R1-13 3Dレーザースキャナを用いた斜面から渓岸における地形変化量

R1-13
' レーザースキャナを用いた斜面から渓岸における地形変化量評価の試み 東京農工大学大学院 農学府 ○平岡真合乃・五味高志
サンコーコンサルタント株式会社 保坂俊明
神奈川県 自然環境保全センター 内山佳美
1.背景
山地流域における土砂動態の定量的な評価は,砂防計画や土砂管理の重要な情報である。流域の土
砂動態は,斜面からの生産土砂が水系を経て系外へ流出する過程で,移動と滞留を繰り返しながら輸
送されている(清水,1998)。従来は,横断測量などによる代表断面の地形形状計測から土砂移動量の
算出が行われてきた。これらの手法では,土砂の堆積状況把握などの面的な不均一性を評価すること
が可能であるが,時間と労力を要し,観測頻度に制限が生じる。さらに,土砂移動現象に関する種々
の素過程を検討するためには,降雨前後などの変化を評価できる時間分解能のより細かい手法が必要
と考えられる。そこで本研究では,斜面から渓岸付近の土砂動態の定量的な把握に向けて,3D レーザ
ースキャナを用いた地形計測を行って,二時期の計測結果の比較による地形変化量の把握を試みた。
2.方法
2.1 研究対象地
研究対象流域は神奈川県丹沢山地大洞沢流域内に位置する流
域 No.3(7.0 ha)とした(図‐1)。年平均気温と年平均降水量
はそれぞれ 12°C,約 3,000 mm である。基岩は風化した堆積岩
で,流域内の平均傾斜は 36° である。流域内の総流路長は 627 m
で,そのうち裸地斜面に面している流路長は 191 m であった。
2.2 現地地形計測
流域内の土砂生産源である裸地斜面と隣接する河道(斜面脚
部と渓岸部を含む幅およそ 15 m,全長およそ 50 m の区間)を
対象として,3D レーザースキャナを用いた地形計測を行った。
3D レーザースキャナ(GLS-1500,株式会社トプコン,東京)
により,対象物までの距離,受光強度および角度を 3 箇所(T3
~T5)で取得した。現地計測は 2013 年 7 月 22 日と 12 月 17 日
に実施した。対象区間における平均河床勾配は
図‐1 観測流域概要
28.9% で,無降雨時の平均河道幅はおよそ 1.0 m
である(図‐2)。
3.結果と考察
3.1 三次元点群データ
対象区間で取得された点群データは 3,054 万
点(およそ 4 万点/m2 )であった。得られた点群
データに対して,計測点における基準点の精度
を確認し,三次元点群の座標計算を行った。そ
れぞれ三箇所の計測ポイントからの三次元点群
には,取得した画像からの RGB データを付与
し,三箇所の点群を統合した。
図‐2 計測対象区間の縦断面と河道付近の様子
取得した点群画像は対象区間の状況を概ね精
度よく再現できていた(図‐2)。しかしながら,
(2013 年 10 月 31 日撮影).写真内の棒の長さ
は 1.0 m である.
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計測が夏季であったため,斜面や渓岸には立木だけ
でなく,下層植生が繁茂し,落葉落枝などのリター
が堆積している様子も確認された。このような山地
流域の構成要素の複雑さにより,地形計測の際には
レーザーを遮るもの(ノイズ)が多かった。冬季は
下層植生が落葉していたため,夏季と比較してノイ
ズが少なかった。
3.2 二時期の点群データの重ねあわせ
夏季(7 月)と冬季(12 月)に取得した点群画像
を重ねあわせ,地形変動状況を把握した(図‐4)。
二時期の点群を比較したところ,冬季に取得した点
群(黒色)が上に重なっている箇所と,夏季の点群
(白色)が上にある箇所が混在している様子が確認
できた。特に,左岸斜面脚部で黒色の点群が多く見
られ(図‐4),最大で 20 cm 程度の違いがあった。
対象流域付近では,2013 年 10 月 15~16 日に台風 26
号にともなう大規模な降雨があり,総雨量は 277.5
mm であった。左岸斜面には裸地が分布しているた
図‐3 計測点(T3)から 2013 年 7 月 22
め(図‐3),降雨にともなって,地表に存在する土
日に取得した点群データ(上)と同年 8 月
砂もしくは堆積リターの移動が顕著に生じた可能性
30 日に撮影した写真(下)
が考えられた。
4.まとめ
大洞沢試験流域の斜面から渓岸における地形変
化量の把握に向けて,台風前後の二時期で,3D レー
ザースキャナを用いた地形計測を行った結果,以下
のことが分かった。3D レーザースキャナで得られた
点群画像には植生によるノイズが多く含まれるもの
の,二時期の点群を重ねあわせることで,地表の形
状変化を把握することができると考えられた 。ただ
し,現時点では最表層に存在する土砂もしくは堆積
リターの変動を複合的に捉えていることから,今後
は断面図を作成することで土砂と堆積リターの判別
を行う。そして,二時期の点群データの比較から,
地形の面的変化の定量化や土砂移動量の算出が可能
かどうかについて検討していく。
謝辞
本研究の一部は平成 25 年度砂防学会若手助成を
受けて実施されました。
引用文献
図‐4 二時期を重ねあわせた対象区間の
清水収(1998)
:土砂収支解析による流域土砂輸送の
時空間特性に関する研究,北海道大学農学部演
習林研究報告,Vol. 55,No. 1,p. 123-215
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俯瞰図の点群画像.白色が 7 月,黒色が 12
月に取得した画像をそれぞれ表す.図の上
側が上流側,下側が下流側をそれぞれ表す.