高校女子ハンドボールチームの創部 3 年間の指導内容と

福岡教育大学紀要,第63号,第5分冊,103 112(2014)
高校女子ハンドボールチームの創部 3 年間の指導内容と
競技成績及び形態運動能力の関係
Relationship between the content of coaching for three years
after a high school girls’ handball team’s establishment,
the team’s results over that same period, and the physique
and motor ability of players within the team.
鈴
木
康
信
池
田
修
Yasunobu SUZUKI
Osamu IKEDA
福岡教育大学大学院
福岡教育大学
瀧
元
泰
昭
池
田
まり子
Yasuaki TAKIMOTO
Mariko IKEDA
大分高等学校
UniLodge Australia Pty Ltd.
(平成25年 9 月30日受理)
Abstract
The purpose of this study was to examine fundamental principles in the development of a high school
girls’ handball team. The subject was a team consisting of eight members, which won the third place at
the interscholastic athletic meet in the third years after its establishment. The study was conducted to
understand the annual changes of offensive and defensive abilities, physique and motor ability, the degree
of satisfaction of their result and self-evaluation in their athletic ability.
1. As for a high School girls’ handball team, the number of scores, the success rate of attacks, the
number of shots, and the success rate of shots were significantly increased both in the prefectural
tournament and the national tournament, while the number of miss and free throw showed a tendency to
decrease. This showed that offensive and defensive abilities of OH High School improved along with the
annual changes both in the national and the prefectural tournament.
2. The mean values of the subject’s body weight, chest circumferences and thigh circumference greatly
increased in their second year of high school. In their athletic abilities, the results of 30 meter running
with direction changing, jumping side to side, standing long jump, throwing a handball, sit-up, back
strength, and long seat body anteflexion significantly improved. This seems to be the result of regular
training throughout the year.
3. The coaching plan was carried out based on PDCA cycle. The coaching plan was clearly outlined in
the very first year of its establishment (P), which included court training six days a week and strength
and conditioning training once a week throughout the year (D). The performance of the team was
104
鈴
木
康
信
・
池
田
修
・
瀧
元
泰
昭
・
池
田
まり子
evaluated at the completion of each tournament and the coaching plan was refined accordingly(C). From
their first year of high school to June in their second year, their practice was mainly focused on winning
the prefectural tournament. After June in their second year when they gualified for the interscholastic
athletic meet, they trained to achieve a higher ranking in the tuika national tournament. To further
develop the team, they regularly participated in practice games and away games with higher-ranked
teams and college teams. They also took part in training camps and competitions with those teams
ranked higher (A).
4. The players were not satisfied with their team’s results in junior high school which motivated them
to continue playing handball in high school and set a higher goal to win the prefectural tournament and
the national tournament. Moreover, as a result of the team being defeated in the second round of the
national high school invitational tournament in March in their second year seemed to give them strong
motivation to win the third place in the interscholastic athletic meet.
5. In their self-evaluation, the development of offensive abilities improved to some extent while defensive
abilities moderately improved. They set a slightly higher valuation on the development of their physical
strength and moderate valuation on the development of their decision making and concentration.
キーワード : high school girls’ handball player, team building, physique and motor ability
Ⅰ . 緒言
Ⅱ . 方法
我が国の高等学校において部活動として実施さ
れているスポーツ種目の指導者は,選手が在籍し
ている 3 年間で目標成績を収めることができるよ
う合理的な指導計画を立案しなければならない。
チーム競技であるハンドボール競技の指導者は,
1 年生から 3 年生までの選手全員の競技力を高め
るプログラムを立案し,対戦相手の情報収集を行
うとともに,最良のメンバーで試合を行うために
試合出場選手を選考し,試合に臨まなければなら
ない。また試合ではゲーム状況に応じた戦術選択
や選手交代等の戦術指導が必要不可欠となってく
る。さらに試合終了後の成果と課題の確認,及び
課題の修正と練習内容の立案が次の段階への指導
者の重要な役割りである。
以上のように,指導者の指導計画と指導内容は
選手の競技力向上に極めて重要であり,各指導者
によって様々な工夫をした取り組みがなされてい
る1)2)3)。
本研究は高校女子ハンドボール部の創部時に入
学し,3 年目のインターハイにおいて全国第 3 位
の成績を収めた選手 8 名について,3 年間の指導
内容・指導計画とその成果としての競技成績,ゲー
ム内容,体格・運動能力,競技成績満足度,及び
内省報告を調査し,各項目の年次推移を検討する
ことにより,高校女子ハンドボール部のチームづ
くりの指導内容や指導計画策定のための基礎的資
料を得ることを目的とした。
1. 対象チームと対象者
2011 年 4 月に女子ハンドボール部を創部した
OH 高校を対象チームとした。また,中学校 3 年
時にハンドボール競技県選抜チーム選手として,
JOC ジュニアオリンピックカップで全国ベスト 8
の成績を収め,その後女子ハンドボール部を創部
した OH 高校に入学し,3 年時の 2013 年インター
ハイにおいて第 3 位の成績を収めた高校女子ハン
ドボール選手 8 名(コートプレーヤー 6 名,ゴー
ルキーパー 2 名)を対象者とした。
2. ゲーム分析
(1)対象チームと対象ゲーム
2013 年インターハイハンドボール競技で第 3
位を収めた OH 高校女子チームを対象とした。
OH 高校チームは 2011 年 4 月に創部され,対象
チームは 1 年次の創部時から 3 年次の 2013 年 8
月のインターハイまで同一メンバーで試合を行っ
た。対象ゲームは 2011 年 6 月から 2013 年 8 月ま
での全国大会県予選大会最終戦 5 試合,及びイン
ターハイと高校選抜大会 5 試合,合計 10 試合を
対象ゲームとした。
(2)分析方法
各ゲームをビデオカメラを用いて撮影し,以下
の項目について記録した。EHF の分析方法4) に
準拠して,下記の項目を調査・算出した。攻撃回
数,得点数,シュート数,セット攻撃成功数,速
攻成功数,ミス数,フリースロー数,攻撃成功率,
高校女子ハンドボールチームの創部 3 年間の指導内容と
競技成績及び形態運動能力の関係
シュート成功率,及びミス率。
・攻撃成功率 = ゴール数 / 攻撃回数× 100(%)
・シュート成功率 = ゴール数 / シュート数× 100
(%)
・ミス率 = ミス数 / 攻撃回数× 100(%)
3. 形態・運動能力測定
形態測定と運動能力測定は 2012 年 7 月と 2013
年 5 月に実施した。ハンドボール競技においては
ゴールキーパーとコートプレーヤーに要求される
プレー内容が大きく異なること,ゴールキーパー
が僅か 2 名であったことから,対象者はコートプ
レーヤー 6 名とした。
(1)形態測定
形態測定は身長,体重,皮下脂肪厚,及び周囲
径(胸囲,臀囲,上腕囲,前腕囲,大腿囲,下腿囲)
について熟練した同一の検者が計測した。皮下脂
肪厚の計測部位は上腕背部(上腕三頭筋の中央部)
と肩甲骨下部の 2 部位であり,栄研式皮脂厚計
で計測した。これらの計測値から Nagamine and
5)
Suzuki(1964)
,及び Keys and Broźek(1953)6)
の推定式を用い,体脂肪率と除脂肪体重を算出し
た。
(2)運動能力測定
運動能力の測定項目は文部科学省新体力テスト
実施要領に基づき7),20 m シャトルラン,立ち幅
とび,ハンドボール投げ,反復横とび,握力,上
体起こし,及び長座体前屈について測定を実施
した。また,旧スポーツテスト項目の背筋力測
定も実施した。さらに NTS(National Training
System) の 体 力 測 定 項 目8) か ら 30 m 走,30 m
105
方向変換走,及び長座ハンドボール投げについて
測定を実施した。なお,30 m 走,及び 30 m 方向
変換走はストップウォッチにて計測した。
4. インタビュー調査とアンケート調査
OH 高校指導者に対してチーム目標,年間指導
計画,指導内容についてインタビューによる調査
を行った。また,選手 8 名にアンケート調査を行っ
た。調査は小学校期,中学校期,及び高校期のス
ポーツ経験,練習頻度,練習時間,及び練習強度9)
について質問するとともに,中学校期と高校期の
競技成績に対する満足度,及び個人の競技力の向
上度を 5 段階評価で回答させた。
5. 統計処理
形態・運動能力測定において得られた結果は,
すべて平均値と標準偏差で表した。平均値の有意
差検定には,対応のある t 検定を用い,その有意
水準は危険率 5% 未満のものを採用した。
Ⅲ . 結果と考察
1. 競技成績
OH 高校の 2011 年 6 月から 2013 年 8 月までの
競技成績と試合結果を表 1 に示した。
2011 年 6 月のインターハイ県予選大会は準決
勝で大敗するものの,入学 8 ヶ月後の全国高校選
抜大会県予選大会決勝は僅か 1 点差の惜敗であっ
た。2012 年 6 月のインターハイ県予選大会決勝
では 2011 年 3 月の全国高校選抜大会で第 3 位の
成績を収めたチームに勝ち,インターハイ初出場
表 1.2011 年 6 月から 2013 年 8 月における OH 高校の競技成績と試合結果
2011 年
戦績
2012 年
戦績
2013 年
戦績
6 月初旬
8 月初旬
12 月下旬
3 月下旬
インターハイ県予選(スコア) インターハイ(スコア) 高校選抜大会県予選(スコア) 高校選抜大会(スコア)
準決勝 A(16-26)
決勝 A(17-18)
第3位
準優勝
決勝 A(23-16)
2 回戦 C(8-23)
決勝 A(25-14)
1 回戦 E(23-18)
2 回戦 C(28-26)
3 回戦 D(20-26)
優勝
2 回戦敗退
優勝
ベスト 16
決勝 B(30-24)
1 回戦 F(19-16)
2 回戦 G(25-17)
3 回戦 H(28-23)
4 回戦 D(23-21)
準決勝 C(13-25)
優勝
第3位
106
鈴
木
康
信
・
池
田
修
・
瀧
元
泰
昭
・
池
田
まり子
表 2.2011 年 6 月から 2013 年 6 月における県予選大会決勝の OH 高校 , 及び対戦チーム(A, 及び B)のゲーム
分析結果
2011 年
インターハイ予選
高校選抜予選
(6 月)
(12 月)
チーム
OH
A
OH
A
攻撃回数(回)
62
63
64
64
得点(点)
16
26
17
18
攻撃成功率(%)
25.8
41.3
26.6
28.1
シュート数(本)
32
46
38
47
シュート成功率(%)
50.0
56.5
44.7
38.3
セット攻撃成功数(回) 13
15
12
10
速攻成功数(回)
3
11
5
8
ミス数(回)
30
17
26
17
ミス率(%)
48.4
27.0
40.6
26.6
フリースロー数(回)
35
10
22
18
2012 年
インターハイ予選
高校選抜予選
(6 月)
(12 月)
OH
A
OH
A
57
57
58
57
23
16
25
14
40.4
28.1
43.1
24.6
42
38
46
34
54.8
42.1
54.3
41.2
21
12
15
10
2
4
10
4
15
19
12
23
26.3
33.3
20.7
40.4
23
20
10
26
を獲得している。初出場となる 2012 年 8 月のイ
ンターハイでは 2 回戦でこの大会で優勝を収める
チームと対戦し大敗した。しかし,その 6 ヶ月後
の 2013 年 3 月の全国高校選抜大会ではベスト 16
に躍進し,さらにその 5 ヶ月後の 2013 年 8 月の
インターハイでは全国第 3 位の成績を収めた。
みると,両者ともに年次推移に伴う増加がみられ
た。これはセット攻撃と速攻の攻撃力が同時に向
上し,全体としての攻撃力の向上につながったと
思われる。攻撃チームのミス率は防御チームの防
御力を反映し,また同様にフリースロー獲得も相
手攻撃の継続やアシストプレイを阻止する働きが
大きいことから防御力の指標とみなされる。OH
高校と対戦したチームのミス率とフリースロー数
は両者ともに年次進行に伴う増加傾向がみられ,
このことは OH 高校の防御力向上を反映したもの
と思われる。
これらの結果は,OH 高校が 2011 年から 2013
年までに 4 回行われた県予選大会決勝において,
1 年時から 2 年時,さらに 3 年時とボールハンド
リング等のミスの少ないゲームができるようにな
り,またフリースロー数の大幅な減少に伴うプレ
イ中断数の減少,言い換えればプレイ継続力を大
幅に向上させ,それにより攻撃成功率やシュート
成功率を向上させた。その結果,得点数を大きく
伸ばし,かつ相手チームのフリースロー数やミス
を数多く出現させることにより,相手の有効なプ
レイの継続を絶ち,その成果として 4 回の優勝に
輝いたと思われる。
(2)全国大会結果
2012 年 8 月のインターハイ,2013 年 3 月の全
国高校選抜大会,及び 2013 年 8 月のインターハ
イにおける OH 高校と対戦チームのゲーム分析結
果を表 3 に示した。
各大会の競技成績は 2012 年 8 月が 2 回戦敗退,
2013 年 3 月が 3 回戦敗退,2013 年 8 月が準決勝
敗退と異なることから,競技力レベルが同等と思
われる次の 2 組のゲーム間の内容比較を行った。
2. ゲーム分析結果
(1)県予選大会結果
2011 年 6 月から 2013 年 6 月までの県予選大会
最終戦における OH 高校と対戦チームのゲーム分
析結果を表 2 に示した。以下に 2011 年から 2013
年までの各分析結果について述べる。 攻撃力の重要な指標である得点数,攻撃成功率,
シュート成功率,ミス率,及びフリースロー数に
ついて年次推移をみると,OH 高校の得点は 2011
年平均 16.5 点,2012 年平均 24 点,2013 年 30 点,
攻 撃 成 功 率 は 2011 年 平 均 26.2 %,2012 年 平 均
41.8%,2013 年 45.5%となり,シュート成功率
は 2011 年平均 47.4%,2012 年平均 54.6%,2013
年 66.7%,フリースロー数は 2011 年平均 28.5 回,
2012 年平均 16.5 回,2013 年 6 回となり,これら
の項目については年次進行に伴う明らかな成績
の向上がみられた。ミス率については 2011 年平
均 44.5%,2012 年平均 23.5%,2013 年 31.8%と
なり年次進行に伴うミスの減少傾向がみられた。
また以上の項目について,OH 高校は 2011 年で
は対戦チームより低い成績を示したが,2012 年
と 2013 年ではすべての項目で高い成績を示した。
対戦チームのこれらの項目の年次推移は横ばいま
たは減少傾向を示した。OH 高校の総攻撃をセッ
ト攻撃と速攻に分けてそれぞれの成功数の推移を
2013 年
インターハイ予選
(6 月)
OH
B
66
67
30
24
45.5
35.8
45
43
66.7
55.8
21
13
9
11
21
24
31.8
35.8
6
23
高校女子ハンドボールチームの創部 3 年間の指導内容と
競技成績及び形態運動能力の関係
107
表 3.2012 年 8 月から 2013 年 8 月におけるインターハイ,及び全国高校選抜大会の OH 高校,及び対戦チーム(C,及
び D)のゲーム分析結果
2012 年 8 月
インターハイ
2 回戦
チーム
OH
C
攻撃回数(回)
57
57
得点(点)
8
23
攻撃成功率(%)
14.0
40.4
シュート数(本)
31
41
シュート成功率(%)
25.8
56.1
セット攻撃成功数(回)
8
16
速攻成功数(回)
0
7
ミス数(回)
26
16
ミス率(%)
45.6
28.1
フリースロー数(回)
22
18
2013 年 3 月
全国高校選抜
全国高校選抜
1 回戦
2 回戦
OH
C
OH
D
63
62
63
64
22
22
20
26
34.9
35.5
31.7
40.6
46
49
47
45
47.8
44.9
42.6
57.8
19
7
18
20
3
15
2
6
17
13
16
19
27.0
21.0
25.4
29.7
20
14
28
19
最初の組は,同一チームとの対戦ゲームで,2012
年 8 月のインターハイ 2 回戦で敗れ,2013 年 3
月の高校選抜大会 2 回戦で勝利したゲームを比較
すると,OH 高校は得点数を 8 点から 22 点,攻
撃成功率を 14% から 34.9%,シュート数を 31 本
から 46 本,シュート成功率を 25.8% から 47.8%
に向上させ,またミス数を 26 回から 17 回,ミス
率を 45.6% から 27% に減少させていた。これら
の結果から攻撃力がこの間に改善・向上したとみ
ることができる。さらに対戦チームの攻撃成功率
を 40.4% から 35.5%,シュート成功率を 56.1% か
ら 44.9% に低下させ,セット攻撃成功数を 16 回
から 7 回に大幅に低下させたことは防御力も併せ
て向上したとみることができる。
次に,2013 年 3 月の全国高校選抜大会 3 回戦
で敗れたチームに 2013 年 8 月のインターハイ 4
回戦で再戦し,勝利したゲーム内容を比較すると,
OH 高校は得点数を 20 点から 23 点,攻撃成功率
を 31.7% から 38.3%,シュート成功率を 42.6% か
ら 60.5%,フリースロー数を 28 回から 19 回とし,
この間における攻撃力の改善・向上がみられた。
また,対戦チームの得点を 26 点から 21 点,攻撃
成功率を 40.6% から 35%,セット攻撃成功数を
20 点から 15 点に低下させ,同時に防御力の改善・
向上もみられた。これら攻撃力や防御力の向上が
2013 年 8 月インターハイ全国第 3 位の成績に繋
がったと思われる。
しかし,2013 年 3 月の全国高校選抜大会 2 回
戦に勝利し,2013 年 8 月のインターハイ準決勝
で再戦し敗れたチームで,本大会で優勝を収めた
チームとのゲーム内容を比較すると,OH 高校は
ミス数,ミス率,及びフリースロー数は 3 月と 8
2013 年 8 月
インターハイ
インターハイ
4 回戦
準決勝
OH
D
OH
C
60
60
58
58
23
21
13
25
38.3
35.0
22.4
43.1
38
38
41
46
60.5
55.3
31.7
54.3
17
15
10
16
6
6
3
9
22
22
17
12
36.7
36.7
29.3
20.7
19
20
21
16
月でほぼ同値を示したが,得点数を 22 点から 13
点,攻撃成功率を 34.9% から 22.4%,シュート成
功率を 47.8% から 31.7% に低下させられた。反対
に,相手チームは得点数を 22 点から 25 点,攻
撃成功率を 35.5% から 43.1%,シュート成功率を
44.9% から 54.3% に向上させた。これらは 3 月か
ら 8 月までの期間における相手チームの防御力と
攻撃力の強化策や改善策が OH 高校を上回ったも
のと思われる。この結果は OH 高校の競技力が未
だインターハイ決勝進出レベルには不十分であっ
たことを意味している。
3. 形態・運動能力測定結果
(1)形態測定結果
OH 高校コートプレーヤー 6 名の 2012 年 7 月
と 2013 年 5 月の形態測定結果を表 4 に示した。
身 長, 体 重, 体 脂 肪 率, 及 び 除 脂 肪 体 重 は
2012 年で,それぞれ 161.5±5.85 cm,52.2±6.80 kg,
21.3±2.72%,41.0±4.81 kg で あ り,2013 年 で
161.5±5.93 cm,53.8±6.39 kg,21.6±3.67%,
42.1±4.81 kg であった。2012 年と 2013 年の比較
では,体重に有意な増加が認められたが,他の項
目に有意差は認められなかった。除脂肪体重に有
意差は認められなかったが,平均 1.1 ㎏の増加が
みられ,これが体重の有意な増加に大きく反映し
ていると考えられる。
胸囲,臀囲,上腕囲,前腕囲,大腿囲,及び下
腿囲は 2012 年で,それぞれ 80.2±3.94 cm,87.2
±2.98 cm,23.5±1.63 cm,22.4±1.17 cm,48.0±
2.82,35.0±3.60 であり,2013 年で 82.4±3.23 cm,
89.1±4.61 cm,24.2±1.40 cm,22.6±0.76 cm,
52.9±3.82 cm,35.6±1.80 cm と な り, す べ て の
108
鈴
木
康
信
・
池
田
修
・
瀧
元
泰
昭
・
池
田
まり子
表 4.OH 高校コートプレーヤーの 2012 年 7 月と 2013 年 5 月の形態測定結果
人数(名)
身長(cm)
体重(kg)
体脂肪率(%)
除脂肪体重(kg)
周囲径
胸囲(cm)
臀囲(cm)
上腕囲(cm)
前腕囲(cm)
大腿囲(cm)
下腿囲(cm)
皮脂厚
上腕背部(mm)
肩甲骨下部(mm)
数値は平均値±標準偏差
2012 年 7 月
6
161.2±5.85
52.2±6.80
21.3±2.72
41.0±4.81
2013 年 5 月
6
161.5±5.93
53.8±6.39
21.6±3.67
42.1±4.81
有意水準
80.2±3.94
87.2±2.98
23.5±1.63
22.4±1.17
48.0±2.82
35.0±3.60
82.4±3.23
89.1±4.61
24.2±1.40
22.6±0.76
52.9±3.82
35.6±1.80
*
ns
ns
ns
**
ns
15.7±1.47
11.8±1.03
ns
ns
16.2±2.75
11.0±3.27
*: 5% 有意水準 ns: 有意水準なし
ns
*
ns
ns
表 5.OH 高校コートプレーヤーの 2012 年 7 月と 2013 年 5 月の運動能力結果
人数(名)
30m 走(sec)
30m 方向変換走(sec)
反復横とび(点)
立ち幅とび(cm)
ハンドボール投げ(m)
長座ハンドボール投げ(m)
推定最大酸素摂取量(ml/kg/min)
上体起こし(回)
握力(kg)
背筋力(kg)
長座体前屈(cm)
数値は平均値±標準偏差
2012 年 7 月
6
5.11±0.09
7.52±0.22
55.8±4.07
181.5±19.02
31.4±3.25
15.9±1.79
49.4±2.76
27.2±3.97
32.6±4.79
59.0±22.83
36.9±9.83
*:5% 有意水準
2013 年 5 月
6
4.92±0.30
7.31±0.22
61.7±2.34
192.2±19.04
34.0±3.35
18.3±1.81
51.1±2.19
30.8±3.37
34.6±2.85
81.7±20.50
44.4±8.21
有意水準
ns
*
*
*
*
*
ns
*
ns
*
*
ns:有意水準なし
項目で増加がみられ,2012 年と 2013 年の比較で
は,胸囲と大腿囲に有意な増加が認められた。
上 腕 背 部, 及 び 肩 甲 骨 下 部 の 皮 下 脂 肪 厚 は
2012 年でそれぞれ 16.2±2.75 mm,11.0±3.27 mm
であり,2013 年で 15.7±1.47 mm,10.8±1.03 mm
で あ っ た。 両 者 合 計 の 総 皮 脂 厚 値 は 2012 年
27.2 mm,2013 年 27.5 mm となりほぼ同値であ
り,有意な差は認められなかった。
ハンドボール競技においては,バレーボール
競技やバスケットボール競技などのボールゲー
ム競技と同様に,身長は競技力に大きく影響す
る。2011 年全国高校選抜大会女子のベスト 4 進
出チームのコートプレーヤーの平均身長は優勝
チ ー ム 159.8 cm, 準 優 勝 チ ー ム 164.5 cm,3 位
チ ー ム 161.1 cm, 及 び 160.8 cm で あ り,OH 高
校の 161.5 cm はこれらのチームとほぼ同値を示
し,体格的には上位チームと同等とみなすことが
できる。体重の平均 1.6 ㎏の有意な増加の要因は
体組成としての体脂肪率の増減がほとんどみられ
なかったことから,除脂肪体重の平均 1.1 ㎏の増
加が大きく反映しているとみなされる。この除脂
肪体重の増加は胸囲と大腿囲の有意な増加や他の
周囲径項目の増加と密接に関係するとともに,運
動能力向上に大きく影響を及ぼしている。
(2)運動能力測定結果
OH 高校コートプレーヤー 6 名の 2012 年 7 月
と 2013 年 5 月の運動能力測定結果を表 5 に示し
た。
30 m 走,30 m 方向変換走,反復横とび,及び
立ち幅跳びは,2012 年でそれぞれ 5.11±0.09sec,
高校女子ハンドボールチームの創部 3 年間の指導内容と
競技成績及び形態運動能力の関係
7.52±0.22sec,55.8±4.07 点,181.5±19.02 cm で
あ り,2013 年 で 4.92±0.30sec,7.31±0.22sec,
61.7±2.34 点,192.2±19.04 cm で あ っ た。2012
年と 2013 年の比較では,すべての項目で成績の
伸びがみられ,30 m 方向変換走,反復横とび,
立ち幅跳びに有意差が認められた。
ハンドボール投げと長座ハンドボール投げは
2012 年 で 31.4±3.25 m と 15.9±1.79 m で あ り,
2013 年で 34.0±3.35 m と 18.3±1.81 m であった。
2012 年と 2013 年の比較では,両者とも有意な成
績の伸びが認められた。
全 身 持 久 力 の 指 標 と な る 20 m シ ャ ト ル ラ
ン に よ る 推 定 最 大 酸 素 摂 取 量 は 2012 年 で 49.2
±2.76 ml/kg/min で あ り,2013 年 で 51.1±
2.19 ml/ kg/min であった.2012 年と 2013 年の
比較では,伸びはみられたが,有意差は認められ
なかった。
上体起こし,握力,背筋力,及び長座体前屈
は 2012 年で 27.2±3.97 回,32.6±4.79 kg,59.0±
22.83 kg,36.9±9.83 cm で あ り,2013 年 で 30.8
±3.37 回,34.6±2.85 kg,81.7±20.50 kg,44.4±
8.21 cm であった。2012 年と 2013 年の比較では,
すべての項目で成績の伸びがみられ,上体起こし,
背筋力,及び長座体前屈に有意差が認められた。
OH 高校の運動能力は 2012 年から 2013 年にか
けて,すべての項目で成績の向上がみられ,また
11 項目中 8 項目に有意な伸びがみられたことは,
年間を通じたコンディショニング管理が順調に行
われた結果と考えられる。
日本ハンドボール協会事業である NTS トレー
ニングではセンタートレーニングに参加した国内
の各年齢カテゴリーの優秀選手を対象に体力測
定を実施し,結果を公表している10)。その平均値
は,30 m 走,30 m 方向変換走,反復横とび,立
ち幅とび,及び長座ハンドボール投げで,それぞ
れ 4.92sec,7.56sec,60.7 点,194 cm,20.88 m で
あった。OH 高校の 2013 年の運動能力測定結果
は 30 m 方向変換走,反復横とび,立ち幅とびの
項目でこれらの値を上回り,また 30 m 走は同値
を示し,長座ハンドボール投げは下回った。この
ことは OH 高校の運動能力がハンドボール投げを
除いて,同年齢国内トップ選手水準に向上したこ
とを意味している。さらに,全身持久力の指標と
なる推定最大酸素摂取量においても 1999 年日本
女子代表チームの 51.9 ml/kg/min11) とほぼ同値
を示し,全身持久力についてもトップレベル水準
まで向上していた。
109
4.指導内容と指導計画
OH 高校指導者のインタビュー調査から得られ
た OH 高校 3 年間の指導内容と指導計画を表 6 に
まとめた。
OH 高校の指導者と選手は創部 1 年目から,チー
ム目標を県大会優勝とし,創部 2 年目のインター
ハイ初出場の目標は全国第 3 位,次の全国高校選
抜大会と創部 3 年目の目標は全国優勝であった。
これらの目標を達成するための練習内容は,1
年時から 2 年時 6 月まで主として県内強豪チーム
対応の攻撃戦術と GK 戦術を含む防御戦術であっ
た。また県予選大会優勝を実現するための強化策
として,2012 年 1 月と 4 月に実力上位である四
国の C チームへ遠征合宿を実施し,攻撃力と守
備力の強化を図った。インターハイ出場が決定し
た 2 年時 6 月以降は全国大会上位進出を目標とし
た攻撃戦術と GK 戦術を含む防御戦術に練習課題
を高めている。具体的には各練習や練習試合にお
ける攻撃成功率の増加,シュート成功率の向上,
ミス数の低下,フリースロー阻止数の減少と獲得
数の増加,防御成功数の増加,GK 阻止数の増加
等を評価項目とし,改善練習を実施した。他校と
の練習試合は競技力評価のために重要な内容であ
るが,特に多くはなかった。しかし,それを上回
る強化策として実力上位校や大学チームとの定期
的な遠征合宿,高校上位校交流合宿,及び高校上
位校交流大会参加を実施した。インターハイ直前
の 2013 年 8 月には競技力と課題の最終確認を行
う目的で,大学チームと練習試合を実施し,全国
大会上位進出の手ごたえを掴んで大会に臨んだ。
OH 高校の指導内容で特徴的なことは,技術練
習や戦術練習だけでなく,毎週火曜日は体力ト
レーニングメニューを中心に行い,また故障者は
医療機関と連携したリハビリテーションを実施し
ていたことである。このような年間を通して継続
された体力トレーニングの成果が除脂肪体重増加
による運動能力向上に現れ,リハビリテーション
の成果が選手全員が 3 年間大きな怪我をしなかっ
たことに繋がったとみることができよう。
2013 年 8 月のインターハイは 1,2,3 回戦を
無事突破し,準々決勝で 2013 年 3 月全国高校選
抜大会で敗れた D チームに勝利し,準決勝進出
を獲得した。 準決勝では優勝したチームに敗れ
たものの,創部 3 年目にして全国第 3 位の優秀な
成績を収めた。
110
鈴
木
康
信
・
池
田
修
・
瀧
元
泰
昭
・
池
田
まり子
表 6.OH 高校 3 年間の指導内容と指導計画
主要大会
目標
結果
優勝
3位
優勝
準優勝
県予選,九州高校
優勝
優勝
インターハイ
ベスト 4
初戦敗退
県予選
優勝
優勝
九州高校選抜大会
全国高校選抜大会
優勝
ベスト 16
県予選,九州高校
優勝
優勝
インターハイ
優勝
第3位
第 1 学年
4〜6月
7〜9月
10 〜 12 月
1〜3月
県予選
九州高校選抜大会
第 2 学年
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 〜 12 月
1月
2月
3月
第 3 学年
4月
5月
6月
7月
8月
強化遠征
練習内容
県大会優勝のための練習Ⅰ
セット攻撃力向上練習
ポジションシュート成功率向上練習
2 次速攻強化練習
GK 戦術を含む防御戦術
強化遠征(四国)
県大会優勝のための練習Ⅱ
セット攻撃力向上練習
ポジションシュート成功率向上練習
強化遠征(四国)
2 次速攻強化練習
グループ戦術練習
GK 戦術を含む防御戦術
強化遠征(大学)
全国大会上位進出のための練習Ⅰ
国体強化遠征(四国)
セット攻撃力向上練習
国体強化遠征(大学,四国) ポジションシュート成功率向上練習
2 次速攻強化練習
強化遠征(大学)
グループ戦術練習
GK 戦術を含む防御戦術
試合的練習
全国大会上位進出のための練習Ⅱ
高校上位校交流合宿
セット攻撃力向上練習
実業団主催高校上位校交流大会 ポジションシュート成功率向上練習
2 次速攻強化練習
強化遠征(大学)
グループ戦術練習
GK 戦術を含む防御戦術
週 1 回は体力トレーニング・医療機関でのリハビリテーション
5. 選手へのアンケート調査結果
(1)運動頻度,運動時間,運動強度
OH 高校選手の小学校,中学校,及び高校にお
ける運動頻度,運動時間,及び運動強度を表 7 に
示した。
各選手とも小学校中学年頃よりハンドボールク
ラブに参加し,中学校と高校は部活動としてハン
ドボールに一貫して取り組んできた。また小学校
期より高校期まで専門の指導者による指導を受け
てきた。
各学校期の運動状況を要約すると,小学校期は
運動を週 4 〜 5 日,1 回 2 〜 3 時間行い,運動強
度には個人差が大きかった。中学校期は運動を週
6 日以上,1 回 2 〜 3 時間行い,運動強度は個人
差が大きかった。小・中学校期の運動頻度,運動
時間,及び運動強度にばらつきがみられた原因は,
選手が異なる学校に通学していたことによると思
われる。全員同一学校で活動した高校期は運動を
週 6 日以上,1 回 3 時間程度行った。運動強度は「非
常にきつい」と回答している者が 5 名いるものの,
「かなりきつい」1 名や「きつい」2 名もみられ,
自覚的運動強度には幾分個人差がみられた。これ
表 7.小 学校,中学校,及び高校における運動頻度,
運動時間,及び運動強度
運動頻度
6 日以上
4〜5日
2〜3日
1 日以下
運動時間
3 時間以上
2 〜 3 時間
1 〜 2 時間
1 時間以下
運動強度
非常にきつい
かなりきつい
きつい
ややきつい
小学校
1
7
0
0
中学校
7
1
0
0
高校
8
0
0
0
2
6
0
0
3
5
0
0
6
2
0
0
4
0
2
2
3
2
2
1
5
1
2
0
は個々人の運動能力が異なることやポジションに
よる運動強度の差異が関係しているものと思われ
る。
OH 高校選手は小学校期から高校期まで専門の
指導者の指導する部活動クラブ等において,県内
高校女子ハンドボールチームの創部 3 年間の指導内容と
競技成績及び形態運動能力の関係
トップと全国上位を目標に一貫してハンドボール
競技を継続実施してきた。そのため練習の頻度と
時間,及び強度はかなり高いレベルにあり,また
小学校から中学校,高校と上級学校に進むに従い
レベルが次第に高くなっていた。このように小学
校中学年から高校まで専門の指導者の指導の下
で,質・量ともに高い練習プログラムに取り組ん
でこれたことがインターハイ全国第 3 位につな
がったと思われる。
(2)競技成績に対する満足度について
目標達成の動機の強さをみるために,OH 高校
選手の中学校及び高校の競技成績に対する満足度
を回答させ,表 8 に示した。
中学校 3 年時の JOC 全国大会の競技成績(全
国第 8 位)に対する満足度は,「満足している」3
人,
「普通」3 人,
「不満を感じている」2 人であり,
高い満足度ではなかった。高校 2 年 3 月の高校選
抜大会の競技成績(3 回戦敗退)に対する満足度
は「満足している」3 人,「普通」1 人,「不満を
感じている」2 人,「非常に不満を感じている」2
人であり,全体的に低い満足度であった。高校 3
年 6 月のインターハイ県予選大会に対する満足度
は「非常に満足している」2 人,「満足している」
4 人,「普通」2 人であり,チーム全体が高い満足
度となっていた。高校期のインターハイの競技成
績に対する満足度は「非常に満足している」3 人,
「満足している」4 人,「不満に感じている」1 人
となり中学校期も含めて最も満足度が高い結果に
なった。
中学校期の競技成績(全国第 8 位)に対して十
分な満足度がなかったことが,高校でのハンド
ボール競技継続に繋がり,県大会で優勝し,全国
大会で優勝やベスト 4 という目標達成に努力した
ものと思われる。また,高校 2 年 3 月の高校選抜
大会競技成績(3 回戦敗退)に対する不満足感が,
次の高校 3 年時のインターハイ県予選優勝やイン
ターハイ第 3 位の成績を獲得するための強い動機
になったものと思われる。
(3)個人競技力の自己評価について
高校期における個人競技力の自己評価結果を表
9 に示した。
高校期 3 年間での個人の競技力の自己評価では
攻撃力について「かなり向上した」2 人,「向上
した」6 人で,全員が攻撃力は伸びたと回答し,
そのうち 2 人は相当の攻撃力の伸びを認めてい
た。防御力については「向上した」8 人全員とな
り,「かなり向上した」の回答はみられなかった。
防御力の伸びをある程度認めているものの,最も
111
表 8.中学校および高校の競技成績に対する満足度
中学校
高校
JOC
高校選抜 県予選 インター
大会
ハイ
かなり満足している
0
0
2
3
満足している
3
3
4
4
普通
3
1
2
0
不満に感じている
2
2
0
1
かなり不満を感じている
0
2
0
0
表 9.高校期における個人の競技力の自己評価
攻撃力
防御力
体力
集中力,
判断力
かなり向上した
2
0
4
1
向上した
6
8
4
7
変化なし
0
0
0
0
評価の高い「かなり向上した」がみられなかった
原因は,全員が防御力の伸びを試合における成功
体験を通して認めているが,同時に未だ上位チー
ムとの対戦における防御技能の不十分や修得の困
難さも自覚しているためと思われる。体力面では
「かなり向上した」4 人,「向上した」4 人となり,
体力向上の評価は高かった。また判断力や集中力
では「かなり向上した」1 人,「向上した」7 人と
なり,判断力や集中力の伸びの評価は中程度にと
どまった。
OH 高校選手全員が試合毎にレベルの高いゲー
ムにおいて成功体験を数多く経験し,その結果勝
利したことが攻撃力,防御力,体力,及び判断力
や集中力が伸びたとの評価に反映されていると思
われる。
Ⅳ . 要約
本研究は高校女子ハンドボール競技における
チームづくりの基礎的資料を得る目的で,高校 3
年間同一メンバー 8 名で創部から僅か 3 年目にお
いてインターハイ第 3 位という成績を収めた高校
女子ハンドボールチームの 3 年間の活動内容を調
査し,チームの攻撃力,防御力,形態・運動能力,
競技成績満足度,及び競技力自己評価レベルの年
次推移について検討を行った。
1.全国大会県予選大会の競技力の推移
OH 高校の 2011 年 6 月から 2013 年 6 月まで
の県予選大会のゲーム内容においては,年
次推移に伴う攻撃力と防御力の向上がみられ
た。
2.全国大会の競技力の推移
競技力レベルが同等と思われる 2 組のゲーム
112
鈴
木
康
信
・
池
田
修
間の内容比較から競技力の推移を検討する
と,2 組とも OH 高校の年次推移に伴う攻撃
力と防御力の向上がみられた。
3.形態・運動能力の推移
OH 高校の 2 年時から 3 年時にかけての形態
面の変化は体重,胸囲,及び大腿囲で有意な
増加がみられた。運動能力では 30 m 方向変
換走,反復横とび,立ち幅とび,ハンドボー
ル投げ,上体起こし,背筋力,及び長座体前
屈に有意な成績の伸びがみられた。この結果
には年間を通した継続的なトレーニングが大
きく影響していると思われる。
4.指導計画と指導内容
創部 1 年目から目標を明確に示し,週 6 日の
練習と 1 日のトレーニングを年間を通して
行った。また故障者は故障期間中リハビリ
テーションを行った。目標達成の練習内容は,
1 年時から 2 年時 6 月まで主として県内強豪
チーム対応の攻撃戦術と GK 戦術を含む防御
戦術であった。インターハイ出場が決定した
2 年時 6 月以降は全国大会上位進出を目標と
した攻撃戦術と GK 戦術を含む防御戦術に練
習課題を高めた改善練習を実施した。強化策
として実力上位校や大学チームとの定期的な
遠征合宿,高校上位校交流合宿,及び高校上
位校交流大会参加を実施した。
5.OH 高校選手の目標達成への動機
中学校期の競技成績(全国第 8 位)に対して
十分な満足感がなかったことが,高校でのハ
ンドボール競技継続に繋がり,県大会で優勝
し,全国大会で優勝やベスト 4 という目標設
定を掲げるに至ったと思われる。また,高校
2 年 3 月の高校選抜大会競技成績(3 回戦敗退)
に対する不満足感が,次の高校 3 年時のイン
ターハイ県予選優勝やインターハイ第 3 位の
成績を獲得するための強い動機になったもの
と思われる。
6.個人能力の自己評価水準
攻撃力の伸びの評価はやや高く,防御力の伸
びの評価は中程度であった . 体力向上に対し
てはやや高い評価となり,プレイ選択能力に
重要な判断力や集中力の伸びの評価は中程度
であった。
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