 が納 得 するような企 画 を持 っていき、ファイナンスはどうしよう、部 品 は
どうしようと言 う。そこが一 番 大 事 なビジネスになってくるわけです。それが弱 いのであれ
ば、何 故 弱 いのかと考 えることが大 事 です。
そうすると、誰 と組 んだら一 番 いいかという話 になる。弱 い人 同 士 が組 んでいても仕
方 がないわけなので、強 いところをどう生 かしながら、弱 いところを認 識 し、どこと組 むべ
きか、これがコラボレーションになります。コアコンピテンスで売 る。それをどうビジネスにし
ていくか、誰 とやったら一 番 いいかという話 を考 えていかないといけません。それがトップ
の決 断 であり、トップの見 識 です。社 長 さんも大 変 です。そんなわけで、実 はものづくりに
しても物 語 をどう構 築 していくかというのがすごく大 事 なのです。そして、グローバルなク
ライアント、どこの誰 をターゲットにして、どうアピールするか、これが大 切 です。
そういう構 想 をつくるには、野 中 郁 次 郎 先 生 が書 いていますが、「イノベーター」という、
今 までのフレームを変 えるような人 が必 要 です。「フロネシス」が大 事 だとおっしゃいます。
それは、単 なるビジネスとしてお金 を儲 けになるとかそんなセコいことを考 えるのではなく
て、これは絶 対 に世 の中 にいいはずだと考 える。或 いは、これは哲 学 的 にいっても美 し
いことだ、正 しいことだというような大 きな思 いに駆 られている。本 人 は意 識 していなくて
も、ゴールはすごく高 い。さらに、実 践 的 にそれを判 断 し、全 体 を動 かしていくことにどう
いう知 恵 を働 かせながらディシジョンしていくか。常 にそういう大 きな目 標 を持 って、実
践 的 に行 動 することがすごく大 事 で、本 人 が意 識 しているかどうかではない。それをフロ
ネシスと野 中 先 生 は言 っています。アリストテレスから言 われている概 念 、知 識 の知 だ
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けではなくて、実 践 的 な知 恵 、賢 さというか、そういうものが大 事 だということです。
その例 として、私 も「イノベーション 25」をやった時 も話 したのですが、みんな技 術 とい
うけれどもそうではない。例 えば皆 さんがスキーやゴルフバッグを持 っていかなくなってし
まったのは何 故 か。クロネコヤマトのせいではないですか。これをやった方 は小 倉 昌 男 さ
んですが、『小 倉 昌 男 の経 営 学 』を読 んでいただければよくわかるように、クロネコヤマト
の営 業 所 の職 員 の名 前 は、トラックで御 用 聞 きに行 ったり取 ったり配 達 する人 が一 番
上 で、ずっと逆 三 角 形 になっていって、一 番 下 に所 長 がいます。
何 故 かと言 うと、お客 さんの声 を常 に聞 いている人 が、一 番 大 事 な情 報 源 だというこ
とを認 識 し、実 践 しているのです。お客 さんの意 見 をどう実 現 するか。それじゃあやろう
じゃないかということをいろいろ考 えてやっていくわけですね。そういうのが小 倉 昌 男 さん
で、小 倉 昌 男 さんは、当 時 の一 大 抵 抗 勢 力 と思 われますが日 本 通 運 に抵 抗 し、その
仲 間 の運 輸 省 を訴 えてでも、お客 様 にいいはずだということで事 業 を進 める。あの方 は
それで会 長 になり、辞 められて何 をしたかというと、障 害 者 の支 援 運 動 を長 いことやら
れました。そういう思 いが基 本 にあったのですね。この会 社 は、みんなのために役 に立 ち
たいんだという、小 倉 さんの思 いが浸 透 しているから、運 輸 省 を訴 えてしまうくらいのこと
をやる。そういうようなフロネシスです。
本 田 宗 一 郎 さんもそうですね。何 が何 でも、技 術 とオートバイ。社 長 になっても一 緒
になってオートレースに行 って、地 べたに座 り込 んで走 り方 を見 ているわけです。「ここは
こうだぞ」ということで、社 長 にもかかわらずエンジニアと一 緒 に一 所 懸 命 に仕 事 をする
わけですよ。そういう人 ですが、本 田 宗 一 郎 も、1980 年 の始 めから、自 動 車 の本 家 ア
メリカに、アメリカの人 たちの役 に立 たなければ、恩 返 ししなければということで進 出 する
わけです。
80 年 はじめからインドにも行 っています。インドでヒーローという会 社 と合 弁 会 社 をつく
った。ヒーローが75%くらい株 を持 ってます。二 輪 車 の会 社 ですが、インド流 にやってき
ても、二 輪 車 はホンダだというブランドをつくりあげた。数 年 前 からは四 輪 車 も進 出 して
います。この間 もニューデリーの工 場 を見 てきました。インドの今 は 1 割 の人 が中 産 階
級 ですから、ハイエンドのお客 さんを目 指 して工 場 をつくってインドの技 術 者 をどんどん
入 、訓 練 し、雇 用 を増 やしています。「工 場 はきれいじゃなければいけないということを
教 育 するのは結 構 時 間 がかかりましたよ」と工 場 長 も言 っておられました。そういうこと
をやっているので、今 や、前 のスズキの会 長 だったインドの財 界 の大 物 も、「2 台 目 の車
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はホンダだよ」と言 っていました。そういう戦 略 はすごく大 事 です。何 も一 番 質 のいいも
のを出 すわけではなくて、日 本 のものをどういうふうに売 りながら、自 分 の会 社 がそういう
ところで定 着 してブランドをつくっていくかということが非 常 に大 事 です。
こういうことができるグローバルな世 の中 になったので、大 きな構 想 力 と異 質 性 と多 様
性 を認 識 した戦 略 がすごく大 事 です。その戦 略 は 10 年 20 年 の先 に実 現 するのかもし
れませんが、ソニーの盛 田 さんや本 田 宗 一 郎 さん、小 倉 昌 男 さんのような人 が、世 の
中 を変 えるイノベーター、革 新 的 なビジネスをつくりあげていく人 ではないだろうかと思 い
ます。そういう意 味 では、アップルのスティーブ・ジョブズもそうです。彼 は大 学 に半 年 し
か行 かないでやめてしまいました。
98 年 に二 人 の大 学 院 の学 生 が創 業 した会 社 があります。Google という会 社 です。
彼 らのお父 さんが両 方 とも物 理 学 者 が数 学 者 と思 いますが、二 人 とも物 理 をやってい
ました。90 年 代 に、毎 日 ものすごく膨 張 しているインターネット上 の情 報 を整 理 して、み
んなが何 かキーワードを入 れると一 番 ヒットが多 いところが出 てくるようにしようなんて、と
んでもないことを考 えているわけです。もう、どう見 たってクレイジーですね。
小 泉 総 理 は「変 人 」といわれていましたが、これを「クレイジー」と言 うのは間 違 いで、
「エクストラオーディナリー」と言 わなければいけない、外 国 人 記 者 に言 われたそうです。
Google も普 通 ではないですよ、98 年 に創 業 して、今 やもう 20 兆 。世 界 中 で Google
を知 らない、使 わない人 はきわめて稀 な人 種 になってしまうくらいです。しかも、ユーザ
ーからお金 を取 らないのが基 本 的 なフィロソフィーです。情 報 を管 理 することはものすご
いパワーを得 ることになってしまいますから、オープンということが一 番 大 事 です。
Google ではすべてのディシジョンメイキングの最 後 は、「社 会 のみんなのためにいいこと
なのか」ということが判 断 基 準 になっているそうです。
Google は猛 烈 に大 きくなってきましたから、いろいろな企 業 の部 長 さんや取 締 役 など、
ビジネスを結 構 経 験 した人 たちがも参 加 しています。そういう人 たちにそんな少 しばかげ
た様 な判 断 基 準 についての噂 は本 当 かと聞 くと、ばかげたくらいにそれが本 当 だと言 っ
ているそうです。みんなのためにいいことなんだということが、ディシジョンメイキングの一
番 の基 本 的 な哲 学 にあるというのはそういうことです。そういう人 たちが世 の中 を変 えて
いくのです。「枠 を外 れた」「変 人 」、「extraordinary な人 」たちが世 の中 を変 えるので
す、いつも時 代 でも、どこでも同 じことです。歴 史 が繰 り返 し示 しているところです。
こういう動 きの中 で、日 本 の強 みをどうするのか。ソーラーもそうだしハイブリッド自 動
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車 もそうだし、電 池 もそうです。原 子 力 技 術 も再 生 エネルギーの技 術 はあるのですが、
それを政 策 にする、ビジネスにいくところが一 番 弱 い。何 故 かというと、今 までの抵 抗 勢
力 があるからです。しかもグローバル時 代 になっても内 向 き思 考 が変 わらないのです。
抵 抗 勢 力 は変 えなければいけないのですが、それを下 からひっくり返 すようなエネルギ
ーがなかなかでないのですか。1990 年 までの 30年 間 の成 功 体 験 が染 み付 いている
のです。
この間 、韓 国 で、アメリカの牛 肉 を輸 入 すると言 った途 端 、政 権 がひっくり返 るほどの
大 騒 ぎになってしまっていますが、日 本 ではこうなってもひっくり返 るようなエネルギーは
出 てこないでしょう。これは何 故 か。日 本 のカルチャーがあるかもしれません。2 チャン
ネルなどを見 ていても、匿 名 が多 いですね。これは何 故 なのか。日 本 はムラ社 会 だか
ら、名 前 を出 した途 端 に無 言 の圧 力 がかかって、やられてしまう。山 本 七 平 さんのいう
「空 気 」でしょうか。閉 ざされた、息 の詰 まりそうな社 会 なのでしょうかね。
そういう意 味 では、Google があって、いまや YouTube があり、blog もあり、双 方 向 で
誰 でも、どこからでも発 信 できます。そんな時 代 なのです。それから、今 度 はフェイスブ
ックという、自 分 のアイデンティティーをいれたソーシャルネットワーキングも出 てくるなど、
新 しいモデルがどんどん出 てきます。日 本 では何 故 出 てこないのかよくわからないので
すが、そういうものが出 るとまず役 所 に言 われるのではないかというので、役 所 に相 談 に
行 きます。これは最 低 ですね。役 所 に行 ったら、前 例 がないことをやるわけがないです
から、これでは変 わりれません。
ソーシャルネットワークの YouTube だって、まずはやってしまう。文 句 があったらやめれ
ばいいんでしょという話 なのです。世 界 に発 信 する。どんどんやる。セカンドライフなども
そうですが、若 い人 たちが何 かやってみようと、どんどんやってしまう。文 句 があったら言
ってみろというわけです。まず法 律 ありきでは、このグローバル時 代 、世 界 競 争 に遅 れる
傾 向 はあ るで し ょ う。「 進 取 の 気 性 」、つま り「 entrepreneurship」 が 削 がれ て い るの で
す。
そういうわけで、どんどん進 んで、あっという間 にビッグビジネスになっていきます。フェ
イスブックも最 初 はハーバードの学 生 がお互 いにアイデンティティーを示 しながら、どうい
うことをやろうかという話 を、キャンパスを越 えていろいろなグループをつくってやっていた
のが、あっという間 にビッグビジネスになってしまいました。今 やヤフーやマイクロソフトな
どが買 いたいと言 っているのですが、結 構 高 い値 がついています。これを始 めた学 生 さ
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んは、そのまま就 職 しないで自 分 でフェイスブックをやっています。まだ二 十 五 、六 歳 だ
と思 いますが、すごいビッグビジネスになっています。そんな話 で、どこにニーズがあるか
というのはすごく大 事 なものだろうと思 います。
4.つながったグローバル世 界 へ Connected global world
そういう人 たちがどういうところから出 るかというと、違 った発 想 、行 動 、明 らかに「出 る
杭 」です。私 が参 画 した「イノベーション 25」で、科 学 技 術 のイノベーションは大 事 です
が、それを社 会 に浸 透 させる、つまりイノベーションの定 義 は「新 しい社 会 的 価 値 の創
造 」というふうに私 は提 言 しています。それを一 番 阻 害 するのは、従 来 の社 会 制 度 で
す。それは政 治 的 な問 題 と法 律 的 な問 題 があるのですが、それをやろうという人 たち、
つまり「エクストラオーディナリー」という「変 人 」、「出 る杭 」をもっと増 やさなければいけな
い。「出 る杭 を育 てる」という言 葉 が閣 議 決 定 文 書 に 4 回 も出 てきます。とんでもない
閣 議 決 定 かもしれませんが、みんな違 ったそれぞれの個 性 を伸 ばすということと、自 分
がやりたいことを、世 界 は広 いからどんどんやろうよというカルチャーをつくることが大 事
です。
もちろん失 敗 もたくさんあるでしょう。しかし、失 敗 しなかった人 は、所 詮 何 もできない
人 たちです。マニュアルがあったとしても、自 分 で失 敗 して初 めて賢 くなってくるのです
から、それをある程 度 上 の人 は許 容 する。一 人 ひとり、何 回 か失 敗 しながら学 び、賢 く
なってくる。是 非 、日 本 もそういう社 会 になってほしいと思 います。
そういう意 味 では、去 年 まであった産 業 再 生 機 構 という会 社 があります。こんど東 京
証 券 取 引 所 の社 長 になった斉 藤 さんが社 長 で、その下 の COO の冨 山 和 彦 という人 が
また新 しい会 社 をつくっています。この冨 山 さんが書 いた本 が去 年 2 冊 出 ました。再 生
機 構 で、カネボウやダイエーなど、いろいろな会 社 について支 援 したわけですが、彼 の
書 いた本 を見 てみると、身 につまされます。最 初 の本 は、『指 一 本 の執 念 が勝 負 を決
める』という本 で、彼 の結 論 は、今 までの社 会 のトップに上 がった人 はトーナメントで優 勝
したような人 たち。一 度 も負 けていないから、たまたまなっただけ。だけど本 当 の実 力 は、
リーグ戦 で勝 つ人 だと書 いています。リーグ戦 で負 けて賢 くなる、そこから勝 つ人 たちと
書 いていますし、『会 社 は頭 から腐 る』という本 も同 じような主 旨 で書 いています。
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城 繁 幸 さんが最 近 書 いた本 で、『内 部 から見 た富 士 通 「成 果 主 義 」の崩 壊 』というの
があります。彼 はそれを敷 衍 化 した本 も書 いて、さらに『若 者 はなぜ 3 年 で辞 めるの
か?』、その続 きで、『3 年 で辞 めた若 者 はどこへ行 ったのか』という本 も書 いています。
この間 、彼 と 1 時 間 くらい話 をしたのですが、若 い人 で元 気 があって、富 士 通 の話 も辞
めてから書 くわけですが、それは何 故 かというと、富 士 通 にはいろいろな素 晴 らしい人 た
ちがいるのに、これが生 かされていないからという思 いに駆 られているのです。彼 も独 立
して、若 者 へのコンサルテイングをやったり、若 い人 たちの教 育 や講 演 に行 ったりと苦
労 しながら活 動 しています。そういう人 たちがたくさんネットワークをつくりながらお互 いに
育 てていくのが、これからの日 本 の課 題 だろうかと私 は思 っています。
5.つながったグローバル世 界 へ Connected global world
そんなことで、若 い時 にはたくさん他 流 試 合 をしましょう。しかもこんな世 の中 だから、
世 界 に出 ていけという話 です。G8 の科 学 顧 問 の会 議 という会 議 を年 に 2 回 やっていま
す。今 年 の 6 月 の会 議 は私 が主 催 して沖 縄 で開 催 しました。その時 に、「ブレインドレイ
ン」(頭 脳 流 出 )ではなくて、これからの世 界 は、エネルギーや教 育 や水 問 題 など世 界
中 が共 通 の話 題 にみんながチャレンジしていくわけだから、「インターナショナル」ではな
く「グローバル」に考 えて、「ブレインサーキュレーション」(頭 脳 の循 環 )、1 年 間 、大 学
生 を、なるべくよその国 に行 かせよう、海 外 との交 換 プログラムを進 めようと言 ったら、
みんな大 賛 成 でした。
今 日 本 の大 学 生 で、海 外 に留 学 する人 はどんどん減 っています。ますます内 向 きで
すね。何 故 そうなるか。10 年 か 20 年 先 の上 司 を見 ているとそんなになってしまうので
はないのかと言 っている人 もいますが、ロールモデルに元 気 のある人 がいないと、若 者
は元 気 にならないですよ。というわけで、是 非 いろいろな仕 事 の人 も若 者 に、「やってみ
たらいいじゃないの。失 敗 したって俺 が責 任 を取 るよ」くらい言 って、少 しワイルドな人 を
伸 ばしてやるのが、会 社 の上 司 、大 学 の教 員 などの先 輩 たちの大 事 なミッションだろう
と思 います。
情 報 が広 がったということで、もう一 つ非 常 に大 きなインパクトがあるのは、会 社 のガバ
ナンスや大 学 のあり方 です。どのくらいこの人 たちは普 段 から世 界 の問 題 に気 をつけな
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がら、例 えば人 材 を育 成 するか。うちの会 社 にいるやつはよそからどんどん引 っこぬか
れちゃうんだよねなんていう会 社 なら立 派 なものです。そういう会 社 になるのか、あるい
は、あそこは国 際 的 に素 晴 らしい人 材 を次 々と輩 出 するという話 になるのか、あるいは
地 域 の貢 献 をするとか環 境 問 題 にどう対 応 しているとか、実 質 的 に CO 2 をどんどん減
らしているとなるのか。政 府 が言 っても抵 抗 勢 力 があってなかなか動 かないが、自 分 た
ちでどんどんやっていますよと言 うことで動 いていく。低 炭 素 社 会 へ向 けて東 京 都 はそ
ういうことで結 構 緻 密 な戦 略 を出 しています。
人 材 の育 成 、環 境 問 題 、エネルギーの効 率 、それから採 算 もそうですが、それでコー
ポレート・ソシアル・リスポンシビリティ CSR、企 業 価 値 コーポレートのバリューの 80%が
「見 えない価 値 、intangible asset」になっています、株 主 は当 然 ですが、世 界 から見
たステークホルダーによって評 価 されているのです。去 年 、アブダビ、ドバイにも行 かせ
ていただきましたが、どういうふうにあの人 たちは日 本 の企 業 を見 ているかというのが一
目 瞭 然 にわかってきてしまいます。今 は非 常 にいい関 係 ですが、この間 もアブダビの皇
太 子 から話 を聞 いたら、日 本 の企 業 はとにかくディシジョンが遅 い。何 かいい技 術 があ
るとは言 うが、それならどんどん来 ればいいじゃないのという話 をしています。一 人 ひとり
には会 社 の都 合 があるのかもしれませんが、世 界 的 なプロセスからみると、何 をやって
いるのかという話 になるのではないだろうかと思 います。
世 界 が一 つにつながってしまったので、その国 というより、むしろ企 業 、大 学 、個 人 、
団 体 、そして一 人 ひとりがどういう世 界 をつくろうとしているのかが問 われています。世 界
中 がつながっている世 の中 で、どういう存 在 でありたいのかという話 がなかなか見 えてこ
ない、そこにこそ日 本 の弱 さががあるのではないかと思 います。昔 も強 さはあったのです
が、これがこれからのグローバル時 代 には弱 さになってくることもあるのではないかという
ことを十 分 に自 覚 して、それぞれのキャリアをアップしていく。
今 までの社 会 制 度 で、右 肩 上 がりで政 産 官 の鉄 のトライアングルと、年 功 序 列 で、う
まくいっていればいいのですが、これはいずれ破 綻 します。これに固 執 すればするほど、
国 も企 業 も、何 となくじり貧 になってくるわけで、これが政 治 の世 界 でも難 しいところです。
政 治 は、今 までの民 主 的 な制 度 の中 では世 界 中 そうですが、どうしても自 分 の選 挙 区
で一 つか二 つのイシューで争 ってくるわけです。
情 報 は広 がっているといっても、皆 さんの毎 日 の生 活 があります。選 挙 で落 ちてしまう
と政 治 家 はただの人 になります。しかし大 きなステイツマン、リーダーも必 要 です。私 は
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たまたまトニー・ブレアさんとも仕 事 をしていますが、世 界 は次 のアメリカの大 統 領 は何
をするのか、中 国 のリーダーシップは何 をするのか、これらが世 界 の注 目 です。中 国 も
現 場 に行 ってごらんなさい。この間 の四 川 の地 震 もそうですが環 境 はひどい状 況 で、こ
れはすごいリスクだということを向 こうのリーダーも十 分 に知 っています。それをどうやっ
て、政 治 レベルとは違 うところでいろいろな交 流 をしていくか。これは、日 本 のとても大 事
なミッションです。
情 報 が広 がっているところでは、何 事 も隠 せません。透 明 性 によってどうやってガバナ
ンスを進 めていくかということが、コーポレートであれ、大 学 であれ、組 織 であれ、政 府 で
あれ重 要 です。それが世 界 に非 常 に広 がって、世 界 から見 られています。そのことを十
分 意 識 しながら、特 にリーダー的 な責 任 ある地 位 にある方 々、社 会 的 に責 任 のある立
場 の人 が日 常 の行 動 で示 すことが、国 の全 体 の責 任 なり信 用 の一 番 大 事 なエッセン
スになっていると思 います。
そういう意 味 では、今 のサブプライム問 題 もそうですが、アメリカの信 用 が何 となく落 ち
ています。ブッシュさんもいよいよ辞 める。次 の大 統 領 は誰 だといって世 界 中 が動 いて
いるし、明 らかに、アメリカでも大 きな企 業 はみん炭 素 キャッピングしようとホワイトハウス
に圧 力 をかけているような時 代 になっています。日 本 のリーディングカンパニーの動 きは
どうでしょうか。どうやって日 本 のプレゼンスを示 し、まだ世 界 2 番 目 の GDP として、グロ
ーバルな課 題 に、経 済 成 長 に、雇 用 に、社 会 に、世 界 に貢 献 していくのか。
成 長 するアジア、大 きく変 わってくる世 界 のダイナミズムの中 で、そういうところで生 き
ていく、そして日 本 の、いや世 界 のリーダーになるような人 材 を一 人 でも多 くつくるという
ことは、非 常 に大 事 な課 題 だと思 います。一 人 ひとりがそれぞれ考 えて、自 分 のできる
ことを、日 常 的 に 5%でもいいから足 を踏 み出 してみようということをしなければいけない
し、特 に若 い人 には 10%も、20%も踏 み出 せくらいのことをするようにぜひエンカレッジ
していただく。10%踏 み出 したら足 のすねに当 たって、痛 いと思 えば少 し利 口 になってく
るでしょう。これが知 恵 のモトです。
やってみなければわからないという世 界 が実 際 です。確 かに知 識 が増 えた、ナレッジ
ベースドソサエティではありますが、実 践 をしない人 はちっとも賢 くないというのが残 念 な
がら真 実 です。若 い時 にはいくつもガチンコ勝 負 をする。何 も国 内 だけではなくてもいい
んだよということで、若 い人 のポテンシャルを伸 ばすような企 業 であり、組 織 であり、社
会 を構 築 していくことこそが、私 たち一 人 ひとりの大 きな課 題 だと思 います。
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世 の中 が変 わっているのに、どうして変 われないのか。実 をいうと、だんだん変 わって
います。若 い人 たちで素 晴 らしい人 たち、どんどん自 立 している人 たちがずいぶん出 て
きています。その人 たちは埋 もれているわけではないので、そういう人 たちを私 は応 援 し
てあげたいと思 っています。皆 さんも是 非 そういうところで努 力 して下 さい。若 い、やる気
がある人 の、それぞれの能 力 をどうやって伸 ばしてあげて、全 体 としてのどう組 織 をつく
るかというのは大 きな課 題 です。今 日 の展 示 も、素 晴 らしいものがたくさんあります。「だ
からどうした」、これこそが一 番 大 きな課 題 です。グローバルのビジョンをもって、戦 略 を
構 築 するというところこそに日 本 の一 番 のチャレンジがあり、実 はスリル満 点 のおもしろ
い世 界 が開 けているのではないかと思 います。
ご清 聴 、どうもありがとうございました。(拍 手 )
黒川清先生
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パネルトーク
福 島 黒 川 先 生 、どうもありがとうございました。今 世 界 がどう動 いているのか。またその
中 で日 本 の現 状 はどうなのか。黒 川 様 ならではの俯 瞰 的 な視 点 でさまざまな問 題 点
を指 摘 いただきました。私 自 身 も日 本 人 として、いろいろな意 味 で危 機 感 が募 った思
いがしました が、さらに 今 のお 話 を 受 けて 、黒 川 さ んにお 話 を 伺 って いきたいと 思 いま
す。
黒 川 さん、再 びご登 場 いただけますでしょうか。(拍 手 )
大 変 貴 重 なお話 をありがとうございました。いろいろな意 味 で考 えさせられまた。何 を
まず、どうお聞 きしようかと惑 ってしまうのですが、ご講 演 のお話 と重 なる部 分 もいくつか
あるかと思 いますが、今 本 当 にグローバル市 場 経 済 で、インターネットがこれだけ普 及
して、情 報 が瞬 時 に世 界 中 を駆 けめぐる。まさにフラットな世 界 が構 築 されているわけ
です。確 かに世 界 がそういう中 でドラスティックに変 わっているのに、日 本 だけが何 か変
われていない。しかも、変 わっていないことに対 しての危 機 感 すら、私 たちは非 常 に希
薄 だという気 がするのですが、そのへんの危 機 感 のなさというのは、黒 川 さんはどういう
ふうに見 ていらっしゃるのでしょうか。
黒 川 最 近 いろいろな若 い人 でも、「日 本 はいいところだよ、犯 罪 も少 ないし、気 楽 に行
けるし」という人 たちが結 構 出 てきている。これもちょっと恐 ろしいですね。そういう意 味
では、もっと世 界 に出 てみると楽 しいこともたくさんあるし、たくさんの友 達 ができるのにな
と思 い、少 し惜 しい気 がします。
一 番 彼 らに欠 けているのは、自 分 の 10 年 先 、20 年 先 を象 徴 するようなロールモデ
ルがまわりにいないということですね。やはり難 しい課 題 らしい。そういう大 きなチャンス
があるので、若 者 たちには是 非 羽 ばたいてほしいと思 います。
福 島 黒 川 さんのご本 の中 にも書 いていらっしゃいますが、技 術 革 新 というのはイノベ
ーションではないんだと。今 のお話 にありましたが、その技 術 を使 って社 会 の仕 組 みをど
う変 え、人 々のライフスタイルをどう変 え、新 しい価 値 をどうやって生 み出 していくのか。
そこにたどりついたときこそ、初 めてイノベーションなんだということを主 張 されていますよ
ね。まさにそのとおりだと思 うのですが、技 術 革 新 からイノベーションにいたるまでの戦 略
が非 常 に欠 如 しているわけです。これはどうやって、例 えば日 本 の企 業 やいろいろな組
織 が、こういう戦 略 、構 成 力 というお話 もありましたが、そういうのを身 につけていくには
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何 が必 要 になってくるのでしょうか。
黒 川 シャープの片 山 さんは 49 歳 で社 長 になった。去 年 、関 経 連 で話 したときのこと
なのですが、その 2 週 間 前 にシャープの新 しい社 長 が発 表 され 49 歳 と新 聞 に出 た。
そういうニュースは日 本 だけのものかと思 うと、世 界 中 ですぐに知 られます。それだけで、
世 界 ではシャープは買 いだなと感 じるでしょう。社 長 は 49 歳 だ、よし、これはいけるなと。
例 えば新 しい社 長 は 60 歳 と言 われただけで、その会 社 はかわらないな、と言 った捕 ら
え方 をされる、これがグローバル情 報 時 代 の怖 いところなのです。(笑 )
世 界 に見 られているということをどうやって意 識 して、行 動 するかです。できない理 由
を考 えるよりは、世 界 が見 ているなかでの会 社 のクレディビリティを考 える。それは株 価
ではなくて、ステークホルダーからどうやって見 られているかという「intangible asset」が
企 業 価 値 の 80%になっているということを、もっと意 識 しないといけないのではないかと
いうことです。
例 えば日 本 の政 府 は何 をしているのかということを、世 界 の人 に知 って欲 しければ、
日 本 語 で書 いていても仕 方 がない。ほとんどの人 が Google を使 って、ガバメント・オブ・
ジャパンとか何 か入 れてクリックすると思 います。最 初 に出 てくるのはおそらく官 邸 の英
語 のサイトですが、これを見 ただけで次 々とクリックしたくなくなってしまうような雰 囲 気 で
しょうか。ご自 分 で見 て下 さい。基 本 的 に日 本 語 でできているサイトを訳 しただけです。
それが、ホワイトハウスやイギリスだとダウニング 10 で検 索 してみると、日 本 とは違 いうこ
とに気 がつくでしょう。最 初 に出 てきたサイトがどうなって、どう構 築 されて、どれだけユー
ザーの方 に向 いているかというのがものすごく大 事 です。
それらが英 語 圏 だからというのであれば、中 国 の共 産 党 のヘッドクォーターと引 いてみ
ろと言 います。やはり違 いますよ。このサイトそのものが世 界 からどうやって見 られている
か、どうやって知 って欲 しいのか、について対 応 をしているかということが、まざまざと出
てしまうと思 います。発 信 力 の意 識 、戦 略 、方 策 の違 いです。そういう意 味 では、企 業
の方 も会 社 の方 も、それぞれ自 分 たちの英 語 のウェブサイトがどうなっているかというこ
とを是 非 考 えてほしいと思 います。それだけでずいぶん意 識 がかわると思 います。
福 島 そうですね。それは、政 府 も企 業 も大 学 も、すべてに言 えることですよね。日 本
の企 業 は、ものすごく素 晴 らしい技 術 力 を持 っているのですが、先 ほどお話 に出 ました
iPhone が出 て、世 界 中 の人 たちがその電 話 が欲 しくて長 蛇 の列 をつくり、わくわくしてい
るわけですよね。ああいうエキサイティングなものを、日 本 の企 業 は技 術 を持 っているの
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にそれを生 み出 すことができていない。
お話 にもありましたが、かつてイノベーターと呼 べるような、本 田 宗 一 郎 さんであったり
ソニーの創 業 者 であったり、あるいは小 倉 昌 男 さんであったり、いろいろな方 がいらっし
ゃったと思 うのですが、どうもここ最 近 はそういう人 が出 てこなくなってしまった。このあた
りに、私 はものすごく閉 塞 感 を感 じてしまうのですが。
黒 川 いなくなったということではないと思 います。今 までの冷 戦 の終 わるまでのパラダ
イムがあり、それから数 年 間 は、日 本 とアメリカと欧 州 というトライアングルだとみんな言
っていて、その中 では、日 本 のユニークネスはまだ買 いだったと思 います。ところが、今
のようにアジアが突 然 グーンと成 長 してくると、中 国 は日 本 の 10 倍 の人 口 で、大 学 に
行 っている人 は少 ないかもしれませんが、中 産 階 級 だって日 本 の人 口 より多 いくらいじ
ゃないですか。そういう新 しい人 材 、人 財 が出 てくる可 能 性 は、明 らかに大 きいわけで
すよね。エクストラオーディナリーの変 人 の数 は向 こうの方 が大 きいわけだから、そういう
違 ったバリューが世 界 のいろいろなところに届 く率 は高 い。そこが一 番 、日 本 が見 えなく
なっている理 由 だと思 いますね。
外 から見 ていると、アジアというと、中 国 、ASEAN、インド。日 本 は全 然 発 信 していな
いという話 があるので、やはりもっと発 信 していくということは大 事 ではないかと思 います。
福 島 私 は日 本 の教 育 の問 題 というのも、かなり大 きいのではないかと思 うんですよね。
私 たちの国 は国 土 も狭 いし、自 前 の資 源 もほとんど持 っていなくて、まさに財 産 の財 で
ある人 財 しかないと思 うのですが、私 自 身 も偏 差 値 教 育 を受 けてきた世 代 で、一 方 的
に知 識 を与 えられ、それを受 け身 で吸 収 するという教 育 を受 けてきた世 代 です。そうい
う教 育 の中 で、本 当 に自 分 なりに物 事 を深 く考 え、自 分 の考 えをきちんと人 にプレゼン
テーションし、あるいはそれぞれの思 いをぶつけ合 ってディスカッションをする訓 練 をほと
んどしてきていない。
それで社 会 に出 て、そういうことを求 められてもなかなかできないし、あるいはエクスト
ラオーディナリーという人 間 が画 一 的 な教 育 の中 で、本 当 にスケールの大 きな、構 成
力 を持 った、まさに出 る杭 の、ちょっとこの人 おかしいんじゃないと思 われるくらいユニー
クな人 間 というのが、いまの日 本 の人 間 の教 育 の制 度 の中 では排 出 しづらい状 況 にも
あるのではないかと思 います。
黒 川 さんはアメリカの教 育 の現 場 や、世 界 各 国 の現 場 を見 てこられたと思 うのですが、
そのあたりで、日 本 の教 育 に関 して問 題 点 は感 じていらっしゃらないでしょうか。
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黒 川 それはありますね。僕 は 15 年 アメリカに行 って、大 学 で教 えたりお医 者 さんをや
ったりという経 験 をしていたのですが、帰 ってきてみると、若 い人 の可 能 性 は素 晴 らしい
ですね。だけど、僕 らの世 代 もそうですが、だいたい今 30 から 35 歳 くらい以 上 の人 は、
大 学 に入 っても勉 強 した記 憶 はあまりないのではないですか。
大 学 の偉 い先 生 たちもこの会 場 におられるかもしれませんが、大 学 は研 究 する場 所
でもありますが、一 番 大 事 なのは将 来 の人 材 を育 てることです。若 者 が 4 年 間 もいるん
ですから。大 学 の責 任 は大 きいですよ。若 者 たちがそれぞれの目 指 すところもやること
は違 うと思 いますし、それぞれ得 意 技 も違 うと思 う。画 一 的 なフレームに入 れるのでは
なくて、それをどうやって自 分 で見 つける機 会 をつくるかというのはものすごく大 事 で、そ
れが先 ほどご紹 介 した、城 君 が書 いている「内 部 から見 た成 果 主 義 崩 壊 」という本 を
見 ると、痛 いほどわかります。
若 い人 たちは、必 ずしも社 会 的 な出 世 やお金 が欲 しいと言 っているわけではなくて、
自 分 は何 をしたいのかということを模 索 しています。そういうものに大 学 が答 えられなけ
ればいけないのですが、今 の教 授 や先 生 たちがそういうふうに育 った人 ではないから、
自 分 の周 りの人 をいろいろな人 に育 てるということが難 しい。実 体 験 がない人 たちなの
です。白 洲 次 郎 さんも言 っていますが、松 下 村 塾 などを見 ても、先 生 は教 えるだけでは
ない、自 分 の言 っていることを自 分 が日 常 の生 活 で体 現 しているかを意 外 に若 い人 た
ちは見 ているのです。そういう先 生 たちがあまりにもいないことが一 つあると思 いますね。
会 社 の上 司 もそうかもしれない。
私 は今 、大 学 では 1 年 間 学 生 をどこか海 外 に行 かせて、1 年 間 海 外 から学 生 を交
換 に引 っぱってくるようなプログラムを文 部 科 学 省 にだいぶプッシュしています。多 様 な、
自 分 たちの世 界 の同 僚 「ピア」をつくろうという持 ちかけたいます。来 月 沖 縄 で、中 学 3
年 から高 1 くらいのアジアの子 どもたちを 30 人 、そして日 本 からも 50 人 くらい呼 んで、
1 カ月 合 宿 させます。そういう企 画 をどんどん広 げていくと、その人 たちが将 来 の素 晴 ら
しい友 達 になってくるだろう。だから教 えるのではなくて、違 った経 験 をたくさんさせるとい
うのが非 常 に大 事 なことだと思 います。大 体 、大 学 でも先 生 たちが自 分 の言 うことを実
践 していなくては、説 得 力 がないですね。
福 島 そうですよね。今 多 様 なというお話 もありましたが、これからの重 要 なキーワード
の一 つに、ダイバーシティー、多 様 性 ということがあると思 います。その点 でも、日 本 は
非 常 に画 一 的 な社 会 でありまして、いまの日 本 は中 高 年 の男 性 の皆 さんが中 心 的 な
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存 在 で世 の中 を動 かしていて、多 様 な人 材 が活 躍 できる社 会 にはまだまだなっていな
いと思 うんですね。私 自 身 も非 常 に関 心 の高 いのですが、女 性 がもっともっと活 躍 して
ほしいし、活 躍 できるような社 会 になることが、日 本 にも大 きな変 化 を及 ぼすと思 うので
すが、その点 はどうでしょうか。
私 もいろいろな企 業 を取 材 して、女 性 の活 用 が大 事 だとどこの会 社 も一 所 懸 命 に取
り組 みを行 っているのですが、なかなか成 果 が生 まれていないと思 うのです。もっともっ
と女 性 たちが活 躍 していくために何 が必 要 なのか、企 業 側 は何 が必 要 なのか。あるい
は女 性 たち自 身 は何 が必 要 なのか。そのへんは、黒 川 先 生 はどんなふうに考 えられま
すでしょうか。
黒 川 すべての女 性 が優 れているわけではないと男 性 は言 うかもしれませんが、それは
男 性 でも同 じことが言 えるわけで、確 率 は同 じですよ。
福 島 もちろんそうです。
黒 川 世 の中 を変 えるような人 は、「2; 6; 2」くらいの法 則 で、「2」の人 はどんどん変 え
る引 っ張 る人 、真 ん中 はそれできちんと仕 事 をしてくれる人 でハッピーだよという人 もい
るでしょう。最 後 の「20%」は何 を言 ってもあまり変 わらないぞという人 もいるのかもしれ
ませんが、そういうのは当 たり前 ですよ。100 メートル走 らせれば、スピードは正 規 分 布
するのだから。何 を測 定 しても正 規 分 布 します。大 学 入 学 試 験 の偏 差 値 も正 規 分 布
します。その大 学 入 学 試 験 の偏 差 値 だけで、基 本 的 に社 会 的 価 値 を付 与 してきとこ
ろの方 がおかしいだけの話 ですね。
日 本 のような 少 子 化 では、移 民 政 策 などがすごく大 事 ですが、移 民 政 策 の 入 口 は
大 学 にすることを考 えるべきです。さらに、もっと女 性 を活 用 しない限 り、日 本 のリソース
は非 常 に制 限 的 ですね。
しかも、子 どもをつくれるのは女 性 だけです。男 はひっくり返 っても、これはできないわ
けだから、女 性 がカンファタブルで充 実 できる社 会 をどうやってつくるのかはすごく大 事
です。いろいろ政 策 とか法 律 や何 かに書 いてありますが、所 詮 書 いているのは男 ですか
ら、心 の底 で抵 抗 していますよ。だから、なかなか女 性 の社 会 進 出 が実 現 できないよう
になっているんです。
私 はブログを出 していますから是 非 読 んでほしいと思 うのですが、男 女 共 同 とかいろ
いろと出 てきます。一 つのいい例 が、日 本 で生 まれて 15 年 くらい日 本 で生 活 していた
人 が書 いた本 があって、その本 が日 本 語 に訳 されています。日 本 のことも知 っているか
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ら、いろいろな行 政 のデータを調 べながら、何 故 、女 性 の社 会 進 出 ができないのかとい
うことを書 いています。『「最 後 の社 会 主 義 国 」日 本 の苦 闘 』というタイトルです。結 構
厚 い、ばっちりした本 です。なんだかんだといって、女 性 の社 会 参 画 を本 当 に実 現 させ
たくはないんですね。
日 本 の女 性 のジェンダー・エンパワーメント・インデックスについてですが、国 連 の統 計
を見 ても、女 性 の大 学 の進 出 、大 学 の進 学 率 、選 挙 権 、被 選 挙 権 等 の男 女 同 権 と
いうのは、日 本 は進 んでいて世 界 で 8 番 目 くらいですが、女 性 パワーを生 かしているか
どうかというのは四 十 何 番 目 になってしまう。そういう意 味 では、非 常 にもったいない。
象 徴 的 なことは、例 えば男 女 共 同 参 画 社 会 というと、国 立 大 学 教 員 の 25%を女 性
にしようと役 所 が目 標 値 を書 くので、「女 性 はまだ少 ない」とすぐに文 句 をいう方 たちも
多 いのですが、それは間 違 いです。この目 標 はもっと高 いゴールのための一 里 塚 であっ
て、25%が本 来 の目 標 ではないはずです。もっと男 女 共 同 ができるような社 会 をつくる
のが目 的 で、ほかにもやることはいくらでもあります。
男 女 共 同 社 会 は世 界 中 でそういう動 きになっている。たとえば、世 界 の一 流 大 学 は
世 界 の優 秀 な学 生 を集 めて、育 て、社 会 に送 り込 み、リーダーになって欲 しいし、社 会
の要 請 に応 えようとしています。これがグローバル世 界 の一 流 大 学 であるための条 件 と
認 識 しているからです。象 徴 的 な出 来 事 は、例 えば皆 さんご存 知 のようにケンブリッジ
大 学 や MIT です。これは私 もよくブログに書 いていますが、ケンブリッジ大 学 のトップはア
リソン・リチャードという女 性 の人 類 学 者 ですが、イエール大 学 学 長 (プロボスト)でしたが
引 っぱってきました。素 晴 らしい人 です。
MIT というと、みんな素 晴 らしい大 学 と思 うでしょう。MIT のトップもいまは女 性 です。
MIT では初 めての生 物 系 の人 ですが、今 言 ったアリソン・リチャードの後 任 に指 名 された、
イエールのプロボスト学 長 だったのですが、1 年 で MIT に引 っぱられました。日 本 でそん
なことが起 こると思 いますか。
米 国 の名 門 校 、アイビーリーグには8つの大 学 があります。クリントン政 権 で財 務 長 官
だったローレンス・サマーズさんがハーバードの学 長 が女 性 差 別 的 失 言 で辞 めたのです
が、そのあとの学 長 は女 性 になりました。いま、アイビーリーグ8校 のうち、4 校 が女 性 が
トップです。プリンストン、ブラウン、ペンシルヴァ二 ア、それからハーバードです。日 本 は
86校 の 国 立 大 学 があ るのですが、女 性 の 学 長 は唯 一 、お 茶 の 水 女 子 大 だけです。
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(笑 )それが世 界 からも見 えているのです。なぜでしょう。それが一 番 の問 題 だということ
で、そういう人 を外 からでも引 っぱってくると、あそこはそういう人 たちを求 めているんだな
とシグナルが世 界 に出 る。僕 はそういうことを東 大 の小 宮 山 さんにも言 ってますし、ブロ
グにも繰 り返 し書 いています。
日 本 のリーディング・ユニバーシティーが大 きな変 革 のシグナルを発 信 することが大
事 で、「リーディングでない」大 学 がこのようなことをやっても、日 本 では無 視 されてしまう
だけです。そういうことをやることによって国 を変 えたいという。学 の世 界 のメッセージを
出 す社 会 的 責 任 があるんだという話 を私 はしています。これがリーダーシップの社 会 へ
の責 任 ということなのです。大 学 に限 ったことではないですけどね。
福 島 是 非 そうなってほしいですし、そうでないと、私 の友 人 なども結 構 優 秀 な人 たち
がたくさんいるのですが、ここ数 年 だけでも四 、五 人 が海 外 に移 り住 んでしまいました。ロ
ンドンに行 ったりニューカレドニアに行 ったり、海 外 でもっといろいろなことをやってみたい
わと言 って、日 本 を離 れていった友 人 が四 、五 人 いるのですが、それは非 常 に残 念 だ
と思 うのです。そういう人 が少 しずつ出 てくると、それがブレイクスルーとなって、すごく変
わっていくわけですね。
黒 川 今 日 本 のメリルリンチの社 長 も小 林 さんという女 性 でしょう。彼 女 も素 晴 らしい人
ですが、やはりそういう人 をもっと出 さないといけない。彼 女 があまり目 立 つと、彼 女 が周
りからいじめられると思 って遠 慮 しているのだろうと思 うので、こちらが代 弁 して話 してい
るのですが、メリルリンチのように今 までのパラダイムでのトップといわれるようなところが
何 をするかというのは、世 の中 を変 えるのに非 常 に大 事 なんです。
東 大 の小 宮 山 総 長 はグローバル時 代 へ改 革 を進 めるべくどんどん手 をうち、国 際 化
をがんがんやっていますが、あなたの後 任 はぜひ女 性 にしなさいよ、日 本 人 である必 要
なんかないんだからと言 っています。でもそんなことはできないでしょうね。日 本 大 学 学
長 選 びは、教 員 たちの選 挙 でやろうなんていうのだから、とんでもない話 です。選 挙 で
社 長 を選 んでいる会 社 があるのか、と私 は言 っているのです。社 会 的 責 任 は何 かとい
うことをもっと考 えて、自 律 して行 動 しないといけません。今 のグローバルな時 代 、メッセ
ージや思 いはあっても行 動 ができない人 が多 いと思 います。これでは評 論 家 ですね。
右 肩 上 がりの時 は、会 社 も役 所 も、税 金 や会 社 のお金 で留 学 したり、そして MBA を
取 ったりしたのですが、帰 ってきてから別 に抜 擢 されるわけではない。あいかわらず年 功
序 列 でしたね。やってられないよと、気 の利 いた人 はさっさと辞 め他 人 たちもいましたね。
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三 木 谷 さんみたいな人 もいます。だけどそういうでない人 たちは、自 分 の思 い出 を懐 か
しみ留 学 の同 窓 会 で集 まって会 社 に不 満 を言 っている人 たちになってしまうんですね。
自 分 がどれだけ必 死 に勉 強 したのかは棚 に上 げてね。
そうではなくて、もっと飛 び出 せばいいじゃないのと言 うのですが、従 来 型 の年 功 序 列 、
終 身 雇 用 のタテ社 会 の日 本 では男 性 の場 合 それが難 しい。家 族 もいるし、子 どももい
るしということです。でも、出 てみれば出 てみたでそれほど悪 くはないのではないかという
気 もします。女 性 はがんばったところでどうせ差 別 されてなかなか重 要 なポストに行 けな
いので、自 分 で会 社 を辞 めて、自 力 で MBA へ行 って、猛 烈 に勉 強 して、帰 って外 資
系 とかいろいろと渡 り歩 く。自 分 の能 力 をそれなりに発 揮 している。男 性 から言 わせると、
「羨 ましいけど俺 はできないんだよな」が先 になってしまって、実 はかわいそうな男 の人
たちでもあるのです。(笑 )
福 島 そうでしょうか。先 ほどご講 演 の中 で、最 近 は日 本 人 の情 熱 やエネルギーがどう
も不 足 しているというお話 があったのですが、情 熱 が不 足 しているということもさることな
がら、先 ほど Google の創 業 者 が本 当 におもしろがってやったことが、あれだけ大 きなビ
ジネスになったというお話 がありました。何 か人 のためにとか、人 の役 に立 つためにという
ような志 の高 さがイノベーターには必 要 だというお話 でしたが、それどころかいまの日 本
は、企 業 の不 正 、不 祥 事 、それから繰 り返 される凄 惨 な事 件 。何 だか、志 の低 さや倫
理 観 の欠 如 、人 に対 する優 しさの希 薄 さというか、フロネシスどころか、日 本 人 が人 間
としてどんどん劣 化 していっているのではないかという危 機 感 も私 には非 常 に強 くあるの
ですが、そのへん黒 川 さんはどういうふうに見 ていらっしゃいますでしょうか。
黒 川 一 人 ひとりはみんな素 晴 らしいしまじめだし、それが美 徳 でもあるのですが、全 員
がそうでも困 るわけです。世 の中 を変 えているのは、その時 代 の「非 常 識 な人 」、エクス
トラオーディナリーな標 準 偏 差 の分 布 曲 線 カーブから外 れている、この曲 線 に絶 対 に
載 ってこない人 たちです。それはチャールズ・マレーという人 の分 析 を読 めばよくわかる
のですが、いろいろなデータを見 ても、明 らかに標 準 偏 差 の曲 線 からずれている人 が世
の中 を変 えているのですよ。その上 か下 かは別 として、カーブからずれている人 しか世
の中 は変 えていないというのは明 らかなので、日 本 はそういう意 味 では、今 までのパラダ
イムではうまくいく人 たちを育 てるのには成 功 しました。
ただ、世 界 の変 化 に対 して適 応 できる人 たちが少 な過 ぎるのではないか。そう思 うの
は、若 い時 に会 社 なんか辞 めてしまってどこかに行 こうかなという人 は、男 性 では非 常
30
に少 なかったからですが、それを象 徴 するのが 1995 年 です。今 あなたにも近 い人 がい
ますが、メジャーリーガーで結 構 な数 の日 本 人 が活 躍 していると、テレビを見 ているとわ
くわくするじゃないですか。日 本 人 がこういうのをやっていると、やはりすごいぞと。最 近 は
テニスのプレーヤーも出 てきますね。
だけど、バブルがはじけた 94 年 は、メジャーリーグは 1 年 間 、ずっとストライキをやって
いた。あの時 に日 本 で一 番 給 料 を稼 いでいた野 茂 英 雄 が、私 はあっちメジャーで投 げ
るのが夢 だからと言 って行 こうとして、「そんなルールはない」とか言 われたら、「じゃあ私
辞 めます」と言 って行 ってしまった。あの時 ストライキをやっていたからどうなるかわから
ないのに、最 低 の給 料 の 10 万 ドルで団 さんが契 約 をとってくれました。野 茂 が行 ったら、
ドクターK とか言 われて、一 気 にストライキもなしです。それで一 気 に、その年 の新 人 王 、
奪 三 振 王 、それからその年 の夏 のオールスターでは先 発 です。
こういう人 が出 て、一 気 に人 気 が出 た。30 年 前 の村 上 雅 則 さんがメジャーリーグに
登 場 した時 はそれほどのインパクトがなかった。今 日 の村 上 さんは時 々テレビでニュー
ス解 説 などやっていると思 いますが、野 茂 の出 た時 はテレビでライブで見 られるというこ
とで、その情 報 が日 本 の皆 さんに広 がった。このテクノロジーがあるので、野 茂 が出 る試
合 はライブでやるのです。ライブというのは、負 けるかもしれないから興 奮 度 、緊 張 度 が
全 然 違 います。1 回 でノックアウトされたとしても、放 映 はやらざるをえないわけでしょう。
これは NHK だからできたのかもしれませんね。
それまでメジャーリーグのことをほとんど知 らなくて、西 武 にいた広 岡 さんが「メジャーリ
ーグでは」といろいろ解 説 をしていたのですが、みんなそんなものかなと思 って聞 いてい
ました。でもみんながテレビで見 てしまうと、あれは面 白 いと思 いだす。そうして伊 良 部 、
をはじめ投 手 が行 き、それなりに活 躍 しました。
その後 、野 手 でイチローさんが行 った。その前 に、佐 々木 が行 って活 躍 する。みんな
テレビ、いろいろな球 場 を見 る、メジャーの野 球 をみていると、初 めてイチローが行 くと何
が起 こったか。イチローは確 かにすごいけど、あのぶ厚 い芝 で、あんなに華 奢 な体 でで
きるかなとみんな半 ば心 配 しながら思 っているわけです。だけど、どんどんヒットを打 って
首 位 打 者 になり、新 人 王 を取 る。
イチローの 2 年 後 に誰 が行 ったと思 いますか。初 めて日 本 でメジャーな人 が行 ったん
です。巨 人 の松 井 ですね。これで何 が起 こったか。オープン戦 から、新 聞 に「松 井 、イ
チロー」という言 葉 がこの順 序 で出 てくるのです。読 売 新 聞 ならそれでも許 せますよ。で
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も他 の新 聞 もです。イチローは 2 年 間 メジャーで素 晴 らしい実 績 があるにもかかわらず、
「松 井 、イチロー」と書 くのです。これは日 本 人 の価 値 観 です。松 井 が失 敗 すると、みん
な心 配 なんです。読 売 ジャイアンツの 4 番 打 者 でしょう。この人 が失 敗 したら、もう自 分
たちの価 値 観 、日 本 人 の「信 仰 」が背 骨 から崩 れるような気 がして不 安 なのですね。
不 安 症 候 群 。「過 保 護 ママ症 候 群 」と私 は言 っているのですが、しかし、松 井 もがんば
りました。このような経 過 でたった 10 年 もたたないうちに、今 は高 校 生 でも最 初 からメジ
ャーに行 きたいと言 う。夢 を与 える、高 い目 標 を与 える人 たちが出 てくることが大 事 で
す。今 更 ですが野 茂 は本 当 の英 雄 だと。それはそうですよ。彼 が開 拓 者 、おきて破 り。
正 規 分 布 曲 線 に 乗 ら な い 人 な の で す 。 失 敗 を 恐 れ て い る 人 に こ んな こ と はで きま せ
ん。
私 は 2001 年 4 月 のある日 の朝 ですが、自 民 党 にベンチャーの話 をしに行 きました。
日 本 のプロ野 球 、メジャーでの活 躍 が今 あるのは野 茂 のおかげだと。その頃 、野 茂 は
落 ち目 と思 われていました。しかし、あのアドベンチャー、ああいう人 が出 ることが大 事 な
んだ、これがベンチャーなのだ、という話 をしました。その時 、自 民 党 のある方 が、「その
とうりです、だから私 は野 茂 に国 民 栄 誉 賞 とかそういうものをあげるべきだといっている
のです」とおっしゃいました。私 はその先 生 に、「失 礼 だけど、そういう人 はそんなことをも
らって喜 ぶような人 ではありませんよ」と言 いました。(笑 )そういう価 値 観 こそが問 題 だ
と言 ったのです。ところがまったく偶 然 なのですが、その日 の夕 刊 の 1 面 が、「野 茂 また
ノーヒットノーラン」だったのです。Boston Redsox でしたね。だからその朝 の会 議 にいた
ある方 がが、あの時 の先 生 の話 は本 当 に忘 れられないといってくれました。皆 さんもう
野 茂 は駄 目 だと思 っているかもしれないけど、彼 こそが英 雄 なのだと言 ったからです。こ
れが「ことの本 質 を見 る」ということなのです。
福 島 そうですね。
黒 川 その日 の「たまたまノーヒットノーラン」だったのですが、そういう偶 然 がなくても、そ
のような人 を社 会 が認 識 し、価 値 を見 る、冒 険 するのはいいことじゃないのと言 うことに
よって、若 者 がエンカレッジ、励 まされていく。そういう社 会 をつくることが大 事 です。多 く
の日 本 の方 たちはまじめ、みんなよく仕 事 もする、可 能 性 も高 い。だけど、組 織 になると
企 業 も役 所 もひどい。「バレたら」トップは最 後 は頭 を下 げておしまいという場 合 が多 い
でしょう。実 にみっともない。その前 にやればいいのにという感 じですが、やはり上 には言
えないのでしょう。つい隠 して、内 部 処 理 をしたくなる。日 本 社 会 では、多 くの組 織 がト
32
ーナメントで勝 ってきた人 たちが昇 進 して行 くシステムですから、そうなってしまうんです。
リーグ戦 で勝 つ、ガチンコ勝 負 、他 流 試 合 を経 験 していないので、本 当 の強 さが出 てこ
ないというところに、これからの変 化 が必 要 なのだと思 います。自 分 たちの強 さと弱 さを
認 識 することです。、
福 島 そのあたりも含 めまして、ここで主 催 者 の日 建 設 計 の岡 本 社 長 にもご登 場 いた
だきまして、日 建 設 計 では人 材 育 成 はどうなっているのか、グローバル戦 略 はどう考 え
ていらっしゃるのか、いろいろと厳 しくお尋 ねしていきたいと思 います。岡 本 社 長 、どうぞ
よろしくお願 いいたします。(拍 手 )
まずは岡 本 さん、今 日 の黒 川 さんのお話 をお聞 きになってどんな感 想 を持 たれました
でしょうか。
岡 本 のっけからかなり頭 を叩 かれまして、多 少 脳 しんとう気 味 でやってまいりました。う
ちの人 財 という意 味 では、うちの企 業 は、人 しか財 産 がいないということは昔 から言 い続
けています。そういった意 味 で、人 材 がどういうふうに能 力 を発 揮 していくか。そういうこ
との、環 境 や仕 組 みをどういうふうにつくるかというのが我 々一 番 頭 の痛 いところです。
いま黒 川 先 生 のお話 にもありましたように、若 い人 に 10%前 へ出 させる。そういった、
特 に実 戦 の舞 台 でやらせていくことが非 常 に重 要 な要 素 で、そういう若 い人 が世 界 に
羽 ばた い て い け るよう な 環 境 を つく っ て い く こ と が一 番 重 要 な の か な と 感 じ た し だ いで
す。
福 島 女 性 の活 用 については、日 建 設 計 さんはどのような状 況 でいらっしゃいますか。
岡 本 最 近 面 接 をして、学 校 の成 績 や先 生 の推 薦 も含 めて、優 秀 なのはほとんど女
性 ですね。以 前 は非 常 に女 性 の比 率 が低 い会 社 だったのですが、最 近 はどこの大 学
でもそうかもしれませんが、上 から数 十 人 を採 ると、ほとんどが女 性 という時 代 になって
きました。
当 然 面 接 をしても皆 さん大 変 はっきりとものを言 われる方 が多 いし、男 の子 よりも、見
た目 は非 常 に職 場 の潤 滑 油 になりそうでもあるし、そういった意 味 で女 性 の比 率 が高 く
なっていることは確 かですが、それをどこまで生 かしきっているかということからすると、今
お話 がありましたように、現 場 で実 践 を積 ませるにはどうしたらいいか。また、本 当 に女
性 が一 人 で、たとえば現 場 の監 理 であるとか、そういった場 面 で活 躍 できるのか。社 会
もそういう状 況 にはなっていますが、直 接 ヘルメットをかぶって現 場 に入 るチャンスが、
少 し少 ないような気 がしています。
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福 島 日 建 設 計 さんは、今 日 のピンナップボードでも、ドバイやモスクワなど、いろいろな
海 外 の建 築 のプレゼンテーションもあったのですが、やはりかなり目 はグローバルに、世
界 に向 けてという意 欲 を非 常 に持 っていらっしゃるわけですよね。
岡 本 そうですね。環 境 技 術 を売 り込 もうという意 気 込 みでいったのですが、今 の先 生
のお話 によると、だからどうしたとおっしゃられると、(笑 )そのあとでは非 常 に話 しにくくな
ります。いまうちも 2 割 くらいの仕 事 で海 外 が増 えてまいりまして、この間 SDCJ というコ
ンソーシアムを組 んで、その時 も黒 川 先 生 にドバイのアブダビでご講 演 をお願 いしました。
そういった意 味 でも、より海 外 に出 て活 躍 していこうという意 思 は強 く持 っております。
福 島 黒 川 さん、どうでしょうか。岡 本 社 長 をはじめ、今 日 はいろいろな組 織 のトップの
方 、リーダーの方 がお集 まりだと思 うのですが、皆 さんに向 けて何 かメッセージはござい
ますか。
黒 川 今 までの日 本 社 会 は、過 去 もある程 度 そういう価 値 観 できたからしかたがない
のですが、同 じところで年 功 序 列 で上 がってきて、横 に動 かないというのが常 識 だという
社 会 が、たまたま戦 後 の産 業 のパラダイムと非 常 に合 ったのですね。それが当 たり前 だ
と思 っているので、大 学 では勉 強 しなくてもいいよということなのでした。
実 はそれを可 能 にしたのは、20 世 紀 の経 済 成 長 の産 業 構 造 、つまり工 業 規 格 品 大
量 生 産 、消 費 文 化 、安 いオイルのエネルギー源 というパラダイムで、サプライサイドのド
グマでいっていたのです。それがフラットなグローバル時 代 の到 来 と地 球 規 模 の環 境 問
題 で完 全 にひっくり返 ってしまったわけです。環 境 の問 題 や食 料 と水 、それからインター
ネットでつながったフラットな社 会 で、新 しいビジネスがいろいろと出 てきて、今 までの日
本 型 のビジネスは途 上 国 のビジネスになりつつあるわけです。
そこで日 本 は、何 を差 別 化 してやっていくのか。それはものすごいチャレンジです。先
ほど言 ったシャープの片 山 さんの話 で言 い忘 れてたのですが、先 日 片 山 さんが、「うち
はやはりエンジニアの集 まりだから、自 分 のところは素 晴 らしいんだけれども、その全 体
構 想 とか、世 界 戦 略 とか、そこで何 をしていくかというところが、確 かに弱 い」とつくづくお
っしゃっていました。今 度 イタリアの会 社 とソーラーの合 弁 会 社 をつくって、ヨーロッパに
出 ようとしていますが、「弱 いところ」を自 覚 して、どうやったらそれを強 くできるかという
話 を次 に考 えるのが、すごく大 事 だと思 いますね。
福 島 ありがとうございます。それでは最 後 になりましたが、岡 本 社 長 から、今 日 お集 ま
りいただきましたお客 様 にご挨 拶 をお願 いできればと思 います。
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岡 本 本 日 は大 変 暑 い中 、また下 のピンナップボード 2008 から続 きますと、大 変 長 い
時 間 、このフォーラムにお集 まりいただきまして、まことにありがとうございます。黒 川 先
生 ともいろいろなお話 をしたかったのですが、日 本 がこれからどういうふうに生 きていくの
かという、大 変 高 い視 点 、広 い視 点 からお話 を伺 いましたので、今 後 先 生 のお話 を生
かしながら、私 どもも頑 張 っていきたいと考 えております。
私 は 1 月 1 日 から社 長 を拝 命 したのですが、実 は歳 が 60 でございまして、いま黒 川
先 生 のおっしゃった、60 の人 間 が社 長 になる会 社 は先 がないというお話 でした。(笑 )
何 とか先 のあるように、みんなが元 気 に頑 張 っていけるような会 社 にしていきたいと考 え
ております。
今 日 はお忙 しいところ大 変 ありがとうございました。(拍 手 )
福 島 岡 本 社 長 、ありがとうございました。それでは黒 川 さん、最 後 に何 か。(笑 )
黒 川 今 の世 界 では外 から見 られているということだけで、それだけでその会 社 のバリュ
ーがある程 度 決 まってしまうんですよね。実 際 は、すぐには株 価 に反 映 されませんけれ
どもね。
ところで、特 にいろいろな世 代 の方 がいるのですが、今 は確 かにネットでつながってい
る世 界 で、いろいろなメッセージが取 れる、発 信 できるのです。私 もブログをつくって書 い
ているので、それを時 々、お暇 なときにでも見 ていただけるといいと思 うのです。
もう一 つ、最 近 外 国 から来 た人 にもお話 するのですが、ビル・ゲイツがハーバード大 学
を 2 年 で中 退 してマイクロソフトをつくったわけですが、去 年 のことですがビル・ゲイツがハ
ーバード大 学 に呼 ばれて、卒 業 式 のスピーチをしています。素 晴 らしいスピーチですよ。
彼 は、中 退 してお父 さん、お母 さんが悲 しんだかもしれないが、最 後 に戻 ってきたよと。
彼 はその時 に名 誉 博 士 号 をもらっていると思 うのですが、ハーバード大 学 の学 生 に、今
の世 界 を見 ると、いかに不 公 平 な社 会 かということがたくさんあると言 っています。私 も
学 生 の時 には知 らなかったが、「不 公 平 」ということを繰 り返 し話 をするのですが、それ
をネットで映 像 で見 られます。それを是 非 見 てほしい。もし見 てよくわからなかったら、テ
キストも見 られますから見 るといいと思 います。ハーバードの卒 業 生 というのは、世 界 で
も選 ばれたセレクテッド・ヒューなのだから、そういう意 識 を持 って、どういうキャリアであ
ってもそのような責 任 があると強 く言 うのです。それが一 つです。
もう一 つは、その 2 年 前 の 2005 年 のスタンフォード大 学 で、スティーブ・ジョブズが卒
業 式 に呼 ばれて 14 分 しゃべっています。これは非 常 に有 名 な、素 晴 らしいスピーチで
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す。本 当 に感 動 するようなスピーチなので、これをネットででも見 ることをお勧 めします。
もちろんテキストも読 めますが、生 の声 で彼 が 14 分 話 しているのを是 非 聞 いて下 さい。
彼 は生 まれた時 からお母 さんが貧 乏 で、すぐに養 子 に出 すことになって、養 子 縁 組
ができていました。必 ず子 どもを大 学 に行 かせてくれという約 束 で、大 学 を出 た人 という
約 束 だったのですが、里 親 は実 はそうではなくて、大 学 も出 ていなかった。彼 は大 学 に
行 くのですが、ポートランドですが、半 年 でこんなことをやってもしょうがないの、お父 さん
お母 さんの貯 金 がみんななくなってしまう、と言 やめてしまうのです。それがスティーブ・
ジョブズです。
彼 はその時 にデザインのクラスを取 るのですが、それが後 でいかに生 きたかという話 で、
やはり素 晴 らしいメッセージで、三 部 作 で構 成 されている感 動 的 な話 です。I will tell
you three stories of my life と始 め、三 つの話 をするのです。特 に若 い人 はこれから
の将 来 を考 えるのに素 晴 らしい話 ですが、そうではない人 も見 てほしいと思 います。
それからもう一 つ大 学 で、最 近 のことですが、ランディ・パウシュという人 がいます。カ
ーネギーメロンの人 ですが、彼 がまだ 46 歳 くらいですが膵 臓 癌 になって死 ぬということ
になった。膵 臓 癌 になると 3 カ月 から 6 カ月 しかないから、彼 が「ラストレクチャー」という
講 義 をするのです。それがまた素 晴 らしくて、これが本 にもなっていますから、読 んでも
いいのですが、是 非 見 てほしいと思 います。
学 校 の先 生 というのはああいう人 でないといけません。「子 供 のときの夢 」という話 で、
自 分 がこういうドリームがあるんだよということで、それがどうなったかという話 をするので
すが、大 学 の先 生 というのは学 生 一 人 ひとりの皆 さんのドリームをかなえてあげるお手
伝 いをすることがすごく大 事 なのです。かなえるのに、どういうふうに少 しでも何 かできた
らなという話 になってくるのですが、その三 つの話 をぜひ皆 さんに共 有 していただけると、
これからの若 者 にどういうメッセージを、それぞれの立 場 で示 すことができるかということ
を考 えるのに良 いと思 います。実 体 験 で、日 常 の行 動 で示 しながらものを言 う人 は非
常 にパワフルだと思 いますので、是 非 そういうのを広 めていただければうれしいと思 いま
す。
福 島 ありがとうございました。今 日 は黒 川 さんから未 来 に向 けて、私 たちがどんな視
点 が必 要 なのか、たくさんの元 気 、エネルギーをいただいたような思 いがいたしました。
黒 川 先 生 、本 当 に今 日 はどうもありがとうございました。(拍 手 )
司 会 黒 川 先 生 、福 島 さん、ありがとうございました。(拍 手 )大 変 ご示 唆 に富 んだお話
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をたくさん聞 かせていただき、勇 気 をいただきました。本 当 にありがとうございました。(拍
手)
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