人狼ゲーム経験が欺瞞検知の 正確性に及ぼす影響

人狼ゲーム経験が欺瞞検知の
正確性に及ぼす影響
東京福祉大学
丹野 宏昭
問題と目的
【人狼ゲーム】
人狼陣営と村人陣営にわかれて行われる
「議論」を中心としたコミュニケーションゲーム。
人狼陣営は自分の正体がばれないように嘘をつき、
村人陣営は人狼陣営がだれか探す。
近年ブームとなり、プレイヤーが急増している。
→議論を行い、欺瞞検知を行うことが主要
丹野・児玉(2015)
人狼ゲーム経験者は非経験者に比べて
欺瞞検知の手がかりとして「言語的手がかり」を優先し
「非言語的手がかり」の重要度を低く見積もる。
→「非言語」より「言語」手がかりを用いたほうが
欺瞞検知の正確性は高い(Vrij,2008)ことから
人狼ゲーム経験によって欺瞞検知精度が増す可能性。
Levine, Serota, & Shulmanm(2010)
欺瞞検知に関する犯罪捜査ドラマ(Lie to Me)を
視聴した群は非視聴群よりも、本当のことを言っている人に対して
「嘘をついている」と判断した傾向が高かった。
→ドラマ視聴だけでも欺瞞検知の精度には影響が
生じていた(ただしネガティブな効果)
本研究では人狼ゲーム経験者と一般大学生の
欺瞞検知の正確性を比較することで、
人狼ゲーム経験が欺瞞検知の正確性に与える影響を
検討することを目的とする。
方法
【実験参加者】
(a)大学生113名。「人狼ゲームでよく遊ぶ」4名を分析から除外。
分析対象は男性56名、女性53名、平均年齢20.7歳。
(b)関東の大学2校の人狼ゲームサークルに1年以上所属している
32名(男性21名、女性11名、平均年齢19.8歳)。
人狼ゲーム経験歴は13~84カ月(平均41.4カ月)であり、
いずれも 「2週間に1回以上」は人狼ゲームをしていた。
【実験刺激】
大学生12名(男性6名、女性6名)の「自己紹介動画(30秒程度)」を見て、
その内容が「真」か「偽」かを判断する課題を実施した。
[自己プロフィール 8項目]
(氏名、誕生日、きょうだい、趣味、出身高校名高校時代の部活、
得意教科、こどもの頃の夢)
用紙に8項目への記入を求め、さらにランダムに4項目を選び、
嘘のプロフィールを作成させた。
被写体毎に「真(正しい自己紹介)」と「偽(4/8項目が嘘)」の
2 種類の自己紹介動画を撮影した。
6名の被写体は「真」から、
6名は「偽」から撮影した。
動画の撮影は椅子に座った
被写体の胸部から上を撮影した。
【手続き】
実験参加者に自己紹介動画12本(「真」4本と「偽」8本)を
ランダムな順序で見せ、動画の自己紹介が本当か嘘か
2択で回答を求める課題を実施した。
実験参加者には「偽」の動画の自己紹介は8項目中4項目が嘘であ
ることを教示した。動画12本中いくつが「偽」かは伝えなかった。
実験はディスプレイに動画を投影し、複数の実験参加者が同時に
それを見て、手元の用紙に回答を記入する形式で実験を実施した。
また、実験前に、実験参加者に「嘘を見抜くのが得意か」について
「7.非常に得意である」から「1.非常に苦手である」の7件法で
回答を求めた。
結果と考察
【嘘を見抜くのが得意か】
一般大学生と人狼サークル所属者の間で
差がみられなかった(t(139)=1.132, p=.259)。
【欺瞞検知の結果(表1)】
人狼サークル所属者は一般大学生より
「偽」の正解数が多かったが、「真」の正解数は低く、
全体では差がみられなかった。
→ 人狼サークル所属者が動画の真偽に関わらず、
動画の自己紹介を嘘であると判断した回数が多かった。
Levineら(2010)の結果と合致
【結論】
本研究の結果からは人狼ゲーム経験によって
欺瞞検知の正確性が増すとはいえず、
むしろ他者の言動を嘘であると疑う傾向が増す
可能性が示唆された。
表1 刺激の真偽別の正解数と正解率
一般大学生 人狼サークル
t検定結果
n =109
n =32
t
Cohen's d
平均 1.46 (36.47%) 2.03 (50.78%) 2.99
0.60
偽
SD
0.94
1.00
p =.003
平均 3.55 (44.38%) 2.91 (36.33%) 2.13
0.43
真
SD
1.46
1.65
p =.035
平均 5.01 (41.74%) 4.94 (41.15%) 0.20
全体
SD
1.70
1.97
p =.840
注:括弧内は正解率、偽の刺激数は4、真の刺激数は8