第7章 デジタル・フォレンジックと医療 第7章

第3回デジタル・フォレンジック事典説明講演会
第7章
デジタル・フォレンジックと医療
慶應義塾大学医学部 一般・消化器外科
和 田 則 仁
平成19年7月20日(金)15:00~15:50
第7章「デジタル・フォレンジックと医療」
1. 医療の進歩とIT化
2. 医療における個人情報の意義
3. プライバシー保護におけるインフォームド・コンセ
ントの問題
4. 公益目的の医療情報の活用とプライバシー保護
5. 二つのガイドライン
6. 医療事故とデジタル・フォレンジック
7. 遠隔医療とデジタル・フォレンジック
医療が取り扱うデジタル情報の特殊性
医療情報
デジタル化
法的に記録と保存が義務
厚生労働省のガイドライン
患者情報
秘匿性
情報セキュリティ
カルテ開示請求
医事紛争件数の増加
公益性
説明責任
研究・治験・予防・移植
真正性を担保
デジタル・フォレンジック
プライバシーと公益
プライバシー
自己に属する情報で、他人には知られたくないもので、
目的以外では使われたくないものを
診療目的
研究目的
公 益
使用目的の明示
目的外利用の原則禁止
医療従事者の個人情報
遺伝情報
意識の差
患者プライバシー保護に関わる法律等
日本国憲法(昭和21年11月3日)
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利につ
いては、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
刑法(明治40年4月24日法律第45号)
第134条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあっ
た者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたと
きは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
刑事訴訟法(昭和23年7月10日法律第131号)
第149条 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証
人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在った者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人
の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。
医療法(昭和23年7月30日法律第205号)
第15条 病院又は診療所の管理者は、その病院又は診療所に勤務する医師、歯科医師、薬剤師そ
の他の従業者を監督し、その業務遂行に欠けるところのないよう必要な注意をしなければならない。
保健師助産師看護師法(昭和23年7月30日法律第203号)
第42条の2 保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を
漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなった後においても、同様とする。
個人情報保護法と医療
個人情報の保護に関する法律
(平成15年5月30日法律第57号)
„ 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律 、独
立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律
„ 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱
いのためのガイドライン(素案)(平成16年9月、厚生労働
省、医療機関等における個人情報保護のあり方に関する
検討会)
„ 医学研究分野における関連指針(厚生労働省、ほか)
医学研究分野における関連指針
† 「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」
(平成13年3月29日文部科学省・厚生労働省・経済産業省
告示第1号)
† 「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(平成14年3
月27日文部科学省・厚生労働省告示第1号)
† 「疫学研究に関する倫理指針」(平成14年6月17日文
部科学省・厚生労働省告示第2号)
† 「臨床研究に関する倫理指針」(平成15年7月30日厚
生労働省告示第255号)
ヒポクラテスの誓い
ヒポクラテス:紀元前460年頃から375年
頃のギリシャの医師。医術の数々の偉業
を成し遂げ、医学の父とも呼ばれた。
医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、パナケイアおよびすべての男神と女神
に誓う、私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。
この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、わが財を分かって、その必要あると
き助ける。その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬な
しにこの術を教える。そして書きものや講義その他あらゆる方法で私の持つ医術の知
識をわが息子、わが師の息子、また医の規則にもとずき約束と誓いで結ばれている
弟子どもに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。私は能力と判断の限り患者に
利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
頼まれても死に導くような薬を与えない。それを覚らせることもしない。同様に婦人
を流産に導く道具を与えない。
純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。結石を切りだすことは神かけて
しない。それを業とするものに委せる。
いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手
な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷のちがいを考慮しない。医に関
すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。
この誓いを守りつづける限り、私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべて
の人から尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命を賜りたい。
学会による取り組み
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症例報告を含む医学論文及び学会
研究会発表における患者プライバ
シー保護に関する指針(平成16年4
月6日、外科関連学会協議会)
患者個人の特定可能な氏名,入院番号,イニシャルまたは「呼び名」は記載
しない.
患者の住所は記載しない.但し,疾患の発生場所が病態等に関与する場合
は区域までに限定して記載することを可とする.(神奈川県,横浜市など).
日付は,臨床経過を知る上で必要となることが多いので,個人が特定できな
いと判断される場合は年月までを記載してよい.
他の情報と診療科名を照合することにより患者が特定され得る場合,診療科
名は記載しない.
既に他院などで診断・治療を受けている場合,その施設名ならびに所在地を
記載しない.但し,救急医療などで搬送元の記載が不可欠の場合はこの限り
ではない.
顔写真を提示する際には目を隠す.眼疾患の場合は,顔全体が分からない
よう眼球のみの拡大写真とする.
症例を特定できる生検,剖検,画像情報に含まれる番号などは削除する.
以上の配慮をしても個人が特定化される可能性のある場合は,発表に関す
る同意を患者自身(または遺族か代理人,小児では保護者)から得るか,倫
理委員会の承認を得る.
遺伝性疾患やヒトゲノム・遺伝子解析を伴う症例報告では「ヒトゲノム・遺伝子
解析研究に関する倫理指針」による規定を遵守する.
WMA:世界医師会(World Medical Association )
患者の権利に関するWMAリスボン宣言
1981年9月ポルトガル、リスボンにおける第34回WMA総会で
採択 、1995年9月 インドネシア、バリ島における第47回WMA
総会で修正
良質の医療を受ける権利、選択の自由の権利、自己決定の
権利、意識のない患者、法的無能力の患者、患者の意思に反
する処置、情報を得る権利、機密保持を得る権利、健康教育を
受ける権利、尊厳を得る権利、宗教的支援を受ける権利
患者の健康状態、症状、診断、予後および治療について身元を確認し得るあらゆる情報、ならびにそ
の他個人のすべての情報は、患者の死後も機密は守られなければならない。ただし、患者の子孫には、
自らの健康上のリスクに関わる情報を得る権利もあり得る。
機密情報は、患者が明確な同意を与えるか、あるいは法律に明確に規定されている場合に限り開示さ
れることができる。情報は、患者が明らかに同意を与えていない場合は、厳密に「知る必要性 need to
know」 に基づいてのみ、他のヘルスケア提供者に開示することができる。
身元を確認し得るあらゆる患者のデータは保護されねばならない。データの保護のために、その保管
形態は適切になされなければならない。身元を確認し得るデータが導き出せるようなその人の人体を形
成する物質も同様に保護されねばならない。
患者は、その文化観および価値観を尊重されるように、その尊厳とプライバシーを守る権利は、医療と
医学教育の場において常に尊重されるものとする。
患者の権利
個人の尊厳
生き方、延命治療など
プライバシー権
好み、宗教など
個人情報保護
氏名、生年月日
病名など
診療録(医療情報)と
デジタル・フォレンジック
「保健医療分野の情報化にむけてのグランド
デザイン」(平成13年12月、厚生労働省)
1. 病院内で診療情報を共有できることによるチーム
医療の促進、患者への分かりやすい説明、安全性
の向上、業務の効率化を目指した電子カルテ導入
の推進
2. 電子媒体を活用した診療報酬の請求業務の効率
化を図るレセプト電算処理システム導入の推進
3. 地域医療従事者が専門医の助言を受けやすくし
医療の質の向上を図り、また在宅療養の継続によ
るquality of life(生活の質)の向上のための遠隔医
療の推進
医療情報システムの安全管理に関する
ガイドライン(平成17年3月、厚生労働省)
「診療録等の電子媒体による保存について」(平成11年4月)
①真正性の確保、②見読性の確保、③保存性の確保
「診療録等の保存を行う場所について」(平成14年3月)
「e-文書法」( 平成16 年11 月)
「個人情報の保護に関する法律」(平成17年4月全面実施)
「医療・介護関係事業者における個人情報の
適切な取扱いのためのガイドライン」(平成16年12月)
本ガイドラインの主な検討事項
1. 電子化された医療情報を個々の医療関係機
関を超えて活用すること(地域における医療
情報ネットワーク構築)についての基本的な
考え方
2. 医療情報の安全な伝送・参照のためのセキュ
リティ技術の活用策
3. 患者・国民の視点に立った医療情報ネットワ
ーク運用のあり方
4. (4) 技術活用面、運用面での適正を期するた
めの基盤整備のあり方、
医療事故と
デジタル・フォレンジック
社会的背景
医療事故が社会問題化
1999年の患者取違え事故と薬剤誤投与事故
医療情報の一般メディア・インターネットを通した普及
患者の権利意識の伸張
医療の結果をめぐる医療側と患者側の紛争の増加
全国一審裁判所の新件医療過誤訴訟は
1107件(2004年)、10年で約2.2倍
診療の記録とフォレンジック
医事紛争の法的解決
最も重要な証拠資料 → 診療記録
真正性の保証
高度なフォレンジック性の確保
外科手術等の侵襲性の大きい治療や検査
当該診療行為の妥当性
第三者による事後的評価
腹腔鏡手術死亡事故で医師ら送検
副腎の腫瘍を摘出する腹腔鏡手術を受けた派遣会社員、
○○さん(当時29歳)が約1カ月後に死亡した医療事故で、
<中略> 、執刀医(39)と当時の医長(60)、当直医(30)
の3人を業務上過失致死容疑で横浜地検に書類送検した。
<中略>腹腔鏡手術の際、脂肪と一体となっている左副腎
の組織と間違えて、誤って膵臓(すいぞう)の一部を切除す
るなどして同月28日に死亡させた疑い。当初、病院側はミ
スを認めなかったが、泌尿器科の専門医らでつくる「日本E
泌尿器科の専門医らでつくる「日本E
E学会」が手術時のビデオ映像を鑑定し、「膵臓の誤切除」
と認定。学会の報告を受けて病院は「手術中に膵臓の一部
と認定。
を傷つけて死亡に至った」と一転してミスを認めた。
毎日新聞 2005年6月23日(一部改変)
東京医科大学病院心臓手術調査委員会報
告を受けて当院の考え方および対応策
(平成17年4月1日)
「診療科の構成と運営」に関する指摘、「医療の
質の保証と改善」提言に対する改善策
(3)全ての手術に関し、術中ビデオ撮影を行い患者
様の求めに応じこの情報を開示する体制を確保しま
す。心臓外科に関しては、患者様の希望があればご
家族にライブの映像を提示することを検討していま
す。
手術ビデオの撮影義務化を
…医療問題弁護団が要望書
東京医科大学病院で心臓手術の患者が相次いで死
亡した問題で、原因究明に手術中のビデオが役立ったこ
となどから、弁護士約200人で組織する「医療問題弁護
団」(代表・鈴木利広弁護士)は11日、手術ビデオの撮
影を義務化することを求める要望書を川崎厚生労働相
に提出した。
手術ビデオは、学会発表用などとして撮影されている
だけで、撮影も映像の保存も医師の裁量次第。しかし、
同病院の問題では、技術の未熟さがビデオの解析で分
かったほか、日本内視鏡外科学会は専門医の認定の際、
手術ビデオの提出を求めるなど、ビデオを活用する動き
は広がりつつある。
<帝王切開医療事故>
産婦人科医を起訴 福島地検
医療過誤事件としては異例の逮捕に踏み切っ
た理由について、片岡次席は「遺体やビデオなど
がなく、関係者の協力が不可欠な状況で、真実を
見極めるため、身柄を確保した上で話を聞く必要
があった」とした。
朝日新聞、2006年03月11日
Medical Forensic System
フォレンジック記録システムのコンセプト
動画(2系統)
・内視鏡
・術野カメラ
・手術顕微鏡
・室内カメラ
術野動画像
術野動画像
生体情報
生体情報
同期記録システム
同期記録システム
デジタル
フォレンジック
日本標準時同期
暗号化
タイムスタンプ
(ハッシュ値)
生体情報
(生体情報モニタ
からの数値データ)
改ざん防止
高い証拠性
①心拍数
②血 圧
③SpO2
システム構成
【独立行政法人 情報通信研究機構】
時間情報
室内カメラ
無影燈カメラ
ビデオカメラ
インターネット
日本標準時刻
タイムスタンプ
(ハッシュ値)
・
①Offライン
医療機器
などの
NTSC & SD
映像出力機器
外付けHDD
OR
動画(二系統)
ビューワ(再生ソフト)
ブルーレイディスク
内視鏡
腹腔鏡
データ出力
患者データ
レコーダー端末
暗号化処理
メーカ独自の通信プロトコル
or
HL7
生体情報モニタ
(*PCは含まれません)
②Onライン
イーサネット(LAN)
専用サーバー
レコーダーとビューワ
[レコーダー]
[ビューワ]
手術室、内視鏡室に設置し、動画を記録(録画)さ
れた端末(PC)にインストールされています。
医局などのノートPC(オプション)にインストールし、
レコーダで記録された動画を見る専用ソフトです。
フォレンジック性の確保
録画(データ取得)
レコーダー
録画終了
データ(手術情報、動画像)暗号化処理
ハッシュ値生成/タイムスタンプ処理 *ネットワーク接続
終了
検証対象データ選択
ビューワ
タイムスタンプ検証処理 *ネットワーク接続
再生データ選択
復号化
再生
医療過誤訴訟における立証責任
不可抗力
α
β
直接原因
?
A
死亡
・
障害
医療過誤
医療側は、β→Aと否定するのでは足りず、α→Aで
あることを積極的に証明しなければならない。
不可避の合併症であることを如何に証明するの
か? → 内視鏡映像の録画の意義
電子データの証拠能力・証明力
† 刑事訴訟
„
„
„
„
要証事実との関連性を立証
規則的、機械的かつ継続的に作成
作為の入り込む余地が少なく
証明力については裁判官の自由な判断
† 民事訴訟
„ 証拠能力についての制限はない
„ 証明力については裁判官の自由な判断
医療の質の向上と専門医制度
国民・患者
のニーズ
学
学 会
会
•高度な医療技術
•幅広い見識
•チーム医療
専門医制度
•Quality Control
•Quality Assurance
「安全・安心」な医療の提供
我が国の医療制度
過去
現在
世界一長寿
中流意識
国民皆保険
格差社会
医療技術の高度化
未払い、国保滞納
未来
効率の良い医療
医療の評価
高齢化
医療費増大
エコノミークラス
ファーストクラス
デジタル・フォレンジックの意義
2系統の動画像
生体情報との同期
デジタル・フォレンジック
教育、研究
リスク・マネジメント
相互理解・信頼関係