シンポジウム 1 S1-1 若年層 C 型慢性肝炎の実態とインターフェロン治療の現状 S1-2 1 【目的】わが国の C 型肝炎ウイルス(HCV)感染者は約 200 万人と推定 されるが、40 歳以下は約 2 割に過ぎない。2002 年から開始された肝 炎ウイルス無料検診が中高年層での新たな HCV 感染者の発見に貢献 している一方、若年層での HCV 感染の実態は未だ十分に明らかではな い。今回われわれは 40 歳以下の C 型慢性肝炎の実態やインターフェロ ン(IFN)治療の現状について検討したので報告する。 【対象と方法】 当院にてエコー検査と Genotype 測定を行い、半年間以上経過観察を行 なった 40 歳以下の HCV 持続感染者 135 例(男性 88 例、女性 47 例;平 均 33.2 歳)を対象とし、輸血歴・家族歴・手術歴・薬物乱用歴などの生 活背景、IFN 治療導入の有無及び治療成績などについて検討した。【結 果】( 1 )手術歴、輸血歴、薬物乱用歴、刺青歴を有するものは各々42 例(31.1 %) 、30 例(22.2 %) 、22 例(16.3 %)、13 例(9.6 %)であった。 また、20 例(14.8 %)は両親もしくは兄弟に HCV 感染者がいた。受診 契機は他疾患診療が最多で 61 例(45.2 %)、次いで検診 49 例(36.3 %)、 感染危惧 6 例(4.4 %)と続いた。( 2 )genotype は 2a もしくは 2b が 70 例(51.9 %)と過半数以上で、1b は 62 例(45.9 %)であった。薬物 乱用歴を有する症例においては2a もしくは2b が約90%を占めた。 (3) IFN 治療は 95 例に実施され、効果判定が可能であった 75 例では無効 6 例( 8 %) 、再燃 15 例(20 %)、著効 54 例(72 %)と比較的良好な 成績であった。IFN 治療未実施 40 例中、禁忌と考えられたのは妊娠お よび授乳中を除くと精神疾患を有する 2 例のみであった。 ( 4 )28 例 (20.7 %)が 1 年以内に Drop out していた。【結語】若年層の C 型慢性 肝炎においては1b 以外の genotype が半数を占め、IFN 治療は比較的良 好な成績であった。しかし、感染経路として手術や輸血のほかに薬物 乱用・刺青の関与がしているとともに、IFN 治療導入に至らないもの や通院を自己中断するものが少なくなく、若年層における HCV 感染に 対する更なる啓蒙が必要であると考えられた。 S1-3 患者高齢化による C 型慢性肝炎のさらなる難治化について 名古屋第二赤十字病院 消化器内科 ○藤原 圭 1 、林 克巳 1 、折戸 悦朗 1 安城更生病院 内科 ○富田 英臣 1 、山田 雅彦 1 、須原 寛樹 1 、市川 雄平 1 、 木原 俊裕 1 、岡田 昭久 1 、馬渕 龍彦 1 、竹内真実子 1 、 細井 努 1 1 齢者 C 型慢性肝炎に対するペグインターフェロン/リ 高 バビリン併用療法の効果 1 名古屋大学大学院 消化器内科学 ○本多 隆 1 、片野 義明 1 、後藤 秀実 1 【目的】C 型慢性肝炎患者は年々高齢化し、高齢者での肝癌症例も増加 している。平均寿命が高齢化するなか高齢者でのウイルス駆除が必要 となっている。このため PegIFN とリバビリン併用療法における高齢 者の背景と治療効果及び治療効果の期待できる症例の検討を行った。 【方法】名古屋大学および関連施設において併用療法を施行した C 型 慢性肝炎 591 例、genotype 1 型 / 2 型 467/124 を検討した。平均年 齢 54.7 歳、男 / 女 327/264、高齢者:65 歳以上、男 / 女 57/58 であ る。治療は PegIFNα 2b 1.5μ g/kg 皮下+リバビリン:600~1000mg/ 日 経口である。高齢者と非高齢者の背景を比較し、高齢者と非高齢者の 著効(SVR)率の割合、中止率を比較した。また一部の症例で IL28B (rs8099917)を測定した。【成績】背景で有意な差を認めたものは以下 のものである。体重は高齢者で56.7Kg と非高齢者の60.9Kg と比べ低値 であった。Hb 値は高齢者で 13.7g/dl と非高齢者 14.2g/dl と比べ低値で あった。肝線維化は高齢者(F0-1:F2-4、43:45)で非高齢者(F0-1: F2-4、222:123)と比べ進行例が多かった。血小板値は高齢者 16.1 万 / μ L で非高齢者18.0万 /μ L と比べ高齢者で低値であった。SVR 率は高齢 者 37.4 %、非高齢者 51.5 %であり高齢者で有意に低値であった。中止 率は高齢者 32.2 %、非高齢者 17.0 %であり高齢者で有意に高率であっ た。高齢者において SVR が得られる有意な因子は多変量解析において 低ウイルス量、 2 型であった。 1 型高齢者におけるウイルス量別解析 では男性で2000KIU/ml までは SVR 率は50%以上であったがそれ以上 のウイルス量と女性ではウイルス量に関係なく SVR 率は 30 %以下で あった。検討症例数は少ないが 1 型高ウイルス量の高齢者で IL28B が nonTT の症例において SVR が得られた症例はなかった。【結論】高齢 者は Hb 低値で線維化の進んだ症例が多かった。高齢者は治療中止率 が高く、SVR 率も低値であったが、2 型及び 1 型男性でウイルス量が 中程度以下の症例では50%以上の著効率が得られた。それ以外の症例 では IL28B の測定結果も踏まえ、長期投与や 3 剤併用療法などの検討 が必要である。 【目的】C 型慢性肝炎に対する治療は Peg-IFN+RBV 併用療法の導入 により比較的高い治療効果が得られるようになった。今回、当院の治 療症例から併用療法導入後の現在の治療の問題点について検討した。 【方法】対象は 2005 年 1 月より 2010 年 6 月までに当院で治療を行った C 型慢性肝炎症例 219 例のうち、治療効果判定された 141 例である。全 体での治療成績の検討、および前期(2005 年 1 月より 2007 年 4 月ま でに治療を開始した症例) 、後期(2007 年 5 月より 2008 年 1 月までに 治療を行った症例)と 2 群に分けて成績を比較した。 【成績】全体と して治療成績は(ITT 解析)で SVR は全体で 73/141(51.8 %) 、1 型 高ウイルス(1-H)では 39/99(39.4 %) 、1-H 以外では 33/42(78.6 %) であった。前期、後期に分けると、前期(n=72)全体で SVR は 44/72 (61.1 %) 、1-H では 23/49(46.9 %) 、1-H 以外では 20/23(87.0 %)で あった。後期(n=69)全体で 29/69(42.0 %) 、1-H で 16/50(32.0 %) 、 1-H 以外で 13/19(68.4 %)であった。次に 1-H における後期での SVR 率 の低下の原因について検討を行った。全期間で 1-H 症例のうち 60 歳以 上、60 未満の SVR はそれぞれ 8/37(21.6 %) 、31/62(50.0 %)と著し い差があり、治療症例に占める 60 歳以上の患者の比率は前期で 15/72 (20.8 %) 、後期で 22/69(31.9 %)と後期で増加していた。さらに年齢 を若年相(< 50) 、中年相(50 ≦ < 60) 、高年相(60 ≦)に分けて検 討すると高年相患者の増加に加えて SVR の得られやすい若年相患者 の減少が重なり SVR 率の低下が起こったと考えられた。 【結論】 今回の 検討では難治性である 1-H 症例を治療導入時期で 2 期に分けると、よ り最近の治療症例で SVR 率の低下を認めた。高齢患者の増加および若 年層の低下がその一因と考えられ、感染者の年齢分布に強い影響をう けていると考えられた。 S1-4 C 型慢性肝炎患者における IL28B 遺伝子多型と治療効果 藤田保健衛生大学 肝胆膵内科 ○原田 雅生 1 、川部 直人 1 、橋本 千樹 1 、吉岡健太郎 1 1 【目的】C 型肝炎ウイルス(HCV)に対するペグインターフェロン(PEGIFN) ・リバビリン (RBV) 併用療法により 1 型高ウイルス量症例に対し ても50%程度の著効率が得られる。しかし20%程度の無効例が存在す る。PEG-IFN・RBV 併用療法の治療効果にはウイルス因子(ウイルス 量、NS 5 A 変異、コアアミノ酸変異) 、宿主因子 (年齢、性別、肝線維 化進展度) 、薬剤投与量、ウイルス陰性化時期が関係することが知られ ている。2009年 9 月に IL28B 遺伝子周辺の遺伝子多型が治療効果と関 係することが報告されたので、当院に通院中の患者について IL28B 遺 伝子多型(SNP)を検討した。 【方法】HCV 陽性患者 94 例の IL28BSNP (rs8099917)をリアルタイム PCR によりタイピングした。遺伝子検査 は当大学の遺伝子倫理委員会の承認を得て、患者から文書による同意 を得たのちに施行した。 【結果】rs8099917 は 73 例が TT(78 %) 、21 例 が TG(22 %)であり、GG はみられなかった。HCV ジェノタイプ 1 型 では TT54 例、TG17 例、2 型では TT16 例、TG 4 例であり、HCV ジェ ノタイプによる SNP の差はみられなかった。HCV ジェノタイプ 1 型 の IFN 治療著効率は 17 %(7/42)あり、TT 例(20 %、6/30)が TG 例( 8 %、1/12)より高かったが、有意差はなかった。無効率は 35 % (14/40)であり、TT 例(26 %、8/31)が TG 例(67 %、6/9)より有 意に低かった(p=0.0444) 。HCV ジェノタイプ 2 型の IFN 治療著効率 は 86 %(12/14)あり、TT 例(91 %、10/11)が TG 例(67 %、2/3) より高かったが、有意差はなかった。【考察】HCV 陽性患者において は、rs8099917 は約 8 割が TT、2 割が TG であった。TT と TG で IFN 治療の著効率は有意差がなかったが、無効率は TG が TT より有意に高 かった。IL28BSNP は IFN 治療効果を予測する因子として有用と思わ れた。今回は少数例の検討なので、今後症例を増やし、他の治療効果 予測因子との関係も含めて検討する必要があると思われる。 ― 28 ― S1-5 グインターフェロン・リバビリン併用療法の効果に対す ペ る宿主側因子・ウイルス側因子の影響 1 大垣市民病院 消化器科 ○新家 卓郎 1 、熊田 卓 1 、桐山 勢生 1 、谷川 誠 1 、 久永 康宏 1 、豊田 秀徳 1 、金森 明 1 、多田 俊史 1 、 荒川 恭宏 1 、藤森 将志 1 、安東 直人 1 、安田 諭 1 、 坂井 圭介 1 、木村 純 1 型慢性肝炎のインターフェロン治療と IL28B・ITPA 遺 C 伝子多型の解析 名古屋市立大学 大学院 医学研究科 消化器・代謝内科学、 名古屋市立大学 大学院 医学研究科 病態医科学 ○松浦健太郎 1 、田中 靖人 2 、飯尾 悦子 1 、日下部篤宣 1 、 新海 登 1 、宮木 知克 1 、野尻 俊輔 1 、城 卓志 1 1 2 【目的】C 型慢性肝炎に対する PEG-IFN・リバビリン併用療法の効果 に影響する因子として報告されている宿主側因子 IL28B 遺伝子の SNP とウイルス側因子 HCV core 領域アミノ酸変異について、治療効果の 面から検討した。 【方法】PEG-IFN・リバビリン併用療法を行った 156 例(genotype 1b:101 例・2a:42 例・2b:13 例)を対象とした。こ れらの症例で IL28B 遺伝子 SNP および HCV core70 のアミノ酸変異 と PEG-IFN・リバビリン併用療法の治療効果の関連を解析した。 【成 績】genotype 1b 症例において、最終的な治療効果は IL28B-wild で SVR48.6%・relapse41.9%・NR9.5%、mutant で SVR8.3%・relapse29.2%・ NR62.5%、HCV core70 の R で SVR46.4%・relapse40.6%・NR13.0%、Q で SVR20.7%・relapse34.5%・NR44.8% であり、いずれも前者で SVR 率 が高く(p=0.0010、p=0.0312)、後者で NR 率が高かった(p < 0.0001、 p=0.0015) 。IL28B 遺伝子 SNP で層別化すると、IL28B-wild 症例では core70 の R で SVR50.0%・NR8.3%、Q で SVR42.8%・NR14.4% で あ り、IL28B-mutant 症例では core70 の R で SVR22.2%・NR44.5%、Q で SVR0%・NR73.3% であった。一方 HCV genotype 2a・2b 症例におい ては、最終的な治療効果は IL28B-wild で SVR80.9%・relapse16.7%・ NR2.4%、mutant で SVR70.0%・relapse30.0%・NR0 で差は認められな かった(p=0.5747) 。 【結論】HCV genotype 1b 症例においては、IL28B 遺伝子の SNP 変異は既報のごとく PEG-IFN・リバビリン併用療法の NR と強く関連した。一方 HCV core70の変異は IL28B 遺伝子の SNP が mutant の場合に強く治療に対する感受性・抵抗性に影響した。一方、 HCV genotype 2a・2b 症例においては、IL28B 遺伝子の変異は治療効 果に影響を及ぼさなかった。 S1-7 S1-6 型慢性肝炎(セロタイプ 2 、高ウイルス量)症例に対す C る Peg-Interferon + Ribavirin 併用延長治療の有用性 【目的】近年、ゲノムワイド関連解析の進歩により、様々な疾患関連 遺伝子が同定されている。われわれは C 型慢性肝疾患に対する PEGIFN/RBV 治療の反応性に関わる IL28B 遺伝子多型(SNP)について報 告した(Nat Genet. 2009) 。また、PEG-IFN/RBV 療法に伴う貧血に対 して抑制的に作用する ITPA 遺伝子の SNP が同定された。一方、治療 効果に関わるウイルス側因子としては Core70/91、NS5A-ISDR の変異 が報告されている。今回、これらの因子と治療効果予測、貧血の発現 頻度について検討した。 【方法】対象は当院において genotype 1b、高 ウイルス量で PEG-IFN/RBV を投与した 68 例。 (検討 1 )IL28B 遺伝 子多型(rs8099917) 、Core70/91、NS5A-ISDR 変異と治療効果との関 わりについて。 (検討 2 )ITPA 遺伝子多型(rs1127354)と高度貧血 ( 4 週で 3 g/dL 以上のヘモグロビン(Hb)低下と定義)の有無につい て。 【成績】 (検討 1 )rs8099917 が TT;major allele(MA 群) 、TG; minor hetero(HE 群) 、GG;minor allele(MI 群)の割合はそれぞれ 46 例(68 %) 、21 例(31 %) 、 1 例( 1 %)であった。治療効果は MA 群で VR(SVR+TR)41 例(90 %) 、NVR 5 例(10 %) 、HE/MI 群で VR 7 例(31 %) 、NVR15 例(69 %)であった(p < .0001) 。Core70 の 変異株の割合は MA 群で 20 %、HE/MI 群で 63 %であった(p < .01) 。 治療効果については MA 群では Core70/91 変異による差を認めなかっ たが、ISDR 変異数≧ 2 では 0,1 に比べ SVR 率が高かった(82 % vs. 45 %、p < .05) 。HE/MI 群の Core70 変異株では SVR 率は 0 %であっ た。 (検討 2 )rs1127354 の HE/MI 群(CA+AA)の頻度は 31.5 %で あった。MA 群(CC)のうち高度貧血に至った症例は 36 %であったの に対し、HE/MI 群では 0 %であった(p < .001) 。また、Hb 値の減少 値(治療前値- 4 週時の Hb 値 /dL)は MA 群で 2.4±1.3g/dl、HE/MI 群で 0.7 ± 0.8g/dl であった(p < .0001) 。 【結論】IL28B の遺伝子多型、 Core70、ISDR の変異は治療効果予測因子として、ITPA 遺伝子多型は 貧血の予測因子として重要である。これらの因子を用いることにより テーラーメイド治療が可能となる。 S1-8 1 岐阜県総合医療センター 消化器内科 ○清水 省吾 1 、岩砂 淳平 1 、杉原 潤一 1 【目的】C 型慢性肝炎(セロタイプ 2 、高ウイルス量)に対する Peginterferon と Ribavirin(Peg-IFN+R)併用療法における延長治療の有 用性について検討した。 【対象】Peg-IFN+R 併用療法が導入された C 型慢性肝炎は 291 例で、セロタイプ 2 かつ高ウイルス量症例 75 例のう ち、ウイルス陰性化時期の評価可能な 70 例と治療効果判定が可能な 62 例を対象とした。ウイルス陰性化時期および治療効果と背景因子、肝 組織、HCV RNA 量、血液生化学検査、Peg-IFN や R 服薬率との関連 を検討した。 【成績】 1 )ウイルス陰性化時期に関与する因子:ウイル ス陰性化時期は、 2 週 4 例、 4 週 38 例、 8 週 26 例、12 週 2 例であっ た。 4 週以内陰性化群(42 例)と 8 週以降陰性化群(28 例)を比較す ると、年齢(47.6 歳 vs 57.8 歳)、Peg-IFN 体重比(1.54 vs 1.46)、PegIFN 4 週服薬率(100.5 % vs 97.1 %)であり、 4 週以内陰性化群は年 齢が若く、Peg-IFN 体重比と 4 週までの Peg-IFN 服薬率が高値であっ た。多変量解析では、陰性化時期に影響を及ぼす因子は年齢(45 歳未 満、65 歳以上)であった。 2 )治療成績:標準治療(24 週)41 例、延 長治療(32~36 週)18 例、中止・脱落 3 例で、治療完遂例の SVR 率 は 91.5 %(54/59)であった。 4 週以内陰性化群は、全例標準治療で SVR 率は 94.6 %(35/37)であった。一方 8 週以降陰性化群では、標 準治療の SVR 率は 50.0 %(2/4)であったのに対し、延長治療の SVR 率は 94.4 %(17/18)と極めて高率であり、標準治療に比して高い傾向 が認められた。延長治療で SVR が得られなかった症例は 68 歳女性で、 治療期間が 32 週であった。 【結語】C 型慢性肝炎(セロタイプ 2 、高ウ イルス量)に対する Peg-IFN+R 併用療法では、 4 週以内のウイルス陰 性化(RVR)に関与する因子は年齢(45 歳未満)であった。 4 週以内 に陰性化が得られれば 24 週の標準治療で充分であるが、8 週以降陰性 化例では高い SVR 率を得るためには、さらに 12 週程度の治療延長(計 36 週)が望ましいと考えられる。 型慢性肝炎に対する IFNβ先行投与の有効性とその意 C 義についての検討 1 愛知県厚生連 海南病院 消化器科 ○渡辺 一正 1 、奥村 明彦 1 、荒川 直之 1 、青木 孝太 1 、 阿知波宏一 1 、久保田 稔 1 、石川 大介 1 、國井 伸 1 【目的】 IFNβ の 1 日 2 回投与は、治療開始後早期のウイルス量の低下率 が最も大きいことが知られている。今回我々は IFNβ の 1 日 2 回投与 を先行させて治療を行った症例を経験したため治療開始後12週までの ウイルス動態について検討した。 【対象】1 型高ウイルス量症例( 1 型 群)42 例、 2 型症例( 2 型群)26 例【成績】1 型群 42 例の治療法別内 (2a+R 群) が 20 例、IFNα 2b+Ribavirin 訳は、Peg-IFNα 2a+Ribavirin 群 群(2b+R 群)が 7 例、IFNβ 先行投与後 IFNα 2b+Ribavirin 群(β 先 行群)が 15 例であった。RVR、治療開始後 8 週で血中 HCV-RNA が 消失した EVR8、EVR が得られた割合はβ 先行群ではそれぞれ 26.7 %、 57.1 %、75 %であり他の 2 群に比べて最も高かった。一方で 2 型群 26 例の治療法別内訳は、Peg-IFNα 2a 単独群(2a 群)が 6 例、2b+R 群が 5 例、β 先行群が 11 例であり、治療開始後 2 週目までの HCV-RNA の 減少量はβ 先行群が他の 2 群に比べて最も大きかった。治療開始後 2 週以内に血中 HCV-RNA が消失した症例(SRVR 群)の割合は、β 先行 群が63.6%と最も高かった。 2 型群の高ウイルス量症例15例の検討で は、治療法別内訳は 2b+R 群が 8 例、β 先行群が 7 例であり、SRVR、 RVR、EVR8 に至った割合は β 先行群ではそれぞれ 57.1 %、66.7 %、 100 %であり、2b+R 群に比べて高かった。 2 型群においては SRVR も しくは RVR が得られた症例が19例あり、このうち初回治療症例で同意 が得られた 15 例においては治療期間を 12 週ないし 16 週に短縮したが、 現時点で効果判定が可能である14例は全例 SVR に至っている。 【結論】 IFNβ の 1 日 2 回投与を先行させる治療により、 1 型高ウイルス量症 例においては、SVR 率の向上および延長投与を必要とする症例の減少 に寄与する可能性があること、一方で 2 型症例においては、早期のウ イルス消失が可能となり治療期間が短縮できる可能性があることが示 された。 ― 29 ― S1-9 難治性慢性 C 型肝炎に対する二重膜濾過血漿交換(DFPP)併用ペ グインターフェロン・リバビリン併用療法(PEG. Rib)の治療成績 S1-10 C 型代償性肝硬変における IFN-RBV 併用療法の治療効果 と発癌の検討 国立病院機構 東名古屋病院 消化器科、 国立病院機構 名古屋医療センター 消化器科 ○平嶋 昇 1 、都築 智之 2 、岩瀬 弘明 2 1 岐阜大学大学院医学研究科消化器病態学 ○内木 隆文 1 、永木 正仁 1 、高井 光治 1 、白木 亮 1 、 今井 健二 1 、大澤 陽介 1 、清水 雅仁 1 、森脇 久隆 1 1 2 【目的】DFPP 併用インターフェロン療法(IFN)は、ウイルスの機械 的除去により治療早期のウイルス減量が可能で新たな治療として期待 されている。今回、我々は IFN 無効の慢性 C 型肝炎症例に対し DFPP 併用 PEG. Rib を行い検討した。 【対象と方法】過去に IFN を行い無効で あった慢性 C 型肝炎症例13例を対象とした。ISDR 変異 0 ~ 1 が11例、 変異 3 が 1 例、5 が 1 例であった。Core70 変異が 7 例、Core91 変異 が 7 例、70 および 91 ともに変異を認める core double mutant(CDM) が 5 例であった。DFPP を 2 週間にわたって 5 回行い、DFPP 1 回目 終了直後から PEG. Rib を開始し治療に伴う血液中のウイルス量変化 を検討した。 【結果】全例で DFPP は重篤な副作用を認めずに予定回数 を行うことができた。治療開始 2 週後における HCV-RNA 量を治療前 と比較すると、ISDR 変異 0 ~ 1 、CDM 5 症例では- 1.4±1.0 Log IU/ ml、ISDR 変異 0 ~ 1 、CDM 以外の 6 症例では- 2.3±1.4 Log IU/ml、 ISDR 変異 2 以上の症例では- 1.5 ± 1.2 Log IU/ml で、過去の治療が PEG. Rib であった 8 症例では- 1.4 ± 0.8 Log IU/ml、IFN. Rib であっ た 2 例では- 1.9 ± 0.3 Log IU/m、IFNt 単独であった 3 例では- 2.7 ±2.1 Log IU/ml であった。最終治療効果を判定できた症例は12例で、 そのうち SVR を 4 例(33 %)に認めた。SVR 症例は、ISDR 変異 0 ~ 1 、CDM 症例では 1 例 / 5 例(20 %)、ISDR 変異 0 ~ 1 、CDM 以外 の症例では 2 例 / 6 例(33 %)、ISDR 変異 2 以上の症例では 1 例 / 1 例(100 %)で、過去の治療が PEG. Rib であった症例では 1 例 / 7 例 (14 %)、IFN. Rib であった症例では 0/2( 0 %)、IFN 単独であった症 例では 3 例 / 3 例(100 %)であった。【結論】DFPP 併用 PEG. Rib は、 難治性症例に対してもウイルスの早期減量が可能と考えられた。しか し、SVR 率に関しては前治療 IFN 単独無効例や ISDR 変異 2 以上 CDM 以外の症例では期待が持てるが、前治療 PEG. Rib 無効例には満足のい く結果ではなく、今後の症例の蓄積と長期経過の検討を行うことで本 治療法の有用性と適応範囲を明らかにする必要があると思われた。 S1-11 血小板減少を伴う C 型慢性肝疾患に対する治療の検討 【はじめに】HCV キャリアが年々高齢になり、肝硬変への進展例が多 くなるにもかかわらず、肝硬変症例における併用療法の治療成績や発 癌抑制効果は現状においても十分明らかとは言えない。今回我々は、 肝硬変症例に対する IFN-RBV 併用療法の有効性を検討した。【対象】 平成 16 年から平成 21 年にかけて IFN-RBV 併用療法を施行された肝癌 の既往のない臨床的(肝生検 F 4 :血小板 10 万未満:食道静脈瘤の存 在のいずれかを満たす)に診断した代償性肝硬変症例 29 例(平均年齢 59.1 ± 8.9 歳、男性 15 例:女性 14 例、Child 分類 A/B:27/2)を検討し た。ウイルス学的には G1 23 例:G2 5 例。IFNα 2b+RBV 3 例、PEGIFNα 2b+RBV 24 例、PEG-IFNα 2a+RBV 2 例 で あ り、 治 療 期 間 は 15-96 週であった。また血小板減少に対しては、PSE を 2 例、摘脾を 1 例に施行している。 【結果】脱落症例は 4 例(腹水 2 例、肝性脳症 1 例、うつ 1 例)であった。投与中の血小板は最大 60 %の低下(9.3 万→ 5.6 万)であった。ウイルス著効(SVR)は G1 で 42.9 %(9/21) 、 G2 で 40.0 %(2/5)であった。SVR に寄与する因子としては性別(男 性>女性)のみが有意と確認されたが、血小板の高値と血清ヒアルロ ン酸の低値が傾向として観察された。投与前後のアルブミン値は3.6g/ dl →4.0g/dl と有意な改善を認め、IFN-RBV 併用療法は肝予備能の改善 をもたらすと考えられた。発癌および長期予後の検討は、IFN 投与後 の観察期間は平均 45.4 月(10.2-72.4:中央値 48.9 月)であり、死亡例 は無いが、発癌は 6 例に観察された、発癌まで平均 27.6 月(8.7-52.1: 中央値 26.4 月)であり、発癌率は 3 年で 9.8 %、 5 年で 36.2 %であっ た。発癌は無効例にのみ認められ、SVR 例および BR 例においては認 められなかった。【考察および結語】代償性肝硬変症例においても安 全に RBV 併用療法が施行でき、ウイルス学的効果も慢性肝炎とほぼ遜 色ない治療効果が今回確認された。血小板および肝不全徴候の出現に 対し慎重に対処したうえで、肝硬変の進展予防および発癌予防を目的 に、代償性肝硬変症例であっても RBV 併用療法を積極的に考慮すべき と考えられた。 S1-12 血小板減少を伴う C 型慢性肝疾患に対する部分的脾動脈 塞栓術(PSE)後の IFN 治療の効果について 三重大学 医学部 付属病院 消化器肝臓内科、 2 三重県立総合医療センター 消化器内科 ○野尻圭一郎 1 、田中淳一朗 1 、山本 憲彦 1 、杉本 和史 1 、 白木 克哉 1 、竹井 謙之 1 、高瀬幸次郎 2 1 1 岐阜市民病院 消化器内科 ○鈴木 祐介 1 、西垣 洋一 1 、冨田 栄一 1 【目的】C 型慢性肝疾患は血小板減少により、IFN 投与が制限される症 例も少なくない。しかし一方で、摘脾により血小板数・肝予備能が改 善することが報告されている。また、摘脾が困難な症例では IFN-β 使 用可能例がある。今回、我々は血小板減少または肝予備能不良の慢性 肝疾患における脾摘の有効性と IFN 導入後の治療経過について検討し た。【方法】対象は脾摘を行った C 型慢性肝疾患 28 例(IFN 導入目的 17 例、肝機能改善目的 11 例)と、血小板減少で IFN-β を導入した 4 例。 摘脾の適応は、血小板減少で IFN 導入困難症例、及び肝予備能不良に よる腹水コントロールが困難症例とした。平均年齢は57.7歳、男女比は 18:14。C 型慢性肝疾患 32 例中 HCC 治療後 11 例、アルコール性 LC 2 例、LDLT 後 2 例、原因不明 LC 1 例。術後平均観察期間は 29±14.1 月。以上の対象を、 1 )肝機能変化及び予後、 2 )血球数の推移、 3 ) IFN の治療成績について検討した。【結果】 1 )Child score は脾摘前 後で 7.07 ± 1.44 → 5.96 ± 1.39 と有意に改善、Alb・T-Bil・PT・Ch-E も 同様に改善し、脾摘 30ヶ月後も増悪なく経過している。予後は、 3 例 で肝不全死、 3 例で癌死、 2 例で HCC 再発を認めた。 2 )血小板数 は脾摘後有意に増加し、IFN 導入目的で脾摘を行った全 17 例で IFN 導 入可能であった。また、IFN-β 導入 4 例に関しては、投与開始時の平 均血小板数は9×103/μ l、投与後に軽度血小板減少を認めるも中止基準 には達せず現在治療中である。 3 )SVR は 4/17(23.5 %)であり、全 て serogroup 2 であった。NR と判定した 10 例中 4 例で TVR、 1 例で BR であった。12/17 例で IFN 減量を要する血球減少を認めたが中止例 はなかった。 【結論】脾摘は慢性肝疾患の血小板を上昇させ、治療のア ドヒアランスを改善させるのみでなく、肝機能改善に寄与する可能性 が示唆されたが、IFN の治療成績については更なる症例の検討が必要 である。 【目的】特に C 型肝硬変症においては、脾機能亢進症による汎血球減少 のため、IFN 治療が困難な症例が少なくない。このような症例に対す る部分的脾動脈塞栓術(PSE)の有用性とその後の IFN 治療の効果に ついて検討した。 【対象】05 年 5 月から 09 年 7 月までに当科にて PSE を施行した C 型慢性肝疾患 50 例。男:26 例 / 女:24 例、年齢:61.7 歳 (45-78) 、genotype 1b/2a/2b:38/10/ 3 例、ウイルス量 高 / 低:46/ 4 、Hb:12.7±1.3g/dl(6.4-16.4) 、 例、WBC:3680 ± 810/μ l(1650-5960) 。 【結果】PSE 後に IFN 治療を導入し得 Plt:6.7 ± 1.4 万 /μ l(3.1-10.6) た症例は 44 例であった。PEGIFNα 2a・RBV: 2 例、PEGIFNα 2b・ RBV:34 例、nIFNα :14 例、PEGIFNα 2a: 6 例、IFNβ : 3 例(重複 あり)。19 例が中断もしくは中止となったが、HCC 発生: 9 例、DM 悪化: 3 例、精神異常: 2 例、糖尿病性網膜症悪化: 2 例、食道静脈 瘤破裂: 1 例、慢性硬膜下血腫: 1 例、脳梗塞: 1 例、てんかん発 作: 1 例、肺炎: 1 例、めまい: 1 例と血球減少による中止は認めら れなかった。SVR 率は 2a 低:67 %( 2 / 3 例) 、2a 高:50 %( 2 / 4 例) 、2b 高:67 %( 2 / 3 例) 、1b 高:21 %( 5 /24 例)[SVR とならな かった 19 例のうち 15 例は BR] であった。【結語】血小板減少を伴う C 型慢性肝疾患における SVR 率は特に 1b 高にてやはり低値であったが、 SVR とならなくても BR となり、肝炎の鎮静化を期待できる症例もあ る。よって、PSE により IFN 治療が可能になる事は予後の改善にも繋 がる可能性が示唆された。 ― 30 ― S1-13 難治性 C 型肝炎に対する当院の IFN 治療 S1-14 慢性肝炎に対するインターフェロン治療~ HBV.HCV 重複 感染に対する IFN 治療経験を含めて~ 小牧市民病院、 近藤医院 ○鈴木 大介 1 、平井 孝典 1 、磯部 和男 2 1 2 【背景・目的】C 型肝炎に対する IFN 治療において、難治とされる要 素として、 1 型高ウイルス量・高齢者・肝繊維化進行・血小板低値が あげられる。それらの症例に対し、当院では 2002 年より IFN の長期投 与・再燃 / 無効例への再投与・脾摘 /PSE を行っており、それらを含め た IFN の成績につき報告する。 【対象と方法】症例は IFN 投与を終了 した 1 型高ウイルス量の C 型肝炎患者 121 例(男性 69 例、女性 52 例)。 平均年齢 62.5 歳(21-78 歳、65 歳以上 56 例、70 歳以上 30 例)。平均 Fstage2.2(F3 以上 40 例)これらの症例における⑴ total での IFN 治療 成績⑵ PEG-IFN 発売前の IFNα 2a96w/Rib24w 投与の治療成績⑶ SVR 症例における IFN 再投与の現状⑷ F3 以上の症例における治療成績⑸ 脾摘 /PSE を施行した症例における IFN 治療成績⑹ 65 歳以上の女性に おける IFN 治療成績、について検討を行った。 【成績】⑴ SVR は 121 例中 71 例(59.2 %)⑵ PEG-IFN 発売前に IFNα 2a96w/Rib24w を施行 した 44 例中 SVR は 18 例(40.9 %)⑶全 SVR 症例 71 例中、 2 回以上の IFN 投与を施行した症例は 29 例(Rib 併用の IFN を 2 回以上施行した 症例は 22 例)⑷ F3 以上の 40 症例中 SVR は 18 例(45 %)⑸脾摘 /PSE を施行した 16 症例中 SVR は 7 例(43.8 %)⑹ 65 歳以上の女性 20 症例 中 SVR は 6 例(30 %) 、であり、 1 型高ウイルス量・高齢者・肝繊維 化進行・血小板低値症例においても良好な成績を示した。【結論】IFN の長期投与・再燃 / 無効例への再投与・脾摘 /PSE は、 1 型高ウイルス 量・高齢者・肝繊維化進行・血小板低値に対しても有用な投与方法と 考えられた。 1 県西部浜松医療センター 消化器科 ○山崎 哲 1 、影山富士人 1 、山田 正美 1 、吉井 重人 1 、 本城裕美子 1 、高井 哲成 1 、岩岡 泰志 1 、千田 剛士 1 、 鈴木 聡 1 、森 泰希 1 、下山 真 1 、大田 和義 1 、 松下 直樹 【はじめに】近年、C 型慢性肝炎(CH-C)と B 型慢性肝炎(CH-B)に 対しインターフェロン(IFN)治療はガイドラインでその治療指針が 示されている。一方、HBV・HCV 重複感染に対する IFN 治療はウイル スの干渉作用など不明な点が多い。今回我々はウイルス性慢性肝炎に 対する IFN 治療を評価し、加えて HBV・HCV 重複感染に対する IFN 治 療について文献的考察を加えて報告する。 【対象】PEG-IFN(単独およ びリバビリン併用)で治療が行われた CH-C 81 例と過去 7 年間に IFN 治療がなされた CH-B 10 例及び HBV・HCV 重複感染の 2 例。 【結果】 CH-C 81 例の治療成績は SVR:39 例(48 %) 、非 SVR:16 例(20 %) で副作用による中止が 22 例(27 %) 、副作用以外の中止が 4 例( 5 %) であった。CH-B 10例は全例に IFNα が投与され、平均投与期間は35週 で 5 例(50 %)に SC が得られた。一方 HBV・HCV 重複感染 2 例はと もに PEG-IFNα 2b+Rivabirin 併用療法がなされた。1 例目は28歳男性、 HCV は 1 型高ウイルス量で HBV は genotypeC、HBeAg (+)で HBVDNA7.7log copies/ml。治療後 HCV-RNA は消失したが HBV の急激な 増加と肝炎の増悪(肝組織で F1 → F3)にて核酸アナログが導入され 救命された。 2 例目は 47 歳男性、HCV は 2 型高ウイルス量で HBV は genotypeC、HBeAg (-)で HBV-DNA4.0log copies/ml。治療後 HCV、 HBV ともに測定感度以下になった。 【考察】CH-C に対する PEG-IFN. ribavirin 併用療法の成績は既報告とほぼ同等であったが、副作用別の IFN 継続や再治療の適否を再検討する必要がある。CH-B においては SC 率 50 %であり今後も SC 率向上が望まれる。HBV・HCV 重複感染に 対する IFN 治療は特に HBeAg 陽性例において HCV 消失後の HBV 増 加と肝炎悪化がみられ注意が必要である。 【結語】HBV・HCV 重複感 染を含めた慢性肝炎に対する IFN 治療について検討し報告した。 S1-15 当院における B 型慢性肝疾患に対する核酸アナログ治療 の現状と問題点 1 愛知医科大学 消化器内科 ○佐藤 顕 1 、中尾 春壽 1 、恒川 明久 1 、米田 政志 1 【目的】B 型肝炎に対する核酸アナログ製剤は認可後 10 年が経過し、B 型慢性肝疾患における基本的治療として定着した。しかし、核酸アナ ログ製剤は長期投与で薬剤耐性が出現し易く、耐性出現時は適切な時 期に製剤の変更が必要となる。我々は最近10年間において当院で 1 年 以上の核酸アナログ治療を施行した B 型慢性肝疾患患者を解析し、核 酸アナログ治療の現状と問題点を検討した。 【方法】2001 年以降に当科 でラミブジン(LAM) 、アデフォビル(ADV)、エンテカビル(ETV) を 1 年以上連続投与した B 型慢性肝疾患患者 191 名(男性 124 名、女 性 67 名)を対象とした。核酸アナログ製剤投与前、投与 3 、 6 ヶ月 後、 1 、 2 、 3 年後またはそれ以降の AST, ALT, PLT, HBV-DNA, HBe Ag, break-through hepatitis の有無などを解析した。一部症例で はインベーダー法または INNO-LiPA 法にて HBV 遺伝子変異を解析し た。【結果】初期治療として LAM を開始した 123 例のうち LAM 単独 を継続した症例は 51 例(41 %)であり、ADV 併用例は 35 例(28 %)、 ETV に変更例は 32 例(26 %)であった。LAM+ADV 併用後に 2 例 は ETV 単独に変更し、 2 例は ADV+ETV 併用療法に変更した。 1 例 は LAM+ADV+ETV の 3 者併用療法を施行した。一方、ETV 単独療 法を施行した 68 例のうち 67 例(98.5 %)は HBV break-through もなく ETV 単独療法を継続中であり、 1 例のみ(1.5 %)が ETV+ADV 併用 療法となった。ETV 開始後は大部分の症例で 3 カ月以内に HBV-DNA が検出感度以下となったが、3 log copies/ml 未満に 1 年以上要した症 例でも核酸アナログ耐性変異は認めなかった。break-through 時には HBV-DNA は ALT に先行して上昇し、5 log copies/ml を超えると肝炎 が生じ易かった。 【結語】ETV は LAM に比し薬剤耐性を来たしにく い第一選択薬であるが、HBV-DNA の定期的なモニタリングと breakthrough 時の迅速な対応が必要と考えられた。 ― 31 ― シンポジウム 2 S2-1 S2-2 頭頚部悪性腫瘍を合併した食道表在癌の特徴 愛知県がんセンター中央病院 消化器内科、 愛知県がんセンター中央病院 内視鏡部 ○羽場 真 1 、丹羽 康正 2 、田近 正洋 2 1 2 【目的】当院で内視鏡治療を施行した食道表在癌の成績を検討し、頭 頚部悪性腫瘍を合併した食道表在癌の特徴を明らかにする。【方法】 1994 年 5 月~2010 年 6 月に食道表在癌に対し内視鏡治療を施行した 289 例、448 病変(男性:254 例。年齢:65.2±8.4 歳)を対象とし、頭 頚部悪性腫瘍の合併・非合併の有無で食道癌の占拠部位・腫瘍径・多 発の有無・まだら食道の有無・再発の有無について比較検討した。内 視鏡治療 1 年後以降の新規病変の出現を再発と定義した。【結果】448 病変に対し 398 回の内視鏡治療を施行した。頭頚部悪性腫瘍(下咽頭 癌、喉頭癌など)の合併は 75 例(26.0 %)で、発症時期は食道治療前 62 例;同時 3 例;治療後 8 例であった。病変数は 132 病変 /318 病変 (合併例 / 非合併例)で、部位別には頚部;胸部;腹部食道 = 8 ;121; 1 /10;298;10 病変で、腫瘍径は 16.5±8.9mm/19.1±12.3mm と合併 例で小さく(p=0.01) 、同時多発は 23 例 /49 例に認めた(p=0.18)。ま た、まだら食道を 52/67 例と合併例で多く認めた(p < 0.01)。治療法 は ESD;EMR;APC で 6 ;120; 4 /26;273;17 を施行し、一括切除 率は59.0% /54.7%であった。内視鏡治療後の異所性再発は25例 /38例 で、合併例で有意に高く(p=0.01)、 1 年; 3 年; 5 年後の累積再発 率も 2.7;28.9;37.7/1.5;10.6;21.9 %で有意差を認めた(p=0.03)。初 回内視鏡治療後の 5 年生存率は 82.0 % /79.6 %であった(p=0.33)。【結 論】頭頚部悪性腫瘍合併した食道表在癌は、腫瘍径が小さく、まだら 食道を背景にしていた。食道内視鏡治療後の異所性再発率は有意に高 く、経過観察する上で注意を要すると考えられた。 S2-3 ESD 後の人工潰瘍に対する PPI 単独治療とレバミピド 胃 併用療法との比較検討 1 公立学校共済組合 東海中央病院 消化器内科 消化器内視鏡 センター ○清野 隆史 1 、小林 郁生 1 、井上 匡央 1 、森島 大雅 1 、 川端 邦裕 1 、石川 英樹 1 【目的】当院における胃腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) の治療成績について検討する。 【方法】2007 年 1 月から 2010 年 8 月ま でに当院で ESD を施行した胃腫瘍 49 病変(胃癌および胃腺腫)を対 象とした。患者背景は、男性 36 例、女性 13 例、平均年齢 73 歳であっ た。胃癌診療ガイドライン、Gotoda らの検討を参考に、切除検体を病 理組織学的診断からガイドライン適応病変(GL)、適応拡大病変(適 拡) 、適応外病変(適外)に分類し、一括切除率、治癒切除率、偶発 症を比較検討した。治癒切除は一括切除かつ水平・垂直断端陰性かつ 脈管侵襲陰性のものと定義し、胃腺腫は分化型 m 癌と同等に扱った。 【結果】49 病変の内訳は GL:32 病変、適拡: 6 病変、適外:11 病変で あった。一括切除率は、GL:90.6 %(29/32) 、適拡:100 %( 6 / 6 ) 、 適外:100 %(11/11)であった。GL において一括切除できなかった 2 例は、術中出血が多く長時間の手技となり、患者が不穏となった 1 例 と、他院で施行された ESD 後潰瘍瘢痕の近傍にできた IIc 病変で、繊維 化が強く術中に EMR での分割切除とした症例であった。治癒切除率 は、GL:93.8(30/32) 、適拡:100 %( 6 / 6 ) 、適外:63.6 %( 7 /11) であった。GL で非治癒切除となった 1 例は、リンパ管侵襲が陽性で あった。適外で非治癒切除となった 4 例はいずれもリンパ管侵襲陽 性であり、うち 2 例で垂直断端陽性であった。偶発症は、GL:6.3 % ( 2 /32:後出血 2 例) 、適拡:33.3 %( 2 / 6 :後出血 2 例) 、適外: 18.2 %( 2 /11:術中穿孔 1 例、狭窄 1 例)であった。 【結語】胃腫瘍 に対する ESD は、適応を選んで施行すれば根治性の高い治療法である が、適応拡大病変、適応外病変では偶発症に特に注意する必要がある。 S2-4 消化管 ESD における SB knife Jr. type の有用性 市立四日市病院 消化器科 ○小林 真 1 、前川 直志 1 、竹口 英伸 1 、桑原 好造 1 、 水谷 哲也 1 、山田晋太朗 1 、矢野 元義 1 1 1 藤田保健衛生大学消化管内科 ○中村 正克 1 、柴田 知之 1 、平田 一郎 1 【目的】内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は早期胃癌治療に対して有 用な内視鏡的治療であるが、腫瘍径が大きくなれば治療後潰瘍径も大 きくなる傾向がある。ESD 施行後の人工潰瘍に対しては術後 8 週間の PPI 単独治療が有用であるが、潰瘍径が大きい場合、十分な潰瘍治癒 に至らないケースも報告されている。そこで今回、比較的大きな剥離 を伴う ESD 施行者を対象として PPI(ラベプラゾール)単独群と PPI (ラベプラゾール)+ レバミピド併用群を設定し、人工潰瘍の治癒効果 の比較試験を行った。【方法】胃 ESD にて治療を受けた 70 例を対象と し、術後潰瘍に対する内服治療を PPI 群(PPI:20mg 8 週単独投与)、 レバミピド群(PPI:20mg 4 週+レバミピド:300mg 8 週投与)の 2 群に無作為に割り付けし ESD 後 1 、 7 、28、56 日後での潰瘍面積 縮小変化及び潰瘍ステージ、治療期間における薬剤費の算出により比 較検討を行った。なお本研究は当院倫理委員会の承認及び全症例に文 書によるインフォームドコンセントを行った。【結果】症例数は PPI 群 34 例、レバミピド群 33 例であった。両群間の背景に差は認めなかっ た。 7 日目の潰瘍ステージの変化では A2 ステージへの移行は有意に レバミピド群で多かった。また 56 日目での潰瘍ステージの変化では S1 ステージへの移行に両群間で有意差を認めなかったのに対して、試 験期間内での潰瘍面積縮小率はレバミピド群で有意に縮小をしていた (ANOVA:p=0.0368) 。薬剤費に関しては PPI 群が 20,686 円、レバミ ピド群が14,056円とレバミピド群で6,630円のコストパフォーマンスが 見られた。【結論】ESD 後人工潰瘍に対して PPI 4 週投与であっても レバミピド 8 週投与を併用することで潰瘍治癒効果には遜色はなかっ た。更には医療経済学的にも短期 PPI 投与にレバミピドの併用は有用 であると考えられた。 当 院における胃腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD)の治療成績 【背景】早期の消化管癌に対する治療として ESD は優れた手段である。 しかし病変に伴う線維化等により時に ESD が困難となる症例もみら れる。【対象・器具】消化管癌(食道・胃・十二指腸・大腸)の ESD において、他のデバイスでは操作が困難な症例を中心に SB knife Jr. type(住友ベークライト)を使用した。SB knife Jr. type は従来の周囲 絶縁はさみ型ナイフである SB knife の先端フックをなくして小型化し たモノポーラナイフである。絶縁コーティーングにより周囲組織の保 護と切開力の増強を行うとともに、先端を鋭くせん断構造とし開口幅 を4.4mm と小さくすることにより狭い部分でも取りまわしができるよ うに設計した。 【成績】はさみ型ナイフは横に振る必要がなく、壁の薄 い食道・十二指腸・大腸においても安全に剥離操作が行えた。SB knife Jr. type は先端が効くために線維化に強く、ESD 後瘢痕部にかかる早 期胃癌や細かい操作が必要な大腸 LST の剥離操作にも有効であった。 また周囲切開や血管を把持しての凝固止血も可能であった。今回の検 討では穿孔・後出血等の偶発症は認めなかった。 【結論】従来のデバイ スでは困難である、線維化や細かい操作を必要とする病変に対して SB knife Jr. type は有用であると考えられた。 ― 32 ― S2-5 S2-6 大腸腫瘍に対する ESD の治療成績 岐阜大学医学部附属病院 光学医療診療部、 岐阜大学 医学部 消化器病態学 ○荒木 寛司 1 、小野木章人 2 、井深 貴士 2 、森脇 久隆 2 藤田保健衛生大学 上部消化管外科 ○石田 善敬 1 、春田周宇介 1 、河村祐一郎 1 、吉村 文博 1 、 石川 健 1 、川端 俊貴 1 、稲葉 一樹 1 、谷口 桂三 1 、 礒垣 淳 1 、佐藤 誠二 1 、金谷誠一郎 1 、宇山 一朗 1 2 【目的】ESD は早期胃癌の標準的な治療と位置づけられているが、大腸 ESD は大腸壁が薄いこと、操作性が悪いことなどから広く普及してい る状況ではない。演者は当科および関連病院で 2002 年 5 月から 2010 年 8 月までに計 1531 例の消化管 ESD 症例を経験し、内訳は食道病変 76 例( 5 %)、胃病変 1172 例(77 %)、十二指腸 12 例(0.8 %)、大腸病 変 271 例(18 %)であった。2007 年 10 月の時点での比率は胃 87 %、食 道 5 %、大腸 8 %であり大腸 ESD は最近 3 年でその比率は 8 %から 18 %に増加した。当科における大腸 ESD の治療成績に関し検討した。 【対象】平成 15 年 11 月から平成 22 年 8 月までに当科で施行した大腸 疾患に対する ESD 症例 271 例を対象とした。平成 18 年 3 月までは、フ レックスナイフを中心に、モノポーラーの処置具で ESD を施行し。平 成 18 年 5 月から平成 19 年 12 月は B- ナイフを用いたバイポーラーの処 置具での ESD を施行し、平成 20 年 1 月から平成 21 年 6 月はフレック スナイフで、平成 21 年 7 月からは Dual ナイフで ESD を施行した。粘 膜下局注液はヒアルロン酸を使用した。【結果】病変部位では直腸 111 例(41 %)、S 状結腸 61 例(23 %)、下行結腸 10 例( 4 %)、横行結腸 38 例(14 %) 、上行結腸 31 例(11 %)、盲腸 20 例( 7 %)であった。病 変の形態では LST-G が 103 例(38 %)、LST-NG が 77 例(28 %)、Is 型 腫瘍が 53 例(20 %)、IIc 型腫瘍が 14 例( 5 %)、カルチノイド腫瘍が 23 例( 9 %)、その他 1 例であった。病理所見では腺腫が 96 例、鋸歯 状腺腫・異型過形が 10 例、高分化型腺癌 123 例(粘膜内癌 98 例、sm 以 深癌 25 例) 、中分化型腺癌 15 例(粘膜内癌 7 例、sm 以深癌 8 例)、カ ルチノイド 23 例、その他 4 例であった。切除成績は一括切除率 98 %、 平均切除粘膜径(カルチノイドは除く)は 33mm で、平均処置時間 45 分であった。合併症は術後出血 23 例( 9 %)に認め 1-8POD に認めた。 穿孔 3 例( 1 %)に認め 1 例に外科手術を要した。【結論】大腸 ESD は近年症例が増加していおり、切除成績、治療成績は比較的安定して きている。今後も、ESD の適応、治療成績の検討を続け、大腸腫瘍に対 し、より適切な内視鏡治療が行われるようになることが期待される。 S2-7 胃癌に対する Robotic Gastric Surgery 1 1 部消化管悪性狭窄に対する消化管ステントの有用性に関 上 する検討 当 科 で は 2009 年 1 月 よ り、da Vinci SHD Surgical System( 以 下、 da Vinci)を臨床に導入し、19ヶ月間に 46 例(男 25 女 21)に Robotic Gastric Surgery(以下、RGS)を施行した。Distal gastrectomy を 38 例に、Proximal gastrectomy を 1 例に、Total gastrectomy を 7 例に 行った。症例を重ねるにつれ、徐々に technical form は変遷してきた。 da Vinci の1st arm が執刀医の右手となり、モノポーラーを有する剥離 鉗子を装着する。2nd arm は執刀の左手となり、バイポーラーを有す る把持鉗子が装着される。また 3rd arm は主に場の展開のための arm となり、把持鉗子が装着され、執刀医第二の右手となる。基本的には 従来の Laparoscopic Gastric Surgery(以下、LGS)に準じて手術を進 めていく。当科では再建も da Vinci で行っている。リンパ節郭清に関 しては、D1+ αが 3 例に、D1+ βが 16 例に、D2 が 27 例に行われた。 手術時間中央値は 394 分(200 - 853 分)で、開腹または腹腔鏡下手術 への移行例はなかった。術中出血量は 55.0g( 4 - 935g)であった。リ ンパ節郭清個数は 40(16 - 100)であった。Morbidity は、術後肺炎、 縫合不全、吻合部出血、肺梗塞ののべ 4 例であり、Mortality は肺梗塞 例の 1 例であった。LGS と比較すると RGS では現状のところ、手術時 間は長く、費用もかかる。しかしながら da Vinci は、優れた自由度を 持つブレのない鉗子を有し、安定した 3 次元画像の供給を行うことに よって、LGS では成しえない、より高度な手術手技を行いえる。 S2-8 1 岐阜市民病院 消化器内科 ○小木曽富生 1 、杉山 昭彦 1 、加藤 則廣 1 院における悪性大腸狭窄に対する expandable metallic 当 stent 留置術の検討 1 公立陶生病院 消化器内科 ○黒岩 正憲 1 、森田 敬一 1 、松浦 哲生 1 【目的】悪性腫瘍の進行により消化管狭窄をきたすことは、手術不能な 患者にとって経口摂取が困難になり QOL を著しく低下させる。これ に対する消化管ステント留置術は低浸襲で手技も比較的容易で、患者 の QOL の改善に極めて有用である。今回我々は当科で経験した上部 消化管の悪性狭窄に対するステントの有用性について検討した。また 併せて平成22年 4 月より保険収載された十二指腸ステント(WallFlex) の使用経験を報告する。 【対象】消化管悪性狭窄症例 84 例。内訳は A 群:原発性食道癌 39 例、B 群:非食道癌(部位が食道)26 例(肺癌 11 例、リンパ節転移 3 例、縦隔腫瘍 2 例、胃癌食道浸潤 10 例)、C 群: 他の悪性狭窄 19 例(胃癌 8 例、胆管癌 3 例、胆嚢癌 4 例、膵癌 3 例、 十二指腸癌 1 例) 。使用したステントは Ultraflex77 例、Diamond stent 1 例、tube stent 1 例、Z-stent 1 例および WallFlex 4 例であった。 【成績】ステント挿入成功率は 98.8 %であり、dysphagia score(DS)は 3.90から1.98と著明に改善した。挿入後の疼痛を18例に認めたが、その 他重篤な合併症は認めなかった。また留置後は 69.0 %の患者で外泊可 能となり、38.1%で一時退院できた。ステント挿入後の平均生存期間は 全体で 3.63ヶ月であった。ステント挿入後 1 ヶ月以内の早期死亡例は 12 例にみられたものの、いずれの症例においても明らかな DS の改善 がみられ、QOL の改善に大きく貢献したと思われた。一方、WallFlex を挿入した 4 症例は従来のステントでは挿入困難症例と思われたが、 いずれも比較的容易に挿入できた。 【結論】末期癌患者における悪性 狭窄に対するステント治療は、安全で緩和医療の一環として極めて有 用であった。病勢や予後を慎重に検討・予測し、数ヶ月の予後が期待 できる場合であればステント留置は積極的に選択される治療法と思わ れた。また、新しいデバイスである WallFlex は容易な挿入を可能にし た。また細かい網目構造のため強い形態保持力を有し屈曲部での挿入 にも優れている印象であった。しかし一方では ingrowth や出血などの 危険性も推察され、将来的には挿入性を損なわない covered type の開 発が望まれる。 【 目 的 】 近 年 切 除 不 能 悪 性 大 腸 狭 窄 に 対 し て、 食 道 用 expandable metallic stent (以下、EMS) の挿入が有用であると報告されている。当 院でもこれまで緩和医療として悪性大腸狭窄症例に対し、EMS 留置を 行ってきた。今回我々は当院における悪性大腸狭窄に対する EMS 留 置術の成績について検討したので報告する。 【対象】 悪性大腸狭窄29例 で、年齢は 45 歳~96 歳 (平均 73.8 歳) 、男性 15 名、女性 14 名。病変部位 は直腸 10 例、S 状結腸 10 例、下行結腸 2 例、横行結腸 6 例、上行結腸 1 例。使用 EMS は Boston 社製 Ultraflex esophageal stent(uncovered および coverd type) 。 【方法】深部例への挿入は、通常の方法では留置 困難なため、以下のいずれかの工夫を加えた。 1 .ロングシースを併 用し S 状結腸のたわみを防止する。 2 .24FrPTCS チューブで system を延長する。 3 .system の先端を切断し、ガイドワイヤーを 2 本挿 入して腰を持たせる。 4 .狭窄部をバルーンで拡張する。 【成績】ステ ント開存期間は平均 287.9 日( 0 ~629 日)、退院、転院が可能となっ た症例は 16/28(57 %) 、摂取可能となった食事は低残渣食から普通食 までであった。留置から死亡時までの平均生存期間は平均 264 日(29 ~1241 日)で、11 例はステント挿入後に化学療法を行った。合併症は ステント挿入後の疼痛が 9 例(31 %) 、下血を 11 例(38 %)に認めた が、いずれも軽度で数日で軽快した。穿孔は 2 例に認められ、部位は 2 例とも横行結腸で、1 例は腹膜炎にて死亡された。他の 1 例は絶食 と抗生剤の点滴にて軽快され、再度ステントを挿入し経口摂取可能と なった。ステント閉塞をきたした症例の内 3 例に stent in stent を施行 し、腸閉塞が改善した。ステント逸脱は 8 例(28 %)に認められ、 2 例が横行結腸、 6 例が直腸、S 状結腸症例であった。深部大腸症例で は平均 228 日、浅部大腸(脾彎曲より肛門側)症例では平均 136 日で、 深部症例の開存期間が長い傾向にあった。 【結語】悪性大腸狭窄対する EMS 治療は、穿孔や逸脱などの合併症も有するが、超高齢者、認知症 患者、末期患者の QOL 向上に寄与するものと考えられた。 ― 33 ― S2-9 院における進行再発大腸癌に対する Cetuximab の使用 当 経験-多職種参画による副作用対策も含めて- 名古屋市立大学大学院 消化器内科、 名古屋市立大学大学院 消化器外科 ○森 義徳 1 、片岡 洋望 1 、神谷 武 1 、谷田 諭史 1 、 志村 貴也 1 、溝下 勤 1 、佐藤 幹則 2 、竹山 廣光 2 、 城 卓志 1 S2-10 当院 GIST 症例における EUS-FNA の有用性-遺伝子解析 への応用も含めて 名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学、 名古屋大学医学部附属病院 光学医療診療部 ○舩坂 好平 1 、宮原 良二 2 、後藤 秀実 1, 2 1 1 2 2 本邦における進行再発大腸癌に対する二つ目の分子標的治療薬である Cetuximab の登場により、患者個人の病態、病状に則した化学療法の 治療戦略が可能になりつつある。今回我々は当院における Cetuximab 使用症例をレトロスペクティブに検討した。 【対象】2009年 1 月以降に 当院で Cetuximab を使用した進行再発大腸癌計 23 例を検討した。 【結 果】平均年齢は 66 歳、Cetuximab 平均投与回数 10 回。投与法は 18 例が CPT11 併用、5 例が Cetuximab 単独投与であった。Cetuximab 導入初 回は入院で行った。全例 EGFR は陽性で、KRas 遺伝子については野生 型 17 例、変異型 3 例、不明 3 例。 2 次治療での使用が 3 例、3 次治療 が10例、4 次治療以降が10例であった。治療効果は PR 9 例、SD 3 例、 PD11例で、KRas 変異型 3 例においては全例 PD であった。主な有害事 象はざ瘡様皮疹、皮膚乾燥、掻痒症、爪囲炎等の皮膚症状(Grade 1 ~ 2 )で、ステロイド含有軟膏や抗アレルギー薬の内服にてコントロー ルが可能であった。血液毒性は Grade4 の白血球減少を 1 例に認めた。 重篤な infusion reaction は認めなかった。院内での Cetuximab 適正使 用のため、多職種による具体的な介入方法のアルゴリズムを作成し活 動している。この取り組みについても紹介する。【結論】進行再発大腸 癌に対する Cetuximab を用いた化学療法は比較的安全に施行可能で、 2 次治療以降の有用な治療戦略であると考えられた。多職種による具 体的な介入により適正な Cetuximab の使用・対応が可能であった。 S2-11 FDG-PET/CT 検査による消化管癌発見に関する検討 【目的】当院では 1994 年より消化管粘膜下腫瘍に対し EUS-FNA を積 極的に行ってきた。GIST に対する EUS-FNA の有用性について臨床的 アプローチに加えて遺伝子解析を含む分子学的アプローチにおいても 報告する。【対象と方法】2003 年 1 月から 2010 年 8 月までの間に当 院で EUS-FNA を行い GIST の診断に至った 68 例を対象として組織採 取率、正診率、MIB1 陽性率と EUS 所見との比較検討を行った。また 2008 年 10 月からは当院倫理委員会承認のもと同意の得られた 9 例に EUS-FNA による検体で RNA 抽出を行い、cDNA に逆転写後 PCR によ り c-kit full length を増幅。direct sequence 法でエクソン 9,11,13,17 に 【成 つき変異の有無、Kit 変異陰性例では PDGFRα の変異を確認した。 績】 病変部位は胃 65 例、食道 2 例、大腸 1 例。腫瘍径は 39.5±33.7mm (12~170mm) 。組織採取は 68 例中 66 例(97 %)で可能であった。手 術例は 42 例で、切除標本との対比での正診率は 97.6 %と術前後での診 断に変化はなかった。処置による合併症は 1 例も認めなかった。また GIST の悪性度に関し、MIB-1 陽性率は 95 %で評価可能であり、腫瘍 径には正の相関傾向が認められた。EUS-FNA による検体で得られた RNA 量(20μ l)は 28-536ng/μ l(中央値 119ng/μ l)であった。 9 例す べてで PCR による c-kit 増幅が得られ、cDNA 配列解析が可能であっ た。c-kit 変異の内訳はエクソン 9 : 1 例、エクソン 11: 5 例、変異な 【結論】EUS-FNA では術前 し:3 例で PDGFRα 変異は認めなかった。 に手術検体とほぼ同等に近い結果を安全に得ることができ、治療方針 決定の上で重要な役割を担う検査であると同時に遺伝子解析が可能な 検体を確保できることが実証され、今後の分子標的薬剤による治療戦 略においても重要な手技になることが期待された。 S2-12 Colitic Cancer 症例の発見契機と臨床像の検討 大垣市民病院 放射線科、 2 大垣市民病院 消化器科、 3 大垣市民病院 外科 ○曽根 康博 1 、熊田 卓 2 、久永 康宏 2 、金岡 祐次 3 1 名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学 ○神谷 徹 1 、安藤 貴文 1 、石黒 和博 1 、前田 修 1 、 渡辺 修 1 、三宅 忍幸 1 、日比 知志 1 、三村 俊哉 1 、 氏原 正樹 1 、中村 正直 1 、宮原 良二 1 、大宮 直木 1 、 後藤 秀実 1 1 【目的】当院は 2008 年に PET/CT 装置(シーメンス社 Biograph)を導 入し、デリバリー FDG で運用している。既存の癌の評価時に新たな 癌が発見されることが多く、今回は新たに発見された消化管癌につい て検討した。 【対象と方法】一般診療としての FDG-PET/CT 検査 2160 件(2008 年 6 月~2010 年 3 月)を対象とした。男性 1219 件、女性 941 件、年齢 13~95 歳(平均 65 歳)で、検査理由は病期診断:722 件、転 移再発診断:820 件、治療効果判定:150 件、良悪性鑑別:195 件、スク リーニング:273 件であった。検査時は依頼により 274 件(12.7 %)に 造影 CT、必要に応じ 908 件(42.0 %)に遅延相撮影を行った。検査前 に予想されず、偶然発見された原発癌を偶発癌と定義した。【結果】偶 発癌は 44 例 /2160 件(2.03 %)にみられた。このうち消化管癌は 18 例 (0.83 %)で、臓器別の内訳は大腸:12、胃: 5 、食道: 1 であった。 男性 13 例、女性 5 例、年齢 58~92 歳(平均 75 歳)で、男性で高齢者 に多かった。12 例(66.6 %)に重複癌(同時性: 7 、異時性: 5 )が 存在した。癌病巣は全例で限局性の FDG 高集積を呈し、集積長径は 34 ± 20mm、SUVmax は早期相 7.87 ± 3.76、後期相 8.82±3.83 で、病変と しての認識は比較的容易であった。深達度は m:2 、sm:2 、mp-ss: 6 、se or a: 5 、不明: 3 であった。リンパ節転移を 9 例、肝転移を 2 例、腹膜播種を 1 例に認めた。治療法として根治手術が 11 例(う ち 3 例は重複癌と同時手術)、EMR が 2 例、減量手術が 1 例、化学 療法+放射線治療が 1 例に行われた。年齢や進行度の兼合いで 1 例 は経過観察、 2 例は緩和医療となった。【結論】FDG-PET/CT 検査に よって 18 例(0.83 %)の消化管癌が発見され、根治手術の適応となる 症例が多かった。消化管領域は、生理的集積により診断が容易ではな いが、癌の頻度が高いため細心の注意で読影に臨むことで多くの癌を 発見できる。PET/CT は偽陽性や偽陰性が避けられない不十分な検査 法だが、偶発癌の発見という点で癌診療へ寄与するところが大きい。 【目的】 当院では、発症 7 年以上経過した全大腸炎および左側大腸炎型 の潰瘍性大腸炎 (UC) 患者を対象に、原則として年 1 回の surveillance colonoscopy を推奨している。しかし colonoscopy(CS)に同意されな い患者も多く、十分な検査が施行されているとは言えない。今回、我々 は当院で発見された Colitic Cancer 症例の発見契機と臨床像について 検討した。 【方法】1998 年 10 月から 2010 年 7 月までに当院消化器内科 を受診した潰瘍性大腸炎患者 381 例の中に 12 例の Colitic Cancer があ り、その発見契機と臨床像を検討した。【成績】Colitic Cancer12 症例 は、男性 3 例と女性 9 例、癌発見時の平均年齢は 49.6 歳、平均罹患期 間は 16.1 年であった。病型は再燃緩解型 6 例、慢性持続型 6 例で、罹 患部位は全大腸炎型 10 例、左側大腸炎型 2 例であった。発見契機の 内訳は surveillance colonoscopy で発見されたものが 4 例、治療効果 判定など経過観察中に行った CS で偶然発見されたものが 6 例、大腸 癌による症状で発見されたものが 2 例であった。発見時の進行度は、 surveillance colonoscopy で発見された症例では 0 期 1 例、I 期 1 例、 II 期 1 例および IIIa 期 1 例で、有症状例では IIIa 期 1 例と IV 期 1 例 であった。【結論】UC に合併する大腸癌は、一般の大腸癌に比べ若年 で、 1 例を除いて発症から 7 年以上が経過しており、多くが全大腸炎 型であった。surveillance colonoscopy で発見された大腸癌は 4 例で、 発見時の進行度は必ずしも良い予後が望めるものばかりではなかった が、症状が出てから発見されたものに比べれば早期に発見される傾向 にあり、UC 長期罹患患者における surveillance colonoscopy の有用性 が示唆された。 ― 34 ― 大腸 1 1 主膵管型 IPMN が併存し、メサラジン内服で急性膵炎を発 症した高齢者潰瘍性大腸炎の 1 例 2 土岐市立総合病院 内科、 2 名古屋大学大学院 消化器内科学、 名古屋大学医学部附属病院 光学診療部 ○南堂 吉紀 1 、白井 修 1 、渡辺 武人 1 、吉村 透 1 、 清水 豊 1 、川嶋 啓揮 2 、伊藤 彰浩 2 、廣岡 芳樹 3 、 後藤 秀実 2 半田市立半田病院 ○安藤 通崇 1 、広崎 拓也 1 、亀井圭一郎 1 、岩下 紘一 1 、 島田礼一郎 1 、森井 正哉 1 、神岡 諭郎 1 、大塚 泰郎 1 1 3 症例は 84 歳、男性。主訴は下痢、血便。既往歴は 74 歳時に直腸癌で低 位前方切除術。平成21年 8 月頃より 1 日 5 ~ 6 行の下痢が出現し、9 月下旬より 1 日 10 行以上と増悪。10 月 4 日に血便を認めたため 10 月 5 日に当院受診。来院時血液検査では、軽度の貧血、胆道系酵素の上 昇、腎機能異常、軽度の CRP 高値を認めた。同日に緊急 CF にて直腸 から S 状結腸にかけて連続性に易出血性で粗造な粘膜とびらん、発赤 を認め、入院の上で絶食、持続点滴とした。潰瘍性大腸炎(以下 UC) を強く疑ったため第 1 病日よりメサラジン 1500mg を開始した。第 2 病日の腹部単純 CT では、直腸に手術痕、直腸から S 状結腸の壁肥厚 を認め、さらに主膵管の拡張を認めた。MRCP でも主膵管の拡張を認 め主膵管型 IPMN も疑われたが高齢なため経過観察とした。便培養で は有意な菌を認めず、病理組織所見を含め総合的に活動性 UC、中等 症、左側大腸炎と診断し、高齢であったためメサラジン単独で治療開 始した。その後の経過は良好で下痢、血便は改善し、第 10 病日の CF では内視鏡的にも改善傾向を認め、第 19 病日に退院。第 20 病日に上腹 部痛が出現し、同日に当院救急外来を受診。軽度膵酵素の上昇と腹部 単純 CT で前回に比べ膵腫大を認め、急性膵炎で入院となった。入院 後メサラジンを中止とし、翌 21 病日に腹痛は軽減した。膵炎の原因と して IPMN による主膵管内の粘液貯留も考えられ、第 25 日朝よりメサ ラジンを再開したところ同日の夜間に急性膵炎が再発しメサラジンを 中止した。第 32 病日の ERCP では明らかな乳頭開口部の拡張や粘液は 認めなかったが、膵頭部から体部の主膵管は著明に拡張し、頭体移行 部の膵管内 IDUS では主膵管内に小結節が認められた。以上より主膵 管 IPMN と診断したが、高齢であったため手術はせず経過観察とした。 本症例の 2 回の膵炎はいずれもメサラジン内服時に発症しており、メ サラジンの中止にて改善傾向を認めた。主膵管型 IPMN の存在も膵炎 に関与した可能性はあるが、メサラジンが膵液分泌の亢進を引き起こ し膵炎発症の引き金になった可能性が考えられた。 3 当院にて経験した超高齢発症の潰瘍性大腸炎の 3 例 1 顆粒球・単球除去療法の連日施行により早期寛解に至った 潰瘍性大腸炎の 2 例 1 山田赤十字病院 消化器科 ○伊藤 有平 1 、黒田 幹人 1 、杉本 真也 1 、山本 玲 1 、 山村 光弘 1 、大山田 純 1 、川口 真矢 1 、亀井 昭 1 、 佐藤 兵衛 1 、福家 博史 1 【背景】活動期潰瘍性大腸炎(UC)は患者の QOL を著しく下げる疾患 であり、なるべく迅速に寛解導入へ至る治療法が望まれる。近年、顆 粒球・単球除去療法(GMA)の集中治療法にて、迅速かつ高確率に 寛解導入できたとの報告を散見する。今回、我々は GMA 5 回 / 週 × 2 週の集中治療により、効果的に寛解へ至った UC の 2 症例を経験し たので報告する。 【方法】活動期 UC の症例で、ステロイド治療効果不 良例、ステロイド治療拒否例の 2 例に対し、 5 回 / 週 × 2 週のスケ ジュールで GMA 集中治療を行った。【症例 1 】17 歳女性。平成 22 年 1 月より下痢・血便あり、 3 月に全大腸炎型 UC と診断。メサラジン 1.5g/day・プレドニン20mg/day 内服による外来加療行ったが症状改善 せず。入院加療及びプレドニン増量を勧めたが、患者が受験をひかえ た若年女性で長期入院を拒否、プレドニン増量による副作用も怖いと のことで、GMA 集中治療を行った。当初、外来中心に GMA 行う予定 だったが、末梢血管より脱血不可能であったため、入院の上で右頸静 脈に透析用留置カテーテル留置し 5 月17日より治療施行した。治療前 の Lichtiger らの Clinical Activity Index(CAI)は 9 、寛解導入(CAI4 以下)までは 3 日間であり、副作用は認めなかった。 6 月 2 日、下 部消化管内視鏡施行したところ、全結腸ほぼ正常所見で著明に改善し ていた。 【症例 2 】59 歳男性。 6 年前に直腸炎型 UC と診断され、メサ ラジン内服及び注腸にて近医加療されていた。平成22年 3 月下旬より 腹痛・下痢・下血あり 4 月に当科紹介受診。下部消化管内視鏡行った 所、左側大腸炎型で内視鏡所見は高度。プレドニン注腸併用したが改 善せず、DM が基礎疾患にありステロイド内服は拒絶され、 7 月 20 日 より GMA 集中治療を行った。治療前の CAI は 11、寛解導入までは 10 日間、副作用は認めなかった。 8 月 6 日の下部消化管内視鏡でも改善 傾向を認めた。 【結語】GMA 5 回 / 週× 2 週の集中治療は迅速に UC の寛解導入が可能であり、安全かつ有用であると考えられた。 【緒言】潰瘍性大腸炎の発症年齢はあらゆる年代に分布しているが一般 的に 20 代をピークに 10~30 代の若年層に多く分布している。近年、食 生活の欧米化により高齢発症の報告も散見されるようになってきたが 超高齢者(80 歳以上とした。 )の潰瘍性大腸炎に対する治療方針が確 立しておらず、今回我々は超高齢発症の潰瘍性大腸炎を経験したので ここに報告する。【症例】症例 1 は 82 歳男性、血便を主訴に受診、下 部消化管内視鏡検査にて下行結腸から直腸にかけて広範な潰瘍・膿性 粘液の付着・易出血性を認め、Matts の分類にて重症潰瘍性大腸炎と 診断、PSL 内服、白血球除去療法を行い寛解に至った。症例 2 は 80 歳 男性、下痢・下血を主訴に受診、下部消化管内視鏡検査にて広範な粘 膜の脱落・多発する潰瘍・易出血性を認め、重症潰瘍性大腸炎と診断。 顆粒球除去療法をまず導入し、PSL0.5mg/kg を追加投与。下痢の回数、 下血は改善傾向であり、症状的にはほぼ寛解に至った。症例 3 は 80 台 女性、下痢・下血にて受診、下部内視鏡検査では粗造な粘膜、血管透 過性の低下は認めたが出血はほとんどなく、中等度潰瘍性大腸炎と診 断し、 5 -ASA 製剤、食事療法のみで PSL は使用せず治療を行ったが 寛解に至った。 【考察】潰瘍性大腸炎は若年発症が多いが高齢発症の場 合はステロイドや免疫抑制剤等の治療を積極的に行うには感染症や骨 粗鬆症のリスクを伴うため、治療は慎重に行うべきであると考えられ る。そのため、重症以上の症例では、治療開始後早い段階で顆粒球除 去療法を施行し 5 ASA 製剤を PSL と併用することにより低用量 PSL でも寛解にいたる可能性があると考えられた。生活習慣の欧米化に伴 い、また高齢社会となってきている日本にとっては今後も高齢発症の 潰瘍性大腸炎の増加が予想されるため、潰瘍性大腸炎が高齢者におい ても鑑別に上がるよう留意して診察にあたる必要がある。また治療に あたる際は PSL の使用は十分な検討が必要であり、重症以上の症例に 対しては若年者よりも少量投与にて導入していく必要があると考えら れた。今回稀な高齢発症の潰瘍性大腸炎を経験したので若干の考察を 加え報告する。 4 潰瘍性大腸炎患者に発症したエルシニア腸炎の一例 名古屋大学医学部大学院 医学系研究科 消化器内科学 ○三村 俊哉 1 、安藤 貴文 1 、石黒 和博 1 、前田 修 1 、 三宅 忍幸 1 、日比 知志 1 、神谷 徹 1 、氏原 正樹 1 、 中村 正直 1 、宮原 良二 1 、大宮 直木 1 、後藤 秀実 1 1 【症例】54 歳男性【既往歴】1988 年より強直性脊椎炎【現病歴】2009 年12月から 1 日10回以上の下痢と血便、および発熱と腹痛が出現。全 大腸炎型の潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis;UC)の診断を受ける。他 院でプレドニゾロン 60mg/ 日の点滴静注と絶食 + 中心静脈栄養を行う も症状は軽快しないため、2010 年 1 月当院に紹介入院となった。タク ロリムスの使用を開始した所、症状および内視鏡所見ともに軽快に向 かった。翌月の2010年 2 月に退院し外来でタクロリムスを維持したま まプレドニゾロンを漸減中であったが、2010 年 6 月、経過良好にプレ ドニゾロンを 5 mg/ 日まで減量できた所で再度 1 日 10 回以上の下痢 が出現した。外来で数日経過をみても改善しないので入院となった。 当初は UC の再燃も疑われたが、入院翌日に行った S 状結腸内視鏡検 査で直腸~ S 状結腸に連続して白色の膜様物質の付着を多数認め、介 在する粘膜には血管透見がみられ明らかに UC とは異なる所見であっ た。後日糞便の細菌培養から Yersinia enterocolitica が検出され同菌 による細菌性腸炎と診断された。入院から診断確定までには 1 週間を 要したが、その間にタクロリムスを中止し絶食で補液を行っただけで 軽快した。【結語】UC は慢性疾患でその長期経過の間に本例の様に感 染性腸炎に罹患する事も当然あり得る。感染性腸炎を UC の増悪と誤 りステロイド投与、免疫抑制剤投与し重症化を招くという事態も十分 想定される。UC に対してステロイド投与、免疫抑制剤投与を開始する 際には大腸内視鏡検査、細菌培養検査がやはり必要と感じさせる症例 であった。 ― 63 ― 5 colitic cancer の 2 例 豊橋医療センター 消化器科、 2 豊橋医療センター 外科、 3 豊 橋市民病院 消化器内科 ○高田 都佳 1 、松下 正伸 1 、岡村 正造 3 、浅田 崇洋 2 、 武藤 俊博 2 、野村 尚弘 2 、岡本喜一郎 2 、山下 克也 2 、 佐藤 健 2 、市原 透 2 1 【症例 1 】71 歳男性。2002 年に近医にて潰瘍性大腸炎(UC)と診断さ れ、5-ASA 製剤内服、2004年より当院にて全大腸炎型 UC の診断で経過 観察中、2009 年 5 月大腸内視鏡検(TCS)にて、横行結腸から直腸に かけて発赤、びらんを認め、直腸からの生検にて low grade dysplasia と診断された。2010 年 6 月の TCS にて S 状結腸から直腸にかけて発 赤、びらん、肛門から 15cm の Rs に 15mm 大の flat な隆起性病変を認め た。Rs の生検結果は、high grade dysplasia + adenocarcinoma。大腸 全摘・腹会陰式直腸切断術を施行した。切除標本の病理所見は、肛門 より 15cm の扁平隆起性病変は、por > tub2 、深達度 sm でリンパ節転 移はなかった。肛門より 10cm の扁平隆起性病変は、tub1 + tub2 、深 達度 m であった。 【症例 2 】47 歳男性。1994 年左側型 UC と診断、寛解と再燃を繰り返 し 5 -ASA 製剤の内服と PSL 注腸など施行。1998年には全大腸炎型 UC であることを確認。以後定期的に TCS または注腸 X 線検査にて経過観 察。2010 年 5 月血性の下痢増悪、5-ASA 製剤増量と PSL(40mg/ 日) 内服開始し、減量しながら経過観察するも軽快せず、 7 月精査加療目 的にて当院紹介受診となった。採血にて、RBC 2.80×10 6 、Hb 9.0g/dl、 TP 7.0 g/dl、Alb 3.3g/dl、CRP 1.93mg/dl、CEA 38.8ng/ml。注腸検 査では、直腸から盲腸までの全域にハウストラが消失し、直腸には不 整狭窄を認めた。CS にて肛門より 5 cm の部位より全周性の炎症を認 め、肛門より10cm の部位で高度狭窄のためそれより口側への挿入は不 可能であった。高度狭窄部位からの生検で adenocarcinoma(sig+muc) と診断された。腹部 CT では直腸壁肥厚とリンパ節腫大が著明であっ たが遠隔転移は認めなかった。大腸全摘、回腸人工肛門造設術を施行 した。切除標本では、直腸に 4 型、下行結腸に 2 型腫瘍を認め、直腸 病変は径 10cm で por2 > muc、深達度 se、ly3、v2、n3、下行結腸病変 は 30 × 40mm 大で、tub1 > pap、深達度 se、ly1、v1、n0 であった。 【まとめ】典型的な colitic cancer の 2 例経験したので報告する。 ― 64 ― 大腸 2 6 7 虫垂原発の腹膜偽粘液腫の一例 1 【背景】腹膜偽粘液腫は発生頻度が 100 万人に 1 人ともいわれる稀な疾 患である。多くは虫垂や卵巣を原発として腹腔内に大量の粘液物質が 充満する。腫瘍細胞の増殖能は低く、組織学的には悪性度は低いが、 化学療法には抵抗性であるため外科的な切除が治療の原則とされてい る。しかし根治治療は困難であり、術中を含む化学療法が施行されて いるが、いまだ確立されたレジメンは存在しない。 【症例】60 歳代男性。H21 年 11 月より腹部膨満感を自覚した。H22 年 2 月当院来院し、精査・加療目的に入院となった。血液検査では CRP 3.9mg/dl と炎症反応あり、CEA 17.0ng/ml、CA19-9 290.5U/ml と腫瘍 マーカーも高値を認めた。CT では大量の腹水と虫垂の嚢胞状腫大、多 数の播種結節が認められた。腹腔内穿刺により粘稠度の高い淡血性の 腹水が採取され、細胞診で mucinous adenocarcinoma を認めた。虫垂 原発の腹膜偽粘液腫と診断し、同年 4 月に外科で減量手術を行った。 術中多数の播種結節により大網と腸管が一塊になっており、原発巣は 認識できなかった。可及的に腫瘍組織を掻き出し、デキストラン 5 L で洗浄の後、CDDP100mg を腹腔内に投与し終了した。術後の経過は 良好であったが、CDDP の副作用と考えられる腎機能障害が出現した。 追加の化学療法として同年 6 月に mFOLFOX 療法を導入した。現在 までに 5 回治療を行い、CT では腹膜結節の残存は認めるが、腹水の 貯留は認めていない。 【考察】本症例は減量手術、腹腔内洗浄、術中および術後化学療法を施 行し、現在まで順調な経過をたどっている。このような集学的治療は これまでにも良好な成績がみられている。本疾患の治療について若干 の文献的考察を加えて報告する。 8 胃癌術後17年目に診断された胃癌大腸転移の一例 浜松南病院 消化器病・IBD センター、 2 DPR 株式会社 ○飯田 貴之 1 、渡辺 文利 1 、竹内 健 1 、阿部 仁郎 1 、 中村 眞一 2 、花井 洋行 1 名古屋第一赤十字病院 消化器内科 ○小林 寛子 1 、春田 純一 1 、山口 丈夫 1 、伊東 輝朋 1 、 西野 正路 1 、平山 裕 1 、山 剛基 1 、中村 一平 1 、 佐藤亜矢子 1 、澤田つな騎 1 、水谷 泰之 1 、村上 義郎 1 1 特発性血小板減少症(ITP)に合併した若年者回盲部癌の一例 JA 愛知厚生連 豊田厚生病院 消化器科 ○伊藤 隆徳 1 、金沢 宏信 1 、大久保賢治 1 、森田 清 1 、 竹内 淳史 1 、下郷 友弥 1 、池田 昇平 1 、橋詰 清孝 1 、 磯部 好孝 1 、小林 和磨 1 、西村 大作 1 、片田 直幸 1 転移性大腸癌は大腸癌全体の 0.1~ 1 %とまれであり、原発巣は胃癌 が最多と報告されているが、原発巣手術後長期経過した場合転移性大 腸癌を疑うことは困難である。今回我々は胃癌術後17年目に診断され た多発大腸転移の一例を経験したので報告する。 (症例) 62 歳男性。45 歳時に他院にて胃印環細胞癌で胃全摘術を施行 (ML、1 型、8×6.6cm、 T4a (se) N2P0H0、Stage IIIb、根治度 A、Signet - ring cell carcinoma with mucinous adenocrcinoma、inf c、med、v2、ly2、n2) し、経過観 察されていた。2010 年 2 月より下腹部痛と下痢が出現し、3 月に当院 にて下部消化管内視鏡を施行した。下行結腸に約 2/3 周の粘膜下腫瘍 様隆起による狭窄と直腸に不正な結節状粘膜を有する全周性狭窄を認 め、直腸からの生検で印環細胞癌が認められた。狭窄性病変が多発性 であり、免疫組織学的検索にて生検組織での印環細胞癌が胃粘液形質 であることなどより胃癌大腸転移と診断した。手術不能と判断し、TS - 1 による化学療法を開始している。 (考察)塩川らの検討では胃癌 治癒切除後大腸転移の平均転移発見時期は 57.6ヶ月と晩期再発の傾向 が強く、実に 46.3 %のの症例が 5 年以上経過した症例であった。我々 が検索した結果では 8 年以上経過した報告は自験例を含めて 8 例のみ であった。胃癌根治術後でも低分化腺癌や印環細胞癌の症例では慎重 な長期観察が望まれる 9 多発肝膿瘍を合併した直腸癌の 1 例 東海病院 内科 ○北村 雅一 1 、加藤 亨 1 、山本 剛 1 、三宅 忍幸 1 、 丸田 真也 1 1 1 【症例】17 歳女性【主訴】腹痛【既往歴】特記すべきことなし【現病 歴】2009 年 11 月より上腹部痛あり近医受診し上部消化管内視鏡検査施 行したが異常はなかった。 5 月中旬より黒色便あり、5 月 30 日より血 便が出現し 6 月 3 日入院となった。【入院時身体所見】眼瞼結膜軽度 貧血あり。眼球結膜黄疸なし。心肺雑音なし。上腹部圧痛あり、右下 腹部に腫瘤を触知する。皮下出血なし。脈拍 93/ 分血圧 119/72mmHg 【入院時検査所見】WBC 7900 RBC 318 万 Hgb 8.4g/dl Plt 10 万 CRP 0.04mg/dl T.Bil 0.2mg/dl ALP 160U/l AST 14U/l ALT 6 U/l AMY 79U/l LD 108U/l CK 50U/l BUN 14.2mg/dl Cre 0.71mg/dl TP 6.9g/dl ALB 4.4g/dl CEA 54.3ng/ml【入院後経過】腹部造影 CT にて骨盤内に 5 cm 大の造影される腫瘤およびダグラス窩に腹水を認めた。下部消 化管内視鏡検査にて回盲弁から腫瘍が露出しているようにみえたため 生検施行し adenocarcinoma と診断。PET-CT では骨盤内腫瘍に一致し て FDG 集積をみとめた。入院中血小板減少が進行し(6.7 万)骨髄浸 潤が疑われたが、骨髄穿刺施行し骨髄癌腫症は否定的であった。 6 月 21 日回盲部切除術施行した。【病理所見】tub1 pSE med INFβ ly2 v1 pN0 PM0 DM0 curA 腹水細胞診陰性。【術後経過】 7 月 16 日血液 検査にて血小板が 1.4 万に減少していたため骨髄穿刺再検し ITP と診 断した。PAIgG 32、尿中ピロリ抗体陽性で H.pylori 除菌療法施行し血 小板は 10 万台に回復した。今後補助化学療法予定である。【考察】ITP と悪性腫瘍との合併は一般に白血病や悪性リンパ腫との合併が多いと されているが、固形癌では胃癌、肺癌、大腸癌で報告されている。比 較的稀な ITP を合併した若年者大腸癌の症例を経験したので文献的考 察を加えて報告する 症例は 60 歳代女性。 1 週間前より微熱、関節痛があり、4 日前に高熱 となり近医受診し血液検査異常を認めたため当科紹介入院となった。 入院時理学的所見では胸腹部に異常を認めなかった。血液検査では、 WBC15100/μ l、CRP33.98mg/dl と高度炎症反応を認め、AST22IU/l、 ALT36IU/l、ALP1036IU/l、γ -GTP251IU/l、T-Bil1.06mg/dl と肝機能異 常を認めた。CT では肝両葉に多発する辺縁不整な low density area を 認め、造影では辺縁がわずかに濃染された。エコーでは辺縁不整な無 エコー域として観察された。肝膿瘍を考え抗生剤加療(CZOP、IPM/ CS)にて経過を見たところ徐々に炎症反応は軽快。肝 LDA は徐々に 縮小したが辺縁が肥厚し、第 22 病日の造影 CT では ring like に造影さ れた。第26病日の MRCP では異常を認めなかった。排便時出血があっ たため第 29 病日に大腸内視鏡検査を施行、直腸 Rb に 2 型大腸癌を認 めた。第 43 病日に腹腔鏡補助下超低位前方切除を施行、病理結果は Moderately diff. adenocarcinoma、ss、ly0 、v1(ss)、INFb、int、n (-)であった。腫瘍周囲に膿瘍腔の形成は認められなかった。術後 2 年半が経過したが転移、再発所見なく、肝膿瘍部は消失している。肝 膿瘍はその感染経路として経胆道系由来、経門脈系由来、外傷性由来、 腹腔内炎症の直接波及、経肝動脈系由来、医原性、特発性などが挙げ られる。大腸癌と肝膿瘍の合併は比較的稀である。片山らは大腸癌の 占拠部位は S 状結腸、直腸といった下部大腸に多く肉眼型は 2 型の進 行癌が多い、肝膿瘍の発症部位は右葉に多く単発例が多い傾向にある としている。大腸癌が肝膿瘍を引き起こす機序は明確には証明されて いないが、腫瘍周囲の微小膿瘍形成と腫瘍増大に伴う腸管壁バリアー の破壊により、腸内細菌が経門脈的に肝内に流入し膿瘍形成を引き起 こすと考えられている。本例も直腸癌以外に肝膿瘍をきたす原疾患は 認められておらず、経門脈系由来に感染したものと考えられた。 ― 65 ― 10 直腸癌に合併した肝 MALT リンパ腫の 1 例 大垣市民病院 消化器科 ○木村 純 1 、熊田 卓 1 、桐山 勢生 1 、谷川 誠 1 、 久永 康宏 1 、豊田 秀徳 1 、金森 明 1 、多田 俊史 1 、 荒川 恭宏 1 、藤森 将志 1 、新家 卓郎 1 、安藤 直人 1 、 安田 論 1 、坂井 圭介 1 1 【症例】77 歳女性 2009 年 11 月血便と心窩部痛で当院当科受診。注 腸検査で Ra に 2/3 周の 2 型病変を認め、下部消化管内視鏡にて同部 位より生検を行い adenocaricinoma(tub2)直腸癌と診断した。血液 生化学データに異常を認めず、腫瘍マーカーは陰性。US では肝 S8 に 11* 9 mm の低エコー腫瘤を認め、造影 US にて血管相早期で周囲より やや強く染影され、 3 分後には欠損像を呈し、転移性肝癌や胆管細胞 癌を疑う所見であった。CT では直腸 Ra に強い濃染を呈する全周性壁 肥厚を認めたが肝腫瘍は認識されなかった。直腸癌、肝転移として同 年12月低位前方切除術と肝部分切除が施行された。病理組織により直 腸 癌 tubular adenocarcinoma, moderately differentiated type, type2, T3(SE) 、N1、H0、P0、M- と診断された。転移性肝腫瘍と診断して いた肝腫瘍は約 1 cm 大の境界明瞭、辺縁不整な病変であり小~中型リ ンパ球様細胞が増殖しており、やや不明瞭な濾胞構造が認めた。免疫 染色の結果 CD20 陽性、CD5 、DC10 陰性のリンパ球様細胞が一様に増 殖した像を呈し、MALT リンパ腫と診断された。【考察】肝原発のリン パ腫は稀であり、そのほとんどは Diffuse large B cell lymphoma であ ることから肝 MALT リンパ腫は極めて稀な疾患である。鑑別として は炎症性腫瘍や転移性肝腫瘍などがあげられる。本症例は造影 CT で 肝腫瘤が指摘されず、US で腫瘤を指摘されており造影 US・MRI では 転移性肝腫瘤を疑ったため生検を施行しなかったが、リンパ腫を疑っ た際には、生検で組織診断を行うことが治療法と予後に大きく関与す るため肝要であるものと思われる。【結語】直腸癌に合併し診断に苦慮 した肝 MALT リンパ腫を経験したので文献的考察を加え報告する。 ― 66 ― 肝1 11 診断に難渋した肝嚢胞腺腫を合併した十二指腸癌肝転移の 1 例 12 山田赤十字病院 消化器科 ○大山田 純 1 、杉本 真也 1 、山本 玲 1 、山村 光弘 1 、 黒田 幹人 1 、川口 真矢 1 、亀井 昭 1 、佐藤 兵衛 1 、 福家 博史 1 1 癌の 2 例 公立陶生病院 消化器内科 ○小島 久実 1 、森田 敬一 1 、黒岩 正憲 1 、林 隆男 1 、 清水 裕子 1 、松浦 哲雄 1 、山本富美子 1 、松崎 一平 1 、 菊池 正和 1 、浅井 裕允 1 、古根 聡 1 1 71歳、男性。2009年10月に健康診断でγ -GTP 軽度上昇を認め、腹部超音 波検査で肝右葉に不整な嚢胞性病変を指摘され当院内科に紹介となっ た。腹部超音波検査では肝右葉に多房性嚢胞を認めた。腹部 CT では、 肝臓には肝右葉に明瞭な低吸収で造影されない多房性嚢胞と、それ以 外に単純で淡低吸収、造影では淡くて不規則に低吸収を示す腫瘤も多 発して認めた。MRI では、多房性嚢胞は T1 強調像で低信号、T2 強調 像で高信号であった。肝生検では pappillary adenocarcinoma、嚢胞内 容物も Class V であった。転移性肝腫瘍として、PET-CT を行い、肝 臓、十二指腸に FDG の集積を認めた。上部消化管内視鏡では上十二指 腸角に潰瘍性病変を認めており、生検で pappillary adenocarcinoma を 認めた。肝嚢胞腺癌の肝転移は否定できなかったが、十二指腸癌の多 発肝転移として 2010 年 1 月 9 日より胃癌に準じて S-1、CDDP で治療 を開始した。突然の呼吸困難で緊急入院し、呼吸状態の悪化を認め 2 月 18 日に死亡した。剖検で、肝嚢胞腺腫に合併した十二指腸癌肝転移 と診断された。肝嚢胞腺腫は比較的まれであり、多発肝嚢胞と十二指 腸癌肝転移もあり診断に難渋した 1 例を経験したので、文献的考察を 加え報告する。 13 腫瘍内に門脈または肝静脈の開存を認めた末梢型胆管細胞 従来より腫瘍内部の血管開存は、FNH などの良性腫瘍か非上皮性腫瘍 である悪性リンパ腫に特徴的所見とされていたが、近年転移性肝癌や 末梢型胆管細胞癌(以下 CCC)にも同様の所見が認められることが知 られるようになった。今回我々は腫瘍内にそれぞれ門脈と肝静脈の開 存を認めた CCC を経験したので報告する。【症例 1 】76 歳男性、前立 腺癌にて泌尿器科通院中、定期検査の CT にて肝左葉に 60mm 大の腫 瘤性病変を指摘された。造影 CT では動脈相で辺縁が濃染、平衡相で は wash out され周囲より低吸収域となった。腫瘍の中心部は造影効果 を認めず、内部に肝静脈の開存を認めた。MRI では辺縁は不整で外に 凸の花弁状を呈していた。確定診断にいたらず狙撃生検を施行、高分 化型腺癌の診断で他臓器に原発を認めないことから CCC と診断、拡大 左葉切除を施行した。【症例 2 】72 歳男性、検診で肝酵素の上昇を指 摘され来院、C 型肝硬変で S5 に 20mm 大の腫瘤性病変を認めた。造影 CT 動脈相で淡い濃染を認め平衡相まで持続した。血管腫が疑われた が MRIT2 強調で淡い high intensity、造影 US でも血管早期相より均一 に濃染され血管腫は否定的だった。AngioCT では CTAP で門脈血流 は欠損していたが内部に門脈の開存を認め、CTA 早期相では濃染、後 期相ではコロナ濃染を認めた。HCC を疑い S5 亜区域切除を施行、切除 標本より中分化型腺癌の CCC と診断された。 【考察】症例 1 は MRI に て CCC に典型的な花弁状の不整な辺縁を認めていた。また症例 2 では C 型肝硬変の合併、多血性、CTA 後期相のコロナ濃染から HCC と診断 したが、CCC でも細胞成分豊富な腫瘍は多血性腫瘍として描出される ことは知られており、コロナ濃染も HCC のみに特徴的な所見でないこ とを考えれば CCC としても矛盾しない所見であった。腫瘍内の脈管開 存に注目していればともに術前診断も可能であったと思われた。CCC の画像的特徴は delayed enhancement、辺縁の不整、末梢胆管拡張と されているが、これに加えて腫瘍内に静脈系血管の開存を認めた場合 には CCC を念頭に置くべきと思われた。 14 多発肝腫瘤として発見された肝原発悪性リンパ腫の 1 例 藤枝市立総合病院 消化器科 ○森 雅史 1 、丸山 保彦 1 、景岡 正信 1 、大畠 昭彦 1 、 池谷賢太郎 1 、志村 輝彦 1 肝炎症性偽腫瘍の 1 例 名古屋セントラル病院 消化器内科 ○佐藤 寛之 1 、神谷 友康 1 、真鍋 孔透 1 、桶屋 将之 1 、 安藤 伸浩 1 、川島 靖浩 1 1 1 【はじめに】肝原発悪性リンパ腫は節外性悪性リンパ腫の 0.41%、肝原 発悪性腫瘍の0.07% と稀な疾患である。また、その報告例の多くは単発 病変であり、多発病変として発見される肝原発悪性リンパ腫はさらに 稀であると考えられる。今回われわれは多発肝腫瘤として発見された 肝原発悪性リンパ腫の 1 例を経験したので報告する。 【症例】47歳男性 【現病歴】2010 年 7 月に右季肋部痛を主訴に近医を受診した。腹部超 音波検査にて肝に多発する病変を認め、精査加療目的にて当科を紹介 受診された。 【血液所見】AST 141IU/L、ALT 141IU/L、ALP 485IU/ L、γ -GTP309 IU/L と肝胆道系酵素の上昇を認め、LDH 826IU/L と異 常高値であった。可溶性 IL-2 レセプター518U/ml、PIVKA-II42mAU/ ml と軽度上昇がみられ、その他の CEA、CA19-9、AFP などの腫瘍マー カーは基準範囲内であった。HBs 抗原、HBc 抗体、HCV 抗体も陰性で あった。 【画像所見】腹部超音波検査において、肝内に 10~30mm 程度 の円形低エコー腫瘤腫瘤が多発していた。腫瘤の境界は明瞭で、腫瘤 内を貫通する脈管を認めた。腹部造影 CT でも、同様に肝全体に多発 する腫瘤を認め、動脈相、門脈相共に辺縁が淡くリング状に濃染され、 内部は肝実質より低濃度であった。脾腫や目立つリンパ節腫大も見ら れず腹水も認めなかった。FDG PET-CT では、肝臓に FDG の強い集 積を認めたが、その他に異常集積を認めなかった。【経過】概ね大きさ の揃った多発肝腫瘤であり、転移性肝腫瘍の可能性も考えられた。し かしながら、上下部消化管内視鏡検査や FDG PET-CT にて原発となり うる病変を認めなかった。LDH の上昇や、画像所見より肝原発悪性リ ンパ腫が疑われた。診断確定目的にて肝腫瘍生検を施行し、 1 個の明 瞭な核小体を有する中型~大型の異型細胞のびまん性の増殖が見られ た。免疫染色で CD20(+)、CD45RO(-)、bcl6 (+)、MUM1 (+)、 TdT(-)であったことから Malignant lymphoma、diffuse large B-cell type と診断された。肝原発悪性リンパ腫と診断し現在 R-CHOP 療法を 施行中である。 【症例】患者 60 代、男性【主訴】健診にて肝腫瘍指摘【既往歴】 3 年 前に左副腎褐色細胞腫手術。 3 ヶ月前に胆嚢炎で胆嚢摘出術。飲酒焼 酎 2 合 / 日。輸血歴、喫煙なし。【現病歴】毎年人間ドック受診して おり、異常指摘されていなかった。今年度受診した健診の超音波検査 にて、肝に SOL 認められたため当科外来受診となった。 【入院時所見】 意識清明。結膜異常なし。胸部異常認めず。神経学的所見異常認めず。 腹部平坦軟、圧痛なし。浮腫なし。表在リンパ節触知せず。 【経過】血 液検査 AST36IU/L、ALT31IU/L、T-Bil0.5mg/dl、PT103% であった。 ウイルス感染や肝障害の原因検索で異常を認めず、腫瘍マーカー陰性 であった。腹部 CT:S7 に径 10mm の一部石灰化を認め、造影早期相 にて周囲に淡い造影効果を認める SOL。S6に径15mm 肝辺縁から突出 する形状で、小石灰化を伴い、辺縁やや不明瞭であり、造影早期~門 脈相にて淡い造影効果を伴う SOL。S6SOL の周囲には径 40mm の造影 早期相にて淡い造影効果を認めた。腹部 MRI:S6, 7 いずれの SOL も T1 強調像で内部に高度低信号を伴った淡い低信号の SOL として描出 され、T2強調像では低信号に高信号が混在していた。EOB 造影早期相 で淡く早期濃染を認め、S6 周囲の領域にも淡く造影効果を認めた。肝 細胞相では低信号域となった。腹部超音波:内部に石灰化を伴う低エ コーの SOL として描出された。PET:SOL に一致し FDG 集積を強く 認めた。他に原発巣を考える集積部位を認めなかった。以上の結果か ら炎症性疾患を疑ったが、肝細胞癌、播種性病変をはじめとした悪性 病変を否定しえず、腫瘍生検を行うこととした。生検結果は炎症性偽 腫瘍の結果であった。診断後、治療は特に行わず経過観察とした。 【考 察】炎症性偽腫瘍はしばしば肝細胞癌との判別が難しく、外科的手術 が行われる症例がある。今回、炎症性疾患を疑い、肝生検を行うこと により手術を回避することができた肝炎症性偽腫瘍の 1 例を経験した ため報告する。 ― 67 ― 15 術前診断に苦慮した肝血管筋脂肪腫の一例 愛知県がんセンター 中央病院 消化器内科、 2 愛知県がんセ ンター 中央病院 内視鏡部、 3 愛知県がんセンター 中央病 院 消化器外科、 4 愛知県がんセンター 中央病院 遺伝子病理 診断部 ○佐伯 哲 1 、澤木 明 1 、丹羽 康正 2 、田近 正洋 2 、 水野 伸匡 1 、原 和生 1 、河合 宏紀 2 、肱岡 範 1 、 近藤 真也 1 、赤羽 麻奈 1 、小倉 健 1 、羽場 真 1 、 山雄 健次 1 、清水 泰博 3 、細田 和貴 4 、谷田部 恭 4 1 【症例】41 歳、女性。短期間の月経調整剤の服用既往歴あり。家族歴 に特記事項なし。健診の腹部エコーにて肝腫瘤を指摘され、精査加 療目的にて当院を紹介受診となる。血液検査上で異常所見を認めな い。ウイルスマーカーは HBV・HCV 共に陰性。腹部エコーでは、肝 左葉に内部構造不均一で境界の明瞭な腫瘤を認める。ソナゾイドを用 いた造影 US では early arterial phase で腫瘍部に強い造影効果を認め るが、Kupffer phase では腫瘍部は defect とならず isodensity をしめ す。MDCT でも造影 US 同様、動脈相で濃染像を示すが、遅延相での washout は認められない。また、腫瘍内部に嚢胞状変化と、壊死を思 わせる造影不良部を認める。MRI では、T1 強調で低信号、T2 強調 で高信号の腫瘍として描出される。T1 opposed phase、T2 脂肪抑制 像のいずれでも信号の低下は認められず、プリモビストを用いた造影 MRI では、肝細胞相で腫瘍は造影欠損部として描出される。腫瘍マー カーは正常であるが、画像所見から肝細胞癌を完全には否定できない ため、当院外科にて肝左葉切除を施行した。病理組織から、肝血管筋 細胞腫(epithelioid type angiomyolipoma;AML)と診断された。【考 察】肝原発の血管筋細胞腫はこれまで比較的稀とされてきたが、近年 の画像診断の発達により報告が増えてきている。しかし、画像所見が 多彩で肝細胞癌との鑑別が困難であり、外科的切除により確診を得た 症例も報告されている。また、基本的には良性腫瘍に含まれる本疾患 であるが、悪性の AML の報告も認められる。本症例と文献的報告を合 わせて報告する。 ― 68 ― 肝2 16 薬物性肝障害と自己免疫性肝炎との鑑別が困難であった 1 例 17 山本総合病院 ○矢田 崇純 1 、宮下 一美 1 、泉 恭代 1 、大森 茂 1 1 性 HIV 感染症の 1 例 名古屋大学 大学院 医学系研究科 消化器内科学 ○土居崎正雄 1 、林 寛子 1 、及部祐加子 1 、石津 洋二 1 、 小野 幸矢 1 、清水 潤一 1 、舘 佳彦 1 、本多 隆 1 、 林 和彦 1 、石上 雅敏 1 、片野 義明 1 、後藤 秀実 1 1 症例:83 歳女性。糖尿病及び陳旧性脳梗塞にて近医通院中であり、平 成 12 年頃より健康食品摂取。平成 21 年 2 月よりタナトリル、アクト ス、ムコダイン、平成 21 年 7 月よりバイアスピリン、平成 22 年 3 月よ りシンメトレル、芍薬甘草湯、ノニジュース内服開始し持続。定期採 血でトランスアミナーゼ高値にて 4 月23日当科紹介受診。既往に特記 事項なし。飲酒歴なし。現症:腹部は平坦・軟。肝下縁は剣状突起下 8 cm、右鎖骨中線 5 cm で触知。DDW-J2004 薬物性肝障害スコアリン グ 5 点で、可能性が高いに分類されるため、初診時よりシンメトレル、 芍薬甘草湯、ノニジュース、各種健康食品を中止、 4 月 26 日よりバイ アスピリン中止するもトランスアミナーゼの改善ないため 5 月 1 日入 院。入院時所見:WBC4600/mm3 、好酸球増多なし。TTT5.4MC-U、 ZTT14.6KUN-U、T-Bil1.1mg/dl、AST944IU/l、ALT1034IU/l、ALP574 IU/l、γ GTP591IU/l。肝炎ウイルスマーカー:何れも陰性。抗核抗体 320 倍。抗ミトコンドリア抗体(-)。入院時画像:肝右葉萎縮及び左葉 腫大が目立ち、肝は強く変形。入院後種々の薬物中止、UDCA600mg/ 日開始にて ALT、ALP いずれも低下傾向となるも、まもなく ALT は 再上昇しビリルビン値上昇、さらに ZTT 値が UDCA 投与後上昇し続 けた。自己免疫性肝炎スコアリングシステム1999年改訂版では 5 点と なり疑診例には該当しないものの抗核抗体高値や ZTT 上昇傾向、他に 明らかな原因を見いだせないことから、自己免疫性肝炎(以下 AIH) と診断し、UDCA600mg/ 日に加えてプレドニゾロン 30mg/ 日の投与 を開始。ステロイド開始後トランスアミナーゼは著明に低下し胆道系 酵素も低下、ZTT、IgG 値も改善した。以後ステロイド漸減し外来に て経過観察中である。 (考察)自験例では、抗核抗体陽性ではあるも のの IgG 値は正常、多数の薬物を内服しており、当初は薬物性肝障害 と考えたが、薬剤中止後も肝障害が持続し、ZTT 値が上昇を続けたた め、最終的に AIH と判断しステロイド投与にて肝炎の改善を認めた。 18 伝染性単核球症として発現し著明な肝機能障害を呈した急 【症例】20 歳代男性【主訴】発熱、咽頭痛、肝機能異常【現病歴】 3 日前より 38 ℃台の発熱が持続し、近医受診。咽頭発赤、扁桃腺腫脹、 両側頚部リンパ節腫脹を認め、点滴・内服処方にて経過観察したが、 改善しないため血液検査施行され、AST1100IU/L、ALT208 IU/L、 CK82480IU/L と著明な肝機能異常、クレアチニンキナーゼ上昇を認め 当院救急外来紹介となった。 【既往歴】なし【入院時現症】来院時意識 清明。扁桃腺腫脹・発赤あり。左側頚部リンパ節に 1 個腫脹・圧痛あ り。【経過】腹部 CT、エコー上軽度の脾腫を認め、伝染性単核球症を 疑い、入院安静補液を行った。入院時血液検査では、AST1323IU/L、 ALT254IU/L、CK104259IU/L と更に上昇していた。また、WBC1700/ μ L、Plt7.2 万 /μ L と白血球減少、血小板減少を認め、伝染性単核球症 による血球貪食症候群を疑い骨髄穿刺を行った。骨髄像で血球貪食像 を認めたが、軽度であり経過観察とした。その後肝機能、クレアチニ ンキナーゼは改善傾向となり、第 3 病日に全身発疹も出現したがすみ やかに改善した。第 4 病日に白血球、血小板も回復傾向となり、第 6 病日に解熱した。当初、EBV による伝染性単核球症と考えていたが、 EBV 抗 VCA-IgM 抗体 10 倍未満、EBV 抗 VCA-IgG 抗体 80 倍、EBV 抗 EBNA10倍であり初感染ではなかった。そこで HIV 抗体を測定したと ころ陽性であり、HIV-RNA も陽性であった為、急性 HIV 感染症と診断 した。その後、全身状態改善した為退院し、名古屋医療センター紹介 となった。 【考察】伝染性単核球症は思春期から若年層に好発し、その 原因のほとんどが EB ウイルスであるが、一部 HIV など他のウイルス によっても発症する。今回我々は伝染性単核球症として発現し著明な 肝機能障害を呈した急性 HIV 感染症の 1 例を経験したので報告する。 19 好酸球増多症を契機に発見された胃癌の一例 江南厚生病院 ○丸川 高弘 1 、堤 靖彦 1 、佐々木洋治 1 、吉田 大介 1 、 古田 武久 1 、板津 孝明 1 、伊佐治亮平 1 、丹羽 慶樹 1 、 小宮山琢真 1 、小林 健一 1 、颯田 祐介 1 肝ペリオーシスの 1 例 藤田保健衛生大学 肝胆膵内科 ○中野 卓二 1 、有馬 裕子 1 、島崎 宏明 1 、村尾 道人 1 、 新田 佳史 1 、原田 雅生 1 、川部 直人 1 、橋本 千樹 1 、 吉岡健太郎 1 1 1 【症例】60 歳、男性。【主訴】食欲低下、両下肢の浮腫。 【既往歴】特 になし。 【現病歴】2010 年 5 月より両下肢の浮腫、食欲低下を認めた ため、同年 7 月に近医より当院に紹介受診となった。血液検査で肝機 能障害と好酸球増多症を認め、精査目的で入院となった。【現症】腹部 所見:肝を 3 横指触知。【検査所見】AST:133 IU/l、ALT:67 IU/ l、ALP:5922 IU/l、γ -GTP:698 IU/l と肝・胆道系酵素の上昇、白血 球数:12100 /μ (好酸球:33 %)、IgE:1741 IU/ml の上昇を認めた。 【入院後経過】好酸球増多症からアレルギー性肝機能障害を疑い、第 2 病日に肝生検を施行した。病理組織検査では門脈領域に好酸球、リ ンパ球の浸潤を認め、アレルギー性肝機能障害と診断し、第 3 病日よ り PSL 40 mg/ 日内服による治療を開始した。また、腹部造影 CT 検 査にて胃壁肥厚、胃小彎と大動脈周囲のリンパ節腫大、腹水貯留を認 めたため、第 8 病日に上部消化管内視鏡検査を施行した。胃体部前壁 大彎側に 3 型腫瘍を認め、病理組織検査にて中分化型管状腺癌と診断 した。胃癌は cT3 、N3 、M0 :cStageIV と診断され、第 27 病日より TS1 +CDDP による化学療法を開始した。肝機能障害、好酸球増多症 は治療により改善を認め、PSL は 15 mg/ 日まで漸減可能であった。化 学療法に関連する大きな副作用もなく、第 37 病日に退院、現在まで経 過良好である。【考察】好酸球増多症は血液悪性疾患との関連性につい ての報告は散見されるが、胃癌など固形癌との関連性についての報告 は少なく、不明な点も多い。今回の症例は好酸球増多症に固形癌を合 併した比較的稀な症例であり、若干の文献的考察を加え報告する。 【症例】30 歳代女性。 【既往歴】10 歳代後半から Raynaud 現象、手指 腫脹、咳嗽が出現していた。2003 年 3 月、当院リウマチ膠原病内科に て MCTD と診断がつき PSL 内服を開始。間質性肺炎や肺性心・二次性 高血圧症も認め、2003 年 5 月 HOT 導入。 【現病歴】2007 年 3 月、腹 痛、下痢のため施行された腹部 US にて肝両葉に多発する高エコー結 節を指摘されたため、転移性肝腫瘍を疑われ当科受診となった。 【検査 所 見 】Tbil0.7、GOT41、GPT38、LDH282、ALP557、γ -GTP311、 コ リンエステラーゼ 4232、IgG2075、IgA685、IgM107、HBs 抗原(-) 、 HCV 抗体 (-) 、抗核抗体 (+) 、抗 RNP 抗体 88.9、抗 SM 抗体 161.8、KL61991、AFP2.2、CEA6.8、CA19-91.2【画像所見】腹部 US:肝両葉に多 発する高エコー結節、脾腫を認めた。造影 US(レボビスト) :肝に多 発する結節は早期濃染されず、後期でも周囲と同様に染影された。腹 部 CT:単純 CT では肝に明らかな低吸収域は認めず、造影 CT にて肝 右葉を中心にわずかに低吸収で中心部が等濃度に増強される小結節の 多発を認めた。MRI:肝両葉に T1 強調 T2 強調で低~淡い高信号を 呈し脂肪抑制されない大小の結節が多発。肝 S6 に T1 強調で低信号、 T2 強調で高信号域をしめる結節を認め、FNH が疑われた。2007 年 7 月、肝生検を施行。病理組織所見では、肝細胞は小型で索状構造は保 たれており、散在性に偽腺管構造を認め、ペリオーシス、間質の線維 化を認めた。 【経過】肝ペリオーシス(Peliosis hepatis)と診断され、 ステロイド長期投与が原因と考えられたが、現疾患に対しては必要で あり、経過観察となっていた。2009 年 12 月、胸部 CT にて肝腫瘍増大 が疑われ、腹部造影 CT を施行。肝ペリオーシスの明らかな増加増大を 認めた。肝ペリオーシスは、類洞の拡張と肝内に多発する血液の貯留 腔を認める稀な疾患であり、原因は明らかではないが、蛋白同化ステ ロイドなどの薬物や慢性消耗性疾患に随伴して発症することが知られ ている。良性の疾患とされているが、腫瘍の増大により肝内出血や生 命予後に影響する重篤な病態が生じる可能性もある疾患でもあり、肝 ペリオーシスについて若干の文献的考察を加え報告する。 ― 69 ― 20 21 最近当院で経験した日本住血吸虫の一例 国民健康保険 坂下病院、 愛知医科大学 ○高築 義仁 1 、2 、高山 哲夫 1 、酒井 雄三 1 、 濱田 広幸 1 、信太 博 1 1 肝内門脈ガス血症の一剖検例 焼津市立総合病院 消化器科、 2 焼津市立総合病院 病理科 ○小平 誠 1 、寺田 修三 1 、山形 真碁 1 、寺澤 康之 1 、 佐野 宗孝 1 、久力 権 2 1 2 患者は 80 代・男性。主訴は微熱を伴う感冒様症状、食思不振。既往歴 は慢性肝炎、塵肺にて当院内科通院中。また、十代で日本住血吸虫症 に感染し薬物療法を受けた(山梨県)。入院血液検査にて、肝機能異常 と炎症反応高値を認めたため、腹部精密検査を施行した。腹部 CT 検 査では、肝表面の僅かな凸凹、肝左葉の軽度腫大と、肝 S5 に嚢胞を 思わせる LDA と、淡い石灰化像を認めた。同日施行された腹部超音波 検査では、CT 同様の慢性肝炎様所見に加えて、肝右葉後区域に限局 した網目状の線状高エコー像を認めた。既往歴、超音波画像、現症等 を踏まえ日本住血吸虫症を疑い、肝生検を施行した。採取した肝組織 内に、住血吸虫の虫体と虫卵を認めたため、日本住血吸虫症の確定診 断に至った。さらに約 10 日後に施行した腹部超音波検査において、肝 後区域に限局して認められた網目状高エコー像は更に明瞭となり、肝 右葉全体に本症の典型的画像を呈した。日本住血吸虫症は淡水(水田、 溜池、側溝)に生息するミヤイリ貝を中間宿主として経皮的に哺乳類 に感染する。画像所見では、超音波検査において肝臓内部の網目状高 エコー像を呈する症例として教本などで散見される。しかし文献的に 肝内部エコーは、点状高エコー、肝内血管周囲の肥厚した高エコー帯、 また網目状高エコーを呈するとの報告も認められる。日本は特効薬の 開発とミヤイリ貝の撲滅により、住血吸虫症の終息宣言が出された唯 一の国である。しかし世界的には約 2 万人の感染者が存在するとの報 告もあり、中国、フィリピン、アフリカ等の高度流行地への渡航者や、 現地からの輸感染においても注意が必要である。 症例:77 歳男性。主訴:便秘、腹痛。既往歴:虫垂炎手術歴あり。糖 尿病、高血圧にて治療中。平成17年完全房室ブロックのため DDD ペー スメーカーを植え込み。現病歴:平成 21 年 12 月下旬から便秘、腹痛を 訴えるようになった。12月30日当院救急外来受診。浣腸にて排便あり、 帰宅。しかしその後も腹痛は続いていた。平成 22 年 1 月 1 日黒色便 1 回。食事が摂れず腹痛も続くため 1 月 4 日当院救急外来再診の上入 院となる。現症:血圧 127/83。地温 37.5 ℃。腹部膨満、軟、軽度の自 発痛はあるが圧痛なし。データ:WBC 20200、CRP 30.46、BUN 58.8、 Cre 1.28。経過:救急外来の腹部単純 CT にて腹水、小腸の拡張、腸 間膜静脈から肝内門脈にかけてのガス像を認め、当初腹部症状が軽い が腸管の壊死を疑った。家族と相談の上保存的に経過を見ることとし た。その後も強い腹痛は訴えず、徐々に意識レベル低下。入院 7 日目 に死亡。剖検にて胃体中部後壁を中心に 8 x7cm 大の type 3 病変が認 められた。腫瘍は横行結腸、大網を巻き込み、腹腔内に播種性に広がっ ていた。横行結腸は癌の浸潤により狭窄し、それより口側の小腸 - 上行 結腸は鼓腸の状態にあった。空腸~横行結腸狭窄部まで、腸管壁は浮 腫状で肥厚しているが粘膜は良く保たれており、潰瘍は見られなかっ た。上記より癌性腹膜炎により拡張した腸管からのガスが肝内門脈ま で達していたことによる肝内門脈ガス血症と診断した。考察:CT 検査 の導入により肝内門脈ガス血症が診断される頻度が高まり、同時に良 性疾患に伴う同病態の存在が明らかとなってきた。最近のレビューで 腸管壊死による重篤な状態(致死率 75 %) 、検査後などの軽症の状態 (致死率 0 %) 、およびその中間の潰瘍などの疾患によるもの(致死率 30 %未満)に分類されているが、本症例は比較的慢性に経過する癌性 腹膜炎によるものであった。門脈内ガス血症を認めた際、これら治療 しうる疾患の存在を認識して対応すべきであり、教訓的な症例と考え 報告する。 ― 70 ― 肝3 22 ICG15分値40%超高度肝硬変を伴う肝細胞癌患者に対する 完全腹腔鏡下肝切除術 23 藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院外科 ○守瀬 善一 1 、川辺 則彦 1 、梅本 俊治 1 、白石 天三 1 、 永田 英俊 1 、大島 久徳 1 、川瀬 仁 1 、荒川 敏 1 、 熱田 幸司 1 、吉田 梨恵 1 C 型慢性肝炎 IFN 治療 SVR7年後に認めた肝細胞癌の 1 切 除例 朝日大学村上記念病院 消化器内科 ○大洞 昭博 1 、小島 孝雄 1 、加藤 隆弘 1 、遠藤 美生 1 、 宮脇喜一郎 1 、堀江 秀樹 1 、高野 幸彦 1 、福田 信宏 1 、 吉田 尚美 1 1 1 高度肝硬変患者の肝切除は小範囲切除でも術後肝不全率が高い。 ICG15 分値 40 %超、肝障害度 B/C の肝細胞癌症例 6 例の完全腹腔鏡下 肝切除術の術後経過を検討した。完全腹腔鏡下肝切除30例中肝細胞癌 症例 19 例である。内 ICG15 分値 40 %超で肝障害度 B/C 例が 6 例(B、 C 各 3 例) であった。40-75 歳、男性 4 例、女性 2 例。腫瘍個数は 1 -2 個であった。S6 、S4/2-3、S8 、S6 、S5 、S2 -3 の各部分切除が施行さ れた。手術は、 4 -5 個のポートを挿入、超音波検査にて切離ラインを 設定し LCS で浅く切開を置いた後に、CUSA、bipolar forceps などを用 いて施行された。手術時間 167-341 分(中央値 232 分)、出血量は少量‐ 213ml で全例無輸血であった。術後総ビリルビン値ピークは 3 例目当 日帰室後 4.4mg/dl が全体の最高値で、ドレーン排液 3 病日までの総計 は 279-1990ml(中央値 919ml)であった。 1 -3 病日より経口摂取開始、 6 病日までにドレーンが抜去され、11-21病日に退院した。胆嚢炎を 1 例で併発し保存的に軽快した。術後経過は、他 13 例の肝細胞癌完全腹 腔鏡下肝切除術と同等であった。高度肝硬変症例に対する完全腹腔鏡 下肝切除術は開腹操作や剥離操作による側副血行路やリンパ行路の破 壊、肝の授動圧排操作による肝実質障害などを回避し、腹水貯留など 術後重症肝不全の契機となる合併症を抑制すると思われる。肝表面で RFA の適応が難しい、数回の治療の後に局所再発が認められたなどの 症例で治療のよい選択肢となると考えられた。 症例は 67 歳、男性。糖尿病や高血圧にて近医受診中の 2002 年に C 型 慢性肝炎(セロタイプ 2 、HCV-RNA(PCR)17.0 KIU/ml)と診断さ れ、IFNα -2b+Ribavirin 24 週投与を施行し、SVR となった。エタノー ル換算 70g 程度の常習飲酒家であった。以後も近医にて経過観察され ていたが、2009 年 10 月の腹部超音波検査にて肝 S6 に 35mm の腫瘍を 認め、精査加療目的にて当科紹介入院となった。血液生化学検査にて FBS 171 mg/dl、HbA1c 8.0% の耐糖能異常と AFP は基準値内であっ たが、PIVKA-2 は、63.0 mAU/l と高値であった。ICG 停滞率は 6.4 % であった。EOB-MRI や CTAP/CTHA にて肝細胞癌と診断し、肝後区 域切除を行った。組織は中分化型肝細胞癌で、背景肝には A1 /F1 程 度の変化を認めたが、bridging fibrosis や脂肪変性等は認めなかった。 さらに肝組織からの PCR 検査で HBV や HCV は検出されなかった。近 年 SVR 後の経過観察中に発症した肝細胞癌症例の報告が増えてきて おり、その頻度は多くはないが、SVR となっても背景肝の炎症が進行 している症例・高齢者男性・アルコール多飲例・ALT 高値例・糖尿病 合併例といった発癌のリスクが高い症例においては、終生にわたる経 過観察の必要性が示唆される。いつまで経過観察を行うかという検討 のためには、今後の症例の蓄積が必要と考えるが、癌合併のことも考 慮した長期間にわたる経過観察が必要と思われる。 24 25 広範な脂肪化と壊死により非典型的画像所見を呈した肝細 胞癌の一例 1 順天堂大学医学部附属静岡病院消化器内科 ○成田 諭隆 1 、玄田 拓哉 1 、廿樂 裕徳 1 、佐藤 俊輔 1 、 金光 芳生 1 、菊池 哲 1 、平野 克治 1 、飯島 克順 1 、 市田 隆文 1 症例は 70 歳代男性、アルコール多飲歴あり。二次検診にて肝腫瘤を 指摘され当科入院。入院時血液検査所見で軽度の ALT 上昇と血小板 数低下、AFP と PIVKA-II の軽度上昇を認めた。HCV 抗体、HBs 抗原 は陰性であった。腹部単純 CT では肝右葉前区域に直径 6.5cm の背景 肝と比べ著明な低吸収を示す占拠性病変あり、内部に一部星芒状の構 造を認めた。造影 CT では病変の大部分に造影効果を認めなかった。 MRI で病変は T1WI で高信号を呈したが脂肪抑制で信号強度は低下、 T2WI、拡散強調像では高信号を呈した。EOB 造影 MRI では病変背側 の大部分は造影前から造影20分後まで背景肝より低信号を呈したまま だったが、辺縁の一部では造影 30 秒後の動脈相で背景肝と同程度まで 信号強度が上昇し、それ以降の相では背景肝より低信号を呈した。腹 部 US で病変は高エコーを呈し、辺縁に凹凸が認められた。パルスドッ プラーで辺縁の血流を観察すると並走する動脈血流とは逆方向への門 脈血流が認められた。Angio-CT では CTAP で病変及び周囲の背景肝 に楔上の門脈血流の欠損を示した。CTHA 第 1 相では病変腹側の辺縁 を中心にわずかに造影効果を認めた。第 2 相でこの部分の造影効果は 低下し、病変周囲の背景肝が楔上に造影された。この間、病変背側の 大部分に造影剤の流入は認められなかった。以上、脂肪化を伴う造影 効果の乏しい病変で画像上非典型例であったが、肝細胞癌が疑われた ため当院外科において肝切除術を施行。切除標本肉眼所見で病変は大 部分黄白色の壊死組織であり、中心部に白色の瘢痕様構造、辺縁に褐 色の結節を認めた。組織学的にはそれぞれ脂肪化を伴う中分化相当の 肝細胞癌の壊死像、間質に線維成分を有する硬化型肝細胞癌、viable な高~中分化型肝細胞癌組織が認められた。本症例は広範な脂肪化を 伴った肝細胞癌が自然壊死した領域が病変の大部分を占めたため非典 型的な画像所見を呈したと考えられた。 急速に増大した肝細胞癌の 2 症例 静岡市立静岡病院 ○近藤 貴浩 1 、小柳津竜樹 1 、高橋 好朗 1 、田中 俊夫 1 、 濱村 啓介 1 、大野 和也 1 、岡崎 敬 1 、鈴木 亮 1 、 武雄 真宏 1 、中村 尚宏 1 、黒石 健吾 1 1 肝細胞癌の平均倍加速度は約 70 日とされており、それに合わせて経 過観察期間の目安が決められている。しかし、個々症例により、病変 の増大速度に差があり、取り分け急速に増大する病変は治療のタイミ ングを逸することのないような配慮が必要である。最近、我々は 2 週 間前後で増大する単結節型肝細胞癌を持つ 2 症例を経験したのでそれ らの診断・治療過程を検証した。症例 1 は 61 歳男性。2009 年 7 月 2 型糖尿病治療のため当院内分泌代謝内科入院中、肝 S8 に約 2 cm の乏 血性結節認めた。肝生検施行し胆管細胞癌と診断され、同年 9 月に手 術目的に当院外科入院となった。入院時腹部 CT では腫瘍部は5.6cm と 急速に増大していた。肝臓拡大前区域切除試行し一旦退院したが、11 月より食事摂取困難になり、12 月肝不全となり死亡した。症例 2 は 76 歳女性。1999 年 C 型肝炎を指摘され、2005 年インターフェロンにより SVR となったが、2009 年肝 S7 に 1 cm の古典的肝細胞癌が初発した 為、RFA 施行した。同時に存在した肝 S8 の 1 cm の乏血性結節は治療 せず経過観察していた。同年 10 月、同結節は多血性結節に変化したが 門脈相から遅延相に掛けて染まりぬけが明瞭ではなく造影エコーでも 描出されず、 2 ヵ月後再検査することとした。12 月同病変は 2.8cm の 乏血性結節として急速に増大していた為、RFA 入院の予約をした。 2 週間後の入院時には更に増大し、3.8cm となっておいた。RFA により 根治的治療後、 8 ヶ月間再発なし。肝細胞癌において腫瘍マーカーの 増大速度や画像所見上の増大速度や腫瘍マーカーの動きを注意深く観 察し観察期間を短縮する等、適切に対応することが大切である。また 外科切除待機中に急速増大してしまう恐れのある症例では早期内科治 療を行うことも検討の余地があると考える。 ― 71 ― 26 肝細胞癌の肺転移に対し Sorafenib が有効であった一例 中部労災病院 消化器内科 ○山崎早江子 1 、村瀬 賢一 1 、菅 敏樹 1 、細野 功 1 、 山田 誠吾 1 、森本 剛彦 1 、児玉 佳子 1 、尾関 雅靖 1 、 中江 治道 1 1 Sorafenib は long SD を特徴とした分子標的治療薬で、奏功症例が得 られにくいと言われているが、今回我々は肝細胞癌の肺転移に対して Sorafenib が奏功した 1 例を経験したので報告する。症例は66歳女性。 以前より肝 S7 、S8 の肝細胞癌(HCC)に対して RFA、TACE などを 繰り返し施行している。H21 年 9 月、肝 S3 に new lesion を認め、これ に対して RFA と TACE を施行したが H22 年 1 月の CT にて肝 S4 およ び肝右葉に多発する結節影、さらに肺転移も認め、肝右葉の HCC に対 しては mild TACE を施行した。H22 年 3 月 17 日より原発および肺転 移に対して Sorafenib 400mg/day の内服を開始し、その後目立った副 作用の出現なく経過良好であったため 3 月24日より Sorafenib 600mg/ day に増量した。H22年 4 月の CT で肺転移病巣はほぼ消失し PIVKAII、AFP 値の著明な低下が認められた。Sorafenib 600mg/day の内服を 継続中であるが、内服開始後 5 ヶ月経った現在も肺転移の再発は認め ていない。 ― 72 ― 肝4 27 ペグインターフェロン+リバビリン併用療法の終了から44 週後に、ウィルスの再燃が認められた 1 例 28 1 岐阜県総合医療センター ○出田 貴康 1 、杉原 潤一 1 、河口 順二 1 、岩砂 淳平 1 、 安藤 暢洋 1 、大島 靖広 1 、芋瀬 基明 1 、大西 高哉 1 、 清水 省吾 1 、小林 成禎 1 一般的にインターフェロン治療の効果判定は、治療終了後 24 週の時点 でウィルス陰性化が得られれば SVR と判定されている。今回ペグイ ンターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン(Rib)併用療法の終了か ら 24 週以降に、ウィルスの再燃が認められた症例を経験したので報告 する。【症例】63 歳女性。2002 年の検診で肝機能異常を指摘された。 HCV serotype は group1 、HCV-RNA 量 3100KIU/ml、AST74IU/L、 ALT65IU/L、Plt23 万、Hb12.7g/dl で、肝組織は慢性肝炎 A2/F2 であっ た。2005年 7 月26日から PEG-IFNα 2b 80μ g/ 週 +Rib600mg/ 日の併用 療法を開始した。治療開始 4 週後には、Hb9.2g/dl の貧血が出現した ため、Rib を 400mg/ 日に減量した。HCV-RNA は 16 週で陰性化(ハイ レンジ法)が得られた。ところが、14 週後(2005 年 11 月)に心雑音 を指摘され、心エコーで僧帽弁逸脱による 3 ~ 4 度の僧帽弁逆流症と 診断された。僧帽弁形成術のため 15 週後(2005 年 11 月 17 日)に併用 療法の中止を余儀なくされた。その後、心臓外科から治療再開を許可 され、2007 年 1 月 15 日に、PEG-IFNα 2b80μ g/ 週 +Rib600mg/ 日の併 用再治療を開始した。開始時は HCV-RNA 量 3900KIU/ml、AST87IU/ L、ALT79IU/L、Plt22.6 万、Hb13g/dl であった。 6 週目に Hb9.8g/dl の貧血を認めたため、Rib を 400mg に減量した。HCV-RNA の陰性化 (RT-PCR)は、20 週目であったため 72 週の延長治療を施行した。治療 終了後 24 週および 36 週の時点では、HCV-RNA 陰性であったが、44 週 後(2009 年 4 月 13 日)には、HCV-RNA の再燃(6.0LogIU/ml)が認 められ、AST50IU/L、ALT64IU/L と異常値を示した。現在は UDCA の内服を継続しており、トランスアミナーゼの上昇は軽度である。し たがって、PEG-IFN+Rib 併用療法の終了後24週の時点で HCV-RNA が 陰性であっても、その後も一定期間は、HCV-RNA の測定が必要と思 われた。 29 当院における PEG-IFN/Ribavirin 併用療法の治療成績の検討 1 名古屋大学 医学部 消化器内科 ○林 和彦 1 、片野 義明 1 、中野 功 1 、石上 雅敏 1 、 本多 隆 1 、舘 佳彦 1 、土居崎正雄 1 、清水 潤一 1 、 石津 洋二 1 、小野 幸矢 1 、及部祐加子 1 、林 寛子 1 、 後藤 秀実 1 ( 背 景 )C 型 慢 性 肝 炎 に お け る イ ン タ ー フ ェ ロ ン(IFN) 抵 抗 性 の 要 因 と し て、 ホ ス ト 因 子 は IL28B の G ア リ ル、 ウ イ ル ス 因 子 は core70/91=QM、ISDR = wild の変異が報告されている。この 3 つの抵 抗性因子を有する症例に対して IFN 治療ではウイルス排除は困難とさ れている。このような IFN 抵抗性 C 型慢性肝炎に対してペグインター フェロンα 2b・リバビリン併用療法で著効となった 2 例を経験したの で報告する。 (症例) 症例 1 、42 歳、男性、初回投与、GOT26、GPT30、 PLT22.6 万、WBC6000、Hb15.1、HCV1930KIU/ml、肝生検 A1F1 で あった。開始 24 週で HCV 陰性化し、IFN、RBV 減量なく 72 週間投与 で SVR となった。症例 2 、30 歳、女性、初回投与、GOT17、GPT19、 PLT15.6 万、WBC3300、Hb13.8 HCV356KIU/ml、肝生検 A1F0 であっ た。開始 18 週で HCV 陰性化し、IFN、RBV 減量なかったが、倦怠感強 く55週間投与で中止し、その後 SVR となった。 2 例の共通点として若 年、肝線維化が少ない、ALT 正常、late responder の延長投与であっ た。 (考案)IL28B、core70/91、ISDR による治療選択は、副作用が多 く、費用対効果が複雑な IFN の治療方針を決定する上で重要である。 次世代の標準治療であるポリメラーゼ阻害剤・ペグインターフェロン α 2b・リバビリン 3 剤併用療法においても IL28B = G アリル、core70=Q が治療抵抗因子である。IL28B = G アリル、core70/91=QM、ISDR = wild と超難治症例は、基本的にウイルス排除を目指した IFN 治療の積 極的な適応は少ないが、若年で肝線維化が少なく、ALT 正常例で late responder であれば延長投与を行うことにより、著効となる可能性あ るので、IFN 治療を考慮すべき事が示唆された。 30 学校共済組合 東海中央病院 消化器内科・消化器内視鏡セン ター ○森島 大雅 1 、井上 匡央 1 、清野 隆史 1 、川端 邦裕 1 、 石川 秀樹 1 1 今回、当院にて 2005 年 1 月から 2010 年 8 月までの期間に行った PEGIFN/Ribavirin 併用療法の治療成績を検討した。【対象】C 型慢性肝炎 にて通院中の 53 例(男 : 女 =31:22)。平均年齢 :59.1 歳(34-75)。【方法】 Peg-IFNα 2b:1.5μ g/kg/ 週、もしくは Peg-IFNα 2a:180μ g/ 週の皮下注射 に、Ribavirin:600mg-1,000mg 連日投与を併用。Genotype1 型高ウィル ス量症例 :48 週間、再治療症例および 2 型高ウィルス量症例の初回治 療:24 週間の併用療法を施行。【検討項目】Genotype1 , 2 型に大別し、 1 )性別、 2 )年齢、 3 )治療歴、 4 )投与前 HCV-RNA 量、 5 )投 与前 ALT 値、6 )HCV-RNA 陰性化時期と著効率との関係とした。【成 績】全 53 症例のうち、治療完遂例は 36 例、投与中止例は 2 例。著効 率は 63.2%。治療完遂例のうち、Genotype1 型:25 例(男 : 女 =14:11)、 2 型:11 例(男 : 女 = 7 : 4 )。● 1 型症例の検討では、著効率は 54.5%。 1 )男 : 女 =75%:36.3%。 2 )60 歳未満 62.5%、60 歳以上 55%。 3 )初回 投与例 : 再投与例 =66.7%:44.4%。 4 )投与前 HCV-RNA 量が 5.0LogIU/ mL 未満 100%、5.0LogIU/mL 以上 56%。 5 )投与前 ALT 値が、30IU/ mL 以下 66.7%、31IU/mL 以上 57.1%。 6 )治療開始 4 週で HCV-RNA 陰性化した症例(RVR)は、92%、 4 週から 8 週までの陰性化症例 (e-EVR)は、80%、 8 週から 12 週(EVR)で 25%。● 2 型症例の検討 では、著効率は 81.8%。 1 )男 : 女 =71.4%:100%。 2 )60 歳未満 87.5%、 60 歳以上 66.7%。 3 )初回投与例 : 再投与例 =87.5%:33.3%。 4 )投与前 HCV-RNA 量が、5.0LogIU/mL 未満 100%、5.0LogIU/mL 以上 77.8%。 5 )投与前 ALT 値が、30IU/mL 以下 100%、31IU/mL 以上 77.8%。 6 ) RVR:88.9%、e-EVR:100%、EVR 症例は認めなかった。【結論】当院の 検討でも、1 型、高ウィルス量、再治療例では著効率が低下していた。 また 1 型、2 型ともに 16 週以降の HCV-RNA 陰性化症例では著効を認 めなかった。従来治療と比較し PEG-IFN+Ribavirin 併用療法にて著効 率は上昇したが、当院でも無効例、再燃例を認め、これらの症例に対 する治療法の検討も必要である。 インターフェロン抵抗性 C 型慢性肝炎に対してペグインター フェロンα2b・リバビリン併用療法で著効となった 2 例 HP 除菌後に血小板増加を認め、インターフェロン治療を 導入しえた一例 1 静岡市立静岡病院 消化器内科 ○黒石 健吾 1 、小柳津竜樹 1 、近藤 貴浩 1 、鈴木 亮 1 、 武尾 真宏 1 、大野 和也 1 、濱村 啓介 1 、田中 俊夫 1 、 高橋 好朗 1 【症例】67 歳女性【主訴】C 型肝炎加療目的【既往歴】46 歳:ITP と診 断、子宮筋腫手術 59 歳:縦隔甲状腺腫瘍手術 【生活歴】喫煙歴なし 飲酒歴なし【現病歴】前医で ITP と診断。46 歳時、子宮筋腫手術の 際に、血小板低値のため血液製剤を投与された。48 歳時に C 型肝炎を 指摘されたが、通院は自己中断。C 型肝炎加療目的にて当院受診。 【血 液 検 査 】AST26、ALT26、ALP264、γ -GPT24、T-Bil0.9、BUN12.3、 Cre0.77、TP7.0、Alb4.4、WBC5000、Hb13.7、Ht42.2、Plt8.9、HCV セ ロタイプ 2 、HCV-RNA(Taqman)3.2、HP-IgG:168.9 U/ml 【経過】 過去に前医で ITP と診断され、受診時、HP 感染陽性であった。HP 除 菌を行い、UBT で陰性を確認した。その後、血小板は 8.9 → 9.5x104/μ l と上昇を認めたため、PEG-IFN 単独療法(48 週)を導入した。その後 も血小板は上昇し、現在、15.9 × 104/μ l まで改善した。Hb13.7 → 10.7g/ dl と貧血を認めた。治療後 4 週でウイルスは消失、48 週で治療を終了 し、今後 SVR が見込まれる。 【考察】 HP 感染陽性の ITP に対して、HP 除菌を行うことは現在では標準的治療となっている。本症例では ITP 診断時の詳細は不明であるが、HP 除菌を行い、血小板増多を認めた。 【結語】ITP を合併した C 型慢性肝炎患者に対し、HP 除菌を行った結 果、血小板増加認めインターフェロンを導入しえた一例を経験した。 若干の考察を加え報告する。 ― 73 ― 31 食道静脈瘤・PSE 抵抗性の汎血球減少・腹水を伴った C 型肝炎に対し、IFN 治療で SVR となった一例 小牧市民病院 ○藤井 範朗 1 、平井 孝典 1 、宮田 章弘 1 、小南 太郎 1 、 飯田 忠 1 、和田 啓孝 1 、桑原 崇通 1 、鈴木 大介 1 、 林 大樹朗 1 、小島 優子 1 、佐々木淳治 1 、中川 浩 1 1 【症例】43 歳、男性。【既往歴・家族歴】特記すべきことなし。【現病歴】 平成 19 年 3 月、食道静脈瘤に対し EIS 目的に当院消化器内科にて入院 加療を施行。退院後より C 型肝炎に対し通院加療となる。平成20年10 月、本人より IFN 導入希望されるも、著明な血小板減少症を認め脾臓 摘出術、もしくは脾動脈塞栓術(PSE)の前治療が必要と判断。ご本 人の希望により PSE を選択され、平成 20 年 11 月に PSE 施行目的に入 院となる。【経過】平成 20 年 11 月に初回 PSE を施行。しかし血小板減 少症の改善乏しく、平成 21 年 3 月に 2 度目の PSE 施行とした。しか し 2 度に渡る PSE 施行も効果乏しく、汎血球減少の改善もほとんど見 られない状況であったが、HCV-genotype は 1b・低ウイルス量であり 相談の末、平成 21 年 5 月より IFNα 2a 90μ g の投与を開始。平成 21 年 8 月に肝性脳症にて入院し、一時 IFN 投与を中止したが、C 型肝炎は SVR となった。その後、IFN 投与中に認めた腹水は消失、脳症の再発 もなく病状経過は安定。平成22年 8 月に S5 に単発の HCC を発症した が、TAE・RFA にて治療を施行。以降は HCC 無再発で現在も経過良 好である。 【結語】今回われわれは食道静脈瘤・PSE 抵抗性の汎血球減 少・腹水を伴った C 型肝炎に対し、IFN 治療で SVR となった一例を経 験した。本症例に対し、若干の文献的考察をふまえここに報告する。 ― 74 ― 肝5 32 PEG-IFN α2a 投与中に亜急性に顔面神経麻痺と四肢脱力 を呈し、Guillain-Barre 症候群が疑われた 1 例 33 1 公立学校共済組合 東海中央病院 消化器内科・消化器内視鏡 センター、 2 公立学校共済組合 東海中央病院 神経内科 ○井上 匡央 1 、髙御堂 弘 2 、清野 隆史 1 、森島 大雅 1 、 川端 邦裕 1 、石川 英樹 1 1 藤田保健衛生大学 医学部 肝胆膵内科 ○有馬 裕子 1 、嶋崎 宏明 1 、中野 卓二 1 、村尾 道人 1 、 新田 佳史 1 、原田 雅生 1 、川部 直人 1 、橋本 千樹 1 、 吉岡健太郎 1 症例は 60 歳女性、糖尿病、高血圧にて他院フォローアップ中、以前よ り指摘されていた C 型慢性肝炎に対し、インターフェロン(IFN)療 法の希望があり 2010 年 2 月 22 日当院紹介受診となった。HCV 抗体 陽性、genotype2 、HCV-RNA 4.6LogIU/ml、 2 型低ウイルスであり PEG-IFNα 2a 単独療法を 2010 年 3 月 16 日より開始した。目立つ副作 用なく経過していたが同年 6 月下旬より耐えがたい背部痛を起こし他 院へ入院となった。入院後左顔面神経麻痺を合併し、そこで IFN によ る末梢神経障害と診断を受け、7 月 8 日当院へ転院となった。転院時 は左顔面神経麻痺が右にも波及していた上、徐々に進行する四肢の筋 力低下を呈した。これらの経過より Guillain-Barre 症候群(GBS)を疑 い、7 月 15 日よりγ - グロブリン大量療法を実施したところ症状の進行 は止まり、その後四肢筋力は徐々に改善を認めるようになった。この 臨床経過に加え末梢神経伝導速度での F 波描出の低下もあり GBS と考 えたが、誘因となる先行感染を疑う症状が存在しなかったため、IFN が GBS 発症に大いに関係があると考えた。IFN 投与による GBS の発症 は調べ得た範囲では現在まで 2 例しかない稀な症例であり、本症例を 通して IFN と GBS に関して若干の文献的考察を加え報告する。 34 MP-424・ペグインターフェロン・リバビリン併用投与にてステ イーブンス・ジョンソン症候群をきたした C 型慢性肝炎の 1 例 ダブルバルーンカテーテルを用いた B-RTO により治療し 得た胃静脈瘤の 1 例 【症例】51 歳女性。C 型慢性肝炎( 1 型 7.0log) 、肝生検では A1-2、F1 であった。治験にて MP-424(テラプレビル)2250mg/ 日、ペグイン ターフェロン α 2b80μ g/ 週、リバビリン 600mg/ 日の治療を開始した。 18 日目に Hb が 13g/dl から 12g/dl に低下し、リバビリンを 400mg/ 日 に減量、21 日目に Hb が 11g/dl に低下し、リバビリンを 200mg/ 日に 減量した。HCVRNA は 29 日目 1.2 未満、43 日目陰性化した。 9 日目 より両前腕に皮疹が出現していたが、44 日目発熱とともに全身に拡大 したため入院となり、治験薬(MP-424、ペグインターフェロン α 2b、 リバビリン)は中止した。ステイーブンス・ジョンソン症候群と診断 し、副腎皮質ステロイドを投与することにより軽快し、66 日目に退院 した。治験薬中止 6 ヶ月後 HCVRNA は検出されず、著効と判断した。 65 日目と 98 日目に MP-424、ペグインターフェロンα 2b、リバビリン、 ロキソニンの DLST を施行し、65 日目のペグインターフェロン α 2b の みが S.I.1.9 で陽性であった。【考察】MP-424 を含めた 3 者併用療法に てステイーブンス・ジョンソン症候群をきたしたが、治験薬を中止し、 副腎皮質ステロイドを投与することにより軽快した。HCVRNA 陰性 化直後に治験薬を中止し、治験薬は 43 日間投与されたのみであったが 著効が得られた。 【結語】MP-424 を含めた 3 者併用療法では発疹の副 作用が多いことが報告されている。ステイーブンス・ジョンソン症候 群を発症することも考慮して、早期発見早期治療を心がける必要があ る。また MP-424 併用投与では短期の投与でも著効になる例があるこ とが示された。 35 1 名古屋大学 医学部 消化器内科学 ○石津 洋二 1 、片野 義明 1 、石上 雅敏 1 、林 和彦 1 、 本多 隆 1 、舘 佳彦 1 、土居崎正雄 1 、清水 潤一 1 、 小野 幸矢 1 、及部祐加子 1 、林 寛子 1 、後藤 秀実 1 孤立性胃静脈瘤破裂に対してクリップにて止血を行い待機 的に BRTO を施行した 2 例 1 順天堂大学医学部附属静岡病院 消化器肝臓内科 ○廿樂 裕徳 1 、玄田 拓哉 1 、佐藤 俊輔 1 、金光 芳生 1 、 成田 諭隆 1 、菊池 哲 1 、平野 克治 1 、飯島 克順 1 、 市田 隆文 1 【はじめに】バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術(B-RTO)は胃静脈瘤 に対する安全で効果的な治療法として確立しつつある。しかし屈曲の 強い胃腎短絡を有する症例では胃静脈瘤近傍までカテーテルを挿入す ることが困難であり、治療に難渋する。今回我々はダブルバルーンカ テーテルを用いることで B-RTO を施行しえた症例を経験したので報 告する。 【症例】73 際女性。C 型肝硬変、肝細胞癌にて当院通院。以前 より孤立性胃静脈瘤を指摘されており、今回増悪を認めたため治療目 的にて入院。 【入院時検査所見】肝予備能は Child B( 7 点)。造影 CT にて門脈血栓は認めず。発達した腎静脈系短絡を認める。【経過】初 回は通常のバルーンカテーテルを用いて B-RTO を施行したが、短絡路 の蛇行および左腎静脈への合流の狭窄のため、カテーテルを先進でき ず。また短絡路下流に複数の体循環への流出路が存在しており、胃静 脈瘤内への硬化剤の停滞は不可能であったため、治療を断念。 2 回目 にダブルバルーンカテーテル(CANDIS: メディキット株式会社)を使 用したところ、短絡路途中まで先進可能となり、下流より分岐してい た流出路を避けることに成功。しかし左下横隔静脈へ交通する太い枝 が 1 本残存したため、下大静脈側から左下横隔静脈をマイクロカテー テルにて選択し、交通枝をコイル塞栓した。その後、造影剤の胃静脈 瘤内への停滞が確認できたため、硬化剤投与。短絡路血流残存し、翌 週再 B-RTO を要したが、その後の造影 CT にて供血路から左腎静脈合 流部までの血栓化を確認できた。【結論】短絡路の蛇行の強い症例に対 する B-RTO において、ダブルバルーンカテーテルは有用であると考え られた。 孤立性胃静脈瘤破裂に対し、内視鏡的にクリップを用いて一時止血を 得た後、待機的に BRTO を施行し、良好な経過が得られた 2 例を経験 したので報告する。症例 1 :70 才女性。C 型肝炎、糖尿病、高血圧に て近医通院。平成22年 5 月黒色の胃内容物を嘔吐し当院救急搬送。上 部消化管内視鏡検査で、胃内に多量の凝血塊と Lg-c、F2 の噴門部胃 静脈瘤を認め、洗浄にて活動性出血が生じた。これに対し、クリップ にて止血術を施行。その後、絶食補液管理を行い、入院当初認めた腎 機能障害が改善した第 7 病日に BRTO 施行。その後再出血なく退院。 2 ヵ月後の内視鏡検査で胃静脈瘤の消失を確認。症例 2:60才女性。B 型肝炎、高血圧にて近医通院。平成 22 年 6 月黒色便、黒色物嘔吐が出 現し当院救急搬送。上部消化管内視鏡検査で胃静脈瘤(Lg-c、F2 )か らの噴水状の出血を認め、クリップにて止血術を施行。循環動態が安 定した翌日に BRTO を施行。その後再出血なく経過し、合併した肝細 胞癌(T4N0 M0 )に対して肝動脈化学塞栓療法を施行し退院。 2 ヵ月 後の内視鏡検査で胃静脈瘤の消失を確認した。孤立性静脈瘤破裂に対 しては CA や Histacryl 等の組織接着剤を用いた EIS による止血術が推 奨されている。しかし、これらの手技は必ずしも日常的に行われてい るものではなく、習熟した医師、医療スタッフも限られていると思わ れ、夜間緊急時等人員が限定された状況では施行困難な場合も少なく ない。それに比べ、止血用クリップは普段より使用機会が多く、この処 置が可能な医療機関は多いと考えられる。クリップによる止血術はあ くまでも一時止血処置に過ぎないが、循環動態が安定した後の BRTO 等の根治的治療までの橋渡しと考えると、多くの医療機関で迅速な止 血処置が可能という意味で、胃静脈瘤破裂に対するクリップによる一 時的な止血処置は有用であると考えられた。 ― 75 ― 36 胸腔 - 静脈シャント(denver shunt)が有効だった、肝硬 変由来の難治性右胸水の 1 例 名古屋大学 大学院 医学系研究科 消化器内科学 ○小野 幸矢 1 、片野 義明 1 、林 寛子 1 、及部祐加子 1 、 石津 洋二 1 、清水 潤一 1 、土居崎正雄 1 、舘 佳彦 1 、 本多 隆 1 、林 和彦 1 、石上 雅敏 1 、中野 功 1 、 石川 哲也 1 、後藤 秀実 1 37 RFA 後の肝門部胆管閉塞に対しドレナージを施行後抜去 しえた転移性肝癌の一例 小牧市民病院 ○小南 太郎 1 、平井 孝典 1 、宮田 章弘 1 、飯田 忠 1 、 和田 啓孝 1 、藤井 範朗 1 、桑原 崇通 1 、鈴木 大介 1 、 林 大樹朗 1 、小島 優子 1 、佐々木淳治 1 、中川 浩 1 1 1 【背景】非代償性肝硬変の患者の合併症として、難治性腹水があり、そ の確立された治療法として、腹腔 - 静脈シャントがある。腹水の貯留に 続き、胸水貯留を伴う症例もあり、胸水貯留の優位な症例は比較的稀 であり、呼吸困難を伴うため、患者に多大な苦痛をもたらす。難治性 の大量胸水をきたした肝硬変症例に対し、胸腔 - 静脈シャントを行い、 有効だった症例を経験したので、報告する。【症例】51 歳、男性。【主 訴】呼吸困難。 【現病歴】2006 年に、食道静脈瘤破裂による吐血で、他 院に入院加療され、非代償性肝硬変と診断された。2008 年に当院消化 器内科に紹介され、肝生検で NASH と診断され、脳死肝移植登録され た上で、腹水や食道静脈瘤につき、外来で加療されていた。2010 年 2 月、食道静脈瘤破裂にて EVL 後に緊急入院し、その際に右胸水貯留を 認め、胸水穿刺排液を 2 回行って胸水減少させ、 3 月に退院した。 4 月に呼吸苦で来院し、大量の右胸水貯留を認め、入院した。【経過】利 尿剤投与や胸水穿刺を繰り返すも、胸水はすぐに大量に貯留し、難治 性だった。このため、胸水が漏出性で非感染性である事を確認後、胸 腔 - 静脈シャント造設を行い、胸水の減少を図った。腹腔 - 静脈シャン ト用の Denver shunt システムを用い、右第 6 肋間より胸腔内にシャン トチューブを挿入し、皮下トンネルを形成し、右側胸部にチャンバー を留置し、静脈側チューブを右鎖骨下静脈から上大静脈へ挿入した。 留置当日からポンピングを開始するも、留置後しばらくの胸水の減少 は乏しかった。シャントチューブ屈曲や閉塞の疑いを画像検査で否定 し、胸水穿刺や利尿剤投与を併用しながら、ポンピング回数を当初の 250 回 / 日から、1500 回 / 日まで増加していくと、胸水は著明に減少し た。呼吸状態も改善し、胸水穿刺も利尿剤点滴も酸素投与がなくても、 シャントのポンピングと利尿剤内服のみで、十分に日常生活可能な状 態となり、退院となった。【結語】難治性の大量胸水例に対し、胸腔 静脈シャントを行い、胸水を減少させ退院と出来た症例を経験したの で、報告する。 【症例】50 歳、男性。【既往歴・家族歴】特記すべきことなし。【現病 歴】平成 20 年 9 月より当院呼吸器科で頭蓋骨・腰椎・肝に転移を伴う 肺癌の診断で化学療法を施行。原発巣は化学療法効果 PR でありコン トロール良好も、平成 22 年 1 月ごろより肝転移巣は徐々に増大。平成 22 年 8 月、肝転移巣に対し RFA 治療方針となり、当院消化器内科に て入院加療となる。 【入院時現症】腹部は平坦・軟、他に特記事項を認 めず。 【経過】病変は S4 、S2 の 2 か所に認め、平成 22 年 8 月 17 日に S4 病変に対し、初回 RFA 施行。続いて平成 22 年 8 月 24 日に S2 病変 に対し RFA 施行し、平成 22 年 8 月 31 日に S4 病変に 2 回目の RFA を CT アシスト下に施行した。治療終了後より黄疸と左右胆管の拡張を 認め、RFA に伴う肝門部胆管狭窄の併発と診断。胆管狭窄はほぼ完全 閉塞の状況であり、平成 22 年 9 月 3 日に B3 より PTCD を施行。この 時点では総胆管・右肝管の描出を認めなかった。平成 22 年 9 月 6 日に 総胆管へ PTCD チューブを留置。平成 22 年 9 月 9 日の PTCD チュー ブ造影では左右肝管が造影されるようになり、チューブ先端を再び左 肝管まで引き抜き、平成22年 9 月16日には造影後に PTCD チューブを クランプした。PTCD 後黄疸は速やかに改善しており、クランプ後も 黄疸増悪のないことを確認。平成 22 年 9 月 17 日に PTCD チューブを 抜去し、平成 22 年 9 月 22 日に退院となった。 【結語】今回われわれは RFA 後に胆管狭窄を併発したが、一時的な PTCD チューブ留置により 比較的速やかに改善をきたし、抜去しえた転移性肝癌の一例を経験し た。本症例に対し、若干の文献的考察を加えここに報告する。 ― 76 ― 胃 ・ 十二指腸 1 38 39 内視鏡にて整復困難であった胃軸捻症の一例 一宮市立市民病院 消化器内科 ○金倉 阿優 1 、伊藤 隼 1 、山口 純治 1 、松浦倫三郎 1 、 井口 洋一 1 、石黒 裕規 1 、金森 信一 1 、水谷 恵至 1 、 山中 敏広 1 、中條 千幸 1 1 をきたした 1 例 木沢記念病院 消化器科 ○小原 功輝 1 、杉山 宏 1 、丸田 明範 1 、中川 貴之 1 、 端山 暢郎 1 1 【症例】84 歳、女性。 【現病歴】平成 21 年 1 月、嘔吐・下腹部痛にて 当院へ救急搬送。血圧 60 代と shock 状態であった。腹部単純 CT にて 胃の著明な拡張所見を認めたが、閉塞機転は不明であった。胃管にて コーヒー残渣様内容物が約 5000ml 排液し、補液にて全身状態は改善し た。上部消化管内視鏡では、胃体部大彎側に壊死性白苔が付着する広 範な潰瘍を認めた。十二指腸には狭窄や上皮性変化を認めなかった。 潰瘍病変の病理結果は良性であった。腹部 CT にて胃前庭部は左に偏 位し食道腹側を前庭部および球部が横走しており、胃軸捻転症を疑っ た。透視下に上部消化管内視鏡を十二指腸球部まで挿入、逆アルファ 型のループの直線化を試みたが、前庭部の可動性に乏しく、整復でき ず、外科にて手術を行った。開腹所見は胃体部大彎に潰瘍穿孔を認め、 同部が腹膜に癒着していた。さらに幽門部が噴門腹側に乗り上げる位 置に癒着しており胃軸捻転症と診断した。幽門部と噴門部の癒着を剥 離、腹壁と癒着している胃体部大彎は局所切除し、捻転を整復した。 【考察】胃軸捻転は、長軸または短軸の周りを胃が 180 度以上捻転した ものと定義されている。分類としては、臓器軸性(長軸性)、間膜軸 性(短軸性)、複合性があるが、本症例は間膜軸性であった。また発症 原因により、特発性・続発性に分類される。臓器軸性捻転は、内臓脱 出・横隔膜ヘルニア・食道裂孔の開大などが原因となる一方、間膜軸 性捻転はしばしば特発性である。治療としては、胃管挿入による減圧、 内視鏡的整復などの保存的療法が試みられるが、本症例では癒着が原 因であったため、内視鏡的整復は困難であり手術を行った。 40 Braun 吻合を伴う Billroth-II 法胃切除後に吻合部潰瘍出血 経動脈的塞栓術が有効であった出血性十二指腸潰瘍の一例 名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学、 2 名古屋大 学 医学部附属病院 光学医療診療部、 3 名古屋大学大学院 医 学系研究科 腫瘍外科学 ○日比 知志 1 、安藤 貴文 1 、石黒 和博 1 、前田 修 1 、 渡辺 修 1 、三宅 忍幸 1 、神谷 徹 1 、三村 俊哉 1 、 氏原 正樹 1 、中村 正直 1 、宮原 良二 2 、大宮 直木 1 、 横山 幸浩 3 、梛野 正人 3 、後藤 秀実 1 【症例】71 歳、男性。 【既往歴】40 年前に十二指腸潰瘍にて胃切除術施 行。平成 19 年に狭心症、陳旧性心筋梗塞に対して CABG を施行され、 以後低用量アスピリン、ワーファリン内服中。【現病歴】平成 22 年 6 月 10 日からふらつきが出現し、翌日にも改善なく歩行困難となり 11 日 に当院救急外来へ搬送された。現症では眼球結膜に貧血を認めたが、 腹部に圧痛はなかった。直腸診ではタール便の付着を認めた。検査所 見では RBC 301 万 /mm3 、Hb 5.7g/dl、Ht 20.2% と高度の貧血を認め、 PT-INR は3.59と延長していた。上部消化管出血を疑い緊急内視鏡を施 行した。胃切除術は胃幽門側切除術、Billroth-II 法再建が行われていた が、残胃内には凝血塊を認めるものの、明らかな出血源は認めなかっ た。そこで、胃空腸吻合部からさらに肛門側へスコープを挿入すると 空腸空腸吻合部があり、同部位に露出血管を伴う潰瘍を認め、湧出性 に出血していた。吻合部潰瘍出血と診断し、クリップによる止血処置 を行った。翌12日の内視鏡では空腸空腸吻合部に線状の潰瘍を認めた が、止血されていた。また、穹窿部に小潰瘍を認めた。入院後、低用 量アスピリン、ワーファリンは中止したが、13 日より再開した。ファ モチジン40mg/day が投与されていたが、オメプラゾール20mg/day に 変更した。RCC-LR は合計 8 単位輸血し 14 日には Hb 9.5g/dl まで改善 した。Hp-IgG 抗体は陰性であったが、UBT は 12.8 ‰と陽性であった。 上部消化管造影で、再建方法は Braun 吻合を伴う Billroth-II 法と診断 した。大腸内視鏡では異常所見を認めなかった。再出血なく 23 日に退 院となった。【考察と結語】Braun 吻合を伴う Billroth-II 法胃切除後に 吻合部潰瘍出血をきたした 1 例を経験した。胃空腸吻合部に出血性潰 瘍をきたした症例は散見されるが、空腸空腸吻合部に発生した症例は 報告例が少ない。ピロリ菌陽性ではあったが、潰瘍が発生しにくいと される穹窿部に潰瘍を認めた事を考慮すると、NSAIDs 潰瘍であった 可能性が高いと考えられる。 41 1 家族介入を契機に断酒後、高度貧血と自覚的訴えを欠く巨大 胃潰瘍を発症した重複認知症合併アルコール依存症の 1 例 1 かすみがうらクリニック、 2 市立四日市病院消化器内科 ○廣藤 秀雄 1 、水谷 哲也 2 、矢野 元義 2 、前川 直志 2 、 竹口 英伸 2 、桑原 好造 2 、山田晋太朗 2 、小林 真 2 【症例】50 歳台女性【主訴】吐血【既往歴】2005 年に肝門部胆管癌に て肝拡大左葉切除術、2006 年に S5/6 に肝転移再発を来たし肝部分切除 術、2010 年に肝内胆管癌再発にて残肝前区域、尾状葉、肝外胆管切除再 建術を施行された。【現病歴】肝門部胆管癌術後にて当院外科にて加療 を受けられていた。2010年 8 月に吐血し救急外来を受診され当科依頼 となった。【経過】緊急上部消化管内視鏡検査にて十二指腸球部後壁に 血塊が多量に付着した潰瘍を認めた。湧出性出血を認めたため、同部 に HSE の局注とトロンビン散布で止血確認後検査を終了した。第 2 病 日の内視鏡再検時には活動性出血は認めなかったが、潰瘍底に拍動を 認める 3 mm 大の露出血管を認めたため止血鉗子による凝固とクリッ ピング及び HSE の局注にて止血術を施行した。第 3 病日の内視鏡再々 検で止血を確認し、その後の経過は良好であったが第 7 病日に再度吐 血を来たし緊急内視鏡検査となった。既知の潰瘍底の露出血管から噴 出性出血を認めたためクリッピングと HSE の局注により止血を得ら れたが、検査終了数時間後に再度大量吐血を来たしたためこれ以上の 内視鏡的止血は不可能と判断し緊急腹部血管造影検査を行った。胃十 二指腸動脈からの造影では明らかな造影剤の漏出は認めなかったが、 固有肝動脈から造影を行うと内視鏡検査時のクリップ近傍に造影剤の 漏出を認めたため、マイクロコイルによる塞栓術を施行した。第 9 病 日に発熱を来たし CT で肝膿瘍を疑う小低吸収域が散見されたが、抗 生剤の投与にて改善した。血管塞栓術後の再出血は認められず第24病 日に退院となった。【結語】今回我々は十二指腸潰瘍が固有肝動脈に穿 通し内視鏡的止血に難渋した一例を経験した。経動脈的肝動脈塞栓術 が有効であり教訓的な症例と考えられたため報告する。 【症例】69 歳、男性、新聞配達業〈主訴〉物忘れ、易怒、体重減少〈既 往歴〉十二指腸潰瘍〈生活歴〉15 歳に初飲し 20 歳から焼酎 2 -3 合 / 日 を習慣性に飲酒。年 2 回は泥酔し転倒。飲むと、くどくなり怒る。妹 と娘に「死ぬ !」と涙ながらに訴えられて半年間断酒。性格は真面目 で固い。〈現病歴〉平成 22 年 5/24、保健所から相談あり。まず妻にア ルコール専門外来を受診させて家族介入から開始した。夫が飲酒後に 家族と大喧嘩して警察を呼んだが、本人に記憶はない(ブラックアウ ト) 。6/14、息子の付添という設定で本人が初診。話しかけると大声 で「お前の付添で来たんじゃないか !」と怒る。息子がなだめ内科医も 「せっかくですから付添の方の体調もお聞きしますね」と巻き込むと 「体調はいいし美味しく食べてよく眠られる」と断言。6/19、アルコー ル専門医から息子に電話し、娘を同行してほしいと伝える。6/22、食 欲が回復。 「酒をやめてみる」と自ら断酒宣言する。 「 1 日でも長く新 聞配達(社会貢献)することが生き甲斐ですね」と断酒の動機づけを 強化した。7/26、認知症評価:MMSE 22 点、HDS-R 12 点と乖離があ り、Y 病院神経内科へ認知症の精査を依頼。8/2、採血にて偶然、Hb 5.6 g/dL(6/14 12.8 g/dL)と高度貧血を認めた。8/3、診察時に本人 の訴えはなく、息子から「食べ過ぎると胃が痛む。 2 日前から食べな くなった」と言われ、認知障害による全身状態の把握に限界を痛感し た。直ちに Y 病院 ER に紹介し緊急入院となる。腹部 CT と EGDs にて 胃体上部小彎に巨大潰瘍を認めた。 【考察】頭部 MRI にて全体的な大 脳萎縮を、脳血流シンチでは前頭葉内側面の血流低下を認めた。アル ツハイマー型認知症とアルコール性認知症の合併により、膵臓に接す る巨大胃潰瘍にもかかわらず自覚症状の訴えが欠落したと推察する。 ― 77 ― 胃・十二指腸 2 42 回腸の狭窄を認め、十二指腸乳頭部にも所見を認めた濾胞 性リンパ腫の 1 例 43 トヨタ記念病院 消化器科 ○遠藤 伸也 1 、篠田 昌孝 1 、高士ひとみ 1 、鈴木 貴久 1 、 村山 睦 1 、内山 功子 1 、宇佐美彰久 1 岡崎市民病院 消化器科 ○大矢 和広 1 、飯塚 昭男 1 、内田 博起 1 、徳井未奈礼 1 、 鬼塚 亮一 1 、松岡 歩 1 、佐藤 淳一 1 、藤吉 俊尚 1 1 【症例】61 歳 女性【既往歴】高血圧 高脂血症 子宮外妊娠にて手 術【主訴】腹部膨満感【現病歴】腹部膨満感、腹痛を主訴に当院を受 診。腹部 CT にて骨盤腔内の回腸の腫瘍性病変による腸閉塞を認め、 精査、治療目的のため同日入院となった。 【経過】絶飲食、補液によ る保存的治療にてイレウスは改善した。精査目的のため小腸造影を施 行したところ骨盤腔の回腸に 5 ~10cm に渡って狭窄を認め、悪性リ ンパ腫などの腫瘍性変化が疑われた。消化管精査目的にて GIF を施行 し、十二指腸乳頭部の発赤、腫大を認め、生検にて濾胞性リンパ腫と 診断された。小腸病変は組織学的な確定診断までは至らなかったが、 リンパ腫の可能性が高く、また骨髄穿刺でもリンパ腫の浸潤が認めら れ、Clinical stage 4 にてリツキシマブ+ CHOP 療法による化学療法 を開始した。化療 1 コース後の CT にて小腸腫瘍は縮小しており、経 過より小腸病変もリンパ腫の可能性が高いと考えられた。その後腹痛 とともに小腸イレウス所見を数回認めたが保存的に軽快した。化療 6 コースを終了し、十二指腸乳頭部および骨髄からのリンパ腫細胞は消 失し、CT でもリンパ腫病変は認めず CR と考えられた。小腸造影再検 にて骨盤腔内の回腸に 1 ~ 2 cm に渡って全周性の狭窄が認められた。 化療による腫瘍縮小過程の変化が考えられたが、イレウス症状を頻回 に認めたため、回腸切除術を施行した。切除標本には腫瘍細胞は認め なかった。【考察】濾胞リンパ腫は、本邦のリンパ腫の 10~15 %を占 めるが、そのほとんどは節性病変であり、消化管原発は 3.6 %と比較的 まれである。しかし近年内視鏡検査の普及に伴い濾胞性リンパ腫の消 化管病変の報告例が増加してきている。今後は小腸の狭窄や十二指腸 乳頭部の発赤、腫大、びらん等の所見を認めた場合には濾胞リンパ腫 も念頭におきながら検査することが必要と思われた。【結語】回腸の狭 窄を認め、十二指腸乳頭部にも所見を認めた濾胞性リンパ腫の 1 例を 経験した。 44 放射線療法が奏功したピロリ菌陰性胃 MALT リンパ腫の 2 例 1 【症例 1 】66 歳、男性【現病歴】2003/5 心窩部痛にて近医受診。噴門 部直下と体下部前壁に褪色調病変あり生検で MALT リンパ腫と診断。 他院で HP 陽性のため除菌療法実施。HP 陰性化し肉眼的に変化なく経 過。FISH 法で API2 -MALT1 陽性。2006 年 12 月の上部消化管内視鏡 検査で再発認め当院紹介。 【既往歴】虫垂炎【入院時所見】特記所見な し【検査所見】CT: 肝嚢胞のみ。s-IL2RA 547U/ml【経過】3/5 より全 胃を照射範囲として total30Gy 照射したとこころ腫瘍は瘢痕化し生検 でも MALT リンパ腫の像は見られなくなった。 【症例 2 】72 歳、女性 【現病歴】2008/3/19 上腹部不快にて、近医より紹介。上部消化管内 視鏡で胃体部大弯に辺縁の浮腫が著明で多発する潰瘍性病変あり。生 検にてリンパ腫を疑う所見なく経過観察となったが 2009/5/21 再検 時に、生検で MALT リンパ腫と診断された。6/4 HP 陰性であったが 除菌療法施行。8/20 上部消化管内視鏡にて、除菌治療無効と判断し放 射線療法の適応と考えられた。【既往歴】橋本病【入院時所見】特記 所見なし。 【検査所見】s-IL2RA 1050U/ ml【病理所見】粘膜内に軽度 の異型を有するリンパ球がびまん性にみられ一部に Lymphoepithelial lesion を認めた。 【経過】 9/29より全胃を照射範囲として total30Gy 照射 した。11/26 上部消化管内視鏡検査で潰瘍は瘢痕化し、ひだの浮腫も 消失した。生検でも MALT リンパ腫の像は見られなくなった。 【考察】 放射線療法は安全で効果的な治療法であると考えられた。 【結語】放射 線療法が奏功した胃 MALT リンパ腫の 2 例を経験したので報告した。 45 胃 MALT リンパ腫治療後に発見された早期胃癌の 1 例 三重大学医学部附属病院 消化器・肝臓内科、 2 三重大学医学 部附属病院 光学医療診療部 ○田野 俊介 1 、葛原 正樹 2 、二宮 克仁 1 、井口 正士 1 、 高山 玲子 1 、井上 宏之 1 、田中 匡介 2 、堀木 紀行 2 、 竹井 謙之 1 1 症例)62 歳の男性。既往歴)肺癌術後再発にて当院呼吸器内科に通院 加療中。現病歴)2006 年 11 月の上部消化管内視鏡で胃体中部から胃 角部にかけて小隆起性病変の多発および地図状潰瘍を認め、生検にて MALT リンパ腫と診断された。CT、PET-CT、CF、骨髄穿刺では胃 以外には病変を認めず、胃 MALT リンパ腫 stage1(Lugano 国際分類) と診断した。放射線療法を施行し完全寛解となっていたが、2009 年 3 月の上部消化管内視鏡で体中部後壁の MALT リンパ腫治療後瘢痕の 近傍に浅い陥凹性病変(Tubular adenoma with low grade atypia)を 認めた。同年 10 月の再検で分化型腺癌が疑われたため 12 月に内視鏡 治療目的で入院した。入院後、ESD を施行し一括切除を行った。病理 組織では Tubular adenocarcinoma、well differentiated type(tub1)、 M、ly0、v0、LM(-) 、VM(-)、ul(+) で 治 癒 切 除 で あ っ た。 な お、MALT リンパ腫の遺残は認めなかった。今回我々は胃 MALT リ ンパ腫治療後に発見された早期胃癌の 1 例を経験した。レトロスペク ティブに内視鏡所見を見直すと初回検査時に今回早期胃癌として治療 した浅い陥凹性病変を既に認めていた。放射線治療後も定期的な観察 を行っていたが、MALT リンパ腫の潰瘍性病変が残存している間は指 摘が困難であった。MALT リンパ腫では治療前のみならず治療後にお いても早期胃癌の合併を念頭においた内視鏡観察が必要である。 Ball valve syndrome を来した Peutz-Jeghers type polyp に合 併した胃癌に対して内視鏡的ポリペクトミー治療を行った一例 1 名古屋市立大学 大学院医学研究科 消化器代謝内科 ○北川 美香 1 、谷田 諭史 1 、溝下 勤 1 、水島 隆史 1 、 田中 守 1 、塚本 宏延 1 、岡本 泰幸 1 、海老 正秀 1 、 馬渕 元志 1 、平田 慶和 1 、村上 賢治 1 、志村 貴也 1 、 森 義徳 1 、片岡 洋望 1 、神谷 武 1 、城 卓志 1 【 背 景 】Ball valve syndrome は、 胃 内 腫 瘤 が 十 二 指 腸 球 部 に 嵌 頓 し、 腹 痛、 嘔 吐 な ど 消 化 管 閉 塞 症 状 を 来 す 病 態 で あ る。 胃 癌 や gastrointestinal stromal tumor がおもな原因である。今回我々は、Ball valve syndrome を呈した Peutz-Jeghers type polyp に合併した胃癌に 対して内視鏡的ポリペクトミー治療を行った一例を経験したため報 告する。 【症例】84 歳女性、主訴は貧血。既往歴はなし。2008 年から 徐々に進行する貧血を指摘され、精査目的にて紹介となった。血液検 査所見は RBC3.63×10 6 /mm3Hb9.3g/dL Ht28.9%と軽度な貧血を認め る以外に異常を認めなかった。胃透視では胃体中部に太い茎をもっ た約 4 cm の巨大な頭部をもつ結節隆起が、十二指腸球部に嵌頓して いた。空気を充満すると嵌頓は解除された。上部消化管内視鏡所見 では胃体中部大彎に結節隆起が集簇した巨大な頭部をもった茎の太 い有茎性ポリープを認めた。また十二指腸球部にポリープの頭部が 嵌頓していた。生検組織検査では、高度異形成分のある過形成性ポ リープとの所見であった。以上により Ball valve syndrome を来した 高度異形成分のある過形成性ポリープと診断した。治療目的にて入 院、piece meal polypectomy にて病変部切除した。切除標本病理組織 検査では、核異型、構造異型を示す腫瘍性増殖がみられ、癌化を伴っ た過形成性ポリープ(Peutz-Jeghers type polyp with components of adenocarcinoma)と診断された。切除後、癌の再発所見はみられてい ない。 【考察】本症例は過形成性(Peutz-Jeghers type)ポリープが増 殖、成長し、Ball valve syndrome を来し、さらに癌化したと考えられ た。これまでに報告はほとんどなく極めてまれな症例である。治療法 は、有茎性ポリープに対してスネアが留置できれば、安全に内視鏡的 ポリペクトミーにて切除し得ると考えられた。 ― 78 ― 胃・十二指腸 3 46 47 背景粘膜に鳥肌胃炎を伴った胃癌 4 例 愛知県、 名古屋大学 消化器内科 ○榊原 真肇 1 、藤田 孝義 1 、都築 佳枝 1 、安藤 貴文 2 、 後藤 秀実 2 1 半田病院 内科 ○岩下 紘一 1 、広崎 拓也 1 、安藤 道崇 1 、亀井圭一郎 1 、 島田礼一郎 1 、森井 正哉 1 、神岡 諭郎 1 、大塚 泰郎 1 【目的】背景粘膜に鳥肌胃炎を伴った胃癌を 4 例経験したので、報告す る。【方法】鳥肌胃炎の内視鏡所見として、前庭部から角部にかけて均 一な結節状隆起が密集して認められるものと定義した。背景粘膜は、 萎縮の程度と萎縮の拡がりとともに、インジゴカルミンを散布して、 前庭部と体部の小弯・大弯の 4 カ所で胃小区(P0 , 1 , 2 , 3 , F0 , 1 , 2 , 3 ) も検討した。さらに、鳥肌胃炎と胃癌も検討した。【成績】鳥肌胃炎の 背景粘膜は萎縮が軽度で、拡がりが C2 、C3 で、胃小区が P1 、F1 の 症例が多かった。背景粘膜に鳥肌胃炎を伴った胃癌を 4 例経験した。 42 歳女性で体下部後壁に IIc、大きさが 13×10mm、深達度が m、病理 が por/sig、53 歳女性で体中部大弯に IIc、20×15mm、sm1 、por、61 歳女性で体下部大弯に IIc、15 × 30mm、sm2 、por/sig であった。【結 論】鳥肌胃炎の内視鏡所見は前庭部から角部にかけて均一な結節状隆 起として認められ、背景粘膜は C2 、C3 で、胃小区が P1 、F1 の症例 が多かった。また、鳥肌胃炎は未分化型胃癌の高リスク群であること が示唆された。 48 胃体下部に発生した全周性 IIa の一例 1 2 化学療法にて CR の効果を示し長期生存を得ている超高齢 の進行胃癌の一例 1 藤田保健衛生大学 消化管内科 ○米村 穣 1 、中村 正克 1 、平田 一郎 1 、柴田 知行 1 、 吉岡 大介 1 、釜谷 明美 1 、加藤 祐子 1 、岩田 正巳 1 、 中川 義仁 1 、石塚 隆充 1 、丸山 尚子 1 、大森 崇 1 、 長坂 光夫 1 、藤田 浩史 1 、鎌野 俊彰 1 、小村 成臣 1 、 市川裕一朗 1 、城代 康貴 1 、前田 佳照 1 、大久保正明 1 、 生野 浩和 1 【 背 景 】 現 在 の 進 行 胃 癌 に 対 す る 1st line chemotherapy と し て は JCOG9912の結果、TS-1 base が推奨され、SPIRITS 試験の結果から TS1+CDDP の 2 剤併用療法が標準療法になりつつある。しかし、高齢 者に対しての化学療法は腎機能や PS の理由で CDDP が使用し難い場 合がある。【症例】症例は 93 歳女性。幽門前庭部を主座とする 4 型進 行胃癌で臨床病期は T3N0H0M0P0Stage2A。この症例に対して TS-1 80mg/body/day を 4 週投与 2 週休薬のレジュメを選択した。 3 クー ル施行後、PD となり、second line としてパクリタキセル 80mg/ 平方 メートルの毎週投与をおこなった。 【結果】化学療法施行後 20ヶ月にお いて残存腫瘍の消失をみとめ、CR と判断した。有害事象は血液毒性で は Grade3以上の好中球減少と重症細菌感染をみとめた。しかし対症療 法にて軽快した。本人の希望により治療を中止しているが、52ヶ月経 過した現在も存命であり、無再発生存中である。【まとめ】パクリタキ セルを選択した治療が著効し、長期生存を得ている症例を経験したの でここに報告する。 症例は 85 歳の男性。2009 年 10 月から空腹時胃痛あり、同月近医にて GIF 行い胃体下部に全周性 IIa 様病変を認めた。生検は GroupIII であ り経過観察をおこなっていた。2010 年 6 月前医にて GIF 再検をおこ なったところ所見は同様であったが、生検にて GroupIV、細胞の高度 異型を認めたため内視鏡的切除目的で当院紹介となった。当院でも 2010年 6 月再度 GIF、EUS を行った。GIF では胃体下部に全周性 0 -IIa を認め、生検では tub1 、高分化腺癌であった。EUS 上、病変の深達度 は粘膜層にとどまっていると思われた。内視鏡的治療も検討したが、 やはり ESD 適応外病変と考え、当院外科にて腹腔鏡補助下幽門側胃切 除術をおこなった。病理は well differentiated tubular adenocarcinoma (tub1 ) 、depthM、v0、ly0、pPM0、pDM0 であった。今回我々は胃体 下部に発生した全周にわたる 0-IIa の形態を呈する早期胃癌の一例を 経験した。若干の文献的考察を加えて報告する。 49 胃・十二指腸絨毛癌の 1 例 朝日大学 村上記念病院 消化器内科 ○成瀬 公人 1 、堀江 秀樹 1 、加藤 隆弘 1 、小島 孝雄 1 、 遠藤 美生 1 、宮脇喜一郎 1 、吉田 尚美 1 、福田 信宏 1 、 高野 幸彦 1 、大洞 昭博 1 、奥田 順一 1 、井田 和徳 1 1 〈症例〉80 歳代女性。〈主訴〉全身倦怠感。〈既往歴〉高血圧、高脂血 症、狭心症、胃潰瘍、胆石症。 〈現病歴〉2001 年ごろより当院にて高 血圧、高脂血症等で通院加療中、2009 年 5 月より Hb8.8g/dl の貧血が 見られたが精査を希望されず、2010 年 3 月、全身倦怠感と Hb6.7 g/dl と高度の貧血のため精査加療目的として入院となった。 〈入院後経過〉 入院時身体所見は眼球結膜に貧血をみとめ、上腹部に手拳大の硬い腫 瘤を触知した。腫瘍マーカーは CEA2.1ng/ml、CA19-9 14U/ml で基準 値であった。上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部に 3 cm 大の 2 型の 腫瘍と十二指腸球部にも 1 cm 大の 0 -I 型腫瘍を認め、生検でいずれも poorly differentiated adenocarcinoma と診断された。腹部 CT 検査で胃 小弯にリンパ節(No1 、 3 、 8 a)の腫大を認めたが、遠隔転移は認 められなかったため、幽門側胃切除術、Bil-I 再建、胆嚢切除術を施行。 術中所見では、胃周囲のリンパ節転移はみられたが、腹水はなく、腹 膜播種、遠隔転移、卵巣腫大はみられなかった。切除標本で胃と十二 指腸の腫瘍の間には非癌粘膜の介在が見られ、HE 染色でいずれも同 じ腫瘍細胞で、腺癌が一部に含まれていたが hCG 染色で陽性を示し絨 毛癌と診断した。十二指腸絨毛癌は上皮性の形態をとっていたが、漿 膜下にリンパ管、血管の脈管浸潤が高度にみられ、原発性胃絨毛癌の 壁内転移の可能性も考えられた。hCG β - サブユニットは術前には測定 していなかったが、術後 29 日に 0.7ng/ml と高値であり、術後 104 日に は正常値化していた。術後 180 日現在でも再発の兆候はみられていな い。 〈結語〉絨毛癌は予後不良な疾患で、診断時には多発転移などで手 術困難な報告例がある。病理学的には、腫瘍の中に腺癌の部分と絨毛 癌の部分が存在しており、術前に絨毛癌と確定診断がつかず、本症例 と同じく術後の病理所見で診断されることもある。我々は、胃と十二 指腸に非連続した多発する絨毛癌を経験したが、原発性胃絨毛癌の十 二指腸壁内転移かいずれも原発性かの鑑別に苦慮する非常に稀な症例 を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。 ― 79 ― 50 転移性胃腫瘍 8 例の検討 愛知県がんセンター 中央病院 消化器内科部、 2 愛知県がん センター 中央病院 内視鏡部 ○赤羽 麻奈 1 、丹羽 康正 2 、田近 正洋 2 、河合 宏紀 2 、 近藤 真也 1 、原 和生 1 、澤木 明 1 、水野 伸匡 1 、 肱岡 範 1 、佐伯 哲 1 、小倉 健 1 、羽場 真 1 、 山雄 健次 1 1 〈目的〉胃への悪性腫瘍の転移は、直接浸潤を除き剖検例の 2.3~5.4 % と比較的稀である。しかし、悪性腫瘍に対する治療法の進歩により長 期生存例を経験するようになり、転移性胃腫瘍に遭遇する機会も少な くない。今回我々は、転移性胃腫瘍と診断された 8 例 9 病変の特徴 について検討を行ったので報告する。〈方法〉対象は 2000 年 11 月から 2010 年 7 月までに、当院で上部消化管内視鏡検査を行い転移性胃腫瘍 と診断された 8 例 9 病変。悪性リンパ腫などの血液疾患や隣接臓器か らの直接浸潤は除外した。原発臓器、臨床症状、内視鏡所見、診断の根 拠、予後について検討した。〈結果〉平均年齢 65.3 歳、男性 1 例、女性 7 例。原発癌は肺癌 6 例(全例腺癌)、乳癌 2 例(浸潤性乳管癌)で あった。原発癌診断から転移性胃腫瘍診断までの期間は中央値 22.0ヶ 月( 0 -133ヶ月)で、同時性 2 例(ともに肺癌) 、異時性 6 例であっ た。診断時、全例にすでに他臓器にも転移が存在していた。転移性胃 腫瘍発見時の臨床症状は食欲不振、心窩部痛が 3 例、タール便、貧血 が 2 例、無症状が 3 例であった。腫瘍の占拠部位は U から M 領域に 7 例、全域に広がるもの 1 例で、単発 7 例、多発 1 例であった。肉 眼型は SMT 様隆起 3 例、早期胃癌様 3 例( 0 IIc 様;1 例、 0 IIc+III 様; 2 例) 、 4 型胃癌様 2 例であった。 8 例中 7 例で免疫染色及び遺 伝子変異検索を行い、 1 例は HE 染色にて転移性胃腫瘍の診断が可能 であった。肺癌では surfactant apoprotein、TTF-1 などの免疫染色所 見や EGFR、ALK 遺伝子変異の有無が、乳癌では ER、mammaglobin の免疫染色所見が診断に有効であった。転移性胃腫瘍が発見されてか らの予後は、生存期間が中央値 3.0ヶ月( 1 -14ヶ月)と極めて不良で あった。 〈結語〉他臓器癌を有する患者において上部消化管内視鏡検査 をする際、SMT 様隆起や胃癌類似の特徴のある胃腫瘍を発見した際に は、転移性胃腫瘍も念頭に入れる必要がある。確定診断には、免疫染 色や遺伝子変異検索が有用であった。 ― 80 ― 胃・十二指腸 4 51 52 若年男性に発生した巨大 GIST の一例 市立伊勢総合病院 外科、 市立伊勢総合病院 病理 ○武内泰司郎 1 、野田 直哉 1 、湯浅 浩行 1 、伊藤 史人 1 、 野田 雅俊 2 1 特異な形態を示した胃 GIST の一例 名古屋市立西部医療センター 城北病院 消化器内科 ○山川 慶洋 1 、木村 吉秀 1 、稲垣 佑祐 1 、妹尾 恭司 1 、 勝見 康平 1 1 2 症例は 29 歳、男性。タール便、貧血症状にて近医を受診し、上部消化 管内視鏡検査にて胃粘膜下腫瘍を疑われ、精査加療目的に当科を紹介 受診した。来院時身体所見にて上腹部に 10cm 大の可動性良好な弾性 硬の巨大腫瘤を認めるも圧痛は認めなかった。血液検査ではヘモグロ ビン7.3g/dl と貧血を認めた。上部消化管内視鏡検査にて体上部から胃 角にかけて小彎から後壁よりに壁外性圧排様の隆起を認め、粘膜表面 には一部発赤を伴うものの、明らかなびらんや潰瘍形成は認めなかっ た。腹部超音波検査では境界明瞭、内部不均一で低エコーな 9 cm 大の 腫瘤を認め、胃壁との連続性を認めたものの、EUS では第 5 層で腫瘍 と胃壁が隔てられておりその連続性ははっきりしなかった。腹部造影 CT 検査にて内部不整な造影効果を伴う腫瘤を認め、腫瘍は左胃動脈 と右胃動脈からの feeding を認めた。腹部 MRI 検査にて肝臓、膵臓と 広く接しているものの、境界明瞭であった。以上から、胃もしくは小 網原発の GIST と診断し、手術を施行した。上腹部正中切開にて開腹。 術中所見では、小網内に胃小彎と接する10cm 大の腫瘤を認めた。明ら かなリンパ節の腫大は認めなかった。左胃、右胃動脈からの流入血管 を結紮切離し、周囲を剥離していくと胃体部から体下部で胃壁と連続 しており、約 1 cm のマージンをとり、胃を切離し、腫瘍を摘出した。 病理所見では、大きさ12×12× 9 cm で内部に散在性に出血性壊死を伴 う白色の充実性腫瘍で胃第 4 層、一部胃壁と連続していた。錯綜する spindle cell からなる腫瘍で、CD34、c-kit が陽性を示し、GIST と診断 された。また核分裂像は 50HPF で 5 個を超え、腫瘍径とあわせ、高リ スク群と考えられた。現在、外来にて経過観察中であるが、再発を認 めていない。若年男性に発生した、巨大 GIST を経験したので、若干の 文献的考察を加えて報告する。 胃 GIST はときに嚢胞変性を伴って巨大化することが知られている。 今回我々は貧血を契機に発見され、内部に嚢胞成分を伴った胃 GIST の一例を経験したので報告する。 【症例】 73 歳、女性。高血圧、高脂血 症にて通院中、平成 21 年 9 月の採血にて大球性貧血を指摘された。平 成 22 年 3 月上部内視鏡を施行。胃体下部前壁を中心として、表面頂部 にびらんを有する直径 5 cm 大の粘膜下腫瘍を認めた。超音波内視鏡 では第 3 層より発生する等~高エコーな境界明瞭な充実性腫瘍で、一 部無エコー領域が認められた。充実性成分の内部エコーは比較的均一 で、第 2 、第 4 層は保たれており、明らかな壁外性進展は認めなかっ た。腹部 CT では充実性成分には軽度の造影効果を認めたが、嚢胞性 成分は造影されなかった。明らかな肝転移は認めなかった。腫瘍径は 6 cm あり、GIST も否定できないため、平成 22 年 5 月胃部分切除を施 行した。切除標本では、腫瘍は直径 5 × 6 cm 大で、一部で充実成分 を取り囲む様に液状成分が認められた。病理所見では紡錘形の核を有 した腫瘍細胞の増殖が認められ、c-kit 及び CD34 陽性、desmin、s-100 及び SMA は陰性、核分裂像は 3/30HPF であった。以上より中リスク 以上の胃原発 GIST と診断した。通常 GIST は充実性の腫瘍であり、嚢 胞性変化を伴うものは稀である。貧血を契機に発見された嚢胞成分を 伴った胃 GIST を経験したので報告する。 53 54 小網原発と考えられる巨大 GIST の 1 例 朝日大学村上記念病院 消化器内科 ○山田 哲也 1 、堀江 秀樹 1 、加藤 隆弘 1 、小島 孝雄 1 、 遠藤 美生 1 、宮脇喜一郎 1 、吉田 尚美 1 、福田 信宏 1 、 高野 幸彦 1 、大洞 昭博 1 、奥田 順一 1 、井田 和徳 1 診断に難渋した嚢胞変性を伴う異所性膵の 2 例 名古屋共立病院 消化器内科、 2 名古屋大学大学院消化器内科学 ○広瀬 健 1 、竹田 欽一 1 、宇都宮節夫 1 、多賀 雅浩 1 、 池田 誉 1 、水谷 佳貴 1 、後藤 秀実 2 1 1 【はじめに】Gastrointestinal stromal tumor(以下 GIST と略記)は主 に消化管に発生する間葉系腫瘍の 1 つで、高頻度に c-kit 遺伝子を発現 する。近年、消化管 GIST と同様の組織形態や遺伝子異常を有する腫瘍 が、消化管以外の内臓や軟部組織にも発生することが報告されるよう になった。それらは extra-gastrointestinal stromal tumor(EGIST)と 呼ばれ、中でも小網を原発とする EGIST は極めて稀である。今回我々 は、外科的に切除しえた網嚢内に発育・進展した小網原発と考えられ る巨大 GIST の一例を経験したので、文献的考察を加え報告する。【症 例】80 歳代女性。2001 年に腹部 CT にて膵尾部に直径 3 cm 程の腫瘍を 指摘されていたが、無症状のため経過観察となっていた。2007年、直径 6 cm 程まで増大しており、手術を薦めたが同意を得られず、経過観察 となった。2010 年 5 月、経口摂取不良となり近医より紹介受診。腹部 dynamic CT で、同病変は 10cm 程に増大し、早期相で腫瘍辺縁から の血流により濃染する血流が著明で、内部は不均一で壊死組織を示唆 する腫瘍であった。上部消化管内視鏡検査では胃壁外性圧排の所見の みで、EUS では腫瘍は胃壁および膵とは連続性は認められなかった。 また上部消化管および小腸造影検査では、胃小弯に主座を置く腹腔内 腫瘍であった。以上から小網由来の悪性腫瘍の可能性があり、EUS - FNA での組織検査を考慮したが、血流が著明であることから出血のリ スクが高いと判断し施行せず、診断治療目的に、2010 年 7 月手術を施 行した。術中所見では、腫瘍は小網に覆われて網嚢内に存在し、胃と の連続性は無かった。他臓器への浸潤は認められず、腫瘍のみ摘出可 能であった。腫瘍は長径 11cm、外見は黄白色で表面は平滑、弾性硬の 腫瘤性病変で、割面は均一であった。病理組織検査では紡錘形細胞の 増殖がみられ、異型性は弱く、mitosis も目立たなかったが、免疫染色 にて c-kit、CD34 が陽性、s-100 蛋白、α -SMA は陰性であり、その解剖 学的位置も含めて小網原発の GIST と診断した。腹腔内腫瘍が巨大と なっても無症状で経過観察されるような場合は、EGIST なども考慮し た精査の必要性が考えられた。 症例 1 50 歳代男性、嘔吐を主訴に当院受診。腹部超音波(US)を 施行。右肋弓下横走査にて、胃・十二指腸付近に境界明瞭・整、後方 エコー増強を伴う内部無エコーの腫瘤像を認めた。辺縁には石灰化と 思われる高エコー像を認めた。超音波内視鏡(EUS)では十二指腸下 行脚内腔側に突出する嚢胞性病変であった。症例 2 50 歳代男性、右 下腹部痛を主訴に当院受診。US で十二指腸球部粘膜下に境界明瞭・ 整、隔壁を有する後方エコー増強を伴う無エコーの多房性の腫瘤像認 めた。内部には高エコー結節像を有していた。EUS では腫瘤は、第 4 層と接しているように観察された。両症例共に、消化管通過障害を伴 い十分なインフォームドコンセントの上、外科的手術を行った。結果 病理組織学的所見では、嚢胞変性を伴う異所性膵の所見であった。 結語 今回、術前診断困難であった嚢胞変性を伴う異所性膵を経験し たので、若干の文献的考察を加え報告する。 ― 81 ― 55 胃 glomus 腫瘍の一例 名鉄病院 ○側島 友 1 、荒川 恭宏 1 、渡邉 晶子 1 、大菅 雅宏 1 、 西尾 雄司 1 、杉原 眞 1 1 症例は 39 歳女性。心窩部不快感を主訴に近医を受診し、上部消化管 内視鏡で粘膜下腫瘍を指摘されたため精査加療目的で当院紹介受診と なった。身体所見・血液検査に特記すべき異常所見を認めなかった。上 部消化管内視鏡では前庭部大彎に粘膜下腫瘍を認め、超音波内視鏡で は第 4 層に low echo を呈する境界明瞭な腫瘤を認めた。また腹部 CT では早期相で均一に強く造影され、後期相でも造影効果が持続してい た。GIST を疑ったが、超音波内視鏡・CT では最大径 20mm 未満で あったことから定期的な経過観察とした。しかし経過観察中の CT で、 最大径 26mm と増大傾向を認めたため、胃局所切除を施行した。病理 所見では glomus 腫瘍と診断された。glomus 腫瘍は、毛細血管の先端 にある動静脈吻合叢の神経筋性装置 glomus body に由来する腫瘍であ り、消化管に発生することはまれである。若干の文献的考察を加えて 報告する。 ― 82 ― 大腸 3 56 Stage3 結腸直腸癌に対する手術後補助化学療法(UFT/ ロイコボリン療法)の検討 57 名古屋記念病院 化学療法科、 名古屋大学大学院 消化器内 科学 ○古田 竜一 1 、伊奈 研次 1 、片岡 孝江 1 、安藤 貴文 2 、 後藤 秀実 2 1 て発症した間質性肺炎の 1 例 名古屋共立病院 化学療法科、 2 名古屋共立病院 消化器科、 3 名古屋大学 消化器内科学 ○宇都宮節夫 1 、広瀬 健 2 、水谷 佳貴 2 、池田 誉 2 、 多賀 雅彦 2 、竹田 欽一 2 、後藤 秀実 3 2 1 【目的】Stage3 結腸直腸癌に対する手術後補助化学療法として UFT/ ロ イコボリン療法の有用性および安全性につき検討した。【結果】2004.8 から2009.9の期間に当院で手術が行われ stage3 と診断された結腸直腸 癌患者の中で、手術後補助化学療法として UFT/ ロイコボリン療法を 受けた 63 例を対象とした。男性 30 例、女性 33 例。年齢は 46 歳から 81 歳(平均年齢 65.7 歳)。stage3A 35 例、stage3B 28 例、結腸癌 42 例、 直腸癌 21 例であった。組織型は tub1 25 例、tub2 33 例、muc 3 例、 por 2 例であった。 【方法】UFT 300mg/m2/ 日およびロイコボリン 75mg/ 日を 4 週内服し、 1 週休薬する 5 週を 1 コースとし、Grade3 以上の有害事象の出現または再発がない限り、原則として計 5 コース 施行された。 1 ヶ月毎に血液検査(腫瘍マーカー)、 2 コース毎に画 像検査(CT スキャン)による評価が行われた。治療中に再発を認め た場合はその時点で本療法は中止され、治療方法が変更された。【結 果】52 例(82.5%)で治療が完遂され、再発を 20 例(31.7 %; stage3A 22.9%、stage3B 42.8%)に認めた。有害事象は Grade 3 の白血球減少 2 例、Grade 3 の嘔吐 1 例、Grade 2 の肝機能異常を 3 例認め、有害 事象のために患者の希望により 3 例が治療中止となり、3 例で減量を 要した。[ 結語 ] 結腸直腸癌に対する手術後補助化学療法として UFT/ ロイコボリン療法は安全な治療法であると考えられた。 58 大腸癌に対する FOLFIRI + Bevacizumab 併用療法によっ 閉塞性左側大腸癌に対する経肛門的イレウス管挿入術の検討 大腸癌に対する標準化学療法である FOLFOX 療法または FOLFIRI 療 法によって間質性肺疾患が発症することは稀であるが、時に呼吸不 全に進行しうる重篤な合併症である。しかし、大腸癌の化学療法に よる間質性肺疾患の臨床的な特徴は明らかにされていない。我々は FOLFIRI + Bevacizumab 併用療法を投与中に間質性肺炎を発症し、 ステロイドパルス療法によって軽快した症例を経験したので報告す る。 症例は 60 歳代、男性。2008 年 1 月に S 状結腸癌の診断で S 状結腸切除 術を施行された。その後、術後補助化学療法として FOLFOX 療法 12 コースが投与された。2009年 3 月に肺転移、肝転移再発を認めたため、 4 月から FOLFIRI + Bevacizumab 併用療法を開始した。10 コース投 与後の 2009 年 9 月に発熱が出現した。血液検査、胸腹部 CT 検査など が施行されたが、発熱の原因となる病変を指摘できなかった。第 4 世 代セフェム系抗生剤、抗真菌剤、GCSF を投与したが、高熱が持続し た。胸部 CT を再検すると、両側肺野に広範な間質陰影を認め、間質 性肺炎と診断した。ステロイドパルス療法によってまもなく解熱して 間質陰影も改善した。この間、咳、痰、呼吸苦などの呼吸器症状を訴 えなかった。 59 浜松医科大学 第二外科 下部消化器外科 ○松本 知拓 1 、間 浩之 1 、澤柳 智樹 1 、中村 光一 1 、 倉地 清隆 1 、中村 利夫 1 、今野 弘之 1 大腸腫瘍における術前 CT Colonography の有用性 みよし市民病院 消化器科、 2 みよし市民病院 外科 ○中島 守夫 1 、伊藤 治 1 、柴田 時宗 1 、成瀬 達 1 、 花井 雅志 2 、土江 健嗣 2 1 1 【はじめに】閉塞性左側大腸癌に対する経肛門的イレウス管挿入術は 腸管内減圧効果が高く、待機的に 1 期的手術が可能であること、造影 により口側腸管の情報が得やすいことなどの利点がある。一方で SD junction や脾弯曲などの腫瘍の位置や形態による挿入が困難な症例、 挿入時のガイドワイヤーによる腸管穿孔や出血、挿入後のバルーンに よる腸管壁圧迫に伴う潰瘍形成などの合併症も報告される。今回、当 院における経肛門的イレウス管挿入後に緊急手術となった症例につい て検討報告する。 【対象と結果】2002 年 4 月から 2010 年 9 月までに経 肛門的イレウス管挿入を考慮した症例は 24 例であり、挿入は 19 例で可 能であった。挿入後待機的手術は 15 例、 4 例(72-83 歳、男性 2 例、 女性 2 例)で挿入後に緊急手術となった。緊急手術症例において閉塞 部位は S 状結腸 2 例、直腸 Rs2 例。挿入から緊急手術まではそれぞれ 0.1.1.2 日であり、緊急手術理由としては減圧不良による腹膜刺激症状 2 例、イレウス管先端の腸管穿孔 1 例、腹痛が改善せず自己抜去した 結果の腸管損傷 1 例であった。手術は横行結腸人工肛門造設を 2 例、 Hartmann 手術を 2 例に施行した。 2 期的切除、または再吻合は 2 例 に施行し術後経過は良好であった。 1 例は高齢のため原発巣非切除経 過観察、 1 例は腹膜炎から敗血症により死亡した。【考察】経肛門的イ レウス管挿入後の緊急手術症例の原因は減圧不良とチューブトラブル であった。多くは挿入後の管理の適切化で回避可能と思われた。挿入 後の緊急手術例を検討した結果、当院では現在、 1 )チューブ閉塞に 注意し徹底した洗浄を行う、 2 )腹部 X 写真によるチューブ先端位置 を毎日確認する、 3 )先端やバルーンによる圧迫壊死を避けるため同 一部位での持続吸引を避ける、などの対策を行い挿入後は 1 週間前後 で手術を行っている。こうした対策の結果2007年より挿入後に緊急手 術となった症例はない。経肛門的イレウス管挿入術は比較的容易かつ 安価な手法であり、 1 期的吻合を安全に施行するうえでも有用である が、挿入後の腹部症状に留意し緊急手術を常に考慮して治療観察を行 う必要がある。 当院では平成 22 年 5 月より 64 列マルチスライス CT が導入され CT Colonography(以下 CTC)の臨床応用を開始している。現在では便 潜血陽性などで大腸内視鏡を第一選択として精査することが多く、バ リウムによる注腸検査は未施行である場合が多い。しかし腫瘍による 狭窄などのために内視鏡の挿入が困難な症例や、術前検査として注腸 検査が必要となることは多い。今回我々は大腸内視鏡検査直後に CTC を施行することにより良好な仮想注腸像を得ることができ、術前のバ リウムを使用する通常の X 線注腸検査が不要と考えられた症例を経験 したので報告する。今回のように大腸内視鏡直後に施行した CTC で は良好な仮想注腸像を得ることができたが大腸内視鏡終了後数時間 後に CTC を施行した症例では良好な仮想注腸像を得ることはできな かった。なお大腸内視鏡後ではなく、大腸内視鏡と同様の前処置後に CT 室で肛門より空気を注入した症例では充分な量の空気の注入がで きず、良好な CTC 画像を得ることはできなかった。したがって現時点 では大腸内視鏡施行直後に CTC を施行することが良好な仮想注腸像 を得る方法であると思われた。大腸内視鏡直後に CTC を施行するこ とで術前の仮想注腸像を得ることができ臨床的にも有用であると考え られた。 ― 83 ― 大腸 4 60 溶血性尿毒症症候群を合併した腸管出血性大腸菌 O-157感 染症の 1 例 61 刈谷豊田総合病院 内科 ○村瀬 和敏 1 、浜島 英司 1 、井本 正巳 1 、中江 康之 1 、 今田 数実 1 、仲島さより 1 、松山 恭士 1 、濱宇津吉隆 1 、 大森 寛行 1 、松井 健一 1 、小川 裕 1 、鈴木 敏行 1 社会保険中京病院 消化器内科 ○溜田 茂仁 1 、飛鳥井香紀 1 、三浦 亜紀 1 、高口 裕規 1 、 田中 義人 1 、清水 周哉 1 、松永誠治郎 1 、戸川 昭三 1 、 長谷川 泉 1 、大野 智義 1 、榊原 健治 1 1 症例は 22 歳女性、主訴は腹痛と血便、既往歴は特に無し。入院 2 日 前より下痢と軽度の腹痛があり、その後血便も認めたため平成 22 年 8 月 18 日当院受診した。腹部は全体的に圧痛を認め、腹部単純 CT では 上行結腸を中心に浮腫性の全周性壁肥厚を認めた。血液検査上、軽度 の炎症反応の上昇を認め、感染性腸炎の疑いで入院した。入院後は絶 食、補液の上 CTRX の点滴にて経過観察としたが、依然として腹痛と 血便は続いており、また第 3 病日に入院時の便から VT1 、VT2 産生 腸管出血性大腸菌 O-157 が検出された。血液検査上炎症反応のさらな る上昇を認めたこともあり、抗生剤を CTRX から FOM の内服投与に 変更した。第 4 病日、血液検査上、血小板減少、LDH の上昇、間接ビ リルビンの上昇、軽度の腎機能障害を認めたため溶血性尿毒症症候群 (HUS)と診断した。同日血漿交換を行ったが、開始 1 時間後に顔面 を中心に著明な蕁麻疹、呼吸困難が出現し、FFP によるアナフィラキ シーと考え中止した。第 5 病日からハプトグロビン、ガンマグロブリ ン、FOY、の投与を開始した。第 6 病日には炎症反応、身体所見は改 善傾向が見られ、第 8 病日には血便も消失した。HUS は腸炎改善後も しばらく遷延していたが、第 10 病日頃から改善傾向を示した。その後 経過は良好で、第 21 病日に退院となった。本症例では O-157 の明らか な感染経路は不明であった。成人発症の腸管出血性大腸菌 O-157 感染 症に HUS を合併することは比較的稀であり、貴重な症例と考え、若干 の文献的考察を踏まえて報告する。 62 O-157感染症の 3 例 1 【症例 1 】27 歳、女性。主訴は右下腹部痛と新鮮下血。既往歴は頸部 腫瘤。H22 年 6 月 29 日より右下腹部痛、下痢が出現、 6 月 30 日に新 鮮下血が出現し、同日当科受診。発熱はなく右下腹部に圧痛を認め、 WBC7400/μ l、CRP0.49mg/dl であった。同日の腹部 CE では、C ~ A ま で浮腫状壁肥厚と少量腹水を認め、感染性腸炎と診断し、入院となっ た。FOM3g/day の内服、FMOX2g/day の点滴、絶食で治療を開始し、 便培養で O-157 が検出された。速やかに症状は改善し第 12 病日に退院 となった。 【症例 2 】 30 歳、男性。主訴は心窩部痛と新鮮下血。既往歴 は特記事項なし。H22 年 7 月 1 日より心窩部痛、新鮮下血が出現し 7 月 3 日に当科受診。発熱はなく下腹部に圧痛を認め、WBC15400/μ l、 CRP4.46mg/d であった。同日の腹部 CT では、C ~ D まで浮腫状壁肥 厚と A 周囲の脂肪濃度上昇を認め感染性腸炎と診断し入院となった。 FOM3g/day の内服、FMOX2g/day の点滴、絶食で治療を開始し、便 培養では O-157 が検出された。速やかに症状は改善し第 14 病日に退院 となった。 【症例 3 】73 歳、男性。主訴は新鮮下血。既往歴は H20 年 に右腎癌で右腎摘出術。H22年 7 月20日に新鮮下血があり同日当科受 診。発熱はなく臍部に圧通を認め、Cr1.12mg/dl と軽度の腎障害を認 めたのみであった。同日の腹部 CE では、T の浮腫状壁肥厚を認め感染 性腸炎と診断し入院となった。FOM3g/day の内服、絶食で治療を開 始し、便培養で O-157 が検出された。症状の改善はみられず、第 4 病 日より血小板 26000/μ l と低下、Cr1.74mg/dl と腎障害の増悪を認めた。 ICU に入室し FFP5U を輸血した。第 5 病日には、血小板 13000/μ l と 更に低下、尿量低下も認め、溶血性尿毒症症候群(HUS)と診断した。 血漿交換(PE)を開始し、呼吸状態も悪化し挿管管理となった。 3 日 間 PE を施行したところ、腎障害、血小板数は改善、全身状態も改善し 抜管、ICU 退室となり、第 22 病日に退院となった。 【結語】O-157 感染 による出血性腸炎の 3 例を経験した。 3 例共、CT 上著明な大腸の壁 肥厚を認め、うち 1 例は O-157 による HUS を発症した。自験例では、 HUS を合併した O-157 感染症の治療法として、FFP 輸血・PE は有用と 考えられた。 63 健常高齢者にみられたサイトメガロウイルス腸炎の 1 例 岐阜大学医学部消化器病態学 ○中西 孝之 1 、荒木 寛司 1 、山田 祥子 1 、小野木章人 1 、 井深 貴士 1 、白木 亮 1 、清水 雅仁 1 、鶴見 寿 1 、 永木 正仁 1 、森脇 久隆 1 当科にて最近経験した日本海裂頭条虫症の 2 例 岐阜市民病院 消化器内科、 2 中検病理 ○大西 祥代 1 、堀部 陽平 1 、宮崎 恒起 1 、鈴木 祐介 1 、 小木曽富生 1 、川出 尚史 1 、岩田 圭介 1 、向井 強 1 、 林 秀樹 1 、杉山 昭彦 1 、西垣 洋一 1 、名倉 一夫 1 、 加藤 則廣 1 、冨田 栄一 1 、山田 鉄也 2 1 1 症例は 81 歳、男性。既往歴は COPD、発作性心房細動、脳梗塞。抗凝 固剤内服中。海外渡航歴・同性愛歴及びステロイド、免疫抑制剤の使 用歴はない。2010年 7 月21日腹痛、発熱を認め他院入院。WBC13600、 CRP4.26 と炎症反応上昇を認め、急性腎盂腎炎の診断にて CAZ 投与が 行われ。症状は改善した。 8 月 7 日頃より水様性下痢が出現し、8 月 11 日腹痛を伴わない鮮血便を認め、当院救急搬送となった。37.3 ℃の 微熱を認めたが、腹部に圧痛なく、腸雑音は異常なしであった。同日、 緊急下部消化管内視鏡検査を施行し、下行結腸から S 状結腸巨大 10~ 40mm 大の多発潰瘍を認めた。周囲粘膜は浮腫状で、血管透見は消失 していた。潰瘍は白苔を伴い、類円形、不整、帯状であり、一部深掘れ 様所見も認めた。輪状様、縦走様に配列している部位も認めた。また、 直腸には偽膜を認めた。入院時検査では WBC 8220、CRP 1.61、総蛋 白 5.0g/dL、Alb 2.5g/dL と軽度炎症反応上昇と低栄養を認めた。QTFTB 陽性、PCT 陽性であった。結核菌培養は陰性であった。潰瘍底か らの生検病理検査にて間質細胞に核内封入体を認め、抗 CMV 抗体に よる免疫染色陽性であり CMV 腸炎と診断した。CMV antigenemia は 2 回測定し初回陰性、 2 回目陽性であった。Ganciclovir( 5 mg/Kg/ 回)を 14 日間、点滴投与した。また CD トキシン陽性で便培養で MRSA が検出されたため、VCM0.5g/ 日の内服を行った。Ganciclovir 投与後、 CMV antigenemia は陰性化し、内視鏡検査にて一部の潰瘍の瘢痕化を 認め、他の潰瘍は浅くなり、縮小傾向が認められた。また、背景粘膜 の浮腫、びらんも改善した。特に免疫抑制療法などの背景のない健常 高齢者に発症した CMV 腸炎を経験したので報告する。 (症例 1 )74 歳。女性。腹痛と便秘を主訴に H21 年 12 月 23 日に近医を 受診。H22 年 1 月 4 日に大腸内視鏡検査(CF)で上行結腸の全周性 の 2 型大腸癌と診断。同時にバウヒン弁から線状の虫体の移動観察さ れたため当院へ精査加療のため紹介された。同年 1 月18日にガストロ グラフィン(ガストロ)の経口投与による消化管造影検査(消造)を 施行。空腸内に移動する 1 匹の虫体を確認し、生体のまま便中に排泄 した。頭部を含んだ日本海裂頭条虫(日裂虫)と診断した。その後大 腸癌の手術を施行した。 (症例 2 )16 歳男性。H22 年 4 月 23 日に排便 時に紐のようなものを排泄したとの主訴で来院。当日の S 状結腸まで の CF による観察では虫体を確認できなかった。 4 月 28 日のガストロ による消造を行ったが頭部を有さない虫体が排泄された。 2 週間後の 便中虫体検査で陽性であったため 6 月 9 日に 2 回目のガストロによ る消造を施行したが虫体は排泄されなかった。次いでブラジカンテル とマグコロールの内服により便中に頭部を有した虫体が排泄され、日 裂虫と診断した。いずれの症例も発症前に生のサケを食していた。そ の後の経過は良好で外来での虫卵虫体検査は陰性である。 ― 84 ― 大腸 5 64 65 右側結腸の虚血性腸炎の 3 例 名古屋掖済会病院 消化器内科 ○北洞 洋樹 1 、西川 貴広 1 、山本眞理子 1 、佐橋 学 1 、 泉 千明 1 、安田真理子 1 、岩田 浩史 1 、大橋 暁 1 、 神部 隆吉 1 安城更生病院 内科 ○市川 雄平 1 、須原 寛樹 1 、富田 英臣 1 、木原 俊裕 1 、 岡田 昭久 1 、馬渕 龍彦 1 、竹内真実子 1 、細井 努 1 、 山田 雅彦 1 【はじめに】虚血性腸炎は S 状結腸から下行結腸が好発部位であり、右 側結腸に見られることは稀である。今回右側結腸に限局した虚血性腸 炎の 3 例を経験したので報告する。 【症例】( 1 )22 歳女性、既往歴に特記すべきなし。内服なし。腹痛・ 血便にて受診。大腸内視鏡検査にて上行結腸に限局して粘膜浮腫・色 調変化およびびらんを認めた。生検にて虚血性腸炎と診断した。改善 後の腹部 CT では異常所見を認めず、虚血をきたす基礎疾患も認めら れなかったことから、原因の特定はできなかった。 ( 2 )62 歳男性、高血圧・高脂血症にて治療中。腹痛・血便にて受診し た。腹部 CT にて盲腸から横行結腸中部まで著明な腸管の浮腫を認め た。緊急で大腸内視鏡検査を施行、盲腸から横行結腸にかけて粘膜浮 腫・びらんを認めた。回腸末端は異常を認めなかった。生検にて虚血 性腸炎と診断した。絶食・輸液にて症状の改善が得られた。 ( 3 )69 歳女性、高血圧治療中。平成 21 年膀胱癌手術、当院泌尿器科 で化学療法(GEM+CDDP)を施行している。腹痛・血便にて当科受 診。腹部 CT にて上行結腸の著名な浮腫を認めた。大腸内視鏡検査に て上行結腸に限局して著明な浮腫・びらんを認めた。生検にて虚血性 腸炎と診断した。絶食・輸液にて症状の改善が得られた。 【考察】右側結腸の虚血性腸炎は重症化する事が多いとされる。症例 ( 1 )は来院時に CT が撮影されていないが、症例( 2 ) ・ ( 3 )では CT にて腸管の著明な浮腫を認めるのが特徴的であった。症例( 1 )は若 年で基礎疾患、内服歴もなく発症しており、右側結腸の虚血性腸炎は 左側結腸の虚血性腸炎と異なる要因が関与している可能性が考えられ る。今後の症例の集積が待たれる。 66 緊急手術を要した好酸球増加症に伴う虚血性腸炎の一例 1 1 【はじめに】好酸球増加症(Hypereosinophilic syndrome、以下 HES) は血中や臓器組織に好酸球が増加することにより多様な臓器障害を呈 する一群の疾患を指す。我々は HES に伴う虚血性腸炎から消化管穿孔 を来した症例を経験したので報告する。 【症例】症例は 58 歳男性。腹 痛、下痢、血便を主訴に近医受診。感染性腸炎の診断で抗生剤処方され るも改善せず当院を紹介受診。腹部 CT 検査にて S 状結腸と横行結腸 を中心とした腸管壁の浮腫・肥厚を認め、急性腸炎の疑いで緊急入院 となった。翌日の下部消化管内視鏡検査にて S 状結腸と横行結腸に全 周性の粘膜浮腫、出血及び縦走潰瘍を認めた。血液検査では WBC35.8 × 103/μ L、好酸球 52.9 %と好酸球の著明な増加を認め、好酸球増加症 に伴う血栓形成、虚血性腸炎と診断し、プレドニゾロン 60mg/day、ヘ パリン20000単位 /day で治療を開始した。好酸球は順調に低下したが、 血栓は増大し、右結腸静脈、左総腸骨静脈、門脈に及んだ。治療開始 後11日目腹痛が増強したため CT 検査を行った。free air を認め消化管 穿孔と診断。開腹すると S 状結腸壁が壊死し穿孔しており、Hartmann 手術が施行された。手術翌日から右上肢不全麻痺が出現、頭部 MRI に て左中大脳動脈領域の脳梗塞と診断された。ヘパリン起因性血小板減 少症と診断し、アルガトロバンに変更した。その後血栓は縮小傾向と なり、現在プレドニゾロンを減量し HES のフォロー中である。 【結論】 本症例は特発性 HES の診断基準を満たす十分な観察期間をおいてい ないが、二次性に好酸球増加をきたす疾患の存在の可能性は低く特発 性と診断した。特発性 HES では血栓塞栓症の合併率が50%を超えると されており、血便・腹痛などを認めた場合には虚血性腸炎合併の可能 性を念頭に置き診療に臨む必要がある。 67 静脈硬化性大腸炎の一例 国立病院機構三重中央医療センター 消化器科 ○棚橋 愛 1 、子日 克宣 1 、川村 智子 1 、加藤 裕也 1 、 竹内 圭介 1 、渡邉 典子 1 、長谷川浩司 1 ランソプラゾール投与中に発症した collagenous colitis の 2 例 市立四日市病院 ○前川 直志 1 、小林 真 1 、竹口 英伸 1 、桑原 好造 1 、 水谷 哲也 1 、山田晋太朗 1 、矢野 元義 1 1 1 静脈硬化性大腸炎は静脈硬化症を伴う希な虚血性腸炎であり、動脈硬 化に起因する通常の虚血性腸炎とは異なった病像を呈する。今回われ われは静脈硬化性大腸炎を経験したので報告する。症例は 58 歳女性。 検診にて AMY 上昇を指摘され、当科受診。当院での血液検査では AMY 正常であり、CT 検査では膵病変は認めなかったが、上行結腸壁 肥厚、周囲血管の点状石灰化を認めた。静脈硬化性大腸炎を疑い精査 を行ったところ、注腸検査では異常は認めなかったが、下部消化管内 視鏡検査では上行結腸に粘膜の変色、小潰瘍を認めた。生検にて結腸 粘膜下、及び粘膜固有層間質中に強い collagen deposition を認めた。 静脈硬化性大腸炎と診断したが、症状がないため、経過観察行ってい る。今回、比較的希な静脈硬化性大腸炎の一例を経験したので文献的 考察を加えて報告する。 [症例 1 ] 71 歳男性、ランソプラゾール内服中、 1 か月以上持続する水 様性下痢と体重減少を主訴に近医より紹介され受診した。大腸内視鏡 検査では、回腸末端の粘膜は全体に萎縮様で小潰瘍を 1 カ所認め、大 腸粘膜は血管透過性がやや低下していた。生検の病理組織で、全体的 に上皮下に好酸性の膠様物質の沈着を認め、collagenous colitis と診断 された。ランソプラゾールの服用中止によって下痢は消失した。 1 ヵ 月半後の大腸内視鏡検査では、回腸末端に軽度の粘膜肥厚が残るもの の大腸粘膜は改善しており、生検の病理組織では好酸性の膠様物質の 沈着が減弱していた。[症例 2 ]77 歳女性、脳梗塞で当院神経内科に 入院中。 6 か月前からの水様性下痢持続し止痢薬投与でも改善しな いため当科へ紹介された。ランソプラゾール内服中であったため中止 し、大腸内視鏡検査を行った。大腸内視鏡検査では、回腸末端と S 状 結腸から直腸にかけて粘膜肥厚を認めた。上行結腸から直腸の生検病 理組織において、表層に近い固有層間質には好酸性物質の沈着が軽度 みられ、中等度の炎症性細胞浸潤が認められ、collagenous colitis と診 断した。ランソプラゾール服用中止後、下痢は改善した。 [まとめ]本 例は、ランソプラゾールが原因と考えられる collagenous colitis と考え られ、薬剤中止により症状は速やかに改善した。collagenous colitis を 疑った場合は、薬剤服用歴を含む病歴聴取が重要と考えられた。 ― 85 ― 68 膀胱癌に対する動注化学療法後に直腸潰瘍を来たした 1 例 岐阜県厚生連西美濃厚生病院 内科 ○林 基志 1 、高田 淳 1 、浅野 貴彦 1 、岩下 雅秀 1 、 田上 真 1 、畠山 啓朗 1 、林 隆夫 1 、前田 晃男 1 、 西脇 伸二 1 、齋藤公志郎 1 1 【症例】59 歳、男性。主訴は血便。既往歴は糖尿病、高血圧症。平成 14 年より糖尿病、高血圧症にて当院外来通院中であった。平成 20 年 10 月、肉眼的血尿が出現し泌尿器科にて経過観察となっていた。平成 21 年 6 月、肉眼的血尿が増悪し膀胱鏡施行したところ膀胱右側壁に直径 5 mm 大の腫瘤を認めたため TUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)施行。 術後病理組織検査にて urothelial carcinoma(尿路上皮癌)と診断され た。病期は T1N0M0であり治癒と診断され経過観察となった。平成22 年 3 月、右尿管口近傍に urothelial carcinoma 再発し平滑筋組織への 浸潤を認めたため追加治療として動注化学療法(右内腸骨動脈よりメ トトレキサート40mg +ファルモルビシン40mg +シスプラチン100mg 投与)施行した。治療 1 ヵ月後より血便を認めるようになり 7 月 20 日 CF 施行。直腸 Ra、Rb(肛門より約 5 cm)後壁側に 1/3 周性の潰瘍を 認めた。潰瘍辺縁は境界明瞭であり隆起はなだらかで口側のみ炎症性 に肥厚所見を認めた。また潰瘍から垂れ下がるように壊死様物質の付 着も認めた。潰瘍辺縁より 3 ヶ所生検し病理組織検査では rectal ulcer と診断された。その後血便は改善し 8 月 24 日の CF 再検査にて病変部 口側に深い陥凹認めるも潰瘍病変は新生粘膜に覆われ改善傾向であっ た。【考察】今回膀胱癌に対する内腸骨動脈を介した動注化学療法が原 因と思われる直腸潰瘍の 1 例を経験したので文献的考察を加え報告す る。 ― 86 ― 小腸 1 69 70 カプセル内視鏡にて発見された小腸 GIST の 1 例 刈谷豊田総合病院 内科、 刈谷豊田総合病院 病理科 ○濱宇津吉隆 1 、松山 恭士 1 、浜島 英司 1 、井本 正巳 1 、 中江 康之 1 、今田 数実 1 、仲島さより 1 、大森 寛行 1 、 松井 健一 1 、村瀬 和敏 1 、小川 裕 1 、鈴木 敏行 1 、 伊藤 誠 2 1 2 症候群の一例 公立学校組合 東海中央病院 消化器内科・消化器内視鏡センター ○大塚 裕之 1 、小林 郁生 1 、清野 隆文 1 、井上 匡央 1 、 森島 大雅 1 、川端 邦裕 1 、石川 英樹 1 1 【症例】85 歳、女性。主訴は暗赤色下血。既往歴は 2009 年 2 月に婦人科 で骨盤内腫瘍指摘をされたが、腫瘍マーカーの上昇はなく、大きさに 変化がないことから経過観察されていた。現病歴は2009年 6 月18日に 暗赤色下血を主訴に当科を受診。血液検査では、Hb:6.8g/dl と貧血を認 め、BUN:25.5mg/dl と上昇を認めた。腹部 CT では骨盤内腫瘍を認めた が、以前と変化を認めなかった。緊急上部消化管内視鏡検査では出血 源を認めなかった。また小腸透視は異常所見を認めず、下部消化管内 視鏡検査では、盲腸から下行結腸にかけて毛細血管拡張像を散見し、 出血源と判断した。保存的加療で改善を認め退院となった。以後外来 で定期経過観察中であったが、2010年 4 月27日に再び暗赤色下血を認 め当科を受診。血液検査では Hb:8.8g/dl と貧血を認め、BUN:25.3mg/ dl と上昇を認めた。小腸を含めた領域からの出血の有無を確認するた めに、入院翌日に緊急カプセル内視鏡を施行した。カプセル内視鏡で は上部空腸に立ち上がりがなだらかで、頂部に潰瘍を伴う腫瘍を認 め、活動性出血を認めた。カプセル内視鏡の結果から出血源は上部空 腸が疑われたため、まずは経口的小腸 DBE を施行したが、腫瘍までは 到達できず最深部に点墨を行い終了した。後日経肛門的小腸 DBE を 施行したが腫瘍まで到達できなかった。出血源の同定が出来ていない が、腹部 CT で以前から指摘されている骨盤内腫瘤は小腸と接してお り、同部位を出血源と考えた。2010 年 6 月 19 日に当院外科で腹腔鏡補 助下小腸切除術を施行した。手術所見は 6 cm 大の小腸腫瘍を認めた。 その近傍には同様の腫瘍を複数個認めた。小腸を切離し、腫瘍を摘出 した。腫瘍の位置はトライツ靱帯から 270cm、回腸末端から 260cm で あった。点墨からは40cm 肛門側の部位であった。摘出腫瘍は小腸粘膜 面に露出しており、露出血管も認めた。術後の経過は順調で術後第 11 病日に退院となった。免疫染色では CD34 と c-kit が陽性で、α SMA と S-100 が陰性であり、GIST と診断した。【結語】小腸出血は出血源の同 定が困難であるが、カプセル内視鏡により出血源を同定し得た貴重な 症例を経験したので報告する。 71 カプセル内視鏡検査が診断の契機となった Peutz-Jeghers カプセル内視鏡(VCE) 、ダブルバルーン内視鏡(DBE)を用 いた非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)起因性小腸病変の検討 【症例】43 歳、女性。【主訴】息切れ。【現病歴】2009 年 5 月、階段の 昇降で息切れと立ちくらみがあるため、当院内科を受診。血液検査に て RBC3.58 × 10 6 /mm3 、Hb8.4g/dl、MCV73.9fl、フェリチン 3.7ng/ml、 血清鉄 19μ g/dl であり、鉄欠乏性貧血と診断された。月経不順あるた め当院婦人科を受診し子宮内膜ポリープを指摘されるも貧血の原因と はならなかった。便潜血陽性もみられたため、当院消化器内科を受診 し、 6 月に上部消化管内視鏡検査と下部消化管内視鏡検査を施行す るも異常を認めなかった。そのためカプセル内視鏡検査を行ったとこ ろ、中部空腸に SMT 様隆起性病変を認め、出血源の可能性が高いと判 断。 7 月に名古屋大学付属病院を紹介受診し、ダブルバルーン小腸内 視鏡検査を行い、内視鏡的切除を施行した。最終病理診断にて PeutzJeghers polyp と診断された。その後の検査では Hb12.9 g/dl と正常化 した。術後 1 年後の2010年 7 月に施行した上部消化管内視鏡検査と下 部消化管内視鏡検査ともに異常なく、 8 月施行のカプセル内視鏡検査 では red spot がみられたのみでポリープは認められなかった。【考察】 Peutz-Jeghers 症候群によるポリープは食道を除く全消化管に多発し、 小腸にもっとも多い。しかし、小腸ポリープは上部消化管内視鏡検査 と下部消化管内視鏡検査で発見することは不可能であるために診断す ることは困難である。カプセル内視鏡が貧血の原因を指摘可能であっ ただけでなく、侵襲性が低いため経過観察にも有用であった。 72 1 名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学、 2 名古屋大学医 学部附属病院 光学医療診療部 ○石原 誠 1 、大宮 直木 1 、中村 正直 1 、竹中 宏之 1 、 森島 賢治 1 、小原 圭 1 、水谷 太郎 1 、山村 健史 1 、 宮原 良二 2 、川嶋 啓揮 1 、伊藤 彰浩 1 、廣岡 芳樹 2 、 後藤 秀実 1 肝膿瘍を契機に発見され、内視鏡的粘膜切除術を行った小 腸脂肪腫の一例 1 三重大学 医学部 消化器肝臓内科、 2 三重大学 医学部 光 学医療診療部、 3 三重大学 健康保健管理センター ○杉本 龍亮 1 、宮地 洋英 1 、草川 聡子 1 、田野 俊介 1 、 田中淳一郎 1 、別府 徹也 1 、諸岡 留美 1 、田中 秀明 1 、 葛原 正樹 2 、山本 憲彦 1 、藤田 尚己 1 、堀木 紀行 2 、 小林 由直 3 、岩佐 元雄 1 、白木 克哉 1 、竹井 謙之 1 【目的】近年、VCE、DBE の出現により NSAID は上部消化管のみなら ず、小腸にも高頻度に障害を来すことが判明した。今回、VCE、DBE 施行症例の中で NSAID 内服例を抽出し、臨床情報や内視鏡像につい て検討を行う。【対象と方法】2003 年 6 月~2010 年 6 月に当院または 関連病院で VCE または DBE を施行された NSAID 内服症例 243 例(低 用量アスピリン(LDA)160 例、従来型 NSAID 72 例、併用群 11 例; 平均年齢 69 歳) を対象とし、検査契機、NSAID の種類、内視鏡所見を 検討した。【結果】VCE 検査契機は OGIB 160 例、機能性疾患 5 例、腫 瘍 3 例、その他 2 例であった。従来型 NSAID の種類(重複あり)は ロキソプロフェン 25 例、ジクロフェナク 6 例、メロキシカム 5 例、そ の他 13 例。VCE 所見は活動性出血 26 例(15 %)、mucosal break(潰 瘍、びらん)69 例(41 %) 、所見なし 52 例(31 %)であった。DBE 所 見は 101 例中、所見なし 34 例、潰瘍 28 例、膜様狭窄 6 例、出血 15 例 (angiodysplasia 11 例、Dieulafoy 潰瘍 2 例、AVM 2 例)、腫瘍性病変 16 例認めた。DBE で最終的に NSAID 起因性小腸病変と診断したのは 20 例で、病理像が得られた 15 例中 2 例(13.3%)で NSAIDs 起因性病 変に特徴的とされるアポトーシス小体・細胞崩壊像が認めた。膜様狭 窄例は 6 例に認め、バルーン拡張を施行した。NSAID による小腸粘膜 障害として膜様狭窄を来した 6 例のうち 5 例にメロキシカムの内服歴 を認めた。【結論】メロキシカムは他の NSAID に比べ膜様狭窄の頻度 が高かった。VCE は低侵襲な全小腸観察、DBE は生検を含めた確定診 断、出血に対する止血術や膜様狭窄に対するバルーン拡張など治療に 有効であった。 症例は 60 歳女性、高血圧・脂質異常症にて近医通院中であった。平成 22 年 4 月下旬より感冒様症状が出現、 5 月 12 日より 39 ℃の発熱を認 めたため近医受診、内服薬を処方された。同時に食欲不振、黒色便が 認められていたことより、5 月 18 日に腹部単純 CT が施行され、肝 S6 にφ 6cm 大の腫瘤性病変を指摘された。 5 月 19 日には上部消化管内視 鏡検査を施行されるも、黒色便の原因となる病変は認めなかった。肝 腫瘤性病変、黒色便精査目的にて 5 月 20 日に当科紹介受診となった。 5 月 21 日に肝ダイナミック CT を施行したところ、前医にて指摘され た部位に φ 6cm 大のリング状に濃染される多房性腫瘤を認め、肝膿瘍 と診断し抗生剤投与を開始した。この際の CT にて十二指腸上行脚~ 空腸移行部に 5 cm を超える造影効果のない、内部均一な腫瘍性病変 が指摘された。黒色便の原因となっている可能性があり、6 月 11 日に 小腸内視鏡を施行した。内視鏡所見では、十二指腸水平脚に長径 5 cm 短径 2 cm の粘膜下腫瘤を認め、その表面は黄色調であり脂肪腫が疑わ れた。腫瘤頂部は一部自壊していたが脂肪の露出は認めなかった。観 察時には出血は認めなかったが、腫瘤頂部に潰瘍部が存在し、黒色便 の原因であったと考えられた。生検が施行され好中球浸潤を伴う脂肪 組織、細菌の付着した壊死組織が採取された。 6 月 16 日に上部超音波 内視鏡検査を施行。腫瘤は第 3 層で高エコーを呈し、脂肪腫と矛盾し ない所見であった。出血のリスク、今後腸重積の原因になる可能性等 を考慮し、6 月 21 日に小腸内視鏡下に内視鏡的粘膜切除術が施行され た。切除標本では、粘膜下層に脂肪細胞の増生からなる線維性被膜を 伴った充実性腫瘤を認め、脂肪腫と診断された。腫瘍の突出部の先端 付近には 3 mm 大の陥凹が見られ、脂肪腫内にも炎症の波及が認めら れた。これらの所見から、脂肪腫における炎症・感染が肝膿瘍の原因 になったのではないかと推測された。術後経過も良好であり、肝膿瘍 も縮小を認め 6 月 29 日に退院となった。肝膿瘍を契機に発見され、内 視鏡的粘膜切除を行った小腸脂肪腫の一例を経験したので文献的考察 を加えて報告する。 ― 87 ― 小腸 2 73 74 急激な経過をたどった小腸 T 細胞悪性リンパ腫の一例 聖隷浜松病院 消化器内科 ○熊岡 浩子 1 、小林 陽介 1 、岡田 勝治 1 、市川 仁美 1 、 栗山 章子 1 、佐原 秀 1 、木全 政晴 1 、芳澤 社 1 、 舘野 誠 1 、室久 剛 1 、清水恵理奈 1 、細田 佳佐 1 、 長澤 正通 1 、佐藤 嘉彦 1 岐阜県立多治見病院 ○西江 裕忠 1 、夏目まこと 1 、山下 宏章 1 、麥島 昭彦 1 、 西 祐二 1 、吉村 至広 1 、安藤 健二 1 、上野浩一郎 1 、 佐野 仁 1 症例は 68 歳女性、2009 年 10 月 24 日ころ呼吸苦にて近医受診、投薬。 同年 11 月 2 日同院以来で CT 撮影し気管支壁の肥厚を指摘され、同じ 頃の採血で肝胆道系酵素の上昇も認められた。食欲低下が出現し、呼 吸苦の改善がみられなかったため近医より、前医病院に同年 11 月 20 日 紹介され入院となった。前医入院時腹水、脾腫を認め、肝胆道系酵素、 T.Bil. の上昇、血小板減少もみられた。保存的に加療されたが改善な く、同年 11 月 27 日当科に紹介入院となった。入院時、顕性の黄疸、腹 水による腹満、呼吸困難認められ、全身状態不良であったが意識は比 較的清明であった。胸部 CT にてスリガラス陰影を認め、肺水腫、カリ ニ肺炎、ウイルス性肺炎が疑われ、呼吸困難に対し酸素投与を行った。 また縦隔、肺門にリンパ節腫大も認めた。腹部 CT では腹水、脾腫が みられ、その他に多発するリンパ節の腫張、肝内多発腫瘤影、下腹部 左側に小腸に付着する腫瘤影、右骨盤内には奇形腫が認められた。採 血では著名な黄疸、肝胆道系酵素の上昇、血小板の低下、炎症反応が 認められた。全身状態は極めて不良であり、何らかの悪性病変の全身 播種・浸潤・転移と診断した。転院後呼吸困難の悪化が著明であった ため、推定される病態を御家族に説明して、呼吸困難感の緩和のため に転院二日目に麻薬を導入し、転院後三日目に死亡された。急激な経 過であり病理解剖を行ったところ、小腸 T 細胞悪性リンパ腫と各臓器 へのリンパ腫細胞の浸潤と診断された。急激な転機をとった小腸 T 細 胞リンパ腫であり、比較的稀な症例と考えられるため若干の考察を含 め報告する。 75 旋尾線虫幼虫 typeX の関与が示唆された小腸イレウスの一例 1 1 症例は 38 歳男性。ホタルイカを含む刺身を生食数時間後より腹部 膨満感、腹痛、嘔気を自覚。症状の改善がないため翌日当院救急外 来を受診。来院時身体所見では腹部はやや膨隆し腸蠕動は亢進、腹 部全体に圧痛と軽度反跳痛を認めた。血液検査では WBC13500/μ L、 CRP3.28mg/dl と炎症反応の上昇を認めた。腹部単純 X 線写真では小 腸鏡面像を認め、腹部造影 CT 検査では骨盤内小腸の壁肥厚およびそ の口側腸管は拡張し液体が貯留していた。骨盤内には腹水貯留も認め た。以上より軽度腹膜炎を伴う小腸イレウスと診断、入院のうえイレ ウス管による腸管内圧の減圧をおこなった。第 2 病日には単純 X 線に て鏡面像は消失し、腹痛や嘔気も改善した。イレウス管より施行した 小腸造影検査では、10 数 cm にわたり小腸腸管の全周性狭窄を認めた が、肛門側への造影剤通過は良好であった。イレウス管抜去、流動食開 始後も症状の増悪なく第 5 病日退院となった。退院後外来で経過観察 したが症状の再燃は認めなかった。本症例ではイレウス発症前日に刺 身やホタルイカ生食の食歴があり、当初よりアニサキスなどの感染症 が疑われたため入院時と退院後外来のペア血清で抗アニサキス抗体、 抗旋尾線虫抗体検査を行った。抗アニサキス抗体は既感染と考えられ たが、抗旋尾線虫抗体は入院時で軽度高値、 2 週間後のペア血清では 有意に上昇しており旋尾線虫幼虫 typeX 感染が強く疑われた。旋尾線 虫幼虫 typeX はホタルイカの 2 ~ 7 % に寄生が認められており、病型 により皮膚爬行症を呈する病型と腸閉塞など消化管症状を呈する病型 がある。旋尾線虫による急性腹症は腹水や小腸壁の全周性肥厚を伴う 腸閉塞様症状が特徴的とされ、自験例でも同様の所見を認めた。旋尾 線虫幼虫 typeX の関与が示唆された小腸イレウスを経験したので若干 の文献的考察を加え報告する。 76 放射線性腸炎により小腸穿孔を起こした 1 例 一宮市立市民病院 ○松浦倫三郎 1 、中條 千幸 1 、山中 敏弘 1 、水谷 恵至 1 、 金森 信一 1 、井口 洋一 1 、石黒 祐規 1 、伊藤 隼 1 、 山口 純治 1 、金倉 阿優 1 抗ロイコトリエン拮抗薬が奏功した好酸球性胃腸症の 1 例 名古屋共立病院、 2 名古屋大学医学部附属病院 ○水谷 佳貴 1 、竹田 欽一 1 、宇都宮節夫 1 、多賀 雅浩 1 、 池田 誉 1 、広瀬 健 1 、後藤 秀実 2 1 1 【患者】症例は 65 歳、女性。 【現病歴】慢性関節リウマチ(RA)にて 近医通院中であった。2008 年 7 月、不正性器出血のため当院婦人科受 診、子宮頸癌 T3BN0M0 と診断された。2008 年 9 月から 2009 年 3 月 に、他院にて放射線治療を施行した。2009 年 5 月下旬より黒色便を認 めて当院消化器科受診。上部消化管内視鏡、注腸検査施行も明らかな 出血源を認めなかった。カプセル内視鏡にて小腸に発赤、出血を伴う 潰瘍病変が疑われ、7 月 22 日、他院にてダブルバルーン内視鏡(DBE) を施行した。DBE にて回腸に深い潰瘍を、S 状結腸、直腸に浮腫状狭 窄、縦走潰瘍を認め、病理所見では線維芽細胞増生を伴う肉芽組織形 成、腺管の萎縮が見られ、放射線性腸炎と診断された。この時点では、 小腸潰瘍からの出血は認めず、直腸~ S 状結腸の潰瘍が出血源と考え られたため、リン酸プレドニゾロンナトリウム液の注腸を行った所、 出血は治まり、 8 月 6 日に退院となった。 8 月 10 日に自宅にて転倒 し、腰椎圧迫骨折のため当院整形外科に入院した。入院時より下腹部 痛があり、12 日痛みが増強、腹部 CT にて free air と小腸および直腸~ S 状結腸の壁肥厚を伴う炎症を認め、消化管穿孔にて緊急手術となっ た。開腹所見は、炎症による癒着で腸管が一塊となっており、膿性の 腹水を大量に認めた。空腸に直径 5 mm 程度の穿孔を認め、空腸切除 術を施行した。術後は長期の RA に基づく間質性肺炎、腎機能障害な どから徐々に多臓器不全となり、 8 月 25 日永眠された。 【考察】放射 線性腸炎は発症時期により早期障害と晩期障害に分類される。晩期障 害は進行性であり重篤化しやすい。本症例では、放射線照射終了後か ら発症まで数ヶ月経過しており、症状も重篤であるため晩期障害と考 えられた。放射線性腸炎による晩期障害の中で頻度が多いのは消化管 出血であり、穿孔を来たすことは比較的まれである。今回、放射線性 腸炎による小腸穿孔の 1 例を経験したため報告する。 症例:60 歳代男性 現病歴:H22 年 7 月初旬より心窩部鈍痛、咽頭違 和感が出現。その後下腹部痛と下痢も伴い当科を受診。上部消化管内 視鏡にて胃潰瘍を認め PPI の内服加療としたが、症状の増悪傾向を認 めていた。WBC 13900/μ l(好酸球 32.1 %)と腹部 CT での回腸から上 行結腸の腫脹、腹水を認めたため、精査目的に入院となった。経過: 発症以前の服薬に変更はなく、PPI を中止しても症状の改善は見られ なかった。第 3 病日の下部消化管内視鏡では回腸末端から上行結腸に 粘膜浮腫像が見られ、病理組織上は好酸球浸潤を伴う colitis の診断で あった。腹水中にも好酸球優位の細胞数増多を認めた。第 8 病日には WBC 23400/μ l(好中球 21 % 好酸球 71 %)まで増加を認めた。Tally らの診断基準を用い好酸球性胃腸症と診断。抗ヒスタミン剤投与では 改善は見られなかったが、抗ロイコトリエン拮抗薬投与(第 9 病日よ り)にて病状の改善傾向を認めた。第 19 病日に WBC 5700/μ l(好酸球 38.4 %)と改善し退院。その後も再燃は認めていない。考察:好酸球 性胃腸症にはステロイド剤が著効するとされているが、本症例では抗 ロイコトリエン拮抗薬が著効した。アレルギー機序の抑制が得られれ ば、ステロイド剤のみでなく、抗ロイコトリエン拮抗薬等でも十分治 療効果が得られることが示唆された。 ― 88 ― IBD 77 腸管ベーチェット病に対しインフリキシマブが奏功した一例 浜松医科大学 第一内科、 臨床研究管理センター、 分子診断学 ○高野 亮佑 1 、杉本 健 1 、魚谷 貴洋 1 、寺井 智宏 1 、 山出美穂子 1 、西野 眞史 1 、小平 知世 1 、濱屋 寧 1 、 杉本 光繁 2 、大澤 恵 1 、金岡 繁 3 、古田 隆久 2 、 伊熊 睦博 1 1 2 インフリキシマブによる薬剤性ループスを呈したクローン 病の 1 例 大同病院 消化器科 ○小川 和昭 1 、藤原 晃 1 、榊原 聡介 1 、野々垣浩二 1 、 印牧 直人 1 1 症例は 25 歳、男性。2007 年頃より慢性的な腹部不快感、腹痛を自覚。 2009 年 6 月に右下腹部痛の増強を認め、近医受診。腹部 CT にて回盲 部付近の腸管壁肥厚を指摘され、大腸内視鏡検査を施行し、回腸末端 に類円形でやや深掘れの潰瘍性病変を認めた。生検では、壊死性肉芽 組織のみで腫瘍性変化は認めず炎症性腸疾患が疑われ、既往に外陰部 の潰瘍、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍を認めたことから、腸管ベー チェット病が最も考えられた。メサラジン(2250mg/day)内服が開始 されたが症状改善に乏しく、間欠的な強い下腹部痛、体重減少も出現 するようになり、同年 12 月に当科紹介受診。腹部 CT では回腸末端に 限局する腸管壁肥厚及び、回盲部から上行結腸にかけての腸管周囲に 軽度の脂肪織濃度の上昇を認めた。同月に再度大腸内視鏡を施行した ところ、依然としてバウヒン弁から回腸末端に連続する活動性の潰瘍 性病変が認められた。治療としてメサラジンの増量(4000mg/day)と PSL 内服(20mg/day)を選択したが、間欠的な強い下腹部痛、体重減 少の改善は認められなかった。2010 年 3 月の大腸内視鏡では、病変の 改善が認められず、ステロイド不応性と判断し、ステロイドは減量中 止とし、インフリキシマブ(300mg/body)投与を開始した。投与 3 日後には、腹痛は速やかに改善し、投与後 17 日の大腸内視鏡検査では 潰瘍性病変の縮小傾向と炎症所見の改善を見た。その後、 7 ヶ月の経 過で、8 回の投与を行い、腹痛の改善を認め現在まで経過良好である。 腸管ベーチェット病に対する治療指針は、現状では十分には確立され ていない。ステロイド不応例も多く、治療選択には難渋する。近年、 インフリキシマブの有効性が示唆されており、治療の一選択肢となり うると考えられた。 79 78 3 症例は 48 歳、男性。2008 年 12 月より微熱が持続し、複数の医療機関 を受診したが原因を特定できず、解熱剤や抗生剤の内服で経過観察さ れていた。2009 年 8 月、不明熱にて当院精査入院。入院後、下痢、下 腹部痛などの消化器症状を認め、大腸内視鏡検査、注腸検査を施行し たところ、区域性に縦走潰瘍、敷石像、狭窄病変を認め大腸型クロー ン病と診断した。インフリキシマブにより緩解導入し、以後 8 週毎の scheduled 投与により緩解維持の状態であった。2010年 5 月より微熱、 多発関節痛、体幹部を中心とした環状紅斑の出現を認めた。血液検査 所見では、好酸球の著明な上昇、炎症反応の上昇、抗 DNA 抗体陽性を 認めた。消化器症状の悪化は認めず、大腸内視鏡検査では、粘膜治癒 は維持されていた。インフリキシマブ投与に伴う薬剤性ループスを疑 い、インフリキシマブ投与を中止し、プレドニゾロン内服開始したと ころ、すみやかに症状の改善を認めた。今回我々は、インフリキシマ ブによる薬剤性ループスを呈したクローン病の一例を経験したので報 告する。 80 高齢女性に発症したクローン病の 1 例 羽島市民病院 ○長谷川恒輔 1 、上村 真也 1 、坂野 喜史 1 、若原 利達 1 、 福島 秀樹 1 、酒井 勉 1 、天野 和雄 1 クローン病の十二指腸病変に対する手術症例の臨床検討 名古屋大学大学院 消化器外科学 ○伊藤 武 1 、中山 吾郎 1 、小寺 泰弘 1 、藤原 道隆 1 、 小池 聖彦 1 、大橋 紀文 1 、中尾 昭公 1 1 1 【症例】55 歳 女性 【主訴】腹痛、腹部膨満感 【現病歴】2010 年 3 月頃より空腹時の臍部鈍痛と腹部膨満感を自覚していた。症状持続す るため 4 月下旬に当科受診した。受診時右下腹部に圧痛を認め、同部 位に腫瘤を触知した。また、腹部 CT にて上行結腸および回腸末端に 壁肥厚を認め、血液検査で WBC11000/μ l、CRP6.28mg/dl と炎症所見 も認めたため、入院にて精査となった。【臨床経過】入院翌日の大腸内 視鏡検査にて上行結腸、回腸末端に狭窄を認め、肝弯曲、脾弯曲、S 状結腸に不整な潰瘍性病変を多数認めた。病変部生検では乾酪性壊死 像や肉芽腫は認めず、便培養では一般細菌および結核菌は陰性であっ た。入院後、絶食、静脈栄養にて経過をみたところ、腹痛は改善した ものの血液検査では軽度の炎症所見は残存していた。さらに入院 1 週間後の大腸内視鏡検査でも炎症所見の改善を認めなかったため、ク ローン病を疑い小腸造影を施行したところ回腸末端のみに狭窄を認め た。臨床経過よりクローン病を疑い、成分栄養剤、 5 ‐ASA 製剤内服 を開始した。その後、再度大腸内視鏡検査を施行するも、回腸末端の 狭窄および大腸の潰瘍性病変の著明な改善は認めなかった。また、同 部位からの生検にて肉芽腫を認めたためクローン病と診断した。十分 な経口摂取は困難であったため、infliximab を開始したところ、食事摂 取可能となった。【考察】炎症性腸疾患は近年著しい増加傾向を示して いる。クローン病の発症年齢は10歳台から30歳台の若年層が中心であ り、60 歳を超える高齢者の発症はまれである。また、発症年齢が高い ほど infliximab の治療効果が得られにくいと言われている。今回 55 歳 と比較的高齢で発症し、infliximab 投与により寛解導入し得たクロー ン病の一例を経験したため、若干の文献的考察を加えて報告する。 クローン病において手術を要する十二指腸病変は比較的まれである。 今回、当科におけるクローン病の十二指腸病変に対する術式、特徴、 術後経過等につき検討を行った。2004 年から 2009 年の 6 年間に当科 で施行したクローン病腸管手術症例 106 例のうち、十二指腸病変に対 する手術例は 6 例(5.7%)であった。このうち十二指腸が原因病変 (primary lesion) であった症例が 2 例、二次性病変 (secondary lesion) であった症例が 4 例であった。primary lesion の手術適応はいずれも 狭窄で、部位は 1 例が第 1 部、 1 例が第 3 部であり、それぞれ胃空 腸吻合、十二指腸空腸吻合を施行した。secondary lesion の手術適応は いずれも瘻孔形成で、2 例が横行結腸 - 十二指腸瘻、2 例が回腸結腸吻 合部 - 十二指腸瘻であり、施行術式は、瘻孔部楔状切除および欠損部が 小さい( 2 cm 以下) 2 症例では瘻孔部の単純閉鎖、大きい( 3 -4cm) 2 症例では欠損部と空腸の吻合を行った。術後経過はいずれの症例も 良好であり、縫合不全等の合併症は認めていない。クローン病の十二 指腸病変における病態はさまざまであり、その原因、部位応じた臨機 応変な術式を考慮する必要があると思われた。 ― 89 ― 81 内視鏡検査後に門脈ガス血症をきたし保存的治療により消 腿したクローン病の 1 例 1 名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学 ○氏原 正樹 1 、安藤 貴文 1 、石黒 和博 1 、前田 修 1 、 渡辺 修 1 、三宅 忍幸 1 、日比 知志 1 、神谷 徹 1 、 三村 俊哉 1 、中村 正直 1 、宮原 良二 1 、大宮 直木 1 、 後藤 秀実 1 症例は 54 歳の女性。1977 年に原因不明の発熱、下腹痛にて入院し開 腹手術を受けた際にクローン病と診断された。その後吻合部と回腸の 狭窄を数回繰り返しており計 4 回の手術を受けた。1987 年から 2 年 間は SASP の内服を行ったが、その 2 年間以外は内服を自己中断し内 科的治療は受けていなかった。2010 年 4 月上旬に腹痛が出現し、近 医での腹部 xp にて niveau を認めたため緊急入院となり、クローン病 の悪化が考えられたため 2 日後に当院へ転院となった。当院受診時に は niveau は認めず、自覚症状も軽快してきており右下腹部痛を軽度認 めるのみであった。腹部 CT でも明らかな腸閉塞を疑う所見は認めな かった。入院後小腸造影を施行し、回腸-結腸吻合部に数 cm の狭窄を 認めた。小腸造影から 3 日後にダブルバルーン内視鏡(DBE)を用いて 肛門から内視鏡を施行した。結腸と回腸との吻合部と考えられる部位 の狭窄が強く内視鏡の通過は不能であった。検査終了時、腹部に張り を認めたが腹痛は認めなかった。検査後に DBE 後の virtal scopy の研 究のため施行した腹部 CT で門脈ガス血症を認めた。しかし自覚症状 を認めていなかったため保存的に経過をみた。翌日の血液検査におい ても異常は認めず、自覚症状も認めなかった。内視鏡検査から 6 日後 の腹部 CT では門脈ガスは消腿していた。門脈ガス血症は従来から腸 管壊死に伴う重篤な合併症、あるいは徴候として認められる。一方近 年では腸管壊死を伴わず保存的治療が可能な症例も散見される。門脈 ガスの診断に関しては、X 線所見上典型的には肝辺縁に至る樹枝状の 透亮像として認められ、胆道内ガスとの鑑別が問題となる。胆道内ガ スは胆汁の流れが末梢から肝門部に向かうために肝門部に集まるのに 対し、門脈ガスは門脈血流に沿ってより末梢に流れ細い枝まで認めら れることが特徴である。本症例においても樹枝上のガス像を認め、肝 辺縁近くにガス像を確認できることから門脈ガス血症と考えられた。 本症例では腸管壊死を伴わず、また自覚症状もなかったことから保存 的治療が可能であった。若干の文献的考察を加え報告する。 ― 90 ― 膵1 82 83 膵・胆管合流異常に合併した急性膵炎の一例 大同病院 消化器科・総合内科 ○野々垣浩二 1 、小川 和昭 1 、榊原 聡介 1 、藤原 晃 1 、 印牧 直人 1 症例は 47 歳、女性。既往に急性腹症により 2 回、他院入院歴あるが、 原因は不明であった。2010 年 4 月、腹痛にて当院救急外来受診。膵酵 素の上昇を認め、急性膵炎にて入院加療となった。腹部超音波検査で は、胆嚢はやや腫大、胆嚢壁の軽度壁肥厚所見を認めた。腹部 CT 検査 では、膵は全体にやや腫大していた。明らかな胆石や胆管結石は指摘 できなかった。保存的加療にて急性膵炎軽快後、原因精査のため EUS を施行した。EUS では、胆嚢壁は軽度肥厚、総胆管と主膵管は膵実質 内で合流しており膵・胆管合流異常の所見を認めた。ERCP では、胆 管径は 10mm と軽度の拡張を認め、括約筋作用が膵・胆管合流部に及 ばないことを確認できた。IDUS でも膵実質内で、膵・胆管が合流す る所見を明瞭に捉えることができた。ERCP 時に採取した胆汁のアミ ラーゼ値は 48100 IU/l と異常高値を示した。以上の所見より、膵・胆 管合流異常に合併した急性膵炎と診断し、2010 年 5 月、胆嚢摘出術、 肝外胆管切除術を施行した。病理組織学的には、胆嚢粘膜は異型性を 認めず、慢性胆嚢炎の所見であった。膵・胆管合流異常に合併した急 性膵炎の一例を経験した。 84 急性膵炎を契機に診断された膵管癒合不全の 2 例 大垣市民病院 消化器科、 2 大垣市民病院 放射線科 ○安東 直人 1 、熊田 卓 1 、桐山 勢生 1 、谷川 誠 1 、 久永 康宏 1 、豊田 秀徳 1 、金森 明 1 、多田 俊史 1 、 荒川 恭宏 1 、藤森 将志 1 、新家 卓郎 1 、坂井 圭介 1 、 安田 諭 1 、木村 純 1 、曽根 康博 2 1 1 原発性副甲状腺機能亢進症に合併した重症急性膵炎の一例 【はじめに】膵管癒合不全は背側膵と腹側膵が胎生期に癒合不全を生じ る膵形成異常で、その頻度は剖検例で 1 ~11%、臨床的には ERCP 施 行例の 1 ~ 5 % と報告されている。急性膵炎を合併し、再発性急性膵 炎のかたちをとることがあり、その頻度は 8 ~30% と報告されている。 確定診断には背側膵管造影が必須であるが、副乳頭の開口部が不明で 造影が困難な症例が存在する。今回われわれは急性膵炎を契機に診断 された膵管不全の 2 症例を経験したので報告する。 【症例 1 】70 歳代、 女性。2010 年 7 月に上腹部痛を主訴に当科を受診、膵酵素の上昇、腹 部造影 CT にて膵腫大を認めた。入院にて保存的治療を行い、待機的に ERCP を施行した。主乳頭からは腹側膵管は造影されず、副乳頭より 背側膵管が造影された。副乳頭開口部の同定は容易であった。副乳頭 切開、膵管ステントを留置し退院となった。 【症例 2 】30 歳代、男性。 2010 年 8 月に上腹部痛を主訴に当科を受診、膵酵素の上昇、腹部造影 CT にて膵腫大、周囲脂肪織の濃度上昇を認めた。入院にて保存的治療 を行い、待機的に ERCP を施行した。主乳頭からは腹側膵管は造影さ れず、副乳頭より背側膵管が造影された。本症例では副乳頭開口部の 同定が困難であったが、インジゴカルミン散布により膵液の流出部位 が明瞭となり、カニューレーションが可能となった。副乳頭切開、膵 管ステントを留置し退院となった。 【考察】急性膵炎を契機に診断され た膵管不全の 2 症例を経験した。膵管癒合不全につき若干の文献的考 察を加えて報告する。 85 三重大学 消化器肝臓内科、 2 三重大学 光学医療診療部 ○若宮 里恵 1 、井上 宏之 1 、高山 玲子 1 、田野 俊介 1 、 井口 正士 1 、二宮 克仁 1 、葛原 正樹 2 、田中 匡介 2 、 堀木 紀行 2 、竹井 謙之 1 1 症例は 46 歳男性。背部痛を伴う腹痛で近医を受診、急性膵炎の診断で 当院救急搬送となった。腹部造影 CT で結腸間膜根部に至る炎症、二区 域にかかる造影不良域を認めた。予後因子 3 点、CT grade2 であり重 症急性膵炎と診断した。大量輸液、蛋白分解酵素阻害薬、抗生剤の動 注療法、CHDF など集中治療を施行し一旦改善を認めた。経口摂取開 始したところ膵炎の再燃を認めた。経過中に持続的に高カルシウム血 症を呈したため副甲状腺ホルモンを測定したところ高値を示した。頚 部 CT、MRI、US で右副甲状腺に 15mm、左副甲状腺に 9 mm の腫瘤 を認め、MIBI シンチグラムで右腫瘤に一致して集積を認めた。原発性 副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症が膵炎の発症に関与して いると考えられた。高カルシウム血症に対してはビスフォスフォネー ト製剤使用した。経過中膵仮性嚢胞認め、経皮的ドレナージ、サンド スタチン併用し加療した。膵炎の沈静化確認し右副甲状腺摘出術を施 行した。病理診断は腺腫であり悪性の所見は認めなかった。術後には 副甲状腺ホルモンは低下、CT にて膵仮性嚢胞は縮小、改善を認め退院 となった。原発性副甲状腺機能亢進症は極めて稀に急性膵炎発症する がその原因は不明である。若干の文献学的検討を加え報告する。 重症膵炎後に発生した巨大仮性動脈瘤にカテーテル治療が 奏功した一例 1 大垣市民病院 消化器科 ○坂井 圭介 1 、熊田 卓 1 、桐山 勢生 1 、谷川 誠 1 、 久永 康弘 1 、豊田 秀徳 1 、金森 明 1 、多田 俊史 1 、 荒川 恭宏 1 、藤森 将志 1 、新家 卓郎 1 、安田 諭 1 、 木村 純 1 、安東 直人 1 【症例】 36 歳の男性 平成 22 年 7 月心窩部痛で ER 受診したところ、膵 酵素上昇と CT 画像にて膵腫大、膵実質の非濃染、傍腎腔への腹水の 貯留など重症膵炎と診断されて入院となった。CHDF、動注療法、挿 管下呼吸管理を施行した。 8 月 17 日早朝突然心窩部痛・冷汗・血圧低 下を認め CT 施行したところ腹腔内出血と、総肝動脈(CHA)に動脈 瘤を認めたため腹腔動脈造影を施行した。CHA から胃十二指腸動脈 (GDA)にわたる 35mm 大の動脈瘤を確認し、プラチナコイルを瘤内 に留置した。ほぼ瘤内がコイルで満たされた状態となり、まだ一部流 入を認めたが、血栓化することを期待して終了とした。その後状態は 安定していたが、後日施行の造影 CT で動脈瘤の増大化を認め治療効 果不十分と判定し再度腹腔動造影を施行した。腹部動脈造影にて瘤を 確認後、プラチナコイルを挿入するも開口部が大きくコイルでの塞栓 術では十分な効果が得られないと判断し、GDA・左胃動脈(LG)・脾 動脈(SA) ・固有肝動脈(PHA)をコイル塞栓したのちに、n-butyl-2cyanoacrylate(NBCA)で瘤内腔の塞栓を行った。術後に軽度の脾梗 塞の合併を認めている。効果判定のための US、造影 MRI では動脈瘤 内の血流消失を認めた。現在は、腹腔内感染・下肢の壊死に対して加 療中である。 【考察】総肝動脈瘤破裂の原因として感染症、動脈硬化、 外科手術後、カテーテル操作による血管損傷などを指摘されており、 60 %が心窩部痛などを自覚するといわれる。肝動脈瘤破裂時の治療法 は癒着などの影響を考慮し近年開腹止血術よりも TAE が選択される 傾向にある。本症例は当初コイル塞栓術を施行したが、十分な効果が 得られず、動脈瘤の neck が広い上に GDA、PHA わたり瘤が存在する ため、瘤のみの塞栓は困難と判断し NBCA を用いて CHA を塞栓した。 その際に末梢動脈への NBCA の流入を予防するために GDA、LG、SA、 PHA を塞栓した。 【結語】NBCA を用いて膵炎後の巨大仮性動脈瘤の 塞栓しえた一例を経験したので報告した。 ― 91 ― 86 膵・肝・胆管・大動脈に病変を認めた IgG4関連疾患の 1 例 刈谷豊田総合病院 内科、 2 刈谷豊田総合病院 病理科 ○松井 健一 1 、中江 康之 1 、井本 正巳 1 、浜島 英司 1 、 今田 数実 1 、仲島さより 1 、松山 恭士 1 、濱宇津吉隆 1 、 大森 寛行 1 、村瀬 和敏 1 、小川 裕 1 、鈴木 敏行 1 、 伊藤 誠 2 1 【症例】73 歳、男性。主訴は肝腫瘍精査。既往歴は糖尿病、脂質異常 症。現病歴は近医にて血糖値の増悪を指摘され、平成 22 年 6 月 2 日 腹部造影 CT を施行。肝腫瘍を認め 6 月 24 日当科を紹介受診。現症は 黄疸や皮疹はなく、腹部は平坦・軟で腫瘤を蝕知しなかった。採血で は AST39U/l、ALT40U/l、ALP 603U/l、γ -GTP 222U/l と肝胆道系酵 素の上昇を認め、Glu 147mg/dl、HbA1c 8.6% と上昇、IgG は 2213mg/ dl と高値であった。CEA 2.1ng/ml、CA19-9 17U/ml、AFP 1.4ng/ml、 PIVKA-II 19mAU/ml であり、腫瘍マーカーは正常値であった。腹 部 US では、膵臓の軽度腫大、肝左葉に境界不明瞭な 32×25mm の低 エコー腫瘤、胆管壁の軽度肥厚を認めた。ダイナミック CT では、膵 臓の腫大、肝左葉の不整形な造影不良域、総胆管の壁肥厚を認めた。 MRCP では、膵臓の形態は棍棒状を呈し、肝腫瘍は T1・T2 とも low、 総胆管は狭小化を認めた。PET-CT では、膵臓にびまん性の集積、肝 腫瘍・胆管・総腸骨動脈にも中等度の集積を認めた。EUS では、膵実 質の腫大及び被膜下の浮腫、下部胆管から中部胆管にかけて壁肥厚を 認めた。ERCP では、主膵管のびまん性の狭細像、膵内胆管から肝内 胆管に狭窄を認めた。血清 IgG4 は、1020.0mg/dl と高値であった。肝 腫瘍の質的診断目的に腹部血管造影とエコー下生検を行ったが、悪性 を示唆するような所見は認めず、炎症性偽腫瘍であると考えた。以上 より、膵・肝・胆管・大動脈に病変を認める IgG4 関連疾患と診断、 7 月 15 日よりプレドニゾロン 30mg/ 日の内服を開始し、血清 IgG4 値は 低下、各画像所見も改善傾向である。現在プレドニゾロンを 5 mg ず つ漸減し、外来で経過観察中である。 【考察】IgG4 関連疾患は血清 IgG4 値が高値を示し、IgG4 陽性形質細胞 やリンパ球が浸潤することにより種々の臓器に腫大や炎症、線維化を 来たし、ステロイドが著効する全身性疾患として近年提唱された症候 群である。本症の胆管病変では肝に偽腫瘍を形成することがあり、今 回の肝腫瘍も偽腫瘍あったと思われる。 【結語】自己免疫性膵炎・肝偽腫瘍・硬化性胆管炎・大動脈炎を認めた IgG4 関連疾患の 1 例を経験した。 ― 92 ― 膵2 87 門脈血栓を伴い経乳頭的膵管ドレナージにて治療しえた膵 仮性嚢胞の一例 88 一宮市立市民病院 消化器内科、 2 名古屋大学医学部附属病 院 病態修復内科学 ○伊藤 隼 1 、金倉 阿優 1 、山口 純治 1 、松浦倫三郎 1 、 井口 洋一 1 、石黒 裕規 1 、金森 信一 1 、水谷 恵至 1 、 山中 敏広 1 、中條 千幸 1 、大野栄三郎 2 、後藤 秀実 2 大同病院 ○藤原 晃 1 、小川 和昭 1 、榊原 聡介 1 、野々垣浩二 1 、 印牧 直人 1 1 症例は 64 歳、男性。アルコール性慢性膵炎急性増悪にて入院歴あり。 平成 22 年 2 月、アルコール多飲後に腹痛を認め当院受診。血液検査 では軽度の貧血と膵酵素の上昇を認めた。腹部造影 CT では、膵尾部 および肝左葉腹側に 7 cm 大の嚢胞を認めた。嚢胞内には一部出血を 疑う所見を認めた。また門脈内には血栓を認めた。門脈血栓を伴う慢 性膵炎急性増悪および膵仮性嚢胞と診断し入院加療とした。ERCP を 施行すると、膵尾部の嚢胞は造影され膵管との交通を確認できた。経 乳頭的に内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)を嚢胞内に留置した。 ENPD からの排液は褐色で嚢胞内出血を確認できたが、バイタルが安 定していたこと、貧血の進行が軽度であったことより保存的に経過を みた。ENPD の排液は徐々に透明となり、出血の増悪がないことを確 認したのち門脈血栓に対して抗凝固療法を開始した。ENPD 留置にて 嚢胞は著明に縮小し、チューブ先端位置を嚢胞内から主膵管内に変 更、嚢胞増大の所見を認めないことを確認し、留置後 14 日目に ENPD 抜去とした。退院後、外来にて施行した造影 CT では門脈血栓は消失し ており、膵仮性嚢胞の再燃は認めていない。今回我々は、門脈血栓を 伴い ENPD 留置にて治療しえた膵仮性嚢胞の一例を経験したので、若 干の文献的考察を加えて報告する。 89 膵性胸水を伴った膵仮性嚢胞の 2 例 1 膵癌による主膵管狭窄に伴い発生した膵性腹水に対し、内 視鏡的膵管ステント留置が著効した 1 例 症例 1 :62 歳、男性。2010 年 4 月 1 日、左胸水貯留を指摘され紹介 受診、胸水穿刺にて血性胸水を確認した。胸部 CT、気管支鏡検査では 胸水貯留の原因は不明であり入院精査となった。腹部 CT にて膵尾部 より嚢胞性病変が左横隔膜を超え胸腔内にまで連続していた。胸水ア ミラーゼ 16,655IU/ml、血清アミラーゼ 485IU/ml と上昇しており、慢 性膵炎由来の膵仮性嚢胞が横隔膜・壁側胸膜を穿破し内瘻を形成した と考えられた。胸腔ドレナージ、絶食、メシル酸ガベキサート 200mg/ 日、SBT/CPZ2g/ 日にて治療したところ嚢胞は縮小した。入院第 22 日 目に ERP 施行するも嚢胞部は造影されず、また胸水の再貯留もなく 5 月 18 日(入院第 29 日)に退院となった。その後、再発なく外来にて経 過観察中である。症例 2:44 歳、男性。2010 年 4 月 17 日胸部不快感を 主訴に受診。両側胸水貯留を認めて入院精査となった。胸水アミラー ゼ 13,440IU/ml、血清アミラーゼ 551IU/ml と上昇しており、造影 CT に て膵に嚢胞性病変を認め、嚢胞が食道裂孔を経由して両側の胸腔に達 していたことから膵性胸水を伴った縦隔内膵仮性嚢胞と診断した。胸 腔ドレナージ、絶食、メシル酸ガベキサート 400mg/ 日、シチコリン 1000mg/ 日、SBT/CPZ2g/ 日にて治療開始した。 5 月 11 日より酢酸オ クトレオチド 300μ g/ 日を追加した。入院第 34 日 ERP 施行、膵体部主 膵管に狭窄所見、その尾側から嚢胞へ膵液のリークを認め ENPD を留 置した。入院第48日に膵管造影するもリークは認めず症状も軽快し 6 月 8 日(入院第 53 日)に退院となった。以上、 2 例の膵性胸水を伴う 膵仮性嚢胞を経験した。若干の文献的考察を加えて報告する。 90 1 高山赤十字病院 内科 ○牧谷 光晴 1 、白子 順子 1 、中井 実 1 、今井 奨 1 、 福田 和史 1 、中村 信彦 1 症例は 61 歳、男性。2010 年 4 月 16 日 発熱、腹部膨満感を主訴に近医 を受診し、当院へ紹介。腹部 CT にて、多量の腹水の所見を認め、採 血にて CRP 19.37mg/dl 膵型 Amy 457 IU/L CEA 9.3ng/ml CA199 6514.8U/ml と異常高値を示していた。腹部 DynamicCT では、膵鉤 部に 15mm の乏血性腫瘍を認めた。腹水中の Amy 7842 IU/L と異常 高値を呈し、膵性腹水が疑われた。MRI にて膵鉤部の腫瘍による頭 部主膵管の狭窄、尾側膵管から仮性のう胞を介して腹腔内への膵液漏 出を疑う所見を認めた。膵癌による主膵管狭窄に伴い膵性腹水をきた している可能性が疑われたため、診断及び治療目的で EUS 及び ERCP を施行。EUS にて膵鉤部に low echoic mass を認め、同部を FNA し、 adenocarcinoma と診断。ERCP では、膵頭部での主膵管狭窄及び尾側 膵管から仮性のう胞を介して腹腔内への造影剤漏出、下部胆管の狭窄 が確認された。膵管狭窄部より末梢に ENPD 留置及び胆管に EBD を 留置。 2 週間後の CT にて腹水は消失しており、ENPD が著効したも のと考え、ENPD の代わりに膵管狭窄部を越える形で EPD 留置。その 後、腹水の再発を認めず、膵癌に対して TS-1 + GEM 化学療法を導入。 現在 入院時から約 5 カ月経過しているが、化学療法は奏効してお り、外来にて治療を継続中である。膵癌に伴う膵性腹水に対して、内 視鏡的膵管ステント留置が著効した症例報告は我々が検索した限り、 報告例は少なく、貴重な症例と思われたため、若干の文献学的考察を 加えて報告する。 当院における小児膵胆道疾患に対する内視鏡的逆行性膵胆 管造影の検討 1 名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学、 2 名古屋大学医 学部附属病院光学医療診療部 ○平松 武 1 、廣岡 芳樹 2 、伊藤 彰浩 1 、川嶋 啓揮 1 、 大野栄三郎 1 、石川 卓哉 2 、松原 浩 1 、伊藤 裕也 1 、 中村 陽介 2 、中村 正直 1 、宮原 良二 2 、大宮 直木 1 、 後藤 秀実 1 、 2 【目的】小児膵胆道疾患に対する内視鏡的逆行性膵胆管造影検査 (ERCP) および ERCP 関連手技の安全性と有用性を評価すること。 【対 象・方法】2002 年 4 月から 2010 年 7 月までに当科で経験した小児 ERCP 78 例 91 回を対象とした。性別は男児 26 例、女児 52 例、検査時 平均年齢は 6.7 ± 4.0 歳( 4 ヵ月から 14 歳)であった。ERCP は麻酔科 医による全身麻酔下に施行した。内視鏡は、原則として乳幼児に対し ては PJF-7.5(Olympus 社製) 、小児は JF240(Olympus 社製)を使用 した。疾患の内訳は、膵胆管合流異常 55 例、慢性膵炎 6 例、胆管結石 4 例、その他 13 例であった。ERCP 関連手技は、ステント留置を 15 例 (胆管 11 例、膵管 4 例) 、乳頭括約筋切開術(EST)を 2 例、胆管結 石除去術を 2 例に施行した。 1 )目的とする膵胆管造影成功率、 2 ) 膵胆管合流異常の描出率、 3 )ERCP 関連手技における治療成績、 4 ) ERCP に伴う偶発症について検討した。 【成績】 1 )目的とする膵胆管 造影成功率は 89/91 例(97.8%)であった。 2 )合流異常症例について、 MRCP では合流異常の診断は 16/44 例(36.3%)でのみ可能で、ERCP では 51/55 例(92.7%)で合流異常を診断し得た。ERCP により合流異 常が否定された 4 例で治療方針が変更となった。 3 ) プラークにより、 胆管炎を併発していた 8 例は、胆管ステント留置により症状が軽快 し、待機的手術が可能となった。慢性膵炎で膵炎発作を繰り返してい た 3 例では、膵管ステント留置により自覚症状の改善を認め手術を回 避できた。Choledochocele の 1 例では、EST により自他覚症状は改善 した。 4 )ERCP に伴う偶発症では高アミラーゼ血症を 20/91(21.9%) で認めたが、膵炎の併発は 1 例もなかった。 【結論】小児例に対する 全身麻酔下の ERCP は安全に施行し得、高い精度の診断と成人例と同 様の内視鏡治療が可能である。 ― 93 ― 膵3 91 92 膵癌特異的抗体による臨床検体を用いた発現解析 藤田保健衛生大学 医学部 病理診断科、 藤田保健衛生大 学 医学部 胆膵外科学、 3 藤田保健衛生大学 総医研 抗体プ ロジェクト、 4 藤田保健衛生大学 医学部 肝脾外科学 ○熊澤 文久 1 、堀口 明彦 2 、石原 慎 2 、森垣 曉子 2 、 桐山 諭和 1 、高桑 康成 1 、浦野 誠 1 、黒澤 仁 3 、 杉岡 篤 4 、黒澤 良和 3 、黒田 誠 1 、宮川 秀一 2 1 2 肝転移巣消失後 R0 手術を施行できた 1 例 三重大学 肝胆膵・移植外科 ○押 正徳 1 、臼井 正信 1 、大倉 康生 1 、大澤 一郎 1 、 岸和田昌之 1 、濱田 賢司 1 、水野 修吾 1 、櫻井 洋至 1 、 田端 正己 1 、伊佐地秀司 1 1 膵癌は早期発見が困難であり、外科的治療成績は極めて不良で他の癌 に比し最も予後不良である。近年、遺伝子工学の進歩に伴い遺伝子組 み換え技術を利用した抗体分子作製が可能となり、多くのモノクロー ナル抗体が作製され臨床への応用が試みられている。乳癌や大腸癌で は画期的な抗体治療薬の登場により、抗体療法に対する期待が高まっ てきている。目的:我々は現在、ヒト型抗体ファージライブラリー (AIMS5 ヒト抗体ライブラリー)を用いたスクリーニング法を開発し、 これを用いた治療用抗体の研究を行っている。膵癌治療用抗体開発を 目的とし、ヒト型抗体ファージライブラリーより膵癌細胞膜上に存在 する分子に対する抗体を単離し、組織染色による解析を行った。方法: ヒト型抗体ファージライブラリーと膵癌細胞株を用いて膜上分子に対 するモノクローナル抗体を単離した。これらの抗体と 2004-2010 年 8 月の間に外科的に得た膵癌 140 例のうち、20 例の組織染色を行い膵癌 特異的染色像であった抗体に対する抗原を同定した。結果:ヒト型抗 体ファージライブラリーと膵癌細胞株を用いて膜上の分子に対するモ ノクローナル抗体を単離し、200 種類の抗体を得た。2004-2010 年 8 月 の間に外科的に得た膵癌 140 例のうち 20 例の組織染色を行い、膵癌特 異的染色像を示す抗体が選別された。今回我々は、この成果と共にそ の膵癌の膜上表面マーカーの組織染色パターンから得られた知見を合 わせて報告する。 93 肝転移を有する進行膵頭部癌に対し、放射線化学療法にて 腎細胞癌術後15年目に多発膵転移をきたし切除可能であっ た1例 症例は 74 歳、女性。2009 年 7 月中旬ごろから腹痛・下痢および褐色 尿を認め、近医を受診。血液検査上、肝胆道系酵素の上昇を認め、総 合病院受診。CT にて、径 5 cm 大の膵頭部腫瘍を認め、精査・加療 目的で当科受診となった。門脈浸潤を伴う進行膵頭部癌と診断された が、CT にて肝 S5/6 に径 1 cm の low density mass 認め、肝転移が疑わ れたため、膵癌・肝転移の診断で、TS-1(80mg/dayx21)先行、GEM (800mg/m2、day8+day22)療法を施行。 2 クール終了後の CT で肝転 移が疑われるも増悪なく、他に遠隔転移も認めなかった。そこで手術 を考慮し、放射線化学治療(CRT:radiation 45Gray+GEM 1000mg× 4) を施行。CRT 後の CT では、主病巣は 33mm まで縮小したが、PETCT で肝 S5/6 に明らかに転移巣残存しており、膵癌肝転移の診断で手 術適応外の診断で、化学療法を続けることとした。TS-1 先行 /GEM を 5 クール行った結果、主病巣は 25mm と更に縮小し、PET-CT および MRI-EOB で肝転移巣消失した。CA19-9 も 115.9 mg/dl から 24.7 mg/ dl に著減・正常化した。このため小さな肝転移巣が残存していたとし ても化学療法にて制御可能と判断し手術を施行した。門脈合併亜全胃 温存膵頭十二指腸切除を施行した。術中エコーでも明らかな肝転移な く、腫瘍は 1.0cm × 0.7cm に縮小し、広範に壊死組織が広がっていた。 浸潤性膵管癌(ly0、v0、ne0、mpd(-) 、pCH(-) 、pDU(-) 、pS(-) 、 pRP(-) 、pPV(-) 、pPA(-) 、pPL(-) 、pOO(-) 、n(-) ) であり UICC 分類の T1 、N0 、M0 、Stage IA であった。術後経過は良好で、術後 8 週より GEM による術後補助化学療法を行った。術後 3 ヶ月時の CT にて肝転移を疑わせる所見はなく、外来にて化学療法継続中である。 我々の調べえた限りでは、これまで膵癌肝転移の切除後長期生存の報 告はあるも、異時性肝転移切除の報告が多く、放射線化学療法により 肝転移巣消失し、R0 手術を行った報告はなく、難治性疾患である膵癌 肝転移においても集学的治療により予後の改善が得られる可能性が示 唆された。 94 家族性膵癌の一例 社会保険中京病院 消化器科 ○杉村 直美 1 、清水 周哉 1 、飛鳥井香紀 1 、高口 裕規 1 、 三浦 亜紀 1 、田中 義人 1 、松永誠治郎 1 、戸川 昭三 1 、 長谷川 泉 1 、大野 智義 1 、榊原 健治 1 1 1 春日井市民病院 消化器科 ○尾関 貴紀 1 、杉田 裕輔 1 、立松有美子 1 、加藤 晃久 1 、 松波加代子 1 、片野 敬仁 1 、望月 寿人 1 、坂本 知行 1 、 高田 博樹 1 、祖父江 聡 1 、伊藤 和幸 1 症例は 66 歳男性、平成 22 年 2 月健診にて AMY 高値を指摘され当科受 診。既往歴に高血圧、甲状腺腫瘍、平成 6 年左腎細胞癌にて左腎全摘 術。血液・生化学検査では AMY 135 IU/l、アイソザイムは P 型 32 % S 型 68 %、CEA 1.1ng/ml、CA19-9 2.2U/ml、DUPAN-2 25 以下 U/ml、 Span-1 10 以下 U/ml と軽度の AMY の上昇を認め、腫瘍マーカーは正 常範囲内であった。腹部エコー検査で膵頭部に低エコー域を認め、造 影 dynamic CT を施行したところ、膵頭部に長径18mm 大と15mm 大の 造影早期から濃染する境界明瞭な類円形結節が 2 個認められた。鑑別 として腎細胞癌の膵転移、膵内分泌腫瘍、動脈瘤が考えられ、カラー ドップラー検査を併用した腹部エコー検査では、主膵管に拡張は認め られず、どちらの結節も境界明瞭な低エコー腫瘤であり、血流シグナ ルは認められなかった。以前より甲状腺腫瘍を指摘されているため多 発性内分泌腫瘍症候群の可能性も考え、各種ホルモン検査を施行した が、インスリン 17.5μ U/ml、ガストリン 259pg/ml、VIP 8 pg/ml、PTHインタクト 34.7pg/ml、GH 0.04ng/ml、プロラクチン 6.5 ng/ml、ACTH 45.3pg/ml とガストリンに軽度上昇を認められるのみであった。また FDG-PET では膵内分泌腫瘍では集積を示すことが多いが、本症例で は集積が認められず、内分泌腫瘍は否定的であった。膵 hypervascular tumor は画像診断からでは鑑別が困難であることが多く、近年は内分 泌腫瘍に対して EUS-FNA などにて組織学的診断を行う症例もみられ るが、腎細胞癌の膵転移は、転移巣が膵頭部に限局していれば切除に て長期予後が期待できるため、外科的切除が第一選択となり、本症例 では腎細胞癌の既往もあることより腎細胞癌の多発膵転移である可能 性が高いと考え、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理組 織学検査では軽度腫大した核と明るい胞体をもつ細胞が充実性に胞巣 形成するのが認められ、免疫染色からも腎の clear cell carcinoma の膵 転移と診断された。今回の症例では術後15年が経ち腎細胞癌の膵転移 を切除可能であった 1 例を経験したので、文献的考察を含めて報告す る。 【症例】62 歳男性【家族歴】父方の祖父、叔父、父、弟、父方の甥:膵 癌【経過】膵癌家系のため、膵癌の有無について精査を希望され、平 成 15 年 3 月当院を受診した。それ以降、 6 ヶ月に 1 度、腹部超音波 検査、腹部 CT、MRCP、血液検査などを行ない、定期的にサーベイラ ンスを施行していた。平成 21 年 6 月 MRCP にて膵体尾部の主膵管拡 張を認めたため ERCP を施行したところ、膵体部の主膵管の途絶を認 めた。腹部造影 CT ダイナミックでは膵体部に約 20×10mm 大の造影 早期相で軽度低吸収値、平衡相で軽度高吸収値を呈する領域を認め、 同部から尾側で主膵管の拡張を認めた。脾静脈への浸潤も見られ、膵 体部癌と診断し、平成 21 年 7 月膵体尾部切除術、脾臓摘出術を施行 した(病理診断:moderately differentiated tubular adenocarcinoma、 ly1、v2、ne1、mpd(+) 、pT4{ch(-)du(-)s(+)rp(+)pvsp(+) 。術後は GEM によ a(-)pl(-)oo(-) }、scirhhous type、INFγ 、pN0) る adjuvant therapy を計 5 クール施行したが、平成 22 年 3 月に腹膜 播種に伴う癌性腹水を来した。癌性腹水は難治性であり、それによる 症状の増悪を認めたため、デンバーシャントを造設した。その後は腹 水コントロールは良好となり、癌性腹水に伴う症状の改善も得られた ため、TS-1 + GEM による化学療法を施行した。しかし、 4 月に癌性 腹膜炎によるイレウスが出現したため、化学療法は中止となり、以後、 経鼻胃管を挿入し、絶食、高カロリー輸液、オクトレオチド、ベタメ タゾン、PPI などで経過観察を行なった。その後、徐々に全身状態が 悪化していき、 6 月に死亡された。【考察】第一度近親者に 2 人以上 の膵癌患者が存在する例を家族性膵癌としている。家系内に膵癌患者 が多いほど更なる膵癌発生の期待値は高い。今回我々は、家族性膵癌 の一例を経験したため、若干の文献的考察を加えて報告する。 ― 94 ― 95 びまん性の点状石灰化を伴い慢性膵炎との鑑別を要した膵 粘液癌の 1 例 96 膵腺扁平上皮癌の一例 公立陶生病院 ○古根 聡 1 、森田 敬一 1 、黒岩 正憲 1 、林 隆男 1 、 清水 裕子 1 、松浦 哲生 1 、山本 富美子 1 、松崎 一平 1 、 菊池 正和 1 、浅井 裕充 1 、小島 久実 1 、石川 恵理 1 、 前野 智子 1 1 名古屋市立東部医療センター東市民病院 消化器内科、 2 名古 屋市立大学 医学部 消化器・代謝内科学 ○西牧 亜奈 1 、川井 祐輔 1 、山本 俊勇 1 、伊藤 恵介 1 、 長谷川千尋 1 、川合 孝 1 、林 香月 2 、安藤 朝章 2 、 中沢 貴宏 2 1 【症例】70 歳、男性。【既往歴】腰部脊柱管狭窄症【現病歴】下肢の脱 力にて近医受診し、高血糖と CT 上石灰化を伴う膵腫大を指摘され、平 成 21 年 10 月 X 日当院紹介となった。【経過】理学所見では特に異常を 認めず、血液検査では軽度の肝酵素上昇、血糖 303mg/dl と高値、血 小板 7.0 × 10 4 /μ l と減少を認めたが、膵酵素や炎症反応は正常範囲内 であった。腫瘍マーカーは CA19-9 が 43.0U/ml と軽度高値である他、 CEA、Span-1、DUPAN-2 は異常値を示さなかった。腹部造影 CT では 造影不良な膵体部から尾部にかけての腫大と内部に多発する点状石灰 化と脾腫を認めた。MRI で同部は T1 強調像で低信号、T2 強調像でや や高信号を示し尾部の主膵管の拡張を伴なっていた。慢性膵炎と膵癌 の鑑別のため同年 12 月 Y 日 ERCP を施行したところ、膵体尾部の主膵 管の不整な拡張と分枝の嚢状の拡張を認め、ブラシ細胞診を施行する も悪性細胞は検出されなかった。癌を否定しきれず PET-CT を施行し たが腫瘍部分に FDG の優位な集積を認めず厳重な経過観察を行うこ ととなった。平成 22 年 2 月 Z 日 3 ヶ月後の CT で膵所見には著変がな いものの腹水貯留を認め、腹水穿刺細胞診で異型細胞を認めたことよ り EUS-FNA を施行した。経胃的に 22G 針で膵組織を採取し、粘液内 に浮遊する形で腺癌細胞を認めたことから膵粘液癌と確定診断に至っ た。免疫染色上は MUC1 陰性、MUC2 陽性であった。本例は癌性腹膜 炎を合併しており stage4b と診断し同年 3 月より化学療法を開始し現 在も治療継続中である。 【まとめ】膵粘液癌は膵管癌のうち1.4% と稀な 疾患である。今回我々は慢性膵炎と膵癌との鑑別が困難で、EUS-FNA にて膵粘液癌と確定診断し得た 1 例を経験したので若干の文献的考察 を加え報告する。 症例は 72 歳、男性で主訴は膵尾部腫瘍精査。既往歴に気管支喘息、高 血圧。現病歴は近医にて前記疾患にて治療中に、急激に悪化する耐 糖能異常を認め、腹部 CT にて膵尾部腫瘤を認めたため 2009 年 12 月 3 日に当院へ紹介入院となった。血液生化学的検査では FBS 196mg/ dl、HbA1c 8.6% と糖尿病を認め、腫瘍マーカーは CEA 7.7ng/ml、 CA19-9 2.0U/ml 未満であったが、その他に特記すべき異常を認めな かった。腹部エコーにて膵尾部に径 6 cm 大の内部に広範な壊死また は嚢胞成分を持つ腫瘤を認めた。超音波内視鏡にても同様の所見を認 めた。造影 CT で中心部は造影効果を認めず、辺縁は頭側の正常膵に 比し造影効果の乏しい腫瘍であった。また、CT-angio 脾動静脈への 浸潤が疑われた。注腸検査にて上行結腸脾彎曲寄りに結腸への浸潤 を疑う硬化狭窄像を認めた。以上より、壊死傾向の強い膵臓癌を第 一に疑った。術前ステージは T4N2M0、StageIVb と診断した。大腸 浸潤による腸閉塞の危険性もあり、2010 年 1 月 6 日に膵体尾部切除 術および左副腎・横行結腸合併切除術を施行した。最終ステージは T4N0M0、StageIVa であり、病理組織学的には、膵尾部主体に径約 7 cm 大で、中心部に広範囲に壊死を伴う空洞を認め、同部では角化傾 向を示す squamous cell carcinoma を主体にし、一部腺様の部分を認め adenosquamous carcinoma と診断した。現在、外来で抗癌剤にて治療 中である。膵臓の腺扁平上皮癌は膵癌の約2.1% を占める比較的稀な腫 瘍であり、若干の文献的考察を加えて報告する。 ― 95 ― 膵4 97 主膵管内発育を伴い乳頭開口部より腫瘍の露出を認めた膵 腺房細胞癌の一例 98 医療法人 山下病院、 2 名古屋大学 消化器内科学 ○鷲見 肇 1 、瀧 智行 1 、江藤 奈緒 1 、富田 誠 1 、 小田 雄一 1 、服部 昌志 1 、磯部 祥 1 、富永雄一郎 1 、 服部外志之 1 、中澤 三郎 1 、大宮 直木 2 、川嶋 啓揮 2 、 山村 健史 2 、立松 英純 2 、鶴留 一誠 2 半田市立半田病院 ○広崎 拓也 1 、亀井圭一郎 1 、安藤 通崇 1 、岩下 紘一 1 、 島田礼一郎 1 、森井 正哉 1 、神岡 諭郎 1 、大塚 泰郎 1 、 滝 徳人 1 1 【症例】83 歳、男性。 【既往歴】胆嚢摘出術、前立腺癌、B 型肝炎、肝 細胞癌にて平成 20 年 9 月 TAE 施行【現病歴】TAE 後、定期的に画像 フォローアップしていた。平成21年 4 月30日腹部造影 CT にて膵頭部 から膵鉤部にかけて淡い造影効果を伴う比較的境界明瞭な腫瘤影を認 め、尾側主膵管の拡張を認めた。5 月11日 MRCP にて T1 強調 T2 強調 像のいずれも低信号を示す腫瘤を認め、尾側主膵管の拡張を認めた。 5 月 14 日 PET - CT 施行。膵鉤部に集積を認めた。 5 月 26 日 ERCP 施行。乳頭は腫大し、開口部から黄色調の腫瘤塊の一部が露出してい る所見を認めた。主膵管造影では圧入しても全く造影されず、ガイド ワイヤー下に体部までカテーテルを進め、頭部まで引き抜きながら造 影した。膵頭部主膵管内に鋳型状の陰影欠損像を認め、同部位より生 検した。生検時の感覚では非常に軟らかい印象であった。 6 月 9 日 EUS 施行。膵頭部の主膵管を占拠する低エコー腫瘤を認め、ドプラで 豊富な血流シグナルを認めた。胆管や門脈への浸潤は認めず。組織所 見としては包帯に好酸性顆粒を有した異形細胞が腺房様構造を呈して おり、免疫染色にて腺房細胞癌と確定診断した。【考察】膵腺房細胞 癌は稀な疾患であり、全膵癌の約 1 %未満といわれている。一般に腺 房細胞癌は膵実質の辺縁に発生する。その約 70 %が膵頭部に発生し、 半数近くが膵管内進展を呈する。また通常型膵管癌と異なり膨張性に 増殖する。これらの特徴を踏まえると今回のように膵管造影にて鋳型 状の陰影欠損を呈し、乳頭部より腫瘍が露出するという特異な形態を 呈した場合には、膵腺房細胞癌を積極的に疑う必要があると考えられ る。多少の文献的考察を加え報告する。 99 定期腹部超音波検査で発見された膵グルカゴノーマの 1 症例 1 【はじめに】今回我々は胃潰瘍で通院中に、定期腹部超音波検査で 8 mm 大の膵グルカゴノーマを発見し核出術にて摘出した症例を経験 したので若干の文献的考察を加えて報告する。 【症例】63 歳 男性【既 往歴】 25歳より胃潰瘍の内服治療、47歳より喘息の内服治療。 【現病歴】 1983 年 6 月に出血性胃潰瘍にて当院入院し、その後外来で内服治療 していた。外来で腹部超音波検査を施行したところ膵体部に約 8 mm の低エコーな腫瘤を認め精査目的に 2009 年 7 月 21 日に入院となった。 【入院後経過】腹部造影 CT 検査では病変を指摘できず。超音波内視鏡 検査では、膵体部に径 8 mm の類球形の境界明瞭な低エコーの腫瘤を 認めた。ERP では膵分枝の圧排を認め、IDUS では 8 mm の境界明瞭、 内部低エコーで充実性の lateral shadow を伴う腫瘤を認めた。主膵管 との距離は 6 mm であった。造影超音波検査では周囲膵実質を凌ぐ造 影効果を認め、その後も造影効果は持続した。膵内分泌腫瘍と診断し た。主膵管との距離が短く膵横断切除を検討していたが、術中の所見 から核出術にて摘出した。病理所見は、異型細胞はグルカゴン陽性で、 異型に乏しく分裂像もほぼみられず脈管侵襲や神経周囲侵襲を認めず 良性のグルカゴノーマであった。術前の血液検査ではグルカゴン値は 97pg/ml と正常であり非機能性の膵グルカゴノーマと診断した。術後 経過は良好で退院となった。【考察】膵グルカゴノーマは稀な腫瘍で あり、その頻度は膵腫瘍全体の 1 ~ 3 %程度と報告されている。本症 例は腫瘍径が 8 mm と小さくホルモン症状を欠く無症候性のグルカゴ ノーマであった。グルカゴノーマは腫瘍径が大きくなると、皮疹、口 内炎、体重減少、貧血、糖尿病などのホルモン症状を呈する。また、 症状出現時では腫瘍径は大きく肝転移やリンパ節転移を伴うことも少 なくないため早期発見が重要である。 【結語】定期超音波検査で発見し た膵グルカゴノーマの症例を経験した。 100 膵 Solid-pseudopapillary tumor の一切除例 藤田保健衛生大学 医学部 胆膵外科、 2 藤田保健衛生大学 医 学部 上部消化管外科、 3 藤田保健衛生大学 医学部 放射線科 ○越智 隆之 1 、堀口 明彦 1 、石原 慎 1 、伊東 昌広 1 、 浅野 之夫 1 、古澤 浩一 1 、山元 俊行 1 、津田 一樹 1 、 伊藤良太郎 1 、森垣 曉子 1 、山田 智洋 1 、宇山 一朗 2 、 片田 和広 3 、加藤 良一 3 、花岡 良太 3 、赤松 北斗 3 、 宮川 秀一 1 腹部超音波にて描出不良であった膵漿液性嚢胞腺腫の 1 例 藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院 消化器内科学 ○森 智子 1 、芳野 純治 1 、乾 和郎 1 、若林 貴夫 1 、 小林 隆 1 、三好 広尚 1 、服部 信幸 1 、小坂 俊二 1 、 友松雄一郎 1 、山本 智支 1 、松浦 弘尚 1 、成田 賢生 1 、 鳥井 淑敬 1 1 1 症例は 40 歳、女性。心窩部痛、背部痛を主訴に当院時間外外来受診。 身体所見は眼球結膜黄染なく、眼瞼結膜に貧血も認めなかった。腹部 に腫瘤触知はしなかったが、心窩部に圧痛を認めた。腹膜刺激症状は 認めなかった。血液生化学所見では、WBC と血清 Amyl の上昇を認 める以外に特記すべき異常は認めなかった。US では膵鈎部に嚢胞性 病変を認めた。CT では腫瘍内部に淡い高吸収域を含む嚢胞性病変を 呈していた。腹痛の原因検索と膵腫瘍の精査加療目的にて緊急入院と なった。 入院後、US では膵鈎部に径 38 × 29mm の境界不明瞭な低 エコー腫瘤を認めた。CT では膵鈎部に径 37 × 38×34mm の嚢胞性病 変を認めた。この腫瘍は、単純にて腫瘍内部に淡い高吸収域を含む低 吸収腫瘤を呈していた。造影にて腫瘍の辺縁は増強効果を認めたが、 中心部は増強効果を認めない低吸収域を呈していた。ERCP では副膵 管の分枝から腫瘤への交通が疑われた。乳頭の開大や粘液排出は認め なかった。MRI では、膵鈎部に比較的境界明瞭な類円形な病変を認め た。T1 強調画像では低~淡い低信号を呈し、T2 強調画像では高~ 超高信号を呈していた。造影後、T2 強調画像で高信号を呈した領域 に一致して増強効果を認め、超高信号を呈した領域には明らかな増強 効果は指摘できなかった。採血では、膵内分泌ホルモンは正常であっ た。以上より、非機能性膵内分泌腫瘍、または嚢胞性膵腫瘍の診断に て da Vinci system を用いた亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行し た。病理組織学的所見では、腫瘍内に広範な出血、壊死を伴う膵 Solid pseudopapillary tumor であった。膵 Solid pseudopapillary tumor の一 切除例を経験した。文献的考察を加え報告する。 症例は 52 歳の女性。乳がん検診の二次検査の際に行った造影 CT で膵 体尾部の嚢胞を指摘され、 4 月に当科へ紹介受診となった。採血では CEA、CA19-9 の上昇はなく、その他の値も正常であった。外来で行っ た腹部 US では膵体尾部の嚢胞は描出されず、造影 US でも同様であっ た。しかし、MRI では膵体尾部に 1 mm 大の T1 で low、T2 で high intensity な腫瘤を認め、腫瘤辺縁には小嚢胞性病変を認めた。MRCP では主膵管の拡張・不整は認めなかった。腹部造影 CT では膵体尾部 に造影効果のない mm 大の、やや low density な単房性嚢胞性病変を認 めた。EUS では周囲に Halo を伴った 1 mm 大の充実性腫瘤を認め、辺 縁には小嚢胞を認めた。以上より膵漿液性嚢胞腺腫を疑い、平成 22 年 7 月に膵体尾部切除、脾臓摘出術を行った。病理学的診断では、膵の 腫瘍は結合織性の被膜を有する嚢胞形成性腫瘍で透明な扁平上皮が嚢 胞の内腔を被覆していた。核は小型円形で異型は認めず、漿液性嚢胞 腺腫であった。今回、腹部 US では描出されず、他のモダリティーで存 在を確認できた膵漿液性嚢胞腺腫の 1 例を経験したので文献的考察を 加え報告する。 ― 96 ― 101 膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)術後肝転移再発に対し、肝切 除を施行した 1 例 巨大腹部腫瘤により発見された膵嚢胞性腫瘍の 1 例 済生会松阪総合病院 内科、 2 済生会松阪総合病院 外科 ○吉澤 尚彦 1 、稲垣 悠二 1 、福家 洋之 1 、脇田 喜弘 1 、 橋本 章 1 、清水 敦哉 1 、中島 啓吾 1 、田中 穣 2 、 長沼 達史 2 1 愛知医科大学 消化器内科、 愛知医科大学 消化器外科、 愛知医科大学 病院病理部 ○小林 佑次 1 、田中 創始 1 、石井 紀光 1 、林 伸彦 1 、 佐々木誠人 1 、中尾 春壽 1 、春日井邦夫 1 、米田 政志 1 、 野浪 敏明 2 、高橋恵美子 3 1 102 2 3 症例は 63 歳 女性。腹部に腫瘤を自覚し、当院受診。CT にて膵尾部 に 14cm 大の嚢胞性病変を認めたため、精査加療目的にて入院となる。 膵嚢胞は、大小 2 胞に分けられて皮膜に覆われており、大きなもの の内部に 30mm 大の結節を認め、また小さなものの内部は複数の隔壁 を有していた。造影 CT にて隔壁や皮膜は造影効果を認めた。ERCP や MRI で主膵管と嚢胞には明らかな交通は認めなかった。以上より、 膵 MCN と診断し、膵体尾部切除術を施行。病理結果は、MCN(浸潤 癌)であった。術後 5 ヶ月後、腫瘍マーカーの上昇と、肝 S4 に腫瘤 の出現を認めた。単発の肝転移を疑い、S4 下部分切除を施行。病理で は、Adeno carcinoma であり、MCN の肝転移と考えた。その後、術後 6 年現在に至るまで無再発の経過にて外来フォローとなっている。膵 MCN は、浸潤癌の予後は不良とされる。本症例は、まれな経過である と考えられるため、報告する。 症例は 58 歳女性、高血圧、糖尿病にて近医で経過観察中、腹部腫瘤を 指摘され精査加療目的に当院内科に紹介入院。既往歴は糖尿病、高血 圧、家族歴は母が糖尿病、心臓病。身体所見では左上腹部に膨隆を認 め、表面は平滑で弾性軟の小児頭大の腫瘤を触知。入院時血液検査で は肝胆道系酵素に異常なく、Amy 63IU/l、BS 143mg/dl、HbA1c 5.9% であった。腫瘍マーカーでは CEA 3.6ng/ml、エラスターゼ 1 123ng/ dl、Span-1 18.0U/ml と正常であったが、CA19-9 43.4U/ml、DUPAN2 681U/ml と上昇を認めた。腹部エコーでは膵体尾部に壁肥厚のない内 部もやもやエコーを伴う 15cm 以上の嚢胞性病変が指摘された。造影 CT では膵体尾部に嚢胞壁は整で明らかな壁肥厚のない 15cm×12cm の巨大嚢胞性病変を認めた。内部濃度はほぼ均一で一部に石灰化を伴 う隔壁が見られるが内部に充実成分は見られなかった。造影 MRI では 内溶液は T1 強調画像で中等度高信号、T2 強調画像で高信号を示し、 内部に一部不整形の索状~結節上の構造物が見られるが造影ではエン ハンスされず、その他壁在結節なども見られなかった。ERP では嚢胞 と膵管との交通は見られなかった。また膵管拡張や乳頭の開大、粘液 の排出を認めなかった。腹部血管造影では脾動脈や上腸間膜動脈は腫 瘤による圧排をうけているが、明らかな encasement を認めなかった。 明らかな壁在結節を認めなかったが、隔壁を有する巨大な嚢胞であり 悪性の存在を否定できないため、膵体尾部切除を行った。腫瘤は弾性 軟で周囲への浸潤は認めなかった。嚢胞内容液は出血を伴う茶褐色の 粘液性の内容液であった。嚢胞中 CEA は110000ng/ml であった。病理 組織学的には膵嚢胞壁を裏打ちする細胞は粘液を産生する高円柱上皮 であった。一部に不規則に増殖する腺癌の所見を認めた。明らかな卵 巣様間質を認めなかったため、膵粘液性嚢胞腺癌の疑いとなった。近 年膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)との鑑別が困難な症例の報告を認 めているが、本症例でも鑑別困難であった。今回診断に苦慮した膵嚢 胞性腫瘍を経験したので報告する。 ― 97 ― 食道 103 腹腔鏡下手術を施行した食道裂孔ヘルニアと傍裂孔ヘルニ アを合併した 1 例 104 三重大学医学系研究科 消化管・小児外科、 三重大学医学系 研究科 先端的外科技術開発学 ○石野 義人 1 、川村 幹雄 1 、岩田 崇 1 、安田 裕美 1 、 大井 正貴 1 、田中 光司 1 、毛利 靖彦 2 、楠 正人 1 、 2 1 除しえた 1 例 名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍外科 ○小林真一郎 1 、深谷 昌秀 1 、石黒 成治 1 、板津 慶太 1 、 上原 圭介 1 、高橋 祐 1 、伊神 剛 1 、菅原 元 1 、 角田 伸行 1 、國料 俊男 1 、横山 幸浩 1 、江畑 智希 1 、 梛野 正人 1 2 1 近年、本邦において逆流性食道炎の増加が指摘されており、その原 因として、食道裂孔ヘルニアなどによる胃食道逆流防止機構の破綻が ある。症状として胸やけ、食欲不振などがあり、QOL の低下を生じ る。内科的治療では長期にわたる、継続的な治療が必要になるが、外 科的治療により逆流を防止すれば、以後の逆流症状から開放され、さ らに腹腔鏡手術という低侵襲性治療であれば、大きなメリットとなり うる。今回我々は、共に横隔膜ヘルニアである食道裂孔ヘルニアと傍 裂孔ヘルニアの合併例に対する腹腔鏡下手術を経験したので、若干の 文献的考察を加えて報告する。症例は、79 歳女性。約 1 年前から胸焼 けを認め、2010 年 4 月から食欲不振を認めたため、5 月に近医にて上 部消化管内視鏡検査を受け、食道裂孔ヘルニアと診断された。内服加 療を施行されたが、軽快せず、さらに 3 ヶ月で 13kg もの体重減少を認 めたので、手術目的にて当科紹介となった。上部消化管透視検査を施 行し、upside down stomach を合併した食道裂孔ヘルニアと診断して 腹腔鏡下手術を施行した。術中、後縦隔に入り込んでいた胃穹窿部を 整復し、肝胃間膜・横隔胃間膜を切開して、左右横隔膜脚の開大を確 認した。この時、右横隔膜脚にスプリットを認め、これをヘルニア門 として胃幽門部が後縦隔へ脱出したと考えられた。左右横隔膜脚を縫 縮した後、右横隔膜脚のスプリットを縫合閉鎖し、横隔食道間膜を被 覆固定した。逆流症状を認めていたので、噴門形成を追加した。経過 良好にて、術後第 11 病日退院となった。 105 十二指腸乳頭部癌再発と食道癌に対して 2 期分割手術で切 症例は 69 歳男性。2006 年 4 月十二指腸乳頭部癌に対して内視鏡下 乳 頭 切 除 術 施 行。well.differentiated tubular adenocarcinoma with adenomatous component、oddi 筋への浸潤あり、胆管側断端陽性のた め追加焼灼を 2 回施行した。その後再発なく経過していたが 2009 年 10 月の精査で十二指腸乳頭部癌局所再発と診断された。また同時に門 歯から 31cm に 0‐IIc、T1b、SM、N0 の食道癌も発見された。食道癌、 十二指腸乳頭部癌局所再発に対して根治させるには食道亜全摘、膵頭 十二指腸切除が必要と診断した。手術に際し、食道再建方法が問題に なるが、本症例では術前画像にて膵周囲腫大リンパ節や周囲浸潤所見 が見られなかったので、郭清目的で胃十二指腸動脈を根部で結紮せず に右胃大網動静脈を温存できると判断した。また右胃動脈も温存予定 とした。術後膵液漏により右胃大網動脈からの出血も考慮されたので 胃管血行の流入路・流出路をより確実に温存するため左内胸動静脈と 左胃大網動静脈吻合も併施する予定で胃管再建を予定した。また同時 手術は侵襲が高いので、二期分割手術を予定した。2009 年 12 月 1 期 手術で右開胸食道亜全摘、頚部縦隔リンパ節郭清、食道瘻、胃瘻造設 した。 1 期手術の 40 日後に、 2 期手術で幽門輪温存膵頭十二指腸切 除、胸壁前経路胃管再建、左内胸動静脈と左胃大網動静脈吻合を施行 した。術後経過は、膵腸縫合不全、頚部食道胃管吻合部縫合不全をお こしたが保存的に軽快した。また右自然気胸をおこし保存的に軽快せ ず、胸腔鏡補助下ブラ切除施行した。 1 期的手術後から 118 日目に退 院した。病理組織検査結果は、食道癌は SCC、pT1a-MM、INFβ 、ly0、 v0、pIM0、pPM0、pDM0、pRM0、pN0 であった。十二指腸乳頭部癌 は well differentiated tubular adenocarcinoma、ly0、v0、pn0、patAc、 m、pPanc0、pDu0、pN0、pEM0 であった。現在再発なく外来通院中 である。十二指腸乳頭部癌再発と食道癌に対して 2 期分割手術で切除 しえた 1 例を経験したので報告する。 106 当院におけるバレット食道癌 9 例の検討 名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学、 2 名古屋大学医 学部附属病院光学医療診療部 ○鶴留 一誠 1 、宮原 良二 2 、坂野 閣紀 1 、舩坂 好平 1 、 坂巻 慶一 1 、立松 英純 1 、古川 和宏 1 、田中 努 1 、 中村 正直 1 、川嶋 啓揮 1 、伊藤 彰浩 1 、大宮 直木 1 、 廣岡 芳樹 2 、渡辺 修 1 、前田 修 1 、安藤 貴文 1 、 後藤 秀実 1 若年男性に生じた低分化型食道腺癌の 1 例 愛知県厚生連 海南病院 消化器科 ○荒川 直之 1 、青木 孝太 1 、阿知波宏一 1 、久保田 稔 1 、 石川 大介 1 、國井 伸 1 、渡辺 一正 1 、奥村 明彦 1 1 1 【目的】欧米では食道癌の約半数をバレット食道由来と考えられる食 道腺癌が占めており、今後本邦でもバレット食道癌が増えてくること が予想される。今回我々は当院におけるバレット食道癌の臨床・病理 学的な特徴および治療の現状を明らかにすることを目的に検討を行っ た。 【方法】2006 年 1 月から 2010 年 8 月までに当院でバレット食道癌 と診断し治療を行った 9 例を対象とした。年齢、性別、症状、食道裂 孔ヘルニア・逆流性食道炎の合併、背景バレット粘膜、胃粘膜萎縮、腫 瘍の占拠部位・局在、肉眼型、分化度、深達度、リンパ節転移、予後 につき検討した。 【成績】年齢は 40~74 歳(平均 59.2 歳) 、男性 8 例、 女性 1 例であった。症状は検診異常が 6 例、嚥下困難が 2 例、前胸部 痛が 1 例であった。食道裂孔ヘルニアの合併は 7 例(77.8%) 、逆流性 食道炎の合併は 4 例(44.4%)であり、背景バレット粘膜は LSBE が 3 例、SSBE が 6 例であった。胃粘膜萎縮は全例において軽度(木村・ 竹本分類の Close type 1 ~ 3 )であった。主占拠部位は Ae が 5 例、 Lt が 4 例であり、局在は右側壁 3 例、前壁 3 例、左側壁 1 例、全周 性 2 例であった。肉眼型は 0 -IIa 型 2 例、 0 -IIa + IIc 型 1 例、 0 -IIc 型 1 例、2 型 2 例、3 型 3 例であった。治療は全例手術を施行した。 組織型は分化型が 5 例、未分化型が 4 例であった。深達度は M 1 例 (MM 1 例) 、SM 3 例 (SM1 1 例、SM3 2 例) 、MP 1 例、AD 3 例、AI 1 例であり、リンパ節転移は 4 例に認めた。表在癌であった 4 症例では全例リンパ節転移を認めなかったが、深達度が MM・SM1 であった 2 症例ではリンパ管侵襲を認めなく、深達度が SM3 であっ た 2 症例ではともにリンパ管侵襲を認めた。予後は原病死が 2 例、他 病死が 1 例、無再発生存中が 6 例であった。 【結論】食道裂孔ヘルニ アの合併が多く、胃粘膜萎縮は軽度であり、食道の右前方向に好発す る傾向を認めた。組織型では未分化癌を 4 例に認めたが、そのうち 2 例は原病死しており、高分化癌と比較し予後不良であった。表在癌で はリンパ節転移を認めず、MM・SM1 の症例にてリンパ管侵襲を認め ないことから、術前深達度 sm1 までのバレット食道癌では内視鏡治療 が有用と考えられた。 症例は 34 歳男性。生来健康で喫煙 15 本 / 日× 15 年、飲酒は機会飲酒 のみ。胸部のつかえ感を主訴に近医受診し、PPI を処方されたが症状 は改善しなかった。このため当院を受診し、当院にて上部消化管内視 鏡検査を施行した。門歯より 34-38cm、食道胃接合部口側に 3/5 周を 占める 3 型腫瘍を認めた。逆流性食道炎、Barrett 上皮は認められな かった。病理診断では、CK7(+) 、CK20(-) 、CEA(+)であり低 分化腺癌と診断された。腫瘍マーカーは CEA:11.8ng/ml、CA19-9: 74U/ml と上昇を認め、CT では、噴門部周囲リンパ節・傍大動脈リン パ節の腫大、肝転移を認めた。以上より低分化型食道腺癌 T3N4 M1 、 stage4b と診断し、放射線化学療法( 5 FU+CDDP)を開始した。現 在 6 コース終了し、原発巣は縮小、腫瘍マーカーも低下しているが肝 転移巣の増大、腹腔内リンパ節の増大が認められている。本症例は 34 歳という若年者に発症した食道腺癌という稀な症例と考えられる。食 道腺癌の多くは Barrett 腺癌であり、本症例も発生部位を考慮すると Barrett 腺癌の可能性もあるが、食道固有腺より発生する腺癌も報告さ れており、慎重な判断が必要である。 ― 98 ― 107 食道小細胞癌の一例 国家公務員共済組合連合会 東海病院 内科、 2 名古屋大学大 学院医学系研究科 消化器内科学 ○三宅 忍幸 1 、安藤 貴文 2 、石黒 和博 2 、前田 修 2 、 渡辺 修 2 、日比 知志 2 、神谷 徹 2 、三村 俊哉 2 、 氏原 正樹 2 、中村 正直 2 、宮原 良二 2 、大宮 直木 2 、 後藤 秀実 2 1 症例は 52 歳男性。既往歴、家族歴に特記すべきことなし。喫煙歴 は 30 本/日× 30 年、飲酒歴は 1 合/日× 30 年であった。毎年胃検診 は受診していた。2006 年の胃検診にて食道異常を指摘され近医を受 診した。上部消化管内視鏡検査にて食道腫瘍を指摘され 9 月 4 日当 院紹介受診し、 9 月 7 日精査加療目的にて入院となった。上部消化 管内視鏡検査にて門歯より約 30cm 左側壁から前壁側に 1/4 周ほどの 長径約 4 cm の 2 型腫瘍を認めた。生検病理組織検査では small cell carcinoma であった。頚胸腹部 CT 検査、頭部 MRI 検査、骨シンチグラ フィー上は遠隔転移所見を認めなかった。超音波内視鏡では腫瘍最深 部で外膜の断裂を認め 2 群リンパ節に転移が疑われた。食道原発小細 胞癌と診断し、肺小細胞癌に準じた CDDP、ETP による化学療法併用 放射線治療を行ったところ原発巣は CR となった。しかしながらその 後腹腔内リンパ節転移が出現し、化学療法を CPT11 に変更したが、病 状が悪化、消化管穿孔を来たし2007年 6 月12日に御他界された。食道 小細胞癌は食道癌の 1 %といわれている。食道小細胞癌に対する治療 法は確立されておらず、今後症例を重ね治療法の確立が望まれる。今 回我々は比較的稀とされる食道原発の小細胞癌の 1 例を経験したので 若干の文献的考察を加えて報告する。 ― 99 ― その他 108 109 IVR にて救命しえた上腸間膜動脈閉塞症の 1 例 た一例 刈谷豊田総合病院 消化器内科、 刈谷豊田総合病院 病理科 ○大森 寛行 1 、仲島さより 1 、井本 正己 1 、浜島 英司 1 、 中江 康之 1 、今田 数実 1 、松山 恭士 1 、濱宇津吉隆 1 、 松井 健一 1 、村瀬 和敏 1 、小川 裕 1 、鈴木 敏行 1 、 伊藤 誠 2 1 2 1 愛知県厚生連 海南病院 消化器科 ○鈴木雄之典 1 、阿知波宏一 1 、荒川 直之 1 、青木 孝太 1 、 久保田 稔 1 、石川 大介 1 、國井 伸 1 、渡辺 一正 1 、 奥村 明彦 1 【症例】81 才、男性。既往歴は左上腕動脈閉塞症、狭心症、心房細動、 高血圧症、塵肺で、ワーファリン内服中。平成 22 年 6 月 13 日 15 時に 突然の腹痛、冷汗、新鮮血下血が出現し、6 月 14 日 6 時に当院救急外 来を受診した。血液検査では、WBC18200μ /ml、CRP0.42mg/dl と炎症 反応の上昇、LDH298U/l と軽度逸脱酵素の上昇を認めた。造影 CT で は、上腸間膜動脈(以下 SMA)の不完全閉塞、腸管の壁肥厚と液体貯 留を認めたが、明らかな腸管壊死は認めなかった。以上より SMA 閉塞 症と診断し入院、循環器科と協議の上、基礎疾患もあるため、手術より 低侵襲で血行動態の把握が可能な IVR を選択した。SMA は右結腸動 脈より抹消から血栓で不完全閉塞し、末梢から逆行性に枝は細々と造 影された。 6 Fr ガイディングカテーテルを SMA 根部に挿入し、血栓 除去用カテーテル等で吸引したが困難で、ウロキナーゼ、ヘパリンを 動注し、ガイディングカテーテルを SMA 閉塞部まで挿入したところ、 暗赤色の粥状血栓を吸引できた。SMA 本幹の血栓は消失し、末梢の枝 は順行性の血行となった。病理ではフィブリン血栓であった。ICU 入 室し、ウロキナーゼを動注し、ヘパリンも持続投与とした。第 2 病日 の CT では SMA は末梢まで造影され、腸管壊死も認めなかった。第 3 病日に ICU 退室した後はワーファリン内服を再開し、第 15 病日退院、 その後は現在まで経過良好である。【考案】SMA 閉塞症の血行再建で は、手術以外に低侵襲な IVR も適応である。陳旧性血栓で吸引できな い場合でも血行動態の把握が可能であり、術前評価にもつながると考 えられる。血行再建の Golden time は一般的には 6 ~ 8 時間といわれ ている。本症例は発症後 15 時間が経過していたが、側副血行路が形成 されていたため腸管壊死に至らず救命しえたと考えられた。このこと から発症からの時間に固執せず、血行動態を把握し、各科と協議しな がら治療を選択していくことが必要であると考えた。【結語】IVR にて 救命しえた上腸間膜動脈閉塞症の 1 例を経験した。(若手) 110 巨大腹部内臓動脈瘤に対してコイルによる塞栓術を施行し 今回我々は巨大な腹部内臓動脈瘤に対してコイルによる塞栓術が有効 であった症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。症例は 81 歳の男性で、2000 年から高血圧、脳梗塞にて加療中。収縮期血圧が 140~150mmHg とコントロールやや不良であった。2010年 7 月頃より を心窩部の鈍痛を自覚していたため近医受診した。腹部単純 CT にて、 膵頭部背側に 7 cm 大の石灰化を伴う腫瘤が認められため、当院紹介受 診となった。当院受診時腹痛は消失していた。腹部ダイナミック造影 CT では、膵頭部背側に 7 cm × 5 cm の動脈相で濃染する腫瘤がみら れ、腫瘤の腹側 1/3 が強く造影されて血流が確認された。これらの結 果より動脈瘤と診断した。入院後に施行した腹部血管造影検査では、 上腸間膜動脈造影にて胃十二指腸動脈の枝より脾動脈が描出し逆行性 に動脈瘤の一部が描出された。腹腔動脈は描出可能であったが、胃十 二指腸動脈は逆行性の血流のため描出はされなかった。下腸間膜動脈 造影にて動脈瘤が描出され脾動脈へと流出していることが確認できた ため、動脈瘤の流入血管は下腸間膜動脈、流出血管は脾動脈と診断し、 コイルによる塞栓術を施行した。術後経過は良好で、術後 2 週目に施 行した造影 CT では動脈瘤は血栓化し造影効果を認めなかった。腹部 内臓動脈瘤は剖検例で 0.1 %から 10 %の頻度とされており比較的稀な 疾患である。発生部位として頻度が高いのは脾動脈であり40%~60% を占める。治療としては開腹術と血管内治療とあるが、近年ではより 侵襲性の低い血管内治療が優先される傾向となっている。腹部内臓動 脈瘤は径 2 cm を超えると破裂の危険があり破裂した場合重篤となり 緊急の治療を要する疾患であるため、鑑別診断を行う上で念頭に置い ておくことが大切である。 111 巨大後腹膜腫瘍の 5 切除例 藤田保健衛生大学 肝脾外科 ○長崎 宏則 1 、加藤悠太郎 1 、香川 幹 1 、吉田 淳一 1 、 棚橋 義直 1 、所 隆昌 1 、杉岡 篤 1 腹腔鏡下に切除した脾原発炎症性偽腫瘍の 1 例 山田赤十字病院 外科 ○奥田 善大 1 、楠田 司 1 、宮原 成樹 1 、高橋 幸二 1 、 松本 英一 1 、藤井 幸治 1 、藤永 和寿 1 、山岸 農 1 、 村林 紘二 1 1 1 後腹膜腫瘍は比較的まれな腫瘍で、多くは悪性であり外科的切除以外 に有効な治療法に乏しい。とくに巨大後腹膜腫瘍は周囲臓器への浸 潤や surgical margin 確保のため、他臓器合併切除を要することも多 く、手術適応の決定や術式選択に難渋する症例が多い。今回 5 例の巨 大後腹膜腫瘍切除例を報告する。症例 1:74 歳、男性。以前に他院で 6.5kg の後腹膜脂肪肉腫に対して腫瘍切除、右結腸切除、右腎摘を施行 したが、下大静脈・大動脈間に再発した。胃全摘、脾膵体尾部合併切 除により 4.5kg の腫瘍を摘出した。術後無再発であったが、術後 5 年 9 ヶ月で転落外傷後の多臓器不全で死亡した。症例 2:21 歳、男性。 Neurofibromatosis type1 に合併した巨大後腹膜腫瘍。腹部大動脈合併 切除再建により2.2kg の腫瘍を摘出。病理診断は Triton 腫瘍で、補助化 学療法を施行したが、術後 1 年 5 ヶ月で肺転移で死亡した。症例 3: 67 歳、女性。下大静脈を圧排する後腹膜腫瘍で下大静脈合併切除によ り 3.7kg の腫瘍を摘出した。病理診断は異所性褐色細胞腫。術後 2 年 10ヶ月で骨転移で死亡した。症例 4:73 歳、女性。急速に増大する多 房性嚢胞性腫瘍で、左腎・副腎・脾膵体尾部合併切除により 3.2kg の 腫瘍を摘出した。病理診断は多形性平滑筋肉腫。術後 1 年で局所再発 で死亡した。症例 5:84 歳、女性。14cm 大の右後腹膜腫瘍で、周囲の 右腎、尿管、肝、下大静脈を圧排していたが剥離可能であり、2.9kg の 腫瘍を摘出した。病理診断は脂肪肉腫。術後 8 ヶ月で十二指腸、下大 静脈、腎門部浸潤を疑う巨大腫瘍として局所再発し、再切除予定であ る。巨大後腹膜腫瘍は外科的切除により生存期間の延長、QOL の改善 に寄与しうるが、下大静脈や大動脈、腎などの主要後腹膜臓器への癒 着、浸潤を伴う症例は手術の難易度が高く、適応と術式の決定に注意 を要する。 炎症性偽腫瘍;inflammatory pseudotumor(IPT)は組織学的に非特 異的炎症細胞浸潤と間葉系組織の修復像に特徴づけられる良性の結節 性病変であり、脾原発のものは稀である。今回、われわれは本症に対 して、腹腔鏡下脾臓摘出術を行った 1 例を経験したので、若干の文献 的考察を加え報告する。症例は、59 歳男性。高血圧および陳旧性心筋 梗塞にて当院循環器科を定期受診中、腹部 US にて脾臓に境界明瞭で 内部均一な径 30mm 大の hypoechoic mass を指摘される。その 6 か月 後に施行された腹部 CT にて腫瘍径の増大を認めたため、手術目的に 当科紹介となる。脾腫瘍は造影 CT にて漸増型の増強効果を伴う low density mass として描出され、Ga シンチで異常集積を認めなかった が、FDG-PET では腫瘍に一致して suv3.6 の FDG 集積を認めた。原発 性脾腫瘍の術前診断に対し、診断的意義を含めて腹腔鏡下脾臓摘出術 を施行した。術中出血量は 94ml、手術時間は 108 分であった。病理組 織学的には、脾腫瘍は径2.8×2.7×3.0mm の比較的境界明瞭な結節性病 変であり、その中心部は線維化・硝子化が目立ち、辺縁部は細胞性と なり、形質細胞を主体とする炎症細胞浸潤を認め、脾原発 IPT と診断 された。術後は合併症なく良好な経過をたどり、術後 9 日目に退院と なった。本症は術前診断が困難な上、脾臓摘出に診断と治療が委ねら れているため、低侵襲な腹腔鏡下脾臓摘出術が有用であると考えられ た。 ― 100 ― 112 術前の CT で診断し得た魚骨消化管穿孔による腹腔内膿瘍 の1例 1 名古屋第一赤十字病院 ○澤田つな騎 1 、春田 純一 1 、山口 丈夫 1 、伊東 輝朋 1 、 西野 正路 1 、平山 裕 1 、山 剛基 1 、中村 一平 1 、 小林 寛子 1 、佐藤亜矢子 1 、水谷 泰之 1 【症例】70 歳代、女性【主訴】腹痛、発熱【既往歴】C 型慢性肝炎、高 脂血症、高血圧症、腹部大動脈瘤【現病歴】平成 22 年 6 月 14 日ころか ら腹痛が出現し、翌日より 39 ℃台の発熱が持続していた。 6 月 18 日に 発熱と腹痛が持続するために当科を受診し、入院となった。【現症】体 温 37.8 度、左側腹部に限局する腹膜刺激症状を認めた。【検査所見】血 液検査では CRP12.5mg/dl、白血球10900/μ l と炎症反応を認めた。腹部 CT では左側腹部の腹壁に接して、被膜を伴う長径18mm の低吸収域が みられ、周囲に脂肪織濃度の上昇も認められた。内部には高吸収の線 状陰影を認めた。超音波検査では膿瘍内に高エコーの線状影がみられ た。大腸内視鏡検査では異常所見は認めなかった。【入院後経過】前述 の検査により、魚骨の消化管穿孔による腹腔内膿瘍と診断した。全身 状態が良好であり、腹部症状も限局的であったことから、まずは抗生 剤による保存的治療を行った。第 4 病日まで 38 ℃台の発熱が続き、改 善を認めないため、内科的治療は限界と判断し、同日に開腹術を施行 した。手術所見では膿瘍は treitz 靭帯から 110cm 肛門側の空腸に癒着 し、大網に包まれており、膿瘍切除と小腸部分切除術を施行した。手 術標本では白色の膿汁内に長さ 25mm の魚骨を認めた。術後経過は良 好で、第 13 病日(術後 9 日目)に退院された。【考察】腹腔内膿瘍は 従来、外科治療が第一選択となっているが、術前に確定診断が得られ た場合は、臨床症状や全身状態が許せば内視鏡的治療や保存的治療の 可能な症例もあるため、術前での診断が重要であると考えられる。今 回、術前に診断し得た魚骨による腹腔内膿瘍の 1 例を経験したため、 文献的考察を加えて報告する。 ― 101 ― 胆 113 114 Lemmel 症候群に対して内視鏡的治療が奏功した 1 例 トヨタ記念病院 消化器科、 2 トヨタ記念病院 消化器外科 ○宇佐美彰久 1 、篠田 昌孝 1 、高士ひとみ 1 、鈴木 貴久 1 、 村山 睦 1 、内山 功子 1 、遠藤 伸也 1 、辻 秀樹 2 厚生連いなべ総合病院 消化器内科 ○平松 将人 1 、伊藤 康司 1 、片野 晃一 1 、落合 敏弘 1 、 竹園 康秀 1 、埜村 智之 1 【はじめに】十二指腸は消化管憩室好発部位であり、通常無症状で経過 することが多い。しかし、傍乳頭憩室が肝胆道系や膵障害を引き起こ すことがあり、Lemmel 症候群と称している。治療は、内視鏡的治療 や外科的治療等が選択されているのが現状である。今回我々は、傍乳 頭憩室内の食物残渣が原因で Lemmel 症候群を発症した一例を経験し たので報告する。 【症例】72 歳女性。心窩部痛を訴え近医受診。肝機能 とアミラーゼ高値にて紹介受診となった。来院時検査結果は、WBC/ CRP 10200/0.5 GOT/GPT 2153/997 ALP/γ -GTP 722/320 AMY 2221 T-Bil 1.7。CT、MRCP にて十二指腸憩室拡大と膵頭部圧排像、肝内胆 管と上中部総胆管の拡張、胆道系の明らかな結石なし。Lemmel 症候 群を疑い、精査加療目的で入院となった。第一病日、GIF、ERCP 施 行。Vater 乳頭部付近に憩室内に黄色調の残渣貯留物あり。ジェット、 バスケットにて除去。第六病日、DIC-CT にて乳頭開口部を確認。残渣 貯留物除去後、腹痛、肝機能、アミラーゼともに改善し、第 10 病日退 院となった。【考察】本邦で用いられる Lemmel 症候群の定義には一部 混乱があるが、 「傍乳頭憩室が存在し、それが原因で肝、胆道系、膵の いずれか一つにおける合併症を有するもの」とすることが多い。その 病態は憩室による総胆管と膵管の圧迫や憩室炎に伴う Oddi 括約筋の 機能低下、それに伴う胆汁と膵液の排出障害と考えられている。我々 は、十二指腸傍乳頭憩室が膵内胆管を圧迫することによる Lemmel 症 候群と診断した。胆道系結石を伴わない症例を Lemmel 症候群とする 考え方もあり、この点でも本症例の診断は妥当である。今回は、憩室 内貯留物除去により軽快を認めたが、今後反復する残渣貯留による憩 室炎、閉塞性黄疸の起こる可能性も十分考えられ、憩室の存在が病因 の根本であり、埋没、切除、形成といった憩室自体に対する外科的処 置も考慮する必要があると考えられる。一方で、Lemmel 症候群は良 性疾患であり、乳頭部処置に伴い膵胆管系損傷に起因する合併症が起 こる可能性があるため、症例毎の安全かつ有効な治療法の選択が重要 であると考えられる。 115 Bouveret 症候群の 1 例 1 1 【症例】63 歳、男性。 【既往歴】1992 年うつ病、2004 年双極性障害【現 病歴】2007 年 10 月、 1 週間持続する嘔吐、食思不振を主訴に外来受診 し翌日精査加療のため入院となった。 【身体所見】栄養体格中等度。体 温 36.7 ℃、血圧 105/76mmHg、脈拍 120/ 分。心窩部に軽度圧痛あり。 【検査所見】WBC/ 7100μ l、Hb13.2g/dl、Plt 39.2×10 4 / μ l、AST21U/ l、ALT16U/l、Alp311U/l、γ -GTP25U/l、BUN24mg/dl、Cr0.9mg/dl、 T.Bil 0.6mg/dl、CRP3.0mg/dl、CEA1.7ng/ml、CA19-9 6U/ml。腹部 CT:収縮した胆嚢内に air 像、十二指腸に 2 cm の石灰化、胃の著明な 拡張を認めた。 【経過】経鼻胃管挿入、絶飲食、中心静脈栄養を開始し た。第 12 病日上部消化管内視鏡では、幽門輪に黒緑色の結石が嵌頓し ており、球部には潰瘍を認めた。球部より造影を行うと、壁外に胆嚢 と思われる造影剤の貯留を認めた。以上の結果より胆石イレウス、胆 嚢十二指腸瘻と診断した。内視鏡的な結石破砕、除去を試みたが不成 功だった。胆嚢十二指腸瘻は、第 33 病日内視鏡下でクリッピングを施 行し縫縮した。第 55 病日、開腹にて胃より径 6 cm× 4 cm× 2 cm の 結石を摘出した。術前の UGI で胆嚢十二指腸瘻の閉鎖が確認できてお り、十二指腸との癒着も予想されたため手術侵襲を考慮して胆嚢摘出 術は行わなかった。術後は経口摂取良好であり、 2 週間で退院となっ た。 【考察】胆石イレウスは比較的稀であり、中でも胆嚢十二指腸瘻を 形成し十二指腸球部に結石が嵌頓する症例は Bouveret 症候群とよば れ、報告例は少ない。【結語】Bouveret 症候群の 1 例を経験した。内 視鏡的な結石除去を試みたが不成功であり、手術治療にて結石を摘出 した。 116 胆嚢小細胞癌の 1 例 名古屋掖済会病院 消化器科 ○佐橋 学 1 、神部 隆吉 1 、大橋 暁 1 、岩田 浩史 1 、 泉 千明 1 、安田真理子 1 、北洞 洋樹 1 、西川 貴広 1 、 山本眞理子 1 1 閉塞性黄疸で発症し経過中に高カルシウム血症を認めた肝 門部胆管扁平上皮癌の 1 例 1 名古屋記念病院 消化器内科 ○宮良 幸子 1 、近藤 啓 1 、内田 元太 1 、伊藤 亜夜 1 、 鈴木 重行 1 、神谷 聡 1 、山内 学 1 胆嚢小細胞癌の 1 例名古屋掖済会病院 消化器科佐橋学、西川貴広、 山本眞理子、北洞洋樹、泉千明、安田真理子、岩田浩史、大橋暁、神 部隆吉【症例】71 歳女性【既往歴】特になし【現病歴】平成 22 年 4 月初旬から腰痛あり、近医で神経ブロックなど治療を受けるも改善せ ず。3 週間で10kg の体重減少もみられた。4 月13日痛みのため動けな くなり当院救急外来を受診された。【検査所見】腹部 CT にて腹腔動脈 周囲から大動脈周囲にかけて著明なリンパ節腫大を認めた。また胆嚢 内に複数の結石を認め、一部胆嚢壁の肥厚を認めた、肝 S5 に 3 cm 大 の腫瘤を認め、転移性腫瘍と考えられた。血液検査は CEA 6.6、CA199 98.1、sIL-2R 651、Hb 9.2、LDH 858 で軽度貧血と腫瘍マーカーの軽 度上昇、LDH 高値が認められた。原発巣検索のため上部・下部消化管 精査を行ったが異常所見を認めなかった。悪性リンパ腫を疑い当院外 科にて開腹リンパ節生検が施行された。同時に胆嚢摘出術も施行され た。【病理所見】胆嚢およびリンパ節はともに中等大で高度の核異型を 示す腫瘍細胞がびまん性に増殖する像が認められた。免疫組織学的検 索にて CD3 、CD20 は陰性、ケラチンがごく一部陽性であった。さら なる検索にて CD56 陽性、EMA、LCA、CEA 陰性で小細胞癌と考え られた。以上より胆嚢小細胞癌の多発リンパ節転移・肝転移と診断し た。【臨床経過】手術前から腰痛に対してオピオイドを使用して疼痛コ ントロールを施行していたが、術後疼痛増悪、経口摂取も不良であっ た。病理結果が判明し 5 月 19 日消化器科転科となったが、急速に病状 悪化しわずか 1 週間で永眠された。【まとめ】多発転移をともなった 胆嚢小細胞癌の 1 例を経験した。診断がついた段階ですでに末期の状 態であり、治療を行うことができなかった。診断がおくれたのが悔や まれる症例である。 【症例】72 歳男性。 【主訴】黄疸。 【既往歴】胆石症術後。 【現病歴】AV ブロックでペースメーカーを挿入後、当院循環器内科に通院してい た。2009 年 12 月 1 日黄疸を指摘され、当科紹介入院。腹痛や発熱な し。 【入院時検査所見】AST 216 IU/l、ALT 406 IU/l、γ GTP 615 IU/ l、T.Bil 8.0 mg/dl、D.Bil 5.9 mg/dl、Amylase 96 IU/l。腹部エコーで は、肝門部で胆管が狭小化し左右の肝内胆管は拡張していた。腹部造 影 CT では、エコー所見に加えて、明らかな肝転移は認めなかったが、 肝門部および大動脈周囲のリンパ節腫大を認め転移を疑った。【入院 後経過】12 月 7 日 ERCP 施行、肝門部胆管での閉塞と診断し、左右胆 管に ERBD を挿入。このときの胆汁細胞診および胆管生検より扁平上 皮癌と診断。全身の検索を行ったが、明らかな原発巣を認めず、胆管 原発と考えた。他院へセカンドオピニオンに相談されたが、その際の PET-CT で縦隔リンパ節および多発肝転移も認め、最終的に当院での 治療を希望された。2010 年 1 月 8 日 CEA 11.3 ng/ml、CA19-9 4607 U/ml、SCC 108.5 ng/ml。ERBD 挿入後も減黄不良で、胆管炎を繰り返 し、1 月25日 Ca 11.3 mg/dl と上昇を認め、PTHrp-intact が 12.9 pmol/l と高値で腫瘍との関連が示唆された。化学療法を行うことなく進行増 悪し、2 月 9 日死亡された。剖検を得られなかったが珍しい症例であ り文献的考察を踏まえ報告する。 ― 102 ― 117 十二指腸浸潤での瘻孔形成により自然減黄した下部胆管癌 の1例 118 山田赤十字病院 消化器科 ○黒田 幹人 1 、杉本 真也 1 、山本 玲 1 、山村 光弘 1 、 大山田 純 1 、川口 真矢 1 、亀井 昭 1 、佐藤 兵衛 1 、 福家 博史 1 春日井市民病院 消化器科、 2 春日井市民病院 外科 ○杉田 裕輔 1 、立松有美子 1 、尾関 貴紀 1 、加藤 晃久 1 、 松波加代子 1 、片野 敬仁 1 、望月 寿人 1 、坂本 知行 1 、 高田 博樹 1 、祖父江 聡 1 、伊藤 和幸 1 、山口 竜三 2 、 金井 道夫 2 1 症例は 72 歳男性。平成 22 年 6 月、健診にて肝酵素の上昇を指摘さ れ近医を受診し、腹部 US で胆道拡張を認めたため当院紹介入院と なった。入院時血液検査で軽度の黄疸と肝胆道系酵素の上昇および CEA10.8ng/ml、CA19-9 1271 U/ml と腫瘍マーカーの増加を認めた。 腹部 CT では膵頭部中心に不均一に造影される径 4 cm 大の腫瘤を認 め、十二指腸への浸潤と一部胆管内への露出が疑われた。また、胃十 二指腸動脈は狭窄していたが腹腔動脈から肝動脈及び門脈系には浸潤 所見を認めず、明らかな肝・リンパ節転移も認めなかった。MRCP に て腫瘤は T1 やや low、T2 やや high であり総胆管は下部で不整に閉塞 していたが、主膵管に異常所見は認めなかった。ERCP 施行時、十二 指腸乳頭よりやや口側に周辺粘膜の引きつれを伴う Borr2 型の病変を 認め、生検では adenocarcinoma が検出され腫瘍細胞は主に粘膜下に存 在していた。また膵管造影で異常所見は認めなかったが、胆管は造影 不能であった。EUS では腫瘤はやや low echoic で境界明瞭かつ不整形 であり、下部総胆管で内腔に露出していた。入院後 T-Bil 6.1mg/dl 迄上 昇したため PTBD を予定したがその後 1.7mg/dl に減少し、US にてそ れまで認められていた胆道拡張が消失していた。消化管への瘻孔形成 による減黄を考え上部消化管内視鏡検査を行ったが可視範囲に胆汁の 流出は確認できなかった。しかし後日、診断目的で挿入した PTBD 下 の造影で腫瘍による狭窄部から十二指腸への造影剤の流出が確認され た。以上より膵頭部及び十二指腸浸潤による瘻孔形成を来たした下部 胆管癌(Stage4a)と診断し、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術、上腸間 膜静脈再建術、横行結腸合併切除術を施行した。病理学的には下部胆 管原発の adenosquamous carcinoma で膵頭部、十二指腸、上腸間膜静 脈、横行結腸の一部への浸潤とリンパ節転移を認めた。十二指腸への 瘻孔形成により自然減黄した下部胆管癌は比較的稀と考え報告する。 119 胆管癌と鑑別を要した IgG4 関連硬化性胆管炎の 1 例 1 【症例】78 歳、男性。 【主訴】腹部エコー異常。 【現病歴】糖尿病・高血 圧・腹部大動脈瘤・軽度肝機能障害にて近医フォローアップされてい た。平成21年10月 3 日、腹部大動脈瘤フォロー目的で同院にて腹部エ コー施行、総胆管径 10mm と拡張し内部に充実性エコーを認め、胆管 癌を疑い当院外科へ紹介受診となった。腹部 CT で肝外胆管に広い範 囲で壁肥厚があり、膵は全体的に厚く腫大し膵体尾部で不整な主膵管 拡張を認めた。画像上、自己免疫性膵炎の合併を考慮し、胆管病変の 良悪性診断目的で当科紹介となった。MRCP・ERCP では肝外胆管で 広い範囲に壁不整あり狭窄は中部胆管で最も強かった。主膵管は膵頭 部から体部にかけて 4 cm 程の範囲で狭窄を認めた。IDUS では肝外胆 管の壁肥厚を認めるが、壁の層構造は保たれていた。胆汁細胞診、狭 窄部の経乳頭的生検及びブラシ細胞診では悪性所見を認めなかった。 IgG 2534、IgG4 1410 であり、自己免疫性膵炎を伴った IgG4 関連硬 化性胆管炎と診断し、11 月 11 日から PSL 内服治療を開始した。現在、 PSL 漸減し、外来で経過観察を行っているが、採血・画像所見共に増 悪は認めていない。【結論】IgG4 関連硬化性胆管炎は最近症例の報告 が多いが、胆管癌との鑑別が重要で依然疑診により手術に至るケース があり、症例の蓄積のため報告する。 IgG4 関連硬化性胆管炎の 1 例 藤田保健衛生大学 肝胆膵内科、 2 藤田保健衛生大学病院 病 理部 ○村尾 道人 1 、吉岡健太郎 1 、橋本 千樹 1 、川部 直人 1 、 原田 雅生 1 、新田 佳史 1 、中野 卓二 1 、嶋崎 宏明 1 、 有馬 裕子 1 、黒田 誠 2 1 症例:70 歳、女性。主訴:発熱。現病歴:2009 年 12 月に 40 ℃の熱発 が 2 回あった。2010 年 1 月に行った健診で肝障害を指摘されたため、 近医受診した。腹部 US、CT で胆管壁の肥厚を認めたため当科紹介と なった。腹部 US では肝外胆管の壁肥厚を認めるも、壁の層構造は保 たれていた。膵臓には異常所見は認めなかった。ERCP では肝外胆管 の壁硬化像および肝内胆管の多発狭窄像を認めた。経乳頭的胆管生検 の病理所見では悪性像は認めず、高度の炎症細胞浸潤を認めた。免疫 組織化学的に IgG4 陽性細胞も認めた。また血液中の IgG4 も 262mg/ gl に上昇しており、IgG4 関連硬化性胆管炎と診断しステロイド治療を 開始した。現在ステロイドを漸減中である。膵疾患を伴わない IgG4 関 連硬化性胆管炎につき若干の文献的考察を加え報告する。 ― 103 ―
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